説明

GLP−1類似体製剤

本発明は、a)少なくとも1種の、ジアシルグリセロール等の中性ジアシル脂質と、b)少なくとも1種の、ホスファチジルコリン等のリン脂質と、c)少なくとも1種の、酸素含有溶媒等の生物学的に許容できる溶媒と、d)少なくとも1種のGLP−1類似体との低粘度混合物を形成する組成物であって、前記前製剤が、水性流体と接触すると、少なくとも1種の液晶相構造を形成するか、または形成することができる組成物に関する。本発明は更に、そのような組成物を、とりわけ、糖尿病治療において投与することを含む治療方法、ならびに前記製剤を含む充填済み投与デバイスおよびキットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グルカゴン様ペプチド1(GLP−1)および/またはその類似体等の活性物質を制御放出するためのin situ生成組成物のための製剤前駆体(前製剤(pre−formulations))、およびそのような製剤を用いた治療法に関する。特に、本発明は、腸管外的に適用される両親媒性成分および少なくとも1種のGLP−1または類似体活性物質の前製剤であって、体液等の水性流体に曝露されると相転移を起こし、これにより制御放出マトリクスを形成する前製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
調合薬、栄養素、ビタミン等を含む多くの生物活性物質が、「機能発現枠(functional window)」を有している。すなわち、これらの作用物質が何らかの生物学的効果をもたらすことが観察できる濃度範囲が存在する。適切な身体部分における(例えば、局所的な、または血清濃度によって表される)濃度がある一定のレベルを下回ると、その作用物質からは何ら有益な効果が得られなくなる。同様に、上限濃度レベルが通常存在し、そのレベルよりも濃度を高くしたとしても更なるメリットは得られない。場合によっては、特定レベルを超えて濃度を高めると、望ましくない影響、または危険な影響すら及ぼすことがある。
【0003】
生物活性物質の中には、生物学的半減期が長く、および/または機能発現枠が広いため、随時投与されて、機能的な生物学的濃度をかなりの期間(例えば、6時間から数日間)にわたって維持し得るものがある。また、その他の場合においては、クリアランス速度が速く、および/または機能発現枠が狭いため、生物学的濃度をこの枠の範囲内に維持するためには、少量ずつの定期的(または、更には継続的)な投薬が要求される。これは、非経口経路での投与(例えば、腸管外投与)が望ましい、または必要な場合には、特に困難となり得る。なぜなら、自己投与が困難で、これにより、不都合および/または不十分な服薬遵守が生じる場合があるためである。このような場合には、単回投与で、活性が必要とされる全期間にわたって治療レベルとなるように活性物質を提供することが有利であろう。
【0004】
グルカゴン様ペプチド(GLP)−1は、栄養素の摂取、ならびに神経および内分泌物の刺激に応答して、腸L細胞から放出され循環する効力の強いブドウ糖制御(glucoregulatory)ホルモンである。構造的には、GLP−1は、異なる種の間で高度に保存された配列を有する、4.2KDaのMWを有する37アミノ酸ペプチドである。GLP−1は、グルコース刺激インスリンの分泌および生合成の増強、グルカゴン分泌の抑制、胃の内容物排出、ならびに食物摂取を含む作用を通したグルコース恒常性の改変に関与する。インスリン分泌を刺激し、グルカゴン放出を阻害するGLP−1の能力は、グルコースに依存するため、GLP−1投与による低血糖のリスクは低い。GLP−1はまた、ベータ細胞増殖および再生の刺激、ならびにベータ細胞アポトーシスの阻害を含むメカニズムを通した糖尿病の前臨床モデルにおけるベータ細胞質量を増加させる。動物およびヒトの両方における研究により、GLP−1が心臓血管系における保護的な役割も果たし得ることが分かる。
【0005】
GLP−1の組み合わせ作用により、タイプ2糖尿病を治療するための治療薬としてこのペプチドを用いることにかなりの関心がもたらされた。しかし、未変性(native)のGLP−1の治療能力は、その非常に短い血漿中半減期(2分未満)によって制限される。これは、タンパク質分解酵素ジペプチジルペプチダーゼ(DPP)−IVの迅速な不活性化および腎クリアランスの両方によるものである。この結果、エクセナチド(バイエッタ(Byetta)、アミリン−リリー(Amylin−Lilly))、リラグルチド(liraglutide)(ノボ ノルディスク(Novo Nordisk))、CJC−1131(コンジュケム(ConjuChem))、AVE010(ジーランド ファーマ−サノフィ−アベンティス(Zealand Pharma−Sanofi−Aventis))、LY548806(リリー(Lilly))、およびTH−0318(セラテクノロジー(TheraTechnologies))を含む、長時間作用性のDPP−IV耐性GLP−1類似体が、臨床使用のために開発された。これらは全て、1日1回または2回投与される製品であり、放出が制御された(1週間)エクセナチド製品(エクセナチド(Exenatide) LAR アルケルムス−アミリン−リリー(Alkermes−Amylin−Lilly))は、現在臨床検査中である。これらのGLP−1擬似物は、同様の親和性を有するGLP−1受容体に結合し、未変性のGLP−1と同一の生物作用を生じるが、DPP−IV媒介不活性化および腎クリアランスに耐性を有する。これらの化合物は、インビボで、より長期間、より持続的なGLP−1様活性を発揮することが可能である。未変性のGLP−1の作用を延ばすための代替的な治療アプローチとしては、DPP−IV活性を阻害することによって、GLP−1劣化を防止することが挙げられる。DPP−IV活性を阻害する数種の経口活性物質も、タイプ2糖尿病の治療について評価されている。
【0006】
GLP−1および幾つかの公知の類似体の構造および配列を、2つの効力の等しい天然に産出する形態から始めて下記に示す。簡単明瞭な方式を用いてGLP−1の断片および類似体を示している。例えば、Arg34−GLP−1(7−37)は、正式には、アミノ酸残基No.1からNo.6を削除し、位置34(Lys)にある天然に産出するアミノ酸残基をArgで置換することによってGLP−1から得られるGLP−1の類似体を示している。
【0007】
未変性(ヒト)GLP−1(7−37):
His7−Ala−Glu−Gly10−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp15−Val−Ser−Ser−Tyr−Leu20−Glu−Gly−Gln−Ala−Ala25−Lys−Glu−Phe−Ile−Ala30−Trp−Leu−Val−Lys−Gly−Arg−Gly37
未変性(ヒト):
GLP−1(7−36)アミド
ノボノルディスク(NovoNordisk)(リラグルチド)
Arg34Lys26−(N−ε−γ−Glu(N−α−ヘキサデカノイル)))−GLP−1(7−37)
コンジュケム(Conjuchem)(CJC−1131)
D−Ala8Lys37−(2−(2−(2−マレイミドプロピオンアミド(エトキシ)エトキシ)アセトアミド))−GLP−1(7−37)
サノフィ−アベンティス/ジーランド(Sanofi−Aventis/Zealand)(AVE−010(ZP10)
His−Gly−Glu−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Leu−Ser−Lys−Gln−Met−Glu−Glu−Glu−Ala−Val−Arg−Leu−Phe−Ile−Glu−Trp−Leu−Lys−Asn−Gly−Gly−Pro−Ser−Ser−Gly−Ala−Pro−Pro−Ser−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys−Lys
イーライ リリー(Eli Lilly)(エクセナチド)
His7−Gly−Glu−Gly10−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp15−Leu−Ser−Lys−Gln−Met20−Glu−Glu−Glu−Ala−Val25−Arg−Leu−Phe−Ile−Glu30−Trp−Leu−Lys−Asn−Gly−Gly−Pro37−Ser−Ser−Gly−Ala−Pro−Pro−Pro−Ser
本明細書中で使用される「未変性GLP−1」とは、ヒトGLP−1(7−37)および/またはヒトGLP−1(7−36)アミドを示し、「リラグルチド」、「CJC−1131」、「AVE−010」、および「エクセナチド」という用語は上記のそれぞれの活性体を示すのに使用されており、これら活性体は、文脈から読み取れる場合、それらの生理学的に許容できる塩、エステルおよび誘導体を含む。
【0008】
投与に関し、タイプ2糖尿病が進行中であるというような症状、およびあらゆる治療体制は、典型的には、何ヶ月または何年という長期の継続的な治療を必要とするであろう。現在利用可能なGLP−1治療は、典型的には、治療期間中、1日2回程度の投与を必要とする注射可能医薬品である。これは、一般に、患者の自己投与によって行われるであろう。長期にわたる頻繁な注射は、最適な投与戦略ではないため、GLP―1の使用者が、ずっと少ない頻度で投与され得る、長時間作用性の持続性製剤からメリットを得る余地があることは明らかである。
【0009】
開発中であることが知られている唯一の長時間作用性のGLP−1製品は、アルケルムス、アミリンおよびリリーによって共同開発されているエクセナチド LARである。これには、生物分解性ポリマーの微小球からなるアルケルムス・メディソルブ(Alkermes Medisorb)(登録商標)送達系が用いられる。放出系は、GLP−1類似体エクセナチドを捕捉する、水に懸濁したポリ(DL−ラクチド)(PDLL)ポリマー微小球製剤を含む。
【0010】
ポリマー微小球製剤は、一般に、典型的には20ゲージまたはそれ以上である相当な太さの針を用いて投与しなければならない。このことが必要とされる原因は、典型的にはポリマー懸濁液である、用いられるポリマー投薬系の性質にある。細い針を通して容易に投与することができ、それによって処置中の患者の不快感を軽減する、均質な溶液、微粒子の分散液、またはL2相といった低粘度の系を提供することが有利であろうことは明白である。タイプ2糖尿病の場合、ほとんどの患者が現在、自己投与体制をとるであろうことから、このように投与が容易であることは特に重要である。2、3日という持続期間を有するが、医療従事者による処置を必要とするほど投与が充分に複雑である持続性製剤を提供することは、1日2回自己投与を行うことに関して全ての患者に有利となるものではないであろうし、より費用がかかると見込まれる。投与のために保健専門家を訪れることを妥当とするほど充分に長い持続期間をもたらす製剤および/または自己投与可能な薬剤を提供し、実際の投与前の、医療従事者または患者の調製時間を削減することは全て重要な問題である。
【0011】
典型的には徐放製剤の分解に使用され、唯一知られたGLP−1持続放出製品に用いられているポリ乳酸、ポリグリコール酸、およびポリ乳酸―グリコール酸共重合体は、少なくとも一部の患者において何らかの過敏反応の原因ともなる。詳細には、これらのポリマーは、典型的には、酢酸不純物をある一定の割合で含有しており、この不純物が投与時に注射部位を刺激する。その後ポリマーが分解される時、乳酸およびグリコール酸が分解物となり、更なる過敏反応が引き起こされる。太い針による投与と刺激性の内容物との複合効果により、投与部位における不快感および結合性瘢痕組織の形成が所望のレベルを超えてしまう。
【0012】
薬物送達の観点から、ポリマーデポー組成物には、一般に、比較的低い薬物負荷だけを許容し、かつ「突発(burst)/遅延」放出プロファイルを有するという欠点がある。ポリマーマトリクスの性質は、とりわけ、溶液またはプレポリマーとして適用される場合、組成物が最初に投与される際に薬物を初期に突発放出させる。この後、低放出期間が続くとともに、マトリクスの分解が始まり、その後、最終的に放出速度が所望の持続プロファイルにまで増加する。この突発/遅延放出プロファイルにより、活性物質のインビボ濃度が投与直後に機能発現枠を超えて突発し、次いで、ある期間、持続機能濃度に達する前の遅延期間において機能発現枠の下限を経て再び低下し得る。機能的および毒物学的観点から、この突発/遅延放出プロファイルは好ましくなく、危険であり得ることは明かである。また、それは、「ピーク」点における有害効果の危険のために、与えられ得る平衡濃度を制限することもある。デポーから得られる活性体の濃度は副次機能的なものであるが、遅延相の存在により、治療用量を維持するために、デポー治療の始動期間中に反復注射による補足的投薬が更に必要になることがある。
【0013】
GLP−1類似体の場合、投与直後の「突発」期間が、対象に低血糖を引き起こすほど顕著でないことが重要であることは明らかである。GLP−1は、この点においてインスリンよりもずっと安全であるが、幾つかのGLP−1類似体に関する臨床試験は、非持続放出製剤について低血糖効果を示しており、製剤が数週間持続するよう設計されている場合、注射される用量は、それに応じて高くなるであろう。従って、GLP−1類似体組成物を投与するとすぐに見られる「突発」効果を最小限にすることは、大いに有利であろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
更に、既存のある特定のデポー系では、PLGAマイクロビーズおよび懸濁液の製造は、大きな困難を伴う。詳細には、ビーズが微粒子状であり、ポリマーが膜を詰まらせることから、これらは、一般に濾過滅菌できず、更に、PLGA共重合体が40℃前後で溶融するため、これらを滅菌のため熱処理することは不可能である。その結果、複雑な製造工程を全て無菌性の高い条件下で行わなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0015】
生物分解性ポリマー微小球の更なる問題点として、送達系および/または活性体の凝集および分解の両方を原因として、注射前の再構成が複雑であること、および保存安定性が限られていることが挙げられる。
【0016】
本発明者らは、ある特定の両親媒性成分と、少なくとも1種のGLP−1類似体と、分子性溶液のような低粘度相の生物学的に許容できる溶媒とを含む前製剤を提供することによって、公知のデポー製剤の欠陥の多くに対処し、GLP−1類似体デポーを提供するのに適用され得る前製剤が生成され得ることを、今回証明した。詳細には、前記前製剤は、製造し易く、濾過滅菌されてもよく、低粘度であり(典型的には、細い針を通して、簡単でより痛みの少ない投与を行うことができ)、高レベルの生物活性物質を取り込むことができ(それにより、潜在的には、使用する組成物の量をより少なくすることができ)、より浅い注射でよく、および/または制御可能な「突発」または「非突発」放出プロファイルを有する所望の非ラメラデポー組成物をインビボで形成する。これら組成物は、また、非毒性で、生物学的に許容可能かつ生物分解性であり、筋肉内注射または皮下注射により投与可能で、自己投与に適した材料から形成される。
