説明

HIG2およびURLC10エピトープペプチドならびにそれを含むワクチン

本発明は、HLA−A抗原がHLA−A0206である対象におけるがんの治療および/または予防のために製剤化される、SEQ ID NO: 1もしくは2のアミノ酸配列を有する1つもしくは複数のペプチド、または当該ペプチドをコードする1つもしくは複数のポリヌクレオチドを含む薬学的な剤または組成物を提供する。さらに本発明は、当該ペプチド、ポリヌクレオチド、または薬剤を用いてCTLおよび抗原提示細胞を誘導する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本出願は、2008年8月19日に出願された米国仮特許出願第61/089,972号の恩典を主張し、その内容の全体は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本発明は、生物科学の分野、より具体的にはがん治療の分野に関連する。特に本発明は、がんワクチンとして極めて有効な新規ペプチド、ならびに腫瘍を治療および予防するための薬物に関連する。
【背景技術】
【0003】
CD8陽性CTLは、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)クラスI分子上に見出される腫瘍関連抗原(TAA)由来のエピトープペプチドを認識し、その後、腫瘍細胞を殺傷することが実証されている。TAAの最初の例としてメラノーマ抗原(MAGE)ファミリーが発見されて以来、他の多くのTAAが、主に免疫学的アプローチによって発見されている(Boon T, Int J Cancer 1993 May 8, 54(2): 177-80(非特許文献1);Boon T & van der Bruggen P, J Exp Med 1996 Mar 1, 183(3): 725-9(非特許文献2))。TAAのいくつかは、現在、免疫療法の標的として臨床開発の過程にある。
【0004】
強力かつ特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導し得る新規TAAの同定により、様々な種類のがんに対するペプチドワクチン接種戦略のさらなる発展および臨床的適用が保証される(Harris CC, J Natl Cancer Inst 1996 Oct 16, 88(20): 1442-55(非特許文献3);Butterfield LH et al., Cancer Res 1999 Jul 1, 59(13): 3134-42(非特許文献4);Vissers JL et al., Cancer Res 1999 Nov 1, 59(21): 5554-9(非特許文献5);van der Burg SH et al., J Immunol 1996 May 1, 156(9): 3308-14(非特許文献6);Tanaka F et al., Cancer Res 1997 Oct 15, 57(20): 4465-8(非特許文献7);Fujie T et al., Int J Cancer 1999 Jan 18, 80(2): 169-72(非特許文献8);Kikuchi M et al., Int J Cancer 1999 May 5, 81(3): 459-66(非特許文献9);Oiso M et al., Int J Cancer 1999 May 5, 81(3): 387-94(非特許文献10))。これまでに、これらの腫瘍関連抗原由来ペプチドを用いた臨床試験がいくつか報告されている。残念ながらこれまでのところ、これらのがんワクチン試験では低い客観的奏功率しか観察されていない(Belli F et al., J Clin Oncol 2002 Oct 15, 20(20): 4169-80(非特許文献11);Coulie PG et al., Immunol Rev 2002 Oct, 188: 33-42(非特許文献12);Rosenberg SA et al., Nat Med 2004 Sep, 10(9): 909-15(非特許文献13))。
【0005】
世界中には、いくつかのHLA−A型が存在する。公知のHLA遺伝子型のうち、HLA−A0201、HLA−A0206、HLA−A1101、HLA−A2402、HLA−A2601、HLA−A3101、およびHLA−A3303という遺伝子型は、他の型よりも高頻度に発現することが公知である(Lee K W, et al., Tissue Antigens 2005: 65: 437-447(非特許文献14))。しかしながら、各遺伝子型は異なるアミノ酸配列、およびエピトープペプチドに対する異なる親和性を有する(Journal of Immunological Methods, (1995), Vol.185, pp.181-190(非特許文献15))。例えば、HLA−A0206遺伝子型のα1ドメインのアミノ酸残基は、HLA−A0201遺伝子型のものとは異なる(すなわち、SEQ ID NO: 8の33番目のアミノ酸のチロシン残基が、フェニルアラニンで置換されている)。これらの相違を考慮すると、HLA−A0201拘束性エピトープペプチドが、HLA−A0206遺伝子型を有する患者に有用である可能性は低い。したがって、様々な型の患者に有用であるペプチドが、依然として当技術分野における目標である。
【0006】
マイクロアレイ解析により、HIG2(低酸素誘導遺伝子2)およびURLC10(LY6K;リンパ球抗原6複合体、遺伝子座Kとも称される)は、腎癌および肺癌などのいくつかのがん組織において上方制御されることが確認されている(WO2005/019475(特許文献1)、WO2004/031413(特許文献2))。したがって、HIG2およびURLC10はがん免疫療法の興味深い標的であり、それらに由来するCTL誘導性エピトープペプチドが当業者によって探索される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Boon T, Int J Cancer 1993 May 8, 54(2): 177-80
【非特許文献2】Boon T & van der Bruggen P, J Exp Med 1996 Mar 1, 183(3): 725-9
【非特許文献3】Harris CC, J Natl Cancer Inst 1996 Oct 16, 88(20): 1442-55
【非特許文献4】Butterfield LH et al., Cancer Res 1999 Jul 1, 59(13): 3134-42
【非特許文献5】Vissers JL et al., Cancer Res 1999 Nov 1, 59(21): 5554-9
【非特許文献6】van der Burg SH et al., J Immunol 1996 May 1, 156(9): 3308-14
【非特許文献7】Tanaka F et al., Cancer Res 1997 Oct 15, 57(20): 4465-8
【非特許文献8】Fujie T et al., Int J Cancer 1999 Jan 18, 80(2): 169-72
【非特許文献9】Kikuchi M et al., Int J Cancer 1999 May 5, 81(3): 459-66
【非特許文献10】Oiso M et al., Int J Cancer 1999 May 5, 81(3): 387-94
【非特許文献11】Belli F et al., J Clin Oncol 2002 Oct 15, 20(20): 4169-80
【非特許文献12】Coulie PG et al., Immunol Rev 2002 Oct, 188: 33-42
【非特許文献13】Rosenberg SA et al., Nat Med 2004 Sep, 10(9): 909-15
【非特許文献14】Lee K W, et al., Tissue Antigens 2005: 65: 437-447
【非特許文献15】Journal of Immunological Methods, (1995), Vol.185, pp.181-190
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】WO2005/019475
【特許文献2】WO2004/031413
【発明の概要】
【0009】
本発明は、SEQ ID NO: 1またはSEQ ID NO: 2に示されるアミノ酸配列を有する2つのペプチドの新規適用の発見に一部基づいている。本発明との関連において、健常ドナーから得られた末梢血単核細胞(PBMC)を、HIG2またはURLC10由来の候補ペプチドで刺激した。各候補ペプチドでパルスされたHLA−A0206陽性標的細胞を特異的に認識するCTLが樹立され、標的細胞の表面上に提示されたHIG2またはURLC10に対して強力かつ特異的な免疫応答を誘導し得るHLA−A0206拘束性エピトープペプチドが同定された。
【0010】
したがって、CTL誘導能、ならびにSEQ ID NO: 1または2のアミノ酸配列を有するペプチドを提供することが、本発明の目的である。加えて、本発明は、得られた改変ペプチドが元のペプチドのCTL誘導能を保持する限り、1つ、2つ、またはそれ以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加されている改変ペプチドの使用も意図する。
【0011】
HLA抗原がHLA−A0206である対象に投与した場合、本発明のペプチドは抗原提示細胞の表面上に提示され、その後各ペプチドを標的とするCTLを誘導する。したがって、HLA−A0206抗原と共に本発明のペプチドのいずれかを提示する抗原提示細胞およびエキソソーム、ならびに抗原提示細胞を誘導する方法を提供することは、本発明の目的である。
【0012】
本発明のHIG2もしくはURLC10ポリペプチドまたは該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ならびにHIG2またはURLC10ポリペプチドを提示するエキソソームおよび抗原提示細胞の投与によって、抗腫瘍免疫応答が誘導される。したがって、HLA抗原がHLA−A0206である対象に投与するために意図される有効成分として、該ポリペプチドまたはそれらをコードするポリヌクレオチド、ならびに該エキソソームおよび抗原提示細胞を含む薬剤を提供することは、本発明のさらに別の目的である。本発明の薬剤はワクチンとして使用される。
【0013】
さらに、対象がHLA−A0206抗原を有する場合に、SEQ ID NO: 1もしくはSEQ ID NO: 2のペプチド、SEQ ID NO: 1もしくはSEQ ID NO: 2を提示するエキソソームもしくは抗原提示細胞、または本発明の薬剤を投与する段階を含む、がん(腫瘍)の治療および/もしくは予防(prophylaxis)(すなわち、prevention)、ならびに/またはその術後再発の予防のための方法、ならびにCTLを誘導する方法、がん(腫瘍)に対する免疫応答および抗腫瘍免疫もまた誘導する方法を提供することは、本発明のさらなる目的である。加えて、本発明のCTLもまた、がんに対するワクチンとして使用される。標的がんの例には、腎癌、膀胱癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、食道癌、胃癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、および軟部組織腫瘍が含まれるが、これらに限定されない。
【0014】
本発明の前述の概要および以下の詳細な説明はいずれも例示的な態様のものであり、本発明または本発明のその他の代替的な態様を限定するものではないことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本発明の様々な局面および適用は、以下の図面の簡単な説明ならびに発明の詳細な説明およびその好ましい態様を考慮することで、当業者に明白となるであろう。
【図1】図1は、HIG2由来のペプチドで誘導したCTLにおけるIFN−γ ELISPOTアッセイの結果を示す一連の写真を含む。HIG2−A0206−9−4(SEQ ID NO: 1)で刺激したウェル#1、#2、#5、#7、#8、#10、#13、および#14中のCTLは、対照と比較して強力なIFN−γ産生を示した。図中、「+」は標的細胞に適切なペプチドをパルスしたことを示し、「−」は標的細胞にいずれのペプチドもパルスしていないことを示す。
