説明

GLP−1分泌促進剤

【課題】GLP−1分泌促進、グルカゴン分泌抑制、食欲抑制、又は食後高血糖、糖尿病等の疾患若しくは状態の予防及び/又は改善等に有用な物質の提供。
【解決手段】キラヤ又はその抽出物を有効成分とするGLP−1分泌促進剤。キラヤ又はその抽出物を有効成分とするグルカゴン分泌抑制剤。キラヤ又はその抽出物を有効成分とする食欲抑制剤。キラヤ又はその抽出物を有効成分とする食後高血糖予防及び/又は改善剤。キラヤ又はその抽出物を有効成分とする糖尿病予防及び/又は改善剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GLP−1(glucagon-like peptide-1)分泌促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
Glucagon−like peptide−1(GLP−1)は、内分泌ホルモンであるグルカゴンと共通の遺伝子及び前駆体から産生されるホルモンである。グルカゴンが脾島のα細胞で産生されるのに対し、GLP−1は腸の内分泌細胞(L細胞)で産生され、その前駆体からグルカゴンとは異なったプロセシングを経て産生される。GLP−1は糖代謝に重要な役割を果たしているインクレチン(incretin: Intestine Secretion Insulin)作用を備えたホルモンであり、栄養素の摂取によって血中に分泌され、膵β細胞に働きかけインスリン分泌を促進し、血糖値を低下させる。GLP−1はまた、膵臓に働きかけてグルカゴン分泌を抑制することにより、肝からのブドウ糖放出を低下させ、血糖値を低下させる。他のGLP−1の作用としては、膵β細胞の増殖促進、胃排泄や胃酸分泌の抑制、及び食欲と摂食の抑制等が知られている(非特許文献1)。従って、GLP−1の効果を高めることは、肥満、糖尿病等の生活習慣病の改善に有用である。近年では、GLP−1補充療法やGLP−1受容体(GLP−1R)アゴニストを利用した糖尿病治療法の開発も進められている。
【0003】
GLP−1はまた、中枢神経系に対する作用を有することが知られている。GLP−1の食欲と摂食の抑制効果は、中枢神経系に存在するGLP−1Rを介するものと考えられている(非特許文献1)。また、GLP−1R欠損マウスでは学習能力が低下する一方で、GLP−1Rを過剰発現させたマウスでは記憶学習能力が向上する(非特許文献2)。培養系での実験では、GLP−1の神経突起伸長促進作用や、神経傷害によるアポトーシスからの保護作用が観察されている(非特許文献3)。従って、GLP−1は、神経変性を抑え、認知症等の神経変性疾患や糖尿病に伴う神経障害の改善に有用な物質としても期待されている。
【0004】
また、GLP−1は、糖尿病患者の血糖値制御に有用であると考えられている。GLP−1により膵臓のグルカゴン分泌が抑制されると、肝からのブドウ糖放出が低下し、血糖が低下する。この作用は低血糖によるグルカゴン分泌と拮抗せず、またインスリン濃度に依存しないことが報告されている。GLP−1投与により1型糖尿病患者及び2型糖尿病患者で共に、血糖を一定にするのに必要なインスリン量が減少したことも報告されている。さらにGLP−1は、中枢神経系へ作用して食欲を抑制することにより、長期的に血糖値制御に効果を発揮し得る。よって、これらの作用を介して、GLP−1により、糖尿病やインスリン抵抗性の患者の症状を改善できる可能性がある。実際にGLP−1アナログ製剤であるExenatideやLiraglutideが糖尿病治療薬として使用されており、インスリン抵抗性改善効果があることが報告されている(非特許文献4)。
【0005】
