説明

FRP筒体

【課題】高強度、高剛性で、しかも外観に優れるFRP筒体を提供する。
【解決手段】プルワインド法において、マンドレルの先端部から繊維軸が筒軸方向の強化繊維層と、繊維軸が筒軸方法に対し+θ°及び−θ°をなす強化繊維層との少なくとも3層の強化層を連続的に成形しながら他端に引き抜いていく中で、比較的粘度の低いシクロオレフィンモノマーと重合触媒とを含んでなる成形用組成物を含浸させ、硬化して得ることができるFRP筒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FRP筒体に関し、さらに詳しくは、高強度、高剛性で、且つ外観に優れたFRP筒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の繊維強化プラスチックス(FRP)の筒体は、主にフィラメントワインディング法やシートワインディング法によって成形されてきた。
【0003】
フィラメントワインディング法は、マンドレル上に樹脂を含浸しない、あるいは樹脂を含浸した強化繊維束を巻き付けて成形する方法であるが、繊維軸が筒軸方向(筒体長手方向)の強化繊維層(0°層)を巻くことができないので、筒軸方向における弾性率を上げることが困難であり、その分長手方向における曲げ強度、剛性が上がらない。また、表面に、巻き付けられた強化繊維束に沿った凹凸が残るため、そのままでは真円度が低く、真円度向上や外観向上のため、一般に成形後に表面研削加工が必要である。研削のため、加工工数が増大するとともに、研削により強化繊維が切断されることがあり、強度低下や強度欠陥部位発生の原因となる。
【0004】
シートワインディング法は、マンドレル上に樹脂を含浸しない、あるいは樹脂を含浸した強化繊維シート(プリプレグ)を巻き付けて成形する方法であるが、予め準備された所定サイズのシートを巻き付けるため。各繊維配向角に配された強化繊維は連続繊維とはならない。そのため、強化繊維が連続繊維である場合に比べ、強度的に劣る。
一方、かかる問題点の改善としてプルワインド法が検討されており、例えば、特許文献1には、マンドレルの先端部から繊維軸が筒軸方向の強化繊維層と、繊維軸が筒軸方法に対し+θ°及び−θ°をなす強化繊維層との少なくとも3層の強化層を連続的に成形しながら他端に引き抜いていく中で、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を含浸させ、次いで金型内で硬化させて筒状成形品を製造する技術が開示されている。しかしながら、この方法では、成形用組成物の粘度が高く強化繊維層への含浸が充分でなくなり、同時に得られる筒状成形品の強度と剛性が充分でないという問題があった。
【特許文献1】特開平9−314687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高強度、高剛性で、しかも外観に優れるFRP筒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討の結果、プルワインド法ではエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂は、強化繊維が何層にも積層されてなる強化層への均一含浸が非常に困難であること、それに対して比較的粘度の低いシクロオレフィンモノマーと重合触媒とを含んでなる成形用組成物を強化層に含浸させ、その後に硬化させることにより、強化層への均一含浸が容易に行なわれ、強度、剛性及び外観に優れるFRP筒体が製造できることを見出した。また、成形用組成物に架橋剤を配合させると、外観、強度及び剛性の特性がさらに高度に改善されることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
【0007】
かくして本発明によれば、繊維軸が筒軸方向の強化繊維層と、繊維軸が筒軸方法に対し+θ°及び−θ°をなす強化繊維層との少なくとも3層の強化層を有し、筒軸方法に対し+θ°及び−θ°をなす強化繊維層が連続強化繊維から成形され、且つ、強化繊維層中のマトリックス樹脂がシクロオレフィンモノマーと重合触媒とを含んでなる成形用組成物を硬化させてなるFRP筒体が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、樹脂成分の強化繊維への含浸性を改善することにより、高強度、高剛性で、外観に優れる繊維強化された筒体を容易に製造できる。また、本発明のFRP筒体は、強度、剛性及び外観に優れるため、自動車や航空機などの乗物用構造体、スポーツ用途、土木、建築などの一般産業分野において好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のFRP筒体は、繊維軸が筒軸方向の強化繊維層と、繊維軸が筒軸方法に対し+θ°及び−θ°をなす強化繊維層との少なくとも3層の強化層を有し、筒軸方法に対し+θ°及び−θ°をなす強化繊維層が連続強化繊維から成形されている。
本発明の一実施態様に係わるFRP筒体は、内層に、繊維軸が筒軸方向の連続強化繊維からなる強化繊維層(0°層)、中間層に、繊維軸が筒軸方向に対し+θ°をなす連続強化繊維層(+θ°層)、外層に、繊維軸が筒軸方向に対し−θ°をなす連続強化層(−θ°層)が配置されている。θ°の値は、45°以上、90°未満の範囲に設定されている。これら3層の強化繊維層は、FRP筒体に成形された状態では、強化繊維とマトリックス樹脂とを含む複合材料になっている。
【0010】
