説明

GPSをダイバー及び水中ビークルへ拡張するシステム及び方法

ナビゲーションシステムは、衛星ナビゲーションをダイバーまで拡張する。ナビゲーションシステムは、水上装置及び複数の水中ビーコン装置を具備する。水上装置は、地球軌道周回衛星からのナビゲーション信号を受信するための受信機と、複数の水中ビーコン装置と通信し、前記水中ビーコン装置へ位置情報を送信するための処理回路と、水中ビーコン装置へ位置情報を送信するためのソナー送信機とを含む。ビーコン装置は、水上装置から受信される位置情報に基づいてビーコン装置の位置を判定するための処理回路と、水上装置が水面で浮遊している間に水上装置から位置情報を受信し、ダイバー装置に対してナビゲーション補助を実行するためにダイバー装置へ位置情報を送信するためのソナートランシーバとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に水中ナビゲーションに関し、特に、GPSナビゲーションをダイバー及び水中ビークルへ拡張する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
全地球測位システム(GPS)などの衛星を利用する位置測定システムは、地球上のほぼあらゆる地点においてほぼ正確に位置を判定する能力を提供する。GPSは、6つの軌道面に配置された24個の地球軌道周回衛星を具備する。各地球軌道周回衛星は原子時計を有し、衛星の現在時間及び現在位置を示す無線信号を絶えず送信する。地表に配置された受信機はそれらの無線信号を受信し、信号の到達時間に基づいて衛星から受信機までの距離を判定できる。4つの衛星からの信号を受信することにより、地上受信機は三角測量によって受信機の位置を判定できる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
GPS信号は水中を伝播しない。そのため、水面下に位置するダイバー及び水中ビークルは、2つの地点の間で正確にナビゲートするためにそれらのGPS信号を利用することができない。GPSを水中のダイバー及びビークルへ拡張するために、いくつかのシステムが提案されている。例えば、Brownの米国特許第6,701,252号公報及びKucikの米国特許第6,657,585号公報は、係留綱によりダイバー又は水中ビークルに接続された浮遊ブイを開示する。浮遊ブイはGPSアンテナ及び/又は受信機を有し、係留綱を介してダイバー又は水中ビークルへ信号を搬送する。この方法では、水中のダイバー又はビークルを浮遊ブイに接続する係留綱が必要であるため、有用性は限定される。Youngbergの米国特許第5,119,341号公報は、水面で自在に浮遊するブイを使用して、GPSを水面下のダイバー及びビークルへ拡張するシステムを開示する。浮遊ブイはGPS衛星からの信号を受信でき、音響信号を使用して水中のユーザと通信できる。しかし、浮遊ブイの場所は一定せず、水面を漂流している。更に、浮遊ブイは検出されやすく、秘密裏の作業には適さない。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、GPSを水中のユーザへ効果的に拡張する水中ナビゲーションシステムを提供する。水中ナビゲーションシステムは、海底まで沈むように設計された複数の水中ビーコン装置と、少なくとも1つの浮遊ブイ又は水上装置とを具備する。水上装置は、GPS信号を受信するGPS受信機を含む。水上装置は音響信号を介して水中ビーコン装置と通信する。ビーコン装置及び水上装置は、ナビゲーション補助が必要とされる海域に落とされる。ビーコン装置は直ちに海底まで沈むように設計される。水上装置は、ビーコン装置がビーコン装置の位置を判定するのに十分な長さの時間にわたり海面で浮遊し、その後に海底まで沈む。水上装置が海面で浮遊している間、水上装置はGPS衛星からのGPS信号を受信し、水上装置の位置を判定する。水上装置の位置が確認された後、水上装置はその位置を各水中ビーコン装置へ送信する。ビーコン装置は、水上装置から受信される信号及び/又は他のビーコン装置から受信される信号に基づいてビーコン装置の位置を判定できる。所定の時間の後又は水上装置が所定の数のビーコン装置から位置確認を受信した後、水上装置は沈降する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
図面を参照して説明すると、図1は、ダイバー又は水中ビークルに対してナビゲーション補助を実行するための水中ナビゲーションシステム10を示す。水中ナビゲーションシステム10は、地球軌道周回衛星12と通信する少なくとも1つの水上装置20と、水面下に配置され且つ水上装置20と通信する複数のビーコン装置50とを具備する。水上装置20は、GPS衛星12からのGPS信号を受信するGPS受信機26を含む。水上装置20は、音響信号を使用して水中ビーコン装置50と通信する。
