説明

FRPパネルの製造方法及び製造装置

【課題】含浸距離を短くして製造時間の短縮を図るとともに、樹脂の未含浸やボイド等のない高品質のFRPパネルを製造することができるFRPパネルの製造方法及びその製造装置を提供する。
【解決手段】VARTM成形法によるFRPパネルの製造方法であって、被成形体2の中心線に沿って脱気部9を配置し、脱気部9の両側に脱気部9と略平行に複数の樹脂供給部10を所定間隔で配置し、脱気部9により被成形体2の中心線上から脱気しながら、両側の樹脂供給部10より同時に樹脂を供給して樹脂含浸を進行させて成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、舟艇、プラント、太陽電池パネル、太陽熱発電パネル等のような大型のFRPパネルの製造方法及び製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、大型のFRPパネルの製造方法としては、VARTM(Vacuum Assisted Resin Transfer Molding:真空補助含浸)成形法やRTM(Resin Transfer Molding)成形法が知られている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
RTM成形法は、一般に金属型などで形成した空洞に強化繊維布や心材等を配置しておき、これに樹脂を圧入して繊維強化プラスチック(以下、FRPという)を製造する方法である。
一方、VARTM成形法は、上記のような空洞を形成した金型等を用いるのではなく、強化繊維布や心材等を配置した被成形物を真空フィルムで覆い閉鎖空間を形成するとともに、その閉鎖空間を真空状態にして、供給部の樹脂溜まりにかかる大気圧により樹脂を閉鎖空間内に注入する方法である。
【0003】
上記のように、VARTM成形法では、成形型に樹脂の注入圧力がかからないので、大型でも成形型の構造強度を向上させる必要がなく、いわゆる手積み成形として用いられる従来のFRP成形型を用いることができる。
また、VARTM成形法は、クローズドモールド法であるので、大規模な成形でも有害なスチレンなど樹脂に含まれる揮発性有機物を空気中に発散することが極めて少ないのでクリーンな成形法である。
更に、この成形法は、ガラス繊維や炭素繊維などの強化材を織った布を成形型の上に積み重ねた後真空フィルムで覆い、周囲をシールして真空状態にした後樹脂を吸い上げて含浸させるので、FRPの品質管理で最も重要な強化繊維への樹脂含浸工程をかなり厳密に管理することができる。そのため、樹脂が過剰な領域や含浸が不十分な領域の発生や、更には気泡の混入なども防ぐことができるので、高品質なFRPパネルを安定して生産できるというメリットがある。
以上のような事情から、最近では大型のFRPパネルの製造にVARTM成形法が利用されるようになってきている。
【0004】
VARTM成形法を利用した従来の成形方法を図6に示す。図6は、FRPパネルの製造装置の概略上面図で、図7は図6のB−B断面図である。
これらの図において、1は定盤のように表面が平坦な成形型、2は成形型1上に積層された繊維強化布3を主体とする方形状の被成形体である。
【0005】
この被成形体2の上にピールプライ4(離型クロス)、樹脂拡散メディア(ブリーザー)5を重ね、さらに被成形体2の一方の辺の端縁部と中心線上にそれぞれ樹脂供給用スパイラルチューブ10a、10bをその辺と略平行に配置し、被成形体2の対向する他方の辺の端縁部には脱気用スパイラルチューブ9cを配置する。各樹脂供給用スパイラルチューブ10a、10bは、樹脂タンク6にそれぞれ樹脂供給ホース7および開閉弁8を介して接続されており、脱気用スパイラルチューブ9cは真空ホース11を介して真空ポンプ(図示せず)に接続されている。そして、全体を真空フィルム13で覆い、周囲をシール部材14で気密にシールする。
【0006】
ついで、真空フィルム13内の空気を脱気用スパイラルチューブ9cを通じて吸引し、内部空間を真空状態にしながら樹脂タンク6内の液状の樹脂を樹脂供給用スパイラルチューブ10a、10bより供給する。すると、樹脂は繊維強化布3を拡散しかつ含浸する。その後、樹脂をゲル化、硬化させることで、FRPパネルを製造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−235776号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】鵜沢潔、「近年のFRP船建造のトピックから」、船艇技報、p.2−7、2009年4月発行、社団法人船艇協会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、従来のVARTM成形法によるFRPパネルの製造方法は、例えば四辺形パネルでは樹脂を供給する端縁から脱気ラインを設けた、対向する端縁に向けて樹脂を含浸させるので、含浸距離(樹脂の行路長)に従って要する含浸時間が決まっているため、製造時間を短縮することは難しいという問題があった。
