説明

G蛋白質共役型受容体49を用いた薬物のスクリーニング方法およびそれにより得られる薬物

【課題】本発明の課題は、G蛋白質共役型レセプター49およびそれと共役するG蛋白質を用いた新規なスクリーニング方法、それにより得られる物質およびその物質を有効成分とする医薬組成物を提供することにある。
【解決手段】本発明によれば、G蛋白質共役型レセプター49の活性を調節する作用を有する物質のスクリーニング方法であり、かつ、当該レセプターと共役するGq蛋白質ファミリーを含む系を用いたスクリーニング方法、それを利用することにより得られる物質およびその物質を有効成分とする医薬組成物が提供可能である。これにより、特に糖尿病に効果がある医薬組成物を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、G蛋白質共役型受容体(G-protein coupled receptor、以下GPCRと略称することもある)であるG蛋白質共役型受容体49(以下Gpr49と略称することもある)の共役G蛋白質の種類を明らかにし、この2次メッセンジャーを指標に用いてGpr49の活性を調節する作用を有する物質のスクリーニング方法を提供し、さらにそれにより得られる物質、並びにその物質を有効成分として含有する医薬組成物を提供することを目的としている。
【背景技術】
【0002】
多くのホルモンや神経伝達物質などの生理活性物質は、GPCRを通じて生体の機能を調節している。GPCRはグアニンヌクレオチド結合蛋白質(Guanine nucleotide-binding protein、以下、共役G蛋白質または単にG蛋白質と略称する)の活性化を通じて細胞内のシグナル伝達を行い、また7個の膜貫通領域を有する共通した構造を持つ。GPCRは疾患と関連している場合も多く、医薬品研究開発のための主要な標的の一つとされているが、その多くはリガンドや共役G蛋白質が未知のままである。
【0003】
Gpr49もリガンドおよび共役G蛋白質が未知のG蛋白質共役型受容体の一つである。Gpr49は1998年にHsuらによって塩基配列が同定され、既知遺伝子との相同性探索の結果より、糖タンパクホルモン受容体ファミリーに属するGタンパク共役型受容体であることが示唆された(非特許文献1および2、特許文献1)。Gpr49は特に癌組織における発現が詳しく解析されており、ある種の癌組織において高発現していることが知られている(非特許文献3,4および特許文献2)。また癌組織以外では骨格筋、胎盤、脊髄での発現が多く見られるが(非特許文献1)、これら組織におけるGpr49の発現と病態との関連については不明である。
【0004】
GPCRによる細胞内のシグナル伝達は下記の通りである。すなわち、GPCRが細胞膜においてリガンドと結合することにより活性化し、共役G蛋白質のコンフォメーション変化を誘起し、これにより下流にあるシグナル伝達経路に作用する。共役G蛋白質はα、β、γサブユニットから成る3量体蛋白質であり、αサブユニットは関係するセカンドメッセンジャーや酵素の違いにより4つのファミリーに分類でき、どのタイプのαサブユニットを有するG蛋白質と共役するかによりGPCRの下流のシグナル伝達経路が異なる(非特許文献5)。Gpr49は上述の通り、どのファミリーのG蛋白質と共役するのか解明されていなかったため、どのような生理的作用を有するGPCRであるのかが不明であった。
【0005】
一方、Gpr49の医薬応用に関しては、Gpr49の活性化を調節することによる疾患治療の可能性について既に報告があり、共役G蛋白質のセカンドメッセンジャーの変化を測定することによるGpr49活性化物質スクリーニング方法が記載されている(特許文献2)。しかしこの報告ではGpr49の共役G蛋白質が同定されていないために、全てのファミリーの共役G蛋白質に関わるセカンドメッセンジャーを用いた一般的なスクリーニング方法が開示されているに過ぎず、Gpr49に特異的な反応を捕らえているとはいえない。
【特許文献1】特表2002-507406号公報
【特許文献2】国際公開第2005/040828号パンフレット
【非特許文献1】Mol Endocrinol 12, 1830-1845 (1998)
【非特許文献2】Biochem Biophys Res Commun 247, 266-270 (1998)
【非特許文献3】Cancer Biol Ther 5, 419-426 (2006)
【非特許文献4】Hepatology 37, 528-533 (2003)
【非特許文献5】Science 296, 1636-1639 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、Gpr49およびそれと共役するG蛋白質を含む系であり、かつそのG蛋白質がセカンドメッセンジャーとしてイノシトール3リン酸(Inositol-3-phosphate, 以下IP3と称することがある)、カルシウムイオン(以下Ca2+と称することがある)、ジアシルグリセロール(Diacylglycerol, 以下DGと称することがある)および/または環状アデノシン1リン酸(cyclic Adenosine Mono Phosphate、以下cAMPと称することがある)を有するGqファミリーである系を用いて、Gpr49の活性を調節する作用を有する物質のスクリーニング方法を提供することにある。さらに、これにより得られた物質を提供すること、その物質を有効成分とする医薬組成物を提供することも、本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは糖尿病等に有効であるGPCRを探索すべく研究を行った結果、骨格筋で特異的かつ多量に発現しているGpr49がGqファミリーのG蛋白質と共役することを見出した。さらに、GqファミリーのセカンドメッセンジャーであるIP3、Ca2+、DGおよび/またはcAMP濃度を測定することによって得られたGpr49の活性を調節する物質が、糖尿病などの予防治療に有効であることを見出した。
【0008】
即ち本発明の要旨は、以下の通りである。
【0009】
