説明

Gm1遺伝子が導入されて得られる形質転換体の利用

【課題】Gm1タンパク質を介したp27タンパク質の発現異常に起因すると思われる疾患、例えば、癌、アルツハイマー病などの神経変性疾患、精神疾患等の疾患症状を改善させるために有用な知識・技術の蓄積・開発が急務であり、これに関連する試験ツール等の開発が期待されている。
【解決手段】(a)被験物質と、Gm1タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する外来遺伝子が宿主細胞内に導入されて得られる形質転換体とを接触させる第一工程と、
(b)第一工程後に得られる形質転換体におけるp27タンパク質量又はそれと相関する指標値を測定する第二工程と、
(c)第二工程で測定されたp27タンパク質量又はそれと相関する指標値を、対照と比較して、前記形質転換体におけるp27タンパク質量又はそれと相関する指標値を変動させる被験物質を選択する第三工程と
を含むことを特徴とするGm1タンパク質を介したp27タンパク質発現制御因子のスクリーニング方法等

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Gm1遺伝子が導入されて得られる形質転換体の利用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Gm1タンパク質は、G−タンパク質αサブユニットの一種であり、G−タンパク質共役受容体(GPCR)刺激による細胞内シグナル伝達に関与していることが知られている。また、Gm1遺伝子は、Golf遺伝子のスプライシングバリアントであり、第1エクソン領域のみ固有の塩基配列を有しており、第2エクソン領域以降はGolf遺伝子と塩基配列を共有している。また、Gm1タンパク質は、NCBIデータベースにおいて「NM_182978」で示されるG−タンパク質αサブユニットの一種であり、guanine nucleotide binding protein(G protein)、alpha activating activity polypeptide、olfactory type(GNAL)、transcript variant 1とも呼ばれることもあり、他のGタンパク質と比較してN末端領域が約80アミノ酸長い特徴的な構造を有している(例えば、特許文献1参照)。またGm1タンパク質は分泌小胞上に局在することが報告されており、他のGタンパク質と異なる特異的な機能を有していると考えられている(非特許文献1参照)
一方、p27タンパク質(別名Kip1)は、サイクリンE/CDK2複合体に結合してその活性を阻害する約27kDのタンパク質として同定された(非特許文献2参照)。当該タンパク質は、接触阻止、増殖因子の枯渇やその他のさまざまな増殖抑制シグナルを受けてCDK阻害活性が上昇し、細胞をG1期で停止させる。p27タンパク質の制御は主として転写後のレベルで行われており、細胞周期の時期特異的にユビキチン化され、プロテアソームにより分解されると考えられている(非特許文献3参照)。p27タンパク質のユビキチン化にはサイクリンE/CDK2による187番目のスレオニン残基のリン酸化が必須であるが、その他の因子によっても制御されている。その一つ、CSN5(Jab1)はp27と結合し核から細胞質へと移行させ、その分解を促進する(非特許文献4参照)。またp27タンパク質を欠損するマウスは胸腺、網膜、下垂体、卵巣などの臓器が過形成されて個体が巨大化し、一部に癌が発生する(非特許文献5、非特許文献6、非特許文献7)。更にまた、p27タンパク質の発現量の低さと癌の悪性度には相関があることが報告されている(非特許文献8)。これらのことからp27タンパク質は細胞癌化の抑制において重要な役割を果たしていると考えられている。またp27タンパク質は新生神経細胞の移動とそれに伴う脳の層構造構築にも関与していることが報告されており、神経変性疾患などの脳神経疾患との関連も指摘されている(非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4583007号
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Akitaら, Biochem. Biophys. Res. Commum. (2010), 381, 582−586
【非特許文献2】Polyakら, Genes Dev., (1994), 8, 9−22
【非特許文献3】Paganoら, Science, (1995) 269: 682−685
【非特許文献4】Tomodaら, Nature, (1999) 398: 160−165
