説明

GMDPの新規作用、薬剤、並びに飲食物

【課題】γ−GTP(γ−グルタミルトランスペプチダーゼ)の発現を抑制する物質を提供すること、即ち、新規な抗炎症剤などを提供すること。
【解決手段】免疫アジュバントであるGMDP(N−acetyl−D−glucosaminyl−β(1,4)−N−acetylmuramyl−L−alanyl−D−isoglutamine)を少なくとも含有する抗炎症剤などの薬剤及び飲食物を提供する。本発明者は、GMDPに、γ−GTPの発現抑制作用、口臭抑制作用などがあることを新規に見出した。従って、GMDPを含有する薬剤は、各種炎症、慢性関節リウマチ、骨粗鬆症、歯周炎、口臭抑制などに適用できる可能性がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、γ−GTP(「γ−グルタミルトランスペプチダーゼ」、以下同じ)の発現抑制作用及び口臭抑制作用を有するGMDP(「N−acetyl−D−glucosaminyl−β(1,4)−N−acetylmuramyl−L−alanyl−D−isoglutamine」、以下同じ)、GMDPを含有する薬剤、並びに飲食物などに関する。なお、本発明に係る薬剤は、各種炎症性疾患(例えば、慢性関節リウマチ、歯周炎など)、骨粗鬆症、口臭抑制などに適用できる。
【背景技術】
【0002】
γ−GTPは、腎臓、すい臓、肝臓など、多くの組織の細胞に存在する酵素である。アルコール代謝亢進時や黄疸の際に血液中に遊出するため、肝疾患の診断などに用いられている。
【0003】
本発明者は、先般、γ−GTPが破骨細胞分化促進活性を有することを見い出した。そして、γ−GTPによる破骨細胞分化を抑制し骨破壊・骨吸収を抑制する薬剤が、骨粗鬆症などに対する有効な治療剤になる可能性があるという知見を得た(以上、特許文献1参照)。
【0004】
また、本発明者は、歯肉炎を発症した患者の歯肉溝浸出液中には、γ−GTPがほとんど含まれていないが、歯肉炎から歯周炎に移行した患者の歯肉溝浸出液中には、γ−GTPが含有すること、及び、γ−GTPが歯槽骨の吸収や破壊を伴う歯周炎の発症に深く関与していることについても、先般、開示している(特許文献2参照)。
【0005】
加えて、本発明者らは、先般、γ−GTPが炎症性サイトカイン(IL−1、IL−6、MIP−1など)の発現を誘導することを見い出した。そして、γ−GTPの発現又は活性を抑制することにより、炎症性サイトカインの発現を抑制し、炎症の増幅・慢性化を抑制できる可能性があるという知見を得た(以上、特許文献3参照)。
【0006】
なお、特許文献3では、γ−GTPの発現又は活性を抑制する物質が、慢性関節リウマチ、骨粗鬆症、悪性腫瘍の骨転移に起因する癌性疼痛、良性のリンパ増殖性疾患であるCastleman病、原因不明の炎症性腸疾患であるCrohn病、歯周炎、心不全の悪化、動脈硬化、インフルエンザ脳症などの疾患に対して適用できる可能性があることについて、開示している。
【0007】
ここで、本発明に関連する物質、GMDPについて、以下説明する。GMDPは、免疫アジュバントであり、Th2タイプの免疫を活性化するグルコペプチドである。なお、免疫アジュバントは、抗原の免疫原性を高める目的で、抗原とともに生体に投与される試薬であり、免疫増強剤の一種である。例えば、特許文献4には、ワクチン化を行う際において、GMDPとコロイド溶液を含有する免疫アジュバントを用いて免疫応答を増強させる方法が開示されている。
【特許文献1】特開平10−87507号公報
【特許文献2】特開2005−24337号公報
【特許文献3】特開2005−80629号公報
【特許文献4】特開平10−25250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の通り、γ−GTPの発現を抑制する物質は、抗炎症剤など、各種疾患に対する予防又は治療剤として適用できる可能性がある。そこで、本発明は、γ−GTPの発現を抑制する物質を提供すること、即ち、新規な抗炎症剤などを提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、はじめに、GMDP(「N−acetyl−D−glucosaminyl−β(1,4)−N−acetylmuramyl−L−alanyl−D−isoglutamine」、以下同じ)を少なくとも含有する抗炎症剤などの薬剤を提供する。
