説明

GPS装置およびその測位方法

【課題】インフラであるDGPS基準局やDGPS信号の受信機構を受信機に搭載していなくても、誤差要因の解消を実現させることができるGPS装置およびその測位方法を提供。
【解決手段】GPSモジュール10置は、センサ処理部12で所定の時間あたりに端末装置の携帯者の加速度およびこの携帯者が進行する方位を取得し、情報処理し、受信処理部16でGPS衛星からのGPS信号48を受信し、受信したGPS信号48に含まれる情報を基に位置情報を取得して、所定の時間にわたって取得した位置情報を保持し、演算部14で取得した携帯者の加速度28および方位30から所定の時間あたりに3次元における軸それぞれの方向成分を用いて、端末装置の移動距離を演算し、演算した移動距離とGPS衛星から取得した位置情報とを用いて、擬似距離の誤差を解消して、GPS衛星の位置情報を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、GPS装置およびその測位方法に関するものである。本発明に係るGPS装置は、GPSの測位情報を向上させるGPS機能付端末装置に関するものであり、歩行者が携帯したり、移動体に搭載されたりする。また、本発明に係るGPS測位方法は、GPSシステムから得られる測位情報を補正して精度を向上させて位置情報を得る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GPS(Global Positioning System)は、地球上で測位装置を搭載した機器やこの機器を所有するユーザの現在位置を調べるための人工衛星による測位システムである。人工衛星は、GPS信号の発射時刻や衛星の軌道を含む情報を搭載機器に向けて送信する。GPS装置を搭載する機器の受信機は、人工衛星から発射されたGPS信号を受信する。GPS装置は、受信したGPS信号の受信時刻と人工衛星から発射されたGPS信号の発射時刻と光の速度を基に人工衛星とこの受信機の間の距離を算出する。また、GPS装置は、衛星の軌道情報から衛星の位置を算出する。
【0003】
人工衛星との距離および人工衛星の位置を用いて、GPS装置は、主に、三辺測量の原理から受信機の位置を算出する。位置の算出において、いくつかの変数を定義する。現在位置である測位点は3次元の座標(x,y,z)で表わす。また、人工衛星を衛星番号iとし、人工衛星の位置を(xi,yi,zi)とする。受信機が観測する人工衛星との距離は誤差を含むため、人工衛星iの擬似距離はriとして表現する。擬似距離riは誤差を含むため、受信機と人工衛星の距離のパラメータとして擬似距離riを用いると、測位点は求まらない。そこで、受信機のクロックバイアスを定数bに設定することにより、式(1)
【0004】
【数1】

で表わされる。
【0005】
この場合、式(1)における測位点(x,y,z)および受信機クロックバイアスbが変数となることから、各人工衛星による式(1)は最低4つ、すなわち人工衛星が4つ以上必要になることが知られている。式(1)において、現在位置である測位点(x,y,z)は、衛星番号i=1, 2, 3, 4とした4つの方程式を連立させて、求められる。
【0006】
このような具体例として、特許文献1がある。特許文献1は移動局位置管理システムであり、GPS衛星の測位信号が変動しても常に正確な移動局の移動位置を標定することを目的としている。移動局位置管理システムは、基地局の正確な位置が既知であり、この基地局における自己の位置を標定し、標定した自己の位置とあらかじめ定められた自己の位置とを比較して、GPSによる位置誤差を推定算出し、推定算出した位置誤差とその算出時刻を記憶し、移動局から受信した標定時刻に最も近い算出時刻における位置誤差を移動局のGPSに適用して、移動局の測位を補正している。
【特許文献1】特開平07−146995号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、GPSの測位には、送信信号に含まれるエフェメリシス・データを基に得られる予測値、すなわちエフェメリシス予測値、人工衛星の時計モデルに起因する誤差、電離層遅延、対流圏遅延、受信機の雑音およびマルチパス等という複数の誤差要因があることから、三辺の原埋を適用して測位点を算出しても、測位情報には誤差が生じてしまう。
【0008】
