説明

GCIB(ガスクラスターイオンビーム)銃、表面分析装置および表面分析方法

【課題】TOF−SIMSの一次イオンに使用できるほど短いパルス幅のGCIBを射出できるGCIB銃を提供する。
【解決手段】
イオン化室30から射出されたGCIBを予め決められた時間だけ通過させる第一のシャッター部41と、第一のシャッター部41を通過したGCIBのうち予め決められた質量範囲外のGCIBを除去する選別部59とを有している。選別部59は、GCIBを交互に反射して往復移動させる第一、第二のミラー電極51a、52aと、第一、第二のミラー電極51a、52aの間に配置され、前記質量範囲内のGCIBを、予め決められた時間だけ通過させる第二のシャッター部53と、を有し、前記質量範囲内のGCIBを選別部59から射出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスクラスターイオンビーム銃(本発明では「GCIB銃」と呼ぶ)に関し、特にガスクラスターイオンビーム(本発明では「GCIB」と呼ぶ)を飛行時間型二次イオン質量分析(本発明では「TOF−SIMS」と呼ぶ)の一次イオンビームに使用する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
TOF−SIMSは、イオン源から数10keVの加速エネルギーで引き出された一次イオンを試料に照射し、試料から生成された二次イオンの質量を飛行時間に従って同定し、試料表面の原子・分子組成を明らかにする表面分析方法である。また試料表面を極細の液体金属イオンビームを用いて二次元スキャンすることによって、質量の二次元分布が数μm以下の空間分解能で得られる。一次イオンには従来GaイオンやAuイオンが使用されていたが、最近では有機物に対する二次イオン収率の増大が得られるためBiイオンやC60イオンが使用され始めている。
【0003】
一方、これらの従来のイオンビームに較べて数百個から数千個の原子・分子からなるGCIBは一個当たりのエネルギーが数eV以下のため、高分子試料をフラグメントに分解することが少なく、従来のイオンビームでは難しかった分子イオンの検出が期待できる。また二次イオン収量が大きいため感度向上が期待できる。これらのことから、GCIBを一次イオンとして用いることができればTOF−SIMSの応用範囲は拡大すると考えられる。
しかしながら、一次イオンビームとしてGCIBを従来の液体金属イオンに置き換えて使用しようとすると次のような問題点が生じる。
【0004】
第一に、GCIBは数10〜数1000の広いサイズ(クラスターイオン1個あたりの原子・分子の数)分布を有するために、一定エネルギーで加速されたGCIBはサイズによって速度が異なり、試料までのドリフト空間を走行中にパルス幅が広がり、従来のイオンビームのように数nsec以下の短いイオンパケットを生成することが困難であった。例えばビームエネルギー5keVのときサイズ2000と2200のイオンでは10cm走行すると1.41μsecの時間差が生じてしまう。
【0005】
従ってGCIBのサイズ選別を高分解能で行うことが求められている。特許文献1乃至特許文献3にはイオンビームの質量選別技術が開示されているが、いずれもTOF−SIMSに使用するにはサイズ選別の分解能が不足しており、さらに定常ビームとして使用することが前提になっているため、TOF−SIMS用GCIBのサイズ選別の課題を解決することはできなかった。
【0006】
第二に、GCIBは分子量が大きく速度が遅いため、横型ゲートによって連続イオンビームをパルス幅の短いイオンパケットに生成する場合、偏向電場を通過するのに無視できない時間を要し、パルス幅が長くなるという欠点があった。
【0007】
例えば5keVのエネルギーを有するArのクラスターサイズ2000(質量数80000)のイオンが2mmの有効偏向電場領域を通過するのに要する時間は576nsecである。従って横型ゲートの偏向電極にはパルス幅288nsec以上の電圧パルスを印加しなければならない。
【0008】
イオンパケットのパルス幅を短くするためには偏向電場のビーム進行方向(軸方向)長さを極端に短くする必要があるが、イオンビームをON/OFFするための偏向角を十分に得るためには、偏向電場の軸方向長さが短いほど高い偏向電圧を要するので、偏向電場の軸方向長さは極端に短くはできない。
