説明

GC−MS分析装置

【課題】簡素化したGC−MS装置を提供する。
【解決手段】セクションGCとセクションMSとを含むGC−MS分析装置であって、このGC−MS分析装置には、セクションGCとセクションMSとにつながっており、分析物がたどる経路方向に従ってセクションGCの下流かつセクションMSの上流に位置する境界セクションが設けてあり、前記境界セクションは、少なくとも1つの膜を含んでおり、この膜は、膜の上流に位置する領域内の圧力pが膜の下流に位置する領域内の圧力pよりも高いような圧力差を前記膜が受けるとき、前記膜を通して前記セクションGCから前記セクションMSに移動する分析物内に分子流状態を確立できる少なくとも1つのオリフィスを有する、GC−MS分析装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GC−MS装置、すなわち、揮発性物質または揮発させることができる物質を分析するための装置に関し、この装置はガス・クロマトグラフィー(GC)技術と質量分析(MS)との組み合わせに基づいている。
【背景技術】
【0002】
周知のように、ガス・クロマトグラフィーは物質の混合物を分離するために使用される場合が多く、この物質の混合物は、その後、質量分析技術を用いて分析できる。
例として、先行技術によれば、ガス状物質の混合物を分析するためのGC−MS分析装置は、そこからキャリア・ガスで混合気体サンプルを搬送することができるサンプリング・セル(または「サンプル・ループ」)と、混合気体の正確な体積を採取するのに適しているサンプル弁と、分離アセンブリと、検出器と、を含むことができる。
【0003】
クロマトグラフ用カラムを通り抜けて分析されることを目的としている物質の構成要素がこのようなカラムから出てくるとき、それらの物質の構成要素の分離を達成するために、クロマトグラフ用カラムは温度変動工程にさらされ、このため、カラム全体を温度制御オーブンの内部に収容している。窒素(N)、ヘリウム(He)、または水素(H)をキャリア・ガスとして使用できる。
【0004】
検出器は、例えば、水素炎イオン化検出器(FID)である可能性があり、このFIDは、FIDにより収集された電流を、クロマトグラムをもたらす電圧信号に変換する電位計につながっている。
図1を参照すると、ガス・クロマトグラフGCおよびセクションMSが設けてある先行技術のGC−MS分析装置を模式的に示している。図示の実施例では、セクションMSは電子衝撃(EI)型イオン源を備えており、分析部は四重極型分析器を用いて達成されている。一般に使用される他の種類の分析器は、扇形磁場またはイオン・トラップを含む可能性がある。
【0005】
イオン化フィラメント(15)が設けてある電子衝撃(E.I.)型イオン源(11)は、クロマトグラフ用カラム(19)の出口開口(17)につながっており、このカラム(19)の中に分析物(分析対象物)が入れられる。カラム(19)は、温度制御オーブン(25)の内部に通常収容されている。
カラム(19)の入口に注入装置(21)を設けてあり、適切な溶剤を用いてあらかじめ溶液状にしてある分析予定の物質を、ガス・クロマトグラフの中に運び込むようになっている。
【0006】
クロマトグラフ用カラム(19)は、1mmより小さい、例えば、220μmと250μmとの間にある内径と、10mより長い、例えば、10mと60mとの間にある長さと、を通常有する石英ガラス製の毛細管で一般に構成されている。
例えば、He、N、H、アルゴンなどのキャリア・ガス(G1)を使用して、採取される予定の物質をカラム(19)の中に運ぶ。化学イオン化に、例えば、メタン(CH)などの他のガス(G2)を使用することができ、他のガス(G2)を適切な導管(27)を介してイオン源(11)に送ることができる。
【0007】
カラム(19)を通り抜けた分析物は開口(17)から外へ出て来て、装置の第1のセクションS1内に収容されているイオン源(11)でイオン化される。
イオン源(11)の出口には、イオンを後続のセクションに搬送する目的を有する静電レンズで作られたイオン・ガイド(35)をさらに設けてある。
ガイド(35)の下流には、例えば、高周波六重極、八重極、またはミニクワッドなどの第2のイオン・ガイド(37)が一般に配置されており、この第2のイオン・ガイド(37)を通って、第3のイオン・ガイド(39)と四重極型分析器(41)とが設けてある装置の第2のセクションS2にイオン・ビームが送られる。
【0008】
