説明

HATアセチル化プロモーター及び免疫原性を促進する際のその組成物の使用

本発明は、増大したTAP−1発現を介した細胞障害性Tリンパ球細胞によって検出されるMHCクラスI表面分子の提示を増大させることにより、TAP−1発現欠失細胞の免疫原性を増強するための方法及び組成物を提供し、この方法は、細胞中のTAP−1遺伝子の転写を促進して細胞のMHCクラスI表面発現の増強を引き起こすTAP−1発現増加量の生体許容物質を、TAP−1発現欠失細胞に投与することを含む。生体許容物質は、トリコスタチンAなどのヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤、固有のヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性を有する転写コアクチベーター又はCBP/p300タンパク質ファミリーの少なくとも1つのメンバーを含むヒストンアセチルトランスフェラーゼであってよい。これらの方法及び組成物は、標的細胞、例えば腫瘍細胞の免疫原性を増大させて、細胞障害性リンパ球によるそれらの破壊を増強する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬組成物及び医学的治療におけるその使用に関する。より詳細には本発明は、患者の身体中の選択した細胞の免疫原性を増強し、それによって細胞を身体の免疫系による認識及び排除に対してより敏感にするための、組成物及び医学的治療に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞障害性Tリンパ球(CTL)応答は、それらの表面上で外来抗原を発現する感染又は悪性細胞及び侵入生物の免疫学的監視及び破壊において活発な、免疫系の主な構成要素である。抗原特異的T細胞受容体のリガンドは、主要組織適合性遺伝子複合体(MHC)分子と結合した外来抗原のペプチド断片で構成される複合体である。細胞障害性Tリンパ球は、ペプチド部分を含む三次構造複合体として細胞表面で通常発現されるMHCクラスI分子と結合したペプチドを認識する。三次構造複合体の形成は、細胞質中でのタンパク質分解によって生成するペプチドの小胞体内腔への輸送を含む。
【0003】
MHC領域中に位置する2つの遺伝子、即ちTAP−1及びTAP−2が同定されており、これらは細胞質からのこのペプチドの輸送に関与している。
【0004】
従来技術に対する簡単な言及
2002年3月26日に発行されたJefferiesらの米国特許第6,361,770号は、TAP−1又はTAP−2をコードする核酸配列を標的細胞に導入し発現させることによって、標的細胞の表面上でのMHCクラスI分子の発現を増強する方法を教示する。標的細胞中でのTAP−1又はTAP−2の発現は、標的細胞上でのMHCクラスI表面分子の提示を増強し、したがって免疫系のCTLによってそれらを検出及び排除することができる。この方法は、プロテアソーム成分の欠乏があり、したがって正常未満のTAP発現があり、その結果CTLによって認識される十分なMHCクラスI表面分子を発現しない腫瘍細胞に関して特に有用である。加えた核酸配列からのTAPのin situでの増大した発現によって、標的細胞は免疫系のCTLの認識及び作用下に移行する。
【0005】
クロマチン構造の制御は、遺伝子発現を調節する際に重要な役割を果たすことは知られている。クロマチン構造の調節と関係がある遺伝子の脱制御は、無制御な細胞増殖、宿主の免疫学的監視の回避及び腫瘍の発達と密接に関連している。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
クロマチンリモデリングは、抗原プロセシング関連トランスポーター(TAP)−1、抗原プロセシング機構の重要な構成要素の発現を制御する際に役割を果たすことが現在分かっている。クロマチン鋳型中、特にアセチル化感受性プロモーターの近接領域における高レベルのアセチル化コアヒストンは、転写活性部位と関係付けられることが以前に示されており、したがってヒストンH3アセチル化は、TAP−1の転写を制御する際に重要な役割を果たすことが現在決定されている。特に、非常に特異的なヒストンデアセチラーゼ阻害剤であるトリコスタチンAは、癌細胞におけるTAP−1の転写及び表面MHCクラス1の提示を促進し、それらの免疫原性の増強をもたらす際に非常に有効であることが分かっている。本発明者らは、TAP−2、タパシン、MHCI、LMP2、7などはいずれもTSAによって上方制御されることを示す。
【0007】
したがって本発明の第1の態様によれば、細胞障害性Tリンパ球細胞によって検出されるMHCクラスI表面分子の提示を増大させることにより、細胞の免疫原性を増強する方法であって、細胞中の遺伝子の転写を促進して細胞のMHCクラスI表面発現の増強を引き起こす有効量の生体許容物質を細胞に投与することを含む方法を提供する。
【0008】
第2の態様によれば、本発明は、哺乳動物細胞のMHCクラスI表面発現を増強するために哺乳動物に投与するための医薬組成物であって、細胞中のTAP−1遺伝子又はMHCクラスIの発現に関与する他の遺伝子の転写を促進して細胞のMHCクラスI表面発現の増強を引き起こす生体許容物質、及び適切なアジュバント又は担体を含む組成物を提供する。
【0009】
本発明のさらなる態様は、過剰なTAP−1発現欠失細胞が関与する障害に罹患した哺乳動物に投与するための、細胞中のTAP−1遺伝子の転写を促進して細胞のMHCクラスI表面発現の増強を引き起こすTAP−1発現増加量の物質、及び適切なアジュバント又は担体を含む組成物の調製又は製造における使用を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
好ましい実施形態によれば、生体許容物質は、ヒドロキサム酸系のヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤などのヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ、又は固有のヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性を有する転写コアクチベーターである。
【0011】
特定の好ましい実施形態によれば、この物質はトリコスタチンA、又はCBP/p300タンパク質ファミリーの少なくとも1つのメンバーを含むヒストンアセチルトランスフェラーゼである。
【0012】
それによって働くと考えられる作用又は生化学的機構の任意の特定の理論によって、本発明が制限されるはずであるとは意図しないが、本発明及びその実施のより良い理解のために以下の事項を提供し仮定する。
【0013】
癌におけるTAP−1転写の障害は、一般的な転写因子及びRNAポリメラーゼIIの遺伝子のプロモーターへのアクセスを妨げる、TAP−1プロモーター領域周辺のコンパクトなヌクレオソーム構造に起因する物的障壁によっておそらく引き起こされる。前に示したように、クロマチン鋳型中、特にアセチル化感受性プロモーターの近接領域における高レベルのアセチル化コアヒストンは、転写活性部位と関係付けられることが示されている。いくつかのネズミ癌細胞系のTAP−1プロモーターにおけるヒストンH3アセチル化のレベルの上昇は、ヒストンH3アセチル化はTAP−1転写の制御において役割を果たすことを示した。ヒストンH3は、その修飾が様々な遺伝子発現において役割を果たすことが示されたコアヒストンの唯一の型ではないが、ヒストンH3尾部のアセチル化と様々な遺伝子の活性化の間の相関関係は広く研究されてきており、現在は十分確立している。Tap−2及びタパシンなども、このようにして同様に制御される。
【0014】
本発明中で使用するのに好ましいヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)は、非常に特異的なトリコスタチンA(TSA)である。TSAは、遺伝子に選択的に作用し、培養腫瘍細胞中で発現される遺伝子のわずか約2%の転写を改変し、且つin vitro及びin vivoで抗癌作用を与える、ヒドロキサム酸系のヒストンデアセチラーゼ阻害剤の一群に属する。
【0015】
本発明の方法は、悪性細胞、ウイルスに感染した細胞及び細菌に感染した細胞を含めた、TAP−1の発現欠失を示す哺乳動物細胞に対して一般に適用する。最も好ましいのは、悪性腫瘍細胞、特にメラノーマ細胞、肺癌細胞、前立腺癌細胞及び子宮頸癌細胞中のTAP−1の発現を増強する際の使用である。癌細胞はパピローマEE6及びE7遺伝子を発現するので、パピローマウイルス抗原の認識の向上が本発明によって可能である。パピローマはヘルペスウイルスなので、この手法はすべてのヘルペスウイルスに予想通り働く。
【0016】
本発明による組成物は、それらがTAP発現欠失細胞の部位(複数可)に到達するという条件で、様々な経路のうちの任意のものによって患者に投与することができる。このような経路には、静脈内、筋肉内、腹腔内、経口、鼻腔、非経口、さらに前記化合物で腫瘍又は樹状細胞を処理し次いでそれらを患者などに再導入することによるex vivoでの腫瘍間経路がある。適切な用量は治療下の患者の状態及び障害の重度によって決定されるが、他の悪性治療薬剤との類似性に基づいて主治医の通常の技術範囲内にある。
【0017】
本発明の組成物の特に好ましい使用は、知られている癌、細菌感染、原生及びウイルス感染治療と関連したアジュバントとしての使用である。本発明の組成物を、ワクチンなどの他の薬学的に有効な治療剤と共にアジュバントとして使用するとき、有効なワクチン量の多数倍の低下が予想される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
添付の図面の図1〜8は、以下にある程度詳しく記載し論じる様々な具体的な実験実施例から得た結果の、グラフ表示及び図的記述である。
【0019】
本発明は、以下の「実験手順」及び「実施例」項中にさらに記載する。
【実施例】
【0020】
実験手順
細胞系及び試薬