【0017】
従って、第1の態様において、本発明は、
a)少なくとも1種の中性ジアシル脂質および/またはトコフェロールと、
b)少なくとも1種のリン脂質と、
c)少なくとも1種の生体適合性の(好ましくは、酸素含有の)有機溶媒と、
d)少なくとも1種のGLP−1類似体と
の低粘度混合物を含む前製剤であって、
水性流体と接触すると、少なくとも1種の液晶相構造を形成するか、または形成することができる前製剤を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
好ましい一実施形態において、この前製剤は、
a)少なくとも1種のジアシルグリセロールと、
b)少なくとも1種のホスファチジルコリンと、
c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒と、
d)少なくとも1種のGLP−1類似体と、
の低粘度混合物を含むであろう前製剤であって、
水性流体と接触すると、少なくとも1種の液晶相構造を形成するか、または形成することができる。
【0019】
一般に、前記水性流体は、特に、血管外液、細胞外液/間質液または血漿である体液であり、前記前製剤は、そのような流体に(例えば、インビボで)接触した場合、液晶相構造を形成するであろう。本発明の前製剤は、一般に、投与前には著しい量の水分を含まないであろう。
【0020】
本発明の第2の態様において、GLP−1類似体のヒトまたは非ヒト動物(好ましくは、哺乳類)体へに送達方法も提供され、この方法は、
a)少なくとも1種の中性ジアシル脂質および/またはトコフェロールと、
b)少なくとも1種のリン脂質と、
c)少なくとも1種の生体適合性の(好ましくは、酸素含有の)有機溶媒と、
d)少なくとも1種のGLP−1類似体と、
の低粘度混合物を含む前製剤を、腸管外的に(例えば、筋肉内注射または、好ましくは、皮下注射で)投与することを含み、
この方法によって、投与後に、水性流体にインビボで接触すると少なくとも1種の液晶相構造が形成される。好ましくは、そのような方法で投与される前記前製剤は、本明細書中に記載の本発明の前製剤である。
【0021】
更なる態様において、本発明は、
a)少なくとも1種の中性ジアシル脂質および/またはトコフェロールと、
b)少なくとも1種のリン脂質と、
c)少なくとも1種の生体適合性の(好ましくは、酸素含有の)有機溶媒と、
d)少なくとも1種のGLP−1類似体と、
の低粘度混合物を含む前製剤を、水性流体にインビボで曝露することを含む液晶デポー組成物を調製するための方法も提供する。
【0022】
好ましくは、投与された前記前製剤は、本明細書中に記載の本発明の前製剤である。
【0023】
本発明のより更なる態様において、生物活性物質を(好ましくは、哺乳類である)対象に投与するのに適した前製剤を形成するためのプロセスであって、当該プロセスが、
a)少なくとも1種の中性ジアシル脂質および/またはトコフェロールと、
b)少なくとも1種のリン脂質と、
c)少なくとも1種の生体適合性の(好ましくは、酸素含有の)有機溶媒と、
の低粘度混合物を形成することと、
少なくとも1種のGLP−1類似体を、前記低粘度混合物、または前記低粘度混合物を形成する前に成分a、bまたはcのうちの少なくとも1つに溶解または分散させることとを含むプロセスを提供する。好ましくは、そのように形成された前記前製剤は、本明細書中に記載の本発明の製剤である。
【0024】
更により更なる態様において、本発明は、
a)少なくとも1種の中性ジアシル脂質および/またはトコフェロールと、
b)少なくとも1種のリン脂質と、
c)少なくとも1種の生体適合性の(好ましくは、酸素含有の)有機溶媒と、
d)少なくとも1種のGLP−1類似体と、
の低粘度混合物の、当該GLP−1類似体の持続的な投与に使用される前製剤の製造における使用であって、当該前製剤が、水性流体と接触すると、少なくとも1種の液晶相構造を形成することができる低粘度混合物の使用を提供する。
【0025】
本発明は、本明細書中に記載のGLP−1類似体組成物の、糖尿病、とりわけ、タイプII糖尿病の治療、または過剰体重および/もしくは肥満の医療上もしくは美容上の治療のための医薬品の製造における使用も提供する。医療上の治療の場合、前記組成物は、典型的には、それを医療上必要とする(例えば、糖尿病、過剰体重または肥満である)対象に投与される。美容上の治療の場合、対象は、それを医療上識別可能に必要としないかもしれないが、例えば、やや体重超過あるいは標準より高い範囲、または標準範囲の肥満度指数を有し、減量によって得られるメリットが、医療上ではなく、主にまたはもっぱら美容上のものである場合がある。
【0026】
より更なる態様において、本発明は、GLP−1類似体を用いて、治療を必要とするヒトまたは非ヒト哺乳類である対象に治療を行うための方法であって、当該方法は、当該対象に
a)少なくとも1種の中性ジアシル脂質および/またはトコフェロールと、
b)少なくとも1種のリン脂質と、
c)少なくとも1種の生体適合性の(好ましくは、酸素含有の)有機溶媒と、
d)少なくとも1種のGLP−1類似体と、
の低粘度混合物を含む前製剤を投与することを含む方法を提供する。
【0027】
好ましくは、前記治療方法は、糖尿病、タイプI糖尿病、タイプII糖尿病、過剰体重および肥満から選択される少なくとも1つの症状を治療するための方法である。
【0028】
本発明は、本明細書中に記載のGLP−1類似体組成物の、とりわけ治療を必要とする対象における投与を含む治療方法を更に提供する。前記治療方法は、特に、糖尿病、とりわけタイプII糖尿病の治療に関するものである。
【0029】
より更なる態様において、本発明は、
a)少なくとも1種の中性ジアシル脂質および/またはトコフェロールと、
b)少なくとも1種のリン脂質と、
c)少なくとも1種の生体適合性の(好ましくは、酸素含有の)有機溶媒と、
d)少なくとも1種のGLP−1類似体と、
のタイプI糖尿病、タイプII糖尿病、過剰体重および/または肥満を治療するためのデポーのインビボでの形成において使用される低粘度前製剤医薬品の製造における使用を提供する。
【0030】
本発明の全ての態様において、成分a)〜c)は、好ましくは、
a)少なくとも1種のジアシルグリセロールおよび/または少なくとも1種のトコフェロール、
b)少なくとも1種のホスファチジルコリン、
c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒、
である。
【0031】
本発明の前製剤は、その最終的な「投与準備完了」形態において、長期保存に対して安定しているという点で極めて有利である。その結果、これらの前製剤は、医療従事者か、または十分に訓練された医療従事者である必要はなく、複雑な薬剤を作るだけの経験またはスキルを有していなくてもよい患者あるいはその介護人の何れかによる投与用に容易に供給され得る。このことは、糖尿病のような、持続期間が長く、効果が遅い疾病に関して特に重要である。
【0032】
より更なる態様において、本発明は、測定用量の本発明の前製剤を予め装填した(デバイス部品も含むべきである)使い捨て投与デバイスを提供する。このようなデバイスは、典型的には、投与のための準備が完了している1回分の用量を含有し、一般に、この組成物が投与時までデバイス内に保存されるように無菌包装されるであろう。好適なデバイスとしては、カートリッジ、アンプル、および、特に、一体型の針または好適な使い捨て針を収容するように適合させた標準的な(例えば、ルアー)取り付け具の何れかを備えた注射器および注射筒が挙げられる。
【0033】
本発明の充填済みデバイスは、投与キットに適切に組み込まれていてもよく、このキットもまた、本発明の更なる態様をなす。よって、より更なる態様において、本発明は、少なくとも1種のGLP−1類似体を投与するためのキットであって、測定用量の本発明の製剤と、任意的に、投与デバイスまたはその部品とを含むキットを提供する。前記用量は、筋肉内投与または好ましくは皮下投与に適するであろうデバイスまたは部品内に保持されることが好ましい。これらキットは、針、スワブ等のような付加的な投与用部品を備えていてもよく、任意的に、かつ好ましくは、投与に関する説明書を備える。このような説明書は、典型的には、本明細書中に記載の経路での、および/または本明細書中で先に示した疾患の治療のための投与に関するものであろう。
【0034】
本発明は、本明細書中に示す充填済み投与デバイスおよび、本明細書中に記載のGLP−1類似体組成物を含む、本明細書中に示すキットを提供する。
【0035】
本発明の代替的な態様において、前記「キット」は、第1容器が本明細書中に記載の成分a)からc)の低粘度混合物を含み、第2容器が測定用量の本明細書中に記載の少なくとも1種のGLP−1類似体を含む、少なくとも2つの容器を備えてもよい。このような「2成分キット」は、GLP−1粉末を1つのバイアルまたは充填済み注射器に、そして成分a)からc)の脂質製剤を2つ目のバイアルまたは充填済み注射器に含んでもよい。2つの注射器を備える場合、注射前に、これら充填済み注射器を結合し、注射筒を前後に動かすことによって、GLP−1粉末を脂質製剤と混合して、注射されるGLP−1懸濁液を形成する。代替的に、液体脂質製剤(a)からc))は、1つのバイアルから取り出すか、注射器に予め充填して、GLP−1粉末を含むバイアル内に注入する。この製剤を、その後、手で振ることによって、または他の好適な再構成法(例えば、ボルテックス(渦)混合等)によって混合してもよい。
【0036】
従って、この態様において、本発明は、
i)本明細書中に記載の成分a)からc)の低粘度混合物を含む第1容器と、
ii)少なくとも1種のGLP−1類似体を含む第2容器と、
iii)任意的に、かつ好ましくは、
1)(当該第1および第2容器の1つまたは両方であってもよい)少なくとも1つの注射器と、
2)本明細書中に記載のもののような投与用針と、
3)前記第1および第2容器の内容物から本発明の組成物を生成することに関する説明書と、
4)本明細書中に記載のデポーを形成するための、投与に関する説明書
のうちの少なくとも1つとを
含む2成分キットを提供する。
【0037】
本発明の製剤は、投与後に非ラメラ液晶相を作り出す。生物活性物質の送達における(液晶相のような)非ラメラ相構造の使用が、現在では比較的よく確立されている。そのような構造は、両親媒性物質が、集まって極性および無極性領域を形成する極性および無極性基の両方を有することから、両親媒性化合物が溶媒に曝露される時に形成される。これらの領域は、極性および無極性化合物の両方を効果的に可溶化することができる。更に、極性および/または無極性溶媒において両親媒性物質によって形成される構造の多くは、その他の両親媒性化合物が吸収され、安定化され得る非常に広大な極性/無極性境界領域を有する。両親媒性物質は、酵素を含む侵攻性の生物学的環境から、活性物質を少なくともある程度保護し、それによって、活性物質の安定性および放出に対して有利な制御をもたらすように調合することもできる。
【0038】
両親媒性物質/水、両親媒性物質/油、および両親媒性物質/油/水の相図における非ラメラ領域の形成はよく知られた現象である。このような相としては、分子レベルでは流体であるが顕著な長距離秩序を示すキュービックP相、キュービックD相、キュービックG相およびヘキサゴナル相のような液晶相、ならびに非ラメラであるが液晶相の長距離秩序が無い二分子層シートの多重相互結合両連続ネットワークを含むL3相が挙げられる。これらの相は、前記両親媒性シートの曲率に応じて、正(非極性領域に向かう平均曲率)または逆(極性領域に向かう平均曲率)と説明されてもよい。
【0039】
前記非ラメラ液晶相およびL3相は、熱力学的に安定な系である。すなわち、これらは単に、層、ラメラ相等に分離および/または改質されるであろうメタ安定状態なのではなく、脂質/溶媒混合物の安定な熱力学的形態なのである。
【0040】
バルク液晶相は一般に高粘度であるため、本発明の前製剤は、投与前に液晶でないことが重要である。よって、前記前製剤は、投与されると相変化を起こして液晶塊(liquid crystalline mass)を形成する低粘度非液晶製剤である。低粘度混合物の特に好ましい例は、分子性溶液ならびに/または、L2相および/もしくはL3相のような等方相である。上記の通り、L3は、何らかの相構造を有してはいるものの、液晶相の長距離秩序を欠く相互結合シートの非ラメラ相である。一般に高粘度である液晶相とは異なり、L3相は、より低い粘度を有している。L3相および分子性溶液、および/または1つ以上の成分からなるバルク分子性溶液に懸濁したL3相の粒子の混合物もまた好適であることは明らかである。L2相は、いわゆる「逆ミセル」相またはマイクロエマルジョンである。最も好ましい低粘度混合物は、分子性溶液、L3相、およびそれらの混合物である。L2相は、以下に記載する膨潤L2相の場合を除き、好適性が劣る。
【0041】
本明細書中で使用される「低粘度混合物」という用語は、対象に容易に投与され得る混合物、および詳細には、標準的な注射器および針からなる装置によって容易に投与される混合物を示すのに使用されている。これは、例えば、1mlの使い捨て注射器からゲージの小さい針を通して供給される能力で表してもよい。低粘度混合物は、19awgの針、好ましくは19ゲージよりも細い針、より好ましくは23awg(または、最も好ましくは更に27ゲージ)の針を通して、指圧によって供給可能であることが好ましい。特に好ましい実施形態において、低粘度混合物は、0.22μmのシリンジフィルター等の標準的な滅菌濾過膜を通過できる混合物とすべきである。好適な粘度の典型的な範囲は、例えば、20℃で0.1から5000mPas、好ましくは1から1000mPasである。
【0042】
本明細書中に示す低粘度溶媒を少量添加することにより、極めて顕著な粘度の変化をもたらすことができることが観察されている。例えば、わずか5%の溶媒を脂質混合物に添加するだけで、粘度を100分の1に低下させることができ、10%の溶媒の添加で、粘度が10,000分の1にまで低下する場合がある。この非線形の相乗効果を達成するために、粘度を低下させるにあたり、適度に低粘度で、かつ好適な極性を有する溶媒を採用することが重要である。このような溶媒には、本明細書中で以下に挙げるものが含まれる。
【0043】
本発明は、本明細書中に示す成分a、b、c、および少なくとも1種のGLP−1類似体を含む前製剤を提供する。これらの成分の量は、典型的には、a)を30〜70%、b)を30〜60%、およびc)を0.1〜20%の範囲とし、GLP−1類似体を0.01%から10%存在させる(例えば、a)を40〜70%、b)を30〜60%、およびc)を0.1〜10%とし、GLP−1類似体を0.1%から10%存在させる)。本明細書全体を通して、%は、特に指定のない限り、何れも重量%である。これら製剤は、実質的にこれらの成分のみで構成されていてもよく、一態様においては、完全にこのような成分のみで構成されている。成分a)の好ましい範囲は33〜60%(例えば、43〜60%)、特に35〜55%(例えば、45〜55%)であり、成分b)の好ましい範囲は33〜55%(例えば、35〜55%)、特に35〜50%(例えば、40から50%)である。