装置のセクションS1およびS2は、ケーシング(23)の内部に収容されており、オリフィスまたは「スキマー」(48)を有する隔壁(46)で分離されている。
検出器(43)は、四重極(41)の下流に位置しており、ダイノード、すなわち、分析器を通過してきたイオンにより作られた微小電流を増幅できる電子増倍管、で一般に作られている。既知の検出器の例は、ファラデー・カップ検出器、SEM(二次電子増倍管)検出器、およびチャンネルトロン検出器である。
【0009】
説明した例は「シングル・クワッド」に関連しているが、他の装置および他の四重極を分析物がたどる経路に沿って設けることができ、他の四重極には、例えば、干渉を除去するための衝突反応セルなどがある。
この種類の既知の装置は、例えば、1対のターボ分子真空ポンプなどの真空ポンプ(45、47)を一般に備えており、対応する機械的な前置真空ポンプが一般に設けてあり、例えば、装置の第1のセクションS1では10−3mbar(10−1Pa)、第2のセクションS2では10−5mbar(10−3Pa)などの真空状態を生成するようになっている。
【0010】
GC−MS装置は、今では、いくつかの分野で広く使用されているが、それらの装置の使用はますます広範囲に及んでいる。この種類の装置は、例えば、薬理学分野および法医学分野における混入物質の定量化などの揮発性物質の分析、ならびに有害廃棄物、工業製品の品質、環境サンプル内の有機系汚染物質の存在、および食物内の好ましくない物質の存在の分析に用いられている。
【0011】
その一方で、既知の装置は、製造・管理が複雑でかつ高価であり、大きな投資を必要とすることが購入を思いとどまらせるとともに、それらの普及を妨げている。運転費用の中には、キャリア・ガスおよび他のガスの供給も含まれている。
結果として、簡素化したGC−MS分析装置を有する必要性が強く感じられる。
較正済みリーク装置もまた、当技術分野で知られている。この種類の装置は、気密試験の間に、リークを検出するのに必要な機器を較正することにより、膜を通して制御されたガス流を生成することと、リーク値を定量化することと、を可能にする。現在使用されている装置は、実質的に、オリフィス・リーク、または毛細管と、ヘリウム透過リークと、の2種類である。
【0012】
第1の装置はピンホールとも呼ばれるが、レーザ・アブレーションまたは化学エッチングで一般に作られる。このような技術は、開口を高精度かつ再現性よく製造できるようにする。ナノホール、すなわち、膜を貫通し、ナノメートル・サイズの直径を有する穴、を備えた膜を有する第1の種類の装置の例が下記特許文献1に開示されている。この種類の装置は、気密試験の間に、リークを検出するのに必要な機器を較正することにより、膜を通して制御されたガス流を生成することと、リーク値を定量化することと、を可能にする。この種類の膜の他の例は下記特許文献2に開示されている。
【0013】
一方、透過リークは温度が変化するとき、その挙動が非常に不安定になり(室温付近の温度値の場合、透過リーク値は摂氏で1度あたり約3%変化する)、応答時間が長く、こわれやすく(透過リークはガラスで作られているため、地面に落としただけでも容易にこわれてしまう)、ヘリウムに対してのみ使用でき、単一の流量値を有している。
このような透過リークの例は、下記特許文献3および下記特許文献4に記述されている。
【0014】
また、透過リークに基づくガス採取装置は、下記特許文献5〜9に開示されている。
また、質量分析の分野で使用されている選択的透過膜については、下記特許文献10と、下記非特許文献1と、に開示されている。
上述した第1の種類のナノホール膜を、ガス透過膜と混同してはならない。第1の種類の膜は、例えば、レーザ穿孔などにより人為的に作られた穴であって、穴の全長に沿って実質的に均一な断面を有する穴を有しており、したがって、膜の使用方法に従って第1の種類の膜を較正することができ、さらに、平行な軸を有する数個の、または多数のほぼ同一の穴を同じ膜上に作ることができる。一方、ガス透過膜は、膜の材料の本来の特性が、通常高温において、ガスまたは混合ガスの透過を可能にするような膜である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】米国特許出願公開第2006/0144120号明細書
【特許文献2】国際公開第03/049840号パンフレット
【特許文献3】独国特許出願公開第19521275号明細書
【特許文献4】国際公開第02/03057号パンフレット
