説明

GLP−1PEG化化合物

【課題】非PEG化ペプチドに比べて長期の半減期及び遅いクリアランスを有する生物活性のあるペプチドを提供する。
【解決手段】2つのポリエチレングリコール分子又はその誘導体に結合するGLP−1化合物。これらのPEG化GLP−1化合物及び組成物は、血糖値を下げ、摂食量を減少させ、胃又は腸の内容物排出を減少させ、β細胞の数を増加させ、又は胃又は腸の運動性を低下させることによって、状態又は障害を治療する上で有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレングリコール(PEG)化されたグルカゴン様ペプチド−1(GLP−1)化合物並びに関連組成物、及び、血糖値を低下させ、摂食量を減少させ、胃又は腸の内容物排出を減少させ、β細胞の数及び/又は機能を向上及び/又はβ細胞アポトーシスを阻害し、或いは、胃又は腸の運動性を低下させることにより恩恵を受ける状態又は障害の治療に有用な方法に関する。
【背景技術】
【0002】
GLP−1は、インスリン分泌の刺激、グルカゴン分泌の阻害、胃内容排出の阻害、胃運動若しくは腸運動の阻害、グルコース利用促進、及び体重減少などの多くの生物学的効果を誘発する。GLP−1は更に、インスリン非依存性真性糖尿病(NIDDM)が進行するにつれて発生する膵臓β細胞の劣化を防止する作用を持つ。GLP−1の重要な特徴は、低血糖症のリスクを伴わずにインシュリン分泌を促進する能力である。血糖値が上昇しているか否かに関わらずインシュリンの発現を上昇させる他の治療法と異なり、GLP−1は血糖値が上昇している場合に限りインシュリン分泌を誘発する。
【0003】
GLP−1(1−37)の活性は低く、また天然由来の2種の切断ペプチドであるGLP−1(7−37)OH及びGLP−1(7−36)NHはin vivoで急速に排除され生体内半減期が極めて短いという事実から、GLP−1ペプチドを用いた治療の有用性には限界があった。内在的に産生されるジペプチジル−ペプチダーゼIV(DPP−IV)は、N末端ヒスチジン及びアラニン残基を除去することによって血中GLP−1ペプチドを不活性化し、生体内半減期が短くなる主因であることが知られている。
【0004】
さまざまなアプローチにより、天然のGLP−1よりも長期の半減期又は強力な効力を有するGLP−1化合物が開発されたが、さらにクリアランスを減少させ半減期を延長させることで長期間にわたり最小限の投与回数で済む治療用GLP−1としての性能を最適化するためには別の化合物が必要である。国際出願第PCT/US2004/006082号明細書及び国際出願第PCT/US2000/11814号明細書に、1つ以上のPEG分子とさまざまなGLP−1及びエキセンディン化合物との共有結合についての記載がある。これらの化合物の半減期は24時間を上回ることもあり、長期間にわたり高血中濃度を維持しながらも、PEG化されたGLP−1化合物の投与回数はより少なくて済む。
【0005】
別の研究で、長期にわたる保存において、PEG化GLP−1又はPEG化エキセンディン化合物からのPEGの分離が起きるという問題が明らかになった。その結果、遊離GLP−1又はエキセンディンペプチドは、治療ウィンドウにおける初期ピーク濃度の暴露プロファイルを増加させる。これは、嘔気及び嘔吐の副作用を増加させる可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、GLP−1又はエキセンディン化合物に2つのPEG化部位を導入し、その後これらのPEG化部位を同時にPEG化することにより、長期間の保存及びPEG化GLP−1又はPEG化エキセンディン化合物からのPEGの分離に関連した課題を解決しようとするものである。このアプローチには、少なくとも4つの効果がある。第1に、化合物のPEG化は、その化合物の生体内半減期を劇的に改善する。第2に、化合物のPEG化はその化合物の吸収を遅くすることによって、副作用の原因と考えられる薬の初期バーストを軽減する。第3に、直鎖PEGをPEG化に直接用いることができ、合成手順が単純化される。第4に、タンデム型のPEG化は、同一のGLP−1又はエキセンディンペプチド分子から両方のPEGが分離する可能性を減少させることにより、長期保管及びPEG化GLP−1又はPEG化エキセンディン化合物からのPEGの分離可能性に関連した問題を軽減する。
【0007】