【0044】
a:bの比率は、典型的には40:60から70:30、好ましくは45:55から60:40、およびより好ましくは48:52から55:45である。50:50程度の比率が極めて効果的である。
【0045】
前製剤における溶媒成分c)の量は、いくつかの特徴に多大な影響を与えるであろう。詳細には、粘度および放出の速度(および持続時間)が、溶媒レベルに伴い著しく変化するであろう。よって、溶媒の量は、少なくとも低粘度混合物を供給するのに充分な量とするが、これに加えて、所望の放出速度が得られるように決定されるであろう。これは、以下に挙げる実施例に鑑みた日常的に使用される方法で決定してもよい。典型的には、0.1から20%のレベル、特に0.1から10%の溶媒とすれば、好適な放出および粘度特性が得られるであろう。これは好ましくは2から15%(例えば、2から8%)であり、5%前後の量が極めて効果的である。
【0046】
前記製剤中の溶媒の割合を用いて、ある特定の活性物質の放出の最初の2、3日間における放出プロファイルを「調整」することができるということは、本発明者らによる目覚しい発見である。詳細には、適切な活性体を用いた場合、本発明の製剤は全て驚くほど低い「突発/遅延」効果を有し(実際、遅延期間が全くないこともある)、注射から2、3日(例えば、5日、好ましくは3日、より好ましくは1日)以内にプラトー放出レベルに達するが、最初の1〜2日間に活性物質の制御「突発」/初期放出が必要とされる場合には、先に挙げた範囲の上部にまで溶媒の割合を高めることによって、これを達成することができる。これに対し、前記範囲の中間から下部では、実質的に突発がなく、迅速にプラトー放出レベルにまで低下するデポーをもたらす製剤が提供される。当業者は、この「調整」が適している活性体を難なく識別するであろう。特に、前記前製剤に溶解して均質な溶液を形成することができる活性体が、分散する活性体が一般に効果が劣るのに対して、典型的には非常に好適である。
【0047】
従って、一実施形態において、本発明は、成分c)を0.1から6wt%前後含有し、投与後初期の活性化合物の放出が少ない(「非突発プロファイル」)製剤およびデポーを提供する。代替的な実施形態において、本発明は、成分c)を6.5から10wt%前後含有し、投与後初期の活性化合物の初期放出が多い(「突発プロファイル」)製剤およびデポーを提供する。
【0048】
本発明のある特定の実施形態において、より高い割合の水分が許容され得る。この場合、水分は、付加的な水混和性成分c(単一溶媒または混合物)と組み合わせた溶媒成分の一部として存在する。この実施形態においては、少なくとも3wt%、好ましくは少なくとも5%、およびより好ましくは少なくとも7wt%の成分cも存在し、成分cが水混和性であり、かつ得られる前製剤が非粘性であるため、液晶相を構成しない場合、20%まで、好ましくは10wt%までの水分が存在していてもよい。一般に、有機溶媒成分c)と水分との重量比は、20:80から80:20の間、好ましくは30:70から70:30の間、およびより好ましくは35:65から65:35の間であろう。一実施形態において、この割合として少なくとも溶媒が50%である。本発明のこの態様において、水分と共に用いられる最も好適な溶媒としては、エタノール、イソプロピルアルコール、NMP、アセトンおよび酢酸エチルが挙げられる。
【0049】
活性物質の初期放出が少ない(「非突発プロファイル」)とは、最初の24時間における時間に対する血漿中濃度の曲線下面積が、曲線全体における曲線下面積(時間0から無限大または時間0から最終のサンプリング時点までを測定または推定)の15%未満、より好ましくは10%未満、および最も好ましくは7%未満であることと定義される。更に、48時間以内、より好ましくは24時間以内、および最も好ましくは12時間以内にプラトーに達するように、初期ピーク後のプラトー血漿中濃度レベルまでの低下は迅速に起こるべきである。逆に、初期放出が多い(「突発プロファイル」)とは、15%を超える活性物質が24時間以内に放出されること、およびより好ましくは20%を超える活性物質が最初の24時間で放出されることである。プラトーへの低下は、36時間後まで、より好ましくは48時間後まで、および最も好ましくは72時間後まで起こらないであろう。これらのプロファイルのそれぞれが、活性物質の血漿中濃度の「プラトー」レベルへの迅速な安定を伴っていることが好ましい。例えば、10日後の血漿中濃度は、5日目から20日目の平均濃度より50%を超えて上回るかまたは下回るべきではない。これは、30%以下、およびより好ましくは20%以下であることが好ましいであろう。
【0050】
先に示したように、本発明の前製剤における成分cの量は、少なくとも、成分a、bおよびcから成る低粘度混合物(例えば、分子性溶液、上記参照)を提供する上で充分な量とされ、如何なる特定の成分の組み合わせに関しても、標準的な方法で容易に決定されるであろう。偏光顕微鏡法、核磁気共鳴、および低温透過型電子顕微鏡法(cryo−TEM)と組み合わせた目視観察で溶液、L2相もしくはL3相、または液晶相、または低温透過型電子顕微鏡法におけるように、そのような相の分散した断片を調べる等の技術により、相挙動そのものを分析してもよい。標準的な手段により、粘度を直接測定してもよい。上記の通り、実用上適切な粘度は、効果的に注射可能な、特に濾過滅菌可能な粘度である。これは、本明細書中で示されているように、容易に評価されるであろう。
【0051】
本明細書中で示されている成分「a」は、少なくとも1種のジアシルグリセロール(DAG)であり、よって、2つの非極性「尾部」基を有する。これら2つの非極性基は、同一または異なる数の炭素原子を有していてもよく、それぞれ独立して飽和または不飽和であってもよい。非極性基の例としては、C6〜C32アルキルおよびアルケニル基が挙げられるが、これらは典型的には、長鎖カルボン酸のエステルとして存在する。これらはしばしば、炭素鎖における炭素原子数および不飽和数に言及して説明される。従って、CX:Zは、炭素原子数がXであり不飽和数がZである炭化水素鎖を示す。例としては、特に、カプロイル(C6:0)基、カプリロイル(C8:0)基、カプリル(C10:0)基、ラウロイル(C12:0)基、ミリストイル(C14:0)基、パルミトイル(C16:0)基、フィタノイル(C16:0)基、パルミトレオイル(C16:1)基、ステアロイル(C18:0)基、オレオイル(C18:1)基、エライドイル(C18:1)基、リノレオイル(C18:2)基、リノレノイル(C18:3)基、アラキドノイル(C20:4)基、ベヘノイル(C22:0)基、およびリグノセロイル(C24:9)基が挙げられる。従って、典型的な非極性鎖は、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、フィタン酸、パルミトレイン酸(palmitolic)、ステアリン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、もしくはリグノセリン酸、またはこれらに対応するアルコールを含む、天然エステル脂質の脂肪酸をベースとするものである。好ましい非極性鎖は、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、およびリノール酸であり、特にオレイン酸である。
【0052】
任意の数のジアシル脂質の混合物を、成分aとして使用してもよい。好ましくは、この成分が、グリセロールジオレアート(GDO)の少なくとも一部を含むであろう。極めて好ましい例は、GDOを少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、および更には実質的に100%含むDAGである。
【0053】
GDOおよびその他のジアシルグリセロールは天然源由来の生成物であるため、その他の鎖長等を有する「混入物質」としての脂質がある一定の割合で一般に存在する。よって、一態様において、本明細書中で使用されるGDOは、付随する不純物を含む商業用等級のGDO(すなわち、商業純度のGDO)を示すのに使用されている。これらの不純物を精製により分離除去してもよいが、この等級に該当すれば、このような処理はほとんど必要ない。しかしながら、必要であれば、「GDO」は、少なくとも80%が純粋なGDO、好ましくは少なくとも85%が純粋なGDO、およびより好ましくは少なくとも90%が純粋なGDO等、実質的に化学的に純粋なGDOであってもよい。
【0054】
本発明における成分「b」は、少なくとも1種のホスファチジルコリン(PC)である。成分aと同様に、この成分は、極性の頭部基と、少なくとも1つの非極性の尾部基とを含む。成分aと成分bとの違いは、主に極性基にある。よって、成分aに関して上記に考察した脂肪酸または対応するアルコールから、非極性部を適切に生じさせてもよい。成分a)と同様に、PCは2つの非極性基を含むであろう。
【0055】
ホスファチジルコリン部は、如何なるジアシルグリセロール部よりも好適に、天然源から派生し得る。好適なリン脂質源としては、卵、心臓(例えば、ウシの)、脳、肝臓(例えば、ウシの)、および大豆を含む植物源が挙げられる。このような材料源は、成分bの構成成分を1つ以上提供してもよいが、この構成成分は、リン脂質の如何なる混合物を含んでいてもよい。これらまたはその他の材料源から生じた如何なる単一のPCまたは複数のPCの混合物を使用してもよいが、大豆PCまたは卵PCを含む混合物が極めて好適である。このPC成分は、少なくとも50%の大豆PCまたは卵PC、より好ましくは少なくとも75%の大豆PCまたは卵PC、および最も好ましくは実質的に純粋な大豆PCまたは卵PCを含むことが好ましい。
【0056】
本発明の前製剤は、GLP−1類似体活性物質の制御放出を目的として対象に投与されるものであるため、前記成分が生体適合性であることが重要である。この点において、本発明の前製剤は、PCおよびDAGの何れもが良好に許容され、インビボにて哺乳類の身体に元来存在する成分へと分解されるため、極めて有利である。
【0057】
成分aおよびbの特に好ましい組み合わせは、GDOとPC、特にGDOと大豆PCの組み合わせである。
【0058】
本発明の前製剤の成分「c」は、酸素を含有する有機溶媒である。前記前製剤は、(例えば、インビボでの)投与後、水性流体との接触によりデポー組成物を生成するものであるため、この溶媒は、対象にとって許容可能なものであり、前記水性流体と混合可能であり、および/または前記前製剤から前記水性流体中に拡散もしくは溶解可能であることが望ましい。よって、少なくとも中程度の水溶性を有する溶媒が好ましい。
【0059】
好ましいバージョンでは、前記溶媒は、aおよびbを含む前記組成物に比較的少量、すなわち、好ましくは10%未満を添加した場合に、一桁以上の大幅な粘度低下をもたらす。本明細書中に記載のように、10%の溶媒の添加により、溶媒を含まない組成物に対し、その組成物が、溶媒を含まないか、もしくは水等の不適切な溶媒を含むか、もしくはグリセロールを含む溶液またはL2相であったとしても、2桁、3桁、または4桁も粘度を低下させることができる。
【0060】
成分cとしての使用に適した典型的な溶媒としては、アルコール類、ケトン類、エステル類(ラクトン類を含む)、エーテル類、アミド類、およびスルホキシド類から選択される少なくとも1種の溶媒が挙げられる。アルコール類が特に好適であり、好適な溶媒群を形成する。好適なアルコール類の例としては、エタノール、イソプロパノール、ベンジルアルコールおよびグリセロールホルマールが挙げられる。エタノールが最も好ましい。ジオールおよびポリオールよりも、モノオールのほうが好ましい。ジオールまたはポリオールを使用する場合、少なくとも等量のモノオールまたは他の好ましい溶媒と併用することが好ましい。ケトン類の例としては、アセトンおよび炭酸プロピレンが挙げられる。好適なエーテル類としては、ジエチルエーテル、グリコフロール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジメチルイソバーバイド(dimethylisobarbide)、およびポリエチレングリコールが挙げられる。好適なエステル類としては、酢酸エチル、安息香酸ベンジルおよび酢酸イソプロピルが挙げられ、硫化ジメチルは、好適な硫化物溶媒である。好適なアミド類としては、n−メチルピロリドン(NMP)、2−ピロリドンおよびジメチルアセトアミド(DMA)が挙げられる。スルホキシド類としては、メチルスルホキシドおよびジメチルスルホキシド(DMSO)が挙げられる。
【0061】
極めて好ましい組み合わせは、大豆PCと、GDOと、エタノールの組み合わせである。
【0062】
ほとんどまたは全ての成分cが、ハロゲン置換された炭化水素を含有しないことが好ましい。なぜなら、このような成分cは、生体適合性が低くなる傾向があるからである。ジクロロメタンまたはクロロホルム等のハロゲン化溶媒が一部必要である場合、この割合は、通常、最小限とされるであろう。
【0063】
本明細書中で使用される成分cは、単一の溶媒であってもよいし、または複数の好適な溶媒の混合物であってもよいが、一般に、低粘度とされるであろう。本発明の主たる態様の一つは低粘度の前製剤を提供することであり、好適な溶媒の主な役割はこの粘度を低下させることであるため、このことは重要である。この低下は、溶媒のより低い粘度による効果と、溶媒と脂質組成物間の分子間相互作用による効果の組み合わせの結果であろう。本発明者らによる観察結果の一つは、本明細書中に記載の低粘度の酸素含有溶媒は、組成物の脂質部分との間に極めて有利かつ予期しなかった分子間相互作用を引き起こし、これにより、少容量の溶媒の添加によって非線形の粘度低下をもたらすというものである。
【0064】
「低粘度」溶媒成分c(単一の溶媒または混合物)の粘度は、典型的には、20℃で18mPas以下とすべきである。この粘度は、好ましくは20℃で15mPas以下であり、より好ましくは10mPas以下、および最も好ましくは7mPas以下である。
【0065】
本発明の前製剤の更なる利点は、生物活性物質がより高レベルで系に取り込まれ得るということである。詳細には、成分a〜c(とりわけc)を適切に選択することにより、高レベルの活性物質が前製剤に溶解または懸濁し得る。これにより、投与容量を低減し、それによって対象の不快感を緩和することができる。
【0066】
本発明の前製剤は、典型的には、著しい量の水分を含有しない。脂質組成物から微量の水分を全て除去することは実質的に不可能であるため、これは、容易に除去できない最低限の微量の水分のみが存在することを意味すると解釈されるべきある。このような量は、一般に、前製剤の1重量%未満、好ましくは0.5重量%未満であろう。好ましい一態様において、本発明の前製剤は、グリセロール、エチレングリコール、またはプロピレングリコールを含有せず、直前に述べたように、水分は微量しか含有しない。
【0067】