【0006】
ビーコン装置50及び水上装置20は、ナビゲーション補助が必要とされる海域に落とされる。ビーコン装置50は直ちに海底まで沈むように設計される。水上装置20は、ビーコン装置50が以下に説明されるようにビーコン装置の位置を判定するのに十分な長さの時間にわたり海面で浮遊し、その後海底まで沈む。水上装置20が海面で浮遊している間、水上装置20はGPS衛星12からのGPS信号を受信し、水上装置の位置を判定する。水上装置20の位置が確認された後、水上装置20はその位置を各ビーコン装置50へ送信する。そこで、ビーコン装置50は、1つ以上の水上装置20から受信される信号に基づいてビーコン装置の位置を判定できる。いくつかの実施形態においては、ビーコン装置50は、単一の水上装置20から受信される信号に基づいてビーコン装置の位置を判定してもよい。他の実施形態においては、ビーコン装置50は複数の水上装置20から信号を受信してもよい。位置計算を更に精密にするために、ビーコン装置50は相互間で情報を交換してもよい。ビーコン装置50の位置が判定された後、ビーコン装置50はダイバー装置100に対してナビゲーション補助を実行できる。
【0007】
図2は、水上装置20の主な構成要素を示す。水上装置20は処理回路22、メモリ24、GPS受信機26、ソナートランシーバ28及びリレー30を具備する。処理回路22は水上装置20の動作全般を制御し、GPS受信機26により受信された位置信号を処理し、ソナートランシーバ28を介してビーコン装置50へ送信されるべき情報及び制御信号を発生する。処理回路22は、更に、ビーコン装置50から受信される情報及び制御信号を処理する。メモリ24は動作に必要とされるプログラム命令及びデータを格納する。ソナートランシーバ28はビーコン装置50との水中通信のために使用される。リレー30は、ビーコン装置50がビーコン装置の位置を確定した後に水上装置20を沈降するために処理回路22により作動される。例えば、リレー30の作動により浮揚装置が水上装置20から離脱し、その結果、水上装置20が沈んでもよい。あるいは、リレー30が弁を開放することにより、海水がバラストタンクから溢れ、その結果、水上装置20が沈んでもよい。
【0008】
図3は、ビーコン装置50の主な構成要素を示す。ビーコン装置50は処理回路52、メモリ54及びソナートランシーバ56を具備する。処理回路52はビーコン装置50の動作全般を制御し、水上装置20、他のビーコン装置50及びダイバー装置100から受信される情報及び制御信号を処理する。メモリ54は動作に必要とされるプログラム命令及びデータを格納する。ソナートランシーバ56は、水上装置20、他のビーコン装置50及びダイバー装置100との水中通信のために使用される。
【0009】
ビーコン装置50が最初に配置されたとき、ビーコン装置50は海底まで沈んだ後にビーコン装置の位置を判定しなければならない。海底まで沈んでゆく間に、海流がビーコン装置50を当初の落下海域からかなり離れた場所まで押し流す場合もある。従って、ビーコン装置50が沈む前にビーコン装置の位置を判定するのは不十分である。先に述べた通り、ビーコン装置50は、海底に到達した後、1つ以上の水上装置20とメッセージを交換することによりビーコン装置の位置を判定する。ビーコン装置50の位置を判定するために、2つの基本的な方式が採用されてもよい。
【0010】
第1の方式は、ビーコン装置50から複数の水上装置20までの距離の計算に基づく。この方法を使用してビーコン装置50の位置を正確に判定するためには、少なくとも4つの水上装置20が必要とされる。各水上装置20はGPS信号の受信に基づいて水上装置の位置を判定し、その位置をビーコン装置50へ送信する。各水上装置20からビーコン装置50までの距離も判定される。距離は水上装置20により判定され、ビーコン装置50へ送信されてもよく、あるいはビーコン装置50自体により判定されてもよい。水上装置20からビーコン装置50までの距離及び水上装置20の位置に基づいて、ビーコン装置50は三角測量によりビーコン装置の位置を正確に判定できる。ビーコン装置の位置は、4つの球体それぞれの中心におけるそれらの球体と水上装置20との交点である。
【0011】
第2の方式は水上装置20を1つしか必要としない。第2の方式においては、水上装置20はGPS信号の受信に基づいて水上装置の位置を判定し、その位置をビーコン装置50へ送信する。ビーコン装置50は水上装置20に対する方向及び水上装置20までの距離を判定する。水上装置の位置及び水上装置20とビーコン装置50との間のベクトルの知識によって、ビーコン装置50はその位置を正確に判定できる。
【0012】