この試験では、3つの細胞系:TC−1、TC−1/D11及びTC−1/A9をHPV−陽性癌モデルとして使用した。TC−1細胞系は、HPV16E6及びE7オンコジーン及び活性化H−rasを用いたネズミ初代肺細胞の形質転換から開発した[1]。TC−1/D11及びTC−1/A9は、TAP−1及びMHCクラス1の発現が下方制御されたTC−1細胞のクローンである[2]。ネズミ初代前立腺癌細胞系、PA、及びその転移、TAP−及びMHCクラスI欠失誘導体、LMDも使用した[3]。
【0021】
HPV16E6及びE7オンコジーン及び活性化H−rasを用いたC57BL/6初代肺細胞の形質転換から開発したTC−1細胞系は、Dr.T.C.Wu、Johns Hopkins University、Baltimore、MDによって提供された[7]。TC−1/D11及びTC−1/A9細胞系は、Dr.M.Smahel、Institute of Hematology and Blood Transfusion、プラハ、チェコ共和国によって提供された[12]。TC−1/D11及びTC−1/A9は、本文中ではそれぞれD11及びA9と略す。CMT.64細胞系は、C57BL/6マウスの自然発生肺癌から樹立した[4]。Ltk(=L−M(TK−))線維芽細胞系はC3H/Anマウス(ATCC、Manassas、VA)から誘導した。前述のすべての細胞系はDMEM培地中で増殖させた。それぞれ129/Svマウスの初代及び転移性前立腺癌から誘導したPA及びLMD細胞系(Dr.T.C.Thompson、Baylor College of Medicine、Houston、TXの贈答品)[3]、及びいずれもC57BL/6マウスから誘導したB16F10(B16)メラノーマ[5]及びRMAリンパ腫[6]細胞系を、RPMI1640培地中に維持した。RPMI1640及びDMEM培地に、10%加熱不活性化ウシ胎児血清(FBS)、2mMのL−グルタミン、100U/mlのペニシリン、100μg/mlのストレプトマイシン、及び10mMのHEPESを補充した。1ミリモルのピルビン酸ナトリウム及び0.4mg/mlのG418も、TC−1、D11及びA9細胞用にDMEM培地に加えた。細胞は未処理状態であったか、或いは100ng/mlのTSAで(Sigma、St.Louis、MO)24時間(CMT.64、B16、PA及びLMD)又は48時間(TC−1、D11及びA9)、又は50ng/mlのIFN−γで48時間処理した。
【0022】
逆転写PCR分析
PCR増幅に使用したプライマー(Sigma−Genosys、Oakville、ON and Integrated DNA Technologies(IDT)、Coralville、IA)を表1中に挙げる。全細胞RNAをトリゾール試薬(Invitrogen、Burlington、ON)を使用して抽出し、DNase1(Ambion Inc.、Austin、TX)でRNAサンプルを処理することによって汚染DNAを除去した。1μgの全細胞RNAの逆転写は、20μlの合計体積でInvitrogenからの逆転写キットを使用して実施した。cDNAの2μlのアリコートを、1×PCRバッファー、250μMのデオキシヌクレオチド三リン酸、1.5mMのMgCl、0.2μMの各プライマー及び2.5単位のTaq又はPlatinum Taq DNAポリメラーゼを含む合計50μlの反応混合物におけるPCR用の鋳型として使用した。すべてのPCR試薬は、Invitrogen and Fermentas、Burlington、ONから入手した。cDNA増幅は、変性(1分、95℃)、アニーリング(1分、54〜64℃)、及び伸長(2分、72℃)の25〜35サイクルでT勾配サーモサイクラー(Biometra、Goettingen、ドイツ)において特異的プライマー対を用いて実施した。サイクルは10分間72℃の最終伸長で終了した。20マイクロリットルの増幅産物をアガロースゲル上で分析し、臭化エチジウムで染色し、UV光下で写真撮影した。
【0023】
リアルタイム定量PCR分析
この試験では、クロマチン免疫沈降アッセイにおいて抗体と共沈降する内因性TAP−1プロモーターのレベルの定量化、及び安定的にトランスフェクトした細胞中に組み込んだpTAP1−luc構築体のコピー数の定量化のために、この方法を利用した。精製したゲノムDNAは、合計10μlの反応混合物において200〜500nMの各プライマー及び1μlのSYBR Green Taq ReadyMix(Roche)を使用する増幅用の鋳型として使用した。変性(5秒、95℃)、アニーリング(5秒、61〜63℃)、及び伸長(20秒、72℃)の37サイクルは、Roche LightCyclerを使用して実施した。
【0024】
クロマチン免疫沈降アッセイ
サンプル当たり7×10個の細胞を使用したクロマチン免疫沈降実験を、以前に記載されたのと同様に行った[7]。5マイクログラムの抗RNApolII(N−20、sc−899、Santa Cruz Biotechnologies、Santa Cruz、CA)、抗アセチルヒストンH3(Upstate Biotechnology Inc.、Lake Placid、NY)又は抗CBP(A−22、sc−369、Santa Cruz)ポリクローナル抗体(Ab)を免疫沈降に使用した。ネズミTAP−1プロモーター又は各サンプル由来の抗体との共沈降のレベルを、TAP−1プロモーターに特異的なプライマーを使用するリアルタイムPCRによって定量化した。TAP−1プロモーターの3’末端に特異的なプライマーは、抗RNApolII又は抗アセチルヒストンH3抗体を使用して鋳型が免疫沈降する場合PCRに使用し、一方5’末端に特異的なプライマーは、抗CBP抗体を使用して免疫沈降する鋳型に使用した。ネズミTAP−1プロモーターを含むプラスミドの連続希釈を使用して、TAP−1プロモーター特異的プライマー対を使用し標準曲線を作製した。
【0025】
プラスミド構築体
TAP−1プロモーターによって誘導されるEGFP遺伝子を含むプラスミド(pTAP1−EGFP)を、以前に記載されたのと同様に構築した[8]。TAP−1プロモーターによって誘導されるルシフェラーゼ遺伝子を含む同様の構築体(pTAP1−luc)を、pGL4.14[luc2/Hygro]ベクター(Promega、Madison、WI)のSacI部位とBglII部位の間にTAP−1プロモーターを挿入することによって作製した。いくつかの切断型TAP−1プロモーター構築体も、その5’末端切断部をpGL4.14[luc2/Hygro]ベクターにクローニングすることによって作製した。完全なTAP−1プロモーター及びその切断部のPCR増幅に使用したプライマーは表1に挙げる。
【0026】
トランスフェクション及び選択
TC−1、D11、A9、PA及びLMD細胞に、ExGen500 in vitroトランスフェクション試薬(Fermentas)を使用して、TAP−1プロモーター構築体又はプロモーターを含まないpGL4.14[luc2/Hygro]ベクターをトランスフェクトした。一過性トランスフェクタントはトランスフェクション後12時間と72時間の間で分析した。安定トランスフェクタントを得るために、トランスフェクト細胞は、以下の濃度のハイグロマイシンB(Sigma):TC−1細胞に関して550ng/ml、D11、A9及びLMD細胞に関して250ng/ml、PA細胞に関して200ng/mlの存在下において3週間で選択した。
【0027】
ルシフェラーゼアッセイ
一過性トランスフェクタントにおける相対ルシフェラーゼ活性(RLA)を、トランスフェクション後12〜72時間以内にデュアルルシフェラーゼアッセイ(Promega)によって評価した。(トランスフェクション後3週間〜1カ月の)安定トランスフェクタントにおけるRLAはBright−Gloルシフェラーゼアッセイ(Promega)によって評価し、プロモーターを含まないpGL4.14[luc2/Hygro]ベクターのみを用いたトランスフェクションから得られた対応する値を有する結果を差し引き、且つそれぞれの安定トランスフェクタントのゲノムに組み込んだプラスミドのコピー数と値をさらに正規化することによって決定した。
【0028】
ウェスタンブロット
サンプル当たり50マイクログラムのタンパク質を、6%(p300、CBP及びTAP−1)又は15%(β−アクチン及びアセチル−ヒストンH3)SDS−PAGEによって分離した。タンパク質はニトロセルロース膜(Bio−rad、Hercules、CA)に移した。ブロットをPBSに溶かした5%スキムミルクでブロッキングし、適切な抗体希釈でインキュベートした。以下のウサギポリクローナル抗体、(Linda Li in Jefferies Labによって作製された)抗マウスTAP−1、抗アセチル−ヒストンH3(Upstate Biotechnology Inc.)、抗p300(C−20、sc−585、Santa Cruz)、抗CBP(A−22、sc−369、Santa Cruz)をこれらの試験中で使用した。使用した二次抗体は、HRP結合ヤギ抗ウサギ二次抗体(Jackson Immunoresearch Lab.、West Grove、PA)であった。充填対照用に、抗β−アクチンマウスモノクローナル抗体(Sigma)、次にHRP結合ヤギ抗マウス二次抗体(Pierce、Rockford、IL)を使用した。Lumi−light試薬(Pierce)を使用してブロットを発色させた。
【0029】
細胞障害性アッセイ
1*107TCIPの水疱性口内炎ウイルス(VSV)をC57B16マウスに注射することによってCTLエフェクター細胞を作製した。脾臓を7日後に回収し、均質化し、1μMのVSV−NPペプチド(RGYVYQGL)と共に、CTL培地(10%のFBS(Hyclone)、20mMのHEPES、1%のNEAA、1%のピルビン酸ナトリウム、1%のL−グルタミン、1%のペニシリン/ストレプトマイシン及び0.1%の2−MEを含むRPMI−1640)中で5日間インキュベートした。16時間7.5のMOIでのVSVによる感染前に、TC−1、D11及びA9細胞をIFN−γ(50ng/ml)で48時間、TSA(100ng/ml)で24時間処理し、又は未処理状態で放置した。細胞はPBSで洗浄し、1時間250μlのCTL培地中で100μCiの51Cr(クロム酸ナトリウムとして;Amersham、Arlington Heights、IL)と共に10個の細胞をインキュベートすることによって51Crを添加した。PBSで3回洗浄した後、エフェクター細胞と共に標的細胞を示した割合で4時間インキュベートした。それぞれのウェルから100μlの上清を回収し、51Crの放出をγ−カウンター(LKB Instruments、Gaithersburg、MD)によって測定した。具体的な51Crの放出は以下のように計算した、((実験−培地対照)/(全体−培地対照))×100%。5%のTriton X−100溶液を用いた細胞の溶解によって全体の放出を得た。
