説明

Ga含有窒化物半導体の製造方法

【課題】気相成長装置の成長室内の基板以外の部分へのGa含有窒化物の随伴的な付着、特に厚膜形成を行いたい場合の当該Ga含有窒化物の随伴的な付着を防止することにより当該付着による様々な問題を解消し、且つ基板上へのGa含有窒化物半導体の成長が阻害されることなく、生産性が高いGa含有窒化物半導体の製造方法を提供する。
【解決手段】ガリウム化合物を含む第一ガスと、窒素化合物を含む第二ガスを、気相成長装置の成長室内へ供給して、成長室内に設置した基板上にGa含有窒化物半導体を成長させるGa含有窒化物半導体の製造方法であって、第一ガス及び第二ガスを成長室内へ供給している期間において、平均の成長速度が66μm/h以上となるように、特定の供給量となるHClガスを含む第三ガスを前記第一ガスの供給口とは別の供給口から前記成長室内へ供給することを特徴とするGa含有窒化物半導体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ga含有窒化物半導体を気相成長法により製造する方法に関し、特に、発光ダイオード、半導体レーザー、電子デバイス等の半導体デバイスの基板として好適に用いることができるGa含有窒化物半導体であって、結晶欠陥が少なく、かつ良質な結晶性を備えたGa含有窒化物半導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Ga含有窒化物半導体はIII−V族窒化物半導体の一種であり、大きなバンドギャップを有し、またバンド間遷移が直接遷移型であることから、紫外、青色又は緑色等の発光ダイオード、レーザーダイオード等の比較的短波長側の発光素子や、電子デバイス等の半導体デバイスの基板として有望な材料である。
Ga含有窒化物半導体は、ハイドライド気相成長法(HVPE)や有機金属化学気相成長法(MOCVD)等の気相成長法によって製造することができる。Ga含有窒化物半導体として、窒化ガリウム半導体の単純なウェハーを製造したい場合には、例えば、サファイア等の基板を気相成長装置の成長室内に積置し、該成長室内にガリウム化合物を含有するガスと、窒素化合物を含有するガスを供給することで、基板上に窒化ガリウム半導体を数μm〜数cmの厚さにまで成長させる。また、窒化ガリウム半導体を一部に含む半導体ウェハーを製造したい場合には、例えば、サファイア等の基板を気相成長装置の成長室内に積置し、上記と同様の方法で窒化ガリウム半導体を形成するが、その成長工程の前後に、半導体装置の構成に応じて他の半導体単結晶膜または他材料の機能膜を形成し、必要に応じてエッチング等の加工を行う。
【0003】
従来、Ga含有窒化物半導体を気相成長法によって製造する際に、基板以外の場所に窒化ガリウムが随伴的に付着するという問題があった。本発明において「随伴的に付着」とは、気相成長装置の成長室内において、Ga含有窒化物半導体を成長させる必要のない場所又は成長させると不都合な場所に窒化ガリウムが堆積し、付着することを意味する。
具体的には、Ga含有窒化物の成長が進んで比較的厚膜になると、基板を載置したサセプターに非常に多量のGa含有窒化物が随伴的に付着するため、ウェハーがサセプターに固定されてしまう。この時にサセプターの温度を降下させると、サセプターの材質とGa含有窒化物の熱膨張係数の差により、ウェハーがダメージを受けてクラックが発生したり、ひどい場合には割れてしまうことがあった。
さらに、このような条件下で成長を続けると、成長室の内壁にもGa含有窒化物が随伴的に付着する。この状態で降温させると、リアクターの内壁のGa含有窒化物が付着した部分の石英部材が、熱膨張係数の違い等により破損してしまうので、HVPE装置を何度も繰り返し使用することができなかった。
また、成長室内のサセプター近傍や内壁に多量のGa含有窒化物が随伴的に付着していると、供給されたガスが該随伴的なGa含有窒化物の表面にさらに付着しやすくなり、ウェハー上の堆積が阻害されるので、成長が進むにつれて窒化ガリウムの成長速度が低下し、充分な膜厚に到達しにくくなるという問題もあった。
【0004】
さらに、縦型のHVPE装置は、成長室の軸方向が重力方向と平行になるため、成長室内において、ガスの流れる方向と、空気が熱対流により昇降する方向が一致し、且つ、成長室を取り囲むように配置された加熱器が、それらの方向と平行になるため、ガスの流れる方向に対して垂直の面内の領域における温度分布が、横型の装置に比べて優れている。縦型のHVPE装置には、装置の占有床面積が少なく、少ない面積で沢山の炉を並べられるため、量産炉として適しているというメリットもある。
しかし、その一方で縦型のHVPE装置には、Ga化合物ガスの供給口付近に窒化ガリウム(GaN)やガリウム(Ga)等が付着し、それらの液滴がウェハー上に落下する、いわゆる「ごみ落ち」が発生するという問題があった。この問題は、厚膜達成のために高速成長を行う場合に特に顕著であるが、Ga化合物ガスの供給量を落としても皆無とはならなかった。
【0005】
サセプターや成長室内壁に随伴的に付着したGa含有窒化物は、硫酸と燐酸の混合物等のエッチング液を用いるウェットエッチングにより除去できる。しかし、ウェットエッチングによる除去は成長室内の温度を降下させた後に行うので、上述したような温度降下時におけるウェハーや成長室内壁のダメージを防止することができない。
また、サセプターや成長室内壁を、Ga含有窒化物が付着し難い材質(PBN(Pyrolytic Boron Nitride);熱分解窒化ホウ素)やTaC(炭化タンタル)とすることで、Ga含有窒化物の随伴的付着を防止することができる。しかし、このような材質を使用すると基板上に堆積させるGa含有窒化物半導体膜中に不純物が混入し、欠陥発生等でウェハーに悪影響を与える可能性がある。
さらに、縦型のHVPE装置を用いる場合のガス供給口からのごみ落ちの問題は、成長室内のウェハー上に傘を設置することで解消できるが、Ga含有窒化物半導体は気相成長中では、成長するための温度が高いため、ウェハーより上流に障害物を設置すると、原料ガスが早くから分解/合成し、原料ガスが分子状態のままで基板の位置まで到達しづらくなるため、成長効率が非常に低下するばかりではなく、基板上でのGa含有窒化物半導体の膜厚や膜質の分布のばらつきも発生するという別の問題が生じる。そのため、ウェハー上に傘を設置するという方法は、あまり良い対策とは言えない。
