説明

FeSi2ドットアレイ構造体及びその作製方法

【課題】 高品位の結晶性を有し、且つ精密にサイズ・位置制御がなされ、デバイスへの集積化の自由度の高められた、均質なβ-FeSi2又はFeSi2アモルファスドットアレイ構造体とその効率的な作製方法を提供する。
【解決手段】 β-FeSi2結晶又はFeSi2アモルファスをを含有するドットが基板表面に均質に設けられたFeSi2ドットアレイ構造体。この構造体を、FeSi2膜を有する透明板の膜面側に基板を対向させ、透明板側からパルスレーザー光を照射し、対向基板上にβ-FeSi2結晶又はFeSi2アモルファスを含有するドットを転写することにより作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子等の電子デバイスや環境低負荷型の新しい近赤外発光・受光材料としてとして有用な新規なβ−FeSi2又はFeSi2アモルファスを含有するドットアレイ構造体およびその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
β-鉄シリサイド(β-FeSi2)は、クラーク数2位と4位のSiとFeで構成され、希少元素や有毒元素を含まないことから、環境半導体として期待されている材料である。
特に、β-FeSi2は0.8-0.9 eVにバンドギャップを有し、1.5 μm光通信帯で近赤外フォトルミネッセンスおよびエレクトロルミネッセンスを示すことが報告されており、環境低負荷型の新しい近赤外発光・受光材料として注目を集めている。更に、従来の太陽電池用半導体材料に比べて極めて高い光吸収係数を示すことから、新規な高効率太陽電池材料としても期待されている。
【0003】
これまでに、β-FeSi2の薄膜は知られており、その作製方法としては、(イ)Si基板中にFe+イオンを高濃度に注入した後800〜940℃で熱アニールを行うイオン注入法(例えば非特許文献1参照)、(ロ)Si基板をSiとFeが反応する程度まで高温に加熱した状態でFeを堆積させる熱反応堆積法(例えば非特許文献2参照)、(ハ)FeとSiを高温にあるいは室温保持した基板上に同時蒸着させ高温アニールする分子線エピタキシー法(例えば非特許文献3参照)、(二)FeとSiターゲットを交互に、あるいはFeSi2ターゲットをスパッタリングして加熱した基板上に堆積させ、その後高温アニールを行ってβ-FeSi2結晶相膜を得るスパッタリング法(例えば非特許文献4参照)等の方法が知られている。
【0004】
しかし、これらの手法によるβ-FeSi2薄膜の作製法は、成膜時の高い基板温度(〜400℃以上)あるいは成膜後の加熱による高温結晶化処理(〜800℃以上)を通常必要とし、また成膜後の高温結晶化処理は長時間(1〜20時間)に及ぶため、基板として耐熱性のあるものを用いなければならず、基板の選択自由度が小さく、またプロセスが煩雑であり、更には、β-FeSi2の半導体特性の再現性の低下をまねくといった共通の難点があった。
【0005】
これらの問題点を解決するために、本願発明者らは、レーザーアブレーション法により生じるナノメートルからマイクロメートルサイズの微小液滴(ドロップレット)を従来法の如く抑制・排除することなくその生成量を増大させ、低温(100℃未満)保持した基板上に堆積させて、このドロップレットをβ-FeSi2結晶を含む粒子に変換し、これがFeSi2アモルファス相の上に島状に堆積する薄膜およびその効率的な製造方法を先に提案した(特許文献1)。
【0006】
この手法により得られる薄膜は、β−FeSi2の結晶粒子とFeSi2のアモルファスを含む相との特性を生かすことより、太陽電池、熱電素子などのデバイス製造の他、β−FeSi2からの近赤外発光を結晶粒子へ閉じ込めることにより増幅する微小球レーザー類似の機能を有する新規薄膜型発光デバイスなどとしての応用が可能なものであり、また、β-FeSi2結晶を含む薄膜を低温(100 ℃未満)で作製することができるといった利点を有するものである。
【0007】