加えて、2つのPEG化部位をGLP−1又はエキセンディン化合物のC末端に導入し、その後これら2つのPEG化部位を同時にPEG化することによって、これらのPEG化化合物より活性が高く、少なくとも1つのPEG化部位が上記ペプチドのC端末に存在しないPEG化化合物が生成された。更に、2つのPEG化部位を含むリンカーをGLP−1化合物のC末端に付着し、これら2つのPEG化部位を同時にPEG化することによって、これらのPEG化化合物より活性が高く、リンカーのないGLP−1化合物のC末端にPEG化部位が付着したPEG化GLP−1化合物が生成された。
【0008】
この種のPEG化GLP−1化合物は、これらに限定されるものではないが、糖尿病、肥満、胃及び/又は腸の運動異常、β細胞欠乏症(例えば、β細胞の不足又は機能不全)、及び胃及び/又は腸の排出異常などの障害をもつ患者の治療に利用できる。本発明のPEG化GLP−1化合物は24時間中に比較的少ない投与回数で済むという特有の利点があり、この種の治療を必要とする患者にとっての便宜及び患者の投与要件への適合可能性が向上する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願明細書において記載される本発明は、2つのポリエチレングリコール(PEG)分子に共有結合しているGLP−1化合物又はPEGがシステイン残基に接着したその誘導体を提供する。その結果、排出半減期が少なくとも1時間、少なくとも3、5、7、10、15、20時間、又は少なくとも24時間であるPEG化GLP−1化合物が得られる。本発明のPEG化GLP−1化合物のクリアランス値は、200ml/h/kg以下、又は180、150、120、100、80、60ml/h/kg以下、又は50、40、又は20ml/h/kg未満である。
【0010】
本発明のPEG化GLP−1化合物には、以下の式のアミノ酸配列が含まれる。His−Xaa−Glu−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Val−Ser−Ser−Tyr−Leu−Glu−Xaa22−Gln−Ala−Ala−Lys−Glu−Phe−Ile−Ala−Trp−Leu−Xaa33−Lys−Gly−Gly−Pro−Ser−Ser−Gly−Ala−Pro−Pro−Pro−Cys45−Xaa46式I(配列番号:1)式中、Xaaは、D−Ala、Gly、Val、Leu、Ile、Ser又はThrである。Xaa22は、Gly、Glu、Asp又はLysである。Xaa33は、Val又はIleである。Xaa46は、Cys又はCys−NHである。及び、1つのPEG分子がCys45に共有結合され、1つのPEG分子がCys46又はCys46−NHに共有結合されている。
【0011】
好ましくは、式IのPEG化GLP−1化合物において、XaaはGly又はValであり、Xaa22はGly又はGluであり、Xaa33はVal又はIleであり、Xaa46はCys又はCys−NHである。さらに好ましくは、式IのPEG化GLP−1化合物において、XaaはValであり、Xaa22はGluであり、Xaa33はVal又はIleであり、Xaa46はCys又はCys−NHである。さらに好ましくは、式IのPEG化GLP−1化合物において、XaaはValであり、Xaa22はGluであり、Xaa33はValであり、Xaa46はCysである。さらに好ましくは、式IのPEG化GLP−1化合物において、XaaはValであり、Xaa22はGluであり、Xaa33はValであり、Xaa46はCys−NHである。さらに好ましくは、式IのPEG化GLP−1化合物において、XaaはValであり、Xaa22はGluであり、Xaa33はIleであり、Xaa46はCysである。さらに好ましくは、式IのPEG化GLP−1化合物において、XaaはValであり、Xaa22はGluであり、Xaa33はIleであり、Xaa46はCys−NHである。
【0012】
本発明で使用するポリエチレングリコール(PEG)ポリマーは、分子量が500から10万ダルトン、5000から4万ダルトン、2万から6万ダルトン又は2万から4万ダルトンであり、直鎖状又は分枝状の分子であってもよく、従来技術において記載されているポリエチレングリコール誘導体であってもよい。本発明におけるGLP−1化合物に共有結合しているPEG分子は、特定の種類に限定されない。好ましくは、PEGは、20キロダルトンの直鎖状メトキシPEGマレイミドである。より好ましくは、PEGは、以下の化学式で示されるものである。
【化1】

【0013】
