説明

HER2/neu特異的抗体およびその使用方法

本発明は、公知の4D5抗体と比較してグリコシル化が減少している、HER2/neuに特異的に結合する抗体、特に、HER2/neuに対するキメラ4D5抗体に関する。本発明は、癌、自己免疫疾患、炎症性障害および感染症などの疾患の診断、予後判定および治療での、4D5抗体およびそれらを含む組成物の使用方法にも関する。本発明のポリペプチドは、例えば、N65S置換を含むキメラ4D5免疫グロブリン軽鎖を含むポリペプチドである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の引用:
本出願は、2008年4月2日に出願された米国特許出願第61/041,649号(係属中)に対する優先権を主張する。米国特許出願第61/041,649号は、その全体が本明細書中に参考として援用される。
【0002】
配列表への参照:
本出願は、米国特許施行規則1.821条以下に従って、1つまたはそれより多くの配列表を含み、それらは、紙およびコンピュータ読み取り可能な媒体の両方で開示され、その紙およびコンピュータ読み取り可能な開示は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0003】
発明の背景:
発明の分野:
本発明は、公知の4D5抗体と比較してグリコシル化が減少し、エフェクター機能が変化している、HER2/neuに特異的に結合する新規4D5抗体、特に、HER2/neuに対する新規キメラ4D5抗体に関する。本発明は、癌、自己免疫疾患、炎症性障害および感染症などの疾患の診断、予後判定および治療での抗体およびそれらを含む組成物の使用方法にも関する。
【背景技術】
【0004】
関連技術の説明:
HER2/neuおよびHER2/neu受容体
細胞の増殖および分化過程は、チロシンキナーゼなどの特異的受容体を通してそれらの作用を発揮する増殖因子を含む。チロシンキナーゼ受容体へのリガンドの結合は、最終的に細胞の増殖および分化をもたらす事象のカスケードを誘発する。(Carpenterら(1979年)Biochem. 48巻:193〜216頁(非特許文献1)、Sachsら(1987年)Cancer Res. 47巻:1981〜8196頁)。チロシンキナーゼ受容体は、配列類似性および異なる特徴に基づいていくつかの群に分類することができる。そのようなファミリーの1つはErbBまたは上皮増殖因子受容体ファミリーであり、それは、HER−1(erbB−1またはEGFRとしても公知)、HER−2またはHER2/neu(erbB−2、c−neuまたはp185としても公知)、HER−3(erbB−3としても公知)およびHER−4(erbB−4としても公知)として公知の複数の受容体を含む。(例えば、上記Carpenterら、Sembaら(1985年)Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 82巻:6497〜6501頁、Coussensら(1985年)Science、230巻:1130〜1139頁、Bargmannら(1986年)Cell 45巻:649〜657頁、Krausら(1989年)PNAS 86巻:9193〜9197頁、Carrawayら(1994年)J. Biol. Chem. 269巻:14303〜14306頁およびPlowmanら(1993年)Nature 366巻:473〜475頁、Tzaharら(1994年)Biol. Chem. 269巻:25226〜25233頁を参照)。
【0005】
ErbB受容体は、正常な発達過程およびヒト腫瘍形成の両方において、細胞の増殖、分化、運動およびアポトーシスを調節するシグナルを伝えることに重要な役割を果たす。(Slamonら(1989年)Science 244巻:707〜712頁)。例えば、erbB受容体の活性化は、下流のMAPK−Erk1/2およびホスホイノシチド−3−キナーゼ(PIK)/AKTの増殖経路および生存経路と結び付いており、それらを刺激する。癌におけるこれらの経路の脱調節は、疾患の進行および治療への不応性に関連付けられた。(Fukazawaら(1996年)J. Biol. Chem. 271巻:14554〜14559頁、Tzaharら(1996年)Mol. Cell. Biol. 16巻:5276〜5287頁、Langeら(1998年)J. Biol. Chem. 273巻:31308〜31316頁、 Olayioyeら(1998年)Mol. Cell. Biol. 18巻:5042〜5051頁、Hackelら(1999年)Curr. Opin. Cell Biol. 11巻:184〜189頁)。PIK/AKTの活性化は、細胞の生存を促進し、腫瘍攻撃性を高め、AKT2は、HER2/neuを過剰発現する乳癌で活性化および過剰発現されると報告された。(Shak(1999年)Semin. Oncol.補遺12巻:71〜77頁、Huangら(2000年)Clinical Cancer Res. 7巻:2166〜2174頁、Bacusら(2002年)Oncogene 21巻:3532〜3540頁)。
【0006】
ErbBファミリーの受容体によるシグナル伝達は、ホモまたはヘテロの受容体二量体化、細胞質テールの相互のチロシンリン酸化および細胞内シグナル伝達経路の活性化を誘発するリガンド結合によって開始される。(Citriら(2003年)Exp. Cell Res. 284巻:54頁)。ErbB受容体に結合して活性化するリガンドの有効性は、特定のタンパク質の細胞表面外部ドメイン脱落を触媒する、ADAM(ディスインテグリンおよびメタロプロテアーゼ)ファミリーの亜鉛依存性メタロプロテアーゼなどの、様々なメタロプロテアーゼによって媒介される。(ChangおよびWerb(2001年)Trends in Cell Biology 11巻:537〜543頁、MossおよびLambert(2002年)Essays in Biochemistry 38巻:141〜153頁、SealsおよびCourtneidge(2003年)Genes and Development 17巻:7〜30頁を参照)。具体的には、ADAMファミリーは、ErbB受容体の活性化を担うリガンド(APPおよびNotchなど)を切断することが示されている。(Blobel(2005年)Nat. Rev. Mol. Cell. Biol. 6巻:32〜43頁)。
【0007】
ErbBファミリーの重要なメンバーであるHER2/neuは、化学処理ラットの神経芽細胞腫からの形質転換遺伝子の産物として当初同定された185kDa受容体タンパク質である。HER2/neuは、いくつかのヒト癌腫および哺乳動物の発達におけるその役割のため、広く調査されてきた。(HynesおよびStern(1994年)Biochim. et Biophys. Acta 1198巻:165〜184頁およびDougallら(1994年)Oncogene 9巻:2109〜2123頁、Leeら(1995年)Nature 378巻:394〜398頁)。ヒトHER2/neu遺伝子およびHER2/neuタンパク質はSembaら(1985年)Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 82巻:6497〜6501頁およびYamamotoら(1986年)Nature 319巻:230〜234頁に記載され、その配列はGenBankにおいてアクセッション番号X03363として入手可能である。HER2/neuは、4つのドメインを含む:リガンドが結合する細胞外ドメイン;親油性膜貫通ドメイン;保存された細胞内チロシンキナーゼドメイン;およびリン酸化されることができるいくつかのチロシン残基を保有するカルボキシル末端シグナル伝達ドメイン。(Plowmanら(1993年)Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 90巻:1746〜1750頁)。HER2/neu細胞外ドメイン(ECD)の配列は、Franklinら(2004年)Cancer Cell. 5巻(4号):317〜328頁によって記載された。そしてタンパク質データバンク記録1S78(2004年)から入手可能である。
【0008】
HER2/neuは増殖因子受容体として機能し、乳癌、卵巣癌および肺癌などの腫瘍によってしばしば発現される。HER2/neuはヒトの乳癌および卵巣癌のうちの25〜30%で過剰発現され、これらの患者における攻撃性臨床進行および不良な予後に関連する。(Slamonら(1987年)Science 235巻:177〜182頁、Slamonら(1989年)Science 244巻:707〜712頁)。HER2/neuの過剰発現は、胃、子宮内膜、唾液腺、肺、腎臓、結腸、甲状腺、膵臓および膀胱の癌腫を含む他の癌腫でも観察されている。(例えば、Kingら(1985年)Science 229巻:974頁、McCannら(1990年)Cancer 65巻:88〜92頁、Yonemuraら(1991年)Cancer Research 51巻:1034頁を参照)。
【0009】
HER2/neuの活性化は、乳癌患者におけるホルモン治療に対する臨床応答の低下と関連付けられている。(Wrightら(1989年)Cancer Res. 49巻:2087〜2090頁、Kurokawa & Arteaga(2001年)Clin. Cancer Res. 7巻:4436s〜42s頁、4411s〜4412s頁)。実際、HER2/neuの発現は、抗エストロゲン抵抗性を伝達するのに十分である。(Benzら(1993年)Breast Cancer Res. Treat. 24巻:85〜95頁)。HER2/neuならびにHER−3は、前立腺癌患者におけるホルモン抵抗性の開始にも関与するようでもある。前立腺癌患者の約1/3は、精巣および副腎のアンドロゲンの作用を破壊することが目的のホルモン治療を受ける。乳癌と同様に、抵抗性は回避不能である。最近のデータは、HER2/neuおよびHER−3から発するシグナルが、「ホルモン治療不応性」状態を誘導することを示唆する。(Mellinghoffら(2004年)Cancer Cell 6巻:517〜527頁)。
【0010】
HER2/neuのいくつかの切断型バージョンおよびスプライスバージョンが公知である。例えば、一部の胃癌腫細胞の核周囲細胞質に位置する切断型ECDは、イントロン内のポリアデニル化シグナルの使用によって生成される選択的転写産物によって生成される。(Yamamotoら(1986年)Nature 319巻:230〜234頁およびScottら(1993年)Mol. Cell. Biol. 13巻:2247〜2257頁)。いかなる特定の治療、診断または研究上の有用性も、この切断型ECDポリペプチドによって生じたものとはみなされていない。HER2/neuのECDは、培養中の乳癌腫細胞からタンパク質分解的に脱落させることもでき、また一部の癌患者の血清で見出され、その場合、それは転移性乳癌および全体的な予後不良の血清マーカーであり得る。(Petchら(1990年)Mol. Cell. Biol. 10巻:2973〜2982頁、Leitzelら(1992年)J. Clin. Oncol. 10巻:1436〜1443頁、Scottら(1993年)Mol. Cell. Biol. 13巻:2247〜2257頁ならびにLeeおよびMaihle(1998年)Oncogene 16巻:3243〜3252頁)。一部のHER2/neu過剰発現腫瘍細胞では、周知のメタロプロテアーゼ活性化剤である4−アミノフェニル第二水銀アセテート(APMA)が、ADAM10およびADAM15などのメタロプロテアーゼを活性化して、HER2/neu受容体を2つの部分(p95として公知の切断型膜結合型受容体およびp105またはECD105として公知の可溶性ECD)へと切断する。(例えば、Molinaら(2001年)Cancer Res. 61巻:4744〜4749頁、米国特許出願公開第2004/0247602号を参照)。ECDの喪失は、p95受容体を構成的に活性なチロシンキナーゼにし、それは、癌細胞に増殖および生存のシグナルを送達することができる。(例えば、米国特許第6,541,214号を参照)。
【0011】
HER2/neuを過剰発現する乳癌細胞では、化学療法剤(例えば、シスプラチン、ドキソルビシン(doxoubicin)、タキソール)と組み合わせたHER2/neu特異抗体を用いた処置が、化学療法単独による処置よりも高い細胞傷害応答を引き出すことを研究は示している。(Hancockら(1991年)Cancer Res. 51巻:4575〜4580頁、Arteagaら(1994年)Cancer 54巻:3758〜3765頁、Pietrasら(1994年)Oncogene 9巻:1829〜1838頁)。HER2/neu抗体が化学療法剤に対する応答を高める可能性がある1つの可能な機構は、HER2/neuタンパク質発現の調節を通すもの、またはDNA修復を妨害することによるものである。(Stancovskiら(1991年)Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 88巻:8691〜8695頁、Bacusら(1992年)Cell Growth & Diff. 3巻:401〜411頁、Bacusら(1993年)Cancer Res. 53巻:5251〜5261頁、Klapperら(1997年)Oncogene 14巻:2099〜2109頁、Klapperら(2000年)Cancer Res. 60巻:3384〜3388頁、Arteagaら(2001年)J Clinical Oncology 19巻(18s号):32s〜40s頁)。
【0012】
HER−1またはHER2/neuをターゲティングする多くのモノクローナル抗体および低分子チロシンキナーゼ阻害剤が開発されている。例えば、4D5として公知のマウスモノクローナル抗体は、膜貫通領域の非常に近くに存在する、HER2/neuのシステインリッチIIドメイン中の細胞外エピトープ(アミノ酸529〜627)を認識する。4D5を用いた乳癌細胞の処置は、受容体リン酸化アッセイで測定したところ、HER2/neu−HER−3複合体のNDF/ヒレグリン活性化を部分的にブロックする。(Carterら(1992年)Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 89巻:4285〜4289頁、Sliwkowskiら(1999年)Sem. in Oncol. 26巻:60〜70頁、Yeら(1999年)Oncogene 18巻:731〜738頁、Vogelら(2001年)Oncology 61巻(補遺2巻):37〜42頁、Vogelら(2002年)Journal of Clinical Oncology 20巻(3号):719〜726頁、Fujimoto−Ouchiら(2002年)Cancer Chemother. Pharmacol. 49巻:211〜216頁)。しかし、ヒトへの4D5の投与は、患者が速やかにHAMA応答を起こしたため臨床上失敗であったので、ヒト化された形態を開発した。ヒト化抗体4D5の配列および結晶構造は、米国特許第6,054,297号、上記Carterら、およびEigenbrotら(1993年)J. Mol. Biol. 229巻:969〜95頁に記載されている。
【0013】
トラスツズマブ(Genentech,Inc.によりHerceptin(登録商標)として販売されている)として公知の4D5のヒト化形態は、乳癌を含むHER2/neuの過剰発現または遺伝子増幅に関係する癌を処置するために、開発および承認された。(Cobleighら(1999年)J. Clin. Oncol. 17巻:2639〜2648頁)。トラスツズマブは、ECD部分およびp95部分へのHER2/neuのAPMA媒介切断をインビトロで阻害し、HER2/neu脱落の可能な阻害を含む異なる機構を通してインビトロで作用すると考えられている。(Pegramら(1998年)Journal of Clinical Oncology 16巻(8号):2659〜2671頁、Baselgaら(2001年)Seminars in Oncology 28巻(5号)(補遺16巻):4〜11頁、Baselgaら(2001年)Annals of Oncology 12巻(補遺1巻):S35〜S41頁。しかし、トラスツズマブ治療は、一部の患者での心臓毒性およびHAHA応答の発生など、様々な欠点を有する。
【0014】
したがって、癌治療で使用するためのHER2/neu抗体の新しい形態または改善された形態、例えばより高い親和性または特異性、HAMA応答またはHAHA応答のより低い可能性、変化したエフェクター機能などを有する4D5抗体の必要性がまだある。
【0015】
Fc受容体
免疫系の細胞との抗体抗原複合体の相互作用は、抗体依存性細胞傷害、肥満細胞脱顆粒および食作用などのエフェクター機能から、リンパ球増殖および抗体分泌の調節などの免疫調節シグナルまでに及ぶ広範囲の応答をもたらす。すべてのこれらの相互作用は、造血細胞上の専門化した細胞表面受容体であるFc受容体に対する、抗体または免疫複合体のFcドメインの結合を通して開始される。抗体および免疫複合体によって誘発される細胞応答の多様性は、Fc受容体の構造不均一性から生じる。Fc受容体は、おそらく細胞内シグナル伝達を媒介する、構造的に関連したリガンド結合ドメインを共有する。
【0016】
免疫グロブリン遺伝子スーパーファミリーのタンパク質のメンバーであるFc受容体は、免疫グロブリン分子のFc部分に結合することができる表面糖タンパク質である。ファミリーの各メンバーは、Fc受容体のα鎖上の認識ドメインを通して、1つまたはそれより多くのアイソタイプの免疫グロブリンを認識する。Fc受容体は、免疫グロブリンサブタイプへのそれらの特異性によって定義される。IgGについてのFc受容体は「FcγR」と称され、IgEについてのFc受容体は「FεR」と称され、IgAについてのFc受容体は「FcαR」と称される。異なる補助細胞は異なるアイソタイプの抗体のFc受容体を保有し、抗体のアイソタイプはどの補助細胞が所与の応答に関与するかを決定する(Billadeauら(2002年)J. Clin. Investigat. 2巻(109号):161〜81頁、Gerberら(2001年)Microbes Infection 3巻:131〜139頁、Ravetchら(2001年)Annu. Rev. Immunol. 19巻:275〜90頁、Ravetchら(2000年)Science 290巻:84〜89頁、Ravetch(1994年)Cell 78巻(4号):553〜560頁、Ravetchら(1991年)Annu. Rev. Immunol. 9巻:457〜492頁、Immunobiology: The Immune System in Health and Disease(第4版、1999年)、Elsevier Science Ltd/Garland Publishing、New Yorkも参照)。様々な受容体の概要を、表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
各Fcγ受容体(「FcγR」)は、C2セットの免疫グロブリン関連のドメインに関係がある細胞外ドメイン、一回膜貫通ドメインおよび可変長の細胞質内ドメインを有する、内在性膜糖タンパク質である。FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)およびFcγRIVと命名された、4つの公知のFcγRがある。これらの受容体は、別個の遺伝子によってコードされている。しかし、ファミリーメンバー間の多大な相同性は、それらがおそらく遺伝子重複によって共通の祖先から発生したことを示唆する。
【0019】
活性化シグナルおよび阻害シグナルはいずれも、連結後にFcγRを通して伝達される。これらの正反対の機能は、異なる受容体アイソフォーム間の構造的な差から生じる。免疫受容体チロシンベース活性化モチーフ(ITAM)または免疫受容体チロシンベース阻害モチーフ(ITIM)と呼ばれる、この受容体の細胞質シグナル伝達ドメイン中の2つの別個のドメインは、異なる応答の原因となる。これらの構造への異なる細胞質酵素の補充は、FcγR媒介細胞応答の結果を決定する。ITAM含有FcγR複合体には、FcγRI、FcγRIIA、FcγRIIIAおよびFcγRIVが含まれるが、ITIM含有複合体にはFcγRIIBだけが含まれる。
【0020】
FcγRIは、抗体定常領域に対する高い親和性、および限定的アイソタイプ特異性を示す(HulettおよびHogarth(1994年)Adv Immunol 57巻:1〜127頁)。FcγRIIタンパク質は、単量体Igに対する低い親和性(106M−1)のために、複合体化したIgGだけに結合する40KDaの内在性膜糖タンパク質である。この受容体は、単球、マクロファージ、B細胞、NK細胞、好中球、肥満細胞および血小板を含むすべての造血細胞に存在する、最も広く発現されるFcγRである。FcγRIIは、その免疫グロブリン結合鎖に2つの免疫グロブリン様領域だけを有し、したがって、IgGに対してFcγRIよりもずっと低い親和性を有する。3つの公知のヒトFcγRII遺伝子(FcγRII−A、FcγRII−B、FcγRII−C)があり、そのすべては凝集体または免疫複合体中のIgGに結合する。ヒト好中球は、FcγRIIA遺伝子を発現する。FcγRIIB遺伝子は、Bリンパ球で発現される。その細胞外ドメインは、FcγRIIAと96%同一であり、区別できない様式でIgG複合体に結合する。
【0021】
FcγRII−AおよびFcγRII−Bの細胞質ドメイン中の明確な差は、受容体連結に対する2つの機能的に異質な応答を生成する。FcγRII−Aアイソフォームは、食作用および呼吸バーストなどの細胞活性化につながる細胞内シグナル伝達を開始するが、FcγRII−Bアイソフォームは、阻害シグナル、例えばB細胞活性化の阻害を開始する。免疫複合体または特異抗体架橋によるFcγRIIAクラスタリングは、ITAMリン酸化を促進する受容体関連キナーゼとともにITAMを凝集する役目を果たす。ITAMリン酸化はSykキナーゼのドッキング部位の役目を果たし、その活性化は下流の基質(例えば、PI3K)の活性化をもたらす。細胞の活性化は、炎症促進性媒介物質(proinflammatory mediator)の放出につながる。FcγRIIAまたはFcεRIなど、ITAMを有する活性化FcγRとともに共連結(co−ligate)または共凝集(co−aggregate)されると、FcγRIIB中のITIMはリン酸化され、srcホモロジー2含有イノシトールホスファターゼ(SHIP)のSH2ドメインを補充し、それは次にリン酸化されてShcと結合する(Ott(2002年)J. Immunol. 162巻(9号):4430〜4439頁、Yamanshiら(1997年)Cell 88巻:205頁、Carpinoら(1997年)Cell 88巻:197頁)。SHIPは、ITAM含有FcγR媒介チロシンキナーゼ活性化の結果として放出されるホスホイノシトールメッセンジャーを加水分解し、その結果として細胞内Ca++の流入を防止し、FcγR連結に対する細胞応答を低下させる。したがって、B細胞活性化、B細胞増殖および抗体分泌が阻止され、FcγR媒介食作用が下方制御される(Tridandapaniら(2002年)J. Biol. Chem. 277巻(7号):5082〜89頁)。
【0022】
具体的には、FcγRIIBとのFcγRIIAとの共凝集は、細胞の調節に関与しアポトーシスを抑制する役目を果たすセリンスレオニンキナーゼであるAktのリン酸化の下方制御をもたらし、肥満細胞の高親和性IgE受容体FcεRIとのFcγRIIBの共凝集は、抗原誘導脱顆粒、カルシウム動員およびサイトカイン生成の阻害をもたらす(Long(1999年)Annu Rev. Immunol 17巻:875頁、Metcalfeら(1997年)Physiol. Rev. 77巻:1033頁)。FcγRIIBおよびB細胞受容体(BCR)の共凝集は、BCR媒介シグナル伝達の阻害、ならびに細胞周期進行および細胞生存の阻害をもたらす。BCRシグナル伝達のFcγRIIB媒介阻害の多数のエフェクター機能はSHIPを通して媒介されるが、SHIP欠失マウスからのリポポリサッカリド(LPS)活性化B細胞が、カルシウム動員、Ins(1,4,5)P3生成、ならびにErkおよびAktのリン酸化の顕著なFcγRIIB媒介阻害を示すことが最近証明された(Brauweilerら(2001年)Journal of Immunology 167巻(1号):204〜211頁)。
【0023】
このクラス内の不均一性のために、マウスおよびヒトにおけるFcγRIIIのサイズは40〜80kDaの範囲である。2つのヒト遺伝子は、2つの転写産物(内在性膜糖タンパク質であるFcγRIIIA、およびグリコシルホスファチジル−イノシトール(GPI)連結バージョンであるFcγRIIIB)をコードする。1つのマウス遺伝子は、膜貫通ヒトFcγRIIIAに相同的なFcγRIIIをコードする。FcγRIIIは、他の2つのFcγRの各々と構造上の特徴を共有する。FcγRIIと同様に、FcγRIIIはIgGに低い親和性で結合し、対応する2つの細胞外Ig様ドメインを含む。FcγRIIIAは、マクロファージ、肥満細胞で発現され、NK細胞で唯一のFcγRである。GPI連結FcγRIIIBは、ヒト好中球だけで発現されることが現在公知である。
【0024】
FcγRIV(mFcRIVとしても公知)は、骨髄細胞での最適な発現および機能のためにFcRγ鎖の結合を必要とする。そのシグナル伝達能力は、アダプター分子Crk−Lおよびホスファチジルイノシトール−3−OHキナーゼを補充する細胞質「YEEP」モチーフによっても高められる。FcγRIVは、bアロタイプの免疫グロブリンE抗体(IgEb)、ならびにIgG2a抗体およびIgG2b抗体に優先的に結合する。抗原−IgEb免疫複合体によるFcγRIVの連結は、マクロファージ媒介食作用、T細胞への抗原提示、炎症促進性サイトカインの生成および皮膚アレルギー反応の後期相を促進する(Hiranoら(2007年)Nature Immunology 8巻:762〜771頁)。FcγRIVは、すべての哺乳動物種で保存されている、中間の親和性および限定的サブクラス特異性を有する最近同定された受容体である(Nimmerjahnら(2005年)Immunity 23巻:41〜51頁、Mechetinaら(2002年)Immunogenetics 54巻:463〜468頁、Davisら(2002年)Immunol Rev 190巻:23〜36頁)。FcRIIIおよびFcRIVは、細胞傷害性抗体または病原性免疫複合体によって誘発される炎症性疾患を媒介するための、生理的に重要な活性化FcRである。FcRIVは、樹状細胞、マクロファージ、単球および好中球上に見出される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】Carpenterら(1979年)Biochem. 48巻:193〜216頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
すべてのそのような進歩にもかかわらず、自己免疫、癌、炎症性疾患の処置および/または移植で治療的有用性を有し、Fc受容体からのエフェクター機能を媒介する向上した能力を示す、抗HER2/neu抗体の必要性がまだある。本発明は、この必要性および他の必要性に関する。
【課題を解決するための手段】
【0027】
発明の概要
本発明の実施形態は、様々なポリペプチド、例えば配列番号4のアミノ酸配列を有する免疫グロブリン軽鎖可変ドメインを含むポリペプチド、配列番号2のアミノ酸配列を有する免疫グロブリン軽鎖を含むポリペプチド、およびN65S置換を含むキメラ4D5免疫グロブリン軽鎖を含むポリペプチドを提供する。他の実施形態は、配列番号7のアミノ酸配列を有する免疫グロブリン重鎖を含むポリペプチド、配列番号9、配列番号11および配列番号13からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する免疫グロブリン重鎖を含むポリペプチド、ならびに様々な置換を含む4D5免疫グロブリン重鎖を含むポリペプチドを提供する。
【0028】
上記ポリペプチドは抗体であってもよく、ヒトHER2/neuに特異的に結合してもよい。上記ポリペプチドおよび抗体は、変更されたエフェクター機能、FcγRへの結合の増加または減少などを含めた表現型変化を上記ポリペプチドまたは抗体に付与し得る1つまたはそれより多くの改変を含む、バリアントFcドメインを含み得る。本発明の実施形態は、上記ポリペプチドおよび抗体をコードするポリヌクレオチド、上記ポリヌクレオチドを含むベクターならびに上記ベクターを含む宿主細胞も提供する。上記ポリペプチドおよび抗体の生成方法、ならびに様々な疾患および障害の処置方法も提供される。
【0029】
詳細には、本発明は、N65S置換を含むキメラ4D5免疫グロブリン軽鎖を含むポリペプチド、特に、上記ポリペプチドが配列番号4または配列番号2のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインを含むようなポリペプチドの実施形態を提供する。
【0030】
本発明は、特に、上記ポリペプチドが抗体、より詳しくは、Fcドメインで少なくとも1つの改変を有するバリアントFcドメインを含む抗体であるようなポリペプチドの実施形態に関する。本発明は、上記改変が、L235V、F243L、R292P、Y300L、V305IおよびP396Lからなる群から選択される少なくとも1つの置換を含む実施形態に特に関する。
【0031】
本発明は、上記Fcドメイン中の改変が、
(A)F243L、D270E、R292P、S298N、Y300L、V305I、A330VおよびP396Lからなる群から選択される少なくとも1つの置換;
(B)F243LおよびP396L;F243LおよびR292P;ならびにR292PおよびV305Iからなる群から選択される少なくとも2つの置換;
(C)F243L、R292PおよびY300L;F243L、R292PおよびV305I;F243L、R292PおよびP396L;ならびにR292P、V305IおよびP396Lからなる群から選択される少なくとも3つの置換;または
(D)F243L、R292P、Y300LおよびP396L;ならびにF243L、R292P、V305IおよびP396Lからなる群から選択される少なくとも4つの置換
を含むような抗体の実施形態にさらに関し、
より詳細には、上記Fcドメイン中の改変が
(1)F243L、R292PおよびY300L;
(2)L235V、F243L、R292P、Y300LおよびP396L;または
(3)F243L、R292P、Y300L、V305IおよびP396L
を含む抗体に関する。
【0032】
本発明は、野生型Fcドメインと比較して、上記バリアントFcドメインが、
(A)強化された抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC);
(B)FcγRIIAまたはFcγRIIIAへの結合の増加;
(C)FcγRIIBへの結合の減少;または
(D)FcγRIIBへの結合の増加
を示すような抗体の実施形態にさらに関する。
【0033】
本発明は、配列番号9、配列番号11および配列番号13からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する可変ドメインを含む免疫グロブリン重鎖を含むポリペプチドにさらに関する。
【0034】
本発明は、
(A)F243L、D270E、R292P、S298N、Y300L、V305I、A330VおよびP396Lからなる群から選択される少なくとも1つの置換;
(B)
(1)F243LおよびP396L;
(2)F243LおよびR292P;ならびに
(3)R292PおよびV305I
からなる群から選択される少なくとも2つの置換;
(C)
(1)F243L、R292PおよびY300L;
