説明

FePd/Fe磁性ナノ粒子の製造方法

【課題】水素還元熱処理後にFeの粗大化部分の形成が抑制されて保磁力の高いFePd/Fe磁性ナノ粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】Fe/Pdナノ粒子を、室温から熱処理温度まで3℃/分以下の昇温速度で水素還元熱処理するFePd/Fe磁性ナノ粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、 FePd/Fe磁性ナノ粒子の製造方法に関し、さらに詳しくはFe/Pdナノ粒子の水素還元熱処理によりFeの粗大化部分の形成が抑制されたFePd/Fe磁性ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁石は、我々の生活を支える基礎資材の1つであり、省エネおよび地球温暖化防止の観点からその性能を向上させる重要性は益々増している。例えば、家電製品や自動車(ハイブリッド自動車又は電気自動車)においては、それらの発電機やモーターに適用される永久磁石の高性能化や小型化が求められている。
【0003】
一方、近年、ナノテクノロジーを用いた材料設計が導入され、永久磁石の分野においても次世代型のナノコンポジット磁石の開発が試みられている。
このナノテクノロジーによるナノコンポジット永久磁石の1つとしてFePd/Fe磁性ナノ粒子が提案されている。
【0004】
例えば、特開2006−37165号公報には、Pt又はPdの少なくとも1種を含む金属塩を多価アルコール又はその誘導体に溶解させた後、昇温速度(50℃から150℃に至るまでの平均昇温速度)を0.1〜20℃/分、好適には1〜20℃/分で多価アルコール又はその誘導体によって還元処理する結晶粒子径Dが4.0nm以上、好適には6.0nm以上である金属磁性粉の製造法が記載されている。そして、具体例として加熱温度300℃で結晶粒子径D(X線結晶粒径)が6.0nm以上のPt系磁性粉を得た例が記載されている。しかし、具体例としてPd系磁性粉を得た例は記載されていない。
【0005】
さらに、特開2008−138238号公報には、粒径1〜100nmのPdナノ粒子、界面活性剤、Feの塩及び還元剤を混合、加熱するPdFe/Fe複合ナノ粒子の製造方法が記載されている。そして、具体例として4%H/Arフロー下での水素還元熱処理を熱処理温度の500℃まで昇温速度10℃/分で行った例が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−37165号公報
【特許文献2】特開2008−138238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、これらの従来技術をFe/Pdナノ粒子の水素還元熱処理に適用すると、水素還元熱処理が不十分であるかあるいは磁性ナノ粒子にFeの粗大化が生じ、保磁力の低い磁性ナノ粒子得られる。
従って、本発明の目的は、水素還元熱処理後にFeの粗大化部分の形成が抑制されて保磁力の高いFePd/Fe磁性ナノ粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、従来公知のFe/Pdナノ粒子を出発原料とすると、Pdナノ粒子表面にFeナノ粒子が最大で3個付着したものが形成され、これを従来公知の方法で水素還元熱処理すると400℃以上の高温加熱処理ではFeの粗大化部分が形成するなどして均一なFePd/Fe磁性ナノ粒子が得られないことを見出し、さらに検討を行った結果、本発明を完成した。
【0009】
本発明は、Fe/Pdナノ粒子を、室温から熱処理温度まで3℃/分以下の昇温速度で水素還元熱処理するFePd/Fe磁性ナノ粒子の製造方法に関する。
本発明において、水素還元熱処理とは水素ガス雰囲気下での加熱処理を意味する。
また、本発明において、熱処理温度とは水素還元熱処理における最も長い時間加熱される温度のことをいう。