本発明はGLP−1受容体の刺激を必要とする患者のGLP−1受容体を刺激する方法であって、有効な量の本願明細書に記載されているPEG化GLP−1化合物を投与するステップを含む。GLP−1受容体の刺激を必要とする患者は、インスリン非依存性糖尿病、ストレス誘発性高血糖、肥満、胃及び/又は腸の運動異常又は排出異常、例えば過敏性大腸症候群、β細胞欠乏症及び機能性消化不良を有する患者を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
グルカゴン様ペプチド1(GLP−1)は、食物の摂取に応答して腸のL細胞によって分泌される37アミノ酸ペプチドである。多くのGLP−1類似体及び誘導剤が、従来技術において記載されている。本発明は、排出半減期の延長及び/又はクリアランスの低下をもたらすGLP−1化合物の修飾について開示する。ペプチドの特定のアミノ酸部位へのシステイン残基の導入は、ポリエチレングリコール(PEG)又はPEG誘導体が共有結合することによって、PEG化GLP−1化合物をもたらすことができるチオール基を提供する。
【0015】
本願明細書で用いられる「GLP−1化合物」には、天然由来のGLP−1、[GLP−1(7−37)OH又はGLP−1(7−36)NH]、GLP−1類似体、GLP−1誘導体、GLP−1生物活性断片、拡張GLP−1又は拡張GLP−1ペプチドの類似体又は断片、エキセンディン−4類似体、及びエキセンディン−4誘導体が含まれる。好ましくは、GLP−1類似体は、1、2、3、4、5又は6つのアミノ酸がGLP−1(7−37)OHにおける対応する位置のアミノ酸と異なるようにするためにGLP−1(7−37)OHのアミノ酸配列又は拡張GLP−1ペプチドを有するか、或いは、0、1、2、3、4、5又は6つのアミノ酸が拡張GLP−1ペプチドにおける対応する位置のアミノ酸と異なるようにするためにGLP−1(7−37)OH又は修飾の断片を有する。
【0016】
本発明のGLP−1化合物に関連して用いられる「PEG化」という用語は、ポリエチレングリコール又はその誘導体の2つの分子を共有結合させることにより化学修飾されたGLP−1化合物を指す。さらに、「PEG」という用語は、従来技術で周知のポリエチレングリコール又はその誘導体を指す(例えば、米国特許第5445090号明細書、米国特許第5900461号明細書、米国特許第5932462号明細書、米国特許第6436386号明細書、米国特許第6448369号明細書、米国特許第6437025号明細書、米国特許第6448369号明細書、米国特許第6495659号明細書、米国特許第6515100号明細書及び米国特許第6514491号明細書参照)。好ましくは、本発明のPEG化GLP−1化合物において、PEG(又はその誘導体)は、GLP−1化合物に導入された2つのシステイン残基に共有結合される。好ましくは、GLP−1化合物に導入された2つのシステイン残基は、位置45及び46にある。
【0017】
「インシュリン分泌促進作用」とは、血糖値の上昇に応答してインシュリン分泌を促進することによって、細胞によるグルコース摂取及び血漿グルコース値の低下をもたらす能力をいう。インシュリン分泌促進作用は、GLP−1の受容体結合活性又は受容体活性化を測定するin vivo実験及びin vitro分析を含む、公知の方法で評価することができる(例えば、欧州特許第619322号明細書からGelfandら、及び米国特許第5120712号において記載されている膵島細胞又はインスリノーマ細胞を使用する分析)。インシュリン分泌促進作用は、インシュリン濃度又はC−ペプチド濃度を測定することによって、ヒトにおいて通常の方法で測定される。本発明を目的として、in vitroのGLP−1受容体のシグナリング分析を使用して本発明のPEG化GLP−1化合物がin vivoでインシュリン分泌促進作用を示すかどうかを判定する。インシュリン分泌促進作用は、PEG化GLP−1化合物が生物学的に活性であることを証明するために用いることができる作用である。本発明で例証されたすべてのPEG化GLP−1化合物は、インシュリン分泌促進作用(実施例6を参照)を有する。
【0018】
本願明細書で用いられる「in vitro効力」は、細胞系アッセイにおいてペプチドがGLP−1受容体を活性化させる能力の尺度である。in vitro効力は、「EC50」で示される。これは、単一の用量反応実験で50%の活性を示す化合物の有効濃度である。本発明の目的のため、in vitro効力は、ヒトのGLP−1受容体を安定して発現させるHEK−293細胞を使用した蛍光分析により決定される。これらのHEK−293細胞には、ルシフェラーゼ遺伝子の発現を促進するcAMP応答エレメント(CRE)を有するDNAベクターが安定に取り込まれている。GLP−1化合物又はPEG化GLP−1化合物と受容体との相互作用により、cAMP応答エレメントの活性とそれに続くルシフェラーゼの発現をもたらすシグナルが開始される。実施例3に列挙されたPEG化GLP−1化合物のEC50値は、上記のルシフェラーゼ分析を使用して求めたものである。相対的なin vitro効力の値は、Val−GLP−1(7−37)OH又は天然由来のGLP−1を対照とし、その対照に100%の基準値を割り当てることによって求めることができる。