(2)F243L、R292PおよびV305I;
(3)F243L、R292PおよびP396L;ならびに
(4)R292P、V305IおよびP396L
からなる群から選択される少なくとも3つの置換;
(D)
(1)F243L、R292P、Y300LおよびP396L;ならびに
(2)F243L、R292P、V305IおよびP396L
からなる群から選択される少なくとも4つの置換;
または
(E)少なくともF243L、R292P、Y300L、V305IおよびP396の置換
を含む4D5免疫グロブリン重鎖を含むポリペプチドにさらに関する。
【0035】
本発明は、上記ポリペプチドが抗体であるようなポリペプチドの実施形態にさらに関する。
【0036】
本発明は、上記抗体が配列番号7、配列番号9、配列番号11または配列番号13のアミノ酸配列を有する可変ドメインを含む免疫グロブリン重鎖をさらに含む、上述の抗体の実施形態にさらに関する。
【0037】
本発明は、上記抗体が
(A)F243L、D270E、R292P、S298N、Y300L、V305I、A330VおよびP396Lからなる群から選択される少なくとも1つの置換;
(B)
(1)F243LおよびP396L;
(2)F243LおよびR292P;ならびに
(3)R292PおよびV305I
からなる群から選択される少なくとも2つの置換;
(C)
(1)F243L、R292PおよびY300L;
(2)F243L、R292PおよびV305I;
(3)F243L、R292PおよびP396L;ならびに
(4)R292P、V305IおよびP396L
からなる群から選択される少なくとも3つの置換;
(D)
(1)F243L、R292P、Y300LおよびP396L;ならびに
(2)F243L、R292P、V305IおよびP396L
からなる群から選択される少なくとも4つの置換;
または
(E)少なくともF243L、R292P、Y300L、V305IおよびP396置換
を含む上述の抗体の実施形態にさらに関する。
【0038】
本発明は、上記免疫グロブリン軽鎖が配列番号4のアミノ酸配列を有する可変ドメインを含み、上記免疫グロブリン重鎖が配列番号9、配列番号11または配列番号13のアミノ酸配列を含む、上述の抗体の実施形態にさらに関する。
【0039】
本発明は、上記抗体がF(ab’)断片、F(ab)断片、単鎖抗体、モノクローナル抗体またはダイアボディである、上述の抗体の実施形態にさらに関する。
【0040】
本発明は、患者での癌の処置のための医薬の製造における、上述の抗体の使用であって、特に、上記癌がHER2/neuを発現する癌であり、上記抗体がヒトHER2/neuに結合する使用にさらに関する。
【0041】
本発明は、上述の抗体の有効量を癌の処置を必要とする患者に提供することを含む癌の処置方法であって、特に、上記癌がHER2/neuを発現する癌であり、上記抗体がヒトHER2/neuに結合する方法にさらに関する。
【0042】
本発明は、そのような抗体の使用であって、上記処置が、上記抗体と同時にまたは逐次的に第2の治療剤を投与する工程をさらに含み、上記第2の治療剤は、抗脈管形成剤、抗腫瘍剤、化学療法剤および細胞傷害剤からなる群から選択される使用にさらに関する。
【0043】
本発明の追加の利点および特徴は、本発明の好ましい実施形態を例示する以下の詳細な説明、図面および実施例から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は、好ましい実施形態のキメラ4D5抗体(配列番号4)とマウス4D5抗体(配列番号3)およびヒト化4D5抗体(配列番号5)とで軽鎖可変領域の配列を比較する配列アラインメントを示す。
【図2】図2は、ch4D5−野生型Fc(「WT」)(配列番号7)、ch4D5−FcMT1(「MT1」)(配列番号9)、ch4D5−FcMT2(「MT2」)(配列番号11)、およびch4D5−FcMT3(「MT3」)(配列番号13)の重鎖の配列間の比較を示す。CDRは、関連する残基の下に示される黒いバーで示されている。
【図3】図3は、ch4D5−野生型Fc(パネルA)、ch4D5(パネルB)およびトラスツズマブ(パネルC)の結合のBIACore解析を示す。
【図4】図4は、インビトロにおけるSKBR3細胞の増殖に対するch4D5の効果を示す。
【図5】図5は、非トランスジェニックマウスにおける本実施形態の様々な抗体の強化された抗腫瘍活性を示す。
【図6】図6は、hCD16Aトランスジェニックマウスにおける本実施形態の様々な抗体の強化された抗腫瘍活性を示す。
【図7】図7は、非トランスジェニックマウスおよびトランスジェニックマウスにおける本実施形態の様々な抗体による腫瘍増殖阻害でのmFcRIVおよびhCD16Aの役割を示す。
【図8】図8は、hCD16Aトランスジェニックマウスにおける本実施形態の様々な抗体の強化された抗腫瘍活性を示す。
【図9】図9は、HER2/neuに対する様々な癌細胞系由来の細胞の代表的な免疫組織化学的染色を図示している。様々なパネルは、異なる細胞系、すなわち、パネルA:MDA−MB−435;パネルB:MDA−MB−231;パネルC:A549;パネルD:OVCAR−8;パネルE:MCF−7;パネルF:BT−20;パネルG:HT−29;パネルH:ZR75−1;パネルI:JIMT−1;パネルJ:MDA−MB−453;パネルK:BT−474;パネルL:SKBR−3;パネルM:mSKOV−3を表している。
【図10】図10は、HER2/neu発現レベルが非常に低いまたは全くない(DAKOスコアが0の)癌細胞系(パネルAのMDA−MB−435;パネルBのMDA−MB−231)における本実施形態の様々なch4D5抗体のADCC媒介能力を試験するために実施されたADCCアッセイの結果を示す。
【図11】図11は、HER2/neu発現レベルが低い(DAKOスコアが1+の)癌細胞系(パネルAのA549;パネルBのOVCAR−8;パネルCのMCF−7;パネルDのBT−20;パネルEのHT−29)における本実施形態の様々なch4D5抗体のADCC媒介能力を試験するために実施されたADCCアッセイの結果を示す。
【図12】図12は、HER2/neu発現レベルが中程度(DAKOスコアが2+の)の癌細胞系(パネルAのZR75−1;パネルBのJIMT−1)における本実施形態の様々なch4D5抗体のADCC媒介能力を試験するために実施されたADCCアッセイの結果を示す。
【図13】図13は、HER2/neu発現レベルが高い(DAKOスコアが3+の)癌細胞系(パネルAのMDA−MB−453;パネルBのBT−474;パネルCのSKBR−3;パネルDのmSKOV−3)における本実施形態の様々なch4D5抗体のADCC媒介能力を試験するために実施されたADCCアッセイの結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
発明の詳細な説明
本発明は、HER2/neuに対する抗体を用いる、特定の癌の処置、診断および予後判定のための新規抗体および方法を提供する。特に、本発明は、HER2/neu過剰発現細胞に対する選択的細胞傷害剤として特に有用である抗HER2/neu抗体、例えばHER2/neuに対するキメラ4D5抗体を提供し、それは、既知の4D5抗体と比較してグリコシル化を減少させ、エフェクター機能を変化させた。本発明は、癌、自己免疫疾患、炎症性障害および感染症などの疾患の診断、予後判定および治療で、抗体およびそれらを含む組成物を使用する方法も提供する。
【0046】
次に、図面および以下の実施例と一緒に本発明の原理を説明する役目を果たす、本発明の現在好ましい実施形態に詳細に言及する。当業者が本発明を実施することを可能にするためにこれらの実施形態を十分詳細に記載するが、他の実施形態を利用することができること、および本発明の精神と範囲から逸脱することなく、構造的、生物学的および化学的変更を加えることができることを理解するべきである。他に定義されていない場合は、本明細書で用いるすべての専門用語および科学用語は、本発明が属する分野の当業者が通常理解するのと同じ意味を有する。当業者は、そのような定義または本明細書に記載の技術の詳細な説明について、一般の参考テキストを参照することができる。これらのテキストには、例えばCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubelら編、John Wiley & Sons、および2008年3月にかけての補遺)、Molecular Cloning: A Laboratory Manual(SambrookおよびRussell、第3版、2001年)、Single−Molecule Techniques: A Laboratory Manual(Selvin & Ha編、Cold Spring Harbor Press、2008年)、Current Protocols in Nucleic Acid Chemistry(Beaucageら編、John Wiley & Sons, Inc.、2000年)、Current Protocols in Immunology(Coliganら編、John Wiley & Sons、N.Y.および2008年3月にかけての補遺)、Making and Using Antibodies: A Practical Handbook(Howard & Kaser編、CRC、2006年)、Using Antibodies: A Laboratory Manual(Harlow & Lane、Cold Spring Harbor Press、1999年)、Binding and Kinetics for Molecular Biologists(Goodrich & Kugel、Cold Spring Harbor Press、2007年)、Current Protocols in Pharmacology(Ennaら編、John Wiley & Sons、N.Y.および2008年3月にかけての補遺)、The Pharmacological Basis of Therapeutics(Goodman & Gilman、第11版、2006年)、ならびにRemington: The Science and Practice of Pharmacy(Lippincott Williams & Wilkins、第21版、2005年)が含まれる。
【0047】
A.定義
本明細書で用いられる場合、用語「ADCC」は、FcγRを発現する非特異的細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞およびマクロファージなどの単球細胞)が標的細胞上の結合した抗体を認識し、その後その標的細胞の溶解を引き起こすインビトロの細胞媒介性反応である、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害を指す。
【0048】
本明細書で用いられる場合、用語「抗体」は、モノクローナル抗体、多重特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、合成抗体、キメラ抗体、ポリクローナル抗体、ラクダ化抗体、単鎖Fv(scFv)、単鎖抗体、免疫学的活性抗体断片(例えば、エピトープに結合することができる抗体断片、例えばFab断片、Fab’断片、F(ab’)断片、Fv断片、VLドメインもしくはVHドメインまたは抗原に免疫特異的に結合する相補性決定領域(CDR)のいずれかを含む断片など)、二機能性または複数機能性の抗体、ジスルフィド連結二重特異性Fv(sdFv)、イントラボディ(intrabody)およびダイアボディ、ならびに上記のいずれかのエピトープ結合性断片を指す。特に、抗体という用語は、免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の免疫活性断片、すなわち抗原結合部位を含む分子を包含することを意味する。免疫グロブリン分子は、任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgAおよびIgY)、クラス(例えば、IgG、IgG、IgG、IgG、IgAおよびIgA)またはサブクラス(例えば、米国特許出願公開第20040185045号、第20050037000号、第20050064514号、第20050215767号、第20070004909号、第20070036799号、第20070077246号および第20070244303号を参照)であってもよい。
【0049】
「B細胞抗原受容体」または「BCR」への言及は、膜免疫グロブリン(mlg)抗原結合コンポーネントを包含する、B細胞抗原受容体、またはその生物活性部分(すなわち、リガンドに結合することができる部分および/またはトランスデューサーコンポーネントに会合することができる部分)、ならびにトランスデューサーCD79aおよびCD79bコンポーネント、またはその生物活性部分(すなわち、細胞内シグナルを伝達することができる部分および/または細胞外リガンド結合部分に会合することができる部分)に言及することを意図する。
【0050】
本明細書で用いる場合、用語「癌」は、細胞の異常な無制御の増殖から生じる新生物または腫瘍を指す。本明細書で用いる場合、癌には白血病およびリンパ腫が明らかに包含される。一部の実施形態では、癌は、良性腫瘍を指し、これは、限局されたままである。他の実施形態では、癌は、悪性腫瘍を指し、これは、隣接した体構造に侵入および破壊し、遠い部位に広がっている。一部の実施形態では、癌は特定の癌抗原に関連する。
【0051】
用語「細胞増殖性障害」および「増殖性障害」は、ある程度の異常な細胞増殖に関連する障害を指す。一実施形態では、細胞増殖性障害は癌である。
【0052】
抗体に言及する場合、用語「キメラ」は、それらが所望の生物活性を示す限り、重鎖および/または軽鎖の一部が1種(例えば、マウス)からの抗体または抗体のクラスもしくはサブクラスと同一または相同であり、残りの部分は別の種(例えば、ヒト)の抗体または抗体のクラスもしくはサブクラスと同一または相同である抗体を指す。本明細書では目的のあるキメラ抗体には、ヒト以外の霊長類(例えば、旧世界サル、類人猿など)に由来する可変ドメイン抗原結合性配列およびヒト定常領域配列を含む「霊長類化(primatized)」抗体が含まれる。
【0053】
本明細書で用いる場合、用語「相補性決定領域」または「CDR」は、抗原結合に必要である、抗体可変ドメインのアミノ酸残基を指す。一般的に、各可変ドメインは、CDR、CDRおよびCDRと識別される3つのCDR領域を有する。
【0054】
本明細書で用いる場合、用語「ダイアボディ分子」は、それぞれ少なくとも1つのVおよび1つのVドメインまたはその断片を含む、2つまたはそれより多くのポリペプチド鎖またはタンパク質の複合体を指し、両ドメインは単一のポリペプチド鎖に含まれる。特定の実施形態では、「ダイアボディ分子」は、FcまたはヒンジFcドメインを含む分子を包含する。複合体中の前記ポリペプチド鎖は同じであっても異なってもよく、すなわち、ダイアボディ分子はホモ多量体またはヘテロ多量体であってもよい。特定の態様では、「ダイアボディ分子」は、二量体もしくは四量体またはVおよびVドメインの両方を含む前記ポリペプチド鎖を包含する。多量体タンパク質を含む個々のポリペプチド鎖は、鎖間ジスルフィド結合によって多量体の少なくとも1つの他のペプチドに共有結合することができる。
【0055】
本明細書で用いる場合、用語「障害」および「疾患」は互換可能に用いられて、被験体の状態を指す。特に、用語「自己免疫疾患」は用語「自己免疫障害」と互換可能に用いられて、被験体自身の細胞、組織および/または器官に対する被験体の免疫反応によって引き起こされる細胞、組織および/または器官の損傷を特徴とする被験体の状態を指す。用語「炎症性疾患」は用語「炎症性障害」と互換可能に用いられて、炎症、好ましくは慢性炎症を特徴とする被験体の状態を指す。自己免疫障害は、炎症に関連してもよく、または関連しなくともよい。さらに、炎症は、自己免疫障害によって引き起こされてもよく、またはそうでなくてもよい。したがって、ある障害は、自己免疫性および炎症性の両方の障害として特徴付けることができる。
【0056】
本明細書で用いる場合、用語「エフェクター細胞」は、1つまたはそれより多くのFc受容体を発現して、1つまたはそれより多くのエフェクター機能を媒介する免疫系の細胞を指す。エフェクター細胞は、単球、マクロファージ、好中球、樹状細胞、好酸球、肥満細胞、血小板、B細胞、大顆粒リンパ球、ランゲルハンス細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞を包含するがそれらに限定されず、ヒト、マウス、ラット、ウサギおよびサルが挙げられるがそれらに限定されない任意の生物体からのものであってもよい。
【0057】
用語「エフェクター細胞」は、Fc受容体またはリガンドとの抗体Fc領域の相互作用に起因する生物活性を指す。抗体は、1つまたはそれより多くのエフェクター機能を有することができる。抗体エフェクター機能の非限定的な例は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、C1q結合、補体依存性細胞傷害(CDC)、細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体;BCR)の下方制御、オプソニン作用、オプソニン食作用、細胞結合およびロゼット形成を包含する。エフェクター機能は、抗原の結合の後に作動するもの、および抗原結合とは無関係に作動するものの両方を包含する。
【0058】
本明細書で用いる場合、用語「エピトープ」は、ポリペプチドまたはタンパク質または非タンパク質分子のうちの、免疫特異的に抗体が結合する部分を指す。エピトープは、それが動物で抗体産生応答を引き出すように、免疫原性活性を有することができる。エピトープが免疫特異的に抗体に結合する能力は、例えば免疫アッセイで決定することができる。エピトープは、必ずしも免疫原性である必要はない。
【0059】
本明細書で用語「Fc受容体」または「FcR」は、抗体のFc領域に結合する受容体を記載するために用いられる。例示的なFcRは、天然配列のヒトFcRである。FcRは、IgG抗体に結合するもの(γ受容体)であってもよく、FcγRI、FcγRII、FcγRIIIおよびFcγRIVのサブクラスの受容体を包含し、例えばこれらの受容体の対立遺伝子バリアントおよび選択的スプライス形態を包含し、例えば少なくとも2つの公知のFcγRII受容体(FcγRIIAおよびFcγRIIB)がある。用語FcRは、胎児への母体IgGの移動を担う新生児受容体FcRnを包含する。
【0060】
本明細書で用いるように、用語「Fc領域」は、IgG重鎖のC末端領域を定義するために用いられる。境界はごくわずかに変動してもよいが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、Cys226からカルボキシ末端までに及ぶと定義される。IgGのFc領域は、2つの定常ドメイン(CH2およびCH3)を含む。ヒトIgG Fc領域のCH2ドメイン(「Cγ2」ドメインとも呼ばれる)は、通常アミノ酸231からアミノ酸338までにわたり、ヒトIgG Fc領域のCH3ドメインは、通常アミノ酸342〜447にわたる。
【0061】
用語「グリコシル化部位」は、哺乳動物細胞によって糖残基の結合場所として認識されるアミノ酸残基を指す。オリゴ糖などの炭水化物が結合するアミノ酸残基は、通常アスパラギン(N結合)残基、セリン(O結合)残基およびスレオニン(O結合)残基である。特異的結合部位は、「グリコシル化部位配列」と呼ばれる特徴的なアミノ酸配列を通常有する。N結合グリコシル化のためのグリコシル化部位配列は、Asn−X−Ser/Thrであり、ここでXはプロリン以外の従来のアミノ酸のいずれであってもよい。ヒトIgGのFc領域は2つのN結合型グリコシル化部位を有し、各CH2ドメインの297位のアスパラギン(Asn 297)に1つ存在する。
【0062】
本明細書で用いる場合、用語「HAMA応答」は、ヒト免疫系がマウスの抗体を異物として認識してそれを攻撃するときに起こる有害な免疫原性応答である、ヒト抗マウス抗体応答を指す。HAMA応答は、毒性ショックまたは死を引き起こすことができる。キメラのおよびヒト化された抗体は、投与される抗体の非ヒト部分を減少させることによってHAMA応答の可能性を低下させるが、そのような抗体に対するヒト抗ヒト抗体応答(「HAHA応答」)免疫応答の可能性がまだある。
【0063】
用語「重鎖」、「軽鎖」(「CL」)、「軽鎖可変領域」(「VL」)、「重鎖可変領域」(「VH」)、「フレームワーク領域」(「FR」)、「重鎖定常ドメイン」(「CH」)、「軽鎖定常ドメイン」(「CL」)は、天然に存在する免疫グロブリン中のドメイン、および合成(例えば、組換え体)結合タンパク質(例えば、ヒト化抗体)の対応するドメインを指す。天然に存在する免疫グロブリン(例えば、IgG)の基本構造単位は、2つの軽鎖および2つの重鎖を有する四量体である。通常、天然に存在する免疫グロブリンは約150KDaの糖タンパク質として発現されるが、IgGは非グリコシル化形態で生成されてもよい。各鎖のアミノ末端(「N」)部分は、抗原認識を主に担う約100〜110またはそれより多くのアミノ酸の可変領域を含む。各鎖のカルボキシ末端(「C」)部分は定常領域を定義し、軽鎖は単一の定常ドメインを有し、重鎖は通常3つの定常ドメインおよびヒンジ領域を有する。したがって、天然に存在するIgG分子の軽鎖の構造はN−VL−CL−Cであり、IgG重鎖の構造はN−VH−CH1−H−CH2−CH3−C(ここでHはヒンジ領域である)である。IgG分子の可変領域は、抗原と接触する残基を含む相補性決定領域(CDR)、および構造を維持してCDRループの配置を決めるフレームワークセグメントと呼ばれる非CDRセグメントからなる。したがって、VLドメインおよびVHドメインは、構造N−FR1−CDR1−FR2−CDR2−FR3−CDR3−FR4−Cを有する。
【0064】
本明細書で用いる場合、用語「異種の」核酸は、宿主細胞に導入されるDNA、RNAなどを表す。核酸は、ゲノムDNA、mRNA、cDNA、合成DNAおよびこれらの融合体または組合せを含む様々な供給源のいずれに由来してもよい。核酸は、宿主またはレシピエント細胞と同じ細胞または細胞型からのポリヌクレオチド、あるいは異なる細胞型、例えば哺乳動物または植物からのポリヌクレオチドを含むことができ、任意選択で、マーカーまたは選択遺伝子、例えば抗生物質耐性遺伝子、温度抵抗性(temperature resistance)遺伝子などを含むことができる。
【0065】
用語「ヒンジ領域」は、一般にヒトIgG1のGlu216からPro230に及ぶと定義される。他のIgGアイソタイプのヒンジ領域は、重鎖間S−S結合を形成する最初および最後のシステイン残基を同じ位置に置くことによって、IgG1配列と整列させることができる。
【0066】
本明細書で用いる場合、用語「ヒト化」は、当該技術分野でのその通常の意味を有する。一般的な用語として、非ヒト抗体のヒト化は、非ヒト免疫グロブリンV領域およびV領域由来のCDR配列をヒトフレームワーク領域に置換することを含む。さらに、本明細書で用いる場合、「ヒト化」抗体は、親和性を増加させるためにまたは他の目的のために導入される、CDRおよび/またはフレームワーク領域の追加の置換および変異を含むことができる。例えば、ヒト配列中における非ヒトフレームワーク残基の置換は、親和性を増加させることができる。生じた可変ドメインは、非ヒトCDR配列、およびヒト抗体フレームワーク配列由来のフレームワーク配列、またはヒトコンセンサス配列を有する。様々な異なるヒトフレームワーク領域は、ヒト化抗体の基礎として、単独でまたは組み合わせて用いることができる。
【0067】
本明細書で用いる場合、用語「免疫調節剤」およびその変形形態は、宿主の免疫系を調節する剤を指す。特定の実施形態では、免疫調節剤は免疫抑制剤である。他の特定の実施形態では、免疫調節剤は免疫刺激剤である。免疫調節剤は、低分子、ペプチド、ポリペプチド、融合タンパク質、抗体、無機分子、模倣剤および有機分子を包含するが、これらに限定されない。
【0068】
本明細書で用いる場合、用語「免疫特異的に結合する」は、抗体とそれが認識するエピトープとの間で示される特異的結合を指す。そのような結合は、少なくとも約0.1mM、より普通には少なくとも約1μM、好ましくは少なくとも約0.1μM以下、最も好ましくは0.01μM以下のKを一般に示す。好ましくは、本発明の抗体は、高い親和性(例えば、低いK)で、タンパク質に免疫特異的に結合する。
【0069】
抗原に免疫特異的に結合する抗体は、例えば免疫アッセイ、BIAcoreまたは当該技術分野で公知である他のアッセイによって測定した場合に、より低い親和性で他のペプチドまたはポリペプチドに結合することができる。好ましくは、抗原に特異的に結合する分子は、他のタンパク質と交差反応をしない。抗原に特異的に結合する分子は、例えば免疫アッセイ、BIAcore、または当業者に公知である他の技術によって同定することができる。
【0070】
本明細書で用いる場合、用語「抗体工学技術(Antibody Engineering Technology Art)」は、2007年12月19日に出願の米国特許仮出願第60/781,564号、第60/945,523号、第61/015,106号、および2008年1月4日に出願の第61/019,051号;米国特許出願公開第20040185045号、米国特許出願公開第20040197347号、米国特許出願公開第20040197866号、米国特許出願公開第20050037000号、米国特許出願公開第20050064514号、米国特許出願公開第20050215767号、米国特許出願公開第20060134709号、米国特許出願公開第20060177439号、米国特許出願公開第20070004909号、米国特許出願公開第20070036799号、米国特許出願公開第20070037216号、米国特許出願公開第20070077246号、米国特許出願公開第20070244303号、米国特許出願公開第20080044429号、米国特許出願公開第20080050371号、第11/869,410号、第11/952,568号;米国特許第7,112,439号;国際公開第04/063351号、国際公開第06/088494号、国際公開第07/024249号、国際公開第06/113665号、国際公開第07/021841号、国際公開第07/106707号;またはPCT/US07/86793に開示される技術を指す。
【0071】
本明細書で用いる場合、用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち、集団を構成する個々の抗体は、少量存在し得る可能な天然に存在する変異を除いて同一であり、そして本明細書で用いる場合、用語「ポリクローナル抗体」は、不均一な抗体の集団から得られる抗体を指す。モノクローナル抗体は非常に特異的であり、単一のエピトープに対するものである。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体は、それらを他の抗体による汚染なしに合成することができるという点で有利である。用語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体集団から得られるという抗体の特性を示し、任意の特定の方法による抗体の生成を要求するものと解釈されてはならない。
【0072】
本明細書で用いる場合、用語「核酸」および「ヌクレオチド配列」は、DNA分子(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)、RNA分子(例えば、mRNA)、DNA分子とRNA分子との組合せ、またはハイブリッドDNA/RNA分子、ならびにDNA分子またはRNA分子の類似体を包含する。そのような類似体は、例えば、イノシンまたはトリチル化塩基が挙げられるがそれらに限定されないヌクレオチド類似体を用いて生成することができる。そのような類似体は、分子に、例えばヌクレアーゼ耐性または細胞膜を通過する能力の向上などの、有益な属性を与える修飾骨格を含むDNA分子またはRNA分子を含むこともできる。核酸またはヌクレオチド配列は、一本鎖、二本鎖であってもよく、一本鎖および二本鎖の部分を含むことができ、三本鎖部分を含むことができるが、好ましくは二本鎖のDNAである。
【0073】
本明細書で用いる場合、「実質的な配列同一性」は、最大対応について比較および整列した場合、少なくとも約80%のアミノ酸残基同一性、好ましくは少なくとも約90%、または少なくとも約95%の同一性を有する2つまたはそれより多くの配列または部分配列(例えば、ドメイン)を指す。2つの類似した配列(例えば、抗体可変領域)間の配列同一性は、Smith & Waterman、1981年、Adv. Appl. Math. 2巻:482頁[ローカルホモロジーアルゴリズム]、Needleman & Wunsch、1970年、J. Mol. Biol. 48巻:443頁[ホモロジーアラインメントアルゴリズム]、Pearson & Lipman、1988年、Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 85巻:2444頁[類似検索法]、またはAltschulら、1990年、J. Mol. Biol. 215巻:403〜10頁[BLASTアルゴリズム]のアルゴリズムなどのアルゴリズムによって測定することができる。前記のアルゴリズムのいずれかを用いる場合、デフォルトパラメータ(ウインドウ長、ギャップペナルティなどについて)が用いられる。アミノ酸配列は、配列同一性の程度が少なくとも約70%同一、好ましくは少なくとも約80%、または少なくとも約90%、またはさらに少なくとも約95%同一である場合、第2の配列に「実質的に類似する」と言われる。核酸配列は、(1)配列同一性の程度が少なくとも約70%同一、好ましくは少なくとも約80%、または少なくとも約90%、またはさらに少なくとも約95%同一であるか、あるいは、核酸配列が、第2の配列によってコードされるポリペプチドに少なくとも約70%同一、好ましくは少なくとも約80%、または少なくとも約90%、またはさらに少なくとも約95%同一であるポリペプチドをコードする場合、第2の配列に「実質的に類似する」と言われる。実質的に同一である配列は、実質的に類似もしている。
【0074】
抗体に言及する場合、各ドメインへのアミノ酸の割当ては、明示的に本明細書に参照として援用されるKabat、Sequences Of Proteins Of Immunological Interest(National Institutes of Health、Bethesda、Md.、1987年および1991年)に従う。本明細書全体で、IgG重鎖の残基の番号付けは、Kabatの場合の通りのEUインデックスの番号付けであり、ヒトIgG1 EU抗体の番号付けを指す。
【0075】
B.抗体
本発明は、HER2/neu、好ましくはヒトHER2/neuに特異的に結合するキメラ抗体およびポリペプチドを特に包含する。軽鎖可変領域のグリコシル化部位の除去に起因して、マウスの4D5およびトラスツズマブなどの公知の4D5抗体と比較して、抗体は低減したグリコシル化を有する。特に、抗体は、天然マウスの4D5では65位、66位および67位のN−R−S配列を含む、軽鎖可変領域のグリコシル化部位を欠く。好ましくは、天然の4D5抗体と比較して、抗体はHER2/neuに対する強化された結合親和性を有し、より好ましくは、抗体は強化されたエフェクター機能を有する。
【0076】
抗体は、軽鎖可変領域の65位、66位および67位のN結合型グリコシル化部位を欠くキメラ4D5免疫グロブリン軽鎖を含む。特定の実施形態では、抗体は軽鎖可変領域(V)の65位に、改変、好ましくは置換を含む。好ましい実施形態では、抗体は、配列番号1の核酸配列によってコードされる軽鎖を含むか、または配列番号2のアミノ酸配列を含む。本発明の好ましい軽鎖の核酸配列およびアミノ酸配列を、以下に示す:
【0077】
【化1】

