説明

HIF−1のRNAi調節及びその治療的利用

【課題】HIF−1αのmRNAレベル及びHIF−1αのタンパク質レベルを下げるのに有用な特定の組成物を提供する。
【解決手段】本発明の特徴は、たとえば、RNA干渉(RNAi)のメカニズムによるような、HIF−1αの発現を調節するのに有用な化合物に関する。化合物は、修飾されえない又は化学的に修飾されうるiRNA剤を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照によってその全体を本明細書に組み入れる、2005年6月27日に出願された米国特許仮出願第60/694,382号の利益を請求する。
本発明は、HIF−1を標的とした治療法の分野、並びに眼に局所的に投与される、又は注射/静脈内投与を介して全身に投与される、RNA干渉を介したオリゴヌクレオチドによってHIF−1αのmRNA/タンパク質のレベルを調節するための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RNA干渉、すなわち「RNAi」は、最初、二本鎖RNA(dsRNA)を虫に導入した際、それが遺伝子の発現を遮断することができるという観察結果を記述するためにファイア(Fire)及びその共同研究者によって作られた用語である(ファイアら(Fire et al.)、「Nature」、第391巻、806〜811ページ(1998年))。短鎖dsRNAは、脊椎動物を含む多数の生物にて遺伝子特異的な転写後サイレンシングを方向付け、遺伝子機能を検討する新しいツールを提供している。RNAiは、新しい部類の治療剤を開発する方法として示唆されている。しかしながら、今日まで、RNAiが治療的に使用できるという実証された証拠はなく、ほとんど示唆のままになっている。
【0003】
哺乳類は、ATP形成の間、酸素が電子受容体として作用する酸化的リン酸化を含む本質的な代謝過程に分子酸素を必要とする。低酸素症(酸素が過剰な供給を要求する状態)によって誘発される全身性の、局所の及び細胞内の恒常性反応には、貧血の個体又は高地にいる個体による赤血球産生(ジェルクマンら(Jelkmann et al.)、「Physiol. Rev.」、第72巻、449〜489ページ(1992年))、虚血性心筋における血管新生(ホワイトら(White et al.)、「Circ. Res.」、第71巻、1490〜1500ページ(1992年))、及び低下した酸素分圧で培養された細胞における解糖(ウォルフルら(Wolfle et al.)、「Eur. J. Biochem」、第135巻、405〜412ページ(1983年))が挙げられる。これらの適応的応答は、酸素の送達を高めるか、又は酸素を要求しない代替代謝経路を活性化する。これらの応答に関与する低酸素症が誘導可能な遺伝子産物には、エリスロポイエチン(EPO)(セメンザ(Semenza)、「Hematol. Oncol. Clinics N. Amer.」、第8巻、863〜884ページ(1994年)で概説された)、血管内皮増殖因子(シュウェイキら(Shweiki et al.)、「Nature」、第359巻、843〜845ページ(1992年);バナイら(Banai et al.)、「Cardiovasc. Res.」、第28巻、1176〜1179ページ(1994年);ゴールドバーグとシュナイダー(Goldberg & Schneider)、「J. Biol. Chem.」、第269巻、4355〜4359ページ(1994年))、及び解糖酵素(ファースら(Firth et al.)、「Proc. Natl. Acad. Sci. USA」、第91巻、6496〜6500ページ(1994年);セメンザら(Semenza et al.)、「J. Biol. Chem.」、第269巻、23757〜23763ページ(1994年))が挙げられる。
【0004】
低酸素症に対する遺伝的応答に介在する分子メカニズムは、EPO遺伝子について鋭意検討されており、それは、赤血球産生を調節するので血液の酸素輸送能を調節する増殖因子をコードする(上記ジェルクマンら(1992年);上記セメンザ(1994年))。低酸素症に応答した転写活性化に必要とされるシス作用性DNA配列は、EPO転写の生理的調節因子の基準を満たす、EPOの3’−隣接領域、エンハンサに結合するトランス作用因子、低酸素症誘導因子1(HIF−1)で同定された。EPO発現の誘導因子(1%酸素、塩化コバルト[CoCl]及びデスフェリオキサミン[DFX])はまた、類似の動態にてHIF−1DNA結合活性を誘導し、EPO発現の阻害剤(アクチノマイシンD、シクロヘキシミド、及び2−アミノプリン)は、HIF−1の活性の誘導を遮断し、HIF−1の結合を排除するEPOの3’隣接領域における突然変異はエンハンサ機能を排除した(上記セメンザ(1994年))。これらの結果は、酸素分圧はヘムタンパク質によって感知され(ゴールドバーグら(Goldberg et al.)、「Science」、第242巻、1412〜1415ページ(1988年))、進行中の転写、翻訳及びタンパク質のリン酸化を必要とするシグナル伝達経路は低酸素細胞におけるHIF−1DNA結合活性の誘導及びEPOの転写に関与する(上記セメンザ(1994年))という仮説も支持する。
【0005】
EPOの発現は細胞種特異的ではあるが、1%酸素、CoCl、又はDFXによるHIF−1活性の誘導は多数の哺乳類細胞株で検出され(ワングとセメンザ(Wang & Semenza)、「Proc. Natl. Acad. Sci. USA」、第90巻、4304〜4308ページ(1993年))、EPOエンハンサは、EPO非産生細胞に移入されたレポーター遺伝子の低酸素誘導の転写を導いた(上記ワングとセメンザ(1993年);マックスウェルら(Maxwell et al.)、「Proc. Natl. Acad. Sci. USA」、第90巻、2423〜2427ページ(1993年))。EPO産生のHep3B又は非産生のHeLa細胞では、1%酸素、CoClsub、又はDFXによって幾つかの解糖酵素をコードするRNAが誘導されたが、シクロヘキシミドは、その誘導及び移入アッセイにてHIF−1結合部分を含有する解糖遺伝子配列が介在する低酸素誘導性の転写を遮断した(上記ファースら(1994年);上記セメンザら(1994年))。これらの実験は、低酸素症に対する恒常性反応を活性化するHIF−1の役割を支持する。
【0006】
HIF−1はHIF−1α及びHIF−1βサブユニットで構成される二量体である。HIF−1βサブユニットは構成的に発現されているが、HIF−1αはヘテロ二量体の制限メンバーなのでHIF−1のレベルを調節する。正常酸素圧条件下では、HIF−1αはユビキチン化されており、迅速に分解される。しかしながら、低酸素条件下では、ユビキチン化率は劇的に低下し、HIF−1αは安定化され、HIF−1二量体の上方調節が生じる。このことは重要な点であり、HIF−1の活性を調節するためにHIF−1βの代わりにHIF−1αを標的とする理論的根拠を提供する。
【0007】
黄斑変性症は米国における盲目の主な原因であり、この障害の頻度は加齢と共に増加する。黄斑変性症は、網膜の黄斑帯における視覚感知細胞が機能不全に陥る又は機能を失う疾患群を言い、不可欠な中心視力及び細部視力の消耗性喪失を生じる可能性がある。
【0008】
加齢に伴う黄斑変性症(AMD)は、黄斑変性症の最も一般的な形態であり、2つの主な形態で生じる。AMDに罹った人の90%は、「乾性」黄斑変性症と記載される形態を有する。網膜の領域が冒され、黄斑における細胞の緩やかな破壊及び中心視力の緩やかな喪失を招く。AMDの別の形態は、「湿性」の黄斑変性症である。AMDに罹った人の10%がこの型を有するに過ぎないが、それは疾患による盲目の90%の原因となる。乾性AMDが進行するにつれて、新しい血管が増殖し始め、「湿性」AMDを起こす。これらの新しい血管は、黄斑の下で血液や体液を漏らすことが多い。これが黄斑に対する急速な損傷の原因となり、短時間に中心視力の喪失を招きうる。HIF−1αを標的とするiRNA剤は、湿性及び乾性の黄斑変性症の治療に有用でありうる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】ファイアら(Fire et al.)、「Nature」、第391巻、806〜811ページ(1998年)
【非特許文献2】ジェルクマンら(Jelkmann et al.)、「Physiol. Rev.」、第72巻、449〜489ページ(1992年)
【非特許文献3】ホワイトら(White et al.)、「Circ. Res.」、第71巻、1490〜1500ページ(1992年)
【非特許文献4】ウォルフルら(Wolfle et al.)、「Eur. J. Biochem」、第135巻、405〜412ページ(1983年)
【非特許文献5】セメンザ(Semenza)、「Hematol. Oncol. Clinics N. Amer.」、第8巻、863〜884ページ(1994年)
【非特許文献6】シュウェイキら(Shweiki et al.)、「Nature」、第359巻、843〜845ページ(1992年)
【非特許文献7】バナイら(Banai et al.)、「Cardiovasc. Res.」、第28巻、1176〜1179ページ(1994年)
【非特許文献8】ゴールドバーグとシュナイダー(Goldberg & Schneider)、「J. Biol. Chem.」、第269巻、4355〜4359ページ(1994年)
【非特許文献9】ファースら(Firth et al.)、「Proc. Natl. Acad. Sci. USA」、第91巻、6496〜6500ページ(1994年)
【非特許文献10】セメンザら(Semenza et al.)、「J. Biol. Chem.」、第269巻、23757〜23763ページ(1994年)
【非特許文献11】ゴールドバーグら(Goldberg et al.)、「Science」、第242巻、1412〜1415ページ(1988年)
【非特許文献12】ワングとセメンザ(Wang & Semenza)、「Proc. Natl. Acad. Sci. USA」、第90巻、4304〜4308ページ(1993年)
【非特許文献13】マックスウェルら(Maxwell et al.)、「Proc. Natl. Acad. Sci. USA」、第90巻、2423〜2427ページ(1993年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、iRNA剤の局所及び全身性の投与を介して、並びにそのような剤の非経口投与によってHIF−1αを阻害することができるという試験管内の実証、及び特に生物における細胞でHIF−1αのRNAレベル及びタンパク質レベルを減らすことができるHIF−1α遺伝子に由来するiRNA剤の同定に基づく。これらの知見に基づいて、本発明は、対象、たとえば、ヒトのような哺乳類におけるHIF−1αのmRNAレベル及びHIF−1αのタンパク質レベルを下げるのに有用な特定の組成物及び方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は具体的には、HIF−1α遺伝子の少なくとも15以上の隣接するヌクレオチドからなる、本質的になる、又はそれを含むiRNA剤、さらに詳しくは、表1、2、3又は4に提供される配列の1つからの15以上の隣接するヌクレオチドを含む剤を提供する。iRNA剤は好ましくは、表1、2、3又は4に提供されるような、鎖当たり30未満のヌクレオチド、たとえば、21〜23のヌクレオチドを含む。二本鎖のiRNA剤は平滑末端を有するか、又はさらに好ましくは剤の3’末端の一方若しくは両方に1〜4のヌクレオチドのオーバーハングを有する。
【0012】
さらに、iRNA剤は、天然に生じるリボヌクレオチドサブユニットのみを含有することができるか、又は剤に含まれる1以上のリボヌクレオチドサブユニットの糖又は塩基に1以上の修飾を有するように合成されることができる。iRNA剤は、剤の安定性、分布又は細胞による剤、たとえば、コレステロールの取り込みを改善するように選択されるリガンドに結合するようにさらに修飾されうる。iRNA剤は、単離された形態であることができ、又は本明細書に記載される方法で有用な医薬組成物の一部であることができ、特に、眼への送達のために製剤化された又は非経口投与のために製剤化された医薬組成物としてあることができる。医薬組成物は、1以上のiRNA剤を含有することができ、一部の実施態様では、それぞれが、HIF−1α遺伝子の異なった断片又は異なったHIF−1α遺伝子に向けられた2以上のiRNA剤を含有するであろう。
【0013】
本発明はさらに、細胞におけるHIF−1αタンパク質及びHIF−1α mRNAのレベルを低下させる方法を提供する。そのような方法は、さらに以下に記載されるように、対象に本発明のiRNA剤の1つを投与する工程を含む。本方法は、細胞においてHIF−1α mRNAを選択的に分解するRNA干渉が関与する細胞性メカニズムを利用し、細胞を本発明のHIF−1α iRNA剤の1つと接触させる工程から構成される。そのような方法は細胞で直接的に行うことができ、又は本発明のiRNA剤/医薬組成物の1つを対象に投与することによって哺乳類の対象で行うことができる。細胞におけるHIF−1α mRNAの減少は、産生される、及び生物におけるHIF−1αの量の低下を生じる(実施例で示されるように)。
【0014】
本発明の方法及び組成物、たとえば、方法及びiRNA剤組成物は、本明細書で記載される任意の投与量及び/又は剤形、並びに本明細書で記載される任意の投与経路で使用することができる。特に重要なのは、iRNA剤の眼内投与及び眼においてHIF−1αタンパク質を抑制するその能力を本明細書で示すことである。
