説明

HIV−1のgp120のgp41への相互作用部位

HIV−1の中和耐性および高感染性表現型に寄与する、HIV−1 gp120のアミノ末端側半分およびカルボキシ末端側半分ならびにgp41のカルボキシ末端における変異が開示される。

【発明の詳細な説明】
【関連出願データ】
【0001】
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み入れられている米国仮出願第60/379,052号(2002年5月10日出願)の利益を主張する。
【連邦支援の謝辞】
【0002】
本発明は、一部が国立衛生研究所の連邦助成金から資金援助を受けた研究によりなされた(AI37438)。
【発明の分野】
【0003】
本発明は、ウィルス学の分野に関するものであり、特にヒト免疫不全ウィルス(HIV)および後天性免疫不全症候群(AIDS)に関する。本発明は特に、オリゴマータンパク質複合体の異なる領域間の相互作用を調節し、エンベロープの免疫学的表現型を決定する、HIV−1エンベロープタンパク質アミノ酸配列に関する。
【背景】
【0004】
幅広い防御性中和抗体反応の誘導は、ワクチンの潜在的有効性に関する主要な問題である。HIV−1に対するワクチンを開発する努力は、ウィルスの中和に対する耐性、および保存された中和エピトープを発現する安定した高次構造のエンベロープタンパク質を調製する困難の結果として遅滞してきた。この耐性は、一次ウィルスアイソレートの実験適合ウィルスおよび系統間の抗原変異との比較において明らかである(Back et al.(1994)Virology 199,431−438;Berman et al.(1997)J.Infect.Dis.176,384−397;Katzenstein et al.(1990)J.Acquir.Immune Defic.Syndr.3,810−816;Laman et al.(1992)J.Virol.66,1823−1831)。
【0005】
一部のレンチウィルス感染では、疾病発症が間欠的に起こり、逃避変異(エスケープミューテーション)の発生に続くウィルス複製増加の期間に関連付けられる(Konno & Yamamoto(1990)Cornell Vet.60,393−449)。HIV感染では、ウィルス複製の部分免疫制御の証拠がある。ウィルスは急性感染の間の早期に血漿中でただちに検出されるが、慢性感染の前AIDS期間には低レベルである(Montefiori et al.(1996)J.Infect.Dis.173,60−67)。複製の部分制御にもかかわらず、実質的なウィルス複製は慢性感染の前AIDS期間中には継続中のままであり、変異系統が出現する可能性がある(Ho et al.(1989)N.Engl.J.Med.321,1621−1625;Perelson et al.(1996)Science 271,1582−1586)。中和逃避変異は、慢性感染の期間中に、または後期の免疫低下に寄与するものとしてすら重要である。
【0006】
生体内で、あるいは感染したヒトまたは動物由来の血清の存在下の生体外での中和逃避変異の、制限された研究が行われてきた(McKnight & Clapham(1995)Trends Microbiol.3,356−361;Park & Quinnan (1999)J.Virol.73,5707−5713)。2つのグループが、感染進行中の早期に発生するV3領域逃避変異の証拠を報告した(Sawyer et al.(1990)AIDS Res.Hum.Retroviruses 6,341−356; Zhang et al.(2002)J.Virol.76,644−655)。複数のエピトープに対する抗体による中和に影響を及ぼす包括的耐性表現型を仲介する、gp41における中和エピトープから離れた部位での変異についての報告もある(Back et al.(1994)Virology 199,431−438;Matsushita et al.(1988)J.Virol.62,2107−2114;McKeating et al.(1992)Virology 191,732−742; Reitz et al.(1988)Cell 54,57−63;Wyatt et al.(1993)J.Virol.67,4557−4565)。おそらく、これらの変異は、エンベロープ複合体の高次構造への影響を通じて、中和耐性に寄与すると考えられている。
【0007】
gp120の原子構造の決定およびケモカインレセプターがHIVのコレセプターであるという発見は、エンベロープ複合体中の中和エピトープの性質、ならびに細胞接着および侵入におけるこれらのエピトープの潜在的役割の理解を実質的に前進させた(Alkhatib et al.(1996)Science 272,1955−1958; Deng et al.(1996);Feng et al.(1996)Science 272,872−877;Konno et al.(1970) Cornell Vet.60,393−449;Wyatt et al.(1998)Nature 393,705−711)。一次エンベロープ上で機能的である中和エピトープは、高次構造依存性の傾向がある(Fouts et al.(1977)J Virol.71,2779−2785)。一部のエピトープの接触性は、CD4の結合後に発生する高次構造変化に依存する。これらのCD4誘導型エピトープは一般に、コレセプター結合部位内のエピトープと考えられる。実験用ワクチンに対する弱い中和抗体反応の結果として、レセプター結合に続く高次構造変化中に露出されるエピトープに対する抗体を誘導する方法を規定することに関心が生じた。中和耐性の機構および一次アイソレートの中和において機能的である標的エピトープの性質決定は、HIVに対して効果的に免疫化する努力を実質的に助長する。