GMA溶接方法
【課題】溶接部の特性をさらに向上させた溶接を行なうことが可能なGMA溶接方法を提供する。
【解決手段】GMA溶接装置10は、ノズル11、コンタクトチップ12、溶接ワイヤ13、ワイヤ送給ローラ14、ワイヤ送給制御装置15、及びアーク溶接電源17を備えている。GMA溶接装置10では、シールドガス16に含まれるO2及びCO2のいずれかの酸化性ガスを従来より少なくすることにより、母材20の溶融池21の酸素濃度を従来より低い50〜310重量ppmに低下させ、溶接速度を0.4m/min以下とする。このため、溶融池21中の対流の方向を溶融池21の中心から溶融池21の底部に向かう方向にすることができ、より深い溶け込み形状の溶融池21を得ることが可能となる。
【解決手段】GMA溶接装置10は、ノズル11、コンタクトチップ12、溶接ワイヤ13、ワイヤ送給ローラ14、ワイヤ送給制御装置15、及びアーク溶接電源17を備えている。GMA溶接装置10では、シールドガス16に含まれるO2及びCO2のいずれかの酸化性ガスを従来より少なくすることにより、母材20の溶融池21の酸素濃度を従来より低い50〜310重量ppmに低下させ、溶接速度を0.4m/min以下とする。このため、溶融池21中の対流の方向を溶融池21の中心から溶融池21の底部に向かう方向にすることができ、より深い溶け込み形状の溶融池21を得ることが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤである消耗式電極と被溶接物との間にアークを発生させることによって、被溶接物を溶接するGMA(Gas Metal Arc)溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タングステンからなる非消耗式電極と被溶接物(母材)との間にアークを発生させることによって、被溶接物を溶接するTIG(Tangsten Inert Gas)溶接が広く利用されている。特許文献1には、被溶接物の溶融池(溶接金属部)をより深い溶け込み形状とするため、不活性ガスからなる第1のシールドガスを、電極を囲むように被溶接物に向けて流すとともに、酸化性ガスを含む第2のシールドガスを、第1のシールドガスの周辺側に、被溶接物に向けて流し、溶接金属部の酸素濃度を70〜220wt.ppmとするTIG溶接方法が開示されている。また、特許文献2には、ヘリウムガスに酸素ガスを添加してその濃度を0.2vol.%以上(好ましくは0.4vol.%以上)としたシールドガスを使用し、溶接金属中の酸素濃度を70〜700ppmとすることで溶接金属部の溶け込み深さを深くし、溶接金属部の寸法比D/W値を大きくしたTIG溶接方法が開示されている。
【0003】
一方、溶接ワイヤである消耗式電極と被溶接物との間にアークを発生させることによって被溶接物を溶接するMIG(Metal Inert Gas)溶接、MAG(Metal Active Gas)溶接、及び炭酸ガス(CO2)ガスアーク溶接等のGMA(Gas Metal Arc)溶接は、TIG溶接よりも広く利用されている。GMA溶接において、上記特許文献1及び2のように、溶融池中の酸素濃度を低濃度とするものとしては、例えば、特許文献3には、GMA溶接において、流量5〜6L/minのアルゴンガスからなるシールド中に流量0.001〜0.2L/minの水素ガス、酸素ガス及び炭酸ガス等を混入させることにより、溶融特性の向上と溶接スピードの増大とを図る構成が開示されている。また、非特許文献1には、溶接金属中の酸素量を100重量ppm以下とすることにより、溶接部の機械的性質、特にじん性の改善を図る構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3936342号明細書
【特許文献2】特開2007−44741号公報
【特許文献3】特開昭53−43649号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】高橋誠、他4名,「溶接金属中酸素量を低減するGMA溶接法の開発」,太陽日酸技報,太陽日酸株式会社,2005年,No.24,p.41−46
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、産業界において広く用いられるGMA溶接には、溶接の品質及び効率の向上に対してさらなる要求があり、溶接部の特性をさらに向上させた溶接を行なうことが可能な技術が望まれている。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑みなされたものであり、その目的は、溶接部の特性をさらに向上させた溶接を行なうことが可能なGMA溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る発明は、溶接ワイヤである消耗式電極と被溶接物との間にアークを発生させることによって、被溶接物を溶接するGMA溶接方法であって、被溶接物の溶融池中の酸素濃度を50〜310重量ppmとし、被溶接物の溶接速度を0.4m/min以下とするGMA溶接方法である。
【0009】
この構成によれば、被溶接物の溶融池中の酸素濃度を50〜310重量ppmと低酸素濃度とすることにより、溶融池中の対流の方向を溶融池の中心から溶融池の底部に向かう方向にすることができる。そのため、より深い溶け込み形状の溶融池を得ることが可能となる。また、被溶接物の溶接速度を従来より遅い0.4m/min以下とすることにより、さらに深い溶け込み形状の溶融池を得ることが可能となる。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る発明は、溶接ワイヤである消耗式電極と被溶接物との間にアークを発生させることによって、被溶接物を溶接するGMA溶接方法であって、被溶接物の溶融池中の酸素濃度を50〜310重量ppmとし、被溶接物の溶接は、消耗式電極を溶融池に対して進退動させることにより、アークを断続的に発生させるCMT(Cold Metal Transfer)溶接により行なうGMA溶接方法である。
【0011】
CMT溶接は、アークを断続的に発生させることで消費電流を少なくすることができ、一般に薄い被溶接物において、浅い溶け込み形状の溶融池を得るために用いられている手法である。しかしながら、この構成によれば、被溶接物の溶接をCMT溶接により行なうことにより、消耗式電極が溶融池に対して進退動をして、消耗式電極と溶融池との短絡を強制的に切断することによりアークを断続的に発生させるため、被溶接物の溶融池中の酸素濃度が50〜310重量ppmと低くなるように、シールドガスに含まれる酸素量を減少させた場合に、シールドガスにより溶融池表面に生成される酸化物による安定な陰極点が減少しても、アークが乱れることが少なくなり、アークが不安定になることを防止することができる。
【0012】
また、本発明の請求項3に係る発明は、溶接ワイヤである消耗式電極と被溶接物との間にアークを発生させることによって、被溶接物を溶接するGMA溶接方法であって、被溶接物の溶融池中の酸素濃度を50〜310重量ppmとし、被溶接物の溶接は、消耗式電極を囲むように消耗式電極と被溶接物との間にプラズマを発生させるプラズマGMA溶接により行なうGMA溶接方法である。
【0013】
この構成によれば、被溶接物の溶接をプラズマGMA溶接により行なうことにより、プラズマにより発生する電磁ピンチ力により、消耗式電極から被溶接物との間に発生するアークが安定するため、被溶接物の溶融池中の酸素濃度が50〜310重量ppmと低くなるように、シールドガスに含まれる酸化性ガスの量を減少させた場合に、アークが不安定になることを防止することができる。
【0014】
本発明の請求項4に係る発明は、溶接ワイヤである消耗式電極と被溶接物との間にアークを発生させることによって、被溶接物を溶接するGMA溶接方法であって、被溶接物の溶融池中の酸素濃度を230〜310重量ppmとするGMA溶接方法である。
【0015】
この構成によれば、被溶接物の溶融池中の酸素濃度を230〜310重量ppmの範囲にすることにより、より深い溶け込み形状の溶融池を得ることが可能となり、かつアークが乱れることが少なくなり、アークが不安定になることを防止することができる。
【0016】
さらに、本発明の請求項5に係る発明は、溶接ワイヤである消耗式電極と被溶接物との間にアークを発生させることによって、被溶接物を溶接するGMA溶接方法であって、被溶接物の溶融池中の酸素濃度を50〜310重量ppmとし、酸化性ガスを含む不活性ガスからなる第1シールドガスを消耗式電極を囲むように被溶接物に向けて流すとともに、
第1シールドガスよりも少量の酸化性ガスを含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかからなる第2シールドガスを第1シールドガスの外周側を囲むように被溶接物に向けて流すGMA溶接方法である。
【0017】
この構成によれば、被溶接物の溶融池中の酸素濃度を50〜310重量ppmとすることにより、より深い溶け込み形状の溶融池を得ることが可能となる。また、酸化性ガスを含む不活性ガスからなる第1シールドガスを消耗式電極を囲むように被溶接物に向けて流すとともに、第1シールドガスよりも少量の酸化性ガスを含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかからなる第2シールドガスを第1シールドガスの外周側を囲むように被溶接物に向けて流すことにより、溶融池表面の中央付近に酸化物を生成させ、溶融池表面の中央付近に生成される酸化物による安定な陰極点により、アークが乱れることが少なくなり、アークが不安定になることを防止することができる。
【0018】
一方、本発明の請求項1〜4のいずれか1項に係る発明において、シールドガスを、消耗式電極を囲むように被溶接物に向けて流し、シールドガスは、シールドガスのガス流量x(L/min)、シールドガス中のO2量y(体積%)、消耗式電極中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池中における溶融した消耗式電極の割合β(0<β<1)、被溶接物中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+125y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦125y+βα+(1−β)γ≦310を満たすO2を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとすることが好適である。
【0019】
シールドガスのガス流量が大きく、消耗式電極及び被溶接物に含まれる酸素量が少ないほど、シールドガスに含まれる酸化性ガスの量が同じでもシールドガス、大気及び消耗式電極から溶融池に巻き込まれる酸素量は低くなるため、シールドガス中の酸化性ガスの量はガス流量に応じて変化させる必要がある。しかし、この構成によれば、シールドガスを、シールドガスのガス流量x(L/min)、シールドガス中のO2量y(体積%)、消耗式電極中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池中における溶融した消耗式電極の割合β(0<β<1)、被溶接物中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+125y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦125y+βα+(1−β)γ≦310を満たすO2を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとすることにより、いずれのガス流量、消耗式電極内及び被溶接物内の酸素量であっても、溶融池中の酸素濃度を50〜310重量ppmの範囲にすることができ、確実により深い溶け込み形状の溶融池を得ることが可能となる。
【0020】
あるいは、本発明の請求項1〜4のいずれか1項に係る発明において、シールドガスを、消耗式電極を囲むように被溶接物に向けて流し、シールドガスは、シールドガスのガス流量x(L/min)、シールドガス中のCO2量y(体積%)、消耗式電極中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池中における溶融した消耗式電極の割合β(0<β<1)、被溶接物中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たすCO2を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとすることが好適である。
【0021】
シールドガスをCO2を含む不活性ガスとする場合には、CO2はアーク温度である5000〜10000Kでは、COとOとに解離しCOはほとんど解離しないと考えられる。一方、O2は上記アーク温度で2Oに解離することから、活性酸素Oは、CO2ガスではO2ガスの半分であると仮定できる。そこで、シールドガスをCO2を含む不活性ガスとする場合には、シールドガスを、請求項6の式におけるyの係数125を1/2の62.5とし、x<50で、50≦125−2.5x+62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たすCO2量y(体積%)を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとすることにより、いずれのガス流量、消耗式電極内及び被溶接物内の酸素量であっても、溶融池中の酸素濃度を50〜310重量ppmの範囲にすることができ、確実により深い溶け込み形状の溶融池を得ることが可能となる。
【0022】
また、本発明の請求項1〜4、6及び7のいずれか1項に係る発明において、Heガスを含むシールドガスを、消耗式電極を囲むように被溶接物に向けて流すことが好適である。
【0023】
この構成によれば、シールドガスにHeガスを用いることにより、さらに深い溶け込み形状の溶融池を得ることが可能となる。また、He、Ar及び必要に応じて酸化性ガスを混合することにより、点弧性も確保することができる。
【0024】
同様に、本発明の請求項5に係る発明において、第1シールドガスはO2を含む不活性ガスとし、第2シールドガスは不活性ガスのみからなるガスとした場合は、第1シールドガスは、第1シールドガス及び第2シールドガスの合計のガス流量x(L/min)、第1シールドガス中のO2量y(体積%)、消耗式電極中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池中における溶融した消耗式電極の割合β(0<β<1)、被溶接物中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+125y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦125y+βα+(1−β)γ≦310を満たすガスとすることが好適である。