ここで、DGPS(Differential GPS)の原理について簡単に記述する。DGPSでは、上述したGPSの4つの誤差要因、すなわちエフェメリシス予測値、人工衛星の時計モデルに起因する誤差、電離層遅延および対流圏遅延の影響は、数十kmないし数百km以内の近距離の場合、ほぼ同じであることが知られ、時間とともにかなりゆっくり変化するという事実を利用している。
【0009】
この特性を利用し、経緯度の分かっている既知点であるDGPS基準局は擬似距離に含まれる誤差量を算出し、DGPS信号としてこれをGPS受信機に送信する。GPS受信機は式(1)において、DGPS信号から取得した擬似距離に含まれる誤差量を差し引いて算出することにより、測位点を高精度に算出できる。
【0010】
このようにDGPSは、GPS受信機における4つの誤差要因による擬似距離に含まれる誤差を送信することでこれらに起因する誤差要因を解消し、高精度に測位している。
【0011】
しかしながら、この解消には、新たなインフラとしてDGPS信号を送信するDGPS基準局や受信機にDGPS信号を受信する機構が測位システムに要求される。
【0012】
本発明はこのような課題に鑑み、インフラであるDGPS基準局やDGPS信号の受信機構を受信機に搭載していなくても、誤差要因の解消を実現させることができるGPS装置およびその測位方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上述の課題を解決するために、GPS(Global Positioning System)衛星からのGPS信号を基に得られる位置情報と、所定の時間あたりに進行方向およびこの所定の時間の移動距離とを取得して搭載される端末装置の測位位置を補正するGPS装置において、このGPS装置は、GPS衛星からのGPS信号を受信し、受信したGPS信号に含まれる情報を基に位置情報を取得して、所定の時間にわたって取得した位置情報を保持する受信処理手段と、所定の時間あたりに3次元における軸それぞれの方向成分を用いて、端末装置の移動距離を演算し、演算した移動距離とGPS衛星から取得した位置情報とを用いて、擬似距離の誤差を解消して、GPS衛星の位置情報を補正する演算手段とを含むことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は上述の課題を解決するために、GPS(Global Positioning System)衛星からのGPS信号を基に得られる位置情報を取得して、搭載される端末装置の測位位置を補正するGPS装置において、このGPS装置は、所定の時間あたりに端末装置の携帯者の加速度およびこの携帯者が進行する方位を取得し、情報処理するセンサ処理手段と、GPS衛星からのGPS信号を受信し、受信したGPS信号に含まれる情報を基に位置情報を取得して、所定の時間にわたって取得した位置情報を保持する受信処理手段と、取得した携帯者の加速度および方位から前記所定の時間あたりに3次元における軸それぞれの方向成分を用いて、端末装置の移動距離を演算し、演算した移動距離とGPS衛星から取得した位置情報とを用いて、擬似距離の誤差を解消して、GPS衛星の位置情報を補正する演算手段とを含むことを特徴とする。
【0015】
さらに、本発明は上述の課題を解決するために、GPS(Global Positioning System)衛星からのGPS信号を基に得られる位置情報と、所定の時間あたりに進行方向およびこの所定の時間の移動距離とを取得して搭載される端末装置の測位位置を補正するGPS測位方法において、この方法は、GPS衛星からのGPS信号を受信し、受信したGPS信号に含まれる情報を基に位置情報を取得して、所定の時間にわたって取得した位置情報を保持する第1の工程と、所定の時間あたりに3次元における軸それぞれの方向成分を用いて、端末装置の移動距離を演算し、演算した移動距離とGPS衛星から取得した位置情報とを用いて、擬似距離の誤差を解消して、GPS衛星の位置情報を補正する第2の工程とを含むことを特徴とする。
【0016】