【非特許文献5】Nakayamaら, Cell, (1996) 85, 707−720
【非特許文献6】Kiyokawaら, Cell, (1996) 85, 721−732
【非特許文献7】Feroら, Cell, (1996) 85, 733−744
【非特許文献8】Steegら, Nature Med., (1997) 3, 152−154
【非特許文献9】Bessonら, Genes Dev., (2004) 18, 862−876
【非特許文献10】Nguyenら, Genes Dev., (2006) 20, 1511−1524
【非特許文献11】Kawauchiら, Nature cell. Biol., (2006) 8, 17−26
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
p27タンパク質の発現異常に起因すると思われる疾患、例えば、癌、アルツハイマー病などの神経変性疾患、精神疾患等の疾患症状を改善させるために有用な知識・技術の蓄積・開発が急務であり、これに関連する試験ツール等の開発が期待されている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、このような状況を鑑み鋭意検討した結果、Gm1タンパク質がCDK2やCSN5依存的にp27タンパク質の発現量を低下させることを新たに見出し、当該知見を利用することにより、本発明に至った。
即ち、本発明は
1.(a)被験物質と、Gm1タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する外来遺伝子が宿主細胞内に導入されて得られる形質転換体とを接触させる第一工程と、
(b)第一工程後に得られる形質転換体におけるp27タンパク質量又はそれと相関する指標値を測定する第二工程と、
(c)第二工程で測定されたp27タンパク質量又はそれと相関する指標値を、対照と比較して、前記形質転換体におけるp27タンパク質量又はそれと相関する指標値を変動させる被験物質を選択する第三工程と
を含むことを特徴とするGm1タンパク質を介したp27タンパク質発現制御因子のスクリーニング方法
2.前記外来遺伝子が、前記Gm1タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含有するプラスミドの形態である核酸であることを特徴とする前項1記載のスクリーニング方法
3.前記形質転換体が、前記Gm1タンパク質をその細胞内で発現している形質転換体であることを特徴とする前項1又は2記載のスクリーニング方法
4.第三工程における対照が、被験物質を接触させていない形質転換体におけるp27タンパク質量又はそれと相関する指標値であることを特徴とする前項1〜3のいずれか記載のスクリーニング方法
5.前項1〜4のいずれか記載のスクリーニング方法により得られるGm1タンパク質を介したp27タンパク質発現制御因子
6.前項5記載のGm1タンパク質を介したp27タンパク質発現制御因子を有効成分として含有することを特徴とする、p27タンパク質発現制御異常に起因する疾患の治療又は予防剤
【発明の効果】
【0007】
本発明により、Gm1タンパク質を介したp27タンパク質発現制御因子のスクリーニング方法を含む試験ツール等を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、電気泳動サンプルの抗Myc抗体、抗p27抗体及び、抗Tubulin抗体でのウエスタンブロットの結果を示す図である。Gm1タンパク質の導入によってp27タンパク質量が減少していることが示されている(lane1とlane3及び4の抗p27抗体によるバンドの強度を比較することによる)。
【図2】図2は、電気泳動サンプルの抗Myc抗体、抗p27抗体及び、抗Tubulin抗体でのウエスタンブロットの結果を示す図である。Roscovitinの添加によるp27タンパク質量の増加が示されている(lane1と2の抗p27抗体によるバンドの強度を比較することによる)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書において、DNAの調製やプラスミドの調製等の遺伝子工学的な手法、タンパク質の抽出やウエスタンブロッティング等のタンパク質工学的な手法は、特に明記しない限り、Molecular Cloning, A Laboratory Manual(T.Maniatis et al., Cold Spring Harbor Laboratory(1982))、新生化学実験講座(日本生化学会編;東京化学同人)等の実験書に記載される方法又はそれに準じた方法により行うことができる。
