説明

H型PC杭の根固め方法

【課題】 H型PC杭を上部構造の支持手段として使用する技術を提供する。
【解決手段】 H型PC杭10の下端にH型PC杭の全断面の外縁を包絡する中空筒状の袴状治具20を取付け、H型PC杭10の左右の縦凹溝13中に添装したオーガードリル30下端の拡径ビット34により袴状治具20内の支持地盤40を掘削しつつH型PC杭10を圧下し、袴状治具20を支持地盤40中に貫入した後、杭断面の短辺長の4倍以上の高さを有するコンクリートを、袴状治具20の空洞内及びH型PC杭10の空洞内に打設し、H型PC杭10を支持地盤40に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、H型PC杭の根固め方法に関し、さらに詳しくは、H型PC杭を上部構造の支持杭として用いることができるようにH型PC杭の下端を支持地盤に確実に支持させる根固め技術に関する。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、横断面が2枚のフランジとこれを連結するウエブとから成るH型をなすプレキャストプレストレストコンクリート杭(以下H型PC杭)を開発している(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
上記H型PC杭は、多数個をそれらのフランジ端部を連接させて地中に連続壁を形成するように沈設し、隣り合う杭同士が形成する空所にコンクリートを打設して、強度が大きく水密な地中壁を形成したり、この地中壁の一方の側面の土砂を掘削することによって好適な土留壁又は擁壁を容易に施工することができるというすぐれた特性を有している。
【0004】
平面交差道路を立体交差に変更するアンダーパスの施工時に、従来は、シートパイル等を地中に打込んで仮土留を行い、この仮土留の内部にアンダーパスのコンクリート躯体を場所打ちコンクリートによって施工していたのを、H型PC杭を用いて、省力的に合理的に改善した工法を本出願人は提案している。H型PC杭を地中に沈設して利用する技術は例えば、上述のアンダーパス造成工事のほか、地下駐輪場側壁、河川の護岸や防水提などの造成にも実用されている。これらは、土圧および水圧が水平に作用する壁高の高い(8m程度)土留め擁壁としての実績もある。
【0005】
このようなH型PC杭による地中壁の施工に当っては、H型PC杭の沈下に対してH型PC杭の軸方向凹溝内にオーガードリルを添装し、オーガードリルを回転させながら地盤を掘削して揚土し、H型PC杭を地中に沈下させる、いわゆる中掘圧入工法を採用している。
【0006】
この場合、必要に応じて、オーガードリル先端の拡径翼を杭より下方の地盤内に突出させて杭より下方の地盤を掘削しつつ杭を圧入することも行われている。
【0007】
中掘圧入工法によって、H型PC杭を地中に圧入する場合、対象地盤は、N値が40程度までの土砂を主体とする地盤に限られている。このため例えば、H型PC杭の根入れが不十分となって、地中壁自身が地中壁の土圧による曲げモーメントを支持することが困難な場合が生ずるが、これに対しても根入長さを別の技術によって補うすぐれた地中壁構築技術を本出願人は提供している(例えば特許文献2参照。)。
【0008】
中掘り杭工法による杭下端の極限支持力度は、工法の内容に応じて定めることが規定され、プレキャスト杭の先端(下端)処理のうち、コンクリート打設による場合、場所打ち杭の極限支持力度を適用することが定められている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0009】
この場合、杭先端部が杭外径Dに対して、支持層中に深さ1D以上挿入され、コンクリート打設高さは杭内径dに対して4d以上とすることが定められている(例えば非特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2005−23576号公報(第3〜5頁、図1)
【特許文献2】特願2006−234334号出願
【非特許文献1】日本道路協会:『道路橋示方書・同解説』:平成14年3月発行 IV 下部構造編 p358〜359
【非特許文献2】地盤工学会:『杭の鉛直載荷試験方法・同解説』:平成 年発行 p2〜4
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
H型PC杭を地中に沈設して地中壁を形成し、これを土留めとして使用するほか、上部構造の支持手段として用いる場合に、従来の中掘圧入工法ではH型PC杭を地中に圧入することが不可能な硬質地盤や岩盤層がある場合には、H型PC杭を支持地盤と強固に一体化させて支持力を確保することができなかった。
【0011】