(1) G蛋白質共役型レセプター49およびそれと共役するG蛋白質を含む系であり、かつそのG蛋白質がセカンドメッセンジャーとしてイノシトール3リン酸、カルシウムイオン、ジアシルグリセロールおよび/または環状アデノシン1リン酸を有するGq蛋白質ファミリーである系を用いて、G蛋白質共役型レセプター49の活性を調節する作用を有する物質をスクリーニングする方法。
【0010】
(2) Gq蛋白質ファミリーが、Gq、G11、G14またはG16である、上記(1)記載のスクリーニング方法。
【0011】
(3)Gq蛋白質ファミリーが、Gq、G11、G14またはG16のC末端断片である、(1)記載のスクリーニング方法。
【0012】
(4) G蛋白質共役型レセプター49の活性を調節する作用が、Gq蛋白質のセカンドメッセンジャーであるイノシトール3リン酸濃度、カルシウムイオン濃度、ジアシルグリセロール濃度および/または環状アデノシン1リン酸濃度の変動を検出することにより測定される、(1)から(3)のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【0013】
(5) G蛋白質共役型レセプター49の活性を上昇させる作用を有する物質をスクリーニングする、(1)から(4)のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【0014】
(6) 試験物質をG蛋白質共役型レセプター49およびGq蛋白質と反応させ、イノシトール3リン酸濃度、カルシウムイオン濃度、ジアシルグリセロール濃度および/または環状アデノシン1リン酸濃度を測定し、該試験物質の存在により該イノシトール3リン酸濃度、カルシウムイオン濃度、ジアシルグリセロール濃度および/または環状アデノシン1リン酸濃度が変動した場合に該試験物質を選択する、(1)から(5)のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【0015】
(7) イノシトール3リン酸濃度、カルシウムイオン濃度、ジアシルグリセロール濃度および/または環状アデノシン1リン酸濃度が上昇した場合に該試験物質を選択する、(6)に記載のスクリーニング方法。
【0016】
(8) (1)から(7)のいずれかに記載のスクリーニング方法によって得られる物質。
【0017】
(9) (8)に記載の物質を有効成分として含有する医薬組成物。
【0018】
(10) メタボリックシンドロームの予防および/または治療に用いられる(9)に記載の医薬組成物。
【0019】
(11) 高インスリン血症、脂質代謝異常、動脈硬化症、血管内皮機能異常、冠動脈疾患、循環器疾患、腎機能障害、高血圧、脂肪肝、糖尿病、高尿酸血症、肥満、高脂血症および妊娠糖尿病から選ばれる疾患の予防および/または治療に用いられる(9)に記載の医薬組成物。
【0020】
(12) 糖尿病および/または肥満の予防および/または治療に用いられる、(9)に記載の医薬組成物。
【0021】
(13) 糖尿病がII型糖尿病である、(11)または(12)に記載の医薬組成物。
【0022】
(14) 糖尿病および/または肥満の予防および/または治療が、骨格筋細胞による糖取り込み能の上昇により達成される(11)から(13)のいずれかに記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、Gpr49とGq蛋白質ファミリーを含む系を用いることにより、糖尿病等を予防治療できる可能性のある物質のスクリーニング方法、それらにより得られる物質およびその物質を有効成分とする医薬組成物が提供可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下本発明について詳細に説明する。
【0025】
本発明の一つの態様としては、Gpr49の活性を調節する作用を有する物質のスクリーニング方法であり、かつ、Gpr49と共役するG蛋白質としてGq蛋白質ファミリーを含む系を用いたスクリーニング方法が挙げられる。ここでGq蛋白質ファミリーとは、セカンドメッセンジャーとしてIP3、Ca2+、DGおよび/またはcAMPを有するGq蛋白質ファミリーを意味し、Gpr49の活性の調節がIP3、Ca2+、DGおよび/またはcAMPの濃度変動によって検出されるスクリーニング方法が挙げられる。Gq蛋白質ファミリーによるシグナル伝達経路はインスリンと異なった作用機序による糖取り込みを促進することが知られており、これを活かした新規な抗糖尿病薬等を本発明により得ることができる。
【0026】
(1)Gpr49
本発明で用いられるGpr49としては、具体例としては配列表の配列番号1番(GenBank Accession NO. NM_003667)、配列表の配列番号3番(GenBank Accession NO. NM_010195.2)および配列表の配列番号5番(GenBank Accession NO. XM_235149)で表される、それぞれヒト、マウスおよびラットの塩基配列によって推定されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するGpr49が挙げられる。さらに、Hepatology 37, 528-533 (2003)、Cancer Biol Ther 5, 419-426 (2006)に記載のGpr49、あるいはMol Endocrinol 12, 1830-1845 (1998)、Mol Cell Biol 24, 9736-9743 (2004)に記載の細胞外ロイシンリッチ反復ドメインを有するG蛋白質共役型レセプター5(LGR5と称することがある)が挙げられる。
【0027】
本発明の方法を実施するためのGpr49は、原核生物または真核生物において上記外的DNA配列を発現させることにより得ることができる。Gpr49を製造するためには、任意の原核生物または真核生物プラスミドベクター、無細胞蛋白質発現ベクターまたは、酵母プラスミドベクターが原理的に適当である。このようなベクターの例には、pET-30a、pMAL-p2X、pEU3-NII、pcDNA3.1、pYES-DEST52等がある。
【0028】