【0010】
本発明における「Gm1タンパク質」とは、背景技術に記載されるように、G−タンパク質共役受容体(GPCR)刺激による細胞内シグナル伝達に関与していることが知られている、G−タンパク質αサブユニットの一種である。当該タンパク質は、例えば、特許第4583007号公報等に記載された公知なタンパク質である。
当該タンパク質が有するアミノ酸配列としては、例えば、前記公開公報に記載される配列番号1や特開2006−320201号公報に記載される配列番号1で示されるアミノ酸配列を挙げることができる。尚、当該タンパク質は、NCBIデータベースにおいて「NM_182978」で示されるG−タンパク質αサブユニットの一種であり、guanine nucleotide binding protein(G protein)、alpha activating activity polypeptide、olfactory type(GNAL)、transcript variant 1とも呼ばれることもあり、他のGタンパク質と比較してN末端領域が約80アミノ酸長い特徴的な構造を有している。
Gm1遺伝子は、Golf遺伝子のスプライシングバリアントであり、第1エクソン領域のみ固有の塩基配列を有しており、第2エクソン領域以降はGolf遺伝子と塩基配列を共有している。Gm1タンパク質が有するアミノ酸配列をコードする塩基配列としては、例えば、前記公開公報(特許第4583007号公報)に記載される配列番号2で示される塩基配列等を挙げることができる。
【0011】
本発明における「Gm1タンパク質」は、当該タンパク質の生物学的機能を維持する限り、その一部からなるものを含む。例えば、前記公開公報(特許第4583007号公報)に記載される配列番号1で示されるアミノ酸配列は、Gタンパク質αサブユニット間で保存されている「GTP結合部位」及び「GTPase活性化部位」のアミノ酸配列と配列同一性が高いアミノ酸配列部分を有する。これらの部分は、前記公開公報(特許第4583007号公報)に記載される配列番号1で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸番号126〜133、287〜292、353〜359、428〜435の各領域である。これらのアミノ酸領域は、既にGタンパク質αサブユニットとして同定されている「Gs」及び「Golf」における「GTP結合部位」及び「GTPase活性化部位」のアミノ酸配列(NATURE, 117−127 (1991), vol. 349)と一致している。また、配列番号1で示されるアミノ酸配列は、Gタンパク質αサブユニット間で特にGsファミリーに属する「Gs」及び「Golf」で高く保存されている特徴的配列と同じ配列(配列番号1で示されるアミノ酸番号119〜126)を有し、しかもGタンパク質αサブユニット間で保存されているαヘリックス構造をとりうる配列である。
更に、Gm1タンパク質の生物学的機能を喪失すること無く、Gm1タンパク質が有する如何なるアミノ酸残基を何個置換、欠失又は付加できるかの指標は、特開2004−350672に記載された方法等により見出すことができる。前記生物学的機能を喪失しない改変は、例えば、既に同定されている各種のGタンパク質αサブユニットのアミノ酸配列との配列同一性が低い部分について行えばよい。
【0012】
本発明における「p27タンパク質」とは、背景技術に記載されるように、サイクリンE/CDK2複合体に結合してその活性を阻害する約27kDのタンパク質として同定されたタンパク質である。当該タンパク質は、例えば、Polyakら, Genes Dev., (1994), 8, 9−22等に記載された公知なタンパク質である。
当該タンパク質は、NCBIデータベースにおいて「NP_004055」で示されるタンパク質であり、CDKN1B、Kip1、p27Kip1とも呼ばれることもある。
【0013】
形質転換体は、Gm1タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する外来遺伝子が宿主細胞内に導入されて得られる。
【0014】
形質転換体の宿主細胞としては、公知のいかなる宿主細胞でも用いることができ、例えば、大腸菌(例えば、K12等)、バチルス属細菌(例えば、MI114等)等の細菌、酵母(例えば、AH22等)、昆虫細胞(例えば、Sf細胞等)、動物細胞(例えば、COS7細胞等)等を挙げることができる。なかでも、哺乳動物由来の培養細胞(例えば、COS7細胞、CHO細胞、HEK293細胞、HEK293FT細胞、Hela細胞、PC12細胞、N1E-115細胞、SH-SY5Y細胞等)を好ましく挙げることができる。