本発明の前製剤は、1種以上のGLP−1類似体または他の活性体(以下参照)(本明細書中では、全ての「活性物質」という記載がこれを指すものである)を含有する。GLP−1はペプチドホルモンであるため、典型的なGLP−1類似体は、とりわけ30個前後、例えば20から45個、とりわけ25から38個のアミノ酸で構成されるペプチドであろう。好ましくは、このようなペプチドは、GLP−1および/または本明細書中で挙げるものを含む1種以上の公知の類似体に構造上、関連するであろう。ペプチドは、遺伝コードに示された20個のα−アミノ酸から選択されるアミノ酸のみを含有してもよいし、あるいは、より好ましくは、これらのアミノ酸の異性体およびその他の天然および非天然アミノ酸(一般に、α、β、またはγ−アミノ酸)、ならびにその類似体および誘導体を含有してもよい。好ましいアミノ酸には、公知のGLP−1類似体の構成成分として上記に挙げたものが含まれる。
【0068】
アミノ酸誘導体は、ペプチドの末端にとりわけ有用であり、ペプチドの末端において、末端のアミノ基またはカルボキシレート基は、ヒドロキシ基、アルコキシ基、カルボキシ基、エステル基、アミド基、チオ基、アミド基、アミノ基、アルキルアミノ基、ジまたはトリアルキルアミノ基、アルキル基(本明細書全体を通して、C1〜C12アルキル基、好ましくはC1〜C6アルキル基、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソ、sec−、またはt−ブチル基等を意味する)、アリール基(例えば、フェニル基、ベンジル基、ナフチル(napthyl)基等)、またはヘテロ原子を少なくとも1つ有していることが好ましく、かつ原子の合計が10以下、より好ましくは6以下であることが好ましいその他の官能基のような、他のあらゆる官能基によって、またはそれで置換されていてもよい。
【0069】
本明細書中で使用される「GLP−1類似体」は、ヒトまたはその他のあらゆる生物種由来の何れかの、GLP−1の天然に産出する形態を含む、あらゆるGLP−1受容体アゴニスト(またはより好ましさに欠ける、アンタゴニスト)を示す。これらの類似体は、好ましくは、ペプチド、ペプチド誘導体または模倣体である。先に示したもののようなペプチド由来のGLP−1アゴニストが最も好ましく、とりわけ、GLP−1(7−37)、GLP−1(7−36)アミド、リラグルチド、AVE−010(ZP10)、TH0318およびエクセナチドが最も好ましい。
【0070】
典型的な一実施形態において、GLP−1類似体は、一般に、製剤全体の0.02から12重量%になるように調合されるであろう。典型的な値としては、0.1から10%、好ましくは0.2から8%、およびより好ましくは0.5〜6%であろう。1〜5%前後のGLP−1類似体の含有量が最も好ましい。
【0071】
関連する実施形態において、GLP−1類似体は、一般に、製剤全体の0.01から12重量%となるように調合されるであろう。典型的な値としては、0.05から10%、好ましくは0.1から8%、およびより好ましくは0.2から6%であろう。0.3〜5%前後のGLP−1類似体の含有量が最も好ましい。
【0072】
前記製剤に含有させるのに適したGLP−1類似体の用量および、かくして使用される製剤の容量は、所望の治療レベル、特異的な作用物質の活性、および選択された特定の活性体のクリアランス速度にはもちろん、(例えば、溶媒のタイプおよび使用量によって制御される)放出速度および放出持続期間に左右されるであろう。典型的には、1から24週間、好ましくは2から16(例えば12)週間の持続期間に対し、デポー持続期間1週間当たり0.05から10mg前後、好ましくは1週間の持続期間当たり0.1から8mgの量である。7から168日までの間の治療レベルをもたらすには、1用量当たり0.05から250mgの合計用量が適切であろう。これは、好ましくは、0.1から192mg、例えば、0.2から160mg、0.1から1.6mg、20から160mg等である。活性体の安定性および放出速度の線形性により、装填と持続期間とが線形関係にない場合がもたらされるであろうことは明らかである。30日ごとに投与されるデポーは、例えば0.2から20mg、または90日ごとのデポーは60から120mgの、本明細書中で示すGLP−1類似体の1種のような活性体を有する場合がある。特異的な活性体の生物学的半減期が特に重要であろうことも明らかである。1種の好ましい活性体である未変性ヒトGLP−1(GLP−1(7−37)およびGLP−1(7−36)アミド)の半減期は5分未満であり、そのため、持続的な放出のためには、比較的大きな(例えば、前記範囲の高端に向かう)量が必要となるであろう。半減期がずっと長いエクセナチドのような類似体に関しては、必要な量はより少ないことが明らかであろう。
【0073】
未変性ヒトGLP−1(GLP−1(7−37)およびGLP−1(7−36)アミド)が本発明のデポー前駆体において調製され、投与されることができ、この活性物質の生物学的半減期が驚くほど短いにもかかわらず、数日間または更に何週間という制御放出をもたらすであろうことは、本製剤の注目に値する成果である。半減期が短い活性体のこのような高い送達性能は他では知られておらず、未変性ヒトGLP−1の持続放出を可能にする脂質デポー系は他に報告されていない。従って、一実施形態において、活性物質は1時間未満、例えば、(GLP−1(7−37)のように)15分未満の半減期を有し、前製剤は、少なくとも7日間、好ましくは少なくとも14日間、より好ましくは少なくとも28日間の持続放出をもたらすデポーを形成する。
【0074】
本発明の特定の好ましい一実施形態において、組成物(前製剤および得られるデポー)は、PEGグラフト脂質および/または界面活性剤のような、少なくとも1種の生体適合性のポリエチレンオキシドまたはポリエチレングリコール(PEG)断片化剤を含んでもよい。これらの剤は、全ての組成物において有用であり、低濃度であってもGLP−1類似体の安定性を高めると考えられている。特に有利な実施形態においては、しかし、これらはより短い持続期間(例えば、5から30日間、とりわけ7から21日間)を有するデポーを提供するのに極めて有用であり得る。これは、そのような成分が、デポーをin situでより小さな断片にする傾向があり、それによって、そのデポーが生物分解のみならず「物理的な」侵食によって分解し、そのため、より速い(しかし、それでも著しい突発放出は起こらない)放出を可能にするであろうことによる。
【0075】
製剤に含有される場合、そのような断片化剤成分の含有量は、0.1〜20%、より好ましくは0.5〜18%、および最も好ましくは1〜15%であろう。特に、0.1から1%(好ましくは0.2から0.7%)であれば、GLP−1類似体を安定化させるのに特に有用であり、1から15%、好ましくは5から10%であれば、デポー放出期間を制御するの有益である。断片化剤を含有する別の利点は、そのことが長期的使用の観点から有益であり得るということである。GLP−1類似体デポー製品の使用者は、典型的には、長期間にわたって使用者になると見込まれ、そのようなデポーは、侵食がより速く、そのため、注射部位からより速く消散し、その部位の再生を早めることができ、注射部位周辺の結合組織形成を弱める。また、そのような剤を含有することは、既に良好な生物許容性/生体適合性を更に向上させ得る。
【0076】
最も好ましい断片化剤は、ポリソルベート(Polysorbate)80(P80)である。その他の有用な剤には、その他のポリソルベート類(例えば、ポリソルベート20)、PEG化リン脂質類(DSPE−PEG(2000)、DSPE−PEG(5000)、DOPE−PEG(2000)およびDOPE―PEG(5000)のようなPEG脂質類)、ソルトール(Solutol)HS 15、PEG化脂肪酸類(例えば、PEGオレアート)、プルロニック(Pluronic)(登録商標)F127およびプルロニック(登録商標)F68のようなブロック共重合体類、エトキシ化ヒマシ油誘導体類(例えば、クレモフォール(Chremophores))、PEG化グリセリル脂肪酸エステル類(例えば、日光ケミカルズ株式会社製TMGO−15)およびPEG化トコフェロール類(例えば、イーストマン(Eastman)製ビタミン(Vitamin)E TPGSとして知られるd−アルファトコフェリルポリ(エチレングリコール)1000スクシナート)が含まれる。
【0077】
脂質製剤に溶解したGLP−1はもちろん、(例えば、本発明のキットにおける)粉末としてのGLP−1は、ある特定の安定化添加剤によって安定性(保存およびインビボ安定性の両方)を得てもよい。そのような添加剤としては、糖類(例えば、スクロース、トレハロース、ラクトース等)、ポリマー類(例えば、カルボキシメチルセルロースのようなポリオール類)、少量の表面活性剤類(例えば、P80、上記参照)、酸化防止剤類(例えば、アスコルビン酸、EDTAおよびクエン酸)、アミノ酸類(例えば、メチオニン、グルタメート、リジン等)およびアニオン脂質類と表面活性剤類(例えば、ジオレオイルホスファチジルグリセロール(DOPG)、パルミトイルオレオイルホスファチジルグリセロール(POPG)およびオレイン酸(OA))が挙げられる。
【0078】
本発明の前製剤は、腸管外投与用に調合される。この投与は、一般に、血管内へ投与する方法ではなく、好ましくは皮下、腔内、または筋肉内投与であろう。典型的には、投与は注射によって行われるであろうが、この用語は、本明細書中では、針、カテーテル、または無針(針のない)注入器等による、製剤が皮膚を通過するようにするあらゆる方法を示すのに使用されている。
【0079】
好ましい腸管外投与は、筋肉内注射または皮下注射によって行われ、深部皮下注射によって行われることが最も好ましい。本発明の組成物の重要な特徴は、それが、筋肉内投与および皮下投与、ならびにその他の毒性または著しい局所効果がない経路の両方によって投与可能であることである。このことは、腔内投与に関しても好適である。深部皮下注射は、現在のデポーの幾つかに用いられている(深部)筋肉内注射よりも、深さが浅く、対象にとって痛みが少ないという利点を有し、注射が容易になると共に、局所的副作用の危険性が少ないことから、技術的には、本件において最も好適である。これらの製剤が、皮下注射および筋肉内注射の両方によって予測可能な期間にわたって活性物質の持続的放出をもたらすということは、本発明者らによる驚くべき観察結果である。従って、これにより、注射部位を広範に多様化することができ、注射部位における組織深さを詳細に考慮せずして用量投与を行うことができる。
【0080】
本発明の前製剤は、とりわけインビボで水性流体に曝露されると、非ラメラ液晶デポー組成物を提供する。本明細書中で使用される「非ラメラ」という用語は、正もしくは逆の液晶相(キュービック相もしくはヘキサゴナル相等)またはL3相、あるいはこれらのあらゆる組み合わせを示すのに使用されている。液晶という用語は、全てのヘキサゴナル液晶相、全てのキュービック液晶相および/またはこれらの全ての混合物を示す。本明細書中で使用されるヘキサゴナルは、「正」または「逆」のヘキサゴナル(好ましくは逆)を示し、「キュービック」は、特に指定のない限り、あらゆるキュービック液晶相を示す。
【0081】
多くの脂質の組み合わせに関しては、ある特定の非ラメラ相のみが存在するか、またはあらゆる安定した状態で存在する。本明細書中に記載の組成物が、その他の成分の組み合わせの多くにおいては存在しない非ラメラ相を高い頻度で示すということは、本発明の驚くべき特徴である。従って、特に有利な一実施形態では、本発明は、水性溶媒で希釈された場合にI2相および/またはL2相領域を存在させる成分の組み合わせを有する組成物に関する。このような領域の有無は、如何なる特定の組み合わせに関しても、組成物を単に水性溶媒で希釈し、この結果生じた相構造を本明細書中に記載の方法で観察することにより、簡単に試験できる。
【0082】
極めて有利な実施形態において、本発明の組成物は、水分との接触によりI2相、また
はI2相を含む混合相を形成してもよい。I2相は、不連続な水性領域を有する逆キュービック液晶相である。この相は、活性物質の制御放出に特に有利であり、とりわけ水溶性活性体等の極性活性物質と組み合わせた場合に特に有利である。これは、不連続な極性ドメインが、前記活性体の迅速な拡散を防止するからである。L2におけるデポー前駆体は、I2相デポー構成物との併用が極めて効果的である。これは、L2相が、分離した極性コアを取り囲む連続的な疎水性領域を有するいわゆる「逆ミセル」相であるからである。よって、L2は、親水性の活性体と同様の利点を有する。
【0083】
体液と接触後の過渡段階において、組成物は複数の相を含むことができるが、これは、とりわけかなりの規模で内部デポーを投与した場合、初期表面相の形成により、デポーのコアへの溶媒の透過が遅延されるであろうからである。理論にとらわれることなく、この表面相、とりわけ液晶表面相の過渡形成は、組成物とその周囲との間の交換速度を即座に制限することにより、本発明の組成物の「突発/遅延」プロファイルを劇的に低減するように働くものと考えられる。過渡相は、(一般に、外側からデポーの中心に向かって順に)HIIまたはLα、I2、L2、および流体(溶液)を含んでいてもよい。本発明の組成物は、生理的温度の水分との接触後に、これらの相のうち少なくとも2つ、およびより好ましくは少なくとも3つ、過渡段階で同時に形成可能であることが極めて好ましい。特に、少なくとも過渡的に形成されるこれらの相の1つがI2相であることが極めて好ましい。更に重要な組み合わせは、相HII、相L2および流体(溶液または分散液)の組み合わせであり、これは(本発明のある特定の有利な組成物)を体液に(最も外側とするHIIから最も内側とする流体へ)暴露後に共存するであろう非常に有利な組み合わせである。当業者である読み手は、本明細書中の記載および実施例を参照して、この要件に適合する組成物を難なく識別するであろうが、この挙動に関して最も有利な組成領域では、成分比率(ration)a:bが均等領域(例えば、35:65から65:35程度、好ましくは42:58から58:42、最も好ましくは46:54から54:46)にある。
【0084】
本発明の前製剤が低粘度であることを理解することは重要である。その結果、これらの前製剤は、バルク液晶相であってはならない。なぜなら、液晶相は全て、注射器またはスプレーディスペンサーで投与可能な粘度よりもはるかに高い粘度を有するからである。よって、本発明の前製剤は、溶液、L2相またはL3相、特に、溶液またはL2のような非液晶状態にあるであろう。本明細書全体を通して使用されるL2相は、好ましくは、10wt%を超える粘度低下効果を有する溶媒(成分c)を含有する「膨潤」L2相である。これは、溶媒を含有しないか、より少量の溶媒を含有するか、または本明細書中に明記する酸素含有低粘度溶媒に付随する粘度低下をもたらさない溶媒(または混合物)を含有する、「濃縮」または「非膨潤」L2相とは対照的である。
【0085】