あるいは、内在性Gpr49を恒常的に発現している細胞を用いても良い。Gpr49を発現している細胞としては、HEP G2細胞、HEK293細胞、PLC/PRF/5細胞などが挙げられる(国際公開第2005/040828号パンフレット、Hepatology 37, 528-533 (2003))。
【0029】
(2)Gq蛋白質
本願で用いられるG蛋白質とは、Gpr49と共役する蛋白質であり、αサブユニットと、βγサブユニットから成る(Science 296, 1636-1639 (2002), FASEB J 9, 1059-1066(1995))。特に本発明においてはGqファミリー蛋白質が用いられる。Gpr49とGqファミリー蛋白質が共役するとは、Gqファミリー蛋白質若しくはそのαサブユニットまたはその断片がGpr49と結合することにより、細胞内に情報を伝達することを指す。
【0030】
Gqファミリー蛋白質はインスリンシグナル伝達経路と異なる経路でGLUT4に作用し、グルコースの取り込みを促進することが知られている(Mol Cell Biol 15 p5262-5275(2001))。Gqファミリー蛋白質を活性化することにより、インスリン非依存的な糖取り込みの調節が可能となる。
【0031】
Gqファミリー蛋白質の中でも望ましいのはGq、G11、G14またはG16である。具体例としてはGenBank Accession NO. NM_002067で表される塩基配列によって推定されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するGq、GenBamk Accession NO. NM_002027で表される塩基配列によって推定されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するG11、GenBank Accession NO. NM_004297.2で表される塩基配列によって推定されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するG14、またはGenBank Accession NO. M63904で表される塩基配列によって推定されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するG16が挙げられる。本発明においては、マウス遺伝子においてG16と同一機能を有する遺伝子を用いる場合は、マウスG15(GenBank Accession NO. NM_010304)を用いることもできる。マウスG15はヒトG16のホモログであり、機能が同一と考えられているからである(Nature Genetic 1, 85-91 (1992))。さらに、Proc Natl Acad Sci USA 87, 9113-9117 (1990)、Proc Natl Acad USA 99, 10138-10143 (2002)に記載のGq、Proc Natl Acad USA 87, 9113-9117 (1990)、Genomics 31, 359-366 (1996)に記載のG11、Genomics 57,84-93 (1999), J Biol Chem 280, 34617-34625(2005)に記載のG14、またはJ Cell Biochem. 88,1101-1101 (2003), Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 88, 5587-5591 (1991)に記載のG16が挙げられる。
【0032】
本発明の方法を実施するためのGq蛋白質ファミリーは、原核生物または真核生物において上記のDNA配列を外的に導入して発現させることにより得ることができる。Gq蛋白質ファミリーを製造するためには、任意の原核生物または真核生物プラスミドベクター、無細胞蛋白質発現ベクターまたは、酵母プラスミドベクターが原理的に適当である。このようなベクターの例には、pET-30a、 pMAL-p2X、 pEU3-NII、pcDNA3.1、pYES-DEST52等がある。
【0033】
あるいは、内在性Gq蛋白質ファミリーを恒常的に発現している細胞を用いても良い。Gq蛋白質を発現している細胞としては、CHO-K1細胞(Am J Physiol Cell Physiol 288, C559-567 (2005))、Cos7細胞(Science 280, 574-577 (1998))などが挙げられる。
【0034】
さらに、Gα蛋白質のC末端5アミノ酸残基がGPCR認識部位として知られていることを利用して(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A. 92 11642-11646 (1995)、Biochemistry 36 1487-1495 (1997))、Gq蛋白質ファミリーのC末端ポリペプチド、好ましくはC末端の4アミノ酸残基を含む4アミノ酸以上150アミノ酸以下のポリペプチド、さらに好ましくは4アミノ酸以上60アミノ酸以下のポリペプチド、最も好ましくはC末端の5アミノ酸ポリペプチドを、Gsなど他のGα蛋白質のC末端と置き換えたキメラGqを利用する方法がある。例えばセカンドメッセンジャーがcAMPであるGsのC末端をGqのC末端の5アミノ酸残基と置換したキメラGqを導入した場合、リガンドにより刺激されたGq共役型受容体はC末端の5アミノ酸を認識して専らGqと共役するが、GsのセカンドメッセンジャーであるcAMP濃度を上昇させることが報告されている(J Biol Chem 272 23675-23681(1997))。また、酵母のGαタンパクであるGpa1がフェロモンシグナル伝達経路に関与していることを利用して、Gpa1のC末端5アミノ酸をGqの C末端5アミノ酸と置換したキメラGα蛋白質をフェロモン反応性タンパクのFus1活性化を指標にしてリガンドスクリーニングに供することが可能である(J Neurochem 77 1327-1337 (2001), Receptors Channels, 8 343-352 (2002))。
【0035】
またG蛋白質共役型レセプター49とGq蛋白質を反応させるとは、両者を共存させることにより両者が結合し共役することを意味する。これにより、細胞内に情報が伝達される。
