説明

FTO遺伝子多型検出プローブ

【課題】FTO遺伝子多型のrs9939609を検出するのに有効なプローブを特定し、FTO遺伝子多型のrs9939609を検出する方法、およびそのためのキットを提供する。
【解決手段】FTO遺伝子の多型を検出するためのプローブであって、特定の塩基配列において塩基番号401〜410を含む10〜65塩基長の塩基配列であり、410番目の塩基に対応する塩基がシトシンである以外は特定の塩基配列に相同性を有し、塩基番号410に対応する塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチドからなることを特徴とする多型検出用プローブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FTO遺伝子多型のrs9939609を検出する方法、ならびにそのための核酸プローブおよびキットに関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は、糖尿病およびメタボリックシンドロームの原因となっていることが知られている。我が国においては、メタボリックシンドロームは、健康診断における診断項目となっている。
肥満に関連するSNPとしては、FTO遺伝子のSNP(一塩基多型)が知られている。FTO遺伝子(fat mass and obesity-associated gene)のSNP (rs9939609)はボディマス指数(BMI)や肥満と関連することが報告されている(非特許文献1)。
このように、FTO遺伝子のSNPの多型を調査することは、肥満、糖尿病、メタボリックシンドロームなどの診断に非常に重要となっている。
【0003】
塩基の多型を検出する方法としては、以下の方法が知られている。
非特許文献1には、付加配列を持つプライマーを用いて増幅産物を得て、FRETプローブの蛍光検出シグナルを得てSNPタイピングを行う方法(KASPar法)が記載されている。しかしながら、この方法は、反応に必要なFRETプローブが2つ必要でありコストがかかり、2種類以上のプライマーが必要なため設計の手間やコストを要し、さらに結果解析に専門知識や専門スキルを必要とするという問題があった。
非特許文献2には、TaqManプローブを用いて蛍光検出シグナルを得てSNPタイピングを行う方法が記載されている。しかしながら、この方法は、反応に必要なTaqManプローブが2つ必要でコストがかかり、TaqManプローブは修飾が必要で高価であり、さらに結果解析に専門知識や専門スキルを必要とするという問題があった。
非特許文献3には、Invader法により検出シグナルを得てSNPタイピングを行う方法が記載されている。しかしながら、この方法は、実験操作に手間や専門スキルを必要とし、さらに結果を得るまでに時間がかかるという問題があった。
非特許文献4には、RFLP法により増幅産物の制限酵素切断パターンの違いからSNPタイピングを行う方法が記載されている。しかしながら、この方法は、増幅産物を取扱うためコンタミネーションして実験の結果に影響を与える危険性があり、実験操作に手間を必要とし、結果を得るまでに時間がかかるという問題があった。
【0004】
一方、変異を含む領域をPCRで増幅した後、蛍光色素で標識された核酸プローブを用いて融解曲線分析を行い、融解曲線分析の結果に基づいて変異を解析する方法が知られている(特許文献1,2)。しかしながら、これらの文献においては、プローブの設計に関し、末端部が蛍光色素により標識された消光プローブが標的核酸にハイブリダイゼーションしたとき、末端部分においてプローブ−核酸ハイブリッドの複数塩基対が少なくとも一つのGとCのペアを形成するように設計するという教示があるのみである。また、これらの方法は、実施する上で全ての任意配列で実施可能ではないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−286300号公報
【特許文献2】特開2002−119291号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Science 2007;316:889-94
【非特許文献2】N Engl J Med 2008;359:2558-66
【非特許文献3】J Hum Genet 2008;53:546-553
【非特許文献4】J Clin Endocrinol Metab 2008;93:1501-1505
