説明

FRP構造体の劣化診断方法および劣化診断システム

【課題】FRP構造体の劣化を精度高く、且つ、容易に診断すること。
【解決手段】FRPライニング層に亀裂Cが形成されると、酸液が亀裂CからFRPライニング層の耐食層3bを浸透し、試薬配管4a,4bを腐食する。酸液が試薬配管4a,4bを腐食すると、酸液が試薬配管4a,4b内のブロモチモールブルー試薬と反応することによってブロモチモールブルー試薬の色が緑色から黄色〜赤色に変色する。これにより、亀裂Cの形成箇所に対応する試薬配管4a,4bに接続されている排液槽には黄色〜赤色に変色したブロモチモールブルー試薬が排出される。従って、オペレータは、排液槽に排出されるブロモチモールブルー試薬の色を確認することによって、FRPライニング層の劣化を診断することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸洗タンクの内面に形成されるFRPライニング層などのFRP構造体の劣化を診断するFRP構造体の劣化診断方法および劣化診断システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板表面に錫めっきや亜鉛めっきなどの電気めっきを形成するラインでは、めっき不良が発生することを抑制するために、鋼板表面の洗浄および活性化を目的としてめっき処理前の鋼板に対し酸洗処理が施される。この酸洗処理は、塩酸や硫酸などの酸液が貯留された酸洗タンク内に鋼板を通板することによって行われる。なお、同様の酸洗処理は、熱間処理によって鋼板の表面に形成されたスケールを除去する際など、広く行われる。
【0003】
酸洗タンクの内面には、酸液による腐食を防ぐためにFRP(Fiber Reinforced Plastics)ライニングが施されている場合が多い。ところが、酸洗タンクの内面をFRPライニング層によって保護した場合、FRPライニング層の腐食劣化および周囲の振動や熱によるFRPライニング層の膨張・収縮によって生じた亀裂からFRPライニング層内を酸液が浸透し、FRPライニング層を浸透した酸液が酸洗タンクの底面を腐食することによって、酸液が酸洗タンクの底面から流出することがある。
【0004】
酸液が酸洗タンクから流出した場合、電気めっきラインの操業を停止して酸洗タンクの保守を行わなければならないために、電気めっきラインの製造効率が低下する。このため、FRPライニング層の劣化を診断し、酸液の流出を未然に防止することが望ましい。このような背景から、電気めっきラインでは、オペレータがFRPライニング層の劣化を定期的に診断している。なお、以上では、電気めっきラインに用いられている酸洗タンクについて説明したが、このような問題はFRPライニングが施されている酸洗タンク全般において発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−116687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のFRPライニング層の劣化診断は、オペレータの目視評価による亀裂および変色のチェック、又は硬度測定によるトレンド管理によって行われていたために、劣化状態の検出精度が低く、酸液の流出を未然に防止することが困難であった。なお、このような問題を解決するために、FRPライニング層内に光ファイバを敷設し、光学的変化を検出することによってFRPライニング層の劣化を診断する技術が提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、この技術では、光ファイバの一部が酸液に腐食されてしまうと、光ファイバを全長にわたり交換しなければならず、復旧に多くの時間およびコストを要する。以上のことから、FRPライニング層の劣化を精度高く、且つ、容易に診断可能な技術の提供が期待されていた。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、FRP構造体の劣化を精度高く、且つ、容易に診断可能なFRP構造体の劣化診断方法および劣化診断システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るFRP構造体の劣化診断方法は、FRP構造体に挿通された試薬配管の一方の端部からブロモチモールブルー試薬を供給するステップと、前記試薬配管の他方の端部から排出された前記ブロモチモールブルー試薬の色の変化に基づいて前記FRP構造体の劣化を診断するステップと、を含むことを特徴とする。
【0009】
本発明に係るFRP構造体の劣化診断方法は、上記発明において、前記FRP構造体が、酸液を貯留する酸洗タンクの内面に形成されたFRPライニング層であることを特徴とする。
【0010】
上記課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るFRP構造体の劣化診断システムは、FRP構造体に挿通された試薬配管と、前記試薬配管の一方の端部からブロモチモールブルー試薬を供給する手段と、前記試薬配管の他方の端部から排出された前記ブロモチモールブルー試薬を貯留する手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るFRP構造体の劣化診断方法および劣化診断システムによれば、FRP構造体の劣化を精度高く、且つ、容易に診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の一実施形態である酸洗タンクの構成を示す平面図である。
【図2】図2は、図1のA−A線断面図である。
【図3】図3は、試薬配管の配置例を示す断面図である。
【図4】図4は、試薬配管の他の配置例を示す断面図である。
【図5】図5は、FRPライニング層が劣化した状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態であるFRP構造体の劣化診断方法および劣化診断システムについて説明する。なお、本実施形態は、本発明を酸洗タンクの内面に形成されるFRPライニング層に適用したものであるが、本発明の適用範囲は本実施形態に限定されるものではない。
【0014】
〔酸洗タンクの構成〕