しかし、通常GLP−1は非常に分解され易く、生体内での半減期は非常に短い。そのため、体外からGLP−1を投与しても、その血中濃度を一定に保つのは非常に難しい。従って、生体内でのGLP−1濃度を長時間にわたって高めるためには、外からの投与よりも内因性GLP−1の分泌を促進することが望ましい。
【0006】
培養系での研究から、GLP−1の分泌を促進する物質として、パルミチン酸、オレイン酸、肉加水分解物(MH)、ガストリン放出ペプチド(GRP)、カルバコール、フォルスコリン、イオノマイシン、酢酸ミリスチン酸ホルボール(PMA)、必須アミノ酸(EAA)、ロイシン、イソロイシン、スキムミルク、カゼイン、レプチン、ムスカリン性受容体M1、M2がこれまでに報告されている(非特許文献5〜9)。
【0007】
キラヤ・サポナリア(Quillaja Saponaria Mol.)はバラ科の植物で、その抽出物は、キラヤサポニン(キラヤ酸をアグリコンとするトリテルペン系の配糖体)を含有し、天然物由来の食品添加物として、飲料、化粧品などの乳化剤、起泡剤等として汎用されている。
【0008】
キラヤ抽出物の機能としては、血中コレステロールや血中トリグリセリドの低下作用増強(特許文献1)、膵リパーゼ阻害、肥満予防、高脂血症予防又は治療、脂肪肝予防又は治療(特許文献2)、ケラチナーゼ活性阻害(特許文献3)、メチオナーゼ活性阻害(特許文献4)、ヘリコバクター・ピロリに対する抗菌作用、ウレアーゼ活性阻害作用及び胃粘膜上皮細胞への接着抑制、胃炎及び胃・十二指腸潰瘍の予防及び治療(特許文献5)、アルコール吸収抑制(特許文献6)、抗酸化(特許文献7)、抗体産生能力向上(非特許文献10、11)、乳牛の腸内メタンガス減少(非特許文献12)、血中コレステロール低下(非特許文献13、14)、HDL増加、白血球DNA損傷低下、血中マロンジアルデヒド・蛋白カルボニル化減少、NO増加(非特許文献15)が知られている。
【0009】
また、キラヤ又はその抽出物のGLP−1に対する作用については何ら報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007-82403号公報
【特許文献2】特開2006-182722号公報
【特許文献3】特開2004-18508号公報
【特許文献4】特開2003-160459号公報
【特許文献5】特開平8-119872号公報
【特許文献6】特開平4-145028号公報
【特許文献7】特開昭62-243681号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Eur J Pharmacol, 2002, 440(2-3):269-279
【非特許文献2】Nat Med, 2003, 9:1173-1179
【非特許文献3】J Pharmacol Exp Ther, 2002, 302(3):881-888
【非特許文献4】医学のあゆみ, 2009, 231(7):755-758
【非特許文献5】Endocrinology, 2001, 142(10):4522-4528
【非特許文献6】Journal of Endocrinology, 2006, 191,159-170
【非特許文献7】Nutrition, 2009, 25(3):340-349
【非特許文献8】Endocrinology, 2003, 144(7):3244-3250
【非特許文献9】Diabetes, 2006, 52(2):252-259
【非特許文献10】Can. J. microbiol. 1986,32, 414-420
【非特許文献11】Immunobiol. 1987, 174, 347-359
【非特許文献12】J Dairy Sci. 2009, 92(6):2809-2821
【非特許文献13】Nutr Res. 2009, 29(5):350-354.
【非特許文献14】Arch Pharm Res. 2003, 26(12):1042-1046.
