説明

GLP−1活性増強剤

【課題】本発明の目的は、効果的であり、かつ安全性が高く継続的に摂取可能なGLP−1活性増強剤を提供することである。
【解決手段】本発明により、サラシア・キネンシス、サラシア・レティキュラータおよびサラシア・オブロンガから選択される植物の抽出物を有効成分として含むGLP−1活性増強剤が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内におけるGLP−1活性を効率的に増強する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、全世界において糖尿病が爆発的に増加しており、日本における糖尿病患者は600万人、その予備軍は1200万人〜1500万人であるといわれている。糖尿病では高血糖が続くことにより血管が徐々に障害を受け、様々な臓器に異常が生じる。糖尿病性腎症、糖尿病性網膜症、糖尿病性神経症は三大合併症として以前から知られているが、近年では動脈硬化症発症のリスクが高くなることも知られている。
【0003】
糖尿病のうち、I型糖尿病は膵β細胞の破壊的病変によるインスリンの欠乏が生じて発症し、II型糖尿病は、膵β細胞の機能異常によるインスリン分泌能低下と肝・筋・脂肪組織などの標的組織におけるインスリン感受性低下が併発することによって発症する。昨今急増する糖尿病はII型に由来するものであり、糖尿病の90〜95%を占めていると考えられている。II型糖尿病は「生活習慣病」といわれているように、ストレス、肥満、運動不足による基礎代謝低下、および高カロリー食摂取など、現代社会における生活習慣によって引き起こされている。
【0004】
糖尿病の創薬ターゲットとして注目されつつあるインクレチンは、消化管ホルモンであり、膵臓β細胞数の増加作用を持つことが知られている。またインクレチンの一種であるGLP−1(グルカゴン様ペプチド−1(glucagon−like peptide 1))は食欲抑制作用を有することが知られており、II型糖尿病の原因のひとつとされる肥満を抑制する作用があるため特に注目度が高く、GLP−1増強剤についてはいくつかの報告がされている(特許文献1〜3)。ヒトGLP−1アナログ製剤は既に実用に供せられているが、一日一回以上皮下注射の実施が必要であり、吐き気などの副作用が報告されている(非特許文献1)。
【0005】
サラシア・オブロンガ(Salacia oblonga)、サラシア・レティキュラータ(Salacia reticulata)、サラシア・キネンシス(Salacia chinensis;サラシア・プリノイデス(Salacia prinoides)と同種)などのサラシア属の植物は、インド、スリランカ、タイ、ベトナム、中国南部地域などに生育するニシキギ科のつる性多年生植物である。これらのサラシア属植物は、インド、スリランカ、東南アジア諸国の伝承医学では天然の薬物として利用されてきており、さらに近年になって、これらの植物の抽出物がα−グルコシダーゼ阻害作用、リパーゼ阻害作用などの薬効を有することが報告されている(特許文献4〜8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−199694号公報
【特許文献2】特開2006−117566号公報
【特許文献3】特開2009−517464号公報
【特許文献4】特開平9−301882号公報
【特許文献5】特開平11−116496号公報
【特許文献6】特開平11−29472号公報
【特許文献7】特開2001−261569号公報
【特許文献8】特開2005−8572号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】糖尿病、第52巻、第6号、427〜431頁、2009年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
インクレチンは、糖濃度依存性のインスリン分泌促進作用、グルカゴン分泌抑制作用、膵臓β細胞数増加作用、神経保護作用、骨量増加作用などを有することが知られている。さらに、GLP−1は食欲を抑制する働きを有することから、糖尿病の根本的治癒や予防のための手段として用いることができる。しかしながら上記記載のGLP−1の分泌を特異的に増加させる化合物または組成物のうち、活性・安全性の面において実用化のレベルに達するものは知られていない。