そして、本発明は上述の課題を解決するために、GPS(Global Positioning System)衛星からのGPS信号を基に得られる位置情報を取得して、搭載される端末装置の測位位置を補正するGPS測位方法において、この方法は、所定の時間あたりに端末装置の携帯者の加速度およびこの携帯者が進行する方位を取得し、情報処理する第1の工程と、GPS衛星からのGPS信号を受信し、受信したGPS信号に含まれる情報を基に位置情報を取得して、所定の時間にわたって取得した位置情報を保持する第2の工程と、取得した携帯者の加速度および方位から所定の時間あたりに3次元における軸それぞれの方向成分を用いて、端末装置の移動距離を演算し、演算した移動距離とGPS衛星から取得した位置情報とを用いて、擬似距離の誤差を解消して、GPS衛星の位置情報を補正する第3の工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るGPS装置およびその測位方法によれば、GPS(Global Positioning System)衛星からのGPS信号を基に得られる位置情報と、所定の時間あたりに進行方向およびこの所定の時間の移動距離とを取得して搭載される端末装置の測位位置を補正するGPS装置において、このGPS装置は、受信処理手段でGPS衛星からのGPS信号を受信し、受信したGPS信号に含まれる情報を基に位置情報を取得して、所定の時間にわたって取得した位置情報を保持し、演算手段で所定の時間あたりに3次元における軸それぞれの方向成分を用いて、端末装置の移動距離を演算し、演算した移動距離とGPS衛星から取得した位置情報とを用いて、擬似距離の誤差を解消して、GPS衛星の位置情報を補正することにより、外部からの補正データを送信する、たとえばDGPS基準局やDGPS信号の受信機構を受信機に搭載していなくても、すなわち補正データの受信が不要であっても、高精度なGPSの位置情報を得ることができる。また、DGPS基準局を不要にすることから、設備投資を大幅に軽減することができる。
【0018】
また、本発明に係るGPS装置およびその測位方法によれば、GPS(Global Positioning System)衛星からのGPS信号を基に得られる位置情報を取得して、搭載される端末装置の測位位置を補正するGPS装置において、このGPS装置は、センサ処理手段で所定の時間あたりに端末装置の携帯者の加速度およびこの携帯者が進行する方位を取得し、情報処理し、受信処理手段でGPS衛星からのGPS信号を受信し、受信したGPS信号に含まれる情報を基に位置情報を取得して、所定の時間にわたって取得した位置情報を保持し、演算手段で取得した携帯者の加速度および方位から所定の時間あたりに3次元における軸それぞれの方向成分を用いて、端末装置の移動距離を演算し、演算した移動距離とGPS衛星から取得した位置情報とを用いて、擬似距離の誤差を解消して、GPS衛星の位置情報を補正することにより、外部からの補正データを送信する、たとえばDGPS基準局やDGPS信号の受信機構を受信機に搭載していなくても、すなわち補正データの受信が不要であっても、高精度なGPSの位置情報を得ることができる。また、DGPS基準局を不要にすることから、設備投資を大幅に軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に添付図面を参照して本発明によるGPS装置の一実施例を詳細に説明する。図1を参照すると、本発明によるGPS装置の実施例は、GPSモジュール10に適用した場合であり、GPSモジュール10は、GPS(Global Positioning System)衛星からのGPS信号を基に得られる位置情報を取得して、搭載される端末装置の測位位置を補正するGPS装置である。このGPSモジュール10置は、センサ処理部12で所定の時間あたりに端末装置の携帯者の加速度およびこの携帯者が進行する方位を取得し、情報処理し、受信処理部16でGPS衛星からのGPS信号48を受信し、受信したGPS信号48に含まれる情報を基に位置情報を取得して、所定の時間にわたって取得した位置情報を保持し、演算部14で取得した携帯者の加速度28および方位30から所定の時間あたりに3次元における軸それぞれの方向成分を用いて、端末装置の移動距離を演算し、演算した移動距離とGPS衛星から取得した位置情報とを用いて、擬似距離の誤差を解消して、GPS衛星の位置情報を補正することにより、外部からの補正データを送信する、たとえばDGPS基準局やDGPS信号の受信機構を受信機に搭載していなくても、すなわち補正データの受信が不要であっても、高精度なGPSの位置情報を得ることができる。また、DGPS基準局を不要にすることから、設備投資を大幅に軽減することができる。
【0020】