すなわちGCIBでは従来のイオンビームのように数nsec以下のパルス幅の短いイオンパケットを生成することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−71642号公報
【特許文献2】特開2005−71643号公報
【特許文献3】特開2007−234508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、TOF−SIMSの一次イオンに使用できるほど短いパルス幅のGCIBを射出できるGCIB銃を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明は、真空容器と、前記真空容器内にガスクラスターを生成するノズル室と、生成された前記ガスクラスターをイオン化するイオン化室とを有し、イオン化された前記ガスクラスターからなるGCIBを前記イオン化室から射出するGCIB銃であって、前記イオン化室から射出された前記GCIBを予め決められた時間だけ通過させる第一のシャッター部と、前記第一のシャッター部を通過した前記GCIBのうち予め決められた質量範囲外の前記GCIBを除去する選別部とを有し、前記選別部は、前記GCIBを交互に反射して往復移動させる第一、第二のミラー電極と、前記第一、第二のミラー電極の間に配置され、前記質量範囲内の前記GCIBを、予め決められた時間だけ通過させる第二のシャッター部と、を有し、前記質量範囲内の前記GCIBを前記選別部から射出するGCIB銃である。
本発明はGCIB銃であって、前記第二のシャッター部は、前記GCIBの飛行経路を間に挟んで互いに対向する一対の偏向電極板と、前記一対の偏向電極板のうち一方の偏向電極板に正電圧を印加し、他方の偏向電極板に負電圧を印加する電源装置と、前記電源装置の出力電圧値を制御する制御装置と、を有し、前記制御装置は、前記質量範囲外の前記GCIBが前記一対の偏向電極板の間を飛行しているときは、前記一対の偏向電極板に互いに逆極性の電圧を印加して、前記GCIBを偏向除去し、前記質量範囲内の前記GCIBが前記一対の偏向電極板の間を飛行しているときは、前記一対の偏向電極板をそれぞれ接地電位にして、前記GCIBを通過させるように構成されたGCIB銃である。
本発明はGCIB銃であって、前記第一のシャッター部を通過した前記GCIBの進行方向を曲げる四重極偏向電極部を有し、前記選別部は進行方向を曲げられた前記GCIBが入射する位置に配置されたGCIB銃である。
本発明はGCIB銃であって、前記選別部から射出された前記GCIBのパルス幅を圧縮する圧縮部を有し、前記圧縮部は、前記GCIBが順に通過する第一、第二の通過孔がそれぞれ設けられた第一、第二の加速電極と、前記第一の加速電極に前記GCIBと同極性の電圧をパルス状に印加し、前記第一の通過孔から前記第一、第二の加速電極間に進入した前記GCIBを前記第一の電極から前記第二の電極に向けて加速させるパルス電源と、を有するGCIB銃である。
本発明は、前記GCIB銃を有する表面分析装置である。
本発明は、前記GCIB銃から照射されたイオンビームを試料に照射して表面分析を行う表面分析方法である。
【0012】
GCIBのサイズ選別法である飛行時間法の原理を説明する。
第一のシャッター部から一定距離だけ離れた位置に第二のシャッター部を設置する。第一のシャッター部からパルス幅T1のパルスビームを第二のシャッター部に向けて入射する。第二のシャッター部までの飛行時間をT0、第二のシャッター部のパルス幅をT2とすると、サイズ選別の分解能R=M/ΔMはR=T0/2(T1+T2)で与えられる。すなわち飛行距離を大きくすれば分解能を大きくすることができる。
【0013】
しかしながら、装置サイズによって飛行距離は制限され、分解能は制限される。このような装置サイズによる制限を受けないようにするために、本発明では第一、第二のミラー電極から成る静電型ミラーイオントラップを用いており、パルスビームをトラップ内で往復移動させ、飛行距離を長くすることができる。往復運動中、サイズの小さいイオンはサイズの大きなイオンを追い越すので、追い越しが生じないように経路中に第二のシャッター部を配置して不要サイズのイオンを一周期毎に除去し、一定時間後にサイズのそろったイオンを取り出す。
【発明の効果】
【0014】
TOF−SIMSの一次イオンに使用できるほど短いパルス幅のGCIBを得ることができる。このことにより、TOF−SIMSの分解能が向上し、高分子材料や生体材料を従来より低損傷かつ高効率でイオン化できるのでTOF−SIMSの応用範囲が拡大する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のGCIB銃の内部構成図
