説明

GPIアンカータンパク質欠損細胞の検出方法

【課題】GPIアンカータンパク質欠損細胞を高精度に検出する方法を提供する。
【解決手段】特定の細胞と結合する試薬を用いて動物から採取されたサンプル中の特定の細胞を濃縮したサンプルに、GPIアンカータンパク質を第二試薬用蛍光色素で標識しうる第二の試薬を添加し、第二試薬用蛍光色素で標識されていない細胞を検出する、GPIアンカータンパク質欠損細胞の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の表面抗原の発現量を測定することで内在性遺伝子Pig-a上の変異有無を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内在性遺伝子Pig-aは、哺乳類細胞におけるX染色体上に存在し、細胞膜構成成分の一つである糖鎖グリコシルホスファチジルイノシトール(以下、GPIと略記する)の合成に寄与する酵素の一部をコードしている。GPIは、細胞膜に直接発現することのできないタンパク質を細胞膜表面上に発現させる碇の役割を果たしており、GPIを介して細胞膜表面上に発現するタンパク質は総称してGPIアンカータンパク質と呼ばれている。Pig-a遺伝子に変異を生じるとGPIの合成ステップが止まるため、細胞膜表面上にGPIアンカータンパク質が発現できなくなる。この特徴を利用し、フローサイトメーターによって検出する新たなIn vivo遺伝子突然変異評価法(以下、Pig-aアッセイ)が開発されている。
【0003】
フローサイトメーターとは、細胞を浮遊液の状態にして流体系の中を高速で通過させ、その過程で個々の細胞にレーザーが照射され、レーザーによる反射あるいは励起エネルギーを検出部からの光学的、電気的信号を瞬時に解析し、各細胞の生物学的特徴を研究、解明することに汎用される装置である。フローサイトメーターによる解析では、例えば、蛍光標識された抗体あるいは核酸に結合する蛍光プローブを用いることにより、細胞におけるタンパク質発現量や核酸量を定量し、細胞の種類を識別することも可能である。
【0004】
フローサイトメーターを用いる方法の特徴として、機械的に短時間に少量のサンプルで多数の細胞について迅速に解析できる点が挙げられる。また、データの質を保証するうえで重要な精度管理も可能であり、客観性の高いデータを取得できる点も特徴である。このフローサイトメーターを利用したPig-aアッセイについては、これまでに非臨床実験動物(特にげっ歯類)を用いていくつかの方法が開発されている。一つ目のアプローチ法として、末梢血赤血球の膜表面上に発現するGPIアンカータンパク質(ラットではCD59、マウスではCD24)の発現の有無を指標に評価する方法がある。この方法では赤血球を定義するのに3種類の方法が存在する。
【0005】
1種類目は、三浦らによって開発された方法であり、フローサイトメーター上で血小板や夾雑物を細胞集団から取り除き、さらにCD45と呼ばれる白血球に特異的に発現するタンパク質と反応する蛍光標識抗体を用いて白血球集団を解析対象から取り除いたうえで、その赤血球集団のGPIアンカータンパク質発現を評価する方法である(非特許文献1)。2種類目は、フローサイトメーター上で血小板や夾雑物を細胞集団から取り除き、さらに赤血球に特異的に発現するエリスロイドマーカー(ラットではHIS49、マウスではTER-119)と反応する蛍光標識抗体を用いて積極的に赤血球系の細胞を解析対象として精製し、その赤血球集団のGPIアンカータンパク質発現を評価する手法である。2種類目の手法については、Dobrovolskyらがラットを用いた方法について(非特許文献2)、木本らがマウスを用いた方法について報告している(非特許文献3)。3種類目は、Dertingerらによって開発された方法であり、末梢血中の白血球を密度勾配遠心分離法で除去し、さらにフローサイトメーター上で血小板や夾雑物を細胞集団から取り除いたうえで、その赤血球集団のGPIアンカータンパク質発現を評価する方法である(特許文献1および2)。この方法では、さらにSYTO13と呼ばれる核酸染色剤を添加し、赤血球集団の中からRNAが細胞内に含まれる網状赤血球を区別することで、全赤血球集団と網状赤血球集団それぞれについてGPIアンカータンパク質発現を評価しうる。
【0006】
網状赤血球は骨髄において新生されて2〜3日以内の赤血球であり、細胞内にRNAが残存するほか、細胞膜表面上にCD71と呼ばれるタンパク質が発現していることが知られている。また、網状赤血球は骨髄中で脱核した赤芽球に由来しており、遺伝毒性物質を投与すると骨髄中の幹細胞や赤芽球中でPig-a遺伝子変異を生じ、GPIアンカータンパク質陰性の赤血球が持続的に供給されるといったモデルが提唱されている。したがって、網状赤血球を測定対象に限定した場合、全赤血球を測定対象とするのに比べて、より早期の段階から遺伝毒性物質によるPig-a遺伝子変異誘発性を評価することが可能である(特許文献1、特許文献2)。
【0007】
網状赤血球であることの定義に用いられるRNAやCD71は、網状赤血球から赤血球へと成熟していく過程で失われるため、末梢血中に存在する赤血球のうち網状赤血球の割合は数%程度である。一方で1個体あたりの遺伝子突然変異誘発性を評価するうえでは、測定母集団を十分確保することが必要と考えられており、その目安としては100万細胞の測定が必要と考えられている。しかしながら、上記のアプローチ法では全赤血球に限定した測定方法であるか、網状赤血球の測定が可能であっても30万個の網状赤血球を測定するのに20分程度かかるため、必ずしも効率的ではなく、測定方法に改善の余地があると考えられてきた。
【0008】
Dertingerらはこれらの課題を解決すべく、新たなアプローチ法について報告している(非特許文献4)。彼らは解析対象となる細胞集団からGPIアンカータンパク質が正常な細胞を蛍光標識抗体で認識させ、この抗体に結合する磁気ビーズによって正常な細胞と変異細胞を分離する手法を考案した。そして、分離前にカウント補正用のビーズを測定サンプルに添加し、分離前のサンプルと分離後の変異細胞が含まれる画分をそれぞれフローサイトメーターで測定し、正常細胞と変異細胞の出現数と補正用ビーズをカウントすることで、全赤血球中の変異頻度とSYTO13で染色された網状赤血球中の変異頻度を、それぞれ計算値として10億個以上または300万個以上の母集団で評価することが可能であると記載している。しかしながら、非特許文献4の方法もあくまで計算値として測定母集団を確保しており、実測値として十分な網状赤血球集団を効率的に測定する方法としては、改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第7,824,874号明細書
【特許文献2】国際公開第2009/152428号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Miura, D. 2008. Environ. Mol. Mutagen. 49(8):614
【非特許文献2】Dobrovolsky, VN. 2010. Environ. Mol. Mutagen. 51(2):138
【非特許文献3】Kimoto, T. 2011. Mutat. Res. In press, DOI 10.1016/j.mrgentox.2011.03.016
【非特許文献4】Dertinger, SD. 2011. Mutat. Res. 721(2):163
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、化学物質による遺伝毒性などに起因したGPIアンカータンパク質欠損細胞をより高精度で検出する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、サンプル中の存在比率の低い細胞集団を濃縮し、その濃縮された細胞集団を、さらにマーカーで標識したうえでGPIアンカータンパク質発現を評価することで、GPIアンカータンパク質陰性細胞を高精度で検出できることを見出した。
【0013】
すなわち本発明は、
(1)特定の細胞と結合する第一の試薬を用いて、動物の体液または組織から採取された特定の細胞を含むサンプル中の特定の細胞を濃縮する工程、
(2)(1)の工程で濃縮されたサンプルに、GPIアンカータンパク質を第二試薬用蛍光色素で標識しうる第二の試薬を添加する工程、および
