説明

Fe基焼結合金製バルブシート

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
この発明は、すぐれた耐摩耗性と潤滑性、さらに高強度を有し、特に軽油やLPGなどを燃料として用いる内燃機関に用いるのに適したFe基焼結合金製バルブシートに関するものである。
〔従来の技術〕
従来、内燃機関には多くのFe基焼結合金製バルブシートが用いられている。
〔発明が解決しようとする問題点〕
しかし、従来多くのFe基焼結合金製バルブシートは、密度が低く、したがって空孔が多いために強度が充分でなく、このためCuやPbなどを溶浸して封孔することも行なわれているが、潤滑効果の期待できない燃料を用いた場合には、自体の硬さレベルが低いことと相まって、低い耐摩擦性しか示さず、この傾向は、内燃機関の高性能化に伴い、その使用条件が苛酷になるにしたがって増大しつつあるのが現状である。
〔問題点を解決するための手段〕
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、高強度と高硬度を有し、かつ耐摩耗性および潤滑性のすぐれたFe基焼結合金製バルブシートを開発すべく研究を行なった結果、重量%で(以下%の表示は重量%を示す)、 C:0.6〜3%、Cr:1〜5%、 Mo:4〜15%、Ni:0.5〜2%、 Co:2〜8%、Nb:0.2〜2%、を含有し、さらに、 潤滑成分として弗化カルシウム(以下、CaF2で示す):0.2〜2%、を含有し、残りがFeと不可避不純物からなる組成を有する予備焼結体に熱間鍛造を施して、7.3g/cm3以上の高密度として高強度を付与し、 ついで、この高密度化鍛造材に焼結を施し、さらに必要に応じて熱処理を施して、主体がパーライト相からなる素地に、上記潤滑成分と、MoやFe−Mo、さらに炭化物などの硬質粒子が分散した組織、すなわち、望ましくは、 分散相としての潤滑成分+硬質粒子:2〜20容量%、いずれも素地を構成する、 パーライト相:50〜90容量%、 マルテンサイト相:1〜20容量%、 オーステナイト相:5容量%以下、 フエライト相:残り、 の割合を占める組織をもったFe基焼結合金で内燃機関のバルブシートを構成すると、この結果のバルブシートは、ロックウエル硬さCスケールで30〜50の高硬度をもつようになり、したがって、これを燃料として潤滑効果をもたない無鉛ガソリンやプロパン、さらに軽油を用いる内燃機関に適用しても、すぐれた耐摩耗性と潤滑性を示し、長期に亘る安定的使用を可能とするという知見を得たのである。
この発明は、上記知見にもとづいてなされたものであって、 C:0.6〜1.3%、Cr:1〜5%、 Mo:4〜15%、Ni:0.5〜2%、 Co:2〜8%、Nb:0.2〜2%、を含有し、さらに、 潤滑成分としてCaF2:0.2〜2%、を含有し、残りがFeと不可避不純物からなる組成、 主体がパーライト相からなる素地中に、上記潤滑成分と硬質粒子とが分散した組織、 7.3g/cm3以上の密度、および、 ロックウエル硬さCスケール(HRC)で30〜50の硬さ、を有するFe基焼結合金で構成してなる内燃機関のバルブシートに特徴を有するものである。
つぎに、この発明のバルブシートにおいて、これを構成するFe基焼結合金の成分組成および特性を上記の通りに限定した理由を説明する。
(a) C C成分には、炭化物を形成するほか、パーライト相を主体とする素地を形成して、耐摩耗性と強度を向上させる作用があるが、その含有量が0.6%未満では前記作用に所望の効果が得られず、一方その含有量が1.3%を越えると、相手攻撃性が増すようになることから、その含有量を0.6〜1.3%と定めた。
(b) Cr Cr成分には、素地に固溶して耐熱性を向上させるほか、炭化物を形成して耐摩耗性を向上させる作用があるが、その含有量が1%未満では前記作用に所望の効果が得られず、一方その含有量が5%を越えると、焼結性が劣化し、高密度(高強度)を確保するのが困難になることから、その含有量を1〜5%と定めた。
(c) Mo Mo成分には、Mo粒子やFe−Mo粒子として素地中に分散して耐摩耗性を向上させる作用があるが、その含有量が4%未満では所望のすぐれた耐摩耗性を確保することができず、一方その含有量が15%を越えると、強度が低下し、高負荷条件での使用に耐えなくなることから、その含有量を4〜15%と定めた。
(d) Ni Ni成分には、素地に固溶してこれを強化する作用があるが、その含有量が0.5%未満では所望の素地強化がはかれず、一方2%を越えて含有させても効果が飽和するだけで、不経済であることから、その含有量を0.5〜2%と定めた。
(e) Co Co成分にも、Ni成分と同様に素地に固溶して、これを強化する作用があるが、その含有量が2%未満では前記作用に所望の効果が得られず、一方8%を越えて含有させても前記作用は飽和するだけであり、経済性を考慮して、その含有量を2〜8%と定めた。
(f) Nb Nb成分には、炭化物を形成して耐摩耗性を向上させる作用があるが、その含有量が0.2%未満では所望の耐摩耗性を確保することができず、一方2%を越えて含有させても、効果が飽和し、より一層の向上効果は現われないことから、その含有量を0.2〜2%と定めた。
(g) CaF2 CaF2成分には、素地に分散して潤滑性を向上させる作用があるが、その含有量が0.2%未満では所望の潤滑効果を得ることができず、一方その含有量が2%を越えると強度が低下するようになることから、その含有量を0.2〜2%と定めた。
(h) 密度 7.3g/cm3未満の密度では空孔が比較的多量に存在し、所望の高強度を確保することができないので、熱間加工により7.3g/cm3以上の密度をもつようにしなければならない。
(i) 硬さ 硬さがHRCで30未満では、所望の耐摩耗性を確保することができず、一方硬さがHRCで50を越えて高くなると被削性が低下し、加工コストが上昇するようになることから、硬さをHRCで30〜50と定めた。
なお、この発明のFe基焼結合金製バルブシートを製造するに際して、 予備焼結は、真空または還元性ガス雰囲気中、900〜1180℃に1時間保持の条件、 熱間加工(熱間鍛造)温度は950〜1100℃、 焼結は、真空または還元性ガス雰囲気中、1000〜1180℃に1時間保持の条件、 さらに必要に応じて施される熱処理は、600〜800℃に1時間保持の条件、でそれぞれ行なうのが望ましい。
〔実施例〕
つぎに、この発明のFe基焼結合金製バルブシートを実施例により具体的に説明する。
原料粉末として、いずれも粒度:100mesh以下のアトマイズ鉄粉、カーボニルNi粉末、Co粉末、Fe−Cr合金(Cr:12%含有)粉末およびFe−Nb合金(Nb:60%含有)粉末、いずれも粒度:150mesh以下の天然黒鉛粉末、Fe−Mo合金(Mo:60%含有)粉末、CaF2粉末、さらに同200mesh以下のMo粉末を用意し、これら原料粉末を、それぞれ第1表に示される配合組成に配合し、混合した後、6ton/cm2の圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を、500℃に30分間保持の条件で脱油した後、アンモニア分解ガス雰囲気中、温度:1120℃に1時間保持の条件で予備焼結し、ついでこの予備焼結体に1000℃の加熱温度で熱間鍛造を施し、引続いて同じくアンモニア分解ガス雰囲気中、温度:1150℃に1時間保持の条件で焼結を施し、最終的に、640〜690℃の範囲内の所定温度に90分間保持の条件で熱処理を施すことによって実質的に配合組成と同一の成分組成、並びに外径:48mm×内径:40mm×厚さ:8mmの寸法をもった本発明Fe基焼結合金製バルブシート(以下本発明焼結バルブシートという)1,2および比較Fe基焼結合金製バルブシート(以下比較焼結バルブシートという)1〜9をそれぞれ製造した。
なお、比較焼結バルブシート1〜9は、いずれも構成成分のうちのいずれかの成分含有量(第1表に※印を付したもの)がこの発明の範囲から外れた組成をもつものである。
ついで、この結果得られた各種の焼結バルブシートについて、強度を評価する目的で密度を、また耐摩耗性を評価する目的でロックウエル硬さ(HRC)を測

