GASP1;フォリスタチンドメイン含有タンパク質
【課題】細胞に対するGDF−8の効果を調節すること。
【解決手段】本発明は、増殖および分化因子−8(GDF−8)のレベルまたは活性を調節する、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパクである、GASP1の使用に関する。より詳細には、本発明は、GASP1の、GDF−8のレベルまたは活性の調節に関する障害を処置するための使用に関する。本発明は、筋肉障害および筋肉疾患、特に筋肉組織の増大が治療学的に有効である筋肉障害および筋肉疾患を処置するのに有効である。本発明はまた、代謝、脂肪、組織および骨変性に関する疾患および障害を処置するのに有効である。
【解決手段】本発明は、増殖および分化因子−8(GDF−8)のレベルまたは活性を調節する、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパクである、GASP1の使用に関する。より詳細には、本発明は、GASP1の、GDF−8のレベルまたは活性の調節に関する障害を処置するための使用に関する。本発明は、筋肉障害および筋肉疾患、特に筋肉組織の増大が治療学的に有効である筋肉障害および筋肉疾患を処置するのに有効である。本発明はまた、代謝、脂肪、組織および骨変性に関する疾患および障害を処置するのに有効である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国仮出願番号60/357,845(2002年2月21日出願)および同第60/434,644(2002年12月20日出願)の利益を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、増殖分化因子−8(growth and differentiation factor−8)(GDF−8)のレベルまたは活性を調節する、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質の使用に関する。より具体的には、本発明は、GDF−8のレベルまたは活性の調節に関連する障害を処置するための、少なくとも1つのフォリスタチンドメイン(フォリスタチン自体を除く)を含むタンパク質の使用に関する。本発明は、筋疾患および筋障害(特に、筋組織の増加が治療上有益である筋疾患および筋障害)を処置するために有用である。本発明はまた、代謝、脂肪組織、および骨変性に関連する疾患および障害を処置するために有用である。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
増殖分化因子−8(GDF−8)(マイオスタチン(myostatin)としても公知である)は、構造的に関連する増殖因子のトランスホーミング増殖因子β(TGF−β)スーパーファミリーのメンバー(これらは全て、重要な生理学的増殖調節特性および形態形成特性を有する)である(Kingsleyら(1994)Genes Dev.,8:133−46;Hoodlessら(1998)Curr.Topics Microbiol.Immunol.,228:235−72)。GDF−8は、骨格筋量のネガティブレギュレーターであり、そしてその生物学的活性を調節する同定因子(identifying factor)への大きな関心が存在する。例えば、GDF−8は、発育中および成体の骨格筋において高く発現される。トランスジェニックマウスにおけるGDF−8ヌル変異は、骨格筋の顕著な肥大および過形成によって特徴付けられる(McPherronら(1997)Nature,387:83−90)。骨格筋量における同様の増加は、ウシにおけるGDF−8の天然に存在する変異から明らかである(Ashmoreら(1974)Growth,38:501−507;SwatlandおよびKieffer(1994)J.Anim.Sci.,38:752−757;McPherronおよびLee(1997)Proc.Nat.Acad.Sci.U.S.A.,94:12457−12461;ならびにKambadurら(1997)Genome Res.,7:910−915)。最近の研究はまた、ヒトにおけるHIV感染に関連する筋衰弱が、GDF−8タンパク質発現の増加によって達成されることを示している(Gonzalez−Cadavidら(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,95:14938−43)。さらに、GDF−8は、筋特異的酵素(例えば、クレアチンキナーゼ)の産生および筋芽細胞増殖を調節し得る(WO 00/43781)。
【0004】
ヒトおよび動物の多くの障害は、筋組織の喪失または筋組織の機能的障害に関連する。今日まで、これらの障害のための信頼性のある治療または有効な治療はほとんど存在しない。しかし、これらの障害に関連する症状の重篤度は、これらの障害に罹患している患者における筋組織の量を増大させる治療を使用することによって実質的に減少され得る。これらの状態は治癒しないものの、このような治療は、これらの患者の生活の質を有意に改善し、そしてこれらの疾患の影響を幾分か回復し得る。従って、これらの障害に罹患している患者における筋組織の全体的な増大に寄与し得る新規の治療を同定することが当該分野において必要である。
【0005】
骨格筋におけるその増殖調節特性および形態形成特性に加えて、GDF−8はまた、他の多くの生理学的プロセス(例えば、グルコースホメオスタシス)、ならびに異常な状態(例えば、2型糖尿病および脂肪組織障害(例えば、肥満)の発展に関与し得る。例えば、GDF−8は、前脂肪細胞の脂肪細胞への分化を調節する(Kimら(2001)B.B.R.C.281:902−906)。したがって、GDF−8の調節は、これらの疾患を処置するためにも有用であり得る。
【0006】
GDF−8タンパク質は、アミノ末端プロペプチドおよびカルボキシ末端成熟ドメインからなる前駆体タンパク質として合成される(McPherronおよびLee,(1997)Proc.Nat.Acad.Sci.U.S.A.,94:12457−12461)。切断前に、この前駆体GDF−8タンパク質はホモダイマーを形成する。次いで、アミノ末端プロペプチドは、成熟ドメインから切断される。この切断されたプロペプチドは、その生物学的活性が不活性化されている成熟ドメインダイマーに非共有結合されたままであり得る(Miyazonoら(1988)J.Biol.Chem.,263:6407−6415;Wakefieldら(1988)J.Biol.Chem.,263:7646−7654;およびBrownら(1990)Growth Factors,3:35−43)。2つのGDF−8プロペプチドはGDF−8成熟ダイマーに結合すると考えられている(Thiesら(2001)Growth Factors,18:251−259)。この非活性化特性に起因して、このプロペプチドは、「潜伏関連ペプチド(latency−associated peptide)」(LAP)として公知であり、そして成熟ドメインとプロペプチドとの複合体は、低潜在性複合体(small latent complex)と通常称される(GentryおよびNash(1990)Biochemistry,29:6851−6857;Derynckら(1995)Nature,316:701−705;ならびにMassague(1990)Ann.Rev.Cell Biol.,12:597−641)。他のタンパク質はまた、GDF−8または構造的に関連するタンパク質に結合し、それらの生物学的活性を阻害することが公知である。このような阻害性タンパク質には、フォリスタチンが挙げられる(Gamerら(1999)Dev.Biol.,208: 222−232)。GDF−8の成熟ドメインは、プロペプチドが除去された場合に、ホモダイマーとして活性化されると考えられる。
【0007】
GDF−8は、多くの重大な生物学的プロセスの調節に関与することが明らかである。これらのプロセスでのその重要な機能に起因して、GDF−8は治療介入にとっての望ましい標的であり得る。特に、GDF−8の活性を阻害する治療剤は、ヒトまたは動物の疾患(筋組織の増大が治療的に有益である)を処置するために使用され得る。
【0008】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む公知のタンパク質は、多くの生物学的プロセス(特に、TGF−βスーパーファミリーシグナル伝達の調節および細胞接着のような細胞外マトリクス媒介性プロセスの調節)において役割を果たしている。フォリスタチン、フォリスタチン関連遺伝子(FLRG、FSRP)、およびフォリスタチン関連タンパク質(FRP)は全て、TGF−βによる転写調節を介してか(Bartholinら(2001)Oncogene,20:5409−5419;Shibanumaら(1993)Eur.J.Biochem.217:13−19)、またはTGF−βシグナル伝達経路をアンタゴナイズするその能力によって(Phillipsおよびde Kretser(1998)Front.Neuroendocrin.,19:287−322;Tsuchidaら(2000)J.Biol.Chem.,275:40788−40796;Patelら(1996)Dev.Biol.,178:327−342;Amthorら(1996)Dev.Biol.,178:343−362)のいずれかで、TGF−βシグナル伝達に関連する。括弧内のタンパク質の名称は、代替的な名称である。
【0009】
インスリン増殖因子結合タンパク質7(IGFBP7、mac25)(これは、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む)は、インスリンに結合し、その後のインスリンレセプターとの相互作用をブロックする。さらに、IGFBP7は、TGF−βファミリーメンバーであるアクチビンに結合されることが示されている(Kato(2000)Mol.Med.,6:126−135)。
【0010】
アグリンおよびアグリン関連タンパク質は、9つ以上のフォリスタチンドメインを含み、そして神経細胞から分泌され、アセチルコリンレセプターおよびシナプスの形成に関与する他の分子の凝集を促進する。フォリスタチンドメインが、シナプスに増殖因子を局在化するのに役立ち得ることが示唆される(Patthyら(1993)Trends Neurosci.,16:76−81)。
【0011】
オステオネクチン(SPARC、BM40)およびヘビン(SC1、mast9、QR1)は、細胞外マトリクスタンパク質と相互作用し、そして細胞増殖および細胞接着を調節するタンパク質に密接に関連する(Motamed(1999)Int.J.Biochem.Cell.Biol.,31:1363−1366;GirardおよびSpringer(1996)J.Biol.Chem.,271:4511−4517)。これらのタンパク質は、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む。
他のフォリスタチンドメインタンパク質は、記載されるか、またはNCBIデータベース(National Center for Biotechnology Information,Bethesda,Maryland,USA)に明らかにされているが、しかし、これらの機能は、現在未知である。これらのタンパク質としては、以下が挙げられる:U19878(G01639、トモレグリン(tomoregulin)−1に非常に類似)、T46914、ヒトGASP1(GDF−関連血清タンパク質1(GDF−associated serum protein 1);本明細書中に記載される;図7)、ヒトGASP2(WFIKKN;Trexlerら(2001)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,98:3705−3709;図9)、およびテスチカン(testican)(SPOCK)タンパク質のプロテオグリカンファミリー(Allielら(1993)Eur.J.Biochem.,214:347−350)。マウスGASP1(図6)およびマウスGASP2(図8)のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列はまた、Celeraデータベース(Rockville,MD)から決定された。本明細書中に記載されるように、予測されたアミノ酸配列を変更しなかったウォッブルコドン中のいくつかの塩基の置換を除いて、クローン化マウスGASP1のヌクレオチド配列は、予測されたCelera配列と一致した(図13を参照のこと)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第00/43781号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の要旨)
従って、本発明は、独特な構造特性(すなわち、少なくとも1つのフォリスタチンドメインの存在)を含む、フォリスタチン以外のタンパク質に関する。フォリスタチン自体は、本発明によって包含されない。GDF−8タンパク質が、モノマー形態、ダイマー活性化形態であっても、GDF−8の潜伏複合体に複合体化されようとも、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、成熟GDF−8タンパク質またはそのフラグメントと特異的に反応する。少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、成熟GDF−8タンパク質上のエピトープに結合し得、この結合は、同じタンパク質によって結合されない成熟GDF−8タンパク質に対して、GDF−8に関連する1つ以上の生物学的活性の減少を生じる。
【0014】
本発明は、細胞に対するGDF−8の効果を調節するための方法を提供する。このような方法は、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質の有効量を投与する工程を包含する。本発明はまた、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質をコードするDNA分子を投与することによって細胞においてタンパク質を発現するための方法を包含する。
【0015】
本発明に従って、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、治療的有効用量で患者に投与され得、筋組織の増加が治療的に有益である医学的状態を処置または予防する。実施形態としては、GDF−8の生産、代謝または活性に関連する細胞および組織に関与する疾患、障害および損傷の処置が挙げられる。
【0016】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、薬学的調製物に調製され得る。モノマー形態、ダイマーの活性化形態であっても、GDF−8潜伏複合体に複合体化されようとも、薬学的調製物は、成熟GDF−8タンパク質またはそのフラグメントの結合を助ける他の成分を含み得る。
【0017】
さらに、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、モノマー形態、ダイマーの活性化形態であっても、GDF−8潜伏複合体に複合体化されようとも、診断ツールとして使用され得、成熟GDF−8タンパク質またはそのフラグメントを定量的または定性的に検出する。例えば、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質を使用して、細胞、体液、組織または生物中のGDF−8タンパク質の存在、非存在または量を検出し得る。検出された成熟GDF−8タンパク質の存在または量は、本明細書中に列挙される1つ以上の医学的状態と相関され得る。
【0018】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、モノマー形態、ダイマーの活性化形態であっても、GDF−8潜伏複合体に複合体化されようとも、成熟GDF−8タンパク質またはそのフラグメントを検出するための診断キット中に提供され得、そして本明細書中に記載される1つ以上の医学的状態と結果とを相関させるのを補助する。このようなキットは、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む少なくとも1つのタンパク質(これは、標識されているか、または標識されていない)およびこのタンパク質に結合する少なくとも1つの因子(例えば、標識化抗体)を含み得る。このキットはまた、実験的な検出の結果を比較し得る、適切な生物学的標準およびコントロールサンプルを含み得る。これはまた、緩衝液または洗浄溶液およびキットを使用するための指示書を備え得る。実験を行い得る構造的な成分(例えば、スティック、ビース、紙、カラムム、バイアルまたはゲル)を備え得る。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
薬学的組成物であって、以下:
i)GASP1、および
ii)少なくとも1つの薬学的に受容可能なキャリア
を含む、組成物。
(項目2)
前記GASP1が、安定化改変を有する、項目1に記載の組成物。
(項目3)
前記改変が、IgG分子のFc領域への融合である、項目2に記載の組成物。
(項目4)
前記IgG分子が、IgG1またはIgG4あるいはその誘導体である、項目3に記載の組成物。
(項目5)
前記IgG分子が、IgG1またはその誘導体である、項目4に記載の組成物。
(項目6)
前記IgG分子が、リンカーペプチドによって前記GASP1に融合される、項目3に記載の組成物。
(項目7)
前記改変が、改変されたグリコシル化部位を含む、項目2に記載の組成物。
(項目8)
前記改変が、少なくとも1つの炭水化物部分を含む、項目2に記載の組成物。
(項目9)
前記改変が、アルブミンまたはアルブミン誘導体を含む、項目2に記載の組成物。
(項目10)
前記改変が、非タンパク質性性ポリマーを含む、項目2に記載の組成物。
(項目11)
前記改変が、ペグ化を含む、項目2に記載の組成物。
(項目12)
診断キットであって、GASP1および以下:
i)GASP1に結合する少なくとも1種の試薬;
ii)少なくとも1種の緩衝液および/または溶液;ならびに
iii)少なくとも1種の構造成分
から選択される少なくとも1種の他のキット成分を含む、診断キット。
(項目13)
GASP1をコードする核酸を含む組換え細胞。
(項目14)
前記GASP1が、安定化改変を有する、項目13に記載の組換え細胞。
(項目15)
GASP1を投与する工程および該GASP1をGDF−8と相互作用させる工程を包含する、GDF−8を調節する方法。
(項目16)
治療有効用量のGASP1を投与する工程および該GASP1をGDF−8と相互作用させる工程を包含する、医学的障害を被る患者を処置する方法。
(項目17)
GASP1をコードする核酸を投与する工程、該核酸をGASP1に翻訳する工程および該翻訳されたGASP1をGDF−8と相互作用させる工程を包含する、医学的障害を被る患者を処置する方法。
(項目18)
GASP1をコードする核酸を細胞に投与する工程、該核酸を該細胞に侵入させる工程および該細胞に該GASP1を発現させる工程を包含する、GASP1をコードする核酸を発現する方法。
(項目19)
前記GASP1が、安定化改変を有する、項目16、17または18に記載の方法。
(項目20)
前記改変が、IgG分子のFc領域への融合である、項目19に記載の方法。
(項目21)
前記IgG分子が、IgG1またはIgG4あるいはその誘導体である、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記IgG分子が、IgG1またはその誘導体である、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記IgG分子が、リンカーペプチドによってGASP1に融合される、項目20に記載の方法。
(項目24)
前記改変が、改変されたグリコシル化部位を含む、項目19に記載の方法。
(項目25)
前記改変が、少なくとも1つの炭水化物部分を含む、項目19に記載の方法。
(項目26)
前記改変が、アルブミンまたはアルブミン誘導体を含む、項目19に記載の組成物。
(項目27)
前記改変が、非タンパク質性性ポリマーを含む、項目19に記載の方法。
(項目28)
前記改変が、ペグ化を含む、項目19に記載の方法。
(項目29)
前記患者が、筋組織の量または質の増加によって治療的に利益を得る、項目16に記載の方法。
(項目30)
前記障害が、筋障害である、項目16に記載の方法。
(項目31)
前記筋肉障害が、筋ジストロフィーである、項目30に記載の方法。
(項目32)
項目31に記載の方法であって、前記筋障害が、以下:重篤なまたは良性のX連鎖筋ジストロフィー、肢帯ジストロフィー、顔面肩甲上腕筋萎縮、筋緊張性ジストロフィー、遠位筋ジストロフィー(distal muscular dystrophy)、進行性ジストロフィー性眼筋麻痺(progressive dystrophic ophthalmoplegia)、眼咽頭筋ジストロフィー、デュセンヌ型筋ジストロフィーおよびフクヤマ型先天性筋ジストロフィーから選択される、方法。
(項目33)
項目30に記載の方法であって、前記障害が、以下:筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)、鬱血性閉塞性肺疾患(congenstive obstructive pulmonary disease)、先天性ミオパシー、先天性筋緊張症、家族性周期性四肢麻痺、発作性ミオグロビン尿症、重症筋無力症、イートン−ランバート症候群、二次筋無力症、脱神経萎縮症(denervation atrophy)、組織萎縮症(organ atrophy)、虚弱体質(frailty)、手根管症候群(carpal tunnel syndrome)、筋収縮症(muscle atrophy)、発作性筋萎縮症(paroxymal
muscle atrophy)、サルコペニア(sarcopenia)、悪液質、および他の筋るいそう症候群(muscle wasting syndrome)から選択される、方法。
(項目34)
前記障害が、筋組織に対する外傷および筋組織に対する慢性損傷から選択される筋障害である、項目30に記載の方法。
(項目35)
前記障害が、代謝疾患または代謝障害である、項目16に記載の方法。
(項目36)
前記障害が、インシュリン依存性(1型)糖尿病、インシュリン非依存性(2型)糖尿病、高血糖症、耐糖能異常、代謝症候群(例えば、X症候群)、外傷(例えば、火傷または窒素非平衡(nitrogen imbalance))によるインシュリン抵抗性または肥満症である、項目35に記載の方法。
(項目37)
前記障害が、肥満症のような脂肪組織障害である、項目16に記載の方法。
(項目38)
前記障害が、骨粗しょう症、グルココルチコイド誘導型骨粗しょう症、骨減少症(osteopenia)、変形性関節症(osteoarthritis)、または骨粗しょう症関連骨折、あるいは、長期にわたるグルココルチコイド治療、早熟性性腺機能不全(premature gonadal failure)、アンドロゲン抑制(androgen suppression)、ビタミンD欠乏症、二次性副甲状腺機能亢進症(secondary hyperparathyroidism)、栄養欠乏症、および拒食症(anorexia nervosa)が原因となる低い骨質量を含む他の障害のような骨変性疾患である、項目16に記載の方法。
(項目39)
前記GASP1が、同時あるいは1日間隔、1週間間隔または1ヶ月間隔で投与される、項目16に記載の方法。
(項目40)
前記GASP1が、5mg〜100mgの用量で投与される、項目16に記載の方法。
(項目41)
前記GASP1が、15mg〜85mgの用量で投与される、項目16に記載の方法。
(項目42)
前記GASP1が、30mg〜70mgの用量で投与される、項目16に記載の方法。
(項目43)
前記GASP1が、40mg〜60mgの用量で投与される、項目16に記載の方法。
(項目44)
項目1に記載の組成物であって、前記GASP1が、以下:
i)配列番号5;
ii)配列番号7;ならびに
iii)i)またはii)の置換変異体、付加変異体、および/または欠失変異体
から選択される、組成物。
(項目45)
項目1に記載の組成物であって、前記GASP1が、以下:
i)配列番号4;
ii)配列番号6;
iii)i)またはii)にコードされる配列の置換変異体、付加変異体、および/または欠失変異体をコードするヌクレオチド配列;ならびに
iv)i)またはii)にコードされるものと同じアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、
から選択されるヌクレオチドにコードされる、組成物。
(項目46)
薬学的組成物であって、以下:
i)GASP−1のフラグメントであって、以下:
a)フォリスタチンドメインを示す、配列番号5のアミノ酸174〜239;
b)フォリスタチンドメインを示す、配列番号7のアミノ酸110〜175;ならびに
c)a)またはb)の置換変異体、付加変異体、および/または欠失変異体
から選択される、フラグメント;ならびに
ii)少なくとも1つの薬学的に受容可能なキャリア
を含む、組成物。
(項目47)
項目46に記載の組成物であって、前記GASP1フラグメントが、以下:
i)フォリスタチンドメインをコードする、配列番号4のヌクレオチド520〜717;ii)フォリスタチンドメインをコードする、配列番号6のヌクレオチド328〜525;
iii)i)またはii)にコードされる配列の置換変異体、付加変異体、および/または欠失変異体をコードするヌクレオチド配列;ならびに
iv)i)またはii)にコードされるものと同じアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、
から選択されるヌクレオチドにコードされる、組成物。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、野生型マウス血清からのGDF−8複合体の抗体精製を示す。銀染色還元ゲルは、アガロースビーズに共有結合したJA16モノクローナル抗体を使用して、野生型マウス血清から精製したタンパク質を示す。モック結合ビーズを用いたコントロール精製(0)を、並行して行った。次いで、緩衝液(mock溶出)、競合ペプチドおよびSDSサンプル緩衝液での溶出は、JA16結合体化ビーズからペプチドで特異的に溶出された2つの明らかなタンパク質バンドを示した(矢印によって示される)。
【図2A】図2は、正常なマウス血清から親和性精製された、サンプル中の成熟GDF−8およびプロセシングされていないGDF−8の同定を示す。図2Aは、親和性精製されたサンプル中の12kDaの明らかなバンドから同定されたGDF−8由来ペプチド(配列番号19)の代表的なMS/MSスペクトルを示す。N末端フラグメントイオン(bイオン)およびC末端フラグメントイオン(yイオン)の両方が明らかである。特に、最も強いプロリン含有ペプチドの一般的特徴であるyフラグメントイオンが、プロリン残基の前でフラグメント化から生じる。
【図2B】図2は、正常なマウス血清から親和性精製された、サンプル中の成熟GDF−8およびプロセシングされていないGDF−8の同定を示す。図2Bは、GDF−8の成熟領域を認識するポリクローナル抗体でプローブされたウェスタンブロットを示し、親和性精製されたサンプル中のGDF−8の存在を確認する。GDF−8の成熟形態およびプロセシングされていない形態の両方が、明らかである。
【図3A】図3Aは、正常なマウス血清から単離された循環GDF−8に結合するGDF−8プロペプチドおよびフォリスタチン様関連遺伝子(FLRG)を示す。36kDaバンドで同定されたGDF−8プロペプチド(配列番号23)からの代表的なMS/MSスペクトルを示す。
【図3B】図3Bは、正常なマウス血清から単離された循環GDF−8に結合するGDF−8プロペプチドおよびフォリスタチン様関連遺伝子(FLRG)を示す。図3Bは、GDF−8のプロペプチド領域を特異的に認識するポリクローナル抗体を用いてプローブ化された、親和性精製されたGDF−8複合体のウェスタンブロットを示し、GDF−8複合体中のこのタンパク質の質量スペクトル同定を確認する。短縮されたプロペプチドおよびプロセシングされていないGDF−8の両方は、より長い曝露で明らかであり、プロセシングされていないGDF−8はまた、SDS溶出サンプルにおいて見られる。
【図3C】図3Cは、正常なマウス血清から単離された循環GDF−8に結合するGDF−8プロペプチドおよびフォリスタチン様関連遺伝子(FLRG)を示す。FLRG由来ペプチド(配列番号30)(図3C)からの代表的なMS/MSスペクトルを示す。
【図3D】図3Dは、正常なマウス血清から単離された循環GDF−8に結合するGDF−8プロペプチドおよびフォリスタチン様関連遺伝子(FLRG)を示す。図3Dは、FLRGに対するモノクローナル抗体を用いてプローブした、親和性精製したGDF−8複合体のウェスタンブロットを示す。
【図4】図4は、血清中の主要なGDF−8結合タンパク質としてのGDF−8プロペプチド、FLRGおよび新規タンパク質を同定した大規模なGDF−8精製の徹底的な分析の結果を示す。銀染色ゲルを、ネガティブコントロールおよびJ16免疫沈降物の両方のペプチド溶出サンプルから13スライスに切り分けた。各スライス中のタンパク質を、トリプシンで消化し、そしてナノフローLC−MS/MSを使用して同定し、そしてデータベースで検出した。JA16サンプルに独特なタンパク質は、プロセシングされていないGDF−8および成熟GDF−8、GDF−8プロペプチド、FLRGならびに新規の複数ドメインプロテアーゼインヒビター(GDF−関連血清タンパク質1:GASP1)のみを含んだ。これらのタンパク質が、ゲルの顕著な領域から同定された。
【図5】図5は、新規の複数ドメインプロテアーゼインヒビター(GASP1)が、血清中のGDF−8に結合されることを示す。図5A(配列番号31に割当てられたペプチド)および5B(配列番号33に割当てられたペプチド)は、図4の銀染色ゲル中のバンド3で同定された、2つのGASP1ペプチドからの代表的なMS/MSスペクトルを示す。
【図6A】図6Aは、マウスGASP1に対する予測されたヌクレオチド配列を示す。
【図6B】図6Bは、マウスGASP1に対する予測された代替のヌクレオチド配列を示す。
【図6C】図6Cは、図6Aおよび6Bに示されたヌクレオチド配列によってコードされた予測されるアミノ酸配列を示す。2つのヌクレオチド配列によってコードされたタンパク質配列は、同一である。なぜなら、ヌクレオチド差異は、全てウォッブルコドン位置においてであるからである。フォリスタチンドメインは、太字かつ下線で示される。
【図7A】図7Aは、ヒトGASP1の予測されたヌクレオチド配列を示す。配列の末端は、アスタリスクによって示される。
【図7B】図7Bは、対応する予測されたアミノ酸配列を示す。フォリスタチンドメインは、太字かつ下線で示される。配列の末端は、アスタリスクによって示される。
【図7C】図7Cは、代替の開始部位を使用したヒトGASP1の予測されたヌクレオチド配列を示す。配列の末端は、アスタリスクによって示される。
【図7D】図7Dは、対応する予測されたアミノ酸配列を示す。フォリスタチンドメインは、太字かつ下線で示される。配列の末端は、アスタリスクによって示される。
【図8A】図8Aは、マウスGASP2に対する予測されたヌクレオチド配列を示す。
【図8B】図8Bは、対応する予測されたアミノ酸配列を示す。フォリスタチンドメインは、太字かつ下線で示される。
【図9A】図9Aは、ヒトGASP2に対する予測されたヌクレオチド配列を示す。
【図9B】図9Bは、対応する予測されたアミノ酸配列を示す。フォリスタチンドメインは、太字かつ下線で示される。
【図10】図10は、マウスGASP1が、多くの成体組織および発達の間で発現されることを示す。図は、マウスGASP1の組織発現プロファイルを示す。GASP1の551bpフラグメントは、Clontech(Palo Alto,CA)からの正規化された一本鎖cDNAパネルから増幅された。グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(G3PDH)の一部は、コントロールとして増幅された。G3PDH発現は、骨格筋で高く、そして精巣で低いことが公知である。cDNAパネルは、G3PDHに加えて、β−アクチン、ホスホリパーゼA2およびリボソームタンパク質S29に対して正規化された。
【図11】図11は、ヒト血清から単離されたタンパク質を示す。JA16免疫沈降物またはコントロールサンプル(0)からのタンパク質は、モックPBS溶出、競合ペプチド溶出またはSDS溶出において溶出された。ゲルの示された領域中のタンパク質を、トリプシンで消化し、そしてLS−MS/MSによって分析し、そしてデータベースで検索した。JA16サンプル中に存在するが、コントロールサンプル中に存在しないタンパク質は、成熟GDF−8(バンド16)、GDF−8プロペプチドおよびFLRG(バンド11)ならびにヒトGASP1(バンド4)であった。図11Bは、成熟GDF−8を認識する抗体を用いてプローブした同一のJA16免疫沈降物のウェスタンブロットを示す。ヒト血清から単離した、成熟GDF−8およびプロセシングされていないGDF−8に対応するバンドが明らかである。
