説明

HE−AACデコーダ及びMPEGサラウンドデコーダを用いてマルチチャネルオーディオ信号を復元する装置

【課題】MPEGサラウンドデコーダにおいて、ダウンミックスオーディオ信号の種類に応じて遅延を調整し、ダウンミックス信号とMPEGサラウンド付加情報信号との間の同期を制御すること。
【解決手段】MPEGサラウンド低電力デコーダを用いてマルチチャネルオーディオ信号の復元において、一般的なHE−AACデコーダから出力された複素数領域のQMF信号をダウンミックス信号として利用するとき、実数−複素数変換器で発生する遅延を補償する遅延手段と、HE−AACデコーダから出力された時間領域のダウンミックス信号とを利用するとき、QMF及びナイキストフィルタバンクの過程中に発生する遅延を補償するための空間パラメータを遅延する遅延手段とを備える。また、高品質モードのMPEGサラウンドデコーダを用いてマルチチャネルオーディオ信号の復元において、遅延端を用いて実数−複素数変換器で発生する遅延を補償する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MPEGサラウンドデコーダにおいて、ダウンミックスオーディオ信号の種類に応じて遅延を調整し、ダウンミックス信号とMPEGサラウンド付加情報(side information)信号との間の同期を制御する装置に関する。特に、本発明は、MPEGサラウンドデコーダにおいて、HE−AACで符号化されたダウンミックス信号をQMF領域ではない時間領域の信号を利用するとき、実数QMF領域に接続するときと、複素数QMF領域で接続するときとの異なった遅延のため、HE−AACデコーダとMPEGサラウンドデコーダとの間の同期がずれてしまう現象を、遅延手段を介して相殺することにより、窮極的にMPEGサラウンドデコーダのマルチチャネルのオーディオ出力信号の同期を維持する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マルチチャネルオーディオ信号をダウンミックス信号及び付加情報で圧縮する技術であるMPEGサラウンド技術は、エンコーダから伝達されたダウンミックス信号及び付加情報ストリームを高品質と低電力といった2種類の方法でデコードを具現し得る。高品質のMPEGサラウンドデコーダは、残余信号及び時間処理(temporal processing:TP)ツールを使用して高音質を提供するが、高い複雑度を要求するモードである。これに比べ、低電力のMPEGサラウンドデコーダは、QMF(Quadrature Mirror Filter)の演算を実数演算に変更するなどの方法により複雑度を減少させることで、音質は多少劣化するものの、携帯電話のような低電力端末で使用するためのモードである。
【0003】
MPEGサラウンドデコーダは、AAC(Advanced Audio Coding)またはHE−AAC(High−Efficiency Advanced Audio Coding)のような一般的なモノ/ステレオオーディオ符号化器で圧縮されたダウンミックス信号を付加情報ストリームを用いてマルチチャネルオーディオ信号を復元する。このとき、使われる付加情報ストリームは、周波数の帯域別に提供されることから、ダウンミックス信号をQMF及びナイキストフィルタ(nyquist filter)バンクで構成されたハイブリッドフィルタバンクを用いて周波数帯域に変換する動作を行わなければならないため、これによる遅延が存在する。仮に、ダウンミックス信号がMPEGサラウンドのようにQMFで処理されたHE−AACの場合、復号化の過程中にQMF領域の信号を直ちに抽出し、MPEGサラウンド復号化器に適用し得ることから、フィルタによる遅延が防止できる。
【0004】
MPEGサラウンドの高品質デコーダは、図1に示すように、時間領域のダウンミックスのみならず、HE−AAC復号化過程において獲得し得るQMF周波数領域の信号も利用することができる。仮に、時間領域のダウンミックス信号を利用する場合は、QMF解析フィルタバンク101及びナイキスト解析フィルタバンク102を実行する過程において、704サンプルの遅延が発生する。そして、図2に示すようなマルチチャネルオーディオ信号の合成過程において、ナイキスト合成フィルタバンク201で0サンプルの遅延が発生し、QMF合成フィルタバンク202によって257サンプルの遅延が発生する。したがって、合わせて961サンプルの遅延が発生する。仮に、HE−AACで符号化されたダウンミックス信号を利用するときには、MPEGサラウンドの高品質デコーダのQMFフィルタとHE−AACデコーダのQMFフィルタとが同じであるため、HE−AACの復号過程において獲得し得るQMF領域の信号を直接利用することができ、ナイキストフィルタに必要な384サンプルの先読み(look−ahead)信号もHE−AACデコーダのSBR(Spectral Band Replication)のツールで既に使用可能であるため、フィルタ過程において遅延が生じない長所がある。