本発明はこのような場合に支持地盤中にH型PC杭の下端に補強部を設け、H型PC杭を上部工の荷重を支持する支持杭として安定性を確保することができる技術を提供することを目的とする。
【0012】
例えば、アンダーパス交差点部の上部工を支持する杭には鉛直荷重が作用するが、このような杭として使用できるように、H型PC杭の先端処理を行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は上記課題を解決するために提案されたもので、H型PC杭の下端を支持地盤に支持させる根固め方法において、H型PC杭の下端に袴状治具を取付け、H型PC杭の左右の縦凹溝中に添装したオーガードリル下端の拡径ビットにより前記袴状治具内の支持地盤を掘削しつつ杭を圧下し、前記袴状治具を支持地盤中に貫入した後、該袴状治具及びH型PC杭の空洞内に所定高さのコンクリートを打設することを特徴とするH型PC杭の根固め方法である。
【0014】
前記袴状治具は隣接杭との係合部を除く杭断面の外縁を包絡する形状の鋼板製筒状で、杭下端より杭断面の短辺長の1倍以上の長さが下方に延出している中空体とすれば好適である。
【0015】
袴状治具内及び杭下端部内に打設するコンクリートの所定高さは杭の短辺長の4倍以上とする。
【0016】
本発明の先端処理方法は、道路橋示方書IV下部構造編に記載されている、中掘り杭工法のコンクリート打設方法を基本とするもので、杭先端に下方に延出した鋼製の袴状治具を取付け、その部分および所要杭高さの範囲にコンクリートを打設するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば次の効果を得ることができる。
【0018】
(1)H型PC杭の下端に薄い鋼板の袴状治具を取付けているため、N値の高い支持層中へH型PC杭を容易に貫入させることができる。
【0019】
(2)拡翼ビットが杭下端の袴状治具先端より下方に突出しないため、支持地盤層を乱さない。
【0020】
(3)杭の全断面積の支圧により鋼製の袴状治具内のコンクリートに鉛直力が伝達されるため、確実に鉛直支持力度を確保することができる。
【0021】
(4)杭下端部のコンクリートが鋼製の袴状治具の中空部内にコンファインドされているため、コンクリートの圧縮強度の向上に寄与する。従って、低強度のコンクリートを使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本出願人は、上述のように、アンダーパス工法にマッチしたH型PC杭を開発した。このようなH型PC杭開発のコンセプトは、
1.施工時の環境負荷低減、
2.止水性の確保、
3.地震時安全性の担保、
4.工期の短縮
であり、それらを勘案し、杭断面形状・曲げ耐力・施工方法が決定されていた。また、上記コンセプトを検証するために、
(イ)掘削・圧入時の振動・騒音の計測
(ロ)短期高水圧(0.2MPa)および長期(2年)低水圧に対する止水性能確認試験
(ハ)場所打ちコンクリートとの剛結合耐震性能確認試験
(ニ)歩掛り調査
を実施した。その結果、優れた性能を確認し、道路擁壁・地下駐輪場の側壁・河川護岸および防水堤として既に施工実績を有している。
【0023】
本発明は、このようなH型PC杭を、上部構造の鉛直荷重を支持する支持杭として用いることが出来るように、杭下端を支持地盤に強固に一体化させる技術である。
【0024】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0025】
杭下端が支持地盤に到達するまでのH型PC杭の沈下方法としては、次の(a),(b)の何れかとすればよい。
【0026】
(a)杭断面を内包する掘削径を有する大径のオーガードリルを用いて支持地盤までプレボーリングを行い、その中に本発明の袴状治具を取付けたH型PC杭を挿入する。
【0027】
(b)袴状治具を取付けた杭に2連のオーガードリルを添装してオーガードリルを作動させながら地上から支持地盤まで杭を沈下させる。
【0028】
以上の(a),(b)のいずれかの工程により、杭下端が支持地盤に到達したら本発明の根固め方法を行う。すなわち、下端に袴状治具を取付けたH型PC杭の左右の縦凹溝中に添装したオーガードリルの下端の拡径ビットを拡径して、袴状治具内の支持地盤を掘削しつつH型PC杭を支持地盤中に圧下し、前記袴状治具を支持地盤中に貫入させる。
【0029】
図1は本発明のH型PC杭10の根固めの掘削工程を示す杭下端近傍の横断面図、図2はそのときのH型PC杭10の下端近傍の縦断面図である。
【0030】
図1,図2に示すようにH型PC杭10は、ウエブ11と2枚のフランジ12とをH型に形成した横断面を有し、両側部に縦凹溝13を備えた、長尺のプレキャストプレストレストコンクリート杭である。図1,図2に示す実施例ではH型PC杭10の下端部15に外周を覆う中空の筒体から成る袴状治具20が取付けられている。袴状治具20は、例えば鋼板を組立てた筒体でH型PC杭10の外表面16を覆ってぴったり接触し、H型PC杭10の下端14より下方に延出している。
