説明

HBVワクチンおよびその製造方法

本発明は、B型肝炎ウイルスのLタンパク質、Mタンパク質およびSタンパク質からなる全体表面抗原を含み、生産された抗原がウイルス様粒子を形成するHBVワクチン、前記全体表面抗原に加えてHBVコア抗原をさらに含むHBV複合抗原ワクチン、およびこれらの製造方法に関する。これらのワクチンは、様々なエピトープを提供し、強力な体液性免疫反応および細胞性免疫反応を誘導するために優れた免疫原生を有するため、治療用ワクチンとして用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、B型肝炎ウイルス(HBV:Hepatitis B Virus)のpreS抗原とS抗原からなる全体表面抗原を含むHBVワクチン、前記全体表面抗原に加えてHBVコア抗原をさらに含むHBV複合抗原ワクチン、およびこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
HBV感染は急性肝炎および慢性肝炎を引き起こす。HBVに感染した大部分のヒトは、約1〜2ヶ月後には完全に治る。この際、約10%は完治せず、慢性感染状態が維持されて慢性肝炎患者になる。また、5歳以下の幼児または新生児がHBVに感染すると、95%以上が保菌者になる。慢性肝炎状態が維持される場合、肝硬化症または肝癌に進むおそれがある。慢性HBV感染患者からは血中でHBsAgが検出されるが、これに対する免疫反応が誘導されない免疫寛容状態にあるので、anti−HBs抗体が現れない。したがって、慢性HBV感染治療の最終目標は、患者の肝と血中からB型肝炎ウイルスを除去し、血清中のanti−HBs抗体を陽性に誘導することにある。
【0003】
治療ワクチンは、免疫寛容状態を解消して感染源に対する人体免疫反応を誘導し、感染した状態を回復させる免疫治療剤であって、慢性感染性疾患の治療に適する。治療ワクチンの要件としては、免疫寛容状態を解消させて免疫反応を誘導することができなければならず、感染源を除去しうる程度に強力な体液性免疫反応と細胞性免疫反応を誘導することができなければならないことである。
【0004】
HBV感染後、自然治癒される場合にはポリクローナル免疫反応が誘導されたが、慢性肝炎患者ではオリゴクローナル免疫反応のみが誘導された。よって、治療ワクチンは、ポリクローナル免疫反応を誘導することができるように、様々なエピトープを提供することが可能な抗原を含むことが必要である。
【0005】
HBVの外皮遺伝子は、preS(preS1とpreS2)およびS部位から構成されており、転写の後、3つの各開始コドンで選択的翻訳(alternate translation)によって3つの外皮タンパク質(Lタンパク質、Mタンパク質およびSタンパク質)が生産される。Lタンパク質は、HBVのサブタイプに応じて、preS1 AUGコドンで翻訳が開始してpreS1ドメイン、preS2ドメインおよびSドメインを全て含む、約400個のアミノ酸から構成される。Mタンパク質は、preS2で翻訳が開始してpresSドメインおよびSドメインを含む約281個のアミノ酸から構成される。Sタンパク質は、Sドメインのみを含む約226個のアミノ酸から構成され、最も多い量が生産されてウイルス粒子の主な構成成分をなす。これらの外皮タンパク質のSドメイン部位が互いに結合して粒子を形成しながらS抗原をなす。Mタンパク質とLタンパク質に含まれたpreS1およびpreS2ドメインは、粒子の外側に位置し、高い免疫反応を誘導するpreS抗原として作用する。
【0006】
前述したように、様々なエピトープを提供するためには、preS抗原全体およびS抗原全体を提供する全体表面抗原ワクチンが、S抗原のみを含むワクチンより有用である。特に、動物実験およびヒト実験の両方ともにおいて、preS抗原およびS抗原が共に使用された場合はS抗原のみを使用した場合より免疫原性が高いため、抗体をさらに速く形成させるものと確認されている。すなわち、preS抗原とS抗原を全て含むワクチンは、S抗原のみを含むワクチンより高い免疫原性を有し、防御効果を速く誘導することができるので、より機能が向上したHBVワクチンであって、慢性B型肝炎の治療用ワクチンとしてさらに適する。
【0007】
ところが、従来の商業的に利用可能な大部分のHBVワクチンは、S抗原のみを含有しているだけである。これはサッカロミセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)またはハンセヌラポリモルファ(Hansenula polymorpha)などの真核細胞で表現抗原を発現させる場合、preS抗原を同時に発現させることが技術的に難しかったためである。
【0008】
また、サッカロミセス・セレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)またはハンセヌラポリモルファ(Hansenula polymorpha)などの真核細胞でpreS抗原の一部(特にpreS2)をS抗原と同時に発現させた試みがあるが、十分な免疫原性を持たなかった。
【0009】
一方、preS遺伝子を別途に発現させてpreS抗原を生産した後、これをS抗原と混合してHBV抗原を製造する他のいろんな試みがあった。しかし、生産された線形可溶性の形態のpreS抗原の免疫性が高くなかった。よって、preS抗原とS抗原が同時に発現することにより、S抗原の結合からなる粒子の外側にpreS抗原が位置する全体表面抗原に比べて免疫原性を高める効果は微々たるものであった。
【0010】
したがって、免疫誘導性を向上させるために、preS抗原がS抗原と共に発現し、S抗原からなる粒子の外側にpreS抗原が位置する。最近、イスラエルで開発したHBVワクチンの場合、全体表面抗原、すなわちpreS抗原とS抗原を全て含んでいると知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者らは、preS抗原とS抗原を同時に粒子の形態で含むHBV外皮抗原を生産できるCHO細胞株を開発することに成功した。 本発明者らはHBVの全体外皮遺伝子を特定のベクターに導入することにより、3種の表面タンパク質(Lタンパク質、Mタンパク質およびSタンパク質)がHBV慢性患者の血液から発見される粒子の形態で発現した。この抗原を使用して組み換え全体表面抗原を含む強力なHBVワクチンを開発した。さらに、検出可能な量のHBV特異抗原なしで血液中でHBV抗原を生産する形質転換マウスに強力な免疫反応を誘発することに著しく効果的であることが明らかになった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の目的は、HBVの3種の表面タンパク質(Lタンパク質、Mタンパク質およびSタンパク質)からなる粒子形態の全体表面抗原を含むHBVワクチンを提供することにある。
【0013】
好ましくは、本発明の目的は、B型肝炎ウイルスのpreS1、preS2およびS抗原タンパク質をコードする全体外皮遺伝子を含む一つの発現ベクターから同時発現したLタンパク質、Mタンパク質およびSタンパク質から構成され、 S抗原間の結合からなる粒子の外側にpreS抗原が位置するHBV全体表面抗原を含むワクチンを提供することにある。
【0014】
本発明の他の目的は、前述したHBVワクチンの製造方法を提供することにある。
【0015】
本発明の別の目的は、HBVの3種の表面タンパク質(Lタンパク質、Mタンパク質およびSタンパク質)を全て発現することが可能な組み換え発現ベクターを提供することにある。
【0016】
本発明の別の目的は、前記組み換え発現ベクターで形質導入された細胞を提供することにある。
【0017】
本発明の別の目的は、前記HBVワクチンを用いた慢性HBV感染を治療するのに適合な免疫療法を提供することにある。
【0018】
本発明の別の目的は、前記ワクチンに組み換えHBVコア抗原および/または免疫補助剤を追加することにより、体液性免疫反応および細胞性免疫反応が全て増加したHBV複合抗原ワクチンを提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】組み換え全体表面抗原(Sタンパク質、Mタンパク質、Lタンパク質)を発現する発現ベクターの概要図である。
【図2】精製された組み換え全体表面抗原(Sタンパク質、Mタンパク質、Lタンパク質)のSDS−PAGEとウエスタンブロットの写真である。
【図3】精製された組み換え全体表面抗原を、N−糖鎖を除去する酵素N−グリコシダーゼで処理したウエスタンブロットの写真である。
【図4】精製された組み換え全体表面抗原の電子顕微鏡写真である。
【図5】精製された組み換えコア抗原(core Ag)のSDS−PAGEとウエスタンブロットの写真である。
【図6】精製された組み換えコア抗原の電子顕微鏡写真である。
【図7】本発明に係る全体表面抗原を含むHBVワクチンと既存ワクチンの抗体価を比較した図である。
【図8】本発明に係る全体表面抗原を含むHBVワクチンと既存ワクチンのED50を比較した図である。
【図9】正常マウスにおける本発明に係る複合抗原ワクチンの体液性免疫反応の誘導を示す。
【図10】正常マウスにおける本発明に係る複合抗原ワクチンの細胞性免疫反応の誘導を示す。
【図11】preSでコートされたコロイド金コンジュゲート(colloidal gold conjugate)の電子顕微鏡写真を示す。
【図12】正常マウスにおけるコロイド金による体液性免疫反応の誘導を示す。