本発明と直接関係のない部分について図示および説明を省略する。以下の説明で、信号はその現れる接続線の参照番号で指示する。
【0021】
GPSモジュール10は、図1に示すように、センサ処理部12、演算部14、受信処理部16および出力インタフェース18を含む。とくに、本実施例において、歩行者が携帯するような、図示しない携帯端末装置の内部に高精度な測位の演算機構としてGPSモジュール10が配されている。GPSモジュール10は、測位点データを、出力インタフェース18を介して携帯端末装置と接続されている。
【0022】
センサ処理部12は、携帯端末装置を携帯する歩行者の加速度と方位を測定する機能を有する。センサ処理部12は、端末センサ部20および情報処理部22を含む。端末センサ部20は、さらに、加速度センサ24および電子コンパス26を含む。
【0023】
加速度センサ24は、歩行者の移動にともなって生じる物理量である加速度を測定する機能を有する。加速度センサ24は、求めた加速度データ28を情報処理部22に出力する。また、電子コンパス26は、歩行者の移動する方向を示す方位を測定する機能を有する。電子コンパス26は、測定した方位データ30を情報処理部22に出力する。
【0024】
なお、端末センサ部20は、加速度センサ24や電子コンパス26に限定されるものでなく、加速度と方位が求まれば、加速度センサや電子コンパス以外を用いる方法でもよい。また、GPSモジュール10は、携帯者が有する端末装置の位置の算出において、GPS衛星からのGPS信号を基に得られる位置情報と、所定の時間あたりに進行方向およびこの所定の時間における移動距離を取得できる場合、センサ処理部12を配設しなくてもよい。
【0025】
情報処理部22は、取得したデータによりエポックあたりの端末携帯者の進行方向と移動距離を算出する機能を有する。エポックとは、単位測位時間のことであり、本実施例でこの単位測位時間は1秒に設定する。情報処理部22は、演算部14からデータ送信命令32を受信すると、供給される加速度データ28および方位データ30を基にエポックあたりの端末携帯者の進行方向と移動距離を算出し、算出したエポックあたりの端末携帯者の進行方向と移動距離を、センサデータ34として演算部14に出力する。
【0026】
なお、情報処理部22は、端末携帯者の進行方向と移動距離が算出可能な方法であれば、本実施例に限らず、別の方法で求めてもよい。
【0027】
演算部14は、新たに提案する原理を基に高精度な位置情報を算出する機能を有する。演算部14は、図2に示すように、任意のエポックでの3次元における軸それぞれの方向成分を用いて、端末装置の移動距離を算出する距離算出機能部14aと、観測した誤差を含む擬似距離から、一つ前のエポックでの観測した誤差を含む擬似距離の減算を、真の距離から、一つ前のエポックにおける真の距離の減算に等しいと近似して、演算する近似演算機能部14bと、算出した移動距離、GPS衛星から取得した位置情報および受信にともなう真のクロックバイアスを用いて、擬似距離の誤差を解消して、GPS衛星における真の位置情報を算出する真値算出機能部14cとを含む。演算部14が、GPS衛星から取得したパラメータを適宜用いて演算していることは言うまでもない。
【0028】
簡単に記述すると、演算部14は、一つ前のエポック(τ-1)における真の測位点に端末携帯者の移動距離を加えて表わされるエポック(τ)における真の測位点、エポック(τ)における真の測位点から一つ前のエポック(τ-1)における真の測位点に端末携帯者の移動距離を引いて表わされる一つ前のエポック(τ-1)における真の測位点の算出および一つ前のエポック(τ-1)における真の測位点を算出する。
【0029】
そして、演算部14は、任意のエポックでの3次元における軸それぞれの方向成分を用いて、端末装置の移動距離も算出する。演算部14は、とくに、近似距離における擬似距離の誤差に等しく、時間経過による誤差要因の変化が少ないことを利用したDGPSの原理と同様に任意のエポックと一つ前の任意のエポックの擬似距離に含まれる誤差が近似できることを適用する点に特徴がある。すなわち、エポック(τ)における誤差を含む擬似距離の観測値と一つ前のエポック(τ-1)における誤差を含む擬似距離の観測値の差が、エポック(τ)における擬似距離の観測値と一つ前のエポック(τ-1)における擬似距離の観測値の差に等しいと近似して、算出し、近似して得られたエポック間における擬似距離の差に、真値の算出に用いるクロックバイアスを加算し、未知数の数に応じてGPS衛星の受信データを基に、少なくとも、4つ以上の方程式を作成し、これらを連立させて解いている。これら新たに提案する原理については、後段で式を挙げて詳述する。