【0015】
別の側面では、本発明は、対象における疾患又は症状を治療する又は予防する方法を特色とする。方法は、対象における疾患又は症状の治療又は予防に好適な条件下で、本発明の組成物を単独で、又は1以上の治療化合物との併用で対象に投与することを含むことができる。
【0016】
実施態様の1つでは、HIF−1αの発現が望まれない部位にて又はその近傍にて、たとえば、カテーテル又はその他の配置装置(たとえば、網膜ペレット又は多孔性若しくは非多孔性若しくはゲル状の物質を含むインプラント)による部位での直接注射によってiRNA剤が投与される。実施態様の1つでは、眼内インプラントを介してiRNA剤が投与され、それは、たとえば、眼の前房若しくは後房、又は強膜、経脈絡膜空間、又は硝子体外の無血管領域に挿入することができる。別の実施態様では、インプラントは、治療の所望の部位、たとえば、眼内空間及び眼の黄斑への薬剤の経強膜拡散が可能であるように、無血管領域、たとえば、強膜上に配置される。さらに、経強膜拡散の部位は好ましくは黄斑の近傍である。
【0017】
別の実施態様では、iRNA剤は、注射によって、たとえば、眼内注射、網膜注射又は網膜下注射によって眼に投与される。
別の実施態様では、iRNA剤は、たとえば、貼付剤又は液体の点眼剤によって、又はイオントフォレーゼによって眼に局所的に投与される。たとえば、アプリケータ又は目薬容器のような当該技術で既知の眼送達方式によって軟膏又は点眼可能な液体を送達することができる。
【0018】
実施態様の1つでは、iRNAは、血管新生の部位にて又はその近傍にて送達される。
実施態様の1つでは、iRNA剤は繰り返し投与される。iRNA剤の投与は、期間の範囲にわたって行うことができる。1時間に1回、1日に1回、2,3日に1回、1週間に1回、1ヵ月に1回、それを投与することができる。患者の症状の重症度のような因子に依存して投与のタイミングが患者ごとに異なることができる。たとえば、iRNA剤の有効な用量を、無期限の間、又は患者がもはや治療を必要としなくなるまで、1ヵ月に1回、患者に投与することができる。さらに、iRNA剤を含有する徐放性の組成物を使用して標的のHIF−1αヌクレオチド配列の領域に相対的に一定の投与量を維持することができる。
【0019】
別の実施態様では、片眼当たり約0.00001mg〜約3mgの桁での、好ましくは片眼当たり約0.0001mg〜0.001mg、片眼当たり約0.03〜3.0mg、片眼当たり約0.1〜3.0mg又は片眼当たり0.3〜3.0mgの投与量でiRNA剤が眼に送達される。
【0020】
別の実施態様では、眼を冒す障害又は症状の発症を防ぐ又は遅くするようにiRNA剤が予防的に投与される。たとえば、血管新生障害に感受性である、又はさもなければそのリスクがある患者にiRNAが投与される。
【0021】
実施態様の1つでは、本明細書に記載されるiRNA剤によってヒトの片方の眼が治療され、別の実施態様では、ヒトの両眼が治療される。
別の側面では、HIF−1αの発現を抑制する方法が提供される。そのような方法の1つは、RNA二本鎖を形成することが可能であるセンス配列とアンチセンス配列を含む有効量のiRNA剤を投与することを含む。iRNA剤のセンス配列は、約19〜23ヌクレオチドのHIF−1α mRNAの標的配列と実質的に同一のヌクレオチド配列を含むことができ、アンチセンス配列は、HIF−1αの約19〜23ヌクレオチドの標的配列に相補的なヌクレオチド配列を含むことができる。
【0022】
別の側面では、成人で発症した黄斑変性症を治療する方法が提供される。そのような方法の1つには、RNA二本鎖を形成することが可能であるセンス配列及びアンチセンス配列を含む、治療上有効量のiRNA剤を投与することが挙げられる。センス配列は、約19〜23ヌクレオチドのHIF−1α mRNAの標的配列と実質的に同一のヌクレオチド配列を含むことができる。アンチセンス配列は、約19〜23ヌクレオチドのHIF−1α mRNAの標的配列に相補的なヌクレオチド配列を含むことができる。
【0023】
実施態様の1つでは、ヒトが、乾性の加齢性黄斑変性症(AMD)であると診断され、別の実施態様では、ヒトが湿性のAMDであると診断されている。
実施態様の1つでは、本明細書で記載されたiRNA剤で治療されるヒトは50歳を超えており、たとえば、75〜80歳であり、そのヒトは、加齢性黄斑変性症であると診断されている。別の実施態様では、本明細書で記載されたiRNA剤で治療されるヒトは30〜50歳であり、そのヒトは、遅発性の黄斑変性症であると診断されている。別の実施態様では、本明細書で記載されたiRNA剤で治療されるヒトは5〜20歳であり、そのヒトは中期発症性の黄斑変性症であると診断されている。別の実施態様では、本明細書で記載されたiRNA剤で治療されるヒトは7歳以下であり、そのヒトは早期発症性の黄斑変性症であると診断されている。
【0024】
側面の1つでは、望ましくないHIF−1αの発現を特徴とする任意の疾患又は障害を治療する方法が提供される。特に好ましい実施態様には、望ましくないHIF−1αの発現を特徴とする眼又は網膜の障害の治療が挙げられる。疾患又は障害は、糖尿病性網膜症、血管新生緑内障、腫瘍又は転移性癌(たとえば、結腸癌若しくは乳癌)、肺疾患(たとえば、喘息若しくは気管支炎)、関節リウマチ又は乾癬であることができる。そのほかの血管形成性障害を本発明で特色付けられる方法によって治療することができる。
【0025】
別の側面では、本発明は、本発明のiRNA剤を含有するキットを特色とする。キットのiRNA剤を化学的に修飾することができ、細胞、組織又は臓器におけるHIF−1α標的遺伝子の発現を調節するのに有用でありうる。実施態様の1つでは、キットは1を超える本発明のiRNA剤を含有する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】iRNA剤を用いたHIF−1αの試験管内の阻害。実施例に記載するような抗HIF−1α活性について表1、2、3及び4に提供されるiRNA剤を調べた。各列(棒)は、表1、2、3及び4に提供されるiRNA剤を表し、たとえば、第1列は表1における第1の剤であり、第2列は表2における第1の剤であり、第3列は表3における第1の剤であり、第4列は表1における第4の剤である。グラフのy軸は、無処理の細胞における標的mRNAの量に比べた標的HIF−1α mRNAの比率を表す。相当するデータを表5(図3)に示す。標的HIF−1α mRNAの量の低下を引き起こすことによって活性のあるiRNA剤を同定した。
【図2】ELISAで測定された候補、抗HIF−1α siRNAのIC50を示す。実施例に記載するように、iRNA剤を用いてHIF−1αの試験管内の用量反応性の阻害を行った。表1、2、3及び4の活性のある剤を調べた。用量依存性の反応が認められた。
【図3A】集計表(表5)は、実施例2で記載されるbDNAアッセイによって測定されたHIF−1αのmRNAを示す。相当するグラフを図1に示す。
【図3B】集計表(表5)は、実施例2で記載されるbDNAアッセイによって測定されたHIF−1αのmRNAを示す。相当するグラフを図1に示す。
【図3C】集計表(表5)は、実施例2で記載されるbDNAアッセイによって測定されたHIF−1αのmRNAを示す。相当するグラフを図1に示す。
【図3D】集計表(表5)は、実施例2で記載されるbDNAアッセイによって測定されたHIF−1αのmRNAを示す。相当するグラフを図1に示す。
【図3E】集計表(表5)は、実施例2で記載されるbDNAアッセイによって測定されたHIF−1αのmRNAを示す。相当するグラフを図1に示す。
【図3F】集計表(表5)は、実施例2で記載されるbDNAアッセイによって測定されたHIF−1αのmRNAを示す。相当するグラフを図1に示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
添付の図面及び以下の説明において本発明の1以上の実施態様の詳細が述べられる。本発明のそのほかの特徴、目的及び利点は、この説明、図面及びクレームから明らかであろう。本出願は、引用した参考文献、特許及び特許出願をあらゆる目的でその全体として参照によって組み入れる。
【0028】
説明を簡単にするために、RNA剤の1以上の単量体サブユニットに関して本明細書では、用語「ヌクレオチド」又は「リボヌクレオチド」を使用することがある。本明細書での用語「リボヌクレオチド」又は「ヌクレオチド」の使用は、修飾されたRNA又はヌクレオチドサロゲートの場合、さらに以下で記載するように、1以上の位置にて修飾されたヌクレオチド又はサロゲート置換部分も言うことが理解されるであろう。
【0029】
「RNA剤」は、本明細書で使用されるとき、未修飾のRNA、修飾されたRNA、又はヌクレオシドサロゲートであり、そのすべてが本明細書で記載され、RNA合成技術で周知である。多数の修飾されたRNA及びヌクレオシドサロゲートが記載される一方で、好ましい例には、未修飾のRNAよりもヌクレアーゼ分解に耐性が大きいものが挙げられる。例には、2’糖修飾を有するもの、一本鎖オーバーハング、たとえば、3’一本鎖オーバーハングを有するもの、特に、一本鎖であれば、1以上のリン酸基又はリン酸基の1以上の類縁体を含む5’修飾を有するものが挙げられる。
【0030】
「iRNA剤」(「干渉RNA剤」の略語)は、本明細書で使用されるとき、標的遺伝子、たとえば、HIF−1αの発現を下方調節できるRNA剤である。理論によって束縛されることを望まないが、iRNA剤は、当該技術でRNAiと呼ばれることもある標的mRNAの転写後切断、又は転写前又は翻訳前のメカニズムを含む1以上の多数のメカニズムによって作用してもよい。iRNA剤は、二本鎖(ds)iRNA剤であることができる。
【0031】
「dsiRNA剤」(「二本鎖iRNA剤」の略語)は、本明細書で使用されるとき、鎖内ハイブリッド形成が二本鎖構造の領域を形成できる、1を超える、好ましくは2本の鎖を含むiRNA剤である。「鎖」は本明細書では、ヌクレオチド(非天然に存在する又は修飾されたヌクレオチドを含む)の隣接する配列を言う。2を超える鎖は、又はそれぞれは、別々の分子の一部を形成してもよく、或いは、それらは、たとえば、リンカー、たとえば、ポリエチレングリコールリンカーによって共有結合で相互に接続して1つの分子を形成してもよい。少なくとも一方の鎖が標的RNAと十分に相補的である領域を含む。そのような鎖は、「アンチセンス鎖」と呼ばれる。アンチセンス鎖に相補的な領域を含むdsRNA剤に含まれる第2の鎖は、「センス鎖」と呼ばれる。しかしながら、dsiRNA剤は、少なくとも部分的に、自己相補性である、二本鎖領域を含むヘアピン又はパンハンドル構造を形成する一本鎖RNA分子から形成することもできる。そのような場合、用語「鎖」は、同一RNA分子の別の領域に相補的であるRNA分子の領域の1つを言う。
【0032】
哺乳類細胞では、長いdsiRNA剤は有害であることが多いインターフェロン応答を誘導するが、短いdsiRNA剤は、インターフェロン応答を誘発することはなく、少なくとも細胞又は宿主に有害である程度ではない。本発明のiRNA剤は、哺乳類細胞において有害なインターフェロン応答を誘発しない十分に短い分子を含む。従って、iRNA剤(たとえば、本明細書で記載されるように製剤化された)の組成物の哺乳類細胞への投与を使用してHIF−1α遺伝子の発現を抑制することができる一方で、有害なインターフェロン応答を回避する。有害なインターフェロン応答を誘発しない十分に短い分子は本明細書では、siRNA剤又はsiRNAと呼ばれる。「siRNA剤」又は「siRNA」は本明細書で使用されるとき、ヒト細胞で有害なインターフェロン応答を誘発しない十分に短いiRNA剤、たとえば、dsiRNA剤を言い、たとえば、それは、60未満、好ましくは50、40、又は30未満のヌクレオチド対の二本鎖領域を有する。
【0033】
dsiRNA剤及びsiRNA剤を含む、本明細書で記載される単離したiRNA剤は、たとえばRNA分解によって遺伝子の抑制に介在することができる。便宜上、そのようなRNAを本明細書では、抑制されるべきRNAとも呼ぶ。そのような遺伝子を標的遺伝子とも呼ぶ。好ましくは、抑制されるべきRNAは、HIF−1α遺伝子の遺伝子産物である。
【0034】
本明細書で使用されるとき、語句「RNAiに介在する」は、配列に特異的な方法で標的遺伝子を抑制する剤の能力を言う。「標的遺伝子を抑制すること」は、剤と接触していない場合標的遺伝子の特定の産物を含有する及び/又は分泌する細胞が、剤と接触した場合、剤と接触していない類似の細胞と比較して、そのような遺伝子産物の少なくとも10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%又は90%を含有する及び/又は分泌することを意味する。標的遺伝子のそのような産物は、たとえば、メッセンジャーRNA(mRNA)、タンパク質又は調節要素でありうる。
【0035】
本明細書で使用されるとき、用語「相補的な」は、本発明の化合物と標的RNA分子、たとえば、HIF−1α mRNAとの間で安定な且つ特異的な結合が生じるような十分な程度の相補性を指すのに使用される。特異的な結合は十分な程度の相補性を必要として、特異的な結合が望ましい条件下、たとえば、生体内アッセイの場合の生理的条件下、又は試験管内アッセイの場合のアッセイが行われる条件下にてオリゴマー化合物の非標的配列への非特異的結合を回避する。非標的配列は通常、少なくとも4つのヌクレオチドが異なる。
【0036】
