説明

GIP上昇抑制剤

【課題】医薬品、食品等に利用することのできるGIP上昇抑制剤の提供。
【解決手段】構成脂肪酸の10質量%以上がα−リノレン酸であるトリアシルグリセロールを有効成分とするGIP上昇抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GIP上昇抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
GIP(ガストリックインヒビトリーポリペプチド又はグルコースディペンデントインスリノトロピックポリペプチド)は、グルカゴン・セクレチンファミリーに属する消化管ホルモンの1つである。GIPはGLP−1(グルカゴン様ペプチド1)と共にインクレチンと称され、脂質や糖質の摂食時に小腸に存在するK細胞より分泌されることが報告されている。また、GIPは、胃酸分泌抑制作用や胃運動抑制作用を有することが知られている(非特許文献1〜3)。そのため、GIPの上昇抑制は、食後の消化促進や胃もたれの改善に有効であると考えられる。
【0003】
これまでの研究によって、GIPの機能を阻害する物質として、3−ブロモ−5−メチル−2−フェニルピラゾロ[1,5−a]ピリミジン−7−オール(BMPP)が知られ、食後GIPの分泌を抑制するものとして、グアガム等が知られている(特許文献1、非特許文献4〜9)。また、近年では、GIP受容体アンタゴニストである(Pro3)GIPが知られている。しかし、これらの物質は、安全性や効果の面で十分とはいえない。
【0004】
一方、エゴマはシソ科、アマニはアマ科の一年性の草木で、これらから採取される油脂はその構成脂肪酸のうち50%以上をα−リノレン酸が占めているという特徴がある。α−リノレン酸はω3系高度不飽和脂肪酸の一つであり、その機能として、例えば、アディポネクチン分泌増加作用(特許文献2)等が報告されている。また、タンパク質、エゴマ油等の脂質及び糖質を含有する栄養組成物に血糖値上昇抑制作用があること(特許文献3)、シソ油やアマニ油等に内臓脂肪量を低下させる傾向がみられること(特許文献4)等が報告されている。
【0005】
GIPとの関連については、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の炭素数18以下の長鎖脂肪酸が血中GIP分泌を促すことが知られている(非特許文献10)。
しかしながら、α−リノレン酸を高含有する油脂とGIP分泌との関連については何ら報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2001/87341号パンフレット
【特許文献2】特開2007−262014号公報
【特許文献3】特許第3545760号公報
【特許文献4】特開平10−231495号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Brown JCら、Canadian J Physiol Pharmacol. 1969,47:113−114
【非特許文献2】Falko JMら、J Clin Endocrinol Metab.1975,41:260−265
【非特許文献3】織田敏次ら、消化管 機能と病態、1981年、中外医学社、P205−216
【非特許文献4】Gatenby SJら、Diabet Med. 1996,13:358−364
【非特許文献5】Ellis PRら、Br J Nutr. 1995,74:539−556
【非特許文献6】Simoes Nunes Cら、Reprod Nutr Dev. 1992,32:11−20
【非特許文献7】Morgan LMら、Br J Nutr. 1990,64:103−110
【非特許文献8】Requejo Fら、Diabet Med. 1990,7:515−520
【非特許文献9】Morgan LMら、Br J Nutr. 1985,53:467−475
【非特許文献10】KWASOWSKIら、BIOSCIENCE REPORT 5、1985:701−705