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、FTO遺伝子多型のrs9939609を検出するのに有効なプローブを特定し、FTO遺伝子多型のrs9939609を検出する方法、およびそのためのキットを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、FTO遺伝子多型のrs9939609を含む特定の領域に基づいてプローブを設計し、該プローブを用いる融解曲線分析を行うことにより当該変異を検出できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)FTO遺伝子の多型を検出するためのプローブであって、配列番号1または2に示す塩基配列において塩基番号401〜410を含む10〜65塩基長の塩基配列であり、配列番号1または2における410番目の塩基に対応する塩基がシトシンである以外は配列番号1または2に相同性を有し、塩基番号410に対応する塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチドからなることを特徴とする多型検出用プローブ。
(2)前記オリゴヌクレオチドは、蛍光色素で標識された塩基番号410に対応する塩基を3’末端から数えて1〜3番目の位置に有する、(1)記載の多型検出用プローブ。
(3)前記オリゴヌクレオチドは、蛍光色素で標識された塩基番号410に対応する塩基を3’末端に有する、(1)記載の多型検出用プローブ。
(4)前記オリゴヌクレオチドは、標的配列にハイブリダイズしないときに蛍光を発し、且つ標的配列にハイブリダイズしたときに蛍光強度が減少するかまたは増加する、(1)〜(3)のいずれか1項記載の多型検出用プローブ。
(5)前記オリゴヌクレオチドが、標的配列にハイブリダイズしないときに蛍光を発し、標的配列にハイブリダイズしたときに蛍光強度が減少する、(4)記載の多型検出用プローブ。
(6)前記オリゴヌクレオチドの塩基長が10〜47である、(1)〜(5)のいずれか1項記載の多型検出用プローブ。
(7)前記オリゴヌクレオチドの塩基長が10〜34である、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
(8)前記オリゴヌクレオチドの塩基長が15〜27である、(1)〜(7)のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
(9)前記プローブが、融解曲線分析用のプローブである、(1)〜(8)のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
(10)前記オリゴヌクレオチドが配列番号4で示される、(1)〜(9)のいずれか1項に記載の多型検出プローブ。
(11)(1)〜(10)のいずれか1項に記載の多型検出用プローブを用いるFTO遺伝子の多型検出方法。
(12)(I)(1)〜(10)のいずれか1項に記載の多型検出用プローブおよび試料中の一本鎖核酸を接触させて、前記蛍光標識オリゴヌクレオチドおよび前記一本鎖核酸をハイブリダイズさせてハイブリッド形成体を得ること、
(II)前記ハイブリッド形成体を含む試料の温度を変化させることで、前記ハイブリッド形成体を解離させ、前記ハイブリッド形成体の解離に基づく蛍光シグナルの変動を測定すること、
(III)前記シグナルの変動に基づいてハイブリッド形成体の解離温度であるTm値を決定すること、並びに
(IV)前記Tm値に基づいて、FTO遺伝子における多型の存在または多型を有する核酸の存在比を決定すること、
を含む、(11)に記載の多型検出方法。
(13)さらに、前記工程(I)の前または工程(I)と同時に核酸を増幅することを含む、(12)に記載の多型検出方法。
(14)(11)〜(13)のいずれか1項に記載の多型検出方法により、FTO遺伝子における多型を検出すること、および、検出された多型の有無に基づいて、肥満、糖尿病および/またはメタボリックシンドロームのかかり易さを決定することを含む、方法。
(15)(1)〜(10)のいずれか1項に記載の多型検出用プローブを含む、多型検出用キット。
(16)配列番号1に示す塩基配列において、前記オリゴヌクレオチドがハイブリダイズする配列を含む領域を鋳型として増幅可能なプライマーをさらに含む、(15)に記載の多型検出用キット。
(17)前記プライマーが配列番号7と8に記載のプライマーである、(16)に記載の多型検出キット。
(18)さらに、配列番号11〜16に記載の何れかのプライマー又はプローブを含む、(16)または(17)に記載の多型検出用キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明のプローブを添加して、融解曲線分析(Tm解析)を行うだけで、FTO遺伝子多型のrs9939609のSNPタイピングが可能となる。