本明細書で使用されるとき、iRNA剤は、iRNA剤が細胞において標的RNAによってコードされるタンパク質の産生を低減するのであれば、標的RNA、たとえば、標的mRNA(たとえば、標的HIF−1α mRNA)に「十分に相補的」である。iRNA剤はまた、標的RNA、たとえば、標的mRNAに「正確に相補的」であってもよく、iRNA剤は、アニールして、好ましくは、正確に相補的な領域にてワトソン・クリック塩基対によって専ら作られるハイブリッドを形成する。「十分に相補的な」iRNA剤は、標的HIF−1α RNAに正確に相補的である内部領域(たとえば、少なくとも10ヌクレオチド)を含むことができる。さらに、一部の実施態様では、iRNA剤は単一ヌクレオチドの差異を特異的に識別する。この場合、単一ヌクレオチド差の領域(たとえば、7ヌクレオチドの範囲内)で正確な相補性が見い出される場合のみでiRNA剤はRNAiに介在する。好ましいiRNA剤は、実施例で提供されるセンス配列及びアンチセンス配列に基づく、又はそれらからなる、又はそれらを含む。
【0037】
本明細書で使用されるとき、第1のヌクレオチド配列を第2のヌクレオチド配列と比較して言うのに使用される場合、「本質的に同一の」は、1、2又は3のヌクレオチド置換(たとえば、ウラシルによるアデノシンの置換)を除いて、第1のヌクレオチド配列が第2のヌクレオチド配列に一致することを意味する。
【0038】
本明細書で使用されるとき、「対象」は、HIF−1αの発現が介在する障害の治療を受けている、たとえば、HIF−1αに産生を妨げるように予防的に又は治療的に治療を受けている哺乳類生物を言う。対象は、任意の哺乳類、たとえば、霊長類、ウシ、ウマ、マウス、ラット、イヌ、ブタ、ヤギであることができる。好ましい実施態様では、対象はヒトである。
【0039】
本明細書で使用されるとき、HIF−1αが介在する障害を治療することは、1)対象におけるHIF−1αの望ましくない発現又は過剰発現が部分的に介在し、且つ2)その克服が存在するHIF−1α遺伝子産物のレベルを低減することによって左右される生物学的又は病理学的な端点の改善を言う。
【0040】
iRNA剤の設計及び選択
本発明は、局所投与に続く生体内でのHIF−1α遺伝子の標的遺伝子抑制の実証に基づき、iRNA剤は、少なくとも部分的にはHIF−1αの発現が介在する生物学的且つ病理学的な過程を軽減することを結果として生じる。
【0041】
これらの結果に基づいて、本発明は具体的に、細胞及び生物におけるHIF−1αのレベルを低減するのに使用することができる、特に、以下に記載するように単離された形態で及び医薬組成物として、望ましくないHIF−1αの発現を低減するのに使用するためのiRNA剤を提供する。そのような剤は、HIF−1α遺伝子に相補的である少なくとも15以上の隣接するヌクレオチドを有するセンス鎖及びセンス配列に相補的である少なくとも15以上の隣接するヌクレオチドを有するアンチセンス鎖を含む。特に有用なのは、表1、2、3及び4に提供されるようなHIF−1αに由来するヌクレオチド配列を含むiRNA剤である。
【0042】
たとえば、iRNA標的として働くHIF−1α遺伝子の遺伝子ウォーク分析を行うことによってそのほかの候補iRNA剤を設計することができる。転写された領域すべて又は一部に相当する重なり合う、隣接する又は密接な間隔を持った候補剤を生成し、調べることができる。標的遺伝子の発現を下方調節する能力について各iRNA剤を調べ、評価することができる(以下の「候補iRNA剤の評価」を参照のこと)。
【0043】
好ましくは、本発明のiRNA剤は、表1、2、3及び4にて活性があることが示されたiRNA剤の1つからの少なくとも15以上の隣接ヌクレオチドに基づき、それを含む。そのような剤では、剤は、表に提供された全配列を含むことができ、又は標的遺伝子の隣接領域からの追加のヌクレオチドと共に15以上の隣接残基を含むことができる。
【0044】
配列情報、所望の特徴及び表1、2、3及び4に提示される情報に基づいてiRNA剤を合理的に設計することができる。たとえば、候補二本鎖の相対的な融解温度に従ってiRNA剤を設計することができる。一般に、二本鎖は、アンチセンス鎖の3’末端よりもアンチセンス鎖の5’末端にてさらに低い融解温度を有するべきである。
【0045】
従って、本発明は、上記で定義したように、HIF−1α遺伝子の一部に本質的に一致する少なくとも15、16、17、18、19、20、21、22又は23のヌクレオチドの配列をそれぞれ含むセンス鎖及びアンチセンス鎖を含むiRNA剤を提供する。例示となるiRNA剤には、表1、2、3及び4に提示される剤の1つからの15以上の隣接ヌクレオチドを含むものが挙げられる。
【0046】
iRNA剤のアンチセンス鎖は、少なくとも長さ15、16、17、18、19、25、29、40又は50のヌクレオチドに等しくあるべきである。それは、長さ50、40又は30以下のヌクレオチドに等しくあるべきである。好ましい範囲は、長さ15〜30、17〜25、19〜23及び19〜21のヌクレオチドである。例示となるiRNA剤には、表1、2、3及び4における剤の1つからの15以上のヌクレオチドを含むものが挙げられる。
【0047】
iRNA剤のセンス鎖は、少なくとも長さ15、16、17、18、19、25、29、40又は50のヌクレオチドに等しくあるべきである。それは、長さ50、40又は30以下のヌクレオチドに等しくあるべきである。好ましい範囲は、長さ15〜30、17〜25、19〜23及び19〜21のヌクレオチドである。例示となるiRNA剤には、表1、2、3及び4における剤の1つからの15以上のヌクレオチドを含むものが挙げられる。
【0048】
iRNA剤の二本鎖部分は、少なくとも長さ15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、29、40又は50のヌクレオチドに等しくあるべきである。それは、長さ50、40又は30以下のヌクレオチド対に等しくあるべきである。好ましい範囲は、長さ15〜30、17〜25、19〜23及び19〜21のヌクレオチド対である。
【0049】
表1、2、3及び4に提供される剤は、各鎖について長さ21のヌクレオチドである。iRNA剤は、剤の3’末端のそれぞれにおける2ヌクレオチドのオーバーハングと共に19ヌクレオチドの二本鎖領域を含有する。本明細書に記載されるように、これらの剤を改変して、少なくともこれらの配列部分(15以上の隣接ヌクレオチド)及び/又はオリゴヌクレオチド塩基及び結合に対する修飾を含む同等の剤を得ることができる。
【0050】
一般に、本発明のiRNA剤は、HIF−1α遺伝子に十分に相補的な領域を含み、iRNA剤又はその断片が特定のHIF−1α遺伝子の下方調節に介在できるヌクレオチドという点で十分な長さである。本発明のiRNA剤のアンチセンス鎖は好ましくは、HIF−1α遺伝子のmRNA配列に完全に相補的である。しかしながら、iRNA剤と標的との間に完全な相補性がある必要はないが、iRNA剤又はその切断産物が、たとえば、HIF−1αのmRNAのRNAi切断によるような配列特異的な遺伝子抑制に方向付けられることができるように対応は十分でなければならない。
【0051】
従って、本発明のiRNA剤には、鎖当たり1、2又は3以下のヌクレオチドがそれぞれ他のヌクレオチドによって置換されている(たとえば、ウラシルより置換されたアデノシン)ことを除いて、それぞれ、表1、2、3及び4に提供されるそれら剤のように、以下に記載するように、HIF−1α遺伝子の配列の1つに本質的に一致する少なくとも16、17又は18ヌクレオチドの配列を含む一方で、以下に定義するように、培養されたヒト細胞におけるHIF−1αの発現を阻害する能力を本質的に保持するセンス鎖及びアンチセンス鎖を含む剤が挙げられる。従って、これらの剤は、HIF−1α遺伝子の配列の1つと一致する少なくとも15以上のヌクレオチドを持つが、標的HIF−1α mRNA配列、又はセンス鎖とアンチセンス鎖の間のいずれかに関して1、2又は3の塩基ミスマッチが導入される。標的HIF−1α mRNA配列に対するミスマッチは、特にアンチセンス鎖において、末端領域で最もよく認容され、存在すれば、好ましくは末端領域(単数)又は領域(複数)にあり、たとえば、5’及び/又は3’末端の6、5、4又は3ヌクレオチドの範囲内であり、最も好ましくは、センス鎖の5’末端又はアンチセンス鎖の3’末端の6、5、4又は3ヌクレオチドの範囲内である。センス鎖は、分子の全体的な二本鎖の特徴を維持するのにアンチセンス鎖との十分な相補性を単に必要とする。
【0052】
iRNA剤が、たとえば、表1、2、3及び4で例示されるもののような分子の一方の末端又は両端にて1本鎖又は対になっていない領域を含むようにセンス鎖及びアンチセンス鎖が選択されることが好ましい。従って、iRNA剤は、オーバーハング、たとえば、1又は2の5’又は3’オーバーハング、しかし、好ましくは2〜3ヌクレオチドの3’オーバーハングを含有するように好ましくは対になったセンス鎖及びアンチセンス鎖を含有する。ほとんどの実施態様は、3’オーバーハングを有する。好ましいiRNA剤は、iRNA剤の一方の末端又は両端にて、一本鎖オーバーハング、好ましくは長さ1〜4の、好ましくは2又は3のヌクレオチドの3’オーバーハングを有するであろう。オーバーハングは一方の鎖が他方よりも長いことで生じ、又は同一の長さの二本鎖が5’末端でずらされて生じ、好ましくはリン酸化される。
【0053】
たとえば、上記で議論したsiRNA剤の範囲における二本鎖領域の好ましい長さは、15〜30の間であり、最も好ましくは長さ18、19、20、21、22及び23のヌクレオチドである。siRNA剤の2つの鎖が結合する、たとえば、共有結合する実施態様も含まれる。必要とされる二本鎖領域、好ましくは3’オーバーハングを提供するヘアピン構造又はそのほかの一本鎖構造も本発明の範囲内である。
【0054】
候補iRNA剤の評価
標的遺伝子の発現を下方調節する能力について候補iRNA剤を評価することができる。たとえば、候補iRNA剤が提供され、HIF−1αを発現する細胞、たとえば、ヒト細胞に接触されうる。或いは、HIF−1α遺伝子を発現させる構築物を細胞を移入することができるので、内因性のHIF−1α発現の必要性を回避することができる。候補iRNA剤と接触する前及びその後の標的遺伝子発現のレベルを、たとえば、mRNAレベル又はタンパク質レベルで比較することができる。標的遺伝子から発現されたRNA又はタンパク質の量が、iRNA剤との接触後の方が低ければ、そのときは、iRNA剤が標的遺伝子の発現を下方調節すると結論付けることができる。所望の方法によって細胞又は組織における標的HIF−1αのmRNA又はHIF−1αのタンパク質のレベルを決定することができる。たとえば、ノーザンブロット解析、ポリメラーゼ鎖反応と併せた逆転写(RT−PCR)、bDNA解析又はRNA分解酵素保護アッセイによって標的RNAのレベルを決定することができる。タンパク質のレベルは、たとえば、ウエスタンブロット解析又は免疫蛍光法によって決定することができる。
【0055】
安定性試験、修飾及びiRNA剤の再試験
安定性について候補iRNA剤を評価することができ、たとえば、iRNA剤を対象の体内に導入した際、エンドヌクレアーゼ又はエクソヌクレアーゼによる切断に対する感受性を評価することができる。方法を用いて、修飾、特に切断、たとえば、対象の体内に見い出される成分による切断に感受性である部位を同定することができる。
【0056】
切断に感受性である部位が同定されると、たとえば、切断部位における2’−修飾、たとえば、2’−O−メチル基の導入によって切断の可能性のある部位を切断に対して耐性にするさらなるiRNA剤を設計し、及び/又は合成することができる。このさらなるiRNA剤を安定性について再試験することができ、iRNA剤が所望の安定性を示すのが見い出されるまでこの過程が繰り返されてもよい。表1、2、3及び4は例示として種々の配列修飾を提示する。
【0057】
生体内試験
HIF−1α遺伝子の発現を阻害することが可能であると同定されたiRNA剤は、実施例に示すように、動物モデル(たとえば、マウス又はラットのような哺乳類にて)にて生体内の機能性について調べることができる。たとえば、iRNA剤を動物に投与し、その生体分布、安定性及びHIF−1αを阻害する、たとえば、HIF−1αのタンパク質又は遺伝子の発現を低下させる能力についてiRNA剤を評価することができる。
【0058】
たとえば注射によってiRNA剤を直接標的組織に投与することができ、又はヒトに投与するのと同様の方法でiRNA剤を動物モデルに投与することができる。
iRNA剤を、その細胞内分布について評価することができる。評価は、iRNA剤が細胞に取り込まれるかどうかを決定することを含むことができる。評価はまた、iRNA剤の安定性(たとえば、半減期)を決定することも含むことができる。追跡可能なマーカー(フルオレセインのような蛍光マーカー;35S、32P、33P、若しくはHのような放射性標識;金粒子;又は免疫組織化学法用の抗原粒子)に共役したiRNA剤の使用によって生体内でのiRNA剤の評価を円滑にすることができる。
【0059】
HIF−1α遺伝子発現を下方調節する能力についてiRNA剤を評価することができる。たとえば、in situハイブリッド形成、又はiRNA剤に暴露する前及び後での組織からのRNAの単離によって生体内でのHIF−1α遺伝子発現のレベルを測定することができる。組織を回収するために動物を屠殺する必要がある場合、未処理の対照動物が比較のために役立つであろう。RT−PCR、ノーザンブロット解析、分枝DNAアッセイ又はRNA分解酵素保護アッセイを含むが、これに限定されない所望の方法によって標的HIF−1αのmRNAを検出することができる。或いは、又はさらに、iRNA剤で処理した組織抽出物でウエスタンブロット解析を行うことによってHIF−1α遺伝子の発現をモニターすることができる。
【0060】
iRNAの化学
本明細書で記載されるのは、単離したiRNA剤、たとえば、HIF−1α遺伝子の発現を阻害するRNAiに介在するdsRNA剤である。
【0061】