【0025】
また、本発明の請求項5に係る発明において、第1シールドガスはCO2を含む不活性ガスとし、第2シールドガスは不活性ガスのみからなるガスとして、第1シールドガスは、第1シールドガス及び第2シールドガスの合計のガス流量x(L/min)、第1シールドガス中のCO2量y(体積%)、消耗式電極中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池中における溶融した消耗式電極の割合β(0<β<1)、被溶接物中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たすガスとすることが好適である。
【0026】
一方、本発明の請求項5に係る発明において、第1シールドガス及び第2シールドガスはO2を含む不活性ガスとして、第1シールドガス及び第2シールドガスは、第1シールドガス及び第2シールドガスの合計のガス流量x(L/min)、第1シールドガス中及び第2シールドガス中の合計のO2量y(体積%)、消耗式電極中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池中における溶融した消耗式電極の割合β(0<β<1)、被溶接物中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+125y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦125y+βα+(1−β)γ≦310を満たすガスとすることが好適である。
【0027】
また、本発明の請求項5に係る発明において、第1シールドガス及び第2シールドガスはCO2を含む不活性ガスとして、第1シールドガス及び第2シールドガスは、第1シールドガス及び第2シールドガスの合計のガス流量x(L/min)、第1シールドガス中及び第2シールドガス中の合計のCO2量y(体積%)、消耗式電極中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池中における溶融した消耗式電極の割合β(0<β<1)、被溶接物中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たすガスとすることが好適である。
【0028】
また同様に、本発明の請求項5、9〜12のいずれか1項に係る発明において、第1シールドガスは、Heガスを含むガスとすることが好適である。
【0029】
さらに、本発明の請求項2〜13のいずれか1項に係る発明において、被溶接物の溶接速度を0.4m/min以下とすることが、さらに深い溶け込み形状の溶融池を得ることが可能となるため好適である。
【0030】
また、本発明の請求項1〜14のいずれか1項に係る発明において、被溶接物の表面からの溶融池の深さを被溶接物の溶接速度により制御し、溶融池の深さを深くするときほど溶接速度を遅くするものとできる。
【0031】
この構成によれば、溶融池の深さを深くするときほど溶接速度を遅くすることにより、溶融池の深さを制御することが可能となる。
【0032】
あるいは、本発明の請求項1〜14のいずれか1項に係る発明において、被溶接物の表面からの溶融池の深さを消耗式電極に流す電流値により制御し、溶融池の深さを深くするときほど電流値を大きくするものとできる。
【0033】
この構成によれば、溶融池の深さを深くするときほど消耗式電極に流す電流値を大きくすることにより、溶融池の深さを制御することが可能となる。
【発明の効果】
【0034】
本発明のGMA溶接方法によれば、より深い溶け込み形状の溶融池を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】第1実施形態に係るGMA溶接の概要を示す図である。
【図2】(a)〜(d)は、第1実施形態に係るCMT溶接の概要を示す図である。
【図3】溶融池における温度と表面張力との関係を示す図である。
【図4】第1実施形態における溶融池の状態を示す図である。
【図5】シールドガスをArガスとしたCMT溶接におけるガス流量と溶融池の酸素量との関係を示すグラフ図である。
【図6】シールドガスをArガスとしたパルス溶接におけるガス流量と溶融池の酸素量との関係を示すグラフ図である。
【図7】CMT溶接においてガス流量を10L/minである場合のガス中のO2量と溶融池の酸素量との関係を示すグラフ図である。
【図8】CMT溶接においてガス流量を25L/minである場合のガス中のO2量と溶融池の酸素量との関係を示すグラフ図である。
【図9】シールドガスをArガスとし、溶接ワイヤの酸素量を200重量ppmとしたCMT溶接におけるガス流量と溶融池の酸素量との関係を示すグラフ図である。
【図10】パルス溶接においてガス流量を10L/minである場合のガス中のO2量と溶融池の酸素量との関係を示すグラフ図である。
【図11】(a)(b)は、従来のGMA溶接における母材に形成したY型開先及び溶融池の形状を示す断面図である。
【図12】(a)(b)は、実施形態のGMA溶接における母材に形成したY型開先及び溶融池の形状を示す断面図である。
【図13】第2実施形態に係るプラズマGMA溶接の概要を示す図である。
【図14】第3実施形態に係るGMA溶接の概要を示す図である。
【図15】(a)〜(k)は、シールドガスをArガスとしたCMT溶接においてガス流量を10L/minとしてガス中のO2量を変化させた場合の溶融池を示す図である。
【図16】(a)〜(g)は、シールドガスを純粋なArガスとしたCMT溶接においてガス流量を変化させた場合の溶融池を示す図である。
【図17】(a)〜(k)は、シールドガスをArガスとしたCMT溶接においてガス流量を25L/minとしてガス中のO2量を変化させた場合の溶融池を示す図である。
【図18】(a),(b)は、CMT溶接においてガス流量を25L/minとしてシールドガスを変化させた場合の溶融池を示す図である。
【図19】(a)〜(f)は、シールドガスをArガスとし、電流値を180Aとしたパルス溶接においてガス流量を10L/minとしてガス中のO2量を変化させた場合の溶融池を示す図である。
【図20】(a)〜(c)は、シールドガスをArガスとし、電流値を150Aとしたパルス溶接においてガス流量を10L/minとしてガス中のO2量を変化させた場合の溶融池を示す図である。
【図21】(a)〜(d)は、シールドガスをArガスとし、ガス流量を10L/minとしたパルス溶接において、電流値を150A〜180Aと変化させた場合の溶融池21を示す図である。
【図22】(a)〜(f)は、酸素濃度200重量ppmの溶接ワイヤを用いシールドガスを純粋なArガスとしたCMT溶接においてガス流量を変化させた場合の溶融池を示す図である。
【図23】(a)〜(c)は、炭素鋼を母材とし、シールドガス16をArガスとしたCMT溶接においてガス流量を10L/minとしてガス中のO2量を変化させた場合の溶融池を示す図である。
【図24】(a)〜(h)は、シールドガスを0.4体積%のO2ガスを含むArガスとし、溶接速度を0.12〜0.60m/minと変化させた場合の溶融池を示す図である。
【図25】(a)〜(h)は、シールドガスを1.0体積%のO2ガスを含むArガスとし、溶接速度を0.12〜0.60m/minと変化させた場合の溶融池を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0037】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るGMA溶接の概要を示す図である。図1に示すように、本実施形態のGMA溶接装置10は、ノズル11、コンタクトチップ12、溶接ワイヤ13、ワイヤ送給ローラ14、ワイヤ送給制御装置15、及びアーク溶接電源17を備えている。本実施形態におけるGMA溶接では、シールドガス16に含まれるO2およびCO2のいずれかの酸化性ガスを従来より少なくすることにより、母材20の溶融池21の酸素濃度を従来より低い50〜310重量ppm、より好ましくは50〜200重量ppmに低下させて、さらに溶接速度を従来より遅い0.4m/min以下とすることによって、従来より深い溶け込み形状の溶融池21を得る。
【0038】
ノズル11内には、コンタクトチップ12が内蔵されている。コンタクトチップ12は、ワイヤ送給ローラ14及びワイヤ送給制御装置15が溶接速度に応じて送給する溶接ワイヤ13を、コンタクトチップ12中心に設けられた貫通孔を介して母材20の溶融池21に向けて導出する。コンタクトチップ12は、溶接ワイヤ13と電気的に導通し、アーク溶接電源17から電流を供給される。アーク溶接電源17は、消耗式電極となる溶接ワイヤ13と母材20の溶融池21との間に電圧を印加し、溶接ワイヤ13と溶融池21との間にアーク18を発生させることにより、母材20を溶接する。
【0039】
なお、図中では、溶接ワイヤ13側を正極、溶融池21側を負極としているが、逆に溶接ワイヤ13側を負極、溶融池21側を正極とするか、あるいは溶接ワイヤ13と溶融池21との間に交流電圧を印加することにより、溶接ワイヤ13の溶解速度及び溶融池21の深さを適宜調節することが可能である。一般に溶接ワイヤ13側を負極、溶融池21側を正極とすることにより、溶接ワイヤ13側を正極、溶融池21側を負極とした場合より、溶融池21の深さを1.5倍とすることができる。
【0040】
ノズル11の内側とコンタクトチップの外側との間には、シールドガス16が所定のガス流量で供給され、シールドガス16は溶接ワイヤ13を囲むように母材20に向けて流される。シールドガス16は、主にArガス、Heガスからなり、後述するように、シールドガス16のガス流量に応じた体積%のO2及びCO2のいずれかの酸化性ガスを含んでいる。シールドガス16の主成分は、Arガスとすることにより安価とすることが可能であるが、Heガスとすることにより、より深い溶融池21を形成することが可能となる。
【0041】
GMA溶接において、シールドガス16に含まれるO2,CO2等の酸化性ガスを少なくした場合でも、アーク18を安定させるためには、溶接ワイヤ13を溶融池21に対して進退動させることにより、アーク18を断続的に発生させるCMT溶接が有効である。
【0042】
図2(a)〜(d)は、本実施形態に係るCMT溶接の概要を示す図である。図2(a)に示すように、CMT溶接においては、アーク18の発生時に溶接ワイヤ13は溶融池21に向かって前進させられる。図2(b)に示すように、溶接ワイヤ13が溶融池21に浸かると、アーク18は消滅し、溶接ワイヤ13を流れる電流は瞬時に低下する。図2(c)に示すように、溶接ワイヤ13が溶融池21から後退させられ、短絡中の溶融池21との短絡の切断を支援される。このときは、短絡電流は低いままである。図2(d)に示すように、溶接ワイヤ13が溶融池21から離されると、アーク18が再度発生し、図2(a)からの手順が繰り返される。
【0043】
なお、本実施形態では、溶接ワイヤ13と溶融池21との短絡を切断するのに、溶接ワイヤ13を進退動させず、溶接ワイヤ13にパルス状の電流を断続的に印加することによって溶接ワイヤ13と溶融池21との短絡を切断するパルス溶接によっても良い。また、上記CMT溶接や後述のパルスGMA溶接によらない場合でも、溶融池21の酸素濃度を150〜310重量ppmの範囲、より好ましくは230〜310重量ppmの範囲、さらに好ましくは240〜310重量ppmとすることにより、アーク18を安定させることが可能となる。
【0044】
以下、本実施形態のGMA溶接の作用について説明する。図3は、溶融池における温度と表面張力との関係を示す図である。図3に破線のグラフで示すように、溶融池21の酸素濃度が通常である場合は、溶融池21の温度が高温になるほど、表面張力が低下する。一方、溶融池21の酸素濃度が通常より低い50〜310重量ppmである場合は、図3に実線のグラフで示すように、溶融池21の温度が高温になるほど、表面張力が上昇する。なお、本願明細書で示す溶融池21内の酸素含有量は、酸素/窒素同時測定装置(株式会社堀場製作所、商品名:EMGA−520)を用いて測定を行なったものである。試料は、溶接後に、溶接金属から直接切断し、採取したものである。
【0045】
図4は、本実施形態における溶融池21の状態を示す図である。一般に図中に示す溶融池21の中央側領域R1の方が、周辺側領域R2よりも高温となる。本実施形態では、溶融池21の酸素濃度を通常より低い50〜310重量ppmとするため、中央側領域R1の表面張力の方が、周辺側領域R2の表面張力よりも大きくなる。そのため、図4に示すように、溶融池21では図中矢印に示すような溶融池の中央側領域R1から溶融池21の底部に向かう対流が促進され、溶融池21の溶け込み形状をより深くすることができる。この場合、溶融池21の酸素濃度は50〜200重量ppmとすることにより、溶融池21の溶け込み形状をさらに深くすることができる。
【0046】
溶融池21の酸素濃度は、シールドガス16に含まれるO2及びCO2のいずれかの酸化性ガスの量、ガス流量及び溶接の種類によって異なる。図5は、シールドガス16を純粋なArガスとしたCMT溶接におけるガス流量と溶融池の酸素量との関係を示すグラフ図であり、図6は、シールドガス16を純粋なArガスとしたパルス溶接におけるガス流量と溶融池の酸素量との関係を示すグラフ図である。図5及び6に示すように、一般にシールドガス16のガス流量が大きいほど溶融池21の酸素濃度は低下することが判る。また、同じガス流量では、CMT溶接の方が溶融池21の酸素濃度が大きいことが判る。これは、CMT溶接の方が、大気から溶融池21に対して酸素を巻き込む割合が大きいためであると考えられる。
【0047】
図7は、CMT溶接においてガス流量を10L/minである場合のガス中のO2量と溶融池の酸素量との関係を示すグラフ図であり、図8は、CMT溶接においてガス流量を25L/minである場合のガス中のO2量と溶融池の酸素量との関係を示すグラフ図である。図7に示すように、CMT溶接においてガス流量を10L/minである場合に溶融池21の酸素濃度をより好ましい200重量ppm以下とするためには、シールドガス16に含まれるO2ガスの量を0.6体積%以下とするべきであることが判る。
【0048】
また、図8に示すように、CMT溶接においてガス流量を25L/minである場合に溶融池21の酸素濃度をより好ましい200重量ppm以下とするためには、シールドガス16に含まれるO2ガスの量を0.9体積%以下とするべきであることが判る。