【0019】
「血漿半減期」という用語は、関連した分子の半分が除去される前に血漿内を循環する時間をいう。「排出半減期」は、同義的に用いられる。血漿半減期又は排出半減期に関連して使用される「延長される」又は「より長い」という用語は、PEG化GLP−1化合物の半減期が、同等の条件下での参照分子(例えば、ペプチドの非PEG化形態又は天然のペプチド)の半減期に比べて、統計学的に有意な増加があることを示す。好ましくは、本発明のPEG化GLP−1化合物の排出半減期は少なくとも1時間、より好ましくは、少なくとも3、5、7、10、15、20時間、及び最も好ましくは24時間である。本願明細書の実施例4及び5において報告されている半減期は排出半減期であり、排出期間の対数線形率に対応する。当業者は、半減期がクリアランス及び分布容積の両方に関数として変化する導出パラメータであることを認識する。
【0020】
クリアランスとは、薬物を排出する身体能力の基準である。例えば、薬物に対する修飾によってクリアランスが減少した場合、半減期は増大すると考えられる。しかしながら、この相互関係は、分布容積に変化がない場合だけ当てはまる。末端の対数線形半減期(t1/2)、クリアランス(C)、及び分布容積(V)間の有用な近似的関係は、以下の方程式で表される。
1/2≒0.693(V/C)
クリアランスは、薬物の排出量を示すのではなく、排出するために必要な、薬物が完全に排除された血液又は血漿などの体液の量を示す。クリアランスは、単位時間あたりの量で表される。本発明のPEG化GLP−1化合物のクリアランス値は200ml/h/kg以下、180、150、120、100、80、60ml/h/kg以下若しくは50、40又は20ml/h/kg以下である(実施例4及び5を参照)。
【0021】
本発明において、Cysアミノ酸は、GLP−1化合物の位置45及び46に組み込まれる。得られる分子は、Cysアミノ酸においてPEG化され、未修飾の分子又は天然の分子よりも長い半減期を有すると共に、全て又は一部の生物活性を保持する修飾された分子となる。
【0022】
本発明に用いられるGLP−1化合物は、液相ペプチド合成法又は固相ペプチド合成法の標準的な方法を用いて調製できる。
【0023】
調製及び精製されたGLP−1化合物は、2つのPEG分子を共有結合することによりPEG化される。PEGをペプチドに共有接合する様々な方法が、従来技術で開示されている(Roberts,Mら、AdvancedDrugDeliveryReviews、54:459−476、2002を参照)。カルボキシ末端におけるペプチドのPEG化は、組換えGLP−1ペプチドを前駆体として用いた酵素カップリング、又は従来技術において公知であり、記載されている別の方法で実施できる。例えば、米国特許第4343898号又はInternationalJournalofPeptide&ProteinResearch.43:127−38、1994を参照。本発明のPEG化GLP−1化合物を調製する1つの方法では、PEGを上記ペプチドのチオール基に直接付着させるために、PEG−マレイミドを使用する。チオール官能基の導入は、上記ペプチドの上記の位置にCys残基を追加又は挿入して実施できる。チオール官能基は、上記ペプチドの側鎖上に導入することもできる(例えばチオール含有酸のリジンε−アミノ基のアシル化)。本発明のPEG化の方法では、マイケル付加を利用して安定性のチオエーテルリンカーを形成する。その反応は極めて特異的であり、他の官能基が存在する温和な条件下で起こる。PEGマレイミドが、明確な、生理活性PEG−タンパク質接合体を調製するための反応性ポリマーとして使われた。上記反応を促進し完了させるために、PEGマレイミドに対するチオール含有GLP−1化合物の過剰モルを上記手順において使用することが好ましい。上記反応は、好ましくはpH4.0から9.0の間で、室温で、1〜40時間行われる。PEG化されていないチオール含有ペプチドの過剰分は、従来の分離法によってPEG化された生成物から直ちに分離される。GLP−1化合物のPEG化に必要な条件例を、実施例1及び2に記載する。システインのPEG化は、PEGマレイミド又は分鎖状PEGマレイミドを用いて実施できる。好適なPEGは、20キロダルトンの直鎖状メトキシPEGマレイミドである。
