説明

HER2受容体またはその末端切断変異体を発現する癌を診断するための方法

本発明は、HER2受容体を発現する癌の診断および治療方法に関する。本発明は、配列番号2に含まれる配列によって規定される、HER2受容体末端切断形態のエピトープを認識する抗体またはその断片を提供する。本発明はまた、癌を診断する方法であって、患者サンプル中の、配列番号1のアミノ酸配列からなるHER2受容体末端切断形態の存在を検出するステップを含む、方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HER2受容体を発現する癌の単離サンプルでの診断方法に関する。本発明はまた、癌の早期診断および特定のため、ならびに治療のための化合物を提供する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
HER2 (c-erbB2、ErbB2またはNeuとしても知られる)は、上皮細胞成長因子受容体、すなわちEGFRのファミリーに属するI型膜貫通タンパク質であり、HER1またはErbB1としても知られる。2つの追加のメンバーHER3およびHER4でこのファミリーは完成する。HER1、3または4がEGF型リガンドと結合すると、その細胞外ドメインは「開放型」と称されるコンフォメーションをとり、それはホモ二量体およびヘテロ二量体の形成を可能にする。HER2はまた、いかなるリガンドとも結合しない場合でさえ、その細胞外ドメインが構成的に「開放型」コンフォメーションを取るせいで、リガンドと結合した他のHER受容体と相互作用する。
【0003】
細胞外ドメインによって導かれる二量体化は、HER受容体の細胞内キナーゼの相互作用およびその後の一部のチロシン残基のトランスリン酸化を生じさせる。これらのホスホチロシンは、細胞内ホスホチロシン結合タンパク質の一群の連結器(coupler)として作用する。原形質膜(plasmatic membrane)で確立された相互作用は、異なるシグナル伝達経路、例えば分裂促進因子活性化プロテインキナーゼ(MAPK)によって活性化されるプロテインキナーゼ経路;ストレス(JNK)、ホスホリパーゼCガンマなどによって活性化されるプロテインキナーゼ経路によって細胞核に伝達される。すべてのこれらのシグナル伝達回路は、細胞増殖、遊走、生存および接着などの細胞の状態の決定側面(determining aspects)を改変するために協調して作用する遺伝子の発現をコントロールする。ゆえに、細胞の状況に応じて、HER受容体の活性化は劇的な細胞応答を生じさせ、該細胞応答は形質転換から悪性細胞、早期老化にまで及ぶ。
【0004】
標準的なシグナル伝達様式に加えて、HER受容体またはその断片はエンドサイトーシス(endocyted)されて核に輸送され、そこで特定の遺伝子の発現を直接調節することができる。この事実は、HER2の特定の事例(Wang et al., "Binding at and transactivation of the COX-2 promoter by nuclear tyrosine kinase receptor ErbB-2", Cancer Cell-2004, Vol. 6, pp. 251-261)、ならびに細胞質部分全体を含む、HER4受容体末端切断形態からなるカルボキシ末端断片(CTF)(Linggi et al., "ErbB-4 s80 intracellular domain abrogates ETO2-dependent transcriptional repression", J. Biological Chemistry-2006, Vol. 281, pp. 25373-25380)について観察されている。
【0005】
ヒト乳房腫瘍では、HER2の膜貫通および細胞質ドメインを含むと思われる一連のカルボキシ末端断片、すなわちCTFが見出されることがよくある。(Molina et al, "NH(2)-terminal truncated HER2 protein but not full-length receptor is associated with nodal metastasis in human breast cancer", Clinical Cancer Research-2002, Vol. 8, pp. 347-353)。HER2 CTF、またはHER2のN末端を含まない同じ末端切断形態(HER2 CTF)になるものを発現する乳癌の患者が、完全形態のHER2を主に発現する患者よりも転移を発症する確率が高く(Molina et al. 2002 - 上記)また予後が悪い(Saez et al., "p95HER2 predicts worse outcome in patients with HER2-positive breast cancer", Clinical Cancer Research-2006, Vol. 12, pp. 424-431)ことも知られる。
【0006】
したがって、腫瘍中のHER2の存在を遅れずに検出でき、さらにはそれが完全形態であるか末端切断(CTF)形態であるかを決定することが非常に重要である。
【0007】
今日、通常の臨床試験のレベルでは、問題の乳房腫瘍のタイプを決定するために、抗体を使用して完全形態のHER2の存在が検出されている。HER2の存在を検出するイベントでは、推奨される治療は、治療用モノクローナル抗体、例えばGenentechのトラスツズマブを投与するステップからなる。癌の治療のための、このモノクローナル抗体の使用は、Genentechを代表して出願WO 8906692に記載されている。WO 8906692は、HER2の細胞外領域に対するモノクローナルまたはポリクローナル抗体を記載しており、この細胞外領域は、該タンパク質の外部部分全体に適合し、該外部部分はそのN末端である。以前に記載されるように、WO 8906692に引用される抗体によって認識されるエピトープはHER2完全形態の細胞外ドメインの抗原領域であり、HER2の末端切断形態またはカルボキシ末端断片には含まれない。したがって、WO 8906692に記載の抗体および診断方法を用いて、末端切断型HER2 (CTF)の存在を検出することは不可能である。また、該HER2のCTFが発現されている乳房腫瘍では、トラスツズマブなどの抗体は治療的ではない。その理由は、それらがいかなるエピトープも認識しないからである。この事実は、HER2の末端切断形態(CTF)を発現する患者で観察される、トラスツズマブでの治療への抵抗性を説明する。
【0008】
HER2の末端切断形態またはCTFを発現する患者は、Saez et al 2006 (上記)によって観察された不良な予後値を予防するために代替療法で治療すべきである。HER2末端切断形態が発現される腫瘍を有するヒトをできるだけ早期に検出(診断)および治療する目的のために、どの形態のHER2が発現されその結果作用するかを区別できることは非常に興味深い。
【0009】
文献Anido et al., "Biosynthesis of tumorigenic HER2 C-terminal fragments by alternative initiation of translation", European Molecular Biology Organization (EMBO) Journal - 2006, Vol. 25, pp. 3234-3244では、P95として知られる末端切断形態(CTF)を生じさせるHER2に対するアルファ-セクレターゼの作用によって生成された、該受容体の膜貫通および細胞質断片を含む断片に加えて、HER2の膜貫通ドメインの上流および下流それぞれに位置する2つのメチオニンから出発する翻訳の選択的開始の機構によって2つの末端切断形態(CTF)がさらに生成されることが記載されている。具体的には、翻訳の選択的開始のためのメチオニンは、全米バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information (NCBI))のUniGeneデータベースのアクセッション番号M11730.1のアミノ酸配列のメチオニン611およびメチオニン687に相当する。この文献はまた、これらの選択的形態のHER2受容体(CTF)が乳房腫瘍に存在することを示す。特に、該文献は、最も多いものが、CTF687として知られる形態に相当し、または換言すれば、それが687位のメチオニンから出発する翻訳の選択的開始によって得られるタンパク質に相当することを示す。Anido et al.は、HER2のこれらの末端切断形態を発現する腫瘍の成長を最小化するためにラパチニブなどのHER2のチロシンキナーゼ活性のインヒビターの使用を治療として提唱する。チロシンキナーゼのインヒビターは、完全受容体と、それに由来するかまたは翻訳の選択的開始によって産生されるCTFとの両者に不可欠な様式で存在するHER2受容体のC末端と相互作用することによって作用する。