【0036】
(3)Gq蛋白質ファミリーセカンドメッセンジャー
本発明におけるセカンドメッセンジャーとは、Gq蛋白質ファミリー若しくはそのαサブユニットまたはその断片がGpr49と結合した後、細胞内に情報を伝達する為に放出されるIP3、Ca2+、DGおよび/またはcAMPを意味する。Ca2+は、IP3により細胞内の小胞体から放出され、またIP3はフォスホリパーゼC(PLC)βによるフォスファチジルイノシトール4,5ビスリン酸の加水分解により上昇する(Methods Mol Biol 237, 99-102 (2004))。IP3の生成と同時に、DGが生成する。またcAMPはGsおよびGi共役型受容体のセカンドメッセンジャーであり、アデニル酸シクラーゼによりアデノシン3リン酸から生成される。Gsはアデニル酸シクラーゼを活性化、Giはアデニル酸シクラーゼを不活性化することにより細胞内のcAMP濃度を調整する。一方でアデニル酸シクラーゼはGqのセカンドメッセンジャーであるIP3を介して活性化し、細胞内のcAMP濃度を上昇することも報告されている(Biochem Pharmacol. 69, 1247-1256(2005))。
【0037】
また前述の通り、蛋白質のC末端5アミノ酸をGqのC末端の5アミノ酸と置換したGs/qキメラ蛋白質は、Gq共役型受容体のリガンド刺激に対してセカンドメッセンジャーとして細胞内cAMP濃度を上昇させる。
【0038】
(4)IP3、Ca2+、DGおよび/またはcAMPの濃度変動の検出
本発明において濃度変動の検出は、例えば、下記のように実現される。即ち、セカンドメッセンジャーであるIP3、Ca2+、DGおよび/またはcAMPに応答する転写エレメントの下流にレポーター遺伝子を挿入したベクターを、Gpr49およびGq蛋白質ファミリーを発現する培養細胞に導入し、この培養細胞におけるレポーター遺伝子の発現量にてGqシグナルを検出する方法(下記の方法1)、あるいはIP3やCa2+量を直接に測定する方法(下記の方法2)である。
【0039】
方法1は、具体的には以下の2種類の方法が例示される。1種類目としては、TPA responsive element (TRE)-Luciferaseの系を用いた発光強度を測定することによる検出方法である。Gqシグナル伝達経路では、フォスフォリパーゼCβによりフォスファチジルイノシトール4,5ビスリン酸が加水分解され、IP3とDGを生じる。DGがプロテインキナーゼCを活性化することにより、c-fos蛋白質とc-jun蛋白質がダイマーを形成する。このダイマーが転写エレメントであるTRE配列に結合することにより、下流遺伝子の転写活性が増強する。これを用いて、TREと適切なレポーター因子(Luciferase)を接続したベクターを、Gpr49およびGq蛋白質ファミリーを発現する細胞に導入し、その細胞のLuciferase活性を測定すれば、DGの濃度すなわちIP3の濃度が検出される(Nucleic Acid Res 18, 221-228 (1990), Methods Mol Biol 237, 99-102 (2004))。
【0040】
2種類目として、Gqのシグナル伝達経路がCa2+カルモジュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMKII)によりアデニル酸シクラーゼを活性化しcAMP濃度を上昇させることを利用して、Cyclic AMP responsive element(CRE)を用いたCRE-Luciferase系によるcAMPおよび/またはCa2+の測定方法が挙げられる(Anal Biochem 275, 54-61 (1999), Biochem Pharmacol 69, 1247-1256 (2005))。また、Nuclear factor of activated T-cells (NFAT)を用いたNFAT-Luciferase系を用いることもできる(Mol pharmacol. 58, 946-953 (2000))ほか、Serum responsive elements (SRE)を用いた SRE-Luciferase系を用いることもできる(FEBS Lett. 531 565-569(2002))。
【0041】
方法2は、具体的には下記の方法が例示される。IP3については、蛍光標識IP3とIP3結合蛋白質との結合を、細胞抽出液内のIP3と競合阻害させ、蛍光偏光を測定する方法である(GEヘルスケアバイオサイエンス社)。またCa2+については、Fura-2(同仁化学研究所)などのカルシウム感受性色素を生細胞にロードし、Gq共役型受容体がリガンドにより活性化された際のCa2+濃度変化をFDSS(浜松ホトニクス社)で測定する方法である。
【0042】
方法1および2以外にも、IP3の代謝物であるイノシトール1リン酸(IP1)の測定によってもIP3の濃度変動を検出することができる。さらに、上述の通りIP3と同時にDGが生成するため、DGの量を測定することにより、IP3および/またはCa2+の濃度変動を予測することができる。
【0043】
その外、前述のようにGiタンパク質やGsタンパク質のC末端をGqファミリー蛋白質のC末端5アミノ酸と置換したキメラG蛋白質を用いてセカンドメッセンジャーをcAMPに置き換えることが出来る(Mol Pharmacol 50, 885-890 (1996)、J Biol Chem 272 23675-23681(1997))。この場合はcAMPを直接測定できるほか、CRE-Lucにより測定することもできる。
【0044】
ここでIP3、Ca2+、DGおよび/またはcAMPの濃度が変動するとは、これらの濃度が上昇することおよび濃度が低下することのいずれも含まれる。
【0045】
(5)Gpr49の活性の調節