【0015】
形質転換体は、このような宿主細胞に対して、Gm1タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含有するプラスミドの形態である核酸を外来的に導入するような人為的操作を施すことにより作製することができる。好ましくは、Gm1タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含有するプラスミドの形態である核酸を外来的に導入するような人為的操作を施すことにより作製することができる。
前記人為的操作としては、用いられる宿主細胞に応じた通常の遺伝子工学的手法を利用すればよい。具体的には例えば、市販のトランスフェクション試薬を用いて、当該試薬に添付された説明書に記載される方法に従い行う方法を挙げることができる。また、外来遺伝子としてプラスミドの形態である核酸を利用する場合には、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法等を挙げることができる。
【0016】
ここで「プラスミド」としては、Gm1タンパク質を宿主細胞内で発現させることが可能なプラスミドを挙げることができる。このようなプラスミドは、通常の遺伝子工学的手法に従い、Gm1タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含有する核酸を、公知の発現プラスミドのプロモーター下流の発現可能な位置に連結することにより作製することができる。
ここで「発現プラスミド」としては、例えば、大腸菌を宿主細胞とする場合には、pBR322、pUC12、pUC119、pBluescript等、バチルス属細菌を宿主細胞とする場合には、pUB110、pC194等、酵母を宿主細胞とする場合には、Yip5、Yep24等、昆虫細胞を宿主細胞とする場合には、AcNPV等、動物細胞を宿主細胞とする場合には、pUC18、pcDNA3.1、pcDNA6.2、p3XFLAG-CMV10等の公知のプラスミドを挙げることができる。
【0017】
形質転換体における、Gm1タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する外来遺伝子の宿主細胞内での保持は、一過的に保持されたものであってもよいし、また安定的に保持させたものであってもよい。安定的に保持された形質転換体は、当該外来遺伝子と同時に宿主細胞内に導入された薬剤耐性マーカー等(例えば、発現プラスミドに含有された薬剤耐性マーカー等)を指標にして選択すればよい。
【0018】
形質転換体の細胞内で、Gm1タンパク質を発現させるには、例えば、形質転換体を培養液の中で培養すればよい。
形質転換体の培養条件は、形質転換体の種類に応じた条件を適宜選択すればよい。
【0019】
例えば、形質転換体が微生物である場合には、微生物の培養に通常使用される液体培地又は平板培地を用いて培養すればよい。培養温度は、微生物の生育可能温度内であればよく、例えば、15〜40℃程度を挙げることができる。培地のpHも、微生物の生育可能範囲であればよく、例えば、pH6〜8程度を挙げることができる。培養時間は、その他の培養条件により異なるが、通常、1〜5日間程度、特に1〜2日間程度にすればよい。温度シフト型やIPTG誘導型等の誘導型の発現プラスミドを用いる場合には、誘導時間は1日間以内、特に数時間程度とすればよい。
【0020】
また形質転換体が昆虫細胞の場合には、昆虫細胞の種類に応じて適した培養条件とすればよい。例えば、FBS及びYeastlateを含むGrace's medium等の昆虫細胞用培地を用いて培養すればよい。培養温度は、25〜35℃程度を挙げることができる。培地のpHも、昆虫細胞の生育可能範囲であればよく、例えば、pH6〜8程度を挙げることができる。培養時間は、その他の培養条件により異なるが、通常、1〜5日間程度、特に2〜3日間程度にすればよい。
発現プラスミドとしてBaculovirus等のウィルスを含む形質転換体の場合は、培養時間は細胞質効果が現れて細胞が死滅する前まで(例えば3〜7日間程度、特に4〜6日間程度)とするのが好ましい。
【0021】
また形質転換体が哺乳動物細胞の場合には、哺乳動物細胞の種類に応じて適した培養条件とすればよい。例えば、FBSを添加したDMEM培地(ニッスイ社製等)を用いて5%CO存在下、数日毎に新しい培地に交換しながら培養すればよい。哺乳動物細胞がコンフルエントになるまで増殖したら、例えば、トリプシン溶液を加えて個々の細胞に分散させ、得られた細胞の懸濁液を数倍に希釈して新しいシャーレに播種し継代を続ければよい。