【0049】
一方、図5の結果から、シールドガス16を純粋なArガス場合において、ガス流量を50L/minした場合、溶融池21の酸素濃度は50重量ppm以上となっているが、溶融池21の酸素濃度を好ましい50〜200重量ppmとするためには、シールドガス16に含まれるO2ガスの量を0.2〜1.4体積%とすることが好ましいことが判明した。
【0050】
以上の結果から、ガス流量10L/minのときにO2ガスの量は0〜0.6重量%が好ましく、ガス流量25L/minのときにO2ガスの量は0〜0.9重量%が好ましく、ガス流量50L/minのときにO2ガスの量は0.2〜1.4重量%以上が好ましい。
【0051】
一方、これらの結果は、溶接ワイヤ13に含まれる酸素量がおおよそ30重量ppmで、母材20に含まれる酸素量がおおよそ20重量ppmで、溶融池21中に溶融した溶接ワイヤ13の割合がおおよそ0.5である場合であり、溶接ワイヤ13及び母材20に含まれる酸素量が変動するときは、溶接ワイヤ13及び母材20中の酸素濃度及び溶融池21中に溶融した溶接ワイヤ13の割合を考慮する必要がある。例えば、図9はシールドガス16をArガスとし、溶接ワイヤ13の酸素量を200重量ppmとしたCMT溶接におけるガス流量と溶融池の酸素量との関係を示すグラフ図であるが、溶接ワイヤ13から溶融池21内に酸素が混入するため、図5の値と比べると溶融池21の酸素濃度が高くなっていることが判る。
【0052】
そこで、シールドガス16のガス流量と、シールドガス16に含まれるO2ガスの量とに対する溶融池21の酸素量とが線形的な関係であると仮定して図5のグラフを直線近似し、図5のシールドガス16を純粋なArガスとした場合のガス流量0L/minにおける溶融池21内の酸素量を150重量ppmと仮定する。この場合、ガス流量が1L/min増加する毎に溶融池21内の酸素量は2.5重量ppmずつ減少する。また、シールドガス16中の酸素量が1体積%増加する毎に溶融池21の酸素量は125重量ppmずつ増加する。さらに、大気から溶融池21に酸素が巻き込まれるか否かによって溶融池21内の酸素量は異なり、例えば、シールドガス16のガス流量が50L/min未満の場合は大気から溶融池21に酸素が巻き込まれる傾向が強く、溶融池21内の酸素量はシールドガス16のガス流量に依存すると考えられる。一方、シールドガス16のガス流量が50L/min以上の場合は大気から溶融池21に巻き込まれる酸素量が少なく、溶融池21内の酸素量はシールドガス16のガス流量に大きく依存しないと考えられる。
【0053】
一方、図5において、ガス流量0L/minにおける溶融池21内の酸素量150重量ppmという値は、溶融池21に占める溶接ワイヤ13の割合を50%とすると、30重量ppmの酸素を含む溶接ワイヤ13から15重量ppmの酸素が溶出し、20重量ppmの酸素を含む母材20から10重量ppmが溶出することになる。したがって、ガス流量0L/minにおいて、純粋に大気から巻き込まれて溶融池21に溶出する酸素量は125重量ppmであると推定できる。
【0054】
以上より、CMT溶接においてシールドガス16をO2を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとする場合において、大気から溶融池21に酸素が巻き込まれる傾向が強く、溶融池21内の酸素量がシールドガス16のガス流量に依存すると考えられるシールドガス16のガス流量が50L/min未満のときは、シールドガス16を、シールドガス16のガス流量x(L/min)、シールドガス16中のO2量y(体積%)、溶接ワイヤ13中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池21中における溶融した溶接ワイヤ13の割合β(0<β<1)、母材20中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+125y+βα+(1−β)γ≦310を満たすO2を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとすることにより、溶融池21の酸素濃度を50〜310重量ppm以下とすることが可能であることが判る。
【0055】
一方、大気から溶融池21に巻き込まれる酸素量が少なく、溶融池21内の酸素量がシールドガス16のガス流量に大きく依存しない考えられるシールドガス16のガス流量が50L/min以上のときは、上記式において、大気から溶融池21に溶出する酸素量の項である“125”の項、及び溶融池21内の酸素量におけるシールドガス16のガス流量への依存性を示す項である“−2.5x”の項を除いて、シールドガス16を、シールドガス16のガス流量x(L/min)、シールドガス16中のO2量y(体積%)、溶接ワイヤ13中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池21中における溶融した溶接ワイヤ13の割合β(0<β<1)、母材20中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、50≦xで、50≦125y+βα+(1−β)γ≦310を満たすO2を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとすることにより、溶融池21の酸素濃度を50〜310重量ppm以下とすることが可能であることが判る。
【0056】
一方、CMT溶接においてシールドガス16をCO2を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとする場合は、CO2はアーク温度である5000〜10000Kでは、COとOとに解離しCOはほとんど解離しないと考えられる。一方、O2は上記アーク温度で2Oに解離することから、活性酸素Oは、CO2ガスではO2ガスの半分であると仮定できる。そこで、シールドガス16をCO2を含む不活性ガスとする場合には、シールドガス16を、上記の式におけるyの係数125を1/2の62.5とした、x<50で、50≦125−2.5x+62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たすCO2量y(体積%)を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとすることにより、いずれのガス流量、溶接ワイヤ13内及び母材20内の酸素量であっても、溶融池21中の酸素濃度を50〜310重量ppmの範囲にすることができ、確実により深い溶け込み形状の溶融池21を得ることが可能となる。
【0057】
なお、以上より、シールドガス16をCO2を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとする場合は、例えば、ガス流量10L/minのときにCO2ガスの量は0〜1.2重量%が好ましく、ガス流量25L/minのときにO2ガスの量は0〜1.8重量%が好ましく、ガス流量50L/minのときにO2ガスの量は0.4〜2.8重量%以上が好ましいこととなる。
【0058】
図10は、溶接ワイヤ13に印加するパルス電流を180Aとしたパルス溶接においてガス流量を10L/minである場合のガス中のO2量と溶融池の酸素量との関係を示すグラフ図である。上述したように、パルス溶接においてはCMT溶接に比べて、シールドガス16に含まれるO2及びCO2のいずれかの酸化性ガスの量の上限が大きくなり、パルス溶接においてガス流量を10L/minである場合に溶融池21の酸素濃度をより好ましい200重量ppm以下とするためには、シールドガス16に含まれるO2及びCO2のいずれかの酸化性ガスの量を0.7体積%以下とするべきであることが判る。
【0059】
なお、溶融池21の酸素濃度を50〜310重量ppm、より好ましくは200重量ppm以下とするためには、シールドガス16に含まれるO2及びCO2のいずれかの酸化性ガスの量を制御するだけではなく、溶接ワイヤ13に含まれる酸素量を制御することによっても、溶融池21の酸素濃度を制御することができる。なおこの場合、溶融池21の表面に酸化膜が形成されにくくなるため、溶融池21の酸素濃度を200〜310重量ppmとした場合においても、200重量ppm以下と同様に溶融池21の溶け込み深さを深くする効果を奏させることが可能となる。
【0060】
また、溶融池21の深さの調整は、溶融池21を深くするときほど溶接速度を遅くするか、あるいは溶接ワイヤ13に流す電流値を大きくすることにより、行なうことができる。
【0061】
本実施形態においては、母材20の溶融池21中の酸素濃度を50〜310重量ppmとし、溶接速度を0.4m/min以下とすることで、溶融池21中の対流の方向を溶融池21の中心から溶融池21の底部に向かう方向にすることができ、より深い溶け込み形状の溶融池21を得ることが可能となる。従来、MIG溶接等のGMA溶接においては、溶融池21の酸素濃度を低めるためにシールドガス16の酸素濃度を低下させた場合は、アーク18が不安定となることが知られているため、溶融池21の酸素濃度を低下させることは考えられてはいない。
【0062】
しかしながら、従来のGMA溶接においては、図11(a)に示すように、深いY型開先22を母材20に形成する必要があり、また、母材20の裏側まで溶融池21が届くようにするため、ギャップ23が必要となる。さらに、図11(b)に示すように、従来のGMA溶接では溶融池21の深さが浅いため、複数回の溶接を行い、溶融池21を多層に形成する必要があり、効率が低い。一方、本実施形態のGMA溶接においては、図12(a)に示すように、浅いY型開先22を母材20に形成すれば良く、ギャップ23を形成する必要はなく作業効率が極めて向上する。さらに、図12(b)に示すように、Y型開先22の上部の空間を深い溶融池21で埋め、例えば、母材20が20mm以上の厚さのステンレス鋼板であっても一度の溶接で母材20を溶融池21で貫通して溶接することが可能であるため、効率が良い。
【0063】
また、本実施形態では、母材20の溶接をCMT溶接により行なうことにより、溶接ワイヤ13が溶融池21に対して進退動をして、溶接ワイヤ13と溶融池21との短絡を強制的に切断することによりアーク18を断続的に発生させるため、母材20の溶融池21中の酸素濃度が低くなるように、シールドガス16に含まれる酸化性ガスの量を減少させた場合に、シールドガス16により溶融池21表面に生成される酸化物による安定な陰極点が減少しても、アーク18が乱れることが少なくなり、アーク18が不安定になることを防止することができる。
【0064】
さらに、本実施形態では、不活性ガスからなるシールドガス16を、O2を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとする場合は、シールドガス16を、シールドガス16のガス流量x(L/min)、シールドガス16中のO2量y(体積%)、溶接ワイヤ13中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池21中における溶融した溶接ワイヤ13の割合β(0<β<1)、母材20中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、50≦125−2.5x+125y+βα+(1−β)γ≦310を満たすO2を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとし、シールドガス16をCO2を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとする場合は、50≦125−2.5x+62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たすCO2量y(体積%)を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとすることにより、確実により深い溶け込み形状の溶融池21を得ることが可能となる。
【0065】
加えて本実施形態では、シールドガス16にHeガスを用いることにより、さらに深い溶け込み形状の溶融池21を得ることが可能となる。
【0066】
また、本実施形態では、溶融池21の深さを深くするときほど溶接速度を遅くするか、溶接ワイヤ13に流す電流値を大きくすることにより、溶融池21の深さを制御することが可能となる。
【0067】
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態について説明する。図13は、第2実施形態に係るプラズマGMA溶接の概要を示す図である。図13に示すように、本実施形態のプラズマGMA溶接装置100では、コンタクトチップ12の周囲に、第1インナーノズル101、第2インナーノズル102、及びアウターノズル103が三重に配置されている。本実施形態におけるGMA溶接では、溶接ワイヤ13を囲むように溶接ワイヤ13と母材20との間にプラズマを発生させる。
【0068】
第1インナーノズル101は、プラズマ電源108からの電圧を印加されプラズマ電極として機能する。第1インナーノズル101とコンタクトチップ12との間には、Arガス等の不活性ガスであるセンターガス104が流される。センターガス104は、アーク溶接用に用いられる。第1インナーノズル101には、冷却水105が流される。第2インナーノズル102は、水冷されたリング状の銅板であり、電気的には絶縁されている。これによりアーク18の集中を促すことができる。なお、アーク18が集中することを必要としない場合には、第2インナーノズル102は必要ない。
【0069】
第1インナーノズル101と第2インナーノズル102との間には、Arガス等のプラズマガス106が流される。プラズマガス106は、第1インナーノズル101と母材20との間にプラズマ電源108により印加された電圧により、溶接ワイヤ13が溶融する前にプラズマ化される。アウターノズル103と第2インナーノズルとの間には、上記第1実施形態と同様のシールドガス107が流される。なお、シールドガス107は、第1インナーノズル101と第2インナーノズル102との間に流しても良い。プラズマガス106を、第1インナーノズル101と第2インナーノズル102との間に流した方が、シールドガス107をプラズマ化し易く、溶融池21内に酸素を供給しやすい。
【0070】
本実施形態においては、母材20の溶接をプラズマGMA溶接により行なうことにより、プラズマにより発生する電磁ピンチ力により、溶接ワイヤ13から母材20との間に発生するアークが安定するため、母材20の溶融池21中の酸素濃度が低くなるように、シールドガス107に含まれる酸化性ガス量を減少させた場合に、アーク18が不安定になることを防止することができる。