本明細書で記載されるRNA剤には、さもなければ修飾RNA、並びにたとえば、有効性を改善するために修飾されたRNA、及びヌクレオシドサロゲートのポリマーが含まれる。未修飾のRNAは、核酸の成分、すなわち糖、塩基及びリン酸の部分が、ヒト生体において天然の、好ましくは天然に生じるものと同一又は本質的に同一である分子を言う。技術は、稀な又は珍しいが、天然に生じるRNAを修飾RNAと呼んでいる。たとえば、リンバッハら(Limbach et al.)、「Nucleic Acids Res.」、第22巻、2183〜2196ページ(1994年)を参照のこと。そのような稀な又は珍しい、修飾RNAと呼ばれることが多いRNA(明らかに、これらは通常、転写後修飾の結果であるため)は、本明細書で使用されるとき、用語、修飾RNAの範囲内である。本明細書で使用されるとき、修飾RNAは、1以上の核酸の成分、すなわち糖、塩基及びリン酸の部分が、ヒト生体において天然の、好ましくは天然に生じるものと異なる分子を言う。それらは修飾「RNA]と呼ばれる一方で、それらは当然、修飾のためにRNAではない分子を含む。ヌクレオシドサロゲートは、ハイブリッド形成が、リボリン酸主鎖で見られるもの、たとえば、リボリン酸主鎖の非電荷模倣体に実質的に類似するように、リボリン酸主鎖を、正しい空間関係で塩基が提示される非リボリン酸構築物で置き換えられる分子である。上記の例のそれぞれは本明細書で議論される。
【0062】
本明細書で記載される二本鎖RNA及びRNA様分子、たとえば、iRNA剤に本明細書で記載される修飾を組み入れることができる。iRNA剤のアンチセンス鎖及びセンス鎖の一方又は両方を修飾することが望ましくてもよい。核酸は、サブユニット又はモノマーのポリマーなので、核酸の中で反復される位置にて、たとえば、塩基の修飾、又はリン酸部分、又はリン酸部分の非結合のOにて以下で記載される多数の修飾が生じる。場合によっては、修飾は核酸における対象位置のすべてで生じることがあるが、多くの場合、実際ほとんどの場合、そのようなことはない。例証として、修飾は、3’又は5’末端位置でのみ生じてもよく、末端領域、たとえば、鎖の末端のヌクレオチドの位置又は最後の2、3、4、5、若しくは10ヌクレオチドでのみ生じてもよい。修飾は、二本鎖領域、一本鎖領域又は双方で生じてもよい。たとえば、非結合のO位置でのホスホロチオエート修飾は、一方の末端又は双方の末端のみで生じてもよく、末端領域、たとえば、鎖の末端のヌクレオチドの位置又は最後の2、3、4、5、若しくは10ヌクレオチドでのみ生じてもよく、二本鎖領域及び一本鎖領域、特に末端で生じてもよい。同様に、修飾は、センス鎖、アンチセンス鎖又は双方で生じてもよい。場合によっては、センス鎖及びアンチセンス鎖は同一の修飾又は同一部類の修飾を有するであろうが、別の場合では、センス鎖及びアンチセンス鎖は異なった修飾を有し、たとえば、場合によっては、一方の鎖、たとえばセンス鎖のみを修飾することが望ましくてもよい。
【0063】
iRNA剤に修飾を導入する2つの主な目的は、生体環境における分解に対する安定化及び薬理特性、たとえば、薬物動態特性の改善であり、それらは以下でさらに議論される。iRNA剤の糖、塩基又は主鎖に好適なそのほかの修飾は、2004年1月16日に出願された共同所有のPCT出願第PCT/US2004/01193号に記載されている。iRNA剤は、非天然に生じる塩基、たとえば、2004年4月16日に出願された共同所有のPCT出願第PCT/US2004/011822号に記載された塩基を含むことができる。iRNA剤は、非天然に生じる糖、たとえば、非炭水化物の環状キャリア分子を含むことができる。iRNA剤で使用するための非天然に生じる糖の特徴の例は、2003年4月16日に出願された共同所有のPCT出願第PCT/US2004/11829号に記載されている。
【0064】
iRNA剤は、ヌクレアーゼ耐性を高めるのに有用なヌクレオチド間結合(たとえば、キラルホスホノチオエート結合)を含むことができる。さらに、又は代替的に、iRNA剤は高められたヌクレアーゼ耐性のためのリボース模倣体を含むことができる。高められたヌクレアーゼ耐性のための例示となるヌクレオチド間結合及びリボース模倣体は、2004年3月8日に出願された共同所有のPCT出願第PCT/US2004/07070号に記載されている。
【0065】
iRNA剤は、リガンド共役のモノマー、サブユニット、及びオリゴヌクレオチド合成のためのモノマーを含むことができる。例示となるモノマーは、2004年8月10日に出願された共同所有の米国特許出願第10/916,185号に記載されている。
【0066】
iRNA剤は、2004年3月8日に出願された共同所有のPCT出願第PCT/US2004/07070号に記載されたようなZXY構造を有することができる。
iRNA剤は、両親媒性部分と複合体形成することができる。iRNA剤との使用のための両親媒性部分の例は、2004年3月8日に出願された共同所有のPCT出願第PCT/US2004/07070号に記載されている。
【0067】
別の実施態様では、iRNA剤は、モジュラー複合体を特徴とする送達剤に複合体形成することができる。複合体は、(a)縮合剤(たとえば、イオン又は静電気の相互作用を介して、核酸を引き付けること、たとえば、結合することが可能である剤)、(b)融合誘導因子(たとえば、細胞膜を介して融合すること及び/又は輸送されることが可能である剤)、及び(c)ターゲティング群、たとえば、細胞又は組織のターゲティング剤、たとえば、特定された細胞種に結合するレクチン、糖タンパク質、脂質又はタンパク質、たとえば、抗体の1以上(好ましくは2以上、さらに好ましくは3すべて)に結合するキャリア剤を含むことができる。送達剤に複合体形成されたiRNA剤は、2004年3月8日に出願された共同所有のPCT出願第PCT/US2004/07070号に記載されている。
【0068】
iRNA剤は、iRNA二本鎖のセンス鎖とアンチセンス鎖の間のような非標準的な対合を有することができる。非標準的なiRNA剤の例示となる特徴は、2004年3月8日に出願された共同所有のPCT出願第PCT/US2004/07070号に記載されている。
【0069】
高められたヌクレアーゼ耐性
iRNA剤、たとえば、HIF−1αを標的とするiRNA剤はヌクレアーゼに対する高められた耐性を有することができる。
【0070】
高められたヌクレアーゼ耐性及び/又は標的に対する結合親和性については、iRNA剤、たとえば、iRNA剤のセンス鎖及び/又はアンチセンス鎖は、たとえば、2’修飾のリボース単位及び/又はホスホノチオエート結合を含むことができる。たとえば、多数の異なった「オキシ」又は「デオキシ」置換基によって2’−ヒドロキシル基(OH)を修飾する又は置換することができる。
【0071】
「オキシ」−2’ヒドロキシル基の修飾の例には、アルコキシ又はアリールオキシ(OR、たとえば、R=H、アルキル、シクロアルキル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、又は糖);ポリエチレングリコール(PEG)、O(CHCHO)CHCHOR;たとえば、メチレン架橋によって2’−ヒドロキシル基が同一リボース糖の4’炭素に接続される「ロックされた」核酸(LNA);O−アミン及びアミノアルコキシ、O(CHアミン(例えば、アミン=NH;アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、ヘテロシクリルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、ヘテロアリールアミノ、又はジヘテロアリールアミノ、エチレンジアミン、ポリアミノ)が挙げられる。メトキシエチル基(MOE)(OCHCHOCH、PEG誘導体)のみを含有するオリゴヌクレオチドが強力なホスホノチオエート修飾で修飾されたものに匹敵するヌクレアーゼの安定性を示すことは注目に値する。
【0072】
「デオキシ」修飾には、水素(すなわち、たとえば、部分的にはdsRNAのオーバーハング部分に特に関連するデオキシリボース糖);ハロ(たとえば、フルオロ);アミノ(たとえば、NH;アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、ヘテロシクリルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、ヘテロアリールアミノ、ジヘテロアリールアミノ又はアミノ酸);NH(CHCHNH)CHCH−アミン(アミン=NH;アルキルアミノ、ジアルキルアミノ、ヘテロシクリルアミノ、アリールアミノ、ジアリールアミノ、ヘテロアリールアミノ、又はジヘテロアリールアミノ)、−NHC(O)R(R=アルキル、シクロアルキル、アリール、アラルキル、ヘテロアリール、又は糖)、シアノ;メルカプト;アルキル−チオ−アルキル;チオアルコキシ;及びたとえば、任意でアミノ官能性で置換されてもよいアルキル、シクロアルキル、アリール、アルケニル及びアルキニルが挙げられる。
【0073】
好ましい置換基は、2’−メトキシエチル、2’−OCH3、2’−O−アリル、2’−C−アリル及び2’−フルオロである。
耐性を高める方法の1つは、2004年5月4日に出願された共同所有の米国特許出願第60/559,917号に記載されたように、切断部位を同定し、切断を阻害するようにそのような部位を修飾することである。たとえば、ジヌクレオチド、5’−UA−3’、5’−UG−3’、5’−CA−3’5’−UU−3’又は5’−CC−3’は切断部位として役立つことができる。従って、5’ヌクレオチドを修飾し、たとえば、結果として少なくとも1つの5’−ウリジン−アデニン−3’(5’−UA−3’)ジヌクレオチドを生じ、その際、ウリジンが2’−修飾ヌクレオチドであり;少なくとも1つの5’−ウリジン−グアニン−3’(5’−UG−3’)ジヌクレオチドを生じ、その際、5’−ウリジンが2’−修飾ヌクレオチドであり;少なくとも1つの5’−シチジン−アデニン−3’(5’−CA−3’)ジヌクレオチドを生じ、その際、5’−シチジンが2’−修飾ヌクレオチドであり;少なくとも1つの5’−ウリジン−ウリジン−3’(5’−UU−3’)ジヌクレオチドを生じ、その際、5’−ウリジンが2’−修飾ヌクレオチドであり;又は少なくとも1つの5’−シチジン−シチジン−3’(5’−CC−3’)ジヌクレオチドを生じ、その際、5’−シチジンが2’−修飾ヌクレオチドである修飾を行うことによって高められたヌクレアーゼ耐性を達成することができる。iRNA剤は、少なくとも2、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5のそのようなジヌクレオチドを含むことができる。特定の実施態様では、iRNA剤のピリミジンはすべて2’−修飾を持ち、従って、iRNA剤はエンドヌクレアーゼに対する高い耐性を有する。
【0074】
ヌクレアーゼ耐性を最大化するには、1以上のホスフェートリンカー修飾(たとえば、ホスホノチオエート)と組み合わせて2’−修飾を使用することができる。いわゆる「キメラ」オリゴヌクレオチドは、2以上の異なった修飾を含有するものである。
【0075】
オリゴヌクレオチド主鎖へのフラノース糖の包含もエンドヌクレアーゼ切断を減少させることができる。3’−カチオン基を含めることによって、又は3’−3’結合により3’−末端にてヌクレオシドを反転することによってiRNA剤をさらに修飾することができる。別の代替法では、アミノアルキル基、たとえば、3’C5アミノアルキルdTによって3’−末端を遮断することができる。他の3’共役は、3’−5’のエクソヌクレアーゼ切断を阻害することができる。理論に束縛されないが、ナプロキセン又はイブプロフェンのような3’共役剤は、エクソヌクレアーゼがオリゴヌクレオチドの3’末端に結合するのを立体的に遮断することによってエクソヌクレアーゼ切断を阻害してもよい。さらに小さなアルキル鎖、アリール基、又は複素環共役剤又は修飾された糖(D−リボース、デオキシリボース、グルコースなど)は、3’−5’−エクソヌクレアーゼを遮断することができる。
【0076】
同様に、5’共役剤は、5’−3’のエクソヌクレアーゼ切断を阻害することができる。理論に束縛されないが、ナプロキセン又はイブプロフェンのような5’共役剤は、エクソヌクレアーゼがオリゴヌクレオチドの5’末端に結合するのを立体的に遮断することによってエクソヌクレアーゼ切断を阻害してもよい。さらに小さなアルキル鎖、アリール基、又は複素環共役剤又は修飾された糖(D−リボース、デオキシリボース、グルコースなど)は、3’−5’−エクソヌクレアーゼを遮断することができる。
【0077】
二本鎖iRNA剤が少なくとも一方の末端に一本鎖ヌクレオチドのオーバーハングを含む場合、iRNA剤はヌクレアーゼに対する高い耐性を有することができる。好ましい実施態様では、ヌクレオチドのオーバーハングは、1〜4の、好ましくは2〜3の対になっていないヌクレオチドを含む。好ましい実施態様では、末端のヌクレオチド対に直接隣接する一本鎖オーバーハングの対になっていないヌクレオチドはプリン塩基を含有し、末端のヌクレオチド対はG−C対であり、最後の4つの相補的ヌクレオチド対の少なくとも2つはG−C対である。さらなる実施態様では、ヌクレオチドのオーバーハングは1〜2の対になっていないヌクレオチドを有してもよく、例示となる実施態様では、ヌクレオチドのオーバーハングは5’−GC−3’である。好ましい実施態様では、ヌクレオチドのオーバーハングはアンチセンス鎖の3’末端にある。実施態様の1つでは、iRNA剤は、2−ntオーバーハング5’−GC−3’が形成されるように、アンチセンス鎖の3’末端にモチーフ5’−C−GC−3’を含む。
【0078】