【非特許文献15】J Diabetes Complications. 2008, 22(5):348-356
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、GLP−1の分泌を促進する物質の提供と、GLP−1分泌促進、グルカゴン分泌抑制、食欲抑制、あるいは高血糖、糖尿病等の疾患若しくは状態の予防及び/又は改善等に関連した当該物質の使用に関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、GLP−1の分泌を促進できる素材について検討したところ、キラヤ抽出物がGLP−1の分泌を促進することができることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は以下を提供する。
(1)キラヤ又はその抽出物を有効成分とするGLP−1分泌促進剤。
(2)抽出物が水抽出物又はエタノール水溶液抽出物である(1)記載のGLP−1分泌促進剤。
(3)キラヤ又はその抽出物を有効成分とするグルカゴン分泌抑制剤。
(4)抽出物が水抽出物又はエタノール水溶液抽出物である(3)記載のグルカゴン分泌抑制剤。
(5)キラヤ又はその抽出物を有効成分とする食欲抑制剤。
(6)抽出物が水抽出物又はエタノール水溶液抽出物である(5)記載の食欲抑制剤。
(7)キラヤ又はその抽出物を有効成分とする食後高血糖予防及び/又は改善剤。
(8)抽出物が水抽出物又はエタノール水溶液抽出物である(7)記載の食後高血糖予防及び/又は改善剤。
(9)キラヤ又はその抽出物を有効成分とする糖尿病予防及び/又は改善剤。
(10)抽出物が水抽出物又はエタノール水溶液抽出物である、(9)記載の糖尿病予防及び/又は改善剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明のGLP−1の分泌促進剤は、優れたGLP−1分泌促進するとともに、グルカゴン分泌抑制のため、食欲抑制のため、あるいは食後高血糖、糖尿病、インスリン抵抗性、神経障害等の疾患の予防及び/又は改善のために有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】キラヤ抽出物によるNCI-H716細胞におけるGLP−1分泌促進作用。**:p < 0.01、***:p < 0.001。
【図2】キラヤ抽出物によるマウスにおけるGLP−1分泌促進作用。*:p < 0.05。
【図3】キラヤ抽出物による血糖上昇抑制作用。*** :p < 0.001。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において、「GLP−1分泌促進」とは、食事、特に糖質又は脂質を多く含む食事を摂取することで引き起こされる生体内でのGLP−1分泌を促進することを意味する。あるいは、「GLP−1分泌促進」とは、主として食後に生じる生体内でのGLP−1分泌に伴う血中GLP−1濃度上昇を増強するか、上昇したGLP−1濃度を維持するか、又は上昇したGLP−1濃度の低下を抑制することをいう。
【0018】
本明細書において、「非治療的」とは、医療行為、すなわち治療による人体への処置行為を含まない概念である。
【0019】
本明細書において、「改善」とは、疾患、症状又は状態の好転、疾患、症状又は状態の悪化の防止又は遅延、あるいは疾患又は症状の進行の逆転、防止又は遅延をいう。
【0020】
本明細書において、「予防」とは、個体における疾患若しくは症状の発症の防止又は遅延、あるいは個体の疾患若しくは症状の発症の危険性を低下させることをいう。
【0021】
本明細書において、「キラヤ」とは、バラ科のキラヤ・サポナリア(Quillaja Saponaria Mol.)を指し、「キラヤ抽出物」とは、キラヤから得られた抽出物を意味する。抽出物は、キラヤの任意の部位、例えば全草、葉、茎、芽、花、蕾、木質部、樹皮、地衣体、根、根茎、仮球茎、球茎、塊茎、種子、果実、菌核若しくは樹脂等、又はそれらの組み合わせからの抽出物であればよいが、このうち樹皮からの抽出物が好ましい。上記部位は、そのまま抽出工程に付されてもよく、又は粉砕、切断若しくは乾燥された後に抽出工程に付されてもよい。