水上装置20からビーコン装置50までの距離を判定するために、種々の技術を使用できる。以下に、距離判定方法の3つの例を説明する。本明細書においては、それら3つの方法を到達時間法、進行時間法及び二重音法と呼ぶ。本発明が本明細書中で挙げられる方法に限定されず、距離を判定するために他の方法が使用されてもよいことは当業者には理解されるであろう。
【0013】
到達時間法は、水上装置20とビーコン装置50との間のクロック同期を必要とする。この方法においては、ビーコン装置50は、それが認知している時間に応答メッセージ送信を水上装置20に要求するメッセージを水上装置20へ送出する。要求メッセージ又は応答メッセージは送信時間を指定してもよく、あるいは送信時間はプロトコルにより指定されてもよい。例えば、プロトコルは、水上装置20のクロックのm個の最下位ビットが全て0になった場合にのみ水上装置20が応答メッセージを送信することを指定してもよい。クロックが同期されるため、ビーコン装置50は信号の到達時間を使用して、水上装置20までの距離を計算できる。
【0014】
進行時間法はクロック同期を必要としない。この方法においては、ビーコン装置50は水上装置20へメッセージを送出する。水上装置20によりメッセージが受信されると、水上装置20は応答メッセージを生成し、ビーコン装置50へ送出する。応答メッセージは、第1のメッセージが水上装置20により受信された時間から応答メッセージが送出された時間までの遅延を示す遅延値を含む。ビーコン装置50はラウンドトリップ時間及びターンアラウンド遅延を使用して、水上装置20までの距離を計算してもよい。
【0015】
二重音法は、異なる周波数で送信された音響信号が水中を異なる速度で進むという事実を利用する。この方法においては、ビーコン装置50は、二重音信号を送出することを水上装置20に要求するメッセージを水上装置20へ送出する。それに応答して、水上装置20はパワーの等しい2つの明確に異なる音から構成される二重音信号を送信する。各音のパワーは、信号が進む距離の既知の関数として減衰する。音成分ごとの減衰速度がわかれば、ビーコン装置50は音成分の受信パワーの差に基づいて水上装置20までの距離を計算できる。
【0016】
距離計算におけるビーコン装置50の動作と水上装置20の動作とを逆にできることが当業者には理解されるであろう。すなわち、水上装置20がビーコン装置50までの距離を計算し、その距離をビーコン装置50へ送信できる。
【0017】
目標に対する方向を判定するために、ビーコン装置50のソナートランシーバはソナー変換器のアレイを具備する。水中における信号の進行速度が周知であると仮定すると、ビーコン装置50は、水上装置20により送信された信号が各ソナー変換器に到達する時間の差に基づいて水上装置20に対する方向を計算できる。この技術は、GPS受信機がその位置を判定する方法に類似している。
【0018】
ビーコン装置50が配置されている間、水上装置20はマスター装置として機能し、ビーコン装置50との通信を制御する。ビーコン装置50は海底まで沈み、水上装置20により起動されるまで活動しない状態を保つ。水上装置20は、ビーコン装置50へ起動コードを送出することにより、一度に1つずつビーコン装置50を起動してもよい。起動後、ビーコン装置50は、前述のように水上装置20と信号を交換することによりビーコン装置の位置を判定する。ビーコン装置50が位置を判定したならば、ビーコン装置50は確認メッセージを水上装置20へ送出してもよい。確認メッセージは、ビーコン装置50がその位置を判定したことを水上装置20に示す。その後、ビーコン装置50がスリープモードに戻るように、水上装置20は活動停止コードをビーコン装置50へ送出できる。スリープモードにある場合、ビーコン装置50の送信機はオフにされるが、ビーコン装置50は、入力メッセージを監視するために定期的に受信機を起動する。ビーコン装置50は、起動コードを受信するまで非活動モード又はスリープモードのままである。
【0019】
ビーコン装置50の各々から又は最小限の数の一部のビーコン装置50からの確認メッセージを受信した後、水上装置20は、水上装置20を沈降させるか又は自己破壊させる制御信号を発生する。一実施形態においては、制御信号は、水上装置20の機械系統を制御するリレー30を起動する。例えば、リレー30が作動された場合、水上装置20に装着された浮揚装置が離脱し、その結果、水上装置20が沈むようにしてもよい。別の実施形態においては、リレー30が弁を開放し、それによりバラストタンクが水で溢れるようにしてもよい。水上装置20の沈降又は破壊を引起こすために採用される特定の機構は、本発明の重要な面ではない。水上装置20を沈降又は破壊するための周知の任意の方法を使用できる。
【0020】