本発明に使用される強化繊維としては、格別な制限はないが、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)繊維、アラミド繊維、超高分子ポリエチレン繊維、ポリアミド(ナイロン)繊維、液晶ポリエステル繊維などの有機繊維;ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、タングステン繊維、モリブデン繊維、ブデン繊維、チタン繊維、スチール繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維、シリカ繊維などの無機繊維などが挙げることができる。これらの中でも、有機繊維、ガラス繊維、あるいは炭素繊維が好ましく、炭素繊維がより好ましい。特に、炭素繊維は、成形用組成物の重合反応を阻害せずに得られる成形品の強度と剛性を高度に向上させることができ好適である。炭素繊維の種類としては、格別な限定はなく、例えば、アクリル系、ピッチ系、レーヨン系等の各種の従来公知の方法で製造される炭素繊維が使用でき、中でも、アクリル系炭素繊維が重合阻害を起こさず、強度と剛性の特性を高度に付与でき好適である。
【0011】
本発明に使用される強化繊維の強度特性は、格別な限定はなく使用目的に応じて適宜選択される。引張強度としては、JIS R7601に従って測定されるストランド引張強度で、通常0.5〜50GPa、好ましくは1〜10GPa、より好ましくは2〜8GPaの範囲である。引張弾性率としては、JIS R7601に従って測定されるストランド引張弾性率で、通常100〜1,000GPa、好ましくは200〜800GPa、より好ましくは300〜700GPaの範囲である。伸びとしては、JIS R7601に従って測定されるストランド引張伸びで、通常0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%、より好ましくは1〜3%の範囲である。強化繊維の強度特性がこれらの範囲にあるときに、強度、剛性、外観の特性が高度にバランスされ好適である。
【0012】
これらの強化繊維は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、得られるFRP筒体中の強化繊維含有量が、通常10〜90重量%、好ましくは20〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%の範囲になるように選択される。強化繊維含有量がこの範囲にあるときに強度と靭性が高度にバランスされ好適である。
【0013】
本発明に使用されるマトリックス樹脂は、シクロオレフィンモノマー、重合触媒及び架橋剤を含んでなる成形用組成物を硬化させてなるものである。
本発明に使用されるシクロオレフィンモノマーは、炭素原子で形成される環構造を有し、該環中に炭素−炭素二重結合を有する化合物である。その例として、ノルボルネン系モノマーおよび単環シクロオレフィンモノマーなどが挙げられ、ノルボルネン系モノマーが好ましい。ノルボルネン系モノマーとは、ノルボルネン環を含むモノマーである。ノルボルネン系モノマーとしては、格別な限定はないが、例えば、2−ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの二環体、ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエンなどの三環体、テトラシクロドデセン、エチリデンテトラシクロドデセン、フニルテトラシクロドデセンなどの四環体、トリシクロペンタジエンなどの五環体、テトラシクロペンタジエンなどの七環体、及びこれらのアルキル置換体(メチル、エチル、プロピル、ブチル置換体など)、アルキリデン置換体(例えば、エチリデン置換体)、アリール置換体(例えば、フェニル、トリル置換体)、並びにエポキシ基、メタクリル基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、シアノ基、ハロゲン基、エーテル基、エステル結合含有基などの極性基を有する誘導体などが挙げられる。単環シクロオレフィンモノマーとしては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセン、1,5−シクロオクタジエンなどの単環シクロオレフィン及び置換基を有するそれらの誘導体が挙げられる。
これらのシクロオレフィンモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
本発明に使用される重合触媒としては、シクロオレフィンモノマーを重合するものであれば格別な限定はないが、通常はメタセシス重合触媒が用いられる。メタセシス重合触媒は、メタセシス開環重合させるもので、通常遷移金属原子を中心原子として、複数のイオン、原子、多原子イオン及び/又は化合物が結合してなる錯体が挙げられる。遷移金属原子としては、5族、6族及び8族(長周期型周期表、以下同じ)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、5族の原子としては例えばタンタルが挙げられ、6族の原子としては、例えばモリブデンやタングステンが挙げられ、8族の原子としては、例えばルテニウムやオスミウムが挙げられる。これらの中でも、8族のルテニウムやオスミウムの錯体をメタセシス重合触媒として用いることが好ましく、ルテニウムカルベン錯体が特に好ましい。ルテニウム錯体は触媒活性が優れるため、熱可塑性樹脂の生産性に優れ、得られる熱可塑性樹脂の臭気(未反応のモノマーに由来する)が少なく作業性に優れる。また、酸素や空気中の水分に対して比較的安定であって、失活しにくいので、大気下でも生産が可能である。