【0005】
しかし、HE−AACで符号化されたダウンミックス信号を時間領域においてMPEGサラウンドと結合するときは、HE−AACのQMF合成過程で発生する遅延(257サンプル)と、MPEGサラウンドの高品質デコーダのQMF及びナイキスト解析フィルタ過程で発生する遅延(704サンプル)とのことから、MPEGサラウンドの付加情報信号から抽出した空間パラメータを961サンプルの分だけ遅延させ、ダウンミックス信号のためのHE−AACデコーダとMPEGサラウンドの高品質デコーダとの間の同期を維持し、希望のマルチチャネルを復元する。
【0006】
参考文献「ISO/IEC JTC1/SC29/WG11 N8177、Study on Text of ISO/IEC FCD23003−1、MPEG Surround」、「Audio Engineering Society Convention Paper、presented at the 115th Convention、2003 October10−13、New York」、「Audio Engineering Society Convention Paper、presented at the 119th Convention、2005 October7−10、New York」などは、ここでの引用によって本明細書に統合されることとする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、MPEGサラウンドデコーダからHE−AACで符号化されたダウンミックス信号であって、QMF領域でない時間領域の信号を利用するとき、QMF実数領域に接続するときと、QMF複素数領域で接続するときとの異なった遅延のため、HE−AACデコーダとMPEGサラウンドデコーダとの間の同期がずれてしまう現象を、遅延手段を介して相殺することにより、窮極的にはMPEGサラウンドデコーダのマルチチャネルのオーディオ出力信号の同期を維持する装置及び方法を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の目的は、前述した目的に制限されず、言及されていない本発明のほかの目的及び長所は下記の説明によって理解され、本発明の実施形態によってさらに明らかに理解できるであろう。また、本発明の目的及び長所は、特許請求の範囲に示す手段及びその組み合わせによって実現されることを容易に理解できるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的を達成するための本発明は、実数QMF領域、複素数QMF領域、及び時間領域のうち、少なくとも1つのダウンミックス信号及び付加情報ビットストリームを用いてマルチチャネルオーディオ信号を生成するMPEGサラウンドデコーダであって、該MPEGサラウンドデコーダが、前記ダウンミックス信号の種類に応じて遅延を調整し、前記ダウンミックス信号と前記付加情報ビットストリームとの間の同期を合せることを一つの特徴とする。
【0010】
また、本発明は、実数QMF領域、複素数QMF領域、及び時間領域のうち、少なくとも1つのダウンミックス信号及び付加情報ビットストリームを用いてマルチチャネルオーディオ信号を生成する高品質モードMPEGサラウンドデコーダであって、低電力モードMPEGサラウンドデコーダの実数−複素数の変換において導入される遅延を補償するためにダウンミックス信号の経路でナイキスト解析フィルタの前に追加される遅延端を備えることを他の特徴とする。
【0011】
また、本発明は、実数QMF領域、複素数QMF領域、及び時間領域のうち、少なくとも1つのダウンミックス信号及び付加情報ビットストリームを用いてマルチチャネルオーディオ信号を生成するMPEGサラウンドデコード方法であって、前記時間領域のダウンミックス信号をQMF解析するステップと、該QMF解析ステップの出力信号または前記複素数QMF領域のダウンミックス信号に低電力モードの実数−複素数の変換において導入される遅延を適用するステップと、前記遅延された信号及びQMF残余入力信号にナイキスト解析を行うステップと、を含むことを更なる特徴とする。
【0012】