【図2】図2は、IFN−γ ELISAアッセイによる、HIG2−A0206−9−4(SEQ ID NO: 1)で刺激したCTL株の樹立の結果を示す一連の折れ線グラフを示す。これにより、HIG2−A0206−9−4(SEQ ID NO: 1)による刺激によって樹立されたCTL株が、対照と比較して強力なIFN−γ産生を示したことが実証された。図中、「+」は標的細胞に適切なペプチドをパルスしたことを示し、「−」は標的細胞にいずれのペプチドもパルスしていないことを示す。
【図3】図3は、IFN−γ ELISAアッセイによる、HIG2−A0206−9−4(SEQ ID NO: 1)で刺激したCTLクローンの樹立の結果を示す折れ線グラフを示す。結果から、HIG2−A0206−9−4(SEQ ID NO: 1)による刺激によって樹立されたCTLクローンが、対照と比較して強力なIFN−γ産生を示したことが実証される。図中、「+」は標的細胞に適切なペプチドをパルスしたことを示し、「−」は標的細胞にいずれのペプチドもパルスしていないことを示す。
【図4】図4は、HIG2およびHLA−A0206を発現する標的細胞に対する特異的CTL活性を示す折れ線グラフを示す。HLA−A0206のみをトランスフェクトし、HIG2由来の不適切なペプチドをパルスするか、またはHIG2のみをトランスフェクトしたCOS7細胞を対照として調製した。HIG2−A0206−9−4(SEQ ID NO: 1)を用いて樹立されたCTLクローンは、HIG2およびHLA−A0206の両方をトランスフェクトしたCOS7細胞に対して高い特異的CTL活性を示した(黒菱形印)。一方、HLA−A0206(白三角印)またはHIG2(白丸)のいずれかを発現する標的細胞に対しては、有意な特異的CTL活性は検出されなかった。
【図5】図5は、URLC10由来のペプチドで誘導したCTLにおけるIFN−γ ELISPOTアッセイの結果を示す一連の写真を含む。URLC10−A0206−10−211(SEQ ID NO: 2)で刺激したウェル#7中のCTLは、対照と比較して強力なIFN−γ産生を示した。図中、「+」は標的細胞に適切なペプチドをパルスしたことを示し、「−」は標的細胞にいずれのペプチドもパルスしていないことを示す。
【図6】図6は、IFN−γ ELISAアッセイによる、URLC10−A0206−10−211(SEQ ID NO: 2)で刺激したCTL株の樹立の結果を示す折れ線グラフを示す。結果から、URLC10−A0206−10−211(SEQ ID NO: 2)による刺激によって樹立されたCTL株が、対照と比較して強力なIFN−γ産生を示したことが実証される。図中、「+」は標的細胞に適切なペプチドをパルスしたことを示し、「−」は標的細胞にいずれのペプチドもパルスしていないことを示す。
【図7】図7は、IFN−γ ELISAアッセイによる、URLC10−A0206−10−211(SEQ ID NO: 2)で刺激したCTLクローンの樹立の結果を示す折れ線グラフを示す。結果から、URLC10−A0206−10−211(SEQ ID NO: 2)による刺激によって樹立されたCTLクローンが、対照と比較して強力なIFN−γ産生を示したことが実証される。図中、「+」は標的細胞に適切なペプチドをパルスしたことを示し、「−」は標的細胞にいずれのペプチドもパルスしていないことを示す。
【図8】図8は、URLC10およびHLA−A0206を発現する標的細胞に対する特異的CTL活性を示す折れ線グラフを示す。URLC10遺伝子の全長のみ、またはHLA−A0206遺伝子のみをトランスフェクトしたCOS7細胞を対照として調製した。URLC10−A0206−10−211(SEQ ID NO: 2)を用いて樹立されたCTLクローンは、HIG2およびHLA−A0206の両方をトランスフェクトしたCOS7細胞に対して高い特異的CTL活性を示した(黒菱形印)。一方、HLA−A0206(白三角印)またはURLC10(白丸)のいずれかを発現する標的細胞に対しては、有意な特異的CTL活性は検出されなかった。図中、「R」は応答体を意味し、「S」は刺激体を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
態様の説明
本発明の態様を実施または試験するにあたって、本明細書に記載の方法および材料と類似のまたは同等な任意の方法および材料を用いることができるが、好ましい方法、装置、および材料をここに記載する。しかしながら、本材料および方法について記載する前に、本明細書に記載の特定の大きさ、形状、寸法、材料、方法論、プロトコール等は慣行的な実験法および最適化に従って変更可能であるため、本発明がこれらに限定されないことが理解されるべきである。本記載に使用する専門用語は特定の型または態様のみを説明する目的のためのものであり、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される本発明の範囲を限定することは意図されないことも、同様に理解されるべきである。
【0017】
本明細書において言及される各出版物、特許、または特許出願の開示は、その全体が参照により本明細書に明確に組み入れられる。しかしながら、本明細書中のいかなるものも、本発明が先の発明によるそのような開示に先行する権利を与えられないことを承認するものとしては解釈されるべきではない。
【0018】
矛盾する場合には、定義を含め、本明細書が優先される。加えて、材料、方法、および実施例は単に例示であり、限定することを意図しない。
【0019】
I.定義
本明細書で用いる「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という単語は、特に他に具体的に指示がない限り「少なくとも1つ」を意味する。
【0020】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、本明細書で互換的に用いられ、アミノ酸残基のポリマーを指す。本用語は、1個または複数個のアミノ酸残基が修飾された残基であるか、または対応する天然アミノ酸の人工的な化学的模倣体などの非天然残基であるアミノ酸ポリマーと、天然アミノ酸ポリマーとに適用される。
【0021】
本明細書で用いる「アミノ酸」という用語は、天然アミノ酸および合成アミノ酸、ならびに天然アミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体を指す。天然アミノ酸とは、遺伝暗号によってコードされるアミノ酸、および細胞内で翻訳後に修飾されたアミノ酸(例えば、ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸、およびO−ホスホセリン)である。「アミノ酸類似体」という語句は、天然アミノ酸と同じ基本化学構造(水素、カルボキシ基、アミノ基、およびR基に結合したα炭素)を有するが、修飾されたR基または修飾された骨格を有する化合物(例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニン、スルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム)を指す。「アミノ酸模倣体」という語句は、一般的なアミノ酸とは異なる構造を有するが、同様の機能を有する化合物を指す。
【0022】
アミノ酸は、本明細書において、IUPAC−IUB生化学命名法委員会(Biochemical Nomenclature Commission)の推奨する、一般に公知の3文字表記または1文字表記により参照されてもよい。
【0023】
「遺伝子」、「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、および「核酸」という用語は、本明細書において互換的に用いられ、他に特記しない限り、これらは、一般に受け入れられている1文字コードにより参照されるアミノ酸と同様である。
【0024】
特記しない限り、「がん」という用語は、HIG2またはURLC10遺伝子を過剰発現しているがんを指す。HIG2を過剰発現しているがんの例には、腎癌および軟部組織癌が含まれるが、これらに限定されず;URLC10遺伝子を過剰発現しているがんの例には、膀胱癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、食道癌、胃癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、骨肉腫、膵癌、および軟部組織腫瘍が含まれるが、これらに限定されない。
【0025】
特記しない限り、「細胞傷害性Tリンパ球」、「細胞傷害性T細胞」、および「CTL」という用語は本明細書において互換的に用いられ、特に別段の定めのない限り、非自己細胞(例えば、腫瘍細胞、ウイルス感染細胞)を認識し、そのような細胞の死滅を誘導することができるTリンパ球のサブグループを指す。
【0026】
特記しない限り、本明細書で使用する技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の当業者が通常理解している意味と同じ意味を有する。
【0027】
II. ペプチド
HIG2−A0206−9−4(SEQ ID NO: 1)およびURLC10−A0206−10−211(SEQ ID NO: 2)のペプチドが、細胞傷害性Tリンパ球(CTL)によって認識される抗原として機能することを実証するために、これらのペプチドを解析して、それらがHLA−A0206によって拘束される抗原エピトープであるかどうかを判定した。これらのペプチドを負荷した樹状細胞(DC)によってT細胞をインビトロで刺激した後、HIG2−A0206−9−4(SEQ ID NO: 1)およびURLC10−A0206−10−211(SEQ ID NO: 2)のペプチドのそれぞれを用いてCTLの樹立に成功した。
【0028】
樹立されたこれらのCTLは、各ペプチドをパルスした、HLA−A0206抗原を発現する標的細胞に対して強力な特異的CTL活性を示す。本明細書におけるこれらの結果から、該ペプチドがHLA−A0206によって拘束されるHIG2およびURLC10のエピトープペプチドである可能性があることが実証される。これらのペプチドは、HLA−A0201によって拘束されるHIG2またはURLC10のエピトープペプチドでもあり得るため(WO2008/102557、PCT/JP2008/000290、参照により本明細書に組み入れられる)、該ペプチドを含む薬学的な剤または組成物は、HLA−A0201陽性対象およびHLA−A0206陽性対象の両方に適用できる可能性がある。
【0029】
HIG2またはURLC10遺伝子は、膀胱癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、食道癌、胃癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、腎癌、および軟部組織腫瘍などの大部分のがん組織で過剰発現するため、これは免疫療法のための優れた標的である。詳細には、HIG2を過剰発現しているがんの例には、腎癌および軟部組織腫瘍が含まれる。また、URLC10を過剰発現しているがんの例には、膀胱癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、食道癌、胃癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、および軟部組織腫瘍が含まれる。したがって本発明は、HLA−A0206によって拘束されるHIG2またはURLC10のエピトープペプチドに相当する、ノナペプチド(アミノ酸残基9個からなるペプチド)およびデカペプチド(アミノ酸残基10個からなるペプチド)を提供する。本発明のノナペプチドおよびデカペプチドの特に好ましい例には、SEQ ID NO: 1および2の中より選択されるアミノ酸配列を有するペプチドが含まれる。より詳細には、HLA−A0206によって拘束されるHIG2のエピトープペプチドの例には、SEQ ID NO: 1のアミノ酸配列を含むペプチドが含まれ、HLA−A0206によって拘束されるURLC10のエピトープペプチドの例には、SEQ ID NO: 2のアミノ酸配列を含むペプチドが含まれる。
【0030】