(3)特定のレーザーを照射することによって励起される、少なくとも1種類のチャンネルの蛍光を検出できる装置を使用して、第二試薬用蛍光色素で標識されていない細胞を検出する工程、
を含む、特定の細胞中のGPIアンカータンパク質欠損細胞を検出する方法である。
【0014】
また、本発明は、特定の細胞と結合する第一の試薬、
GPIアンカータンパク質を第二試薬用蛍光色素で標識しうる第二の試薬、および
特定のレーザーによって励起される蛍光波長ピークが第二試薬用蛍光色素のそれと十分に乖離している第三試薬用蛍光色素で特定の細胞を標識しうる第三の試薬を含む、
特定の細胞中のGPIアンカータンパク質欠損細胞を検出するためのキットである。
【0015】
ここで、本発明における「特定の細胞」とは、1種類の細胞をいう。
また、「蛍光波長ピーク」とは、蛍光色素がレーザーにより励起されて発光する蛍光の波長のうち、蛍光強度が最大時の波長をいい、「特定のレーザー」とは、蛍光色素を励起することができるレーザーをいい、405nmの半導体レーザー、488nmの固体レーザー、633nmのヘリウムネオンレーザーが例示できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、GPIアンカータンパク質欠損細胞を高精度に検出できる。その結果、例えば化学物質による遺伝毒性を高精度で評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明方法におけるサンプル調製の流れの一例を示す図である。
【図2】実施例1、2における解析手順を示すサイトグラムの一例である。
【図3】実施例1と比較例1の測定結果を示す図である。
【図4】実施例1と比較例3の測定結果を示す図である。
【図5】実施例2の測定結果を示す図である。
【図6】比較例2の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は実験用動物を含む全ての哺乳類由来のサンプルに適用できる。サンプルとしては動物の組織あるいは体液由来より単離された特定の細胞が用いられる。組織または体液としては腹膜液、脊髄液もしくは脳内の流体、尿、全血もしくは末梢血の一部、骨髄液、リンパ節、肝臓、脾臓、皮膚、乳腺、精巣、精巣上体、副生殖腺、膀胱、尿管、胃、十二指腸、空腸、回腸、盲腸、結腸、直腸、膵臓、腎臓、副腎、胸腺、心臓、血管、舌、咽頭、喉頭、気管、食道、甲状腺、肺、眼球、脳、下垂体、筋肉、神経、骨などが挙げられる。本発明には、特定の細胞を含む細胞懸濁液などの流体、特定の細胞を含む組織切片など、GPIアンカータンパク質欠損細胞の検出という目的を達成できる、あらゆる種類のサンプルを用いることができる。
【0019】
GPIアンカータンパク質とは、細胞で合成された特定のタンパク質が翻訳後修飾によってGPIが結合したタンパク質であり、GPIの結合によって細胞表面に提示されるものをいう。したがって、GPIアンカータンパク質はGPIが結合しなければ細胞表面に提示される能力を失う。細胞表面上のGPIまたはGPIアンカータンパク質の消失によって、遺伝子突然変異誘発性を評価する場合に用いられる。GPIアンカータンパク質としては、CD14、CD16b、CD24、CD48、CD52、CD55、CD58、CD59、CD66b、CD66c、CD73、CD87、CD90、CD108、CD109、CD157、Ly-6C、Ly-6D、Ly-6M、TSA-1、Gr-1、アセチルコリンエステラーゼ、プリオンタンパク質、エクト-ADP-リボシルトランスフェラーゼが挙げられるが、これらに限定されない。また、現在のところGPIアンカータンパク質としては知られていないタンパク質であっても、例えば特開2011-60004に記載の方法などでの解析により、当業者であれば適宜新規のGPIアンカータンパク質を同定して、本発明に利用することができる。GPIは細胞の小胞体において、いくつかの合成段階を経て合成され、この合成系には複数の遺伝子によってコードされた酵素が関係しており、その代表的なものとしてはPig-aの他にPig-M、PIG-F、Pig-B、Pig-C、Pig-H等が存在することが知られている。その中でもPig-aはその遺伝子がX染色体上に存在することが知られており、常染色体上に存在する他のGPI合成系の関与する遺伝子よりも、遺伝子変異による酵素の発現または機能の低下または消失による当該合成系への影響が大きいと考えられている。事実、このGPI合成系の機能低下また機能消失によるGPIアンカーの細胞表面での提示の低下または消失は、ほとんどの場合はPig-aの遺伝子変異によるものと考えられている。そのため、GPIアンカータンパク質の細胞表面での発現の低下または消失を検出することによるGPI合成系の機能低下または機能消失を検出するアッセイ方法はPig-aアッセイと呼ばれることもある。
【0020】
なお、本明細書においてGPIまたはGPIアンカータンパク質の細胞での発現低下または消失とは、GPIまたはGPIアンカータンパク質を蛍光標識した試薬で認識させたときに、正常な細胞ではある一定のGPIまたはGPIアンカータンパク質を有することから、ある一定の蛍光強度を有するのに対し、試薬が反応せず、蛍光を発しないことをいう。このときの蛍光強度は、正常な細胞に試薬を処理しないまま発現量を測定したときの蛍光強度と同等であるため、解析時にはまず試薬を処理していない正常な細胞における蛍光強度を測定し、GPIまたはGPIアンカータンパク質発現が低下または消失した細胞の蛍光強度の範囲を決定することが好ましい。
【0021】
本発明は、例えば化学物質や電磁波に曝露されて起こるDNA損傷が要因となる遺伝子突然変異を評価する場合に用いられる。この評価に必要な曝露の期間は、1回限りの短期曝露から1回以上の長期曝露に至るまで、いずれの曝露期間においても評価可能である。また、曝露の主目的が他の評価に用いる場合であっても、本発明を併用して評価することが可能である。サンプル回収の時期として、例えば末梢血中の網状赤血球を使用する場合には、曝露によって突然変異を生じた骨髄中の幹細胞、もしくは赤血球の前駆細胞が、GPIアンカー欠損の網状赤血球として末梢血に現れるまでの時間が経ったところ(通常は初回の曝露から数日後あるいは数週間後)が挙げられる。他の組織由来の細胞でも、初回曝露されてから数日後以降にサンプルを回収し、本発明により評価することができる。
【0022】
本発明の対象となる血球系細胞としては、赤血球系細胞と白血球系細胞が含まれる。赤血球系細胞としては、網状赤血球、赤芽球、およびこれらの前駆細胞などが挙げられる。また、白血球系細胞としては、Tリンパ球、Bリンパ球、好中球、好酸球、好塩基球、単球およびこれらの前駆細胞などが挙げられる。
【0023】
本発明の第一の工程は、特定の細胞と結合する第一の試薬を用いて、動物の体液または組織から採取された特定の細胞を含むサンプル中の特定の細胞を濃縮する工程である。
かかる第一の試薬は、特定の細胞に結合し、それによって特定の細胞集団を濃縮するために用いられる。第一の試薬は、特定の細胞を他の細胞と分別するために利用できる物質と結合する。そのような特定の細胞を他の細胞と分別するために利用できる物質は、細胞マーカーとも呼ばれ、本明細書でも「細胞マーカー」と記載する場合がある。もっとも、第一の試薬は特定の細胞以外にも結合するものであっても、特定の細胞を濃縮できるものであればよいが、特定の細胞にのみ結合するものが好ましい。
【0024】
細胞マーカーとしては、当該特定の細胞の細胞表面または細胞内に存在する物質を利用することができるが、第一の試薬を用いて特定の細胞を濃縮するためには、細胞表面に存在する細胞マーカーを利用することが望ましい。そのような細胞マーカーのうち、細胞表面に存在するものとしては、受容体、接着分子、酵素などを含むタンパク質、タンパク質に結合している糖鎖、細胞膜に存在する脂質などを挙げることができるが、その中でも細胞表面抗原が好ましい。細胞表面抗原の多くはCD番号によって体系立てて分類され、それぞれの細胞表面抗原について特定の細胞または同一の特定の細胞分画での細胞表面での存在が特定されており、当業者であればその中の特定の細胞表面抗原またはその組合せを選択し、それに結合する特定の細胞と結合する物質を用いることで、特定の細胞を識別することができる。細胞表面に存在する細胞マーカーを認識する特定の細胞と結合する物質としては、それが受容体であればそれに結合するリガンドやリガンドミミックスまたはリガンドとの結合に競合する阻害剤など、接着分子であればそれが結合する細胞外基質や他の細胞の接着因子もしくはそれらのミミックス、酵素であれば基質、酵素に結合する阻害剤やアロステリック効果を及ぼす物質など、糖鎖であればレクチンなど、当業者であれば細胞マーカーの種類と性状を勘案して適切なものを選択して使用できるが、特異性の点で、望ましくは細胞マーカーに結合する抗体が用いられる。また、そのような特定の細胞と結合する物質は、細胞マーカーの存在を検出する目的から蛍光物質を結合させて使用してもよく、場合によってはその特定の細胞と結合する物質自体が有する蛍光物質としての特性を利用してもよい。