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、医薬品、食品等に利用することのできるGIP上昇抑制剤を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、GIPの上昇をコントロールできる素材について検討したところ、長鎖脂肪酸であるリノレン酸は血中GIP分泌を促すのに対し(非特許文献10)、全く意外にも、構成脂肪酸にα−リノレン酸を多く含むトリアシルグリセロールは、通常のトリアシルグリセロールに比べてGIPの上昇が低いことを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、以下を提供する。
(1)構成脂肪酸の10質量%以上がα−リノレン酸であるトリアシルグリセロールを有効成分とするGIP上昇抑制剤。
(2)構成脂肪酸の10質量%以上がα−リノレン酸であるトリアシルグリセロールを有効成分とする食後の消化促進剤。
(3)構成脂肪酸の10質量%以上がα−リノレン酸であるトリアシルグリセロールを有効成分とする胃もたれ改善剤。
(4)構成脂肪酸の10質量%以上がα−リノレン酸であるトリアシルグリセロールを含有する油脂組成物を有効成分とするGIP上昇抑制剤。
(5)構成脂肪酸の10質量%以上がα−リノレン酸であるトリアシルグリセロールを含有する油脂組成物を有効成分とする食後の消化促進剤。
(6)構成脂肪酸の10質量%以上がα−リノレン酸であるトリアシルグリセロールを含有する油脂組成物を有効成分とする胃もたれ改善剤。
(7)構成脂肪酸の10質量%以上がα−リノレン酸であるトリアシルグリセロールを有効成分として摂取する非治療的GIP上昇抑制方法。
(8)構成脂肪酸の10質量%以上がα−リノレン酸であるトリアシルグリセロールを有効成分として摂取する非治療的な食後の消化促進方法。
(9)構成脂肪酸の10質量%以上がα−リノレン酸であるトリアシルグリセロールを有効成分として摂取する非治療的胃もたれ改善方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のGIP上昇抑制剤は、優れたGIP上昇抑制作用を有し、かつ安全性も高いので、例えば、食後の消化促進や胃もたれの改善をするための素材として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において「GIP上昇抑制」とは、脂質及び糖質を含む食事、特に脂質を多く含む食事、そのなかでもトリアシルグリセロールを多く含む食事を摂取することにより、小腸に存在するK細胞から分泌されたGIPの上昇を抑制することをいう。すなわち、「GIP上昇抑制」とは、主として、食後に生じるGIP上昇を抑制することをいう。
そして、本発明における「GIP上昇抑制作用」は、K細胞からのGIP分泌を抑制することでGIP上昇を抑制するGIP分泌抑制作用、及び血中GIP濃度を低下させることによりGIP上昇を抑制するGIP低下作用のいずれをも含む概念である。
本発明における「GIP上昇抑制作用」は、トリオレインを基準として判断することができる。例えば、被験物質を投与又は摂取した群における血中GIP分泌量を、トリオレインを投与又は摂取した対照群の血中GIP分泌量と比較し、血中GIP分泌量の減少が認められた場合、当該被験物質にはGIP上昇抑制効果があると評価することができる。評価に際しては、必ずしも統計学的な手法を用いる必要はないが、統計学的に有意差の有無を検定して評価することが好ましい。
【0013】
本明細書において、「非治療的」とは、医療行為、すなわち治療による人体への処理行為を含まない概念である。
【0014】
本明細書において、「改善」とは、疾患、症状又は状態の好転、疾患、症状又は状態の悪化の防止又は遅延、あるいは疾患又は症状の進行の逆転、防止又は遅延をいう。
【0015】
本発明において用いられるトリアシルグリセロールの全構成脂肪酸中、α−リノレン酸の含有量は10質量%(以下、単に「%」とする)以上であるが、さらに12.5〜95%、さらに15〜95%、殊更20〜95%であるのが、GIP上昇抑制効果の点から好ましい。
【0016】
