説明

GLP−1を用いた急性冠状動静脈症候群の治療

【課題】急性冠状動静脈症候群を患っているが、Q波心筋梗塞を患っていない患者の治療方法の提供。
【解決手段】GLP−1(7−36)アミドと比較して30又はそれ以下のアミノ酸置換、付加又は削除を含むGLP−1ペプチド類似体の治療有効量を患者に投与することからなる。このGLP−1類似体は自己投与することができ、必要に応じて、1投与量又はそれ以上を間歇的又は連続的に投与することができる。それにより、GLP−1レセプターを活性化させることにより心臓組織の代謝を最適化し、虚血に関係する心臓の損傷を防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GLP−1を用いた急性冠状動静脈症候群の治療に関するものである。
【背景技術】
【0002】
心臓病は、世界全体に亘って主な健康上の問題となっている。心筋梗塞は心臓病の患者において死亡率の可なりの源となっている。
【0003】
急性冠状動静脈症候群(ACS)は急性心筋梗塞(MI)を有する、又はそれに発展する危険性の大きい患者を表している。この複合症には不安定狭心症(UA)、非Q波心臓壊死(NQCN)およびQ波MI(QMI)が含まれる(Thompsonら、M.J.A.171;153(1999))。一般的には、ACSは患者が心臓を源とする急性の胸部の痛み(突然の痛み)を訴えたときに診断され、これは全く新たなものであり、あるいは以前から存在する慢性で安定な狭心症とは明らかに異なるものである。つまり、ACSの胸部の痛みは、より激しく、より頻繁であり、休息時に生じ、15分より長く続く。ACSが診断されたとき、その患者は本明細書の以下に記載する基準に従ってUA,NQCN又はQMIに層別化される。UA,NQCNおよびQMIは、斑破裂および血栓症の異なる段階を表していると考えられている(Zaacksら、J.Am.College Cardiol.33;107(1999))。UAの場合、一般に心筋壊死は生じない(Id.)。UA,NQCNおよびQMIは、全て異なる程度の虚血により特徴づけられる(Id.)。更に、Q波MIは一般に、冠状動脈の全体的閉塞からもたらされるものと理解されている。これに対し、UAは部分的閉塞からもたらされるものと理解されている(Thompsonら、M.J.A.171;153(1999))。
【0004】
正常の好気性代謝の間において、心臓組織はエネルギーを発生させるために遊離脂肪酸(FFA)を使用する。UA,NQCN又はQ波MIにより誘起された虚血の間において心臓は嫌気性代謝に切り替え、その主たるエネルギー源としてグルコースを使用する。
【0005】
他の多くの有害な代謝変化が心臓組織における虚血の間に発生する。例えば、過剰な未酸化のFFA生産物の蓄積、Ca2+およびNa/Kポンプの抑制、cAMPレベルの増大などである。更に、すい臓β細胞によるインシュリン分泌の減少およびすい臓α細胞によるグルカゴンの過剰な分泌などが生じる。
【0006】
過剰なグルカゴンは、心筋組織の損傷につながる。すなわち、グルカゴンはインシュリン拮抗物質であり、脂肪組織において脂肪分解を媒介し、FFAを放出する。過剰なFFAは遊離ラジカルの形成につながり、その結果、組織の損傷をもたらす。グルカゴンはいわゆる反調整ホルモンの1つであり、そのグループにはコルチゾル、成長ホルモン、カテコールアミンが含まれ、これらは“ストレス”状態、例えばACS、UA、NQCN、断食、飢餓、感染、病気、体内損傷、外傷などの場合に放出される。これらのホルモンの役割はインシュリンの作用を反調整し、これにより血液グルコースおよび脂肪酸レベルを上昇させ、一般的なインシュリン拮抗状態を生じさせる。グルコースは、ストレス応答の媒介物であり、かつ、全身性炎症反応の1成分である。
【0007】
種々の治療薬がQ波MIを治療するために知られており、それらの治療薬には血栓溶解治療剤およびアンギオテンシン変換酵素(ACE)抑制剤が含まれる(Thompsonら、M.J.A.171;153(1999))。PCT出願、WO98/08531は血液グルコースの自動調整ができないQ波MIを患っている患者をGLP−1で治療することに関するものである。
【0008】
部分的冠動脈閉塞でUAを生じさせる疾患を治療するための公知の薬剤としては、ヘパリン、低分子量ペパリンおよびニトログリセリンがある(Thompsonら、M.J.A.171;153(1999))。β−ブロッカーを、急性MIおよびUAからもたらされる心筋虚血および左心室機能不全と戦うために使用することができる(Id.)。部分的又は全体的冠状動脈閉塞につながるフィブリン血栓の形成前に、斑の腐食又は亀裂が生じ、ついで血小板の凝集が生じることが知られている。この血小板凝集はアスピリン、グリコたんぱくIIb/IIIa拮抗剤又はクロピドグレルで治療することができる(Thompsonら、M.J.A.171;153(1999))。
【0009】
UAの治療のための殆どの治療法は、(1)抗トロンビン剤ヘパリンおよび低分子量ペパリン、抗血小板剤アスピリン、グリコたんぱくIIb/IIIa拮抗剤又はクロピドグレルによる閉塞の安定化又は減少、(2)ニトログリセリンなどによる前負荷の減少、(3)ACE抑制剤などによる後負荷の減少、(4)β−ブロッカーなどによる心筋酸素要求の減少などにより行われる。これらの治療法は、虚血から生じ、組織損傷を誘起させる混乱したエネルギー代謝を直接的に治療するものではない。更に、ヘパリンのような薬剤の投与は過剰投与の毒性作用を避けるため注意深く制御されなければならない。
【0010】
その結果、好ましくはACSの初期の段階から始めて、およびUA又はNQCNの間に使用することができ、後のQ波MIを含むACSから生じる損傷を防止ないし減少させ得る治療法についての必要性が存在する。
【特許文献1】国際特許公開公報WO98/08531
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的には、以下のことが含まれる。
(1)冠状動静脈症候群を患っている患者の治療方法であって、GLP−1分子の治療有効量を患者に投与することからなり、該患者がQ波心筋梗塞を患っていないことを条件とすること。上記治療方法において、該患者が不安定狭心症を患っている場合。上記治療方法において、患者が非Q波心臓壊死を患っている場合。上記治療方法において、患者の血液トロポニンIレベルが0.4ng/mL以下である場合。上記治療方法において、患者の血液トロポニンTレベルが0.1ng/mL以下である場合。上記治療方法において、患者の血液クレアチンキナーゼが異常に高くない場合。上記治療方法において、患者がSTセグメント上昇を有しない場合。上記治療方法において、患者が病的Q波を示していない場合。上記治療方法において、患者が15分を超える時間の胸部の痛み、休息時の胸部の痛み、舌下硝酸塩に対し応答が小さいような僅かな運動の後の胸部の痛みなどの症状を1又はそれ以上示す場合。上記治療方法において、患者が安定狭心症を患っている場合。上記治療方法において、患者が自分でGLP−1を投与する場合。上記治療方法において、投与される該GLP−1が棒状のものである場合。上記治療方法において、投与されるGLP−1が単一投与量のものである場合。上記治療方法において、投与されるGLP−1が複数投与量のものである場合。上記治療方法において、GLP−1を連続的に投与する場合。上記治療方法において、グルコース又はカリウム塩、若しくはその組合せを、GLP−1と共に投与する場合。
【0012】
