説明

GPVIに対する新規アンタゴニスト抗体および該抗体のFabフラグメントならびにこれらの使用

FR2009/113 PCT特許出願 名称 GPVIに対する新規アンタゴニスト抗体および該抗体のFabフラグメントならびにこれらの使用 SANOFI−AVENTIS 要約 本発明は、ヒト血小板膜タンパク質・糖タンパク質VI(GPVI)に特異的に結合する新規抗体および該抗体の一価フラグメントまたは誘導体を開示する。本発明の抗体は、GPVI枯渇表現型を誘導することができる、ハイブリドーマクローン390からの抗体および該抗体のフラグメント抗体である。これらの抗体およびFabフラグメントは、コラーゲン結合を遮断することができ、従って、コラーゲンによる血小板活性化を防止することができる。本発明は、開示する抗体およびFabフラグメントの生産のためのハイブリドーマクローンおよび発現プラスミドにも関する。本発明は、さらに、血栓症および他の血管疾患の治療用の研究、診断および免疫療法薬を製造するための一価抗体フラグメントの使用に関する。本発明は、C末端先端部に分子を有するFabにも関し、およびこのような修飾Fabを使用して抗体によるFabの認識を防止する方法にも関する。本発明は、抗GPVI Fabを使用するときの血小板活性化の防止方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト血小板膜タンパク質・糖タンパク質VI(GPVI)に特異的に結合する新規抗体および抗体の一価フラグメントまたは誘導体を開示する。本発明の抗体は、ハイブリドーマクローン390からの抗体、およびハイブリドーマクローン390からの抗体によって認識される配座エピトープに類似しているエピトープに結合する抗体である。これらの抗体およびFabフラグメントは、コラーゲン結合を遮断することができ、従って、コラーゲンによる血小板活性化を防止することができる。本発明は、開示する抗体およびFabフラグメントの生産のためのハイブリドーマクローンおよび発現プラスミドにも関する。本発明は、さらに、血栓症および他の血管疾患の治療用の研究、診断および免疫療法薬を製造するための一価抗体フラグメントの使用に関する。もう1つの態様において、本発明は、患者特異的抗Fab抗体により誘導される受容体クラスター化による受容体活性化を防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血小板機能は、動脈血栓症および心血管疾患の発生において基本的に重要である。今日では、心血管疾患に罹患している患者を抗血小板薬で治療することは当然のことである。臨床的に成功した様々な抗血小板療法を利用できるにもかかわらず、新たな治療に対する未だ満たされぬ医療ニーズは依然として大きい。この欠陥は、特に薬物の効力と安全性(出血)の相関関係に関して、現在利用できる薬物の効力が限られていることに主として起因する。血小板活性化および粘着の早期事象(現在用いられている薬物により標的にされないメカニズム)への干渉は、効力−安全域の改善のための魅力的なアプローチである。コラーゲン受容体糖タンパク質(GPVI)は、血小板活性化のこれらの早期事象に最も重要であり、従って、このメカニズムへの干渉の主な標的である(Nieswandt B and Watson SP,Blood.2003 Jul 15;102(2):449−61)。GPVIの抗血小板および抗血栓症効果は、マウスおよび人間からの血小板を使用して、幾つかのインビトロおよびインビボ系に関して説明されている。GPVIが欠損した血小板は、内皮下基質の最も重要な血栓形成性成分の1つであるコラーゲンに対して無反応にされる(Lockyer S.et al,Thromb Res.2006;118(3):371−80)。さらに、GPVI欠損が、特発性出血への罹病性を増すことなく、損傷した血管壁での動脈血栓形成の有効な阻害を生じさせることは、マウス研究によって証明されている。これらのデータすべてが、GPVIが動脈血栓症の治療の有効で安全な標的に相当することを示唆している。血栓形成の開始におけるGPVIの中心的役割は、この受容体の阻害が動脈血栓症の症候群において有益であり得ることを示している。このことから、抗体などの生物療法用タンパク質の使用は、GPVIの阻害のための臨床的に意味のある戦略になる。GPVIとGPVIのリガンド・コラーゲンとの相互作用は、膨張したタンパク質表面を必要とすると思われるために尚更、このタンパク質−タンパク質相互作用への干渉は、他の戦略と比較して、阻害性GPVI結合タンパク質を用いるほうが成功する可能性が高い。抗体およびFabフラグメントによるGPVI機能の阻害についての概念のインビボでの証拠が、幾つかの動物モデルで示されている。
【0003】
GPVI活性の臨床的に有効な阻害剤が依然として必要とされている。
【0004】
GPVIは、血小板および巨核球上で排他的に発現される主コラーゲン受容体である。コラーゲンへの結合は、受容体クラスター化およびその後の血小板活性化を誘導する。この誘導は、血栓形成における初期事象である。現行の抗血小板薬は、この過程における後期事象を標的にすることにより血栓形成に干渉する。これらの薬物の重篤な副作用は持続出血であり、この副作用がこれらの薬物の使用を制限する。血栓形成の早期事象(例えばGPVI)を標的にすることが、出血しやすさに重大な影響を及ぼすことなく非常に抗血栓性であり得るという幾つかの系統の証拠がある。モノクローナル抗体(mAb)を中和することにより、コラーゲンとGPVIの相互作用をうまく阻害することができる。しかし、mAbは二価の分子であるので、GPVI−受容体クラスター化、従って血小板活性化を誘導し得る。この誘導を回避するために、Fabフラグメントなどの一価抗体フラグメントが開発された。
【0005】
残念なことに、これらの一価抗GPVI Fabフラグメントの徹底的な安全性プロファイリングにより、患者特異的様式で血小板活性化を依然として誘導する潜在能力が明らかになった。虚血事象の治療のための安全な療法を提供するには、開発されたFab分子のこの活性化性(activatory)潜在能力を完全に無くさなければならなかった。これまでのところ、この問題は解決されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nieswandt B and Watson SP,Blood.2003 Jul 15;102(2):449−61
【非特許文献2】Lockyer S.et al,Thromb Res.2006;118(3):371−80
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一の態様において、本発明は、ヒトGPVIにおよび霊長類GPVIに特異的に結合する、(クローン390からの)新規モノクローナル抗体を提供する。
【0008】
もう1つの態様において、本発明は、クローン390からの抗GPVI mAbの可変ドメイン配列から誘導される組換えFabフラグメントに関する。これらの抗GPVI抗体およびFabフラグメントは、ヒトGPVIタンパク質のD1およびD2ドメイン内の特定の配座エピトープを認識する。
【0009】
抗GPVI mAbおよびFabフラグメントは、両方とも、GPVIへのコラーゲン結合を阻害することができる。抗GPVI Fabフラグメントは、ヒトGPVIへのフラグメントの親和性を改善する目的で、ヒト化および改変されている。これらのヒト化変異体の生物物理学的特性を説明する。
【0010】
コラーゲンの阻害に加えて、抗GPVI Fabフラグメントは、ヒト多血小板血漿においてもヒト全血においてもコラーゲンにより誘導される血小板凝集を阻害することができる。これらのFabフラグメントは、血流下でコラーゲン被覆表面での血栓形成を阻害することもできる。
【0011】
故に、ヒトにおける抗体によるGPVIの阻害は、魅力的な抗血栓症戦略であると考えられる。
【0012】
驚くべきことに、本発明の抗GPVI Fabは、GPVI枯渇表現型を誘導する。従って、GPVI枯渇表現型を誘導することができる抗GPVI Fabフラグメントは、本発明のもう1つの目的である。
【0013】
本発明は、既存する抗体によるFabフラグメントの認識の防止方法も提供し、この方法は、FabのC末端先端部を分子の付加によりマスクすることに存する。本発明は、Fab C末端先端部に対する新たな抗体によるFabフラグメントの認識の防止方法も提供し、この方法は、FabのC末端先端部を分子の付加によりマスクすることに存する。
【0014】
本発明は、抗GPVI Fabを使用するときの血小板活性化の防止方法も提供し、この方法では、FabのC末端先端部を分子の付加によりマスクする。
【0015】
本発明のもう1つの目的は、C末端先端部に分子を有するFabフラグメントである。
【0016】
本発明の抗GPVIおよびFabフラグメントの発現のためのベクターばかりでなく、DNAおよびタンパク質配列も提供する。
【0017】
本発明の抗血栓薬は、血栓性または血管疾患の治療に用いることができる。
【0018】
本発明は、本発明のGPVI特異的モノクローナル抗体フラグメントの医薬としての有効量を適切な賦形剤と共に含む抗血栓症組成物も提供する。
【0019】
本発明のもう1つの態様では、抗血栓症治療を必要するリスクのある患者の診断に前記抗体を使用することができる。本発明は、抗GPVI抗体または抗体のフラグメントを含む診断用キットも包含する。
【0020】
本発明は、本発明のGPVI抗体、抗体フラグメントおよびマスクされた抗体Fabフラグメントの調製方法も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1A】競合ELISAによるコラーゲン結合の阻害を示す図である。hGPVI−Fcに対する用量依存性(IC50)を示す。
【図1B】競合ELISAによるコラーゲン結合の阻害を示す図である。カニクイザル(Maccaca)GPVI−Fcに対する用量依存性(IC50)を示す。
【図2】ELISAによるヒトおよび霊長類GPVIに対する選択ハイブリドーマmAbの交差反応性分析を示す図である。
【図3】ハイブリドーマクローン390からのIgGのフィシン切断によって生産されたFabを示す図である。
【図4】抗GPVI Fabフラグメント(VL1とVH3)によるコラーゲン誘導血小板凝集の阻害を示す図である。
【図5A】FabとヒトGPVIタンパク質の細胞外ドメインとの相互作用を示す結晶学データを示す図である。GPVIタンパク質のD2ドメインとFabとの相互作用を示す。
【図5B】FabとヒトGPVIタンパク質の細胞外ドメインとの相互作用を示す結晶学データを示す図である。GPVIタンパク質のD1ドメインとFabとの相互作用を示す。
【図5C】FabとヒトGPVIタンパク質の細胞外ドメインとの相互作用を示す結晶学データを示す図である。GPVIタンパク質のD1−D2ドメインとFabとの相互作用をします。
【図6】コラーゲン誘導全血凝集における抗GPVI Fabフラグメントの阻害活性についてのIC50曲線の例を示す図である。
【図7A】抗GPVI−Fabフラグメントによる血流下での血栓形成の阻害の例を示す図である。未処置の画像を示す。
【図7B】抗GPVI−Fabフラグメントによる血流下での血栓形成の阻害の例を示す図である。Fab390−nG(5μm/ml)の画像を示す。
【図7C】抗GPVI−Fabフラグメントによる血流下での血栓形成の阻害の例を示す図である。Fab390−nG(10μm/ml)の画像を示す。
【図7D】抗GPVI−Fabフラグメントによる血流下での血栓形成の阻害の例を示す図である。未処置の画像を示す。
【図7E】抗GPVI−Fabフラグメントによる血流下での血栓形成の阻害の例を示す図である。VL1/H3(5μm/ml)の画像を示す。
【図7F】抗GPVI−Fabフラグメントによる血流下での血栓形成の阻害の例を示す図である。VL1/H3(10μm/ml)の画像を示す。
【図8】抗GPVI FabがGPVI表面発現の低減を濃度依存的様式で生じさせることを示す図である。
【図9】抗GPVI Fabが有意なGPVI枯渇を時間依存的様式で生じさせることを示す図である。
【図10A】エクスビボ全血血小板凝集に対する抗GPVI Fabの効果を示す図である(アゴニスト:1μg/mL)。1mg/kg IVボーラス投与後を示す。
【図10B】エクスビボ全血血小板凝集に対する抗GPVI Fabの効果を示す図である(アゴニスト:1μg/mL)。3mg/kg IVボーラス投与後を示す。
【図11】全血血小板凝集アッセイにおける抗GPVI Fabのインビトロ活性を示す図である(アゴニスト:1μg/mL)。
【図12A】血小板数に対する抗GPVI FabのIVボーラス投与の効果を示す図である。3mL/kgでのPBSビヒクル後(対照)を示す。
【図12B】血小板数に対する抗GPVI FabのIVボーラス投与の効果を示す図である。0.01mg/kgの抗GPVI FAb後を示す。
【図12C】血小板数に対する抗GPVI FabのIVボーラス投与の効果を示す図である。0.1mg/kgの抗GPVI FAb後を示す。
【図12D】血小板数に対する抗GPVI FabのIVボーラス投与の効果を示す図である。1mg/kgの抗GPVI FAb後を示す。
【図12E】血小板数に対する抗GPVI FabのIVボーラス投与の効果を示す図である。3mg/kgの抗GPVI FAb後をします。
【図13A】抗GPVI Fabのiv投与後の血小板上でのGPVI受容体発現のFACS分析を示す図である。垂線が左側のGPVI陰性血小板と右側のGPVI陽性血小板とを区別する。投薬前を示す。
【図13B】抗GPVI Fabのiv投与後の血小板上でのGPVI受容体発現のFACS分析を示す図である。垂線が左側のGPVI陰性血小板と右側のGPVI陽性血小板とを区別する。投与後24時間の時点を示す。
【図13C】抗GPVI Fabのiv投与後の血小板上でのGPVI受容体発現のFACS分析を示す図である。垂線が左側のGPVI陰性血小板と右側のGPVI陽性血小板とを区別する。投与後48時間の時点を示す。
【図13D】抗GPVI Fabのiv投与後の血小板上でのGPVI受容体発現のFACS分析を示す図である。垂線が左側のGPVI陰性血小板と右側のGPVI陽性血小板とを区別する。投与後72時間の時点を示す。
【図13E】抗GPVI Fabのiv投与後の血小板上でのGPVI受容体発現のFACS分析を示す図である。垂線が左側のGPVI陰性血小板と右側のGPVI陽性血小板とを区別する。投与後150時間の時点を示す。
【図14】血小板活性化に対する抗GPVI Fabの効果を示す図である。対照パネルでは、コンブルキシンの添加。パネルAでは、IgG枯渇後のFabの添加。パネルBでは、修飾Fabの添加。
【図15】A−Fab対照;B−Fab−Hisタグ;C−FabGly4SerおよびFab−(Gly4Ser)2を示す図である。
【図16】(配列番号:32に対応する)20残基のシグナル配列が除去されたGPVIを示す図である。太字の残基は、抗体CDRと接触する配座エピトープを表す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
第一の態様において、本発明は、ヒトGPVIに特異的に結合する新規モノクローナル抗体および抗体のフラグメント、特に、ハイブリドーマクローン390からの抗GPVI mAbを提供する。本発明の抗体は、GPVIの活性に、完全にまたは部分的に拮抗する。
【0023】
本発明の第二の態様において、本発明者らは、Fabの重鎖(HC)のC末端先端部でのペプチドの付加が、一部の患者に既存する抗Fab抗体によるFab分子の認識を回避するマスキング効果を有すること、従って血小板活性化および随伴副作用を防止することを立証した。
【0024】
本明細書において用いる場合、「ハイブリドーマクローン390からのモノクローナル抗体」または「クローン390からのモノクローナル抗体」は、配列番号6および配列番号8によって定義される抗体ならびに抗体の誘導体(ヒト化抗体、Fabフラグメントおよびヒト化Fabフラグメントを含む。)またはとりわけ本出願に記載のこれらの分子の任意の改善バージョンを指す。
【0025】
用語「抗体」は、本明細書では最も広い意味で用いており、具体的には任意のアイソタイプのモノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む。)、例えばIgG、IgM、IgA、IgDおよびIgE、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体、キメラ抗体ならびに抗原結合フラグメントを包含する。特定の抗原と反応する抗体を、ファージもしくは類似のベクターにおける組換え抗体のライブラリの選択などの組換え法により、または抗原もしくは抗原コード核酸での動物の免疫処置により、産生させることができる。
【0026】
典型的なIgG抗体は、ジスルフィド結合によって連結されている2本の同一の重鎖と2本の同一の軽鎖から成る。各重および軽鎖は、定常領域および可変領域を含有する。各可変領域は、「相補性決定領域」(「CDR」)または「超可変領域」と呼ばれる3つのセグメントを含有し、主としてこれらが抗原のエピトープの結合に責任を負う。通常、これらは、N末端から逐次的に番号を付けて、CDR1、CDR2およびCDR3と呼ばれる。可変領域のより高度に保存される部分は、「フレームワーク領域」と呼ばれる。
【0027】
特別な実施形態において、本発明の抗体およびこれらのフラグメント(抗体Fabフラグメントを含む。)は、配列番号:18、配列番号:19、配列番号:20、配列番号:21、配列番号:22および配列番号:23によって定義される6つのCDRを含む。
【0028】
もう1つの実施形態において、本発明の抗体およびこれらのフラグメント(抗体Fabフラグメントを含む。)は、配列番号:18、配列番号:19、配列番号:38、配列番号:21、配列番号:39および配列番号:23によって定義される6つのCDRを含む。もう1つの特別な態様において、本発明のFabフラグメントは、
(a)配列番号:18、配列番号:19および配列番号:20(または配列番号:38)によって定義されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(HCVR)の相補性決定領域(CDR)と、
(b)配列番号:21、配列番号:22(または配列番号:39)および配列番号:23によって定義されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)の相補性決定領域(CDR)と
を含み、
GPVIエピトープ残基との接触を直接分断することなく各CDRの少なくとも2つのアミノ酸残基を別のアミノ酸残基に変更することができる。
【0029】
本明細書において用いる場合、「GPVIエピトープ残基との接触を直接分断すること」は、GPVIエピトープ残基と接触しているおよび本明細書の中で与える例の結晶構造で説明される抗体アミノ酸残基を変更することを指す。
【0030】
本明細書において用いる場合、「VH」は、Fv、scFv、dsFv、Fab、Fab’またはF(ab’)2フラグメントの重鎖を含めて、抗体の免疫グロブリン重鎖の可変領域を指す。「VL」への参照は、Fv、scFv、dsFv、Fab、Fab’またはF(ab’)2フラグメントの軽鎖を含めて、抗体の免疫グロブリン軽鎖の可変領域を指す。
【0031】
「ポリクローナル抗体」は、1つ以上の他の非同一抗体の中でまたは存在下で生産される抗体である。一般に、ポリクローナル抗体は、あるBリンパ球から、非同一抗体を生産する幾つかの別のBリンパ球の存在下で生産される。通常、ポリクローナル抗体は、免疫処置された動物から直接得られる。
【0032】
「モノクローナル抗体」は、本明細書において用いる場合、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指す。即ち、この集団を構成する抗体は、少量で存在することがある自然に発生し得る突然変異を除き、本質的に同一である。これらの抗体は、単一エピトープに対するものであり、従って高特異性である。
【0033】
本明細書において用いる場合、抗体の「抗原結合部分」という用語、抗体の「抗原結合フラグメント」という用語、およびこれらに類する用語は、抗原に特異的に結合して複合体を形成する任意の自然に存在する、酵素的に得ることができる、合成のまたは遺伝子改変されたポリペプチドまたは糖タンパク質を含む。抗体の抗原結合フラグメントは、例えば、完全抗体分子から、任意の適する標準的な技術、例えばタンパク質分解消化または組換え遺伝子改変技術(抗体可変および場合により定常ドメインをコードするDNAの操作および発現を含む。)を用いて誘導することができる。抗原結合フラグメントの非限定的な例としては、(i)Fabフラグメント;(ii)F(ab’)フラグメント;(iii)Fdフラグメント;(iv)Fvフラグメント;(v)一本鎖Fv(scFv)分子;(vi)dAbフラグメント;および(vii)抗体の超可変領域を模倣するアミノ酸残基から成る最小認識ユニット(例えば、単離された相補性決定領域(CDR))が挙げられる。他の改変分子、例えば、ダイアボディー、トリアボディー、テトラボディーおよびミニボディーも、本明細書において用いる場合、「抗原結合フラグメント」という表現に包含される。
【0034】
本明細書において用いる場合、用語「Fabフラグメント」は、抗体の重鎖(HC)の一部を加えた軽鎖(LC)に相当する。Fab分子は、タンパク質分解切断によって生産されるか、組換え分子の発現によって作られる。通常、重鎖の定常ドメインの部分(Fc部分)は除去される。
