説明

HAS2mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤、皮膚外用剤、及び抗老化剤

【課題】 線維芽細胞のヒアルロン酸産生を促進して、皮膚の老化に伴う変化(シワ・くすみ・キメの消失・弾力性の低下等)を改善し、あるいは防止することを可能とする。
【解決手段】 ソウジュツ(Atractylodis Lanceae Rhizoma)の溶媒抽出物を有効成分として含有するHAS2mRNA発現促進剤、又はヒアルロン酸産生促進剤とする。また、これを配合してなる皮膚外用剤、又は抗老化剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線維芽細胞のヒアルロン酸産生を促進する技術に関し、特に植物の抽出物を有効成分とするHAS2mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤、皮膚外用剤、及び抗老化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒアルロン酸は、動物のあらゆる結合組織に存在するグリコサミノグリカンであり、その分子量は数万から数百万といわれている。このヒアルロン酸やその塩類は、人の肌を滑らかにしたり、肌のシワを延ばしたりするなどの効果があることから、従来から化粧品や医薬品の成分として使用されている。
【0003】
生体内のヒアルロン酸、特に皮膚内のヒアルロン酸は水分保持や粘弾性に深く関与する主要な細胞外マトリックスの一つとして知られており、表皮角化細胞に加え真皮線維芽細胞からも合成されることが知られている。また、真皮のヒアルロン酸の機能として、水分保持、弾力性維持、線維芽細胞の増殖、創傷治癒にも関与していることが知られている(非特許文献1)。
【0004】
生体内のヒアルロン酸合成は、低分子の原料物質からヒアルロン酸合成酵素(以下、HASとする)により合成される。生体内のヒアルロン酸合成に関与している酵素は、3つのアイソフォームからなるHASのみであり、それぞれのHASをコードする遺伝子として、HAS1mRNA、HAS2mRNA、HAS3mRNAが知られている。これらのHAS遺伝子は、ヒト皮膚線維芽細胞とヒト表皮角化細胞で発現パターンが異なり、線維芽細胞では主にHAS2mRNAの発現を介してヒアルロン酸合成が制御されていることが明らかとなっており(非特許文献1)、また表皮角化細胞ではHAS3mRNAの発現を介してヒアルロン酸合成が制御されていることが明らかとなっている(非特許文献2)。
【0005】
しかし、ヒアルロン酸は加齢や皮膚の生理的老化に伴い減少することが知られており、真皮内のヒアルロン酸量の減少が、弾力性の低下、シワ形成等の老化現象に関与している可能性が示唆されている(非特許文献3)。そこで、このような線維芽細胞によるヒアルロン酸等の産生を促進させるために、従来から様々な研究がなされている。
例えば、特許文献1には、吹雲草からの抽出物を用いることで、線維芽細胞のヒアルロン酸産生を促進できることが記載されている。また、特許文献2には、ザゼンソウの地上部位から得られた抽出物を用いることで、ヒト真皮線維芽細胞のヒアルロン酸産生を促進した実験結果が示されている。さらに、特許文献3には、マイタケから得られた抽出物を用いることで、ヒト皮膚線維芽細胞のHAS2mRNAの発現増加を介してヒアルロン酸産生を促進した結果が示されている。
【0006】
【非特許文献1】Yoshinori Sugiyama,Akemi Shimada,Tetsuya Sayo,Shingo Sakai,Shintaro Inoue.Putative hyaluronan synthase mRNA are expressed in mouse skin and TGF-β upregulates their expression in cultured human skin cells.J. Invest. Dermatol. 110:116-121,1998.
【非特許文献2】Tetsuya Sayo,Yoshinori Sugiyama,Yoshito Takahashi, Naoko Ozawa, Shingo Sakai, Osamu Ishikawa, Masaaki Tamura, Shintaro Inoue. Hyaluronan synthase 3 regulates hyaluronan synthesis in cultured human keratinocytes.J. Invest. Dermatol. 118:43-48,2002.
【非特許文献3】佐用哲也.ヒアルロン酸代謝に着目したシワ改善剤へのアプローチ.Fragrance Journal.34(5):65−71,2004.
