説明

GL法麻酔用マスク

【課題】GL法を採用するに適する麻酔用マスクを提供する。
【解決手段】全体としてマスク1の外形が口部から鼻骨部に至ってこれを覆う透明な熱可塑性樹脂からなる形状であって、マスク周縁部には顔面の凹凸面に対して追従した状態で顔面と当接するベース部11を有し、マスクは口部周囲の下から隆起し、鼻先近傍に押圧可能な丘頂部14を有し、中指F3を下あごの中央に掛けて下あごのリフトを行う時丘頂部14の平坦部に掌の下部が位置し、マスク全体を押圧可能であるとともに、丘頂部14に至る周囲隆起部15は他の指でグリップできる可堯性を有し、マスクへの給排気用接続管は頂部に隣接して斜め後方に延びて形成され、丘頂部14に吸排気のための接続管7がないので、中指で下あごを引っ掛けて掌下部で丘頂部を押圧し、他の指でグリップでき、片手で気道確保とマスクの顔面への隙間のない気密的当接を可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なマスクベンチレーション(MV)技術であるGL(Grip and Lift)法を採用するに適するまたは修得するに適する麻酔用マスクに関する。
【背景技術】
【0002】
全身麻酔を行うときに、人工呼吸を行う際、口から気管の中にチューブを入れる気管挿管法が一般的であり、患者の意識が消失してから気管挿管するまでバッグとマスクによる人工呼吸(Bag&Mask)が必要となる。
【0003】
この種の人工呼吸マスクとしてはマスクの形状や持ち方にほとんど変化がなく、伝統的に図10に示すEC法によるBag&Mask操作が行われている。すなわち、図10に示すように、左手の親指F1と人差し指F2でマスク周囲を抑えるとともに中指F3から小指F5に渡る三本指で下あごをリフトして気道を確保する一方、右手側でバッグ操作を行うEC法が採用されている。
【0004】
かかるBag&Maskによる人工呼吸においては経験の少ない医師では時折Bag&Mask操作が不十分となりやすく、気管挿管も不可能な症例では患者に重篤な合併症をきたすことになって、危険である。すなわち、人工呼吸(MV)は自発呼吸のない状態で陽圧喚気して加圧酸素を供給し、鼻から酸素吸入させる方法であるが、不慣れであったり、非力な医師ではEC法で気道確保に気を取られると、マスクの顔面への押圧力が不十分となり易い。そのため、図12に示すようにマスクを両手で押圧しつつ気道を確保する作業者とバッグを操作する作業者による二人作業となる場合もある。特に、歯のない老人などではマスクの顔面への密着が不十分となり易い。そこで、伝統的なEC法では、種々の改良法(EC+法、ECm法、ECr法)が行われる一方、種々の形状のマスクが提案されるようになった(特許文献1乃至5)。その殆どは上記従来のEC法を採用する場合における改良であるため、マスクは口から鼻を覆うドーム状をなし、そのマスク本体の中央丘頂部を鼻孔付近に位置させ、中央丘頂部に吸気チューブの接続口が設けられるのが一般的であり、マスク本体の中央丘頂部周囲には親指と人差し指でマスクを押さえる環状の押圧帯域が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−57054号公報
【特許文献2】特開2005−021447号公報
【特許文献3】特開2005−021448号公報
【特許文献4】特開2005−211207号公報
【特許文献5】特開2005−211208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来の伝統的なEC法より顔面への均一な押圧が容易で、しかも歯のない老人の場合でもマスクの顔面への密着性に優れる人工呼吸マスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は従来のEC法を改善すべく鋭意研究の結果、中指で下あごの中央を引き上げると気道確保が容易であるだけでなく、同時に、他の指で皮膚をたぐり寄せると、入れ歯を外した患者であってもマスクと顔面との接触部との間に隙間ができにくく気密的に画面に当接させることができることを見出した。他方、中指で下あごの中央を引き上げる場合、マスクの顔面への押圧を掌下部でマスク丘頂部を押圧して全体を顔面に気密的に接触させやすく、これによりマスク全体に気密性の高い押圧力が得られることも見出した。
【0008】