【0010】
文献Scaltriti et al, "Expression of p95HER2, a truncated form of the HER2 Receptor, and response to anti-HER2 therapies in breast cancer", Journal of National Cancer Institute-2007, Vol. 99, pp. 628-368は、HER2受容体末端切断形態の1つの存在を検出するための代替方法論の研究の例を示し、トラスツズマブ(ハーセプチン(Herceptin))での治療への抵抗性の原因のいくつかの候補を列挙する。特に、該文献は、トラスツズマブによって認識される細胞外ドメインを有さないp95HER2断片(アルファ-セクレターゼによるHER2のタンパク質分解の産物)および該受容体の他の末端切断形態の蓄積を強調する。Scaltritiは、p95HER2断片(アルファ-セクレターゼによるタンパク質分解の産物)を検出するための免疫蛍光法を提唱する。この新規検出方法は、臨床プロトコールの後に、パラフィンに包埋されホルマリンで固定された組織切片で実施することができる。この新規方法論は、全体形態の受容体ではなく、末端切断形態p95HER2が細胞の細胞膜および細胞質の両方に位置することの観察に由来する。この方法は、検出した細胞質を、受容体の細胞質ドメインと結合する抗HER2抗体で染色することによってp95HER2の発現が存在するかどうかを比較すること; および、分布が腫瘍の診断のためのツールとして広く使用されているタンパク質である抗サイトケラチン抗体を用いた検出で前記結果を確認することを提唱する。しかし、この方法が、完全形態のHER2を発現する腫瘍を、末端切断形態を発現する腫瘍から効率的に識別するかどうかは不明である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
問題の癌のタイプに正しく結び付けられた診断および治療のための新規で効率的な標的を突き止める必要性、および有効でないと思われている療法を始めから捨てて、悪い予後を有する腫瘍を効率的療法で遅れずに治療することを可能にする必要性が存在する。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、上で引用される課題に関する利益を提供し、癌、特に乳癌の早期分類の新規解決手段を提示する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明の要旨
翻訳の選択的(alternative)開始によって生成されるHER2の末端切断形態(CTF)の1つの存在が、治療対象の癌のタイプの予測と非常に良く相関し、一連の治療を指示する際の医師の仕事を容易にすることが決定された。このHER2末端切断形態(CTF-611)は配列番号1の配列を有することが特定され見出された。
【0014】
この配列を使用して、組織サンプル中のその存在を検出し、ゆえに通常の臨床手順でも適用可能な新規および確固たる診断セットを提供するためのいくつかのツールが開発された。
【0015】
本発明はまた、トラスツズマブによって認識されないこのHER2の末端切断形態、すなわちCTFを認識する新規抗体、またはその断片を提供する。これらの抗体は、配列番号2に含まれる配列によって規定されるエピトープを認識する。本発明はまた、前記抗体の生産に好適なハイブリドーマセルラインを提供する。現在入手可能な抗HER2抗体はCTFおよびHER2、またはHER2のみを認識し、これがHER2およびCTFを発現する患者からHER2のみを発現する患者を識別することを非常に困難にする。入手可能な抗HER2抗体と対照的に、本明細書中に記載の抗体は、CTF-611と優先的に結合し、このCTFを発現する患者の特定を可能にする。
【0016】
本発明はまた、患者サンプルにおける癌の診断方法であって、該サンプル中の配列番号1からなるHER2受容体末端切断形態の存在を検出するステップを含む方法を表す。
【0017】
本発明はまた、HER2受容体が発現している癌の単離されたサンプルにおける診断および予後の決定のための、本発明の抗体またはその断片の使用を提供する。
【0018】
本発明は、HER2受容体および/またはC末端断片が発現している癌の、単離されたサンプルでの診断および予後決定のための物質であって、上記の少なくとも1種の抗体またはその断片を含む物質をさらに提供する。
【0019】
本発明はまた、HER2受容体が発現している癌の単離されたサンプルでの診断および予後決定用キットであって、該サンプル中の、配列番号1からなるHER2受容体末端切断形態の存在を検出するための手段を含むキットを提供する。
【0020】
本発明はまた、治療用の、または医薬の製造に使用するための、上記抗体またはその断片を提供する。特に、該医薬は、少なくとも、配列番号1からなるHER2受容体末端切断形態が発現している癌の治療または予防のための医薬である。
【0021】
本発明の別の特徴によれば、抗体または断片の使用は、ヒトを含む哺乳類の乳癌を治療または予防するための医薬の製造のための使用である。
【0022】
別の本発明の目的は、少なくとも、配列番号1からなるHER2受容体末端切断形態が発現している癌の治療のための医薬組成物であって、上記の抗体またはその断片および少なくとも1種の製薬的に許容される賦形剤および/またはビヒクルを含む医薬組成物である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、完全HER2受容体の配列、およびアルファ-セクレターゼによるタンパク質分解の産物であるp95 (648-CTF/p95)として知られる末端切断形態と比較した、末端切断形態CTF-611のタンパク質配列の図である。膜貫通ドメインはらせん状の線で表す。残りの分子はグレーのボックスで示す。モノおよびポリクローナル抗体を作製するために使用されるペプチドの配列は下線で示す。さらに、分子内ジスルフィド架橋の位置をシステイン間の連結で示す。
【図2】図2は、乳癌サンプルの電気泳動およびウエスタンブロット(膜への転写)を示す。(S)は可溶性フラクションを意味し、(M)は膜フラクションを意味する。完全HER2およびCTF-611形態を検出するために、該タンパク質の細胞質ドメインに対する抗体を使用した。DHL: 乳酸(Lacatate)デヒドロゲナーゼ(コントロールとして使用)。
【図3】図3は、完全HER2受容体を発現するトランスジェニックマウスと比較した末端切断形態CTF-611を発現するトランスジェニックマウスで発症した腫瘍の数の評価の結果(図3A); および検出された腫瘍の容積の結果(図3B)を示す。Y軸で、NおよびVはそれぞれ腫瘍の数および腫瘍の容積を意味する。X軸で、Tは週単位の時間を表す。
【図4】図4Aは、HER2受容体の細胞質ドメイン(完全形態および末端切断形態の全てで共通のドメイン)を認識する抗体(CB11)または配列番号3のペプチドに対して作製されたポリクローナル抗体(α-611-Aおよびα-611-B)を用いて明らかにされた電気泳動およびウエスタンブロット(膜への転写)を示す。トラックは、HER2受容体の完全形態、CTF-611末端切断形態およびp95末端切断形態を発現するMCF7細胞ライセート抽出物(図1の構築物であらかじめ形質転換されたもの)に相当する。図4Bは、完全HER2受容体ならびに末端切断形態CTF-611およびp95をともに含有するサンプルに対して実施された抗体α-611-A、α-611-BおよびCB11を用いる免疫沈降試験の結果を示す。
【図5】図5(A)では、HER2、611-CTFまたは648-CTFを発現するMCF7細胞を溶解し、HER2の細胞質ドメインに対する抗体であるCB11またはペプチドMPIWKFPDEEGASQPSPINSTHSSVDLDDKGC (図1を参照のこと)に対して産生された2つの独立したモノクローナル抗611-CTF抗体を用いたウエスタンブロットによって分析した。(B)では、HER2、611-CTFまたは648-CTFを発現するMCF7細胞からのライセートを1:1:1で混合し、指定のモノクローナル抗体での免疫沈降に付した。洗浄された免疫沈降物をCB11抗体でのウエスタンブロットによって分析した。ネガティブコントロールとして、抗体なし(-)での偽(mock)免疫沈降を実施した。(C)では、HER2、611-CTFまたは648-CTFを発現するMCF7細胞を共焦点顕微鏡で指定の抗体を用いた間接免疫蛍光によって分析した。
【図6】図6(A)および(B)は、フローサイトメトリーによる1種のモノクローナル抗体の特徴付けを示す。
【図7】図7は、免疫組織化学によるモノクローナル抗体の特徴付けを示す。