【特許文献5】米国特許第4008388号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2002/134933号明細書
【特許文献7】米国特許第4311669号明細書
【特許文献8】米国特許第4712008号明細書
【特許文献9】国際公開第2008/074984号パンフレット
【特許文献10】米国特許第4551624号明細書
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Maden A M 外.“Sheet materials for use as membranes in membrane introduction mass spectrometry” Anal. Chem., Am. Chem. Soc., US vol.68, no.10 1996年5月15日. pp.1805−1811,XP000588711 ISSN:0003−2700.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明の第1の目的は、簡素化したGC−MS装置、特に、機械的な特徴および真空システムに関するものを提供することであり、この簡素化したGC−MS装置の動作性能は、同じカテゴリの既知の装置の動作性能と同程度である。
本発明のさらなる目的は、好ましい費用で工業的に量産化できる上述した種類の装置を提供することである。
【0018】
本発明の大事な目的は、類似の動作性能を有する既知の装置に比べて管理が容易であり、したがって、メンテナンス費用を低減できるGC−MS分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
これらの目的および他の目的は、添付の特許請求の範囲に記載のGC−MS装置により達成される。
後述する本発明はGC−MS分析装置の1つの特定カテゴリには限定されず、上述の既知の装置についての言及は、あくまで一例として提供したに過ぎない。
本発明の境界セクションが、セクションMS(MSセクション)の方へ導かれる必要な分析物分子流を決定するものであり、実質的にクロマトグラフ用カラムから来る全流量がMSセクションに送られる先行技術の装置に比べて、真空システムに必要なポンプ能力が結果として低減できることが有利である。この状態は、回転機械構造を有し、複雑な電子制御装置を必要とするターボ分子ポンプに基づく真空システムよりも一般に構造的に単純化されている、例えば、イオン真空ポンプの使用を可能にする。
【0020】
真空システムの単純化、その結果としての重量の低減、および電流吸収の低下のおかげで、コンパクトで可搬型でありバッテリで動く装置を製造できることは有利である。
本発明の装置には、少なくとも1つのナノホール、すなわち、10nmと500nmとの間にある直径を有するナノメートル・サイズのオリフィス、を有する少なくとも1つの膜が組み込んであり、それにより、セクションMS内のイオン源の方へ導かれる制御された分析物流と、前記セクションMSが備えている真空ポンプからの、結果として起こるポンピング需要の低下と、を決定することが有利である。
【0021】
ガス流が1つまたは複数のナノホールを通り抜ける場合を除いて、前記膜は、ガス流に対して実質的に不透過性であり、前記膜は、1つだけのナノホール、または限定された個数のナノホール、例えば、10個から100個のナノホール、を含んでいることが好ましい。
1つまたは複数のナノホールの直径Dおよび長さLが、L<20・Dとなるような寸法となされており、オリフィスの相当直径DeがDe≦100nmであり、ここで、Deは関係式De=D・a1/2で規定されており、ここで、aはオリフィスの、L/D比の関数である透過確率である、そのような種類の、少なくとも1つのナノホールまたは複数のナノホールを有する膜を選択することで、ナノホールが目詰まりする傾向を大幅に低減させることを決定する。
【0022】
本発明のいくつかの実施形態が、添付の図面を参照することにより一例としてのみ以下のように説明されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】先行技術のGC−MS装置の模式的な実施例である。
【図2A】本発明の第1の実施形態の装置のブロック図である。
【図2B】本発明の第1の実施形態の装置の変形のブロック図である。
【図3】界面膜に適している支持部の斜視図である。