本発明は上記新規な知見に基づき、中指を下あご中央にかけ、5本指でグリップするように下あご周囲をリフトしつつマスクに掌で押し付けるGL法(Grip and Lift法)を採用するに適する麻酔用人工呼吸マスクを提供しようとするもので、全体としてマスク外形は口部周囲の下から隆起し、鼻先近傍に丘頂部を形成し、中指を下あご中央に掛けて下あごのリフトを行う時掌の下部が位置するように構成され、そこから鼻骨部に至って下降してこれを覆う透明な熱可塑性樹脂からなる形状であって、マスク周縁部には顔面の凹凸面に対して追従した状態で顔と当接するベース部を有する一方、前記マスクの、鼻先近傍に位置する丘頂部は掌押圧により陥没せず押圧力を隆起部を介してベース部に伝達可能な構造強度を有するように形成されるとともに、丘頂部に至る周囲隆起部は他の指でグリップすることができる水平方向可堯性を備え、マスクへの給排気用接続管は前記丘頂部に隣接して斜め後方に延びて形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マスクは口部の下から立ち上がり、中指先端で下あごを引き上げたとき掌で押圧可能な構造の丘頂部を形成するとともに、従来のように丘頂部に吸排気のための接続管がないので、中指で下あごを引っ掛けて気道を確保しつつ、掌下部で丘頂部を容易に押圧でき、マスクを均等に顔面に押圧することができる。しかも丘頂部を支持する隆起部は中指以外の4本指でグリップできる可堯性を有するので、ベース部を顔面の凹凸に気密的に圧接することができる。したがって、片手で容易に気道確保とマスクの顔面への隙間のない気密的当接を可能とする。
【0010】
また、本発明に係るマスクは口部周囲の下あごから隆起して丘頂部に至る隆起部分には図4に示すように中指を下あご中央に掛ける位置15b、親指及び小指を配置する位置15cおよび15aを示す目印を設け、中指を下あご中央に掛けた時頂部に掌の下部が位置し、他の指が丘頂部に至る隆起部を確実にグリップすることができるようにガイドさせるのが好ましい。
【0011】
さらに、本発明のマスクは図5に示すように、ベース部の顔面当接部に面感圧センサー20を設け、図13に示すように、マスク各部位における圧力分布をモニター30等で目視できるようにすることができ、経験の少ない医師であっても面圧力分布をモニター30で目視しながら適正なマスク押圧を達成することができる。また、経験の少ない医師はマスク各部位における圧力分布をモニター30で目視して適正なBag&Mask技術を習得することができるので、麻酔用人工呼吸訓練機器として使用するに適するものである。
なお、明細書では本発明は特に麻酔用人工呼吸マスクとして説明されているが、一般人工呼吸マスクとして使用できるのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る人工呼吸マスクを用いたGL法の実施状態を示す斜視図である。
【図2】図1のGL法の実施状態を親指側から見た側面図である。
【図3】本発明に係る人工呼吸マスクを示す斜視図である。
【図4】本発明に係る人工呼吸マスクの平面図である。
【図5】本発明に係る人工呼吸マスクの裏面図である。
【図6】本発明に係る人工呼吸マスクの正面図である。
【図7】本発明に係る人工呼吸マスクの背面図である。
【図8】本発明に係る人工呼吸マスクの左側面図である。
【図9】本発明に係る人工呼吸マスクの右側面図である。
【図10】伝統的なEC法の人工呼吸マスクの実施形態を示す斜視図である。
【図11】従来のEC法と本発明に係るGL法との圧力分布を比較して示す分布グラフである。
【図12】人工呼吸マスクを二人操作する場合の実施形態を示す斜視図である。
【図13】GL法でマスク圧力分布を目視観測しながら人工呼吸している状況を示す斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る人工呼吸用マスクは図3に示すように、マスク1の外形は口部下の当接部12から鼻先に至って隆起し、掌での押圧を行う丘頂部14をやや平坦に形成し、そこから鼻骨当接部13に至って下降させ、全体として口から鼻を覆う大略半割の洋ナシ形状をなす中空膨出形状をなす。マスク材料は透明な熱可塑性樹脂を使用し、全体を透明で、上下方向には丘頂部が押圧により陥没しない構造強度を持たせる。一方、水平方向には手指でグリップできるように可堯性を持たせる。マスク構造強度は隆起部から丘頂部に至る形状および材料の選択によりこれを実現することができるが、下記ベース部11のグリップ時の水平方向への動きを確保するため、水平方向への可堯性を阻害するものであってはならない。
【0014】
マスク周縁部10には顔面の凹凸面に対して追従した状態で顔と当接する伸縮可堯性材料からなるベース部11を有し、顔面の凹凸面に対して掌の押圧により気密性を確保するようになっている。マスクベースの材料またはゴム材料はシリコーン系樹脂又はウレタンエラストマーが使用でき、ゴム硬度アスカーは60〜70程度とする。また、ベース部は、図6の正面図に示すように口部下方の下あごへの当接部12は略半径80mmの円弧をなしており、図7の背面図に示す鼻骨当接部13には凹部が形成されている。