【0078】
N65S改変を有するキメラ4D5抗体(配列番号4)と、天然マウス4D5抗体(配列番号3)およびヒト化4D5抗体(配列番号5)とでのV領域アミノ酸配列の間の例示的な比較を表す図1からわかるように、V領域の65位に改変を有するこれらの抗体は、天然のマウス4D5抗体で見出されるN結合型グリコシル化部位を欠く。別の好ましい実施形態では、抗体はV領域にN65S改変を含み、好ましくは配列番号4のV領域アミノ酸配列を有する。これらの配列を、以下に示す:
【0079】
【化2】

【0080】
【化3】

【0081】
一実施形態では、重鎖は、(好ましくは配列番号6の核酸配列によってコードされるか、または配列番号7のアミノ酸配列を有する)マウスの4D5野生型Fc領域を有する。これらの配列を以下に示す:
【0082】
【化4】

【0083】
他の実施形態では、重鎖は、好ましくはバリアントFc領域を含み、より好ましくはFcMT1、FcMT2またはFcMT3などのバリアントFc領域を含む、マウスの4D5抗体重鎖のバリアントである。これらの配列を以下に示す:
【0084】
【化5】

【0085】
【化6】

【0086】
一実施形態では、バリアント4D5重鎖はFc領域に改変を有し、配列番号8の核酸配列によってコードされるかもしくは配列番号9のアミノ酸配列を含み、または配列番号10の核酸配列によってコードされるかもしくは配列番号11のアミノ酸配列を含み、または配列番号12の核酸配列によってコードされるかもしくは配列番号13のアミノ酸配列を含む。好ましくは、抗体は、配列番号6、配列番号8、配列番号10および配列番号12からなる群から選択される核酸配列によってコードされる重鎖を含むか、または配列番号7、配列番号9、配列番号11および配列番号13からなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。
【0087】
一実施形態では、抗HER2/neu抗体は、V領域にN65S改変を有する免疫グロブリン軽鎖、および改変されたFc領域を有する免疫グロブリン重鎖を含む。好ましくは、抗HER2/neu抗体は、配列番号2のアミノ酸配列を有する軽鎖、ならびに配列番号7、配列番号9、配列番号11および配列番号13からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する重鎖を含む。一部の実施形態では、本発明のポリペプチドは、(一部の実施形態では少なくとも配列番号4を含む)軽鎖可変ドメインに融合された軽鎖定常ドメインをさらに含む。他の実施形態では、抗体は改変されるか、断片であるか、または改変された断片である。
【0088】
キメラ4D5抗体は、活性化低親和性Fc受容体への結合を高めるために、および低親和性阻害剤受容体CD32B(FcγRII−B)への結合を変化させないかまたは最小限にしか増加させないために、本発明の様々な実施形態に従って構築された。抗体は、以下の野生型およびFc最適化抗体を包含する:
・ 配列番号2のアミノ酸配列を有する軽鎖、および配列番号7のアミノ酸配列を有する重鎖を有するch4D5−野生型Fc。ch4D5−野生型Fcは、脱グリコシル化軽鎖をもたらすN65S置換を軽鎖に有する。
【0089】
・ 配列番号2のアミノ酸配列を有する軽鎖、および配列番号9のアミノ酸配列を有する重鎖を有するch4D5−FcMT1。ch4D5−FcMT1は、脱グリコシル化軽鎖をもたらすN65S置換を軽鎖に、F243L、R292P、Y300L、V305IおよびP396L置換を重鎖に有する(すべてKabatにしたがって番号付けした)。ch4D5−FcMT1はヒトCD16A(FcγRIII−A)への結合の10倍の増加を示し、CD16−158Pheへの結合はCD16−158Valへの結合よりも比例して強く強化される。
【0090】
・ 配列番号2のアミノ酸配列を有する軽鎖、および配列番号11のアミノ酸配列を有する重鎖を有するch4D5−FcMT2。ch4D5−FcMT2は、脱グリコシル化軽鎖をもたらすN65S置換を軽鎖に、L235V、F243L、R292P、Y300LおよびP396L置換を重鎖に有する(すべてKabatにしたがって番号付けした)。この抗体はch4D5−FcMT1抗体のさらなる改良型であり、類似したCD16A結合特性を有するが、CD32B(FcγRII−B)への結合のより好ましい減少も有する。
【0091】
・ 配列番号2のアミノ酸配列を有する軽鎖、および配列番号13のアミノ酸配列を有する重鎖を有するch4D5−FcMT3。ch4D5−FcMT3は、脱グリコシル化軽鎖をもたらすN65S置換を軽鎖に、F243L、R292PおよびY300L置換を重鎖に有する(すべてKabatにしたがって番号付けした)。この抗体はch4D5−FcMT1抗体のさらなる改良型であり、類似したCD16A結合特性を有するが、CD32B(FcγRII−B)への結合のより好ましい減少も有する。
【0092】
・ ch4D5−Ag
・ 配列番号2のアミノ酸配列を有する軽鎖、およびN297Q置換を有する重鎖を有するch4D5−N297Q(Kabatにしたがって番号付けした)。
【0093】
ch4D5−野生型FcとFc最適化バリアントch4D5−FcMT1、ch4D5−FcMT2およびch4D5−FcMT3との重鎖配列の比較を、図2に示す。CDRは、関係する残基の下に示す黒いバーで示す。
【0094】
本発明によって企図されるポリペプチド(特に抗体)は、本発明の任意のアミノ酸配列のすべてまたは一部分を含むことができる。例えば、一実施形態では、ポリペプチドは、N65S置換を有するマウスの4D5免疫グロブリン軽鎖を含み、別の実施形態では、ポリペプチドはマウスの4D5免疫グロブリン重鎖バリアントを含む。別の実施形態では、ポリペプチドは、配列番号4のアミノ酸配列を有する免疫グロブリン軽鎖可変ドメイン、または配列番号2のアミノ酸配列を有する免疫グロブリン軽鎖を含む。別の実施形態では、ポリペプチドは、バリアントFcドメイン、または配列番号7、配列番号9、配列番号11もしくは配列番号13のアミノ酸配列を有する免疫グロブリン重鎖、またはF243L、R292PおよびY300L置換を含む4D5免疫グロブリン重鎖を含む。
【0095】
本発明によって企図されるポリペプチド(特に抗体)は、お互いとの複合体、または他の非免疫グロブリンポリペプチド(例えば、酵素、ホルモン、構造タンパク質など)との複合体であることができる。例えば、実施形態は、2つのポリペプチドを含むポリペプチド複合体を提供することができ、ここで、前記ポリペプチドの1つは重鎖を含み、他のポリペプチドはバリアント軽鎖を含むか、両ポリペプチドが同じ配列を含む。複合体化は、本明細書で記載されるものなどの二量体化/多量体化ドメインでの二量体化/多量体化、または共有結合相互作用(例えばジスルフィド結合を通して)(一部の場面では、それは二量体化ドメインの一部であり、例えば二量体化ドメインはロイシンジッパー配列およびシステインを含むことができる)を含む、任意の適する技術によって媒介することができる。別の実施形態では、組成物は本発明のポリペプチドおよび/またはポリヌクレオチドを含むことができ、例えば、組成物は本明細書に記載のポリペプチドのいずれか複数を含むことができる。ポリヌクレオチドまたはポリペプチドを含む組成物は、キットまたは製造品(任意選択で指示書、緩衝液などを同梱した)の形態であることができる。
【0096】
ポリペプチドバリアント(特に抗体バリアント)を調製することができることも考えられる。ポリペプチドバリアントは、天然のアミノ酸配列と比較して、それらのアミノ酸配列中の所望の位置に配列改変(例えば、置換、欠失および/または付加)を有することができる。当業者は、アミノ酸変化が抗体またはポリペプチドの翻訳後プロセスを変化させ得ること、例えばグリコシル化部位の数もしくは位置を変更するか、または膜アンカリング特性を変化させることができることを理解するであろう。好ましい実施形態では、抗体およびポリペプチドバリアントは、Fc領域バリアントである。
【0097】
バリアントは、天然の抗体またはポリペプチドと比較して、同じであるかまたは変化させた活性を有することができる。例えば、バリアントは同じ活性を有するが、それがより安定であるかまたはインビボでより長い半減期を有するような様式で、例えば抗体を、例えば米国特許第5,739,277号に記載されるようにアルブミンまたはサルベージ受容体結合エピトープと結合することによって改変することが望ましい可能性がある。または、例えば、抗体が、増加した抗原結合親和性を有するが、天然の抗体と同じエフェクター機能を有することが望ましい可能性があり、または、抗体が同じ抗原結合親和性を有するが、低下したエフェクター機能を有することが望ましい可能性がある。活性は、例えばELISAアッセイ、表面プラズモン共鳴アッセイ、放射標識タンパク質結合アッセイ(RIA)または免疫沈降アッセイなどのインビトロのアッセイを用いることによって試験することができる。
【0098】
機能または免疫学的同一性の実質的な改変は、(a)(例えばシートもしくは螺旋立体配座としての)改変領域のポリペプチド骨格の構造、(b)標的部位の分子の電荷もしくは疎水性、または(c)側鎖のかさを維持することに対するそれらの影響がかなり異なる改変を選択することによって達成することができる。例えばCunninghamおよびWells(1989年)Science 244巻:1081〜1085頁によって記載されるように、連続配列に沿って1つまたはそれより多くのアミノ酸を同定するために、走査アミノ酸分析を使用することもできる。好ましい走査アミノ酸には、比較的小さい中性アミノ酸、例えばアラニン、グリシン、セリンおよびシステインが含まれる。アラニンは、最も一般的なアミノ酸であり、埋没した位置および露出した位置の両方でしばしば見出され、β炭素を越える側鎖を除去し、バリアントの主鎖立体配座を変化させる可能性が低いので、一般的にこの群の中で好ましい走査アミノ酸である。アラニン置換が適切な量のバリアントを与えない場合、等配電子のアミノ酸(isoteric amino acid)を用いることができる。さらに、分子の酸化安定度を改善して、異常な架橋を防止するために、抗体またはポリペプチドの適切な立体配座の維持に関与しない任意のシステイン残基を、一般にセリンで置換することができる。しかし、特定の状況、特に抗体がFv断片などの抗体断片である場合、その安定性を改善するためにシステイン結合を抗体またはポリペプチドに加えることができる。
【0099】
B1.Fcドメインバリアント
本発明のポリペプチドは、バリアントFcドメインを有することができる。Fcドメインの改変は、変化した表現型、例えば変化した血清半減期、変化した安定性、細胞酵素への変化した感受性または変化したエフェクター機能を通常もたらす。例えば癌の処置における抗体の有効性を高めるために、本発明の抗体を、エフェクター機能に関して改変することが望ましい可能性がある。エフェクター機能の低下または消去は、例えばその作用機構がブロッキングまたは拮抗作用を含むが、標的抗原を保有する細胞の殺傷を含まない抗体の場合など、特定の場合に望ましい。高められたエフェクター機能は、FcγRが低レベルで発現される、腫瘍および外来細胞などの望ましくない細胞、例えば低レベルのFcγRIIBを有する腫瘍特異B細胞(例えば、非ホジキンリンパ腫、CLLおよびバーキットリンパ腫)に関する場合に一般に望ましい。前記実施形態では、付与されたかまたは変化したエフェクター機能活性を有する本発明の分子は、エフェクター機能活性の高められた効力が望まれる疾患、障害または感染症の処置および/または予防のために有用である。
【0100】
特定の実施形態では、本発明の分子は、1つまたはそれより多くのFcγR受容体に対するFc領域の、したがって本発明の分子の親和性およびアビディティを低減させる、Fcドメインのアミノ酸への1つまたはそれより多くの改変を含む。他の実施形態では、本発明の分子は、1つまたはそれより多くのFcγR受容体に対するFc領域の、したがって本発明の分子の、親和性およびアビディティを高める、Fc領域のアミノ酸への1つまたはそれより多くの改変を含む。他の実施形態では、分子はバリアントFcドメインを含み、そこで前記バリアントは、Fcドメインを含まないかまたは野生型Fcドメインを含む分子と比較して、高められたADCC活性および/またはFcγRIIAへの結合の増加を付与または媒介する。代わりの実施形態では、分子はバリアントFcドメインを含み、そこで前記バリアントは、Fcドメインを含まないかまたは野生型Fcドメインを含む分子と比較して、低下したADCC活性(または他のエフェクター機能)および/またはFcγRIIBへの結合の増加を付与または媒介する。
【0101】
一部の実施形態では、本発明は、バリアントFc領域を含む分子を包含し、そのバリアントFc領域は、野生型Fc領域を含む匹敵する分子と比較して、いかなるFcγRへも検出可能な結合を示さない。他の実施形態では、本発明は、バリアントFc領域を含む分子を包含し、そのバリアントFc領域は単一のFcγR、好ましくはFcγRIIA、FcγRIIBまたはFcγRIIIAの1つだけに結合する。
【0102】
本発明のポリペプチドは、活性化および/または阻害性のFcγ受容体への変化した親和性を含むことができる。一実施形態では、抗体またはポリペプチドは、野生型Fc領域を有する匹敵する分子と比較して、FcγRIIBへの高められた親和性ならびにFcγRIIIAおよび/またはFcγRIIAへの低減した親和性を有するバリアントFc領域を含む。別の実施形態では、本発明のポリペプチドは、野生型Fc領域を有する匹敵する分子と比較して、FcγRIIBへの低減した親和性ならびにFcγRIIIAおよび/またはFcγRIIAへの高められた親和性を有するバリアントFc領域を含む。さらに別の実施形態では、本発明のポリペプチドは、野生型Fc領域を有する匹敵する分子と比較して、FcγRIIBへの低減した親和性およびFcγRIIIAおよび/またはFcγRIIAへの低減した親和性を有するバリアントFc領域を含む。さらに別の実施形態では、本発明のポリペプチドは、野生型Fc領域を有する匹敵する分子と比較して、FcγRIIBへの変化していない親和性ならびにFcγRIIIAおよび/またはFcγRIIAへの低減した(または高められた)親和性を有するバリアントFc領域を含む。
【0103】
特定の実施形態では、免疫グロブリンが高められたエフェクター機能、例えば抗体依存性細胞媒介性細胞傷害を有するように、本発明は、FcγRIIIAおよび/またはFcγRIIAへの変化した親和性を有するバリアントFc領域を含む免疫グロブリンを包含する。エフェクター細胞機能の非限定的な例は、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性食作用、食作用、オプソニン作用、オプソニン食作用、細胞結合、ロゼット形成、C1q結合、および補体依存性細胞媒介性細胞傷害を包含する。
【0104】
好ましい一実施形態では、親和性またはエフェクター機能の変化は、野生型Fc領域を含む匹敵する分子と比較して、少なくとも2倍、好ましくは少なくとも4倍、少なくとも5倍、少なくとも6倍、少なくとも7倍、少なくとも8倍、少なくとも9倍、少なくとも10倍、少なくとも50倍または少なくとも100倍である。本発明の他の実施形態では、バリアントFc領域は、野生型Fc領域を含む分子と比較して、1つまたはそれより多くのFcRに、少なくとも65%、好ましくは少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、100%、125%、150%、175%、200%、225%または250%高い親和性で免疫特異的に結合する。そのような測定はインビボまたはインビトロのアッセイであってもよく、好ましい実施形態では、ELISAまたは表面プラズモン共鳴アッセイなどのインビトロアッセイである。
【0105】
異なる実施形態では、分子はバリアントFcドメインを含み、前記バリアントはFcγR受容体の少なくとも1つの活性をアゴナイズするか、またはFcγR受容体の少なくとも1つの活性をアンタゴナイズする。好ましい実施形態では、分子は、FcγRIIBの1つまたはそれより多くの活性、例えば、B細胞受容体媒介シグナル伝達、B細胞の活性化、B細胞の増殖、抗体産生、B細胞の細胞内カルシウム流入、細胞周期進行、FcεRIシグナル伝達のFcγRIIB媒介阻害、FcγRIIBのリン酸化、SHIP補充、SHIPリン酸化およびShcとの結合、またはFcγRIIBシグナル伝達経路の1つまたはそれより多くの下流分子(例えば、MAPキナーゼ、JNK、p38またはAkt)の活性をアゴナイズする(あるいは、それらをアンタゴナイズする)バリアントを含む。別の実施形態では、分子は、FcεRIの1つまたはそれより多くの活性、例えば、肥満細胞活性化、カルシウム動員、脱顆粒、サイトカイン生成またはセロトニン放出をアゴナイズする(あるいは、それらをアンタゴナイズする)バリアントを含む。
【0106】
特定の実施形態では、分子は、2つ以上のIgGアイソタイプ(例えば、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4)からのドメインまたは領域を含むFcドメインを含む。様々なIgGアイソタイプは、それらのヒンジおよび/またはFcドメインのアミノ酸配列の差に起因して、例えばFleschおよびNeppert(1999年)J. Clin. Lab. Anal. 14巻:141〜156頁、Chappelら(1993年)J. Biol. Chem. 33巻:25124〜25131頁、Chappelら(1991年)Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 88巻:9036〜9040頁、Brueggemannら(1987年)J. Exp. Med 166巻:1351〜1361頁に記載のように、血清半減期、補体結合、FcγR結合親和性およびエフェクター機能活性(例えばADCC、CDCなど)を含む異なる物理的および機能的な特性を示す。Fc媒介エフェクター機能および/または結合活性に影響を及ぼすために、この種のバリアントFcドメインを単独で、またはアミノ酸改変と組み合わせて用いることができる。組合せでは、アミノ酸改変およびIgGヒンジ/Fc領域は類似した機能性(例えば、FcγRIIAへの親和性の増加)を示すことができ、相加的に、またはより好ましくは相乗的に作用して、野生型Fc領域を含む本発明の分子と比較して本発明の分子のエフェクター機能を改変することができる。他の実施形態では、アミノ酸改変およびIgG Fc領域は反対の機能(例えば、それぞれ、FcγRIIAへの親和性の増加および減少)を示すことができ、Fc領域を含まないかまたは同じアイソタイプの野生型Fc領域を含む本発明の分子と比較して、本発明の分子の特定の機能を選択的に緩和または低減する作用をすることができる。
【0107】
好ましい特定の実施形態では、分子はバリアントFc領域を含み、前記バリアントFc領域は野生型Fc領域と比較して少なくとも1つのアミノ酸改変を含み、その結果前記分子は変化したFcR親和性を有するが、ただし、前記バリアントFc領域は、Sondermannら(2000年)Nature 406巻:267〜273頁によって開示されるものなどのFc−FcR相互作用の結晶学的および構造的な分析に基づき、FcγRと直接接触する位置に置換を有しない。FcγRと直接接触するFc領域中の位置の例は、アミノ酸残基234〜239(ヒンジ領域)、アミノ酸残基265〜269(B/Cループ)、アミノ酸残基297〜299(C’/Eループ)およびアミノ酸残基327〜332(F/Gループ)である。一部の実施形態では、本発明の分子は、構造的および結晶学的分析に基づきFcγRと直接接触をせず、例えばFc−FcγR結合部位の中にない、少なくとも1つの残基の改変を含むバリアントFc領域を含む。
【0108】
バリアントFcドメインは当該技術分野で周知であって、(例えばNK依存性またはマクロファージ依存性アッセイで)機能的にアッセイして、Fcドメイン(またはその一部)を含む本発明の分子によって示されるエフェクター機能を付与または改変するために、任意の公知のFcバリアントを本発明で用いることができる。例えば、エフェクター機能の変化が確認されたFcドメインバリアントが抗体工学技術に開示され、その中に開示される任意の適するバリアントを本分子で用いることができる。
【0109】
特定の実施形態では、分子は、1つまたはそれより多くの領域に1つまたはそれより多くのアミノ酸改変を有するバリアントFc領域を含み、前記改変は、阻害性FcγR(例えばFcγRIIB)と比較して、活性化FcγR(例えばFcγRIIAまたはFcγRIIIA)に対するバリアントFc領域の親和性比を変化させる(野生型Fc領域と比較して)。
【0110】
【数1】