【図4】図3に示した線IV−IVに沿う断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態を組み込んだ図1の装置模式図を示している。
【図6】本発明の実施形態の変形を組み込んだ図1の装置模式図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0024】
すべての図面において、同じ構成要素、または機能上等価な構成要素を示すために同じ参照符号を使用している。
図2Aを参照すると、本発明の第1の実施形態のGC−MS装置は、ガス・クロマトグラフ・セクションGC(GCセクション)と、分光分析セクションMS(MSセクション)と、を含んでおり、それぞれがつながっている。本発明によれば、これらの2つのセクションは境界セクションを介してそれぞれつながっていることが有利であり、この境界セクションは全体を参照符号51で示してあり、装置の中に入った分析物がたどる、図中に矢印FinおよびFoutで示した好ましい経路方向を基準として、境界セクションはセクションGCの下流およびセクションMSの上流に位置している。
【0025】
本発明によれば、境界セクション51は、少なくとも膜53を含んでいる。膜53の上流に位置する領域(図2Aの空間51a)内の圧力pが膜53の下流に位置する領域(図2Aの空間51b)内の圧力pよりも高いような圧力差を膜53が受けているとき、オリフィス55を通ってセクションGCからセクションMSに移動する分析物内に分子流状態を確立できる少なくとも1つのオリフィス55を、膜53は有する。前記圧力差は、少なくとも1桁であることが好ましく、2桁以上であることがより好ましい。
【0026】
例示的実施形態では、空間51aは、約1bar(10Pa)の大気圧の圧力に保持され、空間51bは約10−2mbar(10Pa)と10−7mbar(10−5Pa)との間に含まれる圧力に保持されている。また、空間51a内の大気圧を超える圧力も実現可能である。
本発明の好ましい実施形態によれば、前記少なくとも1つのオリフィス55は、ナノホール、すなわち、膜53を貫通するナノメートル・サイズの直径D、好ましくは10nmと500nmとの間にある直径Dを有する穴、で構成されている。
【0027】
オリフィス55は任意の形状であってもよいが、円形形状が一般に最も実現しやすい。
さらに、前記膜53は平面状であることが好ましく、前記オリフィス55は、膜53の表面に対して実質的に垂直な軸の周囲で膜53に形成されているとともに、実質的に均一な横断面を有している。
さらに、本発明によれば、常に、前記オリフィスはL<20・Dとなるような直径Dおよび長さLを有していることが好ましい。
【0028】
膜53は、直径Dおよび長さLはオリフィスの相当直径DがD≦100nmとなるような寸法となされており、ここで、Dは関係式D=D・a1/2で規定されており、ここで、aはオリフィスの、L/D比の関数である透過確率である、そのようなタイプの膜であることがさらに好ましい。後者の条件は、例えば、不純物に起因するナノホールの閉塞(「目詰まり」)を回避するために特に有効であることが分かっている。
【0029】
さらに、境界セクション51は、用途に応じて、2つ以上のナノホール55を有する、すなわち、複数のナノホール55を有する、ただ1つの膜53、またはそれぞれが異なっており、任意の個数のナノホールが設けてある可能性もある、より多くの膜、を有し得ることが有利である。ナノホールは、それぞれ異なる大きさをさらに有することができる。
本発明によれば、境界セクションの空間51aと51bとは、2つの空間を分離している1つまたは複数の膜53の1つまたは複数のナノホール55を通して、互いの間で排他的に連通していることが好ましい。
【0030】
前記膜53は、セラミック、金属、半導体材料、またはそれらの組み合わせで作れることが有利であり、オリフィス55は、浸食過程を用いて、例えば、頭字語でFIB(集束イオン・ビーム)と名付けられた技術に基づく非常に集中させたイオン・ビームを用いて、得ることができる。
本発明の好ましい実施形態では、膜53は密封真空気密ケーシング59の中に収容されており、装置のセクションGCから来る分析物が、例えば、ダクト49を通って、このケーシング59の中に入ってきて(矢印Finで示す方向)、分子流を有する分析物が、このケーシング59から膜53を通って出てきて(矢印Foutで示す方向)、例えば、流路77を通り抜けることによりセクションMSに向かう。より正確には、膜53は、ケーシング59の内部に、2つの空間51a、51bを形成するようにケーシング59の中に位置しており、これらの2つの空間51a、51bは、膜53のナノホール55を通して、または本発明の他の実施形態では、同じ膜内に設けられた複数のナノホールを通して、もしくは複数の膜内に分散されたナノホールを通して、互いの間で連通している。