本発明の前製剤は、投与されると、低粘度混合物から高粘度(一般に、組織付着性)デポー組成物へと相構造転移する。一般に、これは、分子混合物、膨潤L2および/またはL3相から、正もしくは逆ヘキサゴナルもしくはキュービック液晶相またはこれらの混合物等の1種以上の(高粘度)液晶相への転移であろう。先に示したように、投与後に、更なる相転移が起こってもよい。本発明が機能する上で、完全な相転移を必要としないことは明らかであるが、投与された混合物の少なくとも表面層が液晶構造を形成するであろう。この転移は一般に、投与された製剤の少なくとも表面領域(空気、体表面および/または体液と直接接触している部分)に関しては迅速であろう。これは、2、3秒または2、3分(例えば、最高30分、好ましくは最高10分、より好ましくは5分以下)で生じることが最も好ましいであろう。前記組成物の残部は、拡散によって、および/または表面領域が分散するにつれて、よりゆっくりと液晶相に相変化してもよい。
【0086】
よって、好ましい一実施形態において、本発明は、水性流体との接触により、少なくともその一部がヘキサゴナル液晶相を形成する、本明細書中に記載の前製剤を提供する。このように形成されたヘキサゴナル相は、徐々に分散および/または分解して活性物質を放出してもよいし、または引き続きキュービック液晶相へと変化し、次いでこのキュービック液晶相が徐々に分散してもよい。
【0087】
理論にとらわれることなく、本発明の前製剤は、(例えば、体液への)曝露により、含有する有機溶媒の一部または全部を(例えば、拡散によって)喪失すると共に、身体的環境(例えば、インビボ環境)から水性流体を取り込み、これにより、前記製剤の少なくとも一部分が非ラメラ、特に液晶相構造を生成すると考えられる。ほとんどの場合、これらの非ラメラ構造は高粘性であり、インビボ環境に容易に溶解または分散されない。この結果、限られた領域のみが体液に曝露され、モノリシック「デポー」がインビボで生成される。また、非ラメラ構造は大きな極性、非極性、および境界領域を有しているため、ペプチド等の活性物質を可溶化および安定化し、これらを劣化メカニズムから保護する上で極めて効果的である。前製剤から形成されたデポー組成物が何日間、何週間、または何ヶ月間にわたって徐々に分解されるに従い、前記組成物から活性物質が徐々に放出および/または拡散される。デポー組成物内の環境は比較的保護されているため、本発明の前製剤は、比較的短い生物学的半減期を有する活性物質(上記参照)に極めて好適である。
【0088】
本発明の製剤により形成されるデポー系は、活性物質を劣化から保護する上で極めて効果的であり、よって放出期間の延長を可能にする。公知のPLGA徐放製品と、GDO、大豆PC、エタノール、および活性物質を含有する本発明の製剤との間で、比較試験を行った。これらの試験により、本発明の製剤は、シミュレートされたインビボ条件下で、公知の組成物に比べ、分解の程度が低いことが分かった。よって、本発明の製剤は、7から360日(例えば、20から360日)、好ましくは30〜240日(例えば、30から168日)、より好ましくは60〜180日(例えば、90日前後)に1回だけ投与すればよいGLP−1類似体のインビボデポーを提供し得る。代替的には、更に好ましい実施形態において、これらの持続期間はやや短く、好ましくは10から240日(例えば、20から168日)、より好ましくは14から180日(例えば、60日前後)である。前記組成物が自己投与用でない場合、医療従事者が要する時間を短縮するのみならず、患者の快適さおよび服薬遵守の上でも、より長く安定な放出期間が望ましいことは明らかである。前記製剤が自己投与用である場合、投与の必要性を忘れることがないよう、週ごと(例えば、7日ごと)または月ごと(例えば、28から30日ごと)の投与とすることによって患者の服薬遵守を促進してもよい。
【0089】
本発明のデポー前駆体の顕著な利点は、これらが安定で均質な相であるということである。すなわち、これらは、相分離を起こすことなく、かなり長期間(好ましくは、少なくとも6ヶ月間)室温または冷蔵庫内温度で保存され得る。これにより、有利な保存および容易な投与が実現するのみならず、個々の対象の種、年齢、性別、体重、および/または身体状態を参照してGLP−1類似体の用量を選択することが、選択された容量を注射することによって可能となる。また、本発明者らは、驚くべきことに、総薬物曝露量(AUCまたは平均プラトー血漿中濃度として観察される)は注射容量に比例するにもかかわらず、活性物質の初期放出(Cmaxとして観察される)は、試料として用いた容量の注射では少なくとも10倍の範囲において、投薬容量に比例しないことを発見した。それどころか、Cmaxは、注射された投薬容量の表面積に相関し得ることが分かった。すなわち、Cmaxは、注射された投薬容量の3分の2乗に比例する。投薬容量を10倍に増やしても、Cmaxは10倍にはならず、よって、Cmaxと総薬物曝露量(AUCまたは平均プラトー血漿中濃度レベル)の関係は、投薬容量の増加に伴い減少するであろう。このことは極めて有利である。なぜなら、この特性により、総用量を著しく増加させたとしても、潜在的に有毒な血漿中薬剤濃度に達するリスクが低減されるからである。上記に考察したように、このことは、低血糖を引き起こさずに1日2回の投与型から持続性のある製剤にする上で、重要な問題であるかもしれない。しかしながら、投薬が注射容量に直接比例しない状況においても、デポー前駆体の均質性により、事前測定用量の部分的な投与が可能となり、この投与は、対象における関連可変要素の何れかまたは全てを考慮し得る投薬表、カルテ、ソフトウェアによる計算等を参照して行ってもよい。
【0090】
よって、本発明は、特に対象の体重に基づき、個々の対象に特異な投薬量を選択することを含む方法を提供する。この用量選択の手段は、投与容量を選択することである。
【0091】
前記前製剤により、活性物質の放出プロファイルにおいて「突発」効果がほとんど見られないデポー組成物が得られるということは、本発明者らによって成された予期しなかった発見である。このことが予期されなかったのは、前記前駆組成物の低粘度混合物(とりわけ、これが溶液である場合)は、水分に曝露されると、ある特定のその他の持続放出製剤に関して観察される様式で、迅速に活性物質を喪失することが予期され得たからである。実際には、本発明の前製剤は、表面結合活性物質または溶解した活性物質が初期に「洗い流される(wash off)」または「洗い落とされる(wash out)」傾向を示す、マイクロビーズ組成物を含む従来公知のポリマーベースのデポー組成物と比べて、初期「突発」の程度が著しく低かった。よって、一実施形態において、本発明は、投与後における活性体の最高血漿中濃度が、投与後24時間から5日目までにおける平均濃度の40倍以下となる注射可能な前製剤およびこの前製剤から生じるデポー組成物を提供する。この比率は、前記平均濃度の25倍以下であることが好ましく、20倍以下(例えば、10倍まで、または5倍まで)であることが最も好ましい。
【0092】
本発明の組成物は、投与後に「遅延」効果がほとんどないデポー組成物の生成も可能にする。よって、更なる実施形態において、本発明は、1回の投与後7日目の活性体の血漿中濃度が、投与後21日目の活性体の血漿中濃度以上となる注射可能な前製剤およびこの前製剤から生じるデポー組成物を提供する。同様に、最初の21日間における活性体の濃度を、投与後30日目以降における何れの時点の濃度よりも常に高くする必要がある。この徐々に低下する放出プロファイルは、脂質デポー徐放GLP−1類似体製剤に関しては、これまでに実証されていなかった。
【0093】
本明細書中に示す特徴と好ましい特徴との組み合わせにより、本発明の前製剤は、以下に挙げる好ましい特徴を1つ以上、単独または組み合わせで有していてもよい:
成分a)は、GDOを含むか、実質的にGDOで構成されるか、または好ましくはGDOで構成される;
成分b)は、大豆PCを含むか、実質的に大豆PCで構成されるか、または好ましくは大豆PCで構成される;
成分c)は、1、2、3もしくは4炭素アルコール、好ましくはイソプロパノール、またはより好ましくはエタノールを含むか、実質的にこのような成分で構成されるか、または好ましくはこのような成分で構成される;
前記前製剤は、本明細書中に示すものから選択される少なくとも1種のGLP−1類似体、好ましくはGLP−1(7−37)、GLP−1(7−36)アミド、リラグルチド、AVE−010、TH−0318またはエクセナチドを含有する;
前記前製剤は、本明細書中に示す低粘度を有する。
【0094】
前記前製剤は、インビボ投与されると、本明細書中に示す液晶相を形成する。
【0095】
前記前製剤は、インビボ投与後にデポーを生成し、このデポーは、少なくとも7日間、好ましくは少なくとも21日間、より好ましくは少なくとも30日間にわたり、少なくとも1種のGLP−1類似体を治療レベルで放出する。
【0096】
本明細書中に示す特徴と好ましい特徴との組み合わせにより、本発明の治療方法は、以下に挙げる好ましい特徴を1つ以上、単独または組み合わせで有していてもよい:
前記方法は、先に示した好ましい特徴を1つ以上有する少なくとも1種の製剤を投与することを含む;
前記方法は、本明細書中に示す少なくとも1種の製剤を、筋肉内注射、皮下注射、または好ましくは深部皮下注射によって投与することを含む;
前記方法は、本明細書中に示す充填済み投与デバイスを用いて投与することを含む;
前記方法は、20ゲージ以下、好ましくは20ゲージ未満、および最も好ましくは23ゲージ以下の針を通して投与することを含む;
前記方法は、7から360日ごと、好ましくは7から120日ごと、より好ましくは14から60日ごとに1回投与することを含む。
【0097】
前記方法は、14から180日ごと、好ましくは60日前後ごとに1回投与することを含む。
【0098】
本明細書中に示す特徴と好ましい特徴との組み合わせにより、本明細書中に示す前製剤の医薬品の製造における使用は、以下に挙げる好ましい特徴を1つ以上、単独または組み合わせで有していてもよい:
前記使用は、先に示した好ましい特徴を1つ以上有する少なくとも1種の製剤の使用を含む;
前記使用は、本明細書中に示す少なくとも1種の製剤を、筋肉内注射、皮下注射、または好ましくは深部皮下注射によって投与するための医薬品の製造を含む;
前記使用は、本明細書中に示す充填済み投与デバイスを用いて投与するための医薬品の製造を含む;
前記使用は、20ゲージ以下、好ましくは20ゲージ未満、および最も好ましくは23ゲージ以下の針を通して投与するための医薬品の製造を含む;
前記使用は、7から360日ごと、好ましくは7から120日ごと、より好ましくは14から60日ごとに1回投与するための医薬品の製造を含む。
【0099】
本明細書中に示す特徴と好ましい特徴との組み合わせにより、本発明の充填済みデバイスは、以下に挙げる好ましい特徴を1つ以上、単独または組み合わせで有していてもよい;
前記充填済みデバイスは、本明細書中に示す好ましい製剤を含有する;
前記充填済みデバイスは、20ゲージ未満、好ましくは23ゲージ以下の針を含む;
前記充填済みデバイスは、1回分の用量である0.05から250mg、好ましくは0.1から100mgおよびより好ましくは1〜50mgのGLP−1類似体を含む;
前記充填済みデバイスは、GLP−1(7−37)、GLP−1(7−36)アミド、TH−0318、リラグルチドまたはAVE−010を、0.05から250mg前後含む;
前記充填済みデバイスは、本発明の組成物の均質な混合物を注射準備完了形態で含む。
【0100】
前記充填済みデバイスは、GLP−1類似体と組み合わせて、本発明の前製剤を形成するための成分a)からc)の製剤を含む。
【0101】
前記充填済みデバイスは、成分a)からc)の製剤と組み合わせて、本発明の前製剤を形成するためのGLP−1類似体を含む。
【0102】
前記充填済みデバイスは、総投与容量が、5ml以下、好ましくは3ml以下、より好ましくは2ml以下である。
【0103】
本明細書中に示す特徴と好ましい特徴との組み合わせにより、本発明のキットは、以下に挙げる好ましい特徴を1つ以上、単独または組み合わせで有していてもよい:
前記キットは、本明細書中に示す好ましい製剤を含む;
前記キットは、本明細書中に示す充填済みデバイスを含む;
前記キットは、20ゲージ未満、好ましくは23ゲージ以下の針を含む;
前記キットは、1回分の用量である0.05から250mg、好ましくは0.1から100mgおよびより好ましくは1〜50mgのGLP−1類似体を含む;
前記キットは、GLP−1(7−37)、GLP−1(7−36)アミド、TH−0318、リラグルチドまたはAVE−010を、0.05から250mg前後含む;
前記キットは、本発明の脂質製剤とGLP−1類似体粉末をそれぞれ含む少なくとも2つの容器を含む「二区画キット」を含む。
【0104】
前記キットは、総投与容量が、5ml以下、好ましくは3ml以下、より好ましくは2ml以下である。
【0105】
前記キットは、本明細書中に示す経路および/または頻度での投与に関する説明書を含む;
前記キットは、本明細書中に記載の治療方法において使用する投与に関する説明書を含む。
【0106】
下記の非限定的な実施例および添付図面を参照しながら、本発明について以下に更に説明する。
実施例
使用される略語
GLP−1=GLP−1(7−36)アミド(酢酸塩)=グルカゴン様ペプチド1(ポリペプチド ラボラトリーズ(PolyPeptide Laboratories)、ドイツ)
SPC=大豆ホスファチジルコリン(リポイド(Lipoid)、ドイツ)
EPC=卵ホスファチジルコリン(リポイド、ドイツ)
GDO=グリセロールジオレアート(ダニスコ(Danisco)、デンマーク)
P80=ポリソルベート(Polysorbate)80(アポテケット(Apoteket)、スウェーデン)
F68=プルロニック(Pluronic)F68(シグマ−アルドリッチ(Sigma−Aldrich)、スウェーデン)
EtOH=エタノール(ケメチル(Kemetyl)、スウェーデン)
HAc=酢酸(メルク(Merck)、ドイツ)
BzOH=ベンジルアルコール(アポテケット、スウェーデン)
PG=プロピレングリコール(アポテケット、スウェーデン)
BzB=安息香酸ベンジル(アポテケット、スウェーデン)
NMP=N−メチルピロリドン(ISP、米国)
アスコルビン酸=Asc(シグマ−アルドリッチ、スウェーデン)
EDTA=エチレンジアミン四酢酸(シグマ−アルドリッチ、スウェーデン)
DPP−IV=ジペプチジルペプチダーゼIV
DOPG=ジオレオイルホスファチジルグリセロール(アバンティポーラーリピッズ(Avanti Polar Lipids)、米国)
【実施例1】
【0107】
組成物の選択によるデポー中の各種液晶相の利用可能性
ホスファチジルコリン(「PC」−リポイド(Lipoid)S100)とグリセロールジオレアート(GDO)を異なる割合で含有し、更にEtOHを溶媒として含有する注射可能製剤を調製し、デポー前駆体製剤を過剰量の水で平衡化した後、各種液晶相が得られることを例証した。
【0108】
適量のPC、GDOおよびEtOHをガラスバイアルで計量し、その混合物を、PCが完全に溶解し、透明な液体溶液となるまで振盪器にかけた。次に、GDOを添加し、注射可能な均質溶液を形成させた。
【0109】
各製剤をバイアルに注入し、過剰量の水で平衡化した。相挙動を、目視ならびに交差偏光子間(between crossed polarizes)で、25℃で評価した。結果を表1に示す。
【0110】
【表1】