【0009】
本発明の目的は、効果的であり、かつ安全性が高く継続的に摂取可能なGLP−1活性増強剤、特にGLP−1産生増強剤を提供することである。さらに、本発明の目的は、効果的であり、かつ安全性が高く継続的に摂取可能な糖尿病予防剤または膵臓保護剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題解決のために鋭意研究を進めたところ、サラシア属植物の抽出物に良好なGLP−1産生増強作用およびGLP−1代謝抑制作用によるGLP−1活性増強作用を見いだし、本発明を完成させた。
【0011】
本発明の一つの側面によれば、サラシア属植物、例えば、サラシア・キネンシス、サラシア・レティキュラータおよびサラシア・オブロンガから選択されるサラシア属植物の抽出物を有効成分として含むGLP−1活性増強剤が提供される。本発明の一つの態様において、サラシア属植物としてサラシア・キネンシスが使用される。また、本発明の一つの態様において、上記のGLP−1活性増強剤は、糖尿病の予防および/または膵臓の保護のために使用される。
【0012】
本発明の別の側面によれば、血中のジペプチジルペプチダーゼIV(DPP4)活性の抑制作用を有する、上記のGLP−1活性増強剤が提供される。本発明のさらに別の側面によれば、DPP4の血中濃度低下作用を有する、上記のGLP−1活性増強剤が提供される。
【0013】
本発明の別の側面によれば、サラシア属植物、例えば、サラシア・キネンシス、サラシア・レティキュラータおよびサラシア・オブロンガから選択されるサラシア属植物の抽出物を有効成分として含む糖尿病予防剤または膵臓保護剤が提供される。本発明の一つの態様において、サラシア属植物としてサラシア・キネンシスが使用される。
【0014】
本発明の別の側面によれば、上記のGLP−1活性増強剤、糖尿病予防剤または膵臓保護剤を含む飲食品が提供される。
本発明のさらに別の側面によれば、上記のGLP−1活性増強剤、糖尿病予防剤または膵臓保護剤を含む医薬組成物が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明のGLP−1活性増強剤は、良好なGLP−1産生増強作用を有し、かつジペプチジルペプチダーゼIV(DPP4)の活性を阻害することによりGLP−1の代謝を抑制し、生体内のGLP−1活性を増強する作用を有する。さらに本発明は、血中のDPP4の活性抑制作用およびDPP4の血中濃度低下作用を有する点において、GLP−1活性増強剤としてすぐれた効果を有している。また、本発明のGLP−1活性増強剤は、安全性が高く継続的に摂取することに適しており、糖尿病予防剤または膵臓保護剤として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、ショ糖負荷後のラット血中GLP−1増加量の推移を表すグラフの一例である。
【図2】図2は、サラシア属植物抽出物のDPP4阻害活性を表すグラフの一例である。
【図3】図3は、サラシア属植物抽出物の血中DPP4活性への影響を表すグラフの一例である。
【図4】図4は、サラシア属植物抽出物のDPP4の血中濃度への影響を表すグラフの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
抽出原料として使用するサラシア属植物としては、例えば、採取後に乾燥した幹、根、葉、果実、または幹および根部の樹皮を裁断または粉砕したものを使用することができる。
【0018】
抽出は慣用の方法を適宜利用して行うことができ、例えば、連続抽出、浸漬抽出、向流抽出、超臨界抽出、カラム抽出などの方法により行ってもよい。
抽出溶媒としては特に限定されないが、水、低級アルコール(メタノールおよびエタノール)、アセトンなどの親水性溶媒、またはそれらの混合溶媒を用いることが好ましく、特に水を使用することが好ましい。抽出時には加熱することが好ましく、例えば、抽出溶媒の還流温度で抽出を行うことができる。水を溶媒として使用する場合は、例えば60〜110℃、好ましくは80〜98℃の温度下、例えば1〜24時間、好ましくは1〜4時間の抽出時間で抽出を行うことができる。