また、本発明は、マルチチャネルオーディオ信号を復元する装置であって、ダウンミックス信号ビットストリームをデコードし、実数QMF領域、複素数QMF領域、及び時間領域のうち、少なくとも1つのダウンミックス信号を出力するHE−AACデコーダと、付加情報ビットストリーム及び前記ダウンミックス信号を用いてマルチチャネルオーディオ信号を生成するMPEGサラウンドデコーダとを備え、該MPEGサラウンドデコーダが、前記HE−AACデコーダから出力されるダウンミックス信号の種類に応じて遅延を調整し、前記ダウンミックス信号と前記付加情報ビットストリームとの間の同期を合せることを更なる特徴とする。
【0013】
また、本発明は、マルチチャネルオーディオ信号を復元する装置であって、ダウンミックス信号ビットストリームをデコードし、実数QMF領域、複素数QMF領域、及び時間領域のうち、少なくとも1つのダウンミックス信号を出力するHE−AACデコーダと、付加情報ビットストリーム及び前記ダウンミックス信号を用いてマルチチャネルオーディオ信号を生成する高品質モードMPEGサラウンドデコーダとを備え、該高品質モードMPEGサラウンドデコーダが、低電力モードMPEGサラウンドデコーダの実数−複素数の変換において導入される遅延を補償するためにダウンミックス信号の経路においてナイキスト解析フィルタの前に追加される遅延端を備えることを更なる特徴とする。
【0014】
また、本発明は、マルチチャネルオーディオ信号を復元する装置であって、ダウンミックス信号ビットストリームをデコードし、実数QMF領域、複素数QMF領域、及び時間領域のうち、少なくとも1つのダウンミックス信号を出力するHE−AACデコーダと、付加情報ビットストリーム及び前記ダウンミックス信号を用いてマルチチャネルオーディオ信号を生成するMPEGサラウンドデコーダとを備え、該MPEGサラウンドデコーダは、前記時間領域のダウンミックス信号に対して実数QMF解析を行うQMF解析部と、前記実数QMF領域のダウンミックス信号を複素数QMF領域のダウンミックス信号に変換する実数−複素数の変換部と、前記実数−複素数の変換において導入される遅延を前記HE−AACデコーダから出力される前記複素数QMF領域のダウンミックス信号に対して適用する遅延端と、を備えることを更なる特徴とする。
【0015】
また、本発明は、実数QMF領域、複素数QMF領域、及び時間領域のうち、少なくとも1つのダウンミックス信号及び付加情報ビットストリームを用いてマルチチャネルオーディオ信号を生成するMPEGサラウンドデコーダであって、前記時間領域のダウンミックス信号に対して実数QMF解析を行うQMF解析部と、前記実数QMF領域のダウンミックス信号を複素数QMF領域のダウンミックス信号に変換する実数−複素数の変換部と、前記実数−複素数の変換において導入される遅延を前記前記複素数QMF領域のダウンミックス信号に対して適用する遅延端と、を備えることを更なる特徴とする。
【0016】
また、本発明は、マルチチャネルオーディオ信号を復元する方法であって、ダウンミックス信号ビットストリームをデコードし、実数QMF領域、複素数QMF領域、及び時間領域のうち、少なくとも1つのダウンミックス信号を出力するステップと、付加情報ビットストリーム及び前記ダウンミックス信号を用いてマルチチャネルオーディオ信号を生成するステップとを含み、該マルチチャネルオーディオ信号生成ステップが、前記ダウンミックス信号の種類に応じて遅延を調整し、前記ダウンミックス信号と前記付加情報ビットストリームとの間の同期を合せることを更なる特徴とする。
【0017】
また、本発明は、マルチチャネルオーディオ信号を復元する方法であって、ダウンミックス信号ビットストリームをデコードし、実数QMF領域、複素数QMF領域、及び時間領域のうち、少なくとも1つのダウンミックス信号を出力するステップと、付加情報ビットストリーム及び前記ダウンミックス信号を用いてマルチチャネルオーディオ信号を生成するステップとを含み、該マルチチャネルオーディオ信号生成ステップが、前記時間領域のダウンミックス信号に対して実数QMF解析を行う過程と、前記実数QMF領域のダウンミックス信号を複素数QMF領域のダウンミックス信号に変換する過程と、前記実数−複素数の変換において導入される遅延を前記複素数QMF領域のダウンミックス信号に対して適用する過程と、を含むことを更なる特徴とする。
【0018】
また、本発明は、HE−AACデコーダ及びMPEGサラウンド低電力デコーダを用いてマルチチャネルオーディオ信号を復元する装置であって、前記HE−AACデコーダから出力される実数領域のQMF信号を複素数領域のQMF信号に変換させる実数−複素数変換器と、前記HE−AACデコーダから出力される複素数領域のQMF信号に対し、前記実数−複素数変換器で発生する遅延を適用する遅延手段と、を備えることを更なる特徴とする。