【0010】
本発明者は、GMDPに、γ−GTP(「γ−グルタミルトランスペプチダーゼ」、以下同じ)の発現を抑制する作用があることを新規に見出した。
【0011】
前記の通り、γ−GTPの発現を抑制する物質は、各種炎症、慢性関節リウマチ、骨粗鬆症、悪性腫瘍の骨転移に起因する癌性疼痛、良性のリンパ増殖性疾患であるCastleman病、原因不明の炎症性腸疾患であるCrohn病、歯周炎、心不全の悪化、動脈硬化、インフルエンザ脳症などの疾患に対して適用できる可能性がある。従って、本発明に係るGMDPは、これらの疾患の予防又は治療に有効な可能性がある。
【0012】
特に、本発明に係るGMDPは、骨吸収を伴う疾患、例えば、慢性関節リウマチ、骨粗鬆症、歯周炎などに効果が高い可能性がある。
【0013】
例えば、組織が傷害を受け、その障害部位にマクロファージなどが浸潤すると、そのマクロファージなどからγ−GTPが放出される。γ−GTPは、炎症性サイトカインの発現を誘導し、炎症を増幅・慢性化するとともに、破骨細胞をの分化を促進し、骨吸収を促進する。それに対し、γ−GTPの発現を抑制することにより、炎症の憎悪を抑制するとともに、骨吸収も抑制できる可能性がある。
【0014】
なお、本発明に係る薬剤の場合、主に、γ−GTPが炎症性サイトカインを誘導する段階、即ち、炎症が重篤化・慢性化する段階における炎症反応を抑制する。それに対し、炎症の初期段階における炎症反応を過剰に抑制しない可能性が高い。従って、生体防御機構としての炎症反応を過剰に抑制せずに、重篤化・慢性化した炎症のみを予防・改善できるという利点がある。
【0015】
続いて、本発明では、GMDPを少なくとも含有する口臭抑制剤を提供する。
【0016】
本発明者は、前記知見に加えて、γ−GTPが臭い物質の発生・活性化・増強などを促進する作用を有すること、及び、GMDPが歯周病菌におけるγ−GTPの酵素活性を抑制することについても、新規に見出した。
【0017】
歯周病は、歯周組織、即ち、歯肉、歯槽骨などに生じる炎症性の病変であり、歯肉炎及び歯周炎を含む。歯肉に炎症部位が限定されているものを歯肉炎といい、症状が進行して歯周組織にまで炎症部位が広がり、歯槽骨の骨吸収が進行したものを歯周炎という。
【0018】
例えば、歯周炎患者の場合、口腔内には、ヒト組織由来のγ−GTPと歯周病菌由来のγ−GTPの両方が存在する。また、歯肉炎患者の場合でも、口腔内には、歯周病菌由来のγ−GTPが多く存在する。一方、前記の通り、γ−GTPは、臭い物質の発生などに関与する。従って、GMDPを用いて口腔内におけるγ−GTPの発現・酵素活性などを抑制することにより、口臭を抑制できる。
【0019】
加えて、上述の通り、GMDPは歯周炎の予防又は治療にも有効であるため、本発明は、口臭抑制を含む口腔環境全体の改善にも効果がある可能性が高い。
【0020】
なお、本発明には、GMDPを含有させた各種飲食物も含まれる。例えば、GMDPを各種飲食物に含有させることにより、定期的又は連続的な摂取を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、γ−GTPの発現を抑制できる。従って、本発明に係る薬剤は、各種炎症、慢性関節リウマチ、骨粗鬆症、歯周病、口臭抑制などに適用できる可能性がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
<本発明に係るGMDPについて>
本発明に係るGMDPは、γ−GTPの発現抑制作用、口臭抑制作用などを有する。そのため、例えば、各種薬剤又は各種飲食物に含有させて用いることができる。なお、GMDPは通常の販売ルートにより入手可能である。
【0023】
<本発明に係る薬剤について>
本発明に係る薬剤は、GMDPを少なくとも含有していればよい。
【0024】
上述の通り、本発明に係る薬剤は、γ−GTPの発現・酵素活性などが関与する疾患に適用できる可能性がある。
【0025】