【図2】第一のシャッター部と選別部の構造を説明するための模式図
【図3】圧縮部の構造を説明するための模式図
【図4】本発明のGCIB銃の第二例の内部構成図
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のGCIB銃の構造を説明する。
図1はGCIB銃10の一例の内部構成図を示している。
GCIB銃10は、真空容器11と、真空容器11内に中性のガスクラスターを生成するノズル室20と、生成されたガスクラスターをイオン化するイオン化室30と、イオン化されたガスクラスターから成るGCIBをパルス化するパルス化室40と、パルス化されたGCIBを真空容器11の外側に射出する射出室50を有している。
【0017】
ここでは真空容器11は接地電位に置かれている。
ノズル室20とイオン化室30とパルス化室40と射出室50は真空容器11の内側にそれぞれ配置され、この順序で直列に接続されている。射出室50は銃口13に接続されている。
【0018】
ノズル室20で生成されたガスクラスターは、イオン化室30とパルス化室40と射出室50を順に通って、銃口13から真空容器11の外側に射出されるようになっている。
ここでは真空容器11の銃口13には不図示の真空槽が気密に接続され、真空容器11の内側は外側の大気と遮断されている。
【0019】
ノズル室20とイオン化室30とパルス化室40と射出室50には真空排気装置151、152、153、154がそれぞれ接続され、内部は真空排気されて真空雰囲気を維持されている。
ノズル室20内には、ノズル21とスキマー22が配置されている。
【0020】
ノズル21にはガス導入部16が接続され、ガス導入部16からノズル21にソースガスが供給されると、ノズル21は先端からソースガスを噴出できるように構成されている。本実施例ではソースガスとしてArガスを使用する。
スキマー22はノズル21の先端と対向して配置されている。
【0021】
真空排気されたノズル室20内にノズル21の先端からソースガスを噴出させると、噴出されたソースガスの超音速噴流は、断熱膨張により熱運動が並進運動に変換されて温度が下がり、ガス原子(分子)はファンデルワールス力によって互いに引き寄せられ、数百〜数千個の原子(分子)の集団からなる中性のガスクラスターが生成される。
生成されたガスクラスターの中心部はスキマー22によって切り出され、イオン化室30に導かれる。
【0022】
イオン化室30内には、導入されたガスクラスターをイオン化するイオン化部31と、GCIBを加速してパルス化室40に導く引出電極部34が配置されている。
ここではイオン化部31は、イオン化室30内に熱電子を放出するフィラメント32と、放出された熱電子を加速してガスクラスターに照射する熱電子加速電極33を有している。
【0023】
加速された熱電子がガスクラスターに照射されると、電子衝撃によりガスクラスターはイオン化する。
形成されたガスクラスターイオンは、引出電極部34が形成する電場により加速されて引き出されてGCIBとなり、パルス化室40に導かれる。
【0024】
本実施例ではArのガスクラスターはイオン化部31でほとんどが一価の陽イオンになり、引出電極部34で加速される間に5keVの運動エネルギーを得る。
パルス化室40内には、イオン化室30から射出されたGCIBを予め決められた時間T1だけ通過させてパルス化する第一のシャッター部41が配置されている。
【0025】
図2は第一のシャッター部41と、後述する選別部59の構造を説明するための模式図である。
第一のシャッター部41はここではGCIBの飛行経路を間に挟んで互いに平行に対向する一対のパルス化電極板42、43を有している。
【0026】
一対のパルス化電極板42、43にはそれぞれ電源装置54が電気的に接続されている。電源装置54は一方のパルス化電極板42に正電圧を印加し、他方のパルス化電極板43に負電圧を印加するように構成されている。
以下では、イオン化室30とパルス化室40との間の隔壁を第一の隔壁17と呼び、パルス化室40と射出室50との間の隔壁を第二の隔壁18と呼ぶ。
【0027】
第一のシャッター部41の一対のパルス化電極板42、43がそれぞれ接地電位にされているときは、イオン化室30から第一の隔壁17の第一の貫通孔17aを通って射出されたGCIBは、一対のパルス化電極板42、43の間を直進し、第二の隔壁18の第二の貫通孔18aを通って射出室50に導かれるようになっている。