【0006】
特許文献1には、GaN気相成長装置の成長室内へ、窒化ガリウム(GaN)の成長中にHClガスを供給することにより、基板以外の場所への付着物を除去するとともに、均一な表面を得るHClの供給量を得たことが記述されている。
【0007】
非特許文献1及び非特許文献2には、GaAs系半導体を気相成長させる際に、フリーHClガスを単独のラインで成長室へ供給することによって、ファセット制御を行うことが開示されている。しかし、これらの文献には、窒化ガリウム(GaN)の気相成長については何も記載されていない。また、半導体の随伴的付着によるウェハーや成長室内壁のダメージ及び成長速度の低下、或いは、厚膜形成時のウェハー上へのごみ落ちを防止することについて、これらの文献には何も記載されていない。
【0008】
特許文献2には、III族−V族化合物の単結晶薄膜、特にGaAs1−X単結晶薄膜を気相成長させる際に、Ga等のIII族元素の輸送に関与しない塩化水素を、装置内に供給される全ガスに対し所定の流量比で、基板の載置部の上流側に供給することを開示している。しかし、特許文献1には、GaAs1−X単結晶薄膜の成長を行った実施例が記載されているだけであり、窒化ガリウム(GaN)の気相成長については実際には行われていない。また、特許文献1に開示された方法は、塩化水素を基板の載置部の上流側に供給することによって、ウェハー表面でのピット、ヒルロック、ピラミッド等といった異常成長を防止し、平坦性に優れたウェハーを得ることを目的とするが、多結晶の生成によるウェハーや成長室内壁のダメージ及び成長速度の低下、或いは、厚膜形成時のウェハー上へのごみ落ちを防止することについて当該文献には何も記載されていない。
【0009】
特許文献3には、InGaAlN(x+y+z=1)で表される3族−5族化合物半導体を有機金属気相成長法により製造する際に、HClガスを用いて予め基板表面をエッチングした後に気相成長を行うことが開示されている。しかし、特許文献3には、窒化ガリウム(GaN)の気相成長については記載されていない。また、特許文献3に開示された方法は、気相成長工程の前に塩化水素を用いて基板をエッチングすることによって、鏡面性に優れたウェハーを得ることを目的とするが、半導体の随伴的付着によるウェハーや成長室内壁のダメージ及び成長速度の低下、或いは、厚膜形成時のウェハー上へのごみ落ちを防止することについて当該文献には何も記載されていない。
【0010】
特許文献4には、気相成長法によって、基板上に下地層となるAlGaN層と、その上にさらにGaN層を形成した後、ハロゲンガス及びハロゲン化合物ガスのうち少なくとも一方からなる第1ガスと、水素ガス及び不活性ガスのうち少なくとも一方からなる第2ガスと酸化性ガスとの混合ガスからなるエッチングガスを用い、上側のGaN層だけを選択的にエッチングすることが開示されている。当該文献4に開示された方法は、下地層がアルミニウムを含む化合物半導体であり、上層がアルミニウムを含まない化合物半導体の層である場合に、上層を選択的にエッチングすることを目的とするが、半導体の随伴的付着によるウェハーや成長室内壁のダメージ及び成長速度の低下、或いは、厚膜形成時のウェハー上へのごみ落ちを防止することについて当該文献には何も記載されていない。
【0011】
特許文献5には、アグレッシブガスを用いてウェハーを高温コーティングするためのシステムないしは方法において有利に使用される特有なウェハーサポートの製造方法が開示されている。しかし、この特許文献には、従来公知のエッチングプロセスが開示されているのみであり、半導体の随伴的付着によるウェハーや成長室内壁のダメージ及び成長速度の低下、或いは、厚膜形成時のウェハー上へのごみ落ちを防止することについて当該文献には何も記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許6632725号公報
【特許文献2】特開昭59−203800号公報
【特許文献3】特開2003−347226号公報
【特許文献4】特開2000−164926号公報
【特許文献5】特表2003−543615号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Journal of Crystal Growth, 107, 1991, p767-771
【非特許文献2】Journal of Crystal Growth, 145, 1994, p277-282
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1のような方法は、Ga含有窒化物のリアクターやサセプターへの付着を防ぐことが可能である。しかし、本発明者らは、このような方法では基板上へのGa含有窒化物半導体の成長を阻害する点から、生産性が悪いことを発見した。
本発明の目的は、Ga含有窒化物半導体を製造する方法において、気相成長装置の成長室内の基板以外の部分へのGa含有窒化物半導体の随伴的な付着、特に厚膜形成を行いたい場合の当該Ga含有窒化物の随伴的な付着を防止することにより当該付着による様々な問題を解消し、且つ基板上へのGa含有窒化物半導体の成長が阻害されることなく、生産性が高いGa含有窒化物半導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のGa含有窒化物半導体の製造方法は、ガリウム化合物を含む第一ガスと、窒素化合物を含む第二ガスを、気相成長装置の成長室内へ供給して、当該成長室内に設置した基板上にGa含有窒化物半導体を成長させるGa含有窒化物半導体の製造方法であって、
前記第一ガス及び前記第二ガスを前記成長室内へ供給している期間において、平均の成長速度が66μm/h以上となるように、分圧で5.0×10−5〜1.3×10−3atmの供給量となるHClガスを含む第三ガスを前記第一ガスの供給口とは別の供給口から前記成長室内へ供給することを特徴とするものである。