【実施例2】
【0111】
共溶媒添加によるPC/GDO混合物の粘度
PC/GDOと共溶媒の混合物を、実施例1の方法で調製した。まずロータリーエバポレーターを用いて前記PC/GDO混合物からEtOHを蒸発させることによって、EtOH含有量を調整し、実質的にPCおよびGDOからなる粘性液体混合物を得た。その後、共溶媒を、下記表2に示す割合で添加した。
【0112】
これら試料を数日間平衡化させた後、フィジカ(Physica)UDS 200レオメータを用い、25℃で粘度を測定した。
【0113】
【表2】

【0114】
この実施例は、注射可能製剤を得るためには、粘度低下特性を有する溶媒が必要である事を例証するものである。グリセロールを含有する混合物(試料19)または水(試料20および21)は、EtOHを含有する試料(試料13、14および17と比較)と同等の溶媒濃度で注射可能とするには粘度が高過ぎる。
【実施例3】
【0115】
ラットにおけるデポー製剤の分解
各種容量(1、2、6ml/kg)のデポー前駆体(PCが36%wt、GDOが54%wt、およびEtOHが10%wt)をラットに注射し、14日間後に再び除去した。この後、相当量の製剤が依然としてラットの皮下に存在したことが分かった。表3参照。
【0116】
【表3】

