説明

HCV感染の治療のためのPPARアゴニスト

本発明は、哺乳動物、特にヒトでのC型肝炎ウイルス(HCV)による感染の治療又は予防のための方法及び組成物におけるPPARαアゴニストの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物、特にヒトの治療処置において有用な方法及び組成物に関する。特に、本発明は、C型肝炎ウイルス(HCV)による感染の治療又は予防のための方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
HCVは、世界の人口の約3パーセントが感染する主要なヒト病原体であり、肝臓病の主要原因である。HCV感染の顕著な特徴は、慢性肝炎、肝硬変及び肝細胞癌などの肝臓病に至る慢性状態への傾向である。HCV感染はまた、混合型クリオグロブリン血症、Bリンパ球増殖性疾患にも関係付けられている。
【0003】
HCV感染の機序を理解する上で及び適切な治療を設計し、試験する上での主な障害は、HCV細胞受容体及びそれらがウイルスの結合と細胞への進入を仲介する機構についての知識が欠如していることである。少なくとも3つの異なる受容体、すなわち低密度リポタンパク質(LDL)受容体(Agnelloら、PNAS,1999,96,12766−71);CD81受容体(Pileriら、Science,1998,282,938−41);及びB型クラスIスカベンジャー受容体(SRB1)(国際公開公報第WO/03/040726号、Scarselliら、EMBO,2002,12,58017−25及びBartoschら、J.Biol.Chem.,2003,278,41624−30)が関係付けられてきた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ペルオキシソーム増殖因子受容体(PPAR)は核内受容体スーパーファミリーの一部を形成し、脂質代謝の制御に関与する。これらはα、β、γ及びδサブタイプとして存在する(総説については、DesvergneとWahli,Endocrine Reviews,1999,20,649−88参照)。PPARの活性化は、脂肪酸代謝、炎症反応、アテローム性動脈硬化症及び細胞周期の制御などの多様な現象に結びつけられてきた。しかし、これまでPPAR活性とHCV感染の結びつきについての開示は存在しなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、哺乳動物におけるHCV感染の治療又は予防のための薬剤を製造するためのPPARαアゴニストの使用が提供される。通常、哺乳動物被験者はヒトである。
【0006】
さらに、哺乳動物被験者への治療有効量のPPARαアゴニストの投与を含む、哺乳動物被験者においてHCV感染を治療する又は予防する方法が提供される。
【0007】
PPARαアゴニズムは、おそらくSRB1の発現及び/又は細胞表面提示の低下を通じて、HCVの肝細胞への侵入を阻止する作用を有すると考えられる。このような作用は、第一にHCVによる感染を予防する上で及びさらなる細胞が感染するのを防ぐことによって既存の感染の進行を停止させる上で有用である。そこで本発明によれば、PPARαアゴニストを、HCV感染を起こす危険度の高い被験者(予防)又は既にHCV感染を生じた被験者(積極的治療)に有用に投与し得る。
【0008】
本発明のさらなる側面によれば、細胞をPPARαアゴニストと接触させることを含む、細胞へのHCVの侵入を阻止する方法が提供される。好ましくは、前記細胞は肝細胞である。
【0009】
原則として、PPARαアゴニスト活性を有することが公知の又はPPARαアゴニスト活性を有することが発見されたいかなる化合物も本発明において使用し得るが、経口投与に適する化合物が好ましい。PPARαアゴニスト活性を有する化合物は、Bergerら、J.Biol.Chem.,1999,274,6718−25に述べられている細胞ベースのトランス活性化アッセイなどの、公開されているアッセイ方法を用いて特定し得る。適切な化合物は、選択的PPARαアゴニストであるもの及びα受容体の活性と1又はそれ以上の他のサブタイプの活性を併せ持つもの、例えばPPARα/γデュアルアゴニストを含む。