【0035】
本明細書において用いる場合、用語「マスクされたFabフラグメント」または「マスクされたFab」は、抗体の重鎖(HC)の一部に加えて軽鎖(LC)を含有するFabフラグメントであって、患者に既存する抗体によるFabの認識をマスクするためにHCのC末端がペプチドによって伸長されたFabフラグメントに相当する。
【0036】
本発明の抗体は、細胞外D1およびD2ドメインのみを含有するヒト組換えGPVIタンパク質を使用するマウス免疫処置技術によるハイブリドーマの産生によって得た。免疫処置に用いたタンパク質の配列は、配列番号3および配列番号4に対応する。
【0037】
得られたmAbを、ヒトGPVIタンパク質を認識するこれらの能力について先ず選択したが、ヒトGPVIタンパク質へのコラーゲンの結合を遮断するおよび高い親和性でGPVIタンパク質を結合するこれらの性能についても選択した。
【0038】
抗体は霊長類GPVIに対して交差反応性を示す(図2に示すとおりである。)が、マウス、ラット、イヌ、ブタまたはウサギGPVIに対する交差反応性は存在しない。
【0039】
選択されたmAbは、pM親和性でヒトGPVIタンパク質に結合することができ(表1に示すとおりである。)、および10μg/mL未満のIC50値でヒトGPVIタンパク質へのコラーゲン結合を遮断することができる(図1Aに示すとおりである。)。この抗体は、非ヒト霊長類GPVIへのコラーゲン結合も遮断することができる(図1Bに示すとおりである。)。
【0040】
もう1つの態様において、本発明は、クローン390からの抗GPVI mAbの可変ドメイン配列から誘導される組換えFabフラグメントに関する。Fabフラグメントを当技術分野において公知の任意の方法によって作製することができる。例えば、タンパク質分解性Fabフラグメントをフィチン切断によって得ることができ、または組換えFabフラグメントを必要配列の発現ベクターへのクローニングによって調製することができる(例えば、実施例3Bにおいて説明するとおりである。)。抗GPVI mAbと同様に、これらのFabフラグメントは、GPVIへのコラーゲン結合を阻害することができる。
【0041】
FabフラグメントをGPVIと共結晶化し、X線結晶学によって分析して、GPVIタンパク質上のFabによって認識されるエピトープを決定した。この分析により、ヒトGPVIの細胞外ドメイン内のD1ドメインとD2ドメインの両方を含む配座エピトープを定義することができた。エピトープにおいて用いた番号付けシステムは、20残基のシグナル配列を除去したGPVIに対応し、図16および配列番号:32に示すとおりである。
【0042】
本発明の1つの態様において、ヒトGPVIの配座エピトープを特異的に結合する、ならびにSer43、Arg67およびAsp81を含むヒトGPVI残基と接触する、単離された抗体または抗原結合フラグメント。本発明のもう1つの態様において、抗体または抗原結合フラグメントは、Pro4、Lys7、Glu40、Lys41、Leu42、Ser44、Ser45、Arg46、Arg65、Trp76、Leu78、Pro79、Ser80、Gln82、Ser165およびArg166から選択される2つ以上のGPVI残基とさらに接触する。本発明のもう1つの態様において、前記抗体および抗原結合フラグメントは、Pro4、Lys7、Glu40、Lys41、Leu42、Ser44、Ser45、Arg46、Arg65、Trp76、Leu78、Pro79、Ser80、Gln82、Ser165およびArg166から選択される3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上、12以上、13以上、14以上、15以上のGPVI残基とさらに接触する。
【0043】
本明細書において用いる場合、「接触残基」は、ソフトウェアプログラム、例えばCCP4 SoftwareパッケージのNCONTまたは等価のソフトウェアプログラムを使用してGPVI抗原残基へのまたはその逆の距離がおよび結晶構造に関して測定する場合にはGPVIに対する抗体または抗体の抗原結合フラグメントとGPVI抗原との間の距離が4.5A未満である残基と定義する。
【0044】
1つの実施形態において、抗体Fabフラグメントは、ヒトGPVIの配座エピトープを結合し、ならびにSer43、Arg67およびAsp81を含むヒトGPVI残基と接触する。
【0045】
もう1つの実施形態において、抗体Fabフラグメントは、ヒトGPVIの配座エピトープを結合し、および
Pro4、Lys7、Glu40、Lys41、Leu42、Ser43、Ser44、Ser45、Arg46、Arg65、Arg67、Trp76、Leu78、Pro79、Ser80、Asp81、Gln82、Ser165、Arg166
を含むヒトGPVI残基と接触する。
【0046】
本発明のmAbは、Fabフラグメントがクローン390からの抗GPVI mAbの可変ドメイン配列を含有するので、同じ配座エピトープを認識する。
【0047】
従って、もう1つの態様において、本発明は、ヒトGPVIタンパク質の細胞外D1およびD2ドメイン内に含まれる配座エピトープを認識する、Fabフラグメントを含む抗GPVI抗体を提供する。
【0048】
従って、もう1つの態様において、本発明は、次のアミノ酸:
Glu40、Lys41、Leu42、Ser43、Ser44、Ser45、Arg46
を含む配座エピトープを認識するモノクローナル抗GPVI抗体を提供する。
【0049】
もう1つの態様において、本発明は、次のアミノ酸:
Trp76、Leu78、Pro79、Ser80、Asp81、Gln82
を含む配座エピトープを認識する抗GPVI抗体を提供する。
【0050】
もう1つの実施形態において、抗GPVI抗体は、次のアミノ酸:
Glu40、Lys41、Leu42、Ser43、Ser44、Ser45、Arg46、Trp76、Leu78、Pro79、Ser80、Asp81、Gln82
を含む配座エピトープを認識する。
【0051】
もう1つの実施形態において、抗GPVI抗体は、次のアミノ酸:
Pro4、Lys7、Glu40、Lys41、Leu42、Ser43、Ser44、Ser45、Arg46、Arg65、Arg67、Trp76、Leu78、Pro79、Ser80、Asp81、Gln82、Ser165、Arg166
を含む配座エピトープを認識する。
【0052】
もう1つの実施形態において、抗GPVI抗体は、次のアミノ酸:
Pro4、Lys7、Glu40、Lys41、Leu42、Ser43、Ser44、Ser45、Arg46、Arg65、Arg67、Trp76、Leu78、Pro79、Ser80、Asp81、Gln82、Ser165、Arg166
を含む配座エピトープを認識する。
【0053】
特別な実施形態において、本発明の抗体Fabフラグメントは、主として、ヒトGPVIのD1ドメインを含む。
【0054】
本発明の抗体は、(i)配列番号6のHCと配列番号8のLCとを含む抗体のヒトGPVIへの結合を競合的に阻害するおよび(ii)配列番号6のHCと配列番号8のLCとを含む抗体によって認識される配座エピトープに類似したエピトープまたはこの配座エピトープの一部に、例えば表面プラズモン共鳴(Karlsson R,Larsson A.(2004),J.Mol.Biol.248,389−415に記載されているBiacore)のような生物物理学的方法によって判定して少なくとも10nMの親和性(KD≦10−8M)で結合する、モノクローナル抗GPVI抗体と定義することができる。
【0055】
本明細書において用いる場合、用語「K」は、特定の抗体/抗原相互作用の解離定数を指す。
【0056】
ヒトGPVIタンパク質と本発明の抗体およびFabとの相互作用を表すKは、[10−7;10−10]区間に含まれる。ヒトGPVIに特異的な抗体は、K=10−7M、好ましくはK=10−8M、さらに好ましくはK=10−9Mを呈する。最高の親和性を有する抗体は、K=10−10M以下、例えば10−11Mまたは10−12Mを有し得る。用語「特異的に結合する」またはこれらに類する用語は、抗体または抗体の抗原結合フラグメントが、生理条件下で比較的安定しているGPVI抗原との複合体を形成することを意味する。特異的結合は、1×10−6M以下の解離定数を特徴とし得る。2つの分子が特異的に結合するかどうかを判定するための方法は当技術分野において周知であり、例えば、平衡透析、実施例2および3におけるような表面プラズモン共鳴、ならびにこれらに類するものを含む。例えば、本発明に関連して用いる場合、ヒトGPVIを「特異的に結合する」抗体は、例えば表面プラズモン共鳴アッセイで測定される約1000nM未満、約500nM未満、約300nM未満、約200nM未満、約100nM未満、約90nM未満、約80nM未満、約70nM未満、約60nM未満、約50nM未満、約40nM未満、約30nM未満、約20nM未満、約10nM未満、約5nM未満、約4nM未満、約3nM未満、約2nM未満、約1nM未満または約0.5nM未満のKでヒトGPVIまたはヒトGPVIの一部分を結合する抗体を含む。
【0057】
「エピトープ」は、抗体が結合する抗原の部位である。抗原が高分子、例えばタンパク質または多糖類である場合、エピトープは連続残基により構成されることもあり、または抗原性高分子の折りたたみによって極めて近接させられた非連続残基により構成されることもある。タンパク質の場合、連続アミノ酸によって構成されるエピトープは、変性溶媒への曝露時に概して保持され、「線形エピトープ」として公知であり、これに対して非連続アミノ酸によって構成されるエピトープは、前記曝露下で概して失われ、「配座エピトープ」として公知である。
【0058】
本明細書において用いる場合、用語「類似エピトープ」は、クローン390から誘導される抗体とヒトGPVIタンパク質の細胞外ドメインとの相互作用に物理的に関与すると結晶分析によって説明されるアミノ酸のような、同じ領域に位置する1セットのアミノ酸に関する。類似エピトープは、例えば、基準となるエピトープの付近に5以下のアミノ酸の相違のような、幾つかの相違を含む場合がある。類似エピトープは、エピトープを構成すると同定されたアミノ酸、即ちGPVIタンパク質と相互作用するアミノ酸に1つ以上の修飾を呈する場合もある。基準となるエピトープの一部と同定された1つ以上のアミノ酸が不在であることがあり、1つ以上の追加のアミノ酸残基が存在して類似エピトープを構成することもある。例えば、ハイブリドーマクローン390からの抗体と比較して抗体の特性に影響を及ぼさずに5つ以下のアミノ酸を変更することができる。従って、1つの特定の抗体についてのエピトープが位置する領域は、多少の、ことによると追加の相互作用性アミノ酸を含む。この観点で、類似エピトープは、「基準となる抗体と競合的に結合するための領域」と定義することができる。中和抗体がこのような領域に結合すると、受容体の1つ以上の細胞シグナル伝達経路が阻害されて、標的受容体またはより一般的には有効タンパク質の1つ以上の生物学的機能が特異的に損なわれることとなる。
【0059】
「中和」または「遮断」抗体は、本明細書において用いる場合、GPVIへの結合が、(i)GPVIとコラーゲンとの相互作用に干渉する、(ii)および/または(iv)GPVIの少なくとも1つの生物学的機能を阻害する結果となる抗体を指すことを意図したものである。GPVI中和または遮断抗体に起因する阻害は、適切なアッセイを用いて検出可能である限り、完全である必要はない。GPVI阻害を検出するための例示的なアッセイは、本明細書の中で説明する。
【0060】
特定の生物活性に関連づけられるタンパク質中の局所領域の存在は、例えば特許US6,448,380において例証されている。
【0061】
クローン390から誘導される抗体のような類似エピトープを認識する抗体は、GPVI−Fc融合タンパク質を捕捉抗体として使用する競合的ELISAアッセイによって選択することができる。GPVI−Fc融合タンパク質で被覆されたプレートをハイブリドーマ上清と共にまたはクローン390から誘導された抗体もしくは抗原結合フラグメントと共にインキュベートする。エピトープ遮断GPVIへの(任意の標準的技術によって標識された)様々な抗GPVI抗体の結合の欠如は、類似エピトープの認識を示す。等価の選択戦略を競合的Biaore分析によって遂行することができ、この場合、GPVIを固定し、クローン390から誘導された抗体(フラグメント)を使用してエピトープを遮断する。他のGPVI結合抗体候補を、現在、エピトープ遮断GPVIへの結合について分析している。例えば、本発明の抗体によって認識されるエピトープのような類似エピトープを認識する抗体を選択し、X線分析を用いる共結晶構造の分析によってさらに特性付けることができる。
【0062】
本発明は、ヒト化および改変抗GPVI抗体および抗体のフラグメントにも関する。
【0063】
本発明に関連して、抗GPVI Fabフラグメントは、以前にWO2009/032661に記載れた方法を用いてヒト化されているが、当該技術分野において公知の任意のヒト化方法を用いることができる。
【0064】
FabとGPVIの結晶学的複合体の分析に基づき、ヒト化のため、およびヒトGPVIへのFabの親和性を改善する目的、両方で、幾つかの突然変異を導入した。
【0065】
結果として、LCについて3つの変異体およびHCについて5つの変異体を生成した。これらのFab変異体をLC(VL)およびHC(VH)についてそれぞれ表6および表7にまとめる。
【0066】
すべての可能な組み合わせの中で、本発明は、特に、以下の組み合わせに関する:
配列番号15および配列番号10にそれぞれ対応するVL1とVH1
配列番号15および配列番号11にそれぞれ対応するVL1とVH2
配列番号15および配列番号12にそれぞれ対応するVL1とVH3
配列番号15および配列番号13にそれぞれ対応するVL1とVH4
配列番号15および配列番号14にそれぞれ対応するVL1とVH5
配列番号16および配列番号11にそれぞれ対応するVL2とVH2
配列番号17および配列番号11にそれぞれ対応するVL3とVH2
配列番号17および配列番号13にそれぞれ対応するVL3とVH4。
【0067】
好ましい実施形態において、抗GPVI Fabのヒト化変異体は、配列番号15と配列番号12に対応するVL1とVH3の会合である。
【0068】
本発明の1つの態様では、抗GPVI抗体のVHをタグまたはアミノ酸伸長部(ペプチド)の付加によりさらに修飾して、抗体が既存抗体によって認識されないようにマスクすることができる。ヒスチジン残基6以上の配列、特に(His)もしくは(His)もしくは(His)、またはGlyGlyGlyGlySerもしくは(GlyGlyGlyGlySer)などのユニットを重鎖のC末端に付加させることができる。
【0069】
本明細書において用いる場合、「改変Fabフラグメント」は、重鎖のペプチド伸長部をc末端に含有するように遺伝子改変されたFabフラグメントを指す。この伸長部は、以前のc末端が覆い隠される原因となり、ならびにFabフラグメントの認識および既存抗Fab抗体への結合を防止する。
【0070】
本発明のもう1つの実施形態では、ヒト化重鎖(HC)アミノ酸配列とヒト化軽鎖(LC)アミノ酸配列とc末端伸長部との組み合わせを含む改変Fabフラグメントを提供する。この改変Fabフラグメントは、
(a)LCVR(配列番号15)とHCVR(配列番号10);
(b)LCVR(配列番号15)とHCVR(配列番号11);
(c)LCVR(配列番号15)とHCVR(配列番号12);
(d)LCVR(配列番号15)とHCVR(配列番号13);
(e)LCVR(配列番号15)とHCVR(配列番号14);
(f)LCVR(配列番号16)とHCVR(配列番号11);
(g)LCVR(配列番号17)とHCVR(配列番号11);および
(h)LCVR(配列番号17)とHCVR(配列番号13)
から成る群から選択される、重鎖可変領域(HCVR)アミノ酸配列と軽鎖可変領域(LCVR)アミノ酸配列の組み合わせをさらに含み、この場合、c末端伸長部は、配列番号:35、配列番号:36および配列番号:37から成る群から選択される。
【0071】
特別な実施形態において、本発明は、配列番号6のHCおよび配列番号8のLCを含むモノクローナル抗体、またはこれらの配列との少なくとも80%、85%、90%、95%もしくは99%の同一性を有するが前記モノクローナル抗体と同じ活性を保持するモノクローナル抗体に関する。
【0072】
さらに特別な実施形態において、本発明の抗体Fabフラグメントは、(a)配列番号:6によって定義されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域;および(b)配列番号:8によって定義されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域を含む。
【0073】
本発明は、本発明の抗GPVI抗体およびFabをコードする核酸にも関する。1つの実施形態において、核酸分子は、抗GPVI抗体のHCおよび/またはLCをコードする。好ましい実施形態では、単一の核酸が抗GPVI抗体のHCをコードし、および別の核酸分子が抗GPVI抗体のLCをコードする。
【0074】
特別な実施形態において、ハイブリドーマ390からの抗体からのHCおよびLCのポリペプチドをコードする核酸またはポリヌクレオチドは、配列番号5および配列番号7にそれぞれ対応し、またはこれらの配列との少なくとも80%、85%、90%、95%もしくは99%の同一性を有するが前記モノクローナル抗体と同じ活性を保持する配列に対応する。
【0075】
配列番号6、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16および配列番号17に存する群から選択されるポリペプチドをコードするまたはこれらの配列との少なくとも80%、85%、90%、95%もしくは99%の同一性を有するが前記モノクローナル抗体と同じ活性を保持する配列をコードするポリヌクレオチドも本発明の一部である。
【0076】
本発明は、本発明のポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。1つの実施形態において、ベクターは、抗GPVI抗体のHCをコードするポリヌクレオチドを含有する。もう1つの実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、抗GPVI抗体のLCをコードする。本発明は、融合タンパク質、修飾抗体、抗体フラグメントおよびこれらのプローブをコードするポリヌクレオチド分子を含むベクターも提供する。
【0077】
本発明のベクターは、配列番号5もしくは配列番号7のポリヌクレオチド、または配列番号6、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16および配列番号17に存する群から選択されるポリペプチドをコードするまたはこれらの配列との少なくとも80%、85%、90%、95%もしくは99%の同一性を有するが前記モノクローナル抗体と同じ活性を保持する配列をコードする任意のポリヌクレオチドを含有する。
【0078】
本発明の抗GPVI抗体またはFabのHC、HCのフラグメントおよび/またはLCを発現させるために、前記HCおよび/またはLCをコードするポリヌクレオチドを発現ベクターに、遺伝子が転写および翻訳配列に作動可能に連結されるように挿入する。発現ベクターは、プラスミド、YAC、コスミド、レトロウイルス、EBV由来エピソーム、ならびに前記重鎖および/または軽鎖を確実に発現させるために適便であることが当業者に公知であるすべての他のベクターを含む。HC/またはHCフラグメントおよびLCをコードするポリヌクレオチドを異なるベクターにまたは同じベクターでクローニングできることは、当業者にはわかるであろう。好ましい実施形態では、前記ポリヌクレオチドを同じベクターでクローニングする。
【0079】
本発明のポリヌクレオチド、およびこれらの分子を含むベクターを、適する哺乳動物または微生物宿主細胞の形質転換に使用することができる。形質転換は、ポリヌクレオチドを細胞宿主に導入するための任意の公知の方法によるものであり得る。このような方法は当業者に周知であり、デキストラン媒介形質転換、リン酸カルシウム沈降法、ポリブレン媒介トランスフェクション、プロトプラスト融合、エレクトロポレーション、ポリヌクレオチドのリポソームへのカプセル化、バイオリスティックインジェクションおよびDNAの核への直接マイクロインジェクションを含む。
【0080】
本発明のヒト化および改変変異体は、GPVI経路活性に拮抗するように十分に機能できる。特に、これらはGPVIへのコラーゲンの結合を阻害することができる。これらは、ヒト多血小板血漿およびヒト全血の両方においてコラーゲンにより誘導される血小板凝集を阻害することもできる。さらに、これらは、血流下でコラーゲン被覆表面での血栓形成を阻害することもできる。
【0081】
本発明の抗GPVI FabフラグメントのGPVIへの結合は、血小板表面でのGPVI枯渇表現型の発生を特徴とする。この発生は、抗GPVI Fabフラグメントについての新しい予想外の作用メカニズムである。本明細書で説明するFabフラグメントのこのユニークな特性を、これらの分子が標的にする新たなエピトープによって判定することができる。
【0082】