【図13】正常マウスにおけるコロイド金による細胞性免疫反応の誘導を示す。
【図14】正常マウスにおける本発明に係る治療ワクチンによる体液性免疫反応の誘導を示す。
【図15】正常マウスにおける本発明に係る治療ワクチンによる細胞性免疫反応の誘導を示す。
【図16】形質転換マウスにおける本発明に係る治療ワクチンによる体液性免疫反応の誘導をELISPOT法で示す。
【図17】形質転換マウスにおける本発明に係る治療ワクチンによる細胞性免疫反応の誘導をELISPOT法で示す。
【図18】形質転換マウスにおける本発明に係る治療ワクチンによる細胞性免疫反応の誘導をELISA法で示す。
【図19】治療ワクチンによる血中表面抗原(ウイルス様粒子)の減少を示す。
【図20】治療ワクチンによるウイルス遺伝子発現の減少とインターフェロン−g発現の増加を示す。
【図21】形質転換マウスにおける本発明に係る治療ワクチンによる体液性免疫反応の誘導を示す。
【図22】形質転換マウスにおける本発明に係る治療ワクチンによる細胞性免疫反応の誘導をELISPOT法で示す。
【図23】形質転換マウスにおける本発明に係る治療ワクチンによる細胞性免疫反応の誘導をELISA法で示す。
【図24】本発明に係る治療ワクチンによる血中表面抗原(ウイルス様粒子)の減少を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
一様態において、本発明は、HBVのLタンパク質、Mタンパク質およびSタンパク質からなる粒子形態の組み換え全体表面抗原を含むHBVワクチンを提供する。
【0021】
B型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)は、3つの選択的翻訳開始コドンから生産される3つの相互関連のある外皮タンパク質(envelope protein)から構成される。HBsAgの主要成分であるSタンパク質は、226個のアミノ酸からなり、糖化有無に応じてp24とgp27と命名される。中間サイズのMタンパク質は、SドメインのN末端部位にpreS2ドメインとしての55個のアミノ酸が追加された形態であって、糖化有無に応じてgp33とgp36と命名される。最も大きいサイズのタンパク質であるLタンパク質は、SドメインとpreS2ドメインからなるMタンパク質のN末端にpreS1ドメインとしての119個のアミノ酸が追加された形態であって、糖化有無に応じてp39とgp42と命名される。実際、ウイルスの外皮HBsAg粒子ではこれらのLタンパク質、Mタンパク質およびSタンパク質のSドメインが分子間ジスルフィド結合によりお互い共有連結されてウイルス粒子を形成する。
【0022】
免疫反応を誘導するにおいて、S、preS2、preS1ドメインそれぞれの重要性が確実に解明されてはいないが、preS抗原に対する免疫反応がS抗原に対する免疫原性を増加させることが報告された(ref. Milich DR et al Science 228: 1195-1199, 1985; Milich DR et al J Immunol 23: 511-523, 1986; Milich DR et al Proc Natl. Acad Sci USA 85: 1610-1614, 1988)。また、preS抗原に対する抗体は肝細胞がB型肝炎ウイルスに感染する段階でブロック付着(block attachment)、エンドサイトーシス(endocytosis)、および膜透過(membrane penetration)過程を防ぐことができるという報告がある(Neurath AR et al. Nature 315: 154-156, 1985; Neurath AR et al. Vaccine 4: 35-37, 1986; Gerlich WH et al. Vaccine 8: S63-S68, 1990)。したがって、preS抗原とS抗原を同時に含む第3世代HBVワクチンは、S抗原のみを含むワクチンに比べて優れた免疫誘導力を有する。
【0023】
本発明によれば、一つの発現ベクターから同時発現したSタンパク質、Mタンパク質およびLタンパク質から構成され、preS1およびpreS2からなるpreS抗原が、S抗原間の結合によって形成される粒子の外側に位置するHBV組み換え全体表面抗原を含むHBVワクチンを製造することができる。このような抗原を含む本発明のワクチンは、1種の抗原、すなわちS抗原のみを含むワクチンまたはS抗原と、preS抗原を含んでもpreS抗原がS抗原とは別途に発現して混合形態で存在する既存のワクチンに比べて免疫誘導力が一層強いため、治療用ワクチンとして適する。
【0024】
公知のHBVワクチンの中でも、第2世代HBVワクチンの場合にはS抗原のみを含み、第3世代HBVワクチンの場合にもこれらの3つの表面抗原を全て含むのではなく、このうちpreS抗原の一部とS抗原のみを含み、あるいはpreS抗原とS抗原を共に含むとしても、preS抗原が微々たる水準で含む。これは精製過程でpreSの一部の損失に起因する。したがって、生産された表面抗原が全体表面抗原と見られない程度であり、あるいはpreS抗原とS抗原が別途に発現して混合形態で存在する。したがって、公知のHBVワクチンから生産された表面抗原はpreS抗原がS抗原と同時発現し、かつS抗原間の結合によって形成された粒子の外側に位置する、全体表面抗原を形成したのではなかった。
【0025】
本発明は、前述したように同時発現した3形態のHBVの表面タンパク質を全て実質的な水準で含むことにより、22nmおよび42nm粒子および赤色形態を含むウイルス様粒子を形成する全体表面抗原を含む組み換えHBVワクチンを提供する。
【0026】
本発明において、用語「全体表面抗原(L−HBsAg)」とは、同時発現したHBVの3つの表面タンパク質であるLタンパク質、Mタンパク質およびSタンパク質から構成され、preS1およびpreS2からなるpreS抗原が、S抗原間の結合によって形成される粒子の外部表面に位置する形態の抗原を意味する。
【0027】
好適な様態において、本発明は、前述したHBVの全体表面抗原に加えてHBVのコア抗原をさらに含むHBVワクチンを提供する。
【0028】
HBVのコア抗原は、ウイルス様粒子を形成し、高い免疫原性を示し、細胞性免疫を強く誘導するという特徴がある。よって、HBVの全体表面抗原の他にコア抗原をさらに含むワクチンは、免疫誘導力がより強いため、治療ワクチンとして有用なものと予想された。これを本願の実施例3で確認した。すなわち、HBVの全体表面抗原のみを含むワクチンに比べてHBVの全体表面抗原とコア抗原を共に含むワクチンは細胞性免疫反応を誘導する効果がさらに優れたことが明らかになった。よって、HBVの全体表面抗原とコア抗原を含むワクチンが治療ワクチンとしてさらに適することを確認した。
【0029】
より詳細に述べたように、前記HBVのコア抗原をさらに含むワクチンは、本発明の方法によって得られるHBVの全体表面抗原にHBVのコア抗原を混合することにより製造できる。本発明の実施例では、HBVの全体表面抗原のみを含む本発明に係るHBVワクチンを単一抗原ワクチンと略称し、HBVの全体表面抗原とコア抗原を共に含む本発明に係るHBVワクチンを複合抗原ワクチンと略称する。
【0030】
別の様態において、本発明は、HBV慢性患者の血液中のHBVから現れたようにHBV外皮タンパク質を構成する全体表面タンパク質を同時に効率的に発現する組み換え発現ベクターを提供する。
【0031】
前述したように、本発明のもっとも強力なHBVワクチンは、一つの発現ベクターから3つの表面タンパク質が同時に発現することにより製造することができるものであって、前記組み換え発現ベクターは、HBVの外皮遺伝子、すなわちpre−S1、pre−S2およびS部位をコードする全体ポリヌクレオチドを含む。好ましくは、前記塩基配列は、HBVの全体外皮遺伝子の形態で提供でき、より好ましくは配列番号1で表されるHBVの外皮遺伝子である。
【0032】
また、好ましくは、本発明に係る前記組み換え発現ベクターを製造するためのベクターとして、韓国特許出願第10−2000−0043996号およびPCT/KR01/01285号に開示されたpMSGベクター(KCCM10202)を使用することができる。pMSGベクターは、β-グロビンMAR相補性配列;SV40ウイルスのプロモーター;および特定の塩基配列を有する転写終結因子を含むベクターである。この発現ベクターは、動物細胞にて、外来遺伝子のタンパク質発現を効果的に行うことができる。前記発現ベクターは、様々な動物細胞で外来の組み換えタンパク質を効果的に発現させることができるうえ、動物タンパク質の固有構造と機能を維持する組み換えタンパク質を生産することができると前記特許出願に開示されている。pMSGベクターに関するより詳細な事項は、前述した韓国特許出願第10−2000−0043996号を参照されたい。前記特許出願明細書の全体内容は参考資料として本願明細書に含まれる。
【0033】
本発明の具体的な実施例では、HBVの全体表面抗原をコードする全体外皮遺伝子を前述のpMSGベクターに挿入することにより、Lタンパク質、Mタンパク質およびSタンパク質が全て発現するか否かを確認した(図2参照)。また、このように生産された組み換えL、MおよびSタンパク質は、ウイルス様粒子を形成し(図4参照)、表面抗原としてのpreS(preS1およびpreS2)抗原とS抗原を全て提供することができることを確認した(実施例1.1参照)。
【0034】