また、トリアシルグリセロールを構成する残余の構成脂肪酸としては、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸のいずれであってもよいが、全構成脂肪酸の70〜100%が不飽和脂肪酸であることが好ましく、さらに75〜100%、さらに80〜98%であるのが生理効果の点で好ましい。不飽和脂肪酸の炭素数は14〜26、さらに16〜24であるのが生理効果の点から好ましい。
【0017】
また、トリアシルグリセロールの全構成脂肪酸中、飽和脂肪酸の含有量は60%未満であることが好ましく、より好ましくは0〜30%、さらに0〜20%であるのが、外観、生理効果の点で好ましい。飽和脂肪酸としては、炭素数14〜24、さらに16〜24のものが好ましい。
【0018】
また、トリアシルグリセロールの全構成脂肪酸中、炭素数8〜10の中鎖脂肪酸の含有量は、5%以下、さらに0〜2%、さらに0〜1%であるのが好ましい。
【0019】
トリアシルグリセロールの全構成脂肪酸中、トランス不飽和脂肪酸の含有量は、0〜4%、好ましくは0.1〜3.5%、さらに0.2〜3%であるのが風味、生理効果、外観の点で好ましい。
【0020】
本発明のトリアシルグリセロールは、公知の方法に従い、グリセロールと脂肪酸との縮合反応により合成することができる。また、常法に従って、後述する食用油脂を所望する脂肪酸組成となるようにエステル交換等を行い、必要に応じて精製することにより得ることができる。
【0021】
本発明において、トリアシルグリセロールは、これを含有する油脂組成物として使用することもできる。油脂組成物中の油脂は、トリアシルグリセロールの他にジアシルグリセロール、モノアシルグリセロールのいずれか1種以上を含んでいてもよい。
油脂組成物中のトリアシルグリセロールの含有量は85%以上が好ましく、さらに88〜99.8%が好ましく、さらに90〜99.5%、さらに92〜99%であるのが、GIP上昇抑制効果の点から好ましい。
また、油脂組成物中のジアシルグリセロールの含有量は0〜5%が好ましく、さらに0〜4%、さらに0.1〜3%、であるのが、工業生産性、安定性の点から好ましい。モノアシルグリセロールの含有量は、0〜5%が好ましく、さらに0〜2%、さらに0.1〜2%であるのが、風味、工業生産性の点から好ましい。
ジアシルグリセロール、モノアシルグリセロールの構成脂肪酸は、生理効果、製造上の点から、トリアシルグリセロールと同じであることが好ましい。
【0022】
また、本発明における油脂組成物に含まれる遊離脂肪酸(塩)の含有量は、5%以下が好ましく、さらに0〜2%、さらに0〜1%であるのが風味、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0023】
本発明の油脂組成物に使用できる食用油脂に特に制限はなく、植物性油脂、動物性油脂のいずれでもよい。具体的な原料としては、菜種油(キャノーラ油)、ひまわり油、とうもろこし油、大豆油、あまに油、エゴマ油、米油、紅花油、綿実油、パーム油、やし油、オリーブ油、ぶどう油、アボカド油、ごま油、落花生油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、くるみ油、豚脂、牛脂、鶏油、バター油、魚油等を挙げることができる。なかでも、α−リノレン酸を豊富に含む点から、あまに油、エゴマ油等を用いるのが好ましい。
また、これらの油脂を分別、混合したもの、水素添加や、エステル交換反応等により脂肪酸組成を調整したものも利用できるが、水素添加していないものが、油脂を構成する全脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量を低減させる点から好ましい。また、市販品を用いてもよい。
【0024】
更に、本発明の油脂組成物は、保存時及び調理時の酸化安定性の点より、油脂組成物中に抗酸化剤を0.01〜2%含有するのが好ましく、さらに0.01〜1%、さらに0.01〜0.5%含有するのが好ましい。抗酸化剤としては、天然抗酸化剤、トコフェロール、アスコルビルパルミテート、アスコルビルステアレート、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ブチルヒドロキシアニソール(BHA)等から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0025】