【0022】
上記抽出物としては、市販されているものを利用してもよく、又は常法により得られる各種溶剤抽出物、又はその希釈液、その濃縮液、その乾燥末、ペースト若しくはその活性炭処理したものであってもよい。一例として、本発明におけるキラヤ抽出物は、キラヤを室温(例えば、4〜50℃)若しくは加温(室温〜溶媒沸点)下にて抽出するか、又はソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出することにより得ることができる。
【0023】
抽出のための溶剤には、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができる。溶剤の具体例としては、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;スクワラン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;及び超臨界二酸化炭素;ピリジン類;油脂、ワックス等その他オイル類等の有機溶剤;ならびにこれらの混合物が挙げられる。好適には、水、アルコール類及びその水溶液が挙げられ、アルコール類としてはエタノールが好ましい。より好ましい溶剤は、水及びエタノール水溶液である。
【0024】
抽出のための溶剤としてエタノール水溶液を使用する場合には、アルコール類と水との配合割合(容量比)としては、0.001〜100:99.999〜0が好ましく、5〜95:95〜5がより好ましく、20〜80:80〜20がさらに好ましく、30〜70:70〜30がさらにより好ましく、40〜60:60〜40がなお好ましい。エタノール水溶液の場合、エタノール類濃度が40〜60容量%であることが好ましい。
溶剤の使用量としては、キラヤ(乾燥質量換算)1gに対して1〜100mLが好ましく、抽出時間としては、1分間〜100日間が好ましく、1分間〜10日間がより好ましい。このときの抽出温度は、0℃〜溶媒沸点、より好ましくは20〜100℃、さらに好ましくは50〜100℃、さらにより好ましくは70〜80℃である。
【0025】
キラヤ抽出物を得る抽出手段は、具体的には、固液抽出、液液抽出、浸漬、煎出、浸出、還流抽出、超音波抽出、マイクロ波抽出、攪拌等の手段を用いることができる。例えば、浸漬の好適な一例として、10〜50℃で、1時間〜14日間の浸漬が挙げられる。また、抽出時間を短縮する場合には、攪拌を伴う固液抽出が望ましい。この固液抽出の好適な条件の一例としては、10〜100℃(好ましくは70〜80℃)下、100〜400rpmで1〜30分間の攪拌が挙げられる。
抽出物の酸化を防止するため、煮沸脱気や窒素ガス等の不活性ガスを通気して溶存酸素を除去しつつ、いわゆる非酸化的雰囲気下で抽出する手段を併用してもよい。
【0026】
後記実施例に示すように、キラヤ抽出物は、消化管細胞からのGLP−1分泌を有意に促進する作用を有する。また後記実施例に示すように、キラヤ抽出物は、食後血糖上昇を有意に抑制する作用を有する。従って、キラヤ又はその抽出物は、GLP−1分泌促進剤として有用であり、且つGLP−1分泌に関わる様々な状態の制御、例えば、グルカゴン分泌抑制、食欲抑制、ならびに食後高血糖、糖尿病等の疾患の予防及び/又は改善のため、さらにはインスリン抵抗性、神経疾患等の疾患の予防及び/又は改善のために有用である。
すなわち、キラヤ又はその抽出物は、GLP−1分泌促進のため、グルカゴン分泌抑制のため、食欲抑制のため、あるいは食後高血糖、糖尿病等の疾患の予防及び/又は改善のために使用することができる。当該使用は、ヒト若しくは非ヒト動物、又はそれらに由来する検体における使用であり得、また治療的使用であっても非治療的使用であってもよい。
【0027】
従って、本発明は、キラヤ又はその抽出物を有効成分として含有するGLP−1分泌促進剤を提供する。