別の様態において、本発明は、前記発現ベクターを導入した宿主細胞を提供する。宿主細胞としては、これに限定されないが、動物細胞を使用することが好ましく、さらに好ましくはCHO(Chinese Hamster Ovary)細胞、肝細胞(Hepatocyte)、HEK(Human Embryonic Kidney)細胞、およびHLF(Human Lung Fibroblast)細胞よりなる群から選択することができ、特に好ましくはCHO細胞である。
【0035】
本発明の好適な実施例では、本発明によってHBVの全体外皮遺伝子を含む発現ベクターをCHO細胞に形質導入し、これからLタンパク質、Mタンパク質およびSタンパク質を大量生産することができることを確認した(実施例1.1および図2参照)。よって、Lタンパク質、Mタンパク質およびSタンパク質を同時発現することができる、本発明に係る発現ベクターをCHO細胞に形質導入させた細胞株をCHO DG44/L−HBsAg(J2.1)−G101と命名し、これを2006年12月28日付で韓国大田広域市魚隠洞に所在の韓国生命工学研究院生物資源センター(Korean Collection for Type Cultures)に受託番号KCTC 11058BPとして寄託した。
【0036】
別の様態において、本発明は、HBVの全体表面抗原を含むHBVワクチンを製造する方法を提供する。
【0037】
前述したように、本発明に係るHBVの全体外皮遺伝子を含む組み換え発現ベクターを形質導入した細胞株は、3種の外皮タンパク質であるLタンパク質、Mタンパク質およびSタンパク質を同時に発現し、これらの同時発現したpreS抗原は、S抗原間の結合によって形成される粒子の表面に位置してウイルス様粒子を形成する。よって、本発明に係るHBVの全体表面抗原を含むHBVワクチンは、前記細胞株から発現したHBVの全体表面抗原タンパク質を精製して製造できる。
【0038】
具体的に、本発明に係るHBVワクチンの製造方法は、
1)HBVのpreSおよびS抗原タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現ベクターに導入する段階、
2)段階1)の発現ベクターを宿主細胞に形質導入する段階、および
3)前記形質導入された宿主細胞を培養して組み換えHBVの全体表面抗原(preS抗原およびS抗原)タンパク質を得る段階を含む。
【0039】
好ましくは、段階1)のポリヌクレオチドは、B型肝炎ウイルス(HBV)の全体外皮遺伝子の形態であり、さらに好ましくは、HBV全体外皮遺伝子のコード領域およびポリアデニル化部位を含んだ3−UTR全体ヌクレオチドであり、特に好ましくは配列番号1の塩基配列を有するポリヌクレオチドである。好ましくは、段階1)の発現ベクターはpMSGベクター(KCCM 10202)である。宿主細胞は、これに限定されないが、好ましくはCHO細胞を使用することができる。
【0040】
HBVの全体表面抗原の他にHBVのコア抗原をさらに含むワクチンは、前述したHBVワクチンの製造方法によって得られるHBVの全体表面抗原と当業界における公知の遺伝子組み換え方式を用いて製造できるHBVのコア抗原を混合することにより容易に製造できる。具体的には、前記1)〜3)の段階を含むHBVワクチンの製造工程に下記4)〜6)の段階をさらに含む方法によって、HBVの全体表面抗原とコア抗原を含む本発明に係るHBVワクチンを製造することができる:
4)HBVコア抗原タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現ベクターに導入する段階、
5)段階4)で製造された発現ベクターを宿主細胞に形質導入する段階、および
6)形質導入された宿主細胞を培養して組み換えHBVコアタンパク質を得る段階。
【0041】
好ましくは、段階4)における発現ベクターは、これに限定されないが、pBluescriptベクター、pGEX発現ベクター、pET発現ベクター、pIL20発現ベクターおよびpET11a発現ベクターなどを使用することができる。前記発現ベクターは、原核細胞または眞核細胞としての宿主細胞に形質導入させることができる。好適な宿主細胞としては、これらに限定されないが、E.coli、B.subtilisなどの原核細胞と、サッカロミセスセレヴィシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ハンセヌラポリモルファ(Hansenular polymorpha)などの真核細胞を挙げることができる。これらの中でも、E.Coliに形質導入することが特に好ましい。
【0042】
別の様態において、本発明は、免疫補助剤を含むHBVワクチン組成物を提供する。
【0043】
本発明において、免疫補助剤とは、それ自体はワクチンの免疫原に対する特異的な免疫を誘発することができないが、抗原と共に作用するとき、免疫系を刺激して免疫反応を上昇させる作用をする基質または添加物を意味する。すなわち、抗原と免疫補助剤を共に用いたワクチンは、抗原単独によって誘導されるよりさらに強力な免疫反応を誘導する。
【0044】
本発明では、アルミニウム化合物(硫酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウムなど)のような免疫補助剤を使用することができる。また、金コロイドを免疫補助剤として使用することができる。特に、本願発明者は、以前の研究(特許出願10−2006−0057040)で、コロイド金が細胞性免疫反応を著しく増加させるアジュバントとして使用できることを解明しことがある。本発明に係るHBVワクチンを慢性B型肝炎の治療剤として使用する場合には、細胞性免疫反応の誘導がより要求され、このような細胞性免疫反応の誘導に金コロイドをアジュバントとして含む場合には、より効果的な治療ワクチンになれることを確認した(実施例5.2および図13参照)。
【0045】
さらに好ましくは、免疫補助剤としてミョウバンとコロイド金を共に使用することができる。ミョウバンは、体液性免疫を増加させる機能を果たすので、ミョウバンと金コロイドを免疫補助剤として共に使用する場合、ミョウバンによる体液性免疫だけでなく、金コロイドによって細胞性免疫反応も共に誘導されて非常に効果的な治療ワクチンになれる。本発明に係るHBV複合抗原ワクチンの場合、ミョウバンおよび金コロイド免疫補助剤を共に使用した場合、体液性免疫および細胞性免疫が全て非常に効果的に誘導されることを確認した(実施例6.2および図15参照)。
【0046】
本発明の別の様態では治療用HBVワクチンを提供する。慢性肝炎患者の場合は、免疫寛容状態を解消して感染源に対する人体免疫反応を誘導し、感染した状態を回復させる治療ワクチンを免疫治療剤として使用することが好ましい治療方法である。本発明に係るHBVワクチンは、様々なエピトープを提供することにより、オリゴクローナル免疫反応(oligoclonal immune response)のみを誘導した慢性肝炎患者においてポリクローナル免疫反応(polyclonal immune response)を誘導する。また、本発明のHBVワクチンは、強力な体液性免疫反応だけでなく、細胞性免疫反応を効果的に誘導する。したがって、本発明のHBVワクチンは治療用として適する。好ましくは、本発明のHBVワクチンは前記免疫補助剤を共に含む。前記免疫補助剤としては、ミョウバン、金コロイド、またはこれらの両方ともを使用することができる。
【0047】
本発明のワクチン組成物は、薬学的に許容される担体を含むことができ、人体または獣医用として剤形化されて様々な経路で投与できる。投与経路は、経口、腹腔、静脈、筋肉、皮下、皮内などの経路で投与できる。好ましくは、注射剤に剤形化して投与する。注射剤は、たとえば生理食塩液、リンガー液などの水性溶剤、およびたとえば植物油、高級脂肪酸エステル(たとえば、オレイン酸エチルなど)、アルコール類(たとえば、エタノール、ベンジルアルコール、プロピレングリコール、グリセリンなど)などの非水性溶剤などを用いて製造することができ、変質防止のための安定化剤(たとえば、アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、BHA、トコフェロール、EDTAなど)、乳化剤、pH調節のための緩衝剤、微生物の発育を阻止するための保存剤(たとえば、硝酸フェニル水銀、チメロサール、塩化ベンザルコニウム、フェノール、クレゾール、ベンジルアルコールなど)などの薬学的担体を含むことができる。
【0048】
本発明の組成物は薬学的有効量で投与する。用語「薬学的有効量」とは、ワクチン効果を示すことができる程度の十分な量と、副作用または深刻もしくは過度な免疫反応を起こさない程度の量を意味する。正確な投与濃度は、投与される抗原によって異なり、患者の年齢、体重、健康、性別患者の薬物に対する敏感度、投与経路、投与方法などの医薬分野によく知られている要素に応じて当業者により容易に決定でき、1回〜数回投与可能である。
【0049】
別の様態において、本発明は、前記ワクチン組成物を用いて慢性B型肝炎ウイルスを治療する方法を提供する。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。但し、下記実施例は本発明を例示するものに過ぎず、本発明の内容を限定するものではない。
【0051】
実施例1.HBVワクチンの製造
1.1.組み換え全体表面抗原(preSおよびS抗原;L−HBsAg)の製造
(1)−1 クローニング