本発明のプローブは、特異性が高く、検出感度が高い。
本発明の方法を用いることにより、PCRを行う場合であっても、増幅産物を取り出す必要がないため、コンタミネーションの危険性がほぼ無い。また、本発明の方法は、操作が簡単なので自動化が容易である。
本発明の方法により、FTO遺伝子多型のrs9939609と、B3AR遺伝子多型のrs4994およびUCP1遺伝子多型のrs1800592とを同時に検出することもできる。
本発明のプローブを用いることより、作業時間や反応時間を短縮し、容易にFTO遺伝子多型のrs9939609を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1のFTO−R1−WTおよびFTO−R1−mt(相補鎖オリゴ)についてのTm解析における単位時間当たりのTAMRA(3T−FTO−F1、5T−FTO−F2、5T−FTO−F3)の蛍光強度の変化量(d蛍光強度増加量/t)を縦軸とし、温度を横軸とし、これらの関係を示す。以下の図表においても、縦軸と横軸の関係は同様である。
【図2】実施例2の検体A(精製ゲノム)についてのTm解析において、プローブにPacific Blue(3PB−FTO−F1)(左図)とBODIPY FL(5FL−B3AR−wt−R6−15)(中央図)とTAMRA(5T−UCP1−G−F4−17)(右図)を用いた。
【図3】実施例2の検体B(精製ゲノム)についてのTm解析において、プローブにPacific Blue(3PB−FTO−F1)(左図)とBODIPY FL(5FL−B3AR−wt−R6−15)(中央図)とTAMRA(5T−UCP1−G−F4−17)(右図)を用いた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<1>本発明プローブおよび本発明検出方法
本発明プローブは、FTO遺伝子の多型を検出するためのプローブであって、配列番号1または2に示す塩基配列において塩基番号401〜410を含む10〜65塩基長の塩基配列であり、配列番号1または2における410番目の塩基に対応する塩基がシトシンである以外は配列番号1または2に相同性を有し、塩基番号410に対応する塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチドからなることを特徴とする多型検出用プローブである。
ここで、FTO遺伝子多型のrs9939609は、配列番号1,2の401番目の塩基である。このrs番号は、National Center for Biotechnology InformationのdbSNPデータベース(//www.ncbi.nlm.nih.gov/projects/SNP/)の登録番号を示す。
【0013】
本発明プローブは、配列番号1に示す塩基配列(FTO遺伝子の野生型の塩基を有する配列)または配列番号2に示す塩基配列(FTO遺伝子の変異型(多型)の塩基を有する配列)において上記特定された配列を有する他は、特許文献1,2に記載されたプローブと同様にして作製できる。
本願における「相同性」とは、特定の塩基配列において、塩基配列の相補鎖に80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相同性を有する配列を有している塩基配列をさす。
本発明のプローブの長さとしては、10〜65塩基長、好ましくは10〜47塩基長、より好ましくは10〜34、最も好ましくは15〜27である。
本発明において使用されるFTO遺伝子多型のrs9939609を検出するためのプローブの塩基配列の例としては、5'-tgtgaatttrgtgatgcac-3'(配列番号3)が挙げられる。配列中、“r”はaまたはtを表す。より好ましくは、5'-tgtgaatttagtgatgcac-3'(配列番号4)である。
蛍光色素としては、特許文献1,2に記載されたものが使用できるが、具体例としては、Pacific Blue(商標)、FAM(商標)、TAMRA(商標)、BODIPY(商標) FL等が挙げられる。蛍光色素のオリゴヌクレオチドへの結合方法は、通常の方法、例えば特許文献1,2に記載の方法に従って行うことができる。
【0014】
本発明プローブは、標的配列にハイブリダイゼーションしないときに蛍光色素の蛍光が発光し、標的配列にハイブリダイゼーションしたときに蛍光色素の蛍光が減少または増加することが好ましい。より好ましくは、ハイブリダイゼーションしないときに蛍光色素の蛍光が発光し、ハイブリダイゼーションしたときに蛍光色素の蛍光が消光する、消光プローブである。