また本発明は、キラヤ又はその抽出物を有効成分として含有するグルカゴン分泌抑制剤を提供する。
また本発明は、キラヤ又はその抽出物を有効成分として含有する食欲抑制剤を提供する。
さらに本発明は、キラヤ又はその抽出物を有効成分として含有する食後高血糖予防及び/又は改善剤を提供する。
さらに本発明は、キラヤ又はその抽出物を有効成分として含有する糖尿病予防及び/又は改善剤を提供する。
上記本発明の剤は、本質的にキラヤ又はその抽出物から構成されていてもよい。
【0028】
キラヤ又はその抽出物は、GLP−1分泌促進のため、グルカゴン分泌抑制のため、食欲抑制のため、あるいは食後高血糖、糖尿病等の疾患の予防及び/又は改善のための組成物、医薬、医薬部外品、飲食品若しくはその原料、又は飼料若しくはその原料に素材として配合することができ、その製造のために使用することができる。
【0029】
上記組成物、医薬、医薬部外品、飲食品、飼料、又は飲食品若しくは飼料の原料は、ヒト又は非ヒト動物用として製造され、又は使用され得る。キラヤ若しくはその抽出物は、当該組成物、医薬、医薬部外品、飲食品、飼料、又は飲食品若しくは飼料の原料に素材として配合され、GLP−1分泌促進のため、グルカゴン分泌抑制のため、食欲抑制のため、あるいは食後高血糖、糖尿病等の疾患の予防及び/又は改善のための有効成分であり得る。
【0030】
上記医薬又は医薬部外品は、キラヤ若しくはその抽出物を有効成分として含有する。当該医薬又は医薬部外品は、任意の投与形態で投与され得る。投与形態は、経口投与でも非経口投与でもよい。例えば、経口投与形態としては、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤のような固形投薬形態、ならびにエリキシロール、シロップおよび懸濁液のような液体投薬形態が挙げられ、非経口投与形態としては、注射、輸液、経皮、経粘膜、経鼻、経腸、吸入、坐剤、ボーラス、貼布剤等が挙げられる。
【0031】
上記医薬や医薬部外品は、キラヤ若しくはその抽出物を単独で含有していてもよく、又は薬学的に許容される担体と組み合わせて含有していてもよい。斯かる担体としては、例えば、賦形剤、被膜剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、希釈剤、分散剤、緩衝剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、活性増強剤、抗炎症剤、殺菌剤、矯味剤、矯臭剤等が挙げられる。また、当該医薬や医薬部外品は、キラヤ又はその抽出物のGLP−1分泌促進作用が失われない限り、他の有効成分や薬理成分を含有していてもよい。
【0032】
上記医薬又は医薬部外品は、キラヤ若しくはその抽出物から、あるいは必要に応じて上記担体及び/又は他の有効成分や薬理成分を組みあわせて、常法により製造することができる。当該医薬又は医薬部外品におけるキラヤ若しくはその抽出物の含有量(抽出物の乾燥物換算)は、通常0.0001〜20質量%であり、0.001〜10質量%とするのが好ましく、0.01〜5質量%とするのがより好ましい。
【0033】
上記飲食品や飼料は、GLP−1分泌促進、グルカゴン分泌抑制、食欲抑制、あるいは食後高血糖、糖尿病等の疾患の予防及び/又は改善等の機能を有し、当該機能を必要に応じて表示した食品、機能性食品、病者用食品、特定保健用食品、ペットフード等であり得る。
【0034】
上記飲食品の種類は特に限定されない。飲料としては、例えば、果汁飲料、炭酸飲料、茶系飲料、コーヒー飲料、乳飲料、アルコール飲料、清涼飲料等、あらゆる飲料が挙げられる。食品の形態は、固形、半固形、液状等の任意の形態であってもよく、また錠剤形態、丸剤形態、タブレット、カプセル形態、液剤形態、シロップ形態、粉末形態、顆粒形態等であってもよい。例えば、食品としては、パン類、麺類、パスタ、ゼリー状食品、各種スナック類、ケーキ類、菓子類、アイスクリーム類、スープ類、乳製品、冷凍食品、インスタント食品、その他加工食品、調味料、サプリメント等が挙げられる。上記飼料の種類も特に限定されず、任意の動物のための飼料であってよく、その形態も上記食品の場合と同様に任意の形態であり得る。