【0019】
本発明で使用する抽出物として、抽出液の原液、抽出液の濃縮液または抽出液濃縮物を乾燥して得られる固体を使用することができ、摂取の効率性の観点から固体化した濃縮物を使用するのが好ましい。抽出液の濃縮方法としては従来技術を適宜利用することができ、例えば、減圧乾燥法、凍結乾燥法、噴霧乾燥法などを行うことができる。
【0020】
サラシア属植物の抽出液は精製処理に付してもよい。精製処理としては、例えば、活性炭、イオン吸着樹脂などの吸着剤による処理、液−液向流分配処理などが挙げられる。
サラシア属植物の抽出物は市販品を購入したものを使用してもよい。また、実質的なサラシア属植物の抽出物の摂取を目的として、サラシア植物の粉砕物などをそのまま本発明の成分として使用してもよい。
【0021】
本発明のGLP−1活性増強剤の摂取量は、対象の体型、年齢、体調などにより、適宜調節することができる。例えば、体重60kgの成人に対して、サラシア属植物の抽出物を300mg/日以上、好ましくは450mg/日以上、より好ましくは900mg/日以上の用量で、かつ例えば3000mg/日以下、好ましくは2400mg/日以下、より好ましくは1800mg/日以下の用量で投与することができる。
【0022】
本発明のGLP−1活性増強剤は、何らかの加工を加えて、またはそのままで医薬品として提供することができる。本発明の別の側面によれば、サラシア属植物、例えば、サラシア・キネンシス、サラシア・レティキュラータおよびサラシア・オブロンガから選択されるサラシア属植物の抽出物を有効成分として含むGLP−1活性増強剤を含んでなる医薬組成物が提供される。
【0023】
本発明のGLP−1活性増強剤は、何らかの加工を加えて、またはそのままで食品(健康食品(栄養機能食品、特定保健用食品、サプリメントなど)、病者用食品など)または飲料(茶、清涼飲料など)として使用することができる。したがって、本発明のさらに別の側面によれば、サラシア属植物、例えば、サラシア・キネンシス、サラシア・レティキュラータおよびサラシア・オブロンガから選択されるサラシア属植物の抽出物を有効成分として含むGLP−1活性増強剤を含んでなる飲食品が提供される。
【0024】
本発明のさらに別の側面によれば、サラシア属植物、例えば、サラシア・キネンシス、サラシア・レティキュラータおよびサラシア・オブロンガから選択される植物の抽出物を有効成分として含むGLP−1活性増強剤を含んでなる経口摂取用組成物が提供される。本発明の経口摂取用組成物は、本明細書において定義される本発明の医薬組成物および飲食品を包含する。
【0025】
前記医薬組成物および飲食品は、必要に応じ、従来公知の着色剤、保存剤、香料、風味剤、コーティング剤などの成分を配合して調製することもできる。
また、本発明の医薬組成物および飲食品は、1以上の追加成分を配合して調製してもよい。追加成分の例としては、血糖降下剤、抗コレステロール剤、免疫賦活剤、抗酸化剤、ビタミン、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ミネラル分(鉄、亜鉛、マグネシウム、ヨードなど)、脂肪酸(EPA、DHAなど)などを挙げることができる。
【0026】
ここで、血糖降下剤の例としては、特に限定はされないが、難消化性デキストリン、α−リノレン酸、豆鼓エキス、小麦アルブミン、L−アラビノース、および植物由来成分(例えば、グアバ葉、桑葉、しょうが、アマチャヅル、オオムギ、キダチアロエ、セイヨウタンポポ、ダイダイ、チョウセンアザミ、ニンニク、ハトムギ、バナバ、ビルベリー、ブラックコホシュ、マコモ、杜仲葉、月見草、カイアポ、ニガウリ、マデグルシルまたはそれらの抽出物)などが挙げられる。
【0027】