【図8】図8は、エピトープの特徴付けを示す。図8(A)は、611-CTFの膜付近領域の一次配列およびエピトープマッピングに使用した種々の構築物の配列を示す図式である。図8(B)は、ウエスタンブロットを示す。
【図9】図9は、乳癌サンプルの分析を示す。図9(A)は、分析結果の表を示す。図9(B)は、免疫細胞化学染色を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
詳細な説明
CTF-611
上記するように、発明者らは、驚くべきことに、配列番号1を有する上記HER2末端切断形態の異なる検出結果が、不良な予後を示す乳房組織の共通のタイプの癌の兆候と非常に良く相関することを発見した。そして、図3は、末端切断形態CTF-611 (配列番号1)を発現するトランスジェニックマウスで発生した腫瘍の数の評価の結果を示す。
【0025】
この図3の結果を得るために、マウスの乳房上皮中で、ヒト配列番号1(CTF-611)をコードし、この図ではM611-CTFとして特定しているcDNA構築物を発現させた。この構築物はマウス乳癌ウイルス(MMTV)のプロモーターの制御下に配列番号1を含む。コントロールとして、HER2の完全形態を発現するマウス系統FVB/N-Tg(MMTVneu)202Jを、やはりMMTVプロモーターの制御下で使用した。図3Aから推定できるように、CTF-611形態(配列番号1)を有するcDNA構築物を発現するマウス中の腫瘍の数は、この図で名称HER2/neuとして特定されたFVB/N-Tg(MMTVneu)202J系統の腫瘍の数よりずっと多い。トランスジェニック動物の腫瘍は、CTF-611を発現するトランスジェニック動物の17週齢の時点で検出された。それはFVB/N-Tg(MMTVneu)202Jマウスでの最初の検出の3か月前である。この事実は、完全形態を発現する腫瘍に対して、HER2断片を発現する腫瘍の攻撃性が高いことを説明している。図3Bはまた、HER2/neuとしても知られる、完全受容体を構成的に発現する動物に対して、配列番号1を有するHER2のCTF末端切断形態を発現する動物で腫瘍の容積がずっと大きいことを示す。この第二の事実もまた、このタイプの腫瘍の高い攻撃性を説明する。発明者らはまた、配列番号1の配列の末端切断形態を発現するそれら腫瘍が、HER2/neuを発現する腫瘍で観察される肺転移指数よりも高い肺転移指数を示すことを決定した。臨床関連性を証明するさらなる実験を以下の実施例9に記載する。
【0026】
トランスジェニック動物を用いたこのデータのすべては、配列番号1のHER2受容体末端切断形態の、該受容体の完全形態に対して区別された検出がまさに必要であることを明らかにする。
【0027】
明らかに、該配列番号1は、個体間の対立遺伝子変異から生じるすべての変異体を含み、それは、2または3個程度のアミノ酸などのいくつかのアミノ酸の数およびタイプの変異、または全体的な受容体構造を改変しない別のアミノ酸によるアミノ酸の置換を伴う。
【0028】
これらのHER2の末端切断形態は、ネオエピトープ、換言すれば、完全受容体の分子中に存在しない新規抗原決定基を含有することができ、これは、完全受容体と同じ方法で該分子(抗体、医薬、など)と相互作用しないことを意味する。
【0029】
CTF-611に対する抗体
発明者らは、CTF-611に対するポリクローナルおよびモノクローナル抗体の両者を生産することができた。これらの抗体は、配列番号2に含まれる配列によって、好ましくは配列番号3に含まれるかまたは配列番号3によって規定される配列によって規定されるエピトープを認識する。最も好ましいのは、MPIWKFPDEEGAS (配列番号5)に含まれるかまたはそれによって規定されるエピトープを認識する抗体である。
【0030】
本発明に関して、エピトープは、ペプチドタイプの高分子(または抗原)の一部であって、その配列および/または空間的配置が免疫系(抗体、T細胞、B細胞)によって認識されるものを意味すると理解される。
【0031】
本発明の抗体は、好ましくは配列番号1のタンパク質をHER2受容体から区別することができる。さらに、本発明の抗体は、好ましくは、配列番号1のタンパク質をHER2受容体末端切断形態648-CTF/p95から区別することができる。この区別は、免疫蛍光、フローサイトメトリー、培養細胞での免疫組織化学、および患者由来のサンプルでの免疫組織化学のうちの1以上によって視覚化することができる。該区別は、フローサイトメトリーおよび免疫沈降の両方において定量化できることが特に好ましい。
【0032】
本発明では、611-CTFに対する本発明の抗体の結合は、実施例3(5マイクログラムの32H2および5マイクログラムの20F4を使用)にさらに詳細に記載されるように、好ましくは、免疫沈降実験において、HER2に対するその結合よりも少なくとも300倍、より好ましくは少なくとも1000倍、最も好ましくは1000〜2000倍強い。
【0033】
上記のように、該抗体はポリクローナルまたはモノクローナルであってよい。
【0034】
本発明の意味において、「ポリクローナル抗体」は、種々のB細胞系統(Bリンパ球)によって産生される抗体の群を意味すると理解されるものとする。ポリクローナル抗体は、抗原(高分子)に対して分泌される免疫グロブリンの混合物であり、これらの免疫グロブリンのそれぞれは異なるエピトープを認識することができるが、というのもそれが異なるB細胞に由来するからである。ゆえに、ポリクローナル抗体に含まれる免疫グロブリンの異なる集団内に、特定の抗原の目的のエピトープまたはエピトープ群を認識する免疫グロブリンのタイプが存在する。
【0035】
ポリクローナル抗体は、例えば配列番号2、配列番号3、配列番号4または配列番号5のペプチドを、キーホールリンペットヘモシアニンなどの免疫原とコンジュゲートし、このコンジュゲートでウサギを免疫化することによって生産することができる。
【0036】
同一または類似の免疫原を使用してモノクローナル抗体を生産することができる。当業者に公知の様式でハイブリドーマセルラインを生産することができる。そして、ハイブリドーマセルラインを好適な培養培地中で増殖させ、該培地からモノクローナル抗体を回収することができる。
【0037】
好ましい実施形態では、それらを、ブダペスト条約に基づき2008年4月9日付けでアクセッション番号DSM ACC2904でドイツ微生物・細胞コレクションDSMZ(Deutschland Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH)に寄託されたハイブリドーマセルライン、またはブダペスト条約に基づき2008年11月6日付けでアクセッション番号DSM ACC2980でドイツ微生物・細胞コレクションDSMZ(Deutschland Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH)に寄託されたハイブリドーマセルラインによって生産する。
【0038】
前記ハイブリドーマセルラインで生産されたモノクローナル抗体、ならびに機能的に少なくとも等価のモノクローナル抗体が特に好ましい。CTF-611とHER2とを等しく良好にまたはさらに良好に識別できる抗体は、機能的に少なくとも等価である。
【0039】
有用な抗体にはまた、ヒト化およびヒト抗体が含まれる。
【0040】
本発明はまた、配列番号2、配列番号3、配列番号4または配列番号5の配列の、単離されたペプチドを提供する。
【0041】
完全抗体の代わりに、その断片を本発明に従って使用してもよい。該抗体断片はF(ab)、F(ab')およびFvからなる群から選択される。本発明に関して、抗体の断片とは、HER2受容体末端切断形態中に存在するエピトープと結合するのに十分なサイズおよび適切な構造であることによりサンプル中のその検出を可能にする、抗体の一部を表す。
【0042】
実施例2および3は特異的抗体を示す。明らかに、本発明は、配列番号2および配列番号3の配列によって規定されるCTF-611末端切断形態のエピトープに対する他のポリクローナルまたはモノクローナル抗体にもおよぶ。その理由は、当業者は、本発明の教示内容に基づいて、それらを直接導き出すことができるからである。同様に、本発明は、F(ab)、F(ab')、Fv、などの、該抗体の断片、または配列番号2および配列番号3のペプチドに対するモノクローナル抗体を生産可能な任意のハイブリドーマセルラインにおよぶ。
【0043】
診断方法
本発明の診断方法では、HER2受容体末端切断形態の存在の検出は、移動相-固定相系での、配列番号1からなるHER2受容体末端切断形態の、該HER2受容体の完全形態に対する移動差による検出; および配列番号1を含むHER2受容体末端切断形態の特異的抗体との結合による検出からなる群から独立して選択される手段によって実施することができる。