本発明のGa含有窒化物半導体の製造方法によれば、原料ガスを含む第一ガス及び第二ガスとは別に、エッチング作用のあるHClガスを含む第三ガスを、基板上での成長を大きく阻害しないように少量だけ成長室内へ供給する。基板は本質的にGa含有窒化物半導体の結晶が成長しやすい材質であるため、基板表面での結晶成長速度は比較的大きい。これに対して、成長室内の基板以外の部分は本質的に結晶が成長しにくい材質であり、そのような部分での結晶成長速度は比較的小さい。そこで、第一ガス及び第二ガスを前記成長室内へ供給している期間において、HClガスの供給量を調節することによって、基板上での結晶成長に対しては大きな影響を与えない範囲で、基板以外の場所では付随的付着の阻止に対して充分に有効なエッチング作用が得られる。その結果、基板周囲のサセプターや成長室内壁の表面等、基板以外の部分に窒化ガリウムを付着させることなく、窒化ガリウム半導体を位置選択的に基板上に成長させることができる。
【0016】
本発明のGa含有窒化物半導体の製造方法は、前記第一ガス及び前記第二ガスを供給している全期間に、前記第三ガスを供給することがより好ましい。
また、本発明のGa含有窒化物半導体の製造方法は、上記第三ガス供給口が、上記第一ガス供給口よりも供給ガスの流れの上流側に配置されていることが、第一ガス供給口に付着するガリウムの液滴を第三ガスで除去し、基板上へのゴミ落ちを防止できる点から好ましい。
本発明においては、成長速度を66〜111μm/hとすることが、成長工程の全期間における成長速度の低下を抑制することができる点から好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のGa含有窒化物半導体の製造方法によれば、Ga含有窒化物半導体を気相成長法によって位置選択的に基板上に成長させることができるので、随伴的付着による原料ガスのロスが少なく、基板上におけるGa含有窒化物半導体の堆積効率が向上する。また、随伴的付着の加速度的増加を防止するため、基板上でのGa含有窒化物半導体の成長速度は途中で低下することなくほぼ一定に維持されるから、成長速度が大きく、且つ、膜厚制御性に優れている。従って、Ga含有窒化物半導体の厚膜や大きな単結晶を容易に得ることができる。
【0018】
また、随伴的付着が防止されると、随伴的な付着部分での反応によるHClの副生も抑制されるため、基板上に生成した窒化ガリウム半導体の副生HClによるエッチングが抑制される。その結果、基板上にファセット(結晶成長)が優先的に発生し、特にc面ファセットが平坦になり、ウェハー表面のモフォロジーが良好になり、ウェハー表面が鏡面になる。従って、得られる窒化ガリウム半導体の表面モフォロジーや鏡面性がよい。
【0019】
また、本発明のGa含有窒化物半導体の製造方法は、成長室内の基板以外の部分にGa含有窒化物が随伴的に付着するのを抑制できることから、得られたGa含有窒化物ウェハーがサセプターに固定され、結晶成長終了後にサセプター温度を下げる過程でダメージを受けたり、同様に成長室内部の温度を下げる過程で成長室の内壁がダメージを受けたりする現象が起きにくい。
従って、Ga含有窒化物半導体を成長させた基板のひび割れが起きず、成長室やサセプターの耐用期間も長寿命化することができる。また、成長室内の基板以外の部分に付着したGa含有窒化物を除去する作業を少なくすることができる。
【0020】
更に、本発明のGa含有窒化物半導体の製造方法によれば、縦型のHVPE用の気相成長装置を用いる場合、HClガスを供給する第三ガス供給口を、ガリウム化合物を供給する第一ガス供給口よりも上流に配置することにより、第一ガス供給口に付着するガリウムの液滴を除去できるため、ごみ落ちが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明で使用する縦型の気相成長装置の概念図の一例である。
【図2】本発明で使用する横型の気相成長装置の概念図の一例である。
【図3】本発明で使用するハイドライド気相成長法(HVPE)用の気相成長装置の概念図の一例である。
【図4】本発明で使用する有機金属化学気相成長法(MOCVD)用の気相成長装置の概念図の一例である。
【図5】実施例2で得られた結晶の表面光学顕微鏡写真である。
【図6】比較例2で得られた結晶の表面光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明により提供されるGa含有窒化物半導体の製造方法は、ガリウム化合物を含む第一ガスと、窒素化合物を含む第二ガスを、気相成長装置の成長室内へ供給して、当該成長室内に設置した基板上にGa含有窒化物半導体を成長させるGa含有窒化物半導体の製造方法であって、前記第一ガス及び前記第二ガスを前記成長室内へ供給している期間の少なくとも一部において、下記式(1)または式(2)を満たすように、HClガスを含む第三ガスを前記第一ガスの供給口とは別の供給口から前記成長室内へ供給することを特徴とするものである。
式(1) 1%≦(成長速度(A)−成長速度(B))/成長速度(A)≦20%
式(2) 1%≦(成長速度(A)−成長速度(C))/成長速度(A)≦20%
(成長速度(A):第一ガス及び第二ガスを成長室内へ供給することを開始してから1時間の間における基板上でのGa含有窒化物半導体の成長速度。
成長速度(B):第一ガス及び第二ガスを成長室内へ供給している全期間における基板上でのGa含有窒化物半導体の成長速度。
成長速度(C):第一ガス及び第二ガスを成長室内へ供給することを開始してから、第一ガスまたは第二ガスの供給を終了するまでのいずれかの時点までの期間における基板上でのGa含有窒化物半導体の成長速度。)
【0023】
本発明に係るGa含有窒化物半導体は、ハイドライド気相成長法(HVPE)や有機金属化学気相成長法(MOCVD)等の気相成長法を用いて製造される、主にGa含有窒化物半導体単結晶膜であるが、その形状は膜状に限られず塊状でも良く、また、その結晶性は単結晶に限られず多結晶でも良い。
Ga含有窒化物半導体結晶は、Gaと窒素を含有する半導体であれば特に制限はないが、特にBAlGaIn1−x−y−zN(式中、0≦x≦1、0≦y<1、0<z≦1)で表される組成であることが好ましい。ここで、xは好ましくは0≦x≦0.5、特に好ましくは0≦x≦0.25であり、yは好ましくは0≦y≦0.75、特に好ましくは0≦y0.5であり、zは好ましくは0.5≦z≦1、特に好ましくは0.75≦z≦1である。
例えば、GaN、InGa1−xN(0≦x<1)、GaAl1−xN(0≦x<1)で表される結晶等が挙げられ、特に一般式(AlGa1−xIn1−yN(0≦x<1、0≦y≦1)で表される結晶であることが最も好ましい。