公知の選択的PPARαアゴニストは、フェノフィブレート、ベクロフィブレート、ベザフィブレート、シプロフィブレート、クロフィブレート、エトフィブレート、他のフィブリン酸誘導体、ゲンカルベン(gemcarbene)、ゲンフィブロジル、GW7647、BM170744、LY518674、Atromid(商標)、Lopid(商標)及びTricor(商標)、並びにAdamsら、Bioorg.Med.Chem.Lett.,2003,13,3185−90の中で開示されている化合物を含む。PPARα/γデュアルアゴニストの例は、KRP−297(MK−0767)、ムラグリタザール(BMS−298585)、ファルグリタザル、ラガグリタザル、テサグリタザル(AZ−242)、JT−501、GW−2570、GI−262579、CLX−0940、GW−1536、GW−1929、GW−2433、L−796449、LR−90、SB−219994、LY−578、LY−4655608、LSN−862、LY−510929及びLY−929、並びにDesaiら、Bioorg.Med.Chem.Lett.,2003,13,3541−4及びDesaiら、Bioorg.Med.Chem.Lett.,2003,13,2795の中で開示されている化合物を含む。選択的PPARαアゴニスト又はPPARα/γデュアルアゴニストのさらなる開示は、国際公開公報第WO97/28115号、国際公開公報第WO00/78312号、国際公開公報第WO00/78313号、国際公開公報第WO00/196321号、国際公開公報第WO00/181327号、国際公開公報第WO00/134148号、国際公開公報第WO02/064094号、国際公開公報第WO02/060434号、国際公開公報第WO02/26729号、国際公開公報第WO01/60807、欧州特許第1194147号、欧州特許第1194146号、国際公開公報第WO03/066581号及び国際公開公報第WO03/075911号に認められる。
【0010】
本発明における使用のための好ましい化合物は、フェノフィブレート、ベザフィブレート、シプロフィブレート、ゲンフィブロジル及びMK−0767を含む。
【0011】
PPARαアゴニストは、単独で又はHCV感染もしくはその症状の治療又は予防において有用であることが公知の1又はそれ以上の付加的治療薬と組み合わせて投与し得る。このような付加的治療薬の例は、インターフェロン−α、ポリエチレングリコール化インターフェロン−α、リバビリン、HCV NS3プロテアーゼ阻害因子、HCVポリメラーゼ阻害因子、抗HCV抗体及びHCVワクチンを含む。ここで使用する、「と組み合わせて」という表現は、PPARαアゴニストと付加的治療薬の両方の治療有効量を被験者に投与することを要求するが、これを実施する方法には制限を加えない。それ故、前記2つの種を被験者への同時投与のために単一投与形態中で組み合わせてもよく、又は被験者への同時又は逐次投与のために別々の投与形態中で提供してもよい。逐次投与は、時間的に近接しているか又は離れていてもよく、例えば1つの種を午前中に投与し、他方を夕方に投与し得る。別々の種を同じ頻度で又は異なる頻度で投与してもよく、例えば1つの種を1日1回投与し、他方を1日2回又はそれ以上投与し得る。別々の種を同じ経路によって又は異なる経路によって投与してもよく、例えば1つの種を経口的に投与し、他方を非経口的に投与し得るが、可能な場合は、両方の種の経口投与が好ましい。付加的治療薬がワクチン又は抗体であるときは、典型的には非経口的に、PPARαアゴニストとは別途に投与される。
【0012】
さらなる側面では、本発明は、同じか又は別個の医薬適合性の担体中に、PPARαアゴニスト、及びインターフェロン−α、ポリエチレングリコール化インターフェロン−α、リバビリン、HCV NS3プロテアーゼ阻害因子、HCVポリメラーゼ阻害因子、抗HCV抗体及びHCVワクチンから選択される1又はそれ以上の治療薬を含む、医薬組成物又はキットを提供する。別々に製剤された治療薬を含むキットは、典型的には、それらの治療薬の別々の投与についての指示書を含む。
【0013】