また、含浸距離を短くするために、対向する両縁から樹脂を含浸させようとしても、両側から含浸してきた樹脂が出合う領域で樹脂が未含浸となったり、エアの存在により含浸不足となる欠陥領域の発生を防止できないといった問題があった。
また、例えば、機械的性能が高いエポキシ樹脂や耐火性のあるフェノール樹脂などは粘度が高く、ゲル化時間も長くできないなどの制約があり、従来法では成形できるパネルの大きさに限界があった。
【0010】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたもので、含浸距離を短くして製造時間の短縮を図るとともに、樹脂の未含浸やボイド等のない高品質のFRPパネルを製造することができるFRPパネルの製造方法及びその製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るFRPパネルの製造方法は、成形型上に積層した強化繊維布を主体とする方形状の被成形体を真空フィルムで気密に覆い、VARTM成形法により前記被成形体に樹脂を含浸してFRPパネルを製造する方法であって、
前記被成形体の中心線に沿って脱気部を配置し、
前記脱気部の両側に該脱気部と略平行に複数の樹脂供給部を所定間隔で配置し、
前記脱気部により前記被成形体の中心線上から脱気しながら、両側の前記樹脂供給部より同時に樹脂を供給して樹脂含浸を進行させて成形することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のFRPパネルの製造方法においては、脱気部として、防水通気性の膜を有する布と通気手段とを有する脱気バッグを用いるものである。
【0013】
また、複数の樹脂供給部として、螺旋状の樹脂供給用スリットを有するスパイラルチューブを用いるものである。
【0014】
また、本発明に係るFRPパネルの製造装置は、上記のFRPパネルの製造方法を実施するための製造装置であって、
前記複数の樹脂供給部として、螺旋状の樹脂供給用スリットを有するスパイラルチューブを用い、
前記脱気部として、防水通気性の膜を有する布と通気手段とを有する脱気バッグを用いるものである。
【0015】
また、脱気バッグは、前記防水通気性の膜を有する布で前記通気手段を包囲して袋状に形成されているものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、被成形体の中心線上から脱気しながら両側の端縁部から樹脂を同時に供給するので、含浸距離が短くなるため、FRPパネルの製造時間を大幅に短縮することができる。また、気体は通過させるが液体は通過させない防水通気性の膜で構成された脱気部を被成形体の中心線に沿って設けることにより中心線上から脱気することができ、未含浸領域や、ボイド、含浸不足領域等の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態1におけるFRPパネルの製造装置の概略構成を示す上面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】実施の形態1の脱気部の拡大断面図である。
【図4】本発明の実施の形態2におけるFRPパネルの製造装置の概略構成を示す断面図である。
【図5】実施の形態2の脱気部の拡大断面図である。
【図6】従来のFRPパネルの製造装置の概略構成を示す上面図である。
【図7】図6のB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1におけるFRPパネルの製造装置の概略構成を示す上面図で、図2は図1のA−A断面図である。また、図3は脱気部の拡大断面図である。
図において、1は定盤のように表面(成形面)が平坦な成形型、2は成形型1上に積層された繊維強化布3を主体とする方形状の被成形体である。
【0020】