【0030】
HPV陽性癌異種移植片の定着及びトリコスタチンAを用いた治療
PBSに溶かしたTC−1又はA9の合計3×10個の細胞を、7週齢のメスC57BL/6同種マウス(Charles River、St.Constant、QC)に皮下注射した。マウスは各群4匹からなる3群に割り当てた。TSAは0.2mg/mlの濃度までDMSOに溶かした。腫瘍細胞の注射後第7日から始めて20日間の腹腔内注射によって、50ulのTSA(500μg/kg)又はDMSO(賦形剤対照)を用いた1日1回の治療を施した。マウスは週1回重量測定し、それらの挙動及び食物摂取は実験の行程を通じてモニタリングした。腫瘍は週3回測定し、腫瘍体積は式:腫瘍体積=長さ×幅×高さ×π/6[32]を使用して計算した。DMSO賦形剤対照で治療したA9群中の腫瘍の大きさによって試験期間を決定した。
【0031】
実験結果:
(実施例1)
前に記載した試薬及び手順を使用して、マウス前立腺及びHPV−陽性癌モデルにおけるEP−1のmRNA発現は、それらの表面MHCクラスIの発現と相関関係があることを実証した。
【0032】
TAP−1の発現レベルは、使用した細胞系の両群(マウス前立腺癌及びHPV−陽性癌モデル)において、MHCクラスIの表面発現レベルと相関関係があることを確認した。これらの結果は図1に示す。TAP−1プロモーターによって制御されるルシフェラーゼ遺伝子の発現は、トランスフェクタントが安定状態になった後の内因性TAP−1のレベルと一般に合致する。図1Aは、それぞれRT−PCR及びフローサイトメトリーによる、TAP−1及び表面MHCクラスIの発現の分析を示す。斜線部分、薄線及び太線は、低レベル(A9又はLMD)、中レベル(D11)及び高レベル(TC−1又はPA)のMHCクラスIの発現をそれぞれ表す。RT−PCR分析において内対照として働いたβ−アクチンcDNAの増幅。データは3回の実験の代表的なものである。図1B−一過性トランスフェクタントにおける相対ルシフェラーゼ活性(RLA)を、トランスフェクション後12〜72時間以内にデュアルルシフェラーゼアッセイによって評価した。(トランスフェクション後3週間〜1カ月の)安定トランスフェクタントにおけるRLAは、プロモーターを含まないpGL4.14[luc2/Hygro]ベクターのみを用いたトランスフェクションから得られた対応する値を有する結果を差し引き、且つそれぞれの安定トランスフェクタントのゲノムに組み込んだプラスミドのコピー数と値をさらに正規化することによって決定した。最小値は1として任意に決定した。棒グラフ、4〜6回の実験の平均;バー、SEM。前立腺癌モデルでは、LMD細胞より高レベルの表面MHCクラスIを発現したPA細胞は、高レベルのTAP−1も発現した。同様に、HPV−陽性癌モデルでは、それぞれ高、中及び低レベルの表面MHCクラスIを発現するTC−1、D11及びA9細胞は、MHCクラスIのレベルと同程度でTAP−1も発現した。
【0033】
(実施例2)
TAP−1転写の制御におけるクロマチンリモデリングの役割を調べた。蛍光顕微鏡検査法及びフローサイトメトリーによる以前の観察結果は、TAP−1プロモーターによって誘導されるEGFP遺伝子を含むレポーター構築体を用いた、TAP発現及びTAP欠失細胞系の数群のトランスフェクション後数日で、TAP欠失群中の多くの細胞は、TAP発現群中の大部分の細胞が発現したのと同等又はより高いレベルのEGFPを発現し(データ示さず)、一方安定トランスフェクタント中のEGFPの発現レベルは、内因性TAP−1の発現プロファイルと合致した(Setiadiら、Cancer Res 65、7485〜7492)ことを示した。この実験では、luc遺伝子の上流のマウスTAP−1プロモーターをpGL4.14[luc2/Hygro]ベクター(pTAP1−luc)にクローニングすることによって、ルシフェラーゼレポーター構築体を作製し、構築体は細胞系にトランスフェクトした。EGFPレベルの以前の観察中と同様に、安定トランスフェクタント中のluc遺伝子発現のレベルは、内因性TAP−1の発現と一過性トランスフェクタントと安定トランスフェクタントの両方の等しく合致したプロファイルを示した前立腺癌モデル以外は、一過性トランスフェクタント中のレベルよりよく内因性TAP−1の発現プロファイルと合致したことが分かった。これは図1Bに示す。さらに、図2に示すように、TAP−1の発現レベルが低い細胞中でTAP−1プロモーターと結合するRNAポリメラーゼII(polII)は、TAP−1の発現レベルが高い細胞中のRNAポリメラーゼIIより相対的に少量であった。それぞれの細胞系のTAP−1プロモーターにおけるRNA PolII又はアセチル−ヒストンH3のレベルを、それぞれ抗RNApolII又は抗アセチル−ヒストンH3抗体を使用したクロマチン免疫沈降によって評価した。溶出DNA断片を精製し、TAP−1プロモーターの3’末端に特異的なプライマーを使用するリアルタイムPCR分析用の鋳型として使用した。相対的なRNApolII又はアセチル−ヒストンH3のレベルは、溶出TAP−1プロモーターのコピー数と対応するインプットのコピー数の比として決定した。最小比は1として任意に決定した。棒グラフ、3〜6回の実験の平均;バー、SEM。同じアッセイ中でより高いMHCクラスIを発現した細胞と比較して*P<.05。
【0034】
これらの結果は、一般的な転写因子及びRNApolIIのTAP−1プロモーターへのアクセスを低下させる物的障壁の存在を示す。というのは、このプロモーターはゲノムに組み込まれていたからである。LMD細胞は、TAP−1プロモーターによって誘導される遺伝子の転写を害するクロマチンリモデリングと無関係な因子の他の欠陥を有する可能性がある。
【0035】
(実施例3)
ヒストンH3アセチル化がMHCクラスI欠失癌のTAP−1プロモーターにおいて少ないことの実証
この実験は、ネズミ前立腺及び子宮頸癌細胞系のTAP−1プロモーターにおけるヒストンH3アセチル化のレベルを調べて、TAP−1転写の制御におけるヒストンH3アセチル化の役割を決定した。ヒストンH3は、その修飾が他の場所で様々な遺伝子発現における役割を果たすことが示されているコアヒストンの唯一の型ではないが、この実験はそのアセチル化状態を調べた。というのは、ヒストンH3尾部のアセチル化と様々な遺伝子の活性化の間の相関関係は広く研究されてきており、現在は十分確立しているからである[9、10、11]。
【0036】
TAP−1プロモーターにおけるRNApolII及びTAP−1転写のレベルによれば(図1及び2)、アセチル−ヒストンH3のレベルは、低レベルのTAP−1を発現する細胞のTAP−1プロモーターにおいてより低いことが分かった(図2)。HPV陽性癌モデルでは、TC−1及びA9と比較して中レベルのTAP−1を発現するD11細胞は、TAP−1プロモーターにおいて中レベルのアセチル−ヒストンH3を有することが結果として分かった。前立腺癌モデルでは、転移性、TAP欠失LMD細胞も、初代細胞、PA中よりTAP−1プロモーターとの少量のアセチル−ヒストンH3結合を有する。いくつか他のTAP発現(Ltk及びRMA)及びTAP欠失(CMT.64及びB16)細胞系のTAP−1プロモーターにおけるアセチル−ヒストンH3レベルも試験し、且つCMT.64及びB16中よりLtk及びRMA中の高レベルのアセチル−ヒストンH3レベル(データ示さず)が分かった。
【0037】
(実施例4)
TAP−1及び他の抗原プロセシング機構(APM)の構成要素の発現におけるトリコスタチンA(TSA)、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤処理の影響
TAP−1プロモーターにおける低レベルのヒストンH3アセチル化は癌におけるTAP−1の欠失に貢献するらしいので、さらなる調査を実施して、TSAを用いたTAP欠失癌細胞の処理は、細胞中のTAP−1発現を増大させるかどうか決定した。結果は図3に表す。それぞれの細胞系のTAP−1プロモーターにおけるRNAPolII又はアセチル−ヒストンH3のレベルを、それぞれ抗RNApolII又は抗アセチル−ヒストンH3抗体を使用したクロマチン免疫沈降によって評価した。溶出DNA断片を精製し、TAP−1プロモーターの3’末端に特異的なプライマーを使用するリアルタイムPCR分析用の鋳型として使用した。相対的なRNApolII又はアセチル−ヒストンH3のレベルは、溶出TAP−1プロモーターのコピー数と対応するインプットのコピー数の比として決定した。最小比は1として任意に決定した。棒グラフ、3〜6回の実験の平均;バー、SEM。同じアッセイ中でより高いMHCクラスIを発現した細胞と比較して*P<.05。
【0038】
図3中のクロマチン免疫沈降の結果は、大部分の細胞系において、特にTAP欠失細胞において、TSA処理はTAP−1プロモーターに対するRNApolII複合体の動員を増強したことを示した。HPV陽性と前立腺癌モデルの両方で、TSA処理は、TAP発現細胞中と同様のレベルまで、TAP欠失細胞のTAP−1プロモーターとのRNApolII結合のレベルを増大させた。
【0039】
転写プロセスを開始させるための重要な事象であることが知られているTAP−1プロモーターとのRNApolIIの結合の増大と平行して、pTAP1−luc構築体で安定的にトランスフェクトした細胞中のluc発現に基づいて測定したTAP−1プロモーター活性も、TSAを用いた処理によってTAP欠失細胞中で有意に増大していた(図3)。しかしながら、クロマチン免疫沈降分析は、TSA処理は試験したすべての細胞系のTAP−1プロモーターにおけるアセチル−ヒストンH3のレベルを著しく変えなかったことを示した(図3)。これは、TAP−1プロモーター活性を増強したTSAの作用が、TAP−1プロモーター自体におけるアセチル−ヒストンH3レベルの直接的改善によって起こらなかったことを示唆する。