【0044】
移動差による検出とは、本発明に関して、化合物の分離を、電気泳動などの特定の移動相-固定相系でのその異なる移動度に基づいて検出できるようにする任意の分析技術を意味すると理解されるべきである。そのような異なる移動度は、化合物の異なる電荷、異なる分子量、または他の化合物に対する異なる親和性によって生じる。
【0045】
この差示的検出は、当業者に公知の分析技術、例えばタンパク質電気泳動、分子排除クロマトグラフィー、抗体親和性試験、免疫蛍光、免疫細胞化学、免疫組織化学、フローサイトメトリー、などによって実施することができる。免疫組織化学が特に好ましい。1以上の前記方法を組み合わせて信頼性を高めることができる。
【0046】
本発明でCTF-611とも称される配列番号1からなるHER2受容体末端切断形態の、全体または完全HER2受容体に対する差示的検出は、図1から所望でありうるように、異なる分子量および異なる配列を有する2つのタンパク質を視覚化できることを意味する。配列番号1を有する末端切断形態は、HER2受容体の完全配列のメチオニン611による翻訳の選択的開始から得られるタンパク質からなる。この形態またはCTFは、ゆえに、新規細胞外ドメイン、膜貫通断片、および細胞質ドメインを含む。膜貫通断片および細胞質ドメインはHER2受容体の完全形態のものと同一である。別の末端切断形態は、p95またはCTF-648と称される図1の1つに相当する。この最後の形態は完全HER2受容体に対するアルファ-セクレターゼの作用の産物であり、細胞外ドメインの大きい部分を分割する。
【0047】
本発明の別の実施形態では、サンプル中の、配列番号1からなるHER2受容体末端切断形態の存在を検出するステップは、上記で規定される少なくとも1種の抗体による検出を含む。特定の実施形態では、本発明の診断方法は、配列番号3によって規定されるエピトープを検出するステップを含む。
【0048】
本発明の一実施形態では、本発明の抗体またはその断片を診断および予後決定のための物質として使用する。該物質は、それ自体のペプチド配列中に(例えば放射性同位体で)直接標識されるか、または間接的に(例えば蛍光物質または、選択された反応媒体中での反応によって蛍光を発生可能な物質の付加または結合によって)標識され、上記のものはすべて、可視シグナルを生成させることを目的とし、可能であれば、定量可能であり、それを用いて、サンプル中の配列番号1の配列からなるHER2受容体末端切断形態の存在を検出するためのものである。
【0049】
同様に、少なくとも該抗体を含有する診断物質を固体支持体に直接または、スペーサーアームを用いて間接的に接着させることが想定される。この種の物質は、サンプルの配列番号1の配列の形態を捕獲し、後にその存在を他の非特異的抗体(例えばCB11)を用いて決定することを可能にする。
【0050】
本発明の診断および予後決定のための物質は、免疫組織化学プロトコールにおいて適用することもできる。この趣旨では、(一次または二次)モノクローナルまたはポリクローナル抗体を、それらが試験組織と接触し、かつ検出が意図されるタンパク質と、換言すれば、配列番号1の配列からなるHER2のCTF断片とそれらを相互作用させれば、可視シグナルを発し、最良の場合には定量可能になるように適切に標識しなければならない。
【0051】
医師の分析、診断および予後決定の仕事を容易にする目的で、キットの形式で診断物質を提供することが想定される。該キットは、抗体に加えて、試薬(例えば免疫組織化学染色に必要な試薬)、サンプル中の配列番号1の末端切断形態の存在を決定するために合わせて作られたバッファーおよび検出溶液、場合により、様々なCTF-611発現レベルを表すコントロールスライド、および場合によりさらに、医師の診断の評価を支援する詳細な使用説明書を含む。このキットは、HER2の測定のための半定量的免疫組織化学アッセイを実施するための手段(例えばHerceptestTM)を含んでもよい。
【0052】
ゆえに、本発明は、診断および予後決定のためのキットであって、抗体とエピトープとの相互作用を実施するために好適でかつ当業者に広く知られている試薬手段およびバッファーに加えて、少なくとも1種の抗体またはその断片を含み、該抗体または断片は、配列番号2または配列番号3または配列番号5によって規定されるエピトープを認識できるものである、キットを提供する。
【0053】
本方法の診断方法、および本発明のキットは、リンパ節転移、予後不良、およびHerceptinTMへの抵抗性の予測を可能にする。
【0054】
同様に本発明の目的である別のタイプのキットは、HER2受容体の完全形態に対して、配列番号1の配列からなるHER2受容体末端切断形態の移動差によって検出を実施するのためのすべての必要な手段を含む。
【0055】
HER2受容体またはその末端切断変異体を発現する癌の群内で、乳癌は突出している。これらのタンパク質が同様に発現している他の癌には、肺、膵臓、結腸、胃、前立腺、頭部および頸部、皮膚、腎臓、睾丸、甲状腺、膀胱、子宮、外陰、子宮内膜、卵巣、食道、口、唾液腺、喉頭、腹膜、鼻部および咽頭領域、卵管の癌、そしてウィルムス腫瘍ならびにリンパ腫、スイング肉腫(Swing sarcomas)、滑膜肉腫、髄芽腫、栄養膜腫瘍、グリオーマ(glyomas)、グリオブラストーマ(glyoblastomas)、胆管癌、コレステリン腫、軟骨肉腫、上衣細胞腫、神経鞘腫、神経腫、横紋筋肉腫が含まれる。そして本発明の診断方法は、前記の癌の1つの診断に特に好適である。-CTFのex vivo検出に加えて、該抗体をin vivoイメージングに使用することができる。
【0056】
治療方法
本発明の抗体、またはその断片はまた、治療、特に癌、特にHER2受容体またはその末端切断変異体を発現する癌の治療に有用である。ヒト化およびヒト抗体、およびその断片が好ましい。
【0057】
本発明の抗体は、少なくとも配列番号1からなるHER2受容体末端切断形態が発現している癌の治療に有用な医薬組成物においても使用される。該組成物は、製薬的に許容されるビヒクルまたは賦形剤および、配列番号2または配列番号3の配列によって規定されるエピトープを認識する少なくとも1種の抗体を含む。該医薬組成物は、本発明の抗体に加えて、HerceptinTMなどのHER2またはその断片に対する他の抗体を含有する抗体混合物を含んでもよい。
【0058】
本明細書で提供される図面および常に例示のためであって非限定的な実施例に基づき、以下、HER2受容体および/またはそのカルボキシ末端断片(末端切断変異体)が発現している癌の診断および予後決定の方法; 新規ペプチドおよび該ペプチドに対する特異的抗体; 新規セルライン; 診断用物質および検出のためのキット、を記載する。それらはすべて、本発明の対象である。
【0059】
特定はしないが、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者がそれらに割り当てる意義を有する。本明細書中に記載の方法および材料と類似または等価の方法および材料は、本発明の実施に使用することができる。本明細書および特許請求の範囲を通じて、単語「含む(comprise)」および該単語のバリエーション、例えば「comprising」は、他の技術的な特徴、添加物、成分、またはステップを除外しないものとする。本発明の追加の目的、利点および特徴は、本明細書を考察すると当業者に自明になるか、または本発明の実施によって習得される。以下の実施例および図面は例示のために提供され、本発明の限定であることを意図しない。
【0060】
また、本発明は、上記の好ましい特定の群のすべての可能な組み合わせを含むことが理解されるものとする。
【実施例】
【0061】
以下の実施例は、HER2受容体および/またはその末端切断変異体を発現するタイプの癌の単離されたサンプル中の、配列番号1の配列からなる末端切断形態の存在を検出する種々の方法を示す。
【0062】
実験手順
細胞。10% FBS (Gibco)、4mM L-グルタミン(PAA Laboratories)、0.2mg/ml G418 (Gibco)および1μg/mlドキシサイクリン(Sigma)を含有するDMEM/F-12 (1:1)(Gibco)中で37℃、5% CO2でMCF7 Tet-Off細胞(BD bioscience)を維持した。FuGENE6 (Roche)を使用することによって種々の発現プラスミドで細胞をトランスフェクトした。pUHD10-3hベースのプラスミドが組み込まれている単一の安定なクローンを0.1mg/mlハイグロマイシンB (Invitrogen)で選択した。ドキシサイクリンを除去することによってpUHD10-3hにコードされるHER2およびCTFのcDNAからの発現を誘導した。まず、該細胞を0.5%トリプシン-EDTA (GIBCO)ではがし、遠心によって3回洗浄し、培養皿への接種の10時間後に培地を変更した。個々のクローンの同質性を、HER2の細胞質ドメインに対する抗体を用いる免疫蛍光共焦点顕微鏡検査によって検査した。2つの独立して選択された安定なクローンを実験に使用した。