抗コレステロール剤の例としては、特に限定はされないが、大豆タンパク質、リン脂質結合大豆ペプチド、キトサン、植物ステロール、植物ステロールエステル、植物スタノールエステル、難消化性デキストリン、アルギン酸ナトリウム、サイリウム種皮、アスタキサンチン、イノシトール、コエンザイムA、カルシウム、マグネシウム、カルニチン、シルクプロテイン、タウリン、メチオニン、α−リノレン酸、グアガム、コンドロイチン硫酸、大豆サポニン、および植物由来成分(例えば、アマチャヅル、アルファルファ、イチョウ、オオバコ、オオムギ、オーツ麦、オリーブ、ガジュツ、ギムネマ、キャッツクロー、クコ、クロレラ、スピルリナ、西洋サンザシ、唐辛子、ニンニク、ビルベリー、ベニバナ、ユッカ、ラフマ、アガリクス、紅麹、またはそれらの抽出物)などが挙げられる。
【0028】
免疫賦活剤の例としては、特に限定はされないが、ラクトフェリン、アルギニン、トリプトファン、バリン、ロイシン、キチン、キトサン、および植物由来成分(例えば、アガリクス、冬虫夏草、アロエ、キダチアロエ、エキナセア、オウギ、キャッツクロー、クコ、スピルリナ、ハトムギ、紅花、マカ、マコモ、ラフマ、またはそれらの抽出物)などが挙げられる。
【0029】
抗酸化剤の例としては、特に限定はされないが、乾燥酵母、グルタチオン、リポ酸、ケルセチン、カテキン、コエンザイムQ10、エンゾジノール、プロアントシアニジン類、アントシアニジン、アントシアニン、カロチン類、リコピン、フラボノイド、リザベラトロール、イソフラボン類、亜鉛、メラトニン、および植物由来成分(例えば、イチョウ葉、月桃葉、ハイビスカス、またはそれらの抽出物)などが挙げられる。
【0030】
ビタミンの例としては、特に限定はされないが、ビタミンA群に属するビタミン[例えば、レチナール、レチノール、レチノイン酸、カロチン、デヒドロレチナール、リコピンおよび薬理学的に許容されるそれらの塩類(例えば、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノールなど)など]、ビタミンB群に属するビタミン[例えば、チアミン、チアミンジスルフィド、ジセチアミン、オクトチアミン、シコチアミン、ビスイブチアミン、ビスベンチアミン、プロスルチアミン、ベンフォチアミン、フルスルチアミン、リボフラビン、フラビンアデニンジヌクレオチド、ピリドキシン、ピリドキサール、ヒドロキソコバラミン、シアノコバラミン、メチルコバラミン、デオキシアデノコバラミン、葉酸、テトラヒドロ葉酸、ジヒドロ葉酸、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ニコチニックアルコール、パントテン酸、パンテノール、ビオチン、コリン、イノシトール、パンガミン酸および薬理学的に許容されるそれらの塩類(例えば、塩酸チアミン、硝酸チアミン、塩酸ジセチアミン、塩酸フルスルチアミン、酪酸リボフラビン、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、塩酸ピリドキシン、リン酸ピリドキサール、リン酸ピリドキサールカルシウム、塩酸ヒドロキソコバラミン、酢酸ヒドロキソコバラミン、パントテン酸カルシウム、パントテン酸ナトリウムなど)など]、ビタミンC群に属するビタミン[アスコルビン酸及びその誘導体、エリソルビン酸及びその誘導体、および薬理学的に許容されるそれらの塩類(例えば、アスコルビン酸ナトリウム、エリソルビン酸ナトリウムなど)など]、ビタミンD群に属するビタミン[例えば、エルゴカルシフェロール、コレカルシフェロール、ヒドロキシコレカルシフェロール、ジヒドロキシコレカルシフェロール、ジヒドロタキステロール、および薬理学的に許容されるそれらの塩類など]、ビタミンE群に属するビタミン[例えば、トコフェロール及びその誘導体、ユビキノン誘導体及びそれらの薬理学的に許容される塩類(酢酸トコフェロール、ニコチン酸トコフェロール、コハク酸トコフェロール、コハク酸トコフェロールカルシウムなど)など]、その他のビタミン[例えば、カルニチン、フェルラ酸、γ−オリザノール、オロチン酸、ルチン(ビタミンP)、エリオシトリン、ヘスペリジン、および薬理学的に許容されるそれらの塩類(塩化カルニチンなど)など〕などが挙げられる。
【0031】