【0035】
上記飲食品若しくは飼料、又はそれらの原料は、キラヤ若しくはその抽出物を単独で含有していてもよく、又は他の食材や、溶剤、軟化剤、油、乳化剤、防腐剤、香科、安定剤、着色剤、酸化防止剤、保湿剤、増粘剤等の添加剤を組み合わせて含有していてもよい。当該飲食品若しくは飼料中のキラヤ若しくはその抽出物の含有量(抽出物の乾燥物換算)は、通常0.0001〜10質量%であり、0.0001〜5質量%とするのが好ましく、0.001〜1質量%とするのがより好ましい。
【0036】
キラヤ若しくはその抽出物は、GLP−1分泌促進のため、グルカゴン分泌抑制のため、食欲抑制のため、あるいは食後高血糖、糖尿病等の疾患の予防及び/又は改善のため、それらを必要とする対象に有効量で投与される。あるいは、キラヤ若しくはその抽出物は、GLP−1分泌促進のため、グルカゴン分泌抑制のため、食欲抑制のため、あるいは食後高血糖、糖尿病等の疾患の予防及び/又は改善のため、それらを必要とする対象に有効量で摂取される。
【0037】
投与又は摂取する対象としては、食後高血糖、糖尿病等の疾患若しくは状態に罹患している動物、その疑いのある動物、又はその危険性の高い動物が挙げられる。あるいは、投与又は摂取対象は、GLP−1分泌促進、グルカゴン分泌抑制、又は食欲抑制を必要とする動物であり得る。動物は、好ましくはヒト又は非ヒト哺乳動物であり、より好ましくはヒトである。
【0038】
好ましい投与量及び摂取量は、対象の種、体重、性別、年齢、状態又はその他の要因に従って変動し得る。投与の用量、経路、間隔、及び摂取の量や間隔は、当業者によって適宜決定され得る。例えば、ヒトに経口投与又は摂取させる場合、投与又は摂取量は、キラヤ抽出物(抽出物の乾燥物換算)として、成人1人当たり、20μg〜2000mg/日とすることが好ましく、200μg〜1000mg/日がより好ましく、2mg〜500mg/日がさらに好ましく、20mg〜200mg/日がなお好ましい。経口投与又は摂取は、好ましくは毎食時或いは毎食時前に行われ、より好ましくは毎食時の4時間〜5分前に行われる。
【0039】
あるいは、投与又は摂取する対象は、動物由来の組織、器官、細胞、又はそれらの分画物であり得る。当該組織、器官、細胞、又はそれらの分画物は、好ましくは、GLP−1を分泌する能力を有する天然由来又は生物学的若しくは生物工学的に改変された組織、器官、細胞、又はそれらの分画物である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。
【0041】
実施例1 キラヤ抽出物による細胞におけるGLP−1分泌促進作用
バラ科キラヤ(Quillaja saponaria MOLINA)樹皮の抽出物製剤(キラヤニンS-100、キラヤ抽出物25重量%含有、丸善製薬株式会社)を、50%エタノール水により抽出物濃度1%(w/v)となるように希釈し、試験サンプルとした。コントロールとしては、50%エタノール水を用いた。
NCI−H716細胞(ヒト結腸由来細胞;ATCCより購入)は37℃、5%CO2存在下で培養した。培養液は、RPMI1640(10%ウシ胎児血清含有、高グルコース;Invitrogen社)を用いた。細胞を、マトリゲル(100μL/well;BD社)をコーティングした24ウエルプレートに1×106cell/well(N=4)となるように播き、DMEM(10%ウシ胎児血清含有、高グルコース;Invitrogen社)培地で培養した。3日後に培地を試験サンプルを含むKRB(Krebs-Ringer bicarbonate、Sigma社)buffer・0.2%BSAに交換し、2時間培養した後、培地を回収した。培地はdiprotin-A(DPP4阻害剤、Sigma社)及びPMSF(Phenylmethylsulfonyl fluoride、セリンプロテアーゼ阻害剤、Sigma社)を加えた微量遠心管に回収し、浮遊した細胞を除去した後、GLP−1定量まで−80℃で保存した。培地中GLP−1はGLUCAGON-LIKE PEPTIDE-1(ACTIVE) ELISA KIT(LINCO Research)を用いたELISAにより定量した。