【0063】
ウエスタンブロット。異なるHER2アイソフォームを発現する細胞を改変RIPAバッファー(20mM NaH2PO4/NaOH pH7.4、150mM NaCl、1% Triton X-100、5mM EDTA、100mM PMSF、25mM NaF、16μg/mlアプロチニン、10μg/mlロイペプチンおよび1.3mM Na3VO4)中に溶解し、DCタンパク質アッセイ試薬(BIO-RAD)でタンパク質濃度を測定した。サンプルを、5%βメルカプトエタノールを含むローディングバッファー(終濃度: 62mM Tris pH6.8、12%グリセロール、2.5% SDS)と混合し、99℃で5分インキュベートした後、15μgのタンパク質をSDS-PAGEによって分画した。ウエスタンブロットの特異的シグナルをソフトウェアImageJ 1.38 (NIH)を用いて定量した。
【0064】
免疫沈降。細胞ライセートを種々の抗体と4℃で1時間インキュベートした。次いで、免疫複合体をプロテインAで精製した。免疫沈降物を溶解バッファーで3回洗浄し、ローディングバッファーと混合し、ウエスタンブロットによって分析した。
【0065】
カバーガラス上に播種した免疫蛍光顕微鏡検査のための細胞をPBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで20分固定し、0.2% Triton X-100で10分透過化処理した。ブロッキングおよび抗体結合のために、発明者らは、1% BSA、0.1%サポニンおよび0.02% NaN3を含むPBSを使用し、マウントにはDAPIを含むVectashield (Vector laboratories)を使用した。
【0066】
フローサイトメトリー。HER2、611-CTFまたは648-を発現するMCF7細胞をPBSで4℃で洗浄し、5mMのEDTAを含有するPBS中ではがした。はがした細胞を5% BSAを含有するPBS中で10μg/mlの抗32H2モノクローナル抗体と共に4℃で30分インキュベートし、洗浄し、5 % BSAを含有するPBS中のFITCコンジュゲート抗マウスIgG (Becton-Dickinson)で4℃で30レイン(rain)で染色した。FACscan Researchソフトウェア(Becton Dickinson Immunocytometry Sys., Mountain View, CA)を使用するFACscanでフローサイトメトリーを実施した。
【0067】
免疫組織化学(Immunhistochemistry)。HER2、611-CTFまたは648-を発現するMCF7細胞をPBSで4℃で洗浄し、5mMのEDTAを含有するPBS中ではがした。次いで、細胞を遠心し、細胞ペレットを10%中性ホルマリン中で固定し、脱水し、パラフィンに包埋した。細胞ペレットまたはヒト組織由来の厚さ4μmの切片をポリリシンコーティングスライドガラス上に置いた。以下のプロトコールを使用して免疫組織化学分析を実施した。
【0068】
1. 切片を脱パラフィン化し、再水和する。
1.1 スライドを60℃で30分インキュベートする。
1.2 きれいなキシレンの3回の5分間のインキュベーション、その後の無水エタノールでの2回の3分間の洗浄でスライドを脱パラフィン化する。
1.3 徐々に蒸留水にする: エタノール95℃3分、エタノール70℃3分、エタノール50℃3分、蒸留水。
【0069】
2. 抗原回復
低PH (6)でのPT Link, ENVISION FLEX TARGET RETRIEVAL SOLUTION HIGH Ph 10x. DM 812. 20分95℃。
Envision Flex洗浄バッファーx10 DM 811で15分洗浄する。
【0070】
3. 免疫組織化学的染色
AUTOSTAINERプラスLink DAKO
キット: ENVISION FLEX + MOUSE, High Ph ( Link):
Envision Flex Peroxidase Blocking SM801
Envision Flex/ HRP SM 802
Envision Flex DAB+CHROMOGEN DM 807
Envision Flex Substrate Buffer SM 803
Envision Flex Wash Buffer 10x DM 811
Envision Flex Target Retrieval Solution High Ph 10x DM 812
Envision Flex+ Mouse (リンカー) SM 84
ペルオキシダーゼ5分および洗浄バッファーでの洗浄。
Protein Block 5% 15〜20分。
洗浄バッファーで洗浄する。
・1:1000〜1:3000希釈された32H2 (1mg/mlストック)または1:20〜1:50希釈された20F4 ( 1mg/mlストック) 2時間。
・洗浄バッファーで洗浄する。
・二次(Flex HRP, Flex+Mouse/Rabbit) 20分。
・洗浄バッファーで洗浄する。
・DAB 5分。
・洗浄バッファーで洗浄する。
・ヘマトキシリン。
・蒸留水で洗浄する。
【0071】
3. 脱水およびマウント用媒体での安定化
3.1 漸増濃度のエタノール(50%、70%、95%、各洗浄2分)で徐々に洗浄する。
3.2 徐々に蒸留水にする(エタノール95%、70%、50%、蒸留水、3分の各洗浄)。
3.3 キシレン/ユーカリプトールで洗浄する(各2分の3回の洗浄)。
3.4 DPXでマウントする。
【0072】
トランスジェニックマウス
pMBベクター(Dr. Marcos Malumbres, CNIO, Madridからの親切な提供物)のラウス肉腫ウイルスで増強されたマウス乳癌ウイルス長末端反復配列の下流のマルチクローニング部位IIに687-CTFおよび611-CTFをコードする配列をクローニングすることによってTG 611およびTG 687マウスを作製した。Centre of Animal Biotechnology and Gene Therapy (Centre de Biotecnologia Animal i Terapia Genica, Universitat Autonoma de Barcelona)で過排卵FVBマウスから回収された受精した卵母細胞(oozytes)に直線化プラスミドDNAをマイクロインジェクションすることによって創始者系統(Founder lines)を作製した。サザンハイブリダイゼーション分析によって創始者マウスの遺伝子型を特定した。創始者動物の特定後、PCR遺伝子タイピングによって通常のコロニー維持を実施した。雄性および雌性FVB/N-Tg(MMTVneu)202JマウスをJackson Laboratory (Bar Harbor, ME)から得た。
【0073】
全組織標本(whole mount)および組織学
乳腺をガラススライド上にマウントし、4%パラホルムアルデヒド中で一晩固定し、70%エタノールに移した。スライドを水で5分すすぎ、0.2%カーミンのろ過溶液中で24時間染色した。次いで、腺を漸減濃度のエタノールで順次脱水し、脱脂し、サリチル酸メチル中で保存した。組織学的分析のために、固定された腺をパラフィン中でブロックし、切片にし、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。
【0074】
実施例1: 移動差による配列番号1の断片の検出。
電気泳動ゲルおよびその後のウエスタンタイプの転写(ウエスタンブロット)の画像に対応する図2では、乳癌の異なるサンプル(108、114、101、103、131、134および145)をトラックに積載した。各サンプルから、細胞ライセートの可溶性フラクション(S)および膜フラクション(M)の両者を分析し、どのタイプのHER2分子がどのフラクション中に存在するかを視覚化した。原則として、完全受容体および配列番号1の形態はともに細胞膜中であることが予測される。完全HER2およびCTF-611形態の検出のために、両タンパク質形態に共通のドメインである該タンパク質の細胞質ドメインに対する抗体(CB11)を使用した。分析コントロールとして、乳酸デヒドロゲナーゼ(DHL)酵素の存在を検出した。ほとんどのサンプル中で、完全HER2受容体に対応するバンド、および膜フラクション中では配列番号1のCTF-611形態に対応するバンドが現れる。
【0075】
したがって、図2は、HER2受容体の末端切断形態のタイプの検出をタンパク質電気泳動分析によって実施できることを示す。さらに、配列番号1の配列からなるHER2の断片の存在は、特定のタイプの癌、この実施例では乳癌を示し、該癌は、HER2を発現する癌の中で個別の症例として評価および治療する必要がある。