(2)患者の治療方法であって、GLP−1分子の治療有効量を患者に投与することからなり、該投与を、15分を超えて継続する胸部の痛み、休息時の胸部の痛み、僅かな運動後の胸部の痛み、悪心、息切れ、動悸又は目まいなどの症状を1又はそれ以上示したときに行う方法。上記治療方法において、患者が上記症状の発生前にQ波MIを患っていない場合。上記治療方法において、患者が不安定狭心症を患っている場合。上記治療方法において、患者が非Q波心臓壊死を患っている場合。上記治療方法において、患者の血液トロポニンIレベルが0.4ng/mL以下である場合。上記治療方法において、患者の血液トロポニンTレベルが0.1ng/mL以下である場合。上記治療方法において、患者の血液クレアチンキナーゼが異常に高くない場合。上記治療方法において、患者がSTセグメント上昇を有しない場合。上記治療方法において、患者が病的Q波を示していない場合。上記治療方法において、投与を上記症状の1又はそれ以上示したとき以降、患者がQ波MIを患うまでの中間に行う場合。上記治療方法において、患者がQ波MIを患っている間に、GLP−1の投与を継続する課程を更に含む場合。上記治療方法において、患者がQ波MIを患った後にGLP−1の投与を継続する課程を更に含む場合。上記治療方法において、患者が虚血性心臓病を患っているか若しくは虚血性心臓病に発展する危険性を有している場合。上記治療方法において、患者が充血性心不全、僧帽弁の反流による心雑音の悪化、心臓伝導障害の兆候などの心臓異常を1又はそれ以上示している場合。上記治療方法において、患者が正常ECGを有している場合。上記治療方法において、患者が安定狭心症を患っている場合。上記治療方法において、患者が自分でGLP−1を投与する場合。上記治療方法において、投与される該GLP−1が棒状のものである場合。上記治療方法において、投与される該GLP−1が単一投与量のものである場合。上記治療方法において、投与される該GLP−1が複数投与量のものである場合。上記治療方法において、GLP−1を連続的に投与する場合。上記治療方法において、グルコース又はカリウム塩若しくはその組合せをGLP−1と共に投与する場合。
【0013】
(3)安定狭心症を患っている患者の治療方法であって、GLP−1分子を投与することからなる方法。上記治療方法において、投与を連続的に行う場合。
(4)管脈形成手術を必要とする患者の手術のための方法であって、管脈形成手術の間に患者にGLP−1分子を投与することからなる方法。上記治療方法において、管脈形成手術の前に患者にGLP−1分子を投与することを更に含む場合。上記治療方法において、管脈形成手術に続いて患者にGLP−1分子を投与することを更に含む場合。
(5)虚血性心臓病を患っているか、若しくは虚血性心臓病に発展する危険性を有し、かつ、悪心、息切れ、動悸又は目まいなどの症状を1又はそれ以上示し、更に胸部の痛みを示さない患者に対し治療を施す方法であって、GLP−1分子の治療有効量を患者に投与することからなり、その場合、該患者はQ波心筋梗塞を患っていないことを条件とする。上記治療方法において、患者が正常ECGを有している場合。
(6)心臓疾患の最初の兆候に続いて血栓溶解治療が有効な時間を延長させるための方法であって、15分を超えて継続する胸部の痛み、休息時の胸部の痛み、僅かな運動後の胸部の痛み、悪心、息切れ、動悸又は目まいなどの症状を1又はそれ以上示したときにGLP−1分子の治療有効量を患者に投与することからなる方法。
(7)GLP−1分子の1又はそれ以上の投与量を具備してなるキットであって、該キットは更に、インシュリン型シリンジ、計量された投与量を輸液するためのペン型インジェクター、無針インジェクター、液体処方、乾燥粉体吸入器、頬錠および舌下錠からなる群から選択される装置を更に具備してなるキット。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明は、急性冠状動静脈症候群、特に不安定狭心症および非Q波心臓壊死をGLP−1分子で治療する新規な方法を提供するものである。本発明の方法はQ波MIへの発展前のACSの初期の段階で使用し始めることができ、それによりQ波MIの間に発生する虚血に関係する損傷を防止することができる。GLP−1分子を使用する本発明の治療方法は、UAおよびNQCNの間に発生する虚血誘起の損傷を後退若しくは改善させることができる。本発明の治療方法は、QMIを患っている間又は患った後においてGLP−1分子で継続的に治療することからなる。
【0015】
(定義)
本明細書で、“Q波MI”とは、心電図(ECG)により示される病的Q波を示す患者に診断される病状を表すものであり、更にこの患者は以下の症状、兆候の1又はそれ以上を有している。すなわち、(1)ECGの測定によるSTの上昇;(2)Q波MIに関係するトロポニンIおよびトロポニンTの血中レベルの上昇;(3)Q波MIに関係するクレアチン・キナーゼ心筋イソ酵素(CK−MB)の血中レベルの上昇;および(4)Q波MIに関係するラクテート・デヒドロゲナーゼの血中レベルの上昇である。典型的には、病的Q波は全体的冠状動静脈閉塞の約6−18時間の内に現れる。当業者であれば、一般に、Q波MIの診断が全体的に閉塞された冠状動脈の存在を示すことを理解されるであろう。更に、当業者であれば、QMIの診断は医学的判定の1つであることを理解されるであろう。
【0016】
血中レベルが0.4ng/mLより大きいトロポニンIの“上昇”は、一般に幾らかの程度のQ波MIを強く示唆している(Antmanら、New Engl.J.Med.335;1342(1996))。血中レベルが0.1ng/mLより大きいトロポニンTの“上昇”は、一般に幾らかの程度のQ波MIを強く示唆している(Ohmanら、New Engl.J.Med.335;1333(1996))。トロポニンレベルの上昇はQMIの約2時間の内に観察することができる(Klootwijkら、A.C.S.353;10(1999);米国特許No.5,690,103)。
【0017】
血中レベルが、10U/Lより大きく、全CK酵素活性の5%より大きいCK−MBの“上昇”は、一般に幾らかの程度のQ波MIを強く示唆している(Thompsonら、M.J.A.171;153(1999))。CK−MBレベルの上昇はQMIの後の約3−4時間の内に観察することができる(例えば米国特許No.5,690,103)。
【0018】
QMIに関係するLDHの血中レベル上昇の1例は、LDHの可なりの上昇並びにLDH2レベルよりも高いLDH1レベルを示す少なくとも1つの血漿サンプルである(Furlongら、Clin.Chem.96;134(1991))。そのように上昇したレベルの他の例は、正常範囲よりも高い少なくとも2つ標準偏差であるLDHの2つの血清値である(Malmbergら、J.Am.Col.Cardiol.26;57(1995))。
【0019】
Q波MIは、典型的には、少なくとも15分以上の時間に亘る胸部の痛みを伴う。しかし、胸部の痛みだけの診断では患者がQ波MIを患っているか否かを判定することはできない。
【0020】
UAおよびNQCNについての診断基準は、いずれも胸部の痛みにより特徴づけられるが、Q波MIについてのものとは全く異なる。本明細書で“不安定狭心症”を患っている患者とは、以下の症状および兆候を1又はそれ以上有する患者を表す。すなわち、(1)ECGの測定によるSTセグメントの降下;(2)0.1ng/mL以下のトロポニンTレベルの僅かな上昇;(3)0.4ng/mL以下のトロポニンIレベルの僅かな上昇である。Q波MIとは対照的に、CK−MBおよびLDHレベルはUAの間に一般には上昇しない。更にQ波MIとは対照的に、UAの患者はSTセグメントの上昇および病的Q波を示さない。最後に、UAは胸部の痛みに基づいて、典型的には15分を超えて継続する胸部の痛み、休息時の胸部の痛み、僅かな運動後の痛みであって、舌下硝酸塩に対し殆ど応答しないようなものに基づいて唯一診断される。その他、胸部の痛みが無い場合でも、もし、虚血性心臓病(IHD)と先に診断されていたり、IHDに発展する危険性が大きいと考えられていたり、悪心、息切れ、動悸又は目まいなどの症状を示している場合は、患者がUAを有すると診断することができる。更に、UAの診断は医学的判断の1つであることを当業者は理解するであろう。
【0021】
本明細書で、“虚血性心臓病”とは、冠状動脈血流の減少により心臓組織への酸素の供給が減少することによる心臓組織の病気を表すものである。一般的には、この血流の減少は心臓に寄与する血管の部分的又は完全な塞がりによるものである。IHDの診断は、舌下硝酸塩により軽減されるような運動により顕在化される慢性的、安定な狭心症(“労作性狭心症”としても知られている)の存在に基づくことができる。IHDの診断は、IHDと合致するECGの読み、例えばSTセグメントの逸脱および/又はT波逆転を示すようなものにも基づくことができる。
【0022】
NQCNはUAと同様のことが言える。本明細書で“非Q波心臓壊死”を患っている患者とは、病的Q波を有しないが、以下の症状および兆候を1又はそれ以上有する患者を表す。すなわち、(1)ECGの測定によるSTセグメントの上昇又は降下;(2)0.4ng/mLより大きいトロポニンIレベルの上昇;(3)0.1ng/mLより大きいトロポニンTレベルの上昇;又は(4)兆候の発生から24−48時間以内でのCK−MBの10U/Lを超える上昇である。一般に、NQCNの患者は15分を超えて継続する心臓を原因とする胸部の痛みであって、STセグメントの上昇又は降下を伴い、あるいは伴わないものを示す。更に、NQCNの診断は医学的判断の1つであることを当業者は理解するであろう。