後記実施例に示すように、構成脂肪酸にα−リノレン酸を多く含むトリアシルグリセロールは、トリオレイン摂取による血中GIP濃度を有意に低下させる作用を示した。従って、斯かるトリアシルグリセロール及びこれを含有する油脂組成物は、GIP上昇抑制のために使用することができる。また、GIPの上昇抑制は、胃酸分泌の抑制及び胃運動の抑制を軽減させることから、本発明のトリアシルグリセロール及び油脂組成物は、食後の消化促進や胃もたれ、胃酸分泌能の改善のために使用することができる。当該使用は、ヒト若しくは非ヒト動物、又はそれらに由来する検体における使用であり得、また治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。
また、本発明のトリアシルグリセロール及び油脂組成物は、GIP上昇抑制剤、GIP上昇を抑制することに基づく食後の消化促進剤、胃もたれ改善剤、胃酸分泌能の改善剤等(以下、「GIP上昇抑制剤等」)として使用することができ、さらにこれらの剤を製造するために使用することができる。このとき、当該GIP上昇抑制剤等には、当該トリアシルグリセロール及び油脂組成物を単独で、又はこれ以外に、必要に応じて適宜選択した担体等の、配合すべき後述の対象物において許容されるものを使用してもよい。なお、当該製剤は配合すべき対象物に応じて常法により製造することができる。
【0026】
当該GIP上昇抑制剤等は、GIP上昇抑制や食後の消化促進、胃もたれ改善等の各効果を発揮する、ヒト若しくは動物用の医薬品、医薬部外品、食品、又は飼料の有効成分として配合して使用することができる。また、GIP上昇抑制剤等は、例えばGIP上昇抑制、食後の消化促進、胃もたれ改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した食品、機能性食品、病者用食品、特定保健用食品に応用できる。
【0027】
本発明のGIP上昇抑制剤等を医薬品の有効成分として用いる場合、当該医薬品は任意の投与形態で投与され得る。投与形態としては、経口、経腸、経粘膜、注射等が挙げられる。経口投与のための製剤の剤型としては、例えば錠剤、被覆錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、粉剤、徐放性製剤、懸濁液、エマルジョン剤、内服液、糖衣錠、丸剤、細粒剤、シロップ剤、エリキシル剤等が挙げられる。非経口投与としては、静脈内注射、筋肉注射剤、吸入、輸液、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、点眼剤、点鼻剤等が挙げられる。
【0028】
また、斯かる製剤では、本発明のGIP上昇抑制剤等を単独で、又は他の薬学的に許容される担体と組み合わせて使用してもよい。斯かる担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、流動性促進剤、吸収助剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、安定化剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、活性増強剤、抗炎症剤、殺菌剤、矯味剤、矯臭剤、増量剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、香料、被膜剤等が挙げられる。
【0029】
これらの投与形態のうち、経口投与が好ましく、GIP上昇抑制剤等を含む経口投与用製剤中のトリアシルグリセロール及び油脂組成物の含有量は、通常、製剤全質量の0.01〜100%であり、0.1〜100%であるのが好ましく、1〜100%であるのがより好ましく、5〜100%であるのがさらに好ましい。
【0030】