【0076】
実施例2. 配列番号2または配列番号3によって規定されるネオエピトープに対するポリクローナル抗体での、配列番号1の配列からなるHER2断片の存在の検出。
電気泳動における移動差による検出の手段に対する代替手段を使用して配列が配列番号1に記載のものであるHER2末端切断形態の存在を検出できることを目的として、配列番号4の配列を有するペプチドを合成し、4匹のウサギを該ペプチドで免疫化した。このペプチドは、CTF-611形態または配列番号1のN末端の32アミノ酸に相当し、該ペプチドでは、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)として知られる免疫原とそれをコンジュゲートする目的のためにほとんどのシステインがセリンによって置換されている。
【0077】
したがって、配列番号4は、配列番号3の配列に等価のペプチドに相当するが、免疫化技術を実施するために適合化されている。当業者は、配列番号4の合成ペプチドに対する抗体が、HER2受容体の末端切断形態(配列番号1またはCTF-611)中に存在する配列番号3によって規定されるエピトープも認識するであろうことを理解する。同様に、当業者は、免疫化に使用される合成ペプチドが配列番号2からなり、細胞外領域に位置するCTF-611受容体のすべてのアミノ酸を含む場合、該他のペプチドに対する抗体での結果は等価であり、したがって同一の目的のために有用であることを理解することができる。
【0078】
HER2受容体の完全形態、CTF-611末端切断形態およびp95末端切断形態を発現するMCF7細胞ライセート抽出物(以前に図1の構築物で形質転換されている)のSDS電気泳動およびその後のウエスタン転写を実施した。配列番号1の末端切断形態は、実際には、類似の分子量の2つの断片として現れた。タンパク質からN-グリカンを除去する酵素であるグリコシダーゼ-Fと用いて実施された試験(示されていない)から導かれるように、断片CTF-611は翻訳後修飾の基質である。特に、約110 kDaを有する断片は、合成されその後にそれがN-グリコシル化される分泌経路に入る形態に対応する。
【0079】
2匹の免疫化されたウサギの血清は、完全HER2受容体、およびCTF-611の両者を認識した。これは図4Aで観察される。図4Aでは、完全HER2受容体および配列番号1の形態またはCTF-611の両者に対応するバンドが検出される。該図4Aに示されるように、HER2受容体の細胞質ドメイン(完全および末端切断形態のすべての形態に共通のドメイン)を認識する抗体(CB11); または配列番号4の該ペプチドに対して作製されかつウサギの血清中に存在するポリクローナル抗体(α-611-Aおよびα-611-B)を用いてウエスタンブロットを解析した。それは完全HER2およびCTF-611のシグナルに匹敵するため、抗体α-611-Aおよびα-611-Bは該受容体の両形態中に存在する直線状エピトープを認識することが結論づけられる。SDS電気泳動およびウエスタンブロットのネガティブコントロールとして、抗体が設計された対象のエピトープを有さない、p95として知られる受容体形態を発現するMCF7細胞ライセートを使用した。
【0080】
前記結果と対照的に、抗体α-611-Aおよびα-611-Bおよび抗体CB11を用いて免疫沈降アッセイを実施した場合、配列番号4のペプチドに対する抗体は、好ましくは受容体の末端切断形態(CTF-611)を沈降させることが検出された。免疫沈降に付された混合物は、異なる形態のHER2受容体を発現する細胞ライセートを1:1:1の割合で含有した。これらの結果は図4Bで明らかである。この図では、SDS電気泳動およびその後のウエスタン転写由来のバンドが現れ、そのトラックには、抗体α-611-A、α-611-BおよびCB11での免疫沈降アッセイの結果がロードされた。コントロールトラック(入力)には、異なる抗体での免疫沈降に付された3タイプの細胞ライセートの1:1:1混合物がロードされた。ウエスタンブロットをCB11を用いて解析した。(完全長HER2、611-CTFまたは648-CTFを発現する約106細胞を500μlの溶解バッファー(50 mM Tris HCL pH7.4、137mM NaCl、2mM EDTA、10%グリセロール、1% NP40)に溶解した。ライセートを14000 g X 30分での遠心によって浄化した。入力: 5μlのライセートミックス(完全長HER2: CTF611: CTF648、1:1:1) IP: 50μl ライセートミックス+ 5μl ウサギ由来の抗611CTF血清またはCB11。
【0081】
抗体α-611-Aおよびα-611-Bでの免疫沈降に対応するトラックで、グリコシル化および非グリコシル化形態のCTF-611に対応する分子量において、残りのバンドより明らかに強い区別されたバンドが存在する。すなわち、配列番号4のペプチドに対する該抗体はHER2受容体の完全形態を免疫沈降させない。これは、完全HER2受容体が変性しない場合にマスクされるエピトープをそれらが実際に認識することを意味する。したがって、抗体α-611-Aおよびα-611-BがCTF-611に特異的であると結論することができる。
【0082】
この特異性は間接免疫蛍光アッセイ(示されていない)によって裏付けられる。該アッセイでは、アフィニティ精製されたポリクローナル抗体α-611-Aおよびα-611-Bのみが、末端切断断片CTF-611を発現するサンプル中の染色を可能にする。この事実は、それらを使用して、どの形態のHER2受容体が、単離された腫瘍組織サンプル中で発現されるかを区別して検出することを可能にする利点を含む。ポリクローナル抗体のアフィニティー精製は以下のように実施した。
【0083】
(i) HiTrap Protein A HPカラム(GE Healthcare)を使用するトータルIgG精製。ウサギ血清由来の抗体を、結合バッファー(Na2HPO4)で平衡化されたカラム中に固定し、10カラム容量の結合バッファーで洗浄し、10容量のクエン酸ph (2.7)で溶出させた。Tris-HCL pH 8を使用して溶出液を中和した。
【0084】
(ii) HiTrap NHSカラムに固定されたペプチドを使用した精製。ウサギの免疫化に使用された同ペプチドをHiTrap NHSカラム中に固定した。以前のステップで精製されたIgGを、結合バッファー(Na2HPO4)で平衡化されたカラムにロードし、10カラム容量の結合バッファーで洗浄し、10容量のクエン酸ph (2.7)で溶出させた。Tris-HCL pH 8を使用して溶出液を中和した。
【0085】
(iii) 最後に、精製された抗体をPBS 0.02% NaN3に対して透析した。
【0086】
完全HER2受容体は、細胞膜の近くに、図1でシステイン間をつなぐ線によって示される6個のジスルフィド架橋によって維持された構造化領域を含む。末端切断形態CTF-611、または配列番号1の配列のものは、5個のシステインしか含有せず、その間で該ジスルフィド架橋が確立されてこの末端切断形態のホモ二量体が安定化される。図4から全体として導かれるように、配列番号1の末端切断形態の細胞膜の付近の領域は、抗原的に、完全HER2受容体中のその等価物と異なると結論しなければならない。このことから、以前に示されたことにしたがって、それを区別して検出できることが導かれる。
【0087】
HER2の量に対して標準化された入力CB11および抗611-B免疫沈降物中の異なるHER2アイソフォームの定量化は、以下のように示される。
【表1】

【0088】
定量化はImageJ 1.38を使用して実施した。
【0089】
実施例3: 配列番号2または配列番号3によって規定されるネオエピトープに対するモノクローナル抗体を用いた、配列番号1の配列のHER2断片の存在の検出
実施例2の配列番号4の同ペプチドを使用して、モノクローナル抗体を取得した。それらのすべてから、アクセッション番号DSM ACC2904を有するハイブリドーマセルラインによって産生されるモノクローナル抗体20F4およびアクセッション番号DSM ACC2980を有するハイブリドーマセルラインによって産生されるモノクローナル抗体32H2を選択した。この抗体を用いて得られた結果を図5に示す。
【0090】
実施例2と同様に、HER2受容体完全形態、またはCTF-611末端切断形態、またはp95末端切断形態を発現したMCF7細胞ライセート抽出物(図1の構築物で以前に形質転換されている)の1:1:1混合物のSDS電気泳動およびその後のウエスタン転写を実施した。CB11またはモノクローナル抗体20F4および32H2で明らかにされたウエスタンのメンブレンの写真である図5Aでは、後者が、配列番号1の受容体CTF-611に対応するHER2の末端切断形態を特異的に認識し、該受容体の完全形態とのいかなる検出可能な交差反応性も示さないことを観察することができる。このことは、それが、該受容体のCTF-611形態のN末端に一級アミノ基を含む新規エピトープ(ネオエピトープ)を実際に認識することを意味する。