【0030】
図1に戻って、演算部14は、エポック毎に情報処理部22と受信処理部16のストレージ36にデータ送信命令32および38をそれぞれ、送信する。演算部14は、情報処理部22から供給されるセンサデータ34とストレージ36から送信された衛星位置と疑似距離を示すデータ40を受信する。演算部14は、センサデータ34およびデータ40すべてを受信後、高精度な位置データを算出し、算出した位置データ42を出力インタフェース18に出力する。
【0031】
受信処理部16は、人工衛星からのGPS信号を受信し、受信したGPS信号に含まれる情報を基に衛星位置と擬似距離をデータとして算出し、算出したデータを一時格納する機能を有する。この機能を実現するため、受信処理部16は、アンテナ44、GPS受信部46およびストレージ36を含む。
【0032】
アンテナ44は、人工衛星からのGPS信号を受信し、電気信号に変換する機能を有する。アンテナ44は、到来するGPS信号48を受信し、受信信号をGPS信号50としてGPS受信部46に供給する。
【0033】
GPS受信部46は、GPS信号をエポック毎に人工衛星の位置と擬似距離をGPSデータとして算出する機能を有する。GPS受信部46は、算出したGPSデータ52をストレージ36に供給する。ストレージ36は、GPSデータを保存する機能を有する。ストレージ36は、データ送信命令38を受けると、保存するGPSデータ40を演算部14に出力する。
【0034】
出力インタフェース18は、供給される位置データを搭載される携帯端末装置に出力する機能を有する。出力インタフェース18は、位置データ42を位置データ54として出力する。
【0035】
次に本発明に係るGPS装置を適用したGPSモジュール10の測位原理について図3を参照しながら、記述する。任意のエポックにおける衛星位置56 ((τ)xi, (τ)yi, (τ)zi)と受信機で観測した擬似距離58 (τ)riを用いて、式(1)により、誤差を含む測位点60 ((τ)x0,(τ)y0, (τ)z0)が算出される。
【0036】
ここで、この測位原理に用いるパラメータそれぞれについて以下のように、定義する。すなわち、定数bは、GPS受信機のクロックバイアスである。添字iは、人工衛星の番号であり、変数τはエポックを示す。
【0037】
誤差を含まないエポック(τ)における真の測位点62 ((τ)x^0, (τ)y^0, (τ)z^0)は、誤差を含まない真の距離64 (τ)r^iを知ることができれば、式(1)により算出される。このとき、測位点が真値であるから、受信機クロックバイアスbはゼロになる。単位エポックにおける端末携帯者の移動距離ベクトル66 ((τ)xs, (τ)ys, (τ)zs)は、任意のエポックの一つ前のエポックから任意のエポックまでの端末携帯者の移動距離である。
【0038】
また、任意のエポックの一つ前のエポックを変数τ-1で示す。したがって、このエポック(τ-1)における衛星位置68は、((τ-1)xi, (τ-1)yi, (τ-1)zi)である。また、エポック(τ-1)における受信機で観測した擬似距離70は、(τ-1)riである。エポック(τ-1)における誤差を含む測位点72は、((τ-1)x0, (τ-1)y0, (τ-1)z0)、エポック(τ-1)における誤差を含まない真の測位点74は、((τ-1)x^0, (τ-1)y^0, (τ-1)z^0)、エポック(τ-1)における誤差を含まない真の距離76は (τ-1)r^iに、それぞれ、設定する。
【0039】
本実施例におけるGPSモジュール10は、携帯者が有する端末装置の位置の算出において、GPS衛星からのGPS信号を基に得られる位置情報と、所定の時間あたりに進行方向およびこの所定の時間における移動距離を取得できる場合、最初の原理として、式(2)および式(3)
【0040】
【数2】

は使用しないが、両式を解くことにより、誤差を含む測位点72および60が算出される。
【0041】
式(4)および式(5)
【0042】
【数3】

を解くことにより、任意のエポックにおける真の測位点74および一つ前の任意のエポックにおける真の測位点62が、それぞれ、算出される。