HBVゲノムを含むベクター(HBV 315、Korean Biochem. J. 17:70-79, 1984)を鋳型として外皮遺伝子のコード領域(coding region)(preS1−preS2−S)およびポリアデニル化部位を含む3−UTR全体(配列番号1)をPCR法によって増幅して発現ベクターに導入した。この際、PCR反応は、Pfu DNAポリメラーゼを用いて行い、HBsAgのコード部位と3−UTR全体が増幅されるようにプライマーを製作した(前方プライマー:5−GGA AGA TCT CAA TCT CGG GAA−3(配列番号2)、後方プライマー:5−GGA AGA TCT CGA ATA GAA GGA AAG−3(配列番号3)、下線部分はBglII認識配列である)。約2.75kbpサイズのPCR産物を得てBglII酵素で線形化したpMSGベクター(韓国特許出願第10−2000−0043996号およびPCT/KR01/01285号参照)とリゲーション反応させた。このように製作したベクター(pMSG−L−HBsAg)の概要図を図1に示した。これをCHO細胞にトランスフェクションして形質転換体を得、全体表面抗原(L−HBsAg、配列番号4)の発現をウエスタンブロット法で比較して高発現率の高い形質転換体を選別した。選別された形質転換体をCHO DG44/L−HBsAg(J2.1)−G101と命名し、2006年12月28日付で韓国大田広域市魚隠洞に所在の韓国生命工学研究院生物資源センター(Korean Collection for Type Cultures)に寄託し、受託番号KCTC 11058BPを与えられた。
【0052】
(1)−2 浮遊培養細胞株の確立
選別された細胞株をT−175フラスコに5×10個接種した。T−フラスコで付着して10%血清培地の条件で成長した細胞を0.25%トリプシンで取り外した後、1200rpmで5分間遠心分離して残留トリプシンを除去し、無タンパク質培地(HyQ SFM4CHO、Hyclone)に単一細胞でよく懸濁した。これを100mLの培養体積で250mLのスピナーフラスコに接種して37℃で80rpm速度で培養した。初期の細胞濃度を5×10cells/mLにして接種し、細胞成長が約1.5×10cells/mLに到達するとき、同じ初期濃度で連続継代培養することにより、浮遊培養に適応された細胞株を確保した。
【0053】
(2)培養
MCB(Master Cell Bank)から継代培養して接種用細胞を準備した。この際、培養培地は無血清培地(HyQ SFM4CHO、Hyclone)を基本培地として250mLのスピナーフラスコに5×10cells/mLの濃度で接種した後、34℃で80rpmの速度で培養した。培養3日後、培養された細胞を1Lのスピナーフラスコで継代培養して細胞数を増やした後、これを7.5Lの生物培養器に接種してpH7.2、34℃および80rpmの攪拌速度で培養した。培養3日後、クエン酸とHyQ LS1000を添加して3日間さらに培養した。
【0054】
(3)精製
生物培養器で培養された培養液を遠心分離して回収した後、0.45μmのフィルターを通過させて不純物を除去した。これを、平衡化させておいたフェニル−セファロースクロマトグラフィー(Phenyl-Sepharose chromatography)、DEAE−セファロースクロマトグラフィー(Sepharose chromatography)、セファロース4FFクロマトグラフィー(Sepharose 4 FF chromatography)を経て精製した。精製された全体表面抗原は、Sタンパク質、Mタンパク質およびLタンパク質から構成されており、糖化有無に応じて6つの組み換えタンパク質からなることを確認した(図2)。図2Aは精製された全体表面抗原のSDS−PAGE結果であり、図2Bは精製された表面抗原をそれぞれ抗−S抗体(レイン1)、抗−preS1抗体(レイン2)、および抗−preS2抗体(レイン3)でウエスタンブロックした図である。糖化有無は、糖鎖を除去することが可能な酵素N−グリコシダーゼFを用いてS抗原部分とMタンパク質のpresS2部分にN−糖化がなされたことを確認した(図3)。また、電子顕微鏡写真で精製されたL−HBsAgがウイルス様粒子の形態を成していることを確認した(図4)。
【0055】
1.2 組み換えコア抗原(HBcAg)の製造
(1)クローニング
コア抗原のC末端にあるアルギニンクラスター(arginine cluster)を除いたアミノ酸配列1番〜149番を組み換えタンパク質(配列番号5)で発現した。前記タンパク質をコードする核酸配列を配列番号6で示した。HBVゲノムを含むベクター(HBV315)を鋳型として、この部分に該当する遺伝子をPCR法で増幅してpET11a(Novagen)ベクターの制限酵素NdeIおよびBamHI切断部位に挿入してpET11a−core発現ベクターを製作した。コア遺伝子のPCR増幅には、前方(forward)プライマー:5−CCC CAT ATG GAC ATT GAC CCG TA−3(配列番号7)と後方(reverse)プライマー:5−CGC GGA TCC AAC AAC AGT AGT TTC CGG−3(配列番号8)が使用された。pET11a−core発現ベクターをE.coli BL21(DE3)に形質転換して発現を確認し、高発現率の生産クローンを選別した。
【0056】
(2)形質転換生産菌株の培養
生産菌株の最適の生産条件を5Lの発酵槽を用いて確立した。培地は2%バクトトリプトン、1%酵母エキス、2% NaCl、2%グルコース、1.33% KHPO、0.4%(NHHPO、0.17%クエン酸、0.12% MgSO、0.01%チアミン−HCl、および0.0371%アンピシリンを使用し、11時間37℃で培養した後、0.05mM/g cellとなる条件でIPTG(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を添加した。IPTG添加の後、18時間誘導させてから細胞を収穫した。
【0057】
(3)組み換えタンパク質の精製
細胞を収穫した後、溶解バッファ(50mM Tris−Cl pH7.6、150mM NaCl、5mM EDTA、10mM 2−メルカプトエタノール、0.2mM PMSF)で3回洗浄した後、溶媒バッファを入れてソニケーショを介して細胞を破砕した。遠心分離によって上澄液を収去した後、65℃で30分間加熱した後、さらに遠心分離して上澄液を分離し、30%硫酸アンモニウムを添加してコア抗原を沈殿させた。遠心分離の後、沈殿物を50mM Tris−Cl(pH7.6)に溶かした後、ブチルセファロースカラム(Butyl sepharose column)を介してコア抗原のみを純粋分離した。
【0058】
精製された組み換えコア抗原は、粒子形態の多重合体を確認した(図5)。図5Aは精製された組み換えコア抗原のSDS−PAGE結果であり、図5Bは精製された組み換えコア抗原のウエスタンブロット図である。変性条件と非変性条件を比較して多重合体を確認した。また、電子顕微鏡写真によって、精製された組み換えコア抗原が粒子形態を成していることを確認した(図6)。
【0059】
精製された組み換えコア抗原は、ウイルス様粒子を形成して免疫原性の高い形態で発現した。下記実施例では細胞性免疫を強く誘導する特徴があることを確認した。
【0060】
実施例2.組み換え全体表面抗原(L−HBsAg)の免疫原性の比較
本発明によって開発された組み換え全体表面抗原(L−HBsAg)が高い免疫原生を有しかつ優れた防御効果を誘導することを解明するために、公知の第2世代ワクチンと比較するために動物免疫実験を行った。
【0061】
2.1.免疫原性の比較
(1)目的:組み換えL−HBsAg抗原によって誘導される抗体価と免疫反応が誘導される時期を比較した。
【0062】
(2)材料および方法
(a)実験動物:6週齢C57BL/6雌マウス
(b)試験ワクチン
実施例1−1によって製造および精製された全体表面抗原(L−HBsAg)をミョウバンに吸着して試験ワクチンを製造した。比較群として、ハンセヌラポリモルファで生産された組み換えS抗原を含んだワクチン(Hepavax−Gene、緑十字ワクチン)、およびCHO細胞で発現したpreS抗原を含まない組み換えS抗原(Recombinant Hepatitis B Vaccine、中国Hualton社)を使用した。各試験ワクチンはドース(dose)当たり抗原0.5μgを使用した。
【0063】
(c)免疫グループおよび免疫条件
−免疫グループ
1.実験群1:ハンセヌラポリモルファで生産された組み換えS抗原(Hepavax−gene、緑十字ワクチン)
2.実験群2:CHO細胞で生産された組み換えS抗原(Recombinant Hepatitis B Vaccine、中国Hualton社)
3.実験群3:実施例1−1によって製造および精製されたCHO細胞で生産された組み換えL−HBsAg抗原
−投与方法:各試験ワクチンを2週間隔で3回筋肉注射した。
【0064】
(d)免疫反応分析方法
各試験ワクチンによって誘導された体液性免疫反応を分析するために、Diasorin kitを用いて抗体価をインターナショナルユニット(mIU/mL)で決定した。
【0065】
(3)結果
本発明に係る組み換えL−HBsAgは、既存のワクチンに使用される組み換えS抗原より高い体液性免疫反応を誘導して高い抗体価を示した(図7)。すなわち、組み換えL−HBsAgは、既存の抗原に比べて免疫原性が高いことを確認した。また、ハンセヌラポリモルファで生産されたS抗原に比べて、抗体反応が先に現れるので、速い防御効果を誘導することができる。