しかしながら、この薄膜は、レーザーアブレーションによるドロップレットの生成時に、ガス状の原子・分子・イオンも同時に発生することから、得られる薄膜は、ガス状の原子・分子・イオンが堆積することにより形成されるアモルファスFeSi2膜上にドロップレット粒子が島状に堆積したものであって、任意の基板上に直接β-FeSi2結晶粒子又はFeSi2アモルファス粒子を堆積させたものではなかった。また、実際には、島状に堆積させた粒子のサイズを制御することが難しく、ナノメートルからマイクロメートルサイズのFeSi2粒子が混在して堆積してしまい、かつその堆積位置の制御も困難であった。
【0008】
【特許文献1】特開2004−250319号公報
【非特許文献1】Y.MaedaらThin Solid Films (2001) Vol. 381 pp. 219
【非特許文献2】T.SuemasuらJpn. J. Appl. Phys. (1997) Vol. 36 pp. L1225
【非特許文献3】N.HiroiらJpn. J. Appl. Phys. (2001) Vol. 40 pp. L1008
【非特許文献4】S.Chuら Jpn. J. Appl. Phys. (2002) Vol. 41 pp. L299
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような背景技術に鑑みなされたものであって、その目的は、高品位の結晶性を有し、且つ精密にサイズ・位置制御がなされ、デバイスへの集積化の自由度の高められた、均質なFeSi2ドットアレイ構造体とその効率的な作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、FeSi2膜を有する透明板の膜面側に基板を対向させ透明板側からパルスレーザー光を照射すると、対向する基板上に、β-FeSi2結晶又はFeSi2アモルファスを有するドットが均質に転写されることを知見し、本発明を完成するに至った。
すなわち、この出願によれば、以下の発明が提供される。
〈1〉β-FeSi2結晶又はFeSi2アモルファスを含有するドットが基板表面に均質に設けられたFeSi2ドットアレイ構造体。
〈2〉β-FeSi2結晶又はFeSi2アモルファスを有するドットの直径が0.1〜100 μmであることを特徴とする上記〈1〉に記載のFeSi2ドットアレイ構造体。
〈3〉β-FeSi2結晶又はFeSi2アモルファスを有するドットが、基板1平方ミリあたり102〜107個の密度で選択した位置に配置されていることを特徴とする上記〈1〉又は〈2〉に記載のFeSi2ドットアレイ構造体。
〈4〉FeSi2膜を有する透明板の膜面側に基板を対向させ、透明板側からパルスレーザー光を照射し、対向基板上にβ-FeSi2結晶又はFeSi2アモルファスを含有するドットを転写することを特徴とする上記〈1〉に記載のFeSi2ドットアレイ構造体の作製方法。
〈5〉レーザー転写されたβ-FeSi2結晶又はFeSi2アモルファスを含有するドットを、更に結晶化処理し、高品位なβ-FeSi2結晶相に変換することを特徴とする上記〈4〉に記載のFeSi2ドットアレイ構造体の作製方法。
〈6〉パルスレーザー光を、その一画から一つのドットが1対1対応で形成されるように照射することを特徴とする〈4〉又は〈5〉に記載のFeSi2ドットアレイ構造体の作製方法。
〈7〉1ショットのパルスレーザー光の照射でドットの転写を行うことを特徴とする上記〈4〉〜〈6〉の何れかに記載のFeSi2ドットアレイ構造体の作製方法。
〈8〉パルスレーザー照射の一画の面積が100 x 100 μm以下であることを特徴とする上記〈4〉〜〈7〉の何れかに記載のFeSi2ドットアレイ構造体の作製方法。
〈9〉パルスレーザー光の波長が、FeSi2アモルファス相が光吸収を有する波長であり、パルス幅が1〜100ナノ秒であることを特徴とする上記〈4〉〜〈8〉の何れかに記載のFeSi2ドットアレイ構造体の作製方法。
<10> FeSi2膜の厚さが10 nm〜10 μmであることを特徴とする上記<4>〜<9>の何れかに記載のFeSi2ドットアレイ構造体の作製方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のFeSi2ドットアレイ構造体は、ドットが均質であり、そのサイズが均一でその位置が正確に制御されたものであり、光電変換素子等のデバイス化に要求される均一な光電変換特性等を満たすことから、フレキシブル近赤外発光デバイスやフレキシブル太陽電池などとして有用なものである。