一般的に、あるタンパク質中の1個、2個、またはそれ以上のアミノ酸の改変は、該タンパク質の機能に影響を及ぼさず、または、場合によっては元のタンパク質の所望の機能を増強することさえある。実際に、改変ペプチド(すなわち、元の参照配列と比較して、1個、2個、および/または数個のアミノ酸残基が改変された(すなわち、置換、欠失、付加、および/または挿入された)アミノ酸配列から構成されるペプチド)は、元のペプチドの生物活性を保持することが知られている(Mark et al., Proc Natl Acad Sci USA 1984, 81: 5662-6;Zoller and Smith, Nucleic Acids Res 1982, 10: 6487-500;Dalbadie-McFarland et al., Proc Natl Acad Sci USA 1982, 79: 6409-13)。従って、1つの態様において、本発明のペプチドは、CTL誘導能、ならびに1個、2個、またはさらにそれ以上のアミノ酸が付加、挿入、欠失、および/または置換されている、SEQ ID NO:1または2のアミノ酸配列の双方を有してよい。
【0031】
当業者は、単一のアミノ酸またはわずかな割合のアミノ酸を変更する、アミノ酸配列に対する個々の付加または置換が、元のアミノ酸側鎖の特性の保存をもたらす傾向があることを認識する。従って、それらは通常「保存的置換」または「保存的改変」と称され、この場合、タンパク質の変化により元のタンパク質と類似の特性および機能を有する改変タンパク質が生じる。機能的に類似しているアミノ酸を提示する保存的置換の表は、当技術分野において周知である。保存するのが望ましいアミノ酸側鎖の特性の例には、例えば、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、ならびに以下の官能基または特徴を共通して有する側鎖が含まれる:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);ヒドロキシル基含有側鎖(S、T、Y);硫黄原子含有側鎖(C、M);カルボン酸およびアミド含有側鎖(D、N、E、Q);塩基含有側鎖(R、K、H);ならびに芳香族含有側鎖(H、F、Y、W)。加えて、以下の8群はそれぞれ、相互に保存的置換であるとして当技術分野で認められるアミノ酸を含む:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、スレオニン(T);および
8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins 1984を参照されたい)。
【0032】
このような保存的改変ペプチドもまた、本発明のペプチドと見なされる。しかしながら、本発明のペプチドはこれらに限定されず、ペプチドが元のペプチドのCTL誘導能を保持する限り、非保存的な改変を含み得る。さらに、改変ペプチドは、HIG2またはURLC10の多型バリアント、種間相同体、および対立遺伝子のCTL誘導可能なペプチドを排除しない。
【0033】
免疫療法との関連で用いられた場合、本発明のペプチドは、好ましくはHLA−A0206抗原との複合体として、細胞またはエキソソームの表面上に提示されるべきである。従って、CTLを誘導するばかりでなく、HLA−A0206抗原に対する高い結合親和性を有するペプチドを選択することが好ましい。そのために、アミノ酸残基の置換、挿入、欠失、および/または付加によってペプチドを改変して、結合親和性が改善された改変ペプチドを得ることができる。天然に提示されるペプチドに加えて、HLA抗原への結合によって提示されるペプチドの配列の規則性は既知であるため(J Immunol 1994, 152: 3913;Immunogenetics 1995, 41: 178;J Immunol 1994, 155: 4307)、そのような規則性に基づいた改変を本発明の免疫原性ペプチドに導入することができる。末端のアミノ酸においてだけでなく、ペプチドの潜在的なTCR認識の部位においても、置換を導入することができる。いくつかの研究は、例えばCAP1、p53(264−272)、Her−2/neu(369−377)、またはgp100(209−217)など、ペプチド中のアミノ酸置換が元のものと同等であるかまたはより優れたものであり得ることを実証している(Zaremba et al. Cancer Res. 57, 4570-4577, 1997、T. K. Hoffmann et al. J Immunol. (2002) Feb 1;168(3):1338-47.、S. O. Dionne et al. Cancer Immunol immunother. (2003) 52: 199-206、およびS. O. Dionne et al. Cancer Immunology, Immunotherapy (2004) 53, 307-314)。
【0034】
本発明はまた、本ペプチドのN末端および/またはC末端へ1個〜2個のアミノ酸を付加し得ることを意図する。高いHLA抗原結合親和性を有し、かつCTL誘導能を保持するそのような改変ペプチドもまた、本発明に包含される。
【0035】
しかしながら、ペプチド配列が、異なる機能を有する内因性または外因性のタンパク質のアミノ酸配列の一部と同一である場合、自己免疫障害および/または特定の物質に対するアレルギー症状などの副作用が誘発される可能性がある。従って、ペプチドの配列が別のタンパク質のアミノ酸配列と一致する状況を回避するために、第一に、利用可能なデータベースを用いて相同性検索を行うことが好ましい。相同性検索から、対象ペプチドと比較して1個または2個のアミノ酸が異なるペプチドさえも存在しないことが明らかになった場合には、前記副作用のいかなる危険も伴わずに、HLA抗原とのその結合親和性を増大させるため、および/またはそのCTL誘導能を増大させるために、該対象ペプチドを改変することができる。
【0036】
上記のように改変されたペプチドは非常に効果的であると予測されるが、より効果的なペプチドを選択するために、候補ペプチドを、CTL誘導能の存在について試験する。本明細書において「CTL誘導能」という語句は、抗原提示細胞上に提示された場合に、細胞傷害性リンパ球(CTL)を誘導するペプチドの能力を示す。さらに、「CTL誘導能」は、CTL活性化を誘導する、CTL増殖を誘導する、CTLによる標的細胞の溶解を促進する、およびCTLのIFN−γ産生を増加させる、ペプチドの能力を含む。
【0037】
CTL誘導能の確認は、ヒトMHC抗原を保有する抗原提示細胞(例えば、Bリンパ球、マクロファージ、および樹状細胞(DC))、または、より具体的にはヒト末梢血単核白血球由来のDCを誘導し、ペプチドで刺激した後にCD8陽性細胞と混合し、その後、標的細胞に対してCTLによって産生および放出されたIFN−γを測定することにより達成される。反応系として、ヒトHLA−A0206抗原を発現するように作製されたトランスジェニック動物(BenMohamed L, Krishnan R, Longmate J, Auge C, Low L, Primus J, Diamond DJ, Hum Immunol 2000 Aug, 61(8): 764-79)を用いることができる。例えば、HLA抗原がHLA−A0206であるような標的細胞を51Cr等で放射標識することが可能であり、標的細胞から放出された放射能から細胞傷害活性を算出することができる。あるいは、固定化したペプチドを保有する抗原提示細胞(APC)の存在下で、CTLによって産生かつ放出されたIFN−γを測定し、抗IFN−γモノクローナル抗体を用いて培地上の阻害領域を可視化することによって、CTL誘導能を評価することができる。
【0038】
上記の改変に加えて、本発明のペプチドは、結果として生じる連結ペプチドが元のペプチドの必要なCTL誘導能を保持する限り、他の物質に連結させることもできる。適切な物質の例には、限定するわけではないが、ペプチド、脂質、糖および糖鎖、アセチル基、天然および合成のポリマー等が含まれる。前記ペプチドは、修飾によって元のペプチドの生物活性が損なわれない限り、例えば、糖鎖付加、側鎖酸化、またはリン酸化などの修飾を含み得る。このような種類の修飾を行って、付加的な機能(例えば、標的化機能および送達機能)を付与すること、またはポリペプチドを安定化することができる。
【0039】
例えば、ポリペプチドのインビボ安定性を高めるために、D−アミノ酸、アミノ酸模倣体、または非天然アミノ酸を導入することが当技術分野において公知であり、この概念を本ペプチドに適合させることもできる。ポリペプチドの安定性は、いくつかの方法でアッセイすることができる。例えば、ペプチダーゼ、ならびにヒトの血漿および血清などの様々な生物学的媒質を用いて、安定性を試験することができる(例えば、Verhoef et al., Eur J Drug Metab Pharmacokin 1986, 11: 291-302を参照されたい)。
【0040】
さらに、本発明のペプチドを、スペーサーまたはリンカーを介して他のペプチドに連結させてもよい。他のペプチドの例には、他のTAAに由来するCTL誘導性ペプチドが含まれるが、これに限定されない。あるいは、本発明の2つまたはそれ以上のペプチドを、スペーサーまたはリンカーを介して連結させてもよい。スペーサーまたはリンカーを介して連結させるペプチドは、互いに同じであっても異なってもよい。スペーサーまたはリンカーは具体的に限定されないが、好ましくはペプチド、より好ましくは、ペプチダーゼ、プロテアーゼ、およびプロテアソームなどの酵素によって切断され得る1つまたは複数の切断部位を有するペプチドである。リンカーまたはスペーサーの例には、AAY(P. M. Daftarian et al., J Trans Med 2007, 5:26)、AAA、NKRK(R. P. M. Sutmuller et al., J Immunol. 2000, 165: 7308-7315)、または1個〜数個のリジン残基(S. Ota et al., Can Res. 62, 1471-1476、K. S. Kawamura et al., J Immunol. 2002, 168: 5709-5715)が含まれるが、これらに限定されない。本発明のペプチドは、スペーサーまたはリンカーを介して他のペプチドに連結されたペプチドも包含する。
【0041】
本発明のペプチドは、MHC分子と組み合わされた複合体として、ヒトMHC抗原を保有する細胞(例えば、抗原提示細胞)またはエキソソームの表面上に存在してもよく、従ってCTLを誘導する。該細胞および該エキソソームは当技術分野で周知の方法によって調製することができ、例えば、本発明のペプチドと接触させることによって該細胞を調製することができ、また、本発明のペプチドと接触させた細胞からエキソソーム含有画分を回収することによって該エキソソームを調製することができる(例えば、公表特許公報 特表平11−510507号およびWO99/03499を参照されたい)。本発明のペプチドは、MHC分子と組み合わされた複合体として細胞またはエキソソームの表面上に存在するペプチドを包含する。
【0042】
本明細書において、本発明のペプチドは「HIG2もしくはURLC10ペプチド」または「HIG2もしくはURLC10ポリペプチド」と記載することもできる。
【0043】
III.ペプチドの調製
周知の技法を用いて、本発明のペプチドを調製することができる。例えば、組換えDNA技術または化学合成を用いて、ペプチドを合成的に調製することができる。本発明のペプチドは、個々に、または2つもしくはそれ以上のペプチドから構成されるより長いポリペプチドとして、合成することができる。その後ペプチドを単離すること、すなわち他の天然の宿主細胞タンパク質およびそれらの断片、または他の任意の化学物質を実質的に含まないように、精製または単離することができる。
【0044】
選択されたアミノ酸配列に基づいた化学合成によって、本発明のペプチドを得ることができる。該合成に適合させることのできる従来のペプチド合成法の例には、以下のものが含まれるが、これらに限定されない。
(i)Peptide Synthesis, Interscience, New York, 1966;
(ii)The Proteins, Vol. 2, Academic Press, New York, 1976;
(iii)Peptide Synthesis (日本語), Maruzen Co., 1975;
(iv)Basics and Experiment of Peptide Synthesis (日本語), Maruzen Co., 1985;
(v)Development of Pharmaceuticals (second volume) (日本語), Vol. 14 (peptide synthesis), Hirokawa, 1991;