また、本発明プローブは、5’または3’末端から数えて1〜3番目の塩基が蛍光色素により標識化されていることが好ましく、3’末端が蛍光色素により標識されていることがより好ましい。なお、本明細書において、「5’末端から数えて1〜3番目」という場合は、5’末端を1番目として数え、「3’末端から数えて1〜3番目」という場合は、3’末端を1番目として数える。
なお、本発明プローブにおいて蛍光色素により標識されている塩基は、配列番号1または2における410番目の塩基である。
【0015】
本発明の検出方法は、本発明のプローブを使用し、以下の工程を含むことを特徴とする。(I)本発明の多型検出用プローブおよび試料中の一本鎖核酸を接触させて、前記蛍光標識オリゴヌクレオチドおよび前記一本鎖核酸をハイブリダイズさせてハイブリッド形成体を得ること、
(II)前記ハイブリッド形成体を含む試料の温度を変化させることで、前記ハイブリッド形成体を解離させ、前記ハイブリッド形成体の解離に基づく蛍光シグナルの変動を測定すること、
(III)前記シグナルの変動に基づいてハイブリッド形成体の解離温度であるTm値を決定すること、並びに
(IV)前記Tm値に基づいて、FTO遺伝子における多型の存在または多型を有する核酸の存在比を決定すること。
【0016】
本発明検出方法は、本発明プローブを用いることの他は、通常の核酸増幅および融解曲線分析(Tm解析)の方法に従って行うことができる。また、本発明の検出方法は、前記工程(I)の前または工程(I)と同時に核酸を増幅することを含んでいてもよい。
【0017】
核酸増幅の方法としては、ポリメラーゼを用いる方法が好ましく、その例としては、PCR、ICAN、LAMP等が挙げられる。ポリメラーゼを用いる方法により増幅する場合は、本発明プローブの存在下で増幅を行うことが好ましい。用いるプローブに応じて、増幅の反応条件等を調整することは当業者であれば容易である。これにより、核酸の増幅後にプローブのTm値を解析するだけなので、反応終了後増幅産物を精製などする必要がない。よって、増幅産物による汚染の心配がない。また、増幅に必要な機器と同じ機器で検出することが可能なので、容器を移動する必要すらない。よって、自動化も容易である。
【0018】
本発明において、試料中のDNAは、一本鎖DNAでもよいし二本鎖DNAであってもよい。前記DNAが二本鎖DNAの場合は、例えば、前記ハイブリダイズ工程に先立って、加熱により前記試料中の二本鎖DNAを解離させる工程を含むことが好ましい。二本鎖DNAを一本鎖DNAに解離することによって、次のハイブリダイズ工程において、検出用プローブとのハイブリダイズが可能となる。
【0019】
本発明において、前記試料中のDNAに対する、本発明のプローブの添加割合(モル比)は、制限されないが、検出シグナルを十分に確保できることから、試料中のDNAに対して1倍以下が好ましく、0.1倍以下がより好ましい。この際、試料中のDNAとは、例えば、検出目的の多型が発生している検出対象DNAと前記多型が発生していない非検出対象DNAとの合計でもよいし、検出目的の多型が発生している検出対象配列を含む増幅産物と前記多型が発生していない非検出対象配列を含む増幅産物との合計でもよい。なお、試料中のDNAにおける前記検出対象DNAの割合は、通常、不明であるが、結果的に、前記プローブの添加割合(モル比)は、検出対象DNA(検出対象配列を含む増幅産物)に対して10倍以下となることが好ましく、より好ましくは5倍以下、さらに、好ましくは3倍以下である。また、その下限は特に制限されないが、例えば、0.001倍以上であり、好ましくは0.01倍以上であり、より好ましくは0.1倍以上である。
【0020】
前記DNAに対する本発明のプローブの添加割合は、例えば、二本鎖DNAに対するモル比でもよいし、一本鎖DNAに対するモル比でもよい。
【0021】
Tm値について説明する。二本鎖DNAを含む溶液を加熱していくと、260nmにおける吸光度が上昇する。これは、二本鎖DNAにおける両鎖間の水素結合が加熱によってほどけ、一本鎖DNAに解離(DNAの融解)することが原因である。この現象に基づき、融解温度Tmとは、一般に、吸光度が、吸光度全上昇分の50%に達した時の温度と定義される。
【0022】