適用可能性のある疾患としては、例えば、各種炎症、慢性関節リウマチ、骨粗鬆症、悪性腫瘍の骨転移に起因する癌性疼痛、良性のリンパ増殖性疾患であるCastleman病、原因不明の炎症性腸疾患であるCrohn病、歯周炎、心不全の悪化、動脈硬化、インフルエンザ脳症、口臭などがある。
【0026】
本発明に係る薬剤の剤型は特に限定されない。例えば、経口剤(散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、丸剤など)、外用剤(軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、外用液剤、点眼液剤、点鼻液剤、吸入剤、坐剤、スプレーなど)、注射剤などとして用いることができる。
【0027】
経口剤の場合、例えば、本発明に係る化合物に、賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、保存剤、着色剤、矯味剤、香料、安定化剤、防腐剤、酸化防止剤などを適宜含有させてもよい。
【0028】
外用剤の場合、例えば、本発明に係る化合物に、基材、保存剤、乳化剤、着色剤、防腐剤、酸化防止剤などを適宜含有させてもよい。
【0029】
注射剤の場合、例えば、本発明に係る化合物に、溶剤、安定剤、溶解補助剤、懸濁化剤、保存剤、等張化剤などを適宜含有させてもよい。
【0030】
<本発明に係る飲食物について>
本発明に係る飲食物は、GMDPを少なくとも含有させたものであればよい。
【0031】
例えば、保健機能食品(特定保健機能食品、栄養機能食品など)、いわゆる健康飲食物、その他の各種飲食物などに含有させたり、各種調味料などに配合したりすることができる。また、口中に一時的に含むもの、例えば、歯磨剤、染口剤、チューインガム、うがい剤などに含有させてもよい。
【0032】
各種飲食物にGMDPを含有させることには、長期間・連続的な摂取が容易である、毎日の摂取量を簡易に管理できる、などの利点がある。従って、それらの飲食物は、例えば、歯周炎の予防、口臭抑制など、口臭環境の維持・改善を目的とする場合に特に有用である。また、それらの飲食物は、その他の前記各疾患の予防・治療などにも利用できる。
【0033】
本発明に係る飲食物には、γ−GTPの発現抑制作用を有する他の物質、例えば、アントシアニンをさらに含有させてもよい。これにより、γ−GTP発現抑制を増強させることができる。
【実施例1】
【0034】
実施例1では、GMDPに、ヒトγ−GTPの発現を抑制する作用があるかどうかを検証した。
【0035】
まず、ヒト単球性白血病細胞由来の培養細胞であるU937細胞を培養し、培地にTPA(12−O−tetradecanoylphorbor−13−acetate)を最終濃度で2μM添加し、U937細胞におけるγ−GTPの発現を誘導した。
【0036】
TPAは、発ガンプロモーターとして知られる物質である。U937細胞などの白血病細胞をTPA処理することにより、マクロファージ系細胞へ分化させることができることが知られている。本実験では、TPA処理することにより、同時に、γ−GTPの発現を誘導させることができた。
【0037】
なお、培地には、RPMI−1640培地(「RPMI」はRoswell Park Memorial Instituteの略、GIBCO社製)に、ウシ胎仔血清(FBS;Fetal bovine serum、Sigma社製)を最終濃度で10%添加したものを用いた。
【0038】
次に、γ−GTPの発現を誘導したU937細胞の培地に、GMDPを、最終濃度がそれぞれ0、3、10、30、100μg/mLになるように添加し、24時間培養した。次に、RNA抽出用試薬のISOGEN(株式会社ニッポンジーン製)を用いて、それらの細胞のtotalRNAを回収した。
【0039】
次に、回収したtotalRNAをテンプレートにし、定量的リアルタイムPCRにより、ヒトγ−GTPをコードするRNAの増幅を行いながら、その転写RNA量を相対的に計測した。
【0040】
定量的リアルタイムPCR装置には、「LightCycler(登録商標、ロシュ・ダイアグノスティクス株式会社製)」を用いた。γ−GTPのセンス鎖のプライマーには配列番号1の配列を、アンチセンス鎖のプライマーには配列番号2の配列を、それぞれ用いた。「LightCycler FastStartDNA Master SYBR Green I kit(「LightCycler」は登録商標、ロシュ・ダイアグノスティクス株式会社製)」を用いて、43サイクル×(変性温度95℃、アニール温度55℃、伸長温度72℃)の設定で、PCRによる増幅を行った。