本発明においてGpr49の活性を調節するとは、Gpr49の活性を上昇させることおよびGpr49の活性を低下させることのいずれも含まれる。Gpr49の活性とは、本発明においてはGq蛋白質ファミリーと共役して細胞内に情報を伝達する活性を意味する。本発明においてより望ましいのは、Gpr49の活性が上昇することであり、それにより共役するGq蛋白質ファミリーが活性化され、IP3、Ca2+、DGおよび/またはcAMPの細胞内濃度が上昇することである。Gpr49の活性化は、前述のようにIP3、Ca2+、DGおよび/またはcAMPの細胞内濃度変動により検出できるが、その他の方法として、活性化したGPCRがβアレスチンと結合し、細胞内に移行してピット形成することを利用して、蛍光標識したGPCRあるいはβアレスチンによりGPCRの生細胞内での挙動を観察する方法がある(J Biol Chem 278, 6258-6267 (2003))。この細胞内の挙動を観察する機械が市販されている(In Cell Analyzer 3000, GEヘルスケアサイエンス社)。
【0046】
前述の通りGq蛋白質ファミリーはインスリン非依存的な糖取り込みを促進するため、これと共役するGpr49の活性を調節することにより糖取り込みが調節される。これによりメタボリックシンドロームの予防および/または治療が期待される。さらに、高インスリン血症、脂質代謝異常、動脈硬化症、血管内皮機能異常、冠動脈疾患、循環器疾患、腎機能障害、高血圧、脂肪肝、糖尿病、高尿酸血症、肥満、高脂血症および妊娠糖尿病から選ばれる疾患の予防および/または治療が期待される。特に期待されるのは、糖尿病または肥満の治療および/または治療であり、最も期待されるのはII型糖尿病である。Gpr49は骨格筋での発現が高いことが知られているため、特に骨格筋細胞による糖取り込みが上昇することが期待される。
【0047】
(6)スクリーニング方法
本発明において目的の物質をスクリーニングする方法は、例えば、下記のように実現される。即ち、Gq蛋白質を恒常的に発現している細胞にGpr49遺伝子および前述のTRE-luc等のレポーター遺伝子を外的に導入して両者を発現させる。その細胞に試験物質を添加してCO2インキュベーターで37℃、24時間培養し、Luciferase活性による発光強度を測定する。Gpr49の活性を上昇させる試験物質であればLuciferaseによる発光強度は増強し、Gpr49の活性を低下させる試験物質であればLuciferaseによる発光強度は低下する。
【0048】
あるいは、Gq蛋白質を恒常的に発現している細胞にGpr49遺伝子を導入し、上記と同様にして試験物質を添加・培養後に細胞内のIP3、Ca2+、DGおよび/またはcAMP濃度を直接測定しても良い。IP3、Ca2+、DGおよび/またはcAMP濃度の測定方法は上述の通りである。
【0049】
Gq蛋白質を恒常的に発現している細胞は、前述の通りである。Gpr49遺伝子は、前述のプラスミドベクターに組み込んだものを上記細胞に導入して発現させることができる。発光システムとしては、Luciferase以外にEnhanced Green Fluorescent Protein (EGFP)あるいはSecreted Alkaline Phosphatase (SEAP)等が使用できる。
【0050】
具体的には、上述のGq蛋白質を発現している細胞にGpr49を外的に導入して発現させた細胞を用いて、下記のような系を用いることができる。すなわち、該細胞をPBS(-)あるいはHEPESなどの緩衝液に置換し、Ca2+感受性色素を添加し、CO2インキュベーターで37℃ 1時間程度培養し、色素を細胞内に取り込ませる。Ca2+感受性色素としては、Fura-2(同仁化学研究所)などが市販されているが、これをアセトキシメチルエステル化することで細胞内への効率的な導入が可能となっている。色素を入れた細胞を培養するプレートとは別に、Gpr49リガンド候補化合物を用意しておき、これを細胞懸濁液に添加する。化合物が細胞内に取り込まれると、リガンドによりGpr49が活性化し、IP3が生成される。このIP3が小胞体上の受容体に結合して、小胞体よりCa2+が放出される。放出されたCa2+がCa2+感受性色素と結合し、生じた蛍光を観察することで、Gqシグナルの活性化程度が検討可能である。このような化合物添加・蛍光検出・蛍光強度データの演算といった一連の操作を行う機械が市販されている(FDSS3000,浜松ホトニクス社)。
【0051】
(7)Gpr49の活性を調節する作用を有する物質
本発明において、Gpr49の活性を調節する作用を有する物質としては、特に限定されるものではないが、Gpr49の天然のリガンド、若しくは、天然あるいは人工的に合成されたアゴニストまたはアンタゴニスト的にGpr49に作用する蛋白質、ペプチド、アミノ酸、脂質、核酸、糖または合成低分子化合物または天然化合物等が挙げられる。
【0052】
なお本発明においては、Gpr49の活性を調節する作用を有する物質が選択された後は、その物質は通常の方法によって製造することが可能である。すなわち、蛋白質あるいはペプチドは遺伝子工学的手法により組み換え体を産生する等の方法である。具体的には、組換えベクターに、当該蛋白質あるいはペプチドの塩基配列を有するcDNAを挿入し、その組換えベクターを導入した形質転換体を作成して、目的の蛋白質あるいはペプチドを産生させる方法である。合成低分子化合物は通常の化学合成方法等により製造することが可能である。
【0053】
(8)医薬組成物
本発明に係る方法によって得られる物質を予防および/または治療剤として用いる場合には、公知の方法に従って製剤化し、投与する医薬組成物とすることができる。例えば、そのまま液剤としてまたは適当な剤型の医薬組成物として、ヒトまたは哺乳類に対して経口的または非経口的に投与することができる。本発明に係る方法によって得られる医薬組成物のヒトに対する投与量は、0.01mg/kg〜50mg/kgが挙げられる。
【0054】
なお、投与量は年齢、体重、一般的健康状態、性別、食餌、投与期間、投与方法、排泄速度、薬物の組み合わせ、患者に治療を行っている際の病態の程度に応じ、それらあるいはその他の要因を考慮して決められる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、Gpr49の活性を調節する作用を有する物質のスクリーニング方法が提供可能である。
【実施例】
【0056】
以下に本発明を実施例を挙げて詳細に説明するが、その要旨を超えない限り以下に限定されるものではない。