【0091】
同様に、抗体CB11 (受容体のサイトゾルドメインを認識する)と比較してモノクローナル抗体20F4および32H2を用いて免疫沈降アッセイを実施した場合、配列番号3のペプチドに対するモノクローナル抗体は受容体のもっぱら末端切断形態(CTF-611)のみを沈降させることが検出された。これらの結果は図5Bで明らかである。この図では、SDS電気泳動およびその後のウエスタン転写の結果が示され、そのトラックには、抗体20F4、32H2およびCB11を用いた免疫沈降アッセイの結果がロードされた。
【0092】
抗体20F4および32H2での免疫沈降物に対応するトラックでは、CTF-611末端切断形態のグリコシル化および非グリコシル化形態のバンドのみを区別することができる。すなわち、抗体20F4および32H2はHER2受容体の完全形態を免疫沈降させない。したがって、抗体20F4および32H2はCTF-611に対して高度に特異的であり、HER2の完全形態を認識しないと結論づけることができ、このことは、単離された腫瘍組織サンプル中でどの形態のHER2受容体が発現しているかを区別して高度に選択的に検出するためにそれを使用できることを意味する。
【0093】
611-CTFの32アミノ酸長のN末端配列に対応するペプチドに対するモノクローナル抗体の特徴付けにより、完全長HER2ではマスクされているが611-CTFでは露出しているエピトープ(群)の存在が確認される。これらのエピトープは可溶化分子および無傷の細胞ではともにマスクされている。
【0094】
HER2の量に対して標準化されたCB11、32H2および20F4免疫沈降物中の異なるHER2アイソフォームの定量では、以下のように示される。
【表2】

【0095】
実施例4: フローサイトメトリーによる611-CTFのN末端に対する1つのモノクローナル抗体の特徴付け
(A) ペプチドMPIWKFPDEEGASQPSPINSTHSSVDLDDKGC (図1を参照のこと)に対して産生されたモノクローナル抗体である、異なる濃度の32H2を使用するフローサイトメトリーによってHER2、611-CTFまたは648-CTFを発現するMCF7細胞を分析した。図6(A)を参照のこと。
【0096】
(B) (A)のようにして実施された2つの独立した実験の結果を定量し、平均を示す。図6(B)を参照のこと。
【0097】
(C) HER2、611-CTFまたは648-CTFを発現するMCF7細胞を共焦点顕微鏡で記載の抗体を用いて間接免疫蛍光によって分析した。
【0098】
フルオロフォア結合二次抗体として、InvitrogenのAlexa Fluor 488ヤギ抗マウスIgG (A110011)を使用した。ネガティブコントロールとして非特異的な結合を評価するために、32H2血清を用いないがこの二次抗体("2ary")の存在下でFACSを実施した。
【0099】
結論: 抗体32H2によって認識されるエピトープは、611-CTFを発現する生細胞中では露出しているが、HER2を発現する生細胞中ではマスクされている。
【0100】
実施例5: 免疫組織化学による611-CTFのN末端に対するモノクローナル抗体の特徴付け
HER2の細胞質ドメインに対する抗体であるCB11、またはペプチドMPIWKFPDEEGASQPSPINSTHSSVDLDDKGC (図1を参照のこと)に対して産生された2つの独立したモノクローナル抗611-CTF抗体を用いた、HER2、611-CTFまたは648-CTFを発現するMCF7細胞の免疫細胞化学染色を実施した。その結果を図7に示す。
【0101】
結論。抗体20F4および32H2によって認識されるエピトープは、免疫組織化学によって分析される611-CTFを発現する細胞で露出している。対照的に、同技術によって判断されるように、これらのエピトープは完全長HER2分子ではマスクされている。この結果は特に重要であり、免疫組織化学(imunohistochemistry)がクリニックでのほとんどの通常の検査に第一選択される技術であることを示す。
【0102】
実施例6: 611-CTFのN末端に対するモノクローナル抗体によって認識されるエピトープの特徴付け
(A) 611-CTFの膜付近の領域の一次配列を模式的に示す。この分子のN末端およびC末端を示す。膜貫通ドメインおよびキナーゼドメインをそれぞれ破線およびグレーのボックスによって示す。異なる欠失構築物の配列を示す。図8(A)を参照のこと。
【0103】
(B) 指定のアミノ酸で始まるcDNA欠失構築物で一時的にトランスフェクトされたMCF-7細胞を溶解した。HER2の細胞質ドメインに対する抗体であるCB11またはペプチドMPIWKFPDEEGASQPSPINSTHSSVDLDDKGCに対して産生された2つの独立したモノクローナル抗611-CTF抗体を用いたウエスタンブロットによって細胞ライセートを分析した。図8(B)を参照のこと。
【0104】
結論。抗体32H2および20F4によって認識されるエピトープが含まれるか、または少なくとも配列MPIWKFPDEECと重複する。
【0105】
実施例7: 611-CTFのN末端に対するモノクローナル抗体を用いたまたはHerceptestTMによる、ヒト乳癌サンプルの分析
(A) 指定のサンプル中のHER2の発現をHerceptestTM、蛍光インサイチュハイブリダイゼーション(Fluorescence In Situ Hybridization)(FISH)またはウエスタンブロットで分析した。ウエスタンブロットによる判断で検出可能なレベルのHER2カルボキシ末端断片(P95としても知られる)を発現するサンプルを示す((Scaltriti, M., Rojo, F., Ocana, A., Anido, J., Guzman, M., Cortes, J., Di Cosimo, S., Matias-Guiu, X., Ramon y Cajal, S., Arribas, J., and Baselga, J. (2007) J Natl Cancer Inst 99(8), 628-638)を参照のこと)。図9(A)を参照のこと。
【0106】
(B) ペプチドMPIWKFPDEEGASQPSPINSTHSSVDLDDKGC (図1を参照のこと)に対して産生されたモノクローナル抗611-CTF抗体である32H2、またはHER2の細胞質ドメインを染色するHerceptestTMによる、Aと同じ乳癌サンプルの免疫細胞化学染色。図9(B)を参照のこと。
【0107】
結論。免疫組織化学によって、抗体32H2は、ウエスタンブロットによる判断で検出可能なレベルのCTFを発現することがあらかじめ知られているヒト乳癌サンプルを染色する。
【0108】
実施例8: インビボでのCTF発現の影響を特徴付けるための動物モデルの作製
マウスモデルは、腫瘍の進行に関するHER2の発癌性および関連性を示すために役立った。その発癌性を特徴付けるために、発明者らは、乳腺で優先的に活性なマウス乳癌ウイルス長末端反復配列の制御下で611-CTFを発現するトランスジェニック(TG)マウスを確立した。細胞モデルは可溶性細胞内CTFが不活性であることを示したが、これらの断片の発現の結果をさらに調査するために、発明者らはまた、687-CTFを発現するTG動物を作製した。コントロールとして、発明者らは、野生型HER2を発現する、従来の十分に特徴付けれているモデル(すなわちrat neu)を使用した。
【0109】
7週齢の時点で、ヘテロ接合性TG 611系統F3およびF2で発現された611-CTFのレベルは、それぞれ、内因性HER2のレベルと、ほぼ等しい〜1/3であったが、F1でのレベルは検出閾値未満であった。開発されたホモ接合性系統での687-CTFのレベルは、TG 687系統F2およびF1それぞれでHER2のレベルの約2倍〜半分で変動した。
【0110】
TG動物の乳腺は7週齢の時点で目に見える異常性を示さなかった。しかし、カーミン染色全組織標本の形態学的検査では、TG HER2マウスの乳管ツリー(mammary ductal trees)での過形成の異常性が示された。それほど顕著ではないが、TG 611マウスの全3系統に類似の異常性が存在した。対照的に、TG 687マウスの腺は野生型マウスの腺と区別できなかった。
【0111】
実施例9: 611-CTF発現は攻撃的な乳癌の発生を導く
TG HER2マウスでの、より顕著な過形成にもかかわらず、3系統のTG 611動物は、腫瘍の数/動物、腫瘍成長および腫瘍発症に関して、より攻撃的な腫瘍を発生した。
【0112】
乳腺
【表3】

(毎週の触診によって乳癌の出現をモニターした。)