【0043】
また、任意のエポック(τ)における真の測位点62 ((τ)x^0, (τ)y^0, (τ)z^0)は、この一つ前のエポック(τ-1)における真の測位点74に、端末携帯者の移動距離ベクトル66を加えた関係にあるから、式(6)
【0044】
【数4】

で表わされる。
【0045】
式(6)を変形すると、式(7)
【0046】
【数5】

が得られる。
【0047】
また、式(5)に式(7)の値を代入すると、式(8)
【0048】
【数6】

が得られる。
【0049】
次に近似の適用について記述する。誤差を含む擬似距離の観測値58 (τ)riは、式(9)
【0050】
【数7】

近似式における左辺の関係で表わされる。
ここで、変数(τ)riは、エポックτにおける人工衛星iの擬似距離であり観測値である。また、変数(τ)Δriは、エポックτにおける人工衛星iの擬似距離に含まれる誤差である。さらに、(τ)r^iは、エポックτにおける人工衛星iの擬似距離の真値である。すなわち、式(9)が示すように、任意のエポックにおける擬似距離に含まれる誤差は、近距離における擬似距離の誤差が等しく、時間経過による誤差要因の変化が少ないことを利用したDGPSの原理と同様に、この一つ前のエポックの擬似距離に含まれる誤差とほぼ等しいとして近似している。これにより、近似式の右辺の関係が示される。
【0051】
また、一つ前の任意のエポックにおける擬似距離の観測値70 (τ-1)riは、式(10)
【0052】
【数8】

の関係に表わされる。
【0053】
さらに、式(9)から式(10)の両辺をそれぞれ減算すると、式(11)
【0054】
【数9】

が得られる。
【0055】
式(11)の左辺と同様にエポック間における真の距離の差は、式(4)から式(8)を減算すると、式(12)
【0056】
【数10】

によって得られる。
【0057】
ここで、式(11)の近似を用いて、式(12)における平方根の中の式を整理すると、式(13)
【0058】
【数11】

が得られる。式(13)より、誤差を含む擬似距離(τ)ri(τ-1)riを用いて真の測位点((τ)x^0, (τ)y^0, (τ)z^0)を導出していることが分かる。
【0059】
式(13)は近似を用いていることから、わずかに含まれる誤差により精確な解が求まらない可能性がある。真値を算出するため、式(13)に精確な解が求まるように役割を担うクロックバイアスb^を挿入すると、式(14)
【0060】
【数12】

が得られる。
【0061】
式(14)における未知の変数は、任意のエポックにおける真の測位点62((τ)x^0, (τ)y^0, (τ)z^0)と真値の算出に用いるクロックバイアスb^の4つであることから、人工衛星毎に式(14)が最低4つあれば、ニュートン法や二分法等の演算手法を用いて、真の測位点62が算出される。
【0062】
次に本発明に係るGPS装置を適用したGPSモジュール10の動作について記述する。GPSモジュール10は、任意の時刻において、端末センサ部20の加速度センサ24および電子コンパス26から端末携帯者の加速度と方位を取得する。端末センサ部20は、取得した端末携帯者の加速度と方位のデータ28および30を情報処理部22に送る。
【0063】
情報処理部22は、データ送信命令32を受信した際に、取得した加速度と方位を1秒問平均化した値を演算部14に端末携帯者のセンサ情報34として演算部14に出力する。演算部14は、端末携帯者の加速度と方位を含むセンサ情報34から1秒間の移動距離を算出し、方位から3次元における各軸方向への移動距離ベクトル66に変換する。
【0064】
一方、GPS受信部46は、アンテナ44で受信したGPS信号50からエポック(τ)における人工衛星の位置56と擬似距離58をGPSデータとして1秒毎に算出し、ストレージ36に送る。ストレージ36は、1秒毎に算出したGPSデータを保存する。ストレージ36は、30秒間のGPSデータを保存し、一番古いGPSデータから順に上書きする。ストレージ36は、演算部14からデータ送信命令38を受信した際に、現時刻(τ)のGPSデータと1秒前(τ-1)のGPSデータを演算部14に送信する。
【0065】