【0025】
また、特定の細胞を、特定の細胞と結合する第一の試薬を用いて濃縮する工程には、特定の細胞のみを捕捉することなどで特定の細胞を濃縮するポジティブ選択と、不要の細胞等を捕捉することで残った細胞を集めるネガティブ選択を用いることができるが、ポジティブ選択の方が特異性や効率の面で優れていることが多い。
【0026】
特定の細胞を第一の試薬を用いて濃縮するためには、一般的には固相に対して濃縮したい特定の細胞を捕捉して、他の細胞を除去する方法が用いられる。ここで固相とは、特定の細胞を濃縮する工程で使用する際には固体またはゲル状の担体をいい、液相に対して容易に分離できるものをいう。固相の例としては、例えばプラスチックやゴム、不溶性の多糖類、(不溶性の)ケイ素化合物などが挙げられるが、これらに限定されない。また、固相の形態は、液相と容易に分離できる形状であればどのような形態でもよいが、表面積率を上げるためには粒状の形態をとることが好ましい。さらに、特定の細胞と結合する第一の試薬を用いて濃縮する工程で、固相に結合した細胞を落とさずに不要の細胞を効率的に除去する洗浄の効率を上げる目的で、粒状の担体の中に鉄や磁性体などを導入して、磁石で濃縮できる形態の固相を用いることも可能である。このような磁石による濃縮が可能な固相は、一般に磁気ビーズとして知られている。
【0027】
本発明において、第一の試薬に磁気ビーズを使用して特定の細胞を濃縮する場合には、磁気ビーズを第一の試薬に標識したもの、あるいは添加後に第一の試薬に磁気ビーズが結合するものが用いられる。例えば、第一の試薬に蛍光色素を含まないものを使用し、網状赤血球を特定の細胞とする場合、磁気ビーズで標識された抗CD71抗体を細胞に反応させた後、磁気装置で濃縮することができる。第一の試薬に蛍光色素を含むものを使用し、網状赤血球を特定の細胞とする場合、フィコエリスリン(PE)などの蛍光色素を標識した抗CD71抗体を添加後、PEと結合する抗体を標識した磁気ビーズを添加し、磁気装置で濃縮することで目的とするCD71陽性細胞を回収する。PE標識した抗ラットCD71抗体はBecton Dickinson社、カタログ番号554891で購入可能であるが、これに限定されない。
【0028】
本発明における特定の細胞を濃縮する工程としては、磁気ビーズを用いて、特定の抗体や分子で標識した細胞を磁気装置にかけて濃縮する方法や、セルソーターを用いて、特定の抗体や分子で標識した細胞を単離する方法が挙げられる。磁気ビーズを用いる場合、磁気ビーズの直径が50〜300μmであることが望ましく、商業的に入手可能なものとしては、Magnetic-Particles-DMなどが挙げられる。磁気ビーズは四酸化三鉄などの磁性微粒子とポリスチレンなどのポリマーの複合体が望ましいが、これに限定されない。ポリマー複合体の場合、磁性微粒子は磁気ビーズ内に分散して埋め込まれており、磁石を近づけると磁化され、遠ざけると磁化が消失する超常磁性の性質を示す。磁気ビーズの表面を加工してアミノ基やカルボキシル基などを付加することにより、さまざまな物質を化学的に固定化したり、イオン交換体として用いることができる。当業者であれば、例えばDynabeads(R)、Mag Sepharose、Therma-Max(R)、Sepa-Max(R)などを適宜使用することができる。望ましくは低分子であるビオチンと簡便かつ強固に結合するアビジンを固定化した磁気ビーズである。この濃縮工程においては、特定の細胞と結合する第一の試薬が直接的に固相と結合していて、それによって目的としている特定の細胞を固相に捕捉してもよく、また第一の試薬を認識して捕捉できる物質が結合した固相によって間接的に目的としている特定の細胞を固相に捕捉することでもよい。磁気装置は、磁気ビーズを帯びた細胞を単離できることが望ましく、商業的に入手可能なものとしては、例えばMACSやCell Separation Magnetが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、磁気ビーズを使用して、特定の細胞を濃縮することができるいかなる磁気装置、磁気ビーズも用いうる。例えば、磁気ビーズを、磁石を配したラックに立てることによって数分以内に捕集できるような、容器に磁石を密着させたり遠ざけたりする機構を設けた自動化装置でもよい。さらに、懸濁液を吸引・吐出する分注用のプラスチックノズルに同様の機構を付加することもできる。すなわち、本発明においては、第一の試薬が、磁気ビーズを含むもの、または磁気ビーズと結合可能なものであり、上記(1)の濃縮工程が、特定の細胞を含むサンプルに第一の試薬を添加し、磁気装置を用いて第一の試薬と結合する特定の細胞を分離することが好ましい。
【0029】
一方、セルソーターはフローサイトメーターの一つで、レーザー発生装置をそなえ、一括して分別した細胞を採取する装置をいう。サンプル流液を一定の振動数によって液滴形成させ、目的の細胞の入った液滴を正確に荷電させ、帯電された偏向板により液滴を異方向に分離させ、蛍光標識細胞の自動分離機能を有することが望ましく、商業的に入手可能なものとしては、FACS Aria I、FACS Aria II、FACS Aria III、InFlux、MoFlo XDPなどが挙げられるが、これらに限定されるものではなく、特定の細胞を濃縮できる、いかなるセルソーターを用いてもよい。
【0030】
本発明の第一の工程に、以下の工程を追加することもできる。
a)細胞溶解剤によって、特定の細胞以外のみを溶解させる工程。
この工程は、第一試薬によりサンプルを濃縮する工程の前、または同時に実施することができる。かかる細胞溶解剤は、特定の細胞のみを溶解させるものであることが望ましい。例えば、赤血球を溶解する塩化アンモニウムが挙げられる。塩化アンモニウムを加えることで、核を有さない赤血球のみを溶解し、その他の有核細胞のみを単離することが可能である。商業的に入手可能なものとしては、Lysing Bufferなどが挙げられるが、これらに限定されず、特定の細胞以外の細胞を溶解できる、いかなる試薬も用いられる。
b)遠心分離によって、特定の細胞分画を含むサンプルを調製する工程。
【0031】
第一試薬によりサンプルを濃縮する工程の前に実施することができる。第一試薬の添加は、遠心分離実施の前、同時、後でもよい。遠心分離法は、遠心力場において物質を形状と比重差によって分離する方法である。例えば、特定の細胞が網状赤血球の場合、遠心分離法によって赤血球系細胞のみ含むサンプルを調製することができる。
【0032】
本発明の第二の工程は、(1)の工程で濃縮されたサンプルに、GPIアンカータンパク質を第二試薬用蛍光色素で標識しうる第二の試薬を添加する工程である。
ここで、「GPIアンカータンパク質を第二試薬用蛍光色素で標識しうる試薬」とは、GPIアンカータンパク質と結合でき、かつ初めから第二試薬用蛍光色素とも結合しているか、少なくとも第二の試薬を適用した際には第二試薬用蛍光色素と二次的に結合する結果、GPIアンカータンパク質が第二試薬用蛍光色素で標識された状態になる試薬をいう。
【0033】
本発明の対象となる細胞は、蛍光色素が結合した抗体などの試薬を使用して識別されるが、特に、複数の試薬を使用して目的とする分子を発現している特定の細胞を限定し、他の細胞を排除することで、測定の精度を高めることができる。例えばラット網状赤血球の場合、CD71とerythroid markerを発現しており、これらを認識する蛍光標識抗体をそれぞれ添加することで、より確実に網状赤血球のみを対象として、目的とするGPIアンカータンパク質の有無を測定することが可能である。
【0034】