ビーコン装置50が配置された後、ダイバー又は潜水船はナビゲーションのためにビーコン装置50を使用できる。ダイバーは、先に配置されたビーコン装置50と通信するダイバー装置100を身に付けている。各ビーコン装置50は、それ自体の位置を把握しており、ダイバー装置100へその位置を送信できる。ダイバー装置100は、ビーコン装置50の位置を判定するために、ビーコン装置50の位置を判定する前述の方法も使用できる。この場合、ビーコン装置50はダイバー装置100に対して位置基準を提供する。
【0021】
図4及び図5は、ダイバー装置100の一例を示す。ダイバー装置100は、リストバンド104に装着された防水筐体102を具備する。ダイバー装置100は、液晶ディスプレイなどの電子ディスプレイ106と1つ以上の入力装置108とを含む。図4に示される実施形態は、スクロールホイール110及びSEND/ENTERボタン112を含む。ジョイスティックコントローラ、キーバッド又はタッチパッドなどの他の入力装置をユーザ入力部として使用できることは当業者により認識されるであろう。更に、ディスプレイ106は、ユーザ入力を受信するためのタッチスクリーンディスプレイを具備してもよい。
【0022】
ディスプレイ106の縁部114は、例えば、「バディ」、「ビーコン」などのダイバー装置100の種々の機能を説明する一連のラベル116を含む。機能標識118は現在選択されている機能を示す。図4では、機能標識118は、ログ機能が選択されていることを示す。更に、ユーザに状態情報を提供するために、ディスプレイ106は、電源標識120及びアラーム標識122などの他の状態標識を表示してもよい。スクロールホイール110を回し、「ENTER/SEND」ボタン112を押すことにより、1つの機能を選択するために機能標識118を移動できる。機能の選択によって、ダイバー装置100の動作モードが変更されてもよい。現在の動作モードに応じて、スクロールホイール110及びボタン112は異なる動作を実行してもよい。例えば、1つの機能が選択された後、ディスプレイ106に提示されたメニューオプション又はリストをスクロールするためにスクロールホイール110を使用できる。
【0023】
状態標識に加えて、ディスプレイ106はダイバーが見るための有用な情報を出力するために使用される。本実施形態においては、ディスプレイ106は方向標識124を表示できる。以下に更に詳細に説明されるように、方向標識124は、水中でナビゲーションを実行するために目標に対する方向及び現在の進路を指示するために使用される。図示される実施形態においては、方向標識124は、現在の進路を示す第1のポインタ126及び目標に対する方向を示す第2のポインタ128を示す。ディスプレイ106は、ダイバーに対して数値データ及び英数字データを更に表示してもよい。図4に示される実施形態においては、ディスプレイ106は目標までの距離(DIST)(420m)、推定途中時間(ETE)(6分)、目標の方位(BRG)(330()及び現在の進路(30()を表示している。現在の水深、現在の時間、現在の温度並びに現在の緯度及び経度などの他の情報、あるいは他の有用な情報も表示される。これらの例は、表示できる全ての情報を網羅することを意図しておらず、表示されてもよい情報の種類を例示しているにすぎない。
【0024】
図5は、ダイバー装置100の主な構成要素を示す機能ブロック図である。主な構成要素は、データを処理し且つダイバー装置100の動作を制御する処理回路150と、処理回路150により使用されるコード及びデータを格納するメモリ152と、ディスプレイ106及びユーザ入力装置108を含むユーザインタフェース154と、通信インタフェース156とを具備する。処理回路150は1つ以上のプログラマブルプロセッサを具備してもよく、それらのプロセッサは汎用マイクロプロセッサ、マイクロコントローラ、デジタル信号プロセッサ又はそれらの組合せであってもよい。メモリ152はダイバー装置100内部のメモリの階層全てを表しており、複数の別個のメモリ装置であってもよく、あるいは1つ以上のマイクロプロセッサの内部メモリであってもよい。通信インタフェース156は、水上で使用するための無線インタフェース158と、水中通信のためのソナートランシーバ60とを具備する。無線インタフェースは、例えば、従来のBLUETOOTH、802.11b又は802.11gインタフェースであってもよい。
【0025】
ダイバー装置100は、ビーコン装置50と通信するために要求/応答信号方式を使用する。トランザクションを開始するために、ダイバー装置100はビーコン装置50又は別のダイバー装置100へ要求メッセージを送出する。要求メッセージに対する返答として、応答メッセージが送出される。1つの要求メッセージへの返答として2つ以上の応答メッセージが送出される場合もある。要求メッセージ及び全ての対応する応答メッセージが1回のトランザクションを構成する。本実施形態においては、ビーコン装置50は要求メッセージを送出せず、ダイバー装置100からの要求メッセージへの返答として応答メッセージを送出するのみである。ビーコン装置50と複数のダイバー装置100との通信を可能にするために、周波数分割多元接続、時分割多元接続又は符号分割多元接続などの多元接続方式が使用されてもよい。