【0041】
結果を表1に示す。
【表1】

【0042】
表1に示す通り、U937細胞へのGMDPの添加量を増加させると、それらの細胞におけるγ−GTPの転写RNA量(即ち、γ−GTPの発現量)が濃度依存的に低下した。この結果は、GMDPに、ヒトγ−GTPの発現を抑制する作用があることを示す。
【実施例2】
【0043】
実施例2では、GMDPに、歯周病菌におけるγ−GTPの発現を抑制する作用があるかどうかを検証した。
【0044】
まず、15種類の歯周病菌を準備した。GAMブイヨン培地(日水製薬株式会社製)に、ヘミン5μg/mL及びメナジオン1μg/mLを添加し、その培地にそれぞれ歯周病菌を播種し、アネロメイト(登録商標、日水製薬株式会社製)に封入し、37℃、嫌気的条件下で、3日間、培養した。
【0045】
次に、それぞれの歯周病菌についてパパイン処理を行った後、γ−GTP活性を測定した。それぞれ、歯周病菌を集め、10mg/mLのパパイン及び1%のTriton−X 100を含む10mMリン酸バッファー(pH6.5)中で懸濁し、室温で一晩静置した後、その上清を採取し、γ−GTP活性を測定した。γ−GTP活性の測定には、L−グルタミル−P−ニトロアニリド基質法を採用した。
【0046】
その結果、パパイン処理をした場合、15種類の歯周病菌のうち2種類(学名「Actinomyces naeslundii」及び学名「Fusobacterium nucleatum」)で、γ−GTP活性が高かった。そこで、この2種類の歯周病菌を本実験に採用した。
【0047】
上記と同じ培地に、GMDPを最終濃度がそれぞれ0、100、1,000μg/mLになるように添加し、その培地でそれぞれの歯周病菌を培養した。そして、前記と同様に、パパイン処理を行った後、その培養上清のγ−GTP活性を測定した。また、それぞれの培養液の臭いの程度について、三人の技術者により、官能評価を行った。
【0048】
結果を表2に示す。
【表2】

【0049】
なお、表2の「臭い」の項目において、「+」の数は臭いの程度を表す。臭いの程度が大きい場合、「+」の数が多い。
【0050】
表2に示す通り、GMDPの添加量を増加させると、培養上清におけるγ−GTPの酵素活性が低下した。この結果は、GMDPに、歯周病菌におけるγ−GTPの酵素活性を抑制する作用があることを示す。
【0051】
また、表2に示す通り、GMDPの添加量を増加させると、培養液の臭いの程度も低下した。この結果は、γ−GTPが、臭い物質の発生・活性化・増強などを抑制する作用を有すること、及び、GMDPにより臭いの程度を抑制できることを示唆する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ−GTPの発現抑制作用を有するGMDP。
【請求項2】
口臭抑制作用を有するGMDP。
【請求項3】
GMDPを少なくとも含有する抗炎症剤。
【請求項4】
骨吸収を伴う疾患に対して適用することを特徴とする請求項3記載の抗炎症剤。
【請求項5】
GMDPを少なくとも含有する、慢性関節リウマチの予防又は治療のための薬剤。
【請求項6】
GMDPを少なくとも含有する、骨粗鬆症の予防又は治療のための薬剤。
【請求項7】
GMDPを少なくとも含有する、歯周炎の予防又は治療のための薬剤。
【請求項8】
GMDPを少なくとも含有する口臭抑制剤。
【請求項9】
歯周炎の予防又は治療に用いる、GMDPを少なくとも含有させた飲食物。
【請求項10】
口臭抑制に用いる、GMDPを少なくとも含有させた飲食物。

【公開番号】特開2007−238512(P2007−238512A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−63941(P2006−63941)
【出願日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(301058137)株式会社エーシーバイオテクノロジーズ (6)
【Fターム(参考)】