この被成形体2の上にピールプライ4(離型クロス)、樹脂拡散メディア(ブリーザー)5を重ね、さらに被成形体2の中心線に沿って脱気部9を配置し、この脱気部9の両側に脱気部9と略平行に複数の樹脂供給部10を所定間隔で配置する。樹脂供給部10は、少なくとも被成形体2の一方の辺の端縁部とこれに対向する他方の辺の端縁部とにそれぞれ配置する。被成形体2の大きさ(図1において横幅)が大きい場合や、ゲル化時間が短い樹脂を使用する場合などにおいては、樹脂供給部10は更に図1に示すように被成形体2の中間部にも配置する。これらの樹脂供給部10はほぼ等間隔に、かつ被成形体2の中心線に対して対称に配置することが望ましい。樹脂供給部10の間隔は50〜60cm程度でよい。
【0021】
各樹脂供給部10は、液状樹脂を貯留した樹脂タンク6にそれぞれ樹脂供給ホース7及び開閉弁8を介して接続されている。また、樹脂供給部10は、樹脂の流れ方向に対して直角の方向に延在するように配置された管形状のものであり、例えば、スパイラルチューブが好適に使用することができる。スパイラルチューブというのは、真空下でも扁平にならないように、ある程度硬いプラスチック製の帯板を螺旋状に巻いて螺旋状のスリットをもつようにチューブ状に形成したものである。このような樹脂供給用スパイラルチューブ10a、10bの内部に樹脂を供給すると、樹脂が螺旋状のスリットを通じて平面的に拡散しながら流出する。なお、樹脂供給部10としては、硬質の管体に多数の孔やスリット等を設けたものでもよい。また、樹脂には、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂が用いられる。これらの樹脂は常温では液状であり、重合を開始させる硬化剤などを加えて所定の時間でゲル化させ硬化させる。
【0022】
脱気部9は、真空ホース11を介して樹脂トラップを経て真空ポンプ(いずれも図示せず)に接続されている。また、脱気部9は、図3に示すように、空気等の気体は通過させるが水等の液体(樹脂)は通過させない半透過性膜を有する防水通気性の布9bと、この防水通気性布9bの上面に通気手段である脱気用スパイラルチューブ9cと通気層9dとを有する袋状の脱気バッグ9aとして構成されている。脱気用スパイラルチューブ9cは上記の樹脂供給用スパイラルチューブ10a、10bと同様のものである。上記の真空ホース11の一端はこの脱気用スパイラルチューブ9cに接続されている。
上記の防水通気性布9bとしては、例えばレインウェアなどの生地として用いられている商品名「ゴアテックス」(登録商標)をあげることができる。そして、この脱気バッグ9aには、真空ホース11が真空フィルム13を貫通させて防水通気性布9b上の通気層9dに接続され、さらに防水通気性布9bの周囲を例えば粘着テープ9fで樹脂拡散メディア5上に接着し固定している。
【0023】
上記のように、被成形体2上に脱気部9(脱気バッグ9a)及び脱気部9の両側に樹脂供給部10(樹脂供給用スパイラルチューブ)を配置し、更に全体を真空フィルム13で覆い周囲をシール部材14でシールする。
【0024】
そして、FRPパネルを成形するに際しては、上記脱気バッグ9aを通じて被成形体2の中心線上から脱気し真空フィルム13の内部空間を真空状態にしながら、被成形体2の両側の端縁部及び中間部に設けられた複数の樹脂供給用スパイラルチューブ10a、10bから樹脂を供給する。そうすると、これらの樹脂供給用スパイラルチューブ10a、10bから供給された樹脂は、成形型1上に積層された繊維強化布3上を脱気バッグ9aに向かって並行に流れるとともに、繊維強化布3を浸透し含浸していく。
【0025】
被成形体2の中心線上には脱気バッグ9aが設けられており、脱気バッグ9aは上述のように空気等の気体は通過させるが水等の液体(樹脂)は通過させないように構成された防水通気性布9bと、この防水通気性布9bの上面に通気層9dとを設けたものであるので、被成形体2の両側から流れてきた樹脂は、中心線上で会合することになる。しかし、脱気バッグ9aの防水通気性布9bのために、空気のみが吸引され、樹脂は吸引されないため、両側からの樹脂が会合する線上に未含浸領域や、ボイド、含浸不足領域等は生じない。
【0026】
以上のように、本実施の形態によれば、次のような効果がある。
(1)例えば、四辺形のパネルを成形する場合には、対向する長辺の両端縁部から同時に樹脂含浸を開始し、それら両端縁の中間線付近に脱気バッグ9aを配置することにより、未含浸領域の発生を防止することができる。その結果、樹脂の含浸距離は従来法に比べて半分程度ですみ、また含浸に必要な時間は1/4程度となり、製造時間の大幅な短縮が図れる。ちなみに従来法では含浸距離は5m程度であったが、本実施の形態では少なくともその2倍の10m以上にまで含浸距離を広げることが可能となる。
(2)大きなパネルでも含浸時間の短縮が図れる結果、粘度が高い樹脂や、ゲル化時間の短い樹脂を適用できるようになる。
【0027】
実施の形態2.