【0024】
本発明により得られるGa含有窒化物半導体は、第一ガスから供給されるガリウム化合物と第二ガスから供給される窒素化合物を成長室内の基板上で反応させることにより得られるものである。
第一ガスは少なくともガリウム化合物、第二ガスは少なくとも窒素化合物をそれぞれ含有するが、Ga、N以外の元素を含むGa含有窒化物半導体を製造する場合は、所望の組成の結晶を得るために必要な原料化合物を加えた第一ガス及び第二ガスとする。当該ガリウム化合物、当該窒素化合物、及び当該原料化合物を基板上で反応させることにより所望のGa含有窒化物半導体を得ることができる。
一方、第三ガスは、Ga含有窒化物半導体に対してエッチング作用を有するHClガスを含有するガスである。第三ガスとしては、HClガスのほかには如何なる反応性ガスも実質的に含んでいないものを用いる。第一ガスは、ガリウム単体からガリウム化合物を生成させる予備処理のために用いたHClガスやHCl以外のハロゲン原子含有ガスを含有している場合がある。このような第一ガスの予備処理に用いられるハロゲン原子含有ガスには、エッチング作用を有するものが多い。これに対して、第三ガスに含有されるHClガスは、第一ガスの供給口とは別の供給口から成長室内へ供給されるFree−HClガスであり、第一ガスに混入している場合があるハロゲン原子含有ガスとはプロセス上区別される。
【0025】
本発明においては、原料ガスを含む第一ガス及び第二ガスとは別に、エッチング作用のあるFree−HClガスを含む第三ガスを、基板上での成長を大きく阻害しないように少量だけ成長室内へ供給する。
基板は本質的にGa含有窒化物半導体の結晶が成長しやすい材質であり、基板表面での結晶成長速度は比較的大きい。これに対して、成長室内の基板以外の部分は本質的に結晶が成長しにくい材質であり、そのような部分での結晶成長速度は比較的小さい。そこで、Free−HClガスを含む第三ガスの供給量を調節することによって、基板上での結晶成長に対しては大きな影響を与えない範囲で、基板以外の場所では付随的付着の阻止に対して充分に有効なエッチング作用が得られる。その結果、基板の周囲のサセプターや成長室の内壁の表面等、基板以外の部分にGa含有窒化物を付着させることなく、Ga含有窒化物半導体を位置選択的に基板上に成長させることができる。
【0026】
本発明においては、第一ガス及び第二ガスを成長室内へ供給している期間の少なくとも一部において、下記式(1)または式(2)を満たすように、HClガスを含む第三ガスを第一ガスの供給口とは別の供給口から前記成長室内へ供給する。
式(1) 1%≦(成長速度(A)−成長速度(B))/成長速度(A)≦20%
式(2) 1%≦(成長速度(A)−成長速度(C))/成長速度(A)≦20%
(成長速度(A):第一ガス及び第二ガスを成長室内へ供給することを開始してから1時間の間における基板上でのGa含有窒化物半導体の成長速度。
成長速度(B):第一ガス及び第二ガスを成長室内へ供給している全期間における基板上でのGa含有窒化物半導体の成長速度。
成長速度(C):第一ガス及び第二ガスを成長室内へ供給することを開始してから、第一ガスまたは第二ガスの供給を終了するまでのいずれかの時点までの期間における基板上でのGa含有窒化物半導体の成長速度。)
【0027】
式(1)は、第一ガスと第二ガスの成長室内への供給を開始してから1時間の間における基板上での窒化ガリウム半導体の成長速度(初期成長速度)に対する、前記第一ガスと前記第二ガスを前記成長室内へ供給している全期間(成長工程の全期間)における上記基板上での窒化ガリウム半導体の平均成長速度の低下が1〜20%の範囲内であることを意味し、好ましくは5〜20%、更に好ましくは10〜20%となる範囲内で、第三ガスを供給する。
【0028】
また、式(2)は、成長工程進行中のランダムに選ばれる時点において、初期成長速度に対する、その時点までの平均成長速度の低下が1〜20%の範囲内であることを意味し、好ましくは5〜20%、更に好ましくは10〜20%となる範囲内で、第三ガスを供給する。
すなわち、前記第一ガスと前記第二ガスの前記成長室内への供給開始1時間経過後から、該第一ガスと該第二ガスの供給を終了するまでのいずれの時点においても、該第一ガスと該第二ガスの該成長室内への供給を開始してから1時間の間における該基板上での窒化ガリウム半導体の成長速度に対する、各時点までの該第一ガスと該第二ガスの該成長室内への供給開始から各時点までの間における該基板上での窒化ガリウム半導体の成長速度の低下が上記範囲内となるように、第三ガスの供給量を調節する。
【0029】
第三ガスの供給量は、第三ガス中のFree−HClガス供給量に換算することができる。第三ガスの供給量が大きすぎる場合には、第三ガス中のFree−HClガスによるエッチング作用によって基板上での成長速度が遅くなる恐れがある。一方、第三ガスの供給量が小さすぎる場合には、成長室内の基板上以外の部分に窒化ガリウムの随伴的な付着が起きやすいため、基板上での成長速度が成長工程中に加速的に遅くなる恐れがある。従って、第三ガスの供給量が大きすぎても、また、小さすぎても、基板上での成長速度が遅くなってしまう。
【0030】
上記第三ガスは、第一ガス及び第二ガスを供給している期間(いわゆる成長工程)の少なくとも一部の期間において成長室内へ供給される。第一ガスと第二ガスを供給している期間の少なくとも一部の期間とは、当該ガスが成長室内に供給されて基板上に窒化ガリウム半導体が成長している期間のうち少なくとも一部の期間のことである。本発明においては、第一ガスと第二ガスを供給している全期間を通じて第三ガスを供給することが好ましい。尚、第一ガスと第二ガスの供給停止後、降温工程の前において、Free−HClガスを含む第三ガスを流し続けてエッチングを行っても良い。
【0031】
第一ガス及び第二ガスとしては、原料化合物のみからなるガスを用いても良いが、通常、当該原料化合物のほかに、キャリアガスとしてHガス、不活性ガス(Nガス、アルゴンガス等)を混合して成長室内へ供給する。第三ガスも同様であり、通常はHClガスを上記キャリアガスで希釈して成長室内へ供給する。この他、Hガス、不活性ガス(Nガス、アルゴンガス等)をキャリアガス又は雰囲気ガスとして、第一乃至第三ガス供給口とは別個独立の供給口から成長室内へ供給してもよい。別の供給口から成長室内へキャリアガス(雰囲気ガス)を供給し、流量を増加させることによって、成長室内壁やサセプターへの窒化ガリウムの随伴的な付着を更に軽減することができる。上記各供給口は、必要に応じてそれぞれ複数設けられていてもよい。