(vi)WO99/67288;および
(vii)Barany G. & Merrifield R.B., Peptides Vol. 2, 「Solid Phase Peptide Synthesis」, Academic Press, New York, 1980, 100-118。
【0045】
あるいは、ペプチドを作製するための任意の公知の遺伝子工学的方法(例えば、Morrison J, J Bacteriology 1977, 132: 349-51;Clark-Curtiss & Curtiss, Methods in Enzymology (eds. Wu et al.) 1983, 101: 347-62)を適合させて、本発明のペプチドを得ることができる。例えば、最初に、発現可能な形態で(例えば、プロモーター配列に相当する調節配列の下流に)目的のペプチドをコードするポリヌクレオチドを有する適切なベクターを調製し、適切な宿主細胞に入れて形質転換する。次いで、該宿主細胞を培養して、関心対象のペプチドを産生させる。インビトロ翻訳系を用いて、ペプチドをインビトロで作製することもできる。
【0046】
IV.ポリヌクレオチド
本発明はまた、前述の本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。これらは、天然のHIG2もしくはURLC10遺伝子(SEQ ID NO:3または5、GenBankアクセッション番号NM_013332またはNM_017527)由来のポリヌクレオチド、およびその保存的に改変されたヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを含む。本明細書において「保存的に改変されたヌクレオチド配列」という語句は、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする配列を指す。遺伝暗号の縮重のため、数多くの機能的に同一な核酸が任意の特定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸のアラニンをコードする。従って、あるコドンによってアラニンが指定されるあらゆる位置において、コードされるポリペプチドを変化させることなく、該コドンを記載された対応するコドンのいずれかに変更することができる。このような核酸の変異は「サイレント変異」であり、保存的に改変された変異の一種である。ペプチドをコードする本明細書中のあらゆる核酸配列は、該核酸の可能性のあるあらゆるサイレント変異をも表す。核酸中の各コドン(通常メチオニンに対する唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンに対する唯一のコドンであるTGGを除く)を改変して、機能的に同一な分子を得ることができることを、当業者は認識するであろう。従って、ペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、公開した各配列において非明示的に記載されている。
【0047】
本発明のポリヌクレオチドは、DNA、RNA、およびそれらの誘導体から構成され得る。DNAはA、T、C、およびGなどの塩基から適切に構成され、RNAではTはUに置き換えられる。
【0048】
本発明のポリヌクレオチドは、介在するアミノ酸配列を間に伴って、または伴わずに、本発明の複数のペプチドをコードし得る。例えば、介在するアミノ酸配列は、ポリヌクレオチドまたは翻訳されたペプチドの切断部位(例えば、酵素認識配列)を提供し得る。さらに、ポリヌクレオチドは、本発明のペプチドをコードするコード配列に対する任意の付加的配列を含み得る。例えば、ポリヌクレオチドは、ペプチドの発現に必要な調節配列を含む組換えポリヌクレオチドであってよく、またはマーカー遺伝子等を有する発現ベクター(プラスミド)であってもよい。一般に、例えばポリメラーゼおよびエンドヌクレアーゼを用いる従来の組換え技法によりポリヌクレオチドを操作することによって、そのような組換えポリヌクレオチドを調製することができる。
【0049】
組換え技法および化学合成技法の両方を用いて、本発明のポリヌクレオチドを作製することができる。例えば、適切なベクター内に挿入することによってポリヌクレオチドを作製することができ、これはコンピテント細胞にトランスフェクトした場合に発現され得る。あるいは、PCR技法または適切な宿主内での発現を用いて、ポリヌクレオチドを増幅することができる(例えば、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, 1989を参照されたい)。あるいは、Beaucage SL & Iyer RP, Tetrahedron 1992, 48: 2223-311;Matthes et al., EMBO J 1984, 3: 801-5に記載されているような固相技法を用いて、ポリヌクレオチドを合成することができる。
【0050】
本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、および該ベクターを有する宿主細胞もまた本発明に含まれる。
【0051】
V. エキソソーム
本発明は、本発明のペプチドとHLA抗原との間で形成された複合体を自身の表面上に提示する、エキソソームと称される細胞内小胞をさらに提供する。エキソソームは、例えば公表特許公報 特表平11−510507号およびWO99/03499に詳述されている方法を用いることによって調製することができ、治療および/または予防の対象となる患者から得られたAPCを用いて調製することができる。本発明のエキソソームは、本発明のペプチドと同様の様式で、ワクチンとして接種することができる。
【0052】
本発明との関連において、複合体中に含まれるHLA抗原の型はHLA−A0206であるべきであり、エキソソームを接種すべき対象はHLA−A0206抗原を有さなければならない。典型的には、臨床では、治療を必要とする患者のHLA抗原の型があらかじめ調べられ、これにより、本発明のエキソソームを用いた治療に関して利益が予想される患者の適切な選択が可能となる。
【0053】
VI.抗原提示細胞(APC)
本発明はまた、HLA―A0206抗原と本発明のペプチドとの間に形成される複合体を自身の表面上に提示する単離されたAPCを提供する。本発明のペプチドを接触させることによって、または本発明のペプチドをコードするヌクレオチドを発現可能な形態で導入することによって得られるAPCは、治療および/または予防の対象となる患者に由来してよく、かつ、単独で、または本発明のペプチド、エキソソーム、もしくは細胞傷害性T細胞を含む他の薬物と組み合わせて、ワクチンとして投与することができる。
【0054】
前記APCは、特定の種類の細胞に限定されず、リンパ球によって認識されるように自身の細胞表面上にタンパク質性抗原を提示することが知られている樹状細胞(DC)、ランゲルハンス細胞、マクロファージ、B細胞、および活性化T細胞を含む。DCは、APCの中で最も強力なCTL誘導作用を有する代表的なAPCであるため、本発明の好ましいAPCはDCである。
【0055】
例えば、末梢血単球からDCを誘導し、次にそれらをインビトロ、エクスビボ、またはインビボで本発明のペプチドと接触させる(で刺激する)ことによってAPCを得ることができる。本発明のペプチドを、HLA−A抗原がHLA−A0206である対象に投与した場合、本発明のペプチドを提示するAPCが該対象の体内で誘導される。「APCを誘導する」という語句は、細胞を本発明のペプチドまたは本発明のペプチドをコードするヌクレオチドと接触させて(で刺激して)、HLA―A0206抗原と本発明のペプチドとの間に形成される複合体を細胞表面上に提示させることを含む。あるいは、APCが本発明のペプチドを提示できるように該ペプチドをAPCに導入した後、APCをワクチンとして対象に投与することができる。例えば、エクスビボ投与は、以下の段階を含み得る:
a:HLA−A抗原がHLA−A0206である第1の対象からAPCを回収する段階;
b:段階aのAPCとペプチドを接触させる段階;および
c:前記ペプチドを負荷したAPCを、HLA−A抗原がHLA−A0206である第2の対象に投与する段階。
【0056】
第1の対象と第2の対象は同一の個体であってよく、または異なる個体であってもよい。あるいは、本発明に従って、抗原提示細胞を誘導する薬学的組成物を製造するための本発明のペプチドの使用を提供する。加えて、本発明は、抗原提示細胞を誘導する薬学的組成物を製造するための方法または工程を提供し、ここで、該方法は、薬学的に許容される担体と共に本発明のペプチドを混合または製剤化する工程を含む。さらに、本発明はまた、抗原提示細胞を誘導するための本発明のペプチドを提供する。段階bによって得られたAPCを、ワクチンとして対象に投与することができる。
【0057】
本発明の1つの局面によると、APCは高レベルのCTL誘導能を有する。「高レベルのCTL誘導能」という用語において、高レベルとは、ペプチドと接触させていないAPC、またはCTLを誘導することができないペプチドと接触させたAPCによるCTL誘導能のレベルと比較したものである。高レベルのCTL誘導能を有するそのようなAPCは、本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む遺伝子をインビトロでAPCに導入する段階を含む方法によって、調製することができる。導入する遺伝子は、DNAまたはRNAの形態であってよい。導入のための方法の例には、特に限定されることなく、当分野において従来より実施される様々な方法が含まれ、例えばリポフェクション、エレクトロポレーション、およびリン酸カルシウム法などを用いることができる。より具体的には、Cancer Res 1996, 56: 5672-7;J Immunol 1998, 161: 5607-13;J Exp Med 1996, 184: 465-72;公表特許公報第2000−509281号に記載されているように、それを実施することができる。遺伝子をAPCに導入することによって、遺伝子は細胞内で転写、翻訳等を受け、次いで、得られたタンパク質はMHCクラスIまたはクラスIIによって処理されて、提示経路を経てペプチドが提示される。
【0058】
VII.細胞傷害性T細胞(CTL)
本発明のペプチドのいずれかに対して誘導された細胞傷害性T細胞は、インビボで腫瘍関連内皮を標的とする免疫応答を増強させるため、ペプチド自体と同様の様式でワクチンとして用いることができる。従って本発明はまた、本ペプチドのいずれかよって特異的に誘導または活性化された、単離された細胞傷害性T細胞を提供する。
【0059】
そのような細胞傷害性T細胞は、(1)本発明のペプチドを対象に投与し、次いで対象から細胞傷害性T細胞を回収すること、または(2)対象由来のAPCおよびCD8陽性細胞、もしくは末梢血単核白血球をインビトロで本発明のペプチドと接触させる(で刺激する)こと、で得ることができる。
【0060】
本発明のペプチドを提示するAPCからの刺激によって誘導された細胞傷害性T細胞は、治療および/または予防の対象となりHLA−A0206抗原をもつ患者に由来してよく、かつ、単独で投与すること、または効果を調節する目的で本発明のペプチドもしくはエキソソームを含む他の薬物と組み合わせて投与することができる。得られた細胞傷害性T細胞は、本発明のペプチド、または例えば誘導に用いた同一のペプチドを提示する標的細胞に対して特異的に作用する。言い換えれば、細胞傷害性T細胞は、T細胞受容体により、標的細胞の表面上でHLA−A0206抗原と本発明のペプチドとの間に形成された複合体を認識(すなわち、これに結合)し、次いで該標的細胞を攻撃して標的細胞の死を誘導することができる。標的細胞は、HIG2もしくはURLC10を内因的に発現する細胞、またはHIG2もしくはURLC10遺伝子をトランスフェクトされた細胞であってよく、かつ、本発明のペプチドによる刺激によって該ペプチドを細胞表面上に提示する細胞もまた、活性化されたCTLの攻撃の標的となり得る。
【0061】
VIII.T細胞受容体(TCR)