また、本発明のGIP上昇抑制剤等を食品の有効成分として配合して用いる場合、一般食品のほか、GIP上昇抑制や食後の消化促進、胃もたれの改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨表示した美容食品、病者用食品、栄養機能食品、健康強調表示食品、機能強調表示食品、保健食品、健康機能食品又は特定保健用食品等の機能性食品に応用できる。なお当該機能性食品とは、機能の表示が許可された食品であり、一般の食品と区別されるものである。
【0031】
本発明のGIP上昇抑制剤等を食品の有効成分として用いる場合、当該食品の形態は、固形、半固形または液状であり得る。食品の例としては、パン類、麺類、クッキー等の菓子類、ゼリー類、乳製品、冷凍食品、インスタント食品、でんぷん加工製品、加工肉製品、その他加工食品、コーヒー飲料等の飲料、スープ類、調味料、栄養補助食品等、及びそれらの原料が挙げられる。また、上記の経口投与製剤と同様、錠剤形態、丸剤形態、カプセル形態、液剤形態、シロップ形態、粉末形態、顆粒形態等であってもよい。
【0032】
種々の形態の食品を調製するには、GIP上昇抑制剤等を単独で、又は他の食品材料や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等を適宜組み合わせて用いることができる。
【0033】
また、GIP上昇抑制剤等を含む食品中におけるトリアシルグリセロール及び油脂組成物の含有量は、その使用形態により異なるが、通常、飲料の形態では、通常0.01〜50%であり、0.01〜20%が好ましく、0.01〜10%がより好ましく、1〜50%がさらに好ましく、5〜50%がさらに好ましい。また、錠剤や加工食品等の固形食品形態では、通常0.001〜100%であり、0.01〜80%が好ましく、0.01〜50%がより好ましく、1〜80%がさらに好ましく、5〜50%がさらに好ましい。
【0034】
また、本発明のGIP上昇抑制剤等を飼料の有効成分として用いる場合には、当該飼料としては、例えば牛、豚、鶏、羊、馬等に用いる家畜用飼料、ウサギ、ラット、マウス等に用いる小動物用飼料、マグロ、ウナギ、タイ、ハマチ、エビ等に用いる魚介類用飼料、犬、猫、小鳥、リス等に用いるペットフード等が挙げられる。
尚、飼料を製造する場合には、GIP上昇抑制剤等を単独で、又はこの他に、牛、豚、羊等の肉類、蛋白質、穀物類、ぬか類、粕類、糖類、野菜、ビタミン類、ミネラル類等一般に用いられる飼料原料、更に一般的に飼料に使用されるゲル化剤、保型剤、pH調整剤、調味料、防腐剤、栄養補強剤等を必要に応じて配合し、常法により当該飼料を加工製造することができる。
【0035】
また、GIP上昇抑制剤等を含む飼料中におけるトリアシルグリセロール及び油脂組成物の含有量は、その使用形態により異なるが、通常、液体の形態では、通常0.01〜50%であり、0.01〜20%が好ましく、0.01〜10%がより好ましく、1〜50%がさらに好ましく、5〜50%がさらに好ましい。また、錠剤や加工品等の固形の形態では、通常0.01〜100%であり、0.01〜80%が好ましく、0.01〜50%がより好ましく、1〜80%がさらに好ましく、5〜50%がさらに好ましい。
【0036】
上記製剤等の投与又は摂取量は、患者の状態、体重、性別、年齢又はその他の要因に従って変動し得るが、経口投与又は摂取の場合、通常、成人1人1日あたりαーリノレン酸を多く含むトリアシルグリセロールとして0.1〜20gが好ましい。また、上記製剤は、任意の投与計画に従って投与又は摂取され得るが、1日1回〜数回に分けて投与又は摂取することが好ましい。
【0037】
投与又は摂取する対象は、動物由来の組織、器官、細胞、又はそれらの分画物であり得る。当該組織、器官、細胞、又はそれらの分画物は、好ましくは、GIPを分泌する能力を有する天然由来又は生物学的若しくは生物工学的に改変された組織、器官、細胞、又はそれらの分画物である。
【0038】