【特許文献1】特許第3935360号公報
【特許文献2】特許第4201091号公報
【特許文献3】特許第4583501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このように、植物から得られる抽出物には、線維芽細胞においてHAS2mRNAの発現を促進し、これによって線維芽細胞のヒアルロン酸産生を促進する効果を奏する有効成分を含有するものが存在している。このため、このような植物を見いだしてその有効成分を抽出し、これを用いることにより皮膚線維芽細胞のヒアルロン酸産生を促進して肌の滑らかさの向上やシワの防止に利用することができれば大変有用である。また、このような植物抽出物を、皮膚の老化等に伴う変化(シワ・くすみ・キメの消失・弾力性の低下等)を改善し、あるいは防止するために用いれば、老化防止用の皮膚外用剤、及び抗老化剤として有用なものとなる。
【0008】
そこで、本発明者らはこのような植物を見いだすべく、鋭意研究した結果、植物生薬であるソウジュツ(蒼朮)(学名:Atractylodis Lanceae Rhizoma)の溶媒抽出物に、線維芽細胞のHAS2mRNAの発現を促進させる作用があり、またこれによって線維芽細胞のヒアルロン酸の産生を促進させる作用があることを発見し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、ソウジュツからの溶媒抽出物を有効成分として含有するHAS2mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤、皮膚外用剤、及び抗老化剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明のHAS2mRNA発現促進剤は、ソウジュツの溶媒抽出物を有効成分として含有するものとしてある。
また、本発明のヒアルロン酸産生促進剤は、ソウジュツの溶媒抽出物を有効成分として含有するものとしてある。
【0010】
また、本発明の皮膚外用剤は、上記HAS2mRNA発現促進剤又は上記ヒアルロン酸産生促進剤を配合してなるものとしてある。
また、本発明の抗老化剤は、上記HAS2mRNA発現促進剤又は上記ヒアルロン酸産生促進剤を配合してなるものとしてある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、線維芽細胞のHAS2mRNAの発現を促進させることができるHAS2mRNA発現促進剤、及びこのような線維芽細胞におけるHAS2mRNAの発現促進を介して、線維芽細胞のヒアルロン酸産生を促進させることにより、肌の老化を改善又は抑制することが可能なヒアルロン酸産生促進剤を提供することが可能となる。
また、このようなHAS2mRNA発現促進剤又はヒアルロン酸産生促進剤を配合してなる皮膚外用剤、及び抗老化剤を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のHAS2mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤、皮膚外用剤、及び抗老化剤の一実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態及び実施例の内容に限定されるものではない。
【0013】
[ソウジュツ]
ソウジュツ(蒼朮)(学名:Atractylodis Lanceae Rhizoma)は、キク科のホソバオケラ(Atractylodes lancea De Candolle又はAtractylodes chinensis Koidzumi(Compositae))、オケラ(Atractylodes japonica)、オオバナオケラ(Atractylodes ovate De Candolle)等の根茎を加熱又は天日乾燥した生薬である。
本実施形態のHAS2mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤、皮膚外用剤、及び抗老化剤を製造するにあたっては、特にホソバオケラから得られたソウジュツを用いることが好ましい。
【0014】
[HAS2mRNA発現促進剤,ヒアルロン酸産生促進剤]
本実施形態のHAS2mRNA発現促進剤、及びヒアルロン酸産生促進剤は、ソウジュツから溶媒抽出法によってHAS2mRNA発現増加物質を抽出することにより得ることができる。このHAS2mRNA発現増加物質によって、線維芽細胞のHAS2mRNAの発現量が増加することで、線維芽細胞のヒアルロン酸産生が促進される。したがって、このHAS2mRNAの発現増加物質は、HAS2mRNAの発現を介してヒアルロン酸の産生を促進するヒアルロン酸産生促進物質でもある。
この溶媒抽出処理は、一般的な方法により行うことができる。例えば、ソウジュツを抽出溶媒に浸漬し、これを静置又は撹拌することにより行うことができる。
【0015】