本明細書において用いる場合、「GPVI枯渇表現型」は、抗体または抗原結合フラグメントが血小板の表面のGPVI受容体分子に結合したときに結果として生ずる細胞状態を指し、血小板上のGPVI経路の活性化を防止する。このGPVI枯渇表現型は、次の2つの異なるメカニズムに依存し得る:(i)GPVI受容体が細胞表面から除去もしくは枯渇される、または(ii)抗体もしくは抗原結合フラグメントが不可逆的にGPVI受容体分子に結合して、受容体の阻害が細胞の寿命にわたって維持される。この表現型は、いずれの状況においても血小板の再生がなければ元に戻らない。
【0083】
これらの抗GPVI FabフラグメントがGPVI枯渇表現型を誘導するという事実は、効力に関して2つの利点をもたらす:
i)受容体放出がこのメカニズムの少なくとも一部である場合、この過程は、一般にGPVIへのFab結合に依存しない。このことは、Fabによる細胞表面GPVIの小部分(例えば30%)の占有が放出を誘導する場合、この放出過程が、Fabによって占有されたGPVI受容体の30%に限定されず、遊離GPVIにも及ぶことを意味する。このことは、有意に少ないFabで(枯渇により)GPVI遮断100%を達成できることを含意する。
【0084】
ii)阻害効果が長期効果を有する:Fabフラグメントがおおよそ1−2時間という非常に短い血漿半減期を有することは公知であり、この短い血漿半減期は、標的の長期持続阻害を必要とする幾つかの適応症には問題であり得る。受容体枯渇または不可逆的占有の本記載メカニズムでは、(薬力学特性に基づく)効果の持続がFabの薬物動態特性から切り離されることとなる。切り離されるのは、枯渇または不可逆的阻害が一旦誘導されると、作用を受けた受容体を血小板が置換できないからである。従って、これらの受容体は、血小板の寿命にわたって不在または利用できないままである。このことは、血小板の寿命に依存して、数日(ヒト血小板については10日)の作用持続の延長に相当する。
【0085】
これらの特性すべてが、本発明のFabが血栓性疾患および血管疾患の治療の適する候補であることを明示している。
【0086】
抗体に基づく生物学の重要な標的クラスは、モノクローナル抗体によって高い特性で遮断され得る膜受容体である。IgG形式の完全長抗体は、抗体のFv部分によって抗体の標的を結合し、遮断もする。Fc部分はこれらの分子にさらに機能性を加え、この結果、抗体由来細胞傷害性(ADCC)または補体依存性細胞傷害性(CDC)となる。これらの活性は、とりわけ腫瘍学用途にはmAb作用機序(MoA)の重要な部分であることが多い。しかし、他の利用分野では、ADCC/CDC活性は、最小にする必要があり、または必要でない。従って、Fab分子などのFc部分分を欠く多数の抗体フラグメントが望ましい。
【0087】
一価抗体フラグメントの開発のもう1つの理由は、標的生物学に由来する。多くの膜受容体は、受容体クラスター化後にシグナル伝達を開始する(例えばGPVI)。このような受容体を遮断すべき場合、当然の形式として一価抗体フラグメントが選ばれる。
【0088】
Fabフラグメントなどの抗体フラグメントは、多くの臨床用途にとって全抗体よりはるかに適する形式である。この利点は、Fabフラグメントを全抗体と区別するFabフラグメントの幾つかのユニークな特性、特に、
一価:分子の架橋を回避すべき場合に求められる
Fcドメイン欠如:Fc機能が必要とされないまたは望ましくない場合に求められる
より低い分子量:薬物動態的および薬力学的挙動ならびに組織分布を決定する
に依存する。患者への投与後に抗体Fabフラグメントのこれらの望ましい特性を維持するために、Fabフラグメントと非標的分子との相互作用を回避すべきである。
【0089】
前に述べたように、Fabフラグメントは、IgG分子の重鎖の定常ドメイン(Fc部分)の欠失によって得られる。残念なことに、Fcの除去は、新たなC末端(またはC末端)ペプチド、即ちネオエピトープを露出させる。FabフラグメントのC末端先端部と特異的に相互作用することができるタンパク質の特定のクラスがヒトに関して報告されており、Fabなどの抗体フラグメントに対して既存抗体として識別されている(Kormeier et al.(1968)J.Immunol.100(3);612−21;Persselin and Stevens(1985)J.Clin.Invest.76;723−30)。これらの既存抗体は、人生の早期に形成されており、患者依存性である。モノクローナル抗体および抗体フラグメントの新規治療薬としての開発に伴い、既存抗Fab抗体の存在は、上で述べた理由のため治療用Fab分子の利用を制限し、複雑にする。
【0090】
加えて、FabのC末端先端部は、以前に記載されているように抗体の産生に好ましいエピトープである(Christopoulos C.,et al 1994)。しかし、患者がC末端に対する既存抗体を有さないまたは少量有する場合でさえ、このエピトープに対する新たな抗体の産生が治療用Fabの投与後に発生することもあり、従って既存抗体に関して説明した制限と同じ制限を招くことがある。
【0091】
実際、Fab C末端エピトープに対する既存抗体または新たな抗体による治療用Fab分子の結合は、これらの分子の薬物動態的および薬力学的挙動を変化させる場合があり(例えば、一価分子から二価分子への変化に基づく阻害ではなく受容体活性化)、新たな複合体および機能を生じさせる場合があり(例えば、すべてのこのエフェクター機能を有する抗体Fc部分の付加)、複合体のサイズを変え、組織分布に影響を及ぼすこともある。従って、この現象は、有意な安全性および効力のリスクを表し、このリスクを回避する必要がある。
【0092】
このような制限を回避するために、抗Fab抗体によって認識されるネオエピトープを、抗GPVI Fab分子について今般説明するようにFabのC末端部に分子を付加させることによってマスクすることができる。この原理は、標的生物学が二価分子の使用を妨ぐことができ(例えば、クラスター化による受容体活性化の場合)、従って一価分子の利用を厳密に必要とするすべての治療用抗体フラグメントの開発に不可欠である。
【0093】
従って、すべての患者にとって最も安全な治療を可能にするために、ならびに患者特異的な薬物動態的および薬力学的変動性を回避するために、Fabフラグメントに対する既存するまたは新たに産生される抗体により認識され得る、C末端先端部に作られるFab特異的ネオエピトープをマスクするように、Fab分子を修飾すべきである。
【0094】
本発明は、分子がC末端に付加されたFabフラグメントに関する。この分子は、エピトープをマスクすることができるが標的へのFabの結合に干渉しない、ペプチドまたは任意の他の種類の分子であり得る。
【0095】
特別な実施形態において、Fabフラグメントのネオエピトープをマスクすることができる前記分子は、1から100のアミノ酸、1から50のアミノ酸、1から20のアミノ酸、1から15のアミノ酸または1から10のアミノ酸を含み得るペプチドである。
【0096】
例えば、Hisタグ、G4Sまたは(G4S)2ストレッチペプチドは、適切な分子を構成する。
【0097】
もう1つの態様において、本発明は、重鎖のC末端先端部に分子を有するFabに関する。
【0098】
特別な実施形態において、C末端先端部に分子を有するFabフラグメントは、GPVIを特異的に認識する。好ましい実施形態において、このFabフラグメントは、前に説明したものの中から選択される。
【0099】
特別な実施形態において、Fab重鎖の配列は、配列番号29または配列番号30または配列番号31を含む配列に対応する。
【0100】
もう1つの実施形態において、Fab重鎖の配列は、配列番号29または配列番号30または配列番号31に存する配列に対応する。
【0101】
本発明は、C末端先端部に対する既存抗体または新たな抗体によるFabフラグメントの認識を防止する方法にも関し、この方法は、分子の付加によりC末端部をマスクすることに存する。つまり、この分子によりFab−抗体複合体の望ましくない生成を防止することができる。
【0102】
本発明は、抗GPVI Fabを使用するときの血小板活性化の防止方法にも関し、この方法は、分子の付加によりFabのC末端先端部をマスクすることに存する。
【0103】
もう1つの態様において、本発明は、C末端先端部に分子を有する修飾Fabの調製方法に関し、この方法は、
a.FabのC末端先端部への分子の付加
b.細菌、酵母または哺乳動物細胞系を含めて適切な系における修飾Fabの生産
c.修飾Fabの精製
の工程を含む。生産されたFabを適切な溶液中でさらに調合することができる。
【0104】
もう1つの態様において、本発明は、例えば急性冠症候群、経皮的冠介入、虚血性脳卒中、頸動脈狭窄または末梢動脈閉塞性疾患のような一定の臨床適応症の治療において血栓性事象を予防するための抗GPVI抗体、特に、本発明において説明するとおりのFabフラグメントの使用に存する。さらに、本抗体を再狭窄およびアテローム性動脈硬化症の予防に使用することもできる。
【0105】
本発明は、本発明の抗GPVI抗体、および特にFabフラグメントと適切な賦形剤を含有する組成物にも関する。この組成物を使用して、血栓性疾患および血管疾患を治療することができる。
【0106】
もう1つの態様において、本発明は、本発明による抗体の製造方法に関する。
【0107】
本発明のもう1つの態様では、抗体をGPVI発現変化の診断に使用することができる。血小板表面でのGPVIの発現の変化ならびに血漿中の可溶性GPVI(GPVIの切断された細胞外ドメイン)の存在および濃度の変化を急性冠症候群、一過性脳虚血発作または一過性虚血性脳卒中などの病態生理学的状態に十分に関連づけることができることは記載されている(Bigalke B,et al.,Eur J Neurol.,2009 Jul 21;Bigalke B.et al.,Semin Thromb Hemost.2007 Mar;33(2):179−84)。
【0108】
従って、これらのパラメータの測定値は、抗血栓治療を必要とするおよび抗GPVI治療に対してことによると特に感受性が強い、上述の状態についてのリスクのある患者を特定するために用いることができる。従って、本明細書で説明する抗体および抗体フラグメントは、診断ツールとして使用することができ、ならびに血小板表面のおよび血漿試料中のGPVIの存在および定量的変化を判定する診断キットの構成要素であり得る。
【0109】
抗体および抗体のフラグメントを、抗血栓症治療の恩恵を受け得るリスクのある患者を診断するために、使用することができる。
【0110】
患者のGPVI変化を診断するためのこのような方法は、(i)前記患者の血小板または血漿試料と本発明の抗体または抗体のフラグメントとを接触させる段階、(ii)前記試料中に存在する細胞への前記抗体またはFabの結合を測定する段階、および(iii)段階(ii)において測定された結合と健常な対照被検者または標準物質のものとを比較する段階を含み得る。本発明は、本発明の抗体または抗体のフラグメントを含む、ヒトGPVI発現の変化の検出のための診断キットも包含する。特別な実施形態では、本発明のキットをELISAアッセイキットとして提供することができる。
【0111】
本発明のもう1つの態様では、本発明のマスクしたFabまたは他の抗体のいずれかの投与前に抗Fab抗体の存在について患者をスクリーニングする。
【0112】
本発明は、本発明の抗GPVI抗体またはFabフラグメントの調製方法も提供し、この方法は、
a.本発明の1つのHCまたはHCフラグメントおよび1つのLCをコードするDNA配列を含有する細胞系の培養
b.培養基において発現された抗体またはFabの精製
c.適便な形態での抗体の調合
の工程を含む。
【0113】
免疫グロブリンを生産することができる任意の発現細胞系を使用して、本発明の抗体を発現させることができる。哺乳動物に由来する発現細胞系を使用することができ、例えば酵母細胞(A.H.Horwitz,et al PNAS.1988 Nov;85(22):8678−82)または細菌細胞(Chiba Y,Jigami Y.Curr Opin Chem Biol.2007 Dec;11(6):670−6)のような任意の他の発現系を使用することもできる。
【0114】
抗体の精製は、例については当業者に公知の任意の方法によって、実現することができる。
【0115】
抗体の調合は、このような抗体の所期の用途に依存する。用途、例えば医薬用途、獣医学または診断用途に依存して、抗体を凍結乾燥させることがあり、させないことがあり、適切な溶液に可溶化させることがある。
【0116】
この一般的な説明および以下の詳細な説明が単に例示的および説明的なものであり、本発明を限定するものではないことに留意されたい。本明細書に含める図面は、本発明の原理を説明することを意図した本発明の幾つかの実施形態を図示するものである。
【実施例】
【0117】
[実施例1]
GPVIの組換え細胞外D1およびD2ドメインの生成
A hGPVI−hFc融合発現プラスミド(hGPVI−hFc)の構築
ヒトcDNA含有プラスミドをPCRテンプレートとして使用して、ヒト免疫グロブリンIgGのヒンジ領域、CH2およびCH3ドメインを含む237アミノ酸残基重鎖定常領域をコードするDNAフラグメントを増幅させた。ヒトゲノムDNAをPCRテンプレートして使用して、205アミノ酸残基ヒトGPVI D1およびD2細胞外ドメインをコードするDNAフラグメントを増幅した。このヒトGPVI D1およびD2フラグメントはシグナル配列を含み、および野生型タンパク質(NP_057447/Q9HCN6)におけるアミノ酸M1からT205に対応する。ヒトGPVI D1およびD2とヒトFc領域とをコードする、得られた増幅され切断され精製されたPCR産物をライゲーションPCRによって組み合わせ、EcoRIおよびNotl部位を用いるInFusion法によってバキュロウイルス発現ベクターpVL1393にライゲートした。得られたGPVI−Fc ORFを配列番号1としておよびこの対応するタンパク質配列を配列番号2として列挙する。
【0118】
B GPVI−tev−his発現プラスミド(GPVI−tev−his)の構築
前に説明したGPVI−Fc含有プラスミドをPCRテンプレートとして使用して、野生型タンパク質(Swissport:Q9HCN6)におけるアミノ酸M1からT205に対応するシグナル配列を含むヒトGPVI D1およびD2細胞外ドメインを増幅した。リバースプライマーは、tev切断認識配列と構築物のC末端のHisタグに相当する7つのヒスチジン残基とをコードするDNAを含有した。得られた増幅PCRフラグメントを制限エンドヌクレアーゼEcoRI+Notlで切断し、バキュロウイルス発現ベクターpVL1393にライゲートした。得られたOFRを配列番号3としておよびこの対応するタンパク質配列を配列番号4として列挙する。
【0119】
C hGPVI−hFcおよびGPVI−tev−hisタンパク質の発現および精製
SF900 II無血清浮遊培養(Invitrogen)で増殖させたSF9細胞を、発現プラスミドおよびFlashBacバキュロウイルスDNA(Oxford Expression Technologies)でコトランスフェクトした。Cellfectinトランスフェクション試薬(Invitrogen)を使用してトランスフェクションを行った。5時間後、トランスフェクトされた培養物に5%全ウシ胎仔血清を添加した。細胞を28℃で5日間、培養した。組換えウイルスを含有する培養上清を、5%ウシ胎仔血清を含有するSF900 II浮遊培養での大規模ウイルス増幅に使用した。
【0120】
タンパク質発現のために、ExCell 405(SAFC)で増殖するHighFive(Invitorogen)細胞を適量のウイルス株で形質導入し、27℃で72時間、増殖させた。回収後、細胞培養上清を濾過(0.22μm)により清澄化した。
【0121】
精製のために、Fc−融合GPVIタンパク質変異体をプロテインAマトリックス(GE Healthcare)で捕捉し、pHシフトによって溶離した。Superdex 200(GE Healthcare)を使用するSECおよび最終限外濾過濃縮工程によりタンパク質を洗練した後、このタンパク質をELISAおよびさらなるアッセイに使用した。
【0122】
精製のために、Hisタグ付けGPVIタンパク質変異体をIMACマトリックス(HisTrap、GE Healthcare)で上清から直接捕捉し、イミダゾール勾配によって溶離した。Supredex 75(GE Healthcare)を使用するSECおよび限外濾過によりタンパク質を洗練した後、示す実験においてこのタンパク質を使用した。
【0123】
[実施例2]
機能性抗GPVI mAbの産生および選択
A 抗GPVI mAbの産生
Kilpatrickら(1997.Hybridoma 16:381389)によって記載されたようなRIMMS法を用いて、GPVI特異的抗体を産生させた。
【0124】
週齢6−8週メスBLAB/cマウス(S082342;メイン州バーハーバーのCharles River Labs、Bar Harbor,ME)それぞれに、3−4日間隔で1クール14日にわたる精製可溶性hisタグ付けGPVIタンパク質(実施例1において説明したとおり調製したもの)での免疫処置を4ラウンド施した。
【0125】
第0日での初回免疫処置については、Titermaxのアジュバント(TierMax Gold Adjuvant;Sigma #T2684)に乳化させた5μgの抗原を、マウスの背中に沿って流入領域リンパ節の近位の6部位に皮下投与した。RIBIのアジュバント(Sigma Adjuvant system;Sigma #S6322)に乳化させた別の5μgの抗原を腹に沿って6近接部位に投与した。第4、7および11日に追加免疫処置を同じやり方で与えた。
【0126】
最後の注射から4日後にマウスを犠牲にした。両側膝窩、浅鼠径、腋窩および鰓リンパ節を無菌で単離し、新しいRPMI培地で洗浄した。リンパ球をリンパ節から放出させ、得られた単個細胞浮遊液をRPMI培地で2回洗浄した後、ポリエチレングリコールを使用してP3×63−AG8.653骨髄腫細胞と融合させた。融合後、この細胞混合物を37℃のインキュベーターで16−24時間インキュベートした。得られた細胞調製物を選択半固体培地に移し、100mmペトリプレートに無菌でプレーティングし、37℃でインキュベートした。
【0127】
選択開始から10日後にプレートをハイブリドーマ増殖について検査し、目に見えるコロニーを採集し、200μLの増殖培地が入っている96ウエルプレートに入れた。これらの96ウエルプレートを37℃のインキュベーターの中で2から4日間、保持した。
【0128】
B ヒトGPVIタンパク質を認識するmAbのスクリーニング
GPVI−Fc融合タンパク質(実施例1において説明したとおり調製したもの)を捕捉抗原として使用してELISAにより抗GPVI IgG生産についての最初のスクリーニングを行った。プレートをGPVI−Fc融合タンパク質で被覆し、ハイブリドーマ上清をこのプレートに添加し、ホースラディッシュペルオキシダーゼとコンジュゲートしたウサギ抗マウスIgG(Sigma;#A9044)を使用することによって検出した。TMB−H2O2緩衝液の添加により抗体結合を可視化し、450nmの波長で読み取った。
【0129】
96ウエルプレートから選択された367のハイブリドーマの中で129のハイブリドーマは抗ヒトGPVI抗体生産について陽性であり、さらにまた、細胞増幅後に111を確認した。
【0130】
C ヒトGPVIへのコラーゲンの結合を遮断する抗GPVI mAbの能力
競合ELISA結合アッセイで第二のスクリーニングを行って、すべてのヒトGPVI特異的mAbの機能的特性を、ヒトGPVI−Fc融合タンパク質へのコラーゲンの結合を遮断するmAbの能力について特性付けした。特注のコーラゲン被覆96ウエルプレート(Pierce)を使用した。ヒトGPVI−Fc融合タンパク質とハイブリドーマ上清のプレインキュベートした混合物をこのプレートに添加し、ホースラディッシュペルオキシダーゼとコンジュゲートしたヤギ抗ヒトIgG−Fc(Sigma;#A0170)を使用することによりコラーゲン−ヒトGPVI−Fc複合体を検出した。TMB−H2O2緩衝液の添加により抗体結合を可視化し、450nmの波長で読み取った。100のGPVI結合ハイブリドーマの中で22のハイブリドーマがコラーゲンへのGPVI−Fcの結合を遮断した(閾値:90%阻害)。図1Aに示すように競合ELISAアッセイを用いてヒトGPVIに対する予選択mAbの遮断特性が容量依存性であることを確認した。
【0131】
マウスIgGアイソタイプ判別キット(SEROTEC;#MMT1)の使用により判定して、すべてのアンタゴニストmAbをアイソタイプIgG1、カッパと判別した(データは示さない。)。
【0132】
D 抗GPVI mAbの結合特性
GPVI遮断抗体の結合特性を評価するために表面プラズモン共鳴(BIAcore 2000)により最後のスクリーニングを行った。この分析において、本発明者らは、CMチップに共有結合で連結させた抗Fc抗体に固定した抗ヒトGPVI mAbとヒトGPVIタンパク質との相互作用を評価した。Canziani et al 2004.Anal.Biochem.325:301−307により記載されたプロトコルを用いて、個々のmAbの結合動態を実行した。
【0133】
すべての遮断mAbは、ヒトGPVIに対してナノモル(以下)の範囲の親和性を示した(表1)。標的親和性に基づき、ハイブリドーマクローン390からの抗体をさらなる開発のために選択した。
【0134】
【表1】