また、本発明のGIP上昇抑制剤等は、摂食・摂餌時或いは摂食・摂餌前に投与又は摂取するのが好ましく、特に摂食中・摂餌前5分から30分以内に投与又は摂取するのが好ましい。摂食・摂餌の栄養組成としては、特に限定されないが、糖質、脂質、蛋白質、ビタミン、ミネラルを含む通常の食事・餌であり、好ましくは、そのエネルギー構成比は、糖質と脂質の比率が100:0〜10:90の食事である。投与又は摂取対象者としてはGIP上昇抑制を必要とするヒト、食後の消化促進を必要とするヒト、胃もたれの改善を必要とするヒト、胃酸分泌の抑制の軽減を必要とするヒト、又は胃運動の抑制の軽減を必要とするヒトが好ましい。また健常者も好ましく、健常者であってもGIP上昇抑制を望むヒト、食後の消化促進を望むヒト、胃もたれの改善を望むヒト、胃酸分泌の抑制の軽減を望むヒト、又は胃運動の抑制の軽減を望むが好ましい。さらに空腹時血中GIP値が30pg/mL以上のヒト、または胃液分泌機能検査において、基礎分泌量が30mL/時間以下のヒトが好ましい。
【実施例】
【0039】
<油脂の構成脂肪酸組成>
(脂肪酸誘導化)
油脂25mgを量り取り、0.5mol/L水酸化ナトリウム−メタノール溶液を2.0mL加えて、100℃で7分加熱した。次いで、三フッ化ホウ素−メタノール試薬を2mL加えて、100℃で5分加熱した。冷却後、2,2,4−トリメチルペンタンを1mLと塩化ナトリウム飽和水溶液4mLを加えて振り混ぜた後、2,2,4−トリメチルペンタン層を回収し、ガスクロマトグラフィー分析用試料とした。
【0040】
(ガスクロマトグラフィーシステム概要)
ガスクロマトグラフィー:6890N Network GC System(商品名、アジレントテクノロジー社製)
オートサンプラー:7683 Series Injector(商品名、アジレントテクノロジー社製)
(ガスクロマトグラフィー条件)
温度 注入口:250℃、FID検出器:250℃
オーブン 初期温度:50℃、初期温度保持時間:1分、昇温速度:25℃/分(最終温度:120℃)、2℃/分(最終温度:250℃)
流量:1.49mL/分
注入モード:スプリット(スプリット比:1/100)
カラム:DB―23(商品名、0.25μm×250μm×30m、アジレントテクノロジー社製)
【0041】
油脂の脂肪酸組成は次式に従い算出した。
脂肪酸組成(%)=A/B×100
(式中、Aは各脂肪酸のピーク面積を示し、Bはピークの総面積を示す。)
【0042】
<油脂のグリセリド組成>
ガラス製サンプル瓶に、油脂サンプル約10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で15分間加熱した。これに水1.0mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、上層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して分析した。
(GLC条件)
ガスクロマトグラフィー:6890N Network GC System(商品名、アジレントテクノロジー社製)
インテグレーター:ケミステーションB 02.01 SR2(アジレントテクノジー社製)
ディテクター:FID、T=350℃
オーブン温度:80℃から10℃/分で340℃まで昇温、15分間保持
キャリアガス:1.0mL He/min
注入モード:スプリット(1:50)、T=320℃
カラム:DB−1ht(Agilent J&W社製)
【0043】
実施例1 GIP上昇抑制作用の検討
【0044】
評価には、試験群としてエゴマ油(サミット製油)、アマニ油(サミット製油)、ダイズ油(サミット製油)、ナタネ油(サミット製油)、コントロール群としてトリオレイン(シグマ社)を用いた。各油脂組成物の脂肪酸組成は表1に、グリセリド組成は表2に示した。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
脂質及び糖の負荷量がそれぞれ2mg/g体重になるように、脂質として各油脂組成物、糖としてグルコース(和光純薬)、0.2%卵黄レシチン(和光純薬)、蒸留水を表3に示すような組成で混合し、超音波処理して作製した乳剤を用いた。