【0028】
一方、電源装置54から一対のパルス化電極板42、43に互いに逆極性の直流電圧が印加されると、一対のパルス化電極板42、43の間に電場が形成され、一対のパルス化電極板42、43の間を飛行するGCIBは電場からの電磁力により進行方向を曲げられて、第二の隔壁18に衝突し、遮断されるようになっている。
【0029】
電源装置54には制御装置55が接続されている。制御装置55は一対のパルス化電極板42、43に印加する電圧をそれぞれ制御するように構成されている。
制御装置55は、GCIBが一対のパルス化電極板42、43の間に入射し始める前に、予め一対のパルス化電極板42、43に対して互いに逆極性の直流電圧を印加しておくように構成されている。
【0030】
このとき、一対のパルス化電極板42、43の間に入射するGCIBは、第二の隔壁18に衝突して遮断される。
制御装置55は、GCIBが一対のパルス化電極板42、43の間に連続的に入射している間に、予め決められた時間T1だけパルス状に一対のパルス化電極板42、43をそれぞれ接地電位にするように構成されている。
【0031】
一対のパルス化電極板42、43がそれぞれ接地電位にされている間に一対のパルス化電極板42、43の間に入射するGCIBは、直進して第二の貫通孔18aを通過し、すなわちGCIBは予め決められた時間幅T1にパルス化される。
【0032】
本実施例では、制御装置55は一対のパルス化電極板42、43にそれぞれ印加する電圧値を5μsecの時間でパルス状に同時にゼロにするように構成されており、第一のシャッター部41に入射するGCIBは5μsecの時間幅のパケットにパルス化されて第一のシャッター部41を通過する。
【0033】
第一のシャッター部41でパルス化されたGCIBのパケットは、数百〜数千の範囲のサイズ分布を有するため、大きいサイズのGCIBは小さいサイズのGCIBより速度が遅く、第一のシャッター部41を通過した後の飛行距離(飛行時間)が長いほどパケットの時間幅(パルス幅)が広がる。
【0034】
図1を参照し、射出室50内には、第一のシャッター部41を通過したGCIBのうち予め決められた質量範囲外のGCIBを除去する選別部59と、選別部59から射出されたGCIBのパルス幅を圧縮する圧縮部71が配置されている。
【0035】
図2を参照し、選別部59は、GCIBを交互に反射して往復移動させる第一、第二のミラー電極51a、52aと、第一、第二のミラー電極51a、52aの間に配置され、予め決められた質量範囲内のGCIBを、予め決められた時間T2だけ通過させる第二のシャッター部53とを有している。
【0036】
第一、第二のミラー電極51a、52aは、GCIBの飛行経路上に第一のシャッター部41に近い側から第一のミラー電極51a、第二のミラー電極52aの順に配置されており、GCIBの飛行経路と交差する位置には第一、第二のミラー貫通孔56a、57aがそれぞれ設けられている。
【0037】
第一、第二のミラー電極51a、52aはそれぞれ電源装置54に電気的に接続されている。電源装置54は第一、第二のミラー電極51a、52aにそれぞれGCIBと同極性の直流電圧を印加するように構成されている。
【0038】
第一、第二のミラー電極51a、52aに電圧が印加されていないときは、第一、第二のミラー貫通孔56a、57aに入射するGCIBのパケットは、第一、第二のミラー貫通孔56a、57aを通過するようになっている。
【0039】
一方、電源装置54から第一、第二のミラー電極51a、52aに電圧が印加されると、第一、第二のミラー貫通孔56a、57aに入射するGCIBのパケットは、第一、第二のミラー電極51a、52aがそれぞれ形成する電場により反射されるようになっている。
【0040】
ここでは、第一、第二のミラー電極51a、52aの間には、第一、第二のレンズ電極51b、52bが配置されている。第一、第二のレンズ電極51b、52bは、GCIBの飛行経路上に第一のミラー電極51aに近い側から第一のレンズ電極51b、第二のレンズ電極52bの順に配置されており、GCIBの飛行経路と交差する位置には第一、第二のレンズ貫通孔56b、57bがそれぞれ設けられている。
【0041】