【0032】
この気相成長法で使用する気相成長装置の概念図の一例を図1に示す。成長室(リアクター)2内部に、ガリウム化合物、及び必要に応じて所望の組成を有する結晶を得るための原料化合物を含む第一ガスを成長室内に供給するための供給口(第一ガス供給口)6、及び窒素化合物を含む第二ガスを成長室内に供給するための供給口(第二ガス供給口)7、及びこれらの供給管とは別個独立したHClガスを成長室内に供給するための第三ガス供給口8を少なくとも備える。また、第一ガス供給口6及び第二ガス供給口7から供給されるガスの流れの下流に、GaNを堆積させるための基板12を設置することができるサセプター3が配置される。また、基板12で反応後の排ガスを排気するための排気ポート13が設けられる。更に、排気配管には成長室の圧力を制御する圧力制御弁(図示せず)が設けられていてもよい。
【0033】
図1において、成長室の内部には、供給ガスの流れの上流側から、第三ガス供給口8、第一ガス供給口6、第二ガス供給口7、サセプター3の順に配置されている。
第三ガス供給口8は、第一ガス供給口6よりも供給ガスの流れの上流側に配置することが好ましい。このようにすることで、HClガスを含む第三ガスが成長室内を流れていく途中で、第一ガス供給口6に接触し易くなるので、第一ガス供給口付近に発生するGa含有窒化物やガリウム等の金属単体の液滴を、第三ガスに含まれるHClガスと反応させて、塩化ガリウム(GaCl)ガスに変化させることができる。
これにより、特に縦型のHVPE用気相成長装置を用いて窒化ガリウム半導体を製造する場合には、第一ガス供給口から窒化ガリウム半導体上へのゴミ落ちを防止することができる。
また、第二ガス供給口7は、第一ガス供給口6よりも供給ガスの流れの下流側に配置することが好ましい。このようにすることで、第一ガス供給口6に窒素化合物を含む第二ガスが接触しにくくなるので、第一ガス供給口付近でのガリウム等の金属液滴の発生が少なくなる。これにより、やはり第一ガス供給口から窒化ガリウム半導体上へのゴミ落ちを防止することができる。
【0034】
原料ガスである第一及び第二ガスは、基板近傍での原料ガス濃度が高く、均一に混合され、且つ、ガリウム化合物が分解する前に基板上に到達することが好ましい。このため、各供給口の形状は供給口から短い距離で濃度分布がなくなるように、例えばラッパやシャワーのような末広がり形状とし、供給口の径の大きさはできるだけ流速を大きくするために、例えば5mmφ程度に小さくする。また、供給口の向きはガスの流れに乱れが生じないように、できるだけ成長室の内壁に沿う向きに流す。
【0035】
サセプターの大きさや形状は、成長室内部のガスの流れを乱さなければ問わない。サセプターの材質は、例えば炭化珪素(SiC)、カーボン、PBN、SiCをコーティングされたカーボン等、Free−HClを流すことによりウェハー上にGa含有窒化物半導体が成長できるが、サセプター表面にGa含有窒化物が選択的に成長しないような材質を適宜選定することができる。
サセプターは成長室から取り外し可能であり、搬送のための基板キャリアとしても機能する。また、サセプターは、成長室内でのGa含有窒化物半導体の成長速度の場所依存性を少なくする点から、回転機構を有することが好ましい。
成長室の内壁は、供給ガスがサセプター上の基板に達するまでのガスの流れに乱れを生じさせず、できるだけ成長室の内壁に同じガスが何度も触れないように流れるような形状であれば、基板の枚数、大きさ等により適宜選択することができる。
【0036】
更に、上記気相成長装置は、結晶成長方法に応じた温度制御を行うため、適当な加熱装置(図示せず)を備える。通常、結晶成長時には基板表面の温度が950〜1100℃程度になるように加熱する。
本発明で用いる基板は、特に限定されるものではないが、Ga含有窒化物半導体を成長させるための基板であることが望ましく、例えば、サファイア(0001)基板、当該サファイア(0001)基板上にMOCVD法等でZnOバッファー層やGaNバッファー層を堆積させたウェハー、当該バッファー層上に更にGaNを堆積したウェハー等を用いることができ、中でも当該バッファー層上に更にGaNを堆積したウェハーが好ましい。
尚、成長装置は図1に示すような縦型のものでも、図2に示すような横型のものであってもよい。
【0037】
このような気相成長装置を用いる本発明のGa含有窒化物半導体の製造方法によれば、Ga含有窒化物半導体を気相成長法によって位置選択的に基板上に成長させることができるので、随伴的付着による原料ガスのロスが少なく、基板上におけるGa含有窒化物半導体の堆積効率が向上する。
随伴的付着が一旦発生した部分は、さらにGa含有窒化物半導体が付着しやすくなるので、さらに多量の随伴的付着を引き起こし、成長速度が低下したり、その低下率の予測を困難にしたりする。これに対して、本発明のGa含有窒化物半導体の製造方法によれば、随伴的付着の加速度的増加を防止するため、基板上でのGa含有窒化物半導体の成長速度は途中で低下することなくほぼ一定に維持されるから、成長速度が大きく、且つ、膜厚制御性に優れている。従って、Ga含有窒化物半導体の厚膜や大きな単結晶を容易に得ることができる。
【0038】
また、随伴的付着が防止されると、随伴的な付着部分での反応によるHClの副生も抑制されるため、基板上に生成したGa含有窒化物半導体の副生HClによるエッチングが抑制される。その結果、基板上にファセット(結晶成長)が優先的に発生し、特にc面ファセットが平坦になり、ウェハー表面のモフォロジーが良好になり、ウェハー表面が鏡面になる。従って、得られるGa含有窒化物半導体の表面モフォロジーや鏡面性がよい。
【0039】
また、本発明のGa含有窒化物半導体の製造方法は、成長室内の基板以外の部分にGa含有窒化物が随伴的に付着するのを抑制できることから、得られたGa含有窒化物ウェハーがサセプターに固定され、結晶成長終了後にサセプター温度を下げる過程でダメージを受けたり、同様に成長室内部の温度を下げる過程で成長室の内壁がダメージを受けたりする現象が起きにくい。