【0024】
典型的な形態において、PEGは、末端ヒドロキシル基を有する直鎖状ポリマーであり、式HO−CHCH−(CHCHO)n−CHCH−OHを有する。式中、nは約8〜約4000である。末端の水素は、保護基(例えばアルキル基又はアリール基)によって置換できる。好ましくは、PEGは少なくとも1つのヒドロキシ基を有し、より好ましくは、それは末端ヒドロキシ基である。好ましくは、このヒドロキシ基が活性化して上記ペプチドと反応する。本発明に有用なPEGには多くの形がある。従来技術にはPEGの多数の誘導体が存在し、本発明において好適に使用される。(例えば米国特許第5445090号明細書、米国特許第5900461号明細書、米国特許第5932462号明細書、米国特許第6436386号明細書、米国特許第6448369号明細書、米国特許第6437025号明細書、米国特許第6448369号明細書、米国特許第6495659号明細書、米国特許第6515100号明細書及び6514491号明細書、及びZalipsky、S.BioconjugateChem.6:150−165、1995を参照)。本発明のGLP−1化合物に共有結合しているPEG分子は、特定の種類に限らない。PEGの分子量は、好ましくは500から10万ダルトン、より好ましくは2万から6万ダルトン、最も好ましくは2万から4万ダルトンである。PEGは、直鎖状でも分鎖状でもよい。
【0025】
本発明のPEG化GLP−1化合物は、天然由来のGLP−1、又はVal−GLP−1(7−37)OHの少なくとも0.5%のin vitroの生物活性を有する。本発明のPEG化GLP−1化合物は、天然由来のGLP−1、又はVal−GLP−1(7−37)OHの少なくとも1%のin vitroの生物活性を有する。本発明のPEG化GLP−1化合物は、天然由来のGLP−1、又はVal−GLP−1(7−37)OHの少なくとも3%のin vitroの生物活性を有する。このような生物活性は、本願明細書(実施例3)において記載されているin vitro効力アッセイ、又は当技術分野において周知である他のGLP−1分析によって測定できる。本発明の一部のPEG化GLP−1化合物の生物活性は、特定の分析において測定された天然由来のGLP−1又はVal−GLP−1(7−37)OHの生物活性よりも低い場合があるが、この活性の低下は、この化合物の半減期が長いこと、及び/又はクリアランス値が低いことにより相殺される。
【0026】
PEG化GLP−1化合物の投与は、当業者である医師によって有効性が認められている何れの経路を介してもよい。このような方法として挙げられるのが末梢腸管外法である。腸管外投与は、無菌シリンジ、又は注入ポンプなどの何らかの他の機械的装置による体内への剤形の注射として、医学文献で広く了知されている。末梢腸管外経路には、静脈内、筋肉内、皮下、及び腹腔内の投与経路が挙げられる。本発明のPEG化GLP−1化合物は、非腸管外経路である、経口、経直腸、経鼻、又は下気道経路による投与に適したものであってよい。これらの非腸管外経路のうち、下気道経路及び経口経路が好ましい。
【0027】
本発明のPEG化GLP−1化合物は、多種多様な疾患及び状態を治療するために使用することができる。本発明のPEG化GLP−1化合物は主に、「GLP−1受容体」と称される受容体上で作用することにより生物学的効果を奏する。従って、GLP−1受容体刺激又はGLP−1化合物の投与に良好に応答する疾患及び/又は症状の患者を、本発明のPEG化GLP−1化合物で処置することができる。これらの患者は、「GLP−1化合物での処置をする必要がある」又は「GLP−1受容体刺激の必要がある」と称される。非インスリン依存性糖尿病、インスリン依存性糖尿病、脳梗塞症(国際公開第00/16797号パンフレット参照)、心筋梗塞症(国際公開第98/08531号パンフレット参照)、肥満症(国際公開第98/19698号パンフレット参照)、術後の代謝変化(米国特許第6,006,753号明細書参照)、機能性消化不良及び過敏性腸症候群(国際公開第99/64060号パンフレット参照)の患者が挙げられる。さらに、GLP−1化合物での予防的処置を必要としている患者、例えば、非インスリン依存性糖尿病を発症する危険がある患者(国際公開第00/07617号パンフレット参照)が挙げられる。耐糖能異常又は空腹時血糖障害の患者、患者の身長及び体躯に対する正常体重の約25%以上を上回る体重の患者、膵部分切除の患者、親の1名以上が非インスリン依存性糖尿病である患者、妊娠性糖尿病の病歴がある患者、及び急性又は慢性膵炎の病歴がある患者は、非インスリン依存性糖尿病を発症する危険がある。