【0015】
本発明においては、強化繊維として炭素繊維を用いた場合は、重合触媒としてヘテロ環構造を有する化合物を配位子として有するルテニウム触媒を用いるのが、得られるFRP筒体の外観、強度、剛性等の特性が高度にバランスされ好適である。ヘテロ環構造を構成するヘテロ原子としては、例えば酸素原子、窒素原子等が挙げられ、好ましくは窒素原子である。また、ヘテロ環構造としては、イミダゾリンやイミダゾリジン構造が好ましい。かかるヘテロ環構造含有の配位子を有するルテニウム触媒としては、例えば、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−オクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリドなどの、配位子としてヘテロ環構造を有する化合物と中性の電子供与性化合物が結合したルテニウム錯体化合物が挙げられる。
これらの重合触媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。重合触媒の使用量は、(触媒中の金属原子:シクロオレフィンモノマー)のモル比で、通常1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,000,000、より好ましくは1:10,000〜1:500,000の範囲である。
【0016】
重合触媒は必要に応じて、少量の不活性溶剤に溶解又は懸濁して使用することができる。かかる溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、流動パラフィン、ミネラルスピリットなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;インデン、テトラヒドロナフタレンなどの脂環と芳香環とを有する炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素;などが挙げられる。これらの中では芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、および脂環と芳香環とを有する炭化水素の使用が好ましい。
【0017】
(成形用組成物)
本発明に使用される成形用組成物は、上記シクロオレフィンモノマーと重合触媒とを必須成分として、必要に応じて、架橋剤、重合調整剤、連鎖移動剤、エラストマー材料、老化防止剤、充填剤及びその他の添加剤を添加することができる。
【0018】
本発明においては、形成用組成物に架橋剤を配合することで、得られる成形品の強度、剛性及び外観のいずれもの特性が高度に改善され好適である。架橋剤としては、格別な制限はないが、通常ラジカル発生剤が用いられる。ラジカル発生剤としては、有機過酸化物、ジアゾ化合物および非極性ラジカル発生剤などが挙げられ、好ましくは有機過酸化物や非極性ラジカル発生剤である。
有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンなどのペルオキシケタール類;t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナート、ペルオキシカルボナートt−ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキサシド類;などが挙げられる。中でも、重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシドおよびペルオキシケタール類が好ましい。ジアゾ化合物としては、例えば、4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノンなどが挙げられる。非極性ラジカル発生剤としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、1,1,2−トリフェニルエタン、1,1,1−トリフェニル−2−フェニルエタンなどが挙げられる。架橋剤がラジカル発生剤の場合の1分間半減期温度は、ラジカル発生剤の種類及び使用条件により適宜選択されるが、通常、100〜300℃、好ましくは150〜250℃、より好ましくは160〜230℃の範囲である。ここで1分間半減期温度は、ラジカル発生剤の半量が1分間で分解する温度である。
これらの架橋剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。架橋剤の使用量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部の範囲である。
【0019】
連鎖移動剤としては、例えば、置換基を有していてもよい鎖状のオレフィン類を用いることができる。その具体例としては、例えば、1−ヘキセン、ジビニルベンゼン、エチルビニルエーテル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸3−ブテン−2−イル、メタクリル酸スチリル、アクリル酸アリル、アクリル酸3−ブテン−1−イル、アクリル酸3−ブテン−2−イル、アクリル酸スチリル、エチレングリコールジアクリレート、アリルトリビニルシラン、アリルジメチルビニルシラン、アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、2−(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、4−ビニルアニリンなどが挙げられる。これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができ、その添加量は、シクロオレフィンモノマー全体に対して、通常0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%である。