始めに、図1乃至図4を参照して、本発明の一実施形態である酸洗タンクの構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態である酸洗タンクの構成を示す平面図である。図2は、図1のA−A線断面図である。図3は、試薬配管の一構成例を示す断面図である。図4は、試薬配管の他の構成例を示す断面図である。
【0015】
図1,2に示すように、本発明の一実施形態である酸洗タンク1は、酸洗タンク本体2と、酸洗タンク本体2の内面に接着されたFRPライニング層3とを備え、塩酸や硫酸などの酸液を貯留する。酸洗タンク本体2は、底面部2aと底面部2aの周縁に立設された側面部2bとを有する直方体状の金属容器によって形成されている。酸洗タンク本体2の寸法は、例えば縦幅5m、横幅15m、高さ3m程度である。図3,4に示すように、FRPライニング層3は、厚さ3mm程度の強化層3aと、強化層3a上に形成された厚さ1mm程度の耐食層3bとを備え、耐食層3b側が酸洗タンク1の内面に露出している。
【0016】
図1〜4に示すように、FRPライニング層3の内部には複数の試薬配管4a,4bが挿通されている。試薬配管4a,4bは、φ1mm程度の円筒形状のアルミニウム製配管によって形成されている。複数の試薬配管4aは酸洗タンク1の長手方向に沿って配列されており、複数の試薬配管4bは酸洗タンク1の短手方向に沿って配列されている。なお、試薬配管4a,4bの配列間隔は、FRPライニング層3の劣化を検出する精度(分解能)によって変化するが、一般的なラインタンクなどであれば100〜500mm間隔で十分である。
【0017】
図3に示すように、試薬配管4a,4bは、FRPライニング層3の強化層3aと耐食層3bとを貼り合わせる際に、強化層3aと耐食層3bとの間に試薬配管4a,4bを挟み込むことによってFRPライニング層3の内部に挿通されている。なお、強化層3aと耐食層3bとが一体成形された成形品をFRPライニング層3として用いる場合には、図4に示すように、成形品間に試薬配管4a,4bを挟み込むFRPライニング層3の2枚張り施工によってFRPライニング層3の内部に試薬配管4a,4bを挿通させるとよい。
【0018】
図1に示すように、試薬配管4a,4bの両端部は酸洗タンク本体2の外方に露出している。試薬配管4a,4bの一方の端部には、ブロモチモールブルー試薬を貯留する試薬槽5と、試薬槽5内のブロモチモールブルー試薬を試薬配管4a,4bの他方の端部に向けて所定の送液速度(例えば20ml/h)で圧送するポンプ6とが設けられている。試薬配管4a,4bの他方の端部には、一方の端部から圧送されたブロモチモールブルー試薬を貯留する排液槽7が設けられている。
【0019】
〔劣化診断方法〕
このような構成を有する酸洗タンク1では、以下に示す劣化診断方法を実行することによってFRPライニング層3の劣化を精度高く、且つ、容易に診断することができる。以下、図5を参照して、酸洗タンク1におけるFRPライニング層3の劣化診断方法について説明する。
【0020】
図5は、FRPライニング層3が劣化した状態を示す模式図である。図5に示すように、FRPライニング層3の腐食劣化および周囲の振動や熱によるFRPライニング層3の膨張・収縮によってFRPライニング層3に亀裂Cが形成されると、酸液が亀裂CからFRPライニング層3の耐食層3bを浸透し、試薬配管4a,4bを腐食する。このとき、本発明の一実施形態である酸洗タンク1では、FRPライニング層3の強化層3aと耐食層3bとの間に試薬配管4a,4bが挿通され、試薬配管4a,4bの内部にはブロモチモールブルー試薬が流通している。
【0021】
このため、酸液が試薬配管4a,4bを腐食すると、酸液が試薬配管4a,4b内のブロモチモールブルー試薬と反応することによってブロモチモールブルー試薬の色が緑色から黄色〜赤色に変色する。これにより、亀裂Cの形成箇所に対応する試薬配管4a,4bに接続されている排液槽7には黄色〜赤色に変色したブロモチモールブルー試薬が排出される。従って、本発明の一実施形態である酸洗ランク1では、オペレータは、排液槽7に排出されるブロモチモールブルー試薬の色を確認することによって、FRPライニング層3の劣化を診断することができる。
【0022】
また、変色したブロモチモールブルー試薬を排出する試薬配管4aおよび試薬配管4bの位置を確認することによって、オペレータは、劣化が生じているFRPライニング層3の長手方向位置および短手方向位置、すなわち劣化が生じているFRPライニング層3の平面内位置を特定することができる。また、試薬配管4a,4bは、アルミニウム製配管によって形成されているので、酸液によって腐食した箇所は新しい試薬配管4a,4bを接着することによって容易に補修することができる。
【0023】
以上、本発明者によってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0024】
1 酸洗タンク
2 酸洗タンク本体
2a 底面部
2b 側面部
3 FRPライニング層
3a 強化層
3b 耐食層
4a,4b 試薬配管
5 試薬槽
6 ポンプ
7 排液槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FRP構造体に挿通された試薬配管の一方の端部からブロモチモールブルー試薬を供給するステップと、
前記試薬配管の他方の端部から排出された前記ブロモチモールブルー試薬の色の変化に基づいて前記FRP構造体の劣化を診断するステップと、
を含むことを特徴とするFRP構造体の劣化診断方法。
【請求項2】
前記FRP構造体は、酸液を貯留する酸洗タンクの内面に形成されたFRPライニング層であることを特徴とするFRP構造体の劣化診断方法。
【請求項3】
FRP構造体に挿通された試薬配管と、
前記試薬配管の一方の端部からブロモチモールブルー試薬を供給する手段と、
前記試薬配管の他方の端部から排出された前記ブロモチモールブルー試薬を貯留する手段と、
を備えることを特徴とするFRP構造体の劣化診断システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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