【0135】
E 抗GPVI mAbと霊長類GPVIタンパク質の交差反応特性
表1に列挙したGPVI特異的mAbを霊長類GPVI−Fcタンパク質に結合するmAbの能力についてELISAにより評定した。プレートを霊長類GPVI−Fc融合タンパク質で被覆し、抗hGPVI mAbをプレートに添加し、ホースラディッシュペルオキシダーゼとコンジュゲートしたウサギ抗マウスIgG(Sigma;#A9044)で検出した。TMB−H2O2緩衝液の添加により抗体結合を可視化し、450nmの波長で読み取った。半固体培地中での増殖により、予選択ハイブリドーマをクローニングした。ペトリプレートに125細胞/mLで接種し、有意な増殖を示すクローンを、GPVI結合、GPVI遮断活性および霊長類GPVIとの交差反応性についてスクリーニングした。図1Bおよび図2に示すように、すべてのmAbは霊長類GPVIと交差反応性であった。
【0136】
霊長類(カニクイザル(Macaca fascicularisまたはcynomolgus))GPVIの細胞外ドメインについて使用した配列を配列番号27および配列番号28として記載する。
【0137】
F 抗GPVI mAbの重および軽鎖の配列の決定
モノクローナル抗体の可変ドメインをコードするcDNAを次のように得た:QiagenからのOligotexキットでハイブリドーマ細胞からmRNAを抽出した。Gene Racerキット(Invitrogen)、55℃のトランスクリプターゼSuperScript III(Invitrogen)および表2に記載のプライマー(RACEMOG1またはCKFOR)を用いて、RACE法によるRT−PCRにより、対応するcDNAを増幅した。55℃のポリメラーゼPhusion(Finnzymes)および同じく表2に記載のプライマーを用いて、PCRにより、cDNAフラグメントを増幅した。
【0138】
【表2】