また、本発明のFeSi2ドットアレイ構造体の作製方法は、高速・室温プロセスであるレーザー転写法を用いることから、β-FeSi2種結晶をドット構造中に析出させることも可能であり、ポリマー等低融点基板上をも含む各種基板上に、β-FeSi2結晶を含有するドット構造を簡便に形成することができる。また、その後のレーザーアニーリング等の結晶化処理を併用すれば、β-FeSi2ドットの結晶性をさらに向上させることができ、従来の手法では難しかった、β-FeSi2ドットアレイ構造体を発光層とする優れたフレキシブル近赤外発光デバイスの作製が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明に係るFeSi2結晶ドットアレイ構造体は、β-FeSi2結晶又はFeSi2アモルファスを含有するドットが基板表面に均質に設けられたものである。
ここで、β-FeSi2結晶又はFeSi2アモルファスドットアレイ構造体とは、β-FeSi2結晶もしくはFeSi2アモルファスが一部または全体に析出しているドットが基板表面に固定化されているものを意味する。また、「均質」とは、基板表面上に設けられたドットのサイズや高さがほぼ同じ大きさであり、かつ各ドットが同程度の密度(間隔)をもって整然と配列されている状態を意味する。
本発明におけるドットの直径は同じ大きさであれば特に制限はないが、通常、0.1〜100 μmとするのがよい。また、ドットの密度は同程度あれば特に制限はないが、通常、基板1平方ミリあたり102〜107個とするのがよい。
また、基板としては、Si(100)及び(111)ウエハー基板、Al2O3やMgO単結晶等の無機単結晶基板、セラミックス基板、石英ガラス等のガラス基板、そして無機基板に比べて耐熱性の低いポリマー基板やチオール等を表面に塗布したような有機分子塗布基板等、様々な基板を使用することが可能である。
【0013】
本発明に係るFeSi2ドットアレイ構造体は、FeSi2膜を有する透明板の膜面側に基板を対向させ、透明板側(FeSi2原料膜の背面)からパルスレーザー光を照射し、対向基板上にβ-FeSi2結晶又はFeSi2アモルファスを含有するドットを転写することによって得ることができる。
【0014】
すなわち、レーザー波長に対して透明板の上にそのレーザー波長に吸収を有する膜を成膜して、膜背面即ち透明板側からレーザーパルスを入射した場合には、透明板を透過したレーザー光が透明板/膜界面の膜側で局所的に吸収され、吸収された光のエネルギーが激しい格子振動、すなわち熱となり、膜温度が瞬間的に上昇し、その結果体積変化や相変化により界面部分で圧力が生じる。入射レーザーパルスのエネルギーを増加させていくと、膜の瞬間的な温度上昇と透明板/膜界面に生じる圧力が大きくなり、いわゆる膜のレーザーアブレーションが誘発され、レーザー照射エリアの膜部分の一部又は全体は透明板から放出されることになる。この時、膜に接触あるいはある程度の隙間を設けて対向基板を置くと、対向基板上に放出された膜原料がその組成を精密に保持した状態で転写される。
【0015】
本発明で使用するFeSi2膜を有する透明板は、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、サファイヤ、イットリア安定化ジルコニアなどの使用するレーザー波長で透明な無機材料板やポリマーフィルムに、FeSi2膜の原料である、FeSi2合金粉末等を通常のホットプレス法で成形したFeSi2合金ターゲットをスパッタリングして成膜することにより簡単に得ることができる。
【0016】
原料となる透明板上のFeSi2膜の厚さに特に制限はないが、原料膜を薄くすればするほど、転写体積が小さくなり、より小さなサブマイクロメートルサイズのドットを形成できる可能性があるため、ナノドット形成やドットアレイの高密度化を図る場合には、膜が薄いほど好ましく、通常は10 nm〜10 μm程度とするのがよい。
【0017】
レーザー転写に用いる基板材料の種類は特に限定されず、前記した、通常β-FeSi2薄膜作製に用いられるSi(100)及び(111)ウエハー基板、Al2O3やMgO単結晶等の無機単結晶基板、セラミックス基板、石英ガラス等のガラス基板、無機基板に比べて耐熱性の低いポリマー基板やチオール等を表面に塗布したような有機分子塗布基板等、様々な基板を使用することができる。