7週齢雄性C57BL/6Jマウス(日本クレア)を標準粉末飼料CE−2(日本クレア)において1週間予備飼育した。飼育環境は室温を22±2℃、湿度を55±10%とし、照明時間を7時から19時とした。その後、17時間絶食し、ジエチルエーテル麻酔下、初期採血を眼窩静脈叢より行った(ヘパリン処理ヘマトクリット微量採血管、VITREX製)後、各乳剤(n=10)を胃内投与後10、30、60分後にジエチルエーテル麻酔下、眼窩静脈叢より採血を行った。採血した血液は氷中保存した後、11000 rpm、6分にて遠心分離し、血漿を得た。得られた血漿は測定まで−80℃で保管した。また、血漿中のGIP濃度をELISA法(Rat/Mouse GIP(Total)ELISA Kit、Linco Research/Millipore co.)、より定量し、グラフの曲線下面積(AUC)を算出した。
【0048】
トリオレイン投与群(コントロール群)における乳剤投与60分後までの血漿GIP濃度のAUC(初期値に対する上昇量)を100とした場合の、各油脂組成物投与60分後までのGIP AUCの相対値を表4に示す。
数値は平均±標準偏差で示した。群間の統計学的有意差については、コントロール群に対するt検定を行ない、両側検定でp値が0.05以下の場合を有意差ありとし、表に*(vsトリオレイン)を示した。
【0049】
【表3】

【0050】
【表4】

【0051】
α−リノレン酸を豊富に含むエゴマ油及びアマニ油投与60分後までの血漿GIP濃度のAUCは、トリオレインに比べて有意に少なかった。一般的な食用油脂として用いられる大豆油及びナタネ油のGIP上昇AUCについては、トリオレインと有意な差は認められなかった。
【0052】
実施例2 低用量でのGIP上昇抑制作用の検討
【0053】
評価には、試験群として全量のうち30%をエゴマ油で置換したナタネ油、コントロール群として100%ナタネ油を用いた。各油脂組成物の脂肪酸組成は表5に、グリセリド組成は表6に示した。試験油の調整には実施例1と同様にエゴマ油(サミット製油)、ナタネ油(サミット製油)を用いた。
【0054】
【表5】

【0055】
【表6】

【0056】
脂質及び糖の負荷量がそれぞれ2mg/g体重になるように、脂質として各油脂組成物、糖として120℃で15分間糊化したアミオカ澱粉(National Starch)、0.2%卵黄レシチン(和光純薬)、1% Bovine Serum Albumin(Sigma)、蒸留水を表7に示すような組成で混合し、超音波処理して作製した乳剤を用いた。
7週齢雄性C57BL/6Jマウス(日本クレア)を標準粉末飼料CE−2(日本クレア)において1週間予備飼育した。飼育環境は室温を22±2℃、湿度を55±10%とし、照明時間を7時から19時とした。その後、17時間絶食し、ジエチルエーテル麻酔下、初期採血を眼窩静脈叢より行った(ヘパリン処理ヘマトクリット微量採血管、VITREX製)後、各乳剤(n=16)を胃内投与後10、30、60分後にジエチルエーテル麻酔下、眼窩静脈叢より採血を行った。採血した血液は氷中保存した後、11000 rpm、6分にて遠心分離し、血漿を得た。得られた血漿は測定まで−80℃で保管した。また、血漿中のGIP濃度をELISA法(Rat/Mouse GIP(Total)ELISA Kit、Linco Research/Millipore co.)により定量し、グラフの曲線下面積(AUC)を算出した。
【0057】
ナタネ油投与群(コントロール群)における乳剤投与60分後までの血漿GIP濃度のAUCを100とした場合の、各油脂組成物投与60分後までのGIP AUCの相対値を表8に示す。
数値は平均±標準偏差で示した。群間の統計学的有意差については、コントロール群に対するt検定を行ない、両側検定でp値が0.05以下の場合を有意差ありとし、表に*(vsナタネ油)を示した。
【0058】
【表7】

【0059】
【表8】

【0060】
α−リノレン酸をより多く含むエゴマ油30%置換ナタネ油の投与60分後までの血漿GIP濃度のAUCは、100%ナタネ油に比べて有意に少なかった。α−リノレン酸は低用量でもGIP低減効果を示す可能性が示唆された。
【0061】
実施例3 低用量でのGIP上昇抑制作用の検討
【0062】
評価には、試験群としてα−リノレン酸含有量が約20%となるよう、全量のうち20%をアマニ油で置換したナタネ油、コントロール群として100%コーン油を用いた。各油脂組成物の脂肪酸組成は表9に示した。