図4は本発明の実施の形態2におけるFRPパネルの製造装置の概略構成を示す断面図で、図5は実施の形態2の脱気部の拡大断面図である。
この実施の形態2では、中央に屈曲部を有する山形状のFRPパネルを成形する場合を示すものである。すなわち、成形型1を同様の山形状の形状に形成し、この上に複数枚の繊維強化布3を積層する。この山形状の被成形体2を、ピールプライ4及び樹脂拡散メディア5で覆い、さらに、脱気部9である脱気バッグ9aを被成形体2の中心線、すなわち本例では山形状の被成形体2の頂上部に沿って設け、樹脂供給用スパイラルチューブ10a、10bを山形状の被成形体2の両側の端縁部と中間部に設けている。そして、全体を真空フィルム13で覆い、周囲をシール部材14でシールする。また、脱気部9は、上述のように防水通気性の膜を有する布(防水通気性布)9bの中に通気メディア9eを包含する密閉された袋状の脱気バッグ9aで構成されている。
【0028】
そして、これらの樹脂供給用スパイラルチューブ10a、10bから同時に樹脂を真空下で供給することにより、樹脂は山形状の頂上部に設けられた脱気バッグ9aに向かって並行に上昇していき、山形状に積層された繊維強化布3に樹脂を万遍なく浸透し含浸させることができる。
本実施の形態2によれば、平板だけでなく、未含浸領域や、ボイド、含浸不足の領域のない高品質の山形状のFRPパネルを製造することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 成形型
2 被成形体
3 繊維強化布
4 ピールプライ
5 樹脂拡散メディア
6 樹脂タンク
7 樹脂供給ホース
8 開閉弁
9 脱気部
9a 脱気バッグ
9b 防水通気性布
9c 脱気用スパイラルチューブ
9d 通気層
9e 通気メディア
9f 粘着テープ
10 樹脂供給部
10a、10b スパイラルチューブ
11 真空ホース
13 真空フィルム
14 シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型上に積層した強化繊維布を主体とする方形状の被成形体を真空フィルムで気密に覆い、VARTM成形法により前記被成形体に樹脂を含浸してFRPパネルを製造する方法であって、
前記被成形体の中心線に沿って脱気部を配置し、
前記脱気部の両側に該脱気部と略平行に複数の樹脂供給部を所定間隔で配置し、
前記脱気部により前記被成形体の中心線上から脱気しながら、両側の前記樹脂供給部より同時に樹脂を供給して樹脂含浸を進行させて成形する
ことを特徴とするFRPパネルの製造方法。
【請求項2】
前記脱気部として、防水通気性の膜を有する布と通気手段とを有する脱気バッグを用いることを特徴とする請求項1記載のFRPパネルの製造方法。
【請求項3】
前記複数の樹脂供給部として、螺旋状の樹脂供給用スリットを有するスパイラルチューブを用いることを特徴とする請求項1又は2記載のFRPパネルの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のFRPパネルの製造方法を実施するための製造装置であって、
前記複数の樹脂供給部として、螺旋状の樹脂供給用スリットを有するスパイラルチューブを用い、
前記脱気部として、防水通気性の膜を有する布と通気手段とを有する脱気バッグを用いる
ことを特徴とするFRPパネルの製造装置。
【請求項5】
前記脱気バッグは、前記防水通気性の膜を有する布で前記通気手段を包囲して袋状に形成されていることを特徴とする請求項4記載のFRPパネルの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−228800(P2012−228800A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−97666(P2011−97666)
【出願日】平成23年4月25日(2011.4.25)
【出願人】(502116922)ユニバーサル造船株式会社 (172)
【Fターム(参考)】