従って、Ga含有窒化物半導体を成長させた基板のひび割れが起きず、成長室やサセプターの耐用期間も長寿命化することができる。また、成長室内の基板以外の部分に付着したGa含有窒化物を除去する作業を少なくすることができる。
【0040】
また、Free−HClを添加することにより、随伴的付着による原料のロスが抑制され、基板上へのガリウム化合物の供給が十分となること、及び基板周辺部においてGa含有窒化物を随伴的に生成しないために随伴的付着部分でのHClの副生も抑制され、基板上でのエッチングが抑制されることから、基板上にファセット(結晶成長)が優先的に発生し、特にc面ファセットが平坦になり、ウェハー表面のモフォロジーが良好になり、ウェハー表面が鏡面になる。
【0041】
次に、図3を参照して、ハイドライド気相成長法(HVPE)により本発明を実施する方法について説明する。
尚、以下に示す製造方法は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【0042】
図3に示すHVPE用の気相成長装置は、成長室2の下方に設置されたサセプター3上に基板12を載置し、成長室2の上部から当該基板12へ向かって第一ガスを第一ガス供給口6から、第二ガスを第二ガス供給口7からそれぞれ供給し、当該基板12上にGa含有窒化物半導体を堆積することができる。図3の気相成長装置はいわゆる縦型の構造を有しているが、横型の構造であってもよい。また、上記HVPE用の気相成長装置は、HClガスを含む第三ガスを、原料ガスとは別個独立して成長室内に供給するための第三ガス供給口8を備える。更に、キャリアガス(雰囲気ガス)供給口9を設けることが好ましい。
【0043】
HVPEにおいて、第一ガスとしてハロゲン化ガリウムを含むガスを成長室内に供給する。ハロゲン化ガリウムを生成するため、成長室(リアクター)2内部の上部に、ハロゲン系ガス供給管5、ガリウムを収容し、加熱によりガリウムを揮発することができるガリウム源(リザーバー)4、及びハロゲン系ガスと揮発したガリウムとが接触し、ガリウムの塩化反応により得られるハロゲン化ガリウムを成長室へ供給するための供給口(第一ガス供給口)6を備える。上記ハロゲン系ガスとしては、ガリウム(Ga)と反応してハロゲン化ガリウムを発生させるものであればよく、例えば、HClが挙げられる。ハロゲン系ガスがHClのとき、第一ガスに含まれるハロゲン化カリウムは塩化ガリウム(GaCl)である。尚、ガリウム源(リザーバー)4には、Gaに加えて、所望のGa含有窒化物半導体の組成に応じて、In、Al等の金属を収容する。InやAlのリザーバーはGaリザーバーと同じ位置でも良いし、それぞれ違う位置でもよい。それぞれのリザーバーが希望の温度に制御されている構造であればよい。さらに、InやAlのリザーバーからの配管も温度が制御されている構造が好ましい。
また、第二ガスである窒素化合物を含むガスとして、アンモニアガス、若しくは窒素化合物で希釈されたアンモニアガスが好ましく用いられる。
上記供給口は、供給ガスの上流側から下流側に向かって、第三ガス供給口、第一ガスの供給口、第二ガスの供給口の順に配置されることが好ましい。このようにすることで、第一ガス供給口付近に発生するガリウムの液滴をHClと反応させて、塩化ガリウム(GaCl)に変化させることができるので、特に縦型のHVPE用気相成長装置を用いて、Ga含有窒化物半導体を製造する際に、ガリウム液滴が第一ガス供給口から基板上に落下する問題、すなわちごみ落ちを防止し、欠陥の発生を防止することができる。
【0044】
上記ガリウム源から第一ガス供給口にかけては、ハロゲン化ガリウムが凝集しない数百℃程度の温度とする必要があるため、材質を石英、セラミックスなどとし、適度の冷却と温度計測を行う。ガスの流通部分の外側に冷却を施した外套をまとうようにしても良い。
縦型のHVPE用装置の場合、ごみ落ちの発生頻度を少なくするため、基板表面の法線に対してガスの流れる方向が90°〜45°程度の向きになるように、サセプター上に基板を設置することが妥当である。
【0045】
また、成長室の周囲に電気炉等の加熱装置(ガリウム源用加熱装置10、成長室用加熱装置11)が配置され、成長室全体の温度を制御することができる。当該加熱装置は1200℃程度まで成長室内部全体を加熱することができるものであればよい。
【0046】
上述した部材以外については、図1の気相成長装置で説明したものから選択して用いることができる。
【0047】
次に図3の気相成長装置を用いた、ハイドライド気相成長法(HVPE)によるGa含有窒化物半導体の製造手順の一例として、窒化ガリウム半導体の製造手順について説明する。
まず、窒化ガリウム半導体を堆積させるための基板として、例えばサファイア(0001)基板を用意し、必要に応じて洗浄を行い、サセプターに取りつけ、成長室内にセットする。
【0048】
そして、成長室内部をNガスで置換した後に、第一ガス供給口から第一ガスのキャリアガスとしてNガス又はHガスを、また第二ガス供給口から第二ガスのキャリアガスとしてNガス又はHガスを供給しながら、電気炉により成長室及びガリウム源を昇温する。
第一ガス供給口からのNガス又はHガスの供給量は分圧で5.0×10−3〜5.0×10−2atm、第二ガス供給口からのNガス又はHガスの供給量は分圧で5.0×10−3〜5.0×10−2atmであることが好ましい。
【0049】
サファイア基板上に下地層としてGaN層がある場合には、表面の分解を抑えるため、
成長室の昇温を開始するのと同時に、第二ガス供給口から上記Nガス又はHガスに加えてNHガスを供給する。NHガスの供給量は分圧で5.0×10−3〜2.0×10−1atmであることが好ましい。
また、成長室の温度が950〜1100℃に、ガリウム源の温度が800〜900℃になるように加熱し、成膜中はこの温度を維持することが好ましい。
【0050】
温度が安定してから、Free−HClガス供給口から成長室内部へHClガスを供給し、ほぼ同時にハロゲン系ガス供給口からHClガスをガリウム源へ供給し、反応生成物の塩化ガリウム(GaCl)を成長室内部へ供給する。このとき更にキャリアガス供給口からキャリアガスを成長室内部へ供給することが好ましい。成長室内部でGaClガスとNHガスが反応して、サファイア基板上にGaN膜の成長が始まる。Free−HClガスの供給量は分圧で5.0×10−5〜1.3×10−3atm、HClガスの供給量は分圧で5.0×10−4〜5.0×10−2atm、キャリアガスの供給量は分圧で5.0×10−3〜5.0×10−2atmであることが好ましい。