また、前記の昇温速度とは室温から前記加熱温度までの平均昇温速度のことをいう。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、水素還元熱処理後にFeの粗大化部分の形成が抑制されて保磁力の高いFePd/Fe磁性ナノ粒子を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明によりFe/Pdナノ粒子を水素還元熱処理してFePd/Fe磁性ナノ粒子を得る工程を模式的に示す工程図である。
【図2】図2は、本発明の範囲外の方法によりFe/Pdナノ粒子を水素還元熱処理してFePd/Fe磁性ナノ粒子を得る工程を模式的に示す工程図である。
【図3】図3は、Fe/Pdナノ粒子の水素還元熱処理における昇温速度と得られたFePd/Fe磁性ナノ粒子の保磁力との関係について熱処理温度を変えて比較したグラフである。
【図4】図4は、Fe/Pdナノ粒子の水素還元熱処理における昇温速度と得られたFePd/Fe磁性ナノ粒子の保磁力との関係について熱処理温度を一定にして比較したグラフである。
【図5】図5は、Fe/Pd複合粒子の組成と温度との関係を示すFe−Pd系の状態図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明においては、Fe/Pdナノ粒子を、室温から熱処理温度までの昇温速度が3℃/分以下、好適には1℃/分以下である条件で水素還元熱処理することが必要であり、これによってFeの粗大化部分の形成が抑制されたFePd/Fe磁性ナノ粒子を容易に得ることができる。このFePd/Fe磁性ナノ粒子は個々の粒子が孤立していて硬/軟磁性相を持つナノコンポジット磁石を与え得る。前記の水素還元熱処理は、室温から熱処理温度までの昇温速度を0.1℃/分以上とすることが好ましく、前記の熱処理温度での加熱は通常3時間以上、特に3〜24時間程度、その中でも5〜24時間程度行うことが好ましい。また、熱処理温度は400〜600℃以上であることが好ましい。
【0013】
本発明について、図1〜図4を参照して説明する。水素還元熱処理する際の熱処理温度までの昇温速度が従来法のように10℃/分であると、図2に示すように、Feが粗大化した磁性ナノ粒子が得られる。これは、400℃以上、特に500℃以上の水素還元熱処理によりFeナノ粒子の表面拡散の速度がFe−Pdの相互拡散の速度より大きくなるためPdナノ粒子表面でFeナノ粒子の粗大化が生じることによると考えられる。このようにFeが粗大化した磁性ナノ粒子は、図3および図4に示すように低い保磁力を与える。これは、Feが粗大化した磁性ナノ粒子ではコアのPdまで規則化に必要な量のFeが拡散していかないためFePdの規則化が十分に進行しないこと、さらにFeの粗大化に伴い軟磁性相に及ぼす硬磁性相の交換結合長が及ばなくなることによると考えられる。
【0014】
これに対して、水素還元熱処理する際の熱処理温度までの昇温速度が3℃/分以下であると、図1に示すように、Feの粗大化部分の形成が抑制され、FeがコアのPdナノ粒子に相互拡散できて、FePdの規則化が進み実質的にFePdコア/Feシェル構造の磁性ナノ粒子が得られたことによると考えられる。これは、昇温速度が3℃/分以下であるとFe−Pdの相互拡散が支配的となることによると考えられる。このようなFePd/Fe磁性ナノ粒子は、図3および図4に示すように高い保磁力を与える。
【0015】
さらに、本発明によれば、図3に示すように最適熱処理温度域が広くなり、例えば昇温速度が3℃/分では450℃以上600℃未満、特に450〜550℃の熱処理温度で安定して保磁力の大きいFePd/Feナノ粒子を得ることが可能となる。
これに対して、熱処理温度までの昇温速度が従来法のように10℃/分であると、図3に示すように最適熱処理温度域が狭くなり、例えば昇温速度が10℃/分では450℃前後が最適熱処理温度となり、450℃より高い熱処理温度では温度が高くなるに従って保磁力の小さい磁性ナノ粒子が得られる。
また、前記の水素還元熱処理は、水素ガス単独又は水素ガスを1〜10%程度含むH/不活性ガス(例えばAr)雰囲気下に行うことが好ましい。
【0016】
前記のように、室温から熱処理温度までの昇温速度が3℃/分以下、好適には1℃/分以下、そして好適には0.1℃/分以上の条件で水素還元熱処理することによって、最適熱処理温度を従来法の場合よりも高くすることが可能となり、前記の3℃/分以下の昇温速度と、450℃以上600℃未満、特に450〜550℃の範囲内での高い熱処理温度の選択とを組み合わせることによって、保磁力の高いFePd/Feナノ粒子を得ることが可能となる。