電源装置54は、第一のレンズ電極51bに第一のミラー電極51aよりも絶対値の小さい同極性の直流電圧を印加し、第二のレンズ電極52bに第二のミラー電極52aよりも絶対値の小さい同極性の直流電圧を印加するように構成されている。第一、第二のレンズ電極51b、52bが形成する電場により、パケットは、第一、第二のミラー電極51a、52aで確実に反射されるようになっている。
【0042】
第一のミラー電極51aを間に挟んで第一のレンズ電極51bとは逆側と、第一のミラー電極51aと第一のレンズ電極51bの間と、第一のレンズ電極51bを間に挟んで第一のミラー電極51aとは逆側には、接地電位に置かれた接地電極51c、51d、51eがそれぞれ配置されており、第一のミラー電極51aと第一のレンズ電極51bがそれぞれ形成する電場が漏れないようにされている。
【0043】
また、第二のミラー電極52aを間に挟んで第二のレンズ電極52bとは逆側と、第二のミラー電極52aと第二のレンズ電極52bの間と、第二のレンズ電極52bを間に挟んで第二のミラー電極52aとは逆側には、接地電位に置かれた接地電極52c、52d、52eがそれぞれ配置されており、第二のミラー電極52aと第二のレンズ電極52bがそれぞれ形成する電場が漏れないようにされている。
【0044】
第二のシャッター部53は、ここではGCIBの飛行経路を間に挟んで互いに平行に対向する一対の偏向電極板53a、53bを有している。
一対の偏向電極板53a、53bはそれぞれ電源装置54に電気的に接続されている。電源装置54は一方の偏向電極板53aに正電圧を印加し、他方の偏向電極板53bに負電圧を印加するように構成されている。
【0045】
第二のシャッター部53の一対の偏向電極板53a、53bがそれぞれ接地電位にされているときは、第一、第二のミラー電極51a、52aの間を飛行するGCIBは、一対の偏向電極板53a、53bの間を直進して通過するようになっている。
【0046】
一方、電源装置54から一対の偏向電極板53a、53bにそれぞれ逆極性の直流電圧が印加されると、一対の偏向電極板53a、53bの間に電場が形成され、一対の偏向電極板53a、53bの間を飛行するGCIBは電場からの電磁力により進行方向を曲げられて、真空容器11の壁面に衝突し、除去されるようになっている。
【0047】
制御装置55は、第一、第二のミラー電極51a、52aと第一、第二のレンズ電極51b、52bと、一対の偏向電極板53a、53bに印加する電圧をそれぞれ制御するように構成されている。
GCIBの運動エネルギーが分かっている場合には、第一のシャッター部41を通過してから所定距離を移動するまでの時間は、GCIBのサイズ(すなわち質量)に応じて計算で求めることができる。
【0048】
制御装置55は、第二の貫通孔18aを通過したGCIBのパケットが第一のミラー貫通孔56aに入射する時刻に、第一のミラー電極51aと第一のレンズ電極51bに印加する電圧値をゼロにするように構成されている。
第二の貫通孔18aを通過した後、第一のミラー貫通孔56aに入射するGCIBのパケットは、第一のミラー貫通孔56aと第一のレンズ貫通孔56bを順に通過する。
【0049】
制御装置55は、予め決められた質量範囲内のGCIBが第二のシャッター部53に到達する時刻に、あらかじめ決められた時間T2だけ一対の偏向電極板53a、53bの電圧値をゼロにし、他の時刻は一対の偏向電極板53a、53bに互いに逆極性の直流電圧を継続して印加しておくように構成されている。
【0050】
第一のレンズ貫通孔56bを通過したGCIBのうち、予め決められた質量範囲内のGCIBは第二のシャッター部53を通過してパルス化される。一方、予め決められた質量範囲外のGCIBは、この質量範囲内のGCIBよりも早く又は遅く第二のシャッター部53に到達するので除去される。
【0051】
制御装置55は、第二の反射工程として、第一のミラー電極51aから第二のミラー電極52aに向かって第二のシャッター部53を通過したGCIBのパケットが、第二のレンズ貫通孔57bに到達する時刻に、第二のミラー電極52aと第二のレンズ電極52bにそれぞれ直流電圧を印加するように構成されている。
【0052】
第一のミラー電極51aから第二のミラー電極52aに向かって第二のシャッター部53を通過したGCIBは、第二のミラー電極52aで反射され、再び第二のシャッター部53に到達する。ガスクラスターのパルス幅は、第二のシャッター部53と第二のミラー電極52aの間の往復移動により広がっている。
【0053】