抽出溶媒としては、水、親水性有機溶媒(メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール)、又はこれらの混合液を用いることができる。好ましい抽出溶媒は、水もしくは低級アルコールの単独の溶液、又は水と低級アルコールの混合液であり、水と低級アルコールの混合液が特に好ましい。
【0016】
抽出溶媒として混合液を使用する場合、その混合比は、適宣調整することができる。
例えば、水と親水性有機溶媒の混合比を、容量比で10:90〜90:10とすることにより抽出処理を好適に行うことが可能である。
【0017】
また、本実施形態のHAS2mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤、皮膚外用剤、及び抗老化剤における原料のソウジュツの抽出溶媒に対する混合比(重量g/容量ml)は、1/500〜1/2とすることが好ましい。1/500未満にすると、HAS2mRNA発現促進効果を十分に得ることができず、したがってヒアルロン酸産生促進効果も十分に得られず、また1/2より大きい場合には、原料の高い濃度の影響により返ってHAS2mRNAの発現及びヒアルロン酸の産生が阻害されることがあるためである。このような観点から抽出溶媒に対するソウジュツの混合比は、1/100〜1/5とすることがより好ましく、1/20〜1/5とすることがさらに好ましい。
【0018】
なお、以下の実施例では、抽出溶媒に対するソウジュツの混合比が1/20〜1/5の場合、本実施形態のHAS2mRNA発現促進剤を、線維芽細胞を播種したディッシュに添加した場合のHAS2mRNA発現促進率は、添加しない場合に比較して3.5〜4倍程度向上することが示されている。
また、同様に、抽出溶媒に対するソウジュツの混合比が1/20〜1/5の場合、本実施形態のヒアルロン酸産生促進剤を、線維芽細胞を播種したディッシュに添加した場合のヒアルロン酸産生促進率は、添加しない場合に比較して2.5〜3.5倍程度向上することが示されている。
【0019】
抽出温度は、通常は抽出溶媒の沸点以下の温度にする必要があり、特に5〜50℃とすることが好ましい。
抽出時間は、抽出温度が室温付近の場合、1〜10日間とすることができ、2〜5日間とすることが好ましい。
【0020】
以上のようにしてソウジュツから得られた抽出物は、そのままでもHAS2mRNA発現促進剤又はヒアルロン酸産生促進剤として用いることができる。また、得られた抽出物を濃縮、乾固したものを、水や極性溶媒に再度溶解したり、あるいはHAS2mRNA発現促進作用又はヒアルロン酸産生促進作用を損なわない範囲で脱色、脱臭、脱塩等の精製処理や分画処理を行った後に、HAS2mRNA発現促進剤又はヒアルロン酸産生促進剤として用いることも可能である。
【0021】
[皮膚外用剤,抗老化剤]
本実施形態の皮膚外用剤及び抗老化剤は、ヒト皮膚線維芽細胞のHAS2mRNAの発現を増加させることで、ヒアルロン酸産生を促進し、これによってヒアルロン酸の減少により生じる皮膚の老化に伴う変化(シワ・くすみ・キメの消失・弾力性の低下等)を改善し、あるいは防止する作用を奏するものとなっている。また、皮膚に適用した場合の使用感と安全性にも優れている。
また、本実施形態の皮膚外用剤と抗老化剤の種類は、特に限定されるものではなく、例えば、軟膏、クリーム、乳液、美容液、ローション、パック、口紅、入浴剤等に用いることが可能である。また、皮膚外用剤と抗老化剤におけるHAS2mRNA発現促進剤又はヒアルロン酸産生促進剤の配合量は、皮膚外用剤と抗老化剤の種類や、抽出したHAS2mRNA発現増加物質又はヒアルロン酸産生促進物質の生理活性等によって適宣調整することができる。例えば、当該抽出物の配合量を皮膚外用剤又は抗老化剤全量中に、10重量%程度以下となるように配合することが好ましい。
【0022】
さらに、本実施形態の皮膚外用剤及び抗老化剤には、ヒアルロン酸産生促進作用の妨げにならない限り、皮膚外用剤や抗老化剤の製造に通常使用される油性成分、界面活性剤、保湿剤、紫外線吸収剤、増粘剤、アルコール類、顔料、香料、酸化防止剤、防腐剤等の一般的な医薬品及び化粧品原料や、収斂剤、殺菌・抗菌剤、美白剤、活性酸素消去剤、皮膚細胞賦活剤、抗炎症剤、抗アレルギー剤等の生理活性成分も含有させることができる。
【0023】
以上説明したように、本実施形態によれば、皮膚の老化に伴う変化を改善あるいは防止する作用を有し、皮膚に適用した場合の使用感と安全性、及び老化防止効果に優れたHAS2mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤、皮膚外用剤、及び抗老化剤を提供することが可能となっている。
【実施例】
【0024】
以下、本実施形態のHAS2mRNA発現促進剤、ヒアルロン酸産生促進剤、皮膚外用剤、及び抗老化剤の効果を評価するための実施例及び試験例と、皮膚外用剤及び抗老化剤の配合例について説明する。