従って、iRNA剤は、対象の体内で見い出されるヌクレアーゼ、たとえば、エンドヌクレアーゼ又はエクソヌクレアーゼによる分解を阻害するように修飾を含むことができる。これらのモノマーは本明細書ではNRM又はヌクレアーゼ耐性を促進するモノマー、NRM修飾として相当する修飾と呼ぶ。多くの場合、これらの修飾は、iRNA剤のほかの特性を変調し、同様にタンパク質、たとえば、輸送タンパク質、たとえば、血清アルブミン、若しくはRISCのメンバーと相互作用する能力、又はもう1つと二本鎖を形成する若しくは別の配列、たとえば、標的分子と二本鎖を形成する第1及び第2の配列の能力を変調する。
【0079】
1以上の異なったNRM修飾を、iRNA剤又はiRNA剤の配列に導入することができる。配列又はiRNA剤においてNRM修飾を1回を超えて使用することができる。
NRM修飾は、末端にしか配置できない一部及びどの位置にも行けるその他を含む。ハイブリッド形成を阻害することができる一部のNRM修飾は、好ましくは末端領域でしか使用されず、さらに好ましくは対象の配列又は遺伝子を標的とする配列、特にアンチセンス鎖における切断部位又は切断領域では使用されない。dsiRNA剤の2つの鎖の間で十分なハイブリッド形成が維持されるという条件で、それらは、センス鎖のどこでも使用することができる。一部の実施態様では、標的を外れた遺伝子抑制をできるだけ抑えるので、センス鎖の切断部位又は切断領域にNRMを置くのが望ましい。
【0080】
ほとんどの場合で、それらがセンス鎖又はアンチセンス鎖に含まれるかどうかに依存して、NRM修飾は異なって分布するであろう。アンチセンス鎖上であれば、エンドヌクレアーゼ切断を妨害する又は阻害する修飾は、RISCが介在する切断の対象となる領域、たとえば、切断部位又は切断領域に挿入されるべきではない(参照によって本明細書に組み入れられるエルバシルら(Elbashir et al.)、「Genes and Dev.」、第15巻、188ページ(2001年)に記されるように)。標的の切断は、20又は21のアンチセンス鎖のおよそ中間で、又はアンチセンス鎖に相補的である標的mRNAにおける第1のヌクレオチドのおよそ10〜11ヌクレオチド上流にて生じる。本明細書で使用されるとき、切断部位は、標的mRNA又はそれとハイブリッド形成するiRNA剤鎖における切断部位のいずれかの側のヌクレオチドを言う。切断領域は、いずれかの方向にて切断部位の1、2、又は3ヌクレオチドの範囲内のヌクレオチドを意味する。
【0081】
対象における配列を標的とする配列又は標的としない配列の末端領域、たとえば、末端位置又は末端の2、3、4、若しくは5の位置にそのような修飾を導入することができる。
【0082】
テザーリガンド
リガンド、たとえば、テザーリガンドの導入によって、その医薬的特性を含むiRNA剤の特性を左右し、誂えることができる。
【0083】
多種多様な実体、たとえば、リガンドを、iRNA剤、たとえば、リガンド結合のモノマーサブユニットのキャリアに繋留することができる。単に好まれているリガンド結合のモノマーサブユニットの背景で例は以下に記載され、実体を他の点でiRNA剤に連結することができる。
【0084】
好ましい部分は、介在する繋ぎ鎖を直接又は間接的にいずれかを介してキャリアに連結される、好ましくは共有結合されるリガンドである。好ましい実施態様では、リガンドは、介在繋ぎ鎖を介してキャリアに結合される。リガンド又はテザーリガンドは、リガンド結合モノマーが成長する鎖に組み入れられる場合、リガンド結合モノマー上に存在してもよい。一部の実施態様では、「前駆体」のリガンド結合モノマーサブユニットが成長する鎖に組み込まれた後、リガンドが、「前駆体」のリガンド結合モノマーサブユニットに組み込まれてもよい。たとえば、アミノ末端の繋ぎ鎖、たとえば、TAP−(CHNHを有するモノマーは、成長するセンス鎖又はアンチセンス鎖に組み入れられてもよい。その後の操作にて、すなわち、前駆体モノマーサブユニットの鎖への組み入れの後、求電子基、たとえば、ペンタフルオロフェニルエステル基又はアルデヒド基を有するリガンドは、リガンドの求電子基を前駆体リガンド結合モノマーサブユニット繋ぎ鎖の末端求核基に連結することによって続いて前駆体リガンド結合モノマーに結合することができる。
【0085】
好ましい実施態様では、リガンドは、組み入れられたiRNA剤の分布、ターゲティング又は寿命を変化させる。好ましい実施態様では、リガンドは、そのようなリガンドが存在しない種に比べて、選択された標的、たとえば、細胞又は細胞種、区画、たとえば、細胞又は臓器の区画、組織、臓器、生体の臓器に対する向上した親和性を提供する。
【0086】
好ましいリガンドは、輸送、ハイブリッド形成及び特異性の特性を改善することができ、得られた天然の若しくは修飾されたオリゴヌクレオチドのヌクレアーゼ耐性、又は本明細書で記載されるモノマーの任意の組み合わせを含むポリマーヌクレオチド及び/又は天然の若しくは修飾されたリボヌクレオチドのヌクレアーゼ耐性を改善してもよい。
【0087】
リガンドには一般に、たとえば取り込みを高めるための治療的修飾因子、たとえば、分布をモニターする診断用化合物又はレポーター基;架橋剤;ヌクレアーゼ耐性を付与する部分;及び天然の又は珍しいヌクレオ塩基を挙げることができる。一般例には、親油性分子、脂質、レクチン類、ステロイド類(たとえば、ウバオール、ヘシゲニン、ジオスゲニン)、テルペン類(たとえば、トリテルペン類、たとえば、サルササポゲニン、フリーデリン、エピフリーデラノール、リトコール酸誘導体)、ビタミン類、炭水化物(たとえば、デキストラン、プルラン、キチン、キトサン、イヌリン、シクロデキストリン又はヒアルロン酸)、タンパク質、タンパク質結合剤、インテグリン標的分子、ポリカチオン、ペプチド、ポリアミン及びペプチド模倣体が挙げられる。
【0088】
リガンドは、天然に存在する分子又は組換え分子又は、たとえば、合成ポリマー、たとえば、合成ポリアミノ酸のような合成分子であってもよい。ポリアミノ酸の例には、ポリリジン(PLL)、ポリL−アスパラギン酸、ポリL−グルタミン酸、スチレン−無水マレイン酸コポリマー、ポリ(L−ラクチド−co−グリコリド)コポリマー、ジビニルエーテル−無水マレイン酸コポリマー、N−(2−ヒドロキシプロピル)メタクリルアミドコポリマー(HMPA)、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリウレタン、ポリ(2−エチルアクリル酸)N−イソプロピルアクリルアミドポリマー又はポリホスファジンが挙げられる。ポリアミンの例には、ポリエチレンイミン、ポリリジン(PLL)、スペルミン、スペルミジン、ポリアミン、偽ペプチド−ポリアミン、ペプチド模倣体ポリアミン、デンドリマーポリアミン、アルギニン、アミジン、プロタミン、カチオン部分、たとえば、カチオン脂質、カチオンポルフィリン、ポリアミンの四級塩、又はαらせん状ペプチドが挙げられる。
【0089】
リガンドにはまた、ターゲティング群、たとえば、細胞又は組織のターゲティング剤、たとえば、サイロトロピン、メラノトロピン、界面活性剤プロテインA、ムチン炭水化物、グリコシル化ポリアミノ酸、トランスフェリン、ビスホスホネート、ポリグルタメート、ポリアスパルテート、又はRGDペプチド若しくはRGDペプチド模倣体が挙げられる。
【0090】
リガンドは、タンパク質、たとえば、糖タンパク質、リポタンパク質、たとえば、低密度リポタンパク質(LDL)若しくはアルブミン、たとえば、ヒト血清アルブミン(HSA)、又はペプチド、たとえば、コリガンドに対する特異的な親和性を有する分子、抗体、たとえば、癌細胞、内皮細胞若しくは骨細胞のような特定された細胞種に結合する抗体であることができる。リガンドはまた、ホルモン及びホルモン受容体を挙げることができる。それらにはまた、たとえば、補助因子、多価のラクトース、多価のガラクトース、N−アセチルガラクトサミン、N−アセチルグルコサミン、多価のマンノース、又は多価のフコースのような非ペプチド種を挙げることもできる。リガンドは、たとえば、リポ多糖類、p38MAPキナーゼのアクチベータ又はNF−κBのアクチベータであることができる。
【0091】
リガンドはまた、物質、たとえば、細胞の骨格を破壊することによって、たとえば、細胞の微小管、微小繊維及び/又は中間の微小繊維を破壊することによってiRNA剤の細胞への取り込みを高める薬剤であることができる。薬剤は、たとえば、タキソン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、シトカラシン、ノコダゾール、ジャプラキノリド、ラトルンクリンA、ファロイジン、スインホリドA、インダノシン又はミオセルビンであることができる。
【0092】
側面の1つでは、リガンドは脂質又は脂質に基づく分子である。そのような脂質又は脂質に基づく分子は、好ましくは、血清タンパク質、たとえば、ヒト血清アルブミン(HSA)に結合する。HSAに結合するリガンドは、標的組織、たとえば肝臓の実質細胞を含む肝臓組織に対する共役の分布を可能にする。HSAに結合することができるそのほかの分子もリガンドとして使用することができる。たとえば、ネプロキシン又はアスピリンを使用することができる。脂質又は脂質を基にしたリガンドは、(a)共役の分解に対する耐性を高め、(b)標的細胞又は細胞膜へのターゲティング又は輸送を高め、及び/又は(c)血清タンパク質、たとえば、HSAへの結合を調節するのに使用されている。
【0093】
脂質を基にしたリガンドは、変調するのに、たとえば、標的組織への共役の結合を制御するのに使用することができる。たとえば、さらに強くHSAに結合する脂質又は脂質に基づくリガンドは、腎臓に対して標的とされる可能性は低いので、生体からクリアランスされる可能性も低い。あまり強くHSAに結合しない脂質又は脂質に基づくリガンドは、腎臓への共役を標的とするのに使用することができる。
【0094】
好ましい実施態様では、脂質に基づくリガンドは、HSAに結合する。好ましくは、共役が非腎臓組織に好ましく分布するように十分な親和性でそれはHSAに結合する。しかしながら、親和性は、HSA−リガンドの結合が反転できないほど強くないことが好ましい。
【0095】
別の側面では、リガンドは、標的細胞、たとえば、増殖している細胞によって取り込まれる部分、たとえば、ビタミン又は栄養素である。望ましくない細胞増殖、たとえば、悪性又は非悪性の種類の、たとえば、癌細胞を特徴とする障害を治療するために、これらは特に有用である。例示となるビタミン類には、ビタミンA、E及びKが挙げられる。そのほかの例示となるビタミン類には、ビタミンB、たとえば、葉酸、B12,リボフラビン、ビオチン、ピリドキサール、又は癌細胞によって取り込まれるそのほかのビタミン類若しくは栄養素が挙げられる。
【0096】
別の側面では、リガンドは細胞透過剤、好ましくはらせん状細胞透過剤である。好ましくは、剤は両親媒性である。例示となる剤には、tat又はアンテナペディアのようなペプチドである。剤がペプチドであれば、ペプチジル模倣、インバートマー、非ペプチド結合又は偽ペプチド結合及びD−アミノ酸の使用を含めてそれを修飾することができる。らせん状の剤は好ましくは、親油性又は疎油性の相を有する好ましくはαらせん状剤である。
【0097】
5’−ホスフェート修飾
好ましい実施態様では、iRNA剤は、5’リン酸化されるか、又は5’感作末端でのホスホリル類縁体を含む。アンチセンス鎖の5’ホスフェート修飾は、RISCが介在する遺伝子抑制に匹敵するものが挙げられる。好適な修飾には、5’−モノホスフェート((HO)2(O)P−O−5’);5’−ジホスフェート((HO)2(O)P−O−P(HO)(O)−O−5’);5’−トリホスフェート((HO)2(O)P−O−(HO)(O)P−O−P(HO)(O)−O−5’);5’−グアノシンキャップ(7−メチル化された又はメチル化されない)(7m−G−O−5’−(HO)(O)P−O−(HO)(O)P−O−P(HO)(O)−O−5’);5’−アデノシンキャップ(Appp)及び修飾若しくは非修飾のヌクレオチドキャップ構造が挙げられる。そのほかの好適な5’−ホスフェート修飾は当業者に既知である。
【0098】
センス鎖を不活化し、活性のあるRISCの形成を防ぐためにセンス鎖を修飾することができ、それによって標的を外れた効果を減らす可能性がある。このことは、センス鎖の5’−リン酸化を防ぐ修飾によって、たとえば、5’−メチルリボヌクレオチドによる修飾によって達成することができる(ナイカネンら(Nykanen et al.)、「ATP requirement and small interfering RNA structure in the RNA interference pathway(Cell)」、第107巻、309〜321ページ(2001年)を参照のこと)。リン酸化を防ぐそのほかの修飾、たとえば、O−MeではなくHによって単純に5’−OHを置換することを用いることができる。或いは、嵩高い基を5’ホスフェートに付加してそれをホスホジエステル結合に変えてもよい。
【0099】
組織及び細胞へのiRNA剤の送達
製剤化
本明細書に記載されるiRNA剤は、対象に投与するために、好ましくは、眼に局所的に、又は非経口的に、たとえば注射によって投与するために製剤化することができる。
【0100】
簡単に説明するために、この区分における製剤化、組成物及び方法は、主に未修飾のiRNA剤に関して議論する。しかしながら、これら製剤化、組成物及び方法は、他のiRNA剤、たとえば、修飾されたiRNA剤で実践することができ、そのような実践は本発明の範囲内である。
【0101】
製剤化されたiRNA剤組成物は様々な状態を想定することができる。一部の例では、組成物は少なくとも部分的に結晶性であり、均一に結晶性であり、及び/又は無水物である(80、50、30、20又は10%未満の水)。別の例では、iRNA剤は水性相、たとえば、水を含む溶液中にあり、この形態は、吸入を介した投与に好ましい形態である。