【0023】
“アンギナ”又は“狭心症”とは、一般に心臓への不十分な血液供給から生じる胸部の痛みのことを言う。狭心症は再発性のもので、通常、胸部の中心および/又は左胸部での不快感(圧迫、充満感、締付け、鈍痛、胸焼け、痛み)の形で現れる。この不快感は左肩又は腕へ移動することがあり、更に両肩/両腕、喉部、顎部、又は胸の下方又は上腹部へも移動することがある。これは、息切れ、発汗、虚弱感、目まい、吐き気、又は肩、腕又は手のしびれを伴うことがある。狭心症の兆候は典型的には肉体的運動により誘発される。この兆候は一般に短時間、つまり僅か2−3分で終わり、運動の停止又はニトログリセリン錠剤の使用(一般に舌下経路で投与される)で即座に静まる。この痛みのパターンは“安定狭心症”として知られている。“慢性的安定狭心症”とは、一般に、この“安定狭心症”の兆候を日常的に数週間、数ヶ月、数年の長期に亘って示す患者に対して用いられる。
【0024】
本明細書で記載する“心臓疾患の兆候”とは以下の症状の1又はそれ以上を示す場合を表している。すなわち、15分を超えて継続する胸部の痛み、休息時の胸部の痛み、僅かな運動後の胸部の痛み、悪心、息切れ、動悸又は目まいなどの症状である。なお、動悸とは、一般に“空転”する心拍、つまり、休息時において通常よりも急速に鼓動する場合を言うことが当業者であれば理解されるであろう。
【0025】
本明細書において、“GLP−1分子”には以下のものが含まれる。哺乳類GLPペプチドおよびグルカゴンは同一の遺伝子で符号化される。回腸において、表現型はGLPペプチドホルモンの2つの主たる類、すなわち、GLP−1およびGLP-2に処理される。GLP−1(1-37)は配列、His Asp Glu Phe Glu Arg His Ala Glu Gly Thr Phe Thr Ser Asp Val Ser Ser Tyr Leu Glu Gly Gln Ala Ala Lys Glu Phe Ile Ala Trp Leu Val Lys Gly Arg Gly (配列ID No.1)を有する。 GLP−1(1-37)は翻訳後処理によりアミド化されGLP−1(1-36)NHを生じ、これは配列、His Asp Glu Phe Glu Arg His Ala Glu Gly Thr Phe Thr Ser Asp Val Ser Ser Tyr Leu Glu Gly Gln Ala Ala Lys Glu Phe Ile Ala Trp Leu Val Lys Gly Arg(NH)(配列ID No.2)を有する。或いは、GLP−1(1-37)は酵素的に処理されてGLP−1(7-37)を生じ、これは配列、His Ala Glu Gly Thr Phe Thr Ser Asp Val Ser Ser Tyr Leu Glu Gly Gln Ala Ala Lys Glu Phe Ile Ala Trp Leu Val Lys Gly Arg Gly(配列ID No.3)を有する。GLP−1(7-37)もアミド化されGLP−1(7-36)アミドを生じ、これはGLP−1分子の自然型であり、配列、His Ala Glu Gly Thr Phe Thr Ser Asp Val Ser Ser Tyr Leu Glu Gly Gln Ala Ala Lys Glu Phe Ile Ala Trp Leu Val Lys Gly Arg(NH)(配列ID No.4)を有する。同様に、GLP−1(1-36)(NH)も処理することによりGLP−1(7-36)(NH)とすることができる。
【0026】
腸管L細胞はGLP−1(7-37)(配列ID No.3)およびGLP−1(7-36)(NH)(配列ID No.4)をそれぞれ1対5の割合で分泌する。これらのGLP−1の切頭型は自然位での半減期は短く、すなわち、10分未満であり、アミノジペプチダーゼIVにより不活性化されGlu Gly Thr Phe Thr Ser Asp Val Ser Ser Tyr Leu Glu Gly Gln Ala Ala Lys Glu Phe Ile Ala Trp Leu Val Lys Gly Arg Gly(配列ID No.5)およびGlu Gly Thr Phe Thr Ser Asp Val Ser Ser Tyr Leu Glu Gly Gln Ala Ala Lys Glu Phe Ile Ala Trp Leu Val Lys Gly Arg(NH)(配列ID No.6)をそれぞれ生じさせる。これらペプチドGlu Gly Thr Phe Thr Ser Asp Val Ser Ser Tyr Leu Glu Gly Gln Ala Ala Lys Glu Phe Ile Ala Trp Leu Val Lys Gly Arg Gly(配列ID No.5)およびGlu Gly Thr Phe Thr Ser Asp Val Ser Ser Tyr Leu Glu Gly Gln Ala Ala Lys Glu Phe Ile Ala Trp Leu Val Lys Gly Arg(NH)(配列ID No.6)は肝臓グルコース生産に影響を及ぼすことが推測されているが、すい臓からのインシュリンの生産又は放出を刺激することはない。
【0027】
本明細書において、“GLP−1分子”の用語は、GLP−1(1-37)、GLP−1(1-36)NH、GLP−1(7-37)、GLP−1(7-36)NH、(GLP−1(7-36)アミド)(これらを「GLP−1ペプチド」と総称する)。本発明は組換えヒトGLP−1ペプチドおよび他の種から得られるGLP−1ペプチド(組換え又は合成)の使用を含む。
【0028】
“GLP−1分子”は、更にGLP−1ペプチドの生物学的に活性の変異体、類似体および誘導体を表示するものである。この場合の“生物学的に活性”とは、GLP−1(7-36)生物学的活性を有することを意味するが、この変異体、類似体および誘導体が天然のGLP−1(7-36)アミド(GLP−1の天然の生物学的活性型)よりも活性が小さい場合および大きい場合でもよいと理解されるべきである [Goke等、Diabetic Medicine, 13: 854(1996)参照]。本発明のGLP−1分子は、GLP−1の作動物質を発現するポリヌクレオチドを含む。すなわち、GLP−1レセプター分子の活性体および、とりわけインシュリン生産β-細胞に見られる二次メッセンジャー活性を発現するものを含む。同じく、β-細胞におけるGLP−1レセプターの作動物質であるGLP−1擬似体は、GLP−1レセプターを活性化させるべく特に設計された化合物を例えば含む。
【0029】
GLP−1分子としては、ペプチド、ペプチド擬似体、あるいは他の分子であっても、それがGLP−1レセプター(例えばGLP−1(7-36)アミドレセプターおよびその二次メッセンジャーカスケード)に結合する、あるいは、これを活性化する任意の分子が含まれる。GLP−1分子には、向インシュリン活性を有する種(species)が含まれ、これら種はGLP−1レセプター分子の作動物質(すなわち、活性化する)であり、とりわけ、インシュリン生産β-細胞に対し二次メッセンジャー活性を有する種が含まれる。
【0030】
“GLP−1分子”には更に、本明細書に定義する生物学的活性GLP−1変異体を発現するポリヌクレオチドにより符号化されるペプチドが含まれる。更に、本発明で含まれるものは、GLP−1(7-36)アミドと比較して、1又はそれ以上のアミノ酸置換、付加又は削除を含むペプチドであるところのGLP−1分子である。1例として、アミノ酸置換、付加又は削除の数は、30アミノ酸又はそれ以下、25アミノ酸又はそれ以下、20アミノ酸又はそれ以下、15アミノ酸又はそれ以下、10アミノ酸又はそれ以下、5アミノ酸又はそれ以下、或いは、これらの数の中間の任意の整数である。本発明の1つの態様において、上記置換には1以上の保守的置換が含まれる。この「保守的」置換とは、アミノ酸残基が他の生物学的に活性の同様の残基により置換されていることを示すものである。この保守的置換の例として、疎水性残基、例えばイソロイシン、バリン、ロイシン又はメチオニンを他のものと置換するもの、1つの極性残基を他のものと置換するもの、例えばアルギニンをリシンと置換するもの、グルタミン酸をアスパラギン酸と置換するもの、グルタミンをアスパラギンと置換するものなどである。以下の表は保守的アミノ酸置換を説明するものであるが、これに制限されるものでない。