【図12−1】図12は、GDF−8由来のペプチド、ならびにバンド4、11、および16(図11)から単離された関連するタンパク質の相対的質量スペクトルを示す。ペプチド配列ならびにN末端(bイオン)およびC末端(yイオン)が示される。同定されたペプチドの完全な列挙は、表1に提供される。GASP1ペプチド(配列番号44)(図12A)、FLRGペプチド(配列番号41)(図12B)、GFD−8プロペプチドペプチド(配列番号24)(図12C)、および成熟GDF−8ペプチド(配列番号13)(図12D)由来のスペクトルが示されている。
【図12−2】図12は、GDF−8由来のペプチド、ならびにバンド4、11、および16(図11)から単離された関連するタンパク質の相対的質量スペクトルを示す。ペプチド配列ならびにN末端(bイオン)およびC末端(yイオン)が示される。同定されたペプチドの完全な列挙は、表1に提供される。GASP1ペプチド(配列番号44)(図12A)、FLRGペプチド(配列番号41)(図12B)、GFD−8プロペプチドペプチド(配列番号24)(図12C)、および成熟GDF−8ペプチド(配列番号13)(図12D)由来のスペクトルが示されている。
【図13】図13は、クローニングされたマウスGASP1のヌクレオチド配列(配列番号48)およびアミノ酸配列(配列番号49)を示す。JA16アフィニティー精製したサンプルにおける質量分光分析法によって同定されたペプチドに、下線を引く。この配列の末端は、アスタリスクによって記される。
【図14】図14Aは、GASP1のドメイン構造を示す。GASP1は、アミノ酸29の後に、シグナル配列/切断部位を有する。さらに、GASP1は、2つのKunitz/BPTIセリンプロテアーゼインヒビタードメイン、フォリスタチンドメイン(Kazalセリンプロテアーゼインヒビターモチーフを含む)およびネツリンドメイン(これは、メタロプロテアーゼを阻害し得る)を含む。図14Bは、マウスおよびヒトのゲノム配列から推定された、GASP1およびGASP2の系統樹を示す。マウスGASP1およびヒトGASP1は、90%同一である。GASP1およびGASP2は、54%同一である。
【図15】図15は、組換え産生されたGASP1が、GDF−8とGDF−8プロペプチドとの両方に別個に結合することを示す。(A)JA16を使用して、GDF−8を、偽V5−HisまたはGASP1−V5−HisでトランスフェクトされたCOS細胞の馴化培地(組換え精製されたGDF−8および/またはプロペプチドを補充した)から免疫沈降させた。抗V5ポリクローナル抗体(上のパネル)、抗GDF−8ポリクローナル抗体(中央のパネル)、または抗プロペプチドポリクローナル抗体を用いたウェスタンブロットを使用して、これらのタンパク質が免疫沈降物中に存在したか否かを決定した。(B)組換え産生されたGASP1タンパク質を、抗V5タグ抗体によって、偽V5−His馴化培地またはGASp−V5−His馴化培地(組換え精製されたGDF−8および/またはプロペプチドを補充した)から免疫沈降させた。この免疫沈降物を、(A)においてと同様に、ウェスタンブロッティングによって分析した。
【図16−1】図16は、GASP1が、GDF−8および非常に関連するBMP−11の生物学的活性を阻害するが、アクチビンもTGF−βも阻害しないことを示す。偽V5−Hisトランスフェクト物(白丸)またはGASP1−V5−Hisトランスフェクト物(塗りつぶした四角)由来の馴化培地の種々の希釈物を、(A)10ng/ml GDF−8、(B)10ng/ml BMP−11、(C)10ng/mlアクチビン、または(D)0.5ng/ml TGF−βとともにインキュベートした、次いで、これらのサンプルを、A204(A〜C)細胞中またはRD(D)細胞中でのルシフェラーゼレポーター活性アッセイに供し、添加された増殖因子の活性を決定した。ルシフェラーゼ活性を、相対ルシフェラーゼ単位で示す。各増殖因子単独から得られた活性を、塗りつぶされた菱形および短い破線で示す。いずれの増殖因子も添加しない場合、アッセイにおけるバックグラウンド活性は、記号のない長い破線によって示されるように、低い。
【図16−2】図16は、GASP1が、GDF−8および非常に関連するBMP−11の生物学的活性を阻害するが、アクチビンもTGF−βも阻害しないことを示す。偽V5−Hisトランスフェクト物(白丸)またはGASP1−V5−Hisトランスフェクト物(塗りつぶした四角)由来の馴化培地の種々の希釈物を、(A)10ng/ml GDF−8、(B)10ng/ml BMP−11、(C)10ng/mlアクチビン、または(D)0.5ng/ml TGF−βとともにインキュベートした、次いで、これらのサンプルを、A204(A〜C)細胞中またはRD(D)細胞中でのルシフェラーゼレポーター活性アッセイに供し、添加された増殖因子の活性を決定した。ルシフェラーゼ活性を、相対ルシフェラーゼ単位で示す。各増殖因子単独から得られた活性を、塗りつぶされた菱形および短い破線で示す。いずれの増殖因子も添加しない場合、アッセイにおけるバックグラウンド活性は、記号のない長い破線によって示されるように、低い。
【図17】図17は、GDF−8のGASP1阻害の強さを示す。精製したGASP1を、RD細胞中での(CAGA)12-(配列番号53)ルシフェラーゼレポーターアッセイにおける20ng/mlのミオスタチンを阻害する能力について、試験した(塗りつぶされた四角)。GDF−8単独から生じる活性を、塗りつぶされた菱形および短い破線によって示す。増殖因子が添加されなかった場合に存在する活性を、長い破線によって示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(定義)
用語「フォリスタチンドメイン」とは、システインリッチ反復によって特徴付けられるアミノ酸ドメインをコードするアミノ酸ドメインまたはヌクレオチドドメインをいう。フォリスタチンドメインは、代表的に、65〜90のアミノ酸スパンを含み、そして10の保存されたシステイン残基、およびKazalセリンプロテアーゼインヒビタードメインに類似の領域を含む。一般に、システイン残基の間のループ領域は、フォリスタチンドメインにおける配列変動性を示すが、いくらかの保存が明らかである。4番目のシステインと5番目のシステインとの間のループは、通常小さく、1つまたは2つのアミノ酸のみを含む。7番目のシステインと8番目のシステインとの間のループにおけるアミノ酸は、一般に、最も高度に保存されており、(G,A)−(S,N)−(S,N,T)−(D,N)−(G,N)のコンセンサス配列、および引き続く(T,S)−Yモチーフを含む。9番目のシステインと10番目のシステインとの間の領域は、一般に、別のアミノ酸とは別の2つの疎水性残基(具体的には、V、I、またはL)を含むモチーフを含む。
用語「少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質)」とは、少なくとも1つであるが、おそらくは1つより多い、フォリスタチンドメインを含むタンパク質をいう。この用語はまた、ネイティブのタンパク質に関連する既知の生物学的活性を維持するようなタンパク質(特に、GDF−8結合活性に関与するタンパク質であり、アミノ酸配列に対する保存的変化または非保存的変化で改変された配列を含む)(フラグメント;置換変異、付加変異もしくは欠失変異を有するタンパク質、および融合タンパク質を含む)の、任意の改変体をいう。これらのタンパク質は、任意の供給源(天然または合成)に由来し得る。このタンパク質は、ヒトタンパク質であっても、動物供給源(ウシ、ニワトリ、マウス、ラット、ブタ、ヒツジ、シチメンチョウ、ヒヒ、および魚が挙げられる)に由来してもよい。フォリスタチン自体は、本発明に包含されない。
【0021】
用語「GDF−8」または「GDF−8タンパク質」は、特異的な増殖因子および分化因子をいう。これらの用語は、タンパク質の全長非プロセシング前駆体形態ならびに翻訳後切断から得られる成熟形態およびプロペプチド形態を含む。これらの用語はまた、アミノ酸配列に対する保存的変化または非保存的変化で改変された配列を含む、タンパク質と関連する公知の生物学的活性を維持するGDF−8の任意のフラグメントをいう。これらのGDF−8分子は、任意の供給源(天然供給源または合成供給源)に由来し得る。このタンパク質は、ヒト供給源由来であっても、動物供給源(ウシ、ニワトリ、マウス、ラット、ブタ、ヒツジ、シチメンチョウ、ヒヒ、およびサカナが挙げられる)由来であってもよい。種々のGDF−8分子は、McPherronら、(1997)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,94:12457−12461に記載される。
【0022】
「成熟GDF−8」は、GDF−8前駆体タンパク質のカルボキシ末端ドメインから切断されたタンパク質をいう。成熟GDF−8は、モノマー、ホモダイマー、またはGDF−8潜伏複合体として存在し得る。インビボ条件またはインビトロ条件に依存して、成熟GDF−8は、任意のまたは全てのこれらの異なる形態の間で平衡を確立し得る。GDF−8は、ホモダイマーとして生物学的に活性であると考えられる。その生物学的に活性な形態において、成熟GDF−8はまた、「活性なGDF−8」ともいわれる。
【0023】
「GDF−8プロペプチド」は、GDF−8前駆体タンパク質のアミノ末端ドメインから切断されたポリペプチドをいう。GDF−8プロペプチドは、成熟GDF−8上のプロペプチド結合ドメインに結合し得る。
【0024】
「GDF−8潜伏複合体」は、成熟GDF−8ホモダイマーとGDF−8プロペプチドとの間に形成されるタンパク質の複合体をいう。2つのGDF−8プロペプチドがホモダイマー中の成熟GDF−8の2つの分子と結合し、不活性なテトラマー複合体を形成すると考えられる。潜伏複合体は、1つ以上のGDF−8プロペプチドの代わりに、またはそれらに加えて他のGDF−8インヒビターを含み得る。
【0025】
句「GDF−8活性」は、活性なGDF−8タンパク質に関連する1以上の増殖制御活性または形態形成活性をいう。例えば、活性なGDF−8は、骨格筋のネガティブな制御因子である。活性なGDF−8はまた、筋肉特異的酵素(クレアチンキナーゼ)の産生を調節し得、筋芽細胞増殖を刺激し得、そして脂肪細胞への前脂肪細胞の分化を調節し得る。GDF−8はまた、末梢組織(特に、骨格筋または脂肪細胞)におけるインスリンおよびグルコースの取り込みに対する感受性を増大すると考えられる。従って、GDF−8の生物学的活性としては、筋肉形成の阻害、筋肉細胞増殖の阻害、筋肉発達の阻害、筋肉質量の減少、筋肉特異的酵素の調節、筋芽細胞の細胞増殖の阻害、脂肪細胞への前脂肪細胞の分化の調節、インスリンに対する感受性の増加、グルコース取り込みの調節、グルコース血流遮断、ならびにニューロン細胞の発生および維持の調節が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
用語「単離された」または「精製された」は、その天然の環境から実質的に隔離された分子をいう。例えば、単離されたタンパク質は、それが由来する細胞供給源または組織供給源由来の細胞物質または他の夾雑タンパク質を実質的に含まない。句「実質的に細胞物質を含まない」は、単離されたタンパク質が少なくとも70%〜80%(w/w)純粋であり、必要に応じて少なくとも80%〜89%(w/w)純粋であり、少なくとも90〜95%純粋であり、あるいは少なくとも96%、97%、98%、99%または100%(w/w)純粋である調製物をいう。
【0027】
用語「LC−MS/MS」とは、特定の質量/電荷比の分子イオン、このイオンのフラグメントを単離し、そしてこのフラグメントイオンの質量/電荷比を記録するようにプログラムされた質量分析計とインラインの液体クロマトグラフィーをいう。ペプチドサンプルを分析する場合、この技術は、液体クロマトグラフィーを通しての、複雑なサンプルの上流での分離を可能にし、続いて、フラグメントイオン質量の記録および引き続くペプチド配列の決定がなされる。
【0028】
用語「MS/MS」とは、特定の質量/電荷比の分子イオンを単離し、そして得られたフラグメントイオンの質量/電荷比を記録するための、質量分光計を使用するプロセスをいう。このフラグメントイオンは、ペプチドの配列に関する情報を提供する。
【0029】
用語「処置する(treating)」および「処置(treatment)」は、治療処置および予防または防止処置の両方をいう。処置が必要な者は、特定の医療疾患をすでに有する個体および最終的にこの疾患を獲得し得る者(すなわち、防止処置を必要とする者)を含み得る。処置との用語は、障害の基礎にある原因に取り組む手段と、その原因に必ずしも影響を与えずに医学的障害の症状を減少させる手段との両方を包含する。従って、生活の質の改善および症状の軽減は、疾患の原因に反作用する手段と同様に、処置とみなされる。
【0030】
用語「医学的障害」とは、筋肉、骨、またはグルコースホメオスタシスの障害をいい、そしてGDF−8および/またはTGF−βスーパーファミリーの他のメンバー(例えば、BMP−11)に関連する障害が挙げられる。このような障害の例としては、代謝疾患および障害(例えば、インスリン依存性(1型)糖尿病、インスリン非依存性(2型)糖尿病、高血糖症、傷害性グルコース耐性、代謝症候群(例えば、症候群X)、および外傷(例えば、火傷または窒素不均衡)によって誘導されるインスリン耐性、ならびに脂肪組織障害(例えば、肥満症));筋肉および神経筋障害(例えば、筋ジストロフィー(重篤かまたは良性のX染色体連鎖性筋ジストロフィー、肢帯筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕筋ジストロフィー、筋緊張性(myotinic)ジストロフィー、遠位筋ジストロフィー、進行性ジストロフィー眼筋麻痺、眼咽頭筋ジストロフィー、デュシェーヌ筋ジストロフィー、およびFakuyama型先天性筋ジストロフィーが挙げられるが、これらに限定されない));筋萎縮性側索硬化症(ALS);筋萎縮症;器官萎縮症;脆弱(frailty);手根管症候群;先天性閉塞性肺疾患;先天性ミオパシー;先天性ミオトニー;家族性周期性四肢麻痺;発作性ミオグロビン尿症;重症筋無力症;イートン−ランバート症候群;二次筋無力症;脱神経萎縮症;痙攣筋萎縮症;および筋肉減少症(sarcopenia)、悪液質、ならびに他の筋肉消耗症候群が挙げられるが、これらに限定されない。他の例としては、骨粗鬆症(特に、年配および/または閉経後の女性において);糖質コルチコイド誘導骨粗鬆症;骨減少症;変形性関節症;骨粗鬆症関連骨折;および筋組織に対する外傷性傷害または慢性傷害が挙げられる。なおさらなる例としては、慢性糖質コルチコイド療法に起因する低い骨質量、早期の性線不全;アンドロゲン抑制、ビタミンD欠乏、二次上皮小体機能亢進症、栄養性欠損、および神経性食欲不振が挙げられる。
【0031】
用語「質量の増加」とは、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質での処置後に、この処置前に存在した筋肉質量の量と比較して多い量の筋肉の存在をいう。
【0032】
用語「治療的利益」とは、障害の症状の改善、障害の進行の遅延、または障害の伝播の停止をいう。治療的利益は、障害の局面(例えば、筋肉塊の量)を、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む少なくとも1つのタンパク質が投与された前後で比較することによって、決定される。
【0033】
用語「調節する」とは、タンパク質の活性、挙動または量を増加、減少または阻害することによって、タンパク質の特性を変化させることをいう。例えば、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、この活性を阻害することによって、GDF−8を調節し得る。
【0034】
用語「安定化改変」とは、タンパク質を安定化し得、タンパク質のインビトロでの半減期を増加させ得、タンパク質の循環半減期を増加させ得、そして/またはタンパク質のタンパク質分解を減少させ得る、当該分野において公知であるかまたは本明細書中に記載される、任意の改変である。このような安定化改変としては、融合タンパク質(例えば、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質および第二のタンパク質を含む融合タンパク質が挙げられる)、グリコシル化部位の改変(例えば、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質へのグリコシル化部位の付加が挙げられる)、および炭水化物部分の改変(例えば、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質からの炭水化物部分の除去が挙げられる)が挙げられるが、これらに限定されない。融合タンパク質を含む安定化改変の場合(例えば、第二のタンパク質が、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質に融合されるように)、第二のタンパク質は、「安定化剤部分」または「安定化剤タンパク質」と称され得る。例えば、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質(ヒトタンパク質)は、IgG分子と融合され得、ここで、IgGは、安定化剤タンパク質または安定化剤部分として働く。本明細書中で使用される場合、融合タンパク質の第二のタンパク質を言及することに加えて、「安定化剤部分」はまた、炭水化物部分、または非タンパク質性ポリマーのような、非タンパク質性改変を含む。
【0035】
用語「IgG分子のFc領域」とは、当業者に周知であるように、アイソタイプIgGの免疫グロブリンのFcドメインをいう。IgG分子のFc領域は、IgG分子(IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4)の、そのIgG分子のインビボでの血清半減期を増加させる原因である部分である。
【0036】
「インビトロ半減期」とは、生存生物と関係のないところで測定された、タンパク質の安定性をいう。インビトロ半減期を測定するためのアッセイは、当該分野において周知であり、そしてSDS−PAGE、ELISA、細胞ベースのアッセイ、パルス−チェイス、ウェスタンブロッティング、ノーザンブロッティングなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらおよび他の有用なアッセイは、当該分野において周知である。
【0037】
「インビボ半減期」とは、生物におけるタンパク質の安定性をいう。インビボ半減期は、当該分野において公知の多数の方法によって測定され得、インビボ血清半減期、循環半減期、および本明細書中の実施例に記載されるアッセイが挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
「インビボ血清半減期」とは、生物の血液中で循環するタンパク質の半減期をいう。当該分野において公知の方法を使用して、インビボ血清半減期を測定し得る。例えば、放射活性タンパク質が動物に投与され得、そして血清中の標識タンパク質の量が、経時的にモニタリングされ得る。
【0039】
明細書および図面に列挙される配列の同定を補助するために、以下の表が提供される。この表は、配列番号、図の位置、および配列の説明を列挙する。
【0040】
【表1】
【0041】
(発明の詳細な説明)
(少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質)
本発明は、独特の構造特徴(すなわち、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む)を有する、フォリスタチン以外のタンパク質に関する。フォリスタチン自体は、本発明によって包含されない。少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、GDF−8を結合し、そしてGDF−8を阻害すると考えられる。少なくとも1つのフォリスタチンドメインを有するタンパク質の例としては、フォリスタチン様関連遺伝子(FLRG)、FRP(flik、tsc36)、アグリン、オステオネクチン(SPARC、BM40)、ヘビン(SC1,mast9、QR1)、IGFBP7(mac25)、およびU19878が挙げられるが、これらに限定されない。GASP1(図6および7に提供されるヌクレオチド配列およびアミノ酸の配列を含む)ならびにGASP2(図8および9に提供されるヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を含む)は、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質の、他の例である。
【0042】
フォリスタチンドメインは、上記のように、システインリッチな反復によって特徴付けられるアミノ酸ドメインをコードするアミノ酸ドメインまたはヌクレオチドドメインとして定義される。フォリスタチンドメインは、代表的に、65〜90のアミノ酸スパンを含み、そして10の保存されたシステイン残基、およびKazalセリンプロテアーゼインヒビタードメインに類似の領域を含む。一般に、システイン残基の間のループ領域は、フォリスタチンドメインにおける配列変動性を示すが、いくらかの保存が明らかである。4番目のシステインと5番目のシステインとの間のループは、通常小さく、1つまたは2つのアミノ酸のみを含む。7番目のシステインと8番目のシステインとの間のループにおけるアミノ酸は、一般に、最も高度に保存されており、(G,A)−(S,N)−(S,N,T)−(D,N)−(G,N)のコンセンサス配列、および引き続く(T,S)−Yモチーフを含む。9番目のシステインと10番目のシステインとの間の領域は、一般に、別のアミノ酸とは別の2つの疎水性残基(具体的には、V、I、またはL)を含むモチーフを含む。
【0043】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質(これは、GDF−8を結合し得る)は、種々の方法を使用して単離され得る。例えば、本発明において例示されるように、GDF−8を用いるアフィニティー精製を使用し得る。さらに、cDNAライブラリーの低ストリンジェンシーのスクリーニングを使用し得るか、またはフォリスタチンドメインに指向するプローブを用いる縮重PCR技術を使用し得る。より多くのゲノムデータが利用可能になるにつれて、多数の配列プロファイリングプログラムおよび分析プログラム(例えば、MotifSearch(Genetics Computer Group,Madison,WI)、ProfileSearch(GCG)、およびBLAST(NCBI))を使用する類似性検索を使用して、公知のフォリスタチンドメインとの有意な相同性を含む、新規タンパク質を見出し得る。
【0044】
当業者は、GDF−8または少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質の両方が、その生物学的特性を変化させずに、そのそれぞれのアミノ酸配列に対する多数の保存的変化を含み得ることを認識する。このような保存的アミノ酸改変は、アミノ酸側鎖の置換基の相対的類似性(例えば、それらの疎水性、親水性、電荷、サイズなど)に基づく。種々の前述の特徴を考慮する例示的な保存的置換は、当業者に周知であり、そして以下が挙げられる:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン。さらに、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む機能的フラグメントを作製するために使用され得る。このようなフラグメントは、GDF−8を結合し、そして阻害すると予測される。本発明の実施形態において、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、そのモノマー形態であっても、活性なダイマー形態であっても、またはGDF−8潜在的複合体に複合体化されても、0.001nMと100nMとの間、または0.01nMと10nMとの間、または0.1nMと1nMとの間の親和性で、成熟GDR−8またはそのフラグメントに特異的に結合する。
【0045】
(ヌクレオチドおよびタンパク質の配列)
必ずしも必要ではないが、所望であれば、当業者は、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む新規タンパク質のアミノ酸または核酸の配列を決定し得る。例えば、本発明は、図6〜9に示されるように、GASP1およびGASP2のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を提供する。
【0046】
本発明はまた、このような核酸配列およびアミノ酸配列の改変体、ホモログ、およびフラグメントを包含する。例えば、核酸配列またはアミノ酸配列は、ネイティブなタンパク質の核酸またはアミノ酸の配列に対して、少なくとも70%〜79%同一、または少なくとも80%〜89%同一、または少なくとも90〜95%同一、または少なくとも96%〜100%同一の配列を含み得る。当業者は、GDF−8に結合する領域が、結合に関与しないこのタンパク質の他の部分より、さほど配列の変動に許容性ではなくあり得ることを認識する。従って、タンパク質のこれらの非結合領域は、そのタンパク質の結合特性を有意には変化させない実質的なバリエーションを含み得る。しかし、当業者はまた、多くの変化が、その標的に対するタンパク質の親和性を特異的に増加させるためになされ得ることを認識する。このような親和性を増加させる変化は、代表的に、このタンパク質を変化させること(これは、結合領域においてであり得る)、およびGDF−8を結合する能力またはその結合の強度を試験することによって実験的に決定される。全てのこのような代替は、結合領域の内部であっても外側であっても、本発明の範囲に含まれる。
【0047】
相対的な配列類似性または同一性は、Sequence Analysis Software Package TM(Version 10;Genetics Computer Group.Inc.,University of Wisconsin Biotechnology Center,Madison,WI)の「Best Fit」または「Gap」プログラムを使用して、決定され得る。「Gap」は、NeedlemanおよびWunschのアルゴリズム(NeedlemanおよびWunsch、1970)を利用して、一致の数を最大にし、そしてギャップの数を最小にする、2つの配列の整列を見出す。「Bestfit」は、2つの配列の間での類似性の最良のセグメントの最適な整列を実施する。最適な配列は、SmithおよびWatermanの局所相同性アルゴリズム(SmithおよびWaterman、1981;Smithら、1983)を使用して、ギャップを挿入して、一致の数を最大にすることによって、見出される。
【0048】
上記の配列分析ソフトウェアパッケージは、本発明により開示されたヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の相同性を同定するための、多数の他の有用な配列分析ツールを備える。例えば、「BLAST」プログラム(Altschulら、1990)は、特定のデータベース(例えば、NCBIにて維持される配列データベース)中の問い合わせ配列(ペプチドまたは核酸のいずれか)に対する配列類似性について検索する;「FastA」(LipmanおよびPearson,1985;PearsonおよびLipman,1988もまた参照のこと;Pearsonら、1990)は、問い合わせ配列と同じ型(核酸またはタンパク質)の配列群との間の類似性についてのPearsonおよびLipman検索を実行する;「TfastA」は、タンパク質問い合わせ配列とヌクレオチド配列の任意の群との間の類似性についてのPearsonおよびLipman検索を実行する(これは、比較を実行する前に、6つ全てのリーディングフレームでヌクレオチド配列を翻訳する);「FastX」は、フレームシフトを考慮して、ヌクレオチド問い合わせ配列とタンパク質配列の群との間の類似性についてPearsonおよびLipman検索を実施する。「TfastX」は、フレームシフトを考慮して、タンパク質問い合わせ配列とヌクレオチド配列の任意の群との間の類似性についてPearsonおよびLipman検索を実施する(これは、比較を実行する前に、核酸(nucleic)配列の両方の鎖を翻訳する)。
【0049】
(改変タンパク質)
本発明は、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質のフラグメントを包含する。このようなフラグメントは、フォリスタチンドメインの全てまたは一部を含む可能性が高い。フラグメントは、フォリスタチンドメインとN末端との間、および/またはフォリスタチンドメインとC末端との間の配列を全て含んでも、一部含んでも、または含まなくてもよい。
【0050】
特定のアミノ酸は、タンパク質の活性(例えば、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質の結合特徴)に対して悪影響を及ぼさずに、タンパク質構造において他のアミノ酸で置換され得ることが、当業者に理解される。従って、種々の変化が、タンパク質の生物学的有用性または生物学的活性を感知されるほど喪失せずに、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質のアミノ酸配列またはこのタンパク質をコードするDNA配列中に作製され得ることが、本発明者らによって企図される。このような変化としては、欠失、挿入、短縮、置換、融合、モチーフ配列のシャッフリングなどが挙げられ得る。
【0051】
このような変化を作製する際に、アミノ酸のヒドロパシー指数が考慮され得る。タンパク質に対して、相互作用的な生物学的機能を付与することにおける、ヒドロパシーアミノ酸指数の重要性は、当該分野で一般に理解される(KyteおよびDoolittle(1982)J.Mol.Biol.,157:105−132)。アミノ酸の相対的なヒドロパシー特徴は、得られたタンパク質の二次構造に寄与し、これが、次いで、他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)とのタンパク質の相互作用を規定することが、受容されている。
【0052】
各アミノ酸は、その疎水性および電荷の特徴に基づいて、ヒドロパシー指数を割り当てられている(KyteおよびDoolittle,1982);これらは、イソロイシン(+4.5)、バリン(+4.2)、ロイシン(+3.8)、フェニルアラニン(+2.8)、システイン/システイン(+2.5)、メチオニン(+1.9)、アラニン(+1.8)、グリシン(−0.4)、スレオニン(−0.7)、セリン(−0.8)、トリプトファン(−0.9)、チロシン(−1.3)、プロリン(−1.6)、ヒスチジン(−3.2)、グルタミン酸(−3.5)、グルタミン(−3.5)、アスパラギン酸(−3.5)、アスパラギン(−3.5)、リジン(−3.9)およびアルギニン(−4.5)である。このような変化を作製する際に、アミノ酸の置換のヒドロパシー指数は、±2以内、±1以内、そして±0.5以内であり得る。
【0053】
類似のアミノ酸の置換が、親水性に基づいて効果的になされ得ることもまた、当該分野で理解される。米国特許第4,554,101号は、その隣接アミノ酸の親水性によって支配されるような、タンパク質の最も高い局所的平均親水性が、タンパク質の生物学的特性に相関することを記載している。
【0054】
米国特許第4,554,101号に詳述されるように、以下の親水性値が、アミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0)、リジン(+3.0)、アスパラギン酸(+3.0±1)、グルタミン酸(+3.0±1)、セリン(+0.3)、アスパラギン(+0.2)、グルタミン(+0.2)、グリシン(0)、スレオニン(−0.4)、プロリン(−0.5±1)、アラニン(−0.5)、ヒスチジン(−0.5)、システイン(−1.0)、メチオニン(−1.3)、バリン(−1.5)、ロイシン(−1.8)、イソロイシン(−1.8)、チロシン(−2.3)、フェニルアラニン(−2.5)およびトリプトファン(−3.4)。このような変化を作製する際に、アミノ酸の置換の親水性値は、±2以内、±1以内、そして±0.5以内であり得る。
【0055】
これらの改変は、このタンパク質の構造または生物学的機能が、この変化によって影響を受けないように、保存的であり得る。このような保存的アミノ酸改変は、アミノ酸側鎖置換基の相対的な類似性(例えば、それらの疎水性、親水性、電荷、大きさなど)に基づく。種々の上述の特徴を考慮する例示的な保存的置換は、当業者に周知であり、これらには、以下が挙げられる:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;そしてバリン、ロイシンおよびイソロイシン。少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質のアミノ酸配列は、タンパク質のその標的抗原への結合に悪影響が及ぼされない限り、任意の多数の保存的変化を有するように改変され得る。このような変化は、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質の結合部分の内側または外側に導入され得る。例えば、タンパク質の抗原結合部分の内側に導入された変化は、その標的に対するタンパク質の親和性を増大させるように設計され得る。