【0102】
水性相又は結晶性の組成物を、送達ビヒクル、たとえば、リポソーム(特に水性相のために)、又は粒子(たとえば、結晶性の組成物に適しうるような微粒子)に組み入れることができる。一般に、iRNA剤組成物は、投与の意図する方法に適合する方式で製剤化される。
【0103】
iRNA剤製剤は、別の剤、たとえば、別の治療剤又はiRNA剤を安定化する剤、たとえば、iRNA剤と複合体化してiRNPを形成するタンパク質と組み合わせて製剤化することができる。さらに他の剤には、キレート剤、たとえば、EDTA(たとえば、Mg2+のような二価のカチオンを除くために)、塩、RNA分解酵素阻害剤(たとえば、RNAsinのような特異性の広いRNA分解酵素阻害剤)などが挙げられる。
【0104】
実施態様の1つでは、iRNA剤製剤は、別のiRNA剤、たとえば、第2の遺伝子に関するRNAiに介在することができる第2のiRNA剤を含む。さらに他の製剤は、少なくとも3、5、10、20、50又は100以上の異なったiRNA種を含むことができる。一部の実施態様では、剤は、異なった標的配列を除いて同一の遺伝子に向けられる。別の実施態様では、各iRNA剤は異なった遺伝子、たとえば、VEGFに向けられる。
【0105】
治療方法及び送達の経路
本発明のiRNA剤、たとえば、HIF−αを標的とするiRNA剤を含む組成物を種々の経路によって対象に送達することができる。例示となる経路には、吸入、くも膜下、実質性、静脈内、鼻内、経口及び眼内の送達が挙げられる。本発明のiRNA剤を投与する好ましい手段は、眼に対する直接投与又は非経口投与を介した全身性投与である。
【0106】
投与に好適な医薬組成物にiRNA剤を組み入れることができる。たとえば、組成物は、1以上のiRNA剤及び薬理上許容可能なキャリアを含むことができる。本明細書で使用するとき、専門用語「薬理上許容可能なキャリア」は、医薬投与に相溶性である任意の及びすべての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌抗真菌剤、等張剤及び吸収遅延剤などを包含することを意図する。薬理的な有効物質へのそのような媒体及び剤の使用は、当該技術で周知である。従来の媒体又は剤が活性化合物と相溶性でない場合を除いて、組成物におけるその使用が企図される。補完的な活性化合物も組成物に組み入れることができる。
【0107】
局所治療又は全身性治療が所望であるかどうか、及び治療されるべき領域によって、本発明の医薬組成物は多数の方法で投与されてもよい。投与は、局所(眼内、鼻内、経皮、肺内を含む)、経口又は非経口であってもよい。非経口投与には、静脈内点滴、皮下注射、腹腔内注射、筋肉内注射又はくも膜下投与又は心室内投与が挙げられる。
【0108】
一般に、本発明のiRNA剤の送達は、感染の部位に対して患者への送達を達成するように行われる。これを達成する好ましい手段は、眼に対する局所投与、又は全身性投与、たとえば、非経口投与のいずれかである。
【0109】
直接的な注射及び非経口投与についての製剤化は当該技術で周知である。そのような製剤化は、緩衝液、希釈剤及びそのほかの好適な添加剤も含んでもよい無菌の水溶液を含んでもよい。静脈内での使用については、製剤を等張にするように溶質の総濃度を制御すべきである。
【0110】
iRNA剤の投与
望ましくないHIF−1αの発現を特徴とする障害であると診断された患者を、本明細書に記載されるiRNA剤の投与によって治療し、HIF−1αの負の効果を遮断することができ、それによって望ましくないHIF−1α遺伝子の発現に関連する症状を緩和する。たとえば、iRNA剤は、眼の疾患、たとえば、血管新生障害に関連する症状を緩和することができる。他の例では、iRNA剤を投与し、結腸癌若しくは乳癌のような腫瘍若しくは転移癌、喘息若しくは気管支炎のような肺疾患、又は関節リウマチ若しくは乾癬のような自己免疫疾患を有する患者を治療することができる。投与経路に適合させた薬理上許容可能なキャリアとの混合物にて全身性に、たとえば、経口的に、又は筋肉注射によって又は静脈内注射によって、抗HIF−1α iRNA剤を投与することができる。iRNA剤は、対象への投与のためのリポソームを含む送達ビヒクル、キャリア及び希釈剤及びそれらの塩を含むことができ、及び/又は薬理上許容可能な製剤に存在することができる。核酸分子の送達方法は、アクターら(Akhtar et al.)、「Trends in Cell Biol.」、第2巻、139ページ(1992年);「Delivery Strategies for Antisense Oligonucleotide Therapeutics」、アクター(Akhtar)編(1995年);モウラーら(Maurer et al.)、「Mol. Membr. Bio.」、第16巻、129ページ(1999年);ホフランドとホアン(Hofland and Huang)、「Handb. Exp. Pharmacol.」、第137巻、165ページ(1999年);リーら(Lee et al.)、「ACS Symp. Ser.」、第752巻、184ページ(2000年)に記載されており、そのすべてを参照によって本明細書に組み入れる。ベイゲルマンら(Beigelman et al.)の米国特許第6,395,713号及びサリバンら(Sullivan et al.)の国際公開第WO94/02595号は、核酸分子の送達に関する一般的方法をさらに記載している。リポソームへの内包、あるいはイオン導入法による、あるいはハイドロゲルやシクロデキストリンのようなほかのビヒクルへの組込みによる(たとえば、ゴンザレスら(Gonzalez et al.)、「Bioconjugate Chem.」、第10巻、1068ページ(1999年)を参照のこと)、あるいは生分解性ナノカプセル、及び生体付着性ミクロスフェア、あるいはタンパク質様ベクター(オヘアとノルマンド(O’Hare and Normand)の国際公開第WO00/53722号)による方法を含むが、これらに制約されない当業者に既知の種々の方法によって核酸分子を細胞に投与することができる。
【0111】
本方法では、iRNA剤は、iRNA剤のままで、送達試薬と併せて、又はiRNA剤を発現する組換えプラスミド若しくはウイルスベクターとしてのいずれかで対象に投与することができる。好ましくは、iRNA剤は、iRNA剤のままで投与される。
【0112】
本発明のiRNA剤は、iRNA剤を望ましくないHIF−1αの発現領域での又はその近傍の、たとえば、血管新生領域での又はその近傍の組織の細胞に送達するのに好適な任意の手段によって患者に送達することができる。たとえば、遺伝子銃、エレクトロポレーションによって、又はそのほかの好適な非経口投与経路によってiRNA剤を投与することができる。
【0113】
好適な腸溶性投与の経路には経口送達が挙げられる。
好適な非経口投与経路には、血管内投与(たとえば、静脈内ボーラス注射、静脈内点滴、動脈内ボーラス注射、動脈内点滴、及び脈管へのカテーテル点滴);組織周囲及び組織内への注射(たとえば、眼内注入、網膜内注入、網膜下注入);皮下注射又は皮下注入を含む沈着(たとえば、浸透圧ポンプによる);血管新生部位での領域若しくはその近傍への直接塗布、たとえば、カテーテル若しくはそのほかの配置装置によって(たとえば、網膜ペレット又は多孔性、非多孔性若しくはゲル状材料を含むインプラント)が挙げられる。iRNA剤の注射又は注入は、血管新生部位で又はその近傍で行われることが好ましい。
【0114】
眼内インプラントを用いて本発明のiRNA剤を送達することができる。そのようなインプラントは、生分解性及び/又は生体適合性のインプラントであることができ、又は非生分解性のインプラントであってもよい。インプラントは活性剤に対して透過性であっても非透過性であってもよく、眼房、たとえば、前眼房又は後眼房に挿入されてもよく、強膜、経脈絡膜空間、又は硝子体外の無血管領域に埋め込まれてもよい。好ましい実施態様では、所望の治療部位、たとえば、眼内空間及び眼の黄斑への薬剤の経強膜拡散が可能であるように、インプラントを強膜上のような無血管領域上に置いてもよい。さらに、経強膜拡散の部位は、好ましくは黄斑の近傍である。
【0115】
本発明のiRNA剤は、たとえば、貼付剤によって、又は眼への直接適用によって、又はイオントフォレーゼによって局所的に投与することができる。当該技術で既知の眼への送達システム、たとえば、アプリケータ又は点眼容器によって、軟膏、スプレー又は滴下可能な液体を送達することができる。眼の表面又は瞼の内側に組成物を直接投与することができる。そのような組成物は、ヒアルロン酸、硫酸コンドロイチン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース若しくはポリ(ビニルアルコール)のようなムコミメティクス、ソルビン酸、EDTA若しくは塩化ベンジルクロムのような防腐剤、及び有用量の希釈剤及び/又はキャリアを含むことができる。
【0116】
本発明のiRNA剤は、たとえば、米国特許第5,672,659号及び米国特許第5,595,760号に記載されたもののような徐放性の組成物で提供されてもよい。即時放出性の組成物又は徐放性の組成物の使用は、治療される症状の性質に依存する。症状が、急性又は過急性の障害からなるのであれば、即時放出型による治療が、長期放出の組成物よりも好ましい。或いは、特定の予防しうる治療又は長期の治療については、徐放性の組成物が適当であってもよい。
【0117】
針又はそのほかの送達用具によってiRNA剤を眼の内部に注入することができる。
本発明のiRNA剤は、単回用量又は複数回用量にて投与することができる。本発明のiRNA剤の投与が点滴による場合、点滴は単回の持続用量であることができ、又は複数回の点滴によって送達することができる。血管新生部位にて又はその近傍にて組織への剤の直接的な注入が好ましい。血管新生部位にて又はその近傍にて組織への剤の複数回注入も好ましい。
【0118】
血管新生疾患の治療では、投与当たり、体重kg当たり約1μg/kg〜100mg/kgの桁での投与量レベルが有用である。眼に直接投与する場合、好ましい投与量の範囲は、片眼当たり約0.00001mg〜約3mg、又は好ましくは片眼当たり約0.0001mg〜0.001mg、片眼当たり約0.03〜3.0mg、片眼当たり約0.1〜3.0mg、片眼当たり約0.3〜3.0mgである。当業者も、所定の対象に本発明のiRNA剤を投与するための適当な投与量計画を容易に決定することができる。たとえば、iRNA剤は、血管新生部位にて又はその近傍にて単回注射又は沈着として1回対象に投与することができる。或いは、iRNA剤は、約3日〜約28日、さらに好ましくは約7日〜約10日の期間、1日1回又は2回対象に投与することができる。好ましい投与量計画では、7日間、1日1回、望ましくないHIF−1αの発現部位(たとえば、血管新生部位の近傍)にて又はその近傍にて注射される。投与量計画が複数回投与を含む場合、対象に投与される有効量のiRNA剤は、投与量計画全体にわたって投与されるiRNA剤の総量を含むことができることが理解される。当業者は、投与される特定のiRNA剤、投与時間、投与経路、製剤の性質、排泄率、治療される特定の障害、障害の重症度、iRNA剤の薬物動態、患者の年齢、性別、体重、及び患者の総体的な健康状態を含む種々の因子に多少依存して正確な個々の投与量が調整されてもよいことを十分に理解するであろう。種々の投与経路で効率が異なることを考慮して必要な投与量レベルでの広い変動が予想されるべきである。たとえば、経口投与は、一般に、静脈内又は硝子体内への注入による投与よりも高い投与量レベルを必要とすると予想される。これらの投与量レベルにおける変動は、当該技術で周知である最適化の標準的な経験的な日常業務を用いて調整することができる。正確な治療上有効な投与量のレベル及びパターンは、好ましくは上記で同定された因子を考慮して主治医によって決定される。
【0119】
前から存在する血管新生疾患を治療することに加えて、本発明のiRNA剤は、これら及び関連する障害の発症を予防する又は遅らせるために予防的に投与することができる。予防的適用では、本発明のiRNA剤は、特定の血管新生障害に感受性の患者又はそのリスクがある患者に投与される。
【0120】
本発明によって特徴づけられたiRNA剤は、好ましくは当該技術で既知の技法に従って、対象に投与する前に医薬組成物として製剤化される。本発明の医薬組成物は、少なくとも無菌で且つ発熱物質を含まないことを特徴とする。本明細書で使用するとき、「医薬製剤」は、ヒト及び家畜での使用のための製剤を含む。本発明の医薬組成物を調製する方法は、当該技術の技量の範囲内であり、たとえば、「Remington’s Pharmaceutical Science」、第18版、マックパブリッシングカンパニー(Mack Publishing Company)、[米国ペンシルベニア州イーストン所在](1990年);「The Science and Practice of Pharmacy」、ジェナーロら(Gennaro et al.)(2003年)に記載されており、参照によってその開示全体を本明細書に組み入れる。
【0121】
本医薬製剤は、生理学的に許容可能なキャリア媒体と混合された本発明のiRNA剤(たとえば、0.1〜90重量%)又は生理学的に許容可能なその塩を含む。好ましい生理学的に許容可能なキャリア媒体は、水、緩衝化された水、正常な生理食塩水、0.4%生理食塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸などである。
【0122】