【0139】
重(VH)および軽(VL)鎖の可変領域をコードする増幅フラグメントをPromegaからのpGEM−T EasyプラスミドまたはInvitrogenからのpCR4−Topoプラスミドにクローニングし、E.コリ(E.coli)で増幅した。その後、クローニングされたcDNAを両方の鎖に関してシークエンシングした。
【0140】
タンパク質配列をプラスミドコーディング配列から翻訳し、重(VH)および軽(VL)鎖の質量を算出した(表3)。得た値は、対応するハイブリドーマの培養物から精製したmAbの調製物から得た質量分析データと完全に一致した、表3参照。特に、抗GPVI抗体390の重鎖の可変領域内のN−グリコシル化部位(NST)の占有を確認した。HCおよびLCのアミノ酸配列を次のとおり配列表に報告する:配列番号5および配列番号6はクローン390からの抗GPVI mAbのHCに対応し、配列番号7および配列番号8はクローン390からの抗GPVI mAbのLCに対応する。
【0141】
【表3】

【0142】
G 抗GPVI mAbのCDRの配列の決定
KABAT命名法を用いてタンパク質配列からCDR領域についての配列を演繹した。
【0143】
HCについて、CDR1は配列番号18に対応し、CDR2は、配列番号19に対応し、CDR3は配列番号20に対応する
LCについて、CDR1は配列番号21に対応し、CDR2は、配列番号22に対応し、CDR3は配列番号23に対応する
【0144】
[実施例3]
抗GPVI mAbおよびmAbのFabフラグメントの調製および生物物理学的特性
A 抗GPVI IgGまたはIgGのタンパク質分解性Fabフラグメントによる組換えGPVIへのコラーゲン結合の阻害
コラーゲン被覆384ウエルプレート(Pierce)を3%BSAで2時間ブロックした。漸増濃度のIgGまたはフィシン切断によって生産されたIgGの対応するFabフラグメント(0.3−20μg/mL)を組換えGPVI(細胞外GPVIドメインのFc融合タンパク質;3μg/mL)と共に30分間インキュベートした。GPVI−IgG混合物をコラーゲン被覆プレートに添加し、1時間、室温でインキュベートした。次に、384ウエルプレートを5回洗浄し(DELFIA洗浄用緩衝液、Perkin Elmer)、Eu標識抗ヒトIgG(100ng/mL、Perkin Elmer)を添加した。室温で1時間のインキュベーションの後、プレートを再び5回洗浄し、増強溶液(Perkin Elmer)を添加し、10分間インキュベートした。Tecan Ultraリーダーを使用して360/612nmで蛍光を検出した。図3は、代表的な読取値を示す。表4は、2回の独立した実験のGPVIへのコラーゲン結合の阻害についての算出IC50値(μg/mL)を示す。
【0145】
【表4】

【0146】
B 組換えFabフラグメントの生産
1.抗GPVI Fabの組換え生産のための発現プラスミドの構築
抗ヒトGPVI抗体の可変重および軽鎖のアミノ酸配列を、ヌクレオチド配列に逆翻訳し、Young L.およびDong Q.(Nucl.Acids Res.(2004),32(7),e59)により記載されたオーバーラップ伸長PCR(OE−PCR)の修正プロトコルを用いて、または遺伝子合成(Geneart)によって、それぞれ生成した。Invitrogen TOPOクローニングキットを使用してPCR産物をpCR Blunt II TOPOベクターにクローニングし、M13フォワードおよびM13リバースプライマーを使用してシークエンシングした。各可変重鎖をIGHG1(Genebankアクセッション番号Q569F4)のCH1ドメインに融合し、可変軽鎖を定常カッパ鎖(IGKC、Genebankアクセッション番号Q502W4)にそれぞれ融合させた。これらのフラグメントをNheIおよびHindIIIで消化し、それぞれをエピソーム発現ベクターpXL(Durocher et al.(2002),Nucl.Acids Res.30(2),E9によって記載されたpTTベクターの類似物)のNheI/HindIII部位にライゲートして、キメラおよびヒト化抗GPVI Fabの一過性哺乳動物発現のためのプラスミドを作った。抗体の重および軽鎖をコードする発現プラスミドをE.コリ(E.coli)NEB 10−ベータ(DH10B誘導体)において増やした。トランスフェクションに用いたプラスミドは、Qiagen EndoFree Plasmid Mega Kitを使用してE.コリ(E.coli)から調製した。
【0147】
2.組換え抗GPVI Fabフラグメントの一過性発現および精製
Freestyle Medium(Invitrogen)で増殖しているHek 293−FSを、Fugene(Roche)トランスフェクション試薬を使用して、示すLCおよびHCプラスミドでトランスフェクトした。7日後、細胞を遠心分離によって除去し、10% 容量/容量 1M Tris HCl(pH8.0)を添加し、上清を0.22μmフィルタに通して粒子を除去した。KappaSelectマトリックス(GE Healthcare)を使用してFabタンパク質を捕捉し、pHシフトによって溶離した。タンパク質含有画分をプールし、PD−10またはSephadexカラムを使用して脱塩した。濃縮し、滅菌濾過(0.22μm)したタンパク質溶液を1mg/mLに調整し、使用するまで4℃で保持した。
【0148】
C 組換えFabの生物学的特性付け
精製抗体フラグメントの詳細な動態特性付けにBiacore 3000(GE Healthcare)での表面プラズモン共鳴技術を用いた。リガンドとして抗GPVI Fabおよび分析物としてヒトGPVIで、直接結合アッセイを用いた。典型的には、500RUの抗GPVI Fabをアミン反応性カップリングにより研究グレードDM5チップ上に固定して、結合したGPVI分子について200RUのRmaxを得た。HBS−EP(10mM HEPES(pH7.4)、150mM NaCl、3mM EDTA、0.005% Surfactant P20)中、概して0.8から208nMの間の濃度範囲にわたって30μL/分の流量で結合動態を測定した。チップ表面を10mMグリシン(pH2.0)で再生させた。参照として固定化Fabのないフローセルを使用して、BIAevaluationプログラムパッケージ(バージョン4.1)で動態パラメータを分析および算出した。物質移動を伴う1:1結合モデルを曲線に対するデータのグローバルフィットに利用した。
【0149】
グリコシル化クローン390(Fab 390−G)から誘導された原配列中に存在する追加のグリコシル化モチーフの機能的帰結を調査するために、保存グリコシル化モチーフをアミノ酸置換によって除去した(Fab 390−nG)。このために、クローン390に基づく2つの重鎖フラグメントを構築した:最初のものは修飾を一切有さず、配列番号9に対応し、二番目のものは、配列番号9の位置60に点突然変異N→Qを有する。
【0150】
グリコシル化が非常に不均一であり得ることおよび糖タンパク質不均一性を生じさせ得ることは公知である;このような不均一源はできる限り回避すべきである。
【0151】
この場合、追加のグリカンの除去は、表5に示すように、GPVIに対する結合親和性に影響を及ぼさない。従って、非グリコシル化Fab 390−nG構築物をさらなる実験に選択した。
【0152】
【表5】