【0020】
本発明に使用される成形用組成物にエラストマー材料を加えることにより、得られるFRP筒体の靭性を格段に向上させることができ好適である。エラストマー材料としては、例えば、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、クロロプレン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びこれらの水素添加物が挙げられる。これらのエラストマー材料は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。その使用量は、シクロオレフィンモノマー100重量に対して、通常0.1〜100重量部、好ましくは1〜50重量部、より好ましくは3〜30重量部の範囲である。
【0021】
本発明に使用される成形用組成物は、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、リン系老化防止剤及びイオウ系老化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の老化防止剤を添加することにより、重合反応を阻害しないで、得られるFRP筒体の耐酸化劣化性を高度に向上させることができ好適である。これらの中でも、フェノール系老化防止剤とアミン系老化防止剤が好ましく、フェノール系老化防止剤が特に好ましい。これらの老化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。老化防止剤の使用量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常0.0001〜10重量部、好ましくは0.001〜5重量部、より好ましくは0.01〜1重量部の範囲である。
【0022】
本発明においては、成形用組成物に充填剤を加えることにより、強度及び剛性を格段に向上させることができ好適である。充填剤としては、工業的に一般に使用されるものであれば格別な限定はなく、無機系充填剤や有機系充填剤のいずれも用いることができが、好適には無機系充填剤である。これらの充填剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常1〜1,000重量部、好ましくは10〜500重量部、より好ましくは50〜350重量部の範囲である。
【0023】
その他の添加剤としては、例えば、難燃剤、着色剤、光安定剤、顔料、発泡剤、高分子改質剤などが挙げられる。難燃剤としては、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物、三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物などが挙げられる。着色剤としては、染料、顔料などが用いられる。染料の種類は多様であり、公知のものを適宜選択して使用すればよい。これらのその他の添加剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、本発明の効果を損ねない範囲で適宜選択される。
【0024】
本発明に使用される成形用組成物は、上記成分を混合して得ることができる。混合方法としては、常法に従えばよく、例えば、重合触媒を適当な溶媒に溶解または分散させた液(触媒液)を、シクロオレフィンモノマーに必要に応じてその他の添加剤を配合した液(モノマー液)に添加し、攪拌することによって調製することができる。
本発明のFRP筒体は、前記成形用組成物を強化繊維層に含浸させた後に、硬化させることにより容易に得ることができる。
【0025】
含浸方法としては、常法に従えばよく、例えば、成形用組成物の所定量を、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法等の公知の方法により強化繊維に塗布し、必要に応じてその上に保護フィルムを重ね、上側からローラーなどで押圧することにより行うことができる。
成形用組成物は従来のエポキシ樹脂等と比較して低粘度であり、強化繊維に対する含浸性に優れるので、硬化後の樹脂を強化繊維に均一に分散させることができる。また、本発明に使用する成形用組成物は、反応に関与しない溶媒等の含有量が少ないので、強化繊維に含浸させた後に溶媒を除去するなどの工程が不要であり、生産性に優れ、残存溶媒による臭気、フクレ、ボイド等も生じず、また成形品の耐熱性にも優れる。
【0026】
成形用組成物の含浸後の硬化反応は、重合反応と架橋反応の二つの反応から成り立ち、重合反応と架橋反応を同時に行なってもよいし、あるいは、重合反応、架橋反応の順で行なってもよい。重合反応と架橋反応を同時に行なう場合には、硬化温度は、通常50〜300℃、好ましくは100〜250℃、より好ましくは120〜250℃の範囲であり、硬化時間は、0.1〜180分、好ましくは1〜120分、より好ましくは2〜20分の範囲である。重合反応と架橋反応を別々に行なう場合には別々に条件設定をおこなう。重合温度としては、通常50〜250℃、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜170℃の範囲であり、また、前記架橋剤がラジカル発生剤を用いる場合は、通常ラジカル発生剤の1分半減期温度以下、好ましくは10℃以下、より好ましくは20℃以下である。重合時間は適宜選択すればよいが、通常、10秒間から20分間、好ましくは5分間以内である。架橋温度は、前記架橋剤の架橋の起こる温度であり、ラジカル発生剤を用いた場合は、1分半減期温度以上、好ましくは1分半減期温度より5℃以上高い温度、より好ましくは1分半減期温度より10℃以上高い温度であり、通常100〜300℃、好ましくは150〜250℃の範囲である。また、架橋時間は、0.1〜180分、好ましくは1〜120分、より好ましくは2〜20分の範囲である。プレス圧力としては、通常0.1〜20MPa、好ましくは1〜10MPa、より好ましくは2〜5MPaである。また、熱プレスは、真空または減圧雰囲気下で行ってもよい。