制御装置55は上述のように構成されており、第一の選別工程として、第二のミラー電極52aで反射されたGCIBのうち、予め決められた質量範囲内のGCIBが第二のシャッター部53を通過してパルス化される。一方、予め決められた質量範囲外のGCIBは、この質量範囲内のGCIBよりも早く又は遅く第二のシャッター部53に到達するので除去される。
【0054】
制御装置55は、第一の反射工程として、第二のミラー電極52aから第一のミラー電極51aに向かって第二のシャッター部53を通過したGCIBのパケットが、第一のレンズ貫通孔56bに到達する時刻に、第一のミラー電極51aと第一のレンズ電極51bにそれぞれ直流電圧を印加するように構成されている。
【0055】
第二のミラー電極52aから第一のミラー電極51aに向かって第二のシャッター部53を通過したGCIBは、第一のミラー電極51aで反射され、再び第二のシャッター部53に到達する。ガスクラスターのパルス幅は、第二のシャッター部53と第二のミラー電極52aの間の往復移動により広がっている。
【0056】
制御装置55は上述のように構成されており、第二の選別工程として、第一のミラー電極51aで反射されたGCIBのうち、予め決められた質量範囲内のGCIBが第二のシャッター部53を通過してパルス化される。一方、予め決められた質量範囲外のGCIBは、この質量範囲内のGCIBよりも早く又は遅く第二のシャッター部53に到達するので除去される。
【0057】
制御装置55は、第二の反射工程と、第一の選別工程と、第一の反射工程と、第二の選別工程を、この順序で、予め決められた回数繰り返した後、第一のミラー電極51aから第二のミラー電極52aに向かって第二のシャッター部53を通過したGCIBのパケットが、第二のレンズ貫通孔57bに到達する時刻に、第二のレンズ電極52bと第二のミラー電極52aの電圧値をゼロにするように構成されている。
【0058】
予め決められた質量範囲内のGCIBは、第二のシャッター部53で除去されずに、第一、第二のミラー電極51a、52a間を予め決められた回数往復移動した後、第二のレンズ貫通孔57bと第二のミラー貫通孔57aを順に通過して選別部59の外側に射出される。
【0059】
GCIBは第一、第二のミラー電極51a、52a間を移動するたびに第二のシャッター部53でサイズ選別されることにより、サイズの小さいGCIBがサイズの大きいGCIBを追い越すことが生じないようになっている。
【0060】
本実施例では、第一、第二のミラー電極51a、52a間の往復距離LはL=600mmである。サイズ2000の2keVのArのGCIBは、第一、第二のミラー電極51a、52a間の往復距離をT=173μsecの時間で移動することが計算で求められる。
従って、第一、第二の選別工程を、周期T=173μsecで繰り返すと、サイズ2000付近のGCIBが選別される。
【0061】
本実施例では、第一、第二の選別工程では、一対の偏向電極板53a、53bに印加する電圧値をT2=5μsecの時間でパルス状にゼロにするように定める。また、第二の反射工程と、第一の選別工程と、第一の反射工程と、第二の選別工程の一連の工程を50回繰り返すように定める。
【0062】
すると、サイズ2000付近のGCIBは、第一、第二のミラー電極51a、52a間を100往復することになり、100往復後のGCIBのサイズ分解能Rは、R=T/(2×δt)=173×100/(2×(5+5))=865となる。
すなわち本実施例では、選別部59を通過したGCIBは、サイズが2000(サイズ分解能865)、時間幅が5μsecのパケットである。
【0063】
なお、本実施例では制御装置55は、第一のシャッター部41でのパケット化を100Hzで繰り返すように構成されている。第一、第二のミラー電極51a、52aの間をパケットが100往復移動するのに要する時間は約17msecであり、第一、第二のミラー電極51a、52aの間には二個以上のパケットが同時に配置されないようになっている。
【0064】
図3は圧縮部71の構造を説明するための模式図である。
圧縮部71は、第一、第二の加速電極72、73を有している。第一、第二の加速電極72、73は、選別部59から射出されたGCIBの飛行経路上に、選別部59に近い側から第一の加速電極72、第二の加速電極73の順に並んで配置されている。GCIBの飛行経路と交差する位置には第一、第二の通過孔72a、73aが設けられており、GCIBは第一、第二の通過孔72a、73aを順に通過するようになっている。