【0111】
Fcバリアントが1より高い親和性比を有する場合、FcγRによって媒介されるエフェクター細胞機能(例えば、ADCC)の効力増強が望ましい場合、例えば癌または感染性疾患の場合、本発明の方法は、疾患、障害もしくは感染症の治療的もしくは予防的な処置、またはそれらの症状の改善を提供することにおいて特に有用である。Fcバリアントが1未満の親和性比を有する場合、FcγRによって媒介されるエフェクター細胞機能の効力低下が望ましい場合、例えば自己免疫または炎症性の障害の場合、本発明の方法は、疾患もしくは障害の治療的もしくは予防的な処置、またはそれらの症状の改善を提供することにおいて特に有用である。表2は、それらの親和性比が1より高いかまたは1未満であるかにより、例示的な単変異、二重変異、三重変異、四重変異および五重変異を列挙する。様々な変異の特異的結合データを表3に記載し、これらの変異に関するさらなる情報は、抗体工学技術で見出すことができる。
【0112】
【表2−1】

【0113】
【表2−2】

【0114】
【表3−1】

【0115】
【表3−2】

【0116】
【表3−3】

【0117】
他の実施形態では、分子は1つまたはそれより多くのアミノ酸置換を有するバリアントFc領域を含み、前記置換はバリアントFc領域の結合を(野生型Fc領域と比較して)変化させ、例えば活性化FcγR(例えばFcγRIIAまたはFcγRIIIA)への結合を高め、および/または阻害性FcγR(例えばFcγRIIB)への結合を減少させる。表4に示すように、1つまたはそれより多くのアミノ酸変化を有する様々なFc変異を操作し、そしてkoffについて表面プラズモン共鳴によって分析した。様々なFcγRの結合についての解離速度定数をBIAcore分析によって決定し、野生型Fcのものと直接比較し、試験した各FcγRに関して比(x=WT koff/変異体koff)を表4の右側のカラムに示した。
【0118】
【表4−1】

【0119】
【表4−2】

【0120】
抗体工学技術には、望ましい改変に関して厖大な指針もある。特定の状況で望ましい可能性がある例示的な改変を、以下に記載する:
特定の実施形態では、バリアントFc領域において、235位、240位、241位、243位、244位、247位、262位、263位、269位、298位、328位または330位のいずれかにおける任意のアミノ酸改変(例えば、置換)、好ましくは以下の残基:A240、I240、L241、L243、H244、N298、I328またはV330のうちの1つまたはそれより多く。異なる特定の実施形態では、バリアントFc領域において、268位、269位、270位、272位、276位、278位、283位、285位、286位、289位、292位、293位、301位、303位、305位、307位、309位、331位、333位、334位、335位、337位、338位、340位、360位、373位、376位、416位、419位、430位、434位、435位、437位、438位または439位のいずれかにおける任意のアミノ酸改変(例えば、置換)、好ましくは以下の残基:H280、Q280、Y280、G290、S290、T290、Y290、N294、K295、P296、D298、N298、P298、V298、I300またはL300のうちの1つまたはそれより多く。
【0121】
好ましい実施形態では、変化した親和性でFcγRに結合するバリアントFc領域において、255位、256位、258位、267位、268位、269位、270位、272位、276位、278位、280位、283位、285位、286位、289位、290位、292位、293位、294位、295位、296位、298位、300位、301位、303位、305位、307位、309位、312位、320位、322位、326位、329位、330位、332位、331位、333位、334位、335位、337位、338位、339位、340位、359位、360位、373位、376位、416位、419位、430位、434位、435位、437位、438位または439位のいずれかにおける任意のアミノ酸改変(例えば、置換)。好ましくは、バリアントFc領域は、以下の残基:A256、N268、Q272、D286、Q286、S286、A290、S290、A298、M301、A312、E320、M320、Q320、R320、E322、A326、D326、E326、N326、S326、K330、T339、A333、A334、E334、H334、L334、M334、Q334、V334、K335、Q335、A359、A360またはA430のいずれかを有する。
【0122】
異なる実施形態では、FcγRに(そのFc領域を通して)減少した親和性で結合するバリアントFc領域において、252位、254位、265位、268位、269位、270位、278位、289位、292位、293位、294位、295位、296位、298位、300位、301位、303位、322位、324位、327位、329位、333位、335位、338位、340位、373位、376位、382位、388位、389位、414位、416位、419位、434位、435位、437位、438位または439位のいずれかにおける任意のアミノ酸改変(例えば、置換)。
【0123】
異なる実施形態では、FcγRに(そのFc領域を通して)高められた親和性で結合するバリアントFc領域において、280位、283位、285位、286位、290位、294位、295位、298位、300位、301位、305位、307位、309位、312位、315位、331位、333位、334位、337位、340位、360位、378位、398位または430位のいずれかにおける任意のアミノ酸改変(例えば、置換)。異なる実施形態では、FcγRIIAに高められた親和性で結合するバリアントFc領域において、以下の残基、A255、A256、A258、A267、A268、N268、A272、Q272、A276、A280、A283、A285、A286、D286、Q286、S286、A290、S290、M301、E320、M320、Q320、R320、E322、A326、D326、E326、S326、K330、A331、Q335、A337またはA430のいずれか。
【0124】
他の実施形態では、本発明は当該技術分野で公知である任意のFcバリアント、例えば、Jefferisら(2002年)Immunol Lett 82巻:57〜65頁、Prestaら(2002年)Biochem Soc Trans 30巻:487〜90頁、Idusogieら(2001年)J Immunol 166巻:2571〜75頁、Shieldsら(2001年)J Biol Chem 276巻:6591〜6604頁、Idusogieら(2000年)J Immunol 164巻:4178〜84頁、Reddyら(2000年)J Immunol 164巻:1925〜33頁、Xuら(2000年)Cell Immunol 200巻:16〜26頁、Armourら(1999年)Eur J Immunol 29巻:2613〜24頁、Jefferisら(1996年)Immunol Lett 54巻:101〜04頁、Lundら(1996年)J Immunol 157巻:4963〜69頁、Hutchinsら(1995年)Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 92巻:11980〜84頁、Jefferisら(1995年)Immunol Lett. 44巻:111〜17頁、Lundら(1995年)FASEB J 9巻:115〜19頁、Alegreら(1994年)Transplantation 57巻:1537〜43頁、Lundら(1992年)Mol Immunol 29巻:53〜59頁、Lundら(1991年)J. Immunol 147巻:2657〜62頁、Duncanら(1988年)Nature 332巻:563〜64頁、米国特許第5,624,821号、第5,885,573号、第6,194,551号、第7,276,586号および第7,317,091号;国際公開第00/42072号および国際公開第99/58572号に開示のものの使用を包含する。
【0125】
好ましいバリアントは、228位、230位、231位、232位、233位、234位、235位、239位、240位、241位、243位、244位、245位、247位、262位、263位、264位、265位、266位、271位、273位、275位、281位、284位、291位、296位、297位、298位、299位、302位、304位、305位、313位、323位、325位、326位、328位、330位または332位のいずれかにおいて1つまたはそれより多くの改変を含む。
【0126】
特に好ましいバリアントは、群A〜AIから選択される1つまたはそれより多くの改変を含む:
【0127】
【数2】