【0056】
(安定化改変)
安定化改変は、タンパク質を安定化し得るか、タンパク質のインビトロおよび/またはインビボの半減期を増強し得るか、タンパク質の循環半減期を増強し得るか、そして/あるいはタンパク質のタンパク質分解性の分解を減少し得る。このような安定化改変としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:融合タンパク質、グリコシル化部位の改変、および炭水化物部分の改変。安定化タンパク質は、改変されたGDFプロペプチドの全体的な安定性を増強する、任意のタンパク質であり得る。当業者に認識されるように、このような融合タンパク質は、必要に応じて、プロペプチド部分と安定化部分との間のリンカーペプチドを含み得る。当該分野で周知なように、得られた翻訳されたタンパク質が第一のタンパク質および第二のタンパク質の両方を含むように、第二のタンパク質が第一のタンパク質とインフレームで融合されるように、融合タンパク質が調製される。例えば、本発明において、融合タンパク質は、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質が、第二のタンパク質(例えば、安定化タンパク質部分)と融合されるように、調製され得る。このような融合タンパク質は、得られた翻訳されたタンパク質が、プロペプチド部分および安定化部分の両方を含むように、調製される。
【0057】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、グリコシル化され得るか、あるいはアルブミンタンパク質または非タンパク質性ポリマーに連結され得る。例えば、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、種々の非タンパク質性ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールまたはポリオキシアルキレン)の1つに、米国特許第4,640,835号;同第4,496,689号;同第4,301,144号;同第4,670,417号;同第4,791,192号または同第4,179,337号に示される様式で、連結され得る。タンパク質は、例えば、その循環半減期を増大するために、ポリマーに対する共有結合体化によって化学的に改変される。ポリマーおよびこれらをペプチドに結合させるための方法もまた、米国特許第4,766,106号;同第4,179,337号;同第4,495,285号および同第4,609,546号に示される。
【0058】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、ペグ化され得る。ペグ化は、身体におけるタンパク質の半減期を延長させるために、タンパク質にポリエチレングリコール(PEG)を結合させるプロセスである。少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質のペグ化は、GDF−8の最適な阻害のために必要なタンパク質の投与の用量および頻度を減少させ得る。この技術の概説は、Bhadraら、(2002)Pharmazie,57:5−29およびHarrisら、(2001)Clin.Pharmacokinet.,40:539−551に提供される。
【0059】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、IgG分子のFc領域に連結され得る。少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、IgG分子のFc領域に隣接して融合され得るか、またはリンカーペプチドを介してIgG分子のFc領域に結合され得る。このようなリンカーペプチドの使用は、タンパク質生化学の分野で周知である。Fc領域は、例えば、IgG1またはIgG4から誘導され得る。
【0060】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、変更された(すなわち、元のまたはネイティブのグリコシル化パターンから変更された)グリコシル化パターンを有するように改変され得る。本明細書中で使用する場合、「変更された」とは、1つ以上の炭化水素部分が欠失していること、そして/または元のタンパク質の1つ以上のグリコシル化部位が付加されていることを意味する。
【0061】
タンパク質のグリコシル化は、代表的に、N結合型またはO結合型のいずれかである。N結合型とは、アスパラギン残基の側鎖への、炭化水素部分の結合をいう。トリペプチド配列のアスパラギン−X−セリンおよびアスパラギン−X−スレオニン(ここで、Xは、プロリン以外の任意のアミノ酸である)は、アスパラギン側鎖への炭水化物部分の酵素的結合のための認識配列である。従って、ポリペプチド中のこれらのトリペプチド配列のいずれかの存在は、潜在的なグリコシル化部位を生成する。O結合型グリコシル化は、糖N−アセチルグルコサミン、ガラクトースまたはキシロースの1つの、ヒドロキシアミノ酸(最も一般的にはセリンまたはスレオニン)への結合をいうが、5−ヒドロキシプロリンまたは5−ヒドロキシリジンもまた、使用され得る。
【0062】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質へのグリコシル化部位の付加は、このタンパク質が上記のトリペプチド配列の1つ以上を含むように、アミノ酸配列を変更することによって、簡便に達成される(N結合型グリコシル化部位について)。この変更はまた、元のタンパク質の配列への、1つ以上のセリン残基またはスレオニン残基の付加、あるいはこれらによる置換によって、作製され得る(O結合型グリコシル化部位について)。簡略化すると、タンパク質のアミノ酸配列は、DNAレベルでの変化によって変更され得る。
【0063】
タンパク質の炭水化物部分の数を増加させる別の手段は、タンパク質のアミノ酸残基へのグリコシドの化学的または酵素的連結による。これらの手順は、N結合型グリコシル化またはO結合型グリコシル化についてのグリコシル化能を有する宿主細胞における、GDFペプチドインヒビターの産生を必要としない点で、利点を有する。使用される連結様式に依存して、糖は、以下に対して結合され得る:(a)アルギニンおよびヒスチジン、(b)遊離カルボキシル基、(c)遊離スルフヒドリル基(例えば、システインのもの)、(d)遊離ヒドロキシル基(例えば、セリン、スレオニンまたはヒドロキシプロリンのもの)、(e)芳香族残基(例えば、フェニルアラニン、チロシンまたはトリプトファンのもの)あるいは(f)グルタミンのアミド基。これらの方法は、WO 87/05330ならびにAplinおよびWriston(1981)CRC Crit.Rev.Biochem.,22:259−306に記載されている。
【0064】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質上に存在する任意の炭化水素部分の除去は、化学的にかまたは酵素的に達成され得る。化学的脱グリコシル化は、トリフルオロメタンスルホン酸または等価な化合物に対するタンパク質の曝露を必要とする。この処理は、アミノ酸配列をインタクトなままにしつつ、連結糖(N−アセチルグルコサミンまたはN−アセチルガラクトサミン)以外のほとんどまたは全ての糖の切断を生じる。
【0065】
化学的脱グリコシル化は、Hakimuddinら、(1987)Arch.Biochem.Biophys.,259:52;およびEdgeら(1981)Anal.Biochem.,118:131によって記載される。GDFペプチドインヒビター上の炭化水素部分の酵素的切断は、Thotakuraら(1987)Meth.Enzymol.,138:350に記載されるように、種々のエンドグリコシダーゼおよびエキソグリコシダーゼの使用によって達成され得る。
【0066】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、タンパク質アルブミンまたはアルブミンの誘導体に連結され得る。タンパク質およびポリペプチドをアルブミンまたはアルブミン誘導体に連結するための方法は、当該分野で周知である。例えば、米国特許第5,116,944号を参照のこと。
【0067】
(薬学的組成物)
本発明は、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質を含有する組成物を提供する。このような組成物は、薬学的使用および患者への投与に適切であり得る。これらの組成物は、代表的に、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む1つ以上のタンパク質、および薬学的に受容可能な賦形剤を含有する。本明細書中で使用する場合、句「薬学的に受容可能な賦形剤」は、薬学的投与と適合性の、任意または全ての、溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含む。薬学的に活性な物質のためのこのような媒体および薬剤の使用は、当該分野で周知である。これらの組成物はまた、補充的な、さらなる、または増強された治療機能を提供する、他の活性化合物を含み得る。これらの薬学的組成物はまた、投与のための指示書と共に、容器、パックまたはディスペンサー中に含まれ得る。
【0068】
本発明の薬学的組成物は、意図された投与経路と適合するように処方される。投与を達成するための方法は、当業者に公知である。例えば、投与は、静脈内、筋内または皮下であり得る。
【0069】
皮下適用のために使用される溶液または懸濁液は、代表的に、以下の成分のうち1つ以上を含む:滅菌希釈剤(例えば、注射用の水、生理食塩溶液、不揮発油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒);抗菌剤(例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン);抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム);キレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸);緩衝液(例えば、アセテート、シトレートまたはホスフェート):および張度調節のための薬剤(例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロース)。pHは、酸または塩基(例えば、塩酸または水酸化ナトリウム)を用いて調節され得る。このような調製物は、ガラスまたはプラスチックでできた、アンプル、使い捨てシリンジまたは多用量バイアル中に封入され得る。
【0070】
注射に適切な薬学的組成物としては、滅菌水溶液または分散物、および滅菌の注射可能な溶液または分散物の即座の調製のための滅菌粉末が挙げられる。静脈内投与について、適切なキャリアとしては、生理学的食塩水、静菌水、Cremophor ELTM(BASF,Parsippany,NJ)またはリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)が挙げられる。全ての場合において、この組成物は、滅菌でなければならず、そして容易な注入可能性が存在する程度まで、流体であるべきである。これは、製造および保存の条件下で安定でなければならず、そして微生物(例えば、細菌および真菌)の汚染作用に対して防止されなければならない。このキャリアは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)およびこれらの適切な混合物を含む、溶媒または分散媒体であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティングの使用によって、分散物の場合には必要な粒子サイズの維持によって、そして界面活性剤の使用によって、維持され得る。微生物の作用の防止は、種々の抗菌剤および抗真菌剤(例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなど)によって達成され得る。多くの場合、組成物中に、等張剤(例えば、糖、ポリアルコール(例えば、マンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウム))を含み得る。注射可能な組成物の延長された吸収は、吸収を遅延させる薬剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびセラチン)を組成物中に含むことによって、もたらされ得る。
【0071】
1実施形態において、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、身体からの迅速な排出に対して化合物を保護するキャリアを用いて調製される(例えば、制御放出組成物(移植物および微小カプセル化送達系を含む))。生体分解性、生体適合性のポリマー(例えば、エチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸)が使用され得る。このような処方物の調製のための方法は、当業者に明らかである。これらの材料はまた、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Ind.から市販で入手され得る。少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質を含有するリポソーム懸濁物もまた、薬学的に受容可能なキャリアとして使用され得る。これらは、例えば、米国特許第4,522,811号に記載されるような、当業者に公知の方法に従って、調製され得る。
【0072】
治療的に有用な薬剤(例えば、増殖因子(例えば、BMP、TGF−β、FGF、IGF)、サイトカイン(例えば、インターロイキンおよびCDF)、抗生物質ならびに処置される状態について有益な任意の他の治療剤)が、必要に応じて含まれ得るか、または、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質と同時もしくは連続的に投与され得る。
【0073】
投与の容易さのためおよび投薬の均一性のために、単位投薬形態で組成物を処方することが、特に有利である。本明細書中で使用する場合、単位投薬形態は、処置される被験体についての単一な投薬として適した、物理的に別個の単位をいい;各単位は、必要な薬学的キャリアと共同して、所望の治療効果を生じるように計算された所定量の活性化合物を含む。本発明の単位投薬形態についての仕様は、活性化合物の独自の特徴および達成されるべき特定の治療効果、ならびに個体の処置のためにこのような活性化合物を調合する分野における特有の制限によって決定され、そしてこれらに直接依存する。
【0074】
(処置適応症)
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、ヒトまたは動物における種々の医学的障害を、予防、診断または処置するために有用である。従って、本発明は、筋細胞および組織に関連する疾患および障害を処置するための方法を提供し、この方法は、疾患の症状を緩和するのに十分な量で、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む少なくとも1種のタンパク質を含有する組成物を、被験体に投与する工程による。このような障害としては、以下が挙げられる:筋ジストロフィー(以下が挙げられるが、これらに限定されない:重篤もしくは良性のX連鎖筋ジストロフィー、肢帯筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィー(myotinic dystrophy)、遠位筋ジストロフィー、進行性ジストロフィー性眼筋麻痺(dystrophicophthalmoplegia)、眼咽頭筋ジストロフィー、デュシェーヌ筋ジストロフィーおよびフクヤマ型先天性筋ジストロフィー);筋萎縮性側索硬化症(ALS);筋萎縮症;器官萎縮症;脆弱性(frailty);手根管症候群;うっ血性閉塞性肺疾患;先天性ミオパシー;先天性ミオトニー;家族性周期性四肢麻痺;発作性ミオグロビン尿症;重症筋無力症;イートン−ランバート症候群;続発性筋無力症;脱神経萎縮症;発作性筋萎縮症;ならびに筋肉減少症(sarcopenia)、悪液質および他の筋るいそう症候群。本発明はまた、筋肉組織に対する外傷性または慢性の損傷に関連する。
【0075】
筋肉の疾患および障害についての治療を提供することに加えて、本発明は、異常なグルコース恒常性から生じる代謝性の疾患または障害を予防または処置するための方法もまた、提供する。このような疾患または障害としては、以下が挙げられる:代謝性の疾患および障害(例えば、インスリン依存性(1型)糖尿病、非インスリン依存性(2型)糖尿病)、高血糖症、グルコース寛容減損、代謝症候群(例えば、X症候群)、肥満および外傷によって誘導されるインスリン抵抗性(例えば、熱傷または窒素不均衡)、脂肪組織障害(例えば、肥満)または骨変性疾患(例えば、特に、年配および/または閉経後の女性における、骨粗鬆症;グルココルチコイド誘導性の骨粗鬆症;骨減少症;変形性関節症;および骨粗鬆症関連の骨折)。なおさらなる例としては、慢性のグルココルチコイド治療に起因する骨質量の低下、未成熟性腺不全、アンドロゲン抑制、ビタミンD欠乏症、続発性副甲状腺機能亢進症、栄養欠乏症および神経性食欲不振が挙げられる。
【0076】
正常なグルコース恒常性は、血中グルコースレベルにおける僅かな変化に応答して、膵臓のβ細胞によって分泌されるインスリンの、緻密に調節された調和を必要とする。インスリンの基本的作用の1つは、組織(特に筋肉および脂肪)への、血液からのグルコースの取り込みを刺激することである。
【0077】
従って、本発明は、真性糖尿病および関連障害(例えば、肥満または高血糖症)を処置するための方法を提供し、この方法は、疾患の症状を緩和するのに十分な量で、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む少なくとも1種のタンパク質を含有する組成物を、被験体に投与する工程による。2型すなわち、非インスリン依存性糖尿病(NIDDM)は、一部、以下の形質によって特徴づけられる:(1)末梢組織(特に骨格筋および脂肪細胞)におけるグルコース取り込みに対するインスリンの作用に対する抵抗性、(2)肝臓グルコース産生を阻害するインスリン作用の減損、および(3)インスリン分泌の調節不全(DeFronzo(1997)Diabetes Rev.5:177−269)。従って、2型糖尿病に罹患している被験体は、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質(これは、インスリンに対する感受性および細胞によるグルコース取り込みを増大させる)の投与によって、本発明に従って処置され得る。
【0078】
同様に、インスリン機能不全(例えば、抵抗性、不活性または欠損)および/または細胞への不十分なグルコース輸送によって特徴づけられる他の疾患および代謝障害もまた、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質(これは、インスリンに対する感受性および細胞によるグルコース取り込みを増大させる)の投与によって、本発明に従って処置され得る。
【0079】
(タンパク質を使用する処置方法)
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、GDF−8タンパク質(モノマー形態でも、ダイマーの活性化形態でも、GDF−8の潜在的複合体に複合体化されても)に関連する1つ以上の活性を、同じタンパク質が結合していないGDF−8タンパク質と比較して、阻害または低減するために使用され得る。1実施形態において、成熟GDF−8タンパク質の活性は、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質が結合した場合、フォリスタチンドメインを有するタンパク質が結合していない成熟GDF−8タンパク質と比較して、少なくとも50%、または少なくとも60、62、64、66、68、70、72、72、76、78、80、82、84、86もしくは88%、または少なくとも90、91、92、93もしくは94%、または少なくとも95%〜100%、阻害される。
【0080】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質を含有する薬学的調製物は、治療有効量で投与される。本明細書中で使用する場合、タンパク質の「有効量」とは、所望の生物学的結果を達成するために、GDF−8の活性を低減するのに十分な投薬量である。所望の生物学的結果は、筋肉量の増加、筋肉強度の増加、改善された代謝、減少した脂肪、または改善されたグルコース恒常性を含む、任意の治療利益であり得る。このような改善は、種々の方法(以下を測定する方法が挙げられる:痩せおよび太った体重(例えば、二重x線走査分析)、筋肉強度、血清脂質、血清レプチン、血清グルコース、糖化ヘモグロビン、グルコース寛容および糖尿病の二次的合併症の改善)によって測定され得る。
【0081】
一般に、治療有効量は、被験体の年齢、状態および性別、ならびに被験体における医学的状態の重篤度によって、変動し得る。投薬量は、必要に応じて、処置の観察された効果に適するちうに、医師によって決定さ得れ、そして調節され得る。少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む少なくとも1種のタンパク質を投与するために適切な投薬量は、5mg〜100mg、15mg〜85mg、30mg〜70mgまたは40mg〜60mgの範囲であり得る。タンパク質は、1つの用量で、または間隔を空けて(例えば、一日一回、週に一回および月に一回)、投与され得る。投薬スケジュールは、GDF−8に対するタンパク質の親和性、タンパク質の半減期または患者の状態の重篤度に依存して、調節され得る。一般に、これらの組成物は、投与後のより長い時間にわたって、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質の循環レベルを最大化するために、ボーラス用量で投与される。連続注入もまた、ボーラス投与後に使用され得る。
【0082】
それらの化合物の毒性効力および治療効力は、細胞培養物または実験動物における標準的な薬学的手順(例えば、LD50(集団の50%までの致死用量)およびED50(集団の50%における治療的な有効用量))によって決定され得る。毒性効果と治療効果との間の用量の比率は、治療係数であり、比LD50/ED50と表し得る。大きな治療係数を示す少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質が、使用され得る。
【0083】
細胞培養物アッセイおよび動物実験から得られるデータは、ヒトにおける使用のための投薬量範囲の評価において用いられ得る。このような化合物の投薬量は、ほとんど毒性のないED50または毒性のないED50を有する循環濃度の範囲内であり得る。投薬量は、使用される投薬形態および利用される投与経路に依存して、この範囲内で変化され得る。本発明において用いられる少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む任意のタンパク質について、治療的有効用量が、始めに細胞培養物アッセイから推定され得る。細胞培養物にて決定されたIC50を含む循環血漿濃度(すなわち、症状の最大阻害の半分を達成する試験タンパク質の濃度)範囲を達成するための用量が、動物モデルで処方され得る。血漿中レベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定され得る。任意の特定の投薬量の効果は、適切なバイオアッセイによってモニタリングされ得る。適切なバイオアッセイの例としては、GDF−8タンパク質/レセプター結合アッセイ、クレアチンキナーゼアッセイ、脂肪細胞におけるグルコース取込みに基づくアッセイ、および免疫学的アッセイが挙げられる。
【0084】
(DNAを投与する方法)
本発明はまた、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質のインビボ産生のための遺伝子療法を提供する。このような治療は、本明細書中に列挙されるような障害を有する細胞または組織へのポリヌクレオチド配列の導入によって、その治療効果を達成する。
【0085】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質のポリヌクレオチド配列の送達は、組換え発現ベクター(例えば、キメラウイルスまたはコロイド分散系)を使用して達成され得る。標的リポソームは、ポリヌクレオチド配列の治療的送達のために使用され得る。遺伝子治療のために使用され得る種々のウイルスベクターとしては、アデノウイルス、疱疹ウイルス、ワクシニア、またはレトロウイルスのようなRNAウイルスが挙げられる。レトロウイルスベクターは、マウスレトロウイルスまたは鳥レトロウイルスの誘導体であり得る。単一の外来遺伝子が挿入され得るレトロウイルスベクターの例としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:Moloneyマウス白血病ウイルス(MoMuLV)、Harveyマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MuMTV)、およびラウス肉腫ウイルス(RSV)。多くのさらなるレトロウイルスベクターが、複数の遺伝子に組込み得る。これらの全てのベクターは、選択マーカーのために遺伝子を移入または組込み得、その結果、導入された細胞が、同定および生成され得る。ウイルスベクターに目的のGDFプロペプチドのポリヌクレオチド配列を挿入することによって、特定の標的細胞上のレセプターに対するリガンドをコードする別の遺伝子と共に、ここで、例えば、本ベクターが、標的特異的である。
【0086】
レトロウイルスベクターは、例えば、糖、糖脂質、またはタンパク質を接着することによって標的を特異的にし得る。標的化は、抗体を使用することによって達成され得る。当業者は、特定のポリヌクレオチド配列が、レトロウイルスゲノムに挿入され得るか、またはウイルスエンベロープに結合され、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質のポリヌクレオチドを含むレトロウイルスベクターの標的特異的送達を可能にすることを認識する。1つの実施形態において、ベクターは、筋肉細胞または筋組織に標的化される。
【0087】
組換えレトロウイルスが、欠損であるので、これらは、LTR内の調節配列の制御下で、レトロウイルスの全ての構造遺伝子をコードするプラスミドを含むヘルパー細胞株を必要とする。これらのプラスミドは、パッケージング機構がキャプシド化のためのRNA転写物を認識するのを可能にするヌクレオチド配列を損失している。パッケージングシグナルの欠損を有するヘルパー細胞株としては、例えば、PSI.2、PA317およびPA12が挙げられるがこれらに限定されない。これらの細胞株は、ゲノムがパッケージングされないので、空のビリオンを産生する。レトロウイルスベクターは、パッケージングシグナルがインタクトであるような細胞に導入され得るが、構造遺伝子が、目的の他の遺伝子によって置き換えられる場合、ベクターは、パッケージングされ得、ベクタービリオンが産生される。
【0088】
あるいは、他の組織培養細胞が、従来のリン酸カルシウムトランスフェクションによって、レトロウイルス構造遺伝子(gag、polおよびenv)をコードするプラスミドで直接トランスフェクトされ得る。次いで、これらの細胞は、目的の遺伝子を含むベクタープラスミドでトランスフェクトされる。得られた細胞は、培養培地中にレトロウイルスベクターを放出する。
【0089】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質のポリヌクレオチドのための別の標的化送達系は、コロイド分散系である。コロイド分散系としては、高分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフィア、ビーズ、および脂質ベースの系(水中油エマルジョン、ミセル、混合ミセル、およびリポソーム)が挙げられる。リポソームは、人工的な膜小胞であり、これは、インビトロおよびインビボの送達ビヒクルとして有用である。RNA、DNAおよびインタクトなビリオンは、水性内部内にカプセル化され得、生物学的に活性な形態中に細胞を送達し得る(例えば、Fraleyら(1981)Trends Biochem.Sci.,6:77を参照のこと)。リポソームビヒクルを使用する効率的な遺伝子移送のための方法が、当該分野で公知である(例えば、Manninoら(1988)Biotechniques,6:682を参照のこと)。リポソームの組成物は、通常、リン脂質の組み合わせであり、通常、ステロイド(特に、コレステロール)との組み合わせである。他のリン脂質または他の脂質がまた、使用され得る。リポソームの物理的特性は、pH、イオン強度、および二価カチオンの存在に依存する。
【0090】
リポソーム産物において有用な脂質の例としては、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴリピド、セレブロシドおよびガングリオシドのようなホスファチジル化合物が挙げられる。例示的なリン脂質としては、タマゴホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、およびジステアロイルホスファチジルコリンが挙げられる。リポソームの標的化はまた、例えば、器官特異性、細胞特異性、および細胞小器官特異性に基づいて可能であり、これは、当該分野で公知である。
【0091】
GDF−8応答の調節における使用のための、1つの部位に対する少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質を発現する細胞を送達するために使用され得る、広い範囲の方法が存在する。本発明の1つの実施形態において、フォリスタチンタンパク質を発現する細胞は、直接適用(例えば、このような細胞のサンプルの組織損傷の部位への直接注射)によって送達され得る。これらの細胞は、精製され得る。このような細胞は、これらの移動度を部分的に妨げる培地またはマトリクス中に送達され、細胞の損傷の部位へ局在化し得る。このような培地またはマトリクスは、半固体(例えば、ペーストまたはゲル(ゲル様ポリマーを含む))であり得る。あるいは、培地またはマトリクスは、固体の形態であり得、多孔性固体は、細胞の固体マトリクスへの移動を可能にし、これらをそこに保持し、その一方で、細胞を増殖させる。
【0092】
(GDF−8の検出方法および単離方法)
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、インビボまたはインビトロで、GDF−8の存在またはレベルを検出するために使用され得る。これらのタンパク質の存在またはレベルを、医療状態と相関させることにより、当業者は、関連する医療状態を診断し得る。少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質によって診断され得る医療状態は、本明細書中に示される。
【0093】
このような検出方法は、当業者に周知であり、これとしては、ELISA、ラジオイムノアッセイ、イムノブロット、ウェスタンブロット、免疫蛍光、免疫沈降、および他の類似の技術が挙げられる。少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、GDF−8を検出するための1つ以上のこれらの技術を組込む診断キット中に、さらに提供され得る。このようなキットは、他の成分、パッケージング、指示書、またはタンパク質の検出およびキットの使用を補助するための他の物質を含み得る。
【0094】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質が、診断目的のために意図される場合、例えば、リガンド基(例えば、ビオチン)または検出可能なマーカー基(例えば、蛍光基、放射性同位元素または酵素)を用いて、これらタンパク質を改変することが所望され得る。所望される場合、タンパク質が、従来の技術を使用して、標識され得る。適切な標識は、発蛍光団、発色団、放射性同位元素、電子密度試薬、酵素、および特異的な結合パートナーを有するリガンドが挙げられる。酵素は、代表的に、これらの活性によって検出される。例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼは、通常、その3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)を青色色素に変換する能力によって検出され、分光光度計を用いて定量される。他の適切な結合パートナーとしては、例えば、ビオチンとアビジンまたはストレプトアビジン、IgGとプロテインA、および当該分野に公知の種々のレセプターリガンド結合が挙げられる。他の並べ替えおよび可能性が、当業者に容易に明らかであり、本発明の範囲内で、等価物として考慮される。