【0019】
また、本発明は、HE−AACデコーダ及びMPEGサラウンド低電力デコーダを用いてマルチチャネルオーディオ信号を復元する装置であって、前記HE−AACデコーダから出力される時間領域のダウンミックス信号の空間パラメータに対し、QMF及びナイキストフィルタバンクで発生する遅延を適用する遅延手段を備えることを更なる特徴とする。
【0020】
また、本発明は、HE−AACデコーダ及びMPEGサラウンド低電力デコーダを用いてマルチチャネルオーディオ信号を復元する装置であって、前記HE−AACデコーダから出力される実数領域のQMF信号を複素数領域のQMF信号に変換させる実数−複素数変換器と、前記HE−AACデコーダから出力される複素数領域のQMF信号に対し、前記実数−複素数変換器で発生する遅延を適用する第1遅延手段と、前記HE−AACデコーダから出力される時間領域のダウンミックス信号の空間パラメータに対し、QMF及びナイキストフィルタバンクで発生する遅延を適用する第2遅延手段と、を備えることを更なる特徴とする。
【0021】
また、本発明は、HE−AACデコーダ及び高品質モードMPEGサラウンドデコーダを用いてマルチチャネルオーディオ信号を復元する装置であって、前記HE−AACデコーダから出力される複素数領域のQMF信号に対し、低電力MPEGサラウンドデコーダで利用される実数−複素数の変換過程で発生する遅延を適用する遅延端を備えることを更なる特徴とする。
【0022】
また、本発明は、HE−AACデコーダから出力されるダウンミックス信号及び付加情報ストリームを入力とし、マルチチャネルオーディオ信号を復元するMPEGサラウンドデコーダであって、前記HE−AACデコーダから出力される実数領域のQMF信号を複素数領域のQMF信号に変換させる実数−複素数変換器と、前記HE−AACデコーダから出力される複素数領域のQMF信号に対し、前記実数−複素数変換器で発生する遅延を適用する第1遅延手段と、を備えることを更なる特徴とする。
【0023】
また、本発明は、HE−AACデコーダから出力されるダウンミックス信号及び付加情報ストリームを入力とし、マルチチャネルオーディオ信号を復元する方法であって、前記HE−AACデコーダから出力される実数領域のQMF信号を複素数領域のQMF信号に変換させるステップと、前記HE−AACデコーダから出力される複素数領域のQMF信号に対し、前記実数−複素数の変換ステップで発生する遅延を適用するステップと、を含むことを更なる特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
以上で説明した本発明によると、HE−AACデコーダ及びMPEGサラウンドデコーダを用いてマルチチャネルオーディオ信号を復元するとき、HE−AACデコーダから出力されるダウンミックス信号を実数領域のQMF信号、複素数領域のQMF信号、及び時間領域信号に付加したとき、遅延端を追加することによってダウンミックス信号とMPEGサラウンドデコーダとの間の同期を維持し、希望のマルチチャネルオーディオ信号を復元することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】MPEGサラウンドの高品質デコーダのハイブリッド解析フィルタバンクの構造図である。
【図2】MPEGサラウンドの高品質デコーダのハイブリッド合成フィルタバンクの構造図である。
【図3】HE−AACデコーダ及びMPEGサラウンド低電力デコーダを利用したマルチチャネルオーディオ信号の合成過程を説明する図面である。
【図4】MPEGサラウンド低電力デコーダのハイブリッド解析フィルタバンク及び合成フィルタバンクの構造図である。
【図5】本発明において提案される遅延端を備えるMPEGサラウンド低電力デコーダのハイブリッド解析フィルタバンク及び合成フィルタバンクの構造図である。
【図6】本発明において提案される遅延端を備える高品質モードのMPEGサラウンドデコーダのハイブリッド解析フィルタバンク及び合成フィルタバンクの構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
前述した目的、特徴、及び長所は、添付の図面を参照して詳細に後述されている詳細な説明を介してさらに明確になり、それによって、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が本発明の技術的な思想を容易に実施することができるであろう。また、本発明を説明するにあたり、本発明と関連した公知技術に対する具体的な説明が本発明の要旨を不要に濁すと判断される場合は、その詳細な説明は省略する。以下、添付の図面を参照して本発明にかかる好ましい実施形態を詳説する。