【0065】
本実施例では第一、第二の加速電極72、73はφ3の円形孔板であり、GCIBの飛行経路に対して直角に向けられて、30mmの間隔で互いに平行に対向して配置されている。
第一の加速電極72にはパルス電源74が電気的に接続され、第二の加速電極73は接地電位に置かれている。パルス電極74は第一の加速電極72にGCIBと同極性の直流電圧をパルス状に印加するように構成されている。
【0066】
GCIBが第一、第二の加速電極72、73の間を飛行している間に、第一の加速電極72に真空容器11に対してGCIBと同極性の直流電圧を印加すると、第一の加速電極72から第二の加速電極73に向かってGCIBが加速され、後述する計算式で求まる所定位置で空間・時間的に圧縮される。
【0067】
本実施例ではGCIBのパケットが、第一の加速電極72を通過した後、第二の加速電極73に到達する前に1500Vの急峻な立ち上がりのパルス電圧を印加する。
第一、第二の加速電極72、73の間を飛行するGCIBは電場E1=5×104V/mで加速される。
第一の加速電極72に電圧を印加してから距離L2までの所要時間は次式で与えられる。第1項は第一、第二の加速電極72、73間の所要時間、第2項はドリフト空間L2の所要時間である。
【0068】
【数1】

【0069】
ここに、U1:イオンの初期加速電圧(引出電極部34での加速電圧)
2=U1+E1×(s−s0
0:パルスゲートの中間点
s−s0:パルスゲートの中間点からの位置
δ<<1、E1×(s−s0)/U1<<1として上式を級数展開し、一次の項を求めると
【0070】
【数2】

【0071】
2=2U1/E1と選ぶことにより、第一、第二の加速電極72、73間のGCIBはパケット内での相対位置に依存せずL2=200mmの位置で空間収束する。
この位置に予め試料5を配置しておくと、圧縮部71から射出されたGCIBはほぼ同時刻に試料5に照射される。
【0072】
すなわち本発明によると、TOF−SIMSの一次イオンに使用できるほど短いパルス幅のGCIBを得ることができる。このことにより、TOF−SIMSの分解能が向上し、高分子材料や生体材料を従来より低損傷かつ高効率でイオン化できるのでTOF−SIMSの応用範囲が拡大する。
【0073】
<GCIB銃の第二例>
本発明のGCIB銃の第二例の構造を説明する。
図4はこのGCIB銃10’の内部構成図を示している。上述の第一例のGCIB銃10と構造の同じ部分には同じ符号を付して示している。
【0074】
第二例のGCIB銃10’では、第一例のGCIB銃10と異なり、放出室50内には、選別部59と圧縮部71に加えて、GCIBの進行方向と直角な成分を有する電場を形成して、GCIBの進行方向を曲げる四重極偏向電極部76が配置されている。
【0075】
四重極偏向電極部76は第一のシャッター部41を通過したGCIBが入射する位置に配置されている。選別部59は、第一のシャッター部41を通過した後、四重極偏向電極部76で進行方向を曲げられたGCIBが入射する位置に配置されている。圧縮部71は、選別部59から射出された後、四重極偏向電極部76で進行方向を曲げられたGCIBが入射する位置に配置されている。
【0076】
ここでは、第一のシャッター部41と四重極偏向電極部76と圧縮部71はこの順に一列に並んで配置され、選別部59はこの列に対して四重極偏向電極部76の側方位置に、第一のミラー電極51aを四重極偏向電極部76に向けて配置されている。
選別部59の第二のミラー電極52aには第二のミラー貫通孔57aが設けられていてもよいし、設けられていなくてもよい。
【0077】
四重極偏向電極部76は、断面が扇形の四つの電極を有しており、各電極に印加する電圧値を制御することにより、四重極偏向電極部76の内部を通過するGCIBの進行方向を90°偏向させることができるように構成されている。
四重極偏向電極部76と選別部59の間には第三の貫通孔19aが設けられた第三の隔壁19が配置されている。
【0078】
第一のシャッター部41を通過したGCIBは、四重極偏向電極部76内を通過中に進行方向を曲げられて、四重極偏向電極部76から射出される。
四重極偏向電極部76から射出されたGCIBのうち、所定の電荷質量比のGCIBは、第三の貫通孔19aを通過して選別部59に入射する。一方、電荷質量比が所定の値と異なるGCIBは第三の隔壁19に衝突して遮断される。
【0079】