【0128】
【数3】

【0129】
さらにより特に好ましいバリアントは、群1〜105から選択される1つまたはそれより多くの改変を含む。
【0130】
【数4】

【0131】
エフェクター機能は、抗体工学技術に記載のものなどの技術、または他の手段によって改変することができる。例えば、システイン残基をFc領域に導入し、それによってこの領域での鎖間ジスルフィド結合の形成を可能にし、改善された内在化能力および/または増加した補体媒介細胞殺傷およびADCCを有することができるホモ二量体抗体の生成をもたらすことができる。Caronら(1992年)J. Exp Med. 176巻:1191〜1195頁およびB. Shopes(1992年)J. Immunol. 148巻:2918〜2922頁を参照。高められた抗腫瘍活性を有するホモ二量体抗体は、Wolffら(1993年)Cancer Research 53巻:2560〜2565頁に記載のヘテロ二官能性架橋剤を用いて調製することもできる。あるいは、二重のFc領域を有し、それによって高められた補体溶解およびADCC能力を有することができる抗体を操作することができる。Stevensonら(1989年)Anti−Cancer Drug Design 3巻:219〜230頁。
【0132】
B2.配列改変
一般に、配列改変は、天然の配列と比較してアミノ酸配列に変化をもたらす、抗体またはポリペプチド中の1つまたはそれより多くの残基の置換、欠失または付加であることができる。所望の活性に悪影響を与えることなく、どのアミノ酸残基を挿入、置換または欠失することができるかの決定の指針は、抗体またはポリペプチドの配列を公知の相同タンパク質分子の配列と比較し、高相同性領域で作製されるアミノ酸配列変化の数を最小にすることによって見出すことができる。許容されるバリエーションは、配列にアミノ酸の挿入、欠失または置換を系統的に作製し、生じたバリアントを完全長または成熟した天然の配列によって示される活性について試験することによって決定することができる。
【0133】
アミノ酸置換は、1つまたはそれより多くの残基の保存的または非保存的な置換を含むことができる。そのような置換は当該技術分野で周知の技術であり、例えば、保存的置換は、類似した構造的特性および/または化学的特性を有する別のアミノ酸でアミノ酸を置換すること、例えばセリンによるロイシンの置換を伴う。非保存的置換は、一般に、異なる構造的特性および/または化学的特性を有する別のアミノ酸でアミノ酸を置換することを伴い、例えば、酸性アミノ酸(例えば、GluまたはAsp)は塩基性アミノ酸(例えば、LysまたはAsn)で置換することができる。
【0134】
特に好ましい種類の置換型バリアントは、親抗体と比較して改善された生物特性を有するバリアント抗体を得るために、親抗体(例えば、ヒト化抗体またはヒト抗体)の1つまたはそれより多くの超可変領域残基を置換することを含む。そのような置換型バリアントを生成するための便利な方法は、ファージディスプレイを用いる親和性成熟を含む。簡潔には、いくつかの超可変領域部位を変異させて、各部位で可能なすべてのアミノ置換を生成し、このように生成される抗体バリアントをファージの上でディスプレイし、次に、ファージによってディスプレイされるバリアントをそれらの生物活性(例えば、結合親和性)についてスクリーニングする。改変のための候補超可変領域部位を確認するために、アラニン走査変異誘発を実施して、抗原結合に顕著に寄与する超可変領域残基を確認することができる。あるいは、またはさらに、抗体とその抗原との間の接触点を確認するために、抗原抗体複合体の結晶構造を分析することが有益なこともある。そのような接触残基および隣接残基は、本明細書で詳述する技術による置換のための候補である。そのようなバリアントが一旦生成されると、一群のバリアントを本明細書に記載のスクリーニングにかけ、1つまたはそれより多くの関連アッセイで優れた特性を有する抗体をさらなる開発のために選択することができる。
【0135】
改変は、例えば、Wangら(2002年)Chem. Comm. 1巻:1〜11頁、Wangら(2001年)Science 292巻:498〜500頁およびvan Hestら(2001年)Chem. Comm. 19巻:1897〜1904頁に記載のものなどの方法による、(例えば、置換または付加による)非天然アミノ酸の組込みを含むこともできる。代替の戦略は、例えば、Tangら(2001年)J. Am. Chem. 123巻(44号):11089〜11090頁およびKiickら(2001年)FEBS Lett. 505巻(3号):465頁に記載のように、アミノアシル−tRNAの生合成を担う酵素に焦点をあてる。
【0136】
好ましい実施形態では、少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45または50個のアミノ酸残基が改変されている。さらに、またはあるいは、そのような改変は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、20、25、30、35、40、45または50個以下の改変されたアミノ酸残基を有することを特徴としてもよい。特に好ましい実施形態では、少なくとも1つ、しかし10以下の残基が改変されている。さらに、またはあるいは、そのような改変は、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3または2個以下の改変されたアミノ酸残基を有することを特徴とすることができる。改変は、すべて置換、すべて欠失、すべて付加、または置換、欠失もしくは付加の任意の組合せであることができる。
【0137】
アミノ酸配列バリアントをコードする核酸分子は、当該技術分野で公知である様々な方法によって調製することができる。これらの方法には、天然源からの単離(天然に存在するアミノ酸配列バリアントの場合)、または抗体のより早期に調製されたバリアントもしくは非バリアントバージョンの、オリゴヌクレオチド媒介性(または部位特異的)変異誘発、制限選択変異誘発、PCR変異誘発およびカセット式変異誘発による調製が含まれるが、これらに限定されない。
【0138】
B3.他の改変
本発明のポリペプチドバリアント(特に抗体バリアント)には、共有結合が抗体によるエピトープ結合免疫特異性の保持を可能にする限り、例えば、任意の種類の分子の共有結合によって改変される類似体および誘導体が含まれる。例えば、限定するものではないが、抗体の誘導体および類似体には、例えばグリコシル化、アセチル化、ペグ化、リン酸化、アミド化、公知の保護/ブロック基による誘導体化、タンパク質分解性切断、細胞抗体単位または他のタンパク質への結合などによってさらに改変されたものが含まれる。多数の化学的改変のいずれかを、特異的化学的切断、アセチル化、ホルミル化、ツニカマイシン存在下での代謝合成などを含むがそれらに限定されない公知の技術によって実施することができる。さらに、類似体または誘導体は、1つまたはそれより多くの非天然アミノ酸を含むことができる。
【0139】
抗体およびポリペプチドは、(好ましくは抗体の所望の機能、例えば結合活性を変化させることなく)1つまたはそれより多くのグリコシル化部位を抗体に導入するか、1つまたはそれより多くのグリコシル化部位を抗体から欠失させるか、または、抗体上の既存のグリコシル化部位を移動させることによって改変することができる。グリコシル化部位は、当該技術分野で公知である方法によって、抗体の可変領域および/または定常領域に導入するか、またはそこから欠失させることができる。例えば、所望の配列(例えば、Asn−X−Thr/Ser)が得られるように、抗体のアミノ酸配列を改変または変異させることによって本発明の抗体にグリコシル化部位を導入することができ、297位ではなく296位がグリコシル化されるように、Fc領域の296位を改変することによってグリコシル化部位を移動させことができる。例えば米国特許第6,472,511号および第6,218,149号;米国特許出願公開第20030115614号および第20020028486号;EP0359096B1;ならびに国際公開第03/035835号に記載のように、タンパク質の炭水化物含量(グリコシル化)を改変する方法は、当該技術分野で周知である。
【0140】
一部の実施形態では、本発明の分子は、変化したグリコシル化パターンまたは変化したグリコフォームを含むように操作される。操作されたグリコフォームは、エフェクター機能を高めることを含むがそれに限定されない、様々な目的のために役立つことができる。操作されたグリコフォームは、当業者に公知である任意の方法によって、例えば操作されたかまたはバリアントの発現株を用いることによって、1つまたはそれより多くの酵素、例えばN−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnT−III)との共発現(co−expression)によって、様々な生物体においてまたは様々な生物体からの細胞系で本発明の抗体を発現させることによって、あるいは抗体を発現させ、精製した後に炭水化物を改変することによって生成することができる。操作されたグリコフォームを生成する方法は当該技術分野で公知であり、例えばOkazakiら(2004年)JMB 336巻:1239〜1249頁、Shinkawaら(2003年)J Biol Chem 278巻:3466〜3473頁、Shieldsら(2002年)J Biol Chem 277巻:26733〜26740頁、Daviesら(2001年)Biotechnol Bioeng 74巻:288〜294頁、Umanaら(1999年)Nat. Biotechnol 17巻:176〜180頁;米国特許第6,602,684号;米国特許出願公開第20030157108号、第20030115614号および第20030003097号;国際公開第02/311140号、国際公開第02/30954号、国際公開第01/292246号、国際公開第00/61739号;Biowa,Inc.(Princeton、NJ)から入手可能なPotillegentTM技術;ならびに、GLYCART biotechnology AG(Zurich、Switzerland)から入手可能なGlycoMAbTMグリコシル化操作技術に記載のものが含まれるがそれらに限定されない。
【0141】
B4.ポリペプチドコンジュゲート
融合タンパク質を生成するために、本発明のポリペプチドを異種のポリペプチドまたはその部分に組換えで融合させるかまたは化学的にコンジュゲート(共有結合および非共有結合のコンジュゲーションを含む)させることができる。好ましくは、所望の融合タンパク質を生成するために、本発明のポリペプチド(特に抗体)は、異種のポリペプチドの少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも25、少なくとも30、少なくとも40、少なくとも50、少なくとも60、少なくとも70、少なくとも80、少なくとも90または少なくとも100個のアミノ酸に融合される。融合は必ずしも直接である必要はなく、リンカー配列を通して起こることができる。本発明のポリペプチドは固体支持体または半固体のマトリックスに結合させることもでき、それらは標的抗原の免疫アッセイまたは精製のために特に有用である。そのような支持体およびマトリックスには、ガラス、セルロース、ポリアクリルアミド、アガロースビーズ、アクリルアミドビーズ、ナイロン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニルまたはポリプロピレンが含まれるが、これらに限定されない。結合は、例えばMethods in Enzymology、44巻(1976年)に記載の方法で達成することができる。
【0142】
所与の生物応答を改変するために、治療剤の血清半減期に影響を及ぼす(例えば、増加させる)ために、または細胞の特定のサブセットに治療剤をターゲティングするために、抗体およびポリペプチドを治療剤にコンジュゲートさせることができる。精製を促進するために、それらをマーカー配列(例えば、ヘキサヒスチジンペプチドまたは「フラグ」標識)に融合させることもできる。そのような治療的部分を抗体にコンジュゲートさせる技術は、周知である。例えば、Controlled Drug Delivery中のHellstromら、「Antibodies For Drug Delivery」(第2版、Robinsonら(編)、1987年、623〜53頁、Marcel Dekker, Inc.)を参照。
【0143】
さらなる融合タンパク質は、遺伝子シャッフリング、モチーフシャッフリング、エキソンシャッフリングおよび/またはコドンシャッフリング(「DNAシャッフリング」と総称される)の技術を通して生成することができる。DNAシャッフリングは、本発明の分子の活性を変化させるために使用することができる(例えば、より高い親和性およびより低い解離速度を有する抗体)。本発明の抗体およびポリペプチド、またはそれらのコード核酸は、組換えの前にエラープローン(error−prone)PCR、ランダムなヌクレオチド挿入または他の方法によるランダム変異誘発にかけることによって、さらに変化させることができる。本発明の分子をコードするポリヌクレオチドの1つまたはそれより多くの部分を、1つまたはそれより多くの異種分子の1つまたはそれより多くのコンポーネント、モチーフ、セクション、部分、ドメイン、断片などで組み換えることができる。
【0144】
B5.断片
本発明は、抗体および他のポリペプチド断片をさらに提供する。例えば完全長天然の抗体またはタンパク質と比較した場合、そのような断片は、例えばN末端もしくはC末端で切断(truncate)されていてもよく、または内部の残基を欠いてもよい。特定の断片は、所望の生物活性のために必須でないアミノ酸残基を欠いてもよい。これらの断片は、多くの従来の技術のいずれかで調製することができる。所望のペプチド断片は、化学的に合成することができる。代替アプローチは、酵素消化によって、例えば、特定のアミノ酸残基によって規定される部位でタンパク質を切断することが公知である酵素でタンパク質を処理することによって、または適する制限酵素でDNAを消化し、所望の断片を単離することによって抗体またはポリペプチド断片を生成することを含む。さらに別の適する技術は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、所望の抗体またはポリペプチド断片をコードするDNA断片を単離および増幅することを含む。DNA断片の所望の末端を定義するオリゴヌクレオチドは、PCRにおいて5’および3’のプライマーで使用される。好ましくは、抗体およびポリペプチド断片は、本明細書で開示される天然の抗体またはポリペプチドと、少なくとも1つの生物学的および/または免疫学的活性を共有する。
【0145】
一部の実施形態では、本発明のポリペプチドは、二量体化配列を含むことができる二量体化ドメイン、および/または1つまたはそれより多くのシステイン残基を含む配列をさらに含む。一部の実施形態では、二量体化ドメインは抗体の重鎖または軽鎖の可変ドメインとウイルスのコートタンパク質の少なくとも一部との間に位置し、二価ディスプレイを提供するために1つまたはそれより多くのジスルフィド結合および/または単一の二量体化配列が二量体化ドメインに存在してもよい。一部の実施形態では、F(ab)の重鎖は、ヒンジ領域を含まない二量体化ドメインで二量体化する。二量体化ドメインは、ロイシンジッパー配列を含むことができる。
【0146】
別の実施形態では、本発明のポリペプチド断片は、別のポリペプチドのアミノ酸配列の少なくとも5個の連続したアミノ酸残基、少なくとも10個の連続したアミノ酸残基、少なくとも15個の連続したアミノ酸残基、少なくとも20個の連続したアミノ酸残基、少なくとも25個の連続したアミノ酸残基、少なくとも30個の連続したアミノ酸残基、少なくとも40個の連続したアミノ酸残基、少なくとも50個の連続したアミノ酸残基、少なくとも60個の連続したアミノ残基、少なくとも70個の連続したアミノ酸残基、少なくとも80個の連続したアミノ酸残基、少なくとも90個の連続したアミノ酸残基、少なくとも100個の連続したアミノ酸残基、少なくとも125個の連続したアミノ酸残基、少なくとも150個の連続したアミノ酸残基、少なくとも175個の連続したアミノ酸残基、少なくとも200個の連続したアミノ酸残基、または少なくとも250個の連続したアミノ酸残基のアミノ酸配列を含む。特定の実施形態において、ポリペプチドの断片は、ポリペプチドの少なくとも1つの機能を保持する。
【0147】
B6.ダイアボディおよびDART
ダイアボディおよび二重親和性再ターゲティング試薬(「DART」)も、本発明によって提供される。ダイアボディおよびDARTは、本発明の抗体およびポリペプチドに一般に由来する抗原結合ドメインを含む。ダイアボディおよびDARTの設計および構築は、例えば、2008年1月4日に出願の米国特許仮出願第61/019,051号および2007年6月21日に出願の第60/945,523号;2006年4月17日に出願の米国特許出願第11/409,339号;Marvinら(2005年)Acta Pharmacol. Sin. 26巻:649〜658頁、Olafsenら(2004年)Prot. Engr. Des. Sel. 17巻:21〜27頁、Holligerら(1993年)Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 90巻:6444〜6448頁に記載されている。ダイアボディ分子の各ポリペプチド鎖は、同じ抗体または異なる抗体からのVドメインおよびVドメインを含み、それらのドメインは、自己アセンブリを抑制するように共有結合される。ポリペプチド鎖のうちの2つの相互作用は、2つのV−V対合を生成し、2つのエピトープ結合部位、すなわち二価分子を形成する。VドメインおよびVドメインはいずれもポリペプチド鎖の中のいかなる位置にも拘束されず、それらのドメインはお互いとのそれらの相対位置で制限されてもいない。唯一の制限は、相補的ポリペプチド鎖が機能的ダイアボディを形成するために利用可能であるということである。ドメインはペプチドリンカーによって分離されてもよく、ポリペプチド鎖は各鎖で少なくとも1つのシステイン残基を含むように操作することができるので、鎖間ジスルフィド結合を形成してダイアボディを安定させることができる。
【0148】
ドメインおよびVドメインが同じ抗体に由来する場合、2つの相補的ポリペプチド鎖は同一であって、二価の単一特異性抗体を生じることができるか、または異なって、二価の二重特異性抗体(例えば、同じ抗原上の2つの異なるエピトープに結合するもの)が生じることができる。VドメインおよびVドメインが異なる抗原に特異的な抗体に由来する場合、機能的二重特異性ダイアボディの形成は、2つの異なるポリペプチド鎖の相互作用、すなわちヘテロダイマーの形成を必要とする。特定の実施形態では、ダイアボディの少なくとも1つのエピトープ結合部位は、特定の細胞、例えばB細胞もしくはT細胞、貪食性細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞または樹状細胞の上の抗原に特異的である。
【0149】
様々な実施形態では、ダイアボディのポリペプチド鎖の1つまたはそれより多くは、Fcドメインを含む。ダイアボディ分子のポリペプチド鎖のFcドメインは優先的に二量体化し、免疫グロブリン様特性、例えばFc−FcγR相互作用を示すダイアボディ分子の形成が起こる。Fcを含むダイアボディは二量体であってもよく、例えば、各々Vドメイン、VドメインおよびFcドメインを含む2つのポリペプチド鎖を含むことができる。様々な実施形態では、ダイアボディのポリペプチド鎖の1つまたはそれより多くはヒンジドメインを含み、それは、IgA、IgD、IgG、IgEおよびIgMを含む任意の免疫グロブリンアイソタイプまたはアロタイプに由来することができる。好ましい実施形態では、ヒンジドメインはIgGに由来し、そこにおいて、IgGアイソタイプはIgG1、IgG2、IgG3もしくはIgG4またはそれらのアロタイプである。ヒンジドメインは鎖の他のドメインまたは部分と比較して任意の位置でポリペプチド鎖において操作することができ、特定の状況では、ダイアボディ分子がヒンジ−Fcドメインを含むようにFcドメインと一緒に操作することができる。
【0150】
他の実施形態では、Fcドメインを含むダイアボディ分子は四量体であることができ、それは2つの「より重い」ポリペプチド鎖(すなわち、Vドメイン、VドメインおよびFcドメインを含むポリペプチド鎖)および2つの「より軽い」ポリペプチド鎖(すなわち、VおよびVを含むポリペプチド鎖)を含むことができる。そのようなより軽い鎖およびより重い鎖は相互作用してモノマーを形成することができ、またそれらの不対Fcドメインを通して相互作用することによってIg様分子を形成することができ、その分子はDART分子であってもよい。そのようなIg様ダイアボディは四価であり、単一特異性、二重特異性または四重特異性であることができる。Ig様DART種は、そのドメインが同じエピトープに(4つの同一の抗原分子に結合することができる四価の、モノエピトープ特異的Ig様DARTを形成するように)、または異なるエピトープもしくは抗原に結合するように設計することができるので、独特の特性を有する。例えば、そのドメインは、同じ抗原の2つのエピトープに結合するように(四価の一抗原特異的二エピトープ特異的Ig様DARTを形成するように)、または異なる抗原分子のエピトープに結合するように(第1の抗原に特異的な1対の結合部位および第2の抗原に特異的な第2の対の結合部位を有する四価のIg様DARTを形成するように)設計することができる。そのような属性の組合せを有するハイブリッド分子は、容易に生成することができる。
【0151】
特定の作用機構によって束縛されることを意図するわけではないが、本発明のダイアボディ分子は、一部、例えばダイアボディ−エピトープ相互作用の向上したアビディティによってダイアボディが標的細胞の上により長く留まる能力に起因して、特定の抗原(例えば、FcγR)を低下したレベルで発現する標的細胞に免疫特異的に結合するダイアボディの能力に起因して、当該技術分野で公知である治療的抗体と比較してより高い治療効力を示す。したがって、本発明のダイアボディは、標的抗原が標的細胞集団で低いレベルで発現される亜集団での、癌などの疾患または障害の処置、予防または管理で特に有用性を有する。
【0152】
それらのより高い価数、低い解離速度および循環からの速やかなクリアランス(約50kDa以下の、小さいダイアボディについて)に起因して、当該技術分野で公知であるダイアボディ分子は、腫瘍画像化の分野でも特に有用性を示した。(Fitzgeraldら(1997年)Protein Eng. 10巻:1221頁)。異なる細胞の架橋、例えば腫瘍細胞への細胞傷害性T細胞の架橋が、特に重要である。(Staerzら(1985年)Nature 314巻:628〜631頁、Holligerら(1996年)Protein Eng. 9巻:299〜305頁)。ダイアボディエピトープ結合ドメインは、任意の免疫エフェクター細胞の表面決定因子(例えばTリンパ球、ナチュラルキラー(NK)細胞または他の単核細胞の上で発現されるCD3、CD16、CD32またはCD64)に対するものとすることもできる。多くの研究では、エフェクター細胞決定因子(例えばFcγ受容体(FcγR))に結合するダイアボディも、エフェクター細胞を活性化することが見出された。(Holligerら(1996年)Protein Eng. 9巻:299〜305頁、Holligerら(1999年)Cancer Res. 59巻:2909〜2916頁)。通常、エフェクター細胞活性化は、Fc−FcγR相互作用を介した、エフェクター細胞への抗原結合抗体の結合によって誘発される。したがって、この点に関しては、本発明のダイアボディ分子は、それらがFcドメインを含むかどうかとは無関係に、Ig様機能を示すことができる。腫瘍およびエフェクター細胞の架橋によって、ダイアボディはエフェクター細胞を腫瘍細胞に近づけるだけでなく、有効な腫瘍殺傷ももたらす。CaoおよびLam(2003年)Adv. Drug. Deliv. Rev. 55巻:171〜97頁。
【0153】
本発明のダイアボディ分子は、新規のタンパク質合成および結合タンパク質をコードする核酸の組換え発現を含む、様々な方法を用いて生成することができる。所望の核酸配列は、組換え方法(例えば、所望のポリヌクレオチドの事前に調製されたバリアントのPCR変異誘発)によって、または固相DNA合成によって生成することができる。好ましくは組換え発現方法が用いられる。一態様では、本発明はCD16A Vおよび/またはVをコードする配列を含むポリヌクレオチドを提供する。別の態様では、本発明はCD32B Vおよび/またはVをコードする配列を含むポリヌクレオチドを提供する。遺伝コードの縮重のため、様々な核酸配列が各免疫グロブリンアミノ酸配列をコードし、本発明は、本明細書に記載される結合タンパク質をコードするすべての核酸を包含する。
【0154】
B7.抗体生成
本発明の好ましい実施形態の抗体は、様々な方法のいずれかで生成することまたは得ることができる。例えば、そのような抗体は、血漿から、合成的に、組換えもしくはトランスジェニックに、細胞(例えば、ハイブリドーマ培養)経由などによって得ることができる。合成タンパク質の生成は、例えば、Dawsonら(2000年)Ann. Rev Biochem. 69巻:923〜960頁、Wilkenら(1998年)Curr. Opin. Biotechnol. 9巻(4号):412〜426頁およびKochendoerferら(1999年)Curr. Opin. Chem. Biol. 3巻(6号):665〜671頁に記載されている。
【0155】
組換えおよびトランスジェニックな抗体の生成は、例えば、Wangら(2007年)IDrugs 10巻(8号):562〜565頁、Hagemeyerら(2007年)Semin. Thromb. Hemost. 33巻(2号):185〜195頁、Rasmussenら(2007年)Biotechnol. Lett. 29巻(6号):845〜852頁、Gasserら(2007年)Biotechnol. Lett. 29巻(2号):201〜212頁、Aubreyら(2006年)J. Soc. Biol. 200巻(4号):345〜354頁、Lafflyら(2006年)J. Soc. Biol. 200巻(4号):325〜343頁、Jefferis(2005年)Biotechnol Prog. 21巻(1号):11〜16頁、Smithら(2004年)J. Clin. Pathol. 57巻(9号):912〜917頁、Kipriyanovら(2004年)Mol Biotechnol. 26巻(1号):39〜60頁、Fischerら(2003年)Vaccine 21巻(7〜8号):820〜825頁、Maynardら(2000年)Ann. Rev. Biomed. Eng. 2巻:339〜376頁、Youngら(1998年)Res. Immunol. 149巻(6号):609〜610頁およびHudson(1998年)Curr. Opin. Biotechnol. 9巻(4号):395〜402頁に記載されている。
【0156】
細胞(例えば、ハイブリドーマ)培養を通した抗体生成は、例えば、上記Lafflyら(2006年)、Aldingtonら(2007年)J. Chromatogr. B Analyt. Technol. Biomed. Life Sci. 848巻(1号):64〜78頁、S.S. Farid(2006年)J. Chromatogr. B Analyt. Technol. Biomed. Life Sci. 848巻(1号):8〜18頁、Birchら(2006年)Adv. Drug Deliv. Rev. 58巻(5〜6号):671〜685頁、Evenら(2006年)Trends Biotechnol. 24巻(3号):105〜108頁、Graumannら(2006年)Biotechnol. J. 1巻(2号):164〜86頁;米国特許第7,112,439号;ならびに米国特許出願公開第20070037216号および第20040197866号に記載されている。
【0157】
抗体は、ファージディスプレイ法、例えば、Brinkmanら(1995年)J. Immunol. Methods 182巻:41〜50頁、Amesら(1995年)J. Immunol. Methods 184巻:177〜86頁、Kettleboroughら(1994年)Eur. J. Immunol. 24巻:952〜58頁、Persicら(1997年)Gene 187巻:9〜18頁、Burtonら(1994年)Advances in Immunology 57巻:191〜280頁;国際公開第90/02809号、国際公開第91/10737号、国際公開第92/01047号、国際公開第92/18619号、国際公開第93/11236号、国際公開第95/15982号、国際公開第95/20401号;ならびに米国特許第5,698,426号、第5,223,409号、第5,403,484号、第5,580,717号、第5,427,908号、第5,750,753号、第5,821,047号、第5,571,698号、第5,427,908号、第5,516,637号、第5,780,225号、第5,658,727号、第5,733,743号および第5,969,108号に開示されているものなどを通して生成することができる。ファージディスプレイ技術は、その抗原への抗体の親和性を高めるために用いることもできる。親和性成熟と呼ばれるこの技術は、変異誘発またはCDRウォーキング、および最初のまたは親の抗体と比較してより高い親和性で抗原に結合する抗体を特定するための、コグネイト抗原を用いる再選抜を採用する。例えば、Glaserら(1992年)J. Immunology 149巻:3903頁、Wuら(1998年)Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 95巻:6037頁、Yeltonら(1995年)J. Immunology 155巻:1994頁、Schierら(1996年)J. Mol. Bio. 263巻:551頁を参照。
【0158】
モノクローナル抗体は、当業者に公知である様々な方法、例えば、Kohlerら(1975年)Nature 256巻:495頁、Kozborら(1983年)Immunology Today 4巻:72頁またはColeら(1985年)Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R. Liss, Inc.、77〜96頁に記載のハイブリドーマ法、または、例えば米国特許第4,816,567号に記載の組換えDNA法によって作製することができ、あるいは、抗体は、例えばClacksonら(1991年)Nature 352巻:624〜628頁およびMarksら(1991年)J. Mol. Biol. 222巻:581〜597頁に記載の技術を用いてファージ抗体ライブラリーから単離することができる。目的の抗原に対するポリクローナル抗体の生成のために、当該技術分野で周知である様々な手順を用いることができる。例えば、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、マウス、ラットおよびモルモットを含むがそれらに限定されない様々な宿主動物を、目的の抗原またはその誘導体の注入によって免疫することができ、免疫応答を起こさせた後に、免疫した動物の血清から抗体を特定することができる。
【0159】
二重特異性抗体は、例えば、Milsteinら(1983年)Nature 305巻:537〜39頁、国際公開第93/08829号、Trauneckerら(1991年)EMBO J. 10巻:3655〜59頁に記載のように、2つの鎖が異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖−軽鎖対の同時発現とそれに続くアフィニティークロマトグラフィーを用いる所望分子の精製によって作製することもできる。別のアプローチでは、所望の結合特異性を有する抗体可変ドメイン(抗体−抗原結合部位)が、ヒンジ領域、CH2領域およびCH3領域の少なくとも一部を含む、免疫グロブリンの定常ドメイン配列、例えば重鎖定常ドメインに融合される。これらの融合物をコードする核酸は、同じであるかまたは異なる発現ベクターに挿入することができ、適する宿主生物体で発現される。
【0160】
完全ヒト抗体(完全にヒトの抗体とも呼ばれる)は、内因性免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の遺伝子を発現することができないが、ヒトの重鎖および軽鎖の遺伝子を発現することができるトランスジェニックマウスを用いて生成することができる。選択された抗原、例えば本発明のポリペプチドの全体または一部で、トランスジェニックマウスを通常の方法で免疫する。トランスジェニックマウスが保持するヒト免疫グロブリン導入遺伝子は、B細胞分化の間再編成され、その後クラススイッチおよび体細胞性変異を受ける。したがって、そのような技術を用いて、治療的に有用なIgG抗体、IgA抗体、IgM抗体およびIgE抗体を生成することが可能である。ヒト抗体を生成することについてのこの技術の概要は、例えば、LonbergおよびHuszar(1995年)Int. Rev. Immunol. 13巻:65〜93頁および米国特許第5,633,425号に記載されている。完全ヒト抗体は、HoogenboomおよびWinter(1991年)J. Mol. Biol. 227巻:381頁およびMarksら(1991年)J. Mol. Biol. 222巻:581頁によって記載されるとおりの、ファージディスプレイライブラリーを含む、当該技術分野で公知である他の技術を用いて生成することもできる。完全ヒト抗体は、例えばAbgenix,Inc.(Freemont、Calif.)およびGenpharm(San Jose、Calif.)から市販品を得ることもできる。選択されたエピトープを認識する完全ヒト抗体は、「誘導選択」と呼ばれる技術を用いて生成することができる。このアプローチでは、例えば、Jespersら(1994年)Biotechnology 12巻:899〜903頁に記載のとおりに、同じエピトープを認識する完全にヒトの抗体の選択を誘導するために、選択された非ヒトモノクローナル抗体、例えばマウス抗体を用いる。
【0161】
本発明は、ポリペプチドおよび抗体を含めた本発明の分子をコードするポリヌクレオチド、ならびにこのポリヌクレオチドを含むベクター、ならびにこのベクターを含む宿主細胞も包含する。本発明の分子をコードするポリヌクレオチドを得ることができ、このポリヌクレオチドのヌクレオチド配列は、当該技術分野で公知である任意の方法、例えば組換えDNA技術、部位特異的変異誘発、PCRなどによって決定することができる。一実施形態では、当該技術分野で利用可能なヒトライブラリーまたは任意の他のライブラリーを当該技術分野で公知である標準技術でスクリーニングして、本発明の分子をコードする核酸をクローニングすることができる。
【0162】
B8.抗体の特徴付け
本発明の抗体は、様々な方法で特徴付けることができる。特に、本発明の抗体は、抗原、例えばHER2/neuに免疫特異的に結合する能力について、または、分子がFcドメイン(またはその一部)を含む場合は、Fc−FcγR相互作用、すなわちFcγRへのFcドメイン(またはその一部)の特異的結合を示す能力についてアッセイすることができる。そのようなアッセイは、溶液中で(例えば、Houghten(1992年)Bio/Techniques 13巻:412〜421頁)、ビーズで(Lam(1991年)Nature 354巻:82〜84頁)、チップで(Fodor(1993年)Nature 364巻:555〜556頁)、細菌で(米国特許第5,223,409号)、胞子で(米国特許第5,571,698号、第5,403,484号および第5,223,409号)、プラスミドで(Cullら(1992年)Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 89巻:1865〜1869頁)またはファージで(ScottおよびSmith(1990年)Science 249巻:386〜390頁、Devlin(1990年)Science 249巻:404〜406頁、Cwirlaら(1990年)Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 87巻:6378〜6382頁およびFelici(1991年)J. Mol. Biol. 222巻:301〜310頁)実施することができる。抗原に免疫特異的に結合すると特定された分子は、抗原に対するそれらの特異性および親和性について次にアッセイすることができる。