【0027】
まず、図3は、HE−AACデコーダ及びMPEGサラウンド低電力デコーダを利用したマルチチャネルオーディオ信号の合成過程を説明する図面である。
【0028】
HE−AACデコーダ301は、ダウンミックス信号のビットストリームが入力され、モノ/ステレオ信号及びダウンミックス信号を出力する。HE−AACデコーダ301から出力されたダウンミックス信号は、付加情報ビットストリーム及びMPEGサラウンド低電力デコーダ302に入力され、MPEGサラウンド低電力デコーダ302は、マルチチャネルオーディオ信号を復元して出力する。
【0029】
ダウンミックス信号がHE−AACエンコーダを介して符号化され、MPEGサラウンドエンコーダを用いてマルチチャネルオーディオ信号から付加信号が抽出されたとき、ダウンミックス信号は、HE−AACデコーダ301を介して抽出され、マルチチャネルオーディオ信号は、MPEGサラウンド低電力デコーダ302を介して復元される。このとき、HE−AACデコーダ301から抽出されるダウンミックス信号は、低複雑度(low complexity)HE−AACデコーダの場合は、実数のQMF係数であり、一般的なHE−AACデコーダの場合は、複素数のQMF係数である。また、HE−AACデコーダ301から時間領域のダウンミックス信号を抽出して利用することもできる。
【0030】
図4は、MPEGサラウンド低電力デコーダのハイブリッド解析フィルタバンク及び合成フィルタバンクの構造図である。
【0031】
図示したように、MPEGサラウンド低電力デコーダを用いてマルチチャネルオーディオ信号を復元する端末において、時間領域のダウンミックス信号をMPEGサラウンド低電力デコーダに入力するとき、実数QMF解析フィルタバンク401及び合成フィルタバンク407、ナイキスト解析フィルタバンク403及び合成フィルタバンク405、実数−複素数変換器402及び複素数−実数変換器406による時間遅延を発生する。しかし、低複雑度HE−AACデコーダから実数QMF領域のダウンミックス信号を利用するときは、実数−複素数変換器402、及び複素数−実数変換器406による遅延のみを考慮すればよい。これは、QMF解析フィルタバンク401及びナイキスト合成フィルタバンク405による遅延は、HE−AACデコーダのSBRツールにおいても同じQMFフィルタを使用することから既に考慮されており、ナイキスト解析フィルタバンク403及び合成フィルタバンク405に必要な先読み情報もSBRツールで利用できることから、追加的な遅延を必要としないためである。そして、QMF残余信号のための遅延端404は、ダウンミックス信号が実数−複素数変換器402を通過する間に発生する遅延を合せることにより、ナイキスト解析フィルタバンク403に入力される信号などの同期を合せるために必要である。
【0032】
本発明は、実数QMF係数で伝達されるダウンミックス信号のみならず、複素数QMF係数、時間領域信号で伝達されるダウンミックス信号と、MPEGサラウンド低電力デコーダ(空間パラメータ)との同期を合せる方法を提供する。その過程を、図5を参照して説明する。
【0033】
同図は、本発明において提案される遅延端を備えるMPEGサラウンド低電力デコーダのハイブリッド解析フィルタバンク及び合成フィルタバンクの構造図である。
【0034】
一般的なHE−AACデコーダのQMF合成フィルタバンクの直前に抽出した複素数領域のQMF信号を、MPEGサラウンドのハイブリッドフィルタバンク構造に入力するときは、既に複素数QMF領域にダウンミックス信号が存在しているため、実数−複素数変換器503を経由する必要がない。したがって、複素数QMF領域のダウンミックス信号をナイキスト解析フィルタバンク504に直接入力すればよい。ただし、時間領域または実数QMF領域のダウンミックス信号が、実数−複素数変換器503を通過する過程で発生する遅延を補償するために、追加的な遅延端505が必要である。もちろん、実数QMF領域のダウンミックス信号を利用するように、QMF解析フィルタバンク502及び合成フィルタバンク509と、ナイキスト解析フィルタバンク504及び合成フィルタバンク507とによる遅延は、HE−AACデコーダで考慮しているため、これによる追加的な遅延は発生しない。
【0035】