選別部59に入射したGCIBのうち、予め決められた質量範囲内のGCIBは、予め決められた回数往復移動を繰り返した後、選別部59の第一のミラー貫通孔56aから射出される。予め決められた質量範囲外のGCIBは、第二のシャッター部53で除去される。
【0080】
選別部59から射出されたガGCIBは、四重極偏向電極部76の内部を通過中に進行方向を90°曲げられて、四重極偏向電極部76から射出され、圧縮部71に入射する。
第二例のGCIB銃10’は、第一例のGCIB銃10に較べて、真空容器11の長手方向である銃身の長さを短く形成でき、装置の設計が容易になる。
【符号の説明】
【0081】
10……GCIB銃
11……真空容器
20……ノズル室
30……イオン化室
41……第一のシャッター部
59……選別部
51a……第一のミラー電極
52a……第二のミラー電極
53……第二のシャッター部
53a、53b……一対の偏向電極板
54……電源装置
55……制御装置
71……圧縮部
72……第一の加速電極
72a……第一の通過孔
73……第二の加速電極
73a……第二の通過孔
74……パルス電源
76……四重極偏向電極部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器と、前記真空容器内にガスクラスターを生成するノズル室と、生成された前記ガスクラスターをイオン化するイオン化室とを有し、イオン化された前記ガスクラスターからなるGCIBを前記イオン化室から射出するGCIB銃であって、
前記イオン化室から射出された前記GCIBを予め決められた時間だけ通過させる第一のシャッター部と、
前記第一のシャッター部を通過した前記GCIBのうち予め決められた質量範囲外の前記GCIBを除去する選別部とを有し、
前記選別部は、
前記GCIBを交互に反射して往復移動させる第一、第二のミラー電極と、
前記第一、第二のミラー電極の間に配置され、前記質量範囲内の前記GCIBを、予め決められた時間だけ通過させる第二のシャッター部と、
を有し、
前記質量範囲内の前記GCIBを前記選別部から射出するGCIB銃。
【請求項2】
前記第二のシャッター部は、
前記GCIBの飛行経路を間に挟んで互いに対向する一対の偏向電極板と、
前記一対の偏向電極板のうち一方の偏向電極板に正電圧を印加し、他方の偏向電極板に負電圧を印加する電源装置と、
前記電源装置の出力電圧値を制御する制御装置と、
を有し、
前記制御装置は、
前記質量範囲外の前記GCIBが前記一対の偏向電極板の間を飛行しているときは、前記一対の偏向電極板に互いに逆極性の電圧を印加して、前記GCIBを偏向除去し、
前記質量範囲内の前記GCIBが前記一対の偏向電極板の間を飛行しているときは、前記一対の偏向電極板をそれぞれ接地電位にして、前記GCIBを通過させるように構成された請求項1記載のGCIB銃。
【請求項3】
前記第一のシャッター部を通過した前記GCIBの進行方向を曲げる四重極偏向電極部を有し、
前記選別部は進行方向を曲げられた前記GCIBが入射する位置に配置された請求項1又は請求項2のいずれか1項記載のGCIB銃。
【請求項4】
前記選別部から射出された前記GCIBのパルス幅を圧縮する圧縮部を有し、
前記圧縮部は、
前記GCIBが順に通過する第一、第二の通過孔がそれぞれ設けられた第一、第二の加速電極と、
前記第一の加速電極に前記GCIBと同極性の電圧をパルス状に印加し、前記第一の通過孔から前記第一、第二の加速電極間に進入した前記GCIBを前記第一の電極から前記第二の電極に向けて加速させるパルス電源と、
を有する請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載のGCIB銃。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のGCIB銃を有する表面分析装置。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載のGCIB銃から照射されたイオンビームを試料に照射して表面分析を行う表面分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−99221(P2012−99221A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243167(P2010−243167)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】