【0066】
2.2.ED50の比較
(1)目的:実施例1−1によって製造および精製された組み換えL−HBsAg抗原の免疫原性を実験動物50%においてセロコンバージョン(sero-conversion)の起こるED50(Effective Dose 50)で比較した。
【0067】
(2)材料および方法
(a)実験動物:6週齢C57BL/6雌マウス。
【0068】
(b)試験ワクチン
実施例1−1によって製造および精製された全体表面抗原(L−HBsAg)をミョウバンに吸着して試験ワクチンを製造した。比較群として、酵母で生産された組み換えS抗原(Recombinant Hepatitis B Vaccine、中国Kangtai社)、およびCHO細胞で発現したpreS抗原を含まない組み換えS抗原(Recombinant Hepatitis B Vaccine、中国Hualton社)を使用した。
【0069】
各ワクチンを希釈してドース当たりの抗原が0.156μg、0.312μg、0.625μg、1.25μg、2.5μg、5μgずつ含むように準備した。
【0070】
(c)免疫グループおよび免疫条件
−免疫グループ:各実験群をさらに希釈された試験ワクチンに該当するように小グループに分け、各小グループ当たり10匹ずつの動物を用いて免疫した。
【0071】
1.実験群1:酵母で生産された組み換えS抗原(Recombinant Hepatitis B Vaccine、中国Kangtai社)(実験群1−1:0.156μg投与、実験群1−2:0.312μg投与、実験群1−3:0.625μg投与、実験群1−4:1.25μg投与、実験群1−5:2.5μg投与、実験群1−6:5μg投与)
2.実験群2:比較群として実施例2−1で使用した、CHO細胞で生産された組み換えS抗原(Recombinant Hepatitis B Vaccine、中国Hualton社)(実験群2−1:0.156μg投与、実験群2−2:0.312μg投与、実験群2−3:0.625μg投与、実験群2−4:1.25μg投与、実験群2−5:2.5μg投与、実験群2−6:5μg投与)。
【0072】
3.実験群3:CHO細胞で生産された、実施例1−1によって製造および精製された組み換えL−HBsAg抗原(実験群3−1:0.156μg投与、実験群3−2:0.312μg投与、実験群3−3:0.625μg投与、実験群3−4:1.25μg投与、実験群3−5:2.5μg投与、実験群3−6:5μg投与)
−投与方法:希釈された試験ワクチンを1回腹腔注射した。
【0073】
(d)免疫反応分析方法
各個体から誘導された体液性免疫反応は、Diasorin kitを用いて抗体価をインターナショナルユニット(mIU/mL)で決定し、決定された抗体が10mIU/mLの場合をセロコンバージョンの起こったものと定義した。各グループで免疫された個体の50%でセロコンバージョンを誘導することが可能な試験ワクチン量(ED50)を決定した。
【0074】
(3)結果
実施例1−1によって製造および精製された組み換えL−HBsAsを使用したワクチンのED50が既存のワクチンと比較して最も低い値を示した。すなわち、本発明に係る組み換えL−HBsAgは既存の抗原より体液性免疫反応を効果的に誘導することができることを確認した(図8)。
【0075】
実施例3.HBVワクチンの免疫反応比較
3.1 免疫実験の条件および分析方法
(1)目的:本発明によって製造されたHBVワクチンの効能を確認するために、HBV全体表面抗原のみを含むワクチン(以下、「単一抗原ワクチン」という)またはHBV全体表面抗原とコア抗原を共に含むワクチン(以下、「複合抗原ワクチン」という)をマウスに免疫し、誘導された免疫反応を分析した。
【0076】
(2)材料および方法
(a)実験動物:6週齢のC57BL/6雌マウス
(b)試験ワクチン
−実施例1で製造および精製された組み換えコア抗原と組み換え全体表面抗原それぞれをミョウバンに吸着させて単一抗原ワクチンを製造し、複合抗原ワクチンはミョウバンに吸着された組み換えコア抗原と組み換え全体表面抗原とを混合して使用した。ドース当り各抗原0.5μgを使用した。
【0077】
(c)免疫グループおよび免疫条件
−免疫グループ
1.実験群1:PBS(Phosphate buffered saline)で免疫した陰性対照群(negative control)
2.実験群2:ミョウバンに吸着させた組み換え全体表面抗原
3.実験群3:ミョウバンに吸着させた組み換えコア抗原
4.実験群4:ミョウバンに吸着させた組み換え表面抗原と組み換えコア抗原(複合抗原ワクチン)
−投与方法:各試験ワクチンを2週間隔で3回にわたって筋肉注射した。
【0078】
(d)免疫反応分析方法
1)体液性免疫反応の分析
免疫前と免疫投与後2週目に血清を分離し、生成された抗体をELISA法で分析することにより、抗体価を決定した。抗体を分析するために、まず精製された各抗原を96wellマイクロプレートに100ng/wellの濃度でコートした後、Bovine Serum Albumin(1%)で1時間ブロッキングした。マイクロプレートを洗浄した後、各ウェルに順次希釈血清を入れて2時間37℃で反応させた後、2次抗体として抗−マウスIgG−HRPを入れて1時間同一の条件で反応させる。洗浄の後、発色試薬を入れて20分間常温で反応させた後、ELISAリーダーを用いて450nmでOD値を測定した。抗体価は、陰性対照群のOD値の3倍に相当するOD値で示す抗体希釈倍数の逆数で定義した。
【0079】
2)細胞性免疫反応の分析
最終免疫の後、マウスから脾臓(spleen)を摘出して全体脾細胞(splenocyte)を分離および培養し、インターフェロン−γを分泌する脾細胞をELISPOT法で測定して細胞性免疫反応を確認した。
【0080】
3次免疫を行った2週後にそれぞれのマウスから分離した脾臓を細胞ストレーナー(cell strainer)に入れて破砕した後、RBC溶解バッファを用いて赤血球を完全に除去し、しかる後に、脾細胞のみを純水分離した。分離された脾細胞を完全培地(RPMI1640 mediumに1Xグルタミンと1X抗生物質を添加)で培養した。各抗原に特異的な免疫反応を観察するために、培養培地にコア抗原と全体表面抗原をそれぞれ1μg/mLの濃度で添加して抗原特異的免疫細胞のみを分化するように刺激した後、細胞性免疫反応の指標となるインターフェロン−γを分泌する細胞の数をELISPOT法で分析した(BD Biosciences)。
【0081】
3.2 体液性免疫反応に対する効果
組み換え全体表面抗原(L−HBsAg)と組み換えコア抗原とを混合した複合抗原ワクチンを投与した場合、組み換え全体表面抗原(L−HBsAg)を単独で使用した場合と比較して表面抗原に対する抗体形成が速く行われた(図9)。組み換えコア抗原を混合する場合、表面抗原に対する免疫反応を増加させる効果を示した。ところが、最終免疫後には、単一抗原ワクチンと複合抗原ワクチンが同じ抗体価を示した。
【0082】
3.3 細胞性免疫反応に対する効果
組み換え全体表面抗原(L−HBsAg)と組み換えコア抗原とを混合した複合抗原ワクチンを投与した場合、組み換え全体表面抗原(L−HBsAg)を単独で使用した場合、あるいは組み換えコア抗原を単独で免疫した場合と比較して高い細胞性免疫反応を示した(図10)。したがって、コア抗原を追加した場合より効率的に細胞性免疫反応を誘導することができた。したがって、細胞性免疫反応の誘導が必須的な治療ワクチンの場合、複合抗原ワクチンを使用することが適する。
【0083】
実施例4.コロイド金アジュバントの製造
4.1.コロイド金(Colloidal gold)の製造
Frens(Frens G, Controlled nucleation for the regulation of the particle size in monodisperse gold solutions. Nature Phys. Sci. 241:20, 1973)によって開発されたクエン酸ナトリウム法(Sodium citrate procedure)を基本としてコロイド金を製造した。塩化金(Gold chloride:HAuCl3HO)0.2gを10mLの蒸留水に溶かして2%の金ストック溶液(gold stock solution)を準備した。100mLの蒸留水を攪拌しながら加熱して沸かした。ここに2%の金ストック溶液1mLを入れて最終濃度0.02%の金溶液を作り、加熱と攪拌を約5分間持続した。10%クエン酸ナトリウム溶液を最終濃度が0.032〜0.036%となるように入れ、5〜10分間加熱と攪拌を持続した。この際、溶液は、初期には灰色を呈するが、益々紫色に変わり、1〜3分後には赤色を呈した。これを水浴に入れて冷やし、OD540とOD600-を測定した。OD540は粒子の数または金粒子の濃度を意味し、2〜4の値を示した。OD-600は粒子サイズ(particle size)または粒子の質(quality of particle)を意味し、0.55〜0.75の値を示した。製造されたコロイド金の粒子サイズは約10〜40nmであった。
【0084】
4.2.コロイド金コンジュゲート(Colloidal gold conjugate)の製造