【0026】
ダイバー装置100がその位置を判定する必要がある場合、ビーコン装置50との通信を開始するために、ダイバー装置100は起動コードを含む要求メッセージをビーコン装置50へ送出する。無許可のユーザがビーコン装置50を起動するのを防止するために、起動コードは暗号化されてもよい。ダイバー装置100は2つ以上のビーコン装置50との通信を開始してもよい。起動された後、ビーコン装置50は応答メッセージを送出する。その後、ナビゲーション補助を得るために、ダイバー装置100はビーコン装置50へ要求メッセージを送出できる。要求メッセージの用途は、例えば、ビーコン装置50とクロックを同期すること又は場所を確認することを含む。ビーコン装置50は、一度起動されると、ダイバー装置100からの動作停止コードを受信するまで又は通信が実行されないまま所定の時間が経過するまで起動状態のままである。活動状態又は起動状態にある間、ビーコン装置50は要求メッセージを受信し、それに応答する。更に、ビーコン装置50へ明示的な要求メッセージを送出する必要なくダイバー装置100がダイバー装置の位置を定期的に更新できるように、ビーコン装置50は活動状態にある間に周期信号を送信してもよい。例えば、ビーコン装置50は、周期メッセージが送信された時間を示すタイムスタンプを含む周期メッセージを定期的に送信してもよい。ダイバー装置のクロックがビーコン装置のクロックと同期されている場合、ダイバー装置100は周期メッセージを使用して、ビーコン装置50までの距離を判定できる。また、ビーコン装置50に対する方向を判定するために周期メッセージを使用できる。ダイバー装置のクロックが同期されていない場合には、ダイバー装置100が音周波数の受信パワーにより距離を判定できるように、周期メッセージは二重音信号であってもよい。
【0027】
一実施形態においては、同一の周波数を使用して複数のダイバー装置100がビーコン装置50と通信できるようにするために、時分割多元接続方式が使用される。TDMAは、データを送信及び/又は受信するために使用される複数の順次タイムスロットに通信スペクトルを分割する。装置は、それに割当てられたタイムスロットにおいてのみ送信及び/又は受信する。反復しないタイムスロットの集合が1つのフレームを構成する。通常、1つのフレームは固定長である。本発明においては、フレームは、ダイバー装置100とビーコン装置50との間の伝播遅延に適応する可変長フレームである。
【0028】
図6は、n個のダイバー装置100に適応するTDMAフレームのフレーム構造を示す。ダイバー装置100の数をnとするとき、フレームはそれぞれ20msecの持続時間を有する2n個のスロットに分割される。1つのダイバー装置100はマスターダイバー装置100として指定され、通信を制御する。マスター装置は、例えば、最大又は最小の装置IDを有する装置を選択することにより選択されてもよい。マスターダイバー装置100は他のダイバー装置100にタイムスロットを割当てる。フレーム中の初めの2つのタイムスロットはマスターダイバー装置100のために予約される。各ダイバー装置100は割当てられたタイムスロットの使用を制御する。ダイバー装置100は、ビーコン装置50又は他のダイバー装置100へ要求メッセージを送信するために第1のタイムスロットを使用し、ビーコン装置50又は他のダイバー装置100からの応答メッセージを受信するために第2のタイムスロットを使用してもよい。
【0029】
図6は、スロットフォーマットを更に示す。各タイムスロットの中には、タイムスロットの最初と最後にガードバンドが存在する。伝播遅延によって、1つのダイバー装置の送信が別のダイバー装置100のタイムスロットと重なり合う事態が起こりうることは当業者により認識されるであろう。ガードバンドは伝播遅延による信号重複を十分考慮した幅であるのが好ましい。各タイムスロットの残り時間は、メッセージデータを送信するために使用される。本発明の一実施形態においては、各タイムスロットは1つのメッセージを送信又は受信するために使用される。しかし、メッセージの持続時間がスロット周期と比較して短い場合には、1つのタイムスロットで複数のメッセージを送信できることは当業者により理解されるであろう。逆に、メッセージの長さがスロット期間を超える場合には、メッセージは分割され、複数のスロットにまたがって送信される。
【0030】