【0071】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。図14は、第3実施形態に係るGMA溶接の概要を示す図である。図14に示すように、本実施形態のGMA溶接装置200では、コンタクトチップ12の周囲に、インナーノズル201及びアウターノズル202が二重に配置されている。本実施形態におけるGMA溶接では、インナーノズル201から溶接ワイヤ13を囲むように第1実施形態と同様のO2及びCO2のいずれかを含む第1シールドガス203が流され、インナーノズル201とアウターノズル202との間にArあるいはHe等の不活性ガスのみからなる第2シールドガス204が流される。溶融池21の酸素濃度は、第1実施形態と同様に50〜310重量ppmとされる。なお、第2シールドガスには、第1シールドガス203より少量のO2及びCO2のいずれかの酸化性ガスを含んでいても良い。
【0072】
この場合において、第1シールドガス203はO2を含む不活性ガスとし、第2シールドガス204は不活性ガスのみからなるガスとした場合は、第1実施形態と同様に、大気から溶融池21に酸素が巻き込まれる傾向が強く、溶融池21内の酸素量が第1シールドガス203及び第2シールドガス204のガス流量に依存すると考えられる第1シールドガス203及び第2シールドガス204の合計のガス流量が50L/min未満のときは、第1シールドガス203及び第2シールドガス204の合計のガス流量x(L/min)、第1シールドガス203中のO2量y(体積%)、溶接ワイヤ13中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池21中における溶融した溶接ワイヤ13の割合β(0<β<1)、母材20中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+125y+βα+(1−β)γ≦310を満たす第1シールドガス203及び第2シールドガス204とすることにより、溶融池21の酸素濃度を50〜310重量ppm以下とすることが可能であると考えられる。
【0073】
一方、大気から溶融池21に巻き込まれる酸素量が少なく、溶融池21内の酸素量が第1シールドガス203及び第2シールドガス204のガス流量に大きく依存しない考えられる第1シールドガス203及び第2シールドガス204の合計のガス流量が50L/min以上のときは、50≦xで、50≦125y+βα+(1−β)γ≦310を満たす第1シールドガス203及び第2シールドガス204とすることにより、溶融池21の酸素濃度を50〜310重量ppm以下とすることが可能であると考えられる。
【0074】
同様に、第1シールドガス203はCO2を含む不活性ガスとし、第2シールドガス204は不活性ガスのみからなるガスとした場合は、第1シールドガス203及び第2シールドガス204の合計のガス流量x(L/min)、第1シールドガス203中のCO2量y(体積%)、溶接ワイヤ13中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池21中における溶融した溶接ワイヤ13の割合β(0<β<1)、母材20中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たす第1シールドガス203及び第2シールドガス204とすることにより、溶融池21の酸素濃度を50〜310重量ppm以下とすることが可能であると考えられる。
【0075】
さらに、第1シールドガス203及び第2シールドガスはいずれもO2を含む不活性ガスとした場合は、第1シールドガス203及び第2シールドガスの両方のシールドガス中の酸素が溶融池に溶出することが考えられるため、第1シールドガス203及び第2シールドガス204の合計のガス流量x(L/min)、第1シールドガス203中及び第2シールドガス204の合計のO2量y(体積%)、溶接ワイヤ13中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池21中における溶融した溶接ワイヤ13の割合β(0<β<1)、母材20中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+125y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦125y+βα+(1−β)γ≦310を満たす第1シールドガス203及び第2シールドガス204とすることにより、溶融池21の酸素濃度を50〜310重量ppm以下とすることが可能であると考えられる。
【0076】
同様に、第1シールドガス203及び第2シールドガスはいずれもCO2を含む不活性ガスとした場合は、第1シールドガス203及び第2シールドガス204の合計のガス流量x(L/min)、第1シールドガス203中及び第2シールドガス204の合計のCO2量y(体積%)、溶接ワイヤ13中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池21中における溶融した溶接ワイヤ13の割合β(0<β<1)、母材20中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たす第1シールドガス203及び第2シールドガス204とすることにより、溶融池21の酸素濃度を50〜310重量ppm以下とすることが可能であると考えられる。
【0077】
従来は、第1特許文献にあるように不活性ガスのみからなるシールドガスを溶接ワイヤを囲むように流し、その周りに酸化性ガスを含む不活性ガスからなるシールドガスを流すことが一般的である。しかし、本実施形態によれば、溶融池21中の酸素濃度を50〜310重量ppmとすることにより、より深い溶け込み形状の溶融池21を得ることが可能となる。また、酸化性ガスを含む不活性ガスからなる第1シールドガス203を溶接ワイヤ13を囲むように母材20に向けて流すとともに、不活性ガスのみからなる第2シールドガスを第1シールドガスの外周側を囲むように母材20に向けて流すことにより、溶融池21表面中央付近に酸化物を生成させ、溶融池21表面に生成される酸化物による安定な陰極点により、アーク18が乱れることが少なくなり、アーク18が不安定になることを防止することができる。
【0078】
(実験例)
以下、本発明の実験例について説明する。板厚10mmのSUS304鋼板である母材20に対して、図1に示すようなGMA溶接装置10により、ビードオンプレートでCMT溶接及びパルス溶接を行なった。母材20の酸素濃度は、おおよそ20重量ppmである。溶接ワイヤ13は、1.2mm径のY308を用いた。溶接ワイヤ13の酸素濃度は、おおよそ30重量ppmである。溶接条件は、溶接速度0.12m/min、溶接ワイヤ13の供給速度5.5〜6m/min、トーチ長15mmで一定とし、シールドガス16には、O2濃度を0〜1体積%の範囲で変化させたArあるいはHeを用い、ガス流量を10〜50L/minとした。溶接後、ビードの断面形状を光学顕微鏡で観察した。
【0079】
図15(a)〜(k)は、シールドガス16をArガスとしたCMT溶接においてガス流量を10L/minとしてガス中のO2量を変化させた場合の溶融池21を示す図である。図15(a)〜(g)に示すように、ガス流量を10L/minとした場合、シールドガス16中のO2量が0.6体積%以下では、溶融池21の幅が狭くなり、溶け込み深さは深くなることが判る。
【0080】
図16(a)〜(g)は、シールドガスを純粋なArガスとしたCMT溶接においてガス流量を変化させた場合の溶融池21を示す図である。図16(a)〜(g)に示すように、シールドガスを純粋なArガスとしたCMT溶接においては、いずれのガス流量においても、溶融池21の溶け込み深さは深くなることが判る。ただし、ガス流量が50L/minでは、溶融池21の深さを深くする効果は小さくなっている。図5に示すように、ガス流量が50L/minの場合の溶融池21の酸素濃度は50重量ppmであるため、溶融池21の深さを深くする効果を奏する溶融池21の酸素濃度の下限は、50重量ppmであると考えられる。
【0081】
図17(a)〜(k)は、シールドガスをArガスとしたCMT溶接においてガス流量を25L/minとしてガス中のO2量を変化させた場合の溶融池21を示す図である。図17(a)〜(j)に示すように、ガス流量を25L/minとした場合、シールドガス16中のO2量が0.9体積%以下では、溶融池21の幅が狭くなり、溶け込み深さは深くなることが判る。
【0082】
図18(a),(b)は、CMT溶接においてガス流量を25L/minとしてシールドガスを変化させた場合の溶融池21を示す図である。図18(a)(b)に示すように、シールドガス16がArであるときよりも、シールドガス16がHeであるときの方が溶融池21の溶け込み深さは深くなることが判る。
【0083】
図19(a)〜(f)は、シールドガス16をArガスとし、電流値を180Aとしたパルス溶接においてガス流量を10L/minとしてガス中のO2量を変化させた場合の溶融池21を示す図であり(溶接ワイヤ13の供給速度4.3m/min)、図20(a)〜(c)は、シールドガス16をArガスとし、電流値を150Aとしたパルス溶接においてガス流量を10L/minとしてガス中のO2量を変化させた場合の溶融池21を示す図である(溶接ワイヤ13の供給速度5.5m/min)。さらに、図21(a)〜(d)は、シールドガス16をArガスとし、シールドガス16をArガスとしたパルス溶接において、電流値を150A〜180Aと変化させた場合の溶融池21を示す図である。図19(a)〜(f)、図20(a)〜(c)及び図21(a)〜(d)に示すように、いずれのO2量においても、電流値が180Aと大きい方が溶け込み深さは深くなることが判る。したがって、電流値は150A以上が好ましく、より好ましくは170A以上とするべきであると考えられる。
【0084】
溶接ワイヤ13として、1.2mm径のY308であって酸素濃度200重量ppmの溶接ワイヤ13を用いて、上記と同様にCMT溶接によりSUS304鋼板の溶接を行なった。図22(a)〜(f)は、酸素濃度200重量ppmの溶接ワイヤ13を用いシールドガス16を純粋なArガスとしたCMT溶接においてガス流量を変化させた場合の溶融池を示す図である。図22(a)〜(f)より、いずれの流量においても、溶接ワイヤ13から溶融池21に酸素が溶出するため、深い溶け込み形状の溶融池21が得られていることが判る。
【0085】
図23(a)〜(c)は、電流値を200Aとし、炭素鋼SM490を母材20とし、シールドガス16をArガスとしたCMT溶接においてガス流量を10L/minとしてガス中のO2量を変化させた場合の溶融池を示す図である。図23(a)〜(c)に示すように、溶融池21の深さがステンレス鋼に比べて浅くなる傾向にある炭素鋼においても、溶融池21の溶け込み深さが深くなっていることが判る。
【0086】
再度、上記と同様のSUS304鋼板である母材20に対して、図1に示すようなGMA溶接装置10により、溶接速度を0.12〜0.60m/minと変化させてCMT溶接を行なった。図24(a)〜(h)は、シールドガス16を0.4体積%のO2ガスを含むArガスとし、溶接速度を0.12〜0.60m/minと変化させた場合の溶融池21を示す図であり、図25(a)〜(h)は、シールドガス16を1.0体積%のO2ガスを含むArガスとし、溶接速度を0.12〜0.60m/minと変化させた場合の溶融池21を示す図である。いずれも、ガス流量は25L/minとした。
【0087】
図24(a)〜(h)に示すように、シールドガス16が、溶融池21の酸素濃度が確実に本発明の範囲である50〜310重量ppmとなる0.4体積%のO2ガスを含むArガスの場合は、いずれの溶接速度であっても溶け込み深さが深い溶融池21が得られ、溶接速度0.4m/min以下では、特に深い溶融池21が得られることが判る。一方、図25(a)〜(h)に示すように、シールドガス16が1.0体積%のO2ガスを含むArガスの場合は、いずれの溶接速度であっても、図24(a)〜(h)に比べて深い溶融池が得られていないことが判る。
【0088】
尚、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0089】
10…GMA溶接装置、11…ノズル、12…コンタクトチップ、13…溶接ワイヤ、14…ワイヤ送給ローラ、15…ワイヤ送給制御装置、16…シールドガス、17…アーク溶接電源、18…アーク、20…母材、21…溶融池、22…Y型開先、23…ギャップ、100…プラズマGMA溶接装置、101…第1インナーノズル、102…第2インナーノズル、103…アウターノズル、104…センターガス、105…冷却水、106…プラズマガス、107…シールドガス、108…プラズマ電源、200…GMA溶接装置、201…インナーノズル、202…アウターノズル、203…第1シールドガス、204…第2シールドガス。
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接ワイヤである消耗式電極と被溶接物との間にアークを発生させることによって、被溶接物を溶接するGMA(Gas Metal Arc)溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タングステンからなる非消耗式電極と被溶接物(母材)との間にアークを発生させることによって、被溶接物を溶接するTIG(Tangsten Inert Gas)溶接が広く利用されている。特許文献1には、被溶接物の溶融池(溶接金属部)をより深い溶け込み形状とするため、不活性ガスからなる第1のシールドガスを、電極を囲むように被溶接物に向けて流すとともに、酸化性ガスを含む第2のシールドガスを、第1のシールドガスの周辺側に、被溶接物に向けて流し、溶接金属部の酸素濃度を70〜220wt.ppmとするTIG溶接方法が開示されている。また、特許文献2には、ヘリウムガスに酸素ガスを添加してその濃度を0.2vol.%以上(好ましくは0.4vol.%以上)としたシールドガスを使用し、溶接金属中の酸素濃度を70〜700ppmとすることで溶接金属部の溶け込み深さを深くし、溶接金属部の寸法比D/W値を大きくしたTIG溶接方法が開示されている。
【0003】