【0063】
【表9】

【0064】
脂質及び糖の負荷量がそれぞれ2mg/g体重になるように、脂質として各油脂組成物、糖として120℃で15分間糊化したアミオカ澱粉(National Starch)、0.2%卵黄レシチン(和光純薬)、1% Bovine Serum Albumin(Sigma)、蒸留水を表10に示すような組成で混合し、超音波処理して作製した乳剤を用いた。
7週齢雄性C57BL/6Jマウス(日本クレア)を標準粉末飼料CE−2(日本クレア)において1週間予備飼育した。飼育環境は室温を22±2℃、湿度を55±10%とし、照明時間を7時から19時とした。その後、17時間絶食し、ジエチルエーテル麻酔下、初期採血を眼窩静脈叢より行った(ヘパリン処理ヘマトクリット微量採血管、VITREX製)後、各乳剤(n=16)を胃内投与後10、30、60分後にジエチルエーテル麻酔下、眼窩静脈叢より採血を行った。採血した血液は氷中保存した後、11000rpm、6分にて遠心分離し、血漿を得た。得られた血漿は測定まで−80℃で保管した。また、血漿中のGIP濃度をELISA法(Rat/Mouse GIP(Total)ELISA Kit、Linco Research/Millipore co.)により定量した。
【0065】
コーン油投与群(コントロール群)における乳剤投与後の最大GIP上昇値を100とした場合の、アマニ油置換ナタネ油投与後の最大GIP上昇値を表11に示す。なお最大GIP上昇値は、GIP濃度の平均値が最も高くなった時点での最大値で、各群とも乳剤の投与から10分後にGIP濃度の平均値が最大になった。
数値は平均±標準偏差で示した。群間の統計学的有意差については、コントロール群に対するt検定を行ない、両側検定でp値が0.05以下の場合を有意差ありとし、表に*(vsコーン油)を示した。
【0066】
【表10】

【0067】
【表11】

【0068】
α−リノレン酸をより多く含むアマニ油20%置換ナタネ油投与後の最大GIP上昇は、100%コーン油に比べて有意に少なかった。α−リノレン酸は低用量でもGIP上昇抑制効果を示す可能性が示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成脂肪酸の10質量%以上がα−リノレン酸であるトリアシルグリセロールを有効成分とするGIP上昇抑制剤。
【請求項2】
構成脂肪酸の10質量%以上がα−リノレン酸であるトリアシルグリセロールを有効成分とする食後の消化促進剤。
【請求項3】
構成脂肪酸の10質量%以上がα−リノレン酸であるトリアシルグリセロールを有効成分とする胃もたれ改善剤。
【請求項4】
構成脂肪酸の10質量%以上がα−リノレン酸であるトリアシルグリセロールを含有する油脂組成物を有効成分とするGIP上昇抑制剤。
【請求項5】
油脂組成物中にトリアシルグリセロールを85質量%以上含有する請求項4記載のGIP上昇抑制剤。
【請求項6】
構成脂肪酸の10質量%以上がα−リノレン酸であるトリアシルグリセロールを含有する油脂組成物を有効成分とする食後の消化促進剤。
【請求項7】
構成脂肪酸の10質量%以上がα−リノレン酸であるトリアシルグリセロールを含有する油脂組成物を有効成分とする胃もたれ改善剤。
【請求項8】
構成脂肪酸の10質量%以上がα−リノレン酸であるトリアシルグリセロールを有効成分として摂取する非治療的GIP上昇抑制方法。
【請求項9】
構成脂肪酸の10質量%以上がα−リノレン酸であるトリアシルグリセロールを有効成分として摂取する非治療的な食後の消化促進方法。
【請求項10】
構成脂肪酸の10質量%以上がα−リノレン酸であるトリアシルグリセロールを有効成分として摂取する非治療的胃もたれ改善方法。

【公開番号】特開2013−75887(P2013−75887A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−194931(P2012−194931)
【出願日】平成24年9月5日(2012.9.5)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】