【0153】
D 抗GPVI FabとGPVIの共結晶化およびX線結晶学による抗GPVI mAbにより認識されるエピトープの決定
エピトープ特性付けのために共結晶化戦略を利用した。Fab 390−nG(HEK293細胞において発現されたもの)とヒト糖タンパク質VI(昆虫細胞High fiveにおいて発現された、ヒトGPVIの細胞外粗メイン(Met1−Thr205))の複合体を、両方のタンパク質の等モル比でのインキュベーションによって形成した。この複合体をトリプシンで消化し、ゲル濾過によって再び精製し、濃縮し、結晶化スクリーニングに付した。100nLのタンパク質溶液(20mM Tris(pH8.0)、150mM NaCl中、6.5mg/mLのFab−抗原複合体)と、0.1M BisTris(pH5.5)、25%PEG3350および0.2M酢酸アンモニウムを含有する100nLのリザーバー溶液とを混合すること、および密封したシッティングドロップ蒸気拡散結晶化プレートにおいて4℃で200μLのリザーバー溶液に対するタンパク質ドロップをインキュベートすることによって、よく回折する結晶を得た。凍結防止のために25%エチレングリコールを補足したリザーバー溶液を使用して液体窒素で1つの結晶を急速冷凍した。フランス、グルノーブルの欧州シンクロトン放射光施設(European Synchrotron Radiation Facility)においてビームラインID14−4で結晶学データを収集した。Fab 390−nGについてのモデルとしてpdb−entry 1FDLのFabフラグメントを、およびGPVIについてのモデルとしてヒト血小板糖タンパク質VIの結晶構造の1つの単量体、pdb−entry 2GI7を使用する分子置換によって構造を解明した。この微細構造の分解能および最終R因子は、1.72Å、R因子17.2%およびRフリー19.9%である。GPVI結合エピトープは、抗原hGPVIの下記の残基へのFab 390−nGの相互作用(距離<4.5Åと定義する。)を特徴とする配座エピトープである:
Pro4、Lys7、Glu40、Lys41、Leu42、Ser43、Ser44、Ser45、Arg46、Arg65、Arg67、Trp76、Leu78、Pro79、Ser80、Asp81、Gln82、Ser165、Arg166。
【0154】
これらの残基は、D1ドメイン(アミノ酸84まで)に属するか、D2ドメイン(アミノ酸94から176)を一部を構成し、従って、配座エピトープに相当する。GPVIエピトープ残基の番号付けシステムは、図16および配列番号:32に示すとおりのシグナル配列が除去されたタンパク質に相当する。クローン390からのFab抗GPVIとGPVIの細胞外D1−D2ドメインとの相互作用を図5に図示する。
【0155】
GPVIペプチドと残基と接触する抗体残基を下の表6から表11に記載する。
【0156】
本明細書において用いる場合、「接触残基」は、GPVI抗原残基へのまたはその逆の距離がおよび結晶構造に関して測定した場合にはGPVIに対する抗体とGPVI抗原との間の距離が4.5Å未満である抗体残基と定義した。CCP4 SoftwareパッケージのソフトウェアプログラムNCONTを使用してこれらの距離を決定した。
【0157】
X線構造は、GPVIへの結合に影響を及ぼすべきでない、突然変異され得るCDRからの残基を強調する。
【0158】
以下の説明の中で、CDRからの残基を、GPVIへの結合を分断することなく、示すとおり修飾することがある。CDRにおける突然変異が、CDRからの残基の配座および配向に影響を及ぼしてCPVIへの結合を妨げるべきでないことも理解される。残基の番号付けは逐次的であり、Al−Lazikani((1997)J.Mol.Biol.273,927−948)において用いられているようなカバット規則に従わない。「X」は、「任意の残基」を表し、一方、「−」は、この位置で修飾を行うべきでないことを示す。
【0159】
配列番号:18で定義されるようなCDRH1配列は、10残基にわたる。表6に示すように、CDRH1残基の10のうちの6即ち60%は、GPVIと接触しない。抗体残基と接触しているGPVI残基のすべてがセリン残基である。
【0160】
【表6】

【0161】
CDRH2配列は、配列番号:19で定義され、16抗体残基にわたる。表7に示すように、CDRH2残基の16のうちの9即ち56%は、GPVIと接触しない。トリプトファン52は7つの異なるGPVI抗原残基と接触していることが判明した。GPVIのアルギニン46は、5つの異なるCDRH2残基と接触していることが判明した。
【0162】
【表7】

【0163】
CDRH3配列は、配列番号:20で定義され、5抗体残基にわたる。CDR配列の定義が、用いるソフトウェアによってわずかに変動し得るという事実に基づき、CDRH3は1つの追加の残基を含むことがあることが判明した。従って、CDRH3は、6抗体残基にわたる配列番号:38で定義されるとおりである場合がある。表8に示すように、CDRH3残基の6のうちの2即ち33%は、GPVIと接触しない。アルギニン65は3つの異なるGPVI抗原残基と接触していることが判明した。GPVI接触CDRH3残基の3つの異なるアルギニン残基が存在する。
【0164】
【表8】

【0165】
CDRL1配列は、配列番号:21で定義され、11抗体残基にわたる。表9に示すように、CDRL1残基の11のうちの7即ち64%は、GPVIと接触しない。チロシン32は5つの異なるGPVI抗原残基と接触していることが判明した。
【0166】
【表9】

【0167】
CDRL2配列は、配列番号:22で定義され、7抗体残基にわたる。CDR配列の定義が用いるソフトウェアによってわずかに変動し得るという事実に基づき、CDRL2は1つの追加の残基を含むことがあることが判明した。従って、CDRL2は、8抗体残基にわたる配列番号:39で定義されるとおりである場合がある。表10に示すように、CDRL2残基の8のうちの6即ち75%は、GPVIと接触しない。このCDRは、GPVIのD1およびD2両方のドメイン内の残基と接触している。チロシン50は、D1内のasp81およびgln82と接触しており、一方、プロリン56は、GPVI D2ドメインのarg166およびser165と接触している。
【0168】
【表10】

【0169】
CDRL3配列は、配列番号:23で定義され、8抗体残基にわたる。表11に示すように、CDRL3残基の8のうちの5即ち63%は、GPVIと接触しない。
【0170】
【表11】

【0171】
抗体残基と相互作用するGPVI残基間の接触の一覧により、ser43が8つの接点を有し、ser44が7つの接点を有し、arg46が4つの接点を有し、arg67が4つの接点を有し、arg65が3つの接点を有し、asp81が3つの接点を有し、およびArg166が2つの接点を有することが明らかになった。殆どのGPVI残基には、軽鎖または重鎖のいずれかが好ましいが、R67およびR166は両方と接触する。
【0172】
E 抗GPVI FabのFvドメインのヒト化
特許出願WO2009/032611に記載されているヒト化プロトコルを用いてFab 390−nGクローンをヒト化した。加えて、Fab 390−nGとヒトGPVIとの結晶学的複合体の分析は、このヒト化キャンペーンの中でヒトGPVIに対するFab 390−nGの親和性を改善するまたは少なくとも保持する目的での幾つかの突然変異につながった。
【0173】
Fab 390−nGのVLおよびVHをProtein Data Bank(PDB)のAugust 2007バージョンに対してブラストした。PDB構造1L7Iを使用して、軽鎖の相同モデルを構築した。PDB構造1YY8および1ZA6両方を使用して、重鎖の相同モデルを構築した。1ZA6構造は、特に、CDR3サブ領域のモデリングに使用し、一方、1YY8構造は、この重鎖の残部のために使用した。得られたVLおよびVHモデルを使用して、可変ドメインの相同モデルを構築し、その後、Molecular Operating Environment(MOE)に実装されている標準的な手順を用いてエネルギーを最小化した。MOEは、Chemical Computing groupによって配給されているコンピュータ援用医薬品設計用ソフトウェアである。その後、このFab 390−nGの最小化モデルを分子動力学シミュレーションに付して、T細胞受容体と相互作用する可能性がより高いおよび免疫応答の活性化の原因となる、最もフレキシブルな残基を同定した。University of Californiaにより配給されているAMBERソフトウェアでこれらのシミュレーションを実行した。最終的に57のアミノ酸がFab 390−nGの中でフレキシブルと同定される。次に、20ns(10×2ns)中の最大60のフレキシブルFab 390−nG(CDR+5Å領域を除く)の動きを、49のヒト生殖細胞系相同モデル(これらのそれぞれについて10×2ns MDシミュレーションを実行した。)の対応するフレキシブルアミノ酸の動きと比較した。7つの最も一般的なヒト生殖細胞系軽鎖(vk1、vk2、vk3、vk4、vラムダ1、vラムダ2、vラムダ3)と7つの最も一般的なヒト生殖細胞系重鎖(vh1a、vh1b、vh2、vh3、vh4、vh5、vh6)を系統的に組み合わせることにより、49のヒト生殖細胞系モデルを構築した。vk1−vh6ヒト生殖細胞系配列は、この配列のフレキシブルアミノ酸について、Fab 390−nGのフレキシブルアミノ酸と比較して84%の4D類似性を示した;このため、vk1−vh6生殖細胞系配列を用いて、フレキシブルアミノ酸に的を絞ってFab 390−nG配列をヒト化した。Fab 390−nGとvk1−vh6アミノ酸とのアミノ酸対合については、これら2つの配列を、2つの対応する相同モデルのアルファ炭素の最適な3D重ね合わせに基づいてアラインした。場合によって、潜在的に問題のある配列の以下のモチーフを考慮した:Asp−Pro(酸不安定性結合)、Asn−X−Ser/Thr(グリコシル化、X=Pro以外の任意のアミノ酸)、Asp−Gly/Ser/Thr(フレキシブルエリアにおけるスクシンイミド/イソ−asp形成)、Asn−Gly/His/Ser/Ala/Cys(露出された脱アミド化部位)、Met(露出されたエリアにおける酸化)。得られた改変配列を、妥当な仮定が設定された信頼度を提供するUniPortKB/Swiss−Portデータベースに対して、配列類似性についてブラストした。加えて、いずれの配列も、Immune Epitope Database and Analysis Resorce(IEDBデータベース)に載っている公知BおよびT細胞エピトープを一切含有しない。
【0174】
重鎖については5バージョン(Fab 390−nG VH1、VH2、VH3、VH4、VH5)および軽鎖については3バージョン(VL1、VL2、VL3)が提案された。すべてのバージョンが抗GPVI Fab 390−nG構築物の配列から誘導される。非ヒト化Fab 390−nGについての出発配列をVHについては配列番号:33およびVLについては配列番号:34に提供する。L1バージョンは、4つの突然変異を有する。L2バージョンは、ヒトGPVIへの結合を改善する可能性がある追加の突然変異(N93H)を含む。L3バージョンはL1に由来し、およびヒトGPVIへの結合を改善する可能性がある追加の突然変異(N93L)を含む。
【0175】
バージョンH1は、前に説明した手順に従って見つけられる最も近いヒト重鎖生殖細胞系配列、VH6、から誘導される5つのヒト化突然変異を含有する。バージョンH2は、4つのヒト化突然変異を含有し、H1に由来するが、Fab 390−nGとヒトGPVIとの結晶学的複合体において見られるような強力な親和性にとって重要であることが判明した位置73(Asn73)のアミノ酸を突然変異させない。バージョンH3は、ヒト重鎖生殖細胞系配列VH3から誘導される5つのヒト化突然変異を含有する。VH3は、前に説明した手順に従ってFab 390−nGのVH鎖に近いこと、および位置73にアスパラギン(Asn)残基を有することが判明した。H4バージョンは、H2に由来し、およびヒトGPVIへの結合を改善する可能性がある1つの追加の突然変異(G31Y)を含む。H5バージョンは、H2に由来し、およびGPVIへの結合を改善する可能性がある1つの追加の突然変異(Y103E)を含む。
【0176】
改変抗体の産生のためにVLおよびVH変異体の8つの組み合わせを推奨した:Vl1とVH1、VL1とVH2、VL1とVH3、VL2とVH2、VL3とVH2、VL1とVH4、VL1とVH5およびVL3とVH5。表12および13に示すように、本出願の項「発明を実施するための形態」に示す方法論を用いて、Fab 390−nGの改変VLおよびVH変異体のアミノ酸を変更した。左の列は、元のアミノ酸およびマウスFab 390−nGにおけるアミノ酸の位置を示す。
【0177】
可変ドメインの改変に加えて、抗体およびこの抗体のフラグメントをタグまたはアミノ酸伸長部の付加によりさらに修飾することができる。例えば、ヒスチジン残基6以上の配列、特に、(His)もしくは(His)もしくは(His)を重鎖のC末端に付加させることができ、または配列内の前記末端をアミノ酸、例えばGlyGlyGlyGlySerもしくは(GlyGlyGlyGlySer)ユニットの付加により伸長することができる。同様に、抗体および抗体のフラグメントのフレームワークをIgG1主鎖からIgG4のような別のIgG主鎖に変更することができる。
【0178】
【表12】