本発明において、Tm値を決定するための温度変化に伴うシグナル変動の測定は、前述のような原理から260nmの吸光度測定により行うこともできるが、本発明のプローブに付加した標識のシグナルに基づくシグナルであってDNAとプローブとのハイブリッド形成の状態に応じて変動するシグナルを測定することが好ましい。このため、本発明のプローブとして、前述の標識化プローブを使用することが好ましい。前記標識化プローブとしては、例えば、標的配列にハイブリダイズしないときに蛍光を発し、且つ標的配列にハイブリダイズしたときに蛍光強度が減少(消光)する蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブ、または標的配列にハイブリダイズしないときに蛍光を発し、且つ標的配列にハイブリダイズしたときに蛍光強度が増加する蛍光標識オリゴヌクレオチドプローブが挙げられる。前者のようなプローブであれば、検出対象配列とハイブリッド(二本鎖DNA)を形成している際にはシグナルを示さないか、シグナルが弱いが、加熱によりプローブが遊離するとシグナルを示すようになるか、シグナルが増加する。また、後者のプローブであれば、検出対象配列とハイブリッド(二本鎖DNA)を形成することによってシグナルを示し、加熱によりプローブが遊離するとシグナルが減少(消失)する。したがって、この標識に基づくシグナルの変化をシグナル特有の条件(吸光度等)で検出することによって、前記260nmの吸光度測定と同様に、融解の進行ならびにTm値の決定を行うことができる。標識化プローブにおける標識化物質は、例えば、前述のとおりであるが蛍光色素標識化プローブが好ましい。
【0023】
核酸増幅を行う際の鋳型となる核酸としては、核酸を含んでいればよく、特に制限されないが、例えば、血液、口腔粘膜懸濁液、爪や毛髪等の体細胞、生殖細胞、乳、腹水液、パラフィン包埋組織、胃液、胃洗浄液、腹膜液、羊水、細胞培養などの任意の生物学的起源に由来する又は由来しうるものである。鋳型となる核酸は、該起源から得られたままで直接的に、または該サンプルの特性を改変するために前処理した後で使用することができ、例えば、血液から精製したゲノムを使用することができる。
【0024】
以下、PCRを用いる場合を例として、さらに説明する。PCRに用いるプライマー対は、本発明プローブがハイブリダイゼーションできる領域が増幅されるようにする他は、通常のPCRにおけるプライマー対の設定方法と同様にして設定することができる。プライマーの長さおよびTm値は、通常には、12mer〜40merで40〜70℃、好ましくは16mer〜30merで55〜60℃である。プライマー対の各プライマーの長さは同一でなくてもよいが、両プライマーのTmはほぼ同一(通常には、相違が2℃以内)であることが好ましい。なお、Tm値は最近接塩基対(Nearest Neighbor)法により算出した値である。プライマー対の例としては、配列番号7,8に示す塩基配列を有するプライマーからなるものが挙げられる。
【0025】
PCRは、本発明で使用される本発明プローブの存在下で行うことが好ましい。これにより、増幅反応終了後に増幅産物を精製などすることなくTm解析を行うことができる。用いるプローブに応じて、プライマーのTm値やPCRの反応条件を調整することは当業者であれば容易である。
【0026】
Tm解析は、本発明プローブの蛍光色素の蛍光を測定する他は通常の方法に従って行うことができる。蛍光の測定は、蛍光色素に応じた波長の励起光を用い発光波長の光を測定することに行うことができる。Tm解析における昇温速度は、通常には、0.1〜1℃/秒である。Tm解析を行うときの反応液の組成は、プローブとその塩基配列に相補的な配列を有する核酸とのハイブリダイゼーションが可能であれば特に制限されないが、通常には、一価の陽イオン濃度が1.5〜5 mM、pHが7〜9である。PCR等のDNAポリメラーゼを用いる増幅方法の反応液は、通常、この条件を満たすので、増幅後の反応液をそのままTm解析に用いることができる。
【0027】
Tm解析の結果に基づくFTO遺伝子多型のrs9939609の検出は通常の方法に従って行うことができる。本発明における検出とは、変異の有無の検出および多型を有する核酸の存在比の決定を包含する。
【0028】
本発明のプローブおよび多型検出方法により、FTO遺伝子における多型を検出することができ、検出された多型の有無に基づいて、肥満、糖尿病および/またはメタボリックシンドロームのかかり易さを評価することができる。具体的には、FTO遺伝子のrs9939609の塩基がT/Tとなっていれば野生型であり、肥満、糖尿病および/またはメタボリックシンドロームとなりにくいが、T/A、A/Aとなっていれば肥満、糖尿病および/またはメタボリックシンドロームとなりやすいことが示唆される。