本発明において、第二の試薬として例えば蛍光色素抗体を使用する場合、その抗体は、適切な識別と標識ができれば特に制限はなく、モノクロナール抗体、ポリクロナール抗体、モノ特異的ポリクロナール抗体調合液、キメラ抗体、一本鎖抗体、合成抗体、Fab断片、Fab’断片、F(ab)2断片、F(ab’)2、Fd断片、Fv断片、dAb断片、単離した相補性決定領域(CDRs)などのいかなる抗体断片も用いうる。望ましい蛍光色素を抗体に結合することは公知であり、そのような免疫学的試薬は、商業的に入手可能である。他の蛍光色素として、核酸染料や特定の分子と相互作用が可能な蛍光標識された分子がある。
【0035】
本発明で用いる蛍光色素は、レーザーによって励起されるあらゆる蛍光色素を含む。例えば、405nmのレーザーによって励起されるAlexa Fluor 405やPacific Blue、488nmのレーザーによって励起されるFITC、PE、PE-Cy5、PE-Cy7、PerCP、PerCP-Cy5.5、633nmのレーザーによって励起される、アロフィコシアニン(APC)、APC-Cy7などが挙げられる。また独自に蛍光色素を発する核酸染色剤の例として7-AAD、PI、Hoechst33342、SYTO13、SYTO83、チアゾールオレンジなどが挙げられる。GPIを認識する蛍光標識分子として、FLAERが挙げられる。FLAERはProtox Biotech社、カタログ番号FL2Sで購入可能であるが、これに限定されない。
【0036】
本発明の第三の工程は、(3)特定のレーザーを照射することによって励起される、少なくとも1種類のチャンネルの蛍光を検出できる装置を使用して、第二試薬用蛍光色素で標識されていない細胞を検出する工程である。
【0037】
本発明で用いる装置は、蛍光色素を含む試薬で特定した細胞におけるGPIまたはGPIアンカータンパク質の有無を識別できるものである。その例としては、フローサイトメトリーを実施できる単一レーザーフローサイトメーター、マルチレーザーフローサイトメーター、光学顕微鏡、共焦点レーザー顕微鏡などが挙げられる。フローサイトメトリーとは、蛍光色素を励起することができるレーザーを光源とし、蛍光標識または未標識の細胞などを大きさ、光散乱様式、蛍光等の因子について定量的に解析し、その情報に基づいて特定の細胞などを迅速に選択分離する方法である。フローサイトメーターによって収集したデータは、そのデータを記録できる装置に連結していることが望ましい。さらに、そのデータは解析できる装置で処理することが望ましい。データを解析する装置はフローサイトメーターに連結していてもいなくてもよい。データを解析するには適切なソフトウェアを備えた装置として、パーソナルコンピュータが挙げられる。ソフトウェアとしては、一種類以上のパラメータのゲートを設定し、かつ他のパラメータと組み合わせて二次元に表示する能力をもっていることが望ましく、商業的に入手可能なものとしてはFACADiva、FlowJo、Kaluzaなどがある。光学顕微鏡は、可視光を光源とし、1個または複数のガラスレンズを組合わせ、肉眼では見えない微小な物体を拡大して観察できるようにした装置であり、GPIアンカータンパク質欠損細胞の有無を、蛍光色素を用いて検出可能ないかなる光学顕微鏡も用いられる。共焦点レーザー顕微鏡は、共焦点レーザー走査顕微鏡、共焦点レーザー蛍光顕微鏡ともいう。レーザー光源とコンピュータを光学顕微鏡に接続し、組織あるいは細胞に焦点を合わせ、試料から発する蛍光、反射光、および/または透過光についてイメージングを行い、画像を記録媒体に記録する装置を含むが、限定はされない。GPIアンカータンパク質欠損細胞の有無を蛍光を用いて検出できるいかなる共焦点レーザー顕微鏡も用いうる。その際、蛍光顕微鏡や共焦点レーザー顕微鏡はコンピュータ制御により、自動あるいは半自動(顕微鏡の操作は自分で行う)で画像作成が可能になっていてもよい。さらに画像を解析する装置と連結していてもよい。細胞数あるいは割合を測定する場合には、小容量の細胞数を計測し、計測した数に単位用量にするための係数をかけて全体の細胞数に換算する、あるいは割合を算出することも可能である。
【0038】
単一レーザーによるフローサイトメトリーの解析には、少なくとも一つの蛍光色素試薬を励起する適切な放出波長をもつ、単一集中レーザービームを使用する。染色細胞が集中レーザービームを通過する際に、関連する蛍光色素に特異的な、蛍光放出を最大に励起する。フローサイトメーターは、細胞による蛍光放出と散乱光を検出できる適切な検出装置を備えている。
【0039】
マルチレーザーによるフローサイトメトリーの解析は、適切な放出バンドで、二つ以上のレーザービームを照射され、上記単一フローサイトメトリーと同様の方法とする。複数の放出バンドにより、蛍光色素抗体あるいは、免疫化学結合をしている蛍光色素を追加して組み合わせて使用することができる。単一レーザーまたはマルチレーザーを使用して、標準的な光学装置を備えたフローサイトメーターにより、解析する。
【0040】
すなわち、上記(3)の工程において、少なくとも2種類のチャンネルの散乱光を検出できる装置を使用して前方散乱光および側方散乱光を測定し、第二試薬用蛍光色素で標識されていない細胞を検出すること、あるいは上記(3)の工程において、少なくとも2種類のチャンネルの散乱光を検出できる装置を使用して2種類以上の前方散乱光および/または側方散乱光を測定し、第二試薬用蛍光色素で標識されていない細胞を検出することが好ましい。
【0041】
本発明においては、上記(2)の工程において、第二の試薬とともに、第三試薬用蛍光色素で特定の細胞を標識しうる第三の試薬を添加し、かつ上記(3)の工程において、第三試薬用蛍光色素で標識され、第二試薬試薬用蛍光色素で標識されていないGPIアンカータンパク質欠損細胞を検出することが好ましい。ここで、第三試薬用蛍光色素としては、特定のレーザーによって励起されるその蛍光波長ピークが、特定のレーザーによって励起される第二試薬用蛍光色素の蛍光波長ピークと十分に乖離しているものが選択される。
【0042】
また、「第三試薬用蛍光色素で特定の細胞を標識しうる」とは、特定の細胞と結合でき、かつ初めから第三試薬用蛍光色素とも結合しているか、少なくとも第三の試薬を適用した際には第三試薬用蛍光色素と二次的に結合する結果、特定の細胞が第三試薬用蛍光色素で標識された状態になることをいう。
【0043】
さらに、本発明においては、第一の試薬が、第一試薬用蛍光色素で特定の細胞を第三の試薬とは異なる部位で標識しうるものであり、上記(1)の濃縮工程が、特定の細胞を含むサンプルに第一の試薬を添加し、蛍光を検出できる装置を用いて第一試薬用蛍光色素で標識された特定の細胞を分離して濃縮することが好ましい。ここで、第一試薬用蛍光色素としては、特定のレーザーによって励起されるその蛍光波長ピークが、特定のレーザーによって励起される第二試薬用蛍光色素および第三試薬用蛍光色素の蛍光波長ピークと十分に乖離しているものが選択される。また、「第一試薬用蛍光色素で、特定の細胞を第三の試薬とは異なる部位で標識しうる」とは、特定の細胞と第三の試薬とは異なる部位で結合でき、かつ初めから第一試薬用蛍光色素とも結合しているか、少なくとも第一の試薬を適用した際には第一試薬用蛍光色素と二次的に結合する結果、特定の細胞が第一試薬用蛍光色素で標識された状態になる試薬をいう。
【0044】
第一の試薬は、さらにGPIアンカータンパク質欠損細胞の有無を検出する工程において、特定の細胞を検出するために使用することもできる。例えば、特定の細胞が網状赤血球の場合、抗CD71抗体が望ましい。また例えば特定の細胞が白血球の場合、抗CD45抗体が望ましい。
【0045】
第三の試薬の例としては、ラット赤血球系細胞を認識する抗Erythroid Cells抗体が挙げられ、第一の試薬で用いた抗CD71抗体と合わせ、双方の試薬に反応している細胞分画を網状赤血球として評価することができる。また第一の試薬に抗CD45抗体を用いた場合には、第三の試薬に抗CD3抗体を用いることで双方に反応する細胞分画をTリンパ球として評価することができる。
【0046】
本発明で特にフローサイトメーターによって網状赤血球を測定する場合には、1サンプルあたり5-8分の測定時間で、100万個以上の網状赤血球数におけるGPIアンカータンパク質欠損細胞数をカウントすることができる。同様に、特定の細胞を濃縮することで100万個以上の細胞におけるGPIアンカータンパク質欠損細胞数を短時間でカウントすることが可能である。