【0031】
当初の残基 置換基の例
ALA SER,THR
ARG LYS
ASN HIS,SER
ASP GLU,ASN
CYS SER
GLN ASN,HIS
GLU ASP,GLU
GLY ALA,SER
HIS ASN,GLN
ILE LEU,VAL,THR
LEU ILE,VAL
LYS ARG,GLN,GLU,THR
MET LEU,ILE,VAL
PHE LEU,TYR
SER THR,ALA,ASN
THR SER,ALA
TRP ARG,SER
TYR PHE
VAL ILE,LEU,ALA
PRO ALA
【0032】
GLP−1ペプチド変異体には、上記ペプチドの化学的誘導体、変異体が含まれると理解されるべきである。例えば、非天然のアミノ酸残基を有するペプチド(例えば、タウリン残基、ベータおよびガンマアミノ酸残基、D-アミノ酸残基)、C-末端官能基変性体、例えば、アミド、エステルおよびC-末端ケトン変性体およびN-末端官能基変性体、例えば、アシル化アミン、シッフ塩基、環化体、例えば、アミノ酸ピログルタミン酸などが挙げられる。
【0033】
更に、本発明に含まれるものとして、(1)上記配列ID No. 1, 2, 3, 4および(2)これらの切頭配列に対し、50%以上の配列同一性を有するペプチド配列、より好ましくは90%以上の配列同一性を有するペプチド配列を挙げることができる。なお、ここで配列同一性とは、周知の標準アルゴリズムを用いて2つの分子間の比較を指すものである。本発明において配列同一性を計算するための好ましいアルゴリズムはスミス-ウォーターマンアルゴリズムであり、その場合、上記配列ID No. 1が参照配列として用いられ、ポリヌクレオチド相同物の百分率同一性をその全長に亘って明確にする。適合、不適合、挿入又は削除についてのパラメータ値の選択は、或るパラメータ値が他のものよりも生物学的により現実的結果を生じさせるものであったとしても、それは任意である。スミス-ウォーターマンアルゴリズムについてのパラメータ値の好ましいセットは「最大類似区分(similarity segments)」アプローチに示されており、この場合、適合した残基については、1の値が、非適合の残基については、1/3の値が用いられる[この残基は単一のヌクレオチド又は単一のアミノ酸であってもよい(Waterman, Bulletin of Mathematical Biology, 46:473 (1984))]。挿入および削除(indels)、xは以下のように重みが付けられている。
= 1+k/3
ここで、kは与えられた挿入又は削除(Id)における残基の数である。
【0034】
例えば、18個のアミノ酸置換と、3個のアミノ酸挿入を除いて、上記配列ID No. 1の42個のアミノ酸残基配列に対し同一性がある場合、百分率同一性は以下の式により与えられる。
[(1x42適合) (1/3x18不適合)−(1+3/3indels)]/42 = 81%同一性
【0035】
本発明の「GLP−1分子」には、アメリカドクトカゲの毒液中の6個のペプチドが含まれ、これらはGLP−1に対し同族体である。これらの配列が表1にGLP−1の配列と比較して示されている。
【0036】
表 1
位置1
a. HAEGTFTSDVSSYLEGQAAKEFIAWLVKGR(NH
b. HSDGTFTSDLSKQMEEEAVRLFIEWLKNGGPSSGAPPPS(NH
c. DLSKQMEEEAVRLFIEWLKNGGPSSGAPPPS(NH
d. HGEGTFTSDLSKQMEEEAVRLFIEWLKNGGPSSGAPPPS(NH
e. HSDATFTAEYSKLLAKLALQKYLESILGSSTSPRPPSS
f. HSDATFTAEYSKLLAKLALQKYLESILGSSTSPRPPS
g. HSDAIFTEEYSKLLAKLALQKYLASILGSRTSPPP(NH
h. HSDAIFTQQYSKLLAKLALQKYLASILGSRTSPPP(NH

a = GLP−1(7-36)アミド(配列ID No.4)
b = イクセンジン(Exendin)3(配列ID No.7)
c = イクセンジン4(9−39(NH2(配列ID No.8)
d = イクセンジン4(配列ID No.9)
e = へロスペクチン(Helospectin)I(配列ID No.10)
f = へロスペクチンII(配列ID No.11)
g = へロデルミン(Helodermin)(配列ID No.12)
h = QQへロデルミン(配列ID No.13)
【0037】
ペプチド(a, b, d, e, f およびg)は、位置1,7,11および18において一致する。GLP−1およびイクセンジン(Exendin)は、さらに、位置4,5,6,8,9,15,22,23,25,26および29において一致する。位置2において、A,S およびGは構造的に類似する。位置3において、残基D およびE(AspおよびGlu)は構造的に類似する。位置22および23において、F(Phe) およびI(Ile)は構造的にY(Tyr) およびL(Leu)に類似する。同様に、位置26において、LおよびIは構造的に同一である。
【0038】
従って、GLP−1の残基30のうち、イクセンジン3および4は15個の位置で同一であり、別の5個の位置で等価である。根本的に構造の明らかに異なる唯一の位置は、残基16,17,19,21,24,27,28および30である。イクセンジンは更に9個の余分の残基をカルボキシル末端に有している。
【0039】
GLP−1((7-36)アミドレセプターを介して活性を示すグルカゴン様ペプチドの作動物質については、以下の文献に示されている。すなわち、EP 0708179; Hjorth等、J. Biol. Chem., 269(48): 30121(1994); Siegel等、Amer. Diabetes Assoc., 57th Scientific Sessions, Boston (1997); Hareter等、Amer. Diabetes Assoc., 57th Scientific Sessions, Boston (1997); Adelhorst等、J. Biol. Chem., 269(9): 6275(1994); Deacon等、16thInternational Diabetes Federation Congress Abstracts, Diabetologia Supplement (1997); Irwin等、Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 94: 7915(1997); Mosjov、Int. J. Peptide Protein. Res. 40: 333(1992)。更に、Goke等、Diabetic Medicine, 13: 854(1996)参照のこと。最近の文献には、Black Widow GLP−1およびSerGLP−1が開示されている[Holz等、Comparative Biolochemistry and Physiology, Part B, 121: 177(1998)およびRitzel等、A synthetic glucagons-like peptide-1 analog with improved plasma stability, J. Endocrinol., 159: 93(1998)参照]。
【0040】
GLP−1レセプターは細胞表面たんぱく質であって、例えば、インシュリン生産すい臓β-細胞に見られるものである。GLP−1(7-36)レセプターの特徴は公知である。薬品又はペプチドが、GLP−1レセプターに対し結合ないし活性化するか否かの判定方法は当業者に公知のものであり、これは結合化学ライブラリーおよび高スループット・スクリーニング法の助けを借りて行うことが好ましい。
【0041】