本発明の医薬組成物はまた、従来の医薬賦形剤及び添加剤、もしくは医薬賦形剤または添加剤も含むことができる。好適な医薬賦形剤には、安定剤、抗酸化剤、浸透圧調整剤、緩衝液、及びpH調整剤が挙げられる。好適な添加剤には、生理学的に生体適合性の緩衝液(たとえば、塩酸トロメタミン)、キレート剤(たとえば、DTPA、又はDTPA−ビサミド)又はカルシウムキレート複合体(たとえば、カルシウムDTPA,CaNaDTPA−ビサミド)の添加、又は任意で、カルシウム塩若しくはナトリウム塩(たとえば、塩化カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム又は乳酸カルシウム)の添加が挙げられる。本発明の医薬組成物は、液体形態で使用するために包装することができ、又は凍結乾燥することができる。
【0123】
固形の組成物については、従来の非毒性の固形キャリア、たとえば、医薬等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルク、セルロース、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウムなどを使用することができる。
【0124】
たとえば、経口投与用の固形の医薬組成物は、上記で列記したキャリア及び賦形剤のいずれか及び10〜95%、好ましくは25〜75%の1以上の本発明のiRNA剤を含むことができる。
【0125】
「薬理上許容可能な製剤」によって、その所望の活性に最も好適である身体位置に本発明の核酸分子の有効な分布を可能にする組成物又は製剤を意味する。本発明の核酸分子との製剤に好適な剤の非限定例には、CNSへの薬剤の侵入を高めることができる(ジョリエット・リアントとティルメント(Jolliet-Riant and Tillement)、「Fundam. Clin. Pharmacol.」、第13巻、16ページ(1999年))P−糖タンパク質阻害剤(たとえば、プルロニック85);生分解性ポリマー、たとえば、徐放性送達のためのポリ(DL−ラクチド−co−グリセリド)ミクロスフェアが挙げられる。本発明の核酸分子の送達戦略の非限定例には、ボアドら(Boado et al.)、「J. Pharm. Sci.」、第87巻、1308ページ(1998年);タイラーら(Tyler et al.)、「FEBS Lett.」、第421巻、280ページ(1999年);パードリッジら(Pardridge et al.)、「PNAS USA」、第92巻、5592ページ(1995年);ボアド(Boado)、「Adv. Drug Delivery Rev.」、第15巻、73ページ(1995年);アルドリアン−ヘラダ(Aldrian-Herrada)ら、「Nucleic Acids Res.」、第26巻、4910ページ、(1998年);タイラーら(Tyler et al.)、「PNASUSA」、第96巻、7053ページ(1999年)に記載された物質が挙げられる。
【0126】
本発明はまた、ポリ(エチレングリコール)脂質(PEG修飾の、又は長期循環リポソーム又はステルスリポソーム)を含有する表面改質リポソームを含む組成物の使用を特徴とする。これらの製剤は、標的組織における薬剤の蓄積を高める方法を提供する。この部類の薬剤キャリアは、単核貪食系(MPS又はRES)によるオプソニン作用及び排除に抵抗し、それによって内包された薬剤にとって、長い血液循環時間及び高い組織暴露を可能にしている(ラシックら(Lasic et al.)、「Chem. Rev.」、第95巻、2601ページ(1995年);イシワタら(Ishiwata et al.)、「Chem. Phare. Bull.」、第43巻、1005ページ(1995年))。
【0127】
そのようなリポソームは、おそらく、血管新生された標的組織における管外遊出及び捕捉によって腫瘍において選択的に蓄積することが示されている(ラシックら(Lasic et al.)、「Science」、第267巻、1275ページ(1995年);オクら(Oku et al.)、「Biochim. Biophys. Acta.」、第1238巻、86ページ(1995年))。長く循環するリポソームは、特に、MPSの組織に蓄積することが知られている従来のカチオン性リポソームに比べて、DNA及びRNAの薬物動態及び薬物力学を高める(リューら(Liu et al.)、「J. Biol. Chem.」、第42巻、24864ページ(1995年);チョイら(Choi et al.)の国際公開第96/10391号;アンセルら(Ansell et al.)の国際公開第96/10390号;ホーランドら(Holland et al.)の国際公開第96/10392号)。長く循環するリポソームはまた、肝臓や脾臓のような代謝的に活発なMPS組織への蓄積を回避するそれらの能力に基づいて、カチオン性リポソームに比べて大きな程度で薬剤をヌクレアーゼ分解から保護する可能性もある。
【0128】
本発明はまた、薬理上許容可能なキャリア又は希釈剤にて薬理上有効な量の所望の化合物を含む、保存又は投与のために調製された組成物も含む。治療用途に許容可能なキャリア又は希釈剤は製薬技術では周知であり、たとえば、参照によって本明細書に組み入れられる「Remington’s Pharmaceutical Science」、マーク・パブリッシング・カンパニー(Mack Publishing Co.)、(A.R.ジェナロ(A. R. Gennaro)編、1985年)に記載されている。たとえば、防腐剤、安定剤、染料及び風味剤を提供することができる。これらには、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸、p−ヒドロキシ安息香酸のエステルが挙げられる。さらに、抗酸化剤及び懸濁剤を使用することができる。
【0129】
本発明の核酸分子を他の治療用化合物と併用して対象に投与し、全体としての治療効果を高めることができる。適応を治療するのに複数の化合物を使用することは有益な効果を高めることができる一方で、副作用の存在を低減する。
【0130】
或いは、本発明の特定のiRNA剤を細胞内にて真核生物のプロモータから発現させることができる(たとえば、イザントとウェイントラウブ(Izant and Weintraub)、「Science」、第229巻、345ページ(1985年);マクガリーとリンドクイスト(McGarry and Lindquist)、「Proc. Natl. Acad. Sci. USA」、第83巻、339ページ(1986年);スカンロンら(Scanlon et al.)、「Proc. Natl. Acad. Sci. USA」、第88巻、10591ページ(1991年);カシャニ・サベットら(Kashani-Sabet et al.)、「Antisense Res. Dev.」、第2巻、3ページ(1992年);ドロプリックら(Dropulic et al.)、「J. Virol.」、第66巻、1432ページ(1992年);ヴェラーシンハーら(Weerasinghe et al.)、「J. Virol.」、第65巻、5531ページ(1991年);オジワンジェットら(Ojwanget et al.)、「Proc. Natl. Acad. Sci. USA」、第89巻、10802ページ(1992年);チェンら(Chen et al.)、「Nucleic Acids Res.」、第20巻、4581ページ(1992年);セーバー(Saver)、「Science」、第247巻、1222ぺージ(1990年);トンプソンら(Thompson et al.)、「Nucleic Acids Res.」、第23巻、2259ページ(1995年);グッドら(Good et al.)、「Gene Therapy」、第4巻、45ページ(1997年))。当業者は、任意の核酸が適当なDNA/RNAベクターから真核細胞にて発現されうることを実感する。酵素性核酸による一次転写物からの放出によってそのような核酸の活性を増強することができる(ドレイパーら(Draper et al.)の国際公開第93/23569号;サリバンら(Sullivan et al.)の国際公開第94/02595号;オーカワら(Ohkawa et al.)、「Nucleic Acids Symp. Ser.」、第27巻、156ページ(1992年);タイラら(Tairaet al.)、「Nucleic Acids Res.」、第19巻、5125ページ(1991年);ベンチュラら(Ventura et al.)、「Nucleic Acids Res.」、第21巻、3249ページ(1993年);チョウリカら(Chowrira et al.)、「J. Biol. Chem.」、第269巻、25856ページ(1994年))。
【0131】
本発明の別の側面では、DNA又はRNAベクターに挿入された転写単位(たとえば、クーチューレら(Couture et al.)、「Trends in Genetics」、第12巻、510ページ(1996年)を参照のこと)から本発明のRNA分子を発現することができる。組換えベクターは、DNAプラスミド又はウイルスベクターであることができる。アデノ関連ウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス又はアルファウイルスに基づくが、これらに限定されずに、iRNA剤を発現するウイルスベクターを構築することができる。別の実施態様では、polIIIに基づく構築物を用いて本発明の核酸分子を発現させる(たとえば、トンプソン(Thompson)の米国特許第5,902,880号及び第6,146,886号を参照のこと)。iRNA剤を発現することが可能である組換えベクターを上述のように送達し、標的細胞でそれが存続することができる。或いは、核酸分子の一過性の発現を提供するウイルスベクターを使用することができる。そのようなベクターは必要に応じて繰り返し投与することができる。いったん発現すると、iRNA剤は標的のmRNAと相互作用し、RNAi反応を生成する。たとえば、静脈内又は筋肉内の投与によって、対象から外植された細胞に投与し、次いで対象に再導入することによって、又は所望の標的細胞への導入を可能にするそのほかの手段(概説については、クーチューレら(Couture et al.)、「Trends in Genetics」、第12巻、510ページ(1996年)を参照のこと)によってiRNA剤を発現するベクターの送達は全身性であることができる。
【0132】
本発明のiRNA剤に関する追加の眼科適応には、増殖性糖尿病性網膜症(糖尿病性網膜症の最も重度の段階)、ブドウ膜炎(黄斑部浮腫に進むことが多い眼の炎症症状)、白内障手術後の類嚢胞黄斑部浮腫、近視性変性(高度近視の患者が脈絡膜血管新生を発生する症状)、炎症性黄斑変性症(感染又はそのほかの原因によって黄斑部に炎症のある患者が脈絡膜血管新生を発生する症状)、及び虹彩の血管新生(虹彩表面での新しい血管の増殖が関与する糖尿病性網膜症又は網膜静脈閉塞の重篤な合併症)が挙げられる。
【0133】
本発明のiRNA剤に関する追加の非眼科適応には、腎臓癌及び結腸癌を含むが、これらに限定されない癌、及び乾癬が挙げられる。固形腫瘍及びその転移は、その生き残りのために新しい血管増殖を頼りにする。
【0134】
用語「治療上有効な量」は、治療される対象において所望のレベルの薬剤を提供し、期待される生理学的反応が得られるのに必要とされる、組成物に存在する量である。
用語「生理学的に有効な量」は、対象に送達されて所望の緩和的又は治癒的な効果を与える量である。
【0135】
用語「薬理上許容可能なキャリア」は、対象に対して有意な有害毒性効果なしでキャリアが対象に取り入れられることを意味する。
用語「同時投与」は、2以上の剤、特に2以上のiRNA剤を投与することを言う。剤は単一の医薬組成物に含有され、同時に投与されうるし、又は剤は別々の製剤に含有され順次対象に投与されうる。2つの剤が対象において同時に検出されうる限り、2つの剤は同時投与されると言われる。
【0136】
キャリアとして有用である医薬用賦形剤の種類には、ヒト血清アルブミン(HSA)のような安定剤、炭水化物、アミノ酸及びポリペプチドのような充填剤、pH調整剤又は緩衝液、塩化ナトリウムのような塩などが挙げられる。これらのキャリアは、結晶性若しくは非晶性の形態であってもよく、又は2つの混合物であってもよい。
【0137】
特に有益である充填剤には、相溶性の炭水化物、ポリペプチド、アミノ酸又はこれらの組み合わせが挙げられる。好適な炭水化物には、ガラクトース、D−マンノース、ソルボースなどのような単糖類、ラクトース、トレハロースなどのような二糖類、2−ヒドロキシプロピル−ベータ−シクロデキストリンのようなシクロデキストリン、及びラフィノース、マルトデキストリン、デキストランなどのような多糖類、マンニトール、キシリトールなどのアルジトール類が挙げられる。
【0138】
炭水化物の好ましい群には、ラクトース、トレハロース、ラフィノース、マルトデキストリン及びマンニトールが挙げられる。好適なポリペプチドにはアスパルテームが挙げられる。アミノ酸にはアラニン、グリシンが挙げられ、グリシンが好ましい。
【0139】
好適なpH調整剤及び緩衝液には、有機酸及び塩基から調製された有機塩、たとえば、クエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウムが挙げられ、クエン酸ナトリウムが好ましい。
【0140】
投与量
体重のkg当たり約75mg未満、又は体重のkg当たり約70、60、50、40、30、20、10、5、2、1、0.5、0.1、0.05、0.01、0.005、0.001若しくは0.0005mg未満の単位用量で、及び体重のkg当たり200nMのiRNA剤(たとえば、約4.4x1016コピー)、又は体重のkg当たり1500、750、300、150、75、15、7.5、1.5、0.75、0.15、0.075、0.015、0.0075、0.0015、0.00075、0.00015nMのiRNA剤で、iRNA剤を投与することができる。単位用量は、たとえば、注射(たとえば、静脈内又は筋肉内、くも膜下又は臓器に直接)、吸入用量又は局所適用によって投与することができる。