PPARαアゴニスト及び場合により付加的な治療薬は、典型的には、関連有効成分と医薬適合性の担体を含有する医薬組成物の形態で使用される。有効成分が酸性又は塩基性基を含む場合、前記成分は、遊離酸又は塩基の形態であるか又は医薬適合性の塩の形態であり得る。好ましくは、医薬組成物は、経口、非経口、鼻内、舌下又は直腸投与のため、又は吸入もしくはガス注入による投与のための、錠剤、丸剤、カプセル、粉末、顆粒、無菌非経口溶液又は懸濁液、定量エーロゾル又は液体スプレー、点滴剤、アンプル、経皮パッチ、自動注入装置又は坐薬などの単位投与形態である。本発明の化合物又は医薬適合性のその塩を含有する均質な予備処方組成物を形成するために、主有効成分を、典型的には、医薬担体、例えばトウモロコシデンプン、ラクトース、スクロース、ソルビトール、滑石、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム及びリン酸ニカルシウムなどの従来の錠剤化成分、又はゴム、分散剤、懸濁化剤又はモノオレイン酸ソルビタン及びポリエチレングリコールなどの界面活性剤、及び他の製薬希釈剤、例えば滅菌水と混合する。これらの予備処方製剤を均質と称するとき、組成物が錠剤、丸剤及びカプセルなどの等しく有効な単位投与形態に容易に細分され得るように、有効成分が組成物全体に均一に分散していることを意味する。この予備処方組成物を、次に、本発明の有効成分0.1から約500mgを含有する上述した種類の単位投与形態に細分する。典型的な単位投与形態は、1から100mg、例えば1、2、5、10、25、50又は100mgの有効成分を含有する。前記組成物の錠剤又は丸剤は、持続性作用の利点を与える投与形態を提供するために被覆する又はさもなければ配合することができる。例えば錠剤又は丸剤は、内側投与成分と外側投与成分を含有することができ、後者は前者の外側のエンベロープの形態である。前記2成分は、胃の中での崩壊に耐えるように働き、内側成分が無傷で十二指腸内へと通過する又は放出を遅延させることを可能にする、腸溶層によって分けることができる。様々な材料がこのような腸溶層又は腸溶剤皮のために使用でき、このような材料は、多くのポリマー酸及びポリマー酸とシェラック、セチルアルコール及び酢酸セルロースなどの物質との混合物を含む。
【0014】
経口的又は注射による投与のために本発明において有用な組成物を組み込み得る液体形態は、水溶液、液体又はゲル充填カプセル、適切に香味付けたシロップ、水性又は油性懸濁液、及び綿実油、ゴマ油又はヤシ油などの食用油で香味付けた乳剤、並びにエリキシル及び同様の製薬賦形剤を含む。水性懸濁液のための適切な分散剤又は懸濁化剤は、トラガカント、アカシア、アルギン酸塩、デキストラン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(ビニルピロリドン)又はゼラチンなどの合成及び天然ゴムを含む。
【0015】
HCV感染を治療する又は予防するために、PPARαアゴニストの適切な用量レベルは、他の治療(例えば脂質レベルの制御)のために使用されるときの該当化合物についての公表値と同様であるか、又は当業者に公知の方法によって決定され得る。典型的レベルは、活性化合物約0.01から250mg/kg体重/日、好ましくは約0.01から100mg/kg体重/日、より好ましくは約0.05から50mg/kg体重/日の範囲内である。いかなる適切な投与レジメンも使用でき、例えば1日1から4回使用できる。
【0016】
フェノフィブレートの適切な用量は、成人1日当り100から200mgである。
【0017】
(実施例)
【実施例1】
【0018】
フェノフィブリン酸による培養ヒト肝細胞のHCV感染の阻止
外科的肝切除からの単離ヒト肝細胞を3×10細胞/穴の密度で24穴マイクロプレートに接種した。細胞を24時間付着させて回収し、その後、培地を異なる濃度のフェノフィブリン酸(50μMと500μM)を含む新鮮培地と交換した。肝細胞を指示量のフェノフィブリン酸と共に24時間インキュベートし、その後、同じ量のフェノフィブリン酸とHCV慢性感染患者からの固定量(100μl)の感染ヒト血清を含む新鮮培地と交換した。細胞をウイルスと共に18時間インキュベートして感染させ、その後洗浄して、4日間インキュベートした。全RNAを抽出し、定量的RT−PCRによってウイルス複製を測定した。
【0019】
典型的には、感染から4日後に各穴当り10から10コピーのゲノムが検出される。測定されるウイルスRNAが能動的複製に由来することを確実にするために、ウイルスレプリカーゼの低分子量阻害因子を陽性対照として含めた。
【0020】