【0027】
本発明の別の実施態様に係わるFRP筒体の層構成は、内層側から順に、0°層、+θ°層、−θ°層、0°層、−θ’°+θ’°層が配置されている。θ°とθ’°は、同じ角度であっても、異なる角度であってもよい。但し、いずれの場合にも、θ°を45°以上90°未満の範囲とすることが好ましい。
本発明のFRP筒体は、いわゆる引き抜き成形法によって製造できる。とくに、+θ°層、−θ°層の強化繊維を連続的に巻き付けながら引き抜き成形するプルワインド法が好適である。プルワインド法による成形を以下に説明する。
【0028】
片持支持されたマンドレルは、先端部が金型出口まで突き抜けて延びている。マンドレル上に先ず0°層形成用の強化繊維が引き揃えられて配置され、他端方向へ引っ張られて移動する。この移動中の0°層の上に、+θ°層形成用の強化繊維が所定角度(+θ°)で巻き付けられ、0°層とともに他端方向に引っ張られて移される。移動中の+θ°層の上に、−θ°層形成用の強化繊維が所定の角度(−θ°)で巻き付けられ、その内側の強化繊維層とともに他端方向に引っ張られて移動される。移動中の−θ°層の上に0°層形成用の強化繊維が引き揃えられて配置され、他端方向にその内側の強化繊維層とともに引っ張られて移動される。この移動中の0°層の上に−θ’°層形成用の強化繊維が所定の角度(−θ’°)で巻き付けられて、その内側の強化繊維層とともに他端方向に引っ張られて移動される。この移動中の−θ’°層の上に、+θ’°層形成用の強化繊維が所定の角度(+θ’°)で巻き付けられて、その内側の強化繊維層とともに他端方向に引っ張られて移動される。
【0029】
本実施態様では、上記のように配置された強化繊維層からなるマンドレル上をその軸方向に移動中の各強化繊維層に、前記成形用組成物が含浸される。成形用組成物は、本実施態様では、金型の入口側に延びる含浸型中に供給され、含浸型の内周面側から強化繊維層内に含浸される。この成形用組成物の含浸は、例えばマンドレル内に、その軸方向に延び、しかる後に径方向に延びてマンドレル周面上に開口する流路を設けておき、マンドレル側から供給するようにしてもよい。また、含浸型とマンドレルの両側から供給するようにしてもよい。
【0030】
成形用組成物が含浸されたマンドレル上の筒状複合体は、所定の筒状塗出口を備えた金型を通され、金型で加熱されて硬化され、金型の出口から所定の筒状成形品として、連続的に引き抜かれる。引き抜かれた成形品は、必要に応じて所定長に切断され、目標とするFRP筒体が得られる。このようにプルワインド法により成形されたFRP筒体は、金型の出口段階で外周形状が所定形状に整えられているため、極めて真円度が高い。したがって、外周面の切削加工なしで、5/100以下の真円度が容易に得られる。また、成形用組成物の強化繊維層への含浸性が特に優れるので、高い強度、弾性率、圧縮強度を示し、しかも外観にも優れた筒状成形品を製造することができる。
【0031】
なお本発明のFRP筒体は、前記した層構成を有するものに限らず、例えば、外層や内層、さらに中間層他の層、たとえば強化繊維のマット層や樹脂のみの層を有するものであってもよく、さらに表面保護層等を有するものであってもよい。また、筒体表面等に塗装を施したり、蒸着層を設けたりしてもよい。
【0032】
かくして得られる本発明のFRP筒体は、筒体全体にわたって均一に高強度、高弾性率特性を発現でき、かつ、表面加工なしで高い真円度を実現できる。したがって、機械的に高性能でかつ外観に優れたFRP筒体を容易に製造できる。このような高性能のFRP筒体は、特に軽量であり、均一で高い機械特性と高い真円度を要求される用途に好適であり、ボビンやローラ等に好適である。また、強度と靭性に優れるので、自動車や航空機などの乗物用構造体、ゴルフシャフトや釣竿等のスポーツ用途、土木、建築などの一般産業分野において好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維軸が筒軸方向の強化繊維層と、繊維軸が筒軸方法に対し+θ°及び−θ°をなす強化繊維層との少なくとも3層の強化層を有し、筒軸方法に対し+θ°及び−θ°をなす強化繊維層が連続強化繊維から成形され、且つ、強化繊維層中のマトリックス樹脂がシクロオレフィンモノマーと重合触媒とを含んでなる成形用組成物を硬化させてなるFRP筒体。
【請求項2】
前記成形用組成物が、架橋剤を含んでなるものである請求項1記載のFRP筒体。

【公開番号】特開2011−37001(P2011−37001A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−322692(P2007−322692)
【出願日】平成19年12月14日(2007.12.14)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】