【0095】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインまたはそのフラグメントを含むタンパク質がまた、精製プロセスにおいてGDF−8を単離するために有用であり得る。1つの型のプロセスにおいて、タンパク質は、カラムまたは樹脂に組込むことによって固定化され得る。タンパク質は、GDF−8を結合するために使用され、次いで、結合GDF−8の遊離を生じる条件に供される。このようなプロセスは、GDF−8の市販の商品のために使用され得る。
【0096】
以下の実施例は、本発明の実施形態を提供する。当業者は、多数の改変およびバリエーションが本発明の意図および範囲を変更することなく実施され得ることを、認識する。このような改変およびバリエーションは、本発明の範囲内に包含されると考えられる。これらの実施例は、本発明を決して限定しない。本明細書中および特許請求の範囲中の全ての数は、用語「約」によって修飾される。なぜなら、例えば、投薬量における小さな変化は、本発明の範囲内であると考えられるからである。
【実施例】
【0097】
(実施例1:JA16結合ビーズの精製)
N−ヒドロキシスクシンイミジル−活性化ビーズ(4%ビーズ化アガロース、Sigma H−8635,St Louis MO)を、MilliQ−H2O中で洗浄し、10mg JA16/ml樹脂の最終濃度を可能にする比で、抗−GDF−8 JA16モノクローナル抗体(100mM MOPS(pH7.5)中、3〜4μg/μl)と共に4℃で4時間インキュベートした。ビーズを、100mM MOPS(pH7.5)およびリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で徹底的に洗浄し(Ausubelら(1999)Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons)、使用するまで、4℃でPBS中で保存した。コントロールビーズを、JA16抗体を使用せずに同様に調製した。
【0098】
(実施例2:アフィニティー精製)
JA16−結合体化ビーズまたはコントロールビーズをパックした全40μlを、4℃で3時間、15mlの正常Balb/Cマウス血清(Golden West Biologicals,Temecula CA)または30mlのプールされた正常ヒト血清(ICN Biomedical,Aurora OH)と共にインキュベートした。ビーズを、約10mlの冷1%Triton X−100/PBS中で2回洗浄し、約10mlの冷0.1%Triton X−100/PBS中で2回洗浄し、そして約1mlの冷PBSで2回洗浄した。タンパク質を、3回の連続工程において、ビーズから溶出した。第1に、ビーズを、「モック溶出」に処理し、ここで、100μlのPBSを、ビーズに添加し、4℃で30分インキュベートした。上清を、回収し、30μlの4×LDSサンプル緩衝液(Invitrogen,Carlsbad CA)と合わせた。第2に、ビーズを、「ペプチド溶出液」に供し、100μlのPBS中、1μg/μlの競合ペプチド(配列:DFGLDSDEHSTESRSSRYPLTVDFEAFGWD−COOH(配列番号12))を、ビーズに添加し、再度、4℃で30分間インキュベートした。上清を、前記のように回収した。第3に、ビーズを、「SDS溶出」技術を用いて処理し、ここで、30μlの4×LDS緩衝液(Invitrogen)および100μlのPBSを、ビーズに添加し、80℃まで10分間加熱し、その後、この上清を新鮮なチューブに移した。
【0099】
各溶出工程において遊離されるタンパク質の銀染色されたゲルが、図1に示される。図1に示される銀染色されたゲル中の2つのタンパク質バンド(約12および36kDa)は、JA16−結合体ビーズから特異的に溶出されたが、結合体化されないコントロールビーズからは溶出されなかった。
【0100】
(実施例3:マススペクトルメトリー)
サンプルは、NuPage 10×還元剤(Invitrogen)を用いて、10分間、80℃で還元し、そして110μMヨードアセトアミドを用いて、暗室中で30分間、22℃でアルキル化した。サンプルは、製造元の推奨(Invitrogen)に従って、10%NuPageBis−Trisゲルで、MES緩衝液系を用いて直ちに泳動し、そしてグルタルアルデヒドを含まない系(Shevchenkoら、(1996)Anal.Chem.,68:850〜858)を用いて銀染色した。バンドを、Sequencing Grade Modified Trypsin(Promega,Madison WI)を用いて、Abimed Digest Pro(Langenfeld,Germany)またはPro Gest Investigator(Genomics Solutions,Ann Arbor MI)内で切除および消化した。消化されたサンプルの量は、エバポレーションにより減少するので、最終量が約20μlになるように、1%酢酸を補充した。サンプル(5〜10μl)を、Picofrit針(New Objectives,Woburn MA)に詰め、10cm×内径75μmC18逆相カラム上にロードした。MS/MSデータを、LCQ DecaあるいはLCQ Deca XP(Finnigan,San Jose CA)質量分析計を用いて回収し、Sequestプログラム(Finnigan)を用いて、NCBI非重複データベースに対して検索した。他に記載されない限り、本明細書中に列挙している全てのペプチド配列は、点検マニュアルによって質が高いと判断され、そしてSequest評価システムによって、2.5以上のXcorrスコアを生成したMS/MSスペクトルに対応した。
【0101】
(実施例4:ウエスタンブロット)
タンパク質を、0.45μmのニトロセルロース膜(Invitrogen)に転写し、ブロッキング緩衝液(Tris緩衝生理食塩水(TBS:10mM Tris−HCl、pH7.5、150mM NaCl)に5%脱脂粉乳を加えたもの)の中で、4℃で一晩、ブロッキングした。次いで、ブロットを、ブロッキング緩衝液で、1:1000の割合に希釈した一次抗体と、室温で1〜3時間プローブし、TBSで5回洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合体化二次抗体とブロッキング緩衝液とを、室温で1〜3時間プローブし、前回と同様に洗浄する。シグナルを、West Pico Substrate(Pierce)を用いて、オートラジオグラフィーによって検出した。
【0102】
(実施例5:GDF−8の単離)
前述の実施例で記載された方法を用いた実験により、GDF−8を単離した。GDF−8の還元された形態は12kDaであるので、発明者らは、図1で示された銀染色ゲル由来の下側のバンド中のタンパク質を、成熟型GDF−8であると推測した。この仮説を確かめるため、発明者らはこのバンドを切除し、トリプシンで消化し、LC−MS/MSによって得られたペプチドのMS/MSスペクトルを得た。6つのトリプシンによって得られたペプチドに対応するMS/MSスペクトルは、図2Aおよび表1に示されるように、成熟型GDF−8がゲルのこの領域から、単離されたことを確認した。
【0103】
表1は、マウス血清およびヒト血清由来のJA16免疫沈降物中で見つけられた、GDF−8(配列番号13〜20)、GDF−8プロペプチド(配列番号21〜27)、FLRG(配列番号28〜30)およびGASP1(配列番号31〜35)由来のペプチドを列挙する。タンパク配列中の、すぐ前のアミノ酸は、それぞれのペプチドの括弧内に示されており、そしてペプチドの電荷状況(Z)およびSequestプログラム相関係数(Xcorr、確信の測度)を列挙する。表中に示している配列の番号は、単離したペプチドおよびその配列にのみ、言及する。括弧内にある前述のアミノ酸は、ペプチドを含んでおらず、参考文献のみを提供する。全てのスペクトルを、点検マニュアルによって確認した。
【0104】
興味深いことに、ウエスタンブロットはまた、プロセシングされていないGDF−8の全長(43kDa)に対応するバンドも含んでおり、この分子のいくつかの部分が、タンパク分解性のプロセシングを受けずに、血清中に分泌されている事を意味する(図2B)。プロセシングされていないGDF−8の存在を、発明者らのマススペクトロメトリーで確認した(図示せず)。従って、アフィニティ−精製方法は、正常マウス血清より、効果的にGDF−8を単離した。
【0105】
JA16抗体は、GDF−8および高い関連性のあるタンパク質BMP/GDF−11の両方を認識するが、発明者らは、BMP−11ペプチドの証拠を、マススペクトロメトリーによりアフィニティ−精製したサンプル中に見なかった。
【0106】
【表2】
【0107】
(実施例6:GDF−8に結合したタンパク質の単離)
一旦、アフィニティー精製技術によって、正常なマウス血清からGDF−8が首尾よく単離し得ることが確認されると、本発明者らは、自然の状態でGDF−8に結合するタンパク質の同定を進めた。図1に示されている銀染色ゲル上の36kDaのバンドを、上記のように分析した。マススペクトロメトリーによって、JA16免疫精製サンプルに特異的であるゲルのこの領域中において、2つのタンパク質を同定した。これらは、GDF−8プロペプチドおよびフォリスタチン様関連遺伝子(FLRG)であることが決定された。これらのタンパク質のそれぞれから同定されたペプチドを、表1に示す(配列番号13〜27)。高品質なMS/MSスペクトルが、GDF−8プロペプチド由来の6つの独特のペプチドおよびFLRG由来の3つの独特のペプチドを見出した;代表的なペプチドを、図3Aおよび図3Cに示す。さらに、これらのタンパク質の両方の存在を、GDF−8プロペプチドおよびFLRGのそれぞれに特異的なポリクローナル抗体を使用したウエスタンブロッティングによって確認した(図3Bおよび図3D)。従って、循環GDF−8は、インビボでGDF−8プロペプチドおよびFLRGに結合しているようである。
【0108】
(実施例7:GDF−8に結合する新規タンパク質の単離)
インビボで循環GDF−8複合体の主要な構成成分を特徴付けるために、野生型のマウス血清由来のネイティブなGDF−8およびその関連タンパク質を、アガロース結合体化抗GDF−8モノクローナル抗体(JA16)を使用したアフィニティー精製により単離した。JA16結合タンパク質を、PBS緩衝液のみを使用した溶出工程(モック溶出)、JA16の結合のためのGDF−8と競合し得るペプチドを使用した溶出、およびSDS界面活性剤を使用した溶出の溶出工程に供した。これらのサンプルを濃縮し、一次元SDS−PAGEゲル上で泳動して、銀染料で可視化した(図4)。JA16精製サンプルに独特な2つのバンド(GDF−8として同定された12kDaのバンド、ならびにGDF−8プロペプチドおよびFLRGの両方を含む36kDaのバンド)が見られる。
【0109】
インビボでGDF−8に結合された他のタンパク質を同定し得るかどうかを決定するために、本発明者らは、精製をおおよそ5倍にスケールアップし、マススペクトロメトリーを使用して、JA16免疫複合体中には存在するがネガティブコントロール中には存在しないタンパク質を検索した。この目的を達成するために、図4に示されるように、本発明者らは、10kDa〜200kDaの範囲の分子量に対応する、銀染色ゲルの領域を13のゲル切片に切り出した。これらのスライスのそれぞれを、ゲル内トリプシン消化およびLC−MS/MSに供した。公知のタンパク質の非リダンダントなNCBIデータベースに対するMS/MSスペクトルの結果の比較により、JA16免疫沈降物に特異的なさらなるいくつかのタンパク質は明らかにならなかったが、前記のタンパク質(成熟GDF−8、GDF−8プロペプチド、プロセシングされていないGDF−8、およびFLRG)が、これらのサンプル中ですべて同定された(図4)。JA16免疫複合体およびネガティブコントロールサンプルの両方において見出されたバックグラウンドのタンパク質には、大量の血清タンパク質(例えば、アルブミン、免疫グロブリンおよび相補的なタンパク質)が含まれていた。JA16サンプル中には、他のTGF−βスーパーファミリーメンバー(高度に関連するタンパク質BMP−11/GDF−11を含む)の証拠は無かった。従って、これらの実験において、JA16抗体は、GDF−8を特異的に精製した。
【0110】
興味深いことに、JA16がインビトロでGDF−8/フォリスタチン複合体を免疫沈降し得るという事実があるにもかかわらず、本発明者らは、本発明者らのGDF−8免疫複合体中にフォリスタチンの証拠を見出せなかった(データは示さず)。フォリスタチンは、GDF−8とActRIIBレセプターとの会合をアンタゴナイズすることで、GDF−8活性を阻害することが示されている(LeeおよびMcPherron(2001)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、98:9306〜9311)。本発明者らの結果は、フォリスタチンは、通常の条件下では、循環GDF−8複合体の活性の調節において主要な役割は果たしていないことを示唆する。
【0111】
このMS/MS手順によるタンパク質の同定は、検索されるデータベースの内容に依存するので、本発明者らは、13サンプルから収集されたMS/MSスペクトルをセレラマウスゲノム配列から予測されるパンパク質のデータベースと比較することにより、図4由来のデータをさらに分析した。この分析により、JA16精製サンプルに特異的なさらなるタンパク質を同定し、そして本明細書中でこれをGDF関連血清タンパク質1(GASP1)と称する。このタンパク質を最初に同定したことにより、公的なゲノム配列決定の試みによって、この配列が、寄託番号gi|20914039で、NCBI nrデータベースに追加されている。
【0112】
高品質なMS/MSスペクトルに基づいて、GASP1配列に対応する5つのペプチドを同定した(表1(配列番号31〜35);図5AおよびB)。GASP1ペプチドに対応するスペクトルが、70〜80kDaのタンパク質を含むバンド3に見られた。しかし、おそらくこの領域中でバックグラウンドの免疫グロブリンおよびアルブミンが大量であることに起因して、このタンパク質に対応する特定のバンドは見えなかった(図4を参照のこと)。一般的には、SequestXcorrスコアが2.3以上であることが2+イオンにとって有意であると考えられている。偶然にも、本発明者らの実験において同定されたペプチドの1つ(配列=ECETDQECETYEK(配列番号31))が、このタンパク質をコードする2つのエキソンの間の接合部にかかっており、この例においてセレラの予想アルゴリズムの正確性が証明する。
【0113】
GASP1転写物およびGASP1タンパク質の配列を、実際のGASP1のクローニングの前に予測した(図6)。GASP1を、予測分子量63kDaを有する571アミノ酸のタンパク質であると予測した。これは、N末端に推定シグナル配列/切断部位、ならびにアミノ酸314およびアミノ酸514にN−グリコシル化のための潜在的な2つの部位を有する。PfamおよびBLASTによるGASP1タンパク質配列の解析(Altschulら(1990)J.Mol.Biol.、215:403〜410;Batemanら(2002)Nucleic Acids Res.、30:276〜280の技術に従った)により、GASP1は多くの保存ドメイン(WAPドメイン、フォリスタチン/カザル(Kazal)ドメイン、免疫グロブリンドメイン、二つのタンデムなクニッツ(Kunitz)ドメイン、およびネトリンドメインが挙げられる)を含んでいることが明らかになった(図14A)。WAPドメインは、元々は乳清酸性タンパク質中で同定されたものであり、4つのジスルフィド中心を形成する8つのシステインを含み、しばしば抗プロテアーゼ活性を有するタンパク質中で見出される(HennighausenおよびSippel(1982)Nucleic Acids Res.、10:2677〜2684;Seemullerら(1986)FEBS Lett.、199:43〜48)。フォリスタチンドメインはGDF−8とGASP1との間の相互作用を媒介すると考えられている。フォリスタチンドメインのC末端領域は、カザルセリンプロテアーゼインヒビタードメインとの類似性を含んでいる。GASP1の場合において、この領域は、フォリスタチンまたはFLRGに対してよりも、カザルドメインに対してずっと密接に関係しており、このことは、この領域がさらなるプロテアーゼインヒビター機能を有し得る可能性を示唆している。クニッツドメインは、元々はウシ膵臓トリプシンインヒビター中で同定されたものであり、またセリンプロテアーゼも阻害し、したがって、このクラスのタンパク質の制御におけるGASP1のあり得る役割が確立される。さらに、ネトリンドメインは、メタロプロテアーゼの阻害に関係している(BanyaiおよびPatthy、1999;Mottら、2000)。したがって、これらの保存領域の存在に基づいて、おそらくGDF−8の処理または潜在的GDF−8複合体の活性化を制御することで、GASP1はプロテアーゼ活性を阻害するようである。
【0114】
マウスセレラ転写産物データベースに対するBLAST検索により、>50%のGASP1との同一性を有するタンパク質が明かにされた。本明細書中ではこれをGASP2と称する。GASP2は、GASP1と同様のドメイン構造を含んでおり、このことは、これらのタンパク質が多効性プロテアーゼインヒビターの二つのメンバーファミリーを定義していることを示唆している(図14B)。興味深いことに、GASP1にのみ対応し、GASP2には対応しないペプチドが、本発明者らのJA16精製サンプル中で見出された。この結果は、GASP1およびGASP2がおそらく、異なる生物学的特異性を有していることを示唆している。GASP1およびGASP2は両方とも、ヒトにおいても保存されている(マウスと>90%の同一性)。ヒトGASP1の配列は、現在NCBI nrデータベースにおいて、登録番号gi|18652308として入手可能である。ヒト血清におけるGDF−8濃度は、マウス血清において見られるものよりもかなり低いが(Hillら(2002)J.Biol.Chem.、277:40735〜40741)、タンパク質のマススペクトロメトリー分析の感度により、本発明者らはヒト血清由来のJA16免疫沈降物からGASP1のヒトホモログに対応する3つのペプチドを単離した(表1)。対応するネガティブコントロール中には、これらのペプチドは1つも見出されなかった。繰り返しになるが、これらの実験においてヒトGASP2の証拠は無かった。したがって、GASP1とGDF−8との間の相互作用は、マウスとヒトとの間で保存されている。
【0115】
GDF−8は、骨格筋においてほぼ独占的に産生される。GASP1のmRNAの組織分布を決定するために、様々なマウス組織および様々な段階の胚から産生された1本鎖cDNAから、GASP1の551bpのフラグメントを増幅した(図10)。マウスGASP1フラグメントを、製造者の推奨に従ってAdvantage cDNA PCRキット(Clontech)(順方向プライマー:5' TTGGCCACTGCCACC
ACAATCTCAACCACTT 3'(配列番号46);逆方向プライマー:5' TCTCAGCATGGCCATGCCGCCGTCGA 3'(配列番号47))を使用
して、正規化されたマウス1本鎖cDNAパネル(Clontech、Palo Alto CA)から増幅した。GASP1は、かなり広範囲で発現している(特に、骨格筋および心臓において高度な発現を有する)ようである。重要な発現はまた、脳、肺、および精巣においても見られる。反対に、肝臓および腎臓は、比較的低いレベルのGASP1のmRNAを発現している。発生が進行するにつれて、GASP1のmRNAのレベルはかなり一定になり、おそらくマウスの胚形成における7日目と11日目との間でわずかにしか増加していない。
【0116】
(実施例8:ヒト血清およびマウス血清におけるGDF−8)
ヒト血清中のGDF−8濃度は、マウス血清に見られるものよりもかなり低い。GDF−8は治療上の標的としての可能性を有しているので、ヒトにおける循環するGDF−8複合体の組成を決定することが目的であった。この知識により、マウスモデルの妥当性を決定し、潜在的に別の治療上の標的を同定する。したがって、JA16ベースのGDF−8のアフィニティー精製をヒト血清を使用して繰り返した。マウスと比較してヒト血清におけるGDF−8が低レベルであることに起因して、成熟GDF−8およびGDF−8プロペプチド/FLRGに対応するバンドは見えなかった(図11A)。しかし、GDF−8の成熟領域を認識するポリクローナル抗体を使用したウエスタンブロティングにより、JA16精製サンプル中での成熟GDF−8および未処理のGDF−8の存在が明らかになった(図11B)。
【0117】
本発明者らは、成熟GDF8と共精製されるタンパク質を同定するために、高感度のマススペクトロメトリーを利用した。ネガティブコントロールおよびJA16結合体化ビーズの両方に由来するペプチド溶出サンプルに対応するレーンを、16片にスライスした。これらのゲルスライスを、以前のように、ゲル内トリプシン消化、ナノフローLC−MS/MS、およびSequestを用いた分析に供した。
【0118】
興味深いことに、JA16サンプルにおいてのみ特異的に同定され、ネガティブコントロールにおいては同定されないタンパク質は、成熟GDF−8、GDF−8プロペプチド、ヒトFLRG、およびGASP1のヒトホモログであった。これらのタンパク質の各々から見出されたペプチドを、表1において列挙し(配列暗号36〜45)、代表的なMS/MSスペクトルを図12において示す。したがって、インビボGDF−8複合体はマウスとヒトとの間で保存されているようである。
【0119】
(実施例9:マウスGASP1のクローニングおよび特徴付け)
推定GASP1配列を同定した後、マウスGASP1の実際の配列を決定することが目的であった。セレラ推定配列に基づいて、GASP1コード配列を、以下のプライマー(順方向プライマー:5' CACCATGTGTGCCCCAGGGTATCATCGG
TTCTGG 3'(配列番号50);逆方向プライマー:5' TTGCAAGCCCAGGAAGTCCTTGAGGAC 3'(配列番号51))を使用するPfuTurb
oポリメラーゼ(Stratagene)を用いたPCRによって、マウスの心臓のQUICKCLONE cDNA(Clontech)から増幅した。この反応由来のPCR産物は、1%アガロースゲル上で、おおよそ1700塩基対の単一の主要なバンドとして泳動した。次いで、増幅されたDNAを、インフレームのC末端V5−Hisタグを含むように、製造者の推奨に従ってpcDNA3.1D/V5−His−TOPOベクター(Invitrogen)のTOPO部位にクローニングした。全長cDNA挿入物を、両方の鎖について配列決定した。マウスGASP1クローンのヌクレオチド配列を図13に示す。推定アミノ酸配列(すなわち、288C:G;294G:A;615G:A;738A:G;768C:T;1407A:G;1419A:G;および1584C:G、ここで示されている位置の最初の塩基がセレラによって報告された塩基であり、2番目の塩基はクローンの配列決定から得られた塩基である;図6AおよびBを参照のこと)を変化させないウォッブルコドンにおける数塩基の置換を除いて、このクローンは推定セレラ配列に一致した。
【0120】
GASP1タンパク質のN末端処理を決定するために、本発明者らは、C末端V5−Hisタグと共にクローニングされたマウスGASP1(GASP1−V5−His)をコードする哺乳動物発現ベクターを用いて、COS1細胞をトランスフェクトした。48時間後に、無血清条件つき培地を収集し、抗V5ポリクローナル抗体(Sigma)を用いたウエスタンブロット分析によって分析した。より詳細には、無血清ダルベッコの改変イーグル培地中でFuGENE6試薬(Roche)を使用して、GASP1−V5−His/pcDNA3.1D−V5−His−TOPOまたは空ベクターを用いたCOS1細胞のトランスフェクションの48時間後に、条件つき培地を収集した。
【0121】
おおよそ80kDaで泳動する単一のバンドが見られ、GASP1が条件つき培地中に分泌されていることが証明された(データ未掲載)。この条件つき培地のおおよそ10mlを、Hisアフィニティーカラムに通し、さらに逆相クロマトグラフィーによって精製した。この精製スキームにより、クマシー染色されたSDS−PAGEゲル上に、全長GASP1の予測される大きさの1つのバンドが得られた。このバンドのエドマン配列決定により、N末端配列(L−P−P−I−R−Y−S−H−A−G−I(配列番号52))を決定した。したがって、GASP1のアミノ酸1〜29が、プロセッシングおよび分泌の間に取り除かれるシグナル配列を構成する。
【0122】
(実施例10:GDF−8プロペプチドおよび成熟GDF−8への組換え産生されたGASP1の結合)
次に、組換え産生されたGASP1が、マウス血清から単離されたGASP1と同様のGDF−8に対する結合パターンを有していることを決定した。組換えタンパク質を用いた免疫沈降のために、ベクターまたはGASP1を用いてトランスフェクトされた細胞由来の条件つき培地(400μl)を、1.2μgの組換え精製されたGDF−8タンパク質および/またはGDF−8プロペプチドタンパク質と組み合わせた(Thiesら、2001)。JA16(10μlパック量)または抗V5(30μl)と結合体化したアガロースビーズを、補充された条件つき培地と共に、4℃で2時間、インキュベートし、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中の1% 冷Tritonで2回、そしてPBSで2回洗浄した。ビーズを、DTTを含む1×LDS緩衝液(50μl)に再懸濁した。ウエスタンブロットを、先に記述したように行った(Hillら、2002)。
【0123】
GDF−8とGASP1との間の相互作用の確認およびさらなる特徴付けを行うために、本発明者らは、精製した組換えGDF−8および精製した組換えGDF−8プロペプチドを、ベクターコントロールまたはGASP1−5V−Hisのいずれかを用いてトランスフェクトされたCOS1細胞由来の条件つき培地と共にインキュベートした。次いで、本発明者らはJA16結合体化アガロースビーズを使用して、GDF−8を免疫沈降し、ウエスタンブロットを使用して、GASP1とGDF−8プロペプチドとの共精製を調べた(図15A)。GASP1(レーン3)およびGDF−8プロペプチド(レーン1)の両方とも、GDF−8と共に共免疫沈降されており、GDF−8がこれらのタンパク質の両方と相互作用し得ることが証明された。これらの実験における非特異的な結合の可能性を除いて、GASP1およびプロペプチドの両方とも、GDF−8が欠乏している場合にはJA16免疫沈降物中に検出されなかった(レーン4)。これら3つ全てのタンパク質が存在していた場合、GASP1およびGDF−8プロペプチドは両方とも、GDF−8を用いて沈降させられ、このことから、これらのタンパク質が三量体の複合体を形成し得る可能性が示唆された(レーン5)。しかし、本実験は、GASP1およびプロペプチドが別のGDF−8分子上の同じエピト−プに結合している可能性を取り除いていない。
【0124】
GASP1とGDF−8との間の相互作用をさらに確認するために、本発明者らはGDF−8および/またはGDF−8プロペプチドの組変えタンパク質を補充した条件つき培地からGASP1を沈降させることで、逆免疫沈降を実施した。これを達成するために、本発明者らは、GASP1上のC末端V5−HisタグのV5エピト−プに対して指向されたアガロース結合体化モノクローナル抗体を使用した。予想どおりに、GDF−8はGASP1と共に共免疫沈降し(図15B、レーン3およびレーン5)、さらにこれらのタンパク質間の直接的な相互作用が確認された。驚いたことに、GDF−8の非存在下でさえ、GDF−8プロペプチドはまた、GASP1と共精製され(レーン4)、このことは、GDF−8プロペプチドがGASP1に直接的に結合し得ることが示唆する。したがって、GASP1はGDF−8およびGDF−8プロペプチドの両方に、独立して結合する。このことは、成熟GDF−8と独占的に結合するFLRG(別のフォリスタチンドメインタンパク質)と正反対である(Hillら(2002)J.Biol.Chem.、277:40735−40741)。GDF−8およびプロペプチドの両方を添加すると、プロペプチドを単独で添加した場合に比べてプロペプチドのGASP1への結合が弱くなるのが一貫して見られる。この観察によって、GASP1が潜在的なGDF−8小複合体と結合し得ないことが示唆される。
【0125】
(実施例11:GDF−8活性およびBMP−11活性のGASP1媒介される阻害、しかしアクチビン活性またはTGF−β1活性は阻害されない)
ルシフェラーゼレポーター構築物、pGL3−(CAGA)12(配列番号53)(Dennlerら、(1998)EMBO J.,17:3091−3100)を、A204またはRD横紋筋肉腫細胞に過渡的にトランスフェクトした。ベクターまたはGASP1トランスフェクトされた細胞由来の馴化培地の希釈液を、37℃で30分間10ng/ml GDF−8、10ng/ml BMP−11、10ng/ml rhアクチビンA(R&D Systems)、または0.5ng/ml rh TGF−β1(R&D Systems)と共にインキュベートした。ルシフェラーゼ活性を、Thiesら、(2001)Growth Factors,18:251−259およびZimmersら、(2002)Science,296:1486−1488に従って測定した。このアッセイにおいて、A204細胞は、GDF−8、BMP−11およびアクチビンに応答するが、TGF−β1にあまり応答しない。RD細胞は、GDF−8およびTGF−β1の両方に応答する。従って、我々は、A204細胞を用いてGDP−8、BMP−11、およびアクチビンを阻害するGASP1の能力を試験し、そしてRD細胞を用いてTGF−βおよびGDF−8の活性をモニタリングした。GDF−8についての結果を、A204細胞から示すが、RD細胞と類似であった。これらの増殖因子の各々により誘導されるルシフェラーゼ活性の濃度依存性を測定する標準曲線を、各々の実験について作成した(データは示さず)。用いられる増殖因子濃度が、この曲線の直線領域に合致し、その結果、濃度における小さな変化が、ルシフェラーゼ活性における測定可能な変化を生じる。
【0126】
2つのフォリスタチンドメインタンパク質、フォリスタチンおよびFLRGは、(CAGA)12(配列番号53)ルシフェラーゼ転写レポーターアッセイにおいてGDF−8活性を阻害するが、関連タンパク質、アクチビンおよびBMP−11の生物学的活性をまた、阻害する。(CAGA)12(配列番号53)レポーターアッセイにおけるGDF−8、BMP−11、アクチビン、およびTGF−β1活性を阻害するGASP1の能力をまた、試験した。
【0127】
V5−Hisタグ化GASP1またはベクターコントロールでトランスフェクトされたCOS細胞由来の馴化培地の種々の希釈液を、精製した組み換えGDF−8(10ng/ml)、BMP−11(10ng/ml)、アクチビン(10ng/ml)、またはTGF−β1(0.5ng/ml)と共にインキュベートし、(CAGA)12(配列番号53)レポーター構築物を発現する横紋筋肉腫細胞における増殖因子活性について、アッセイした。GASP1は、濃度依存様式においてGDF−8活性を強力に阻害した(図16A)。GASP1は同様に、このアッセイにおけるBMP−11の活性を阻害し(図16B)、このことは、成熟GDF−8およびBMP−11が高度に保護され、そして11アミノ酸のみが異なるために、予期された。驚くべきことに、GASP1は、アクチビンまたはTGF−β1の活性を阻害せず(図16CおよびD)、フォリスタチン自体によっては示されない非常に高度なレベルの特異性を示唆する。従って、GASP1は、GDF−8およびBMP−11の阻害において特異性を示す。
【0128】
GDF−8についてのGASP1の親和性を、レポーター遺伝子アッセイにおけるGDF−8の阻害についてのIC50を決定することにより評価した。GASP1−V5−Hisタンパク質を、コバルト親和性カラム上の調整された馴化培地から精製し、上記のように溶出した。GASP1を含む画分を、BioSepS3000カラム(Phenomenex)を用いるPBSにおけるサイズ除外クロマトグラフィーによりさらに精製した。図17に示されるように、GASP1が、およそ3nMのIC50でGDF−8を阻害した。
【0129】
(実施例12:筋肉障害の処置)
GASP1を、表2に記載のGDF−8の機能化に関する疾患または障害を患う患者に投与し得る。患者は、一度にまたは間隔を空けて、例えば毎日一回、組成物を摂取し、彼らの疾患または障害の症状を改善させる。例えば、筋肉障害に関する症状が、筋肉質量、筋肉活性、およびまたは筋肉調和によって測定されるように、改善される。このことは、本発明の組成物が、GDF−8の機能化に関する疾患または障害(例えば、筋肉障害)の処置に有用であることを示す。
【0130】
【表3】
【0131】
本願にわたって引用された全ての参考文献、特許および公開された特許出願の完全な内容が、本明細書中で参考として援用される。前述の詳細な説明が、例示目的のみのために与えられた。広範囲の変化および改変を、上記の実施形態に対して行い得る。従って添付の特許請求の範囲(全ての等価物を含む)が、本発明の範囲を規定するよう意図されることが理解されるべきである。