【0113】
TG 687動物では、1年を超える追跡調査後でさえ、腫瘍または異常は観察されなかった。
【0114】
腫瘍の組織学的分析では、TG 611マウスでHER2によって誘発される同一の典型的な浸潤性固形結節性癌腫が示された。HER2および611-CTFによって主導された腫瘍間の唯一の組織学的差異は、TG 611マウス由来の腫瘍で有糸分裂画像の数が多いことであった。
【0115】
以前に示されるように、TG HER2マウスは肺転移を発生した。腫瘍の検出の3〜6週間後に、約1/4のTG HER2動物は肺に検出可能な小結節を有した。
【表4】

(触診による腫瘍検出の3〜6週間後にマウスを犠牲にし、免疫組織化学によって転移の出現をモニターした)。
【0116】
肺転移の組織学的分析によってHER2の発現が確認され、サイトケラチン18での染色によって細胞が原発腫瘍由来であることが確かめられた。TG HER2と比較して、検出可能な転移を有する611-CTFを発現する動物の数は2倍以上であった。このことは、このCTFによって主導された腫瘍が、肺に浸潤する傾向をより顕著に有することを示す。
【0117】
配列
配列番号1



【0118】
配列番号2

【0119】
配列番号3

【0120】
配列番号4

【0121】
配列番号5

【配列表フリーテキスト】
【0122】
配列番号1 ヒトタンパク質HER2の末端切断形態またはカルボキシ末端断片(CTF)
配列番号2 ヒトHER2タンパク質の末端切断形態のエピトープ
配列番号3 ヒトHER2タンパク質の末端切断形態のエピトープ
配列番号4 ヒトHER2タンパク質の末端切断形態のエピトープから由来する合成ペプチド
配列番号5 ヒトHER2タンパク質の末端切断形態のエピトープから由来する合成ペプチド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2に含まれる配列によって規定される、HER2受容体末端切断形態のエピトープを認識する抗体またはその断片。
【請求項2】
エピトープが配列番号3に含まれるものである、請求項1に記載の抗体またはその断片。
【請求項3】
抗体またはその断片が、配列番号1のタンパク質をHER2受容体と区別するのに適している、請求項1または2に記載の抗体または断片。
【請求項4】
抗体またはその断片が、配列番号1のタンパク質をHER2受容体末端切断形態648-CTF/p95と区別するのに適している、先行する請求項の一項以上に記載の抗体または断片。
【請求項5】
免疫蛍光、フローサイトメトリー、培養細胞での免疫組織化学、および患者由来のサンプルでの免疫組織化学のうちの1以上によってその区別を視覚化することができる、請求項3または4に記載の抗体または断片。
【請求項6】
ポリクローナル抗体である、先行する請求項の一項以上に記載の抗体またはその断片。
【請求項7】
モノクローナル抗体またはその断片である、請求項1〜6の一項以上に記載の抗体またはその断片。
【請求項8】
アクセッション番号DSM ACC2904でドイツ微生物・細胞コレクションDSMZ(Deutschland Sammlung von Mikroorganismen und Zellen)に寄託されたハイブリドーマセルラインまたはアクセッション番号DSM ACC2980でドイツ微生物・細胞コレクションDSMZ(Deutschland Sammlung von Mikroorganismen und Zellen)に寄託されたハイブリドーマセルラインによって産生される、請求項7に記載の抗体またはその断片。
【請求項9】
前記断片が、F(ab)、F(ab')およびFvによって形成される群から選択されるものである、先行する請求項の一項以上に記載の抗体または断片。
【請求項10】
請求項7または8に記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
【請求項11】
請求項1〜9の一項以上に記載の抗体を生産する方法であって、場合により免疫原とコンジュゲートされている、配列番号3または配列番号4からなるペプチドで免疫化するステップを含む、方法。
【請求項12】
請求項10に記載のハイブリドーマセルラインを好適な培養培地中で増殖させ、この培地からモノクローナル抗体を回収する、モノクローナル抗体を取得するための請求項11記載の方法。
【請求項13】
配列番号2、配列番号3、配列番号4または配列番号5からなる、単離されたペプチド。
【請求項14】
癌を診断する方法であって、患者サンプル中の、配列番号1のアミノ酸配列からなるHER2受容体末端切断形態の存在を検出するステップを含む、方法。
【請求項15】
以下:
(i) 配列番号1からなるHER2受容体末端切断形態の、該HER2受容体の完全形態と比較した移動差による検出; および
(ii) 請求項1〜12の一項以上で規定される1種以上の抗体との結合による検出
を含む群から独立して選択される手段で前記検出を実施する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
腫瘍成長および/または転移の進行の予後診断を可能にする予後診断方法である、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】
HER2受容体が発現している癌の単離されたサンプルにおける診断および予後決定のための、請求項1〜9のいずれかに記載の抗体またはその断片の使用。
【請求項18】
HER2受容体またはその末端切断変異体を発現するタイプの癌の単離されたサンプルにおける診断および予後決定用の物質であって、請求項1〜9のいずれかに記載の少なくとも1種の抗体またはその断片を含む、物質。
【請求項19】
抗体またはその断片が固体支持体上に配置されている、請求項18に記載の診断用の物質。
【請求項20】
HER2受容体またはその末端切断変異体を発現するタイプの癌の単離されたサンプルにおける診断および予後決定用のキットであって、配列番号1からなるHER2受容体末端切断形態の、サンプル中の存在を検出するための手段を含む、キット。
【請求項21】
検出の手段が請求項19または20に記載の少なくとも1種の物質を含む、請求項22に記載の診断および予後決定用のキット。
【請求項22】
検出の手段が、配列番号1のHER2受容体末端切断形態の、該HER2受容体の完全形態と比較した移動差による検出からなる、請求項20に記載の診断および予後決定用のキット。
【請求項23】
治療的使用のための、請求項1〜9の一項以上に記載の抗体またはその断片。
【請求項24】
少なくとも配列番号1からなるHER2受容体末端切断形態が発現している癌の治療または予防用の、請求項23に記載の抗体または断片。
【請求項25】
ヒトを含む哺乳類の乳癌の治療または予防用の、請求項23または24に記載の抗体または断片。
【請求項26】
肺、膵臓、結腸、胃、前立腺、頭部および頸部、皮膚、腎臓、睾丸、甲状腺、膀胱、子宮、外陰、子宮内膜、卵巣、食道、口、唾液腺、喉頭、腹膜、鼻部および咽頭領域、卵管の癌、そしてウィルムス腫瘍ならびにリンパ腫、スイング肉腫(Swing sarcomas)、滑膜肉腫、髄芽腫、栄養膜腫瘍、グリオーマ(glyomas)、グリオブラストーマ(glyoblastomas)、胆管癌、コレステリン腫、軟骨肉腫、上衣細胞腫、神経鞘腫、神経腫、横紋筋肉腫を含む群から選択される癌の治療または予防用の、請求項23〜25の一項以上に記載の抗体または断片。
【請求項27】
癌の治療のための医薬の製造のための、請求項1〜9の一項以上で規定される抗体またはその断片の使用。
【請求項28】
配列番号1を含有する少なくともHER2受容体末端切断形態が発現している癌の治療用のの医薬組成物であって、請求項1〜9のいずれかに記載の抗体またはその断片および少なくとも1種の製薬的に許容される賦形剤および/またはビヒクルを含むことを特徴とする、医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−525175(P2011−525175A)
【公表日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512150(P2011−512150)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【国際出願番号】PCT/EP2009/056976
【国際公開番号】WO2010/000565
【国際公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(510322694)フンダシオ プリバーダ インスティトゥト デ レセルカ ホスピタル ウニベルシタリ バル ヘブロン (2)
【出願人】(510322708)
【出願人】(510322719)
【Fターム(参考)】