【0163】
免疫特異的結合、交差反応性およびFc−FcγR相互作用を分析するために用いることができる免疫アッセイは、ウェスタンブロット、放射免疫アッセイ、ELISA(酵素結合免疫吸着検定法)、「サンドイッチ」免疫アッセイ、免疫沈降アッセイ、沈降反応、ゲル拡散沈降反応、免疫クロマトグラフィーアッセイ、免疫拡散アッセイ、凝集アッセイ、補体結合アッセイ、イムノラジオメトリックアッセイ、蛍光免疫アッセイおよびプロテインA免疫アッセイなどの技術を用いる、競合的アッセイ系および非競合的アッセイ系を包含するが、これらに限定されない(例えば、Ausubelら、2008年、Current Protocols in Molecular Biologyを参照)。
【0164】
標的抗原への結合親和性は、標準の抗体抗原アッセイ、例えばBiacore競合アッセイ、飽和アッセイ、またはELISAもしくはRIAなどの免疫アッセイによって代表的に測定または決定される。
【0165】
好ましくは、本発明の分子を特徴付けるために、当業者に公知である技術のいずれかを用いる蛍光活性化細胞分取(FACS)が、免疫または機能ベースのアッセイで用いられる。フローソータは、本発明の分子によって結合された、例えばオプソニン作用を受けた多数の個々の細胞を速やかに調べることができる(例えば、1時間に10,000,000〜100,000,000個の細胞)。さらに、抗体挙動の最適化のために用いられる特定のパラメータは、抗原濃度、反応速度競合時間(kinetic competition time)またはFACSストリンジェンシーを包含するがそれらに限定されず、その各々は、特異的結合特性を示す抗体分子を選択するために変更することができる。生物細胞を選別して調べるためのフローサイトメータは、当該技術分野で周知である。公知のフローサイトメータが、例えば、米国特許第4,347,935号、第5,464,581号、第5,483,469号、第5,602,039号、第5,643,796号および第6,211,477号に記載されている。他の公知のフローサイトメータは、Becton Dickinson and Companyから販売されているFACS VantageTMシステム、およびUnion Biometricaから販売されているCOPASTMシステムである。
【0166】
抗原結合性ドメインまたはFc−FcγR結合の反応速度パラメータを特徴付けるために、表面プラズモン共鳴に基づくアッセイを用いることができる。当業者に公知である任意の方法、例えば、Dongら(2002年)Review in Mol. Biotech. 82巻:303〜323頁、Mulletら(2000年)Methods 22巻:77〜91頁、Richら(2000年)Current Opinion in Biotechnology 11巻:54〜61頁、Fivashら(1998年)Current Opinion in Biotechnology 9巻:97〜101頁;ならびに米国特許第6,373,577号、第6,289,286号、第5,322,798号、第5,341,215号および第6,268,125号に記載の技術を用いることができる。例えば、Myszka(1997年)Current Opinion in Biotechnology 8巻:50〜57頁、O’Shannessyら(1996年)Analytical Biochemistry 236巻:275〜283頁、Mortonら(1995年)Analytical Biochemistry 227巻:176〜185頁、Fisherら(1994年)Current Opinion in Biotechnology 5巻:389〜95頁、O’Shannessy(1994年)Current Opinion in Biotechnology 5巻:65〜71頁およびChaikenら(1992年)Analytical Biochemistry 201巻:197〜210頁に記載のように、データは、結合曲線をプロットし、速度定数、例えばKon、Koff、およびみかけの平衡結合定数Kを決定するために用いられる。好ましい実施形態では、SPR分析を用いて測定された反応速度パラメータは、分子が機能アッセイ、例えばADCCにおいてどのように作用するかについての予測的尺度として用いることができる。
【0167】
Fcドメイン(またはその一部)を含む、および/またはFcγRに特異的なエピトープ結合ドメインを含む分子によるFcγRへの結合の特徴付けは、抗体工学技術に記載の方法によって実施することができる。エフェクター細胞機能についてのアッセイは、例えばAbdul−Majidら(2002年)Scand. J. Immunol. 55巻:70〜81頁、Perussiaら(2000年)Methods Mol. Biol. 121巻:179〜192頁、Lehmannら(2000年)J. Immunol. Methods 243巻(1〜2号):229〜242頁、Dingら(1998年)Immunity 8巻:403〜411頁、Baggioliniら(1998年)Experientia 44巻(10号):841〜848頁、Brown(1994年)Methods Cell Biol. 45巻:147〜164頁およびMunnら(1990年)J. Exp. Med. 172巻:231〜237頁に記載されているように、周知である。
【0168】
例えば、FcγR媒介食作用についてのアッセイは、Tridandapaniら(2000年)J. Biol. Chem. 275巻:20480〜20487頁で前に記載されている方法によって、フルオレセイン化IgGオプソニン処理ヒツジ赤血球(SRBC)を貪食するTHP−1細胞の能力を測定することによって、またはBedzykら(1989年)J. Biol. Chem. 264巻(3号):1565〜1569頁に記載のとおりの抗体依存性オプソニン食作用アッセイ(ADCP)を用いることによって、ヒト単球を用いて実施することができる。Fcドメイン(またはその部分)を含む本発明の分子によるC1qの結合および補体依存性細胞傷害(CDC)の媒介を特徴付けるために、当業者に公知である標準の方法を用いることができる。例えば、例えばGazzano−Santoroら(1996年)J. Immunol. Methods 202巻:163頁に記載のように、C1q結合を測定するためにC1q結合性ELISAを実施することができ、補体活性化を評価するために補体依存性細胞傷害(CDC)アッセイを実施することができる。
【0169】
別の実施形態では、当業者に公知であり、例えばWengら(2003年)J. Clin. Oncol. 21巻:3940〜3947頁、Perussiaら(2000年)Methods Mol. Biol. 121巻:179〜192頁、Dingら(1998年)Immunity 8巻:403〜411頁に記載されている標準方法のいずれかを用いて、エフェクター細胞、例えばナチュラルキラー細胞中でのFcγR媒介ADCC活性について本発明の分子をアッセイすることができる。具体的な好ましい実施形態では、蛍光標識標的細胞に対するADCC活性を測定するために、例えばBlombergら(1996年)Journal of Immunological Methods 193巻:199〜206頁に記載のように、時間分解蛍光アッセイが用いられる。本発明のADCCアッセイで用いられる標的細胞は、乳癌細胞系、例えばATCCアクセッション番号がHTB−30のSK−BR−3(Trempら(1976年)Cancer Res. 33〜41頁);Bリンパ球;バーキットリンパ腫由来の細胞、例えば、ATCCアクセッション番号がCCL−86のRaji細胞(Epsteinら(1965年)J. Natl. Cancer Inst. 34巻:231〜240頁)およびATCCアクセッション番号がCCL−213のDaudi細胞(Kleinら(1968年)Cancer Res. 28巻:1300〜1310頁)を包含するがそれらに限定されない。標的細胞は、アッセイされる分子の抗原結合部位によって認識されなければならない。好ましくは、本発明のADCCアッセイで用いられるエフェクター細胞は、当業者に公知である標準の方法を用いて、例えばFicoll−Paque密度勾配遠心法を用いて、好ましくは正常なヒト血液から精製される末梢血単核細胞(PBMC)である。
【0170】
C.処置方法および医薬組成物
本発明の組成物(例えば、抗体およびポリペプチド)の投与は、「予防」または「治療」目的のためであってもよく、あるいは診断目的のために用いることができる。本発明の組成物は、投与される量が疾患の実際の徴候についての治療を提供するために生理的に有意である場合、「治療」目的のために投与されると言われる。治療的に提供される場合、化合物は、好ましくは実際の疾患の症状の同定時(またはその少し後)に提供される。化合物の治療的投与は、そのような疾患の重篤度を軽減するかまたはその進行を逆転させるのに役立つ。本発明の組成物は、投与される量が潜在的な疾患または状態についての治療を提供するために生理的に有意である場合、「予防」目的のために投与されると言われる。予防的に提供される場合、化合物は、好ましくはその任意の症状に先立って提供される。化合物の予防的投与は、疾患のその後の任意の進展または再発を予防または軽減するのに役立つ。
【0171】
治療を提供することまたは「処置すること」は、傷害、病状または状態の処置または改善における任意の成功の徴候を指し、症状の緩和、寛解、軽減、または傷害、病状もしくは状態を患者により許容できるものにすること、変性もしくは衰弱の速度を遅くすること、変性の最終点の消耗性を弱くすること、または患者の身体的もしくは精神的な幸福を向上させることなどの、任意の客観的または主観的なパラメータを包含する。症状の処置または改善は、身体検査、神経精神医学的検査および/または精神医学的な評価の結果を含む、客観的または主観的なパラメータに基づくことができる。
【0172】
処置についての好ましい被験体には、疾患および他の病的状態にある、動物、最も好ましくはヒトまたは他の霊長類などの哺乳動物種、およびイヌ、ネコなどの家庭用動物が含まれる。「患者」は、被験体、好ましくは哺乳動物(ヒトを含む)を指す。
【0173】
本発明の特定の実施形態は、1つまたはそれより多くの治療剤を含む医薬組成物、および1つまたはそれより多くの治療剤の治療的有効量を投与する方法に関し、それらは、障害の予防的および/または治療的な処置が可能である。用語「治療剤」は、予防的または治療的に障害を処置する治療効果を有する任意の作用物質(agent)を指す。例示的な治療剤には、本発明の抗体およびポリペプチド、ならびに抗体またはポリペプチドと組み合わせて投与することまたはコンジュゲートさせることができる他の治療剤が含まれる。好ましい実施形態では、治療剤は本発明の抗体であり、好ましくは抗体断片、ダイアボディ、Ig様DARTまたは融合タンパク質である。
【0174】
本発明の分子は、FcγRによって媒介されるエフェクター細胞機能(例えば、ADCC)が望ましい疾患、障害または感染症(例えば、癌、感染性疾患)の処置および/または予防のために特に有用である。例えば、本発明の分子は、免疫エフェクター細胞(例えば、NK細胞)の上の細胞表面抗原およびFcγR(例えば、FcγRIIIA)に結合して、前記細胞に対するエフェクター機能(例えば、ADCC、CDC、食作用、オプソニン作用など)を刺激することができる。一部の実施形態では、本発明の抗体およびポリペプチドは、癌の処置に特に適する。標準のモノクローナル抗体治療の効力は、被験体のFcγR多型に依存する。Cartonら(2002年)Blood 99巻:754〜758頁、Wengら(2003年)J Clin Oncol. 21巻(21号):3940〜3947頁。これらの受容体はエフェクター細胞の表面で発現されて、ADCCを媒介する。高親和性対立遺伝子は、エフェクター細胞のADCC媒介能力を向上させる。本発明の抗体およびポリペプチドは、エフェクター細胞上の(野生型Fcドメインと比較して)より高められたFcγR親和性を示すバリアントFcドメインを含むことができ、したがって、患者のFcγR多型に関係なくより良好な免疫治療試薬を患者に提供することができる。
【0175】
診断目的のためには、抗体またはポリペプチドは、それらを、例えば疾患、障害または感染症の発達または進行をモニタリングするために用いることができるように、検出可能な物質に結合することができる。検出可能な物質の例には、様々な酵素(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼなど)、補欠分子族(例えば、アビジン/ビオチン)、蛍光物質(例えば、ウンベリフェロン、フルオレセインまたはフィコエリトリン)、発光物質(例えば、ルミノール)、生物発光物質(例えば、ルシフェラーゼまたはエクオリン)、放射性物質(例えば、炭素−14、マンガン−54、ストロンチウム−85または亜鉛−65)、ポジトロン放射金属、および非放射性常磁性金属イオンが含まれる。検出可能な物質は、当該技術分野の公知技術を用いて、本発明の分子に直接的に、または中間体(例えば、リンカー)を通して間接的にのいずれかで結合またはコンジュゲートさせることができる。
【0176】
C1.処置可能な障害
本発明の様々な実施形態により処置され得る例示的な障害としては、増殖性障害、細胞増殖性障害、および癌、自己免疫疾患、炎症性障害、ならびに感染症が挙げられるが、これらに限定されるものではない。様々な実施形態では、本発明は、疾患抗原に結合する治療的有効量の1つまたはそれより多くの分子(抗体もしくはポリペプチド)を被験体に投与することを含む、被験体における疾患または障害の処置、予防または管理のための方法および組成物を包含する。例えば、本発明の分子は、原発腫瘍の増殖または退縮、癌細胞の転移、および感染症の予防、抑制、軽減に特に有用である。特定の作用機序に縛られるつもりはないが、本発明の分子はエフェクター機能を媒介して、腫瘍クリアランス、腫瘍減少、またはその組合せをもたらす。代わりの実施形態では、本発明のダイアボディは、細胞表面抗原および/または受容体の架橋結合、ならびに強化されたアポトーシスまたは負の増殖調節シグナル伝達により治療活性を媒介する。
【0177】
FcγRIIBに対する親和性が減少し、かつFcγRIIIAおよび/またはFcγRIIAに対する親和性が増加した抗体は、FcγRが結合した際の活性化応答が強化される可能性があり、したがって、癌を処置しかつ/または予防するための治療的効力を有する可能性がある。本明細書の方法により処置可能な癌の非限定的例としては、急性骨髄性リンパ腫、副腎癌腫、腺癌、基底癌、膀胱癌、骨癌、骨および結合組織肉腫、脳の癌、乳癌、気管支癌、子宮頸癌、絨毛癌、慢性リンパ球性白血病、慢性骨髄性白血病、結腸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、食道癌、眼癌、ファローピウス管癌、胆嚢癌、胃腸癌、グリオーマ、毛様細胞白血病、ヘパトーマ、ホジキン病、肝内胆管癌、関節癌、カポジ肉腫、腎癌、喉頭癌、肝癌、白血病、肺癌、リンパ芽球性白血病、リンパ腫、悪性中皮腫、髄芽腫、メラノーマ、中皮腫、中耳癌、多発性骨髄腫、骨髄腫、粘液肉腫、鼻腔癌、鼻咽頭癌、神経芽細胞腫、非ホジキンリンパ腫、非小細胞肺癌、鼻の癌、口腔癌、卵巣癌、膵癌、陰茎癌(penal cancer)、腹膜癌、咽頭癌、下垂体癌、前立腺癌、直腸癌、腎癌、唾液腺癌、皮膚癌、軽部組織肉腫、扁平上皮癌、胃癌、精巣癌、甲状腺癌、泌尿器癌、子宮癌、膣癌、小胞癌(vesticular cancer)、外陰癌、ならびにウィルムス腫瘍が挙げられる。
【0178】
一部の実施形態では、癌は、リンパ腫、白血病、骨髄腫、リンパ系悪性疾患、脾臓の癌、およびリンパ節の癌などの造血性癌または血液関連癌である。好ましい実施形態では、癌は、例えば、高悪性度、中悪性度または低悪性度のリンパ腫(例えば、バーキットリンパ腫、びまん性大細胞型リンパ腫、濾胞性リンパ腫、ホジキンリンパ腫、マントル細胞リンパ腫、辺縁帯リンパ腫、粘膜関連リンパ組織B細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、小リンパ球性リンパ腫、およびT細胞リンパ腫などのB細胞リンパ腫を包含する)、と白血病(B細胞白血病(CD5+Bリンパ球)などの慢性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、急性リンパ芽球性白血病などのリンパ性白血病、脊髄形成異常症、急性骨髄性白血病などの骨髄性白血病、および二次性白血病を包含する)などのB細胞関連癌、形質細胞性悪性疾患などの多発性骨髄腫、ならびに他の血液学的および/またはB細胞もしくはT細胞に関連する癌である。他の例となる癌は、好塩基球、好酸球、好中球および単球などの多形核白血球、樹状細胞、血小板、赤血球ならびにナチュラルキラー細胞を含むさらなる造血細胞の癌である。
【0179】
一部の実施形態では、処置されるべき癌は、乳癌、前立腺癌、子宮癌、卵巣癌、結腸癌、子宮内膜癌、副腎癌腫、または非小細胞肺癌である。一部の実施形態では、癌は乳癌または前立腺癌である。一部の実施形態では、癌は、HER2/neuが過剰発現されている癌である。特定の実施形態では、本発明の抗体またはポリペプチドは、本発明の抗体またはポリペプチドがない癌細胞の増殖と比べて、癌細胞の増殖を少なくとも99%、少なくとも95%、少なくとも90%、少なくとも85%、少なくとも80%、少なくとも75%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも45%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも35%、少なくとも30%、少なくとも25%、少なくとも20%、または少なくとも10%抑制するまたは減少させる。
【0180】
FcγRIIBに対する親和性が増加し、かつFcγRIIIAおよび/またはFcγRIIAに対する親和性が減少した抗体は、FcγR結合の際に活性化応答の減少をもたらす可能性があり、したがって、炎症および自己免疫疾患を処置および/または予防するための治療的効力を有する可能性がある。本明細書の方法により処置され得る自己免疫障害の例には、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質抗体症候群、自己免疫性アジソン病、副腎の自己免疫疾患、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性卵巣炎および精巣炎、自己免疫性血小板減少症、ベーチェット病、水泡性類天疱瘡、心筋症、セリアックスプルー皮膚炎、慢性疲労免疫機能障害症候群(CFIDS)、慢性炎症性脱髄性多発性ニューロパチー、チャーグストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡(cicatrical pemphigoid)、クレスト症候群、寒冷凝集素症、クローン病、円板状ループス、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛症−線維筋炎、糸球体腎炎、グレーブス病、ギランバレー、橋本甲状腺炎、特発性肺線維症、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、IgA神経障害、若年性関節炎、扁平苔癬、エリテマトーデス、メニエール病、混合性結合組織病、多発性硬化症、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、悪性貧血、結節性多発動脈炎、多発性軟骨炎、多腺性症候群、リウマチ性多発性筋痛症、多発筋炎および皮膚筋炎、原発性無ガンマグロブリン血症、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、乾癬性関節炎、レイノー現象、ライター症候群、関節リウマチ、サルコイドース、強皮症、シェーグレン症候群、スティッフマン症候群、全身性エリテマトーデス、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、1型または免疫介在性糖尿病、潰瘍性大腸炎、ブドウ膜炎、疱疹性皮膚炎脈管炎などの脈管炎、白斑症、ならびにウェゲナー肉芽腫症が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0181】
本明細書の方法により処置可能な炎症性障害の非限定的例としては、免疫介在性炎症性障害(IMID)が挙げられ、これは抗原特異的病理学的免疫応答により引き起こされかつ維持される炎症状態である。これらの障害の中には、喘息、枯草熱、および蕁麻疹などの様々な種類のアレルギー性疾患、変形性関節症および関節リウマチなどの関節炎、慢性炎症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、結合組織障害、線維症、移植片拒絶および移植片対宿主病、炎症性腸疾患(例えば、クローン病および潰瘍性大腸炎)、炎症性骨溶解症、インスリン依存性糖尿病、肺線維症、網膜炎、未分化関節症、未分化脊椎関節症、ならびにブドウ膜炎がある。FcγRIIBに対して特異的な少なくとも1つのエピトープ結合ドメインおよび/またはFcγRIIBに対する親和性が強化され、かつFcγRIIIAに対する親和性が減少しているバリアントFcドメインを含む本発明の分子は、移植片の拒絶を予防するためにも使用することができる。
【0182】
本発明の抗炎症性ポリペプチドは、好ましくは、そのようなポリペプチドを受けていない動物の炎症と比べて、動物の炎症を少なくとも99%、少なくとも95%、少なくとも90%、少なくとも85%、少なくとも80%、少なくとも75%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも45%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも35%、少なくとも30%、少なくとも25%、少なくとも20%、または少なくとも10%軽減する。
【0183】
特定の実施形態では、本発明のポリペプチドは、感染因子にとって有毒であり、前記分子のない免疫応答と比べて、前記因子に対する免疫応答を強化するか、または前記因子に対するエフェクター機能を強化する。本発明の分子により処置または予防することができる感染症は、細菌、真菌、原生動物、およびウイルスを含むが、これらに限定されることはない感染因子により引き起こされる。非限定的な例示的細菌性疾患としては、Bacillus antracis(炭疽)、Borrelia burgdorferi(ライム病)、Candida、クラミジア、コレラ、ジフテリア(diptheria)、E.coli、Enterococcus faecials、Heliobacter pylori、Klebsiella pneumoniae、レジオネラ、マイコバクテリウム、マイコプラスマ、Neisseria、百日咳、ペスト、Proteus vulgaris、Pseudomonas aeruginosa、S.pneumonia、Salmonella、ブドウ球菌、連鎖球菌、および破傷風により引き起こされる細菌性疾患が挙げられる。非限定的原生動物疾患としては、コクジディオア(kokzidioa)、リーシュマニア、マラリア、またはトリパノソーマにより引き起こされる原生動物疾患が挙げられる。
【0184】
ウイルス性疾患の非限定的例としては、アデノウイルス、アルボウイルス、コロナウイルス、コクサッキーウイルス、サイトメガロウイルス、エボラ、エキノウイルス(echinovirus)、エコーウイルス、内毒素(LPS)、エンテロウイルス、Epstein Barrウイルス、肝炎ウイルス(例えば、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、マウス肝炎)、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスI型(HSV−I)、単純ヘルペスII型(HSV−II)、マウスγヘルペスウイルス)、ヒト免疫不全症ウイルスI型(HIV−I)、ヒト免疫不全症ウイルスII型(HIV−II)、ハンタウイルス(huntavirus)、インフルエンザ、白血病ウイルス(例えば、マウス白血病、ネコ白血病など)、麻疹ウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、パピローマウイルス、パポバウイルス、ポリオウイルス、RSウイルス、レトロウイルス、ライノウイルス、牛疫、ロタウイルス、風疹ウイルス、天然痘、T細胞リンホトロピックウイルス1、ワクシニア、水痘、およびウイルス性髄膜炎、脳炎、またはテング熱などのウイルス性疾患の因子により引き起こされるウイルス性疾患が挙げられる。
【0185】
C2.製剤
医薬組成物は、薬剤的に有用な組成物を調製するための公知の方法に従って処方することができ、薬剤的に許容可能な担体および/または賦形剤を含んでいてもよい。組成物は、任意の適切な形態であってよく、例えば、ごくわずかの非限定的選択肢をあげれば、錠剤、丸剤、散剤、トローチ剤、サシェ剤、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、液剤、シロップ剤、エアゾール剤(固体として、または液状媒体中で)、例えば、最大10重量%の活性化合物を含有する軟膏剤、軟質ゼラチンカプセルおよび硬質ゼラチンカプセル、坐剤、無菌注射液剤、ならびに無菌包装粉末でも可能である。そのような組成物は、任意の公知の方法によって調製してよく、例えば、無条件下で活性成分を担体または賦形剤と混合することにより調製してもよい。
【0186】
当該技術分野で公知の手順を用いることにより、患者への投与後に活性成分の速放、徐放または遅延放出を提供するように、活性成分を処方することもできる。本発明の組成物の物理的特徴および化学的特徴は、投与方法および処置されるべき特定の疾患または障害に応じて、当分野の技術に従って改変してもよいし、または最適化してもよい。組成物は、単位投与量形態で、封鎖した容器で、またはキットの一部として提供してもよく、キットは使用説明書および/または複数の単位投与量形態を含んでいてもよい。
【0187】
特定の実施形態では、治療剤は、例えば、リポソーム、微粒子、マイクロカプセルへの封入、抗体もしくは融合タンパク質を発現することができる組換え細胞、受容体依存性エンドサイトーシス(例えば、Wu and Wu(1987年)J. Biol. Chem. 262巻:4429〜4432頁参照)、レトロウイルスまたは他のベクターの一部としての核酸の構築などにより、治療剤を組成物に取り込むことができる。別の特定の実施形態では、治療剤は、乾燥無菌化凍結乾燥粉末または気密封鎖した容器中の水を含まない濃縮物として供給され、例えば、水または生理食塩水で、被験体への投与に適した濃度まで再構成することができる。
【0188】
好ましくは、治療剤は、少なくとも5mg、さらに好ましくは、少なくとも10mg、少なくとも15mg、少なくとも25mg、少なくとも35mg、少なくとも45mg、少なくとも50mg、または少なくとも75mgの単位投与量で、気密封鎖した容器中の乾燥無菌凍結乾燥粉末として供給される。凍結乾燥粉末は、最初の容器中で2から8℃の間で保存されるべきであり、分子は再構成された後12時間以内に、好ましくは、6時間以内、5時間以内、3時間以内、または1時間以内に非経口的に投与されるべきである。代替の実施形態では、治療剤は、治療剤の量および濃度を表示する気密封鎖した容器中に液体形態で提供される。好ましくは、液体形態は、気密封鎖した容器中に少なくとも1mg/ml、さらに好ましくは、少なくとも2.5mg/ml、少なくとも5mg/ml、少なくとも8mg/ml、少なくとも10mg/ml、少なくとも15mg/kg、少なくとも25mg/ml、少なくとも50mg/ml、少なくとも100mg/ml、少なくとも150mg/ml、少なくとも200mg/mlの分子で供給される。
【0189】
C3.キット
組成物はキット中に含まれてもよい。キットは、非限定的態様では、治療剤を含む医薬組成物、投与の説明書および/または他のコンポーネントを含むことができる。好ましい実施形態では、キットはいつでも投与できる組成物を含むことができる。キットの容器は、コンポーネントを入れてもよい瓶、ディスペンサー、パッケージ、コンパートメント、またはその他の種類の容器を含むことができる。容器は、その表面にしるしを含むことができる。しるしは、例えば、言葉、語句、略語、絵、または記号でもよい。容器は、所定量のコンポーネント(例えば、本発明の組成物)を分配することができる。組成物は、スプレーで、エアロゾルで、または液体形態もしくは半固体形態で分配することができる。容器は、スプレー、ポンプ、または圧搾機構を持つことができる。ある種の態様では、キットは、本発明の組成物を投与するための注射器を備えることができる。
【0190】
キット中に1つより多くのコンポーネントが存在する場合(これらは一緒に包装されてもよい)、キットは、一般に、追加のコンポーネントを別々に入れてもよい、第2の、第3のまたは他の追加の容器も備えることになる。本発明のキットは、商業販売のためにコンポーネントをぴっちりと閉じ込めて収納する容器も備えることができる。そのような容器は、所望の瓶、ディスペンサー、またはパッケージを保持する射出成形または吹込み成形のプラスチック容器を備えてもよい。キットは、キットコンポーネントを用いるための説明書、ならびにキットに含まれていない他の任意の組成物、化合物、薬剤、活性成分または物体の使用のための説明書も備えることができる。説明書は、実行することが可能な変化形も含んでいてよい。説明書は、例えば、製品または組成物の適用法、使用法、および維持法の説明を含むことができる。
【0191】
C4.投与および投与量
本発明の組成物は様々な投与経路を利用することができる。選択される特定の方法は、当然のことながら、投与が疾患の予防のためでも、診断のためでも、または処置のためでも、選択された特定の治療剤、処置されるべき医学的障害の重篤度および治療効力に必要な投与量に依存する。本発明の方法は、医学的に許容可能であり、臨床的に容認できない有害作用を引き起こさずに有効レベルの活性化合物を生じる投与方法ならどれでも使用して実行してよい。そのような投与方法には、経口、口腔、舌下、吸入、粘膜、直腸、鼻腔内、局所的、眼球、眼周辺、眼球内、経皮的、皮下、動脈内、静脈内、筋肉内、非経口的または注入の方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。特定の実施形態では、本発明の医薬組成物を処置が必要な領域に局所的に投与することが所望される場合があり、これは、例えば、局所注入によって、注射によって、または移植片によって達成してもよいが、これに限定されることはなく、前記移植片は、シアラスティック膜などの膜または繊維を含む、多孔性、非多孔性、またはゼラチン状の物質である。
【0192】
本明細書で使用する場合、用語「治療的有効量」は、有意義な患者の利益、すなわち、慢性状態の治癒もしくは改善、症状の軽減、そのような状態の治癒速度の増加、または処置された組織もしくは周辺組織における物質レベルの検出可能な変化を示すのに十分である医薬組成物または方法の各活性成分の総量を意味する。単独で投与される個々の活性成分に適用される場合は、前記用語はその成分だけを言及する。組合せに適用される場合は、組み合わせて、連続的に、または同時に投与されようとも、前記用語は治療効果をもたらす活性成分の組合せ量をいう。
【0193】
治療的用途および予防的用途に有効な投与スケジュールおよび量、すなわち、「投与計画」(dosing regimen)は、疾患または状態の段階、疾患または状態の重篤度、患者の健康の全身状態、患者の身体状態、齢および同類のものを含む様々な要因に依存する。組成物の治療効果および毒性は、細胞培養物または実験動物において標準的な薬学的、薬理学的および毒物学的の手順により決定してよい。例えば、ED50(集団の50%で治療的に有効な用量)およびLD50(集団の50%の致死用量)を決定する多数の方法が存在する。治療効果と毒性効果との間の用量比は治療指数であり、比ED50/LD50として表すことができる。高い治療指数を示す組成物が好ましい。細胞培養アッセイまたは動物の研究から得られるデータは、ヒトでの使用のためのある範囲の投与量を処方する際に使用してもよい。投与量は、好ましくは、毒性がほとんどまたは全くないED50を含むある範囲の濃度内であり、用いられる投薬形態、患者の感受性、および投与経路に応じてこの範囲内で変わってもよい。
【0194】
投与計画は、当該技術分野で周知の薬物動態学的パラメータ、すなわち、吸収速度、生物学的利用効率、代謝、クリアランスなども考慮に入れる(例えば、Hidalgo−Aragones(1996年)J. Steroid Biochem. Mol. Biol. 58巻:611〜617頁; Groning(1996年)Pharmazie 51巻:337〜341頁; Fotherby(1996年)Contraception 54巻:59〜69頁; Johnson(1995年)J. Pharm. Sci. 84巻:1144〜1146頁; Rohatagi(1995年)Pharmazie 50巻:610〜613頁; Brophy(1983年)Eur. J. Clin. Pharmacol. 24巻:103〜108頁;最新版の上記Remington参照)。技術水準により、臨床医は個々の患者、治療剤および処置される疾患または状態ごとに投与計画を決定することができる。患者により必要とされかつ許容される投与量および頻度に応じて、本発明の組成物の単回または複数回の投与を施すことができる。予防的および治療的な処置の継続期間は、処置されている特定の疾患または状態に応じて変わる。急性処置が役立つ疾患もあれば、長期治療を必要とする疾患もある。投与が毎日でなければ、例えば、注射が数日おきに、数週間おきに、または数カ月おきに与えられるならば、薬剤の毎日の放出が治療必要性を満たすのに十分であるように、より多くの治療剤が各投与に含まれていてもよい。
【0195】
好ましい実施形態では、本発明の治療剤は、長い休止期間のない連続注入または頻回投与のどちらかにより規則正しい投与計画のもとで投与される。そのような規則正しい投与は、休止期間なく一定の間隔をおいて投薬することを含むことができる。典型的には、治療剤、特に細胞傷害剤は、より低い用量で使用される。そのような投与計画は、長期間の比較的低用量の慢性的連日投与を包含し、これにより毒性副作用を最小限に抑え、休止期間を除くことができる。Kamatら、(2007年)Cancer Research 67巻:281〜88頁。特定の実施形態では、治療剤は、約24時間から約2日間まで、約1週間まで、約2週間まで、約3週間まで、約1ヶ月まで、約2ヶ月まで、約3ヶ月まで、約4ヶ月まで、約5ヶ月まで、約6ヶ月までの範囲の慢性的低用量または連続注入により送達される。そのような投与計画のスケジューリングは、熟練した癌専門医により最適化されることができる。
【0196】