演算部14は、図3に示した原理を基に演算することにより高精度な測位点を算出する。演算部14は、算出した測位点データ42を、出力インタフェース18に出力する。出力インタフェース18は、図示しない携帯端末装置に高精度な位置情報として位置データ54を送信する。
【0066】
このように動作させることにより、DGPS基準局のようなインフラやDGPS信号を受信する機構も用いることなく、携帯端末装置を携帯する歩行者の高精度な測位データを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係るGPS装置を適用したGPSモジュールの実施例における概略的なブロック図である。
【図2】図1の演算部における原理に基づく概略的な機能ブロックを示すブロック図である。
【図3】図1のGPSモジュールにおける演算パラメータの関係を表わす図である。
【符号の説明】
【0068】
10 GPSモジュール
12 センサ処理部
14 演算部
16 受信処理部
18 出力インタフェース
20 端末センサ部
22 情報処理部
24 加速度センサ
26 電子コンパス
36 ストレージ
44 アンテナ
46 GPS受信部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPS(Global Positioning System)衛星からのGPS信号を基に得られる位置情報と、所定の時間あたりに進行方向および該所定の時間の移動距離とを取得して、搭載される端末装置の測位位置を補正するGPS装置において、該GPS装置は、
前記GPS衛星からのGPS信号を受信し、受信したGPS信号に含まれる情報を基に位置情報を取得して、前記所定の時間にわたって取得した位置情報を保持する受信処理手段と、
前記所定の時間あたりに3次元における軸それぞれの方向成分を用いて、前記端末装置の移動距離を演算し、演算した移動距離と前記GPS衛星から取得した位置情報とを用いて、擬似距離の誤差を解消して、前記GPS衛星の位置情報を補正する演算手段とを含むことを特徴とするGPS装置。
【請求項2】
請求項1に記載のGPS装置において、前記演算手段は、前記所定の時間あたりに3次元における軸それぞれの方向成分を用いて、前記端末装置の移動距離を算出する第1演算機能ブロックと、
観測した誤差を含む擬似距離から、一つ前の前記所定の時間で観測した誤差を含む擬似距離の減算を、真の距離から、一つ前の前記所定の時間における真の距離の減算に等しいと近似して、演算する第2演算機能ブロックと、
観測した誤差を含む擬似距離から、一つ前の前記所定の時間で観測した誤差を含む擬似距離の減算を、真の距離から、一つ前の前記所定の時間における真の距離の減算に等しいと近似して、演算する第2演算機能ブロックと、
観測した誤差を含む擬似距離から、一つ前の前記所定の時間で観測した誤差を含む擬似距離の減算を、真の距離から、一つ前の前記所定の時間における真の距離の減算に等しいと近似して、演算する第2演算機能ブロックと、
算出した移動距離、前記GPS衛星から取得した位置情報および受信にともなう真のクロックバイアスを用いて、擬似距離の誤差を解消して、前記GPS衛星における真の位置情報を算出する第3演算機能ブロックとを含むことを特徴とするGPS装置。
【請求項3】
請求項1に記載のGPS装置において、該GPS装置は、補正したGPS衛星からの位置情報を外部に出力するインタフェース手段を含むことを特徴とするGPS装置。
【請求項4】
GPS(Global Positioning System)衛星からのGPS信号を基に得られる位置情報を取得して、搭載される端末装置の測位位置を補正するGPS装置において、該GPS装置は、
前記所定の時間あたりに前記端末装置の携帯者の加速度および該携帯者が進行する方位を取得し、情報処理するセンサ処理手段と、
前記GPS衛星からのGPS信号を受信し、受信したGPS信号に含まれる情報を基に位置情報を取得して、前記所定の時間にわたって取得した位置情報を保持する受信処理手段と、
取得した携帯者の加速度および方位から前記所定の時間あたりに3次元における軸それぞれの方向成分を用いて、前記端末装置の移動距離を演算し、演算した移動距離と前記GPS衛星から取得した位置情報とを用いて、擬似距離の誤差を解消して、前記GPS衛星の位置情報を補正する演算手段とを含むことを特徴とするGPS装置。
【請求項5】
請求項4に記載のGPS装置において、前記演算手段は、前記所定の時間あたりに3次元における軸それぞれの方向成分を用いて、前記端末装置の移動距離を算出する第1演算機能ブロックと、