製造されたコロイド金溶液に100mMの炭酸ソーダ一水和物(sodium carbonate monohydrate)(または別のバッファ)を添加して溶液をpHが7.5となるように滴定した後、コロイド金溶液を攪拌しながら溶液1mL(200μgのコロイド金を含む)当り20μgの牛血清アルブミン(Bovine Serum Albumin:BSA)または10μgのpreS抗原を添加した後、常温で15分間持続的に攪拌した。遠心分離の後、上澄液を除去し、滅菌したPBS(Phosphate Buffered Saline)バッファで3回洗浄し、吸着されていないBSAあるいはpreS抗原を除去した後、PBSに再び希釈して4℃に保管した。preSタンパク質がコートされたコロイド金コンジュゲートの電子顕微鏡写真を図11に示した(JEM1010、67.0k)。タンパク質の吸着度合いは、BSAまたはpreS抗原を吸着させた後、遠心分離し、上澄液に残っているタンパク質の量を定量して確認した。
【0085】
実施例5.コロイド金アジュバントの免疫反応誘導効果
5.1 免疫実験の条件および分析方法
(1)目的:アジュバントとして、コロイド金複合体の効能を確認するために、マウスに免疫し、誘導された免疫反応を分析した。
【0086】
(2)材料および方法
(a)実験動物:6週齢のC57BL/6雌マウス
(b)試験ワクチン
−試験ワクチンは、精製された組み換えコア抗原と組み換え全体表面抗原をミョウバンに吸着させて製造し、ドース当り各抗原0.5μgを使用した。また、ミョウバンに吸着されていない自由抗原0.5μgを200μgのコロイド金コンジュゲートと混合して使用した。
【0087】
(c)免疫グループおよび免疫条件
−免疫グループ
1.実験群1:PBS(Phosphate buffered saline)で免疫した陰性対照群
2.実験群2:ミョウバンに吸着した組み換え全体表面抗原と組み換えコア抗原で免疫
3.実験群3:ミョウバンに吸着していない組み換え全体表面抗原と組み換えコア抗原をコロイド金コンジュゲートと混合して免疫
−投与方法:各試験ワクチンを2週間隔で2回にわたって筋肉注射した。
【0088】
(d)免疫反応分析方法
1)体液性免疫反応の分析
実施例3で記述したように、ELISA法で体液性免疫反応を分析した。
【0089】
2)細胞性免疫反応の分析
2次免疫後2週以内に全てのマウスから脾臓を摘出して全体脾細胞を分離および培養し、細胞性免疫反応を確認した。それぞれのマウスから分離した脾臓を細胞ストレーナーに入れて破砕した後、RBC溶解バッファを用いて赤血球を完全に除去した後、脾細胞のみを純粋分離した。分離された脾細胞を完全培地(RPMI1640 mediumに1Xグルタミンと1X抗生物質を添加)で培養した。各抗原に特異的な免疫反応を観察するために、培養培地にコア抗原と全体表面抗原をそれぞれ1μg/mLの濃度で添加して抗原特異的免疫細胞のみを分化するように刺激した後、細胞から分泌されたサイトカイン(細胞性免疫反応の指標でインターフェロン−gを分析)をELISA方法で分析した(BD Biosciences)。
【0090】
5.2 コロイド金コンジュゲートのアジュバント効能確認
(1)体液性免疫反応に及ぶ影響
ワクチン抗原を投与した実験群(実験群2および3)は全て、ワクチンを与えていない陰性対照群(実験群1)と比較して、抗原特異的な抗体形成である抗−HBs抗原と抗−HBc抗体が誘導された。ところが、誘導された抗体は、ミョウバンをアジュバントとして使用した場合(実験群2)がコロイド金コンジュゲートをアジュバントとして使用した場合(実験群3)より高い抗体形成を示した(図12)。ミョウバンは、周知の如く、体液性免疫反応を強力に誘導することが可能なアジュバントであり、本特許で使用したコロイド金コンジュゲートも、体液性免疫反応を誘導することが可能な機能があることが確認された。ところが、治療ワクチン用アジュバントは細胞性免疫反応を誘導しなければならないので、2つのアジュバントによって誘導された細胞性免疫反応を比較した。
【0091】
(2)細胞性免疫反応に及ぶ影響
コロイド金コンジュゲートによって細胞性免疫反応が誘導されたかを確認するために、2次免疫の後、それぞれマウスから脾細胞を分離してコア抗原あるいは表面抗原特異的なインターフェロン−gの生産をELISA方法で確認した。ミョウバンをアジュバントとして使用した場合(実験群2)は、各抗原に対するインターフェロン−gの生産が、免疫していない対照群に比べて2.5倍増加したが、コロイド金コンジュゲートをアジュバントとして使用した場合にはこれよりさらに高かった(図13)。特に、表面抗原に特異的な細胞性免疫反応は、ミョウバンを使用したときより4倍さらに高かった。すなわち、B型肝炎ウイルス抗原に対する免疫反応がコロイド金コンジュゲートをアジュバントとして用いて免疫したとき、治療ワクチンに必要な細胞性免疫反応がよく誘導され、ウイルスの除去に必要なインターフェロン−gの生産が増加した。したがって、コロイド金コンジュゲートは、細胞性免疫反応を強力に誘導することができ、効果的な治療ワクチンの開発にアジュバントとして用いることができる。
【0092】
実施例6.治療ワクチンの免疫反応最適化
6.1 免疫実験の条件および分析方法
(1)目的:体液性免疫反応と細胞性免疫反応を全て最大に誘導するために、治療ワクチンの組成を比較した。
【0093】
(2)材料および方法
(a)実験動物:6週齢のC57BL/6雌マウス
(b)試験ワクチン
−精製された組み換えコア抗原と組み換え全体表面抗原をミョウバンに吸着してドース当り各抗原0.5μgを使用した。また、ミョウバンに吸着された各抗原0.5μgと、BSAでコートされたコロイド金コンジュゲート200μgととを混合して免疫した。
【0094】
(c)免疫グループおよび免疫条件
−免疫グループ
1.実験群1:PBSで免疫した陰性対照群
2.実験群2:ミョウバンに吸着した組み換え全体表面抗原と組み換えコア抗原で免疫
3.実験群3:ミョウバンに吸着した組み換え全体表面抗原と組み換えコア抗原をコロイド金コンジュゲートと混合して免疫
−投与方法:各試験ワクチンを2週間隔で2回にわたって筋肉注射した。
【0095】
(d)免疫反応分析方法
試験ワクチンによって誘導された体液性免疫反応および細胞性免疫反応は、実施例3および5に提示された方法で分析した。
【0096】
6.2 誘導された免疫反応の分析
(1)体液性免疫反応に及ぶ影響
ワクチン抗原を投与した実験群(実験群2、3)は、ワクチンを与えていない陰性対照群(実験群1)と比較して抗原特異的な抗体形成が誘導された。この際、誘導された抗体は、ミョウバンに吸着された試験ワクチンのみを免疫した場合(実験群2)と、コロイド金コンジュゲートをアジュバントと混合して免疫した場合(実験群3)との間にはあまり大きい差異がなかった(図14)。すなわち、この実験結果、ミョウバンとコロイド金コンジュゲートを共に使用して体液性免疫反応を高めることができた。
【0097】
(2)細胞性免疫反応に及ぶ影響
コロイド金コンジュゲートが細胞性免疫反応を誘導したかを確認するために、2次免疫の後、各マウスから脾細胞を分離してインターフェロン−gの生産をELISA方法で確認した。
【0098】
ミョウバンに吸着したワクチン抗原を免疫した場合(実験群2)、各抗原に対するインターフェロン−gの生産が陰性対照群と比較して約2倍増加したが、コロイド金コンジュゲートを抗原と共に免疫した場合(実験群3)には、コア抗原に対するインターフェロン−gの生産は2.5倍増加し、表面抗原に対するインターフェロン−gの生産は4.5倍さらに増加した(図15)。これより、ミョウバンは体液性免疫反応を強力に誘導するアジュバントであり、コロイド金コンジュゲートは実施例4のように細胞性免疫反応を強力に誘導することが可能なアジュバントであることが確認された。したがって、ワクチン抗原をミョウバンに吸着した後、コロイド金コンジュゲートと共に免疫すると、体液性免疫反応と細胞性免疫反応を全て最適化することが可能な治療ワクチンの開発が可能であろうと思われる。
【0099】
実施例7.形質転換マウスを用いた試験ワクチンの効能確認(1)
7.1 免疫実験の条件および分析方法
(1)目的:正常マウスで確立された治療ワクチンの組成を形質転換マウス(HBsAg/HLA−A2)を用いて治療ワクチンの効能を分析した。
【0100】
(2)材料および方法
(a)実験動物
6週齢のHBsAg/HLA−A2形質転換雌マウスを使用した(Loirat D et al HBsAg/HLA-A2 transgenic mice : a model for T cell tolerance to hepatitis B surface antigen in chronic hepatitis B virus infection International Immunology 15 : 1125-1136, 2003)。この動物モデルは、HBV表面抗原(HBsAg)遺伝子がトランスジェニックされて持続的に発現し、血液内に表面抗原からなるウイルス様粒子を分泌する。また、トランスジェニックされた表面抗原遺伝子を自体遺伝子として認識し、これに対する免疫反応を誘導せず免疫寛容状態を示す。したがって、このモデルはHBV感染状態でこれに対する十分な免疫反応を誘導することができないため、ウイルスを除去することができず、感染状態が持続される慢性肝炎患者と類似のモデルである。
【0101】
(b)ワクチン抗原およびアジュバント
精製された組み換えコア抗原と組み換え全体表面抗原をミョウバンに吸着させてワクチン抗原として使用し、治療ワクチン用アジュバントとして、BSAがコートされたコロイド金コンジュゲートを使用した。