【0015】
マスク1は図3で示すように、口部周囲の下から隆起し、鼻先近傍に平坦部な丘頂部14が形成される。図2に示すように中指F3を下あご2の中央に掛けて下あごのリフトを行う時丘頂部14の平坦部14a(図3)に掌4の下部が位置し、マスク1全体を押圧可能であるとともに、他の指F1,F2、F4,F5は丘頂部14に至る周囲隆起部15をグリップすることができ、マスクへの給排気用接続管7は丘頂部14の後方に隣接して右斜め45℃後方に延びて形成され、図示しないバッグに接続する。
【0016】
本発明に係るマスク1の、口部周囲の下から急激に隆起して丘頂部14に至る隆起部分15には、図4に示すように中指F3を下あご中央に掛ける位置15a、親指F1及び小指F5を配置する位置15c、15bを示す凹凸目印を設け、図1及び図2に示すように、中指F3を下あご2の中央に掛けた時丘頂部14の平坦部14a(図4参照)に掌4の下部が位置し、他の指F1〜F5が丘頂部14に至る隆起部15を確実にグリップすることができるようにガイドさせる。
【0017】
図5に示すように、ベース部11の当接部に帯状の面感圧センサー20を配置し、ベース部の11の顔面への当接圧力を測定すると、図11に示すように、経験の少ない医師における人口呼吸法においてGL法とEC法の押圧力分布を示す比較結果が得られた。黒●部分は十分な押圧力が得られている部位を示し、×印は圧力が不十分である部位、△印は不十分でないが十分でもない部位を示す。図1及び図2に示すGL法においては図10に示すEC法に比べて右側および左側の高圧部(黒●)の数が多く、EC法に比べてMVの場合にはGL法はすぐれたオプションの一つであるということができる。もちろん黒●部分を赤、×印は青、△印は緑と色分けして表示するようにすることもできる。
【0018】
また、人工呼吸用マスクにおいて、図5に示すようにベース部11の顔面当接部に面感圧センサー20を設け、図11に示すように、押圧力に応じて圧力十分な部位を黒●部分、不十分な部位を×印、中間部位を△印で表示し、図13に示すように、マスク各部位における圧力分布をモニター30で目視し、押圧力不足の位置を確認し、不適正部位を適正部位に修正し、所定の適正部位数が得られると適正表示が得られるようにすれば、経験の少ない医師のBag&Maskによる人工呼吸の技術を向上させることができる。面感圧センサーとしては株式会社シクロの特許第3928976号及び第3999729号に記載の薄型センサーは本発明において好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体としてマスク外形は口部下当接部から隆起し、鼻先近傍に丘頂部14を形成し、中指F3を下あご2の中央に掛けて下あごのリフトを行う時掌の下部が丘頂部14に位置するように構成され、そこから鼻骨部に至って下降してこれを覆う透明な熱可塑性樹脂からなる形状であって、マスク周縁部には顔面の凹凸面に対して追従した状態で顔と当接するベース部11を有する一方、前記マスクの、鼻先近傍に位置する丘頂部14は掌押圧により陥没せず押圧力を隆起部15を介してベース部11に伝達可能な構造強度を有するように形成されるとともに、丘頂部14に至る周囲隆起部15は他の指でグリップすることができる水平方向可堯性を備え、更にマスクへの給排気用接続管7は前記丘頂部に隣接して斜め後方に延びて形成されることを特徴とするGL法麻酔用マスク。
【請求項2】
前記マスクは口部周囲の下あごへの当接部12から隆起して丘頂部14に至る隆起部分15に中指F3を下あご中央に掛ける位置15a、親指F1及び小指F5を配置する位置15c,15bを示す目印を設け、中指F3を下あご2の中央に掛けた時丘頂部14に掌4の下部が位置し、他の指が丘頂部に至る隆起部15をグリップ可能な構造をなす請求項1記載のGL法麻酔用マスク。
【請求項3】
ベース部の顔面への当接部に面感圧センサー20を設け、マスク各部位における圧力分布をモニター30で目視可能とした請求項1記載のGL法麻酔用マスク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−45267(P2012−45267A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−191931(P2010−191931)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)