一方、溶接ワイヤである消耗式電極と被溶接物との間にアークを発生させることによって被溶接物を溶接するMIG(Metal Inert Gas)溶接、MAG(Metal Active Gas)溶接、及び炭酸ガス(CO2)ガスアーク溶接等のGMA(Gas Metal Arc)溶接は、TIG溶接よりも広く利用されている。GMA溶接において、上記特許文献1及び2のように、溶融池中の酸素濃度を低濃度とするものとしては、例えば、特許文献3には、GMA溶接において、流量5〜6L/minのアルゴンガスからなるシールド中に流量0.001〜0.2L/minの水素ガス、酸素ガス及び炭酸ガス等を混入させることにより、溶融特性の向上と溶接スピードの増大とを図る構成が開示されている。また、非特許文献1には、溶接金属中の酸素量を100重量ppm以下とすることにより、溶接部の機械的性質、特にじん性の改善を図る構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3936342号明細書
【特許文献2】特開2007−44741号公報
【特許文献3】特開昭53−43649号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】高橋誠、他4名,「溶接金属中酸素量を低減するGMA溶接法の開発」,太陽日酸技報,太陽日酸株式会社,2005年,No.24,p.41−46
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、産業界において広く用いられるGMA溶接には、溶接の品質及び効率の向上に対してさらなる要求があり、溶接部の特性をさらに向上させた溶接を行なうことが可能な技術が望まれている。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑みなされたものであり、その目的は、溶接部の特性をさらに向上させた溶接を行なうことが可能なGMA溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る発明は、溶接ワイヤである消耗式電極と被溶接物との間にアークを発生させることによって、被溶接物を溶接するGMA溶接方法であって、被溶接物の溶融池中の酸素濃度を50〜310重量ppmとし、被溶接物の溶接速度を0.4m/min以下とするGMA溶接方法である。
【0009】
この構成によれば、被溶接物の溶融池中の酸素濃度を50〜310重量ppmと低酸素濃度とすることにより、溶融池中の対流の方向を溶融池の中心から溶融池の底部に向かう方向にすることができる。そのため、より深い溶け込み形状の溶融池を得ることが可能となる。また、被溶接物の溶接速度を従来より遅い0.4m/min以下とすることにより、さらに深い溶け込み形状の溶融池を得ることが可能となる。
【0010】
また、本発明の請求項2に係る発明は、溶接ワイヤである消耗式電極と被溶接物との間にアークを発生させることによって、被溶接物を溶接するGMA溶接方法であって、被溶接物の溶融池中の酸素濃度を50〜310重量ppmとし、被溶接物の溶接は、消耗式電極を溶融池に対して進退動させることにより、アークを断続的に発生させるCMT(Cold Metal Transfer)溶接により行なうGMA溶接方法である。
【0011】
CMT溶接は、アークを断続的に発生させることで消費電流を少なくすることができ、一般に薄い被溶接物において、浅い溶け込み形状の溶融池を得るために用いられている手法である。しかしながら、この構成によれば、被溶接物の溶接をCMT溶接により行なうことにより、消耗式電極が溶融池に対して進退動をして、消耗式電極と溶融池との短絡を強制的に切断することによりアークを断続的に発生させるため、被溶接物の溶融池中の酸素濃度が50〜310重量ppmと低くなるように、シールドガスに含まれる酸素量を減少させた場合に、シールドガスにより溶融池表面に生成される酸化物による安定な陰極点が減少しても、アークが乱れることが少なくなり、アークが不安定になることを防止することができる。
【0012】
また、本発明の請求項3に係る発明は、溶接ワイヤである消耗式電極と被溶接物との間にアークを発生させることによって、被溶接物を溶接するGMA溶接方法であって、被溶接物の溶融池中の酸素濃度を50〜310重量ppmとし、被溶接物の溶接は、消耗式電極を囲むように消耗式電極と被溶接物との間にプラズマを発生させるプラズマGMA溶接により行なうGMA溶接方法である。
【0013】
この構成によれば、被溶接物の溶接をプラズマGMA溶接により行なうことにより、プラズマにより発生する電磁ピンチ力により、消耗式電極から被溶接物との間に発生するアークが安定するため、被溶接物の溶融池中の酸素濃度が50〜310重量ppmと低くなるように、シールドガスに含まれる酸化性ガスの量を減少させた場合に、アークが不安定になることを防止することができる。
【0014】
本発明の請求項4に係る発明は、溶接ワイヤである消耗式電極と被溶接物との間にアークを発生させることによって、被溶接物を溶接するGMA溶接方法であって、被溶接物の溶融池中の酸素濃度を230〜310重量ppmとするGMA溶接方法である。
【0015】
この構成によれば、被溶接物の溶融池中の酸素濃度を230〜310重量ppmの範囲にすることにより、より深い溶け込み形状の溶融池を得ることが可能となり、かつアークが乱れることが少なくなり、アークが不安定になることを防止することができる。
【0016】
さらに、本発明の請求項5に係る発明は、溶接ワイヤである消耗式電極と被溶接物との間にアークを発生させることによって、被溶接物を溶接するGMA溶接方法であって、被溶接物の溶融池中の酸素濃度を50〜310重量ppmとし、酸化性ガスを含む不活性ガスからなる第1シールドガスを消耗式電極を囲むように被溶接物に向けて流すとともに、
第1シールドガスよりも少量の酸化性ガスを含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかからなる第2シールドガスを第1シールドガスの外周側を囲むように被溶接物に向けて流すGMA溶接方法である。
【0017】
この構成によれば、被溶接物の溶融池中の酸素濃度を50〜310重量ppmとすることにより、より深い溶け込み形状の溶融池を得ることが可能となる。また、酸化性ガスを含む不活性ガスからなる第1シールドガスを消耗式電極を囲むように被溶接物に向けて流すとともに、第1シールドガスよりも少量の酸化性ガスを含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかからなる第2シールドガスを第1シールドガスの外周側を囲むように被溶接物に向けて流すことにより、溶融池表面の中央付近に酸化物を生成させ、溶融池表面の中央付近に生成される酸化物による安定な陰極点により、アークが乱れることが少なくなり、アークが不安定になることを防止することができる。
【0018】
一方、本発明の請求項1〜4のいずれか1項に係る発明において、シールドガスを、消耗式電極を囲むように被溶接物に向けて流し、シールドガスは、シールドガスのガス流量x(L/min)、シールドガス中のO2量y(体積%)、消耗式電極中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池中における溶融した消耗式電極の割合β(0<β<1)、被溶接物中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+125y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦125y+βα+(1−β)γ≦310を満たすO2を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとすることが好適である。
【0019】
シールドガスのガス流量が大きく、消耗式電極及び被溶接物に含まれる酸素量が少ないほど、シールドガスに含まれる酸化性ガスの量が同じでもシールドガス、大気及び消耗式電極から溶融池に巻き込まれる酸素量は低くなるため、シールドガス中の酸化性ガスの量はガス流量に応じて変化させる必要がある。しかし、この構成によれば、シールドガスを、シールドガスのガス流量x(L/min)、シールドガス中のO2量y(体積%)、消耗式電極中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池中における溶融した消耗式電極の割合β(0<β<1)、被溶接物中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+125y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦125y+βα+(1−β)γ≦310を満たすO2を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとすることにより、いずれのガス流量、消耗式電極内及び被溶接物内の酸素量であっても、溶融池中の酸素濃度を50〜310重量ppmの範囲にすることができ、確実により深い溶け込み形状の溶融池を得ることが可能となる。
【0020】
あるいは、本発明の請求項1〜4のいずれか1項に係る発明において、シールドガスを、消耗式電極を囲むように被溶接物に向けて流し、シールドガスは、シールドガスのガス流量x(L/min)、シールドガス中のCO2量y(体積%)、消耗式電極中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池中における溶融した消耗式電極の割合β(0<β<1)、被溶接物中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たすCO2を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとすることが好適である。
【0021】
シールドガスをCO2を含む不活性ガスとする場合には、CO2はアーク温度である5000〜10000Kでは、COとOとに解離しCOはほとんど解離しないと考えられる。一方、O2は上記アーク温度で2Oに解離することから、活性酸素Oは、CO2ガスではO2ガスの半分であると仮定できる。そこで、シールドガスをCO2を含む不活性ガスとする場合には、シールドガスを、請求項6の式におけるyの係数125を1/2の62.5とし、x<50で、50≦125−2.5x+62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たすCO2量y(体積%)を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとすることにより、いずれのガス流量、消耗式電極内及び被溶接物内の酸素量であっても、溶融池中の酸素濃度を50〜310重量ppmの範囲にすることができ、確実により深い溶け込み形状の溶融池を得ることが可能となる。
【0022】
また、本発明の請求項1〜4、6及び7のいずれか1項に係る発明において、Heガスを含むシールドガスを、消耗式電極を囲むように被溶接物に向けて流すことが好適である。
【0023】
この構成によれば、シールドガスにHeガスを用いることにより、さらに深い溶け込み形状の溶融池を得ることが可能となる。また、He、Ar及び必要に応じて酸化性ガスを混合することにより、点弧性も確保することができる。
【0024】
同様に、本発明の請求項5に係る発明において、第1シールドガスはO2を含む不活性ガスとし、第2シールドガスは不活性ガスのみからなるガスとした場合は、第1シールドガスは、第1シールドガス及び第2シールドガスの合計のガス流量x(L/min)、第1シールドガス中のO2量y(体積%)、消耗式電極中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池中における溶融した消耗式電極の割合β(0<β<1)、被溶接物中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+125y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦125y+βα+(1−β)γ≦310を満たすガスとすることが好適である。
【0025】
また、本発明の請求項5に係る発明において、第1シールドガスはCO2を含む不活性ガスとし、第2シールドガスは不活性ガスのみからなるガスとして、第1シールドガスは、第1シールドガス及び第2シールドガスの合計のガス流量x(L/min)、第1シールドガス中のCO2量y(体積%)、消耗式電極中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池中における溶融した消耗式電極の割合β(0<β<1)、被溶接物中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たすガスとすることが好適である。
【0026】
一方、本発明の請求項5に係る発明において、第1シールドガス及び第2シールドガスはO2を含む不活性ガスとして、第1シールドガス及び第2シールドガスは、第1シールドガス及び第2シールドガスの合計のガス流量x(L/min)、第1シールドガス中及び第2シールドガス中の合計のO2量y(体積%)、消耗式電極中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池中における溶融した消耗式電極の割合β(0<β<1)、被溶接物中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+125y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦125y+βα+(1−β)γ≦310を満たすガスとすることが好適である。
【0027】
また、本発明の請求項5に係る発明において、第1シールドガス及び第2シールドガスはCO2を含む不活性ガスとして、第1シールドガス及び第2シールドガスは、第1シールドガス及び第2シールドガスの合計のガス流量x(L/min)、第1シールドガス中及び第2シールドガス中の合計のCO2量y(体積%)、消耗式電極中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池中における溶融した消耗式電極の割合β(0<β<1)、被溶接物中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たすガスとすることが好適である。
【0028】
また同様に、本発明の請求項5、9〜12のいずれか1項に係る発明において、第1シールドガスは、Heガスを含むガスとすることが好適である。
【0029】
さらに、本発明の請求項2〜13のいずれか1項に係る発明において、被溶接物の溶接速度を0.4m/min以下とすることが、さらに深い溶け込み形状の溶融池を得ることが可能となるため好適である。
【0030】
また、本発明の請求項1〜14のいずれか1項に係る発明において、被溶接物の表面からの溶融池の深さを被溶接物の溶接速度により制御し、溶融池の深さを深くするときほど溶接速度を遅くするものとできる。