【0179】
【表13】

【0180】
F ヒト化変異体の生物学的特性付け
精製抗体フラグメントの詳細な動態特性付けのためにBiacoa 3000(GE Healthcare)での表面プラズモン共鳴技術を用いた。固定化ヒトGPVIでのアッセイを用いた。典型的には、GPVIの300RUをアミン反応性カップリングにより研究グレードCM5チップ上に固定して、結合した抗体フラグメントについて200RUのRmaxを得た。HBS−EP(10mM HEPES(pH7.4)、150mM NaCl、3mM EDTA、0.005% Surfactant P20)中3.2から112nMの間の濃度範囲にわたって30μL/分の流量で結合動態を測定した。チップ表面を10mMグリシン(pH2.0)で再生させた。参照として固定化GPVIのないフローセルを使用して、BIAevaluationプログラムパッケージ(バージョン4.1)で動態パラメータを分析および算出した。物質移動を伴う1:1結合モデルを、Fabフラグメントの3−56nMの分析物濃度に対応する曲線に対するデータのグローバルフィットに利用した。
【0181】
このヒト化キャンペーンからの抗GPVI抗体フラグメントの結合動態を表14に示す。この実施例においてデータを測定するために用いたBiacoreアッセイが固定化結合パートナーの点で異なること(GPVI対mAb/Fabフラグメント)およびこのことが表5に報告したような異なるBiacore親和性をもたらすことに留意されたい。
【0182】
【表14】

【0183】
実施例4
抗GPVI Fabフラグメントによるコラーゲン結合のおよび血小板凝集の阻害
A.組換え抗GPVI Fabフラグメントによるコラーゲンへの組換えGPVIの結合の阻害
コラーゲン被覆384プレート(Pierce)を3%BSAで2時間ブロックした。漸増濃度の抗GPVI Fabフラグメント(0.3−20μg/mL)を組換えGPVI(GPVIの細胞外ドメインとヒトIgGのFc部分の融合タンパク質;3μg/mL)と共にインキュベートした。GPVI−Fab混合物をコラーゲン被覆プレートに添加し、1時間、室温でインキュベートした。384ウエルプレートを5回洗浄し(DELFIA洗浄用緩衝液、Perkin Elmer)、Eu標識抗ヒトIgG(100ng/mL、Perkin Elmer)を添加した。室温で1時間のインキュベーションの後、プレートを再び5回洗浄し、増強溶液(Perkin Elmer)を添加し、10分間インキュベートした。Tecan Ultraリーダーを使用して360/612nmで蛍光を検出した。GPVIコラーゲン結合に対する組換え生産抗GPVI Fabフラグメントの阻害効果の例を表15に示す。
【0184】
【表15】

【0185】
B.組換え抗GPVI Fabフラグメントによるコラーゲン誘導血小板凝集の阻害(ヒト多血小板血漿)
多血小板血漿(PRP)については、10%の最終濃度までのACD−Aが入っている注射器に血液を採取した。200×gで20分間、室温で、破壊することなく遠心分離した後、上清(PRP)を分離した。10分間、1500×gでの遠心分離により、残りの血液から少血小板血漿(PPP)を分離した。PRPをPPPでの希釈により3.0×108細胞/mLにした。Fabフラグメントを0.15−20μg/mLの最終濃度で使用し、PRPと共に5分間、37℃でインキュベートした。その後、コラーゲンを1−1.5μg/mLの濃度で添加し、96ウエル・プレート・リーダー(96ウエルプレート凝集)またはBorn凝集検出計(古典的凝集)のいずれかの使用による光透過の測定により凝集応答をモニターした。凝集応答を20分間モニターした。表16に示すように、調査したすべてのFabフラグメントは、濃度依存的様式でコラーゲン誘導血小板凝集を阻害することができた。
【0186】
【表16】

【0187】
C.抗GPVI Fabフラグメントによるコラーゲン誘導血小板凝集の阻害(ヒト全血)
これらの実験については、血液を20μg/mLヒルジンで抗凝固剤処置し、直ちに使用した。測定前に全血をNaClで1:1希釈した。Fabフラグメントを0.15−20μg/mLの最終濃度で使用し、血液と共に5分間、37℃でインキュベートした。その後、コラーゲンを1μg/mLの濃度で添加し、Multiplate(登録商標)分析装置を使用するインピーダンスの測定により凝集応答をモニターした。反応を6分間モニターした。製造業者により指定されたとおりに凝集曲線下面積(AUC)によって凝集応答を定量した。図6に示すように、調査したFabフラグメントは、濃度依存的様式でコラーゲン誘導血小板凝集を阻害することができた。
【0188】
D.抗GPVI Fabフラグメントによる血流下での血栓形成の防止
これらの実験については、血液を20μg/mLヒルジンで抗凝固剤処置し、直ちに使用した。1×0.1mmの内径を有する長方形キャピラリーマイクロスライドガラス(英国、ケンブリッジのCamlab)を一晩、100μg/mLのHormコラーゲンで被覆し、室温で1時間、熱不活性化0.5%脂肪酸不含BSAでブロックした。血小板を2μMのDiOC6(3)で蛍光標識し、Fabフラグメントで5分間、37℃で処理した。コラーゲン被覆カバーガラス全体の灌流を2分間、2000秒−1で行った。血液灌流後、タイロード緩衝液1を5分間、同じ剪断速度でマイクロスライド全体に灌流させた。血小板(血栓)表面被覆率の判定により、血栓形成を定量した。このために、キャピラリーの中央の異なるエリアから10の最終蛍光画像を記録した。加えて、位相差およびDIC写真を記録した。白黒CCDカメラ(CoolSnap cf、オットブルンのRopers Scientific GmbH/Photometrics)に接続したImagePro plus画像処理ソフトウェア(米国、シルバースプリングのMediacy)を使用して、画像処理、記録および分析を行った。図7A−Eは、抗GPVI Fabフラグメントによる血流下での血栓形成の阻害の例を示す。
【0189】
E.動脈血栓症のマウスモデルにおける抗GPVI FabFabフラグメントの効果
このインビボ調査には、GPVI受容体がヒト化されたマウスを用いた。頸動脈閉塞を光化学的に誘導して、血管外壁に影響を及ぼすことなく血管内側に血管内皮損傷を生じさせた。この技法により、赤色色素、ローズベンガルを全身投与し、頸動脈の内皮に緑色レーザー光線を照射して、「インサイドアウト」損傷を生じさせた。抗GPVI Fabフラグメントを10mg/kgで頸静脈カテーテルにより静脈内ボーラスとして投与した。15分のインキュベーション期間の後、レーザー光線源を頸動脈端部からフロープローブのほうに12cm離して配置した。90分の観察期間の間、継続的に血流をモニターした。測定した血栓症パラメータは、血管損傷後に動脈閉塞を完了する時間長(閉塞までの時間、TTO)および血流曲線下面積(AUC)であった。
【0190】
血栓症評価のために、2つの測定パラメータを用いた:a)閉塞までの時間(TTO)およびb)血流曲線下面積。血栓誘発(thrombotic challenge)から血管閉塞までの時間(TTO)は、対照群についての33分に対して抗GPVI Fabフラグメントについては78分であり、2.4倍増の結果となった(表17)。血流曲線下面積は、抗GPVI Fabフラグメントで治療した群については対照群と比較して2.3倍増加した(表18)。10mg/kg 抗GPVI Fabフラグメントの静脈内ボーラス投与は、ヒト化GPVIマウスにおける光化学的誘導動脈血栓症において有意な抗血栓症効果を生じさる結果となった。
【0191】
【表17】