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国仮出願番号60/357,845(2002年2月21日出願)および同第60/434,644(2002年12月20日出願)の利益を主張する。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、増殖分化因子−8(growth and differentiation factor−8)(GDF−8)のレベルまたは活性を調節する、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質の使用に関する。より具体的には、本発明は、GDF−8のレベルまたは活性の調節に関連する障害を処置するための、少なくとも1つのフォリスタチンドメイン(フォリスタチン自体を除く)を含むタンパク質の使用に関する。本発明は、筋疾患および筋障害(特に、筋組織の増加が治療上有益である筋疾患および筋障害)を処置するために有用である。本発明はまた、代謝、脂肪組織、および骨変性に関連する疾患および障害を処置するために有用である。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
増殖分化因子−8(GDF−8)(マイオスタチン(myostatin)としても公知である)は、構造的に関連する増殖因子のトランスホーミング増殖因子β(TGF−β)スーパーファミリーのメンバー(これらは全て、重要な生理学的増殖調節特性および形態形成特性を有する)である(Kingsleyら(1994)Genes Dev.,8:133−46;Hoodlessら(1998)Curr.Topics Microbiol.Immunol.,228:235−72)。GDF−8は、骨格筋量のネガティブレギュレーターであり、そしてその生物学的活性を調節する同定因子(identifying factor)への大きな関心が存在する。例えば、GDF−8は、発育中および成体の骨格筋において高く発現される。トランスジェニックマウスにおけるGDF−8ヌル変異は、骨格筋の顕著な肥大および過形成によって特徴付けられる(McPherronら(1997)Nature,387:83−90)。骨格筋量における同様の増加は、ウシにおけるGDF−8の天然に存在する変異から明らかである(Ashmoreら(1974)Growth,38:501−507;SwatlandおよびKieffer(1994)J.Anim.Sci.,38:752−757;McPherronおよびLee(1997)Proc.Nat.Acad.Sci.U.S.A.,94:12457−12461;ならびにKambadurら(1997)Genome Res.,7:910−915)。最近の研究はまた、ヒトにおけるHIV感染に関連する筋衰弱が、GDF−8タンパク質発現の増加によって達成されることを示している(Gonzalez−Cadavidら(1998)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,95:14938−43)。さらに、GDF−8は、筋特異的酵素(例えば、クレアチンキナーゼ)の産生および筋芽細胞増殖を調節し得る(WO 00/43781)。
【0004】
ヒトおよび動物の多くの障害は、筋組織の喪失または筋組織の機能的障害に関連する。今日まで、これらの障害のための信頼性のある治療または有効な治療はほとんど存在しない。しかし、これらの障害に関連する症状の重篤度は、これらの障害に罹患している患者における筋組織の量を増大させる治療を使用することによって実質的に減少され得る。これらの状態は治癒しないものの、このような治療は、これらの患者の生活の質を有意に改善し、そしてこれらの疾患の影響を幾分か回復し得る。従って、これらの障害に罹患している患者における筋組織の全体的な増大に寄与し得る新規の治療を同定することが当該分野において必要である。
【0005】
骨格筋におけるその増殖調節特性および形態形成特性に加えて、GDF−8はまた、他の多くの生理学的プロセス(例えば、グルコースホメオスタシス)、ならびに異常な状態(例えば、2型糖尿病および脂肪組織障害(例えば、肥満)の発展に関与し得る。例えば、GDF−8は、前脂肪細胞の脂肪細胞への分化を調節する(Kimら(2001)B.B.R.C.281:902−906)。したがって、GDF−8の調節は、これらの疾患を処置するためにも有用であり得る。
【0006】
GDF−8タンパク質は、アミノ末端プロペプチドおよびカルボキシ末端成熟ドメインからなる前駆体タンパク質として合成される(McPherronおよびLee,(1997)Proc.Nat.Acad.Sci.U.S.A.,94:12457−12461)。切断前に、この前駆体GDF−8タンパク質はホモダイマーを形成する。次いで、アミノ末端プロペプチドは、成熟ドメインから切断される。この切断されたプロペプチドは、その生物学的活性が不活性化されている成熟ドメインダイマーに非共有結合されたままであり得る(Miyazonoら(1988)J.Biol.Chem.,263:6407−6415;Wakefieldら(1988)J.Biol.Chem.,263:7646−7654;およびBrownら(1990)Growth Factors,3:35−43)。2つのGDF−8プロペプチドはGDF−8成熟ダイマーに結合すると考えられている(Thiesら(2001)Growth Factors,18:251−259)。この非活性化特性に起因して、このプロペプチドは、「潜伏関連ペプチド(latency−associated peptide)」(LAP)として公知であり、そして成熟ドメインとプロペプチドとの複合体は、低潜在性複合体(small latent complex)と通常称される(GentryおよびNash(1990)Biochemistry,29:6851−6857;Derynckら(1995)Nature,316:701−705;ならびにMassague(1990)Ann.Rev.Cell Biol.,12:597−641)。他のタンパク質はまた、GDF−8または構造的に関連するタンパク質に結合し、それらの生物学的活性を阻害することが公知である。このような阻害性タンパク質には、フォリスタチンが挙げられる(Gamerら(1999)Dev.Biol.,208: 222−232)。GDF−8の成熟ドメインは、プロペプチドが除去された場合に、ホモダイマーとして活性化されると考えられる。
【0007】
GDF−8は、多くの重大な生物学的プロセスの調節に関与することが明らかである。これらのプロセスでのその重要な機能に起因して、GDF−8は治療介入にとっての望ましい標的であり得る。特に、GDF−8の活性を阻害する治療剤は、ヒトまたは動物の疾患(筋組織の増大が治療的に有益である)を処置するために使用され得る。
【0008】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む公知のタンパク質は、多くの生物学的プロセス(特に、TGF−βスーパーファミリーシグナル伝達の調節および細胞接着のような細胞外マトリクス媒介性プロセスの調節)において役割を果たしている。フォリスタチン、フォリスタチン関連遺伝子(FLRG、FSRP)、およびフォリスタチン関連タンパク質(FRP)は全て、TGF−βによる転写調節を介してか(Bartholinら(2001)Oncogene,20:5409−5419;Shibanumaら(1993)Eur.J.Biochem.217:13−19)、またはTGF−βシグナル伝達経路をアンタゴナイズするその能力によって(Phillipsおよびde Kretser(1998)Front.Neuroendocrin.,19:287−322;Tsuchidaら(2000)J.Biol.Chem.,275:40788−40796;Patelら(1996)Dev.Biol.,178:327−342;Amthorら(1996)Dev.Biol.,178:343−362)のいずれかで、TGF−βシグナル伝達に関連する。括弧内のタンパク質の名称は、代替的な名称である。
【0009】
インスリン増殖因子結合タンパク質7(IGFBP7、mac25)(これは、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む)は、インスリンに結合し、その後のインスリンレセプターとの相互作用をブロックする。さらに、IGFBP7は、TGF−βファミリーメンバーであるアクチビンに結合されることが示されている(Kato(2000)Mol.Med.,6:126−135)。
【0010】
アグリンおよびアグリン関連タンパク質は、9つ以上のフォリスタチンドメインを含み、そして神経細胞から分泌され、アセチルコリンレセプターおよびシナプスの形成に関与する他の分子の凝集を促進する。フォリスタチンドメインが、シナプスに増殖因子を局在化するのに役立ち得ることが示唆される(Patthyら(1993)Trends Neurosci.,16:76−81)。
【0011】
オステオネクチン(SPARC、BM40)およびヘビン(SC1、mast9、QR1)は、細胞外マトリクスタンパク質と相互作用し、そして細胞増殖および細胞接着を調節するタンパク質に密接に関連する(Motamed(1999)Int.J.Biochem.Cell.Biol.,31:1363−1366;GirardおよびSpringer(1996)J.Biol.Chem.,271:4511−4517)。これらのタンパク質は、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む。
他のフォリスタチンドメインタンパク質は、記載されるか、またはNCBIデータベース(National Center for Biotechnology Information,Bethesda,Maryland,USA)に明らかにされているが、しかし、これらの機能は、現在未知である。これらのタンパク質としては、以下が挙げられる:U19878(G01639、トモレグリン(tomoregulin)−1に非常に類似)、T46914、ヒトGASP1(GDF−関連血清タンパク質1(GDF−associated serum protein 1);本明細書中に記載される;図7)、ヒトGASP2(WFIKKN;Trexlerら(2001)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,98:3705−3709;図9)、およびテスチカン(testican)(SPOCK)タンパク質のプロテオグリカンファミリー(Allielら(1993)Eur.J.Biochem.,214:347−350)。マウスGASP1(図6)およびマウスGASP2(図8)のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列はまた、Celeraデータベース(Rockville,MD)から決定された。本明細書中に記載されるように、予測されたアミノ酸配列を変更しなかったウォッブルコドン中のいくつかの塩基の置換を除いて、クローン化マウスGASP1のヌクレオチド配列は、予測されたCelera配列と一致した(図13を参照のこと)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】国際公開第00/43781号パンフレット
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の要旨)
従って、本発明は、独特な構造特性(すなわち、少なくとも1つのフォリスタチンドメインの存在)を含む、フォリスタチン以外のタンパク質に関する。フォリスタチン自体は、本発明によって包含されない。GDF−8タンパク質が、モノマー形態、ダイマー活性化形態であっても、GDF−8の潜伏複合体に複合体化されようとも、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、成熟GDF−8タンパク質またはそのフラグメントと特異的に反応する。少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、成熟GDF−8タンパク質上のエピトープに結合し得、この結合は、同じタンパク質によって結合されない成熟GDF−8タンパク質に対して、GDF−8に関連する1つ以上の生物学的活性の減少を生じる。
【0014】
本発明は、細胞に対するGDF−8の効果を調節するための方法を提供する。このような方法は、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質の有効量を投与する工程を包含する。本発明はまた、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質をコードするDNA分子を投与することによって細胞においてタンパク質を発現するための方法を包含する。
【0015】
本発明に従って、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、治療的有効用量で患者に投与され得、筋組織の増加が治療的に有益である医学的状態を処置または予防する。実施形態としては、GDF−8の生産、代謝または活性に関連する細胞および組織に関与する疾患、障害および損傷の処置が挙げられる。
【0016】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、薬学的調製物に調製され得る。モノマー形態、ダイマーの活性化形態であっても、GDF−8潜伏複合体に複合体化されようとも、薬学的調製物は、成熟GDF−8タンパク質またはそのフラグメントの結合を助ける他の成分を含み得る。
【0017】
さらに、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、モノマー形態、ダイマーの活性化形態であっても、GDF−8潜伏複合体に複合体化されようとも、診断ツールとして使用され得、成熟GDF−8タンパク質またはそのフラグメントを定量的または定性的に検出する。例えば、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質を使用して、細胞、体液、組織または生物中のGDF−8タンパク質の存在、非存在または量を検出し得る。検出された成熟GDF−8タンパク質の存在または量は、本明細書中に列挙される1つ以上の医学的状態と相関され得る。
【0018】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、モノマー形態、ダイマーの活性化形態であっても、GDF−8潜伏複合体に複合体化されようとも、成熟GDF−8タンパク質またはそのフラグメントを検出するための診断キット中に提供され得、そして本明細書中に記載される1つ以上の医学的状態と結果とを相関させるのを補助する。このようなキットは、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む少なくとも1つのタンパク質(これは、標識されているか、または標識されていない)およびこのタンパク質に結合する少なくとも1つの因子(例えば、標識化抗体)を含み得る。このキットはまた、実験的な検出の結果を比較し得る、適切な生物学的標準およびコントロールサンプルを含み得る。これはまた、緩衝液または洗浄溶液およびキットを使用するための指示書を備え得る。実験を行い得る構造的な成分(例えば、スティック、ビース、紙、カラムム、バイアルまたはゲル)を備え得る。
例えば、本発明は以下の項目を提供する。
(項目1)
薬学的組成物であって、以下:
i)GASP1、および
ii)少なくとも1つの薬学的に受容可能なキャリア
を含む、組成物。
(項目2)
前記GASP1が、安定化改変を有する、項目1に記載の組成物。
(項目3)
前記改変が、IgG分子のFc領域への融合である、項目2に記載の組成物。
(項目4)
前記IgG分子が、IgG1またはIgG4あるいはその誘導体である、項目3に記載の組成物。
(項目5)
前記IgG分子が、IgG1またはその誘導体である、項目4に記載の組成物。
(項目6)
前記IgG分子が、リンカーペプチドによって前記GASP1に融合される、項目3に記載の組成物。
(項目7)
前記改変が、改変されたグリコシル化部位を含む、項目2に記載の組成物。
(項目8)
前記改変が、少なくとも1つの炭水化物部分を含む、項目2に記載の組成物。
(項目9)
前記改変が、アルブミンまたはアルブミン誘導体を含む、項目2に記載の組成物。
(項目10)
前記改変が、非タンパク質性性ポリマーを含む、項目2に記載の組成物。
(項目11)
前記改変が、ペグ化を含む、項目2に記載の組成物。
(項目12)
診断キットであって、GASP1および以下:
i)GASP1に結合する少なくとも1種の試薬;
ii)少なくとも1種の緩衝液および/または溶液;ならびに
iii)少なくとも1種の構造成分
から選択される少なくとも1種の他のキット成分を含む、診断キット。
(項目13)
GASP1をコードする核酸を含む組換え細胞。
(項目14)
前記GASP1が、安定化改変を有する、項目13に記載の組換え細胞。
(項目15)
GASP1を投与する工程および該GASP1をGDF−8と相互作用させる工程を包含する、GDF−8を調節する方法。
(項目16)
治療有効用量のGASP1を投与する工程および該GASP1をGDF−8と相互作用させる工程を包含する、医学的障害を被る患者を処置する方法。
(項目17)
GASP1をコードする核酸を投与する工程、該核酸をGASP1に翻訳する工程および該翻訳されたGASP1をGDF−8と相互作用させる工程を包含する、医学的障害を被る患者を処置する方法。
(項目18)
GASP1をコードする核酸を細胞に投与する工程、該核酸を該細胞に侵入させる工程および該細胞に該GASP1を発現させる工程を包含する、GASP1をコードする核酸を発現する方法。
(項目19)
前記GASP1が、安定化改変を有する、項目16、17または18に記載の方法。
(項目20)
前記改変が、IgG分子のFc領域への融合である、項目19に記載の方法。
(項目21)
前記IgG分子が、IgG1またはIgG4あるいはその誘導体である、項目20に記載の方法。
(項目22)
前記IgG分子が、IgG1またはその誘導体である、項目21に記載の方法。
(項目23)
前記IgG分子が、リンカーペプチドによってGASP1に融合される、項目20に記載の方法。
(項目24)
前記改変が、改変されたグリコシル化部位を含む、項目19に記載の方法。
(項目25)
前記改変が、少なくとも1つの炭水化物部分を含む、項目19に記載の方法。
(項目26)
前記改変が、アルブミンまたはアルブミン誘導体を含む、項目19に記載の組成物。
(項目27)
前記改変が、非タンパク質性性ポリマーを含む、項目19に記載の方法。
(項目28)
前記改変が、ペグ化を含む、項目19に記載の方法。
(項目29)
前記患者が、筋組織の量または質の増加によって治療的に利益を得る、項目16に記載の方法。
(項目30)
前記障害が、筋障害である、項目16に記載の方法。
(項目31)
前記筋肉障害が、筋ジストロフィーである、項目30に記載の方法。
(項目32)
項目31に記載の方法であって、前記筋障害が、以下:重篤なまたは良性のX連鎖筋ジストロフィー、肢帯ジストロフィー、顔面肩甲上腕筋萎縮、筋緊張性ジストロフィー、遠位筋ジストロフィー(distal muscular dystrophy)、進行性ジストロフィー性眼筋麻痺(progressive dystrophic ophthalmoplegia)、眼咽頭筋ジストロフィー、デュセンヌ型筋ジストロフィーおよびフクヤマ型先天性筋ジストロフィーから選択される、方法。
(項目33)
項目30に記載の方法であって、前記障害が、以下:筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)、鬱血性閉塞性肺疾患(congenstive obstructive pulmonary disease)、先天性ミオパシー、先天性筋緊張症、家族性周期性四肢麻痺、発作性ミオグロビン尿症、重症筋無力症、イートン−ランバート症候群、二次筋無力症、脱神経萎縮症(denervation atrophy)、組織萎縮症(organ atrophy)、虚弱体質(frailty)、手根管症候群(carpal tunnel syndrome)、筋収縮症(muscle atrophy)、発作性筋萎縮症(paroxymal
muscle atrophy)、サルコペニア(sarcopenia)、悪液質、および他の筋るいそう症候群(muscle wasting syndrome)から選択される、方法。
(項目34)
前記障害が、筋組織に対する外傷および筋組織に対する慢性損傷から選択される筋障害である、項目30に記載の方法。
(項目35)
前記障害が、代謝疾患または代謝障害である、項目16に記載の方法。
(項目36)
前記障害が、インシュリン依存性(1型)糖尿病、インシュリン非依存性(2型)糖尿病、高血糖症、耐糖能異常、代謝症候群(例えば、X症候群)、外傷(例えば、火傷または窒素非平衡(nitrogen imbalance))によるインシュリン抵抗性または肥満症である、項目35に記載の方法。
(項目37)
前記障害が、肥満症のような脂肪組織障害である、項目16に記載の方法。
(項目38)
前記障害が、骨粗しょう症、グルココルチコイド誘導型骨粗しょう症、骨減少症(osteopenia)、変形性関節症(osteoarthritis)、または骨粗しょう症関連骨折、あるいは、長期にわたるグルココルチコイド治療、早熟性性腺機能不全(premature gonadal failure)、アンドロゲン抑制(androgen suppression)、ビタミンD欠乏症、二次性副甲状腺機能亢進症(secondary hyperparathyroidism)、栄養欠乏症、および拒食症(anorexia nervosa)が原因となる低い骨質量を含む他の障害のような骨変性疾患である、項目16に記載の方法。
(項目39)
前記GASP1が、同時あるいは1日間隔、1週間間隔または1ヶ月間隔で投与される、項目16に記載の方法。
(項目40)
前記GASP1が、5mg〜100mgの用量で投与される、項目16に記載の方法。
(項目41)
前記GASP1が、15mg〜85mgの用量で投与される、項目16に記載の方法。
(項目42)
前記GASP1が、30mg〜70mgの用量で投与される、項目16に記載の方法。
(項目43)
前記GASP1が、40mg〜60mgの用量で投与される、項目16に記載の方法。
(項目44)
項目1に記載の組成物であって、前記GASP1が、以下:
i)配列番号5;
ii)配列番号7;ならびに
iii)i)またはii)の置換変異体、付加変異体、および/または欠失変異体
から選択される、組成物。
(項目45)
項目1に記載の組成物であって、前記GASP1が、以下:
i)配列番号4;
ii)配列番号6;
iii)i)またはii)にコードされる配列の置換変異体、付加変異体、および/または欠失変異体をコードするヌクレオチド配列;ならびに
iv)i)またはii)にコードされるものと同じアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、
から選択されるヌクレオチドにコードされる、組成物。
(項目46)
薬学的組成物であって、以下:
i)GASP−1のフラグメントであって、以下:
a)フォリスタチンドメインを示す、配列番号5のアミノ酸174〜239;
b)フォリスタチンドメインを示す、配列番号7のアミノ酸110〜175;ならびに
c)a)またはb)の置換変異体、付加変異体、および/または欠失変異体
から選択される、フラグメント;ならびに
ii)少なくとも1つの薬学的に受容可能なキャリア
を含む、組成物。
(項目47)
項目46に記載の組成物であって、前記GASP1フラグメントが、以下:
i)フォリスタチンドメインをコードする、配列番号4のヌクレオチド520〜717;ii)フォリスタチンドメインをコードする、配列番号6のヌクレオチド328〜525;
iii)i)またはii)にコードされる配列の置換変異体、付加変異体、および/または欠失変異体をコードするヌクレオチド配列;ならびに
iv)i)またはii)にコードされるものと同じアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列、
から選択されるヌクレオチドにコードされる、組成物。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、野生型マウス血清からのGDF−8複合体の抗体精製を示す。銀染色還元ゲルは、アガロースビーズに共有結合したJA16モノクローナル抗体を使用して、野生型マウス血清から精製したタンパク質を示す。モック結合ビーズを用いたコントロール精製(0)を、並行して行った。次いで、緩衝液(mock溶出)、競合ペプチドおよびSDSサンプル緩衝液での溶出は、JA16結合体化ビーズからペプチドで特異的に溶出された2つの明らかなタンパク質バンドを示した(矢印によって示される)。
【図2A】図2は、正常なマウス血清から親和性精製された、サンプル中の成熟GDF−8およびプロセシングされていないGDF−8の同定を示す。図2Aは、親和性精製されたサンプル中の12kDaの明らかなバンドから同定されたGDF−8由来ペプチド(配列番号19)の代表的なMS/MSスペクトルを示す。N末端フラグメントイオン(bイオン)およびC末端フラグメントイオン(yイオン)の両方が明らかである。特に、最も強いプロリン含有ペプチドの一般的特徴であるyフラグメントイオンが、プロリン残基の前でフラグメント化から生じる。
【図2B】図2は、正常なマウス血清から親和性精製された、サンプル中の成熟GDF−8およびプロセシングされていないGDF−8の同定を示す。図2Bは、GDF−8の成熟領域を認識するポリクローナル抗体でプローブされたウェスタンブロットを示し、親和性精製されたサンプル中のGDF−8の存在を確認する。GDF−8の成熟形態およびプロセシングされていない形態の両方が、明らかである。
【図3A】図3Aは、正常なマウス血清から単離された循環GDF−8に結合するGDF−8プロペプチドおよびフォリスタチン様関連遺伝子(FLRG)を示す。36kDaバンドで同定されたGDF−8プロペプチド(配列番号23)からの代表的なMS/MSスペクトルを示す。
【図3B】図3Bは、正常なマウス血清から単離された循環GDF−8に結合するGDF−8プロペプチドおよびフォリスタチン様関連遺伝子(FLRG)を示す。図3Bは、GDF−8のプロペプチド領域を特異的に認識するポリクローナル抗体を用いてプローブ化された、親和性精製されたGDF−8複合体のウェスタンブロットを示し、GDF−8複合体中のこのタンパク質の質量スペクトル同定を確認する。短縮されたプロペプチドおよびプロセシングされていないGDF−8の両方は、より長い曝露で明らかであり、プロセシングされていないGDF−8はまた、SDS溶出サンプルにおいて見られる。
【図3C】図3Cは、正常なマウス血清から単離された循環GDF−8に結合するGDF−8プロペプチドおよびフォリスタチン様関連遺伝子(FLRG)を示す。FLRG由来ペプチド(配列番号30)(図3C)からの代表的なMS/MSスペクトルを示す。
【図3D】図3Dは、正常なマウス血清から単離された循環GDF−8に結合するGDF−8プロペプチドおよびフォリスタチン様関連遺伝子(FLRG)を示す。図3Dは、FLRGに対するモノクローナル抗体を用いてプローブした、親和性精製したGDF−8複合体のウェスタンブロットを示す。
【図4】図4は、血清中の主要なGDF−8結合タンパク質としてのGDF−8プロペプチド、FLRGおよび新規タンパク質を同定した大規模なGDF−8精製の徹底的な分析の結果を示す。銀染色ゲルを、ネガティブコントロールおよびJ16免疫沈降物の両方のペプチド溶出サンプルから13スライスに切り分けた。各スライス中のタンパク質を、トリプシンで消化し、そしてナノフローLC−MS/MSを使用して同定し、そしてデータベースで検出した。JA16サンプルに独特なタンパク質は、プロセシングされていないGDF−8および成熟GDF−8、GDF−8プロペプチド、FLRGならびに新規の複数ドメインプロテアーゼインヒビター(GDF−関連血清タンパク質1:GASP1)のみを含んだ。これらのタンパク質が、ゲルの顕著な領域から同定された。
【図5】図5は、新規の複数ドメインプロテアーゼインヒビター(GASP1)が、血清中のGDF−8に結合されることを示す。図5A(配列番号31に割当てられたペプチド)および5B(配列番号33に割当てられたペプチド)は、図4の銀染色ゲル中のバンド3で同定された、2つのGASP1ペプチドからの代表的なMS/MSスペクトルを示す。
【図6A】図6Aは、マウスGASP1に対する予測されたヌクレオチド配列を示す。
【図6B】図6Bは、マウスGASP1に対する予測された代替のヌクレオチド配列を示す。
【図6C】図6Cは、図6Aおよび6Bに示されたヌクレオチド配列によってコードされた予測されるアミノ酸配列を示す。2つのヌクレオチド配列によってコードされたタンパク質配列は、同一である。なぜなら、ヌクレオチド差異は、全てウォッブルコドン位置においてであるからである。フォリスタチンドメインは、太字かつ下線で示される。
【図7A】図7Aは、ヒトGASP1の予測されたヌクレオチド配列を示す。配列の末端は、アスタリスクによって示される。
【図7B】図7Bは、対応する予測されたアミノ酸配列を示す。フォリスタチンドメインは、太字かつ下線で示される。配列の末端は、アスタリスクによって示される。
【図7C】図7Cは、代替の開始部位を使用したヒトGASP1の予測されたヌクレオチド配列を示す。配列の末端は、アスタリスクによって示される。
【図7D】図7Dは、対応する予測されたアミノ酸配列を示す。フォリスタチンドメインは、太字かつ下線で示される。配列の末端は、アスタリスクによって示される。
【図8A】図8Aは、マウスGASP2に対する予測されたヌクレオチド配列を示す。
【図8B】図8Bは、対応する予測されたアミノ酸配列を示す。フォリスタチンドメインは、太字かつ下線で示される。
【図9A】図9Aは、ヒトGASP2に対する予測されたヌクレオチド配列を示す。
【図9B】図9Bは、対応する予測されたアミノ酸配列を示す。フォリスタチンドメインは、太字かつ下線で示される。
【図10】図10は、マウスGASP1が、多くの成体組織および発達の間で発現されることを示す。図は、マウスGASP1の組織発現プロファイルを示す。GASP1の551bpフラグメントは、Clontech(Palo Alto,CA)からの正規化された一本鎖cDNAパネルから増幅された。グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(G3PDH)の一部は、コントロールとして増幅された。G3PDH発現は、骨格筋で高く、そして精巣で低いことが公知である。cDNAパネルは、G3PDHに加えて、β−アクチン、ホスホリパーゼA2およびリボソームタンパク質S29に対して正規化された。
【図11】図11は、ヒト血清から単離されたタンパク質を示す。JA16免疫沈降物またはコントロールサンプル(0)からのタンパク質は、モックPBS溶出、競合ペプチド溶出またはSDS溶出において溶出された。ゲルの示された領域中のタンパク質を、トリプシンで消化し、そしてLS−MS/MSによって分析し、そしてデータベースで検索した。JA16サンプル中に存在するが、コントロールサンプル中に存在しないタンパク質は、成熟GDF−8(バンド16)、GDF−8プロペプチドおよびFLRG(バンド11)ならびにヒトGASP1(バンド4)であった。図11Bは、成熟GDF−8を認識する抗体を用いてプローブした同一のJA16免疫沈降物のウェスタンブロットを示す。ヒト血清から単離した、成熟GDF−8およびプロセシングされていないGDF−8に対応するバンドが明らかである。
【図12−1】図12は、GDF−8由来のペプチド、ならびにバンド4、11、および16(図11)から単離された関連するタンパク質の相対的質量スペクトルを示す。ペプチド配列ならびにN末端(bイオン)およびC末端(yイオン)が示される。同定されたペプチドの完全な列挙は、表1に提供される。GASP1ペプチド(配列番号44)(図12A)、FLRGペプチド(配列番号41)(図12B)、GFD−8プロペプチドペプチド(配列番号24)(図12C)、および成熟GDF−8ペプチド(配列番号13)(図12D)由来のスペクトルが示されている。
【図12−2】図12は、GDF−8由来のペプチド、ならびにバンド4、11、および16(図11)から単離された関連するタンパク質の相対的質量スペクトルを示す。ペプチド配列ならびにN末端(bイオン)およびC末端(yイオン)が示される。同定されたペプチドの完全な列挙は、表1に提供される。GASP1ペプチド(配列番号44)(図12A)、FLRGペプチド(配列番号41)(図12B)、GFD−8プロペプチドペプチド(配列番号24)(図12C)、および成熟GDF−8ペプチド(配列番号13)(図12D)由来のスペクトルが示されている。
【図13】図13は、クローニングされたマウスGASP1のヌクレオチド配列(配列番号48)およびアミノ酸配列(配列番号49)を示す。JA16アフィニティー精製したサンプルにおける質量分光分析法によって同定されたペプチドに、下線を引く。この配列の末端は、アスタリスクによって記される。