メッセージフォーマットの一例を図7に示す。メッセージはメッセージヘッダ及びメッセージ本体を含む。メッセージヘッダは同期語(8ビット)、コマンド(8ビット)、宛先アドレス(32ビット)及び発信元アドレス(32ビット)を含む。同期語は、メッセージの開始を示すために使用される周知のビットパターンである。コマンド要素は受信側装置に対してメッセージの型を示す。メッセージが複数のタイムスロットにまたがる場合、コマンド要素は、現在のスロットに含まれるメッセージデータが先のスロットにおいて送信されたメッセージの続きであるか否かを示すために使用される。宛先アドレスはメッセージの指定受信者を示す。発信元アドレス要素はメッセージの送信者を示す。
【0031】
図6に示されるように、ダイバー装置100は所定のシーケンスで送信する。本実施形態においては、ダイバー装置100のみにスロットが割当てられている。ビーコン装置50は、ダイバー装置100からメッセージを受信した後、ダイバー装置にのみ応答して第2のスロットで送信する。他の実施形態においては、ビーコン装置にもスロットが割当てられ、ビーコン装置はダイバー装置100との通信を開始できる。通信が開始される前、マスターダイバー装置100は送信順序を確定し、他のダイバー装置100にシーケンス中の場所を通知する。初期設定手続き中、マスターダイバー装置100は、シーケンス中の先行するダイバー装置100を識別する初期設定メッセージを他のダイバー装置100へ送信する。他のダイバー装置100は初期設定メッセージを確認する。通常の動作中、各ダイバー装置100は、スロット1を使用して送信されたメッセージの発信元アドレス要素により判定できる先行ダイバー装置100のアドレスと、スロット2を使用するメッセージの発信元アドレス又は宛先アドレスとをリスンする。
【0032】
連続して送信する2つのダイバー装置100の間で信号を阻止する障害が存在する場合、問題が起こることがある。この状況においては、第2のダイバー装置100は第1のダイバー装置100からの通信を「リスン」できなくなる可能性がある。その結果の1つは、第2のダイバー装置100が送信しないことによる通信の停滞である。この状況においては、所定の期間内に信号が検出されない場合、マスターダイバー装置100は送信シーケンスを再開してもよい。通信が停滞し続ける場合には、マスターダイバー装置100は送信順序を変更するために初期設定手順を呼出すことができる。送信順序の変更によって問題が解決されないのであれば、通信を停滞させているダイバー装置100を送信シーケンスから脱落させることができる。
【0033】
ダイバー装置100とビーコン装置50との水中通信はソナー周波数で起こる。本実施形態においては、搬送周波数は200kHzであり、ビット周期は.06msec(60μsec)である。これにより、約16.67kbpsのデータ送信速度が可能になる。メッセージは合わせて112ビットから構成される。すなわち、メッセージを送信するのに6.72msecを要する。
【0034】
図8は、データがどのように搬送周波数に変調されるかを示す。図8は、クロック信号、データ信号及び変調信号を示す。クロック信号は、ビット周期に等しい60μsecの周期を有する。データ信号は、送信される2進データを表現する。変調信号は、クロック信号と同一の周波数のパルス列から構成される。変調信号における所定の1つのパルスのパルス幅はデータ信号の状態により判定される。データ信号がローである場合、「0」ビットを示すために相対的に短いパルスが発生される。逆に、データ信号がハイである場合には、「1」ビットを示すために相対的に長いパルスが発生される。本実施形態においては、0ビットを示す短いパルスの持続時間は15μsecであり、1ビットを示す長いパルスは45μsecである。搬送波を変調するためにオン/オフキーイングが使用される。変調信号がハイである場合、搬送波はターンオンされ、変調信号がローである場合には、搬送波はターンオフされる。受信機は、信号を検出するためにパルスの立上がり端を検出してから37μsecの後に信号をサンプリングする。別の実施形態においては、送信機におけるクロックレートの変化を補正するために、立上がり端の検出後に可変サンプリング時間が使用されてもよい。特に、受信装置は、送信機クロックの周期を判定するために受信信号中のパルスの立上がり端の間の時間を測定し、それに従ってサンプリング時間を調整してもよい。クロック周期の測定は、同期語が送信されているときに実行されてもよい。一実施形態においては、サンプリング時間Tは、送信クロック周期に.625を乗算することにより判定される。
【0035】