【0192】
【表18】

【0193】
F.抗GPVI Fabフラグメントにより誘導される血小板表面からのGPVIの枯渇
これらの実験については、血液を20μg/mLヒルジンで抗凝固剤処置し、直ちに使用した。示す濃度で抗GPVI−Fabフラグメントを使用した。血液または多血小板血漿(PRP)試料をFabフラグメントと共に5分間、15分間、1時間および2時間、それぞれインキュベートした。その後、パラホルムアルデヒドを使用して試料を固定し、GPVI受容体発現を判定した。血小板表面のGPVI密度を、異なる蛍光標識抗GPVI抗体を使用して測定し、フローサイトメーター(BD LSR II)で判定した。対照として、この抗体が調査したFabフラグメントとは無関係に(および調査したFabフラグメント存在下で)GPVIに結合できることを予め証明した。
【0194】
図8に示すように、抗GPVI Fabは、濃度依存的様式でGPVI表面発現を低減させる。さらなる実験は、5分の抗GPVI Fab曝露が、10μg/mLおよび2μg/mで有意なGPVI枯渇を既に生じさせたことを証明する(図9)。より低濃度の抗GPVI Fabも、遅い時間経過ではあったが、GPVI表面密度を減少させることができた。
【0195】
これらの結果は、抗GPVI Fabが血小板表面でのGPVI枯渇を誘導することを支持する。
【0196】
G.血液学的評定を同時施行したカニクイザル(Macaca fascicularis)におけるコラーゲン誘導全血凝集に対する抗GPVI Fabのインビトロおよびエクスビボ効果
1.動物詳説および投薬レジメン:
動物研究は、地元の動物福祉規制に従っておよび獣医当局による登録を受けたAAALAC(実験動物管理公認協会)認証施設において行った。研究において使用した種/株は、カニクイザル(Macaca fascicularis)であった。この研究にはメスザルのみを使用した。1用量群につき2匹の動物を研究した。研究した用量は、リン酸緩衝食塩水(PBS)ビヒクル対照、0.01、0.1、1および3mg/kgの抗GPVI Fabを含み、すべて2mL/kgのIVボーラスで投与した。含めたサルの体重は、3.52kgと7.34kgの間の範囲であった。1mg/kg用量群において使用した動物のうちの1匹(サルD)は、投薬前試料で血小板凝集応答を一切示さなかった。この故、継時的な凝集応答(投薬前と比較した%での凝集の阻害)の個体内相対変化の算出は不可能であったのでデータを提供しない。
【0197】
2.血液学のための血液試料採取および加工ならびの血漿調製
健常で意識のある一箇所に収容されていたサルの前肘静脈から、薬物またはビヒクル投与前および後に様々な時間間隔(投薬前、0.5、1、2、4、6、8、24、48、72、149.5時間)で針を穿刺して、3.13%クエン酸ナトリウム(ドイツ、Bad Neuenahr−AhrweilerのEifelfango)が入っている試験管に全血を採集した(血液試料採取後、全試験管容積の1/10)。PBSビヒクル治療群からは、試料採取スケジュールがわずかに異なり、次の時点で試料を採取した:投薬前、0.5、1、2、4、6、8、24、48、126時間。自動血液学分析装置Scil Vet abc(ドイル、ViernheimのScil animal care Company GmbH)を使用することにより、血小板数に特に的を絞って全血球数を判定して、血液学の生理状態をモニターした。全血凝集アッセイ後、残りの血液試料を各時点からの血漿調製のために遠心分離した。血漿調製のために、血液を5000U/分で15分間、遠心分離し上清を別の試験管に回収し、後の時点での抗GPVI Fabの血漿レベルについての分析のために−20℃で冷凍した。
【0198】
3.全血血小板凝集の測定
全血血小板凝集アッセイは、multiplate(登録商標)血小板機能分析装置(ドイツ、ミュンヒェンのDynabyte Informationssysteme GmbH)を使用して行った。使用したアゴニストは、1μg/mLの最終濃度でのウマI型コラーゲン(Horn collagen、ドイツ、ミュンヒェンのNycomed)であった。製造業者の説示に従って分析を行い、投薬前の個々の全血凝集応答それぞれを基準にして全血凝集の阻害率を算出した。簡潔に説明すると、カートリッジに297μLのCaClを前もって負荷し、297μLの全血を添加した。5分の平衡の後、6μLのアゴニストコラーゲンを100倍濃度で添加し、測定を開始した。7分間、記録を行い、分での一定期間にわる曲線下面積(AUC、任意単位)として結果を表示した。投薬前の値と比較した一定期間のAUCの相対変化を計算して血小板凝集の阻害率を得、グラフにプロットした。
【0199】
同じコロニーからの他のサルからの血液試料の別のセットを用いて、インビトロ用量−応答測定を行って、抗GPVI FabについてのインビトロIC50を決定した。このためにエクスビボ測定について上で説明したのと同じように血液試料を処理した。簡潔に述べると、異なる濃度(30、10、3、1、0.3、0.1、0.03、0.01μg/mL)の抗GPVI Fabをmultiplate(登録商標)分析装置の試験セル内のCaCl/全血混合物に添加し、5分間インキュベートした。1μg/mLのアゴニストコラーゲンを添加した後、測定を開始し、7分間、AUCを記録した。それぞれの用量−応答をプロットすることにより、社内統計ソフトウェアツール(Speed 2.0 LTS)を使用してIC50を算出した。
【0200】
4.GPVI受容体表面発現の測定
健常で意識のある一箇所に収容されていたサルの前肘静脈から薬物またはビヒクル投与前および後に様々な時間間隔で針を穿刺して、3.13%クエン酸ナトリウムが入っている試験管に全血を採集し(血液試料採取後、全試験管容積の1/10)、直ちに使用した。5%パラホルムアルデヒドを使用して試料を固定し、GPVI受容体発現を判定した。血小板表面の密度を、異なる蛍光標識抗GPVI抗体を使用して測定し、フローサイトメーターで判定した。対照として、この抗体が調査したFabフラグメントとは無関係に(および調査したFabフラグメント存在下で)GPVIに結合できることを予め証明した。
【0201】
5.全血血小板凝集に関する結果
それぞれの投薬レジメンを比較するために、個々の動物それぞれの投薬前の値を基準にして全血血小板凝集の阻害率を算出した。PBSビヒクル群は、IVボーラス投与後6時間の時点で67%までの血小板凝集阻害を見せた(データは示さない。)。しかし、少なくとも2つの連続する時点にわたって少なくとも80%の血小板凝集阻害が生理学的に適切であると考えられた。試験した抗GPVI Fabの2つの低い用量(0.01および0.1mg/kg 抗GPVI fab)の両方が全血凝集の適切な阻害を一切示さなかった。1mg/kgでは、93%血小板阻害が投与後1時間の時点で既に達成され、(2での効果のわずかな減少(図10A)を除けば)24時間まで80%より上のままであった。その後、血小板機能の阻害は継時的に減少した。3mg/kgでは、血小板凝集の阻害は観察の最初の24時間の間80%より大きい値で安定しており、72時間まで69%と77%の間の値を維持した(図10B)。試験したより高い用量群両方において、血小板機能は最後の時点で(149.5時間、図10AおよびB)完全に回復された。このデータに基づいて、ED50をIVボーラス投与後0.5時間の時点で概算し、試験した抗GPVI Fabについて0.5mg/kgと判明した。
【0202】
この実験は、抗GPVI Fabが、コラーゲン(1μg/mL)を使用してビヒクルと比較したときに用量依存的様式でエクスビボ全血血小板凝集を阻害することを立証する。
【0203】
別の実験セットでは、抗GPVI Fabのインビトロ活性を判定した。算出IC50は、0.81μg/mL[0.51;1.28μg/mL]CV=2.16%と判明した(図11)。
【0204】
6.血液学的評定
実験の時間経過を通して血液学の生理状態をモニターするために、血小板数に特に的を絞って全血球数を判定した。平均血小板数は、投薬前の時点でのPBSビヒクル中の428×10/μLと0.01mg/kg 抗GPVI Fabでの369×10/μL、0.1mg/kg 抗GPVI Fabでの235×10/μL、1mg/kg 抗GPVI Fabでの357×10/μL、および3mg/kg 抗GPVI Fabでの312×10/μLの間で様々であった(図12A−E)。実験の時間経過を通して、血小板数は実質的に変化せず(即ち、100×10/μL未満の値)、PBSビヒクル群において126時間の時点で次の血小板数を判定した:358×10/μL(図12A)。すべての抗GPVI Fab治療群において、149.5時間の時点で判定した血小板数は、次の値を示した:0.01mg/kg 抗GPVI Fabでの411×10/μL、0.1mg/kg 抗GPVI Fabでの329×10/μL、1mg/kg 抗GPVI Fabでの321×10/μL、および3mg/kg 抗GPVI Fabでの320×10/μL(図12B−E)。判定した他のすべての血液学パラメータ、ヘマトクリット、赤血球数およびヘモグロビンは、実験の時間経過を通じて実質的に変わらなかった(データは示さない。)。
【0205】
これらのデータは、GPVI Fabが血液学の生理状態に影響を及ぼさないことを立証する。
【0206】
7.GPVI受容体発現
図13に示すように、抗GPVI Fabのiv投与前、すべての血小板はGPVI発現について陽性であった(投薬前)。薬物投与後に採取した血液では、GPVIに対する特異的シグナルを血小板表面で観察することができなかった(24時間)。薬物投与後48時間の時点で開始して、新たな血小板集団が発生し、これらはGPVI陽性である。薬物投与の150時間後、すべての血小板はGPVI受容体発現に対して再び陽性であった。
【0207】
この実験は、GPVI Fabが血小板上のGPVI受容体枯渇を誘導することおよびこの効果が可逆的であったことを確証する。
【0208】
[実施例5]
自己抗体による認識によるFabフラグメント特性の修飾
A ドナー血漿における活性化性成分の判定
抗GPVI Fabの活性化性効果にとっての血漿中に存在するIgGの重要性を調査するために、51の異なる血液試料を試験した。活性化性と同定された試料のIgGを、プロテインAを使用して枯渇させた。
【0209】
これらの実験については、血液を20μg/mLヒルジンで抗凝固剤処置し、血漿の調製(10分間、1600gでの血液試料の遠心分離)に直ちに使用した。その後、プロテインAを使用して4℃で2時間、血漿のIgGを枯渇させた。プロテインAを遠心分離によって除去し、血小板を2×10E8/mLの最終濃度で添加した。抗GPVI−Fabフラグメントを20μg/mLで使用した。血漿試料をFabフラグメントまたはコンブルキシン(または「cvx」、GPVI特異的アゴニスト)と共に15分間インキュベートし、その後、FITC標識Pac−1抗体(血小板活性化マーカーである、活性化GPIIbIIIaに特異的)で30分間、染色した。その後、パラホルムアルデヒドを使用して試料を固定し、フローサイトメーター(BD LSR II)で血小板のPac−1標識を判定した。
【0210】
図14からわかるように、対照パネルに関して、プロテインAでの血漿の処置は、GPVI特異的アゴニストコンブルキシン(cvx)による血小板活性化に対して影響を及ぼさなかった。しかし、図14、パネルAは、IgG枯渇後にFabの活性化性効果が大きく低減されたことを示しており、既形成IgGがこの応答にとって不可欠な成分であることを示唆している。
【0211】
B 修飾抗GPVI−Fabフラグメント曝露(exposer)後の血小板活性化マーカーの発現の判定
Fabによる血小板活性化の活性化に関する血漿IgGの役割をさらに調査するために、重および軽鎖(HCおよびLC)配列は同一であるが重鎖のC末端修飾が異なる種々のFabフラグメントを使用した。
【0212】
使用した4つの異なる分子を下で説明し、図15に図示する。
【0213】
Fab:HC上に追加のC末端アミノ酸のない対照分子(図15A)
Fab−Hisタグ:C末端Hisタグを加えた自然に存在する配列に相当する、HC上にHisHisHisHisHisペプチド配列(配列番号:35)を有するもの(図15B)
Fab−Gly4Ser:C末端Gly4Serタグを加えた自然に存在する配列に相当する、Hc上にGlyGlyGlyGlySerペプチド配列(配列番号:36)を有するもの(図15C)
Fab−(Gly4Ser)2:C末端(Gly4Ser)2タグを加えた自然に存在する配列に相当する、Hc上にGlyGlyGlyGlySerGlyGlyGlyGlySerペプチド配列(配列番号:36)を有するもの(図15C)
【0214】
図14、パネルBに図示するように、修飾Fabは、IgG枯渇がなかったとしても、活性化性のものを一切誘導せず、このことは、修飾Fabが既形成IgGによって認識されないことを示唆する。
【0215】
これらの実験については、血液を20μg/mLヒルジンで抗凝固剤処置し、直ちに使用した。抗GPVI−Fabフラグメントを20μg/mLで使用した。血液試料(1−51)をFabフラグメントと共に15分間インキュベートし、その後、FITC標識Pac−1抗体(血小板活性化マーカーである、活性化GPIIbIIIaに特異的)で30分間染色した。その後、パラホルムアルデヒドを使用して試料を固定し、フローサイトメーター(BD LSR II)で血小板のPac−1標識を判定した。
【0216】
4Fab形式の活性化性潜在能力を51の異なる血液試料に関して試験した。オーバーハングを有さないFabは、23試料(42%に相当する。)においてPac−1結合の有意な増加(>5倍と定義する。)を誘導した。対照的に、下の表19からわかるように、HCのC末端が修飾されたFabのほうがこの試験でははるかに活性が低く、Fab−HisタグおよびFab−Gly4Serは、1つの試料でしか活性を示さず、Fab−(Gly4Ser)2(最長C末端伸長)は、閾値を超えて活性でなかった。この差別的活性化性パターンは、小さな活性化(基礎値に対して2−5倍)の場合にも反映される。これらの結果は、活性化がHC鎖のC末端修飾によって大きく低減されたので、このアッセイにおけるFabフラグメントの活性化性潜在能力が抗原結合CDR配列によって決定されるのではなくHC C末端に存すると考えられることを示した。従って、これらの結果は、FabのC末端先端部が患者の血液中に既存するIgGによって認識されたこと、この認識によって血小板活性化が誘導されることを示唆している。
【0217】
【表19】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトGPVIに特異的に結合する、およびGPVI枯渇表現型を誘導する、抗体Fabフラグメント。
【請求項2】
ヒトGPVIの配座エピトープを結合する、ならびにSer43、Arg67およびAsp81を含むヒトGPVI残基と接触する、請求項1の抗体Fabフラグメント。
【請求項3】
(a)配列番号:18、配列番号:19および配列番号:20によって定義されるアミノ酸配列を有する重鎖可変領域(HCVR)の相補性決定領域(CDR)と
(b)配列番号:21、配列番号:22および配列番号:23によって定義されるアミノ酸配列を有する軽鎖可変領域(LCVR)の相補性決定領域(CDR)と
を含み、
GPVIエピトープ残基との接触を直接分断することなく各CDRの少なくとも2つのアミノ酸残基を別のアミノ酸残基に変更することができる、
請求項1または2の抗体Fabフラグメント。
【請求項4】
配列番号6の重鎖および配列番号8の軽鎖を含む、またはこれらの配列との少なくとも80%の同一性を有する配列を、該抗体Fabフラグメント結合特異性が維持される限り含む、請求項1から3のいずれか一項の抗体Fabフラグメント。
【請求項5】
ヒト化されたものである、請求項1から4のいずれかの抗体Fabフラグメント。
【請求項6】
前記ヒト化Fabフラグメントが、
(a)LCVF(配列番号15)とHCVR(配列番号10);
(b)LCVF(配列番号15)とHCVR(配列番号11);
(c)LCVF(配列番号15)とHCVR(配列番号12);
(d)LCVF(配列番号15)とHCVR(配列番号13);
(e)LCVF(配列番号15)とHCVR(配列番号14);
(f)LCVF(配列番号16)とHCVR(配列番号11);
(g)LCVF(配列番号17)とHCVR(配列番号11);および
(h)LCVF(配列番号17)とHCVR(配列番号13)
から成る群から選択される、重鎖可変領域(HCVR)アミノ酸配列と軽鎖可変領域(LCVR)アミノ酸配列の組み合わせを含む、請求項5の抗体Fabフラグメント。
【請求項7】
改変Fabフラグメントであって、ヒト化重鎖(HC)アミノ酸配列とヒト化軽鎖(LC)アミノ酸配列の組み合わせを含み、該ヒト化重鎖が、追加のアミノ酸残基を含むc末端伸長部をさらに含み、および該c末端伸長部が、抗Fab抗体による認識を防止するものである、改変Fabフラグメント。
【請求項8】
前記c末端伸長部が、配列番号:35、配列番号:36および配列番号:37から成る群から選択される、請求項7の改変Fabフラグメント。
【請求項9】
前記Fabフラグメントが、請求項1から6のいずれか一項において定義したとおりである、請求項7または8の改変Fabフラグメント。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項において定義したとおりの抗体Fabフラグメントと医薬的に許容される担体または賦形剤とを含む医薬組成物。
【請求項11】
ポリヌクレオチドであって、配列番号6、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11、配列番号12、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16および配列番号17に存する群から選択されるポリペプチドをコードするまたは、該ポリペプチドが該ペプチドの結合特異性を保持する限り、これらの配列との少なくとも80%の同一性を有する配列をコードするものであるポリヌクレオチド。
【請求項12】
請求項1から9のいずれか一項において定義したとおりの抗体Fabフラグメントの調製方法であって、
a.請求項1から9において定義したとおりの抗体Fabフラグメントを発現する細胞系の培養
b.培養基において発現されたFabフラグメントの精製
c.適便な形態での前記Fabフラグメントの調合
の工程を含む方法。
【請求項13】
血栓性疾患および血管疾患を予防または治療するために使用するための、請求項1から9において定義したとおりの抗体Fabフラグメント。
【請求項14】
前記抗体Fabフラグメントの前記c末端先端部を分子の付加によりマスクすることに存する、既存する抗体による抗体Fabフラグメントの認識の防止方法。
【請求項15】
前記抗体Fabフラグメントの前記c末端先端部を分子の付加によりマスクすることに存する、抗GPVI Fabを使用するときの血小板活性化の防止方法。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図5C】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7A】
image rotate

【図7B】
image rotate

【図7C】
image rotate

【図7D】
image rotate

【図7E】
image rotate

【図7F】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12A】
image rotate

【図12B】
image rotate

【図12C】
image rotate

【図12D】
image rotate

【図12E】
image rotate

【図13A】
image rotate

【図13B】
image rotate

【図13C】
image rotate

【図13D】
image rotate

【図13E】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公表番号】特表2013−514077(P2013−514077A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543988(P2012−543988)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【国際出願番号】PCT/IB2010/055917
【国際公開番号】WO2011/073954
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(504456798)サノフイ (433)
【Fターム(参考)】