【0040】
添付の図面の図4は、MHCクラスI抗原提示におけるTSA処理の有効性を示す。
【0041】
A、すべての細胞系中、特にTAP欠失癌中のTAP−1及びいくつか他のAPM構成要素の発現は、TSA処理によって上方制御された。IFN−γ処理細胞からのAPMcDNAの増幅を陽性対照として使用した。β−アクチンの発現は充填対照として働いた。データは3回の実験の代表的なものである。
【0042】
B、特にMHCクラスI欠失細胞における表面のH−2K発現は、TSA処理によって高まった。未処理細胞(斜線部分)又は100ng/mlのTSA(太線)若しくは50ng/mlのIFN−γ(細線)で処理した細胞は、PE結合抗H−2Kモノクローナル抗体で染色した。データは3回の実験の代表的なものである。
【0043】
RT−PCR及びウェスタンブロット分析も、TAP−1の発現がTSA処理によって上方制御されたことを示した(図4A)。HPV陽性癌細胞系におけるいくつか他のAPM構成要素の追加的なRT−PCR分析も、特にTSA処理時のTAP欠失細胞におけるLMP−2、TAP−2及びタパシンの発現の上方制御を実証した(図4A)。TC−1、D11及びA9細胞中のTAP−1遺伝子(それぞれ高、中及び低)もTSA及びIFN−γによって誘導されるので、LMP−2遺伝子とTAP−2遺伝子が類似した発現パターンを有することも観察した(図4A)。
【0044】
TAP−1発現のウェスタンブロット分析は、24〜48時間20〜200ng/mlのTSAで予備処理した細胞の溶解物を使用して実施し、且つ100ng/mlのTSAで24時間(PA及びLMD)又は48時間(TC−1、D11及びA9)処理した細胞からの代表的なデータは図4A中に示す。この分析は、TSAを用いた漸増用量の処理による、TAP欠失細胞の全細胞溶解物中のアセチル−ヒストンH3の蓄積の増大と平行した、増大したレベルのTAP−1発現を示した(データ示さず)。LMD、CMT.64及びB16中でTAP−1発現の最適誘導をもたらした処理の最適用量及び期間は100ng/mlで24時間であり、一方同じ用量のTSAを用いた48時間の処理がD11及びA9細胞には必要であった。
【0045】
(実施例5)
この実験は、TSA処理が表面MHCクラスIの発現及びCTLによる癌細胞の殺傷を増大させることを実証した。
【0046】
いくつかの抗原プロセシング機構の構成要素の発現はTSA処理によって増大するので、この処理が癌細胞系における表面MHCクラスI発現のレベルをさらに増大させ得るかどうか調べた。これはおそらく、腫瘍抗原提示及びCTLによる後の癌細胞の殺傷を増強し得る。フローサイトメトリー分析は、TSA処理はMHCクラスI欠失細胞における表面のH−2K発現を約10倍増大させ、一方高レベルの表面H−2Kを本来発現したPA及びTC−1細胞中では、そのレベルは同じ状態であったことを示した(図4B)。IFN−γ処理は、全細胞系中の表面のH−2K発現を増大させた。TSAによるMHCクラスIの発現の同様の誘導は、TAP欠失肺癌(CMT.64)及びメラノーマ(B16)においても観察した(データ示さず)。
【0047】
TSA処理がCTLによる腫瘍細胞の殺傷を高めin vivoでの腫瘍増殖を抑制する事実は、添付の図5に示す。
【0048】
A、未処理、又はVSVによる感染前に48時間TSA若しくはIFN−γで処理した、非感染又はVSV感染TC−1、D11及びA9細胞のCTL認識。すべての細胞は16時間7.5のMOIでVSVに感染させた。棒グラフ、3回の実験の平均;バー、SEM。
【0049】
B、A9(MHCクラスI欠失細胞)の腫瘍増殖は、DMSO賦形剤対照で処置したマウス(処置群当たりn=4)と比較して、1日1回500μg/kgのTSAで処置したマウスにおいて抑制された。多量のMHCクラスI発現細胞を注射したマウスにおいてTC−1群は腫瘍増殖を示した(n=4)。データは平均腫瘍体積±SEMを表す。
【0050】
さらに、CTLアッセイを実施して、TSA処理後の細胞中の高レベルの表面のH−2K発現が、VSV特異的細胞障害性Tリンパ球によるVSV感染癌細胞の認識及び殺傷を後に増大させるかどうか試験した。標的細胞のVSV感染由来のペプチドはKとの関連で提示され得る。CTLアッセイは0.8:1〜200:1のエフェクター:標的比を使用して実施し、標的細胞としてTC−1、D11及びA9を使用した22:1のエフェクター:標的比からの代表的なデータは図5A中に示す。これらの結果は、TC−1が発現したより少量の表面Kを発現したD11及びA9細胞は、CTLによってあまり殺傷されなかったことを示した。癌細胞のVSV感染前の24時間のTSA処理は、CTLによるウイルス感染TC−1、D11及びA9細胞の殺傷をそれぞれ約1.4、6及び7倍増強した。IFN−γ処理は、全VSV感染細胞系の殺傷レベルの最大の誘導をもたらした。標的細胞としてVSV感染CMT.64及びB16を使用したCTLアッセイにおいても同様の傾向を観察した(データ示さず)。VSV感染前の24時間のCMT.64及びB16細胞のTSA処理は、それぞれ5倍及び20倍殺傷レベルを増強した。MHCクラスIの発現とは無関係な未知の機構のために、IFN−γによるAPM及びMHCクラスI発現の誘導にもかかわらず、LMD細胞はCTL殺傷に対する耐性が依然としてあった(Lee,H.M.ら、Cancer Res.60、1927〜33を参照)。
【0051】
(実施例6)
TSA処理はin vivoでの腫瘍増殖を抑制する
TC−1及びA9細胞をin vitroで培養し、3×10個の各群の細胞を7週齢のメスC57BL/6同種マウスに皮下注射するまで8回未満継代した。TSA又はDMSO賦形剤対照を用いた1日1回の処置を、細胞への注射後第7日、動物が触診可能なA9腫瘍を増殖し始めたときに開始した。1日当たり1匹の動物当たり500μg/kgのTSAの用量を選択した。というのは、それは、ネズミ腫瘍モデルにおける他の型の腫瘍増殖を抑制するために、他者によって首尾よく使用されていたからである。例えば、Canes,Dら、Int J Cancer 113、841〜848を参照。この試験では、DMSO対照群と比較して、TSAを用いた1日1回の処置を施したマウスにおいて腫瘍増殖が遅かったことを観察した(図5B)。さらに、表面上で高レベルのMHCクラスIを発現したTC−1細胞は、A9細胞より有意に発癌性が低いことが分かった(図5B)。TC−1腫瘍は、3×10〜4×10個の腫瘍細胞をマウスに皮下注射した後約3週間〜1カ月で増殖し始めた。3×10個未満のTC−1腫瘍細胞の注射後1カ月より先では腫瘍を検出しなかった(データ示さず)。これらの観察結果は、APM構成要素の発現の増大及びMHCクラスI抗原提示は癌細胞の高い殺傷率と相関関係があり、したがって腫瘍増殖を抑制することを実証した、in vitroの知見と合致した。
【0052】
(実施例7)
IFN−γによるTAP−1誘導の機構
IFN−γは、癌細胞中のTAP−1及び表面MHCクラスIの発現の強力なインデューサーとして知られているが(Setiadi,A.Fら、前掲書中)、しかしながら、IFN−γによるTAP−1誘導をもたらす分子機構についてはほとんど知られていない。この試験では、IFN−γ処理がTAP−1プロモーターにおけるアセチル−ヒストンH3及びRNApolIIのレベルを増大させたことが分かった。添付の図面の図6も、以前に記載されたのと同様に実施した、抗RNApolII又は抗アセチル−ヒストンH3抗体を使用するクロマチン免疫沈降を示す。棒グラフ、3回の実験の平均;バー、SEM。未処理細胞と比較して*P<.05。
【0053】
以前の試験は、プロモーターに対するRNApolII複合体の動員を増大させた転写アクチベーターは、プロモーター領域におけるヒストンアセチル化を平行して増大させるはずであると提案した(Struhl,K.、Genes Dev 12、599〜606)。ここに示す結果は、IFN−γによるTAP−1誘導の1つの考えられる機構は、TAP−1プロモーター領域周辺の染色体構造を緩和し、それによってTAP−1プロモーターに対する一般的な転写因子及びRNApolII複合体のアクセス性を増大させる、ヒストンH3アセチル化の改善によるものであることを示唆する。
【0054】
(実施例8)
TAP発現及びTAP欠失細胞においてプロモーターの特異的活性を担うTAP−1プロモーター中の領域の同定
いくつかのTAP−1プロモーター構築体を、完全TAP−1プロモーター(fpTAP1)又はその5’末端切断部(427、401及び150)をpGL4.14[luc2/Hygro]ベクターにクローニングすることによって作製した。添付の図面の図7は、TAP発現及びTAP欠失細胞において特異的活性を担うTAP−1プロモーター領域の分析を示す。
【0055】
A、転写因子結合モチーフ及び5’切断部位を有するTAP−1プロモーター配列。TAP−1のATGコドンは+1として任意に決定した。センス鎖上に位置するモチーフは(+)によって示し、且つアンチセンス鎖上に位置するモチーフは(−)によって示す。
【0056】
B、PA及びLMD細胞系中で完全及び切断型TAP−1プロモーターによって誘導されたルシフェラーゼの相対的活性。安定トランスフェクタント中のRLAは以前に記載されたように決定した。最大値は1として任意に決定した。棒グラフ、4回の実験の平均;バー、SEM。
【0057】
TAP−1遺伝子のATGコドンは+1として任意に番号処理し、且つ切断型プロモーターは、ATGコドンに対する順方向プライマーの開始塩基位置に基づいて名付けた(図7A)。PA及びLMD細胞(それぞれTAP発現及びTAP欠失)の安定トランスフェクタントは、3週間ハイグロマイシンBでトランスフェクトした細胞を選択した後に得た。次いでルシフェラーゼアッセイを、それぞれの安定トランスフェクタントからの10,000個の細胞を使用して実施した。約160塩基対のヌクレオチドがTAP−1プロモーター(構築体401)の5’末端から切断されると、PA細胞中のルシフェラーゼ発現が3倍を超えて、LMD細胞中で完全TAP−1プロモーターによって誘導されたルシフェラーゼと同じレベルまで低下したことが分かった(図7B)。「150」に対する最終的な切断は、ほぼ全体的なプロモーター活性の消失をもたらした(図7B)。これらの結果は、LMD細胞と結合した転写アクチベーター(複数可)の欠如は、おそらくTAP−1プロモーターの塩基番号557と塩基番号約401の範囲内であることを示す。