また、本発明の方法においては、FTO遺伝子多型のrs9939609(T>A)と、β3アドレナリン受容体(B3AR)遺伝子多型のrs4994(T>C)およびuncoupling protein 1 (UCP1)遺伝子多型のrs1800592(A>G)とを同時に検出することも可能であり、B3AR遺伝子および/またはUCP1遺伝子の多型(リスクアレル)がある場合も同様に、肥満、糖尿病および/またはメタボリックシンドロームとなりやすいことが示唆される。
【0029】
B3AR遺伝子多型のrs4994(T>C)の遺伝子配列及びその変異部位の多型を検出することが可能なプローブの塩基配列は、例えば、特開2004−313120に記載されている。具体的には、3’末端が蛍光色素で標識され、ハイブリダイゼーションしたときに蛍光色素の蛍光が減少する核酸プローブであって、特開2004−313120の配列番号8−12の塩基配列からなる核酸プローブである。
【0030】
B3AR遺伝子多型のrs4994(T>C)の遺伝子配列及びその変異部位の多型とUCP1遺伝子多型のrs1800592(A>G)の遺伝子配列及びその変異部位の多型を検出することが可能なプローブの塩基配列は、例えば、WO2008/066164に記載されている。具体的には、3’末端が蛍光色素で標識され、ハイブリダイゼーションしたときに蛍光色素の蛍光が減少する核酸プローブであって、WO2008/066164の配列番号83、95、120、127、139の塩基配列からなる核酸プローブである。なお、配列番号83、120、127は、B3AR遺伝子多型検出用プローブであり、配列番号95、139は、UCP1遺伝子多型検出用プローブである。
【0031】
<2>本発明キット
本発明キットは、本発明の検出方法に用いるためのキットである。このキットは、本発明の多型検出用プローブを含むことを特徴とする。なお、本発明のキットは、糖尿病または肥満に関連する疾患を判断するのにも使用できる。
プローブについては、本発明プローブに関し、上記に説明した通りである。
【0032】
本発明検出キットは、プローブの他に、本発明の検出方法における核酸増幅を行うのに必要とされる試薬類、特にDNAポリメラーゼを用いる増幅のためのプライマーをさらに含んでいてもよい。
本発明検出キットにおいてプローブ、プライマーおよびその他の試薬類は、別個に収容されていてもよいし、それらの一部が混合物とされていてもよい。
本発明検出キットは、さらに、B3AR遺伝子多型のrs4994(T>C)およびUCP1遺伝子多型のrs1800592(A>G)を検出するためのプローブおよびプライマーを含んでいてもよい。
以下に、本発明を実施例により具体的に説明する。ただし、これらの実施例は例示であり、これらに限定されない。
【実施例】
【0033】
実施例1(相補鎖オリゴヌクレオチドを検出対象とし、FTOのプローブ性能を確認した場合)
FTO遺伝子の多型のrs9939609の部位を含む塩基配列(配列番号1(野生型))に基づき、表1に示す、末端部にCを有するプローブ(変異型に対応)を設計した。表1中、プローブの位置は、配列番号2に示す塩基配列における塩基番号を示す。3’末端のPは、リン酸化されていることを示す。TAMRAによる標識は、常法に従って行った。
また、検出対象として使用した相補鎖オリゴヌクレオチド(野生型(配列番号9)および変異型(配列番号10)に対応)の配列を表1に示す。表1中、オリゴの位置は、配列番号2に示す塩基配列における塩基番号を示す。
【0034】
【表1】

【0035】
Tm値は、http://www.meltcalc.de/download.htmのMeltcalc 99 freeを使用し、ソフト設定条件として、Oligo conc[μM]0.2, Na eq.[mM] 50, DMSO[%]で計算した。
【0036】
全自動SNPs検査装置(商品名i-densy(商標)、アークレイ社製)を用いてTm解析を行った。i-densy専用の反応チューブに下記の溶液を添加してミネラルオイル30μLを重層した。プローブに対する相補鎖オリゴヌクレオチドは上記配列番号9,10を用いた。Tm解析の条件は下記の通りである。
Tm解析における励起波長および検出波長は、それぞれ520〜555 nmおよび585〜700 nm(TAMRA)とした。
【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
表1のプローブを用いてTm解析を行った結果、3T−FTO−F1(配列番号4)については、TAMRAのピークが54℃(野生型)付近および60℃(変異型)付近に明確に見られたが、5T−FTO−F2(配列番号5)および5T−FTO−F3(配列番号6)については、TAMRAのピークが十分な強さでは見られなかった(図1)。