培養温度は、36〜38℃程度を挙げることができる。培地のpHも、哺乳動物細胞の生育可能範囲であればよく、例えば、pH6〜8程度を挙げることができる。培養時間は、その他の培養条件により異なるが、通常、2〜5日間程度、特に2〜3日間程度にすればよい。
【0022】
形質転換体の細胞内で、Gm1タンパク質が発現していることを確認する方法としては、通常のタンパク質工学的方法を利用すればよい。具体的には例えば、形質転換体より調製されたタンパク質抽出液を、抗Gm1タンパク質抗体を用いてウエスタンブロットを行う方法等を挙げることができる。またタグ標識を付加したGm1タンパク質を細胞に導入した場合には抗タグ抗体を利用することが可能である。例えば、FLAG、Myc、GFP、HA等の公知のタグ標識が利用可能である。
【0023】
本発明スクリーニング方法は、(a)被験物質と、Gm1タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する外来遺伝子が宿主細胞内に導入されて得られる形質転換体とを接触させる第一工程と、(b)第一工程後に得られる形質転換体におけるp27タンパク質量又はそれと相関する指標値を測定する第二工程と、(c)第二工程で測定されたp27タンパク質量又はそれと相関する指標値を、対照と比較して、前記形質転換体におけるp27タンパク質量又はそれと相関する指標値を変動させる被験物質を選択する第三工程とを含む。
【0024】
本発明スクリーニング方法において「被験物質」としては、特に限定は無く、例えば、タンパク質(抗体を含む)、ペプチド、非ペプチド性化合物(ヌクレオチド、アミン、糖質、脂質等)、有機低分子化合物、無機低分子化合物、醗酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液等を挙げることができる。被験物質の形態としては、特に限定は無く、固体、液体、基剤との混合物、縣濁液又は溶液等を挙げることができる。縣濁液若しくは溶液とする場合、水、pH緩衝液、メチルセルロース溶液、生理食塩水、有機溶媒水溶液(有機溶媒としては通常エタノールやジメチルスルホキシドが用いられる。)等を用いればよい。
被験物質の接触量、接触回数及び接触時間は、例えば、形質転換体に重篤な影響を及ぼさない範囲内とすればよい。被験物質の接触は通常はGm1タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する外来遺伝子を宿主細胞に導入した後に実施するが、導入前または導入時から実施しておくことも可能である。
【0025】
本発明スクリーニング方法の第一工程における「接触」は、当業者に汎用されている方法で実施することができる。被験物質を形質転換体に接触する場合、その接触方法には特に限定はなく、例えば、形質転換体を含む培養液・寒天培地等の中に、0.001〜100μM程度の濃度となるように被験物質を添加すればよい。
【0026】
本発明スクリーニング方法の第二工程における「p27タンパク質量又はそれと相関する指標値を測定する」方法では、タンパク質抽出液の調製、電気泳動法、メンブレンの上への転写、p27タンパク質の検出方法等を用いることができる。これらの方法では、通常の生化学的手法・タンパク質工学的手法等を用いて分析すればよい。例えば、電気泳動(SDS-PAGE)とウエスタンブロット法とを組み合わることにより行えばよい。具体的には例えば、まず被験物質を接触させた形質転換体からタンパク質抽出液を調製する。調製されたタンパク質抽出液を電気泳動し、分離されたp27タンパク質を適当なメンブレンの上に転写する。次いで、当該メンブレンの上に転写されたp27タンパク質を抗p27タンパク質抗体等で検出する。
また、p27タンパク質量を定量する方法としては、公知の定量化法を用いればよいが、例えば、ウエスタンブロットにより検出されたシグナルをイメージアナライザー等にて定量化すればよい。具体的には例えば、形質転換体において電気泳動後のウエスタンブロットにより検出されたp27のバンドの強度を測定し、同様に、対照におけるp27のバンドの強度も測定する。次いで、対照におけるp27のバンドを100%とし、被検物質を接触させた形質転換体で検出されたp27のバンドの強度のパーセンテージを算出する。被検物質を接触させた形質転換体において検出されたp27のバンドのパーセンテージが、例えば120%以上、好ましくは150%以上、更に好ましくは200%以上になる被検物質を、p27タンパク質発現制御因子の候補物質として選択すればよい。また単に目視によりバンド強度を識別してp27タンパク質量を増加させる被検物質を選抜することも可能である。