言うまでもなく、本発明は、本発明の範囲及び本質的特徴から逸脱することなく本明細書中で説明された方法以外の他の特定の方法で実施されてもよい。従って、上述の実施形態は、あらゆる面において例示であり、限定的な意味を持たないと考えられるべきであり、添付の請求の範囲の趣旨及び等価性の範囲内に入る全ての変更は本発明に包含されることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、本発明に係る水中ナビゲーションシステムの一実施形態を示す図である。
【図2】図2は、水中ナビゲーションシステムの水上装置の一例を示す図である。
【図3】図3は、水中ナビゲーションシステムのビーコン装置の一例を示す図である。
【図4】図4は、水中ナビゲーションシステムのダイバー装置の一例を示す図である。
【図5】図5は、水中ナビゲーションシステムのダイバー装置の一例を示す図である。
【図6】図6は、水中通信のための時分割多元接続方式の一例を示す図である。
【図7】図7は、水中通信のためのメッセージフォーマットの一例を示す図である。
【図8】図8は、水中通信のための変調方式の一例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配置された場合に水面で浮遊する水上装置を備える水中ナビゲーションシステムであって、前記水上装置は、
地球軌道周回衛星からナビゲーション信号を受信する受信機と、
複数の水中ビーコン装置とに通信し、前記水中ビーコン装置へ位置情報を送信するソナートランシーバと、
前記ナビゲーション信号に基づいて前記水上装置の位置を判定し、1つ以上のビーコン装置へ位置情報を送信した後に前記水上装置を沈降又は破壊するための制御信号を生成する処理回路と、
配置された場合に海底まで沈降する複数のビーコン装置とを含み、前記ビーコン装置の各々は、
前記水上装置から受信される位置情報に基づいて前記ビーコン装置の位置を判定する処理回路と、
前記水上装置が水面に浮遊している間に前記水上装置から前記位置情報を受信し、ダイバー装置に対してナビゲーション補助を提供するために前記ダイバー装置へ位置情報を送信するソナートランシーバと、を含むことを特徴とする水中ナビゲーションシステム。
【請求項2】
前記受信機は全地球即位システム受信機を備えることを特徴とする請求項1に記載の水中ナビゲーションシステム。
【請求項3】
前記水上装置は、前記処理回路からの前記制御信号に応答して、前記水上装置を沈降又は破壊するリレーを更に備えることを特徴とする請求項1に記載の水中ナビゲーションシステム。
【請求項4】
各ビーコン装置は、少なくとも1つの水上装置から前記ビーコン装置までの距離に基づいて位置を判定することを特徴とする請求項1に記載の水中ナビゲーションシステム。
【請求項5】
各ビーコン装置は、複数の水上装置から前記ビーコン装置までの距離に基づいて三角測量により位置を判定することを特徴とする請求項4に記載の水中ナビゲーションシステム。
【請求項6】
各ビーコン装置は、少なくとも1つの水上装置からの前記ビーコン装置の方向及び距離に基づいて位置を判定することを特徴とする請求項4に記載の水中ナビゲーションシステム。
【請求項7】
前記ビーコン装置は、前記水上装置により送信される信号の到達時間に基づいて前記水上装置からの距離を判定することを特徴とする請求項4に記載の水中ナビゲーションシステム。
【請求項8】
前記ビーコン装置は、前記水上装置により送信される信号の進行時間に基づいて前記水上装置からの距離を判定することを特徴とする請求項4に記載の水中ナビゲーションシステム。
【請求項9】
前記ビーコン装置は、二重音信号の受信パワーに基づいて前記水上装置からの距離を判定することを特徴とする請求項4に記載の水中ナビゲーションシステム。
【請求項10】
前記ビーコン装置は複数のソナー変換器を含み、前記処理回路は、前記水上装置により送信される信号が前記複数のソナー変換器に到達する時間の差に基づいて前記水上装置に対する方向を判定することを特徴とする請求項4に記載の水中ナビゲーションシステム。
【請求項11】
前記ビーコン装置は非活動動作モード及び活動動作モードを含むことを特徴とする請求項1に記載の水中ナビゲーションシステム。
【請求項12】
前記ビーコン装置は、起動コードの受信に応答して非活動動作モードから活動動作モードに切替わることを特徴とする請求項11に記載の水中ナビゲーションシステム。
【請求項13】
前記ビーコン装置は、活動停止コードの受信に応答して活動動作モードから非活動動作モードに切替わることを特徴とする請求項11に記載の水中ナビゲーションシステム。
【請求項14】
前記ビーコン装置は、通信を受信せずに所定の時間が経過した後に活動動作モードから非活動動作モードに切替わることを特徴とする請求項11に記載の水中ナビゲーションシステム。
【請求項15】
水中ナビゲーションの方法であって、
水面に浮遊する水上装置により地球軌道周回衛星からのナビゲーション信号を受信する工程と、