【0058】
(実施例9)
CREB結合タンパク質(CBP)の発現及びTAP−1プロモーターとのその結合の分析
この試験における結果は、ヒストンアセチル化はTAP−1発現の制御中に役割を果たすことを示すので、癌中で欠失又は非機能状態であるTAP−1の転写アクチベーター/コアクチベーターが、固有のヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)活性を有する転写アクチベーター/コアクチベーターであるかどうかをさらに調べた。固有のHAT活性を有するよく知られている転写コアクチベーターの1つ、即ち環状AMP応答エレメント結合(CREB)結合タンパク質(CBP)の機能を分析した。というのは、CREB結合部位が、TAP発現及びTAP欠失細胞においてプロモーターの特異的活性を担うことが示されたTAP−1プロモーター領域内、特に塩基番号427と塩基番号401の間に見られたからである(図7A及び7B)。さらに、CBPはヒストンH3及びH4をアセチル化することが知られ、且つHAT活性及びCBPの動員はSP−1及びAP−1を含めた様々な転写因子によって刺激され(Legube,G.ら、EMBO Rep4、944〜47)、結合部位はTAP−1プロモーター中にも存在することが示された(図7A)。
【0059】
ウェスタンブロット分析は、CBPはTAP欠失癌中で欠失又は切断状態ではないことを示した(データ示さず)。しかしながら、TAP−1プロモーターの5’末端に特異的なプライマーを使用するクロマチン免疫沈降分析は、その領域と結合したCBPはTAP欠失癌中では有意に少なかったことを示した(図8−TAP−1プロモーターと結合したCBPはTAP欠失癌中ではより少なく、IFN−γ処理によって増大する)。抗CBP抗体を使用するクロマチン免疫沈降は前に記載したように実施した。棒グラフ、4回の実験の平均;バー、SEM。未処理細胞と比較して*P<.05。同じアッセイ中で最も高いMHCクラスIを発現した細胞と比較して**P<.05。
【0060】
さらに、LMD、D11及びA9細胞のTAP−1プロモーターと結合したCBPは、IFN−γを用いた処理によって増大することが分かった(図8)。これらの結果は、TAP−1プロモーターにおいてCBPによって与えられるHAT活性の欠如は、一般的な転写因子及びRNApolII複合体によるプロモーターのアクセス不能、及び後のTAP−1転写の阻害において役割を果たすことを示唆する。IFN−γは、ヒストンアセチル化を誘導することができるCBPなどの因子の動員を改善することによって欠失を修正し、したがって転写機構によるプロモーターのアクセス性を改善する。
【0061】
前に報告した結果は、TAP−1遺伝子上のプロモーター及びコード領域との低いRNApolII結合(図2)、及びレポーター構築体をTAP欠失細胞のゲノムに組み込んだときの低レベルのプロモーター活性を示し(図1)、TAP−1プロモーターに対する一般的な転写因子及びRNApolII複合体のアクセスを制限する障壁の存在を示す。プロモーター領域周辺のコンパクトなヌクレオソーム構造は、転写アクチベーターとプロモーターの結合を妨げる物的障壁として作用するようであり、したがって転写プロセスを中断する。いくつかの型の遺伝子の発現を大幅に改善するらしいよく知られている後成的機構の1つは、領域中のヌクレオソーム構造の緩和を促進する、遺伝子の遺伝子座におけるヒストンH3尾部のアセチル化による機構である。したがってこれによって、この領域が転写機構に利用しやすくなる可能性がある。しかしながら、ヒストンアセチラーゼ及びデアセチラーゼは遺伝子に選択的に作用し、したがってすべての遺伝子の転写に例外なく影響を与えるわけではないことは知られている(Struhl,K、前掲書中)。
【0062】
本出願中において、TAP−1プロモーターと結合したヒストンH3のレベルは、試験したすべての細胞系におけるTAP−1遺伝子座と結合したRNApolII、TAP−1の発現、及び表面MHCクラスIの発現のレベルと同様の傾向を示したことが実証される(図2)。これらの観察結果は、TAP−1プロモーターにおけるヒストンH3アセチル化のレベルの違いはTAP−1転写の制御中に役割を果たすことを示すが、それはおそらく異なるレベルの遺伝子の転写に貢献する唯一の機構ではない。というのは、転写の活性化は一般にいくつかの因子の相乗作用を含むからである。
【0063】
TSA、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤(HDACi)を用いたTAP欠失細胞の処理は、TAP−1プロモーターと結合したRNApolII及びプロモーターの活性の有意な増大をもたらした(図3)。HPV陽性癌モデルにおいて、TSA処理は、TAP発現細胞中と同様のレベルまでTAP欠失細胞中のTAP−1プロモーター活性を増強した。前立腺癌モデルにおいて、TSA処理はLMD細胞におけるTAP−1プロモーター活性の統計上有意な改善をもたらしたが、TAP−1プロモーターと結合したRNApolIIの高度な誘導にもかかわらず、その誘導の程度はD11及びA9細胞により示された程度より低かった。TAP−1プロモーター誘導型luc遺伝子発現のレベルは、一過性トランスフェクタントと安定トランスフェクタントの両方で内因性TAP−1の発現プロファイルと同様に十分に合致したという以前の観察結果(図1)以外に、これはLMD細胞においてTAP−1プロモーター誘導型遺伝子転写を阻害する、未知の他の機構の存在を示唆する。
【0064】
TSAを用いたHPV陽性及び前立腺癌細胞の処理時に観察したTAP−1発現の上方制御は、TAP−1プロモーター自体と結合したアセチル−ヒストンH3の直接的増大の結果として起こったわけではない(図3)。これはTSA作用が、TAP−1遺伝子と隣接したTAP−1プロモーター領域内のヒストンH3の直接的アセチル化以外の機構を含むことを示唆する。さらにこれは、TAP−1プロモーターにおけるヒストンH3アセチル化の欠如は、TSA作用によって阻害され得る異常なヒストンデアセチラーゼ活性ではなく、ヒストンアセチルトランスフェラーゼによる初期アセチル化の欠如が原因であることも暗示し得る。
【0065】
TAP−1発現の改善以外に、TSAを用いた処理は、TAP−2、LMP−2及びタパシンなどのいくつか他のAPM構成要素の上方制御、及びTAP欠失細胞におけるMHCクラスIの表面発現をさらにもたらした(図4)。これはKとの関連でウイルスペプチドを提示するVSV感染癌細胞の能力の改善をもたらし、したがってVSV特異的CTLによるウイルス感染癌細胞の殺傷を改善した(図5A)。さらに、TSAを用いた1日1回の処置は、A9癌細胞を接種したマウス中の腫瘍増殖を抑制したことが示された(図5B)。これらの知見は、特異的CTLによるウイルス感染又は腫瘍性細胞の認識及び殺傷を改善するための方法としての、ウイルス又は腫瘍抗原提示を増大させることを目的とする治療手法の開発を促している。
【0066】
MHCクラスI抗原提示及びCTLによる癌細胞の殺傷を改善する際のTSAの有効性にもかかわらず、TSA処理から生じた誘導のレベルは、IFN−γによって生み出された効果ほど常に強力ではなかった(図4〜6)。本発明者らの結果は、MHCクラスI抗原提示を改善する際の2つの物質の特異的能力をもたらした重要な違いの1つは、TAP−1プロモーターにおけるヒストンH3アセチル化のレベルを増強するそれらの能力の違いであることを実証した。IFN−γは、TAP欠失細胞のTAP−1プロモーターにおけるヒストンH3アセチル化を、TSAより一層高いレベルまで(図3及び6)、TAP発現細胞のTAP−1プロモーターにおける同等又はさらに高いレベルのアセチルヒストンH3まで増強することができた。IFN−γ処理はおそらく、TAP−1遺伝子座周辺のヌクレオソーム構造の緩和の最高状態をもたらす可能性があり、したがって十分なレベルの一般的な転写因子及びRNApolIIとTAP−1プロモーターの結合、及び遺伝子の効率良い転写活性を可能にする。
【0067】
さらに本発明者らは、TAP発現及びTAP欠失前立腺癌細胞においてプロモーターの特異的活性を担うTAP−1プロモーター中の領域は、プロモーターの5’末端領域の塩基番号557と塩基番号約401の間に存在し(図7)、そこにはCREBタンパク質結合モチーフが位置する(図7A)ことを見出した。本発明者らは、TAP欠失細胞中でTAP−1プロモーターのこの領域と結合したCBPのレベルは、より多量のTAP−1を発現した細胞中より低く(図8)、よく知られている転写コアクチベーターによって与えられるヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性の欠如は、癌細胞におけるTAP−1欠失において役割を果たすことが示されたことを見出した。
【0068】
IFN−γ処理は、TAP欠失細胞中でのTAP−1プロモーターとCBPの結合を、TAP発現細胞中と同等のレベルまで増強することが分かった(図8)。この影響はSTAT−laとCBPのIFN−γ誘導型結合に起因する可能性があり(Ma,Z.ら、J.Leukoc Biol78、515〜523を参照)、これらの因子とプロモーターの結合によってTAP−1プロモーター活性を調節する。或いは、IFN−γはSTAT−1非依存的経路によって、新規なIFN−γ活性化転写エレメントによって、前初期タンパク質及び転写因子などによって作用することもできる(Ramana,C.V.ら、Trends Immol.23、96〜101を参照)。根本的転写機構、及び1つ又は複数の上流転写因子と同時に相互作用することによって、CBPは転写複合体を安定化させる物理的架橋として機能することができる。
【0069】
本明細書に表す結果は、TAP−1プロモーターにおけるヒストンH3アセチル化の欠如は、癌細胞の抗原プロセシング能力の欠陥及び免疫回避機構に少なくとも部分的に関与することを示す。
【0070】
(参考文献)