【0028】
本願明細書において記載されているPEG化GLP−1化合物の有効量とは、GLP−1受容体刺激の必要がある患者に投与すると、許容できない副作用を起こすことなく所望の治療及び/又は予防効果が得られる量である。「所望の治療効果」は、以下の1つ以上を含む。1)疾患関連症状又は疾患関連状態の改善、2)疾患関連症状又は疾患関連状態の発現の遅延、3)未処置時よりも長期の生存、及び4)未処置時よりも高い生活の質。例えば、糖尿病の治療に対するPEG化GLP−1化合物の「有効量」は、未処置時よりも血中グルコース濃度の大きな抑制をもたらし、この結果、網膜症、神経障害、又は腎臓病などの糖尿病合併症の発現の遅延をもたらすと考えられる量である。糖尿病の予防に対するPEG化GLP−1化合物の「有効量」は、スルホニル尿素、チアゾリジンジオン、インスリン及び/又はビスグアニジンなどの抗血糖降下剤による処置が必要な高血糖の発現を、未処置時に比べて遅延させると考えられる量である。概して、本発明のPEG化GLP−1化合物は、血漿濃度が約5〜約200ピコモル/リットルになるように投与される。Val−GLP−1(7−37)OHのための最適血漿濃度は、30〜約200ピコモル/リットルの範囲内であることが確認された。
【0029】
患者の血糖値を正常化するためのPEG化GLP−1化合物の有効な投与量は、様々な因子に左右される。これら因子に含まれるものとして、限定されないが、患者の性別、体重及び年齢、血糖調節不能の重症度、投与の経路及びバイオアベイラビリティ、融合蛋白質の薬物動態プロファイル、効力並びに製剤が挙げられる。本発明のPEG化GLP−1化合物の一般的な投与量は、成人の場合約0.01〜約1000mg/日の範囲である。好ましくは、投与量は約0.1〜約100mg/日の範囲、より好ましくは、約1.0〜約10mg/日の範囲である。
【0030】
本発明のPEG化GLP−1化合物は、2週に1回又は週に1回投与されることが好ましい。治療される疾患によっては、1週間に2〜3回など、PEG化GLP−1化合物の投与を更に高頻度必要とする場合もある。
【0031】
「患者」は哺乳類、好ましくはヒトであるが、動物(例えば伴侶動物(例えばイヌ、ネコなど)、家畜(例えばウシ、ヒツジ、ブタ、ウマなど)、及び実験動物(例えばネズミ、マウス、モルモットなど))でもよい。
【0032】
本発明のPEG化GLP−1化合物を生成するために用いるペプチドは、液相又は固相ペプチド合成技術の標準的な方法を用いて調製することができる。
【0033】
本発明は、以下の実施例で例示される。これらの実施例は、いかなる形であれ限定することを意図しない。
【実施例】
【0034】
実施例1 GLP−1関連アナログのPEG化
PEG化反応は、チオエーテル結合が形成可能な条件下で実施する。具体的には、溶液のpHは約4〜9であり、チオール含有ペプチドの濃度はメトキシ−PEG2−MAL濃度の1〜10倍の過剰モルである。PEG化反応は、通常室温で実施する。その後、このPEG化GLP−1ペプチドを、逆位相HPLCイオン交換クロマトグラフィ又はサイズ排除クロマトグラフィ(SEC)を使用して分離する。PEG化GLP−1類似体を、分析RP−HPLC、HPLC−SEC、SDS−PAGE及び/又はMALDIマススペクトロメトリーを使用して特徴付ける。チオール含有GLP−1ペプチドをポリエチレングリコール−マレイミド(PEG−マレイミド)と反応させて、チオエーテル結合を介してPEGが共有結合する誘導体を生成する。例えば、長さ46アミノ酸、7.5mg、1.8μmolのGLP−1化合物を、20mMのEDTAを含むpH7.4の200mMのリン酸塩バッファ2mlに溶解する。その後、上記溶液をアルゴン置換する。この溶液に、直鎖状又は分鎖状のPEGマレイミドであるメトキシ−PEG−MAL(ShearwaterPolymers,Inc.、ハンツヴィル、アラバマ)を40mg添加する(PEGとペプチドのモル比は0.55:1)。反応を2時間実施する。その後、PEG化ペプチドの25mgをRP−HPLCによって精製し、サイズ排除HPLCによって特徴付け、in vitro活性を試験する。
【0035】
実施例2 GLP類似体による2X20kDa−PEG−マレイミド反応