ウイルス複製を全RNAに関して定量的PCRによって測定し、HCVコピー数/350,000細胞として表した。実験は各々3穴ずつで実施し、値を標準偏差と共に示している。フェノフィブリン酸をDMSOに溶解し、50μMと500μMで試験した。アッセイにおけるDMSOの最終濃度は0.5%であり、それ故全ての対照感染(HCVレプリカーゼ阻害因子によって阻止されない)は0.5%DMSOの存在下で実施した。結果を図1に示しており、フェノフィブリン酸が感染性を90%まで低下させることは明らかである。
【実施例2】
【0021】
フェノフィブレート100mgを含有する硬ゼラチンカプセルは、HCV感染の治療のためにその必要のある60kgの成人患者に経口投与し得る。そのような投与は1日2回又は3回実施し得る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、培養ヒト肝細胞をフェノフィブリン酸の存在下と不在下でHCV感染患者からの血清と共にインキュベートしたとき検出されたHCV RNAのコピー数を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物におけるHCV感染の治療又は予防のための薬剤を製造するためのPPARαアゴニストの使用。
【請求項2】
哺乳動物被験者への治療有効量のPPARαアゴニストの投与を含む、哺乳動物被験者においてHCV感染を治療する又は予防する方法。
【請求項3】
PPARαアゴニストを、インターフェロン−α、ポリエチレングリコール化インターフェロン−α、リバビリン、HCV NS3プロテアーゼ阻害因子、HCVポリメラーゼ阻害因子、抗HCV抗体及びHCVワクチンから選択される1又はそれ以上の治療薬と組み合わせて投与する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記哺乳動物がヒトである、請求項1に記載の使用又は請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
細胞をPPARαアゴニストと接触させることを含む、細胞へのHCVの侵入を阻止する方法。
【請求項6】
前記細胞が肝細胞である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
インターフェロン−α、ポリエチレングリコール化インターフェロン−α、リバビリン、HCV NS3プロテアーゼ阻害因子、HCVポリメラーゼ阻害因子、抗HCV抗体及びHCVワクチンから選択される1又はそれ以上の治療薬と組み合わせてPPARαアゴニスト及び医薬適合性の担体を含有する医薬組成物。
【請求項8】
同時又は逐次投与のための、PPARαアゴニスト及びインターフェロン−α、ポリエチレングリコール化インターフェロン−α、リバビリン、HCV NS3プロテアーゼ阻害因子、HCVポリメラーゼ阻害因子、抗HCV抗体及びHCVワクチンから選択される1又はそれ以上の治療薬を含むキット。
【請求項9】
PPARαアゴニストが選択的PPARαアゴニストである、請求項1又は4に記載の使用、請求項2から6のいずれかに記載の方法、請求項7に記載の医薬組成物、又は請求項8に記載のキット。
【請求項10】
PPARαアゴニストがPPARα/γデュアルアゴニストである、請求項1又は4に記載の使用、請求項2から6のいずれかに記載の方法、請求項7に記載の医薬組成物、又は請求項8に記載のキット。
【請求項11】
PPARαアゴニストが、フェノフィブレート、ベザフィブレート、シプロフィブレート、ゲンフィブロジル又はMK−0767である、請求項1又は4に記載の使用、請求項2から6のいずれかに記載の方法、請求項7に記載の医薬組成物、又は請求項8に記載のキット。

【図1】
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【公表番号】特表2007−511568(P2007−511568A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−540315(P2006−540315)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【国際出願番号】PCT/EP2004/013067
【国際公開番号】WO2005/053670
【国際公開日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(501209427)イステイチユート・デイ・リチエルケ・デイ・ビオロジア・モレコラーレ・ピ・アンジエレツテイ・エツセ・ピー・アー (90)
【Fターム(参考)】