GLP−1分子の生物学的活性は、当業者に公知のように、in vitroにより、更に、in vivoで動物モデルおよびヒトを用いた試験により判定することができる。GLP−1の生物学的活性は標準的方法で判定することができる。つまり、一般に、レセプター結合活性スクリーニング手法により行われ、これには表面にGLP−1レセプターを発現する適当な細胞、例えば、RINmSF細胞又はINS-1細胞のようなインスリノーマ細胞ラインが使用される[Mosjor、Int. J. Peptide Res., 40: 333(1992)およびEP 708179参照]。GLP−1レセプターを発現するよう作成された細胞も使用することができる。放射免疫定量法を用いて膜に対するトレーサーの特異的結合を測定することに加えて、cAMP活性又はグルコース依存インシュリン生産も測定することができる。1つの方法として、本発明のレセプターを符号化するポリヌクレオチドを用い、細胞を感染させ、それによりGLP−1レセプターたんぱく質を発現させる。従って、例えば、これらの方法を用い、このような細胞を選別されるべき化合物と接触させることによりレセプター作動物質について選別を行い、その化合物がレセプターを活性化させ、信号を発生させるか否か(すなわち、レセプターを活性化させるか否か)を判定する。
【0042】
他の選別法として、GLP−1レセプターを発現する細胞、例えば感染CHO細胞を使用する方法があり、これは細胞外pH又はレセプター活性化によるイオン変化を測定するシステムに使用することができる。例えば、潜在的作動物質をGLP−1たんぱく質レセプターを発現する細胞と接触させ、二次メッセンジャー応答(例えば信号変換、イオン又はpH変化)を測定し、潜在的作動物質が有効か否かを判定する。
【0043】
多クローン性および単クローン性抗体を利用して、本明細書に記載の方法に使用するため、GLP−1様ペプチドを検出し、精製し、識別することができる。ABGA1178のような抗体は、完全な、継ぎ合わせていないGLP−1(1-37)、又はN-末端切頭GLP−1(7-37)又は(7-36)アミドを検出することができる。他の抗体は、先駆体分子のC-末端を検出し、それにより減法によって生物学的に活性の切頭ペプチド、例えばGLP−1((7-37)アミドの量を計算することができる[Orskov等、Diabetes, 42: 658(1993); Orskov等、J. Clin. Invest., 87: 415(1991)参照]。
【0044】
ペプチドからなる本発明のGLP−1分子は、固相ペプチド化学合成により作ることができる。これらのペプチドは、標準的手法を用い従来の組換え技術を用いて作成することもできる(例えば、Sambrook&Maniatis)。ここで“組換え”とは、遺伝子が組換え(例えば微生物又は哺乳類の)発現システム(本明細書に記載のようにGLP−1分子を符号化するポリヌクレオチドを含むように遺伝子的に変性されたもの)から得られるということを意味する。
【0045】
本発明のGLP−1分子ペプチドは、自然に精製された生成物であっても、化学的に合成された製品であっても、あるいは原核生物又は真核生物(例えば、バクテリア,酵母、高級植物、昆虫、培養した又はin vivoの哺乳類細胞)から組換え技術により製造されたものであってもよい。組換え技術において使用された宿主の種類によっては、本発明のポリペプチドは一般に非グリコシル化されているが、グリコシル化されていてもよい。
【0046】
GLP−1様ペプチドは、組換え細胞培養から回収、精製することができ、その場合の方法としては、特に制限はないが、硫酸アンモニウム又はエタノール析出、酸抽出、アニオン又はカチオン交換クロマトグラフィー、フォスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、レクチンクロマトグラフィーなどを用いることができる。高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)は最終精製工程で用いることができる。
本発明で特に好ましいGLP−1分子はGLP−1(7-36)アミドおよびGLP−1(7-37)アミド、更にイクセンジン-4である。
【0047】
治療処置のためのGLP−1の調剤および投与
一般に、本発明のGLP−1分子は非経口用調剤として投与される。1つの好ましい態様において、GLP−1は液状調剤として用いられる。特に好ましい態様において、GLP−1分子は、症状の最初の発生時にGLP−1分子の薬理学的に許容し得る形態の液状調剤を伴った注射器を用いて投与される。このような注射器又は“GLP-ステック”はGLP−1分子を自己投与するのに使用することができる。薬剤の自己投与のための注射器は周知である(例えば、米国特許No.5,980,491およびNo.5,984,900参照)。その他の周知の注射器としては、インシュリン注射で使用されるツベクリン型注射器がある。
【0048】
UA又はNQCNを患っている患者に対し、GLP−1分子を投与するための他の周知の方法を本発明の方法において使用することもできる。これらの投与方法の例としては、皮下注射、微小圧注射、外部又はインプラントポンプによる方法、デポット注射、その他の長期分配投与装置による方法などを挙げることができるが、これらに限定されない。その他の投与方法、例えば経皮、経膜投与、パッチ又は頬を利用する方法も用いることができる。口からの投与も適当なこともある。肺を介しての投与、例えば吸入などを用いることもできる。
【0049】
従って、本発明の態様は、GLP−1分子を非経口投与に適した任意の注射器又は装置に充填したもの、すなわち、“キット”としても知られてものを包含する。このようなキットとしては、特に限定されないが、ペン型注射器、インシュリン型注射器、計量された投与量を送り込む“ペン”インジェクター、無針注射器、外部又はインプラントポンプ、乾燥粉吸入器などがある。このようなキットは、1又はそれ以上の投与量のGLP−1分子を充填している。本発明は更にGLP−1分子を含む口内又は舌下錠剤をも包含する。
【0050】
GLP−1分子の投与量は病気の重度、患者の状態に応じて選択される。GLP- ステックを使用する自己投与の場合、トータルの投与量は通常0.1−10.0nmol/kg、好ましくは1.5nmol/kgである。GLP−1(7-36)アミドを使用する利点は、後の高血糖症の恐れなく高投与量を使用することができることである。なぜならば、GLP−1(7-36)アミドの作用はグルコースレベルに依存するからである。従って、悪影響の恐れなく、10.0nmol/kgを使用することができる。連続的投与の場合、投与量は0.1−10.0pmol/kg/min、好ましくは、1−4pmol/kg/minである。連続的皮下投与の場合、投与量は、約0.5ないし50pmol/kg/min、好ましくは、約1ないし10pmol/kg/minの範囲である。
【0051】
本発明の方法において、GLP−1分子の投与の時期および投与量は治療されるべき病状に応じて異なる。前述のように、GLP−1分子は心臓疾患の兆候が現れたとき直ちに投与し、その投与を必要な期間に亘って連続的に、又は間欠的に行うことができる。例えば、GLP−1分子を心臓疾患の兆候が最初に現れたとき、直ちに自己投与しても良く、その後、患者が病院へ移される間において投与を続け、入院の間に必要に応じて投与を継続してもよい。すなわち、GLP−1分子は心臓疾患の最初の兆候の時に投与し、Q波MIが現れるまで投与を継続することができる。GLP−1分子の投与の後に、このようなQMIが現れた場合、GLP−1で予備処置された患者はMIから生じる組織損傷が改善されることになる。その他の態様として、本発明は、心臓疾患の最初の兆候の時にGLP−1を投与し、QMIを患者が患っている間にその投与を継続する方法を包含するものである。更に他の態様として、本発明は、QMIを患者が患った後、GLP−1の投与を継続する方法を包含するものである。QMIの後のGLP−1の投与は、QMIおよびその後の再輸液誘起障害から生じる組織損傷を改善する。
【0052】
本発明の方法において、GLP−1分子の薬理学的に許容し得る塩を使用することもできる。種々の酸を用いて有機および無機酸付加塩のいずれをも使用することができる。その酸の例としては、特に制限はないが、プロピオン酸、琥珀酸、乳酸、リンゴ酸、くえん酸、安息香酸、蓚酸、炭酸、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、燐酸などが挙げられる。
【0053】