そして、HE−AACで符号化された時間領域のダウンミックス信号を、MPEGサラウンド低電力デコーダと結合するときは、HE−AAC QMF合成フィルタバンク過程で発生する遅延と、MPEGサラウンド低電力デコーダの実数QMF解析フィルタバンク502及びナイキスト解析フィルタバンク504の過程で発生する遅延と、実数−複素数変換器503により発生する遅延とが合算されたものと同じサンプルの分だけの遅延をMPEGサラウンドの付加情報信号から抽出した空間パラメータに適用する遅延端501を追加し、ダウンミックス信号のためのHE−AACデコーダとMPEGサラウンド低電力デコーダとの間の同期を維持させる。
【0036】
図6は、本発明において提案される遅延端を備える高品質モードのMPEGサラウンドデコーダのハイブリッド解析フィルタバンク及び合成フィルタバンクの構造図である。図示したように、実数領域のダウンミックス信号がQMF解析フィルタバンク601を経由して遅延端602に入力され、複素数領域のダウンミックス信号は直ちに遅延端602に入力される。遅延端602の出力は、QMF残余入力信号と共にナイキスト解析フィルタバンク603に入力され、ナイキスト解析フィルタバンク603は、ハイブリッドサブバンド領域の信号を出力する。
【0037】
前述したように、HE−AACデコーダと低電力モードのMPEGサラウンドデコーダとが接続されたとき、複素数領域のQMF信号に対して遅延端505が追加される過程を、高品質モードにおいても追加する。これは、低電力モードのMPEGサラウンドデコーダの実数−複素数変換器による遅延を高品質モードのMPEGサラウンドデコーダの同期を合せるために、図6に示すように、複素数領域のQMF信号に対する遅延端602を追加するものである。
【0038】
一方、前述したような本発明の方法は、コンピュータプログラムで作成可能である。そして、前記プログラムを構成しているコード及びコードセグメントは、当該分野のコンピュータプログラマによって容易に推論され得る。また、前記作成されたプログラムは、コンピュータが読み込むことのできる記録媒体(情報保存媒体)に保存され、コンピュータにより判読されて実行されることによって、本発明の方法を具現する。そして、前記記録媒体は、コンピュータが判読できる全ての形態の記録媒体を含む。
【0039】
以上で説明した本発明は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者において本発明の技術的な思想から離れない範囲内で様々な置換、変形、及び変更が可能であるため、前述した実施形態及び添付の図面によって限定されるものではない。
【0040】
本発明は、既存のモノ/ステレオオーディオ受信機と互換性を維持し、かつ高品質のマルチチャネルオーディオ信号を復元するとき、ダウンミックス信号と復元されるマルチチャネル信号との間の同期を維持するために活用され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチチャネルオーディオ信号を復元する装置であって、
ダウンミックス信号ビットストリームをデコードし、実数QMF領域、複素数QMF領域、及び時間領域のうち、少なくとも1つのダウンミックス信号を出力するHE−AACデコーダと、
付加情報ビットストリーム及び前記ダウンミックス信号を用いてマルチチャネルオーディオ信号を生成する高品質モードMPEGサラウンドデコーダとを備え、

該高品質モードMPEGサラウンドデコーダが、低電力モードMPEGサラウンドデコーダの実数−複素数の変換において導入される遅延を補償するためにダウンミックス信号の経路においてナイキスト解析フィルタの前に追加される遅延端を備えることを特徴とするオーディオ信号復元装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−155333(P2012−155333A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−87315(P2012−87315)
【出願日】平成24年4月6日(2012.4.6)
【分割の表示】特願2009−517995(P2009−517995)の分割
【原出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(596180076)韓國電子通信研究院 (733)
【氏名又は名称原語表記】Electronics and Telecommunications Research Institute
【住所又は居所原語表記】161 Kajong−dong, Yusong−gu, Taejon korea