【0025】
(製造例1)
ソウジュツ(株式会社紀伊国屋漢薬局製)30gを、50容量%エタノール水溶液300mLに浸漬し、室温で2日間静置した。その後、不溶物をろ別除去し、40℃で減圧下にて濃縮し、さらに凍結乾燥機で乾燥して、抽出物(HAS2mRNA発現促進剤又はヒアルロン酸産生促進剤)8.8gを得た。
この抽出物をDMSO(dimethyl sulfoxide)とPBS(リン酸緩衝生理食塩水)の混合液(容量比50:50)に溶解して濃度を調整し、これを試料として用いて以下の試験を行った。
【0026】
(試験例1)HAS2mRNA発現促進作用試験
製造例1にて得られたソウジュツ抽出物について、以下のようにしてHAS2mRNA発現促進作用を試験した。
【0027】
(1)細胞培養と試料の添加
0.5%FBS(ウシ胎児血清(Fetal bovine serum)、GIBCO社製)を含むDMEM(Dulbecco's Modified Eagle Medium、GIBCO社製)培地を用いて、35mmディッシュ5枚に、正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF、倉敷紡績株式会社製)を、それぞれ2×10個となるように播種し、37℃、5%COの下で一晩培養した。
また、上記抽出物(HAS2mRNA発現促進剤)を、各1,5,10,20(mg/mL)の濃度で含有する、DMSOとPBSの混合液(容量比50:50)を、0.5%FBSを含むDMEM培地に、各混合液を培地量の1/100量になるように溶解したサンプルを準備し、それぞれ実施例1−4の試料とした。
さらに、比較例1として、0.5%FBSを含むDMEM培地に、試料を溶解していないDMSOとPBSの混合液(容量比50:50)を、培地量の1/100量になるように添加したサンプルを準備した。
【0028】
24時間後、実施例1−4及び比較例1ごとに、各サンプルを、上記の正常ヒト皮膚線維芽細胞を播種したディッシュに2mL添加し、37℃、5%COの下でさらに24時間培養した。
培養終了後、常法により総RNAを抽出した。総RNAの抽出は、ディッシュから培地を吸引除去した後、RNeasy Mini Kit(QIAGEN製)を用いて、当該キットの操作方法に従い行った。
【0029】
(2)cDNAの合成
cDNAの合成は、cDNA合成キット(High Capacity cDNA Reverse Transcription Kit,ライフテクノロジーズ社製)及びマスターサイクラー(ep realplex,エッペンドルフ社製)を使用して行った。
具体的には、上記抽出により得られた総RNA(40ng/μL)を、実施例1−4及び比較例1ごとにそれぞれ10μL用いて、cDNA合成キットの使用方法に従い反応液を調製し、マスターサイクラーにより25℃で10分間、37℃で120分間、85℃で5分間反応させ、HAS2mRNA発現量を測定するための鋳型に使用するcDNAを合成した。
【0030】
(3)サイバーグリーン法を用いたリアルタイムPCR反応
HAS2遺伝子増幅用プライマーとして、下記の配列を有するセンスプライマー(配列番号1)及びアンチセンスプライマー(配列番号2)を使用した。
センスプライマー:5’−ACAGACAGGCTGAGGACGACTT−3’
アンチセンスプライマー:5’−AAGCAGCTGTGATTCCAAGGA−3’
【0031】
また、内部標準としてのGAPDH遺伝子増幅用プライマーとして、下記の配列を有するセンスプライマー(配列番号3)及びアンチセンスプライマー(配列番号4)を使用した。
センスプライマー:5’−CCCATGTTCGTCATGGGTGT−3’
アンチセンスプライマー:5’−TGGTCATGAGTCCTTCCACGATA−3’
【0032】
実施例1−4及び比較例1ごとに、培養した細胞から調製したcDNAについて、上記プライマーセットを使用して、リアルタイムPCR装置(Applied Biosystems7500FastリアルタイムPCRシステム,ライフテクノロジーズ社製)及びリアルタイムPCRキット(Fast SYBR Green Master Mi,ライフテクノロジーズ社製)によりリアルタイムPCR反応を行った。反応は、95℃で20秒間保温の後、95℃で3秒間、60℃で30秒間の反応を40サイクル繰り返し、1サイクルごとのサイバーグリーン色素の発光量を測定した。
【0033】
(4)解析
各サイクルごとのサイバーグリーン色素の発光量にもとづいて、HAS2及びGAPDHのそれぞれをコードするDNA断片の増幅曲線を作成し、GAPDHを内部標準遺伝子として、比較Ct法(ΔΔCt法)を用いて上記発光量を相対的に定量した(Applied Biosystems User Bulletin #2.11−15,2001参照)。
【0034】