【0071】
図9は、TSA処置はin vivoにおいて、免疫不全Rag1−/−マウス中ではなくC57B1/6マウス中のTAP欠失細胞由来の腫瘍の増殖を抑制するという証拠を与え、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤の抗腫瘍効果は、腫瘍増殖の阻害又は腫瘍のアポトーシスの促進に対する影響によってではなく、免疫応答によって仲介されることを実証する。A9腫瘍増殖は、DMSO賦形剤対照で処置したマウスと比較して(白線)、500μg/kgのTSAで20日間1日1回処置したC57B1/6マウス中で抑制された(黒線)。しかしながらTSA処置は、Rag1−/−マウス中のA9腫瘍増殖に対してはまったく影響がなかった。
【0072】
選択実施形態において本発明は、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤の活性を細胞中で誘導しアポトーシス促進活性を誘導しない細胞処理レジメン用のアッセイを提供する。このアッセイは、1つ又は複数の試験濃度で1つ又は複数の試験化合物に細胞を曝すこと、及び細胞中のヒストンデアセチラーゼ活性のレベルをアッセイすること、及び細胞中のアポトーシス活性のレベルをアッセイすることを含むことができる。アポトーシス活性は、例えばアネキシンVアッセイ(Clonetecによって販売されるApoAlertアネキシンVアッセイなど)、又は精製カスパーゼ酵素(カスパーゼ−3/7酵素など)の活性又は阻害に関するアッセイを使用して測定することができる。アポトーシスアッセイは、アポトーシスの誘導直後に起こる、原形質膜の内側(細胞質)小葉から外側(細胞表面)小葉へのホスファチジルセリン(PS;1〜3)の転位を反映する特徴を測定することができる(アネキシンVタンパク質はホスファチジルセリンに対する強力で特異的な親和性を有し、したがって標識アネキシンVの結合はこのようなアッセイの土台を提供する)。
【0073】
代替実施形態では、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤は、例えばトリコスタチンA、デプシペプチド、スベロニルアニリドヒドロキサム酸、トリコスタチンAのアミド類似体、トラポキシン、トラポキシンのヒドロキサム酸類似体、スクリプタイド(6−(1,3−ジオキソ−1H,3H−ベンゾ[デ]イソキノリン−2−イル)−ヘキサン酸ヒドロキシアミド)、スクリプタイド類似体、又は例えば(参照として本明細書に組み込まれる)Dokmanovicら「ヒストンデアセチラーゼ阻害剤:概観及び展望(Histone Deacetylase Inhibitors:Overview and Perspectives.)」Mol Cancer Res.2007;5:981〜989中に開示された、他のヒストンデアセチラーゼ阻害剤からなる群から選択することができる。いくつかの実施形態では、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤は、ヒストンメチル化阻害剤(参照として本明細書に組み込まれる、Ouら、「生化学的薬理学(Biochemical Pharmacology)」73(2007)1297〜1307)であってもよく、且つ例えば酪酸ナトリウム、4−フェニル酪酸、及びDADS(ガーリック由来)を含み得る。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】