本発明はまた、T細胞受容体(TCR)のサブユニットを形成し得るポリペプチドをコードする核酸配列から構成されるポリヌクレオチド、およびそれを用いる方法を提供する。TCRサブユニットは、HLA−A0206抗原を伴ってHIG2ペプチドまたはURLC10ペプチドを提示する腫瘍細胞に対する特異性をT細胞に付与するTCRを形成する能力を有する。当技術分野における公知の方法を用いることによって、本発明のペプチドで誘導されたCTLにおいて発現されるTCRのα鎖およびβ鎖の核酸配列を同定することができる(WO2007/032255、およびMorgan et al., J Immunol, 171, 3288 (2003))。TCR誘導体は、標的細胞上に提示されるHIG2またはURLC10ペプチドと高い結合力で結合することができ、かつ任意で、HLA−A0206抗原を伴ってHIG2またはURLC10ペプチドを提示する標的細胞の効率的な殺傷をインビボおよびインビトロで媒介することができる。
【0062】
TCRサブユニットをコードする核酸配列を、適切なベクター、例えばレトロウイルスベクターに組み込むことができる。これらのベクターは、当技術分野において周知である。該核酸またはそれらを有用に含むベクターを、T細胞、例えばHLA−A抗原がHLA−A0206である患者由来のT細胞に導入することができる。有利には、本発明は、患者自身のT細胞(または別の哺乳動物のT細胞)の迅速な改変により、優れたがん細胞殺傷特性を有する改変T細胞を迅速かつ容易に作製することを可能にする、既製の組成物を提供する。
【0063】
また本発明は、HIG2またはURLC10ペプチドと、HLA−A0206抗原との間で形成される複合体に結合する、TCRサブユニットポリペプチドをコードする核酸配列を有するポリヌクレオチドを形質導入することによって調製されるCTLを提供する。形質導入されたCTLは、インビボでがん細胞にホーミングすることができ、かつ周知の培養法によってインビトロで増殖させることができる(例えば、Kawakami et al., J Immunol., 142, 3452-3461 (1989))。本発明のT細胞は、治療または予防を必要としている患者におけるがんの治療または予防に有用な免疫原性組成物を形成するために使用することができる(WO2006/031221)。
【0064】
IX.薬学的な剤または組成物
「予防(preventionおよびprophylaxis)」という用語は、本明細書で互換的に用いられ、疾患による死亡率または罹患率の負荷を軽減させる任意の行為を指す。予防(preventionおよびprophylaxis)は、「第一次、第二次、および第三次の予防レベルで」行われ得る。第一次の予防(preventionおよびprophylaxis)は、疾患の発生を回避するのに対し、第二次および第三次レベルの予防(preventionおよびprophylaxis)は、疾患の進行および症状の出現を予防(preventionおよびprophylaxis)することに加え、機能を回復させ、かつ疾患関連の合併症を減少させることによって、既存の疾患の悪影響を低下させることを目的とした行為を包含する。あるいは、予防(preventionおよびprophylaxis)は、特定の障害の重症度を軽減すること、例えば腫瘍の増殖および転移を減少させることを目的とした広範囲の予防的治療を含み得る。
【0065】
がんの治療および/もしくは予防、ならびに/または術後のその再発の予防は、以下の段階、例えばがん細胞の外科的除去、がん性細胞の成長の阻害、腫瘍の退行または退縮、寛解の誘導およびがんの発生の抑制、腫瘍の退縮、ならびに転移の低減または阻害などの段階のいずれかを含む。がんの効果的な治療および/または予防は、死亡率を減少させ、がんを有する個体の予後を改善し、血中の腫瘍マーカーのレベルを低下させ、かつがんに伴う検出可能な症状を軽減する。例えば、症状の軽減または改善は効果的な治療を構成し、および/または予防は10%、20%、30%、もしくはそれ以上の軽減または安定した疾患を含む。
【0066】
HIG2またはURLC10の発現は、正常組織と比較していくつかのがんにおいて上方制御されるため、本発明のペプチドまたはそのようなペプチドをコードするポリヌクレオチドを、がんの治療および/もしくは予防のために、ならびに/または術後のその再発の予防に用いることができる。従って本発明は、本発明のペプチドの1種もしくは複数種、または該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを有効成分として含む、がんの治療および/もしくは予防のための、ならびに/または術後のその再発の予防のための薬学的な剤または組成物を提供する。あるいは、薬学的な剤または組成物として用いるために、本発明のペプチドを、前述のエキソソームまたはAPCなどの細胞のいずれかの表面上に発現させることができる。加えて、本発明のペプチドのいずれかを標的とする前述の細胞傷害性T細胞もまた、本薬学的な剤または組成物の有効成分として用いることができる。本発明との関連において、「ペプチドの標的化」という語句は、T細胞受容体により、標的細胞の表面上でHLA―A0206抗原とペプチドとの間に形成された複合体を認識(すなわち、これに結合)し、次いで該標的細胞を攻撃して標的細胞の死を誘導することを意味する。
【0067】
別の態様において、本発明はまた、がんまたは腫瘍を治療するための薬学的な組成物または剤の製造における、以下の中より選択される有効成分の使用を提供する:
(a)本発明のペプチド、
(b)本明細書に開示する当該ペプチドを発現可能な形態でコードする核酸、
(c)本発明のAPC、および
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0068】
あるいは、本発明はさらに、がんの治療において用いるための、以下の中より選択される有効成分を提供する:
(a)本発明のペプチド、
(b)本明細書に開示する当該ペプチドを発現可能な形態でコードする核酸、
(c)本発明のAPC、および
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0069】
あるいは、本発明はさらに、がんを治療するための薬学的な組成物または剤を製造するための方法または工程であって、有効成分として以下の中より選択される有効成分と共に、薬学的にまたは生理学的に許容される担体を製剤化する段階を含む、方法または工程を提供する:
(a)本発明のペプチド、
(b)本明細書に開示する当該ペプチドを発現可能な形態でコードする核酸、
(c)本発明のAPC、および
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0070】
別の態様において、本発明はまた、がんを治療するための薬学的な組成物または剤を製造するための方法または工程であって、以下の中より選択される有効成分を薬学的にまたは生理学的に許容される担体と混合する段階を含む、方法または工程を提供する:
(a)本発明のペプチド、
(b)本明細書に開示する当該ペプチドを発現可能な形態でコードする核酸、
(c)本発明のAPC、および
(d)本発明の細胞傷害性T細胞。
【0071】
あるいは、本発明の薬学的な組成物または剤は、がんの予防および術後のその再発の予防のいずれかまたは双方に用いることができる。
【0072】
本発明の薬学的な剤または組成物は、ワクチンとして使用される。本発明の文脈において、「ワクチン」(「免疫原性組成物」とも称される)という語句は、動物に接種した際に、抗腫瘍免疫を誘導する機能を有する物質を指す。
【0073】
本発明の薬学的な剤または組成物は、ヒト、ならびに非限定的にマウス、ラット、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、サル、ヒヒ、およびチンパンジー、特に商業的に重要な動物または家畜を含む任意の他の哺乳動物を含む対象または患者において、がんを治療および/もしくは予防するため、ならびに/または術後のその再発を予防するために用いることができる。
【0074】
本発明により、SEQ ID NO: 1および2の中より選択されるアミノ酸配列を有するポリペプチドが、HIG2またはURLC10、およびHLA−A0206を発現している標的細胞に対して強力かつ特異的な免疫応答を誘導し得るHLA−A0206拘束性エピトープペプチドであることが判明した。したがって、SEQ ID NO: 1および2の中より選択されるアミノ酸配列を有するこれらのポリペプチドのいずれかを含む本発明の薬学的な剤または組成物は、HLA抗原がHLA−A0206である対象に投与するのに特に適している。同じことが、これらのポリペプチドのいずれかをコードするポリヌクレオチドを含む薬学的な剤または組成物にも当てはまる。
【0075】
本発明の薬学的な剤または組成物によって治療されるがんは限定されず、これには、例えば膀胱癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、食道癌、胃癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、腎癌、および軟部組織腫瘍を含む、HIG2またはURLC10が関与するすべての種類のがんが含まれる。詳細には、HIG2を標的とする薬学的な剤または組成物は、好ましくは腎癌および軟部組織腫瘍に適用可能であり、URLC10を標的とする薬学的な剤または組成物は、好ましくは膀胱癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、食道癌、胃癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、および軟部組織腫瘍に適用可能である。
【0076】
本薬学的な剤または組成物は、前述の有効成分に加えて、がん性細胞に対するCTLを誘導する能力を有するその他のペプチド、該その他のペプチドをコードするその他のポリヌクレオチド、該その他のペプチドを提示するその他の細胞等を含み得る。本明細書において、がん性細胞に対するCTLを誘導する能力を有するその他のペプチドは、がん特異的抗原(例えば、同定されたTAA)によって例証されるが、これに限定されない。
【0077】
必要に応じて、本発明の薬学的な剤または組成物は、例えば本発明のペプチドのいずれかといった有効成分の抗腫瘍効果をその他の治療物質が阻害しない限り、有効成分として該治療物質を任意に含み得る。例えば、製剤は、抗炎症剤または組成物、鎮痛剤、化学療法剤等を含み得る。医薬自体に他の治療物質を含めることに加えて、本発明の医薬を、1つまたは複数の他の薬理学的な剤または組成物と連続してまたは同時に投与することもできる。医薬および薬理学的な剤または組成物の量は、例えば、使用される薬理学的な剤または組成物の種類、治療する疾患、ならびに投与のスケジュールおよび投与経路に依存する。
【0078】
本明細書において特に言及される成分に加えて、本発明の薬学的な剤または組成物は、問題の製剤の種類を考慮して、当技術分野において慣例的な他の剤または組成物も含み得ることが理解されるべきである。
【0079】
本発明の1つの態様において、本薬学的な剤または組成物を、例えばがんのような治療されるべき疾患の病態を治療するのに有用な材料を含む製品およびキットに含めることができる。該製品は、ラベルを有する本薬学的な剤または組成物のいずれかの容器を含み得る。適切な容器には、ボトル、バイアル、および試験管が含まれる。該容器は、ガラスまたはプラスチックなどの様々な材料から形成され得る。容器上のラベルには、剤または組成物が、疾患の1つまたは複数の状態の治療または予防のために用いられることが示されるべきである。ラベルはまた、投与等に関する指示も示し得る。
【0080】
上記の容器に加えて、本発明の薬学的な剤または組成物を含むキットは、任意で、薬学的に許容される希釈剤を収容した第2の容器をさらに含み得る。それは、使用のための指示書と共に、他の緩衝液、希釈剤、フィルター、注射針、シリンジ、および添付文書を含む、商業上および使用者の立場から見て望ましい他の材料をさらに含み得る。
【0081】
必要に応じて、有効成分を含む1つまたは複数の単位剤形を含み得るパックまたはディスペンサー装置にて、薬学的な組成物を提供することができる。該パックは、例えば、ブリスターパックのように金属またはプラスチックホイルを含み得る。パックまたはディスペンサー装置には、投与に関する指示書が添付され得る。
【0082】
(1)有効成分としてペプチドを含む薬学的な剤または組成物
本発明のペプチドは、薬学的な剤もしくは組成物として直接投与することができ、または必要であれば、従来の製剤方法によって製剤化される。後者の場合、本発明のペプチドに加えて、薬物に通常用いられる担体、賦形剤等が特に制限なく適宜含まれ得る。そのような担体の例は、滅菌水、生理食塩水、リン酸緩衝液、培養液等である。さらに、薬学的な剤または組成物は、必要に応じて、安定剤、懸濁液、保存剤、界面活性剤等を含み得る。本発明の薬学的な剤または組成物は、抗がん目的に用いることができる。