本発明によって包含される抗体については、患者に投与される投与量は、典型的には、0.0001mg/kgから100mg/kg患者体重である。好ましくは、患者に投与される投与量は、0.0001mg/kgから20mg/kgまで、0.0001mg/kgから10mg/kgまで、0.0001mg/kgから5mg/kgまで、0.0001から2mg/kgまで、0.0001から1mg/kgまで、0.0001mg/kgから0.75mg/kgまで、0.0001mg/kgから0.5mg/kgまで、0.0001mg/kgから0.25mg/kgまで、0.0001から0.15mg/kgまで、0.0001から0.10mg/kgまで、0.001から0.5mg/kgまで、0.01から0.25mg/kgまで、または0.01から0.10mg/kg患者体重までである。例えば、脂質化などの改変により抗体の取込みおよび組織透過性を強化することによって、投与量および投与頻度を減少してもよく、または変更してもよい。一実施形態では、患者に投与される抗体の投与量は、単剤治療として使用されるときは、0.01mgから1000mg/日である。別の実施形態では、抗体は、他の治療組成物と組み合わせて使用され、患者に投与される投与量は、前記分子が単剤治療として使用されるときよりは少なくなる。好ましい例では、被験体は、約1から10週間まで、好ましくは2から8週間まで、さらに好ましくは約3から7週間まで、さらに好ましくは、約4、5、または6週間の間、約0.1から30mg/kg体重の範囲で週あたり1回、抗体で処置される。
【0197】
C5.組合せ治療
本発明は、現行の標準および実験化学療法、ホルモン治療、生物学的治療、免疫治療、放射線療法、または手術を含むが、これらに限定されることはない、癌、自己免疫疾患、炎症、もしくは感染症の処置または予防のための当業者に公知の他の治療と組み合わせて本発明の抗体またはポリペプチドを投与することをさらに包含する。一部の実施形態では、本発明の抗体またはポリペプチドは、癌、自己免疫疾患、感染症、もしくは中毒の処置および/または予防のために、当業者に公知の治療的または予防的有効量の1つまたはそれより多くの治療剤と組み合わせて投与してもよい。
【0198】
本明細書で使用する場合、用語「組合せ」とは、1つより多くの治療剤の使用をいう。用語「組合せ」の使用は、障害を持つ患者に治療剤を投与する順序を制限しないし、薬剤が正確に同時に投与されることを意味せず、むしろ、本発明の抗体またはポリペプチドが他の薬剤と一緒に作用して、これらを他の方法で投与した場合よりも増加した利益を提供することができるように、本発明の抗体またはポリペプチドおよび他の薬剤を次々におよびある時間間隔内に哺乳動物に投与することを意味する。例えば、各治療剤(例えば、化学療法、放射線療法、ホルモン治療または生物学的治療)は同時に投与してもよいし、または異なる時点で任意の順序で連続して投与してもよいが、同時に投与されない場合は、所望の治療効果または予防効果を提供するように、十分接近した時間内に投与するべきである。各治療剤は、別々に、任意の適切な形態で、および任意の適切な経路により、例えば、1つは経口経路により、1つは非経口的に投与することができる。
【0199】
様々な実施形態では、障害を有する被験体に、第2の(または後の)治療剤の投与に先立って(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、もしくは12週間前に)、同時に、またはその後で(例えば、5分、15分、30分、45分、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間、もしくは12週間後に)最初の治療剤を投与することができる。好ましい実施形態では、2つまたはそれより多くの薬剤は、同一患者の訪問時に、もしくは12時間以下あけて、24時間以下あけて、または48時間以下あけて投与される。
【0200】
特定の実施形態では、治療剤は、被験体に周期的に投与される。周期治療は、ある期間にわたって第1の薬剤を投与し、続いてある期間にわたって第2の薬剤および/または第3の薬剤を投与し、そしてこの連続投与を繰り返すことを含む。周期治療は、治療のうちの1つまたはそれより多くに対する抵抗性の発達を減少させ、治療のうちの1つの副作用を回避するかもしくは弱め、かつ/または処置効力を改善することができる。例となる周期は、毎週約1回、10日ごとに約1回、2週間ごとに約1回、および3週間ごとに約1回である。各周期は、少なくとも1週間の休息、少なくとも2週間の休息、少なくとも3週間の休息を含むことができる。投与される周期数は、約1から約12周期、さらに典型的には、約2から約10周期、さらに典型的には、約2から約8周期である。
【0201】
細胞増殖障害の処置のための実施形態では、本発明の抗体またはポリペプチドは、アルキル化剤(例えば、メクロレタミンもしくはシスプラチン)、新脈管形成阻害剤、アントラサイクリン(例えば、ダウノルビシン/ダウノマイシンもしくはドキソルビシン)、抗生物質(例えば、ダクチノマイシン、ブレオマイシン、もしくはアントラマイシン)、抗体(例えば、ベバシズマブ(Genentech,Inc.よりAVASTIN(登録商標)として販売)などの抗VEGF抗体、パニツムマブ(Amgen,Inc.よりVECTIBIXTMとして販売)などの抗EGFR抗体、もしくはナタリズマブ(Biogen IdecおよびElan Pharmaceuticals, Inc.によりTYSABRI(登録商標)として販売)などの抗インテグリン抗体)、代謝拮抗剤(例えば、メトトレキサートもしくは5−フルオロウラシル)、有糸分裂阻害剤(例えば、ビンクリスチンもしくはパクリタキセル)、細胞毒(例えば、細胞増殖阻害剤もしくは細胞破壊剤)、ホルモン治療剤(例えば、選択的エストロゲン受容体調節因子(例えば、タモキシフェンもしくはラロキシフェン)、アロマターゼ阻害剤、黄体形成ホルモン放出ホルモン類似体、プロゲステロン性薬剤(progestational agent)、副腎皮質ステロイド、エストロゲン、アンドロゲン、抗エストロゲン剤、アンドロゲン受容体遮断剤、5−アルファ還元酵素阻害剤、副腎産生阻害剤(adrenal production inhibitor)など)、マトリックスメタロプロテアーゼ阻害剤、放射性元素(例えば、α放射体、γ放射体、など)、または他の任意の化学治療剤などの、しかしこれらに限定されることはない、別の治療剤にコンジュゲートされるか、または組み合わせて投与される。
【0202】
適切な新脈管形成阻害剤の非限定的例としては、ABT−627、アンジオスタチン(プラスミノーゲン断片)、アンジオザイム、抗脈管形成性アンチトロンビンIII、ベイ12−9566、ベネフィン、ベバシズマブ、BMS−275291、ビスホスホネート、軟骨由来阻害剤(CDI)、CAI、CD59補体断片、CEP−7055、Col3、コンブレタスタチンA−4、エンドスタチン(コラーゲンXVIII断片)、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤(FTI)、フィブロネクチン断片、グロ−ベータ、ハロフジノン、ヘパリナーゼ、ヘパリン六糖断片、HMV833、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)、IM−862、インターフェロンアルファ/ベータ/ガンマ、インターフェロン誘導タンパク質(IP−10)、インターロイキン−12、クリングル5(プラスミノーゲン断片)、マリマスタット、メタロプロテイナーゼ阻害剤(TIMP)、2−メトキシエストラジオール、MMI 270(CGS 27023A)、MoAb IMC−1C11、ネオバスタット、NM−3、パンゼム、PI−88、胎盤リボヌクレアーゼ阻害剤、プラスミノーゲン活性化因子阻害剤、血小板因子−4(PF4)、プリノマスタット、プロラクチン16kDa断片、プロリフェリン関連タンパク質(PRP)、PTK 787/ZK 222594、レチノイド、ソリマスタット、スクアラミン、SS 3304、SU 5416、SU6668、SU11248、テトラヒドロコルチゾール−S、テトラチオモリブデート、サリドマイド、トロンボスポンジン−1(TSP−1)、TNP−470、トランスフォーミング増殖因子−ベータ(TGF−b)、バスキュロスタチン、バソスタチン(カルレティキュリン断片)、ZD6126、およびZD6474が挙げられる。
【0203】
細胞増殖障害の処置のための追加の抗体の非限定的例としては、17−1A、αvβ、AFP、CD3、CD18、CD20、CD22、CD33、CD44、CD52、CEA、CTLA−4、DNA関連タンパク質、EGF受容体、Ep−CAM、GD2−ガングリオシド、gp IIIb/IIIa、gp72、HER2、HLA−DR 10ベータ、HLA−DR抗原、IgE、ガングリオシドGD3、MUC−1、nuC242、PEM抗原、SK−1抗原、腫瘍抗原CA125、腫瘍抗原MUC1、VEGF、およびVEGF受容体に対する抗体が挙げられる。
【0204】
異なる実施形態では、本発明の抗体またはポリペプチドは、抗体、抗コリン作用剤、ベータアゴニスト、メチルキサンチン、非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)(例えば、アスピリン、イブプロフェン、セレコキシブまたはジクロフェナク)、およびステロイド系抗炎症剤(例えば、グルココルチコイド、デキサメタゾン、コルチゾン、プレドニゾンまたはエイコサノイド)などの、しかしこれらに限定されることはない、炎症性障害を処置するための治療剤と組み合わせて投与してもよい。さらなる抗体は、アルファ4ベータ7、ベータ2−インテグリン、CBL、CD2、CD3、CD4、CD11a、CD11/18、CD14、CD18、CD23、CD25、CD40L、CD64(FcR)、CD80、CD147、補体(C5)、E−セレクチン、第VII因子、gpIIbIIIa、ICAM−3、IgE、IL−4、IL−5、IL−8、TNFアルファ、およびVLA−4に対する抗体などの、しかしこれらに限定されることはない、炎症性疾患の処置に適したどんな抗体でもよい。
【0205】
さらなる実施形態では、本発明の抗体またはポリペプチドは、抗体、ブレキナール、シクロホスファミド、シクロスポリンA、サイトカイン受容体調節因子、デオキシスパガリン(deoxyspergualin)、レフルノミド、マクロライド抗生物質、マロノニトリロアミンド(malononitriloaminde)(例えば、レフルナミド)、メトトレキサート、メチルプレドニゾロン、ミゾリビン、ミコフェノール酸モフェチル、ラパマイシン(シロリムス(sirolimus))、ステロイド、およびT細胞受容体調節因子などの、しかしこれらに限定されることはない、自己免疫障害を処置するための治療剤と組み合わせて投与してもよい。さらなる抗体は、自己免疫障害の処置に適したどんな抗体でもよく、非限定的例としては、a4b7インテグリン受容体、CBL抗原、CD2、CD4、CD23、CD40、CD80、FcRI、ガンマインターフェロン、IL−8、イノシン一リン酸デヒドロゲナーゼ、ICEインターロイキン−1ベータ、P38MAPキナーゼ、およびTNFに対する抗体が挙げられる。
【0206】
さらに別の実施形態では、本発明の抗体またはポリペプチドは、抗生物質、抗真菌剤、または抗ウイルス剤などの、しかしこれらに限定されることはない、感染症を処置するための治療剤と組み合わせて投与してもよい。本発明の分子と組み合わせて使用することができる抗生物質としては、2,4−ジアミノピリミジン(例えば、ブロジモプリム)、アミノグリコシド(例えば、アプラマイシン、ネオマイシン、またはスペクチノマイシン)、アンフェニコール(例えば、クロラムフェニコール)、アンホマイシン、アンサマイシン(例えば、リファミドおよびリファンピン)、バシトラシン、カルバセフェム(例えば、ロラカルベフ)、カルバペネム(例えば、ビアペネムおよびイミペネム)、セファロスポリン(例えば、セファレキシンまたはセファドロキシル)、セファマイシン(例えば、セフブペラゾン、セフメタゾールおよびセフミノクス)、クラリスロマイシン、エリスロマイシン、リンコサミド(例えば、クリンダマイシンおよびリンコマイシン)、マクロライド(例えば、トブラマイシン)、モノバクタム(例えば、カルモナム)、ニトロフラン(例えば、フラルタドンおよびフラゾリウムクロリド)、オキサセフェム(例えば、フロモキセフおよびモキサラクタム)、ペニシリン、キノロン(例えば、オフロキサシンまたはシプロフロキサシン)、スルホンアミド(例えば、ベンジルスルファミドおよびスルファシチン)、スルフォン(例えば、ジアチモスルホン、グルコスルホンナトリウムおよびソラスルホン)、ならびにテトラサイクリン(例えば、アピサイクリンおよびクロルテトラサイクリン)が挙げられるが、これらに限定されることはない。
【0207】
本発明の分子と組み合わせて使用することができる抗真菌剤としては、アムホテリシンB、ブトコナゾール、シクロピロクス、クロトリマゾール、エコナゾール、フルコナゾール、フルシトシン、グリセオフルジン(griseofuldin)、ハロプログリン、イントラテカル、イトラコナゾール、ケトコナゾール、ミコナゾール、ナフチフィン、ニスタチン、テルビナフィン、テルコナゾール、チオコナゾール、およびウンデシリネートが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の分子と組み合わせて使用することができる有用な抗ウイルス剤としては、非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤、ヌクレオシド類似体、ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤、およびプロテアーゼ阻害剤が挙げられるが、これらに限定されるものではない。そのような薬剤の非限定的例は、アシクロビル、アデホビル、アルファインターフェロン、アマンタジン、アンプレナビル、クレバジン、エンテカビル、ホスカルネット、ガングシクロビル、イドクスウリジン、インジナビル、ロピナビル、プレコナリル、リバビリン、リマンタジン、リトナビル、サキナビル、トリフルリジン、ビダラビン、およびジドブジンである。
【0208】
C6.治療的有用性の実証
本発明の医薬組成物、予防剤または治療剤は、好ましくは、ヒトにおける使用に先立って所望の治療活性について、インビトロで、細胞培養系において、および齧歯類動物モデル系などの動物モデル生物において試験される。例えば、特定の医薬組成物の投与が望ましいかどうかを決定するために使用することができるアッセイとしては、患者の組織試料を培養下で増殖し、本発明の医薬組成物に曝露するかまたは他の方法で接触させ、前記組織試料に対するそのような組成物の効果を観察する細胞培養アッセイが挙げられる。組織試料は患者からのバイオプシーにより入手することができる。この試験により、個々の患者ごとの治療的に最も有効な予防的または治療的な分子を同定することが可能になる。様々な特定の実施形態では、インビトロアッセイは、自己免疫障害または炎症障害に関与する細胞型のうちの代表的細胞(例えば、T細胞)を使用して実施して、本発明の医薬組成物がそのような細胞型に対して所望の効果を有するかどうかを決定することができる。
【0209】
適切な動物モデル系としては、ラット、マウス、ニワトリ、ウシ、サル、ブタ、イヌ、ウサギなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。当該技術分野で周知のどんな動物系を使用してもよい。本発明の特定の実施形態では、予防剤および/または治療剤の組合せはマウスモデル系で試験される。本発明の方法で使用するための好ましい動物モデルは、例えば、マウスエフェクター細胞上でヒトFcγRを発現しているトランスジェニックマウスであり、例えば、米国特許第5877396号に記載されているマウスモデルはどれでも本発明において使用することができる。
【0210】
当該技術分野で公知であり、Crofford L.J. and Wilder R.L.、「Arthritis and Autoimmunity in Animals」、in Arthritis and Allied Conditions: A Textbook of Rheumatology、McCartyら(編)、Chapter 30(Lee and Febiger、1993年)に記載されている炎症性関節炎の様々な実験動物モデルおよび自然動物モデルを使用することにより、抗炎症活性を決定することができる。例えば、ラット、ハムスター、ウサギ、イヌおよびブタにおけるカラゲナン誘発関節炎、ザイモサン誘発関節炎、またはコラーゲン誘発関節炎などのアジュバンド誘発関節炎モデルは抗炎症活性を研究するには有用であり、ラットにおけるカラゲナン誘発性足浮腫の阻害は、大半のNSAIDの抗炎症活性についての主要インビボスクリーンであり、ヒトでの効力を予測すると考えられている。これらのモデルは、例えば、Winterら(1962年)Proc. Soc. Exp. Biol Med. 111巻:544〜47頁; およびHansraら(2000年)Inflammation 24巻(2号):141〜55頁に記載されている。炎症性腸疾患の動物モデル、例えば、Strober(1985年)Dig. Dis. Sci. 30 (12 Suppl):3S〜10S; Kimら(1992年)Scand. J. Gastroentrol. 27巻:529〜37頁などに記載されているモデルは、本発明の治療の効力を評価するのにも使用することができる。これらのモデルでは、硫酸化多糖類、デキストラン硫酸または化学的刺激物質の経口投与により、動物に潰瘍性大腸炎およびクローン病を誘発することができる。
【0211】
自己免疫障害の処置効力は、1型糖尿病、甲状腺自己免疫、全身性エリテマトーデス(eruthematosus)、および糸球体腎炎などの自己免疫障害の動物モデル、例えば、Flandersら(1999年)Autoimmunity 29巻:235〜46頁; Kroghら(1999年)Biochimie 81巻:511〜15頁; Foster(1999年)Semin. Nephrol. 19巻:12〜24頁などに記載されているモデルを使用して評価してもよい。
【0212】
治療剤の抗癌活性も、ヒト異種移植片を有する、SCIDマウスモデル、トランスジェニックマウスまたはヌードマウスなどの癌研究のための様々な実験動物モデル、ならびに当該技術分野で公知の、およびRelevance of Tumor Models for Anticancer Drug Development(1999年、Fiebig and Burger編); Contributions to Oncology(1999年、Karger); The Nude Mouse in Oncology Research(1991年、Boven and Winograd編);およびAnticancer Drug Development Guide(1997年、Teicher編)に記載されている、ハムスター、ウサギなどの他の動物モデルを使用することにより決定することができる。好ましい動物モデルはマウス異種移植片モデルである。異種移植腫瘍の供給源として使用することができる腫瘍細胞系としては、乳腺癌の患者から誘導され得るSKBR3細胞およびMCF7細胞が挙げられるが、これらに限定されることはない。これらの細胞は、erbB2受容体およびプロラクチン受容体の両方を有する。SKBR3細胞は、ADCCおよび異種移植腫瘍モデルとして当該技術分野で慣用的に使用されてきた。代わりに、ヒト卵巣腺癌由来のOVCAR3細胞は、異種移植腫瘍の供給源として使用することができる。
【0213】
本発明の治療剤は、好ましくは、ヒトにおける使用に先立って、所望の治療活性または予防活性についてインビトロで、次にインビボで試験される。治療剤および方法は、腫瘍細胞系または悪性疾患細胞系の細胞を使用してスクリーニングされてもよい。当該技術分野で標準の多くのアッセイを使用して、そのような生存および/または増殖を評価することができる。例えば、細胞増殖は、H−チミジン取込みを測定することにより、直接細胞計数により、癌原遺伝子(例えば、fos、myc)または細胞周期マーカーなどの公知の遺伝子の転写活性の変化を検出することによりアッセイすることができる。細胞生存率は、トリパンブルー染色により評価することができ、分化は、形態の変化、軟寒天における減少した増殖および/もしくはコロニー形成、または三次元基底膜もしくは細胞外マトリックス調製物における管状網形成に基づいて視覚的に評価することができる。
【0214】
細胞培養アッセイおよび動物実験から得られるデータは、ヒトにおいて使用するためのある範囲の投与量の治療剤を処方するのに使用することができる。そのような薬剤の投与量は、好ましくは、ほとんどまたは全く毒性のないED50を含むある範囲の循環濃度内にある。投与量は、用いられる剤形および利用される投与経路に応じて、この範囲内で変わってもよい。本発明の方法において使用される任意の薬剤について、治療的有効用量を最初に細胞培養アッセイから推定することができる。用量は、細胞培養において決定した場合にIC50(すなわち、症状の最大半量阻害を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血漿濃度範囲を達成するように動物モデルにおいて処方してもよい。そのような情報を使用すれば、ヒトにおける有用な用量をもっと正確に決定することができる。血漿中のレベルは、例えば、高速液体クロマトグラフィーによって測定してもよい。
【0215】
D.他の方法
D1.遺伝子治療
特定の実施形態では、本発明の分子をコードする配列を含む核酸が、遺伝子治療によって、疾患、障害または感染に付随する1つまたはそれより多くの症状を処置する、予防する、または緩和するために投与される。遺伝子治療とは、被験体への発現されたまたは発現可能な核酸の投与により実施される治療をいう。本発明のこの実施形態では、核酸は治療効果または予防効果を媒介するそれにコードされた抗体または融合タンパク質を産生する。当該技術分野で利用することができる遺伝子治療のためのどんな方法でも、例えば、例えば、Goldspielら(1993年)Clinical Pharmacy 12巻:488〜505頁; Wu and Wu(1991年)Biotherapy 3巻:87〜95頁; Tolstoshev(1993年)Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol. 32巻:573〜596頁; Mulligan(1993年)Science 260巻:926〜932頁;およびMorgan and Anderson(1993年)Ann. Rev. Biochem. 62巻:191〜217頁に記載される方法を使用してよい。
【0216】
好ましい態様では、本発明の組成物は、本発明の抗体、ダイアボディ、または融合タンパク質をコードする核酸を含み、前記核酸は適切な宿主内で抗体を発現する発現ベクターの一部である。特に、そのような核酸は、抗体コード領域に作動可能的に連結されたプロモーター、好ましくは、異種プロモーターを有しており、前記プロモーターは誘導性または構成的であり、必要に応じて、組織特異的である。別の特定の実施形態では、Koller and Smithies(1989年)Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 86巻:8932〜35頁;およびZijlstraら(1989年)Nature 342巻:435〜38頁に記載されているように、抗体コード配列および他の任意の所望の配列には、ゲノム中の所望の部位で相同組換えを促進する領域が隣接しており、したがって、抗体コード核酸の染色体内発現を提供する核酸分子が使用される。
【0217】
核酸の被験体への送達は、直接的(その場合は、被験体は核酸または核酸担持ベクターに直接曝露される)、または間接的(その場合は、先ず細胞がインビトロにおいて核酸で形質転換され、次に被験体に移植される)のいずれであってもよい。これらの2つのアプローチは、それぞれ、インビボ遺伝子治療またはエキソビボ遺伝子治療として公知である。
【0218】
特定の実施形態では、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、インビボで投与され、そこで前記ポリヌクレオチドが発現されてコードされているポリペプチドを産生する。レトロウイルスベクターまたは他のウイルスベクターを使用する感染により(例えば、米国特許第4980286号; Millerら(1993年)Meth. Enzymol. 217巻:581〜599頁; Salmons and Gunzberg(1993年)Human Gene Therapy 4巻:129〜141頁; Grossman and Wilson(1993年)Curr. Opin. in Genetics and Devel. 3巻:110〜114頁; Kozarsky and Wilson(1993年)Current Op. in Genetics and Dev. 3巻:499〜503頁; Walshら(1993年)Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 204巻:289〜300頁; Boutら(1994年)Human Gene Therapy 5巻:3〜10頁; Boesenら(1994年)Biotherapy 6巻:291〜302頁; Clowesら(1994年)J. Clin. Invest. 93巻:644〜651頁; Kleinら(1994年)Blood 83巻:1467〜1473頁;および米国特許第5436146号に記載されている通り)、あるいは裸のDNAの直接注入により、あるいは微粒子銃(例えば、遺伝子銃)、または、脂質もしくは細胞表面受容体もしくはトランスフェクト剤を使用するコーティング、リポソーム、微粒子もしくはマイクロカプセルへの被包の使用により、あるいはそれらを核に入ることが公知であるペプチドに連結させて、または受容体介在性エンドサイトーシスを受ける抗原に連結させて投与することにより(例えば、Wu and Wu(1987年)J. Biol. Chem. 262巻:4429〜4432頁; Joliotら(1991年)Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 88巻:1864〜1868頁;国際公開第92/06180号;国際公開第92/22635号;国際公開第92/20316号;国際公開第93/14188号;国際公開第93/20221号に記載されている通り)(これを使用して、前記受容体を特異的に発現している細胞型をターゲティングすることができる)などの多数の方法のいずれによってもこれは実現することができる。
【0219】
核酸は、例えば、国際公開第94/08598号; Rheinwald(1980年)Meth. Cell Bio. 21A:229頁; Pittelkow and Scott(1986年)Mayo Clinic Proc. 61巻:771頁; Stemple and Anderson(1992年)Cell 7巻1号:973〜985頁に記載されているように、得られた組換え細胞のインビボ投与に先立って細胞に導入してもよい。得られた組換え細胞は、当該技術分野で公知の様々な方法によって被験体に送達することができる。組換え血液細胞(例えば、造血幹細胞または造血前駆細胞)は、好ましくは、静脈内に投与される。使用のために予測される細胞の量は、所望の効果、患者の状態などに依存し、当業者であれば決定することができる。遺伝子治療の目的で核酸を導入することができる細胞は、任意の所望の入手できる細胞型を包含し、上皮細胞、内皮細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、筋細胞、肝細胞、Tリンパ球、Bリンパ球、単球、マクロファージ、好中球、好酸球、巨核球、顆粒球などの血液細胞、様々な幹細胞または前駆細胞、特に、(例えば、骨髄、臍帯血、末梢血、胎児肝臓などから得られる)造血幹細胞または造血前駆細胞などが挙げられるが、これらに限定されることはない。好ましい実施形態では、遺伝子治療に使用される細胞は、被験体にとって自家性である。
【0220】
D2.ワクチン治療
一部の実施形態では、本発明の抗体を使用して、癌抗原および感染症抗原を含むがこれらに限定されることはない抗原性因子または免疫原性因子に対する免疫応答を誘導してもよい。本発明のワクチン組成物は、免疫応答が望ましい1つまたはそれより多くの抗原性因子または免疫原性因子を含み、前記1つまたはそれより多くの抗原性因子または免疫原性因子は本発明の抗体で被膜されている。本発明のワクチン組成物は、免疫応答、好ましくは、抗原性因子または免疫原性因子に対する保護的免疫応答を誘発するのに特に効果的であり、前記抗原性因子または免疫原性因子は、それに対する免疫応答が望ましいウイルスでもよいし、他のウイルス病原体または非ウイルス病原体由来の抗原でもよい。
【0221】
さらに他の実施形態では、本発明は、その表面で抗体を発現している病原性細胞またはウイルス、好ましくは、弱毒ウイルスを包含する。本発明は、本発明の組成物を投与することにより被験体にトレランスを誘導する方法をさらに包含する。好ましくは、被験体にトレランスを誘導するのに適した組成物は、本発明の抗体で被膜された抗原性因子または免疫原性因子を含む。
【0222】
D3.リポソームまたは他のマイクロキャリアおよびナノキャリアをターゲティングする
一部の実施形態では、本発明の抗体を使用して、所望の治療組成物(例えば、抗癌薬)の標的細胞(例えば、前立腺癌細胞または他のHER2/neu発現細胞)への送達のための、ターゲティングされるリポソームを調製することができる。抗腫瘍剤のターゲティングされた送達のための免疫リポソームの調製および使用は、Mastrobattistaら(1999年)Advanced Drug Delivery Reviews 40巻:103〜127頁に概説されている。リポソームは脂質二重層をベースとする小胞構造体である。リポソームは直径がわずか20nmほどの小ささであってもよく、10μmほどの大きさであってもよい。リポソームは単層(わずか1つの二重層が水性の核を取り囲んでいる)であってもよく、多重膜(2またはそれより多くの二重層が水性の核の回りに同心円状に配向している)であってもよい。様々なターゲティング剤(例えば、本発明の抗体)を使用するリポソームのターゲティングは当該技術分野では周知である。例えば、米国特許第4957773号および米国特許第4603044号参照。ターゲティング剤をリポソームに結合させるための標準的な方法を使用することができる。抗体にターゲティングされたリポソームは、例えば、プロテインAを取り込むリポソームを使用して構築することができる。Renneisenら(1990年)J. Biol. Chem. 265巻:16337〜16342頁;およびLeonettiら(1990年)Proc. Natl. Acad. Sci. (U.S.A.) 87巻:2448〜2451頁参照。
【0223】
好ましい実施形態では、リポソームは、標準的な小胞形成脂質から形成され、この脂質は一般に、中性のおよび負に帯電しているリン脂質ならびにコレステロールなどのステロールを包含する。脂質の選択は、一般に、例えば、リポソームサイズおよび血流中でのリポソームの安定性を考慮して導かれる。例えば、Szokaら(1980年)Ann. Rev. Biophys. Bioeng. 9巻:467頁;米国特許第4235871号; 米国特許第4501728号; および米国特許第4837028号に記載されているように、リポソームを調製するためには様々な方法を利用することができる。1つの方法は、不均一なサイズの多重膜小胞を作製する。この方法では、小胞形成脂質は、適切な有機溶媒または溶媒系に溶解され、真空または不活性ガス下で乾燥されて、薄い脂質フィルムを形成する。所望であれば、前記フィルムは、t−ブタノールなどの適切な溶媒に再溶解されて、次に凍結乾燥されて、より簡単に水和される粉末様形態である、より均一な脂質混合物を形成する。このフィルムは、ターゲティングされる薬およびターゲティングコンポーネント(抗体)の水溶液で覆われており、(典型的には15〜60分の期間かけて攪拌しながら)水和させる。得られる多重膜小胞のサイズ分布は、もっと激しい攪拌条件下で脂質を水和させることにより、またはデオキシコレートなどの可溶化洗剤を添加することにより、もっと小さいサイズの方に移すことができる。
【0224】
D4.免疫アッセイ
本発明の抗体を使用して、HER2/neuまたはHER2/neuを発現している細胞を検出することができる。そのような検出を達成するためには、多くの方法のうちのいずれを使用してもよい。例えば、免疫学的結合アッセイを使用してもよい(例えば、米国特許第4366241号、米国特許第4376110号、米国特許第4517288号、および米国特許第4837168号参照)。一般的免疫アッセイの概説は、Asai(編、1993年)Methods in Cell Biology 37巻、Academic Press, New York; Stites & Terr(編、1991年)Basic and Clinical Immunology 第7版も参照されたい。
【0225】
したがって、本発明は、HER2/neuを発現する細胞を検出する方法を提供する。1つの方法では、被験体にバイオプシーが実施され、収集された組織はインビトロで試験される。次に、この組織または組織由来の細胞を本発明の抗HER2/neu抗体に接触させる。こうして得られるどんな免疫複合体も、バイオプシーを実施した試料中にHER2/neuタンパク質が存在することを示している。そのような検出を促進するために、抗体を放射標識するか、または、放射標識などの検出可能な標識であるエフェクター分子に結合させることができる。別の方法では、前記細胞を典型的な画像化システムを使用してインビボで検出することができる。次に、標識の局在は、標識を検出するための公知の方法のいずれかによって決定される。画像診断を視覚化するための従来の方法を使用することができる。例えば、常磁性同位元素をMRIに使用することができる。抗体の内部移行は、循環クリアランスと結びついた細胞外酵素環境によるクリアランスを受ける細胞外結合により与えられる寿命を超えた生物内での寿命を延ばすのに重要である可能性がある。
【0226】
HER2/neuタンパク質も、標準免疫アッセイ法および本発明の抗体を使用して検出することができる。標準法には、例えば、放射免疫アッセイ、免疫クロマトグラフィー法、サンドイッチ免疫アッセイ(ELISAを含む)、免疫蛍光アッセイ、ウェスタンブロット、アフィニティークロマトグラフィー(アフィニティーリガンドが固相に結合している)、および標識した抗体を使用するインサイチュ検出が挙げられる。
【0227】
これまで本発明を一般的に説明してきたが、本発明は以下の実施例を参照することによりさらに容易に理解される。以下の実施例は、説明のために提供されるものであり、明記されていなければ、本発明を限定することを意図してはいない。
【実施例】
【0228】
(実施例1)
BIACore親和性決定
溶出し精製された抗体の結合の反応速度パラメータを、BIAcoreアッセイ(BIAcore instrument 1000、BIAcore Inc.、Piscataway、N.J.)および関連するソフトウェアを使用して解析した。約1000応答単位(RU)の受容体が表面に固定化されるように、アミンカップリング化学(NHS/EDCの混合でのカルボキシメチル基の修飾による)によりセンサーチップ表面の4フローセル(フローセル2)のうちの1つにHER−2を固定化した。これに続いて、未反応活性エステルを、1M Et−NH2の注入で「覆って取り除いた(capped off)」。一旦適切な表面が調製されたら、ch4D5−FcWT(野生型Fc)、ch4D5、およびトラスツズマブ(対照)を、70mL/分の流速で180秒間表面に6.25〜200nMの濃度で注入した。
【0229】
一旦全データセットを収集したら、得られた結合曲線を全体的に適合させ、速度定数および見かけの平衡結合定数を、BIAcore Inc.から入手可能なBIAevaluation Software Handbookに記載されているとおりに、製造元から供給されたコンピュータアルゴリズムを使用して計算した。図3は、SPR解析のグラフ結果を示しており、計算された定数は表5に提供されている。
【0230】
【表5】