【実施例4】
【0117】
グルカゴン様ペプチド1(GLP−1)のデポー組成物の調製
GLP−1のデポー前駆体を以下の2つの異なる方法で調製した。
1)GLP−1を、まずPC、GDOおよびEtOHと、混合が容易になるようにEtOHを過剰添加して混合した。典型的に、この段階でのEtOH含有量は、約50〜80wt%であった。次いで、過剰量のEtOHを、ロータリーエバポレーターまたは凍結乾燥により除去し、EtOHの最終含有量を、その後、必要に応じて調整した。
2)GLP−1を、まず少量の無菌水に溶解させた。その後、予め作製しておいたPC,GDOおよびEtOHの、EtOH含有量を約5〜10重量%とした液体混合物をGLP−1/水の溶液に添加した。得られた混合物をボルテックス混合で1分間混合した。
【0118】
各試料の最終組成物を下記表4に示す。GDOならびに、大豆および卵の両ホスファチジルコリン(PC)について、数通りの純度レベルを用いた。
【0119】
【表4】

【0120】
【表5】

【実施例5】
【0121】
5.1 脂質保存溶液の調製
SPC(1.44g)、GDO(1.44g)、P80(0.72g)およびEtOH(0.40g)をガラスバイアルに順に加え、その後、24時間転倒型回転を行って、液体保存溶液を調製した。透明で均質な液体脂質保存溶液を得た。
5.2 脂質/GLP−1製剤の調製
20mgのGLP−1(酢酸塩)をバイアルで計量し、HAcを2wt%含有する水溶液0.352gを添加して溶解させ、その後、ボルテックス混合を行った。GLP−1の保存水溶液に、5.1で調製した脂質保存溶液1.628gを添加した。得られた製剤を、短時間のボルテックス混合後、1時間の転倒型回転を行って混合し、透明で均質な低粘度脂質/GLP−1製剤を得た。
【0122】
【表6】

【実施例6】
【0123】
脂質保存溶液を、実施例5.1に従い、以下の組成、すなわちSPC/GDO/EtOH=42.5/42.5/15wt%で調製した。この脂質保存溶液2.52gを、30mgのGLP−1(酢酸塩)が0.450gの2wt%HAcに溶解した水溶液に添加した。得られた製剤を短時間のボルテックス混合後、1時間の転倒型回転を行って混合し、透明で均質な低粘度脂質/GLP−1製剤を得た。
【0124】
【表7】

【実施例7】
【0125】
脂質保存溶液を、実施例5.1に従い、以下の組成、すなわちSPC/GDO/P80/EtOH=35/35/20/10wt%で調製した。この脂質保存溶液0.83gを、10mgのGLP−1(酢酸塩)が、2wt%HAcおよび0.1wt%Asc、または2wt%HAc、0.1wt%Ascおよび0.1wt%グリシン、または2wt%HAc、0.1wt%Ascおよび0.02wt%EDTA(二ナトリウム塩)をそれぞれ含有する水溶液0.160gに溶解したものを含む3つの異なるバイアルに加えた。得られた各製剤を短時間のボルテックス混合後、1時間の転倒型回転を行って混合し、透明で均質な低粘度脂質/GLP−1製剤を得た。
【0126】
【表8】

【実施例8】
【0127】
脂質保存溶液を、実施例5.1に従い、下記の表に挙げた各組成で調製した。各脂質保存溶液を、下記表に示した各組成に従って、ガラスバイアル内のGLP−1粉末に添加した。得られた各製剤を、バイアルを手で振って混合することによって、GLP−1粉末を液体脂質製剤に懸濁させた。各製剤を、過剰量の塩水(0.9% wt/v NaCl)に注入して(注射器23G)、懸濁GLP−1を封入するほぼ球形のデポーを形成した。
【0128】
【表9】

【実施例9】
【0129】
脂質保存溶液を、実施例5.1に従い、以下の組成、すなわちSPC/GDO/P80/EtOH=37.5/37.5/15/10wt%で調製した。この脂質保存溶液0.83gを、10mgのGLP−1(酢酸塩)が、HAcを2wt%含有する水溶液0.160gに溶解したものを含むバイアルに加えた。得られた製剤を短時間のボルテックス混合後、1時間の転倒型回転を行って混合し、透明で均質な低粘度脂質/GLP−1製剤を得た。
【0130】
【表10】

【実施例10】
【0131】
脂質保存溶液を、実施例5.1に従い、SPC/GDO/EtOH=46/46/8wt%という組成で調製した。GLP−1(20mg/mL)を、下記の表に挙げた各組成を有する水溶液に溶解させた(pHは、GLP−1を溶解させるために、必要に応じて、HCl(水性)またはNaOH(水性)を用いて調整した)。小容量(100μL)の各GLP−1水溶液をガラスバイアルに加え、その後、−85℃で急速に凍結させた。次いで、バイアルを凍結乾燥機に移して凍結乾燥した。得られた各粉末に、100〜200mgの脂質保存溶液を添加し、その後、ボルテックス混合を行った。そのようにして、GLP−1含有粉末を液体脂質製剤に懸濁させた(g当たり10〜20mgのGLP−1を含有する製剤)。各製剤を、過剰量の塩水(0.9% wt/v NaCl)に注入して(注射器23G)、懸濁GLP−1粉末を封入するほぼ球形のデポーを形成した。
【0132】
【表11】