【0047】
本発明によってGPIアンカータンパク質欠損細胞数、あるいは特定の血球系細胞中のGPIアンカータンパク質欠損細胞の割合によって遺伝子突然変異頻度を算出した後は、望ましくは統計学的解析を用いて化学物質あるいは電磁波の遺伝子突然変異誘発性の有無を評価する。統計学的解析を用いる場合として、化学物質にDNA損傷能がある場合が考えられる。例えば、動物に化学物質を投与した群および当該化学物質に曝露していない群のサンプルを用い、両投与群のGPIアンカータンパク質欠損細胞の検出結果に有意差が有る場合に、その化学物質に遺伝毒性があると評価することができる。
【0048】
例えば、動物に電磁波を曝露した群および動物を電磁波に曝露していない群を用いて、両群のGPIアンカータンパク質欠損細胞の検出結果に有意差が有る場合に、その電磁波に遺伝毒性があると評価することができる。他にも、例えば動物に化学物質を投与した群、および動物に陰性対照物質を投与した群のサンプルを用い、両投与群のGPIアンカータンパク質欠損細胞の検出結果に有意差が有る場合に、その化学物質に遺伝毒性があると評価する。陰性対照物質としては、水、生理食塩水などが考えられる。
【0049】
評価対象となる化学物質や電磁波は、DNA損傷能の有無に関わらず全ての化学物質や電磁波が対象となる。例えば、環境中に存在する無機物質や有機物質、医薬品、化粧品、農薬、工業化学物質、の遺伝毒性誘発物質、有機遺伝毒性誘発物質、抗代謝産物、有機遺伝毒性誘発物質、γ線、中性子線、β線、紫外線を含むが、これらに限定されない。
【0050】
本発明によれば、外因性物質の、DNA損傷を生じている動物に対するDNA損傷修復能を評価することができる。変異原とは、突然変異を誘発する物理的または化学的作用原であり、変異原にさらされてDNA損傷を生じた場合だけでなく、遺伝性DNA損傷や老化によるDNA損傷など、あらゆる要因によるDNA損傷を含む。例えば、DNA損傷を生じている群、およびDNA損傷を生じている動物に対してDNA修復能を有する可能性がある、外因性物質を投与した群を用いて評価できる。望ましくは、統計学的解析を用いて両群のGPIアンカータンパク質欠損細胞数の検出結果に有意差が有る場合に、その外因性物質にDNA損傷の修復能があると評価することができる。
【0051】
さらに、本発明は遺伝毒性を生じる可能性がある化学物質や電磁波の使用現場でそれらにさらされた人々、あるいは遺伝毒性を生じる変異原にさらされた可能性がある人々、農薬や殺虫剤を使用する農作業の環境下で働く人々からサンプルを採取して、急性的な曝露あるいは慢性的な曝露による遺伝子突然変異誘発性のモニタリングに使用することもできる。例えば、日頃から(週ごと、月ごと、3ヶ月ごと、季節ごと、半年ごとなど)定期的な検査として本発明を実施してもよい。前述したいかなるサンプルを用いてもよいが、望ましくは血液や尿などの採取が容易なサンプルを使用する。
【0052】
本発明に用いるサンプルは、採取当日に評価するだけでなく、パラホルムアルデヒドやメタノールといった有機溶媒、または商業的に入手できる細胞表面抗原安定化剤を用いてサンプルより単離した細胞を固定し、後日に評価することも可能である。細胞表面抗原安定化剤の例としては、TransFixなどが挙げられる。
【0053】
本発明はまた、本発明の方法を実行できる、上記第一の試薬および第二の試薬を含むキットである。さらに、本発明のキットは、上記第一の試薬、第二の試薬、および第三の試薬を含むものが好ましい。その中でも、第一の試薬が磁気ビーズを含むもの、または磁気ビーズと結合可能なものであるキットが好ましい。特に、第一の試薬が、第一試薬用蛍光色素と結合しているか、少なくとも使用時には二次的に結合するものであるキットが好ましく、特に第一試薬用蛍光色素で標識した磁気ビーズもしくは添加後に第一試薬用蛍光色素に結合可能なビーズを用いたものが好ましい。
【実施例】
【0054】
[実施例1]
ENU単回経口投与ラットを用いた末梢血網状赤血球のPig-aアッセイ
サンプル準備の流れを図1に示した。雄性ラット(日本チャールス・リバー株式会社より入手、7週齢)にN-Nitroso-N-Ethylurea(ENU) 40mg/kgを単回経口投与し、1週間後および2週間後におけるPig-a変異頻度を評価した。陰性対照群にはPBSを投与した。
【0055】
その後、ラットより血液を30μL以上採取し、採取した血液の1/10量の抗凝固剤(12 mg/mLのEDTA 2K溶液)と混合した。この血液をリン酸バッファー200μLに添加し、丁寧に混和した後、全量をLympholyte-Mammal(Cedarlane Laboratories社)3mLの液面へ静かに添加して室温、1,166×gで20分間遠心分離し、上清を廃棄することで白血球画分を除去した。赤血球のペレット表面をリン酸バッファーで2回洗浄し、上清を除いた後、100μLのリン酸バッファーをペレットに添加してよく混和した。
【0056】
1μgのPE標識した抗rat CD71抗体を血球分離した100μLのサンプルに添加し、ピペッティングにてよく混和した後、4℃で15分間反応させた。反応後、サンプルに、純水で希釈したIMag Buffer(BD Biosciences)を2mL添加し、室温、1,680×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。サンプルペレットにPE Particles Plus DM(BD Biosciences)を50μL添加して混合し、6〜12℃で15分間反応させることでCD71陽性細胞を磁気ビーズで標識した。
【0057】
反応後、IMag Bufferを1mL添加し、BD IMagnet(BD Biosciences)にサンプルをセットし、室温で6分間静置することで磁気ビーズ標識されたCD71陽性細胞を磁石に引き寄せた。パスツールピペットで、磁石に引き寄せられなかった細胞を含んだ液を取り除いた後、磁石側の壁面に付着した細胞の、IMag Bufferでの洗浄を2回繰り返し(1mL添加、2分静置)、CD71陽性細胞を濃縮した。濃縮した細胞は最終的にリン酸バッファー200μLに懸濁させ、細胞懸濁液を得た。
【0058】
1μgのFITC標識した抗rat CD59抗体(BD Biosciences)と0.25μgのBiotin標識した抗rat erythroid marker(HIS49)抗体(BD Biosciences)を細胞懸濁液に添加し、室温で30分間反応させた。室温、1,680×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した後、0.25μgのStreptavidin-APC(BD Biosciences)を含むPBS溶液(200μL)を添加し、室温で15分間反応させた。室温、1,680×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した後、リン酸バッファー500μLを添加してこれを測定用サンプルとした。
【0059】
フローサイトメーターによる測定ではFACSCanto II(BD Bioscience)を使用した。CD59陰性となる変異細胞の検出をするためのサイトグラム中におけるリージョン設定および蛍光補正は、解析ソフトであるFACSDiva ver. 5.0上で抗体染色を行っていない血液サンプルあるいは1種類の蛍光標識抗体のみを反応させた血液サンプルを用いて行った。
【0060】
解析に用いたサイトグラムと測定手順を図2に示す。まず、前方散乱光および側方散乱光サイトグラム上のプロットから細胞集団をリージョンで囲み(図2−1)、このゲート中の細胞について前方散乱光のH(Height:最大値)およびW(Width:幅)サイトグラム上のプロットからシングルセルの細胞集団をリージョンで囲んだ(図2−2)。シングルセルについて、PE(CD71)およびAPC(HIS49)サイトグラム上からCD71陽性HIS49陽性となる細胞集団を4分割リージョンの右上Q2部分で囲んだ(図2−3)。これらCD71とHIS49双方を発現している網状赤血球を測定対象として、FITC(CD59)および前方散乱光サイトグラム上のリージョン内にプロットされるCD59陰性細胞(Pig-a変異細胞)の数をカウントした(図2−4)。
【0061】