アミノ酸の例としては、特に限定はされないが、ロイシン、イソロイシン、バリン、メチオニン、トレオニン、アラニン、フェニルアラニン、トリプトファン、リジン、グリシン、アスパラギン、アスパラギン酸、セリン、グルタミン、グルタミン酸、プロリン、チロシン、システイン、ヒスチジン、オルニチン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリジン、グリシルグリシン、アミノエチルスルホン酸(タウリン)、シスチン、または薬理学的に許容されるそれらの塩類(例えばアスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、塩酸システインなど)などが挙げられる。好ましい例は、バリン、ロイシンおよびイソロイシン等の分岐鎖アミノ酸、グルタチオン、システイン、グルタミン酸、グリシン、セリン、トリプトファン、チロシン、フェニルアラニン、ヒスチジン、メチオニン、スレオニン、リジン、シスチン、アルギニン、アラニン、アスパラギン酸、プロリン、アミノエチルスルホン酸である。
【0032】
本発明のGLP−1活性増強剤は、医薬組成物または飲食品(特に、機能性食品、健康食品、サプリメントなど)として継続的な摂取が行いやすいように、例えば顆粒剤(ドライシロップを含む)、カプセル剤(軟カプセル剤、硬カプセル剤)、錠剤(チュアブル剤などを含む)、散剤(粉末剤)、丸剤などの各種の固形製剤、または内服用液剤(液剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)などの液状製剤などの形態で調製することができる。成分の安定性や摂取の簡便さの点からカプセル剤または錠剤の形態が好ましいが、特に限定されるものではない。
【0033】
カプセル剤または錠剤の形態の本発明のGLP−1活性増強剤は、医薬または食品として許容される公知の添加物を用いて製造することができ、医薬または食品の分野で採用されている通常の製剤化手法を適用することができる。例えば、錠剤は、各成分を処方に従って添加配合し、粉砕、造粒、乾燥、整粒および混合を行い、得られた調製混合物を打錠することによって調製することができる。
【0034】
製剤化のための添加物としては、限定はされないが、例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、流動化剤、分散剤、湿潤剤、防腐剤、粘稠剤、pH調整剤、着色剤、矯味矯臭剤、界面活性剤、溶解補助剤などが挙げられる。また、液剤の形態にする場合は、ペクチン、キサンタンガム、グアガムなどの増粘剤を配合することができる。また、コーティング剤を用いてコーティング錠剤にしたり、ペースト状の膠剤とすることもできる。さらに、他の形態に調製する場合であっても、従来の方法に従えばよい。
【0035】
また、本発明が飲食品である場合には、機能性食品、健康食品、特定保健用食品、特別用途食品、サプリメントなどの形態で本発明を実施することができる。本発明の好適な態様により、GLP−1活性増強作用、糖尿病予防作用、膵臓保護作用を有する量のサラシア属植物またはその抽出物を含有する特定保健用食品又は特別用途食品である飲食品が提供される。ここで、当該食品の包装、パッケージ、添付文書または広告に、その作用効果(GLP−1活性増強作用、糖尿病予防作用、膵臓保護作用)に関する記載が付されていてもよい。
【0036】
さらに、本発明のGLP−1活性増強剤は、例えば、飲料、菓子類、パン類、スープ類などの各種飲食品またはその添加成分として;またはドッグフード、キャットフードなどの各種ペットフードまたはその添加成分として使用することができる。これらの飲食品の製造方法は、本発明の効果を損なわないものであれば特に限定されず、各用途で当業者によって使用されている方法に従えばよい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の好適な実施例についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
試験に使用したサラシア・キネンシス水抽出物は以下の方法で調製した。サラシア・キネンシスの幹の部分を5mm角に裁断したチップ(1kg)に熱水(20kg)を加え、98℃で120分攪拌抽出した。得られた抽出液を、ロータリーエバポレーターを用いて減圧濃縮(濃縮温度45℃、Brix=30になるまで)し、濃縮液を凍結乾燥させて本発明のサラシア・キネンシス抽出物(98.5g、以下、サラシア抽出物とも称する)を得た。