【図3A】

【図3B】

【図3C】

【図3D】

【図3E】

【図3F】

【図4A】

【図4B】

【図5A】

【図5B】

【図6A】

【図6B】

【図6C】

【図6D】

【図7A】

【図7B】

【図8A】

【図8B】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞障害性Tリンパ球細胞によって検出されるMHCクラスI表面分子の提示を増大させることにより、細胞の免疫原性を増強する方法であって、細胞中の遺伝子の転写を促進して細胞のMHCクラスI表面発現の増強を引き起こす有効量の生体許容物質を細胞に投与することを含む方法。
【請求項2】
細胞がTAP−1発現において準最適である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生体許容物質がヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤が、ヒドロキサム酸系のヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
ヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤がトリコスタチンAである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
生体許容物質が、固有のヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性を有する転写コアクチベーターである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
ヒストンアセチルトランスフェラーゼが、CBP/p300タンパク質ファミリーの少なくとも1つのメンバーを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
生体許容物質がヒストンアセチルトランスフェラーゼである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
哺乳動物細胞のMHCクラスI表面発現を増強するために哺乳動物に投与するための医薬組成物であって、細胞中のTAP−1遺伝子又はMHCクラスIの発現に関与する他の遺伝子の転写を促進して細胞のMHCクラスI表面発現の増強を引き起こす生体許容物質、及び適切なアジュバント又は担体を含む組成物。
【請求項10】
細胞が準最適なTAP−1発現を有する、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
生体許容物質がヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤である、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
ヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤が、ヒドロキサム酸系のヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
ヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤がトリコスタチンAである、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
生体許容物質がヒストンアセチルトランスフェラーゼである、請求項9に記載の組成物。
【請求項15】
生体許容物質が、固有のヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性を有する転写コアクチベーターである、請求項9に記載の組成物。
【請求項16】
ヒストンアセチルトランスフェラーゼが、CBP/p300タンパク質ファミリーの少なくとも1つのメンバーを含む、請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
過剰なTAP−1発現欠失細胞が関与する障害に罹患した哺乳動物に投与するための、細胞中のMHCクラスI表面発現に影響を与える遺伝子の転写を促進して細胞のMHCクラスI表面発現の増強を引き起こすTAP−1発現増加量の生体許容物質、及び適切なアジュバント又は担体を含む組成物の調製又は製造における使用。
【請求項18】
生体許容物質がTAP−1遺伝子の転写を促進する、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
生体許容物質がヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤である、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
ヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤が、ヒドロキサム酸系のヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤である、請求項19に記載の使用。
【請求項21】
ヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤がトリコスタチンAである、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
生体許容物質がヒストンアセチルトランスフェラーゼである、請求項17に記載の使用。
【請求項23】
生体許容物質が、固有のヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性を有する転写コアクチベーターである、請求項17に記載の使用。
【請求項24】
ヒストンアセチルトランスフェラーゼが、CBP/p300タンパク質ファミリーの少なくとも1つのメンバーを含む、請求項19に記載の使用。
【請求項25】
本明細書に開示するあらゆる新規の有用な発明。
【請求項26】
細胞障害性Tリンパ球細胞、細胞障害性Tリンパ球細胞の前駆体及び記憶細胞障害性Tリンパ球細胞によって検出されるMHCクラスI表面分子の提示を増大させることにより、病的細胞及び抗原提示細胞の免疫原性を増強する方法であって、MHCクラスII又はクラスI染色体領域中の遺伝子の転写を促進して細胞のMHCクラスI表面発現の増強を引き起こすのに有効であり、単独でアポトーシスを誘発するのに不十分である量の生体許容物質を細胞又は動物に投与することを含む方法。
【請求項27】
遺伝子が、TAP−1、TAP−2、LMP−2、タパシン、β−2マイクログロブリン、B7−1、B7−2、CD28、MHCクラスI、Erp57、LMP−7、PA28、IRP−1、2、3、4、5、6、7、CBP、CIITA、RFX5、RFXAP、TNF−α、補体C2、C4、CD80、CD86、ヒト白血球型抗原(HLA)−DR、HLA−ABC、細胞内接着分子−1(ICAM−1)、Toll様受容体(1−11)、マクロファージ炎症タンパク質−3β/ケモカイン、モチーフCC、リガンド19誘導型、核因子−κB、CBP、PCAF及びSRC−1、p21、TRAIL(Apo2L、TNFSF10)の発現、Stat1、インターフェロンα、血管内皮増殖因子、低酸素誘導因子1α及びマトリクスメタロプロテイナーゼ9からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項28】
生体許容物質がヒストンデアセチラーゼ阻害剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項29】
生体許容物質がヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
ヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤が、ヒドロキサム酸系のヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤が、ヒドロキサム酸系のヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤である、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
ヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤がトリコスタチンAである、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤がトリコスタチンAである、請求項28に記載の方法。
【請求項34】
生体許容物質が、固有のヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性を有する転写コアクチベーターである、請求項26に記載の方法。
【請求項35】
生体許容物質がヒストンアセチルトランスフェラーゼである、請求項26に記載の方法。
【請求項36】
ヒストンアセチルトランスフェラーゼが、CBP/p300タンパク質ファミリーのメンバー、p21、Stat1、及び低酸素誘導因子1αからなる群から選択される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
MHCクラスII又はクラスI染色体領域中の遺伝子の転写を促進して細胞のMHCクラスI表面発現の増強を引き起こすのに有効であり、アポトーシスを誘発するのに不十分である用量に、生体許容物質の量を調節することをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項38】
投与をin vivoで行う、請求項26に記載の方法。
【請求項39】
投与をex vivoで行う、請求項26に記載の方法。
【請求項40】
生体許容物質がヒストンデアセチラーゼ阻害剤であり、前記物質を、100ng/ml以下の濃度で50時間以下の間in vitroで細胞に曝露することによって投与する、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
生体許容物質がヒストンデアセチラーゼ阻害剤であり、前記物質を0.5mg/kg以下の1日用量で投与する、請求項38に記載の方法。
【請求項42】
細胞が、抗原提示細胞、樹状細胞、食細胞、単球系統の細胞、マクロファージ系統の細胞、多形核細胞、好中球系統の細胞、内皮細胞、星状膠細胞、又は微生物に感染した細胞である、請求項39に記載の方法。
【請求項43】
前記投与の前に、細胞が、非病的細胞と比較して、細胞障害性Tリンパ球細胞によって検出されるMHCクラスI表面分子の提示に欠陥があることを確認することをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項44】
前記投与の前に、細胞が、非病的細胞と比較してTAP−1に欠陥があることを確認することをさらに含む、請求項26に記載の方法。
【請求項45】
前記投与の前に、細胞が、TAP−2、LMP−2、及びタパシン、β−2マイクログロブリン、B7−1、B7−2、CD28、MHCクラスI、Erp57、LMP−7、PA28、IRP−1、2、3、4、5、6、7、CBP、CIITA、RFX5、RFXAP、TNF−α、補体C2、C4、CD80、CD86、ヒト白血球型抗原(HLA)−DR、HLA−ABC、細胞内接着分子−1(ICAM−1)、Toll様受容体(1−11)、マクロファージ炎症タンパク質−3β/ケモカイン、モチーフCC、リガンド19誘導型、核因子−κB、CBP、PCAF及びSRC−1、p21、TRAIL(Apo2L、TNFSF10)の発現、Stat1、インターフェロンα、血管内皮増殖因子、低酸素誘導因子1α及びマトリクスメタロプロテイナーゼ9からなる群から選択される構成要素に欠陥があることを確認することをさらに含む、請求項43又は44に記載の方法。