結果を図1及び表1に示す。キラヤ抽出物は0.001%以上の濃度で細胞のGLP−1分泌を有意に促進した。
【0042】
【表1】

【0043】
実施例2 キラヤ抽出物によるマウスにおけるGLP−1分泌促進作用
バラ科キラヤ(Quillaja saponaria MOLINA)樹皮の抽出物製剤(キラヤニンS-100、キラヤ抽出物25重量%含有、丸善製薬株式会社)を、凍結乾燥により乾燥粉末とした。これを、5%グルコース溶液に濃度1%(w/v)となるように溶解し、試験サンプルとした。コントロールとしては、5%グルコース溶液を用いた。
マウス(C57BL/6J雄、12週齢)を1群9匹とし、上記で調製した5%グルコース+1%キラヤ抽出物溶液を、ゾンデにより経口投与した(キラヤ群)。コントロール群には5%グルコース溶液を投与した。投与10分後に深麻酔下にて開腹し、門脈より採血を行った。血液は直ちにDPPIVインヒビター(Millipore)とアプロチニン(和光純薬)を加えた微量採血管(EDTA入り)に回収し、採血後30分以内に遠心し血漿を得た。血漿は直ちに液体窒素で凍結し、GLP−1定量まで−80℃で保存した。血漿中GLP−1はYK160 GLP-1 EIA キット(矢内原研究所)により定量した。
結果を図2及び表2に示す。キラヤ抽出物を摂取したマウスでは、GLP−1分泌が亢進した。
【0044】
【表2】

【0045】
実施例3 キラヤ抽出物による血糖上昇抑制作用
バラ科キラヤ(Quillaja saponaria MOLINA)樹皮の抽出物製剤(キラヤニンS-100、キラヤ抽出物25重量%含有、丸善製薬株式会社)を、凍結乾燥により乾燥粉末とした。これを、5%グルコース溶液に濃度1%(w/v)となるように溶解し、試験サンプルとした。コントロールとしては、5%グルコース溶液を用いた。
マウス(C57BL/6J雄、12週令)を1群9匹とし、上記で調製した5%グルコース+1%キラヤ抽出物溶液を、ゾンデにより経口投与した(キラヤ群)。コントロール群には5%グルコース溶液を投与した。投与10分後に眼窩静脈叢より採血を行い、アキュチェック(ロシュ・ダイアグノスティック)を用いて血糖値を測定した。
結果を図3及び表3に示す。キラヤ抽出物を摂取したマウスでは、グルコース投与10分後の血糖上昇が抑制された。
【0046】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
キラヤ又はその抽出物を有効成分とするGLP−1分泌促進剤。
【請求項2】
抽出物が水抽出物又はエタノール水溶液抽出物である、請求項1記載のGLP−1分泌促進剤。
【請求項3】
キラヤ又はその抽出物を有効成分とするグルカゴン分泌抑制剤。
【請求項4】
抽出物が水抽出物又はエタノール水溶液抽出物である、請求項3記載のグルカゴン分泌抑制剤。
【請求項5】
キラヤ又はその抽出物を有効成分とする食欲抑制剤。
【請求項6】
抽出物が水抽出物又はエタノール水溶液抽出物である、請求項5記載の食欲抑制剤。
【請求項7】
キラヤ又はその抽出物を有効成分とする食後高血糖予防及び/又は改善剤。
【請求項8】
抽出物が水抽出物又はエタノール水溶液抽出物である、請求項7記載の食後高血糖予防及び/又は改善剤。
【請求項9】
キラヤ又はその抽出物を有効成分とする糖尿病予防及び/又は改善剤。
【請求項10】
抽出物が水抽出物又はエタノール水溶液抽出物である、請求項9記載の糖尿病予防及び/又は改善剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−131742(P2012−131742A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−285568(P2010−285568)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】