【0018】
また、FeSi2膜を有する透明板の膜面側に基板を対向させる際の、膜/基板間距離については、膜と基板の間に0〜数百マイクロメートル程度の隙間があって良いが、ドット堆積位置の精度の観点からは、隙間が小さいほど好ましく、膜と基板が接触している方がさらに好ましい。
【0019】
本発明方法は、レーザー転写により、透明板上に成膜したFeSi2原料膜の背面(透明板側)からレーザー光を照射し原料膜に対向設置した基板にβ-FeSi2又はFeSi2アモルファスドットを転写形成するものであるが、転写されたβ-FeSi2又はFeSi2アモルファスを更に高品位化するために、該ドットを更に結晶化処理しておくことが好ましい。結晶化処理法としては、通常の加熱や光照射によるレーザーアニーリングなどが挙げられる。
【0020】
また、本発明においては、該レーザー転写を、レーザー光照射エリアの一区画から一つのドットが1対1対応で形成される条件下で行うことが好ましい。
すなわち、一般に、この種のレーザー転写法においては、膜原料を最終的に膜形状で対向基板に転写するものであるが、膜形状での転写の場合、転写後の膜の表面粗さや外形などの品位の低下が見られやすく、高品位な転写形状を得ることは困難とされていた。
そこで、本発明者らは、FeSi2膜を原料に用い、レーザー照射エリアの一区画の面積を減じることで、レーザー照射により溶融・アブレーションする転写体積を減少させ、その表面張力による凝集を経て球状のドットとして、レーザー光照射エリアの一区画から一つのドットが1対1対応で形成される条件を採用するとFeSi2ドットが有効に転写できることを知見したものである。
すなわち、レーザー照射エリアの一区画から一つのドットを転写するような条件(後述するが、原料膜厚、レーザーフルエンス、レーザー照射エリアの区画面積に主に依存)とすることで、均一なサイズを有するドットを非常に再現よく形成することが可能となる。
【0021】
また、本発明においては、レーザー転写は、一つのドットの対向基板への転写が1ショットのパルスレーザー光の照射で起こる条件下で行うことが好ましい。
この理由は、最初のレーザーパルス照射により、膜原料のレーザー照射エリアからの対向基板へのドット転写が誘起される場合、2回目のレーザーパルスは対向基板上に形成されたドットにより吸収されるかあるいは膜原料の残存部位に吸収されるので、ドットや膜原料残存部位にレーザーアブレーションが起こり、最初のレーザー転写により形成したドット構造周辺部分に別のドットが生じ、その結果、精密にサイズ・位置制御されたドットアレイ構造の作製が困難となるからである。
【0022】
レーザー転写に用いるパルスレーザーの照射面積は、原料膜の転写体積を減じて、表面張力を利用したドット形状でのレーザー転写を誘起するため、原料膜/透明板界面でのレーザー照射一画の面積が十分小さくなるように、用いる原料膜厚等を主に考慮して定められるが、その一画の面積が100 x 100 μm以下程度とするのが好ましい。
【0023】
パルスレーザー光の照射フルエンスは、レーザーパルス照射により膜原料/透明板界面で生じる温度と圧力の上昇が、膜を放出し対向設置した基板に転写するに足るよう定める必要がある。また逆に、レーザーフルエンスが大きすぎると、転写パターンが1対1対応で形成されるサイズ・位置制御されたドットアレイ構造とはならず、爆発的なアブレーションにより様々なサイズの微細粒子が混在したパターンとなる可能性があるため、1対1対応でのドット作製に適したフルエンスの範囲が存在することになるが、本発明においては、パレスレーザー光の照射レーザーフルエンスを1 J/cm2〜3 J/cm2程度とするのが好ましい。
【0024】
パルスレーザー光の波長は、FeSi2膜原料が光吸収を有する波長であり且つ透明板として用いる材料が高い透過率を有することが必要である。FeSi2は近赤外−可視−紫外にわたる広範囲な波長域に大きな吸収を有するため、選択した波長に吸収を持たない材料を透明板とすることにより、近赤外−可視−紫外の何れの波長を用いることが可能である。
【0025】