p27のタンパク質量は細胞内で内部標準となるタンパク質と比較した値として求めることも可能であり、内部標準を使用することで細胞間のバラツキを補正することが出来る。内部標準となるタンパク質とは例えば、Tubulin、Actin、GAPDHなどが挙げられる。
【0027】
本発明スクリーニング方法の第三工程における対照との比較では、例えば、被験物質を接触させた形質転換体におけるp27タンパク質の第二工程で測定されたタンパク質量又はそれと相関する指標値を、被験物質を接触させていない形質転換体におけるp27タンパク質の第二工程で測定されたタンパク質量又はそれと相関する指標値と比較すればよい。ここで「被験物質を接触させていない形質転換体」とは、例えば、溶媒のみを接触させた形質転換体であってもよい。
かかる対照は、対照とするp27タンパク質のタンパク質量又はそれと相関する指標値を、形質転換体におけるp27タンパク質のタンパク質量又はそれと相関する指標値と併行して測定して求めてもよいし、別途測定して求めてもよい。
例えば、被験物質と接触させた形質転換体におけるp27タンパク質のタンパク質量又はそれと相関する指標値の測定値が、対照とする形質転換体におけるp27タンパク質のタンパク質量又はそれと相関する指標値の測定値よりも高ければ、前記被験物質との接触は、p27タンパク質のタンパク質量を増加させる効果を有することを意味し、そして当該被験物質はGm1を介したp27タンパク質発現制御因子として選択することができる。
【0028】
尚、被験物質の代わりに「対照物質」となり得るポジティブコントロール又はネガティブコントロールを用いて本発明スクリーニング方法を実施することにより、場合に応じて上記の対照とすることもできる。
ここで「ポジティブコントロール」とは、p27タンパク質のタンパク質量を増加させる効果を有する任意の物質を表し、また「ネガティブコントロール」としては、被験物質に含まれる溶媒、バックグランドとなる試験系溶液等が挙げられる。
「対照物質」をネガティブコントロールとする場合、被験物質が有する「p27タンパク質のタンパク質量を増加させる効果」が、対照物質が有する「p27タンパク質のタンパク質量を増加させる効果」よりも大きければ、当該被験物質は「p27タンパク質のタンパク質量を増加させる効果」を有すると評価すればよい。一方、被験物質が有する「p27タンパク質のタンパク質量を増加させる効果」が、対照物質が有する「p27タンパク質のタンパク質量を増加させる効果」と同程度若しくは小さければ、当該被験物質は「p27タンパク質のタンパク質量を増加させる効果」を有さないと評価することができる。
また、対照物質をポジティブコントロールとする場合、被験物質が有する「p27タンパク質のタンパク質量を増加させる効果」と、対照物質が有する「p27タンパク質のタンパク質量を増加させる効果」とを比較することにより、被験物質が有する「p27タンパク質のタンパク質量を増加させる効果」を評価すればよい。
このようにして効果を有すると評価された場合には、当該被験物質を、Gm1を介したp27タンパク質発現制御因子として選択することができる。
【0029】
本発明薬剤は、例えば、上記のようにして選択された「Gm1タンパク質を介したp27タンパク質発現制御因子」を有効成分として含有する。本発明薬剤は、p27タンパク質の発現を制御するシグナル伝達異常に起因する疾患の治療又は予防剤として有用である。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例を示してより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
実施例1(Gm1タンパク質を導入した細胞におけるp27タンパク質量の測定)
(1)Gm1遺伝子の取得
文献(特開2004−350672号)記載の方法に準じた方法を用いて、ヒト脳由来cDNAライブラリー(TAKARA社製)20ngを鋳型に用いて且つ10μMのフォワードプライマーprGm1ATG(5’−ATGGGTCTGTGCTACAGTCTGCGG;配列番号1)、10μMのリバースプライマーprGNAL3’(5’−TCACAAGAGCTCATACTGCTT;配列番号2)及びTAKARA LA Taqポリメラーゼ(TAKARALA Taq with GC Buffer,TAKARA社製)を用いてPCRを行った。PCR条件は、95℃で30秒間、次いで60℃で30秒間、次いで72℃で2分間の保温を1サイクルとしてこれを35サイクル行った。得られたDNA断片をアガロースゲル電気泳動後、当該ゲル上で検出された約1.5kbのバンドを切り出し、pCR2.1-TOPOベクター(インビトロジェン社製)へクローニングしpCR-Gm1を作製した。