GLP−1類似体は、マレイミド活性化された直鎖状の20kDaのmPEG(NOF,Inc.)を使用して、導入されたシステイン残基において選択的にPEG化される。PEG化反応のために、PEG化するペプチドを10mMのEDTAを含む100mMのNH4AcバッファにpH6.8で溶解し、1.25倍の過剰モルのバルク20kDa−mPEGを添加する。反応は、室温で1〜4時間実施し、SP−セファロース陽イオン交換クロマトグラフィを使用して遊離PEG及び遊離ペプチドからPEG化化合物を分離する。接合体は、RP−HPLCによって脱塩し、凍結乾燥する。
【0036】
実施例3 in vitro活性分析
ヒトGLP−1受容体を安定的に発現しているHEK−293細胞を、96ウェルプレートに、30,000細胞数/ウェル/低血清DMEMF12培地80μlで、CRE−ルシフェラーゼシステムを用いて播種する。播種の翌日に、0.5%BSAに溶解した被検蛋白質のアリコート20μlを混合して、細胞と5時間インキュベートする。通常、EC50値を求める用量反応曲線を作成するため、細胞へ添加する前に、試験GLP−1化合物には0.001nMから10nMを含む10倍希釈を調製し、Val−GLP−1(7−37)OH標準には0.0003nMから3nMを含む10倍希釈を調製する。インキュベーション後に、100μlのルシフェラーゼ試薬を各プレートに直接添加して、2分間穏やかに混合する。プレートをTri−luxルミノメータに入れて、ルシフェラーゼ発現に起因する光出力量を計測する。式I(式中、XaaはValであり、Xaa22はGluであり、Xaa33はIleであり、Xaa46はCys−NHである)のPEG化GLP−1化合物の平均EC50値は、0.36±0.04nMである。
【0037】
実施例4 誘導体化されたGLP−1ペプチドの薬物動態解析
式I(式中、XaaはValであり、Xaa22はGluであり、Xaa33はIleであり、Xaa46はCys−NHである)のPEG化GLP−1化合物を、0.1mg/kgの量で雄のSDラットに静脈(IV)投与又は皮下(SC)投与する。投与後0から192時間の間のさまざまな時点で、上記動物(1群につき3匹のラット)から採血する。各サンプルから血漿を採集し、N末端に特異的なラジオイムノアッセイによって分析する。薬物動態学的パラメータは、モデル非依存の方法(WinNonlinPro)を使用して算出される。IV投与によるPEG化GLP−1類似体の排出半減期は約1.2日、一方SC投与によるPEG化GLP−1類似体の排出半減期は約1.1日である。0.1mg/kgのIV又はSC投与には、いかなる臨床的有害事象も見られなかった。上記化合物には、より長い排出半減期、遅いクリアランス、及び皮下バイオアベイラビリティ(約30%)が認められる。これを示すデータを以下の表1に示す。
表1−
雄のSDラットに対する0.1mg/kgの静脈又は皮下投与後の、式I(ここでXaaはValであり、Xaa22はGluであり、Xaa33はIleであり、Xaa46はCys−NHである)のPEG化GLP−1化合物のMean(±SD)PKパラメータ値。
【0038】
【表1】


観察された最大血漿濃度。
最大血漿濃度が観察された時間。
0から最終時点において測定された血漿濃度−時間曲線下の面積。
排出半減期。
バイオアベイラビリティの関数としての全身クリアランス。
バイオアベイラビリティの関数としての定常状態分布容積。
Val−GLP(7−37)OHを、10μg/kgでフィッシャー344ラットに同様にIV投与すると、以下に示す通り、大きく異なるクリアランス及び排出半減期値が得られる。
クリアランス:1449ml/hr/kg
t1/2(hr):0.05
【0039】
実施例5 誘導体化されたGLP−1ペプチドの薬物動態学的分析
式I(式中、XaaはValであり、Xaa22はGluであり、Xaa33はIleであり、Xaa46はCys−NHである)のPEG化GLP−1化合物を、0.01mg/kgの量で雄のカニクイザルに皮下(SC)投与する。投与後0から168時間のさまざまな時点で、上記動物から採血する。各サンプルから血清を採集し、N末端に特異的なラジオイムノアッセイによって分析する。薬物動態学的パラメータは、モデル非依存の方法(WinNonlinPro)を使用して算出される。これを示すデータを以下の表2に示す。
表2−
雄のカニクイザルに対する0.01mg/kgの皮下投与後の、式I(ここでXaaはValであり、Xaa22はGluであり、Xaa33はIleであり、Xaa46はCys−NHである)のPEG化GLP−1化合物のMean(±SD)PKパラメータ値。
【0040】
【表2】


略語:SD=標準偏差
観察された最大血清濃度。
最大血清濃度が観察された時間。
0から最終時間において測定された血清濃度−時間曲線下の面積。