[試験例1]食後血中GLP−1濃度測定試験
1)SD系雄性ラット(日本エスエルシー株式会社、6週齢)を購入し、実験開始まで自由摂餌摂水下にて約1週間予備飼育した。その後、約20時間絶食し、体重(使用時体重範囲202.0g〜260.0g)を基に4群(各6匹)に分け、1群をショ糖のみを投与する群(control群)、他の3群をショ糖と被験物質を投与する群(サラシア抽出物群、茶抽出物群、甜茶抽出物群)とした。茶抽出物および甜茶抽出物は購入により入手したものを使用した(茶抽出物:サンフード(登録商標)100、三菱化学フーズ株式会社製;甜茶抽出物:甜茶エキスM粉末、丸善製薬株式会社製)。群構成および投与物質を下表に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
被験物質とともにショ糖(1g/kg)をラットに単回経口投与して、初期値(0分)および投与60分後、120分後に採血して血中GLP−1濃度を測定した。
採血は、ラットにジエチルエーテルで麻酔した後に、眼底にヘマトクリット管を刺して行った。採血した血液はすぐにDPP4阻害剤入りの採血管に移し、血液中のGLP−1の分解を防止した。処置した血液は遠心し、血清を分離した。市販されているキット[レビス(登録商標)GLP−1(active)kit、株式会社シバヤギ]を使用して血清中のGLP−1量をELISA法により測定した。結果を以下の表2および図1に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
本試験例から、ショ糖と共にサラシア抽出物を摂取することにより、2時間後の血中GLP−1の濃度が約2倍に高まることが確認された。一方、茶抽出物投与群および甜茶抽出物投与群ではそのようなGLP−1濃度の上昇は観察されなかった。
[試験例2]DPP4阻害活性測定試験
サラシア抽出物のDDP4阻害活性を、市販のDPP4阻害活性測定キット(DPPIV Drug Discovery Kit−AK−499、Enzo Life Science社製、コスモ・バイオ株式会社より購入)を使用し、キットに添付の使用説明書に記載のアッセイ方法にしたがってサラシア抽出物のDPP4阻害活性を測定した。
【0042】
サラシア抽出物(2.5mg)をキットに付属のアッセイバッファー(50mMトリス、pH7.5、1mL)中に懸濁させ、遠心分離して上清を回収してサンプル溶液(サラシア2.5mg/mL)とした。当該溶液を希釈してサラシア1.3mg/mLおよびサラシア0.6mg/mLのサンプル溶液を調製した。測定用プレート(キット付属品)を使用し、DPP4酵素(15μL、キット付属品、SE434−9090 DPPIV酵素(ヒト、組み換え品))、およびサンプル溶液(35μL)を含むウェルに基質(50μL、キット付属品、P188−9090 AMC基質(H−Gly−Pro−AMC))を加えて反応を開始した。37℃で10分間静置して酵素反応を進行させ、10分後の蛍光強度(励起波長380nm、蛍光波長460nm)をプレートリーダー(マルチファンクショナルリーダー ジェニオス、和光純薬工業株式会社)により測定した。サンプル溶液の代わりに同量のアッセイバッファーを添加したウェルについても同様の測定をし、当該ウェルでの測定値を100として、各サンプル溶液を含むウェルのDPP4活性率を算出した。結果を表3および図2に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
サラシア抽出物が濃度依存的にDPP4の酵素活性を阻害することが確認された。
[試験例3]血中DPP4活性および濃度測定試験
表現型が肥満を呈する遺伝的肥満モデルマウス(B6.V-Lepob/J雄性マウス(Lepob/Lepob)、以下ob/obマウス)(日本チャールズリバー株式会社、5週齢)と表現型が肥満を呈さないマウス(雄性マウス(Lepob/+もしくは+/+)、以下?/+マウス)(日本チャールズリバー株式会社、5週齢)を購入し、実験開始まで自由摂餌摂水下にて約1週間予備飼育した。その後、ob/obマウスを3群に分け、1群をCE-2粉末飼料(日本クレア株式会社)のみを投与する群[コントロール群(5匹)]、他の2群をサラシア抽出物の濃度が0.20重量%、0.50重量%となるようにCE-2粉末飼料とサラシア抽出物を混合した飼料を投与する群[0.20%サラシア抽出物群(5匹)、0.50%サラシア抽出物群(5匹)]とした。?/+マウスはCE-2粉末飼料のみを投与する対照群(5匹)とした。群構成および投与物質を下表に示す。