【0031】
適切な真空ポンプPVおよびPV、ならびに/またはセクションGCとMSとが備えている同じ真空ポンプを含む、任意の排気および/または再循環手段が、膜53の上流に位置する前記空間51aと、当該膜の下流に位置する空間51bとの間に、必要な圧力差を生成することを可能にするとともに、1つまたは複数のナノホールを通る分析物の分子流を図中の矢印FinおよびFoutで示す方向に生じさせることを可能にする。
【0032】
本発明によれば、膜53は、真空気密接着により、ケーシング59の内部の空間51aと51bとの間に延びている隔壁59aに、隔壁59a内に設けられた開口において直接結合することができ、したがって、膜53がこの開口に完全にはまり込む。
他の方法として、以下で詳述する支持部63内に膜53を収容でき、支持部63は、例えば、溶接または接着することにより真空気密に隔壁59aに固定することができ、このような目的のために隔壁59a内に設けられた開口に、はめ込むようになっている。
【0033】
図3および図4を参照すると、本発明の好ましい実施形態では、膜53は、けい素(Si)で作られた基板53aと、窒化けい素(SiN)で作られた表面被覆層53bと、を含んでいる。本発明によれば、窒化けい素で作られた層54bは、より高い圧力pを有する空間51aと向かい合うことを目的として作られていることが好ましく、他方、基板53aは、より低い圧力pを有する空間と向かい合うことになる。
【0034】
膜53の例示的実施形態では、基板53aおよび層53bは、それぞれ約0.1〜0.3mmおよび200nmの厚さを有していた。
本発明によれば、常に、水蒸気生成を回避するために、膜53、特に、より高い圧力を有する空間51aへ向けられている層53bの表面には、要求に応じて、例えば、防水被膜の塗布のような表面被覆処理をさらに施すことができる。水蒸気生成は、「目詰まり」として知られている現象、すなわち、1つまたは複数のナノホールの閉塞、および、その結果として、セクションGCからセクションMSへ移動する分析物の分子流の遮断または低減、を引き起こす一因となる可能性がある。
【0035】
他の実施形態では、目詰まりの危険性を回避するためにさらに提供される加熱手段を、膜53に付随させることができることが有利である。
膜53は支持部63内に収容されていることが好ましく、この支持部63には膜53を収容できる適切なウェル(くぼみ)69が設けてあることが有利である。さらに、支持部63は、例えば、銅などの金属で作られていることが好ましい。支持部63は、約20mmと25mmとの間にある直径と、約1.5mmと2.5mmとの間にある厚さとを有する、例えば、円板形を有することができる。
【0036】
図示の実施例では、ウェル69は支持部63の中心に実質的に形成されており、ウェル69は平面図で見ると正方形であり、このウェル69の中に、好ましくはウェル69と相補的な形状を有する膜53を収容することができる。
この例示的実施形態では、膜53は、平面図で見ると、例えば、正方形である可能性があり、約3.0mmと8.0mmとの間にある一辺と、約0.20mmの厚さと、を有しており、ウェル69は5.0mmと10.0mmとの間にある辺長を有することができる。
【0037】
さらに、ウェル69は膜53用の支持領域71をさらに含んでおり、この支持領域71は中心位置にあり、支持部63の表面に対してわずかに低い高さに位置していることが好ましく、膜53が領域71上に置かれたときにウェル69の端縁部が当該膜の横ずれを防止し、それによって、膜の取り付けを容易にするようになっている。言い換えれば、この膜53が中央領域71上に置かれたとき、ウェル69の周縁側部が膜53用の保持周縁部を決定すれば十分である。
【0038】
支持部63の中央領域71は、溝部73により、さらに取り囲まれており、支持部63上に膜53を保持するために、この溝部73内に、例えば、密封用樹脂などの粘着性物質を分配することができる。
膜53が支持領域71上に位置するときに接着剤が溝部73から流れ出ることを可能にするために、およびこのように支持部63に対する膜53の完全な接着を可能にするために、ウェル60の端縁部により規定される保持周縁部は膜53の側部から離間していることがさらに好ましい。