3〜50時間の成長を行った後、HClガスの供給を停止し、電気炉の電源を切断し、ガリウム源を含む成長室全体を降温する。NHガスは成長室内部の温度が300℃に下がるまで供給する。
室温まで降温した後にサセプターを成長室から取り外し、更にサファイア基板をサセプターから取り外して、サファイア基板上に成長させた窒化ガリウム半導体膜を得ることができる。
【0051】
本発明の窒化ガリウム半導体の製造方法によれば、特に縦型のHVPE用の気相成長装置の場合、基板上へ窒化ガリウム単結晶膜(特に厚膜)の高速成長を行うためGaClを供給過多の状態にしても、Free−HClが第一ガス供給口6の近傍にも供給されることによって、第一ガス供給口付近にGaの液滴が析出せず、Gaの液滴が基板上に落ちることはないため、得られる窒化ガリウム単結晶膜は良質であり、その表面は鏡面で平坦である。
本発明で得られる窒化ガリウム単結晶膜の膜厚は、結晶成長の時間に比例するため、10μm〜5mmの範囲で自由に制御することができる。
【0052】
以上、HVPEによるGa含有窒化物半導体の製造方法について述べてきたが、本発明のGa含有窒化物半導体の製造方法はMOCVDを用いたものであっても良い。
MOCVD用の気相成長装置を図4に示す。本装置では、原料のガリウム化合物としてトリメチルガリウム(TMG)等の有機化合物を用いることから、この化合物の分解を抑制するため、装置全体を加熱せず、基板を局所的に加熱する方式を取ることが必要となる。このため前述したHVPE用の気相成長装置とは加熱手段が異なる。また、HVPE用の気相成長装置では、第一ガスとしてハロゲン化ガリウムを用いる関係上、ハロゲン系ガス供給口及びガリウム源を設けていたが、MOCVD用の気相成長装置ではこれらは不要である。これらの点を除き、上記HVEP用気相成長装置と同様の位置関係で成長室内部にガス供給口、サセプター等が設けられている。
尚、MOCVD用気相成長装置の成長室内部の容積については、所望の成長速度が得られるようにするため、該成長室内に設置する基板の大きさ、枚数などにより適宜選択することができる。
【0053】
以下、有機金属化学気相成長法(MOCVD)による本発明のGa含有窒化物半導体の製造方法の一例として、窒化ガリウム半導体の製造方法について、サファイア基板上のGaN膜の成長を例に挙げて説明する。
まず2インチのサファイア(0001)基板を有機洗浄した後、100℃のリン酸と硫酸の混合液に30分間浸してエッチングを行い、流水洗浄して成長表面処理を行う。つづいて、洗浄したサファイア基板を成長室内のサセプター3に取り付ける。
【0054】
サセプター3内部のヒーター(図示せず)によりサセプター、及びサファイア基板を加熱する。サセプターはカーボン製であり、ヒーターにより局所的に加熱される。これにより、例えば、1100℃の温度で10分間サファイア基板の表面処理を行う。なお、サファイア基板の温度は、パイロメータによりモニターすることができる。
次に、サファイア基板の温度を500℃に降温する。温度が安定してから、第一ガス供給口からNガスとHガス、及びトリメチルガリウム(TMG)を供給し、第二ガス供給口からNガスとHガス、およびNHガスを供給する。このとき同時にFree−HClを供給する。更に、キャリアガス(雰囲気ガス)供給口からキャリアガスを供給することが好ましい。
【0055】
第一ガス供給口から供給されるNガス又はHガスの流量は10〜200cc/min、トリメチルガリウム(TMG)ガスの流量は50〜1000μmol/min、第二ガス供給口から供給されるNガス又はHガスの流量は100cc/min〜2L/min、NHガスの流量は1〜9L/min、Free−HClガスの流量は1〜100cc/min、キャリアガスの流量は0〜100cc/minとすることが好ましい。なお、成長室内に導入されたガスは排気口より排出される。
【0056】
第一ガス供給口より供給したキャリアガスやTMG、及び第二ガス供給口より供給したキャリアガスやNHガスは、サファイア基板上に供給され、TMGとNHが基板上で反応することで厚さ数nm〜0.1μmのGaN膜が成長させる。
次に、TMGガスの供給を停止し、NHガスを供給しながらサファイア基板を、約12分間で1070℃の温度に昇温した。温度が安定してから導入管よりTMGを供給しGaN膜を成長した。TMGの流量は50〜1000μmol/minが好ましい。
サファイア基板上に成長したGaN膜は平坦な表面であり、得られる窒化ガリウム単結晶膜の膜厚は、結晶成長の時間に比例するため、1〜30μmの範囲で自由に制御することができる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例を示して発明をさらに詳細に説明する。本実施例において行った試験方法は以下のとおりである。
尚、以下の実施例では図2に示すHVPE用気相成長装置を用いて行った。
【0058】
(実施例1)
GaリザーバーへHClガスを流す供給配管以外に、ウェハー近傍にHClガスを流す供給配管を持ったHVPE装置を使用して実験を行った。先ず、SiCコーティングされたカーボンサセプターに、2インチのサファイア基板上にMOCVD装置で4μmのGaNを成長させた下地基板を載置した。
基板を載置したサセプターをHVPE装置に取り付けて、GaリザーバーへHClガスを分圧5.3×10−3atm、キャリアガス(Hガス)を分圧2.7×10−2atmで、成長室内へNHガスを分圧4.3×10−2atm、キャリアガス(Hガス)を分圧4.3×10−2atmで、基板温度を1050℃で、及び、成長室の内部圧力を常圧で24時間供給してGaNを成長させた。この時に、キャリアガスとしてHを流量18slmで供給した。さらに、Gaリザーバーへ供給するのとは別に、HClガスを分圧2.7×10−4atmで成長室内へ供給した。
成長が終了してからサセプターを取り出したところ、HClガスをGaリザーバーへの供給と平行して、成長室内へも分圧2.7×10−4atmで供給した場合の効果は、GaリザーバーからのGa液滴の落下を防ぐことができ、さらにはGaリザーバーの出口でのGa析出を防ぐことができた。