GLP−1分子、又は、その薬理学的に許容し得る塩は薬理学的に許容し得る担体又は賦形剤と共に調剤される。この担体又は賦形剤としては、食塩水、緩衝塩、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、ラクトース、ホスフェート、マンニトール、アルギニン、トレハロース、および、これらの混合物を挙げることができ、その他、このペプチド、その変異体、類似体、誘導体の生物学的活性を向上又は延長させるために、GLP−1のin vivoでの半減期を向上させる薬剤、又はその生物学的に活性な変異体、類似体、誘導体を挙げることができる。
【0054】
GLP−1を用いた治療方法:
GLP−1分子、特にGLP−1(7−36)アミドはFFAレベルを迅速に抑制し、種々の機構を介して心臓において異常型グルコース代謝を最適化するよう作用する。特にGLP−1(7−36)アミドはすい臓α細胞からのグルカゴンの分泌を抑制するよう作用する。GLP−1(7−36)アミドは重大な悪い副作用が認められておらず、低血糖症又は高血糖症の虞れなく、高投与量を以って投与することができる。GLP-1分子は種々の患者におけるグルコース代謝の最適化に理想的であり、そのような患者の例としては、糖耐性障害を有する者、ストレスによる心臓病、UA又はNQCNにより誘起された心臓虚血症などの病気により起因する血液グルコースレベルの上昇又は異常を有する者などが含まれる。本発明は、心臓システム障害又は異常、例えば、UA、NQCNなどを1又はそれ以上、患っている患者の治療に対し有効であり、これらについては、本明細書に記載されている。他の態様として、本発明によるUAの初期段階治療をQMIの間および後に適宜、継続することができる。本発明の種々の態様として、これらの治療方法には、糖尿病、例えばNIDDM、グルコース耐性障害、ストレス性高血糖症が含まれる。
【0055】
他の好ましい態様において、本発明の治療方法は2型糖尿病(非インシュリン依存性真性糖尿病又はNIDDMとして知られている)を患っている患者の治療が含まれない。さらに他の好ましい態様において、本発明の治療方法はあらゆる型の糖尿病を患っている患者の治療が含まれない。更なる態様において、本発明の治療方法はグルコース耐性障害を患っている患者の治療が含まれない。
【0056】
他の好ましい態様において、本発明の治療方法はQ波MIを患っている患者の治療が含まれない。更に他の態様において、本発明の治療方法は病的Q波を患っている患者の治療が含まれない。更に本発明の方法はST上昇又はT波反転を伴うST上昇を患っている患者の治療が含まれない。他の態様において、本発明の治療方法は、胸部の痛みのような兆候の発生後10−16時間の範囲において正常範囲を少なくとも2標準偏差超える血清CK−MBおよびCKの少なくとも2値を有する患者の治療が含まれない。更に他の態様において、本発明の治療方法は胸部の痛みのような兆候の発生後48−72時間以内において正常範囲を少なくとも2標準偏差超える血清ラクテート・デヒドロゲナーゼの少なくとも2値を有し、QMIの典型的なイソ酵素パターンを有する患者の治療が含まれない。
【0057】
上述のように、虚血性心臓組織はFFAの好気性酸化から嫌気性グルコース代謝へ切り替えられる。グルコース酸化はFFA酸化よりエネルギー消費は少なく、従って、グルコース酸化は境界心臓効率を保持し、虚血の間の心臓効率を増大させる(Kantorら、Am.J.Med.Sci.318;3(1999))。しかし、虚血の間のグルコース代謝へのこの切り替えは通常、不完全である。なぜならば、糖分解およびグルコース酸化はインシュリン拮抗作用および高いグルカゴンレベルの存在下で抑制されるからである。特に、過剰の血液FFAが蓄積し、FFAの不完全な代謝又はFFA酸化が、心筋組織損傷を生じさせる極めて毒性の遊離ラジカルを生じさせる。
【0058】
GLP−1を用いた処置により心臓組織虚血症の悪い作用を改善させる。第1に、GLP−1分子は心臓組織によるグルコースの利用を促進し、貴重なエネルギーを提供する。従って、GLP−1は心臓虚血症の間の主たるエネルギー源であるグルコースの組織利用および代謝を最適化させる。第2に、GLP−1分子媒介によるグルカゴンの抑制はインシュリン拮抗作用を制限し、FFAの循環を減少させ、従って、グルコース酸化を優先させる。GLP−1のこれらの作用は重要である。なぜならば、グルコース酸化は脂肪酸酸化より酸素の消費が少ないからである。
【0059】
グルコース代謝に対するGLP−1のこれらの有益な作用のため、本発明の治療方法は15分を超えて継続する胸部の痛み、休息時の胸部の痛み、僅かな運動後の胸部の痛み、悪心、息切れ、動悸又は目まいなどの心臓障害の最初の兆候の発生の後において、TPA又は管脈形成術などの血栓症治療の間における時間窓を延長させることができる。血栓症治療は冠状動脈閉塞の治療法として公知である(Zaacksら、J.A.C.C.33;107(1999))。QMIのための血栓症治療はQMI又はQMIの強度の臨床的疑いの後の比較的短時間の間においてのみ有効であることが知られている。
【0060】
TPA療法は、一般に、(1)Q波MI又は(2)Q波MIの強度の臨床的疑いが診断され、STセグメント上昇およびQMIと関連するトロポニンIおよびトロポニンTの上昇および/又はQMIと関連するCK−MBの上昇を伴う場合に必要となる。経皮冠状動脈管腔拡張術(PTCA)は、QMI、NQCN又はUAが確認され、又は疑われた患者で、悪い心臓障害に発展する危険性が大きい場合に一般的に行われる。PTCAはACSを患っている患者に対してもしばしば用いられる。従って、本発明の治療方法は、心臓障害発生の後、管脈形成術および/又はTPA治療が効果的である時間を延長させることができる。
【0061】
PTCA手法自体が小さな塞栓を放出させ、それが血管中に宿ったとき、心臓虚血症を生じさせることが知られている。従って、本発明の他の態様は、PTCAを行っている患者をGLP−1分子で治療することである。GLP−1分子は代謝を最適化し、塞栓のPTCA誘起による放出によって生じた虚血性損傷を改善ないし抑制させる。1つの態様として、このGLP−1分子はPTCA手法の間において連続的に投与される。他の態様として、このGLP−1分子の投与はPTCA手法の前に開始され、PTCA手法の間において継続される。更に他の態様として、GLP−1分子の投与はPTCA手法が完了した後も継続される。更に他の態様として、PTCAを行っている患者にGLP−1分子を投与するものであって、この場合、患者はQ波MIを患っていないものとする。又、他の態様として、患者は病的Q波を患っていないものとする。
【0062】
急性冠状動静脈症候群:
本発明の1つの目的は、急性冠状動静脈症候群を患っている患者の治療方法を提供するものであって、これはGLP−1分子、例えば、GLP−1(7-36)アミドの治療有効量を患者に投与することからなる。特に、本発明は、患者が不安定狭心症および/又は非Q波心臓壊死を患っている場合の治療方法を提供する。好ましい態様として、本発明の方法を用いて治療される不安定狭心症を患っている患者は以下の症状の1又はそれ以上を有する。つまり、(1)血液トロポニンIレベルが0.4ng/mL以下である;(2)血液トロポニンTレベルが0.1ng/mL以下である;(3)QMIに関係するCK−MBの上昇を有しない;(4)QMIに関係する血液ラクテート・デヒドロゲナーゼの上昇を有しない;(5)STセグメントの上昇を有しない;又は(6)病的Q波を示していないなどである。
【0063】
好ましい態様として、患者は以下の兆候を有する。つまり、(1)血液トロポニンIレベルが0.4ng/mL以下である;(2)血液トロポニンTレベルが0.1ng/mL以下である;(3)QMIに関係する血液クレアチン・キナーゼの上昇を有しない;(4)QMIに関係する血液ラクテート・デヒドロゲナーゼの上昇を有しない;(5)STセグメント上昇を有しない;又は(6)病的Q波を示していないなどである。
【0064】
本発明の更なる目的は、非Q波心臓壊死を患っている患者の治療方法を提供するものであり、この場合、患者はQMIに関係する血液CK−MBの上昇を有しないことである。他の態様として、患者は血液トロポニンIレベルが0.4ng/mL以下である。更に他の態様として、患者は血液トロポニンTレベルが0.1ng/mL以下である。更に他の態様として、患者はSTセグメントの上昇を有しないことである。更に他の態様として、NQCN患者は、QMIに関係する血液ラクテート・デヒドロゲナーゼの上昇を有しないことである。更に他の態様として、患者は、血液ラクテート・デヒドロゲナーゼ又はクレアチン・キナーゼの上昇を有しないことである。更に他の態様として、患者は病的Q波を示していないことである。