【0039】
機械加工を用いて、または放電加工もしくはレーザ・アブレーションを用いて、溝部73を得ることができることが有利であり、それによって、内表面上に分配された接着剤の最適な接着を保証するように内表面を粗面にすることが好ましい。
支持部63の支持表面71は、膜53内に設けられたナノホール55の場所に位置する開口75をさらに含んでいる。膜53が2つ以上のナノホールを有しているときには、それらのナノホールをふさがないようにするために十分な大きさおよび/または個数の開口75が提供されるであろうことは明らかである。
【0040】
図示の例示的実施形態では、ナノホール55は、膜53の、より薄くなっている中央領域53cに作られていることが有利であり、この中央領域53cでは、基板53aが取り除かれており、層53bだけが残っている。前記のより薄くなっている領域は、例えば、20ミクロンと500ミクロンとの間にある一辺を有し、実質的に正方形である。しかしながら、基板53aを取り除かずに、または基板53aを部分的にのみ取り除くことにより、1つまたは複数のナノホール55を膜53内に作るような、他の実施形態も可能である。したがって、本発明によれば、膜53の1つまたは複数のナノホールは、層53b内だけに、または層53bと基板53aとの両方の中に、作られる。
【0041】
さらに、本発明によれば、支持部63、それぞれのウェル69、および膜53は、必要に応じて、例えば、円形、正方形、長方形、ひし形状、不規則形状などの、実質的に任意の形状を想定することができる。
図2Bを参照すると、境界セクション51の空間51b内にイオン源を実質的に組み込んであり、結果として装置内の構成要素を削減できる本発明の装置の実施形態の変形が示されている。
【0042】
イオン源が電子衝撃(EI)型のイオン源であるとき、膜53と、それぞれの可能な支持部63とは、イオン源内で到達する温度に耐えるように適切に作られており、この温度は、フィラメント15が白熱するまで加熱することにより引き起こされ、摂氏数千度もの高温に達する可能性がある。
図2Aおよび図2Bの両方を参照すると、周知のように、異なる真空状態に保持された2つの空間を分離するナノメートル・サイズ(〜100nm)の直径を有する穴のコンダクタンスCは、大気圧において、または、より低い圧力において、下記の式のように測定できる。
【0043】
【数1】

【0044】
ここで、Aは孔隙表面、Tはガス温度、Rはガス定数、およびMはガス質量である。
したがって、膜53を通って空間51aから空間51bに移動する間にガス混合気が有している濃度は、上述の式(空間51b内で、より軽いガスの濃度がしだいに高くなる)に基づく変化を受ける。
しかしながら、膜53を通ることにより分子領域になっており、セクションMSの方へ方向づけられた較正済みのイオン出口穴79では、再び同じ式(より軽いガスがしだいに多く出てくる)に基づいて調整された分子領域流になっている。したがって全体として、穴79の寸法を適切に規定することにより、セクションGCから来るガス混合気を構成しているさまざまなガスの同じ濃度を、空間51bの内部に復元できる。
【0045】
穴79は、好ましくは1mmと10mmとの間にあり、例えば、2.5mmの、ミリメートル・サイズの直径と、例えば、1mmの、ミリメートル・サイズの長さと、を一般に有している。しかしながら、例えば、0.5mmまたは0.1mmなどの1mmよりも小さい値も可能である。またさらに、所望の流れを達成するために、複数の較正済みの穴79を設けることもできる。
【0046】
図2Aに示す本発明の第1の実施形態においてさえ、類似の較正済みの穴70を有利に設けることができることは明らかである。このような場合には、セクションMSが備えているイオン源の出口に前記較正済みの穴79が設けられる。
本発明の産業利用の第1の実施例として、「シングル・クワッド」GC−MS装置を示している図5を参照するが、この装置は、図1に関して上述した方式に従って実質的に作られており、この装置の中には、図2Aに示す第1の実施形態に基づいて境界セクション51を組み込んである。この装置には、クロマトグラフ用カラム19と、電子衝撃型イオン源11と、四重極型分析器41と、検出器43と、が主に設けてある。
【0047】
セクションGCのクロマトグラフ用カラム19は、境界セクション51のケーシング59につながっており、カラム19の出口開口17が境界セクション51に、より正確には、膜53の上流に位置する空間51aに、連通している。