【0057】
1.ベクターの作成
(1)各種GPCR発現ベクターの作成
pcDNA3.1のマルチクローニングサイトにSignal配列(配列表の配列番号7)とFLAG配列(配列表の配列番号8)を挿入し、pMSF1とした。
【0058】
ここに、ヒトGpr49配列の一部(GenBank Accession NO. NM_003667、配列表の配列番号1番における核酸配列49番〜2772番)をFLAGの3’側に分子生物学の一般的な方法を用いて挿入し、pMSF-Gpr49(図1)を作成した。
【0059】
(2)Gqドミナントネガティブ体の作成
ヒトGqのアミノ酸残基305番目から359番目をドミナントネガティブ体として使用した報告Science 280, 574-577 (1998))を参考にして当該ベクターを作成した。すなわち、分子生物学の一般的な方法を用いてヒトGq(GenBank Accession NO. NM_002072における核酸配列954番〜1121番)をpcDNA3.1に導入しpcDNA3.1-GqDNとした。
【0060】
(3) TRE-Lucベクターの作成
以下の方法でTRE配列を9回有するベクターTRE-Lucを構築した。
【0061】
まず、配列表の配列番号9番のようにTRE配列(Cell 49, 729-739 (1987))の3回繰り返し配列を持つDNA断片を作成した。次に、配列表の配列番号9番の配列をT4DNA ligaseを用いた常法に従ってクローニングベクターpT7Blue(メルク社)に挿入し、TRE3ベクターを作成した。
【0062】
このTRE3ベクターを制限酵素XhoIおよびSacIで消化し、そこにTRE3ベクターをSalIおよびSacIで消化して抜き出したTRE3断片を、T4DNA ligaseを用いて挿入し、TRE6ベクターとした。さらにこのTRE6ベクターに上記と同様の処置をして、TRE9ベクターを作成した。一方、ヒトヘルペスウイルスよりチミジンキナーゼ最少プロモーター配列(GenBank Accession NO. X_14112における核酸配列47962番〜47885番)を取得した。前述のTRE9ベクターを制限酵素サイトSpeIとXho Iで消化してTREの9回繰り返し配列断片を作成した。これをpGL3-Basicの(プロメガ社)マルチクローニングサイトのNheI/XhoIに挿入した。さらにTRE9回繰り返し配列の下流BglII/HindIIIに、上述のチミジンキナーゼ最小プロモーター配列を挿入して、TRE-Lucとした。
【0063】
2.Gpr49発現量の定量PCRによる解析
(目的)
Gpr49は骨格筋において高発現することが知られている。そこで骨格筋でのGpr49発現が食餌状態で変化するか否かを確認するため、マウス骨格筋を用いて通常飼育時と絶食時のGpr49定量PCRを実施した。
【0064】
(方法)
(1)ICRマウス(日本チャールスリバー)20匹を準備し、うち10匹を解剖前日の夕刻に絶食させた。
【0065】
(2)絶食開始から約18時間後に、骨格筋を採取し、各個体100mgずつを液体窒素で凍結保存した。
【0066】
(3)凍結した組織検体にTRIzol(インビトロジェン社)を1ml添加し、マルチビーズショッカー(安井器械)を用いて破砕処理を実施した(4℃、2000rpm 20秒間X2回)。TRIzolのマニュファクチャーズ・プロトコールに従い、RNAを採取した。
【0067】
(4)採取したRNA2μgをSuper Script II reverse transcriptase(インビトロジェン社)を用いて、マニュファクチャーズ・プロトコールに従いそれぞれ30μlのスケールで逆転写反応を行った(42℃、51分)。その後70℃、15分間の処理を実施して酵素を失活させ、30μlの水を添加してテンプレートとした。
【0068】
(5)(4)のテンプレートを10μl分取し、20μlの水で3倍希釈した。希釈したテンプレートに同様の操作を繰り返し、1/3、1/9、1/27、1/81の希釈系列を作成し、検量線に用いた。
【0069】
(6)(4)のテンプレートを3μl、Platinum qPCR SuperMix-UDG with ROX(インビトロジェン)を25μl、タックマンプローブ10μM(マウスGpr49:GenBank Accession NO. NM_010195.2における核酸配列2868番〜2890番の、5’末端に蛍光色素であるFAMを、3’末端にクエンチャーであるTAMRAを結合させた(Proc Natl Acad Sci 88, 7276-7280 (1991))、日本EGTにてプローブ合成)を1μl、センスプライマー1μM(配列表の配列番号10番、北海道システムサイエンス)およびアンチセンスプライマー1μM(配列表の配列番号11番、北海道システムサイエンス)をそれぞれ5μlずつ添加し、水を加えて50μlとした。
【0070】
(7)ABI7900HTを使用し、次の条件でPCRを実施した:50℃ 2分間→95℃ 2分間→95℃ 15秒間、60℃ 60秒間を40サイクル。
【0071】
(結果)
結果を図2に示す。カラム「飽食」は、飽食状態マウス骨格筋におけるGpr49発現量を、カラム「絶食」は、絶食状態マウス骨格筋におけるGpr49発現量を示す。グラフは絶食時のGpr49発現量を1とした相対値で示したものである。マウス骨格筋におけるGpr49発現は、絶食時に比して飽食時で発現が上昇することがわかった。摂餌によりGpr49の骨格筋での発現が上昇することから、本発明によって飽食者ほど高い薬効が得られる可能性が示唆された。
【0072】
3. Gpr49発現のウエスタンブロットによる確認
(目的)1.(1)にて作成したGpr49発現ベクターpMSF-Gpr49による細胞内でのGpr49蛋白質発現を確認するため、ウェスタンブロットを実施した。
【0073】
(材料)HEK293細胞株(ATCC CRL-1573)に、1.(1)で作成したpMSF1(ネガティブコントロール)、あるいはpMSF-Gpr49を導入した細胞を準備した。
【0074】
(方法)