血液サンプル測定結果を表1に示す。表1中の数値は、100万細胞カウントしたときのCD59陰性細胞数(×10-6)を示す。ENU投与1週間後におけるCD59陰性の網状赤血球の出現頻度は(124.8±20.7)×10-6であり、投与2週間後では(191.3±49.0)×10-6であった。陰性対照群におけるCD59陰性の網状赤血球の出現頻度は(1.2±1.7)×10-6であり、投与2週間後では(1.7±1.5)×10-6であった。
【0062】
【表1】

【0063】
[比較例1]
ENU単回経口投与ラットにおける末梢血中の全赤血球のPig-aアッセイ
ラットにENU 40mg/kgを単回経口投与し、1週間後および2週間後におけるPig-a変異頻度を評価した。陰性対照群にはPBSを投与した。網状赤血球を対象とした測定法の有用性を評価するために、Dobrovolskyらが報告する全赤血球を対象とした測定法を比較のために同時に実施した。すなわち、ラットより血液を9μL採取し、採取した血液の1/10量の抗凝固剤(EDTA 2K)と混合した。この血液3μLをリン酸バッファー200μLに添加し、丁寧に混和した後、Lypholyte-Mammalや抗CD71などの濃縮工程を経ることなく直接、1μgのFITC標識した抗rat CD59抗体(BD Biosciences)と0.25μgのBiotin標識した抗rat erythroid marker(HIS49)抗体(BD Biosciences)を細胞懸濁液に添加し、室温で1時間反応させた。室温、1,680×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した後、0.25μgのStreptavidin-APC(BD Biosciences)を含むPBS溶液(200μL)を添加し、室温で15分間反応させた。室温、1,680×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した後、リン酸バッファー1,000μLを添加してこれを測定用サンプルとした。測定結果を表1および図3に示す。
【0064】
ENU投与1週間後におけるCD59陰性の全赤血球の出現頻度は、(13.2±3.8)×10-6であり、投与2週間後では(48.7±9.1)×10-6であった。
陰性対照群におけるCD59陰性の全赤血球の出現頻度は(3.0±2.2)×10-6であり、投与2週間後では(7.0±5.0)×10-6であった。図2は、ENU投与後1週目(図3−A))および2週目(図3−B))における、末梢血全赤血球(RBCs)と網状赤血球(RETs)中のCD59陰性となるGPIアンカータンパク質欠損細胞数を比較したものである。RBCsは比較例1で測定し、control投与群を●、ENU投与群を○とした。RETsは実施例1で測定し、control投与群を▲、ENU投与群を△とした。
【0065】
実施例1と比較例1の結果から、遺伝毒性物質であるENUを投与したラットでは、網状赤血球に限定した測定法において、1週目より明らかなCD59陰性細胞の増加が認められ、全赤血球を対象とした測定法に比べてより早期から化学物質の遺伝子突然変異誘発性を評価できることが示された。
【0066】
[実施例2]
遺伝毒性物質単回経口投与ラットを用いた末梢血網状赤血球のPig-aアッセイ
サンプル準備の流れを図1に示した。雄性ラット(日本チャールス・リバー株式会社より入手、7週齢)にN-Nitroso-N-Ethylurea(ENU) 40mg/kgまたは4-Nitroquinoline-1-Oxide(4-NQO) 25、50または100mg/kgを単回経口投与し、1週間後、2週間後および4週間後におけるPig-a変異頻度を評価した。陰性対照群には0.5 w/v% メチルセルロース溶液を投与した。
【0067】
その後、ラットより血液を80μL以上採取し、採取した血液の1/10量の抗凝固剤(12 mg/mLのEDTA 2K溶液)と混合した。この血液をリン酸バッファー200μLに添加し、丁寧に混和した後、全量をLympholyte-Mammal(Cedarlane Laboratories社)3mLの液面へ静かに添加して室温、1,166×gで20分間遠心分離し、上清を廃棄することで白血球画分を除去した。赤血球のペレット表面をリン酸バッファーで2回洗浄し、上清を除いた後、100μLのリン酸バッファーをペレットに添加してよく混和した。
【0068】
1μgのPE標識した抗rat CD71抗体を血球分離した100μLのサンプルに添加し、ピペッティングにてよく混和した後、4℃で15分間反応させた。反応後、サンプルに、純水で希釈したIMag Buffer(BD Biosciences)を2mL添加し、室温、1,680×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。サンプルペレットにPE Particles Plus DM(BD Biosciences)を50μL添加して混合し、6〜12℃で15分間反応させることでCD71陽性細胞を磁気ビーズで標識した。
【0069】
反応後、IMag Bufferを1mL添加し、BD IMagnet(BD Biosciences)にサンプルをセットし、室温で6分間静置することで磁気ビーズ標識されたCD71陽性細胞を磁石に引き寄せた。パスツールピペットで、磁石に引き寄せられなかった細胞を含んだ液を取り除いた後、磁石側の壁面に付着した細胞の、IMag Bufferでの洗浄を2回繰り返し(1mL添加、2分静置)、CD71陽性細胞を濃縮した。濃縮した細胞は最終的にリン酸バッファー200μLに懸濁させ、細胞懸濁液を得た。
【0070】
1μgのFITC標識した抗rat CD59抗体(BD Biosciences)と0.25μgのBiotin標識した抗rat erythroid marker(HIS49)抗体(BD Biosciences)を細胞懸濁液に添加し、室温で30分間反応させた。室温、1,680×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した後、0.25μgのStreptavidin-APC(BD Biosciences)を含むPBS溶液(200μL)を添加し、室温で15分間反応させた。室温、1,680×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した後、リン酸バッファー500μLを添加してこれを測定用サンプルとした。
【0071】
フローサイトメーターによる測定ではFACSCanto II(BD Bioscience)を使用した。CD59陰性となる変異細胞の検出をするためのサイトグラム中におけるリージョン設定および蛍光補正は、解析ソフトであるFACSDiva ver. 6.0上で抗体染色を行っていない血液サンプルあるいは1種類の蛍光標識抗体のみを反応させた血液サンプルを用いて行った。
【0072】
解析に用いたサイトグラムと測定手順を図2に示す。まず、前方散乱光および側方散乱光サイトグラム上のプロットから細胞集団をリージョンで囲み(図2−1)、このゲート中の細胞について前方散乱光のH(Height:最大値)およびW(Width:幅)サイトグラム上のプロットからシングルセルの細胞集団をリージョンで囲んだ(図2−2)。シングルセルについて、PE(CD71)およびAPC(HIS49)サイトグラム上からCD71陽性HIS49陽性となる細胞集団を4分割リージョンの右上Q2部分で囲んだ(図2−3)。これらCD71とHIS49双方を発現している網状赤血球を測定対象として、FITC(CD59)および前方散乱光サイトグラム上のリージョン内にプロットされるCD59陰性細胞(Pig-a変異細胞)の数をカウントした(図2−4)。
【0073】
遺伝毒性物質投与ラットの血液サンプル測定結果を表2および図5に示す。表2中の数値は、100万細胞カウントしたときのCD59陰性細胞数(×10-6)を示す。ENU 40mg/kg投与1週間後におけるCD59陰性の網状赤血球の出現頻度は(241.0±43.5)×10-6であった。投与2週間後では(236.6±47.7)×10-6であった。投与4週間後では(280.0±59.2)×10-6であった。4-NQO投与1週間後におけるCD59陰性の網状赤血球の出現頻度は25mg/kg投与群で(13.2±6.6)×10-6、50mg/kg投与群で(17.6±9.3)×10-6、100mg/kg投与群で(43.2±8.7)×10-6であった。投与2週間後では25mg/kg投与群で(7.4±2.7)×10-6、50mg/kg投与群で(12.0±5.9)×10-6、100mg/kg投与群で(36.6±12.1)×10-6であった。投与4週間後では25mg/kg投与群で(3.8±1.5)×10-6、50mg/kg投与群で(9.0±4.7)×10-6、100mg/kg投与群で(36.6±9.0)×10-6であった。陰性対照群におけるCD59陰性の網状赤血球の出現頻度は投与1週間後では(1.8±0.8)×10-6、投与2週間後では(0.7±1.0)×10-6、投与4週間後では(0.8±1.3)×10-6であった。