【0031】
この構成によれば、溶融池の深さを深くするときほど溶接速度を遅くすることにより、溶融池の深さを制御することが可能となる。
【0032】
あるいは、本発明の請求項1〜14のいずれか1項に係る発明において、被溶接物の表面からの溶融池の深さを消耗式電極に流す電流値により制御し、溶融池の深さを深くするときほど電流値を大きくするものとできる。
【0033】
この構成によれば、溶融池の深さを深くするときほど消耗式電極に流す電流値を大きくすることにより、溶融池の深さを制御することが可能となる。
【発明の効果】
【0034】
本発明のGMA溶接方法によれば、より深い溶け込み形状の溶融池を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】第1実施形態に係るGMA溶接の概要を示す図である。
【図2】(a)〜(d)は、第1実施形態に係るCMT溶接の概要を示す図である。
【図3】溶融池における温度と表面張力との関係を示す図である。
【図4】第1実施形態における溶融池の状態を示す図である。
【図5】シールドガスをArガスとしたCMT溶接におけるガス流量と溶融池の酸素量との関係を示すグラフ図である。
【図6】シールドガスをArガスとしたパルス溶接におけるガス流量と溶融池の酸素量との関係を示すグラフ図である。
【図7】CMT溶接においてガス流量を10L/minである場合のガス中のO2量と溶融池の酸素量との関係を示すグラフ図である。
【図8】CMT溶接においてガス流量を25L/minである場合のガス中のO2量と溶融池の酸素量との関係を示すグラフ図である。
【図9】シールドガスをArガスとし、溶接ワイヤの酸素量を200重量ppmとしたCMT溶接におけるガス流量と溶融池の酸素量との関係を示すグラフ図である。
【図10】パルス溶接においてガス流量を10L/minである場合のガス中のO2量と溶融池の酸素量との関係を示すグラフ図である。
【図11】(a)(b)は、従来のGMA溶接における母材に形成したY型開先及び溶融池の形状を示す断面図である。
【図12】(a)(b)は、実施形態のGMA溶接における母材に形成したY型開先及び溶融池の形状を示す断面図である。
【図13】第2実施形態に係るプラズマGMA溶接の概要を示す図である。
【図14】第3実施形態に係るGMA溶接の概要を示す図である。
【図15】(a)〜(k)は、シールドガスをArガスとしたCMT溶接においてガス流量を10L/minとしてガス中のO2量を変化させた場合の溶融池を示す図である。
【図16】(a)〜(g)は、シールドガスを純粋なArガスとしたCMT溶接においてガス流量を変化させた場合の溶融池を示す図である。
【図17】(a)〜(k)は、シールドガスをArガスとしたCMT溶接においてガス流量を25L/minとしてガス中のO2量を変化させた場合の溶融池を示す図である。
【図18】(a),(b)は、CMT溶接においてガス流量を25L/minとしてシールドガスを変化させた場合の溶融池を示す図である。
【図19】(a)〜(f)は、シールドガスをArガスとし、電流値を180Aとしたパルス溶接においてガス流量を10L/minとしてガス中のO2量を変化させた場合の溶融池を示す図である。
【図20】(a)〜(c)は、シールドガスをArガスとし、電流値を150Aとしたパルス溶接においてガス流量を10L/minとしてガス中のO2量を変化させた場合の溶融池を示す図である。
【図21】(a)〜(d)は、シールドガスをArガスとし、ガス流量を10L/minとしたパルス溶接において、電流値を150A〜180Aと変化させた場合の溶融池21を示す図である。
【図22】(a)〜(f)は、酸素濃度200重量ppmの溶接ワイヤを用いシールドガスを純粋なArガスとしたCMT溶接においてガス流量を変化させた場合の溶融池を示す図である。
【図23】(a)〜(c)は、炭素鋼を母材とし、シールドガス16をArガスとしたCMT溶接においてガス流量を10L/minとしてガス中のO2量を変化させた場合の溶融池を示す図である。
【図24】(a)〜(h)は、シールドガスを0.4体積%のO2ガスを含むArガスとし、溶接速度を0.12〜0.60m/minと変化させた場合の溶融池を示す図である。
【図25】(a)〜(h)は、シールドガスを1.0体積%のO2ガスを含むArガスとし、溶接速度を0.12〜0.60m/minと変化させた場合の溶融池を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0037】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るGMA溶接の概要を示す図である。図1に示すように、本実施形態のGMA溶接装置10は、ノズル11、コンタクトチップ12、溶接ワイヤ13、ワイヤ送給ローラ14、ワイヤ送給制御装置15、及びアーク溶接電源17を備えている。本実施形態におけるGMA溶接では、シールドガス16に含まれるO2およびCO2のいずれかの酸化性ガスを従来より少なくすることにより、母材20の溶融池21の酸素濃度を従来より低い50〜310重量ppm、より好ましくは50〜200重量ppmに低下させて、さらに溶接速度を従来より遅い0.4m/min以下とすることによって、従来より深い溶け込み形状の溶融池21を得る。
【0038】
ノズル11内には、コンタクトチップ12が内蔵されている。コンタクトチップ12は、ワイヤ送給ローラ14及びワイヤ送給制御装置15が溶接速度に応じて送給する溶接ワイヤ13を、コンタクトチップ12中心に設けられた貫通孔を介して母材20の溶融池21に向けて導出する。コンタクトチップ12は、溶接ワイヤ13と電気的に導通し、アーク溶接電源17から電流を供給される。アーク溶接電源17は、消耗式電極となる溶接ワイヤ13と母材20の溶融池21との間に電圧を印加し、溶接ワイヤ13と溶融池21との間にアーク18を発生させることにより、母材20を溶接する。
【0039】
なお、図中では、溶接ワイヤ13側を正極、溶融池21側を負極としているが、逆に溶接ワイヤ13側を負極、溶融池21側を正極とするか、あるいは溶接ワイヤ13と溶融池21との間に交流電圧を印加することにより、溶接ワイヤ13の溶解速度及び溶融池21の深さを適宜調節することが可能である。一般に溶接ワイヤ13側を負極、溶融池21側を正極とすることにより、溶接ワイヤ13側を正極、溶融池21側を負極とした場合より、溶融池21の深さを1.5倍とすることができる。
【0040】
ノズル11の内側とコンタクトチップの外側との間には、シールドガス16が所定のガス流量で供給され、シールドガス16は溶接ワイヤ13を囲むように母材20に向けて流される。シールドガス16は、主にArガス、Heガスからなり、後述するように、シールドガス16のガス流量に応じた体積%のO2及びCO2のいずれかの酸化性ガスを含んでいる。シールドガス16の主成分は、Arガスとすることにより安価とすることが可能であるが、Heガスとすることにより、より深い溶融池21を形成することが可能となる。
【0041】
GMA溶接において、シールドガス16に含まれるO2,CO2等の酸化性ガスを少なくした場合でも、アーク18を安定させるためには、溶接ワイヤ13を溶融池21に対して進退動させることにより、アーク18を断続的に発生させるCMT溶接が有効である。
【0042】
図2(a)〜(d)は、本実施形態に係るCMT溶接の概要を示す図である。図2(a)に示すように、CMT溶接においては、アーク18の発生時に溶接ワイヤ13は溶融池21に向かって前進させられる。図2(b)に示すように、溶接ワイヤ13が溶融池21に浸かると、アーク18は消滅し、溶接ワイヤ13を流れる電流は瞬時に低下する。図2(c)に示すように、溶接ワイヤ13が溶融池21から後退させられ、短絡中の溶融池21との短絡の切断を支援される。このときは、短絡電流は低いままである。図2(d)に示すように、溶接ワイヤ13が溶融池21から離されると、アーク18が再度発生し、図2(a)からの手順が繰り返される。
【0043】
なお、本実施形態では、溶接ワイヤ13と溶融池21との短絡を切断するのに、溶接ワイヤ13を進退動させず、溶接ワイヤ13にパルス状の電流を断続的に印加することによって溶接ワイヤ13と溶融池21との短絡を切断するパルス溶接によっても良い。また、上記CMT溶接や後述のパルスGMA溶接によらない場合でも、溶融池21の酸素濃度を150〜310重量ppmの範囲、より好ましくは230〜310重量ppmの範囲、さらに好ましくは240〜310重量ppmとすることにより、アーク18を安定させることが可能となる。
【0044】
以下、本実施形態のGMA溶接の作用について説明する。図3は、溶融池における温度と表面張力との関係を示す図である。図3に破線のグラフで示すように、溶融池21の酸素濃度が通常である場合は、溶融池21の温度が高温になるほど、表面張力が低下する。一方、溶融池21の酸素濃度が通常より低い50〜310重量ppmである場合は、図3に実線のグラフで示すように、溶融池21の温度が高温になるほど、表面張力が上昇する。なお、本願明細書で示す溶融池21内の酸素含有量は、酸素/窒素同時測定装置(株式会社堀場製作所、商品名:EMGA−520)を用いて測定を行なったものである。試料は、溶接後に、溶接金属から直接切断し、採取したものである。
【0045】
図4は、本実施形態における溶融池21の状態を示す図である。一般に図中に示す溶融池21の中央側領域R1の方が、周辺側領域R2よりも高温となる。本実施形態では、溶融池21の酸素濃度を通常より低い50〜310重量ppmとするため、中央側領域R1の表面張力の方が、周辺側領域R2の表面張力よりも大きくなる。そのため、図4に示すように、溶融池21では図中矢印に示すような溶融池の中央側領域R1から溶融池21の底部に向かう対流が促進され、溶融池21の溶け込み形状をより深くすることができる。この場合、溶融池21の酸素濃度は50〜200重量ppmとすることにより、溶融池21の溶け込み形状をさらに深くすることができる。
【0046】
溶融池21の酸素濃度は、シールドガス16に含まれるO2及びCO2のいずれかの酸化性ガスの量、ガス流量及び溶接の種類によって異なる。図5は、シールドガス16を純粋なArガスとしたCMT溶接におけるガス流量と溶融池の酸素量との関係を示すグラフ図であり、図6は、シールドガス16を純粋なArガスとしたパルス溶接におけるガス流量と溶融池の酸素量との関係を示すグラフ図である。図5及び6に示すように、一般にシールドガス16のガス流量が大きいほど溶融池21の酸素濃度は低下することが判る。また、同じガス流量では、CMT溶接の方が溶融池21の酸素濃度が大きいことが判る。これは、CMT溶接の方が、大気から溶融池21に対して酸素を巻き込む割合が大きいためであると考えられる。
【0047】
図7は、CMT溶接においてガス流量を10L/minである場合のガス中のO2量と溶融池の酸素量との関係を示すグラフ図であり、図8は、CMT溶接においてガス流量を25L/minである場合のガス中のO2量と溶融池の酸素量との関係を示すグラフ図である。図7に示すように、CMT溶接においてガス流量を10L/minである場合に溶融池21の酸素濃度をより好ましい200重量ppm以下とするためには、シールドガス16に含まれるO2ガスの量を0.6体積%以下とするべきであることが判る。
【0048】
また、図8に示すように、CMT溶接においてガス流量を25L/minである場合に溶融池21の酸素濃度をより好ましい200重量ppm以下とするためには、シールドガス16に含まれるO2ガスの量を0.9体積%以下とするべきであることが判る。
【0049】
一方、図5の結果から、シールドガス16を純粋なArガス場合において、ガス流量を50L/minした場合、溶融池21の酸素濃度は50重量ppm以上となっているが、溶融池21の酸素濃度を好ましい50〜200重量ppmとするためには、シールドガス16に含まれるO2ガスの量を0.2〜1.4体積%とすることが好ましいことが判明した。
【0050】
以上の結果から、ガス流量10L/minのときにO2ガスの量は0〜0.6重量%が好ましく、ガス流量25L/minのときにO2ガスの量は0〜0.9重量%が好ましく、ガス流量50L/minのときにO2ガスの量は0.2〜1.4重量%以上が好ましい。
【0051】
一方、これらの結果は、溶接ワイヤ13に含まれる酸素量がおおよそ30重量ppmで、母材20に含まれる酸素量がおおよそ20重量ppmで、溶融池21中に溶融した溶接ワイヤ13の割合がおおよそ0.5である場合であり、溶接ワイヤ13及び母材20に含まれる酸素量が変動するときは、溶接ワイヤ13及び母材20中の酸素濃度及び溶融池21中に溶融した溶接ワイヤ13の割合を考慮する必要がある。例えば、図9はシールドガス16をArガスとし、溶接ワイヤ13の酸素量を200重量ppmとしたCMT溶接におけるガス流量と溶融池の酸素量との関係を示すグラフ図であるが、溶接ワイヤ13から溶融池21内に酸素が混入するため、図5の値と比べると溶融池21の酸素濃度が高くなっていることが判る。
【0052】
そこで、シールドガス16のガス流量と、シールドガス16に含まれるO2ガスの量とに対する溶融池21の酸素量とが線形的な関係であると仮定して図5のグラフを直線近似し、図5のシールドガス16を純粋なArガスとした場合のガス流量0L/minにおける溶融池21内の酸素量を150重量ppmと仮定する。この場合、ガス流量が1L/min増加する毎に溶融池21内の酸素量は2.5重量ppmずつ減少する。また、シールドガス16中の酸素量が1体積%増加する毎に溶融池21の酸素量は125重量ppmずつ増加する。さらに、大気から溶融池21に酸素が巻き込まれるか否かによって溶融池21内の酸素量は異なり、例えば、シールドガス16のガス流量が50L/min未満の場合は大気から溶融池21に酸素が巻き込まれる傾向が強く、溶融池21内の酸素量はシールドガス16のガス流量に依存すると考えられる。一方、シールドガス16のガス流量が50L/min以上の場合は大気から溶融池21に巻き込まれる酸素量が少なく、溶融池21内の酸素量はシールドガス16のガス流量に大きく依存しないと考えられる。
【0053】
一方、図5において、ガス流量0L/minにおける溶融池21内の酸素量150重量ppmという値は、溶融池21に占める溶接ワイヤ13の割合を50%とすると、30重量ppmの酸素を含む溶接ワイヤ13から15重量ppmの酸素が溶出し、20重量ppmの酸素を含む母材20から10重量ppmが溶出することになる。したがって、ガス流量0L/minにおいて、純粋に大気から巻き込まれて溶融池21に溶出する酸素量は125重量ppmであると推定できる。
【0054】