以上の試験を、実施例1−4及び比較例1について、それぞれ3回行った。そして、比較例1(試料を含有しない対照)のHAS2mRNA発現量の平均値を基準とし、各実施例におけるHAS2mRNA発現量の換算値にもとづいて、HAS2mRNA発現促進率を算出した。その結果を表1に示す。同表において、各実施例のHAS2mRNA発現促進率は、それぞれ3回の試験を実施して得られた平均値を示している。
【0035】
【表1】

【0036】
表1に示されるように、試料添加濃度が0μg/mLの場合のHAS2mRNA発現促進率を100.0%とすると、試料添加濃度が10μg/mLの場合のHAS2mRNA発現促進率は118.3%、試料添加濃度が50μg/mLの場合のHAS2mRNA発現促進率は390.2%、試料添加濃度が100μg/mLの場合のHAS2mRNA発現促進率は418.8%、試料添加濃度が200μg/mLの場合のHAS2mRNA発現促進率は354.6%であった。
すなわち、本発明のHAS2mRNA発現促進剤は、50〜200μg/mLの濃度で有意にHAS2mRNA発現を促進しており、特に100μg/mLの濃度においてその効果は最大となっていた。
【0037】
(試験例2)ヒアルロン酸産生促進作用試験
製造例1にて得られたソウジュツ抽出物について、以下のようにしてヒアルロン酸産生促進作用を試験した。
【0038】
(1)細胞培養と試料の添加
0.5%FBS(ウシ胎児血清(Fetal bovine serum)、GIBCO社製)を含むDMEM(Dulbecco's Modified Eagle Medium、GIBCO社製)培地を用いて、24ウェルプレートに、正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF、倉敷紡績株式会社製)を、それぞれ1ウェルあたり8×10個となるように播種し、37℃、5%COの下で一晩培養した。
また、上記抽出物(ヒアルロン酸産生促進剤)を、各1,5,10,20(mg/mL)の濃度で含有する、DMSOとPBSの混合液(容量比50:50)を、0.5%FBSを含むDMEM培地に、各混合液を培地量の1/100量になるように溶解したサンプルを準備し、それぞれ実施例5−8の試料とした。
さらに、比較例2として、0.5%FBSを含むDMEM培地に、試料を溶解していないDMSOとPBSの混合液(容量比50:50)を、培地量の1/100量になるように添加したサンプルを準備した。
【0039】
24時間後、実施例5−8及び比較例2ごとに、各サンプルを、上記の正常ヒト皮膚線維芽細胞を播種したウェルに500μL添加し、37℃、5%COの下でさらに48時間培養した。
【0040】
(2)ヒアルロン酸の測定
培養終了後、実施例5−8及び比較例2ごとに、培養上清を回収してプロナーゼ処理を行った後、ヒアルロン酸結合タンパクを用いたサンドイッチELISA法により、培養上清中のヒアルロン酸量を測定した。同時に細胞数を計測し、細胞当たり(1×10個当たり)のヒアルロン酸産生量を算出した。プロナーゼ処理、サンドイッチELISA法、及び細胞数の計測は、一般的な手法により行った。
【0041】
以上の試験を、実施例5−8及び比較例2について、それぞれ3回行った。そして、比較例2(試料を含有しない対照)のヒアルロン酸産生量の平均値を基準とし、各実施例におけるヒアルロン酸産生量の換算値にもとづいて、ヒアルロン酸産生促進率を算出した。その結果を表2に示す。同表において、各実施例のヒアルロン酸産生促進率は、それぞれ3回の試験を実施して得られた平均値を示している。
【0042】
【表2】

【0043】
表2に示されるように、試料添加濃度が0μg/mLの場合のヒアルロン酸産生促進率を100.0%とすると、試料添加濃度が10μg/mLの場合のヒアルロン酸産生促進率は86.5%、試料添加濃度が50μg/mLの場合のヒアルロン酸産生促進率は306.1%、試料添加濃度が100μg/mLの場合のヒアルロン酸産生促進率は338.4%、試料添加濃度が200μg/mLの場合のヒアルロン酸産生促進率は250.1%であった。
すなわち、本発明のヒアルロン酸産生促進剤は、50〜200μg/mLの濃度で有意にヒアルロン酸産生量を促進しており、特に100μg/mLの濃度においてその効果は最大となっていた。なお、試験した濃度範囲内において細胞毒性は認められなかった。
【0044】
以上の通り、本発明のHAS2mRNA発現促進剤、及びヒアルロン酸産生促進剤によれば、線維芽細胞におけるHAS2mRNAの発現を促進することができ、また線維芽細胞にヒアルロン酸産生を大きく促進できることが明らかとなった。したがって、これらのHAS2mRNA発現促進剤又はヒアルロン酸産生促進剤を配合してなる皮膚外用剤及び抗老化剤によれば、線維芽細胞のヒアルロン酸産生を促進することにより、皮膚の老化に伴う変化を改善できることがわかる。
【0045】
(配合例)ソウジュツを用いた皮膚外用剤、及び抗老化剤の配合例