【0031】
図3〜図5は袴状治具20の一実施例を示すもので、図3は平面図、図4は正面図、図5は側面図である。袴状治具20は、側板21,22,23からなる中空矩形断面をもつ筒体である。側板21,22,23にはH型PC杭10への取付部25が設けられている。袴状治具20のH型PC杭10への取付は、例えばH型PC杭10にインサート(図示省略)を埋設しておき、袴状治具20の取付部25をボルトの挿入孔とし、多数のボルトをこの孔を通ってH型PC杭10のインサートに螺入し、袴状治具20を杭10に強固に固定することができる。
【0032】
側板21,22,23は溶接接合により組立てられる。なお、必要に応じて、袴状治具20にリブや隅角部補強材等の補強部材を取付けて、薄鋼板で圧縮強度の十分な形状とするのがよい。
【0033】
袴状治具20のH型PC杭10の下端面14から下方への延出長さは、杭断面の短辺長の1倍以上とする。
【0034】
図1,図2はオーガードリル30を添装して支持地盤40内を掘削沈下する工程を示している。オーガードリル30はスパイラル羽根31を備え、掘削刃物33によって掘削した土砂を地上に排出する。
【0035】
袴状治具20先端よりオーガードリル30の先端32を杭断面の短辺長(Dとする)の分だけ突出させて掘削しながら、H型PC杭を圧入し、オーガードリル30の先端33が支持地盤表面より2D分の深度に到達した時点で、掘削の進行を止め、オーガードリルで土を排土しながら、前記2D分の深度までH型PC杭を圧入する。
【0036】
次いで、袴状治具20内及びH型PC杭10内の下端近傍にコンクリートを打設する。コンクリート打設高さは、H型PC杭10の断面の短辺長の4倍以上の高さとした。これらは上述の道路橋示方書の規定に準ずるものである。
【0037】
本発明方法によって施工したH型PC杭の鉛直載荷試験を行った。試験は、地盤工学会「杭の鉛直載荷試験方法・同解説」に基づく多サイクル方式で行った。H型PC杭として、断面高さ640mm、杭長さ14.5mの杭を使用し、支持地盤がN値45の砂質土で実施した。
【0038】
上記地盤における計算上の杭先端の極限支持力は2170kNである。今回の実験で確認された支持力は2750kNであり、本発明方法が適正であること、および本試験条件における設計上の許容支持力が明確になった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明のH型PC杭の根固めの掘削工程を示す杭の横断面図である。
【図2】本発明のH型PC杭の根固めの掘削工程を示す杭の下端部の縦断面図である。
【図3】袴状治具の一実施例を示す平面図である。
【図4】袴状治具の一実施例を示す正面図である。
【図5】袴状治具の一実施例を示す側面図である。
【符号の説明】
【0040】
10 H型PC杭
11 ウエブ
12 フランジ
13 縦凹溝
14 下端面
15 下端部
16 外表面
20 袴状治具
21,22,23 側板
25 取付部
30 オーガードリル
31 スパイラル羽根
32 先端部
33 掘削刃物
34 拡径ビット
35 オーガードリル羽根先端の軌跡
36 拡径刃先の軌跡
40 支持地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
H型PC杭の下端を支持地盤に支持させる根固め方法において、H型PC杭の下端に袴状治具を取付け、H型PC杭の左右の縦凹溝中に添装したオーガードリル下端の拡径ビットにより前記袴状治具内の支持地盤を掘削しつつ杭を圧下し、前記袴状治具を支持地盤中に貫入した後、該袴状治具及びH型PC杭の空洞内に所定高さのコンクリートを打設することを特徴とするH型PC杭の根固め方法。
【請求項2】
前記袴状治具は隣接杭との係合部を除く杭断面の外縁を包絡する形状の鋼板製筒状で、杭下端より杭断面の短辺長の1倍以上の長さが下方に延出している中空体であることを特徴とする請求項1記載のH型PC杭の根固め方法。
【請求項3】
前記所定高さは杭断面の短辺長の4倍以上であることを特徴とする請求項1又は2記載のH型PC杭の根固め方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−179957(P2008−179957A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−12994(P2007−12994)
【出願日】平成19年1月23日(2007.1.23)
【出願人】(000112196)株式会社ピーエス三菱 (181)
【Fターム(参考)】