【図14】図14Aは、GASP1のドメイン構造を示す。GASP1は、アミノ酸29の後に、シグナル配列/切断部位を有する。さらに、GASP1は、2つのKunitz/BPTIセリンプロテアーゼインヒビタードメイン、フォリスタチンドメイン(Kazalセリンプロテアーゼインヒビターモチーフを含む)およびネツリンドメイン(これは、メタロプロテアーゼを阻害し得る)を含む。図14Bは、マウスおよびヒトのゲノム配列から推定された、GASP1およびGASP2の系統樹を示す。マウスGASP1およびヒトGASP1は、90%同一である。GASP1およびGASP2は、54%同一である。
【図15】図15は、組換え産生されたGASP1が、GDF−8とGDF−8プロペプチドとの両方に別個に結合することを示す。(A)JA16を使用して、GDF−8を、偽V5−HisまたはGASP1−V5−HisでトランスフェクトされたCOS細胞の馴化培地(組換え精製されたGDF−8および/またはプロペプチドを補充した)から免疫沈降させた。抗V5ポリクローナル抗体(上のパネル)、抗GDF−8ポリクローナル抗体(中央のパネル)、または抗プロペプチドポリクローナル抗体を用いたウェスタンブロットを使用して、これらのタンパク質が免疫沈降物中に存在したか否かを決定した。(B)組換え産生されたGASP1タンパク質を、抗V5タグ抗体によって、偽V5−His馴化培地またはGASp−V5−His馴化培地(組換え精製されたGDF−8および/またはプロペプチドを補充した)から免疫沈降させた。この免疫沈降物を、(A)においてと同様に、ウェスタンブロッティングによって分析した。
【図16−1】図16は、GASP1が、GDF−8および非常に関連するBMP−11の生物学的活性を阻害するが、アクチビンもTGF−βも阻害しないことを示す。偽V5−Hisトランスフェクト物(白丸)またはGASP1−V5−Hisトランスフェクト物(塗りつぶした四角)由来の馴化培地の種々の希釈物を、(A)10ng/ml GDF−8、(B)10ng/ml BMP−11、(C)10ng/mlアクチビン、または(D)0.5ng/ml TGF−βとともにインキュベートした、次いで、これらのサンプルを、A204(A〜C)細胞中またはRD(D)細胞中でのルシフェラーゼレポーター活性アッセイに供し、添加された増殖因子の活性を決定した。ルシフェラーゼ活性を、相対ルシフェラーゼ単位で示す。各増殖因子単独から得られた活性を、塗りつぶされた菱形および短い破線で示す。いずれの増殖因子も添加しない場合、アッセイにおけるバックグラウンド活性は、記号のない長い破線によって示されるように、低い。
【図16−2】図16は、GASP1が、GDF−8および非常に関連するBMP−11の生物学的活性を阻害するが、アクチビンもTGF−βも阻害しないことを示す。偽V5−Hisトランスフェクト物(白丸)またはGASP1−V5−Hisトランスフェクト物(塗りつぶした四角)由来の馴化培地の種々の希釈物を、(A)10ng/ml GDF−8、(B)10ng/ml BMP−11、(C)10ng/mlアクチビン、または(D)0.5ng/ml TGF−βとともにインキュベートした、次いで、これらのサンプルを、A204(A〜C)細胞中またはRD(D)細胞中でのルシフェラーゼレポーター活性アッセイに供し、添加された増殖因子の活性を決定した。ルシフェラーゼ活性を、相対ルシフェラーゼ単位で示す。各増殖因子単独から得られた活性を、塗りつぶされた菱形および短い破線で示す。いずれの増殖因子も添加しない場合、アッセイにおけるバックグラウンド活性は、記号のない長い破線によって示されるように、低い。
【図17】図17は、GDF−8のGASP1阻害の強さを示す。精製したGASP1を、RD細胞中での(CAGA)12-(配列番号53)ルシフェラーゼレポーターアッセイにおける20ng/mlのミオスタチンを阻害する能力について、試験した(塗りつぶされた四角)。GDF−8単独から生じる活性を、塗りつぶされた菱形および短い破線によって示す。増殖因子が添加されなかった場合に存在する活性を、長い破線によって示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(定義)
用語「フォリスタチンドメイン」とは、システインリッチ反復によって特徴付けられるアミノ酸ドメインをコードするアミノ酸ドメインまたはヌクレオチドドメインをいう。フォリスタチンドメインは、代表的に、65〜90のアミノ酸スパンを含み、そして10の保存されたシステイン残基、およびKazalセリンプロテアーゼインヒビタードメインに類似の領域を含む。一般に、システイン残基の間のループ領域は、フォリスタチンドメインにおける配列変動性を示すが、いくらかの保存が明らかである。4番目のシステインと5番目のシステインとの間のループは、通常小さく、1つまたは2つのアミノ酸のみを含む。7番目のシステインと8番目のシステインとの間のループにおけるアミノ酸は、一般に、最も高度に保存されており、(G,A)−(S,N)−(S,N,T)−(D,N)−(G,N)のコンセンサス配列、および引き続く(T,S)−Yモチーフを含む。9番目のシステインと10番目のシステインとの間の領域は、一般に、別のアミノ酸とは別の2つの疎水性残基(具体的には、V、I、またはL)を含むモチーフを含む。
用語「少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質)」とは、少なくとも1つであるが、おそらくは1つより多い、フォリスタチンドメインを含むタンパク質をいう。この用語はまた、ネイティブのタンパク質に関連する既知の生物学的活性を維持するようなタンパク質(特に、GDF−8結合活性に関与するタンパク質であり、アミノ酸配列に対する保存的変化または非保存的変化で改変された配列を含む)(フラグメント;置換変異、付加変異もしくは欠失変異を有するタンパク質、および融合タンパク質を含む)の、任意の改変体をいう。これらのタンパク質は、任意の供給源(天然または合成)に由来し得る。このタンパク質は、ヒトタンパク質であっても、動物供給源(ウシ、ニワトリ、マウス、ラット、ブタ、ヒツジ、シチメンチョウ、ヒヒ、および魚が挙げられる)に由来してもよい。フォリスタチン自体は、本発明に包含されない。
【0021】
用語「GDF−8」または「GDF−8タンパク質」は、特異的な増殖因子および分化因子をいう。これらの用語は、タンパク質の全長非プロセシング前駆体形態ならびに翻訳後切断から得られる成熟形態およびプロペプチド形態を含む。これらの用語はまた、アミノ酸配列に対する保存的変化または非保存的変化で改変された配列を含む、タンパク質と関連する公知の生物学的活性を維持するGDF−8の任意のフラグメントをいう。これらのGDF−8分子は、任意の供給源(天然供給源または合成供給源)に由来し得る。このタンパク質は、ヒト供給源由来であっても、動物供給源(ウシ、ニワトリ、マウス、ラット、ブタ、ヒツジ、シチメンチョウ、ヒヒ、およびサカナが挙げられる)由来であってもよい。種々のGDF−8分子は、McPherronら、(1997)Proc.Natl.Acad.Sci.USA,94:12457−12461に記載される。
【0022】
「成熟GDF−8」は、GDF−8前駆体タンパク質のカルボキシ末端ドメインから切断されたタンパク質をいう。成熟GDF−8は、モノマー、ホモダイマー、またはGDF−8潜伏複合体として存在し得る。インビボ条件またはインビトロ条件に依存して、成熟GDF−8は、任意のまたは全てのこれらの異なる形態の間で平衡を確立し得る。GDF−8は、ホモダイマーとして生物学的に活性であると考えられる。その生物学的に活性な形態において、成熟GDF−8はまた、「活性なGDF−8」ともいわれる。
【0023】
「GDF−8プロペプチド」は、GDF−8前駆体タンパク質のアミノ末端ドメインから切断されたポリペプチドをいう。GDF−8プロペプチドは、成熟GDF−8上のプロペプチド結合ドメインに結合し得る。
【0024】
「GDF−8潜伏複合体」は、成熟GDF−8ホモダイマーとGDF−8プロペプチドとの間に形成されるタンパク質の複合体をいう。2つのGDF−8プロペプチドがホモダイマー中の成熟GDF−8の2つの分子と結合し、不活性なテトラマー複合体を形成すると考えられる。潜伏複合体は、1つ以上のGDF−8プロペプチドの代わりに、またはそれらに加えて他のGDF−8インヒビターを含み得る。
【0025】
句「GDF−8活性」は、活性なGDF−8タンパク質に関連する1以上の増殖制御活性または形態形成活性をいう。例えば、活性なGDF−8は、骨格筋のネガティブな制御因子である。活性なGDF−8はまた、筋肉特異的酵素(クレアチンキナーゼ)の産生を調節し得、筋芽細胞増殖を刺激し得、そして脂肪細胞への前脂肪細胞の分化を調節し得る。GDF−8はまた、末梢組織(特に、骨格筋または脂肪細胞)におけるインスリンおよびグルコースの取り込みに対する感受性を増大すると考えられる。従って、GDF−8の生物学的活性としては、筋肉形成の阻害、筋肉細胞増殖の阻害、筋肉発達の阻害、筋肉質量の減少、筋肉特異的酵素の調節、筋芽細胞の細胞増殖の阻害、脂肪細胞への前脂肪細胞の分化の調節、インスリンに対する感受性の増加、グルコース取り込みの調節、グルコース血流遮断、ならびにニューロン細胞の発生および維持の調節が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
用語「単離された」または「精製された」は、その天然の環境から実質的に隔離された分子をいう。例えば、単離されたタンパク質は、それが由来する細胞供給源または組織供給源由来の細胞物質または他の夾雑タンパク質を実質的に含まない。句「実質的に細胞物質を含まない」は、単離されたタンパク質が少なくとも70%〜80%(w/w)純粋であり、必要に応じて少なくとも80%〜89%(w/w)純粋であり、少なくとも90〜95%純粋であり、あるいは少なくとも96%、97%、98%、99%または100%(w/w)純粋である調製物をいう。
【0027】
用語「LC−MS/MS」とは、特定の質量/電荷比の分子イオン、このイオンのフラグメントを単離し、そしてこのフラグメントイオンの質量/電荷比を記録するようにプログラムされた質量分析計とインラインの液体クロマトグラフィーをいう。ペプチドサンプルを分析する場合、この技術は、液体クロマトグラフィーを通しての、複雑なサンプルの上流での分離を可能にし、続いて、フラグメントイオン質量の記録および引き続くペプチド配列の決定がなされる。
【0028】
用語「MS/MS」とは、特定の質量/電荷比の分子イオンを単離し、そして得られたフラグメントイオンの質量/電荷比を記録するための、質量分光計を使用するプロセスをいう。このフラグメントイオンは、ペプチドの配列に関する情報を提供する。
【0029】
用語「処置する(treating)」および「処置(treatment)」は、治療処置および予防または防止処置の両方をいう。処置が必要な者は、特定の医療疾患をすでに有する個体および最終的にこの疾患を獲得し得る者(すなわち、防止処置を必要とする者)を含み得る。処置との用語は、障害の基礎にある原因に取り組む手段と、その原因に必ずしも影響を与えずに医学的障害の症状を減少させる手段との両方を包含する。従って、生活の質の改善および症状の軽減は、疾患の原因に反作用する手段と同様に、処置とみなされる。
【0030】
用語「医学的障害」とは、筋肉、骨、またはグルコースホメオスタシスの障害をいい、そしてGDF−8および/またはTGF−βスーパーファミリーの他のメンバー(例えば、BMP−11)に関連する障害が挙げられる。このような障害の例としては、代謝疾患および障害(例えば、インスリン依存性(1型)糖尿病、インスリン非依存性(2型)糖尿病、高血糖症、傷害性グルコース耐性、代謝症候群(例えば、症候群X)、および外傷(例えば、火傷または窒素不均衡)によって誘導されるインスリン耐性、ならびに脂肪組織障害(例えば、肥満症));筋肉および神経筋障害(例えば、筋ジストロフィー(重篤かまたは良性のX染色体連鎖性筋ジストロフィー、肢帯筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕筋ジストロフィー、筋緊張性(myotinic)ジストロフィー、遠位筋ジストロフィー、進行性ジストロフィー眼筋麻痺、眼咽頭筋ジストロフィー、デュシェーヌ筋ジストロフィー、およびFakuyama型先天性筋ジストロフィーが挙げられるが、これらに限定されない));筋萎縮性側索硬化症(ALS);筋萎縮症;器官萎縮症;脆弱(frailty);手根管症候群;先天性閉塞性肺疾患;先天性ミオパシー;先天性ミオトニー;家族性周期性四肢麻痺;発作性ミオグロビン尿症;重症筋無力症;イートン−ランバート症候群;二次筋無力症;脱神経萎縮症;痙攣筋萎縮症;および筋肉減少症(sarcopenia)、悪液質、ならびに他の筋肉消耗症候群が挙げられるが、これらに限定されない。他の例としては、骨粗鬆症(特に、年配および/または閉経後の女性において);糖質コルチコイド誘導骨粗鬆症;骨減少症;変形性関節症;骨粗鬆症関連骨折;および筋組織に対する外傷性傷害または慢性傷害が挙げられる。なおさらなる例としては、慢性糖質コルチコイド療法に起因する低い骨質量、早期の性線不全;アンドロゲン抑制、ビタミンD欠乏、二次上皮小体機能亢進症、栄養性欠損、および神経性食欲不振が挙げられる。
【0031】
用語「質量の増加」とは、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質での処置後に、この処置前に存在した筋肉質量の量と比較して多い量の筋肉の存在をいう。
【0032】
用語「治療的利益」とは、障害の症状の改善、障害の進行の遅延、または障害の伝播の停止をいう。治療的利益は、障害の局面(例えば、筋肉塊の量)を、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む少なくとも1つのタンパク質が投与された前後で比較することによって、決定される。
【0033】
用語「調節する」とは、タンパク質の活性、挙動または量を増加、減少または阻害することによって、タンパク質の特性を変化させることをいう。例えば、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、この活性を阻害することによって、GDF−8を調節し得る。
【0034】
用語「安定化改変」とは、タンパク質を安定化し得、タンパク質のインビトロでの半減期を増加させ得、タンパク質の循環半減期を増加させ得、そして/またはタンパク質のタンパク質分解を減少させ得る、当該分野において公知であるかまたは本明細書中に記載される、任意の改変である。このような安定化改変としては、融合タンパク質(例えば、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質および第二のタンパク質を含む融合タンパク質が挙げられる)、グリコシル化部位の改変(例えば、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質へのグリコシル化部位の付加が挙げられる)、および炭水化物部分の改変(例えば、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質からの炭水化物部分の除去が挙げられる)が挙げられるが、これらに限定されない。融合タンパク質を含む安定化改変の場合(例えば、第二のタンパク質が、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質に融合されるように)、第二のタンパク質は、「安定化剤部分」または「安定化剤タンパク質」と称され得る。例えば、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質(ヒトタンパク質)は、IgG分子と融合され得、ここで、IgGは、安定化剤タンパク質または安定化剤部分として働く。本明細書中で使用される場合、融合タンパク質の第二のタンパク質を言及することに加えて、「安定化剤部分」はまた、炭水化物部分、または非タンパク質性ポリマーのような、非タンパク質性改変を含む。
【0035】
用語「IgG分子のFc領域」とは、当業者に周知であるように、アイソタイプIgGの免疫グロブリンのFcドメインをいう。IgG分子のFc領域は、IgG分子(IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4)の、そのIgG分子のインビボでの血清半減期を増加させる原因である部分である。
【0036】
「インビトロ半減期」とは、生存生物と関係のないところで測定された、タンパク質の安定性をいう。インビトロ半減期を測定するためのアッセイは、当該分野において周知であり、そしてSDS−PAGE、ELISA、細胞ベースのアッセイ、パルス−チェイス、ウェスタンブロッティング、ノーザンブロッティングなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらおよび他の有用なアッセイは、当該分野において周知である。
【0037】
「インビボ半減期」とは、生物におけるタンパク質の安定性をいう。インビボ半減期は、当該分野において公知の多数の方法によって測定され得、インビボ血清半減期、循環半減期、および本明細書中の実施例に記載されるアッセイが挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
「インビボ血清半減期」とは、生物の血液中で循環するタンパク質の半減期をいう。当該分野において公知の方法を使用して、インビボ血清半減期を測定し得る。例えば、放射活性タンパク質が動物に投与され得、そして血清中の標識タンパク質の量が、経時的にモニタリングされ得る。
【0039】
明細書および図面に列挙される配列の同定を補助するために、以下の表が提供される。この表は、配列番号、図の位置、および配列の説明を列挙する。
【0040】
【表1】
【0041】
(発明の詳細な説明)
(少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質)
本発明は、独特の構造特徴(すなわち、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む)を有する、フォリスタチン以外のタンパク質に関する。フォリスタチン自体は、本発明によって包含されない。少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、GDF−8を結合し、そしてGDF−8を阻害すると考えられる。少なくとも1つのフォリスタチンドメインを有するタンパク質の例としては、フォリスタチン様関連遺伝子(FLRG)、FRP(flik、tsc36)、アグリン、オステオネクチン(SPARC、BM40)、ヘビン(SC1,mast9、QR1)、IGFBP7(mac25)、およびU19878が挙げられるが、これらに限定されない。GASP1(図6および7に提供されるヌクレオチド配列およびアミノ酸の配列を含む)ならびにGASP2(図8および9に提供されるヌクレオチド配列およびアミノ酸配列を含む)は、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質の、他の例である。
【0042】
フォリスタチンドメインは、上記のように、システインリッチな反復によって特徴付けられるアミノ酸ドメインをコードするアミノ酸ドメインまたはヌクレオチドドメインとして定義される。フォリスタチンドメインは、代表的に、65〜90のアミノ酸スパンを含み、そして10の保存されたシステイン残基、およびKazalセリンプロテアーゼインヒビタードメインに類似の領域を含む。一般に、システイン残基の間のループ領域は、フォリスタチンドメインにおける配列変動性を示すが、いくらかの保存が明らかである。4番目のシステインと5番目のシステインとの間のループは、通常小さく、1つまたは2つのアミノ酸のみを含む。7番目のシステインと8番目のシステインとの間のループにおけるアミノ酸は、一般に、最も高度に保存されており、(G,A)−(S,N)−(S,N,T)−(D,N)−(G,N)のコンセンサス配列、および引き続く(T,S)−Yモチーフを含む。9番目のシステインと10番目のシステインとの間の領域は、一般に、別のアミノ酸とは別の2つの疎水性残基(具体的には、V、I、またはL)を含むモチーフを含む。
【0043】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質(これは、GDF−8を結合し得る)は、種々の方法を使用して単離され得る。例えば、本発明において例示されるように、GDF−8を用いるアフィニティー精製を使用し得る。さらに、cDNAライブラリーの低ストリンジェンシーのスクリーニングを使用し得るか、またはフォリスタチンドメインに指向するプローブを用いる縮重PCR技術を使用し得る。より多くのゲノムデータが利用可能になるにつれて、多数の配列プロファイリングプログラムおよび分析プログラム(例えば、MotifSearch(Genetics Computer Group,Madison,WI)、ProfileSearch(GCG)、およびBLAST(NCBI))を使用する類似性検索を使用して、公知のフォリスタチンドメインとの有意な相同性を含む、新規タンパク質を見出し得る。
【0044】
当業者は、GDF−8または少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質の両方が、その生物学的特性を変化させずに、そのそれぞれのアミノ酸配列に対する多数の保存的変化を含み得ることを認識する。このような保存的アミノ酸改変は、アミノ酸側鎖の置換基の相対的類似性(例えば、それらの疎水性、親水性、電荷、サイズなど)に基づく。種々の前述の特徴を考慮する例示的な保存的置換は、当業者に周知であり、そして以下が挙げられる:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン。さらに、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む機能的フラグメントを作製するために使用され得る。このようなフラグメントは、GDF−8を結合し、そして阻害すると予測される。本発明の実施形態において、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、そのモノマー形態であっても、活性なダイマー形態であっても、またはGDF−8潜在的複合体に複合体化されても、0.001nMと100nMとの間、または0.01nMと10nMとの間、または0.1nMと1nMとの間の親和性で、成熟GDR−8またはそのフラグメントに特異的に結合する。
【0045】
(ヌクレオチドおよびタンパク質の配列)
必ずしも必要ではないが、所望であれば、当業者は、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む新規タンパク質のアミノ酸または核酸の配列を決定し得る。例えば、本発明は、図6〜9に示されるように、GASP1およびGASP2のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を提供する。
【0046】
本発明はまた、このような核酸配列およびアミノ酸配列の改変体、ホモログ、およびフラグメントを包含する。例えば、核酸配列またはアミノ酸配列は、ネイティブなタンパク質の核酸またはアミノ酸の配列に対して、少なくとも70%〜79%同一、または少なくとも80%〜89%同一、または少なくとも90〜95%同一、または少なくとも96%〜100%同一の配列を含み得る。当業者は、GDF−8に結合する領域が、結合に関与しないこのタンパク質の他の部分より、さほど配列の変動に許容性ではなくあり得ることを認識する。従って、タンパク質のこれらの非結合領域は、そのタンパク質の結合特性を有意には変化させない実質的なバリエーションを含み得る。しかし、当業者はまた、多くの変化が、その標的に対するタンパク質の親和性を特異的に増加させるためになされ得ることを認識する。このような親和性を増加させる変化は、代表的に、このタンパク質を変化させること(これは、結合領域においてであり得る)、およびGDF−8を結合する能力またはその結合の強度を試験することによって実験的に決定される。全てのこのような代替は、結合領域の内部であっても外側であっても、本発明の範囲に含まれる。
【0047】
相対的な配列類似性または同一性は、Sequence Analysis Software Package TM(Version 10;Genetics Computer Group.Inc.,University of Wisconsin Biotechnology Center,Madison,WI)の「Best Fit」または「Gap」プログラムを使用して、決定され得る。「Gap」は、NeedlemanおよびWunschのアルゴリズム(NeedlemanおよびWunsch、1970)を利用して、一致の数を最大にし、そしてギャップの数を最小にする、2つの配列の整列を見出す。「Bestfit」は、2つの配列の間での類似性の最良のセグメントの最適な整列を実施する。最適な配列は、SmithおよびWatermanの局所相同性アルゴリズム(SmithおよびWaterman、1981;Smithら、1983)を使用して、ギャップを挿入して、一致の数を最大にすることによって、見出される。
【0048】
上記の配列分析ソフトウェアパッケージは、本発明により開示されたヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の相同性を同定するための、多数の他の有用な配列分析ツールを備える。例えば、「BLAST」プログラム(Altschulら、1990)は、特定のデータベース(例えば、NCBIにて維持される配列データベース)中の問い合わせ配列(ペプチドまたは核酸のいずれか)に対する配列類似性について検索する;「FastA」(LipmanおよびPearson,1985;PearsonおよびLipman,1988もまた参照のこと;Pearsonら、1990)は、問い合わせ配列と同じ型(核酸またはタンパク質)の配列群との間の類似性についてのPearsonおよびLipman検索を実行する;「TfastA」は、タンパク質問い合わせ配列とヌクレオチド配列の任意の群との間の類似性についてのPearsonおよびLipman検索を実行する(これは、比較を実行する前に、6つ全てのリーディングフレームでヌクレオチド配列を翻訳する);「FastX」は、フレームシフトを考慮して、ヌクレオチド問い合わせ配列とタンパク質配列の群との間の類似性についてPearsonおよびLipman検索を実施する。「TfastX」は、フレームシフトを考慮して、タンパク質問い合わせ配列とヌクレオチド配列の任意の群との間の類似性についてPearsonおよびLipman検索を実施する(これは、比較を実行する前に、核酸(nucleic)配列の両方の鎖を翻訳する)。
【0049】
(改変タンパク質)
本発明は、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質のフラグメントを包含する。このようなフラグメントは、フォリスタチンドメインの全てまたは一部を含む可能性が高い。フラグメントは、フォリスタチンドメインとN末端との間、および/またはフォリスタチンドメインとC末端との間の配列を全て含んでも、一部含んでも、または含まなくてもよい。
【0050】
特定のアミノ酸は、タンパク質の活性(例えば、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質の結合特徴)に対して悪影響を及ぼさずに、タンパク質構造において他のアミノ酸で置換され得ることが、当業者に理解される。従って、種々の変化が、タンパク質の生物学的有用性または生物学的活性を感知されるほど喪失せずに、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質のアミノ酸配列またはこのタンパク質をコードするDNA配列中に作製され得ることが、本発明者らによって企図される。このような変化としては、欠失、挿入、短縮、置換、融合、モチーフ配列のシャッフリングなどが挙げられ得る。
【0051】
このような変化を作製する際に、アミノ酸のヒドロパシー指数が考慮され得る。タンパク質に対して、相互作用的な生物学的機能を付与することにおける、ヒドロパシーアミノ酸指数の重要性は、当該分野で一般に理解される(KyteおよびDoolittle(1982)J.Mol.Biol.,157:105−132)。アミノ酸の相対的なヒドロパシー特徴は、得られたタンパク質の二次構造に寄与し、これが、次いで、他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)とのタンパク質の相互作用を規定することが、受容されている。
【0052】
各アミノ酸は、その疎水性および電荷の特徴に基づいて、ヒドロパシー指数を割り当てられている(KyteおよびDoolittle,1982);これらは、イソロイシン(+4.5)、バリン(+4.2)、ロイシン(+3.8)、フェニルアラニン(+2.8)、システイン/システイン(+2.5)、メチオニン(+1.9)、アラニン(+1.8)、グリシン(−0.4)、スレオニン(−0.7)、セリン(−0.8)、トリプトファン(−0.9)、チロシン(−1.3)、プロリン(−1.6)、ヒスチジン(−3.2)、グルタミン酸(−3.5)、グルタミン(−3.5)、アスパラギン酸(−3.5)、アスパラギン(−3.5)、リジン(−3.9)およびアルギニン(−4.5)である。このような変化を作製する際に、アミノ酸の置換のヒドロパシー指数は、±2以内、±1以内、そして±0.5以内であり得る。
【0053】
類似のアミノ酸の置換が、親水性に基づいて効果的になされ得ることもまた、当該分野で理解される。米国特許第4,554,101号は、その隣接アミノ酸の親水性によって支配されるような、タンパク質の最も高い局所的平均親水性が、タンパク質の生物学的特性に相関することを記載している。
【0054】
米国特許第4,554,101号に詳述されるように、以下の親水性値が、アミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0)、リジン(+3.0)、アスパラギン酸(+3.0±1)、グルタミン酸(+3.0±1)、セリン(+0.3)、アスパラギン(+0.2)、グルタミン(+0.2)、グリシン(0)、スレオニン(−0.4)、プロリン(−0.5±1)、アラニン(−0.5)、ヒスチジン(−0.5)、システイン(−1.0)、メチオニン(−1.3)、バリン(−1.5)、ロイシン(−1.8)、イソロイシン(−1.8)、チロシン(−2.3)、フェニルアラニン(−2.5)およびトリプトファン(−3.4)。このような変化を作製する際に、アミノ酸の置換の親水性値は、±2以内、±1以内、そして±0.5以内であり得る。
【0055】
これらの改変は、このタンパク質の構造または生物学的機能が、この変化によって影響を受けないように、保存的であり得る。このような保存的アミノ酸改変は、アミノ酸側鎖置換基の相対的な類似性(例えば、それらの疎水性、親水性、電荷、大きさなど)に基づく。種々の上述の特徴を考慮する例示的な保存的置換は、当業者に周知であり、これらには、以下が挙げられる:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;そしてバリン、ロイシンおよびイソロイシン。少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質のアミノ酸配列は、タンパク質のその標的抗原への結合に悪影響が及ぼされない限り、任意の多数の保存的変化を有するように改変され得る。このような変化は、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質の結合部分の内側または外側に導入され得る。例えば、タンパク質の抗原結合部分の内側に導入された変化は、その標的に対するタンパク質の親和性を増大させるように設計され得る。
【0056】
(安定化改変)
安定化改変は、タンパク質を安定化し得るか、タンパク質のインビトロおよび/またはインビボの半減期を増強し得るか、タンパク質の循環半減期を増強し得るか、そして/あるいはタンパク質のタンパク質分解性の分解を減少し得る。このような安定化改変としては、以下が挙げられるが、これらに限定されない:融合タンパク質、グリコシル化部位の改変、および炭水化物部分の改変。安定化タンパク質は、改変されたGDFプロペプチドの全体的な安定性を増強する、任意のタンパク質であり得る。当業者に認識されるように、このような融合タンパク質は、必要に応じて、プロペプチド部分と安定化部分との間のリンカーペプチドを含み得る。当該分野で周知なように、得られた翻訳されたタンパク質が第一のタンパク質および第二のタンパク質の両方を含むように、第二のタンパク質が第一のタンパク質とインフレームで融合されるように、融合タンパク質が調製される。例えば、本発明において、融合タンパク質は、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質が、第二のタンパク質(例えば、安定化タンパク質部分)と融合されるように、調製され得る。このような融合タンパク質は、得られた翻訳されたタンパク質が、プロペプチド部分および安定化部分の両方を含むように、調製される。