(1)HEK293細胞を翌日90%コンフルエントになるように6ウェルコラーゲンコートプレート(IWAKI社 4810-010)に播種し、DMEM high glucose.(SIGMA社 D5796)/10%FCSにて培養した。
【0075】
(2)1ウェルにpMSF-1あるいはpMSF-Gpr49 1.6 μgを、リポフェクトアミン2000(インビトロジェン社 11668-019)を用いてマニュファクチャーズ・プロトコールに従いトランスフェクションした。トランスフェクションの24時間後、PBS(-)に交換し、室温で放置して細胞を浮遊させ回収した。
【0076】
(3)細胞を回収し、10mM Tris/HCl pH8.0 , 1mM EDTA , 150mM NaCl , 1% NP-40 ,Complete Proteinase Inhibitor Cocktail(ロシュ・ダイアグノスティック社1697498、マニュファクチャーズ・プロトコールにより調製) 2mlに交換し、氷上に30分間静置して細胞を融解した。
【0077】
(4)15000rpm 4℃、5分間遠心し、上清を回収した。
【0078】
(5) 定法によりウェスタンブロットを行いPVDF膜に転写した。
【0079】
(6)抗FLAG抗体(ANTI-FLAG M2-peroxidase conjugate (SIGMA社 A-8592))を5%スキムミルクTBST溶液に1000倍希釈し、ブロッキングしたPVDF膜に添加し室温で1時間浸漬した。
【0080】
(7)TBSTで5分間×3回洗浄後、ECL plus (GEヘルスケア バイオサイエンス社 RPN2132) による発光を検出した。
【0081】
(結果)
pMSF-Gpr49を導入した細胞において、Gpr49蛋白質に相当する分子量のバンドが検出され、Gpr49蛋白質の発現が確認された。一方、pMSF-1を導入した細胞においては、Gpr49蛋白質の発現は確認されなかった。
【0082】
4.TRE-LucによるGqの解析
(目的)
前述の通りTRE転写エレメントを上流に有する遺伝子はGq由来シグナルにより転写活性が上昇することが知られている。そこでGpr49がGqと共役することを確認するために、TRE転写エレメントの下流にLuciferaseを導入した系(TRE-Luc)を用いてLuciferaseによる発光上昇が起きるか否か調べた。
【0083】
(材料)
Cos7細胞(ATCC NO. CRL-1651)に1.(3)にて作成したTRE-Lucを導入し、これに同じく1.(3)にて作成した各種GPCR発現ベクター(pMSF-1、pMSF-Gpr49)をそれぞれ導入したものを構築した。
【0084】
(方法)
(1)Cos7細胞を翌日90%コンフルエントになるように6ウェルプレートに播種し、DMEM high glucose (SIGMA社, D5796)にて24時間培養した。
【0085】
(2)TRE-Luc 0.8ugと、それぞれのベクター0.8ugを混合し、リポフェクトアミン2000(インビトロジェン社11668-019)を用いてマニュファクチャーズ・プロトコールに従いトランスフェクションした。
【0086】
(3)トランスフェクション24時間後に細胞をPBS(-)で洗浄しトリプシン(インビトロジェン社25200-056)を用いて剥離後、1000rpm5分間室温で遠心後OPTI-MEM(インビトロジェン社11058-021) 2mlに懸濁した。
【0087】
(4)(3)の細胞溶液を100ulずつ96well plateに分注した。steady-glo溶液(プロメガ社)50ulを添加し細胞を溶解させ、室温で40分静置した後、Luciferaseによる発光をWallac 1420 ARVO MXマルチラベルカウンタ(パーキンエルマー社)により測定した。
【0088】
(結果)
結果を図3に示す。カラム「pMSF1」はベクターpMSF1を導入した細胞の発光強度を示し、カラム「pMSF-Gpr49」はベクターpMSF-Gpr49を導入した細胞の発光強度を示す。Gpr49を発現するpMSF-Gpr49はベクターpMSF1に対してTRE-Lucによる発光上昇が見られた。このようにGq蛋白質との共役により活性化するTRE-Lucによる発光上昇が見られ、また3.にてGpr49蛋白質発現が確認されていることから、Gpr49はGq共役型GPCRであることが示唆された。
【0089】
5.Gqドミナントネガティブによる解析
(目的)
TRE-Lucを用いた実験によりGpr49がGq蛋白質と共役することが示唆された。そこでGqのドミナントネガティブ体によりGpr49由来のTRE-Luc発光が減弱するか否か確認し、Gpr49がGq蛋白質と共役することを検証した。
【0090】
(材料)
Cos7細胞に 、下記の組合せでベクターを導入したものを準備した。
【0091】
(方法)
(1)Cos7細胞を翌日90%コンフルエントになるように6ウェルプレートに播種しDMEM high glucoseにて24時間培養した。
【0092】
(2)下記のそれぞれの組合せのベクターを調整し、リポフェクトアミン2000 を用いてマニュファクチャーズ・プロトコールに従いトランスフェクションした。
【0093】
・TRE-Luc 0.6μg+pMSF-Gpr49 0.6μg+pcDNA3.1 0.3μg
・TRE-Luc 0.6μg+pMSF1 0.6μg+pcDNA3.1 0.3μg
・TRE-Luc 0.6μg+pMSF-Gpr49 0.6μg+pcDNA3.1-GqDN 0.3μg
・TRE-Luc 0.6μg+pMSF1 0.6μg+pcDNA3.1-GqDN 0.3μg
(3)トランスフェクション24時間後に細胞をPBS(-)で洗浄後トリプシンを用いて剥離し、1000rpm5分間室温で遠心後OPTI-MEM 2mlに懸濁した。
【0094】
(4)(3)の溶液を100ulずつ96well plateに分注した。steady-glo溶液50ulを添加し細胞を溶解させ、室温で40分静置した後、Luciferaseによる発光をWallac 1420 ARVO MXマルチラベルカウンタ(パーキンエルマー社)により測定した。
【0095】
(結果)