【0141】
iRNA剤の臓器への直接的な送達(たとえば、肝臓に直接)は、臓器当たり約0.00001mg〜約3mg、好ましくは、臓器当たり約0.0001〜0.001mg、臓器当たり約0.03〜3.0mg、片眼当たり約0.1〜3.0mg又は臓器当たり約0.3〜3.0mgの桁の投与量であることができる。
【0142】
投与量は、疾患又は障害を治療する又は予防するのに有効な量であることができる。
実施態様の1つでは、単位用量は、1日1回よりも少ない頻度で、たとえば、2、4、8又は30日ごとにより少ない頻度で投与される。別の実施態様では、単位用量は、ある度数では投与されない(たとえば、規則的な頻度ではない)。たとえば、単位用量は1回で投与されてもよい。遺伝子抑制に介在するiRNA剤は、iRNA剤組成物を投与した後数日間存続することができるので、多くの例で、1日1回より少ない頻度で、又は、いくつかの例では、治療計画全体でたった1回の度数で組成物を投与することができる。
【0143】
実施態様の1つでは、対象は、iRNA剤、たとえば、二本鎖iRNA剤、又はsiRNA剤(たとえば、前駆体、たとえば、siRNA剤に処理することができるさらに大きなiRNA剤、又はiRNA剤、たとえば、二本鎖iRNA剤をコードするDNA、又はsiRNA剤、又はその前駆体)の最初の用量、及び1以上の維持用量を投与される。維持用量(単数)又は用量(複数)は、最初の用量よりも一般に少なく、たとえば、最初の用量の半分より少ない。維持用量計画は、1日当たり体重のkg当たり0.01μg〜75mgの範囲内での、たとえば、1日当たり体重のkg当たり70、60、50、40、30、20、10、5、2、1、0.5、0.1、0.05、0.01、0.005、0.001、又は0.0005mgの範囲内である用量(単数)又は用量(複数)で対象を治療することを含むことができる。維持用量は、好ましくは、5、10、又は30日ごとに1回以下で投与される。さらに、治療計画は、患者の特定の疾患の性質、その重症度、及び全体としての症状に依存して変化する期間の間続いてもよい。好ましい実施態様では、投与量は、1日1回以下、たとえば、24、36、48時間以上に1回以下、たとえば、5〜8日ごとに1回以下で送達されてもよい。治療に続いて、状態の変化及び疾患状態の症状の緩和のために患者をモニターすることができる。化合物の投与量は、患者が現在の投与量レベルに有意に応答しない事象で増加させてもよく、又は用量は、疾患の症状の緩和が認められれば、疾患状態が除かれれば、又は望ましくない副作用が認められれば、減らしてもよい。
【0144】
特定の状況下にて適当であると所望されるとき又は適当であると考慮されるとき、有効な用量を単回用量にて又は複数回用量にて投与することができる。繰り返しの又は頻繁な注入を円滑にするよう所望するのであれば、送達用具、たとえば、ポンプ、半永続的なステント(たとえば、静脈内、腹腔内、嚢内、関節包内)又はリザーバが当を得ていてもよい。
【0145】
上手く行った治療に続いて、患者に維持療法を受けさせて疾患状態の再発を防ぐことが望ましくてもよいが、その際、本発明の化合物を体重のkg当たり0.01μg〜100gの範囲内の維持用量で投与する(米国特許第6,107,094号を参照のこと)。
【0146】
iRNA剤組成物の濃度は、ヒトにおいて障害を治療する又は防ぐ、又は生理的状態を調節するのに有効である十分な量である。投与されるiRNA剤の濃度又は量は、剤について決定されるパラメータ及び投与の方法、たとえば、眼への直接投与に依存するであろう。たとえば、眼用の製剤は、眼の組織の刺激及び灼熱を回避するために一部の成分のはるかに低い濃度を必要とする傾向がある。好適な眼科製剤を提供するために、経口製剤を10〜100倍まで希釈することが望ましいこともある。
【0147】
疾患又は障害の重症度、以前の治療、対象の身体全体の健康状態及び/又は年齢、並びに存在するそのほかの疾患を含むが、これらに限定されない特定の因子が、対象を効果的に治療するのに必要とされる投与量に影響を与えてもよい。治療に使用されるsiRNA剤のようなiRNA剤の有効な投与量は、特定の治療の経過にわたって増減してもよい。投与量における変化が生じ、治療的アッセイの結果から明らかになってもよい。たとえば、iRNA剤組成物を投与した後対象をモニターすることができる。モニタリングからの情報に基づいて、追加量のiRNA剤組成物を投与することができる。
【0148】
投薬は、数日〜数ヵ月続く治療の経過と共に、又は治癒が達成されるまで、若しくは疾患状態の低減が達成されるまで、治療される疾患症状の重症度及び応答性に依存する。最適な投薬スケジュールは、患者の体内における薬剤蓄積の測定から計算することができる。当業者は、最適な投与量、投薬方法及び反復率を容易に決定することができる。最適な投与量は、個々の化合物の相対的な効能に依存して変化してもよく、一般に、試験管内及び生体内の動物モデルで有効であることが見い出されるEC50に基づいて推定される。
【0149】
以下の実施例によって本発明をさらに説明するが、それはさらなる限定として解釈されるべきではない。
実施例1 HIF−1α mRNAに対する抗HIF−1α siRNAの設計
既知の手順を用いてHIF−1α mRNAに対するsiRNAを化学的に合成した。
siRNAの配列、一部の阻害及びIC50値が列記されている(表1、2、3及び4、及び図2を参照のこと)。4つの異なった群のsiRNAを合成し、調べた。表1に列記される第1の群は、ホスホロチオエート修飾を含む若干の例外を除いて修飾されなかった。表2、3及び4に列記される第2、第3及び第4の群はそれぞれ、ホスホロチオエート修飾、2’O−メチル修飾及び2’−フルオロ修飾を含んだ。オリゴヌクレオチド鎖における修飾は、上記で詳説したように適当な修飾されたモノマーホスホルアミダイトを用いて達成された。
【0150】
【表1】

【0151】
【表2】

【0152】
【表3】

【0153】
【表4】

実施例2 試験官内でのスクリーニングプロトコールにおけるHIF−1α siRNA
37℃にて、10%ウシ胎児血清(FBS)、100単位/mLのペニシリン及び100μg/mLのストレプトマイシンを補完したダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)にてHeLa細胞を増殖させた。siRNAを形質移入する24時間前、抗生剤をふくまないDMEM中10,000個/ウエルの濃度で細胞を96穴プレートに播いた。次いで、オリゴフェクタミン(インビトロゲン)を用いて0.3nMの濃度にてHIF−1αを標的とするsiRNAで細胞に形質移入した。24時間後、bDNAアッセイ(ジェノスペクトラ)を用いて細胞溶解物にてHIF−1α mRNAのレベルを測定した。GAPDHmRNAのレベルを用いてHIF−1α mRNAのレベルを標準化した。HIF−1αを標的とする各siRNAが介在する遺伝子抑制は、無関係な対照siRNAと比較して表された。データを表5に示す(図3)。
【0154】
最後に、以上の記載から把握できる技術的思想について以下に記載する。
[付記1]
対象の細胞におけるHIF−1αタンパク質又はHIF−1α mRNAのレベルを低下させる方法であって、前記対象にiRNA剤を投与する工程を含み、前記iRNA剤は、哺乳類のHIF−1α遺伝子に相補的な少なくとも15以上の隣接したヌクレオチドを有するセンス鎖及び前記センス鎖に相補的な少なくとも15以上の隣接したヌクレオチドを有するアンチセンス鎖を含む、方法。
【0155】
[付記2]
前記剤は、表1の剤の中の1つから選択される15以上のヌクレオチドを含む、付記1の方法。
【0156】
[付記3]
前記iRNA剤は対象の眼内に投与される、付記1の方法。
[付記4]
センス配列とアンチセンス配列とを含み、前記センス配列と前記アンチセンス配列はRNA二本鎖を形成し、前記アンチセンス配列は、HIF−1αヌクレオチド配列のうちの約19〜23のヌクレオチドの標的配列に十分に相補的であるヌクレオチド配列を含み、前記標的配列は、表1において提示されているものからなる群から選択される配列とは1、2又は3以下のヌクレオチドで異なっている、単離したiRNA剤。
【0157】
[付記5]
前記センス配列は、表1で提供されるものからなる群から選択される配列とは1、2、又は3以下のヌクレオチドで異なる配列を含む、付記4のiRNA剤。
【0158】
[付記6]
iRNA剤は非ヌクレオチド部分をさらに含む、付記4のiRNA剤。
[付記7]
前記センス配列及び前記アンチセンス配列はヌクレオチド分解に対して安定化されている、付記4のiRNA剤。
【0159】
[付記8]
3’−オーバーハングをさらに含み、前記3’−オーバーハングは1〜6のヌクレオチドを含む、付記4のiRNA剤。
【0160】
[付記9]
第2の3’−オーバーハングをさらに含み、前記第2の3’−オーバーハングは1〜6のヌクレオチドを含む、付記8のiRNA剤。
【0161】
[付記10]
前記アンチセンス配列及び前記センス配列の5’末端の第1のヌクレオチド間結合にホスホロチオエートをさらに含む、付記4のiRNA剤。
【0162】
[付記11]
前記アンチセンス配列及び前記センス配列の3’末端の第1のヌクレオチド間結合にホスホロチオエートをさらに含む、付記4のiRNA剤。
【0163】
[付記12]
前記アンチセンス配列及び前記センス配列の5’末端の第1のヌクレオチド間結合にホスホロチオエートをさらに含み、かつ、前記アンチセンス配列及び前記センス配列の3’末端の第1のヌクレオチド間結合にホスホロチオエートをさらに含む、付記4のiRNA剤。
【0164】
[付記13]
2’−修飾ヌクレオチドをさらに含む、付記4のiRNA剤。
[付記14]
前記2’−修飾ヌクレオチドは、2’−デオキシ、2’−デオキシ−2’−フルオロ、2’−O−メチル、2’−O−メトキシエチル(2’−O−MOE)、2’−O−アミノプロピル(2’−O−AP)、2’−O−ジメチルアミノエチル(2’−O−DMAOE)、2’−O−ジメチルアミノプロピル(2’−O−DMAP)、2’−O−ジメチルアミノエチルオキシエチル(2’−O−DMAEOE)、及び2’−O−N−メチルアセトアミド(2’−O−NMA)からなる群から選択される修飾を含む、付記13のiRNA剤。
【0165】
[付記15]
対象の細胞におけるHIF−1α RNAの量を低下させる方法であって、付記4〜14のいずれかのiRNA剤に細胞を接触させることを含む方法。
【0166】
[付記16]
付記4〜14のいずれかのiRNA剤を作製する方法であって、その方法はiRNA剤の合成を含み、センス鎖及びアンチセンス鎖は、ヌクレオチド分解に対してiRNA剤を安定化する少なくとも1つの修飾を含む、方法。
【0167】
[付記17]
付記4〜14のいずれかのiRNA剤及び薬理上許容可能なキャリアを含む医薬組成物。
【0168】
[付記18]
HIF−1αの発現を阻害する方法であって、有効量の付記4のiRNA剤を投与することを含む方法。
【0169】
[付記19]
加齢性黄斑変性症(AMD)を有する又はそのリスクを有すると診断されたヒトを治療する方法であって、そのような治療を必要とする対象に対して、治療上有効量の付記4のiRNA剤を投与することを含む方法。
【0170】
[付記20]
前記ヒトは遅発性AMDを有する又はそのリスクを有すると診断されている、付記19の方法。
【0171】
[付記21]
前記ヒトは中期発症性AMDを有する又はそのリスクを有すると診断されている、付記19の方法。
【0172】
[付記22]
前記ヒトは早発性AMDを有する又はそのリスクを有すると診断されている、付記19の方法。
【0173】
[付記23]
前記ヒトは50歳を超えており、かつ、成人発症性AMDを有する又はそのリスクを有すると診断されている、付記19の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センス配列とアンチセンス配列とを含み、前記センス配列と前記アンチセンス配列はRNA二本鎖を形成し、前記アンチセンス配列は、HIF−1αヌクレオチド配列のうちの約19〜23のヌクレオチドの標的配列に十分に相補的であるヌクレオチド配列を含み、前記標的配列は、表1において提示されているものからなる群から選択される配列とは1、2又は3以下のヌクレオチドで異なっている、単離したiRNA剤。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図3D】
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【図3E】
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【図3F】
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【公開番号】特開2012−136553(P2012−136553A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−69502(P2012−69502)
【出願日】平成24年3月26日(2012.3.26)
【分割の表示】特願2008−518518(P2008−518518)の分割
【原出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(505369158)アルナイラム ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (51)
【氏名又は名称原語表記】ALNYLAM PHARMACEUTICALS, INC.
【Fターム(参考)】