以上より、CMT溶接においてシールドガス16をO2を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとする場合において、大気から溶融池21に酸素が巻き込まれる傾向が強く、溶融池21内の酸素量がシールドガス16のガス流量に依存すると考えられるシールドガス16のガス流量が50L/min未満のときは、シールドガス16を、シールドガス16のガス流量x(L/min)、シールドガス16中のO2量y(体積%)、溶接ワイヤ13中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池21中における溶融した溶接ワイヤ13の割合β(0<β<1)、母材20中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+125y+βα+(1−β)γ≦310を満たすO2を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとすることにより、溶融池21の酸素濃度を50〜310重量ppm以下とすることが可能であることが判る。
【0055】
一方、大気から溶融池21に巻き込まれる酸素量が少なく、溶融池21内の酸素量がシールドガス16のガス流量に大きく依存しない考えられるシールドガス16のガス流量が50L/min以上のときは、上記式において、大気から溶融池21に溶出する酸素量の項である“125”の項、及び溶融池21内の酸素量におけるシールドガス16のガス流量への依存性を示す項である“−2.5x”の項を除いて、シールドガス16を、シールドガス16のガス流量x(L/min)、シールドガス16中のO2量y(体積%)、溶接ワイヤ13中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池21中における溶融した溶接ワイヤ13の割合β(0<β<1)、母材20中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、50≦xで、50≦125y+βα+(1−β)γ≦310を満たすO2を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとすることにより、溶融池21の酸素濃度を50〜310重量ppm以下とすることが可能であることが判る。
【0056】
一方、CMT溶接においてシールドガス16をCO2を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとする場合は、CO2はアーク温度である5000〜10000Kでは、COとOとに解離しCOはほとんど解離しないと考えられる。一方、O2は上記アーク温度で2Oに解離することから、活性酸素Oは、CO2ガスではO2ガスの半分であると仮定できる。そこで、シールドガス16をCO2を含む不活性ガスとする場合には、シールドガス16を、上記の式におけるyの係数125を1/2の62.5とした、x<50で、50≦125−2.5x+62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たすCO2量y(体積%)を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとすることにより、いずれのガス流量、溶接ワイヤ13内及び母材20内の酸素量であっても、溶融池21中の酸素濃度を50〜310重量ppmの範囲にすることができ、確実により深い溶け込み形状の溶融池21を得ることが可能となる。
【0057】
なお、以上より、シールドガス16をCO2を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとする場合は、例えば、ガス流量10L/minのときにCO2ガスの量は0〜1.2重量%が好ましく、ガス流量25L/minのときにO2ガスの量は0〜1.8重量%が好ましく、ガス流量50L/minのときにO2ガスの量は0.4〜2.8重量%以上が好ましいこととなる。
【0058】
図10は、溶接ワイヤ13に印加するパルス電流を180Aとしたパルス溶接においてガス流量を10L/minである場合のガス中のO2量と溶融池の酸素量との関係を示すグラフ図である。上述したように、パルス溶接においてはCMT溶接に比べて、シールドガス16に含まれるO2及びCO2のいずれかの酸化性ガスの量の上限が大きくなり、パルス溶接においてガス流量を10L/minである場合に溶融池21の酸素濃度をより好ましい200重量ppm以下とするためには、シールドガス16に含まれるO2及びCO2のいずれかの酸化性ガスの量を0.7体積%以下とするべきであることが判る。
【0059】
なお、溶融池21の酸素濃度を50〜310重量ppm、より好ましくは200重量ppm以下とするためには、シールドガス16に含まれるO2及びCO2のいずれかの酸化性ガスの量を制御するだけではなく、溶接ワイヤ13に含まれる酸素量を制御することによっても、溶融池21の酸素濃度を制御することができる。なおこの場合、溶融池21の表面に酸化膜が形成されにくくなるため、溶融池21の酸素濃度を200〜310重量ppmとした場合においても、200重量ppm以下と同様に溶融池21の溶け込み深さを深くする効果を奏させることが可能となる。
【0060】
また、溶融池21の深さの調整は、溶融池21を深くするときほど溶接速度を遅くするか、あるいは溶接ワイヤ13に流す電流値を大きくすることにより、行なうことができる。
【0061】
本実施形態においては、母材20の溶融池21中の酸素濃度を50〜310重量ppmとし、溶接速度を0.4m/min以下とすることで、溶融池21中の対流の方向を溶融池21の中心から溶融池21の底部に向かう方向にすることができ、より深い溶け込み形状の溶融池21を得ることが可能となる。従来、MIG溶接等のGMA溶接においては、溶融池21の酸素濃度を低めるためにシールドガス16の酸素濃度を低下させた場合は、アーク18が不安定となることが知られているため、溶融池21の酸素濃度を低下させることは考えられてはいない。
【0062】
しかしながら、従来のGMA溶接においては、図11(a)に示すように、深いY型開先22を母材20に形成する必要があり、また、母材20の裏側まで溶融池21が届くようにするため、ギャップ23が必要となる。さらに、図11(b)に示すように、従来のGMA溶接では溶融池21の深さが浅いため、複数回の溶接を行い、溶融池21を多層に形成する必要があり、効率が低い。一方、本実施形態のGMA溶接においては、図12(a)に示すように、浅いY型開先22を母材20に形成すれば良く、ギャップ23を形成する必要はなく作業効率が極めて向上する。さらに、図12(b)に示すように、Y型開先22の上部の空間を深い溶融池21で埋め、例えば、母材20が20mm以上の厚さのステンレス鋼板であっても一度の溶接で母材20を溶融池21で貫通して溶接することが可能であるため、効率が良い。
【0063】
また、本実施形態では、母材20の溶接をCMT溶接により行なうことにより、溶接ワイヤ13が溶融池21に対して進退動をして、溶接ワイヤ13と溶融池21との短絡を強制的に切断することによりアーク18を断続的に発生させるため、母材20の溶融池21中の酸素濃度が低くなるように、シールドガス16に含まれる酸化性ガスの量を減少させた場合に、シールドガス16により溶融池21表面に生成される酸化物による安定な陰極点が減少しても、アーク18が乱れることが少なくなり、アーク18が不安定になることを防止することができる。
【0064】
さらに、本実施形態では、不活性ガスからなるシールドガス16を、O2を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとする場合は、シールドガス16を、シールドガス16のガス流量x(L/min)、シールドガス16中のO2量y(体積%)、溶接ワイヤ13中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池21中における溶融した溶接ワイヤ13の割合β(0<β<1)、母材20中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、50≦125−2.5x+125y+βα+(1−β)γ≦310を満たすO2を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとし、シールドガス16をCO2を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとする場合は、50≦125−2.5x+62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たすCO2量y(体積%)を含む不活性ガス及び不活性ガスのみからなるガスのいずれかとすることにより、確実により深い溶け込み形状の溶融池21を得ることが可能となる。
【0065】
加えて本実施形態では、シールドガス16にHeガスを用いることにより、さらに深い溶け込み形状の溶融池21を得ることが可能となる。
【0066】
また、本実施形態では、溶融池21の深さを深くするときほど溶接速度を遅くするか、溶接ワイヤ13に流す電流値を大きくすることにより、溶融池21の深さを制御することが可能となる。
【0067】
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態について説明する。図13は、第2実施形態に係るプラズマGMA溶接の概要を示す図である。図13に示すように、本実施形態のプラズマGMA溶接装置100では、コンタクトチップ12の周囲に、第1インナーノズル101、第2インナーノズル102、及びアウターノズル103が三重に配置されている。本実施形態におけるGMA溶接では、溶接ワイヤ13を囲むように溶接ワイヤ13と母材20との間にプラズマを発生させる。
【0068】
第1インナーノズル101は、プラズマ電源108からの電圧を印加されプラズマ電極として機能する。第1インナーノズル101とコンタクトチップ12との間には、Arガス等の不活性ガスであるセンターガス104が流される。センターガス104は、アーク溶接用に用いられる。第1インナーノズル101には、冷却水105が流される。第2インナーノズル102は、水冷されたリング状の銅板であり、電気的には絶縁されている。これによりアーク18の集中を促すことができる。なお、アーク18が集中することを必要としない場合には、第2インナーノズル102は必要ない。
【0069】
第1インナーノズル101と第2インナーノズル102との間には、Arガス等のプラズマガス106が流される。プラズマガス106は、第1インナーノズル101と母材20との間にプラズマ電源108により印加された電圧により、溶接ワイヤ13が溶融する前にプラズマ化される。アウターノズル103と第2インナーノズルとの間には、上記第1実施形態と同様のシールドガス107が流される。なお、シールドガス107は、第1インナーノズル101と第2インナーノズル102との間に流しても良い。プラズマガス106を、第1インナーノズル101と第2インナーノズル102との間に流した方が、シールドガス107をプラズマ化し易く、溶融池21内に酸素を供給しやすい。
【0070】
本実施形態においては、母材20の溶接をプラズマGMA溶接により行なうことにより、プラズマにより発生する電磁ピンチ力により、溶接ワイヤ13から母材20との間に発生するアークが安定するため、母材20の溶融池21中の酸素濃度が低くなるように、シールドガス107に含まれる酸化性ガス量を減少させた場合に、アーク18が不安定になることを防止することができる。
【0071】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。図14は、第3実施形態に係るGMA溶接の概要を示す図である。図14に示すように、本実施形態のGMA溶接装置200では、コンタクトチップ12の周囲に、インナーノズル201及びアウターノズル202が二重に配置されている。本実施形態におけるGMA溶接では、インナーノズル201から溶接ワイヤ13を囲むように第1実施形態と同様のO2及びCO2のいずれかを含む第1シールドガス203が流され、インナーノズル201とアウターノズル202との間にArあるいはHe等の不活性ガスのみからなる第2シールドガス204が流される。溶融池21の酸素濃度は、第1実施形態と同様に50〜310重量ppmとされる。なお、第2シールドガスには、第1シールドガス203より少量のO2及びCO2のいずれかの酸化性ガスを含んでいても良い。
【0072】
この場合において、第1シールドガス203はO2を含む不活性ガスとし、第2シールドガス204は不活性ガスのみからなるガスとした場合は、第1実施形態と同様に、大気から溶融池21に酸素が巻き込まれる傾向が強く、溶融池21内の酸素量が第1シールドガス203及び第2シールドガス204のガス流量に依存すると考えられる第1シールドガス203及び第2シールドガス204の合計のガス流量が50L/min未満のときは、第1シールドガス203及び第2シールドガス204の合計のガス流量x(L/min)、第1シールドガス203中のO2量y(体積%)、溶接ワイヤ13中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池21中における溶融した溶接ワイヤ13の割合β(0<β<1)、母材20中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+125y+βα+(1−β)γ≦310を満たす第1シールドガス203及び第2シールドガス204とすることにより、溶融池21の酸素濃度を50〜310重量ppm以下とすることが可能であると考えられる。
【0073】
一方、大気から溶融池21に巻き込まれる酸素量が少なく、溶融池21内の酸素量が第1シールドガス203及び第2シールドガス204のガス流量に大きく依存しない考えられる第1シールドガス203及び第2シールドガス204の合計のガス流量が50L/min以上のときは、50≦xで、50≦125y+βα+(1−β)γ≦310を満たす第1シールドガス203及び第2シールドガス204とすることにより、溶融池21の酸素濃度を50〜310重量ppm以下とすることが可能であると考えられる。
【0074】
同様に、第1シールドガス203はCO2を含む不活性ガスとし、第2シールドガス204は不活性ガスのみからなるガスとした場合は、第1シールドガス203及び第2シールドガス204の合計のガス流量x(L/min)、第1シールドガス203中のCO2量y(体積%)、溶接ワイヤ13中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池21中における溶融した溶接ワイヤ13の割合β(0<β<1)、母材20中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たす第1シールドガス203及び第2シールドガス204とすることにより、溶融池21の酸素濃度を50〜310重量ppm以下とすることが可能であると考えられる。