【0065】
ACSの初期段階、UAおよび/又はNQCNの間におけるGLP−1分子の使用は、エネルギー基板の心筋による使用を最適化するのに役立ち、虚血症誘起による損傷を抑制する。このようなGLP−1分子の使用は、UA、NQCNおよびQ波MIに関係する組織損傷、罹患率および死亡率を減少させる効果を有する。
【0066】
本発明は、Q波MIの症状が未だ明らかに診断されていないがACS(UA又はNQCN)が診断された患者の治療方法をも包含するものであり、これにより虚血および近虚血領域における危険情態の心筋組織を保全又は救うものである。この治療法は、GLP−1を適当な液状調剤として連続的輸液により静脈投与するものであり、投与量は0.1−10.0pmol/kg/min、好ましくは1.0-3.0pmol/kg/minで、これを数時間ないし10日間の期間、好ましくは、1ないし3日間に亘り継続する。このGLP−1の連続的静脈輸液は単独であっても、あるいは5-10%溶液として静脈用グルコースとの併用投与で連続的に輸液してもよく、更に、適当なカリウム塩(例えば、塩化カリウム又は酢酸カリウム)の溶液であって約4−5mMの正常血漿カリウムレベルを維持するのに十分なカリウムを供給し得る溶液として連続的に輸液してもよい。一般に、カリウム投与のための溶液は、約40mMであるが、患者に対し所望の投与量を供給するものである限り任意の濃度のカリウムを使用し得ることは当業者にとって自明であろう。カリウムの適当な投与速度は、約40ないし120μmol/kg/hr の範囲である。グルコースとの共輸液はGLP−1の向インシュリン的活力を向上、維持させることが知られており、カリウムとの共輸液は、インシュリン媒介グルコース摂取に伴う細胞内カリウムシフトから潜在的にもたらされるハイポカレミアを修正することが知られている。
【0067】
IHDを、又はIHDに発展する危険性を診断された患者:
先に文献で示したSTセグメントの変化により証明されているように、又は本明細書に記載された臨床的特徴により証明されているようにIHDが診断された患者、又は重いIHDの家族病歴を有する人はUA、NQCN、Q波MIを患う危険性が高いことが知られている(Zaacksら、J.Am.Col.Cardiol.33;107(1999))。本発明の1つの様相によれば、先にIHDとして診断された患者、又はIHDの危険性が高いと診断された患者は、UA、NQCN、将来のQ波MIの兆候を経験したときにGLP−1を自己投与することができる。言い換えれば、15分を超えて継続する胸部の痛み、休息時の胸部の痛み、僅かな運動後の胸部の痛み、悪心、息切れ、動悸又は目まいなどの症状を経験したとき、患者はGLPステックを用いてGLP−1の所定投与量を直ちに投与することができる。これにより、将来の心臓障害により生じる虞がある損傷を防止したり、改善することができる。すなわち、本発明は、Q波MIを患ってはいないがIHDと診断され、あるいはIHDの危険性が高いと診断された患者の治療方法を包含するものであり、その方法は、15分を超えて継続する胸部の痛み、休息時の胸部の痛み、僅かな運動後の胸部の痛み、悪心、息切れ、動悸又は目まいなどの症状の1又はそれ以上が発生した後にGLP−1を投与することからなる。
【0068】
本発明はECG正常であるが、先にIHDらしいと診断された患者の治療方法を包含する(Myerburgら、「心電図記録法」、In Harrison‘s Principals Of Internal Medicine(Isserbacherら、eds.)第9版、999-1011頁(McGraw Hill,Tokyo,1980))。IHDの診断は運動により誘起され、舌下硝酸塩により緩和される慢性的安定狭心症(労作性狭心症としても知られている)の存在に基づいている。このような患者はECG変化を有しないが、UAの診断と合致する兆候を示すことがある。これらの兆候には、頻度、激しさ又は期間が増大が見られる胸部の痛み(狭心症)であって、僅かな運動又は休息時でも発症するものが含まれ、これらの兆候は先に診断された慢性的安定狭心症とは明らかに異なり、かつ、より激しいものであり、あるいはこれらの兆候は最近、診断されたIHDに関連して現れる。これは典型的には、UAの発症前約2週間ないし2ヶ月の間に起こる。心臓障害の兆候が現れたとき、本明細書に記載のように、その兆候の発生初期の段階でGLP−1を自己投与すべきである。
【0069】
更に、本発明は安定狭心症の患者の治療方法を包含するものであり、その方法はGLP−1分子を連続投与することからなる。この投与は経皮投与に適したパッチの形態であってもよい。他の適当な投与方法としては、連続的皮下輸液、繰り返し皮下注射、経頬、経口又は吸入投与などがある。更に他の態様として、本明細書に記載されている他の方法を用いた投与方法が含まれる。GLP−1分子は、代謝を介して冠状動静脈組織に恩恵をもたらす。
【0070】
本発明は更に、重度のIHDの家族病歴又はIHDおよびこれに関連する共存症の家族病歴のため、IHDの高い危険性がある患者の治療方法を包含するものである。上記の“重度のIHDの家族病歴”、“IHDおよびこれに関連する共存症の家族病歴”をここでは、単に“IHDの家族病歴”と纏めて呼ぶことにする。本明細書で、“重度のIHDの家族病歴”とは、50歳以下で急性MIを1回以上発現した一親等、急性MIのため死亡した一親等又は60歳以下で後MI心臓不全を患っている一親等が存在する家族病歴を表し、“IHDおよびこれに関連する共存症の家族病歴”とは、一親等に狭心症又はMIの者がいる家族病歴であって、かつ、以下の共存症の1又はそれ以上を有する発端者が存在する場合を言う。この共存症の例としては、糖尿病、高血圧、高コレステロール血症、高脂血症、肥満症および喫煙履歴を挙げることができる。心臓障害の兆候が上述のようにして現れたとき、最も早い段階でGLP−1を自己投与すべきである。
【0071】
本発明は更に、1又はそれ以上の兆候(つまり、15分を超えて継続する胸部の痛み、休息時の胸部の痛み、僅かな運動後の胸部の痛み、悪心、息切れ、動悸又は目まいなどの症状を)を有するが、IHDの兆候を先に示さなかった患者(すなわち、心臓を原因とする胸部の痛み(狭心症)を示さなかった患者およびIHDに合致するECGの変化の記録を先に示さなかった患者)、およびIHDについての家族病歴を有しないが、他の特定の病因に起因しない心不全のため診断されていないIHDを潜在的に有すると思われる患者に対する治療方法を包含するものである。このような心不全の例としては以下のものが挙げられる。すなわち、(1)うっ血性心不全(例えば緩やかな運動又は休息時における息切れ、運動制限、肺水症の兆候、末梢水症などとして現れるように)、(2)僧帽弁逆流による心雑音の悪化、(3)心臓伝達障害の症状(例えば、ECG、心房性又は期外収縮での左房室束脚ブロック、心房細動又は他の不整脈)などである。
【0072】
従って、本発明は、GLP−1分子の治療有効量を患者に投与することからなる治療方法であって、該投与を、(1)15分を超えて継続する胸部の痛み、(2)休息時の胸部の痛み、(3)僅かな運動後の胸部の痛み、(4)悪心、(5)息切れ、(6)動悸、又は(7)目まいなどの症状を1又はそれ以上示したときに行う治療方法を包含するものであって、ここで、上記患者は以下のような心臓異常の1又はそれ以上を示す場合である。つまり、この心臓異常の例としては、(1)うっ血性心不全(例えば緩やかな運動又は休息時における息切れ、運動制限、肺水症の兆候、末梢水症などとして現れるように)、(2)僧帽弁逆流による心雑音の悪化、(3)心臓伝達障害の症状(例えば、ECG、心房性又は期外収縮での左房室束脚ブロック、心房細動又は他の不整脈)などが挙げられる。
【0073】
本発明についての記述、実施例およびデータは具体的態様を示しての、説明のためのものであり、本発明の範囲を制限することを意図するものではない。従って、本発明の範囲内において種々の変更、変形も、これらの記載、データから当業者にとって自明であると思われ、従って、それらも本発明の1部を構成するものと思料する。
【0074】
実施例:
不安定狭心症を有するが、実際の梗塞を患っていない患者に対するGLP−1の投与の効能をテストするため動物モデルを使用することができる。ラットおよびイヌモデルは、この目的に特に適していることが判明した。ラットの場合、25分間の虚血期間の内の最後の10分間においてGLP−1を投与し、ついで2時間の再輸液を行ったところ、梗塞部のサイズが可なり(30%)減少し、更に、これらラットは血行動態が可なり改善された。イヌの場合、GLP−1の投与により、決定的とは言えない虚血症の期間後の再かん流の間において、気絶期間を可なり減少させることができた。
【0075】
実施例1:
チオペンタールナトリウムを用いて、ウイスター(Wistar)ラットを麻酔にかけた。左前方降下(LAD)冠状動脈を閉塞させた。この閉塞25分後、再灌流を2時間継続させた。この動物は先に記載されているものである(Zacharowskiら、Br.J.Pharmacol.128;945−952(1999))。
【0076】
GLP−1(1.5μg/kg/min)を、再灌流の10分前に麻酔状態のラット(n=10)に注入し始め、2時間の再灌流の間GLP−1の注入を継続した。対照動物は閉塞なし(n=7)、LAD閉塞+再灌流+食塩水の投与(n=12)、およびLAD閉塞並びに10mMの酢酸ナトリウムの緩衝液、5.05%のD−マンニトール、pH=4.5,(ビヒクル)を用い、1.5mL/kg/時間で見せかけの処置を行った(n=10)。
【0077】
再灌流の後、冠状動脈を再閉塞し、エバンズ・ブルー染料(4mL,2%w/v)を右頚動脈カニュラを介して心臓の左心室へ注入した。エバンズ・ブルー染料は注入された心筋層を染色させたが、閉塞された管脈床は染色されないままであった。これら動物を過剰投与量の麻酔剤で死亡させ、検査のため心臓を採取した。これら心臓を切開し、右心室壁を採取した。危険状態の領域(ピンク)を非虚血組織(青色)から分離した。この危険状態の領域(ピンク)をついで、小片に切り刻み、p-ニトロブルー・テトラゾリウム(NBT:0.5mg/mL)で37℃の温度で20分間、染色させた。完全なデヒドロゲナーゼ酵素システム(生存可能な心筋層)の存在下において、NBTは暗青色化合物を形成する。壊死の部分は酵素が欠乏し、染色されないままであった。染色に従って組織を分離し、重量測定し、梗塞部のサイズを危険状態の領域の百分率として判定した。
【0078】
食塩水注入を受けたラットにおいては、この梗塞部のサイズは危険状態の領域の50±3%であった。ビヒクルの注入を受けたラットにおいては、この梗塞部のサイズは危険状態の領域の46±4%であった。GLP−1の注入を受けたラットにおいては、この梗塞部のサイズは危険状態の領域の31±4%であった。
【0079】
ビヒクルのグループと比較したとき、GLP−1の注入を受けたグループは、統計的に有意な約33%の梗塞部のサイズの減少(p<0.05)を示した。すなわち、GLP−1の全身投与により、その投与が冠状動脈の閉塞後で、再灌流の開始前であっても、心筋梗塞部のサイズの減少が認められた。
【0080】
実施例2:
2匹のイヌを、10分間の完全な左湾曲冠状動脈(LCx)閉塞の前、その間、その後6時間でのベースラインで研究した。各イヌに対し、再灌流の開始前1分から始めてGLP−1輸液の存在下又は非存在下で24時間、閉塞/再灌流を行った。その結果、GLP−1輸液を行った場合は、10分間の冠状動脈閉塞に続く心室壁区域機能不全の回復の向上が見られた。この研究により、GLP−1の存在下での虚血後の回復および気絶の減少は、対照と比較しての冠状動脈流の増大によるものではなく、心筋エネルギー論における有利な変化をおそらく反映していることが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GLP−1(7−36)アミドと比較して30又はそれ以下のアミノ酸置換、付加又は削除を含むGLP−1ペプチド類似体の治療有効量を含有し、該GLP−1ペプチド類似体はGLP−1レセプターを活性化させてなることを特徴とする心筋梗塞を患っていない患者に対する急性冠状動静脈症候群治療用薬剤組成物。

【請求項2】
GLP−1(7−36)アミドと比較して30又はそれ以下のアミノ酸置換、付加又は削除を含むGLP−1ペプチド類似体の治療有効量を含有し、該GLP−1ペプチド類似体はGLP−1レセプターを活性化させて、不安定性狭心症、非Q波心臓壊死、虚血性心臓病および安定性狭心症の内の少なくとも1つを治療するためのもので、
15分を超えて継続する胸部の痛み、休息時の胸部の痛み、僅かな運動後の胸部の痛み、悪心、息切れ、動悸又は目まいの少なくとも1つを示す症状が現れたときに使用されることを特徴とする心筋梗塞を患っていない患者に対する治療用薬剤組成物。
【請求項3】
安定性狭心症を治療するために使用される請求項2記載の薬剤組成物。
【請求項4】
虚血性心臓病を治療するために使用される請求項2記載の薬剤組成物。
【請求項5】
虚血性心臓病を治療又は予防するためのもので、胸部の痛みのないときに使用される請求項2記載の薬剤組成物。
【請求項6】
血栓溶解治療を受けている患者に対し心臓疾患の最初の兆候に続いて血栓溶解治療が有効な期間を延長させるためのもので、15分を超えて継続する胸部の痛み、休息時の胸部の痛み、僅かな運動後の胸部の痛み、悪心、息切れ、動悸又は目まいの少なくとも1つを示す症状が現れたときに使用される請求項2記載の薬剤組成物。
【請求項7】
急性冠状動静脈症候群が不安定性狭心症を含む請求項1記載の薬剤組成物。
【請求項8】
急性冠状動静脈症候群が非Q波心臓壊死を含む請求項7記載の薬剤組成物。
【請求項9】
急性冠状動静脈症候群が15分を超えて継続する胸部の痛み、休息時の胸部の痛み、舌下硝酸塩に対して応答が小さい僅かな運動後の胸部の痛みの少なくとも1つを含む請求項1記載の薬剤組成物。
【請求項10】
急性冠状動静脈症候群が安定性狭心症を含む請求項1記載の薬剤組成物。
【請求項11】
Q波心筋梗塞を患っていない患者に対するもので、前記症状が現れる前に使用される請求項2記載の薬剤組成物。
【請求項12】
前記症状が現れた後、心筋梗塞が発生するまでの間に投与される請求項2記載の薬剤組成物。
【請求項13】
充血性心不全、僧帽弁の反流による心雑音の悪化、心臓伝導障害のいれかの心臓異常を示している患者に対する請求項2記載の薬剤組成物。
【請求項14】
患者が正常ECGを有する場合に使用される請求項1〜13のいずれかに記載の薬剤組成物。
【請求項15】
患者の血液トロポニンIレベルが0.4ng/ml以下の場合に使用される請求項1〜13のいずれかに記載の薬剤組成物。
【請求項16】
患者の血液トロポニンTレベルが0.1ng/ml以下の場合に使用される請求項1〜13のいずれかに記載の薬剤組成物。
【請求項17】
患者の血液クレアチンキナーゼが異常に高くない場合に使用される請求項1〜13のいずれかに記載の薬剤組成物。
【請求項18】
患者がSTセグメント上昇を有していない場合に使用される請求項1〜13のいずれかに記載の薬剤組成物。
【請求項19】
患者が病的Q波を示していない場合に使用される請求項1〜13のいずれかに記載の薬剤組成物。
【請求項20】
前記薬剤組成物が自己投与用に調剤されている請求項1〜13のいずれかに記載の薬剤組成物。
【請求項21】
前記薬剤組成物が棒状に調剤されている請求項1〜13のいずれかに記載の薬剤組成物。
【請求項22】
前記薬剤組成物が単一投与量に調剤されている請求項1〜13のいずれかに記載の薬剤組成物。
【請求項23】
前記薬剤組成物が複数投与量に調剤されている請求項1〜13のいずれかに記載の薬剤組成物。
【請求項24】
前記薬剤組成物が連続投与用に調剤されている請求項1〜13のいずれかに記載の薬剤組成物。
【請求項25】
前記薬剤組成物がグルコース又はカリウム塩、若しくはその組合せと共に投与されるように調剤されている請求項1〜13のいずれかに記載の薬剤組成物。

【公開番号】特開2007−145837(P2007−145837A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311601(P2006−311601)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【分割の表示】特願2001−585797(P2001−585797)の分割
【原出願日】平成13年5月18日(2001.5.18)
【出願人】(598133654)アミリン・ファーマシューティカルズ,インコーポレイテッド (38)
【氏名又は名称原語表記】AMYLIN PHARMACEUTICALS, INC.
【Fターム(参考)】