ケーシング59の内部の膜53の下流に位置する空間51bは、直接的に、または図示の実施例のように、適切な流路77を介してイオン源11に至ることにより、セクションMSに連通している。
【0048】
この実施形態では、境界セクション51の空間51aに、再循環真空ポンプPVが設けてある。真空ポンプPVは、例えば、溶剤を再循環するために必要な、例えば、約1bar(10Pa)または、それより高い所望圧力を空間51aの内部に生成するために、例えば、空間51aを排気できるメンブレン真空ポンプを含み得る。
この実施形態によれば、代わりに、膜53の下流に位置する空間51bでは、必要な真空度、通常約10−5mbar(10−3Pa)が、好ましくは隔壁46と、それぞれのオリフィスもしくは「スキマー」48とを省き、ポンプ45を必要とせずに、可能なポンプ47を用いて直接達成されるか、またはセクションMSのセクションS1が備えている可能なポンプ45を用いて達成され、空間51bは流路77を介してイオン源11に連通している。
【0049】
本発明によれば、セクションMSへ導かれる、先行技術に比べて非常に低減された分析物の分子流を決定する1つのナノホール/複数のナノホールを備えた膜を有する境界セクションの存在により、セクションMSが備えている1つまたは複数の真空ポンプは、例えば、イオン型ポンプ、すなわち、一般に使用されているターボ分子ポンプよりも単純なポンプであり得、実質的にクロマトグラフ用カラムから来るすべての分析物流がセクションMSに送られる先行技術の装置に比べて、所要のポンピング能力が著しく小さくてすむ。
【0050】
再び図5の実施例を参照すると、再び同じ上述の式1.)(より軽いガスがしだいに多く出てくる)により調整される分子領域にあるイオン流を保持するために、イオン源11の出口に較正済みの穴79が設けてあることが好ましい。
空間51bとイオン源11との間の圧力変化を決定するために、流路77がこのような小さい寸法を有していたとしても、上述の状態(すなわち、セクションGCから来るガス混合気を構成するさまざまなガスの同じ濃度分布が、空間51b内にある)は、較正済みの穴79の存在により常に保証され、この穴79を通ることにより、イオン流は調整された分子領域にあることを常に維持されるであろうということが分かる。
【0051】
本発明の産業利用の第2の実施例として、GC−MS装置を示している図6を参照するが、この装置は、図1に関して上述した方式に従って実質的に作られており、この装置の中には、図2Bに示す本発明の実施形態の変形に基づいて境界セクション51を組み込んである。この装置には、クロマトグラフ用カラム19と、電子衝撃型イオン源11と、四重極型分析器41と、検出器43と、が主に設けてある。
【0052】
本発明のこの実施形態の変形によれば、膜53は、直接的に、または適切な支持部63によって、イオン源11の内部につながっている。したがって、イオン源は境界セクション51の空間51b内に組み込まれており、または、逆に、空間51bはイオン源11内に組み込まれており、結果として装置内の構成要素を削減できる。
この実施形態によれば、膜53と、それぞれの支持部63とは、フィラメント15が白熱するまで加熱することに起因して、イオン源内で到達する温度に耐えるように適切に作られている。
【0053】
クロマトグラフ用カラム、電子衝撃型イオン源、およびシングル四重極(シングル・クワッド)型分析器を備えた種類のシングル・クワッドGC−MS装置に特に関連して本発明を説明したが、説明した境界セクションは任意のGC−MS装置に組み込めることが有利である。
例えば、本発明は、FAB(高速原子衝撃)、化学イオン化、レーザ・イオン化などの、電子衝撃型イオン源とは異なるイオン源を備えたGC−MS装置で使用することができる。
【0054】
さらに、本発明は、磁気的分析器、三連四重極(トリプル・クワッド)型分析器、TOF(「飛行時間」)分析器、イオン・トラップ型分析器、磁場とRF場とを使用することにより質量選別を行うことができるオメガトロン分析器、FT−ICR(フーリエ変換イオン・サイクロトロン共鳴)分析器、サイクロイド質量分析器(結果として生じる電場と磁場との適切な選択により質量選別を行う)、磁気セクション分析器、およびイオン・トラップ型分析器を含むGC−MS装置で使用できることが有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GCセクションとMSセクションとを含むGC−MS分析装置であって、