パルスレーザー光のパルス幅は、膜原料からの熱伝導あるいは輻射による基板へのダメージを少なくし、引いては低融点基板の使用を可能にするといった観点からみて、1〜100ナノ秒とすることが好ましい。パルス幅が100ナノ秒を超えると、基板へのダメージが生じる可能性があり、基板の選択自由度が小さくなる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。
【0027】
実施例1
FeとSiの粉末を1:2に混合・溶融して合成したFeSi2合金粉末を通常のホットプレス法で成形したFeSi2焼結体ターゲットのスパッタリングにより、石英ガラス透明基板上に、基板加熱することなく、アモルファスFeSi2薄膜(厚さ500 nm)を作製した。
次に、得られたFeSi2薄膜をシリコンウエハとコンタクトさせ、図1に示す装置のKrFエキシマレーザー光の結像位置に、石英ガラスとFeSi2薄膜の界面が一致するように設置した。
また図1のマスク縮小露光系においては、マスクには40ミクロンのグリッドパターン(40ミクロン□のレーザー照射エリア一区画が40ミクロンスペースで配置)を、縮小倍率は8倍の対物レンズを用い、結像面で5ミクロンのグリッドが1平方ミリメートルにわたりパターン露光されるように設定した。その状態で、石英ガラス側からKrFエキシマレーザーパルスを1パルスのみ入射させ、FeSi2のシリコンウエハへのレーザー転写を行った。尚、転写の際にシリコンウエハ基板の加熱は一切行っていない。照射レーザーフルエンスは2.2J/cm2とした。
FeSi2を転写したシリコンウエハ基板の表面をレーザー共焦点顕微鏡によって観察した。その結果を図2に示す。図2に示すように、このβ-FeSi2結晶ドットアレイ構造体は直径3.5ミクロン、高さ1.3ミクロンとサイズ均一化されたFeSi2ドットが、1平方ミリメートル当たり104個の密度で転写されていることが判る。さらに、ドットの結晶構造を調べるため顕微ラマン分光測定を行った。その結果を図3に示す。図3に示すように、このFeSi2結晶ドットアレイ構造体はβ−FeSi2による188ならびに242cm-1に中心を有するピークが観測され、これらのドットがβ−FeSi2結晶を含有することがわかった。
【0028】
実施例2
FeSi2焼結体ターゲットのスパッタリングにより、石英ガラス透明基板上に、基板加熱することなく、実施例1に比べてより薄いアモルファスFeSi2薄膜(厚さ250 nm)を作製した。得られたFeSi2薄膜をシリコンウエハとコンタクトさせ、図1に示す装置のKrFエキシマレーザー光の結像位置に、石英ガラスとFeSi2薄膜の界面が一致するように設置した。また図1のマスク縮小露光系においては、マスクには40ミクロンのグリッドパターンを、縮小倍率は8倍の対物レンズを用い、結像面で5ミクロンのグリッドが1平方ミリメートルにわたりパターン露光されるように設定した。その状態で、石英ガラス側からKrFエキシマレーザーパルスを1パルスのみ入射させ、FeSi2のシリコンウエハへのレーザー転写を行った。尚、転写の際にシリコンウエハ基板の加熱は一切行っていない。照射レーザーフルエンスは1.6J/cm2とした。FeSi2を転写させたシリコンウエハ基板の表面をレーザー共焦点顕微鏡によって観察した。その結果を図4に示す。図4に示すように、このFeSi2結晶ドットアレイ構造体は直径2.0ミクロン、高さ0.9ミクロンとサイズ均一化されたFeSi2ドットが、1平方ミリメートル当たり104個の密度で転写されていることが判る。
【0029】
実施例3
FeSi2焼結体ターゲットのスパッタリングにより、石英ガラス透明基板上に、基板加熱することなく、アモルファスFeSi2薄膜(厚さ500 nm)を作製した。転写用基板には、ポリジメチルシロキサン(Polydimethysiloxane、通称、PDMS)ポリマー基板を用いた。PDMS基板の厚さは約1ミリメートルとし、十分な可撓性を有する。FeSi2薄膜をPDMS基板とコンタクトさせ、図1に示す装置のKrFエキシマレーザー光の結像位置に、石英ガラスとFeSi2薄膜の界面が一致するように設置した。また図1のマスク縮小露光系においては、マスクには40ミクロンのグリッドパターンを、縮小倍率は8倍の対物レンズを用い、結像面で5ミクロンのグリッドが1平方ミリメートルにわたりパターン露光されるように設定した。