【実施例11】
【0133】
脂質保存溶液を、実施例5.1に従い、SPC/GDO/EtOH=46/46/8wt%という組成で調製した。GLP−1(1mg/mL)を、スクロース(2mg/mL)と、グリシン(1mg/mL)と、クエン酸塩(1mg/mL)とF68(0.05mg/mL)とを含有する水溶液30mLに溶解させた(pHは、GLP−1を溶解させるために、必要に応じて、HCl(水性)を用いて調整した)。このGLP−1水溶液を噴霧乾燥して(ビュッヒ(BUeCHI)ミニスプレードライヤー)GLP−1含有粉末を形成した。得られた粉末(50mg)に、450mgの脂質保存溶液を添加し、その後、ボルテックス混合を行った。そのようにして、GLP−1含有粉末を液体脂質製剤に懸濁させた。この製剤を、過剰量の塩水(0.9% wt/v NaCl)に注入して(注射器23G)、懸濁GLP−1粉末を封入するほぼ球形のデポーを形成した。
【実施例12】
【0134】
脂質保存溶液を、実施例5.1に従い、以下の組成、すなわちSPC/GDO/P80/EtOH=44.2/44.2/1.6/10wt%で調製した。この脂質保存溶液0.99gを、10mgのGLP−1粉末を含むバイアルに加えた。得られた製剤を、バイアルを手で振って混合することによって、GLP−1粉末を液体脂質製剤に懸濁させた。この製剤を、過剰量の塩水(0.9% wt/v NaCl)に注入して(注射器23G)、懸濁GLP−1を封入するほぼ球形のデポーを形成した。
【実施例13】
【0135】
13.1 動物での研究 − 一般的手順
研究の第1日目に、ラット(スプレーグ−ドーリー(Sprague−Dawley)の雄ラット)を計量し、標準的な手順に従って静脈カテーテルを挿入することによる実験用に準備した。簡潔に言えば、これらのラットを、エンフルランおよびブプレノルフィン(Buprinorphin)を用いて麻酔した。シリコンカテーテルを、頸静脈内に挿入し、固定し、皮膚の下を通して、血液のサンプリングのために外在化させた頸部背側部まで貫通させた。これらラットは、投薬前に48時間の回復期間が与えられた。
【0136】
このカテーテルは、1日に1度、0.9%NaClと50IU/mLヘパリンですすいだ。これら動物は、回復後、計量し、軽い麻酔下で、製剤B(実施例6)および製剤F(実施例8)を10mgGLP−1/kgの用量および1mL/kgの投薬容量で皮下注射した(1製剤当たりn=6)。SPC/GDO/EtOH=45/45/10wt%を含むプラセボ製剤を、参考として、1mL/kgの投薬容量で注射した(n=6)。これら動物には、投薬後、水および食物を自由に摂取させた。
13.2 サンプリング
投薬前、投薬後1時間、3時間、6時間、1日、2日、7日、14日、21日および28日後に、血液試料を採取した。血液0.4mLの血液試料を、氷で冷やしたEDTA処理済試験管に採取した。これら試験管に、市販のDPP−IV阻害剤を加えた。各サンプリング後、注射用無菌0.9%NaCl(10mM EDTAを含む)を、カテーテルを通してラットに与えて喪失した血液量を補った。
13.3 生物分析
分析前に、これら試料を−80℃未満で保存した。EDTA血漿試料におけるGLP−1濃度を、市販のエリザ(ELISA)(グルカゴン様ペプチド1(活性)エリザキット(ELISA Kit)、Cat.#EGLP−35K、リンコリサーチ(Linco Research)により測定した。
13.4結果
図1は、PKプロファイルを示す。28日間で、GLP−1血漿中レベルが、プラセボと比較して著しく上昇したことが分かる。両製剤に関して、放出の遅延相が存在せず、注射後2日以内に、安定したプラトー血漿中GLP−1レベルが達成されたことは重要なことである。GLP−1デポー製剤の持続期間は、非常に短期間であるペプチドの血漿中半減期(5分未満)を考慮すると、際立ってすばらしい。
【実施例14】
【0137】
脂質保存溶液を、実施例5.1に従い、以下の組成、すなわちSPC/GDO/DOPG/EtOH=44/46/2/8wt%で調製した。この脂質保存溶液(0.49g)を、ガラスバイアル中のGLP−1粉末(10mg)に添加した。得られた製剤を、バイアルを手で振って混合することによって、GLP−1粉末を液体脂質製剤に懸濁させた。この製剤を、過剰量の塩水(0.9% wt/v NaCl)に注入して(注射器23G)、懸濁GLP−1を封入するほぼ球形のデポーを形成した。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】図1は、GLP−1(7−36)アミドを含む2つの製剤と1つのプラセボ製剤を、スプレーグ−ドーリーの雄ラット(n=6)に皮下投与した後のGLP−1(7−36)アミドの血漿中プロファイルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1種の中性ジアシル脂質および/またはトコフェロールと、
b)少なくとも1種のリン脂質と、
c)少なくとも1種の生体適合性の有機溶媒と、
d)少なくとも1種のGLP−1類似体と、
の低粘度混合物を含む前製剤であって、
水性流体と接触すると、少なくとも1種の液晶相構造を形成するか、または形成することができる前製剤。
【請求項2】
a)少なくとも1種のジアシルグリセロールと、
b)少なくとも1種のホスファチジルコリンと、
c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒と、
d)少なくとも1種のGLP−1類似体と、
の低粘度混合物を含む請求項1に記載の前製剤であって、
水性流体と接触すると、少なくとも1種の液晶相構造を形成するか、または形成することができる前製剤。
【請求項3】
成分a)がGDOを含む請求項1または2に記載の前製剤。
【請求項4】
成分b)が大豆PCを含む請求項1から3の何れかに記載の前製剤。
【請求項5】
成分c)がエタノールを含む請求項1から4の何れかに記載の前製剤。
【請求項6】
当該前製剤が、未変性GLP−1、リラグルチド(Liraglutide)、TH−038、エクセナチド(Exenatide)および/またはAVE−010から選択される少なくとも1種のGLP−1類似体を含む請求項1から5の何れかに記載の前製剤。
【請求項7】
当該前製剤が、付加的に、少なくとも1種のポリエチレンオキシド断片化剤を含む請求項1から6の何れかに記載の前製剤。
【請求項8】
GLP−1類似体を用いて、治療を必要とするヒトまたは非ヒト哺乳類である対象に治療を行うための方法であって、当該方法は、当該対象に
a)少なくとも1種の中性ジアシル脂質および/またはトコフェロールと、
b)少なくとも1種のリン脂質と、
c)少なくとも1種の生体適合性の有機溶媒と、
d)少なくとも1種のGLP−1類似体と、
の低粘度混合物を含む前製剤を投与することを含む方法。
【請求項9】
前記治療方法が、タイプI糖尿病、タイプII糖尿病、過剰体重および肥満から選択される少なくとも1つの症状を治療するための方法である請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1から7の何れかに記載の少なくとも1種の製剤を投与することを含む請求項8または9の何れかに記載の方法。
【請求項11】
筋肉内注射、皮下注射、または好ましくは深部皮下注射によって投与することを含む請求項8から10の何れかに記載の方法。
【請求項12】
充填済み投与デバイスを用いて投与することを含む請求項8から11の何れかに記載の方法。
【請求項13】
20ゲージ未満の針を通して投与することを含む請求項8から12の何れかに記載の方法。
【請求項14】
7から180日ごと、好ましくは30日前後ごとに1回投与することを含む請求項8から13の何れかに記載の方法。
【請求項15】
投与用量が送達時点において選択される請求項8から14の何れかに記載の方法。
【請求項16】
前記選択された用量が、前記対象の体重を基準として選択される請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記投与用量が、注射容量によって選択される請求項15または16に記載の方法。
【請求項18】
a)少なくとも1種の中性ジアシル脂質および/またはトコフェロールと、
b)少なくとも1種のリン脂質と、
c)少なくとも1種の生体適合性の有機溶媒と、
d)少なくとも1種のGLP−1類似体と、
のタイプI糖尿病、タイプII糖尿病、過剰体重および肥満から選択される少なくとも1つの症状を治療するためのデポーのインビボでの形成において使用される低粘度前製剤医薬品の製造における使用。
【請求項19】
請求項1から7の何れかに記載の少なくとも1種の製剤の使用を含む請求項18に記載の使用。
【請求項20】
請求項9から17の何れかに定義した方法における、請求項18または19の何れかに記載の使用。
【請求項21】
a)少なくとも1種の中性ジアシル脂質および/またはトコフェロールと、
b)少なくとも1種のリン脂質と、
c)少なくとも1種の生体適合性の有機溶媒と、
d)少なくとも1種のGLP−1類似体と、
の低粘度混合物を含む測定用量の前製剤が予め装填された使い捨て投与デバイス。
【請求項22】
請求項1〜7に記載の製剤を含む請求項21に記載のデバイス。
【請求項23】
1回分の用量である0.05から250mgのGLP−1類似体を含む請求項21または22に記載のデバイス。
【請求項24】
請求項1から7の何れかに定義されている成分a)からc)の低粘度混合物を含む請求項21に記載のデバイス。
【請求項25】
総投与容量が5ml以下である請求項21から24の何れかに記載のデバイス。
【請求項26】
少なくとも1種のGLP−1類似体の投与のためのキットであって、
a)少なくとも1種のジアシルグリセロールと、
b)少なくとも1種のホスファチジルコリンと、
c)少なくとも1種の酸素含有有機溶媒と、
d)少なくとも1種のGLP−1類似体と、
の低粘度混合物を含む測定用量の製剤を含むキット。
【請求項27】
請求項19から25の何れかに記載の投与デバイスを含む請求項26に記載のキット。
【請求項28】
20ゲージ未満の針を含む請求項26または27の何れかに記載のキット。
【請求項29】
1回分の用量である0.05から250mgのGLP−1類似体を含む請求項26から28の何れかに記載のキット。
【請求項30】
未変性GLP−1、リラグルチド、TH−0318、エクセナチドおよび/またはAVE−010を、0.05から250mg前後含む請求項26から29の何れかに記載のキット。
【請求項31】
筋肉内注射、皮下注射、または好ましくは深部皮下注射によって投与するための説明書を含む請求項26から30の何れかに記載のキット。
【請求項32】
請求項6から15の何れかに記載の治療方法において使用する投与に関する説明書を含む請求項26から31の何れかに記載のキット。
【請求項33】
本明細書中に記載の成分a)からc)の低粘度混合物を含む第1容器と、
少なくとも1種のGLP−1類似体を含む第2容器と、
を含む2成分キットである、請求項1から7の何れかに記載の組成物の形成のためのキット。
【請求項34】
請求項1から7の何れかに記載の組成物を投与することを含む美容上の治療方法。

【図1】
image rotate


【公表番号】特表2008−542437(P2008−542437A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−515284(P2008−515284)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【国際出願番号】PCT/GB2006/002079
【国際公開番号】WO2006/131730
【国際公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(505345749)カムルス エービー (17)
【Fターム(参考)】