【請求項46】
哺乳動物細胞のMHCクラスI表面発現を増強するために哺乳動物に投与するための医薬組成物であって、MHCクラスII又はクラスI染色体領域中の遺伝子の転写を促進して細胞のMHCクラスI表面発現の増強を引き起こすのに有効であり、アポトーシスを誘発するのに不十分である量の生体許容物質、及び適切なアジュバント又は担体を含む組成物。
【請求項47】
生体許容物質がヒストンデアセチラーゼ阻害剤である、請求項46に記載の組成物。
【請求項48】
生体許容物質がヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤である、請求項46に記載の組成物。
【請求項49】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤が、ヒドロキサム酸系のヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤である、請求項47に記載の組成物。
【請求項50】
ヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤が、ヒドロキサム酸系のヒストンデアセチラーゼ阻害剤である、請求項48に記載の組成物。
【請求項51】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤がトリコスタチンAである、請求項47に記載の組成物。
【請求項52】
ヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤がトリコスタチンAである、請求項48に記載の組成物。
【請求項53】
生体許容物質がヒストンアセチルトランスフェラーゼである、請求項46に記載の組成物。
【請求項54】
生体許容物質が、固有のヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性を有する転写コアクチベーターである、請求項46に記載の組成物。
【請求項55】
ヒストンアセチルトランスフェラーゼが、CBP/p300タンパク質ファミリー、p21、Stat1、及び低酸素誘導因子1αからなる群から選択される、請求項53に記載の組成物。
【請求項56】
ワクチン製剤をさらに含む、請求項46から55までのいずれか一項に記載の組成物。
【請求項57】
過剰なTAP−1発現欠失細胞が関与する障害に罹患した哺乳動物に投与するための、MHCクラスII又はクラスI染色体領域中の遺伝子の転写を促進して細胞のMHCクラスI表面発現の増強を引き起こすのに有効であり、アポトーシスを誘発するのに不十分であるTAP−1発現増加量の生体許容物質、及び適切なアジュバント又は担体を含む組成物の調製又は製造における使用。
【請求項58】
遺伝子が、TAP−1、TAP−2、LMP−2、タパシン、β−2マイクログロブリン、B7−1、B7−2、CD28、MHCクラスI、Erp57、LMP−7、PA28、IRP−1、2、3、4、5、6、7、CBP、CIITA、RFX5、RFXAP、TNF−α、補体C2、C4、CD80、CD86、ヒト白血球型抗原(HLA)−DR、HLA−ABC、細胞内接着分子−1(ICAM−1)、Toll様受容体(1−11)、マクロファージ炎症タンパク質−3β/ケモカイン、モチーフCC、リガンド19誘導型、核因子−κB、CBP、PCAF、SRC−1、p21、TRAIL(Apo2L、TNFSF10)、Stat1、インターフェロンα、血管内皮増殖因子、低酸素誘導因子1α及びマトリクスメタロプロテイナーゼ9からなる群から選択される、請求項57に記載の使用。
【請求項59】
生体許容物質がヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤である、請求項57に記載の使用。
【請求項60】
生体許容物質がヒストンデアセチラーゼ阻害剤である、請求項57に記載の使用。
【請求項61】
ヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤が、ヒドロキサム酸系のヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤である、請求項59に記載の使用。
【請求項62】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤が、ヒドロキサム酸系のヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤である、請求項60に記載の使用。
【請求項63】
ヒストンH3デアセチラーゼ阻害剤がトリコスタチンAである、請求項59に記載の使用。
【請求項64】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤がトリコスタチンAである、請求項60に記載の使用。
【請求項65】
生体許容物質が、固有のヒストンアセチルトランスフェラーゼ活性を有する転写コアクチベーターである、請求項57に記載の使用。
【請求項66】
生体許容物質がヒストンアセチルトランスフェラーゼである、請求項60に記載の使用。
【請求項67】
ヒストンアセチルトランスフェラーゼが、CBP/p300タンパク質ファミリーのメンバー、p21、Stat1、及び低酸素誘導因子1αからなる群から選択される、請求項66に記載の使用。
【請求項68】
障害が、子宮頸癌、結腸直腸癌、非ホジキンリンパ腫、リンパ腫、胃癌、肝臓癌、白血病、腎臓癌、膵臓癌、肉腫、中皮種、子宮癌、膀胱癌、頭部及び頚部癌、食道癌、精巣癌、卵巣癌、甲状腺癌、口腔癌、胃癌、咽頭の癌、ホジキンリンパ腫、乳癌、前立腺癌、メラノーマ、非メラノーマ皮膚癌、皮膚の基底細胞癌、皮膚の扁平上皮細胞癌、肺癌脳腫瘍、多発性骨髄腫、及び感染性疾患からなる群から選択される、請求項57から67までのいずれか一項に記載の使用。
【請求項69】
細胞表面上でのペプチド充填MHCクラス1タンパク質複合体の発現を増強するための医薬品を調剤するための、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤又はヒストンアセチラーゼプロモーターの使用。
【請求項70】
細胞表面上でのペプチド充填MHCクラス1タンパク質複合体の発現を増強するための、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤又はヒストンアセチラーゼプロモーターの使用。
【請求項71】
細胞が癌細胞である、請求項69又は70に記載の使用。
【請求項72】
細胞が微生物に感染した細胞である、請求項69又は70に記載の使用。
【請求項73】
細胞が、樹状細胞、食細胞、単球系統の細胞、マクロファージ系統の細胞、多形核細胞、好中球系統の細胞、内皮細胞、星状膠細胞、及び微生物に感染した細胞からなる群から選択される、請求項69又は70に記載の使用。
【請求項74】
細胞がウイルスに感染した細胞である、請求項69又は70に記載の使用。
【請求項75】
細胞が癌細胞であり、ウイルスが腫瘍崩壊性ウイルスである、請求項73に記載の使用。
【請求項76】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤又はヒストンアセチラーゼプロモーターが、細胞に感染する微生物と組み合わせて使用するためのものである、請求項69又は70に記載の使用。
【請求項77】
ヒストンアセチルトランスフェラーゼであるヒストンアセチラーゼプロモーターを使用する、請求項69から76までのいずれか一項に記載の使用。
【請求項78】
トリコスタチンA、デプシペプチド、スベロニルアニリドヒドロキサム酸、トリコスタチンAのアミド類似体、トラポキシン、トラポキシンのヒドロキサム酸類似体、スクリプタイド(6−(1,3−ジオキソ−1H,3H−ベンゾ[デ]イソキノリン−2−イル)−ヘキサン酸ヒドロキシアミド)、及びスクリプタイド類似体からなる群から選択されるヒストンデアセチラーゼ阻害剤を使用する、請求項69から76までのいずれか一項に記載の使用。
【請求項79】
ペプチド充填MHCクラス1エピトープに対するT細胞の応答を刺激するための、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤又はヒストンアセチラーゼプロモーターの使用。
【請求項80】
自己癌細胞ワクチンを調製する方法であって、
患者から癌細胞を得ること、
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤又はヒストンアセチラーゼプロモーターで癌細胞を処理すること、及び
処理細胞を患者にワクチン接種することを含む方法。
【請求項81】
患者にワクチン接種するステップの前に癌細胞を複製欠損性にする、請求項80に記載の方法。
【請求項82】
患者にワクチン接種するステップの前に癌細胞に照射して、癌細胞を複製欠損性にする、請求項81に記載の方法。
【請求項83】
患者における細胞内微生物感染を治療するための、ヒストンデアセチラーゼ阻害剤又はヒストンアセチラーゼプロモーターの使用。
【請求項84】
細胞内微生物感染がウイルス感染である、請求項83に記載の使用。
【請求項85】
DNAワクチン、タンパク質系ワクチン、細菌系癌ワクチン、化学療法、アジュバント、増殖因子、原発性癌治療、又は癌ワクチンの使用をさらに含む、請求項70に記載の使用。
【請求項86】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤の活性を細胞中で誘導しアポトーシス促進活性を誘導しない細胞処理レジメンをスクリーニングする方法であって、細胞を1つ又は複数の試験化合物に1つ又は複数の試験濃度で曝すこと、及び細胞中のヒストンデアセチラーゼ活性のレベルをアッセイし、細胞中のアポトーシス活性のレベルをアッセイすることを含む方法。
【請求項87】
化合物が、トリコスタチンA、デプシペプチド、スベロニルアニリドヒドロキサム酸、トリコスタチンAのアミド類似体、トラポキシン、トラポキシンのヒドロキサム酸類似体、スクリプタイド(6−(1,3−ジオキソ−1H,3H−ベンゾ[デ]イソキノリン−2−イル)−ヘキサン酸ヒドロキシアミド)、及びスクリプタイド類似体からなる群から選択される、請求項86に記載の方法。
【請求項88】
前記量が、細胞に対して毒性がない量である、請求項26に記載の方法。
【請求項89】
前記量が、病的細胞の免疫認識を誘発する量である、請求項26又は88に記載の方法。
【請求項90】
前記量が、病的細胞に対する免疫応答を誘発する量である、請求項26、88又は89に記載の方法。
【請求項91】
in vitroである、請求項70から79までのいずれか一項に記載の使用。
【請求項92】
約100ng/ml未満の濃度でのヒストンデアセチラーゼ阻害剤の使用である、請求項91に記載の使用。
【請求項93】
ヒストンデアセチラーゼ阻害剤がトリコスタチンAである、請求項92に記載の使用。


【公表番号】特表2010−516628(P2010−516628A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545770(P2009−545770)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【国際出願番号】PCT/CA2008/000088
【国際公開番号】WO2008/086612
【国際公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(303061166)ザ ユニバーシティー オブ ブリティッシュ コロンビア (2)
【Fターム(参考)】