【0102】
(c)免疫グループおよび条件
−免疫グループ
1.実験群1:PBS(Phosphate buffered saline)を免疫した陰性対照群
2.実験群2:ミョウバンに吸着した組み換え全体表面抗原と組み換えコア抗原で免疫
3.実験群3:ミョウバンに吸着した組み換え全体表面抗原と組み換えコア抗原をコロイド金コンジュゲートと混合して免疫
−投与方法:各試験ワクチンを2週間隔で3回にわたって筋肉注射した。
【0103】
(d)血清内のウイルス様粒子の分析
免疫前と3次免疫後に血清を分離し、血清内の表面抗原(HBsAg)からなるウイルス様粒子の量をGenedia HBsAg ELISA kit 3.0(緑十字)を用いて分析した。
【0104】
(e)体液性免疫反応の分析
免疫前と3次免疫後に血清を分離し、抗原特異的な抗体の生成を実施例4に提示された方法によって分析した。また、誘導された抗体のサブタイプを決定してIgG2aとIgG1の比率を決定した。
【0105】
(f)細胞性免疫反応の分析
実施例4に提示された方法で脾細胞を分離、培養することにより、細胞性免疫反応の指標であるインターフェロン−gが誘導されることをELISA法とELISPOT法で分析した。
【0106】
(g)肝におけるインターフェロン−gと表面抗原遺伝子の発現分析
マウスの肝から全体RNAを抽出して遺伝子の発現度合いをRT−PCR法によって分析した。Total RNAはRNeasy Mini kit(Qiagen)を用いて分離し、次のプライマーとOne−step RT−PCR kit(Qiagen)を用いて表面抗原遺伝子(配列番号9、10を使用)およびインターフェロン−g遺伝子(配列番号11、12を使用)の発現度合いを確認した。この際、β−actin遺伝子(配列番号13、14を使用)の発現度合いを陰性対照群として使用した。
【0107】
S−(F) 5’−ATG GAG AGC ACA TCA GG−3’(配列番号9)
S−(R) 5’−TTA AAT GTA TAC CCT AAG−3’(配列番号10)
INF−γ(F) 5’−AGC GGC TGA CTG AAC TCA GAT TGT AG−3’(配列番号11)
INF−γ(R) 5’−GTC ACA GTT TTC AGC TGT ATA GGG−3’(配列番号12)
β−actin(F) 5’−TCC TGT GGC ATC CAT GAA AC−3’(配列番号13)
β−actin(R) 5’−CTT CGT GAA CGC CAC GTG C−3’(配列番号14)
7.2 コロイド金コンジュゲートの治療ワクチン用アジュバント効能確認
1)免疫寛容の解消
使用された形質転換マウスモデルは、表面抗原遺伝子を自体遺伝子として認識し、これに対する免疫反応を誘導せず免疫寛容状態を示す。ここに治療ワクチンを投与した結果、表面抗原に対する免疫寛容を解消することにより、体液性免疫反応および細胞性免疫反応が誘導された。
【0108】
(a)体液性免疫反応の誘導
免疫前と3次免疫後に分離した血清を用いて表面抗原に対する抗体生成の度合いを確認した。陰性対照群(実験群1)では、血液内に抗原の濃度が高く維持されるにも拘らず、表面抗原に対する抗体は全く現れなかった。ワクチン抗原が投与された場合(実験群2および実験群3)、表面抗原に対する免疫寛容が解消されて表面抗原に対する抗体が生成されたことを確認することができた。BSAがコートされたコロイド金コンジュゲートをアジュバントとして使用した場合(実験群3)、ミョウバンに吸着したワクチン抗原のみを免疫した場合(実験群2)に比べて、誘導された抗体がやや低かったが、あまり大きい差異はなかった(図16)。ところが、誘導された抗体のイソタイプ(isotype)を決定してIgG2aとIgG1間の比率を比較した結果、コロイド金コンジュゲートをアジュバントとして使用した実験群3が、ミョウバンのみを使用した実験群2に比べてさらに高かった(図17)。すなわち、コロイド金コンジュゲートをアジュバントとして使用すると、免疫反応がTh1側に誘導されることが分かった。
【0109】
(b)細胞性免疫反応の誘導
ウイルスを除去するためには、強い細胞性免疫反応が必須的であると知られている。したがって、治療ワクチンが免疫寛容を解消し、表面抗原に特異的な細胞性免疫反応を誘導することができるかを確認するために、免疫の後に脾細胞を分離して、細胞性免疫反応の指標であるインターフェロン−gの生成をELISPOT法とELISA法で比較した。正常マウスを使用した実施例5と同様に、遺伝子操作マウスを使用した動物免疫実験においても、コロイド金コンジュゲートをアジュバントとして用いた実験群3で高い細胞性免疫反応が誘導された(図18のAおよびB)。
【0110】
2)血中の表面抗原(HBsAg)からなるウイルス様粒子の減少
免疫前と免疫後の血清を分離して、血液内の表面抗原(HBsAg)からなるウイルス様粒子の量を分析した。既に報告したように、陰性対照群では血液内のウイルス様粒子の量が約40%程度自然的に減少した。ところが、治療ワクチンを免疫した場合には、ウイルス様粒子の量が急激に減少した。また、ミョウバンに吸着したワクチン抗原のみを免疫した場合(実験群2)よりコロイド金コンジュゲートを共に免疫した場合(実験群3)、3次免疫の後に最も低いウイルス様粒子の量が観察された(図19)。ミョウバンに吸着したワクチン抗原のみを免疫した場合(実験群2)、一時的な抗原の減少を示したが、ウイルス感染細胞を除去するための細胞性免疫反応を誘導することができないので、ウイルスの完全な除去が難しいだろうと思われる。
【0111】
3)肝における細胞性免疫反応によるウイルス遺伝子発現の減少
B型肝炎ウイルスに感染した肝細胞からウイルスを除去するためには、インターフェロン−gを分泌し、細胞溶解活性(cytolytic activity)を持つ免疫細胞が肝に移動してウイルス遺伝子の転写を抑制し、あるいは感染細胞を直接破壊する過程が必要である。したがって、抗原特異的な細胞性免疫反応が実際マウスの肝でも起こるかを確認するために、マウスの肝から全体RNAを抽出してインターフェロン−g遺伝子の発現度合いをRT−PCR法で分析した。対照群(実験群1)と実験群2では、インターフェロン−g遺伝子の発現率が低かったが、コロイド金コンジュゲートを使用した実験群3ではインターフェロン−g遺伝子が約3〜4倍高く発現することを確認することができた(図20)。また、生成されたインターフェロン−gによって肝細胞内のウイルス遺伝子、すなわち表面抗原遺伝子の発現が抑制されるかを確認するために同一の方法で表現抗原遺伝子の発現を比較した。対照群(実験群1)およびミョウバンに吸着された抗原のみを免疫した実験群2では表面抗原遺伝子の発現が高く維持されたが、実験群3では表面抗原遺伝子の発現が抑制されることを確認することができた(図20)。
【0112】
本発明の治療ワクチンは、B型肝炎ウイルスの抗原に対して免疫寛容を示す個体で免疫寛容を克服し、体液性免疫反応および細胞性免疫反応を誘導することができた。特に、アジュバントとして使用したコロイド金によって誘導された強力な細胞性免疫反応によって、肝細胞におけるウイルス遺伝子の発現が抑制され且つ血液内のウイルス様粒子が除去されるということを確認した。したがって、コロイド金をアジュバントとして使用した本発明の治療ワクチンは、慢性肝炎患者への投与の際に免疫寛容を解消して抗原特異的な免疫反応を誘導し、ウイルスを除去することができるという効能があるだろうと思われる。
【0113】
実施例8.形質転換マウスを用いた試験ワクチンの効能確認(2)
8.1 免疫実験の条件および分析方法
治療ワクチン用アジュバントとして、HBV表面抗原タンパク質の一部であるpreSタンパク質でコートされたコロイド金コンジュゲートを使用した。実験動物、免疫グループおよび分析方法などは実施例7と同一であった。
【0114】
8.2 preSでコートされたコロイド金コンジュゲートの治療ワクチン用アジュバント効能の確認
1)免疫寛容の解消
preSでコートされたコロイド金コンジュゲートを治療ワクチン用アジュバントとして使用した場合にも、BSAでコートされたコロイド金コンジュゲートを使用した実施例6と同様に免疫寛容が解消され、体液性免疫反応および細胞性免疫反応が誘導された。
【0115】
(a)体液性免疫反応の誘導
免疫前と3次免疫後に分離した血清を用いて、表面抗原に対する抗体生成の度合いを確認した。陰性対照群(実験群1)では、血液内に抗原の濃度が高く維持されるにも拘らず、表面抗原に対する抗体は全く現れなかった。ワクチン抗原が投与された場合(実験群2および実験群3)、表面抗原に対する免疫寛容が解消されて表面抗原に対する抗体が生成されたことを確認することができた。BSAがコートされたコロイド金コンジュゲートをアジュバントとして使用した場合(実験群3)、ミョウバンに吸着したワクチン抗原のみを免疫した場合(実験群2)と比較したとき、誘導された抗体の量がやや低かったが、あまり大きい差異はなかった(図21)。ところが、誘導された抗体のイソタイプを決定してIgG2aとIgG1間の比率を比較した結果、コロイド金コンジュゲートをアジュバントとして使用した実験群3がミョウバンのみを使用した実験群2に比べてさらに高かった(図22)。すなわち、コロイド金コンジュゲートをアジュバントとして使用すると、免疫反応がTh1側に誘導されることが分かった。
【0116】
(b)細胞性免疫反応の誘導