【0057】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、グリコシル化され得るか、あるいはアルブミンタンパク質または非タンパク質性ポリマーに連結され得る。例えば、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、種々の非タンパク質性ポリマー(例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールまたはポリオキシアルキレン)の1つに、米国特許第4,640,835号;同第4,496,689号;同第4,301,144号;同第4,670,417号;同第4,791,192号または同第4,179,337号に示される様式で、連結され得る。タンパク質は、例えば、その循環半減期を増大するために、ポリマーに対する共有結合体化によって化学的に改変される。ポリマーおよびこれらをペプチドに結合させるための方法もまた、米国特許第4,766,106号;同第4,179,337号;同第4,495,285号および同第4,609,546号に示される。
【0058】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、ペグ化され得る。ペグ化は、身体におけるタンパク質の半減期を延長させるために、タンパク質にポリエチレングリコール(PEG)を結合させるプロセスである。少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質のペグ化は、GDF−8の最適な阻害のために必要なタンパク質の投与の用量および頻度を減少させ得る。この技術の概説は、Bhadraら、(2002)Pharmazie,57:5−29およびHarrisら、(2001)Clin.Pharmacokinet.,40:539−551に提供される。
【0059】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、IgG分子のFc領域に連結され得る。少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、IgG分子のFc領域に隣接して融合され得るか、またはリンカーペプチドを介してIgG分子のFc領域に結合され得る。このようなリンカーペプチドの使用は、タンパク質生化学の分野で周知である。Fc領域は、例えば、IgG1またはIgG4から誘導され得る。
【0060】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、変更された(すなわち、元のまたはネイティブのグリコシル化パターンから変更された)グリコシル化パターンを有するように改変され得る。本明細書中で使用する場合、「変更された」とは、1つ以上の炭化水素部分が欠失していること、そして/または元のタンパク質の1つ以上のグリコシル化部位が付加されていることを意味する。
【0061】
タンパク質のグリコシル化は、代表的に、N結合型またはO結合型のいずれかである。N結合型とは、アスパラギン残基の側鎖への、炭化水素部分の結合をいう。トリペプチド配列のアスパラギン−X−セリンおよびアスパラギン−X−スレオニン(ここで、Xは、プロリン以外の任意のアミノ酸である)は、アスパラギン側鎖への炭水化物部分の酵素的結合のための認識配列である。従って、ポリペプチド中のこれらのトリペプチド配列のいずれかの存在は、潜在的なグリコシル化部位を生成する。O結合型グリコシル化は、糖N−アセチルグルコサミン、ガラクトースまたはキシロースの1つの、ヒドロキシアミノ酸(最も一般的にはセリンまたはスレオニン)への結合をいうが、5−ヒドロキシプロリンまたは5−ヒドロキシリジンもまた、使用され得る。
【0062】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質へのグリコシル化部位の付加は、このタンパク質が上記のトリペプチド配列の1つ以上を含むように、アミノ酸配列を変更することによって、簡便に達成される(N結合型グリコシル化部位について)。この変更はまた、元のタンパク質の配列への、1つ以上のセリン残基またはスレオニン残基の付加、あるいはこれらによる置換によって、作製され得る(O結合型グリコシル化部位について)。簡略化すると、タンパク質のアミノ酸配列は、DNAレベルでの変化によって変更され得る。
【0063】
タンパク質の炭水化物部分の数を増加させる別の手段は、タンパク質のアミノ酸残基へのグリコシドの化学的または酵素的連結による。これらの手順は、N結合型グリコシル化またはO結合型グリコシル化についてのグリコシル化能を有する宿主細胞における、GDFペプチドインヒビターの産生を必要としない点で、利点を有する。使用される連結様式に依存して、糖は、以下に対して結合され得る:(a)アルギニンおよびヒスチジン、(b)遊離カルボキシル基、(c)遊離スルフヒドリル基(例えば、システインのもの)、(d)遊離ヒドロキシル基(例えば、セリン、スレオニンまたはヒドロキシプロリンのもの)、(e)芳香族残基(例えば、フェニルアラニン、チロシンまたはトリプトファンのもの)あるいは(f)グルタミンのアミド基。これらの方法は、WO 87/05330ならびにAplinおよびWriston(1981)CRC Crit.Rev.Biochem.,22:259−306に記載されている。
【0064】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質上に存在する任意の炭化水素部分の除去は、化学的にかまたは酵素的に達成され得る。化学的脱グリコシル化は、トリフルオロメタンスルホン酸または等価な化合物に対するタンパク質の曝露を必要とする。この処理は、アミノ酸配列をインタクトなままにしつつ、連結糖(N−アセチルグルコサミンまたはN−アセチルガラクトサミン)以外のほとんどまたは全ての糖の切断を生じる。
【0065】
化学的脱グリコシル化は、Hakimuddinら、(1987)Arch.Biochem.Biophys.,259:52;およびEdgeら(1981)Anal.Biochem.,118:131によって記載される。GDFペプチドインヒビター上の炭化水素部分の酵素的切断は、Thotakuraら(1987)Meth.Enzymol.,138:350に記載されるように、種々のエンドグリコシダーゼおよびエキソグリコシダーゼの使用によって達成され得る。
【0066】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、タンパク質アルブミンまたはアルブミンの誘導体に連結され得る。タンパク質およびポリペプチドをアルブミンまたはアルブミン誘導体に連結するための方法は、当該分野で周知である。例えば、米国特許第5,116,944号を参照のこと。
【0067】
(薬学的組成物)
本発明は、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質を含有する組成物を提供する。このような組成物は、薬学的使用および患者への投与に適切であり得る。これらの組成物は、代表的に、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む1つ以上のタンパク質、および薬学的に受容可能な賦形剤を含有する。本明細書中で使用する場合、句「薬学的に受容可能な賦形剤」は、薬学的投与と適合性の、任意または全ての、溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤などを含む。薬学的に活性な物質のためのこのような媒体および薬剤の使用は、当該分野で周知である。これらの組成物はまた、補充的な、さらなる、または増強された治療機能を提供する、他の活性化合物を含み得る。これらの薬学的組成物はまた、投与のための指示書と共に、容器、パックまたはディスペンサー中に含まれ得る。
【0068】
本発明の薬学的組成物は、意図された投与経路と適合するように処方される。投与を達成するための方法は、当業者に公知である。例えば、投与は、静脈内、筋内または皮下であり得る。
【0069】
皮下適用のために使用される溶液または懸濁液は、代表的に、以下の成分のうち1つ以上を含む:滅菌希釈剤(例えば、注射用の水、生理食塩溶液、不揮発油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒);抗菌剤(例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン);抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム);キレート剤(例えば、エチレンジアミン四酢酸);緩衝液(例えば、アセテート、シトレートまたはホスフェート):および張度調節のための薬剤(例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロース)。pHは、酸または塩基(例えば、塩酸または水酸化ナトリウム)を用いて調節され得る。このような調製物は、ガラスまたはプラスチックでできた、アンプル、使い捨てシリンジまたは多用量バイアル中に封入され得る。
【0070】
注射に適切な薬学的組成物としては、滅菌水溶液または分散物、および滅菌の注射可能な溶液または分散物の即座の調製のための滅菌粉末が挙げられる。静脈内投与について、適切なキャリアとしては、生理学的食塩水、静菌水、Cremophor ELTM(BASF,Parsippany,NJ)またはリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)が挙げられる。全ての場合において、この組成物は、滅菌でなければならず、そして容易な注入可能性が存在する程度まで、流体であるべきである。これは、製造および保存の条件下で安定でなければならず、そして微生物(例えば、細菌および真菌)の汚染作用に対して防止されなければならない。このキャリアは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)およびこれらの適切な混合物を含む、溶媒または分散媒体であり得る。適切な流動性は、例えば、レシチンのようなコーティングの使用によって、分散物の場合には必要な粒子サイズの維持によって、そして界面活性剤の使用によって、維持され得る。微生物の作用の防止は、種々の抗菌剤および抗真菌剤(例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなど)によって達成され得る。多くの場合、組成物中に、等張剤(例えば、糖、ポリアルコール(例えば、マンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウム))を含み得る。注射可能な組成物の延長された吸収は、吸収を遅延させる薬剤(例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびセラチン)を組成物中に含むことによって、もたらされ得る。
【0071】
1実施形態において、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、身体からの迅速な排出に対して化合物を保護するキャリアを用いて調製される(例えば、制御放出組成物(移植物および微小カプセル化送達系を含む))。生体分解性、生体適合性のポリマー(例えば、エチレンビニルアセテート、ポリ無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸)が使用され得る。このような処方物の調製のための方法は、当業者に明らかである。これらの材料はまた、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Ind.から市販で入手され得る。少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質を含有するリポソーム懸濁物もまた、薬学的に受容可能なキャリアとして使用され得る。これらは、例えば、米国特許第4,522,811号に記載されるような、当業者に公知の方法に従って、調製され得る。
【0072】
治療的に有用な薬剤(例えば、増殖因子(例えば、BMP、TGF−β、FGF、IGF)、サイトカイン(例えば、インターロイキンおよびCDF)、抗生物質ならびに処置される状態について有益な任意の他の治療剤)が、必要に応じて含まれ得るか、または、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質と同時もしくは連続的に投与され得る。
【0073】
投与の容易さのためおよび投薬の均一性のために、単位投薬形態で組成物を処方することが、特に有利である。本明細書中で使用する場合、単位投薬形態は、処置される被験体についての単一な投薬として適した、物理的に別個の単位をいい;各単位は、必要な薬学的キャリアと共同して、所望の治療効果を生じるように計算された所定量の活性化合物を含む。本発明の単位投薬形態についての仕様は、活性化合物の独自の特徴および達成されるべき特定の治療効果、ならびに個体の処置のためにこのような活性化合物を調合する分野における特有の制限によって決定され、そしてこれらに直接依存する。
【0074】
(処置適応症)
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、ヒトまたは動物における種々の医学的障害を、予防、診断または処置するために有用である。従って、本発明は、筋細胞および組織に関連する疾患および障害を処置するための方法を提供し、この方法は、疾患の症状を緩和するのに十分な量で、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む少なくとも1種のタンパク質を含有する組成物を、被験体に投与する工程による。このような障害としては、以下が挙げられる:筋ジストロフィー(以下が挙げられるが、これらに限定されない:重篤もしくは良性のX連鎖筋ジストロフィー、肢帯筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィー(myotinic dystrophy)、遠位筋ジストロフィー、進行性ジストロフィー性眼筋麻痺(dystrophicophthalmoplegia)、眼咽頭筋ジストロフィー、デュシェーヌ筋ジストロフィーおよびフクヤマ型先天性筋ジストロフィー);筋萎縮性側索硬化症(ALS);筋萎縮症;器官萎縮症;脆弱性(frailty);手根管症候群;うっ血性閉塞性肺疾患;先天性ミオパシー;先天性ミオトニー;家族性周期性四肢麻痺;発作性ミオグロビン尿症;重症筋無力症;イートン−ランバート症候群;続発性筋無力症;脱神経萎縮症;発作性筋萎縮症;ならびに筋肉減少症(sarcopenia)、悪液質および他の筋るいそう症候群。本発明はまた、筋肉組織に対する外傷性または慢性の損傷に関連する。
【0075】
筋肉の疾患および障害についての治療を提供することに加えて、本発明は、異常なグルコース恒常性から生じる代謝性の疾患または障害を予防または処置するための方法もまた、提供する。このような疾患または障害としては、以下が挙げられる:代謝性の疾患および障害(例えば、インスリン依存性(1型)糖尿病、非インスリン依存性(2型)糖尿病)、高血糖症、グルコース寛容減損、代謝症候群(例えば、X症候群)、肥満および外傷によって誘導されるインスリン抵抗性(例えば、熱傷または窒素不均衡)、脂肪組織障害(例えば、肥満)または骨変性疾患(例えば、特に、年配および/または閉経後の女性における、骨粗鬆症;グルココルチコイド誘導性の骨粗鬆症;骨減少症;変形性関節症;および骨粗鬆症関連の骨折)。なおさらなる例としては、慢性のグルココルチコイド治療に起因する骨質量の低下、未成熟性腺不全、アンドロゲン抑制、ビタミンD欠乏症、続発性副甲状腺機能亢進症、栄養欠乏症および神経性食欲不振が挙げられる。
【0076】
正常なグルコース恒常性は、血中グルコースレベルにおける僅かな変化に応答して、膵臓のβ細胞によって分泌されるインスリンの、緻密に調節された調和を必要とする。インスリンの基本的作用の1つは、組織(特に筋肉および脂肪)への、血液からのグルコースの取り込みを刺激することである。
【0077】
従って、本発明は、真性糖尿病および関連障害(例えば、肥満または高血糖症)を処置するための方法を提供し、この方法は、疾患の症状を緩和するのに十分な量で、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む少なくとも1種のタンパク質を含有する組成物を、被験体に投与する工程による。2型すなわち、非インスリン依存性糖尿病(NIDDM)は、一部、以下の形質によって特徴づけられる:(1)末梢組織(特に骨格筋および脂肪細胞)におけるグルコース取り込みに対するインスリンの作用に対する抵抗性、(2)肝臓グルコース産生を阻害するインスリン作用の減損、および(3)インスリン分泌の調節不全(DeFronzo(1997)Diabetes Rev.5:177−269)。従って、2型糖尿病に罹患している被験体は、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質(これは、インスリンに対する感受性および細胞によるグルコース取り込みを増大させる)の投与によって、本発明に従って処置され得る。
【0078】
同様に、インスリン機能不全(例えば、抵抗性、不活性または欠損)および/または細胞への不十分なグルコース輸送によって特徴づけられる他の疾患および代謝障害もまた、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質(これは、インスリンに対する感受性および細胞によるグルコース取り込みを増大させる)の投与によって、本発明に従って処置され得る。
【0079】
(タンパク質を使用する処置方法)
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、GDF−8タンパク質(モノマー形態でも、ダイマーの活性化形態でも、GDF−8の潜在的複合体に複合体化されても)に関連する1つ以上の活性を、同じタンパク質が結合していないGDF−8タンパク質と比較して、阻害または低減するために使用され得る。1実施形態において、成熟GDF−8タンパク質の活性は、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質が結合した場合、フォリスタチンドメインを有するタンパク質が結合していない成熟GDF−8タンパク質と比較して、少なくとも50%、または少なくとも60、62、64、66、68、70、72、72、76、78、80、82、84、86もしくは88%、または少なくとも90、91、92、93もしくは94%、または少なくとも95%〜100%、阻害される。
【0080】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質を含有する薬学的調製物は、治療有効量で投与される。本明細書中で使用する場合、タンパク質の「有効量」とは、所望の生物学的結果を達成するために、GDF−8の活性を低減するのに十分な投薬量である。所望の生物学的結果は、筋肉量の増加、筋肉強度の増加、改善された代謝、減少した脂肪、または改善されたグルコース恒常性を含む、任意の治療利益であり得る。このような改善は、種々の方法(以下を測定する方法が挙げられる:痩せおよび太った体重(例えば、二重x線走査分析)、筋肉強度、血清脂質、血清レプチン、血清グルコース、糖化ヘモグロビン、グルコース寛容および糖尿病の二次的合併症の改善)によって測定され得る。
【0081】
一般に、治療有効量は、被験体の年齢、状態および性別、ならびに被験体における医学的状態の重篤度によって、変動し得る。投薬量は、必要に応じて、処置の観察された効果に適するちうに、医師によって決定さ得れ、そして調節され得る。少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む少なくとも1種のタンパク質を投与するために適切な投薬量は、5mg〜100mg、15mg〜85mg、30mg〜70mgまたは40mg〜60mgの範囲であり得る。タンパク質は、1つの用量で、または間隔を空けて(例えば、一日一回、週に一回および月に一回)、投与され得る。投薬スケジュールは、GDF−8に対するタンパク質の親和性、タンパク質の半減期または患者の状態の重篤度に依存して、調節され得る。一般に、これらの組成物は、投与後のより長い時間にわたって、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質の循環レベルを最大化するために、ボーラス用量で投与される。連続注入もまた、ボーラス投与後に使用され得る。
【0082】
それらの化合物の毒性効力および治療効力は、細胞培養物または実験動物における標準的な薬学的手順(例えば、LD50(集団の50%までの致死用量)およびED50(集団の50%における治療的な有効用量))によって決定され得る。毒性効果と治療効果との間の用量の比率は、治療係数であり、比LD50/ED50と表し得る。大きな治療係数を示す少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質が、使用され得る。
【0083】
細胞培養物アッセイおよび動物実験から得られるデータは、ヒトにおける使用のための投薬量範囲の評価において用いられ得る。このような化合物の投薬量は、ほとんど毒性のないED50または毒性のないED50を有する循環濃度の範囲内であり得る。投薬量は、使用される投薬形態および利用される投与経路に依存して、この範囲内で変化され得る。本発明において用いられる少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含む任意のタンパク質について、治療的有効用量が、始めに細胞培養物アッセイから推定され得る。細胞培養物にて決定されたIC50を含む循環血漿濃度(すなわち、症状の最大阻害の半分を達成する試験タンパク質の濃度)範囲を達成するための用量が、動物モデルで処方され得る。血漿中レベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定され得る。任意の特定の投薬量の効果は、適切なバイオアッセイによってモニタリングされ得る。適切なバイオアッセイの例としては、GDF−8タンパク質/レセプター結合アッセイ、クレアチンキナーゼアッセイ、脂肪細胞におけるグルコース取込みに基づくアッセイ、および免疫学的アッセイが挙げられる。
【0084】
(DNAを投与する方法)
本発明はまた、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質のインビボ産生のための遺伝子療法を提供する。このような治療は、本明細書中に列挙されるような障害を有する細胞または組織へのポリヌクレオチド配列の導入によって、その治療効果を達成する。
【0085】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質のポリヌクレオチド配列の送達は、組換え発現ベクター(例えば、キメラウイルスまたはコロイド分散系)を使用して達成され得る。標的リポソームは、ポリヌクレオチド配列の治療的送達のために使用され得る。遺伝子治療のために使用され得る種々のウイルスベクターとしては、アデノウイルス、疱疹ウイルス、ワクシニア、またはレトロウイルスのようなRNAウイルスが挙げられる。レトロウイルスベクターは、マウスレトロウイルスまたは鳥レトロウイルスの誘導体であり得る。単一の外来遺伝子が挿入され得るレトロウイルスベクターの例としては、以下が挙げられるがこれらに限定されない:Moloneyマウス白血病ウイルス(MoMuLV)、Harveyマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳腺腫瘍ウイルス(MuMTV)、およびラウス肉腫ウイルス(RSV)。多くのさらなるレトロウイルスベクターが、複数の遺伝子に組込み得る。これらの全てのベクターは、選択マーカーのために遺伝子を移入または組込み得、その結果、導入された細胞が、同定および生成され得る。ウイルスベクターに目的のGDFプロペプチドのポリヌクレオチド配列を挿入することによって、特定の標的細胞上のレセプターに対するリガンドをコードする別の遺伝子と共に、ここで、例えば、本ベクターが、標的特異的である。
【0086】
レトロウイルスベクターは、例えば、糖、糖脂質、またはタンパク質を接着することによって標的を特異的にし得る。標的化は、抗体を使用することによって達成され得る。当業者は、特定のポリヌクレオチド配列が、レトロウイルスゲノムに挿入され得るか、またはウイルスエンベロープに結合され、少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質のポリヌクレオチドを含むレトロウイルスベクターの標的特異的送達を可能にすることを認識する。1つの実施形態において、ベクターは、筋肉細胞または筋組織に標的化される。
【0087】
組換えレトロウイルスが、欠損であるので、これらは、LTR内の調節配列の制御下で、レトロウイルスの全ての構造遺伝子をコードするプラスミドを含むヘルパー細胞株を必要とする。これらのプラスミドは、パッケージング機構がキャプシド化のためのRNA転写物を認識するのを可能にするヌクレオチド配列を損失している。パッケージングシグナルの欠損を有するヘルパー細胞株としては、例えば、PSI.2、PA317およびPA12が挙げられるがこれらに限定されない。これらの細胞株は、ゲノムがパッケージングされないので、空のビリオンを産生する。レトロウイルスベクターは、パッケージングシグナルがインタクトであるような細胞に導入され得るが、構造遺伝子が、目的の他の遺伝子によって置き換えられる場合、ベクターは、パッケージングされ得、ベクタービリオンが産生される。
【0088】
あるいは、他の組織培養細胞が、従来のリン酸カルシウムトランスフェクションによって、レトロウイルス構造遺伝子(gag、polおよびenv)をコードするプラスミドで直接トランスフェクトされ得る。次いで、これらの細胞は、目的の遺伝子を含むベクタープラスミドでトランスフェクトされる。得られた細胞は、培養培地中にレトロウイルスベクターを放出する。
【0089】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質のポリヌクレオチドのための別の標的化送達系は、コロイド分散系である。コロイド分散系としては、高分子複合体、ナノカプセル、ミクロスフィア、ビーズ、および脂質ベースの系(水中油エマルジョン、ミセル、混合ミセル、およびリポソーム)が挙げられる。リポソームは、人工的な膜小胞であり、これは、インビトロおよびインビボの送達ビヒクルとして有用である。RNA、DNAおよびインタクトなビリオンは、水性内部内にカプセル化され得、生物学的に活性な形態中に細胞を送達し得る(例えば、Fraleyら(1981)Trends Biochem.Sci.,6:77を参照のこと)。リポソームビヒクルを使用する効率的な遺伝子移送のための方法が、当該分野で公知である(例えば、Manninoら(1988)Biotechniques,6:682を参照のこと)。リポソームの組成物は、通常、リン脂質の組み合わせであり、通常、ステロイド(特に、コレステロール)との組み合わせである。他のリン脂質または他の脂質がまた、使用され得る。リポソームの物理的特性は、pH、イオン強度、および二価カチオンの存在に依存する。
【0090】
リポソーム産物において有用な脂質の例としては、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴリピド、セレブロシドおよびガングリオシドのようなホスファチジル化合物が挙げられる。例示的なリン脂質としては、タマゴホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルコリン、およびジステアロイルホスファチジルコリンが挙げられる。リポソームの標的化はまた、例えば、器官特異性、細胞特異性、および細胞小器官特異性に基づいて可能であり、これは、当該分野で公知である。
【0091】
GDF−8応答の調節における使用のための、1つの部位に対する少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質を発現する細胞を送達するために使用され得る、広い範囲の方法が存在する。本発明の1つの実施形態において、フォリスタチンタンパク質を発現する細胞は、直接適用(例えば、このような細胞のサンプルの組織損傷の部位への直接注射)によって送達され得る。これらの細胞は、精製され得る。このような細胞は、これらの移動度を部分的に妨げる培地またはマトリクス中に送達され、細胞の損傷の部位へ局在化し得る。このような培地またはマトリクスは、半固体(例えば、ペーストまたはゲル(ゲル様ポリマーを含む))であり得る。あるいは、培地またはマトリクスは、固体の形態であり得、多孔性固体は、細胞の固体マトリクスへの移動を可能にし、これらをそこに保持し、その一方で、細胞を増殖させる。
【0092】
(GDF−8の検出方法および単離方法)
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、インビボまたはインビトロで、GDF−8の存在またはレベルを検出するために使用され得る。これらのタンパク質の存在またはレベルを、医療状態と相関させることにより、当業者は、関連する医療状態を診断し得る。少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質によって診断され得る医療状態は、本明細書中に示される。
【0093】
このような検出方法は、当業者に周知であり、これとしては、ELISA、ラジオイムノアッセイ、イムノブロット、ウェスタンブロット、免疫蛍光、免疫沈降、および他の類似の技術が挙げられる。少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質は、GDF−8を検出するための1つ以上のこれらの技術を組込む診断キット中に、さらに提供され得る。このようなキットは、他の成分、パッケージング、指示書、またはタンパク質の検出およびキットの使用を補助するための他の物質を含み得る。
【0094】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインを含むタンパク質が、診断目的のために意図される場合、例えば、リガンド基(例えば、ビオチン)または検出可能なマーカー基(例えば、蛍光基、放射性同位元素または酵素)を用いて、これらタンパク質を改変することが所望され得る。所望される場合、タンパク質が、従来の技術を使用して、標識され得る。適切な標識は、発蛍光団、発色団、放射性同位元素、電子密度試薬、酵素、および特異的な結合パートナーを有するリガンドが挙げられる。酵素は、代表的に、これらの活性によって検出される。例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼは、通常、その3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(TMB)を青色色素に変換する能力によって検出され、分光光度計を用いて定量される。他の適切な結合パートナーとしては、例えば、ビオチンとアビジンまたはストレプトアビジン、IgGとプロテインA、および当該分野に公知の種々のレセプターリガンド結合が挙げられる。他の並べ替えおよび可能性が、当業者に容易に明らかであり、本発明の範囲内で、等価物として考慮される。
【0095】
少なくとも1つのフォリスタチンドメインまたはそのフラグメントを含むタンパク質がまた、精製プロセスにおいてGDF−8を単離するために有用であり得る。1つの型のプロセスにおいて、タンパク質は、カラムまたは樹脂に組込むことによって固定化され得る。タンパク質は、GDF−8を結合するために使用され、次いで、結合GDF−8の遊離を生じる条件に供される。このようなプロセスは、GDF−8の市販の商品のために使用され得る。
【0096】
以下の実施例は、本発明の実施形態を提供する。当業者は、多数の改変およびバリエーションが本発明の意図および範囲を変更することなく実施され得ることを、認識する。このような改変およびバリエーションは、本発明の範囲内に包含されると考えられる。これらの実施例は、本発明を決して限定しない。本明細書中および特許請求の範囲中の全ての数は、用語「約」によって修飾される。なぜなら、例えば、投薬量における小さな変化は、本発明の範囲内であると考えられるからである。
【実施例】
【0097】
(実施例1:JA16結合ビーズの精製)
N−ヒドロキシスクシンイミジル−活性化ビーズ(4%ビーズ化アガロース、Sigma H−8635,St Louis MO)を、MilliQ−H2O中で洗浄し、10mg JA16/ml樹脂の最終濃度を可能にする比で、抗−GDF−8 JA16モノクローナル抗体(100mM MOPS(pH7.5)中、3〜4μg/μl)と共に4℃で4時間インキュベートした。ビーズを、100mM MOPS(pH7.5)およびリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で徹底的に洗浄し(Ausubelら(1999)Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons)、使用するまで、4℃でPBS中で保存した。コントロールビーズを、JA16抗体を使用せずに同様に調製した。
【0098】
(実施例2:アフィニティー精製)