従って、プローブの5’または3’末端のCが蛍光標識されていればどんなプローブ配列でもよいというわけではなく、配列番号4のプローブのように、410番目のCが蛍光標識されていることが重要であることが理解される。
【0040】
実施例2(精製ゲノムを検出対象とし、PCR増幅後Tm解析を一貫して実施した場合。FTO遺伝子以外にも、B3ARとUCP1のプライマーとプローブを用いてマルチ反応により同時検出した場合)
FTO遺伝子の多型のrs9939609の部位を含む塩基配列(配列番号1(野生型))に基づき、多型の部位を増幅できるように表6に示すプライマーを設計した。表6中、プライマーの位置は、配列番号1に示す塩基配列における塩基番号を示す。
全自動SNPs検査装置(商品名i-densy(商標)、アークレイ社製)を用いてPCRおよびTm解析を行った。サンプルは全血から精製したヒトゲノム(100コピー/μL)(検体Aまたは検体B)4μLを用いた(400コピー/試験)。PCRおよびTm解析の条件は下記の通りである。
Tm解析における励起波長および検出波長は、それぞれ 365 〜 415 nmおよび445〜480 nm(Pacific Blue)、それぞれ420〜485 nmおよび520〜555 nm(BODIPY FL)、または、それぞれ520〜555 nmおよび585〜700 nm(TAMRA)とした。
【0041】
【表4】

【0042】
【表5】

【0043】
FTO遺伝子多型に加えて、B3AR遺伝子多型およびUCP1遺伝子多型を検出するためのプライマーおよびプローブとして下記を使用した。
【0044】
【表6】

【0045】
Pacific Blueの蛍光によりFTO遺伝子の評価を行った結果、検体Aについては、Pacific Blueのピークが52℃付近に見られ(図2A)、検体Bについては、Pacific Blueのピークが52℃および58℃付近に見られた(図3A)。
また、BODIPY FLの蛍光によりβ3AR遺伝子の評価を行った結果、検体Aについては、BODIPY FLのピークが52℃および62℃付近に見られ(図2B)、検体Bについても、BODIPY FLのピークが52℃および62℃付近に見られた(図3B)。
さらに、TAMRAの蛍光によりUCP遺伝子の評価を行った結果、検体Aについては、TAMRAのピークが51℃および58℃付近に見られ(図2C)、検体Bについては、TAMRAのピークが51℃付近のみに見られた(図3C)。
【0046】
図2A,3Aの結果より、表6における配列番号4で示すプローブを用いたとき、FTO遺伝子多型のrs9939609(T>A)について、Tm解析で解析の可能な蛍光強度の変化が認められた。すなわち、T/Aタイプである検体Bは52℃および58℃付近に2つのピークを有し、T/Tタイプである検体Aは52℃付近に1つのみピークを有するものであり、固有の蛍光強度の変化量のパターンの変化が存在する。また、これらの結果から、T/Tタイプであるヒトゲノムで反応させた場合は、52℃付近に1つのみピークを有することが分かる。
さらに、B3AR遺伝子多型のrs4994(T>C)についても、Tm解析で解析の可能な蛍光強度の変化が認められた。すなわち、T/Cタイプである検体A、Bは52℃および62℃付近に2つのピークを有するものであり、固有の蛍光強度の変化量のパターンの変化が存在する。
さらに、UCP1遺伝子多型のrs1800592(A>G)についても、Tm解析で解析の可能な蛍光強度の変化が認められた。すなわち、G/Aタイプである検体Aは51℃および58℃付近に2つのピークを有するものであり、固有の蛍光強度の変化量のパターンの変化が存在する。また、これらの結果から、A/Aタイプである検体Bで反応させた場合は、51℃付近に1つのみピークを有することが分かる。
従って、配列番号4,15,16のプローブを同時に用いることにより、FTO遺伝子多型のrs9939609(T>A)と、B3AR遺伝子多型のrs4994(T>C)およびUCP1遺伝子多型のrs1800592(A>G)とを同時に検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明のプローブを用いることより、肥満および/または糖尿病とメタボリックシンドロームを診断することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