このGC−MS分析装置には、前記GCセクションと前記MSセクションとにつながっており、分析物がたどる経路方向に従って前記GCセクションの下流かつ前記MSセクションの上流に位置する境界セクションが設けてあり、
前記境界セクションは、少なくとも1つの膜を含んでおり、この膜は、当該膜の上流に位置する領域内の圧力pが当該膜の下流に位置する領域内の圧力pよりも高いような圧力差を当該膜が受けるとき、当該膜を通して前記GCセクションから前記MSセクションに移動する前記分析物に分子流状態を確立できる少なくとも1つのオリフィスを有する、GC−MS分析装置。
【請求項2】
前記オリフィスが、前記膜を貫通するナノメートル・サイズの直径を有する穴であるナノホールである、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記ナノホールが10nmと500nmとの間にある直径Dを有している、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記ナノホールの前記直径Dおよび長さLが、L<20・Dとなるような寸法にされている、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
前記直径Dおよび前記長さLが、前記オリフィスの相当直径DeがD≦100nmとなるような寸法にされており、ここで、Dは関係式D=D・(a)1/2で規定されており、ここで、aは前記オリフィスの、前記L/D比の関数である透過確率である、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記膜が実質的に平面状であり、前記オリフィスが前記膜の表面に対して実質的に垂直な軸に沿って前記膜を貫通しているとともに、実質的に一様な横断面を有している、請求項1に記載の装置。
【請求項7】
前記境界セクションがイオン源を含んでおり、前記イオン源は少なくとも1つの較正済みの穴を介して、下流に位置する空間に連通している、請求項1に記載の装置。
【請求項8】
前記境界セクションがイオン源に連通しており、前記イオン源は少なくとも1つの較正済みの穴を介して、下流に位置する前記空間に連通している、請求項1に記載の装置。
【請求項9】
前記較正済みの穴が、ミリメートル・サイズまたは、それより小さい寸法の直径を有している、請求項7または8に記載の装置。
【請求項10】
前記GCセクションが少なくとも1つのクロマトグラフ用カラムを含んでおり、そのクロマトグラフ用カラムの出口開口が前記境界セクションに連通している、請求項1に記載の装置。
【請求項11】
前記MSセクションが電子衝撃型イオン源と四重極型分析器とを含んでいる、請求項1または10に記載の装置。
【請求項12】
前記膜が、支持部内に形成されたウェルの中に収容されており、前記ウェルは前記膜内に形成された前記オリフィスに位置する開口を含んでいる、請求項1に記載の装置。
【請求項13】
前記ウェルが、前記支持部の表面に対してわずかに低い1つの高さに位置する、前記膜に適している支持領域をさらに含んでおり、前記膜が前記支持領域上に載置されたときに前記ウェルの端縁部が前記膜のずれを防止し、それによって、前記膜の取り付けをより容易にするようになっている、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記膜用の前記支持部の前記載置領域が、前記膜を前記支持部内に保持するために接着物質を収容できる溝部により、取り囲まれている、請求項12または13に記載の装置。
【請求項15】
前記膜が1〜100個のナノホールを含んでおり、ガス流が前記1つまたは複数のナノホールを通り抜ける場合を除いて、前記膜は前記ガス流に対して実質的に不透過性である、請求項1に記載の装置。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−43495(P2011−43495A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2010−155894(P2010−155894)
【出願日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(502211434)ヴァリアン ソシエタ ペル アジオーニ (15)
【Fターム(参考)】