(2)pcDNA-Gm1の構築
文献(特開2004−350672号)記載の方法に準じた方法を用いて、実施例1で作製されたプラスミドpCR-Gm1を制限酵素XbaI及びKpnIで二重消化した後、このDNA断片をアガロースゲル電気泳動し、当該ゲル上で検出された約1.5kbのバンドを切り出し、インサートDNAとした。pcDNA3.1(インビトロジェン社製)をXbaI及びKpnIで二重消化したものをベクターとして用い、これにインサートDNAをライゲースを用いて連結することにより、プラスミドpcDNA-Gm1を作製した。
(3)pcDNA-Gm1-Mycの構築
実施例1で作成されたプラスミドpcDNA-Gm1、100ngを鋳型に用いて且つ10μMのフォワードプライマーGm1-5’(5’−AGAGGTACCATGGGTCTGTGCTACAGTC;配列番号3)、10μMのリバースプライマーGm1-3’(5’−AGTCTCGAGCAAGAGCTCATACTGCTTG;配列番号4)及びKOD DNAポリメラーゼ(東洋紡製)を用いてPCRを行った。PCR条件は、95℃で30秒間、次いで60℃で30秒間、次いで68℃で2分間の保温を1サイクルとしてこれを35サイクル行った。得られたDNAをアガロースゲル電気泳動後、当該ゲル上で検出された約1.5kbのバンドを切り出し、制限酵素KpnI及びXhoIで二重消化した後、このDNA断片をアガロースゲル電気泳動し、当該ゲル上で検出された約1.5kbのバンドを切り出し、インサートDNAとした。pcDNA3.1/myc-His(インビトロジェン社製)をKpnI及びXhoIで二重消化したものをベクターとして用い、これにインサートDNAをライゲースを用いて連結することにより、プラスミドpcDNA-Gm1-Mycを作製した。
(4)pcDNA3.1の調製
pcDNA3.1は、インビトロジェン社から販売されている市販品を購入し、これを用いた。
(5)pcDNA3.1/myc-Hisの調製
pcDNA3.1/myc-Hisは、インビトロジェン社から販売されている市販品を購入し、これを用いた。
(6)pcDNA-Gm1-Mycの細胞への導入
N1E-115細胞を6 wellシャーレに2×10cells/wellで播種し、10%FBSを含むDMEM培地(ナカライテスク社製)中で、37℃、5%CO2条件下にて約24時間培養した。次いで、当該細胞に、上記(3)で構築して得られた「Gm1発現プラスミド(pcDNA-Gm1-Myc)」、0.5μg、1μg、2μg をそれぞれ4μlのリポフェクトアミン2000(インビトロジェン社製)及び、100μlのOPTI-MEM(インビトロジェン社製)と混合し、20分間保持したものをトランスフェクションした。トランスフェクション4時間後に培地を交換し、更に20時間培養した。
次いで、得られた細胞をPBSで2回洗浄した後、Lysis buffer(50 mM HEPES-NaOH [pH 7.4], 150 mM NaCl, 0.5% Nonidet P-40)にプロテアーゼ阻害剤カクテル・動物細胞抽出用(ナカライテスク社製)を加えた溶液を用いて溶解することにより細胞抽出液を調製し、得られた細胞抽出液を電気泳動(SDS-PAGE)に供した。更に電気泳動後のゲルを、Hybond−P(GEヘルスサイエンス)へ転写した。次いで、当該メンブレンの上に転写されたp27タンパク質を抗p27抗体(57)(BD Transduction Laboratories社製)、Gm1タンパク質を抗Myc抗体(9E10)(SantaCruz社製)、Tubulinタンパク質を抗Tubulin抗体(Ab-1)(Calbiochem社製)を用いてウエスタンブロッティングにより検出した(図1参照)。図1でGm1タンパク質を導入した細胞(lane2、3、4)のなかでも1μg の「Gm1発現プラスミド(pcDNA-Gm1-Myc)」を導入した細胞(lane3)及び、2μg の「Gm1発現プラスミド(pcDNA-Gm1-Myc)」を導入した細胞(lane4)におけるp27タンパク質のバンド(抗p27抗体によるバンド)はGm1タンパク質を導入していない細胞(lane1)のp27タンパク質のバンド(p27)よりも薄くなっており、Gm1タンパク質の導入によりp27タンパク質量が減少していることが確認できる。
【0032】
実施例2(本発明スクリーニング方法:Gm1タンパク質を介したp27タンパク質発現制御因子のスクリーニング)