FTO遺伝子の多型を検出するためのプローブであって、配列番号1または2に示す塩基配列において塩基番号401〜410を含む10〜65塩基長の塩基配列であり、配列番号1または2における410番目の塩基に対応する塩基がシトシンである以外は配列番号1または2に相同性を有し、塩基番号410に対応する塩基が蛍光色素で標識されているオリゴヌクレオチドからなることを特徴とする多型検出用プローブ。
【請求項2】
前記オリゴヌクレオチドは、蛍光色素で標識された塩基番号410に対応する塩基を3’末端から数えて1〜3番目の位置に有する、請求項1記載の多型検出用プローブ。
【請求項3】
前記オリゴヌクレオチドは、蛍光色素で標識された塩基番号410に対応する塩基を3’末端に有する、請求項1記載の多型検出用プローブ。
【請求項4】
前記オリゴヌクレオチドは、標的配列にハイブリダイズしないときに蛍光を発し、且つ標的配列にハイブリダイズしたときに蛍光強度が減少するかまたは増加する、請求項1〜3のいずれか1項記載の多型検出用プローブ。
【請求項5】
前記オリゴヌクレオチドが、標的配列にハイブリダイズしないときに蛍光を発し、標的配列にハイブリダイズしたときに蛍光強度が減少する、請求項4記載の多型検出用プローブ。
【請求項6】
前記オリゴヌクレオチドの塩基長が10〜47である、請求項1〜5のいずれか1項記載の多型検出用プローブ。
【請求項7】
前記オリゴヌクレオチドの塩基長が10〜34である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【請求項8】
前記オリゴヌクレオチドの塩基長が15〜27である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【請求項9】
前記プローブが、融解曲線分析用のプローブである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の多型検出用プローブ。
【請求項10】
前記オリゴヌクレオチドが配列番号4で示される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の多型検出プローブ。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の多型検出用プローブを用いるFTO遺伝子の多型検出方法。
【請求項12】
(I)請求項1〜10のいずれか1項に記載の多型検出用プローブおよび試料中の一本鎖核酸を接触させて、前記蛍光標識オリゴヌクレオチドおよび前記一本鎖核酸をハイブリダイズさせてハイブリッド形成体を得ること、
(II)前記ハイブリッド形成体を含む試料の温度を変化させることで、前記ハイブリッド形成体を解離させ、前記ハイブリッド形成体の解離に基づく蛍光シグナルの変動を測定すること、
(III)前記シグナルの変動に基づいてハイブリッド形成体の解離温度であるTm値を決定すること、並びに
(IV)前記Tm値に基づいて、FTO遺伝子における多型の存在または多型を有する核酸の存在比を決定すること、
を含む、請求項11に記載の多型検出方法。
【請求項13】
さらに、前記工程(I)の前または工程(I)と同時に核酸を増幅することを含む、請求項12に記載の多型検出方法。
【請求項14】
請求項11〜13のいずれか1項に記載の多型検出方法により、FTO遺伝子における多型を検出すること、および、検出された多型の有無に基づいて、肥満、糖尿病および/またはメタボリックシンドロームのかかり易さを決定することを含む、方法。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の多型検出用プローブを含む、多型検出用キット。
【請求項16】
配列番号1に示す塩基配列において、前記オリゴヌクレオチドがハイブリダイズする配列を含む領域を鋳型として増幅可能なプライマーをさらに含む、請求項15に記載の多型検出用キット。
【請求項17】
前記プライマーが配列番号7と8に記載のプライマーである、請求項16に記載の多型検出キット。
【請求項18】
さらに、配列番号11〜16に記載の何れかのプライマー又はプローブを含む、請求項16または17に記載の多型検出用キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−231727(P2012−231727A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102073(P2011−102073)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000141897)アークレイ株式会社 (288)
【Fターム(参考)】