前記水上装置のオンボード処理回路により前記水上装置の位置を判定する工程と、
前記水上装置から水中ビーコン装置へ位置情報を送信する工程と、
前記水中ビーコン装置へ位置情報を送信した後に前記水上装置を沈降又は破壊する工程と、を備えることを特徴とする方法。
【請求項16】
前記ビーコン装置において前記水上装置により送信された位置情報を受信する工程と、
前記水上装置から受信された位置情報に基づいて前記ビーコン装置の位置を判定する工程と、
ダイバー装置に対してナビゲーション補助を提供するために前記ダイバー装置へ位置情報を送信する工程と、を更に備えることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記ビーコン装置は、前記ビーコン装置から前記水上装置までの距離に基づいて前記ビーコン装置の位置を判定することを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記ビーコン装置は、当該ビーコン装置から複数の水上装置までの距離に基づいて当該ビーコン装置の位置を判定することを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ビーコン装置は、前記水上装置に対する方向及び前記水上装置までの距離に基づいて当該ビーコン装置の位置を判定することを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記ビーコン装置は、前記水上装置により送信される信号の到達時間に基づいて前記水上装置までの距離を判定することを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項21】
前記ビーコン装置は、前記水上装置により送信される信号の進行時間に基づいて前記水上装置までの距離を判定することを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項22】
前記ビーコン装置は、二重音信号の受信パワーに基づいて前記水上装置までの距離を判定することを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項23】
前記ビーコン装置は、前記水上装置により送信された信号が前記ビーコン装置に配置された前記複数のソナー変換器に到達する時間の差に基づいて前記水上装置までの距離を判定することを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項24】
前記ビーコン装置は非活動動作モードと活動動作モードとの間で切替わることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項25】
前記ビーコン装置は、起動コードの受信に応答して非活動動作モードから活動動作モードに切替わることを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記ビーコン装置は、活動停止コードの受信に応答して活動動作モードから非活動動作モードに切替わることを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記ビーコン装置は、通信を受信せずに所定の時間が経過した後に活動動作モードから非活動動作モードに切替わることを特徴とする請求項24に記載の方法。
【請求項28】
前記ビーコン装置は、当該ビーコン装置の位置を判定するために、前記水上装置から受信される情報に加えて別のビーコン装置から受信される情報を更に使用することを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項29】
前記水上装置はビーコン装置の位置を計算し、当該位置を前記ビーコン装置へ送信することを特徴とする請求項15に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−501343(P2009−501343A)
【公表日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−521554(P2008−521554)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【国際出願番号】PCT/US2006/027005
【国際公開番号】WO2007/011599
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(507416311)
【氏名又は名称原語表記】BASILICO, Albert, R.
【住所又は居所原語表記】14025 Bingham Drive, Raliegh, North Carolina 27614 U.S.A.
【Fターム(参考)】