実施例1(6)に記載の「Gm1タンパク質を導入した細胞」に被験物質として、Roscovitine(Calbiochem社製)を最終濃度10μMになるように前記細胞の培養液中に添加した後、得られた培養物を37℃で24時間静置する。次いで、得られた細胞をPBSで2回洗浄した後、Lysis buffer(50 mM HEPES-NaOH [pH 7.4], 150 mM NaCl, 0.5% Nonidet P-40)にプロテアーゼ阻害剤カクテル・動物細胞抽出用(ナカライテスク社製)を加えた溶液を用いて溶解することにより細胞抽出液を調製し、得られた細胞抽出液を電気泳動(SDS-PAGE)に供した。更に電気泳動後のゲルを、Hybond−P(GEヘルスサイエンス)へ転写した。次いで、当該メンブレンの上に転写されたp27タンパク質を抗p27抗体(57)(BD Transduction Laboratories社製)、Gm1タンパク質を抗Myc抗体(9E10)(SantaCruz社製)、Tubulinタンパク質を抗Tubulin抗体(Ab-1)(Calbiochem社製)を用いてウエスタンブロッティングにより検出した(図2参照)。図2でRoscovitineを添加した細胞(lane2)のp27タンパク質のバンドの強度(p27)は対照であるジメチルスルホキシドを添加した細胞(lane1)のp27タンパク質のバンドの強度(p27)と比較して顕著にタンパク質量が増加している。
以上の結果より、RoscovitineがGm1タンパク質を介するp27タンパク質発現制御因子であることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明により、Gm1タンパク質を介したp27タンパク質発現制御因子のスクリーニング方法及びそれに利用する形質転換体を含む試験ツール等を提供することが可能となる。
【配列表フリーテキスト】
【0034】
配列番号1
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号2
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号3
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー
配列番号4
PCRのために設計されたオリゴヌクレオチドプライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)被験物質と、Gm1タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有する外来遺伝子が宿主細胞内に導入されて得られる形質転換体とを接触させる第一工程と、
(b)第一工程後に得られる形質転換体におけるp27タンパク質量又はそれと相関する指標値を測定する第二工程と、
(c)第二工程で測定されたp27タンパク質量又はそれと相関する指標値を、対照と比較して、前記形質転換体におけるp27タンパク質量又はそれと相関する指標値を変動させる被験物質を選択する第三工程と
を含むことを特徴とするGm1タンパク質を介したp27タンパク質発現制御因子のスクリーニング方法
【請求項2】
前記外来遺伝子が、前記Gm1タンパク質のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含有するプラスミドの形態である核酸であることを特徴とする請求項1記載のスクリーニング方法
【請求項3】
前記形質転換体が、前記Gm1タンパク質をその細胞内で発現している形質転換体であることを特徴とする請求項1又は2記載のスクリーニング方法
【請求項4】
第三工程における対照が、被験物質を接触させていない形質転換体におけるp27タンパク質量又はそれと相関する指標値であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載のスクリーニング方法
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか記載のスクリーニング方法により得られるGm1タンパク質を介したp27タンパク質発現制御因子
【請求項6】
請求項5記載のGm1タンパク質を介したp27タンパク質発現制御因子を有効成分として含有することを特徴とする、p27タンパク質発現制御異常に起因する疾患の治療又は予防剤

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−68558(P2013−68558A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208604(P2011−208604)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】