【0231】
(実施例2)
アポトーシス
様々な細胞系をch4D5およびch4D5−FcMT1と一緒に一晩インキュベートした。アポトーシスを、FACS解析によりアッセイした。結果を表6に示す。
【0232】
【表6】

【0233】
(実施例3)
増殖
本実施形態の様々なキメラ4D5抗体の効果を比較するために、DNAへの[H]チミジン([H]TdR)取込みをSKBR3細胞増殖の生化学指標として使用した。CD16−158F+およびCD16−158V+細胞に対するch4D5−Ag、ch4D5、およびCh4D−FcMT1の影響を研究し、対照と比較した。結果を図4に示す。
【0234】
(実施例4)
マウス(乳癌モデル)における抗腫瘍活性
様々な抗体の抗腫瘍活性を、非トランスジェニックマウスおよびトランスジェニック(hCD16A)マウスを使用して、乳癌モデルにおいて研究した。MacroGenics繁殖コロニー由来の50匹のBalb/c RAG2−/−非トランスジェニックマウスに、0日目にJMT−1乳癌細胞を皮下注射した。マウスをそれぞれ10マウスの5グループに分け、8週間毎週、ch4D5 N297Q、ch4D5野生型Fc、ch4D5−FcMT1、ch4D5−FcMT2、またはPBS(負の対照)を腹腔内(IP)に処置した。腫瘍発達は、週あたり2回、キャリパーを使用してモニターし、腫瘍重量は次の式:腫瘍重量=(長さ×幅)/2により推定する。結果を図5に示す。MacroGenics繁殖コロニー由来の23匹のBalb/c RAG2−/− mCD16−/− hCD16A+トランスジェニックマウスに、0日目にJIMT−1乳癌細胞を皮下注射した。マウスは3グループに分け、8週間毎週、ch4D5野生型Fc(n=8)、ch4D5−FcMT1(n=8)、またはPBS(負の対照;n=7)を腹腔内(IP)に処置した。腫瘍発達は、週あたり2回、キャリパーを使用してモニターし、腫瘍重量は次の式:腫瘍重量=(長さ×幅)/2により推定する。結果は図6に示している。
【0235】
(実施例5)
マウス(卵巣癌モデル)における抗腫瘍活性
様々な抗体の抗腫瘍活性を、非トランスジェニックマウスおよびトランスジェニック(hCD16A)マウスを使用して、卵巣癌モデルにおいて研究した。MacroGenics繁殖コロニー由来の22匹のR3−/− N/N 非トランスジェニックマウスに、0日目に、SKOV−3卵巣癌細胞を皮下注射した。マウスを4グループに分け、8週間毎週、ch4D5 N297Q(n=5)、ch4D5野生型Fc(n=6)、ch4D5−FcMT1(n=6)、またはPBS(負の対照;n=5)を腹腔内(IP)に処置した。腫瘍発達は、週あたり2回、キャリパーを使用してモニターし、腫瘍重量を次の式:腫瘍重量=(長さ×幅)/2により推定する。結果を図7のパネルAに示す。MacroGenics繁殖コロニー由来の32匹のR3−/− N/N hCD16A+トランスジェニックマウスに、0日目に、SKOV−3卵巣癌細胞を皮下注射した。マウスを4グループに分け、8週間毎週、ch4D5 N297Q(n=8)、ch4D5野生型Fc(n=8)、ch4D5−FcMT1(n=8)、またはPBS(負の対照;n=8)を腹腔内(IP)に処置した。腫瘍発達は、週あたり2回、キャリパーを使用してモニターし、腫瘍重量を次の式:腫瘍重量=(長さ×幅)/2により推定する。結果を図7のパネルBに示す。MacroGenics繁殖コロニー由来の96匹のmCD16−/− huCD16A FoxN1−/− (nu/nu)トランスジェニックマウスに、0日目に、SKOV−3卵巣癌細胞を皮下注射した。マウスをそれぞれ16マウスの6グループに分け、8週間毎週、ch4D5−FcMT3、ch4D5−FcMT1、ch4D5−FcMT4、ch4D5、ch4D5Ag、またはPBS(負の対照)を腹腔内(IP)に処置した。腫瘍発達は、週あたり2回、キャリパーを使用してモニターし、腫瘍重量を次の式:腫瘍重量=(長さ×幅)/2により推定する。結果を図8に示す。
【0236】
(実施例6)
様々な癌細胞系におけるADCCアッセイ
図9は、HER2/neuに対する様々な癌細胞系の代表的免疫組織化学染色を図示している。細胞系を、DAKO HerceptTestTM(DakoCytomation、Glostrup、Denmark)として販売されているHER2/neu試験キットに明記されているとおりにそのHER2/neu染色強度に従ってランク付けした。すなわち、HER2/neu染色なし(DAKOスコア0)、弱いHER2/neu染色(DAKOスコア1+)、中程度のHER2/neu染色(DAKOスコア2+)、および強いHER2/neu染色(DAKOスコア3+)である。表7に示されるように、様々なパネルは様々な細胞系を表している。
【0237】
【表7】

【0238】
Fcバリアントドメインを有するch4D5抗体を含むいくつかのch4D5抗体を、ch4D5−FcMT1、ch4D5−FcMT2、ch4D5−FcMT3、ch4D5−FcWT(野生型Fc)、ch4D5 N297Qおよびトラスツズマブ(対照として)を含む癌細胞系においてADCCを媒介する能力について試験した。有効なアッセイ(SR≦20% MR、AICC≦50% MR)からのデータを表8に報告する。ここで、EC50推定値は、モデルが最大溶解>20%に適合した場合のみ有効だと判断した。平方和F検定により、Fc最適化抗体について得られた最良適合値が、Fc野生型ch4D5抗体について得られた最良適合値と統計学的に異なっているかどうかを問うことによって、EC50および最大溶解パラメータの比較を実施した。データを、図10〜13に示されるように、S字形用量応答モデルにも適合させた。
【0239】
【表8−1】

【0240】
【表8−2】

【0241】
【表8−3】

【0242】
本明細書において言及した刊行物および特許はすべて、あたかも個々の出版物または特許出願がそれぞれ、参照によりその全体を援用すると具体的に個別に示されているのと同程度に参照により本明細書に援用されている。本発明はその特定の実施形態に関連して説明されてはいるが、本発明は追加の改変が可能であり、本出願は、一般に、本発明の原理に従い、本発明が付属する技術分野内で公知のまたは習慣的な慣行内に収まり、上文に記載された本質的特徴に適用され得るような本開示からの逸脱を含む、本発明のいかなる変形、使用、または改作も包含することを意図していると理解されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N65S置換を含むキメラ4D5免疫グロブリン軽鎖を含むポリペプチド。
【請求項2】
前記ポリペプチドが、配列番号4のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメインを含む、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記ポリペプチドが配列番号2のアミノ酸配列を有する、請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記ポリペプチドが抗体である、請求項1から3のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項5】
前記抗体が、Fcドメインで少なくとも1つの改変を有するバリアントFcドメインを含む、請求項4に記載の抗体。
【請求項6】
前記改変が、L235V、F243L、R292P、Y300L、V305IおよびP396Lからなる群から選択される少なくとも1つの置換を含む、請求項5に記載の抗体。
【請求項7】
前記改変が、
(A)F243L、D270E、R292P、S298N、Y300L、V305I、A330VおよびP396Lからなる群から選択される少なくとも1つの置換;
(B)F243LおよびP396L;F243LおよびR292P;ならびにR292PおよびV305Iからなる群から選択される少なくとも2つの置換;
(C)F243L、R292PおよびY300L;F243L、R292PおよびV305I;F243L、R292PおよびP396L;ならびにR292P、V305IおよびP396Lからなる群から選択される少なくとも3つの置換;または、
(D)F243L、R292P、Y300LおよびP396L;ならびにF243L、R292P、V305IおよびP396Lからなる群から選択される少なくとも4つの置換
を含む、請求項6に記載の抗体。
【請求項8】
前記抗体が、
(A)F243L、R292PおよびY300L;
(B)L235V、F243L、R292P、Y300LおよびP396L;または
(C)F243L、R292P、Y300L、V305IおよびP396L
の置換を含む、請求項7に記載の抗体。
【請求項9】
野生型Fcドメインと比較して、前記バリアントFcドメインが、
(A)強化された抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC);
(B)FcγRIIAもしくはFcγRIIIAへの結合の増加;
(C)FcγRIIBへの結合の減少;または
(D)FcγRIIBへの結合の増加
を示す、請求項5に記載の抗体。
【請求項10】
配列番号9、配列番号11および配列番号13からなる群から選択されるアミノ酸配列を有する可変ドメインを含む免疫グロブリン重鎖を含むポリペプチド。
【請求項11】
(A)F243L、D270E、R292P、S298N、Y300L、V305I、A330VおよびP396Lからなる群から選択される少なくとも1つの置換;
(B)(1)F243LおよびP396L;
(2)F243LおよびR292P;ならびに
(3)R292PおよびV305I
からなる群から選択される少なくとも2つの置換;
(C)(1)F243L、R292PおよびY300L;
(2)F243L、R292PおよびV305I;
(3)F243L、R292PおよびP396L;ならびに
(4)R292P、V305IおよびP396L
からなる群から選択される少なくとも3つの置換;
(D)(1)F243L、R292P、Y300LおよびP396L;ならびに
(2)F243L、R292P、V305IおよびP396L
からなる群から選択される少なくとも4つの置換;
または
(E)少なくともF243L、R292P、Y300L、V305IおよびP396の置換
を含む4D5免疫グロブリン重鎖を含むポリペプチド。
【請求項12】
前記ポリペプチドが抗体である、請求項11に記載のポリペプチド。
【請求項13】
前記抗体が、配列番号7、配列番号9、配列番号11または配列番号13のアミノ酸配列を有する可変ドメインを含む免疫グロブリン重鎖をさらに含む、請求項4または5に記載の抗体。
【請求項14】
前記抗体が、
(A)F243L、D270E、R292P、S298N、Y300L、V305I、A330VおよびP396Lからなる群から選択される少なくとも1つの置換;
(B)(1)F243LおよびP396L;
(2)F243LおよびR292P;ならびに
(3)R292PおよびV305I
からなる群から選択される少なくとも2つの置換;
(C)(1)F243L、R292PおよびY300L;
(2)F243L、R292PおよびV305I;
(3)F243L、R292PおよびP396L;ならびに
(4)R292P、V305IおよびP396L
からなる群から選択される少なくとも3つの置換;
(D)(1)F243L、R292P、Y300LおよびP396L;ならびに
(2)F243L、R292P、V305IおよびP396L
からなる群から選択される少なくとも4つの置換;
または
(E)少なくともF243L、R292P、Y300L、V305IおよびP396の置換
を含む、請求項13に記載の抗体。
【請求項15】
前記免疫グロブリン軽鎖が、配列番号4のアミノ酸配列を有する可変ドメインを含み、前記免疫グロブリン重鎖が、配列番号9、配列番号11または配列番号13のアミノ酸配列を含む、請求項13に記載の抗体。
【請求項16】
前記抗体がF(ab’)断片、F(ab)断片、単鎖抗体、モノクローナル抗体またはダイアボディである、請求項5、6、7、8、9、13、14または15のいずれかに記載の抗体。
【請求項17】
請求項5、6、7、8、9、13、14、15または16のいずれかに記載の抗体。
【請求項18】
患者における癌の処置のための医薬の製造における、請求項5、6、7、8、9、13、14、15または16のいずれかに記載の抗体の使用。
【請求項19】
前記癌がHER2/neuを発現する癌であり、前記抗体がヒトHER2/neuに結合する、請求項18に記載の使用。
【請求項20】
前記処置が、前記抗体と同時にまたは逐次的に第2の治療剤を投与するステップをさらに含み、該第2の治療剤は、抗脈管形成剤、抗腫瘍剤、化学療法剤および細胞傷害剤からなる群から選択される、請求項18または19のいずれかに記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図9E】
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【図9F】
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【図9G】
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【図9H】
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【図9I】
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【図9J】
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【図9K】
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【図9L】
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【図9M】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2011−517456(P2011−517456A)
【公表日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503039(P2011−503039)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【国際出願番号】PCT/US2009/038201
【国際公開番号】WO2009/123894
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(504438727)マクロジェニクス,インコーポレーテッド (23)
【Fターム(参考)】