ウイルスを除去するためには、強い細胞性免疫反応が必須的であると知られている。したがって、治療ワクチンが免疫寛容を解消し、表面抗原に特異的な細胞性免疫反応を誘導することができるかを確認するために、免疫後に脾細胞を分離して、細胞性免疫反応の指標であるインターフェロン−gの生成をELISPOT法とELISA法で比較した。正常マウスを使用した実施例5と同様に、遺伝子操作マウスを使用した動物免疫実験においても、コロイド金コンジュゲートをアジュバントとして使用した実験群3で高い細胞性免疫反応が誘導された(図23のAおよびB)。
【0117】
2)血中の表面抗原(HBsAg)からなるウイルス様粒子の減少
免疫前と3次免疫後に血清を分離し、血液内の表面抗原(HBsAg)からなるウイルス様粒子の量を分析した。既に報告されたように、陰性対照群では血液内のウイルス様粒子の量が自然的に減少した。ところが、治療ワクチンを免疫した場合にはウイルス様粒子の量が急激に減少した。また、ミョウバンに吸着したワクチン抗原のみを免疫した場合(実験群2)よりコロイド金コンジュゲートを共に免疫した場合(実験群3)、3次免疫の後に最も低いウイルス様粒子の量が観察された(図24)。ミョウバンに吸着したワクチン抗原のみを免疫した場合(実験群2)、一時的な抗原の減少を示したが、細胞性免疫反応を誘導することができないので、ウイルスの完全な除去が難しいものと思われる。
【産業上の利用可能性】
【0118】
上述したように、本発明は、B型肝炎ウイルスのpreS1、preS2およびS抗原からなる全体表面抗原(L−HBsAg)を含むHBVワクチン、および前記全体表面抗原と組み換えコア抗原を含むHBV複合抗原ワクチンを提示した。これらのワクチンが免疫補助剤としてコロイド金をさらに含む場合、強力な細胞性免疫を誘発してB型肝炎ウイルスの治療用ワクチンとして有用に使用できる。
【受託番号】
【0119】
KCTC 11058BP

【特許請求の範囲】
【請求項1】
B型肝炎ウイルス(HBV)の3種の表面タンパク質(Lタンパク質、Mタンパク質およびSタンパク質)から構成され、preS1およびpresSからなるpreS抗原が、S抗原間の結合によって形成される粒子の表面に位置した、HBVの組み換え全体表面抗原(L−HBsAg)およびHBVのコア抗原を含むHBVワクチン。
【請求項2】
HBVのコア抗原はHBVのコア抗原をコードするヌクレオチドを含む組み換え発現ベクターを大腸菌に形質転換して培養することにより得られることを特徴とする、請求項1に記載のHBVワクチン。
【請求項3】
HBVのコア抗原をコードするヌクレオチドは配列番号6の塩基配列を有することを特徴とする、請求項2に記載のHBVワクチン。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のワクチンと免疫補助剤を含む、HBVワクチン組成物。
【請求項5】
免疫補助剤がミョウバン(alum)、コロイド金、またはこれらの両方ともであることを特徴とする、請求項4に記載のHBVワクチン組成物。
【請求項6】
免疫補助剤がミョウバンおよびコロイド金を全て含むことを特徴とする、請求項4に記載のHBVワクチン組成物。
【請求項7】
ワクチンが治療用ワクチンであることを特徴とする、請求項6に記載のHBVワクチン組成物。
【請求項8】
HBVの全体外皮遺伝子のコード領域およびポリアデニル化部位を含んだ3’−UTR全体ヌクレオチドをpSGMベクター(受託番号KCCM10202)に挿入することにより製造される、HBVの3種の表面タンパク質(Lタンパク質、Mタンパク質およびSタンパク質)を同時発現する組み換え発現ベクター。
【請求項9】
HBVの全体外皮遺伝子のコード領域およびポリアデニル化部位を含んだ3’−UTR全体ヌクレオチドは配列番号1の塩基配列を有することを特徴とする、請求項8に記載の組み換え発現ベクター。
【請求項10】
請求項8の組み換え発現ベクターで形質導入された細胞。
【請求項11】
受託番号KCTC 11058BPであることを特徴とする、請求項10に記載の形質導入細胞。
【請求項12】
下記段階を含むHBVワクチンの製造方法:
1)HBVの全体外皮遺伝子のコード領域およびポリアデニル化部位を含んだ3’−UTR全体ヌクレオチドをpMSGベクター(受託番号KCCM 10202ベクター)に導入する段階、
2)段階1)で製造された発現ベクターを動物細胞に形質導入する段階、および
3)形質導入された動物細胞を培養して組み換え全体表面抗原(L−HBsAg)タンパク質を得る段階。
【請求項13】
段階1)のポリヌクレオチドは配列番号1の塩基配列を有することを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記動物細胞がCHO細胞であることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
段階3)の形質導入された動物細胞が受託番号KCTC 11058BPの形質転換体であることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
4)得られた全体表面抗原タンパク質を免疫補助剤と混合する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項17】
免疫補助剤がミョウバン、コロイド金、またはこれらの両方ともであることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
下記段階をさらに含むことを特徴とする、請求項12に記載の方法:
4)HBVコア抗原タンパク質をコードするポリヌクレオチドを発現ベクターに導入する段階、
5)段階4)で製造された発現ベクターを宿主細胞に形質導入する段階、および
6)形質導入された宿主細胞を培養して組み換えHBVコアタンパク質を得る段階。
【請求項19】
段階6)で得たHBVコア抗原タンパク質を、段階3)で得たHBV全体表面抗原タンパク質と混合する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項18に記載のHBVワクチンの製造方法。
【請求項20】
段階4)のポリヌクレオチドは配列番号5のアミノ酸配列を有するHBVのコア抗原を暗号化するポリヌクレオチドであることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
段階4)の宿主細胞が原核細胞であることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
前記原核細胞がE.coliであることを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
混合した抗原タンパク質を免疫補助剤と混合する段階をさらに含むことを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
免疫補助剤がミョウバン、コロイド金、またはこれらの両方ともであることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
請求項10または11の細胞を培養する段階を含む、Lタンパク質、Mタンパク質およびSタンパク質からなる組み換えHBV全体表面抗原を製造する方法。
【請求項26】
請求項25の方法で製造された組み換えHBV全体表面抗原と組み換えHBVコア抗原とを混合する段階を含む、HBVワクチンの製造方法。
【請求項27】
前記Lタンパク質、Mタンパク質およびSタンパク質は一つの発現ベクターから同時に発現することを特徴とする、請求項1に記載のHBVワクチン。
【請求項28】
前記発現ベクターは、HBVの全体外皮遺伝子のコード領域およびポリアデニル化部位を含んだ3’−UTR全体ヌクレオチドをpMSGベクター(受託番号KCCM 10202)に挿入することにより製造される、請求項27に記載のHBVワクチン。
【請求項29】
HBVの全体外皮遺伝子のコード領域およびポリアデニル化部位を含んだ3’−UTR全体ヌクレオチドは配列番号1の塩基配列を有することを特徴とする、請求項28に記載のHBVワクチン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公表番号】特表2010−516807(P2010−516807A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−548151(P2009−548151)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【国際出願番号】PCT/KR2008/000518
【国際公開番号】WO2008/093976
【国際公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(509215592)トゥビエル カンパニー,リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】DOBEEL CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】406−407,Byucksan Technopia I,434−6,Sangdaewon−dong,Jungwon−gu,Seongnam−si,Gyeonggi−do 462−716,Republic of Korea
【Fターム(参考)】