定し、かつ組織におけるパーライト相の面積率を顕微鏡観察にて測定し、さらに、 バルブの材質:SUH−3、 バルブの加熱温度:900℃、 バルブ着座回数:2500回/分、 雰囲気:圧力0.4kg/cm2のプロパンガスと流量1.5■/minの酸素による燃焼ガス、 バルブシートの加熱温度(水冷):250〜300℃、 着座荷重:30kg、 試験時間:100時間、の条件で試験機による摩耗試験を行ない、バルブシートの最大摩耗深さを測定して耐摩耗性を評価し、かつバルブの最大摩耗深さを測定して潤滑性を評価した。これらの測定結果を第1表に示した。
〔発明の効果〕
第1表に示される結果から、本発明焼結バルブシート1,2は、いずれも高密度、すなわち高密度を有し、かつ高硬度を有するので、摩耗試験ではすぐれた耐摩耗性を示すばかりでなく、相手攻撃性も低く、すぐれた潤滑性を示すのに対して、比較焼結バルブシート1〜9に見られるように、構成成分のうちのいずれかの成分含有量でもこの発明の範囲から外れると、上記の特性のうち少なくともいずれかの特性が劣ることが明らかである。
上述のように、この発明のFe基焼結合金製バルブシートは、高強度および高硬度を有し、かつ耐摩耗性および潤滑性にもすぐれているので、内燃機関のバルブシートとして著しく長期に亘ってすぐれた性能を発揮するのである。

【特許請求の範囲】
1.C:0.6〜1.3%、Cr:1〜5%、Mo:4〜15%、Ni:0.5〜2%、Co:2〜8%、Nb:0.2〜2%、を含有し、さらに、潤滑成分として弗化カルシウム:0.2〜2%、を含有し、残りがFeと不可避不純物からなる組成(以上重量%)、主体がパーライト相からなる素地中に、上記潤滑成分と硬質粒子とが分散した組織、7.3g/cm3以上の密度、および、ロックウエル硬さCスケールで30〜50の硬さ、を有するFe基焼結合金で構成したことを特徴とするFe基焼結合金製バルブシート。

【特許番号】第2773747号
【登録日】平成10年(1998)4月24日
【発行日】平成10年(1998)7月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願昭62−57626
【出願日】昭和62年(1987)3月12日
【公開番号】特開昭63−223142
【公開日】昭和63年(1988)9月16日
【審査請求日】平成5年(1993)6月28日
【審判番号】平8−4162
【審判請求日】平成8年(1996)3月27日
【出願人】(999999999)三菱マテリアル株式会社
【合議体】
【参考文献】
【文献】特開 昭51−41607(JP,A)
【文献】特開 昭51−63310(JP,A)
【文献】特開 昭53−44410(JP,A)
【文献】特開 昭56−20143(JP,A)
【文献】特開 昭54−119321(JP,A)
【文献】特開 昭59−41451(JP,A)