その状態で、石英ガラス側からKrFエキシマレーザーパルスを1パルスのみ入射させ、FeSi2のPDMSポリマー基板へのレーザー転写を行った。尚、転写の際に基板加熱は一切行っていない。照射レーザーフルエンスは2.2J/cm2とした。FeSi2を転写させたPDMS基板の表面をレーザー共焦点顕微鏡によって観察した。その結果を図5に示す。図5に示すように、このFeSi2ドットアレイ構造体は直径3.7±0.5ミクロン、高さ1.9±0.3ミクロンとサイズ均一化されたFeSi2ドットが、1平方ミリメートル当たり104個の密度で転写されていることが判る。尚、図5写真で一部のドットがぼやけているのは、ポリマー基板の撓みに因るものである。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係るβ-FeSi2結晶又はFeSi2アモルファスドットアレイ構造体を製造するための代表的な製造装置の説明図。
【図2】(a)実施例1で得られたβ-FeSi2結晶ドットアレイ構造体のレーザー共焦点顕微鏡写真。(b)上記(a)の高倍率写真。(c)上記(a)のライン1部位の模式断面図。
【図3】実施例1で得られたFeSi2粒子の顕微ラマンスペクトル。
【図4】実施例2で得られたFeSi2ドットアレイ構造体のレーザー共焦点顕微鏡写真。
【図5】実施例3で得られたポリマー基板上FeSi2ドットアレイ構造体のレーザー共焦点顕微鏡写真。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-FeSi2結晶又はFeSi2アモルファスを含有するドットが基板表面に均質に設けられたFeSi2ドットアレイ構造体。
【請求項2】
β-FeSi2結晶又はFeSi2アモルファスを有するドットの直径が0.1〜100μmであることを特徴とする請求項1に記載のFeSi2ドットアレイ構造体。
【請求項3】
β-FeSi2結晶又はFeSi2アモルファスを有するドットが、基板1平方ミリあたり102〜107個の密度で選択した位置に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のFeSi2ドットアレイ構造体。
【請求項4】
FeSi2膜を有する透明板の膜面側に基板を対向させ、透明板側からパルスレーザー光を照射し、対向基板上にβ-FeSi2結晶又はFeSi2アモルファスを含有するドットを転写することを特徴とする請求項1に記載のFeSi2ドットアレイ構造体の作製方法。
【請求項5】
レーザー転写されたβ-FeSi2結晶又はFeSi2アモルファスを含有するドットを、更に結晶化処理し、高品位なβ-FeSi2結晶相に変換することを特徴とする請求項4に記載のβ-FeSi2ドットアレイ構造体の作製方法。
【請求項6】
バルスレーザー光を、その一画から一つのドットが1対1対応で形成されるように照射することを特徴とする請求項4又は5に記載のFeSi2ドットアレイ構造体の作製方法。
【請求項7】
1ショットのパルスレーザー光の照射でドットの転写を行うことを特徴とする請求項4〜6の何れかに記載のFeSi2ドットアレイ構造体の作製方法。
【請求項8】
パルスレーザー照射の一画の面積が100 x 100 μm以下であることを特徴とする請求項4〜7の何れかに記載のFeSi2ドットアレイ構造体の作製方法。
【請求項9】
パルスレーザー光の波長が、FeSi2アモルファス相が光吸収を有する波長であり、パルス幅が1〜100ナノ秒であることを特徴とする請求項4〜8の何れかに記載のFeSi2ドットアレイ構造体の作製方法。
【請求項10】
FeSi2膜の厚さが10 nm〜10 μmであることを特徴とする請求項4〜9の何れかに記載のFeSi2ドットアレイ構造体の作製方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−290953(P2007−290953A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68442(P2007−68442)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】