結果を図4に示す。カラム(1)は、TRE-Luc 0.6μg+pMSF-Gpr49 0.6μg+pcDNA3.1 0.3μgを導入した細胞でのルシフェラーゼ活性を、カラム(2)は、TRE-Luc 0.6μg+pMSF1 0.6μg+pcDNA3.1 0.3μgを導入した細胞でのルシフェラーゼ活性を、カラム(3)は、TRE-Luc 0.6μg+pMSF-Gpr49 0.6μg+pcDNA3.1-GqDN 0.3μgを導入した細胞でのルシフェラーゼ活性を、カラム(4)は、TRE-Luc 0.6μg+pMSF1 0.6μg+pcDNA3.1-GqDN 0.3μgを導入した細胞でのルシフェラーゼ活性を示す。TRE-Luc、pMSF-Gpr49およびpcDNA3.1を発現させた検体ではGpr49によるTRE-Luc発光上昇が見られた(図4カラム(1))。しかしTRE-Luc、pMSF-Gpr49およびpcDNA3.1-GqDNを発現させた検体ではGpr49によるルシフェラーゼ活性上昇が抑制されていた(図4カラム(3))。Gqのドミナントネガティブ体によりGpr49によるルシフェラーゼ活性上昇が抑制されたことから、Gpr49がGqのシグナルを介してルシフェラーゼを活性化していることが検証された。よってGpr49はGq共役型GPCRであると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】実施例1.(3)で得られたヒトGpr49発現ベクターpMSF-Gpr49の模式図を示す。
【図2】実施例2の、マウス骨格筋中Gpr49発現量の定量PCRによる結果を示す。
【図3】実施例4における、各ベクターを導入したCos7細胞のルシフェラーゼによるルシフェリン発光強度を示す。
【図4】実施例5における、各ベクターを導入した導入Cos7細胞のルシフェラーゼによるルシフェリン発光強度を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
G蛋白質共役型レセプター49およびそれと共役するG蛋白質を含む系であり、かつそのG蛋白質がセカンドメッセンジャーとしてイノシトール3リン酸、カルシウムイオン、ジアシルグリセロールおよび/または環状アデノシン1リン酸を有するGq蛋白質ファミリーである系を用いて、G蛋白質共役型レセプター49の活性を調節する作用を有する物質をスクリーニングする方法。
【請求項2】
Gq蛋白質ファミリーが、Gq、G11、G14またはG16である、請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
Gq蛋白質ファミリーが、Gq、G11、G14またはG16のC末端断片である、請求項1記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
G蛋白質共役型レセプター49の活性を調節する作用が、Gq蛋白質のセカンドメッセンジャーであるイノシトール3リン酸濃度、カルシウムイオン濃度、ジアシルグリセロール濃度および/または環状アデノシン1リン酸濃度の変動を検出することにより測定される、請求項1から3のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
G蛋白質共役型レセプター49の活性を上昇させる作用を有する物質をスクリーニングする、請求項1から4のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
試験物質をG蛋白質共役型レセプター49およびGq蛋白質と反応させ、イノシトール3リン酸濃度、カルシウムイオン濃度、ジアシルグリセロール濃度および/または環状アデノシン1リン酸濃度を測定し、該試験物質の存在により該イノシトール3リン酸濃度、カルシウムイオン濃度、ジアシルグリセロール濃度および/または環状アデノシン1リン酸濃度が変動した場合に該試験物質を選択する、請求項1から5のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
イノシトール3リン酸濃度、カルシウムイオン濃度、ジアシルグリセロール濃度および/または環状アデノシン1リン酸濃度が上昇した場合に該試験物質を選択する、請求項6に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載のスクリーニング方法によって得られる物質。
【請求項9】
請求項8に記載の物質を有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項10】
メタボリックシンドロームの予防および/または治療に用いられる請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
高インスリン血症、脂質代謝異常、動脈硬化症、血管内皮機能異常、冠動脈疾患、循環器疾患、腎機能障害、高血圧、脂肪肝、糖尿病、高尿酸血症、肥満、高脂血症および妊娠糖尿病から選ばれる疾患の予防および/または治療に用いられる請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項12】
糖尿病および/または肥満の予防および/または治療に用いられる、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項13】
糖尿病がII型糖尿病である、請求項11または12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
糖尿病および/または肥満の予防および/または治療が、骨格筋細胞による糖取り込み能の上昇により達成される請求項11から13のいずれかに記載の医薬組成物。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2008−76240(P2008−76240A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−255993(P2006−255993)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000002956)田辺三菱製薬株式会社 (225)
【Fターム(参考)】