【0083】
インビボでCTLを誘導するために、本発明のペプチドを、本発明のペプチドの2種またはそれ以上から構成される組み合わせとして調製することができる。ペプチドの組み合わせはカクテルの形態をとってよく、または標準的な技法を用いて互いにコンジュゲートしてもよい。例えば、該ペプチドを化学的に結合させても、または単一の融合ポリペプチド配列として発現させてもよい。組み合わせにおけるペプチドは、同一であっても異なっていてもよい。本発明のペプチドを投与することによって、該ペプチドはHLA−A0206抗原によってAPC上に高密度で提示され、次いで、提示されたペプチドと該HLA−A0206抗原との間に形成された複合体に対して特異的に反応するCTLが誘導される。あるいは、HLA−A抗原がHLA−A0206である対象由来のAPC(例えば、DC)を本発明のペプチドで刺激することによって得られ得る、本発明のペプチドのいずれかをその細胞表面上に提示するAPCを対象に投与してもよく、結果として、対象においてCTLが誘導され、膀胱癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、食道癌、胃癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、腎癌、および軟部組織腫瘍などのがん細胞に対する攻撃性を増大させることができる。
【0084】
有効成分として本発明のペプチドを含む、がんの治療および/または予防のための薬学的な剤または組成物は、効率的に細胞性免疫を確立させることが知られているアジュバントもまた含み得る。あるいは、これらは、他の有効成分と共に投与することができ、顆粒内への製剤化によって投与することもできる。アジュバントとは、免疫学的活性を有するタンパク質と共に(または連続して)投与した場合に、該タンパク質に対する免疫応答を増強させる化合物を指す。本明細書において意図されるアジュバントには、文献(Clin Microbiol Rev 1994, 7: 277-89)に記載されているものが含まれる。適切なアジュバントの例には、これに限定されないが、リン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ミョウバン、コレラ毒素、サルモネラ毒素等が含まれるが、これらに限定されない。
【0085】
さらに、リポソーム製剤、直径数マイクロメートルのビーズにペプチドが結合している顆粒製剤、およびペプチドに脂質が結合している製剤を好都合に用いてもよい。
【0086】
いくつかの態様において、本発明の薬学的な剤または組成物は、CTLを刺激する(prime)成分をさらに含み得る。脂質は、ウイルス抗原に対してインビボでCTLを刺激し得る剤または組成物として同定された。例えば、パルミチン酸残基をリジン残基のεアミノ基およびαアミノ基に付着させ、次に本発明のペプチドに連結させることができる。次いで、脂質付加したペプチドを、ミセルもしくは粒子の状態で直接投与すること、リポソーム中に取り込ませること、またはアジュバント中に乳化させることができる。CTL応答の脂質による刺激の別の例として、適切なペプチドに共有結合している場合、トリパルミトイル−S−グリセリルシステイニルセリル−セリン(P3CSS)などの大腸菌(E.coli)リポタンパク質を用いてCTLを刺激することができる(例えば、Deres et al., Nature 1989, 342: 561-4を参照されたい)。
【0087】
投与方法は、経口、皮内、皮下、静脈内注射等、および全身投与または標的部位の近傍への局所投与であってよい。投与は、単回投与によって行うこともできるし、または複数回投与によって強化することもできる。本発明のペプチドの用量を、治療する疾患、患者の年齢、体重、投与方法等に従って適切に調節することができ、これは通常0.001 mg〜1000 mg、例えば0.001 mg〜1000 mg、例えば0.1 mg〜10 mgであり、数日から数ヶ月に1度投与することができる。当業者は、適切な用量を適切に選択することができる。
【0088】
(2)有効成分としてポリヌクレオチドを含む薬学的な剤または組成物
本発明の薬学的な剤または組成物はまた、本明細書に開示するペプチドをコードする核酸を発現可能な形態で含み得る。本明細書において、「発現可能な形態で」という語句は、ポリヌクレオチドが、細胞内に導入された場合に、抗腫瘍免疫を誘導するポリペプチドとしてインビボで発現され得ることを意味する。例示的な態様において、関心対象のポリヌクレオチドの核酸配列は、該ポリヌクレオチドの発現に必要な調節エレメントを含む。ポリヌクレオチドには、標的細胞のゲノム中への安定的な組み込みが達成されるように、必要なものを備えさせることができる(相同組換えカセットベクターの説明に関しては、例えばThomas KR & Capecchi MR, Cell 1987, 51: 503-12を参照されたい)。例えば、Wolff et al., Science 1990, 247: 1465-8;米国特許第5,580,859号;第5,589,466号;第5,804,566号;第5,739,118号;第5,736,524号;第5,679,647号;およびWO 98/04720を参照されたい。DNAに基づく送達技術の例には、「裸のDNA」、促進された(ブピバカイン、ポリマー、ペプチド媒介性)送達、カチオン性脂質複合体、および粒子媒介性(「遺伝子銃」)または圧力媒介性の送達が含まれる(例えば、米国特許第5,922,687号を参照されたい)。
【0089】
ウイルスベクターまたは細菌ベクターによって、本発明のペプチドを発現させることもできる。発現ベクターの例には、ワクシニアウイルスまたは鶏痘ウイルスなどの弱毒化ウイルス宿主が含まれる。このアプローチは、例えば、ペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現させるためのベクターとして、ワクシニアウイルスの使用を伴う。宿主内に導入すると、組換えワクシニアウイルスは免疫原性ペプチドを発現し、それによって免疫応答を誘発する。免疫化プロトコールに有用なワクシニアベクターおよび方法は、例えば米国特許第4,722,848号に記載されている。別のベクターの例はBCG(カルメット・ゲラン桿菌)である。BCGベクターは、Stover et al., Nature 1991, 351: 456-60に記載されている。治療的投与または免疫化に有用である多種多様な他のベクター、例えばアデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、チフス菌(Salmonella typhi)ベクター、無毒化炭疽毒素ベクター等が明らかであろう。例えば、Shata et al., Mol Med Today 2000, 6: 66-71;Shedlock et al., J Leukoc Biol 2000, 68: 793-806;Hipp et al., In Vivo 2000, 14: 571-85を参照されたい。
【0090】
ポリヌクレオチドの対象内への送達は、直接的であってもよいし(この場合、ポリヌクレオチドを保有するベクターに対象を直接曝露する)、または間接的であってもよい(この場合、まずインビトロで細胞を関心対象のポリヌクレオチドで形質転換し、次いで該細胞を対象内に移植する)。これら2つのアプローチはそれぞれ、インビボおよびエクスビボの遺伝子治療として公知である。
【0091】
遺伝子治療の方法の一般的な総説に関しては、Goldspiel et al., Clinical Pharmacy 1993, 12: 488-505;Wu and Wu, Biotherapy 1991, 3: 87-95;Tolstoshev, Ann Rev Pharmacol Toxicol 1993, 33: 573-96;Mulligan, Science 1993, 260: 926-32;Morgan & Anderson, Ann Rev Biochem 1993, 62: 191-217;Trends in Biotechnology 1993, 11(5): 155-215を参照されたい。本発明にも用いることのできる、組換えDNA技術の分野において一般に公知の方法は、eds. Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, NY, 1993;およびKrieger, Gene Transfer and Expression, A Laboratory Manual, Stockton Press, NY, 1990に記載されている。
【0092】
投与方法は、経口、皮内、皮下、静脈内注射等であってよく、全身投与または標的部位の近傍への局所投与が用いられる。投与は、単回投与によって行うこともできるし、または複数回投与によって強化することもできる。適切な担体中のポリヌクレオチドの用量、または本発明のペプチドをコードするポリヌクレオチドで形質転換した細胞の用量を、治療する疾患、患者の年齢、体重、投与方法等に従って適切に調節することができ、これは通常0.001 mg〜1000 mg、例えば0.001 mg〜1000 mg、例えば0.1 mg〜10 mgであり、数日に1度〜数ヶ月に1度投与することができる。当業者は、適切な用量を適切に選択することができる。
【0093】
X.ペプチド、エキソソーム、APC、およびCTLを用いる方法
APCおよびCTLを誘導するために、本発明のペプチドおよびそのようなペプチドをコードするポリヌクレオチドを用いることができる。CTLを誘導するために、本発明のエキソソームおよびAPCを用いることもできる。ペプチド、ポリヌクレオチド、エキソソーム、およびAPCは、任意の他の化合物がそれらのCTL誘導能を阻害しない限り、該化合物と組み合わせて用いることができる。従って、前述の本発明の薬学的な剤または組成物のいずれかをCTLを誘導するために用いることができ、それに加えて、前記ペプチドおよびポリヌクレオチドを含むものを、以下に議論されるように、APCを誘導するために用いることもできる。
【0094】
(1)抗原提示細胞(APC)を誘導する方法
本発明は、本発明のペプチドまたは該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを用いた、APCを誘導する方法を提供する。APCの誘導は、「VI.抗原提示細胞」の章に上記したように行うことができる。本発明はまた、高レベルのCTL誘導能を有するAPCを誘導するための方法も提供し、その誘導もまた上記の「VI.抗原提示細胞」の項目で言及されている。
【0095】
好ましくは、APCを誘導するための方法は、以下の中より選択される少なくとも1つの段階を含む:
a:HLA−A抗原がHLA−A0206であるAPCを本発明のペプチドと接触させる段階、および
b:発現可能な形態で本発明のポリペプチドを、HLA−A抗原がHLA−A0206であるAPCに導入する段階。
【0096】
APCを誘導するそのような方法は、好ましくはインビトロまたはエクスビボで行う。この方法をインビトロまたはエクスビボで行う場合、誘導すべきAPCは、治療すべき対象、またはHLA−A抗原がである他者から取得してよい。
【0097】
(2) CTLを誘導する方法
さらに本発明は、本発明のペプチド、該ペプチドをコードするポリヌクレオチド、または該ペプチドを提示するエキソソームもしくはAPCを用いてCTLを誘導するための方法を提供する。
【0098】
本発明はまた、細胞表面上の本発明のペプチドとHLA−A0206抗原の複合体を認識する(すなわち、これに結合する)T細胞受容体(TCR)サブユニットを形成し得るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを用いてCTLを誘導するための方法を提供する。好ましくは、CTLを誘導するための方法は、以下の中より選択される少なくとも1つの段階を含む:
a:CD8陽性T細胞を、HLA―A0206抗原と本発明のペプチドの複合体を自身の表面上に提示する抗原提示細胞および/またはエキソソームと接触させる段階、ならびに
b:本発明のペプチドとHLA―A0206抗原の複合体を認識するTCRサブユニットを形成し得るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、CD8陽性T細胞に導入する段階。
【0099】