【0075】
さらに、第1シールドガス203及び第2シールドガスはいずれもO2を含む不活性ガスとした場合は、第1シールドガス203及び第2シールドガスの両方のシールドガス中の酸素が溶融池に溶出することが考えられるため、第1シールドガス203及び第2シールドガス204の合計のガス流量x(L/min)、第1シールドガス203中及び第2シールドガス204の合計のO2量y(体積%)、溶接ワイヤ13中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池21中における溶融した溶接ワイヤ13の割合β(0<β<1)、母材20中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+125y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦125y+βα+(1−β)γ≦310を満たす第1シールドガス203及び第2シールドガス204とすることにより、溶融池21の酸素濃度を50〜310重量ppm以下とすることが可能であると考えられる。
【0076】
同様に、第1シールドガス203及び第2シールドガスはいずれもCO2を含む不活性ガスとした場合は、第1シールドガス203及び第2シールドガス204の合計のガス流量x(L/min)、第1シールドガス203中及び第2シールドガス204の合計のCO2量y(体積%)、溶接ワイヤ13中の酸素濃度α(重量ppm)、溶融池21中における溶融した溶接ワイヤ13の割合β(0<β<1)、母材20中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たす第1シールドガス203及び第2シールドガス204とすることにより、溶融池21の酸素濃度を50〜310重量ppm以下とすることが可能であると考えられる。
【0077】
従来は、第1特許文献にあるように不活性ガスのみからなるシールドガスを溶接ワイヤを囲むように流し、その周りに酸化性ガスを含む不活性ガスからなるシールドガスを流すことが一般的である。しかし、本実施形態によれば、溶融池21中の酸素濃度を50〜310重量ppmとすることにより、より深い溶け込み形状の溶融池21を得ることが可能となる。また、酸化性ガスを含む不活性ガスからなる第1シールドガス203を溶接ワイヤ13を囲むように母材20に向けて流すとともに、不活性ガスのみからなる第2シールドガスを第1シールドガスの外周側を囲むように母材20に向けて流すことにより、溶融池21表面中央付近に酸化物を生成させ、溶融池21表面に生成される酸化物による安定な陰極点により、アーク18が乱れることが少なくなり、アーク18が不安定になることを防止することができる。
【0078】
(実験例)
以下、本発明の実験例について説明する。板厚10mmのSUS304鋼板である母材20に対して、図1に示すようなGMA溶接装置10により、ビードオンプレートでCMT溶接及びパルス溶接を行なった。母材20の酸素濃度は、おおよそ20重量ppmである。溶接ワイヤ13は、1.2mm径のY308を用いた。溶接ワイヤ13の酸素濃度は、おおよそ30重量ppmである。溶接条件は、溶接速度0.12m/min、溶接ワイヤ13の供給速度5.5〜6m/min、トーチ長15mmで一定とし、シールドガス16には、O2濃度を0〜1体積%の範囲で変化させたArあるいはHeを用い、ガス流量を10〜50L/minとした。溶接後、ビードの断面形状を光学顕微鏡で観察した。
【0079】
図15(a)〜(k)は、シールドガス16をArガスとしたCMT溶接においてガス流量を10L/minとしてガス中のO2量を変化させた場合の溶融池21を示す図である。図15(a)〜(g)に示すように、ガス流量を10L/minとした場合、シールドガス16中のO2量が0.6体積%以下では、溶融池21の幅が狭くなり、溶け込み深さは深くなることが判る。
【0080】
図16(a)〜(g)は、シールドガスを純粋なArガスとしたCMT溶接においてガス流量を変化させた場合の溶融池21を示す図である。図16(a)〜(g)に示すように、シールドガスを純粋なArガスとしたCMT溶接においては、いずれのガス流量においても、溶融池21の溶け込み深さは深くなることが判る。ただし、ガス流量が50L/minでは、溶融池21の深さを深くする効果は小さくなっている。図5に示すように、ガス流量が50L/minの場合の溶融池21の酸素濃度は50重量ppmであるため、溶融池21の深さを深くする効果を奏する溶融池21の酸素濃度の下限は、50重量ppmであると考えられる。
【0081】
図17(a)〜(k)は、シールドガスをArガスとしたCMT溶接においてガス流量を25L/minとしてガス中のO2量を変化させた場合の溶融池21を示す図である。図17(a)〜(j)に示すように、ガス流量を25L/minとした場合、シールドガス16中のO2量が0.9体積%以下では、溶融池21の幅が狭くなり、溶け込み深さは深くなることが判る。
【0082】
図18(a),(b)は、CMT溶接においてガス流量を25L/minとしてシールドガスを変化させた場合の溶融池21を示す図である。図18(a)(b)に示すように、シールドガス16がArであるときよりも、シールドガス16がHeであるときの方が溶融池21の溶け込み深さは深くなることが判る。
【0083】
図19(a)〜(f)は、シールドガス16をArガスとし、電流値を180Aとしたパルス溶接においてガス流量を10L/minとしてガス中のO2量を変化させた場合の溶融池21を示す図であり(溶接ワイヤ13の供給速度4.3m/min)、図20(a)〜(c)は、シールドガス16をArガスとし、電流値を150Aとしたパルス溶接においてガス流量を10L/minとしてガス中のO2量を変化させた場合の溶融池21を示す図である(溶接ワイヤ13の供給速度5.5m/min)。さらに、図21(a)〜(d)は、シールドガス16をArガスとし、シールドガス16をArガスとしたパルス溶接において、電流値を150A〜180Aと変化させた場合の溶融池21を示す図である。図19(a)〜(f)、図20(a)〜(c)及び図21(a)〜(d)に示すように、いずれのO2量においても、電流値が180Aと大きい方が溶け込み深さは深くなることが判る。したがって、電流値は150A以上が好ましく、より好ましくは170A以上とするべきであると考えられる。
【0084】
溶接ワイヤ13として、1.2mm径のY308であって酸素濃度200重量ppmの溶接ワイヤ13を用いて、上記と同様にCMT溶接によりSUS304鋼板の溶接を行なった。図22(a)〜(f)は、酸素濃度200重量ppmの溶接ワイヤ13を用いシールドガス16を純粋なArガスとしたCMT溶接においてガス流量を変化させた場合の溶融池を示す図である。図22(a)〜(f)より、いずれの流量においても、溶接ワイヤ13から溶融池21に酸素が溶出するため、深い溶け込み形状の溶融池21が得られていることが判る。
【0085】
図23(a)〜(c)は、電流値を200Aとし、炭素鋼SM490を母材20とし、シールドガス16をArガスとしたCMT溶接においてガス流量を10L/minとしてガス中のO2量を変化させた場合の溶融池を示す図である。図23(a)〜(c)に示すように、溶融池21の深さがステンレス鋼に比べて浅くなる傾向にある炭素鋼においても、溶融池21の溶け込み深さが深くなっていることが判る。
【0086】
再度、上記と同様のSUS304鋼板である母材20に対して、図1に示すようなGMA溶接装置10により、溶接速度を0.12〜0.60m/minと変化させてCMT溶接を行なった。図24(a)〜(h)は、シールドガス16を0.4体積%のO2ガスを含むArガスとし、溶接速度を0.12〜0.60m/minと変化させた場合の溶融池21を示す図であり、図25(a)〜(h)は、シールドガス16を1.0体積%のO2ガスを含むArガスとし、溶接速度を0.12〜0.60m/minと変化させた場合の溶融池21を示す図である。いずれも、ガス流量は25L/minとした。
【0087】
図24(a)〜(h)に示すように、シールドガス16が、溶融池21の酸素濃度が確実に本発明の範囲である50〜310重量ppmとなる0.4体積%のO2ガスを含むArガスの場合は、いずれの溶接速度であっても溶け込み深さが深い溶融池21が得られ、溶接速度0.4m/min以下では、特に深い溶融池21が得られることが判る。一方、図25(a)〜(h)に示すように、シールドガス16が1.0体積%のO2ガスを含むArガスの場合は、いずれの溶接速度であっても、図24(a)〜(h)に比べて深い溶融池が得られていないことが判る。
【0088】
尚、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0089】
10…GMA溶接装置、11…ノズル、12…コンタクトチップ、13…溶接ワイヤ、14…ワイヤ送給ローラ、15…ワイヤ送給制御装置、16…シールドガス、17…アーク溶接電源、18…アーク、20…母材、21…溶融池、22…Y型開先、23…ギャップ、100…プラズマGMA溶接装置、101…第1インナーノズル、102…第2インナーノズル、103…アウターノズル、104…センターガス、105…冷却水、106…プラズマガス、107…シールドガス、108…プラズマ電源、200…GMA溶接装置、201…インナーノズル、202…アウターノズル、203…第1シールドガス、204…第2シールドガス。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接ワイヤである消耗式電極と被溶接物との間にアークを発生させることによって、前記被溶接物を溶接するGMA溶接方法であって、
前記被溶接物の溶融池中の酸素濃度を50〜310重量ppmとし、前記被溶接物の溶接は、前記消耗式電極を前記溶融池に対して進退動させることにより、前記アークを断続的に発生させるCMT溶接により行なうGMA溶接方法。
【請求項2】
シールドガスを、前記消耗式電極を囲むように前記被溶接物に向けて流し、前記シールドガスは、前記シールドガスのガス流量x(L/min)、前記シールドガス中のCO2量y(体積%)、前記消耗式電極中の酸素濃度α(重量ppm)、前記溶融池中における溶融した前記消耗式電極の割合β(0<β<1)、前記被溶接物中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たすCO2を含む不活性ガス及び前記不活性ガスのみからなるガスのいずれかとする、請求項1に記載のGMA溶接方法。
【請求項3】
Heガスを含むシールドガスを、前記消耗式電極を囲むように前記被溶接物に向けて流す、請求項1又は2に記載のGMA溶接方法。
【請求項4】
前記被溶接物の溶接速度を0.4m/min以下とする、請求項2又は3に記載のGMA溶接方法。
【請求項5】
前記被溶接物の表面からの前記溶融池の深さを前記被溶接物の溶接速度により制御し、前記溶融池の深さを深くするときほど前記溶接速度を遅くする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のGMA溶接方法。
【請求項6】
前記被溶接物の表面からの前記溶融池の深さを前記消耗式電極に流す電流値により制御し、前記溶融池の深さを深くするときほど前記電流値を大きくする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のGMA溶接方法。
【請求項1】
溶接ワイヤである消耗式電極と被溶接物との間にアークを発生させることによって、前記被溶接物を溶接するGMA溶接方法であって、
前記被溶接物の溶融池中の酸素濃度を50〜310重量ppmとし、前記被溶接物の溶接は、前記消耗式電極を前記溶融池に対して進退動させることにより、前記アークを断続的に発生させるCMT溶接により行なうGMA溶接方法。
【請求項2】
シールドガスを、前記消耗式電極を囲むように前記被溶接物に向けて流し、前記シールドガスは、前記シールドガスのガス流量x(L/min)、前記シールドガス中のCO2量y(体積%)、前記消耗式電極中の酸素濃度α(重量ppm)、前記溶融池中における溶融した前記消耗式電極の割合β(0<β<1)、前記被溶接物中の酸素濃度γ(重量ppm)に対して、x<50で、50≦125−2.5x+62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たし、50≦xで、50≦62.5y+βα+(1−β)γ≦310を満たすCO2を含む不活性ガス及び前記不活性ガスのみからなるガスのいずれかとする、請求項1に記載のGMA溶接方法。
【請求項3】
Heガスを含むシールドガスを、前記消耗式電極を囲むように前記被溶接物に向けて流す、請求項1又は2に記載のGMA溶接方法。
【請求項4】
前記被溶接物の溶接速度を0.4m/min以下とする、請求項2又は3に記載のGMA溶接方法。
【請求項5】
前記被溶接物の表面からの前記溶融池の深さを前記被溶接物の溶接速度により制御し、前記溶融池の深さを深くするときほど前記溶接速度を遅くする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のGMA溶接方法。
【請求項6】
前記被溶接物の表面からの前記溶融池の深さを前記消耗式電極に流す電流値により制御し、前記溶融池の深さを深くするときほど前記電流値を大きくする、請求項1〜5のいずれか1項に記載のGMA溶接方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2013−52443(P2013−52443A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−251564(P2012−251564)
【出願日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【分割の表示】特願2008−211209(P2008−211209)の分割
【原出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【分割の表示】特願2008−211209(P2008−211209)の分割
【原出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
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