しかし、ウェハー近傍に付着するGa多結晶は、まだ残っていることが目視観察された。このとき同じ成長条件でGaNの成長速度を測定したところ、成長開始から1時間後までの初期成長速度は111μm/hで、成長工程の開始から終了に至る全期間の成長速度は98μm/hであった。初期成長速度に対する成長工程の全期間における成長速度の低下は、20%を上回ることはなかった。
【0059】
(実施例2)
Gaリザーバーに流す以外に8.0×10−4atmのHClガスを成長室内に流したこと以外は、実施例1と同じ条件で結晶成長を行った。
成長が終了してからサセプターを取り出したところ、HClガスをGaリザーバーへの供給と平行して、成長室内へも分圧8.0×10−4atmで供給した場合の効果は、GaリザーバーからのGa液滴の落下を防ぐことができた。
また、ウェハー近傍へのGa多結晶の付着は全くないことが、目視観察により確認された。更に、図5に示す基板上に成長した結晶の表面光学顕微鏡写真から、表面は非常に平坦でモフォロジーも良好であることが認められた。この時の、GaNの成長開始から1時間後までの初期成長速度は77μm/hで、成長の開始から終了に至る全期間の成長速度は66μm/hであった。初期成長速度に対する成長工程の全期間における成長速度の低下は、20%を上回ることはなかった。
【0060】
(実施例3)
Gaリザーバー及び成長室内へのガス供給時間を5時間、9時間、18時間、24時間の4種類設定して、実施例2の条件でガスを導入し、4種類のGaNのウェハーを成長した。
成長が終了してからサセプターを取り出したところ、Gaリザーバーへ供給するのとは別にHClガスを分圧で8.0×10−4atm流した場合の効果はGaのリザーバーからの液滴が防げ、更にウェハー近傍に付着する多結晶は付着しなくなった。成長したGaNウェハーの膜厚は、それぞれ375μm(5時間、75μm/h)、607μm(9時間、67μm/h)、1207μm(18時間、67μm/h)、1600μm(24時間、66μm/h)であった。このとき、成長工程の開始から終了までのいずれの時点においても、初期成長速度(77μm/h)に対する成長速度の低下は20%を下回ることはなかった。
【0061】
(実施例4)
最初の10時間はGaリザーバーに流す以外のHClガスを2.8×10−4atmとし、10時間目から15時間目までは、5.3×10−4atm、15時間目から24時間目までは、8.0×10−4atmとしたこと以外は、実施例2の条件で24時間結晶成長させた。サセプター全体へのGaN多結晶の付着がなくなり、得られたGaNウェハーの膜厚は2mmで、初期成長速度に対する、その後の各時点での成長速度の低下は、成長工程の全期間を通じて抑えられていた。
【0062】
(比較例1)
Gaリザーバー以外にHClガスを流さなかったこと以外は実施例1の条件で結晶成長を行った。成長時間は5時間、9時間、24時間の3種類の成長を行った。
成長が終了してからサセプターを取り出したところ、サセプターの周囲のガスが当たる部分全面にGaNの多結晶が付着しており、特に24時間成長のサセプターからウェハーが取り出せないほどのGaN多結晶が付着していた。
成長したGaNウェハーの膜厚を測定すると、5時間成長では500μm(100μm/h)、9時間成長では450μm(50μm/h)、24時間成長では960μm(40μm/h)で、成長期間が長くなるほど基板上における成長速度が大きく低下した。
【0063】
(比較例2)
Gaリザーバーに流す以外に1.7×10−3atmのHClガスを成長室内に流したこと以外は実施例1と同じ条件で結晶成長を行った。
成長が終了してからサセプターを取り出したところ、ウェハーは容易に取り出せた上に、Ga液滴、多結晶の付着は抑えられたが、同時にGaNの成長速度も30μm/hとなり、成長速度の低下が認められた。
更に、図6に示す基板上に成長した結晶の表面光学顕微鏡写真から、結晶の表面はHClガスによるGaNのエッチングが支配的になり、モフォロジーが荒れ、平坦な成長が達成されていないことが分かった。
【符号の説明】
【0064】
2 成長室(リアクター)
3 サセプター
4 ガリウム源(リザーバー)
5 ハロゲン系ガス供給口
6 第一ガス供給口
7 第二ガス供給口
8 Free−HClガス供給口
9 キャリアガス(雰囲気ガス)供給口
10 ガリウム源(リザーバー)用加熱装置
11 成長室用加熱装置
12 基板
13 排気ポート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガリウム化合物を含む第一ガスと、窒素化合物を含む第二ガスを、気相成長装置の成長室内へ供給して、当該成長室内に設置した基板上にGa含有窒化物半導体を成長させるGa含有窒化物半導体の製造方法であって、
前記第一ガス及び前記第二ガスを前記成長室内へ供給している期間において、平均の成長速度が66μm/h以上となるように、分圧で5.0×10−5〜1.3×10−3atmの供給量となるHClガスを含む第三ガスを前記第一ガスの供給口とは別の供給口から前記成長室内へ供給することを特徴とするGa含有窒化物半導体の製造方法。
【請求項2】
前記第一ガス及び前記第二ガスを供給している全期間に、前記第三ガスを供給することを特徴とする請求項1に記載のGa含有窒化物半導体の製造方法。
【請求項3】
第三ガス供給口は、第一ガス供給口よりも供給ガスの流れの上流側に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のGa含有窒化物半導体の製造方法。
【請求項4】
成長速度が66〜111μm/hであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のGa含有窒化物半導体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−178661(P2011−178661A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−128128(P2011−128128)
【出願日】平成23年6月8日(2011.6.8)
【分割の表示】特願2005−380438(P2005−380438)の分割
【原出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】