本発明のペプチドを対象に投与した場合、該対象の体内でCTLが誘導され、がん細胞を標的とする免疫応答の強度が増強される。あるいは、対象由来のAPC、およびCD8陽性細胞、または末梢血単核白血球を、インビトロで本発明のペプチドと接触させ(で刺激し)、CTLを誘導した後、活性化したCTL細胞を該対象に戻すエクスビボ治療法に、前記ペプチドおよび前記ペプチドをコードするポリヌクレオチドを用いることができる。例えば、本方法は以下の段階を含み得る:
a:HLA−A抗原がHLA−A0206である対象からAPCを回収する段階;
b:段階aのAPCと本発明の前記ペプチドとを接触させる段階;
c:段階bのAPCを、HLA−A抗原がHLA−A0206であるCD8 T細胞と混合し、CTLを誘導するために共培養する段階;および
d:段階cの共培養物からCD8 T細胞を回収する段階。
【0100】
あるいは、本発明に従って、CTLを誘導する薬学的な組成物を製造するための本発明のペプチドの使用を提供する。加えて、本発明は、CTLを誘導する薬学的な剤または組成物を製造するための方法または工程を提供し、ここで、該方法は、薬学的に許容される担体と共に本発明のペプチドを混合または製剤化する工程を含む。さらに、本発明はまた、CTLを誘導するための本発明のペプチドを提供する。
【0101】
段階dによって得られた細胞傷害活性を有するCD8 T細胞を、ワクチンとして前記対象に投与することができる。上記の段階cにおいてCD8 T細胞と混合するAPCは、上記の「VI.抗原提示細胞」の章で詳述されているように、本ペプチドをコードする遺伝子をAPCに導入することによって調製することもできるが、これに限定されず、本発明のペプチドをT細胞に対して効果的に提示する任意のAPCまたはエキソソームを、本発明の方法に用いることができる。
【0102】
以下の実施例は、本発明を例証し、当業者がそれを作製および使用するのを補助するために提供される。実施例は、いかなる形であれ他の方法で本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【実施例】
【0103】
材料および方法
細胞株
PSCCA0922(HLA−A0206)は、Pharma SNP Consortium;PSCから購入した。ヒトB−リンパ芽球様細胞株、およびCOS7は、ATCCから購入した。
【0104】
HIG2およびURLC10由来の候補ペプチド
HIG2またはURLC10由来の9−merおよび10−merのペプチドを、標準的な固相合成法に従ってSigma(札幌、日本)またはBiosynthesis Inc.(Lewisville,TX)によって合成し、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって精製した。該ペプチドの純度(>90%)および同一性を、それぞれ分析用HPLCおよび質量分析によって測定した。ペプチドをジメチルスルホキシド(DMSO)に20 mg/mlで溶解し、−80℃で保存した。
【0105】
インビトロでのCTL誘導
単球由来の樹状細胞(DC)を抗原提示細胞(APC)として用いて、ヒト白血球抗原(HLA)上に提示されたペプチドに対する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答を誘導した。他所に記載されているように、DCをインビトロで作製した(Nakahara S et al., Cancer Res 2003 Jul 15, 63(14): 4112-8)。具体的には、Ficoll−Plaque(Pharmacia)溶液によって健常なボランティア(HLA−A0206陽性)から単離した末梢血単核細胞(PBMC)を、プラスチック製の組織培養ディッシュ(Becton Dickinson)へ付着させることによって分離し、それらを単球画分として濃縮した。2%の加熱非働化した自己血清(AS)を含むAIM−V培地(Invitrogen)中で、1000 U/mlの顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)(R&D System)および1000 U/mlのインターロイキン(IL)−4(R&D System)の存在下で、単球が濃縮した集団を培養した。培養7日後、サイトカインで誘導したDCに、AIM−V培地中で3時間、37℃にて、3 マイクログラム/mlのβ2−ミクログロブリンの存在下で20 マイクログラム/mlの各合成ペプチドをパルスした。作製した細胞は、その細胞表面上に、CD80、CD83、CD86、およびHLAクラスIIなどのDC関連分子を発現しているようであった(データは示さず)。次いで、ペプチドパルスしたこれらのDCを、マイトマイシンC(MMC)で不活化し(30 マイクログラム/mlで30分間)、CD8 Positive Isolation Kit(Dynal)を用いた陽性選択によって得られた自己CD8+ T細胞と1:20の比率で混合した。これらの培養物を48ウェルプレート(Corning)中に準備し;各ウェルは、0.5 mlのAIM−V/2% AS培地中に、1.5×10個のペプチドパルスしたDC、3×10個のCD8+ T細胞、および10 ng/mlのIL−7(R&D System)を含んだ。3日後、これらの培養物に、IL−2(CHIRON)を最終濃度20 IU/mlまで補充した。7日目および14日目に、ペプチドパルスした自己DCでT細胞をさらに刺激した。該DCは上記と同じ方法によって毎回調製した。21日目に、3回目のペプチド刺激後、ペプチドパルスしたPSCCA0922細胞に対してCTLを試験した(Tanaka H et al., Br J Cancer 2001 Jan 5, 84(1): 94-9; Umano Y et al., Br J Cancer 2001 Apr 20, 84(8): 1052-7; Uchida N et al., Clin Cancer Res 2004 Dec 15, 10(24): 8577-86; Suda T et al., Cancer Sci 2006 May, 97(5): 411-9; Watanabe T et al., Cancer Sci 2005 Aug, 96(8): 498-506)。
【0106】
CTL増殖手順
Riddellら(Walter EA et al., N Engl J Med 1995 Oct 19, 333(16): 1038-44;Riddell SR et al., Nat Med 1996 Feb, 2(2): 216-23)によって記載されている方法と類似の方法を用いて、CTLを培養下で増殖させた。40 ng/mlの抗CD3モノクローナル抗体(Pharmingen)の存在下で、MMCによって不活化した2種類のヒトBリンパ芽球様細胞株と共に、合計5×10個のCTLを25 mlのAIM−V/5% AS培地中に懸濁した。培養開始1日後に、120 IU/mlのIL−2を該培養物に添加した。5、8、および11日目に、30 IU/mlのIL−2を含む新たなAIM−V/5% AS培地を、該培養物に供給した(Tanaka H et al., Br J Cancer 2001 Jan 5, 84(1): 94-9;Umano Y et al., Br J Cancer 2001 Apr 20, 84(8): 1052-7;Uchida N et al., Clin Cancer Res 2004 Dec 15, 10(24): 8577-86;Suda T et al., Cancer Sci 2006 May, 97(5): 411-9;Watanabe T et al., Cancer Sci 2005 Aug, 96(8): 498-506)。
【0107】
CTLクローンの樹立
96丸底マイクロタイタープレート(Nalge Nunc International)において0.3個、1個、および3個のCTL/ウェルとなるように、希釈を行った。CTLを、7×10個細胞/ウェルの2種類のヒトBリンパ芽球様細胞株、30 ng/mlの抗CD3抗体、および125 U/mlのIL−2と共に、合計150μl/ウェルの5%AS含有AIM−V中で培養した。10日後、50μl/ウェルのIL−2を、最終濃度でIL−2が125 U/mlに到達するように培地に添加した。14日目にCTLのCTL活性を試験し、上記と同じ方法を用いてCTLクローンを増殖させた。
【0108】
特異的CTL活性
特異的CTL活性を調べるために、インターフェロン(IFN)−γ酵素結合免疫スポット(ELISPOT)アッセイおよびIFN−γ酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)を行った。具体的には、ペプチドパルスしたPSCCA0922(1×10個/ウェル)を刺激細胞として調製した。48ウェル中の培養細胞を応答細胞として使用した。IFN−γ ELISPOTアッセイおよびIFN−γ ELISAアッセイは、製造元の手順に従って行った。
【0109】
標的遺伝子およびHLA−A0206遺伝子のいずれか一方または両方を強制的に発現する細胞の樹立
標的遺伝子(HIG2;SEQ ID NO: 3およびURLC10;SEQ ID NO: 5)またはHLA−A0206(SEQ ID NO: 7)のオープンリーディングフレームをコードするcDNAをPCRによって増幅した。PCR増幅産物をpcDNA3.1 myc−Hisベクター(Invitrogen)にクローニングした。製造業者の推奨する手順に従ってリポフェクタミン(Invitrogen)を用いて、標的遺伝子およびHLA−A0206のいずれか一方または両方を含むプラスミドをCOS7にトランスフェクトした。簡潔に説明すると、2.5×10個のCOS7細胞に、140 Vおよび1000マイクロFで10マイクログラムのプラスミドをパルスした。トランスフェクションから2日後に、トランスフェクトした細胞を細胞解離溶液で処理し、CTL活性アッセイの標的細胞として使用した。
【0110】
結果
がんにおけるHIG2およびURLC10発現の増強
cDNAマイクロアレイを用いて様々ながんから得られた包括的遺伝子発現プロファイルデータから、HIG2(GenBankアクセッション番号NM_013332;SEQ ID NO: 3)およびURLC10(GenBankアクセッション番号NM_017527;SEQ ID NO: 5)の発現が上昇していることが明らかになった。HIG2発現は、対応する正常組織と比較して、腎癌20例中19例、および軟部組織腫瘍9例中7例において確かに上昇していた。URLC10発現は、対応する正常組織と比較して、膀胱癌29例中29例、子宮頸癌16例中15例、胆管細胞癌7例中7例、食道癌19例中7例、胃癌3例中3例、NSCLC 27例中24例、骨肉腫19例中15例、膵癌5例中4例、および軟部組織腫瘍43例中33例において確かに上昇していた。
【0111】
HLA−A0206拘束性HIG2由来のペプチドを用いたCTLの誘導、およびHIG2由来のペプチドで刺激したCTL株の樹立
HIG2由来のペプチドに対するCTLを、「材料および方法」に記載したプロトコールに従って作製した。IFN−γ ELISPOTアッセイによって、ペプチド特異的なCTL活性を測定した(図1)。本明細書における結果から、HIG2−A0206−9−4(SEQ ID NO: 1)が、対照ウェルと比較して強力なIFN−γ産生を示すことが示される。さらに、SEQ ID NO: 1で刺激した陽性ウェル番号1、2、5、7、8、10、13、および14中の細胞を増殖させて、CTL株を樹立した。それらのCTL株のCTL活性を、IFN−γ ELISAアッセイによって測定した(図2)。本明細書における結果から、すべてのCTL株が、ペプチドをパルスしなかった標的細胞と比較して、対応するペプチドをパルスした標的細胞に対して強力なIFN−γ産生を示すことが示される。したがって、HIG2−A0206−9−4は、HLA−A0206を発現する標的細胞に対する強力なCTL株を誘導し得る。
【0112】
HIG2由来のペプチドで刺激したCTLクローンの樹立
上記の「材料および方法」の項に記載のプロトコールに従って、これらのCTL株から限界希釈を行った。HIG2−A0206−9−4(SEQ ID NO: 1)CTL株からのCTLクローンの樹立を図3に示す。これらのCTLクローンは、ペプチドをパルスしなかった標的に対する活性と比較して、ペプチドをパルスした標的に対して強力かつ特異的なCTL活性を有した。
【0113】
HIG2およびHLA−A0206を発現する標的細胞に対する特異的CTL活性