【0017】
本発明において用いられるFe/Pdナノ粒子は、例えば以下の方法によって得ることができる。
第1の方法としては、粒径が1〜100nm、特に1〜10nm程度のPdナノ粒子、Fe前駆物質、例えば、鉄(II)アセチルアセトナート、フェロセン[ビス(シクロペンタジエニル)鉄(II)]や鉄(III)アセチルアセトナートなど、界面活性剤、例えばオレイルアミンやTOP(トリオクチルリン酸)など、溶媒、例えばTOPやテトラエチレングリコールなどおよび還元剤、例えば1,2−オクタンジオールなどの高沸点ジオールなどを含む混合物を180℃以上250℃未満の温度で加熱処理する方法が挙げられる。
第2の方法としては、粒径が1〜100nm、特に1〜10nm程度のPdナノ粒子、粒径が1〜100nm、特に2〜20nm程度のFeナノ粒子、溶媒、例えば1−オクタノールなどおよび界面活性剤、例えばTOPやオレイルアミンなどの混合物を200℃以上300℃未満の温度で加熱処理する方法が挙げられる。
前記のいずれの方法によっても、得られるFe/Pdナノ粒子は図1および図2に出発原料として示すように、Pdナノ粒子の周囲に最大3個のFeナノ粒子が一体化した複合粒子であることが確認されている。
【0018】
前記のFe/Pdナノ粒子として、例えば、T.B.Massalskiによる「バイナリー アロイ フェース ダイアグラム(BINARY ALLOY PHASE DIAGRAMS)、第1版」[(アメリカンササイアティ フォーメタルズ(American Society for Metals)、1986年]に記載の図(図5として示す)に示されたFe−Pd状態図のL1−FePd複合粒子を挙げることができる。
【0019】
前記のL1−FePd複合粒子は、前記と同様にPdナノ粒子の周囲に最大3個のFeナノ粒子が一体化した構造体の複合粒子である。このような不均一な構造体を有する複合粒子を出発原料とすると、Pdナノ粒子とFeナノ粒子とが隣接していない部分が存在するため、従来公知の方法によって水素還元雰囲気下に高温で熱処理すると一部Feナノ粒子が粗大化した磁性粒子が得られる。
【0020】
しかし、本発明の方法によれば、Pd/Feナノ粒子を出発原料として用いても前記の条件で水素還元熱処理して、Feの粗大化部分の形成が抑制されたFePd/Fe磁性ナノ粒子を得ることができる。
本発明の方法によって得られるFePd/Fe磁性ナノ粒子は、従来法のように複合粒子同士が融合した集合組織ではなく個々の粒子が孤立したFePdコア/Pdシェル構造のナノコンポジット粒子であると考えられる。
【0021】
本発明によって得られるFePd/Fe磁性ナノ粒子は、熱処理後も孤立したFePd/Feナノコンポジット粒子であり得て、交換相互作用長内に常にFe相が存在する、硬軟磁性相のナノコンポジット構造を制御した構造体の作製を可能とし得る。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例を示す。
以下の各例において、水素還元熱処理は次の装置を用いて行った。
水素還元熱処理装置:管状炉にグローブボックスが接続された装置(大気非暴露で粉体を扱うことが可能)
【0023】
以下の各例において、FePd/Feナノ粒子の各試料についての評価法は以下に示す方法によって行った。なお、以下の測定法は例示であって、他の同等の装置、条件を用いて測定し得る。
FePd/Feナノ粒子について、VSM(Vibrating Sample Magnetometer 試料振動型磁力計)を用いて磁気特性評価を行った。VSMの条件は以下の通りである。
装置の機種:Lake shore製 7410型
【0024】
実施例1
1.Fe/Pdナノ粒子の作製
常法により、図5の状態図にL1−FePd複合粒子として示すFe:Pdが8:2(原子比)であるFe/Pdナノ粒子を調製した。なお、図5の横軸はFe/Pdナノ粒子のFe−Pdの組成比(原子比)を示し、縦軸は温度(℃)を示す。なお、このFe/Pdナノ粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)によって測定した平均粒径はPdが5nm、Feが7nmであった。