【0074】
【表2】

【0075】
[比較例2]
遺伝毒性物質単回経口投与ラットにおける末梢血中の全赤血球のPig-aアッセイ
ラットにENU 40mg/kgまたは4-NQO 25、50、100mg/kgを単回経口投与し、投与前、1週間後、2週間後および4週間後におけるPig-a変異頻度を評価した。陰性対照群には0.5 w/v% メチルセルロース溶液を投与した。網状赤血球を対象とした測定法の有用性を評価するために、Dobrovolskyらが報告する全赤血球を対象とした測定法を比較のために同時に実施した。すなわち、ラットより血液を9μL採取し、採取した血液の1/10量の抗凝固剤(EDTA 2K)と混合した。この血液3μLをリン酸バッファー200μLに添加し、丁寧に混和した後、Lypholyte-Mammalや抗CD71などの濃縮工程を経ることなく直接、1μgのFITC標識した抗rat CD59抗体(BD Biosciences)と0.25μgのBiotin標識した抗rat erythroid marker(HIS49)抗体(BD Biosciences)を細胞懸濁液に添加し、室温で1時間反応させた。室温、1,680×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した後、0.25μgのStreptavidin-APC(BD Biosciences)を含むPBS溶液(200μL)を添加し、室温で15分間反応させた。室温、1,680×gで5分間遠心分離し、上清を廃棄した後、リン酸バッファー1,000μLを添加してこれを測定用サンプルとした。測定結果を表3および図6に示す。
【0076】
投与前におけるCD59陰性の全赤血球の出現頻度は、(1.2±1.1)×10-6から(3.0±2.7)×10-6であった。ENU投与1週間後におけるCD59陰性の全赤血球の出現頻度は、(29.2±9.1)×10-6であった。投与2週間後では(92.0±15.1)×10-6、投与4週間後では(148.8±23.0)×10-6であった。
陰性対照群におけるCD59陰性の全赤血球の出現頻度は投与1週間後では(3.6±1.8)×10-6、投与2週間後では(1.0±1.2)×10-6、投与4週間後では(1.6±0.9)×10-6であった。4-NQO投与1週間後におけるCD59陰性の網状赤血球の出現頻度は25mg/kg投与群で(2.6±3.1)×10-6、50mg/kg投与群で(3.8±3.1)×10-6、100mg/kg投与群で(7.6±5.1)×10-6であった。投与2週間後では25mg/kg投与群で(3.4±2.9)×10-6、50mg/kg投与群で(4.8±4.1)×10-6、100mg/kg投与群で(18.0±3.1)×10-6であった。投与4週間後では25mg/kg投与群で(3.6±2.9)×10-6、50mg/kg投与群で(6.4±2.3)×10-6、100mg/kg投与群で(18.4±5.4)×10-6であった。
【0077】
実施例1と比較例1の結果から、遺伝毒性物質であるENU(アルキル化剤)または4-NQO(DNA損傷誘発剤)を投与したラットでは、網状赤血球に限定した測定法において、1週目より明らかなCD59陰性細胞の増加が認められ、全赤血球を対象とした測定法に比べてより早期から化学物質の遺伝子突然変異誘発性を評価できることが示された。
【0078】
【表3】

【0079】
[比較例3]
第三の試薬(抗HIS49抗体)を用いた場合と用いなかった場合のGPIアンカータンパク質陰
性細胞の出現率比較
実施例1でデータ取得済みの陰性対照群サンプルを再解析して、HIS49を用いた場合と用いなかった場合のGPIアンカータンパク質CD59陰性細胞の出現率を比較し、抗HIS49抗体の使用効果を検討した。比較結果を図4に示す。
図4-1)散乱光解析によってシングルセルとした細胞について、PE(CD71)およびAPC(HIS49)サイトグラム上で4分割リージョンまたはPE(CD71)陽性集団をリージョンで囲み、CD71陽性HIS49陽性の細胞と、CD71陽性の細胞をそれぞれ解析可能にした。
図4-2)図4-1)で分けたCD71陽性HIS49陽性の領域(4分割リージョンの右上Q2部分)に含まれる網状赤血球について、FITC(CD59)および前方散乱光サイトグラム上のリージョン内にプロットされるCD59陰性細胞(Pig-a変異細胞)の数をカウントした。
図4-3)図4-1)で分けたCD71陽性の領域(サイトグラム上点線部分)に含まれる細胞集団(網状赤血球、他)について、FITC(CD59)および前方散乱光サイトグラム上のリージョン内にプロットされるCD59陰性細胞(Pig-a変異細胞)の数をカウントした。
図4-4)解析時のポピュレーションを表示したものである。CD71陽性HIS49陽性細胞集団におけるCD59陰性細胞(図中ではPig-a mutants)は、100万370細胞中で0個であったのに対して、CD71陽性細胞集団におけるCD59陰性細胞(図中ではCD59-)は103万2931細胞中で147個であった。Pig-a変異頻度に換算すると、それぞれ0×10-6と143×10-6であった。
【0080】
以上の比較検討結果から、Erythroid markerである抗HIS49抗体を用いた場合、より精製された網状赤血球を解析対象とすることができ、陰性対照群におけるCD59陰性細胞の出現率を低く抑えることが可能であった。一方で抗HIS49抗体を用いなかった場合、CD71陽性となる細胞の中には白血球分離のステップや抗体染色のステップで充分に精製できなかった網状赤血球以外の細胞も含んでおり、結果としてCD59陰性細胞が増加した。陰性対照群のバックグラウンドを低くすることでより効率よく遺伝毒性物質の検出が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の検出方法によれば、化学物質などの遺伝毒性を評価できるので、例えば製造業における化学物質の安全性評価に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)特定の細胞と結合する第一の試薬を用いて、動物の体液または組織から採取された特定の細胞を含むサンプル中の特定の細胞を濃縮する工程、
(2)(1)の工程で濃縮されたサンプルに、GPIアンカータンパク質を第二試薬用蛍光色素で標識しうる第二の試薬を添加する工程、および
(3)特定のレーザーを照射することによって励起される、少なくとも1種類のチャンネルの蛍光を検出できる装置を使用して、第二試薬用蛍光色素で標識されていない細胞を検出する工程、
を含む、特定の細胞中のGPIアンカータンパク質欠損細胞を検出する方法。
【請求項2】
(2)の工程において、第二の試薬とともに、
特定のレーザーによって励起される蛍光波長ピークが第二試薬用蛍光色素のそれと十分に乖離している第三試薬用蛍光色素で特定の細胞を標識しうる第三の試薬を添加し、
(3)の工程において、第三試薬用蛍光色素で標識され、第二試薬試薬用蛍光色素で標識されていないGPIアンカータンパク質欠損細胞を検出する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第一の試薬が、磁気ビーズを含むもの、または磁気ビーズと結合可能なものであり、(1)の濃縮工程が、特定の細胞を含むサンプルに第一の試薬を添加し、磁気装置を用いて第一の試薬と結合する特定の細胞を分離するものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
磁気ビーズの直径が50〜300μmである請求項3に記載の方法。
【請求項5】