HIG2−A0206−9−4(SEQ ID NO: 1)に対して産生された樹立CTLクローンを、HIG2およびHLA−A0206を発現する標的細胞を認識する能力について、試験した。HIG2およびHLA−A0206を内因的に発現する標的細胞の特異的モデルとして役立つ、全長HIG2遺伝子およびHLA−A0206分子の両方をトランスフェクトしたCOS7に対する特異的CTL活性を、HIG2−A0206−9−4(SEQ ID NO: 1)によって産生されたCTLクローンをエフェクター細胞として用いて試験した。全長HIG2をトランスフェクトしたがHLA−A0206をトランスフェクトせず、他のペプチド(HIG2−9−8:YLLGVVLTL)をパルスしたCOS7、およびHLA−A0206をトランスフェクトしたが全長HIG2をトランスフェクトしなかったCOS7を対照として調製した。COS7に対して最も高い特異的CTL活性を示すCTLクローンは、HIG2およびHLA−A0206の両方をトランスフェクトしたものであった(図4)。
【0114】
本明細書における結果から、HIG2−A0206−9−4(SEQ ID NO: 1)が天然でプロセシングされ、HLA−A0206分子を伴って標的細胞表面上に提示され、CTLを認識することが明らかに実証される。したがって、HIG2−A0206−9−4は、HLA抗原がHLA−A0206である対象において、HIG2が発現しているがん細胞を標的とするがんワクチンとして役立ち得る。
【0115】
HLA−A0206拘束性URLC10由来のペプチドによるCTLの誘導、およびURLC10由来のペプチドで刺激したCTL株の樹立
URLC10由来のペプチドに対するCTLを、「材料および方法」に記載したプロトコールに従って作製した。IFN−γ ELISPOTアッセイによって、ペプチド特異的なCTL活性を測定した(図5)。本明細書における結果から、URLC10−A0206−10−211(SEQ ID NO: 2)が、対照ウェルと比較して強力なIFN−γ産生を示すことが示される。さらに、SEQ ID NO: 2で刺激した陽性ウェル番号7中の細胞を増殖させ、CTL株を樹立した。CTL株のCTL活性を、IFN−γ ELISAアッセイによって測定した(図6)。本明細書における結果から、CTL株が、ペプチドをパルスしなかった標的細胞と比較して、対応するペプチドをパルスした標的細胞に対して強力なIFN−γ産生を示すことが示される。したがって、URLC10−A0206−10−211は強力なCTL株を誘導し得る。
【0116】
URLC10由来のペプチドで刺激したCTLクローンの樹立
上記の「材料および方法」の項に記載のプロトコールに従って、これらのCTL株から限界希釈を行った。URLC10−A0206−10−211(SEQ ID NO: 2)CTL株からのCTLクローンの樹立を図7に示す。このCTLクローンは、ペプチドをパルスしなかった標的に対する活性と比較して、ペプチドをパルスした標的に対して強力かつ特異的なCTL活性を有する。
【0117】
URLC10およびHLA−A0206を発現する標的細胞に対する特異的CTL活性
URLC10−A0206−10−211(SEQ ID NO: 2)に対して産生された樹立CTLクローンを、URLC10およびHLA−A0206を発現する標的細胞を認識する能力について、試験した。URLC10およびHLA−A0206を内因的に発現する標的細胞の特異的モデルとして役立つ、全長URLC10遺伝子およびHLA−A0206分子の両方をトランスフェクトしたCOS7に対する特異的CTL活性を、URLC10−A0206−10−211(SEQ ID NO: 2)によって産生されたCTLクローンをエフェクター細胞として用いて試験した。全長URLC10をトランスフェクトしたがHLA−A0206をトランスフェクトしなかったCOS7、およびHLA−A0206をトランスフェクトしたが全長URLC10をトランスフェクトしなかったCOS7を対照として調製した。COS7に対して最も高い特異的CTL活性を示すCTLクローンは、URLC10およびHLA−A0206の両方をトランスフェクトしたものであった(図8)。
【0118】
本明細書における結果から、URLC10−A0206−10−211(SEQ ID NO: 16)が天然でプロセシングされ、HLA−A0206分子を伴って標的細胞表面上に提示され、CTLを認識することが明らかに実証される。さらに、URLC10−A0206−10−211は、HLA抗原がHLA−A0206である対象において、URLC10を発現しているがん細胞を標的とするがんワクチンとして役立ち得る。
【0119】
結論として、新規HLA−A0206エピトープペプチドであるHIG2−A0206−9−4(SEQ ID NO: 1)およびURLC10−A0206−10−211(SEQ ID NO: 2)が同定され、HLA−A抗原がHLA−A0206である対象においてがん免疫療法に適用可能であることが実証される。
【0120】
産業上の利用可能性
本発明は、強力かつ特異的な抗腫瘍免疫応答を誘導し、幅広いがん型に対する適用性を有する新規TAA、詳細にはHIG2またはURLC10由来の新規TAAについて記載する。このようなTAAは、HIG2またはURLC10に関連した疾患、例えば膀胱癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、食道癌、胃癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、骨肉腫、膵癌、腎癌、および軟部組織腫瘍などのがんに対するペプチドワクチンとしてのさらなる発展を保証する。
【0121】
本発明はその特定の態様に関して本明細書において詳細に記載されるが、前述の説明は本質的に例示的かつ説明的なものであって、本発明およびその好ましい態様を説明することを意図していることが理解されるべきである。ルーチンな実験を通して、当業者は、その境域および境界が添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、様々な変更および修正がなされ得ることを容易に認識するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i) HLA−A抗原がHLA−A0206である対象におけるがんの治療、
(ii) HLA−A抗原がHLA−A0206である対象におけるがんの予防、
(iii) HLA−A抗原がHLA−A0206である対象におけるがんの術後再発の予防、および
(iv) これらの組み合わせ
からなる群より選択される目的のために製剤化され、薬理学的に許容される担体と組み合わされた薬剤であって、
細胞傷害性Tリンパ球(CTL)誘導能を有し、
(a) SEQ ID NO: 1および2;ならびに
(b) 1個、2個、もしくは数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失、および/もしくは付加されているSEQ ID NO: 1および2
からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む1つもしくは複数のペプチド、または
当該ペプチドをコードする1つもしくは複数のポリヌクレオチドを含む、薬剤。
【請求項2】
がんが、膀胱癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、食道癌、胃癌、非小細胞肺癌(NSCLC)、骨肉腫、膵癌、腎癌、および軟部組織腫瘍からなる群より選択される、請求項1記載の薬剤。
【請求項3】
ワクチンとして製剤化される、請求項1記載の薬剤。
【請求項4】
(a) 抗原提示細胞を、SEQ ID NO: 1および2からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むペプチド、または少なくとも1つのアミノ酸が付加、挿入、欠失、および/もしくは別のアミノ酸と置換されている当該ペプチドと接触させる段階;ならびに
(b) SEQ ID NO: 1および2からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むペプチド、または少なくとも1つのアミノ酸が付加、挿入、欠失、および/もしくは別のアミノ酸と置換されている当該ペプチドをコードするポリヌクレオチドを抗原提示細胞に導入する段階
からなる群より選択される段階を含む、高いCTL誘導能を有する抗原提示細胞を誘導するための方法であって、該抗原提示細胞がHLA−A0206抗原を発現する、方法。
【請求項5】
SEQ ID NO: 1および2からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むペプチド、または少なくとも1つのアミノ酸が付加、挿入、欠失、および/もしくは別のアミノ酸と置換されている当該ペプチドを用いることによってCTLを誘導するための方法であって、該CTLがHLA−A0206抗原と前記ペプチドとの複合体を認識する、方法。
【請求項6】
HLA−A0206抗原と、SEQ ID NO: 1および2からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むペプチド、または少なくとも1つのアミノ酸が付加、挿入、欠失、および/もしくは別のアミノ酸と置換されている当該ペプチドとの複合体をその表面上に提示する、単離された抗原提示細胞。
【請求項7】
HLA−A0206抗原と、SEQ ID NO: 1および2からなる群より選択されるアミノ酸配列を含むペプチド、または少なくとも1つのアミノ酸が付加、挿入、欠失、および/もしくは別のアミノ酸と置換されている当該ペプチドとの複合体を認識する、単離されたCTL。
【請求項8】
高いCTL誘導能を有する抗原提示細胞を誘導するための剤であって、
(a) CTL誘導能を有し、
(i) SEQ ID NO: 1および2;ならびに
(ii) 1個、2個、または数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失、および/または付加されているSEQ ID NO: 1および2
からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む1つまたは複数のペプチド;
(b) 当該ペプチドをコードする1つまたは複数のポリヌクレオチド
を含む、剤。
【請求項9】
HLA抗原がHLA−A0206である対象においてがんに対する免疫応答を誘導する方法であって、CTL誘導能ならびにSEQ ID NO: 1および2からなる群より選択されるアミノ酸配列を有するペプチド、少なくとも1つのアミノ酸が付加、挿入、欠失、および/もしくは別のアミノ酸と置換されている当該ペプチド、前述のペプチドをコードするポリヌクレオチド、請求項6記載の単離された抗原提示細胞、または請求項7記載の単離されたCTLを含む剤を該対象に投与する段階を含む、方法。
【請求項10】
がんが、膀胱癌、子宮頸癌、胆管細胞癌、食道癌、胃癌、NSCLC、骨肉腫、膵癌、腎癌、および軟部組織腫瘍からなる群より選択される、請求項9記載の方法。
【請求項11】
HLA−A抗原がHLA−A0206である対象においてがんに対する免疫応答を誘導するための剤であって、薬理学的に許容される担体と組み合わされた、
(a) CTL誘導能を有し、
(i) SEQ ID NO: 1および2;ならびに
(ii) 1個、2個、もしくは数個のアミノ酸が置換、挿入、欠失、および/もしくは付加されているSEQ ID NO: 1および2
からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む1つもしくは複数のペプチド;
(b) 当該ペプチドをコードする1つもしくは複数のポリヌクレオチド;
(c) 請求項6記載の1つもしくは複数の単離された抗原提示細胞;
(d) 請求項7記載の1つもしくは複数の単離されたCTL;または
(e) これらの組み合わせ
を含む、剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−500184(P2012−500184A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507735(P2011−507735)
【出願日】平成21年8月14日(2009.8.14)
【国際出願番号】PCT/JP2009/003897
【国際公開番号】WO2010/021112
【国際公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】