推定排出半減期。
バイオアベイラビリティの関数としての全身クリアランス。
バイオアベイラビリティの関数としての定常状態分布容積。
【0041】
実施例6 誘導体化されたGLP−1ペプチドの薬力学的分析
式I(式中、XaaはValであり、Xaa22はGluであり、Xaa33はIleであり、Xaa46はCys−NHである)のPEG化GLP−1化合物を、0.01mg/kgの量で雄のカニクイザルに皮下(SC)投与する。媒体対照(リン酸緩衝食塩水)のSC投与直後、0.01mg/kgのPEG化GLP−1類似体のSC投与の1、5、及び7日後にグルコース静注を段階的に実施する。鎮静させたサルに対し16時間の絶食後に、グルコース静注を段階的に実施する。ベースラインを定めるため、グルコース静注を開始する10分前と開始の直前に血液サンプルを採取する。その後、10mg/kg/分を20分間、続いて25mg/kg/分を20分間のグルコース(デキストロース20%)の静注を段階的に開始する。静注期間中、10分間隔で血液サンプルを採取する。インシュリン濃度は、イムノアッセイで測定される。PEG化GLP―1類似体0.01mg/kgの1回のSC注射後、インスリン分泌促進作用が少なくとも7日間呈される(偽薬比、P<0.0001)。これを示すデータを以下の表3に示す。
表3−
雄のカニクイザルに対する0.01mg/kgの皮下投与後の、式I(ここでXaaはValであり、Xaa22はGluであり、Xaa33はIleであり、Xaa46はCys−NHである)のPEG化GLP−1化合物のMean(±SD)PDパラメータ値。
【0042】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式:His−Xaa−Glu−Gly−Thr−Phe−Thr−Ser−Asp−Val−Ser−Ser−Tyr−Leu−Glu−Xaa22−Gln−Ala−Ala−Lys−Glu−Phe−Ile−Ala−Trp−Leu−Xaa33−Lys−Gly−Gly−Pro−Ser−Ser−Gly−Ala−Pro−Pro−Pro−Cys45−Xaa46(配列番号:1)
[式中、
Xaaは、D−Ala、Gly、Val、Leu、Ile、Ser又はThrであり、
Xaa22は、Gly、Glu、Asp又はLysであり、
Xaa33は、Val又はIleであり、
Xaa46は、Cys又はCys−NHであり、
1つのPEG分子は、Cys45に共有結合され、1つのPEG分子は、Cys46又はCys46−NHに共有結合される]
で示されるアミノ酸配列を含んでなるPEG化GLP−1化合物。
【請求項2】
XaaがGly又はValであり、Xaa22がGly又はGluである、請求項1に記載のPEG化GLP−1化合物。
【請求項3】
XaaがValであり、Xaa22がGluである、請求項2に記載のPEG化GLP−1化合物。
【請求項4】
XaaがValであり、Xaa22がGluであり、Xaa33がIleであり、Xaa46がCys−NHである、請求項3に記載のPEG化GLP−1化合物。
【請求項5】
前記PEG分子が、20キロダルトンの直鎖状メトキシPEGマレイミドである、請求項1〜4のいずれかに記載のPEG化GLP−1化合物。
【請求項6】
治療が必要な患者におけるインスリン非依存性糖尿病を治療する方法であって、請求項1〜5のいずれかに記載の有効量のPEG化GLP−1化合物を投与することを含んでなる方法。
【請求項7】
治療が必要な患者における肥満症を治療する方法であって、請求項1〜5のいずれかに記載の有効量のPEG化GLP−1化合物を投与することを含む方法。
【請求項8】
医薬として使用するための請求項1〜5のいずれかに記載のPEG化GLP−1化合物。
【請求項9】
インスリン非依存性糖尿病又は肥満症の治療のための医薬の製造における請求項1〜6のいずれかに記載のPEG化GLP−1化合物の使用。

【公開番号】特開2013−79256(P2013−79256A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−266820(P2012−266820)
【出願日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【分割の表示】特願2008−511371(P2008−511371)の分割
【原出願日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(594197872)イーライ リリー アンド カンパニー (301)
【Fターム(参考)】