第一の試薬が、特定のレーザーによって励起される蛍光波長ピークが第二試薬用蛍光色素および第三試薬用蛍光色素のそれと十分に乖離している第一試薬用蛍光色素で、特定の細胞を第三の試薬とは異なる部位で標識しうるものであり、(1)の濃縮工程が、特定の細胞を含むサンプルに第一の試薬を添加し、蛍光を検出できる装置を用いて第一試薬用蛍光色素で標識された特定の細胞を分離して濃縮するものである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
第一の試薬が、第一蛍光色素で標識した磁気ビーズ、または添加後に第一蛍光色素に結合可能な磁気ビーズを含む、請求項3〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
蛍光を検出できる装置がセルソーターである、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
(3)の工程において、少なくとも2種類のチャンネルの散乱光を検出できる装置を使用して前方散乱光および側方散乱光を測定し、血小板や夾雑物を除いた細胞を検出する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
(3)の工程において、少なくとも2種類のチャンネルの散乱光を検出できる装置を使用して2種類以上の前方散乱光および/または側方散乱光を測定し、血小板や夾雑物を除いた細胞を検出したうえで、凝集している細胞塊以外の細胞を検出する、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
(3)の工程で検出したGPIアンカータンパク質欠損細胞の細胞数を測定する工程をさらに含む、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
特定の細胞中のGPIアンカータンパク質欠損細胞の出現頻度を解析する工程をさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
サンプルが、腹膜液、脊髄液、骨髄もしくは脳内の流体、尿、全血もしくは末梢血の一部、骨髄液、リンパ節、肝臓、または脾臓から採取されたものである、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
サンプルが、動物を殺処分することなく採取された腹膜液、脊髄液、尿、末梢血の一部、または骨髄液である、請求項1〜11のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
特定の細胞が、特定の血球系細胞である、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
特定の血球系細胞が網状赤血球である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
第一の試薬が、第一試薬用蛍光色素と結合した抗CD71抗体またはRNAと反応する核酸染色剤であり、第三の試薬が、第三試薬用蛍光色素と結合した抗CD235抗体、抗Erythroid Cells (Clone HIS49)抗体、または抗TER-119抗体である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
RNAと反応する核酸染色剤が、SYTO13、SYTO83、チアゾールオレンジ、またはRNASelectである、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
特定の血球系細胞が、好中球、好酸球、好塩基球、単球、Tリンパ球、またはBリンパ球のいずれかである、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
特定の血球系細胞がTリンパ球であり、第一の試薬が、第一試薬用蛍光色素と結合した抗CD45抗体であり、第三の試薬が、第三試薬用蛍光色素と結合した抗CD3抗体である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
第二の試薬が、第二試薬用蛍光色素と結合した抗CD24抗体、抗CD59抗体、抗CD48抗体、抗CD55抗体、またはFLAER(Alexa-488-labeled modified proaerolysin)である、請求項1〜19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
少なくとも1種類のチャンネルの蛍光を検出できる装置が、単一レーザーまたは複数のレーザーを照射するフローサイトメメーターである、請求項1〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
化学物質または電磁波に曝露した動物の体液または組織から採取された、特定の細胞を含む第一のサンプル、および
(a)化学物質または電磁波に曝露していない動物の体液または組織から採取された、特定の細胞を含む第二のサンプル、もしくは
(b)陰性対照物質に曝露した動物の体液または組織から採取された、特定の細胞を含む第三のサンプルを用意し、
請求項10または11に記載の方法を実施し、
GPIアンカータンパク質欠損細胞の細胞数または出現頻度において、第一のサンプルにおけるGPIアンカータンパク質欠損細胞の検出結果が、第二のサンプルもしくは第三のサンプルに対して、統計学的に有意な差がある場合に、その化学物質または電磁波が遺伝毒性をもつことを示す工程を含む、化学物質または電磁波の遺伝毒性を評価する方法。
【請求項23】
DNA損傷を生じている動物に対して、DNA損傷を修復できる可能性がある外因性物質を投与し、その体液または組織から採取された、特定の細胞を含む第一のサンプル、およびDNA損傷を生じている動物の体液または組織から採取された、特定の細胞を含む第二のサンプルを用意し、
請求項10または11に記載の方法を実施し、
特定の細胞におけるGPIアンカータンパク質欠損細胞の細胞数または出現頻度において、第一のサンプルにおけるGPIアンカータンパク質欠損細胞の検出結果が、第二のサンプルに対して、統計学的に有意な差が認められる場合に、外因性物質がDNA損傷を修復できることを示す工程を含む、外因性物質のDNA損傷修復能を評価する方法。
【請求項24】
特定の細胞と結合する第一の試薬、
GPIアンカータンパク質を第二試薬用蛍光色素で標識しうる第二の試薬、および
特定のレーザーによって励起される蛍光波長ピークが第二試薬用蛍光色素のそれと十分に乖離している第三試薬用蛍光色素で特定の細胞を標識しうる第三の試薬を含む、
特定の細胞中のGPIアンカータンパク質欠損細胞を検出するためのキット。
【請求項25】
第一の試薬が、磁気ビーズを含むもの、または磁気ビーズと結合可能なものである、請求項24に記載のキット。
【請求項26】
第一の試薬が、特定のレーザーによって励起される蛍光波長ピークが第二試薬用蛍光色素および第三試薬用蛍光色素のそれと十分に乖離している第一試薬用蛍光色素で、特定の細胞を第三の試薬とは異なる部位で標識しうるものである、請求項24または25に記載のキット。
【請求項27】
第一の試薬が、第一試薬用蛍光色素と結合した抗CD71抗体またはRNAと反応する核酸染色剤あり、第三の試薬が、第三試薬用蛍光色素と結合した抗CD235抗体、抗Erythroid Cells (Clone HIS49)抗体、または抗TER-119抗体である、請求項26に記載のキット。
【請求項28】
第一の試薬が、第一試薬用蛍光色素と結合した抗CD45抗体であり、第三の試薬が、第三試薬用蛍光色素と結合した抗CD3抗体である、請求項26に記載のキット。
【請求項29】
第二の試薬が、第二試薬用蛍光色素と結合した、抗CD24抗体、抗CD59抗体、抗CD48抗体、抗CD55抗体、またはFLAER(Alexa-488-labeled modified proaerolysin)である、請求項24〜28のいずれかに記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−15517(P2013−15517A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−131228(P2012−131228)
【出願日】平成24年6月8日(2012.6.8)
【出願人】(503369495)帝人ファーマ株式会社 (159)
【Fターム(参考)】