2.Fe/Pdナノ粒子の水素還元熱処理
水素還元雰囲気(H:4%、Ar:96%)で昇温速度を3℃/分、熱処理温度500℃、熱処理時間10時間で、Fe/Pdナノ粒子の水素還元熱処理を行った。
得られたFePd/Feナノ粒子について磁気特性評価(VSM)を行った。結果をまとめて図3および図4に示す。
【0025】
実施例2
Fe/Pdナノ粒子の水素還元熱処理における昇温速度を3℃/分から1℃/分に変えた他は実施例1と同様にして、Fe/Pdナノ粒子の水素還元熱処理を行った。
得られたFePd/Feナノ粒子について磁気特性評価(VSM)を行った。結果をまとめて図3および図4に示す。
【0026】
比較例1
Fe/Pdナノ粒子の水素還元熱処理における昇温速度を3℃/分から10℃/分に変えた他は実施例1と同様にして、Fe/Pdナノ粒子の水素還元熱処理を行った。
得られたFePd/Feナノ粒子について磁気特性評価(VSM)を行った。結果をまとめて図3および図4に示す。
【0027】
実施例3〜6
Fe/Pdナノ粒子の水素還元熱処理における熱処理温度を500℃から425℃(実施例3)、450℃(実施例4)、475℃(実施例5)、550℃(実施例6)に変えた他は実施例1と同様にして、昇温速度3℃/分でFe/Pdナノ粒子の水素還元熱処理を行った。
得られたFePd/Feナノ粒子について磁気特性評価(VSM)を行った。結果をまとめて図3および図4に示す。
【0028】
比較例2〜5
Fe/Pdナノ粒子の水素還元熱処理における熱処理温度を500℃から400℃(比較例2)、450℃(比較例3)、475℃(実施例5)、550℃(比較例4)および600℃(比較例5)に変えた他は比較例1と同様にして、昇温速度10℃/分でFe/Pdナノ粒子の水素還元熱処理を行った。
得られたFePd/Feナノ粒子について磁気特性評価(VSM)を行った。結果をまとめて図3および図4に示す。
【0029】
以上の結果は、Fe/Pdナノ粒子を3℃/分以下の昇温速度で水素還元熱処理することによって、425〜550℃の幅広い熱処理温度で1kOe以上の保磁力を有するPdFe/Feナノ粒子が得られたことを示している。
また、図3の結果は、熱処理温度を450〜550℃の範囲内で適宜に選択することによって1.5kOe以上の保磁力を有するPdFe/Fe磁性ナノ粒子が得られたことを示している。
また、磁気特性評価結果から、各実施例で得られた磁性ナノ粒子はコアが硬磁性相(FePd)になっていることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によって、従来の製造方法では困難であったFeの粗大化部分の形成が抑制された保磁力の高いFePd/Feナノ粒子を昇温速度を制御するという簡単な操作で得ることが可能となり、硬軟磁性相のナノコンポジット構造を制御した構造体の製造を可能とし得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe/Pdナノ粒子を、室温から熱処理温度まで3℃/分以下の昇温速度で水素還元熱処理するFePd/Fe磁性ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記昇温速度が、1℃/分以下である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記昇温速度が、0.1℃/分以上である請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記熱処理温度が、400℃以上で600℃未満の範囲内の温度である請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−255086(P2010−255086A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−110110(P2009−110110)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】