観測した誤差を含む擬似距離から、一つ前の前記所定の時間で観測した誤差を含む擬似距離の減算を、真の距離から、一つ前の前記所定の時間における真の距離の減算に等しいと近似して、演算する第2演算機能ブロックと、
算出した移動距離、前記GPS衛星から取得した位置情報および受信にともなう真のクロックバイアスを用いて、擬似距離の誤差を解消して、前記GPS衛星における真の位置情報を算出する第3演算機能ブロックとを含むことを特徴とするGPS装置。
【請求項6】
請求項4に記載のGPS装置において、該GPS装置は、補正したGPS衛星からの位置情報を外部に出力するインタフェース手段を含むことを特徴とするGPS装置。
【請求項7】
GPS(Global Positioning System)衛星からのGPS信号を基に得られる位置情報と、所定の時間あたりに進行方向および該所定の時間の移動距離とを取得して、搭載される端末装置の測位位置を補正するGPS測位方法において、該方法は、
前記GPS衛星からのGPS信号を受信し、受信したGPS信号に含まれる情報を基に位置情報を取得して、前記所定の時間にわたって取得した位置情報を保持する第1の工程と、
前記所定の時間あたりに3次元における軸それぞれの方向成分を用いて、前記端末装置の移動距離を演算し、演算した移動距離と前記GPS衛星から取得した位置情報とを用いて、擬似距離の誤差を解消して、前記GPS衛星の位置情報を補正する第2の工程とを含むことを特徴とするGPS測位方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法において、第2の工程は、前記所定の時間あたりに3次元における軸それぞれの方向成分を用いて、前記端末装置の移動距離を算出する第4の工程と、
観測した誤差を含む擬似距離から、一つ前の前記所定の時間で観測した誤差を含む擬似距離の減算を、真の距離から、一つ前の前記所定の時間における真の距離の減算に等しいと近似して、演算する第5の工程と、
算出した移動距離、前記GPS衛星から取得した位置情報および受信にともなう真のクロックバイアスを用いて、擬似距離の誤差を解消して、前記GPS衛星における真の位置情報を算出する第6の工程とを含むことを特徴とするGPS測位方法。
【請求項9】
GPS(Global Positioning System)衛星からのGPS信号を基に得られる位置情報を取得して、搭載される端末装置の測位位置を補正するGPS測位方法において、該方法は、
前記所定の時間あたりに前記端末装置の携帯者の加速度および該携帯者が進行する方位を取得し、情報処理する第1の工程と、
前記GPS衛星からのGPS信号を受信し、受信したGPS信号に含まれる情報を基に位置情報を取得して、前記所定の時間にわたって取得した位置情報を保持する第2の工程と、
取得した携帯者の加速度および方位から前記所定の時間あたりに3次元における軸それぞれの方向成分を用いて、前記端末装置の移動距離を演算し、演算した移動距離と前記GPS衛星から取得した位置情報とを用いて、擬似距離の誤差を解消して、前記GPS衛星の位置情報を補正する第3の工程とを含むことを特徴とするGPS測位方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法において、第3の工程は、前記所定の時間あたりに3次元における軸それぞれの方向成分を用いて、前記端末装置の移動距離を算出する第4の工程と、
観測した誤差を含む擬似距離から、一つ前の前記所定の時間で観測した誤差を含む擬似距離の減算を、真の距離から、一つ前の前記所定の時間における真の距離の減算に等しいと近似して、演算する第5の工程と、
算出した移動距離、前記GPS衛星から取得した位置情報および受信にともなう真のクロックバイアスを用いて、擬似距離の誤差を解消して、前記GPS衛星における真の位置情報を算出する第6の工程とを含むことを特徴とするGPS測位方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−85246(P2010−85246A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−254659(P2008−254659)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】