【0045】
【表4】

【0046】
各飼料をマウスに自由摂餌で投与し、飼育23日目に採血して血中DPP4阻害活性および血中DPP4濃度を測定した。採血は、マウスをジエチルエーテルで麻酔した後に開腹し、心臓採血を行った。採血した血液(約100〜200μL)を、日局ヘパリン(田辺三菱製薬株式会社)(5μL)を添加した1.5mL容チューブに速やかに加え混合し、血液の凝固を防止した。処置した血液を遠心し、血漿を分離した。血中DPP4活性は基質にAMC基質(H−Gly−Pro−AMC、Enzo Life Science社製)を用いて測定した。測定用プレート(Nunc−96 well Black plate)に血漿(10μL)を加え、基質溶液(50 mM トリス、pH7.5、1 mg/mL BSA、5.56 μM H−Gly−Pro−AMC、90 μL)を加えて酵素反応を開始した。32〜34℃で60分間酵素反応を行い、この間の反応溶液の蛍光強度(励起波長360nm、蛍光波長465nm)を1分間隔でプレートリーダー(マルチファンクショナルリーダー ジェオニス、和光純薬工業株式会社)により測定した。蛍光強度と反応時間をグラフにプロットし、近似直線の傾きから血中DPP4活性を算出した。血中DPP4濃度は市販のDPP4濃度測定キット(ELISA Kit for Mouse Dipeptidyl Peptidase IV、USCN life science社製)を使用し、キットに添付の使用説明書に記載のアッセイ方法にしたがって測定した。結果を以下の表5および図3、図4に示す。
【0047】
【表5】

【0048】
本試験例から、肥満モデルマウスにサラシア抽出物を投与することにより、血中のDDP4濃度および血中DPP4活性が共に低下することが確認された。
[処方例]
サラシア抽出物は下記の表6の処方に従って賦形剤と混合した後に打錠して、食品(錠剤)とすることができる。
【0049】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
サラシア属植物の抽出物を有効成分として含むGLP−1活性増強剤。
【請求項2】
サラシア属植物がサラシア・キネンシス、サラシア・レティキュラータおよびサラシア・オブロンガから選択される、請求項1に記載のGLP−1活性増強剤。
【請求項3】
前記抽出物が水抽出物である、請求項1または2に記載のGLP−1活性増強剤。
【請求項4】
糖尿病予防または膵臓の保護のために使用される、請求項1〜3のいずれか1項に記載のGLP−1活性増強剤。
【請求項5】
血中のジペプチジルペプチダーゼIV(DPP4)活性の抑制作用を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のGLP−1活性増強剤。
【請求項6】
DPP4の血中濃度低下作用を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のGLP−1活性増強剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のGLP−1活性増強剤を含む飲食品。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のGLP−1活性増強剤を含む医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−190248(P2011−190248A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30596(P2011−30596)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】