JA16−結合体化ビーズまたはコントロールビーズをパックした全40μlを、4℃で3時間、15mlの正常Balb/Cマウス血清(Golden West Biologicals,Temecula CA)または30mlのプールされた正常ヒト血清(ICN Biomedical,Aurora OH)と共にインキュベートした。ビーズを、約10mlの冷1%Triton X−100/PBS中で2回洗浄し、約10mlの冷0.1%Triton X−100/PBS中で2回洗浄し、そして約1mlの冷PBSで2回洗浄した。タンパク質を、3回の連続工程において、ビーズから溶出した。第1に、ビーズを、「モック溶出」に処理し、ここで、100μlのPBSを、ビーズに添加し、4℃で30分インキュベートした。上清を、回収し、30μlの4×LDSサンプル緩衝液(Invitrogen,Carlsbad CA)と合わせた。第2に、ビーズを、「ペプチド溶出液」に供し、100μlのPBS中、1μg/μlの競合ペプチド(配列:DFGLDSDEHSTESRSSRYPLTVDFEAFGWD−COOH(配列番号12))を、ビーズに添加し、再度、4℃で30分間インキュベートした。上清を、前記のように回収した。第3に、ビーズを、「SDS溶出」技術を用いて処理し、ここで、30μlの4×LDS緩衝液(Invitrogen)および100μlのPBSを、ビーズに添加し、80℃まで10分間加熱し、その後、この上清を新鮮なチューブに移した。
【0099】
各溶出工程において遊離されるタンパク質の銀染色されたゲルが、図1に示される。図1に示される銀染色されたゲル中の2つのタンパク質バンド(約12および36kDa)は、JA16−結合体ビーズから特異的に溶出されたが、結合体化されないコントロールビーズからは溶出されなかった。
【0100】
(実施例3:マススペクトルメトリー)
サンプルは、NuPage 10×還元剤(Invitrogen)を用いて、10分間、80℃で還元し、そして110μMヨードアセトアミドを用いて、暗室中で30分間、22℃でアルキル化した。サンプルは、製造元の推奨(Invitrogen)に従って、10%NuPageBis−Trisゲルで、MES緩衝液系を用いて直ちに泳動し、そしてグルタルアルデヒドを含まない系(Shevchenkoら、(1996)Anal.Chem.,68:850〜858)を用いて銀染色した。バンドを、Sequencing Grade Modified Trypsin(Promega,Madison WI)を用いて、Abimed Digest Pro(Langenfeld,Germany)またはPro Gest Investigator(Genomics Solutions,Ann Arbor MI)内で切除および消化した。消化されたサンプルの量は、エバポレーションにより減少するので、最終量が約20μlになるように、1%酢酸を補充した。サンプル(5〜10μl)を、Picofrit針(New Objectives,Woburn MA)に詰め、10cm×内径75μmC18逆相カラム上にロードした。MS/MSデータを、LCQ DecaあるいはLCQ Deca XP(Finnigan,San Jose CA)質量分析計を用いて回収し、Sequestプログラム(Finnigan)を用いて、NCBI非重複データベースに対して検索した。他に記載されない限り、本明細書中に列挙している全てのペプチド配列は、点検マニュアルによって質が高いと判断され、そしてSequest評価システムによって、2.5以上のXcorrスコアを生成したMS/MSスペクトルに対応した。
【0101】
(実施例4:ウエスタンブロット)
タンパク質を、0.45μmのニトロセルロース膜(Invitrogen)に転写し、ブロッキング緩衝液(Tris緩衝生理食塩水(TBS:10mM Tris−HCl、pH7.5、150mM NaCl)に5%脱脂粉乳を加えたもの)の中で、4℃で一晩、ブロッキングした。次いで、ブロットを、ブロッキング緩衝液で、1:1000の割合に希釈した一次抗体と、室温で1〜3時間プローブし、TBSで5回洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼ結合体化二次抗体とブロッキング緩衝液とを、室温で1〜3時間プローブし、前回と同様に洗浄する。シグナルを、West Pico Substrate(Pierce)を用いて、オートラジオグラフィーによって検出した。
【0102】
(実施例5:GDF−8の単離)
前述の実施例で記載された方法を用いた実験により、GDF−8を単離した。GDF−8の還元された形態は12kDaであるので、発明者らは、図1で示された銀染色ゲル由来の下側のバンド中のタンパク質を、成熟型GDF−8であると推測した。この仮説を確かめるため、発明者らはこのバンドを切除し、トリプシンで消化し、LC−MS/MSによって得られたペプチドのMS/MSスペクトルを得た。6つのトリプシンによって得られたペプチドに対応するMS/MSスペクトルは、図2Aおよび表1に示されるように、成熟型GDF−8がゲルのこの領域から、単離されたことを確認した。
【0103】
表1は、マウス血清およびヒト血清由来のJA16免疫沈降物中で見つけられた、GDF−8(配列番号13〜20)、GDF−8プロペプチド(配列番号21〜27)、FLRG(配列番号28〜30)およびGASP1(配列番号31〜35)由来のペプチドを列挙する。タンパク配列中の、すぐ前のアミノ酸は、それぞれのペプチドの括弧内に示されており、そしてペプチドの電荷状況(Z)およびSequestプログラム相関係数(Xcorr、確信の測度)を列挙する。表中に示している配列の番号は、単離したペプチドおよびその配列にのみ、言及する。括弧内にある前述のアミノ酸は、ペプチドを含んでおらず、参考文献のみを提供する。全てのスペクトルを、点検マニュアルによって確認した。
【0104】
興味深いことに、ウエスタンブロットはまた、プロセシングされていないGDF−8の全長(43kDa)に対応するバンドも含んでおり、この分子のいくつかの部分が、タンパク分解性のプロセシングを受けずに、血清中に分泌されている事を意味する(図2B)。プロセシングされていないGDF−8の存在を、発明者らのマススペクトロメトリーで確認した(図示せず)。従って、アフィニティ−精製方法は、正常マウス血清より、効果的にGDF−8を単離した。
【0105】
JA16抗体は、GDF−8および高い関連性のあるタンパク質BMP/GDF−11の両方を認識するが、発明者らは、BMP−11ペプチドの証拠を、マススペクトロメトリーによりアフィニティ−精製したサンプル中に見なかった。
【0106】
【表2】
【0107】
(実施例6:GDF−8に結合したタンパク質の単離)
一旦、アフィニティー精製技術によって、正常なマウス血清からGDF−8が首尾よく単離し得ることが確認されると、本発明者らは、自然の状態でGDF−8に結合するタンパク質の同定を進めた。図1に示されている銀染色ゲル上の36kDaのバンドを、上記のように分析した。マススペクトロメトリーによって、JA16免疫精製サンプルに特異的であるゲルのこの領域中において、2つのタンパク質を同定した。これらは、GDF−8プロペプチドおよびフォリスタチン様関連遺伝子(FLRG)であることが決定された。これらのタンパク質のそれぞれから同定されたペプチドを、表1に示す(配列番号13〜27)。高品質なMS/MSスペクトルが、GDF−8プロペプチド由来の6つの独特のペプチドおよびFLRG由来の3つの独特のペプチドを見出した;代表的なペプチドを、図3Aおよび図3Cに示す。さらに、これらのタンパク質の両方の存在を、GDF−8プロペプチドおよびFLRGのそれぞれに特異的なポリクローナル抗体を使用したウエスタンブロッティングによって確認した(図3Bおよび図3D)。従って、循環GDF−8は、インビボでGDF−8プロペプチドおよびFLRGに結合しているようである。
【0108】
(実施例7:GDF−8に結合する新規タンパク質の単離)
インビボで循環GDF−8複合体の主要な構成成分を特徴付けるために、野生型のマウス血清由来のネイティブなGDF−8およびその関連タンパク質を、アガロース結合体化抗GDF−8モノクローナル抗体(JA16)を使用したアフィニティー精製により単離した。JA16結合タンパク質を、PBS緩衝液のみを使用した溶出工程(モック溶出)、JA16の結合のためのGDF−8と競合し得るペプチドを使用した溶出、およびSDS界面活性剤を使用した溶出の溶出工程に供した。これらのサンプルを濃縮し、一次元SDS−PAGEゲル上で泳動して、銀染料で可視化した(図4)。JA16精製サンプルに独特な2つのバンド(GDF−8として同定された12kDaのバンド、ならびにGDF−8プロペプチドおよびFLRGの両方を含む36kDaのバンド)が見られる。
【0109】
インビボでGDF−8に結合された他のタンパク質を同定し得るかどうかを決定するために、本発明者らは、精製をおおよそ5倍にスケールアップし、マススペクトロメトリーを使用して、JA16免疫複合体中には存在するがネガティブコントロール中には存在しないタンパク質を検索した。この目的を達成するために、図4に示されるように、本発明者らは、10kDa〜200kDaの範囲の分子量に対応する、銀染色ゲルの領域を13のゲル切片に切り出した。これらのスライスのそれぞれを、ゲル内トリプシン消化およびLC−MS/MSに供した。公知のタンパク質の非リダンダントなNCBIデータベースに対するMS/MSスペクトルの結果の比較により、JA16免疫沈降物に特異的なさらなるいくつかのタンパク質は明らかにならなかったが、前記のタンパク質(成熟GDF−8、GDF−8プロペプチド、プロセシングされていないGDF−8、およびFLRG)が、これらのサンプル中ですべて同定された(図4)。JA16免疫複合体およびネガティブコントロールサンプルの両方において見出されたバックグラウンドのタンパク質には、大量の血清タンパク質(例えば、アルブミン、免疫グロブリンおよび相補的なタンパク質)が含まれていた。JA16サンプル中には、他のTGF−βスーパーファミリーメンバー(高度に関連するタンパク質BMP−11/GDF−11を含む)の証拠は無かった。従って、これらの実験において、JA16抗体は、GDF−8を特異的に精製した。
【0110】
興味深いことに、JA16がインビトロでGDF−8/フォリスタチン複合体を免疫沈降し得るという事実があるにもかかわらず、本発明者らは、本発明者らのGDF−8免疫複合体中にフォリスタチンの証拠を見出せなかった(データは示さず)。フォリスタチンは、GDF−8とActRIIBレセプターとの会合をアンタゴナイズすることで、GDF−8活性を阻害することが示されている(LeeおよびMcPherron(2001)Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、98:9306〜9311)。本発明者らの結果は、フォリスタチンは、通常の条件下では、循環GDF−8複合体の活性の調節において主要な役割は果たしていないことを示唆する。
【0111】
このMS/MS手順によるタンパク質の同定は、検索されるデータベースの内容に依存するので、本発明者らは、13サンプルから収集されたMS/MSスペクトルをセレラマウスゲノム配列から予測されるパンパク質のデータベースと比較することにより、図4由来のデータをさらに分析した。この分析により、JA16精製サンプルに特異的なさらなるタンパク質を同定し、そして本明細書中でこれをGDF関連血清タンパク質1(GASP1)と称する。このタンパク質を最初に同定したことにより、公的なゲノム配列決定の試みによって、この配列が、寄託番号gi|20914039で、NCBI nrデータベースに追加されている。
【0112】
高品質なMS/MSスペクトルに基づいて、GASP1配列に対応する5つのペプチドを同定した(表1(配列番号31〜35);図5AおよびB)。GASP1ペプチドに対応するスペクトルが、70〜80kDaのタンパク質を含むバンド3に見られた。しかし、おそらくこの領域中でバックグラウンドの免疫グロブリンおよびアルブミンが大量であることに起因して、このタンパク質に対応する特定のバンドは見えなかった(図4を参照のこと)。一般的には、SequestXcorrスコアが2.3以上であることが2+イオンにとって有意であると考えられている。偶然にも、本発明者らの実験において同定されたペプチドの1つ(配列=ECETDQECETYEK(配列番号31))が、このタンパク質をコードする2つのエキソンの間の接合部にかかっており、この例においてセレラの予想アルゴリズムの正確性が証明する。
【0113】
GASP1転写物およびGASP1タンパク質の配列を、実際のGASP1のクローニングの前に予測した(図6)。GASP1を、予測分子量63kDaを有する571アミノ酸のタンパク質であると予測した。これは、N末端に推定シグナル配列/切断部位、ならびにアミノ酸314およびアミノ酸514にN−グリコシル化のための潜在的な2つの部位を有する。PfamおよびBLASTによるGASP1タンパク質配列の解析(Altschulら(1990)J.Mol.Biol.、215:403〜410;Batemanら(2002)Nucleic Acids Res.、30:276〜280の技術に従った)により、GASP1は多くの保存ドメイン(WAPドメイン、フォリスタチン/カザル(Kazal)ドメイン、免疫グロブリンドメイン、二つのタンデムなクニッツ(Kunitz)ドメイン、およびネトリンドメインが挙げられる)を含んでいることが明らかになった(図14A)。WAPドメインは、元々は乳清酸性タンパク質中で同定されたものであり、4つのジスルフィド中心を形成する8つのシステインを含み、しばしば抗プロテアーゼ活性を有するタンパク質中で見出される(HennighausenおよびSippel(1982)Nucleic Acids Res.、10:2677〜2684;Seemullerら(1986)FEBS Lett.、199:43〜48)。フォリスタチンドメインはGDF−8とGASP1との間の相互作用を媒介すると考えられている。フォリスタチンドメインのC末端領域は、カザルセリンプロテアーゼインヒビタードメインとの類似性を含んでいる。GASP1の場合において、この領域は、フォリスタチンまたはFLRGに対してよりも、カザルドメインに対してずっと密接に関係しており、このことは、この領域がさらなるプロテアーゼインヒビター機能を有し得る可能性を示唆している。クニッツドメインは、元々はウシ膵臓トリプシンインヒビター中で同定されたものであり、またセリンプロテアーゼも阻害し、したがって、このクラスのタンパク質の制御におけるGASP1のあり得る役割が確立される。さらに、ネトリンドメインは、メタロプロテアーゼの阻害に関係している(BanyaiおよびPatthy、1999;Mottら、2000)。したがって、これらの保存領域の存在に基づいて、おそらくGDF−8の処理または潜在的GDF−8複合体の活性化を制御することで、GASP1はプロテアーゼ活性を阻害するようである。
【0114】
マウスセレラ転写産物データベースに対するBLAST検索により、>50%のGASP1との同一性を有するタンパク質が明かにされた。本明細書中ではこれをGASP2と称する。GASP2は、GASP1と同様のドメイン構造を含んでおり、このことは、これらのタンパク質が多効性プロテアーゼインヒビターの二つのメンバーファミリーを定義していることを示唆している(図14B)。興味深いことに、GASP1にのみ対応し、GASP2には対応しないペプチドが、本発明者らのJA16精製サンプル中で見出された。この結果は、GASP1およびGASP2がおそらく、異なる生物学的特異性を有していることを示唆している。GASP1およびGASP2は両方とも、ヒトにおいても保存されている(マウスと>90%の同一性)。ヒトGASP1の配列は、現在NCBI nrデータベースにおいて、登録番号gi|18652308として入手可能である。ヒト血清におけるGDF−8濃度は、マウス血清において見られるものよりもかなり低いが(Hillら(2002)J.Biol.Chem.、277:40735〜40741)、タンパク質のマススペクトロメトリー分析の感度により、本発明者らはヒト血清由来のJA16免疫沈降物からGASP1のヒトホモログに対応する3つのペプチドを単離した(表1)。対応するネガティブコントロール中には、これらのペプチドは1つも見出されなかった。繰り返しになるが、これらの実験においてヒトGASP2の証拠は無かった。したがって、GASP1とGDF−8との間の相互作用は、マウスとヒトとの間で保存されている。
【0115】
GDF−8は、骨格筋においてほぼ独占的に産生される。GASP1のmRNAの組織分布を決定するために、様々なマウス組織および様々な段階の胚から産生された1本鎖cDNAから、GASP1の551bpのフラグメントを増幅した(図10)。マウスGASP1フラグメントを、製造者の推奨に従ってAdvantage cDNA PCRキット(Clontech)(順方向プライマー:5' TTGGCCACTGCCACC
ACAATCTCAACCACTT 3'(配列番号46);逆方向プライマー:5' TCTCAGCATGGCCATGCCGCCGTCGA 3'(配列番号47))を使用
して、正規化されたマウス1本鎖cDNAパネル(Clontech、Palo Alto CA)から増幅した。GASP1は、かなり広範囲で発現している(特に、骨格筋および心臓において高度な発現を有する)ようである。重要な発現はまた、脳、肺、および精巣においても見られる。反対に、肝臓および腎臓は、比較的低いレベルのGASP1のmRNAを発現している。発生が進行するにつれて、GASP1のmRNAのレベルはかなり一定になり、おそらくマウスの胚形成における7日目と11日目との間でわずかにしか増加していない。
【0116】
(実施例8:ヒト血清およびマウス血清におけるGDF−8)
ヒト血清中のGDF−8濃度は、マウス血清に見られるものよりもかなり低い。GDF−8は治療上の標的としての可能性を有しているので、ヒトにおける循環するGDF−8複合体の組成を決定することが目的であった。この知識により、マウスモデルの妥当性を決定し、潜在的に別の治療上の標的を同定する。したがって、JA16ベースのGDF−8のアフィニティー精製をヒト血清を使用して繰り返した。マウスと比較してヒト血清におけるGDF−8が低レベルであることに起因して、成熟GDF−8およびGDF−8プロペプチド/FLRGに対応するバンドは見えなかった(図11A)。しかし、GDF−8の成熟領域を認識するポリクローナル抗体を使用したウエスタンブロティングにより、JA16精製サンプル中での成熟GDF−8および未処理のGDF−8の存在が明らかになった(図11B)。
【0117】
本発明者らは、成熟GDF8と共精製されるタンパク質を同定するために、高感度のマススペクトロメトリーを利用した。ネガティブコントロールおよびJA16結合体化ビーズの両方に由来するペプチド溶出サンプルに対応するレーンを、16片にスライスした。これらのゲルスライスを、以前のように、ゲル内トリプシン消化、ナノフローLC−MS/MS、およびSequestを用いた分析に供した。
【0118】
興味深いことに、JA16サンプルにおいてのみ特異的に同定され、ネガティブコントロールにおいては同定されないタンパク質は、成熟GDF−8、GDF−8プロペプチド、ヒトFLRG、およびGASP1のヒトホモログであった。これらのタンパク質の各々から見出されたペプチドを、表1において列挙し(配列暗号36〜45)、代表的なMS/MSスペクトルを図12において示す。したがって、インビボGDF−8複合体はマウスとヒトとの間で保存されているようである。
【0119】
(実施例9:マウスGASP1のクローニングおよび特徴付け)
推定GASP1配列を同定した後、マウスGASP1の実際の配列を決定することが目的であった。セレラ推定配列に基づいて、GASP1コード配列を、以下のプライマー(順方向プライマー:5' CACCATGTGTGCCCCAGGGTATCATCGG
TTCTGG 3'(配列番号50);逆方向プライマー:5' TTGCAAGCCCAGGAAGTCCTTGAGGAC 3'(配列番号51))を使用するPfuTurb
oポリメラーゼ(Stratagene)を用いたPCRによって、マウスの心臓のQUICKCLONE cDNA(Clontech)から増幅した。この反応由来のPCR産物は、1%アガロースゲル上で、おおよそ1700塩基対の単一の主要なバンドとして泳動した。次いで、増幅されたDNAを、インフレームのC末端V5−Hisタグを含むように、製造者の推奨に従ってpcDNA3.1D/V5−His−TOPOベクター(Invitrogen)のTOPO部位にクローニングした。全長cDNA挿入物を、両方の鎖について配列決定した。マウスGASP1クローンのヌクレオチド配列を図13に示す。推定アミノ酸配列(すなわち、288C:G;294G:A;615G:A;738A:G;768C:T;1407A:G;1419A:G;および1584C:G、ここで示されている位置の最初の塩基がセレラによって報告された塩基であり、2番目の塩基はクローンの配列決定から得られた塩基である;図6AおよびBを参照のこと)を変化させないウォッブルコドンにおける数塩基の置換を除いて、このクローンは推定セレラ配列に一致した。
【0120】
GASP1タンパク質のN末端処理を決定するために、本発明者らは、C末端V5−Hisタグと共にクローニングされたマウスGASP1(GASP1−V5−His)をコードする哺乳動物発現ベクターを用いて、COS1細胞をトランスフェクトした。48時間後に、無血清条件つき培地を収集し、抗V5ポリクローナル抗体(Sigma)を用いたウエスタンブロット分析によって分析した。より詳細には、無血清ダルベッコの改変イーグル培地中でFuGENE6試薬(Roche)を使用して、GASP1−V5−His/pcDNA3.1D−V5−His−TOPOまたは空ベクターを用いたCOS1細胞のトランスフェクションの48時間後に、条件つき培地を収集した。
【0121】
おおよそ80kDaで泳動する単一のバンドが見られ、GASP1が条件つき培地中に分泌されていることが証明された(データ未掲載)。この条件つき培地のおおよそ10mlを、Hisアフィニティーカラムに通し、さらに逆相クロマトグラフィーによって精製した。この精製スキームにより、クマシー染色されたSDS−PAGEゲル上に、全長GASP1の予測される大きさの1つのバンドが得られた。このバンドのエドマン配列決定により、N末端配列(L−P−P−I−R−Y−S−H−A−G−I(配列番号52))を決定した。したがって、GASP1のアミノ酸1〜29が、プロセッシングおよび分泌の間に取り除かれるシグナル配列を構成する。
【0122】
(実施例10:GDF−8プロペプチドおよび成熟GDF−8への組換え産生されたGASP1の結合)
次に、組換え産生されたGASP1が、マウス血清から単離されたGASP1と同様のGDF−8に対する結合パターンを有していることを決定した。組換えタンパク質を用いた免疫沈降のために、ベクターまたはGASP1を用いてトランスフェクトされた細胞由来の条件つき培地(400μl)を、1.2μgの組換え精製されたGDF−8タンパク質および/またはGDF−8プロペプチドタンパク質と組み合わせた(Thiesら、2001)。JA16(10μlパック量)または抗V5(30μl)と結合体化したアガロースビーズを、補充された条件つき培地と共に、4℃で2時間、インキュベートし、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中の1% 冷Tritonで2回、そしてPBSで2回洗浄した。ビーズを、DTTを含む1×LDS緩衝液(50μl)に再懸濁した。ウエスタンブロットを、先に記述したように行った(Hillら、2002)。
【0123】
GDF−8とGASP1との間の相互作用の確認およびさらなる特徴付けを行うために、本発明者らは、精製した組換えGDF−8および精製した組換えGDF−8プロペプチドを、ベクターコントロールまたはGASP1−5V−Hisのいずれかを用いてトランスフェクトされたCOS1細胞由来の条件つき培地と共にインキュベートした。次いで、本発明者らはJA16結合体化アガロースビーズを使用して、GDF−8を免疫沈降し、ウエスタンブロットを使用して、GASP1とGDF−8プロペプチドとの共精製を調べた(図15A)。GASP1(レーン3)およびGDF−8プロペプチド(レーン1)の両方とも、GDF−8と共に共免疫沈降されており、GDF−8がこれらのタンパク質の両方と相互作用し得ることが証明された。これらの実験における非特異的な結合の可能性を除いて、GASP1およびプロペプチドの両方とも、GDF−8が欠乏している場合にはJA16免疫沈降物中に検出されなかった(レーン4)。これら3つ全てのタンパク質が存在していた場合、GASP1およびGDF−8プロペプチドは両方とも、GDF−8を用いて沈降させられ、このことから、これらのタンパク質が三量体の複合体を形成し得る可能性が示唆された(レーン5)。しかし、本実験は、GASP1およびプロペプチドが別のGDF−8分子上の同じエピト−プに結合している可能性を取り除いていない。
【0124】
GASP1とGDF−8との間の相互作用をさらに確認するために、本発明者らはGDF−8および/またはGDF−8プロペプチドの組変えタンパク質を補充した条件つき培地からGASP1を沈降させることで、逆免疫沈降を実施した。これを達成するために、本発明者らは、GASP1上のC末端V5−HisタグのV5エピト−プに対して指向されたアガロース結合体化モノクローナル抗体を使用した。予想どおりに、GDF−8はGASP1と共に共免疫沈降し(図15B、レーン3およびレーン5)、さらにこれらのタンパク質間の直接的な相互作用が確認された。驚いたことに、GDF−8の非存在下でさえ、GDF−8プロペプチドはまた、GASP1と共精製され(レーン4)、このことは、GDF−8プロペプチドがGASP1に直接的に結合し得ることが示唆する。したがって、GASP1はGDF−8およびGDF−8プロペプチドの両方に、独立して結合する。このことは、成熟GDF−8と独占的に結合するFLRG(別のフォリスタチンドメインタンパク質)と正反対である(Hillら(2002)J.Biol.Chem.、277:40735−40741)。GDF−8およびプロペプチドの両方を添加すると、プロペプチドを単独で添加した場合に比べてプロペプチドのGASP1への結合が弱くなるのが一貫して見られる。この観察によって、GASP1が潜在的なGDF−8小複合体と結合し得ないことが示唆される。
【0125】
(実施例11:GDF−8活性およびBMP−11活性のGASP1媒介される阻害、しかしアクチビン活性またはTGF−β1活性は阻害されない)
ルシフェラーゼレポーター構築物、pGL3−(CAGA)12(配列番号53)(Dennlerら、(1998)EMBO J.,17:3091−3100)を、A204またはRD横紋筋肉腫細胞に過渡的にトランスフェクトした。ベクターまたはGASP1トランスフェクトされた細胞由来の馴化培地の希釈液を、37℃で30分間10ng/ml GDF−8、10ng/ml BMP−11、10ng/ml rhアクチビンA(R&D Systems)、または0.5ng/ml rh TGF−β1(R&D Systems)と共にインキュベートした。ルシフェラーゼ活性を、Thiesら、(2001)Growth Factors,18:251−259およびZimmersら、(2002)Science,296:1486−1488に従って測定した。このアッセイにおいて、A204細胞は、GDF−8、BMP−11およびアクチビンに応答するが、TGF−β1にあまり応答しない。RD細胞は、GDF−8およびTGF−β1の両方に応答する。従って、我々は、A204細胞を用いてGDP−8、BMP−11、およびアクチビンを阻害するGASP1の能力を試験し、そしてRD細胞を用いてTGF−βおよびGDF−8の活性をモニタリングした。GDF−8についての結果を、A204細胞から示すが、RD細胞と類似であった。これらの増殖因子の各々により誘導されるルシフェラーゼ活性の濃度依存性を測定する標準曲線を、各々の実験について作成した(データは示さず)。用いられる増殖因子濃度が、この曲線の直線領域に合致し、その結果、濃度における小さな変化が、ルシフェラーゼ活性における測定可能な変化を生じる。
【0126】
2つのフォリスタチンドメインタンパク質、フォリスタチンおよびFLRGは、(CAGA)12(配列番号53)ルシフェラーゼ転写レポーターアッセイにおいてGDF−8活性を阻害するが、関連タンパク質、アクチビンおよびBMP−11の生物学的活性をまた、阻害する。(CAGA)12(配列番号53)レポーターアッセイにおけるGDF−8、BMP−11、アクチビン、およびTGF−β1活性を阻害するGASP1の能力をまた、試験した。
【0127】
V5−Hisタグ化GASP1またはベクターコントロールでトランスフェクトされたCOS細胞由来の馴化培地の種々の希釈液を、精製した組み換えGDF−8(10ng/ml)、BMP−11(10ng/ml)、アクチビン(10ng/ml)、またはTGF−β1(0.5ng/ml)と共にインキュベートし、(CAGA)12(配列番号53)レポーター構築物を発現する横紋筋肉腫細胞における増殖因子活性について、アッセイした。GASP1は、濃度依存様式においてGDF−8活性を強力に阻害した(図16A)。GASP1は同様に、このアッセイにおけるBMP−11の活性を阻害し(図16B)、このことは、成熟GDF−8およびBMP−11が高度に保護され、そして11アミノ酸のみが異なるために、予期された。驚くべきことに、GASP1は、アクチビンまたはTGF−β1の活性を阻害せず(図16CおよびD)、フォリスタチン自体によっては示されない非常に高度なレベルの特異性を示唆する。従って、GASP1は、GDF−8およびBMP−11の阻害において特異性を示す。
【0128】
GDF−8についてのGASP1の親和性を、レポーター遺伝子アッセイにおけるGDF−8の阻害についてのIC50を決定することにより評価した。GASP1−V5−Hisタンパク質を、コバルト親和性カラム上の調整された馴化培地から精製し、上記のように溶出した。GASP1を含む画分を、BioSepS3000カラム(Phenomenex)を用いるPBSにおけるサイズ除外クロマトグラフィーによりさらに精製した。図17に示されるように、GASP1が、およそ3nMのIC50でGDF−8を阻害した。
【0129】
(実施例12:筋肉障害の処置)
GASP1を、表2に記載のGDF−8の機能化に関する疾患または障害を患う患者に投与し得る。患者は、一度にまたは間隔を空けて、例えば毎日一回、組成物を摂取し、彼らの疾患または障害の症状を改善させる。例えば、筋肉障害に関する症状が、筋肉質量、筋肉活性、およびまたは筋肉調和によって測定されるように、改善される。このことは、本発明の組成物が、GDF−8の機能化に関する疾患または障害(例えば、筋肉障害)の処置に有用であることを示す。
【0130】
【表3】
【0131】
本願にわたって引用された全ての参考文献、特許および公開された特許出願の完全な内容が、本明細書中で参考として援用される。前述の詳細な説明が、例示目的のみのために与えられた。広範囲の変化および改変を、上記の実施形態に対して行い得る。従って添付の特許請求の範囲(全ての等価物を含む)が、本発明の範囲を規定するよう意図されることが理解されるべきである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【請求項1】
明細書に記載の発明。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12−1】
【図12−2】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16−1】
【図16−2】
【図17】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図3D】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図7D】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10】
【図11】
【図12−1】
【図12−2】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16−1】
【図16−2】
【図17】
【公開番号】特開2010−31018(P2010−31018A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212565(P2009−212565)
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【分割の表示】特願2003−571403(P2003−571403)の分割
【原出願日】平成15年2月21日(2003.2.21)
【出願人】(591011502)ワイス エルエルシー (573)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月14日(2009.9.14)
【分割の表示】特願2003−571403(P2003−571403)の分割
【原出願日】平成15年2月21日(2003.2.21)
【出願人】(591011502)ワイス エルエルシー (573)
【Fターム(参考)】
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