以下に、種々の剤型の皮膚外用剤、及び抗老化剤についてのソウジュツの溶媒抽出物(HAS2mRNA発現促進剤又はヒアルロン酸産生促進剤)の配合例を示す。
[化粧水]
下記組成の化粧水を常法により製造した。
ソウジュツ50%エタノール抽出物 0.2g
グリセリン 5g
1,3-ブチレングリコール 3g
エタノール 3%
イソステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 0.1g
パラオキシ安息香酸メチル 0.12g
クエン酸ナトリウム 0.05g
ヒアルロン酸ナトリウム1%水溶液 1g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0046】
[乳液]
下記組成の乳液を常法により製造した。
スクワラン 2g
流動パラフィン 4g
モノステアリン酸グリセリル 2g
ポリオキシエチレンステアリルエーテル(20E.O.) 2.5g
オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(20E.O.) 2g
ソウジュツ50%エタノール抽出物 0.5g
グリセリン 2g
1,3-ブチレングリコール 3g
パラオキシ安息香酸メチル 0.2g
パラオキシ安息香酸プロピル 0.1g
カルボキシビニルポリマー 0.05g
水酸化ナトリウム 0.01g
ヒアルロン酸ナトリウム1%水溶液 1g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0047】
[クリーム]
下記組成のクリームを常法により製造した。
スクワラン 7g
ホホバ油 3g
ベヘニルアルコール 1g
セタノール 1.5g
メチルフェニルポリシロキサン 1.5g
N-ステアロイル-L-グルタミン酸ナトリウム 0.3g
ポリオキシエチレンステアリルエーテル(20E.O.) 2g
ソウジュツ50%エタノール抽出物 0.5g
1,3-ブチレングリコール 5g
グリセリン 2g
ソルビトール 3g
ヒアルロン酸ナトリウム1%水溶液 1g
パラオキシ安息香酸メチル 0.2g
パラオキシ安息香酸ブチル 0.1g
カルボキシビニルポリマー 0.3g
水酸化ナトリウム 0.05g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0048】
[美容液]
下記組成の美容液を常法により製造した。
デカオレイン酸ポリグリセリル 0.2g
モノオレイン酸ポリグリセリル 1.5g
ソウジュツ50%エタノール抽出物 0.5g
グリセリン 4g
1,3-ブチレングリコール 3g
カルボキシビニルポリマー 0.25g
キサンタンガム 0.08g
マルチトール 0.8g
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム 0.1g
酢酸dl-α-トコフェロール 0.1g
ヒアルロン酸ナトリウム1%水溶液 3g
パラオキシ安息香酸メチル 0.2g
精製水 残部(全量を100gとする)
【0049】
本発明は、以上の実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、上記の実施例では、正常ヒト皮膚線維芽細胞のヒアルロン酸産生を促進させる例を示したが、家畜などの動物の皮膚における線維芽細胞のヒアルロン酸産生を促進させることもできる。また、ソウジュツ抽出物の有効成分を精製し、これを含有するHAS2mRNA発現促進剤、又はヒアルロン酸産生促進剤とするなど適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、老化防止用の皮膚化粧料等を製造する場合などにおいて、好適に利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソウジュツ(Atractylodis Lanceae Rhizoma)の溶媒抽出物を有効成分として含有することを特徴とするHAS2mRNA発現促進剤。
【請求項2】
ソウジュツ(Atractylodis Lanceae Rhizoma)の溶媒抽出物を有効成分として含有することを特徴とするヒアルロン酸産生促進剤。
【請求項3】
請求項1記載のHAS2mRNA発現促進剤又は請求項2記載のヒアルロン酸産生促進剤を配合してなることを特徴とする皮膚外用剤。
【請求項4】
請求項1記載のHAS2mRNA発現促進剤又は請求項2記載のヒアルロン酸産生促進剤を配合してなることを特徴とする抗老化剤。

【公開番号】特開2012−158529(P2012−158529A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−17713(P2011−17713)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(397018578)ジュジュ化粧品株式会社 (2)
【Fターム(参考)】