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、gpl20のgp41、CD4またはコレセプター結合領域、あるいはgpl20の外部領域において1個以上のアミノ酸を置換することと、哺乳動物への投与後に交差反応性免疫反応を生じる結合ドメインにおける1個以上のアミノ酸置換を同定することとを含む、哺乳動物への投与後に交差反応性免疫反応を生じるヒト免疫不全ウィルスタイプ1(HIV−1)エンベロープタンパク質を同定する方法を含む。これらの置換は、gp120のC1、C2、C3、C4、C5、V1/V2、V3、V4および/またはV5領域内に存在しうるものであり、アミノ酸64、84、91、219、243、245、249、287、290、300、211、312、314、316、345、371、372、398、426、418、435、466および472より成る群から選択されるgp120内のアミノ酸位置に対応する位置に配置され得る。ある実施形態では、置換はD91N、V219I、N243K、T245SおよびP249S、D287N、D290N、N371K、P372Q、V426I、K435N、E466NおよびD472Nからなる群より選択される。更に、HIV−1エンベロープタンパク質をコードする核酸において少なくとも1個のヌクレオチドが置換される。
【0009】
本発明は、アミノ酸64、84、91、219、243、245、249、287、290、300、311、312、314、316、345、371、372、398、418、426、435、466および472からなる群より選択される、gp120中のアミノ酸に対応する位置での1個以上のアミノ酸置換を含む分離されたHIV−1エンベロープタンパク質を含めて、本発明の方法によって同定されるどのHIV−1エンベロープタンパク質も含む。
【0010】
本発明は更に、抗体中和耐性エンベロープタンパク質の少なくとも1個の第一の断片および抗体中和感受性エンベロープタンパク質の少なくとも1個の第二の断片を含む、分離されたHIV−1エンベロープタンパク質を含む。ある実施形態において、第一または第二の断片は約50〜約800個のアミノ酸である。一実施形態において、中和耐性エンベロープタンパク質からの第一の断片は、配列番号2(MN−P)からの断片を含む。例示的な断片は、配列番号2のアミノ酸1〜123、配列番号2の123〜212、配列番号2の212〜274、配列番号2の274〜367、配列番号2の367〜468、配列番号2の468〜517、配列番号2の517〜611、配列番号2の611〜759、および配列番号2の759〜858を含むが、これらに限定されるわけではない。別の実施形態において、第二の断片は抗体中和感受性エンベロープタンパク質由来であり、配列番号4(MN−TCLA)からの断片を含む。例示的な断片は、配列番号4のアミノ酸1〜123、配列番号4の123〜212、配列番号4の212〜274、配列番号4の274〜367、配列番号4の367〜468、配列番号4の468〜517、配列番号4の517〜611、配列番号4の611〜759、および配列番号4の759〜858を含むが、これらに限定されるわけではない。
【0011】
ある実施形態において、本発明の上述のHIV−1エンベロープタンパク質は更に、1個以上のアミノ酸置換を含む。これらの置換は、アミノ酸64、84、91、219、243、245、249、287、290、300、311、312、314、316、345、371、372、398、418、426、435、466および472からなる群より選択されるアミノ酸位置にありうる。これらの置換の例は、V64A、Q84E、N243K、T245S、P249S、D287N、D290N、N311Y、Y312N、K314R、K316T、N371K、P372Q、V426I、K435N、E466NおよびD472Nからなる群より選択される1個以上のアミノ酸置換を含むが、これらに限定されるわけではない。本発明は、本発明のどのHIV−1エンベロープタンパク質をも含む、融合タンパク質も含む。
【0012】
本発明は、本発明の上記HIV−1エンベロープタンパク質のいずれかをコードする核酸分子を含む。一部の実施形態において、核酸分子は1個以上の発現調節領域に作動的に結合される。分離された核酸分子を含むベクターおよびこれらのベクター(ウィルスベクターを含む)を含有する宿主細胞も、本発明の範囲内である。本発明は、上記核酸分子によってコードされたポリペプチドが発現される条件下でこのタンパク質をコードする核酸分子によって形質転換された宿主細胞を培養することを含む、本発明のHIV−1エンベロープタンパク質を生成する方法も含む。
【0013】
本発明は更に、本発明のHIV−1エンベロープタンパク質および薬学的に許容される担体を含む組成物を含む。そのような組成物は、免疫原性およびワクチン組成物を含む。HIV−1エンベロープタンパク質をコードする本発明の核酸分子のいずれかを含む弱毒化HIV−1も、本発明の範囲内である。
【詳細な説明】
【0014】
既に、HIV−1のMN系統の中和耐性ミュータントの選択およびキャラクタリゼーションは述べられている(Park et al.(1998)J.Virol.72,7099−7107;Park et al.(1999)J.Virol.73,5707−5713;Park et al.(2000)J.Virol.74,4183−4191)。表現型は、gp120における2個の変異、およびgp41のロイシンジッパー(LZ)構造における4個の変異に起因した。中和耐性表現型は、6個の変異のうちの5個に起因する高感染性表現型と関連していることが見出された。高感染性は次に、感染中のウィルスの細胞表面結合に続き、ウィルス−細胞膜融合につながるステップの高い効率の結果である(Park et al.(2000)J.Virol.74,4183−4191)。本発明は、きわめて中和感受性である、T細胞系適合(TCLA)のHIV−1のMN系統(MN−TCLA)および中和耐性であるHIV−1の一次MN系統(MN−P)から発現されたHIV−1エンベロープタンパク質に関する。これらの表現型は、gp120およびgp41全体に分布する複数の変異、ならびにgp120の領域とgp41のLZ配列との機能的相互作用に依存していた。変異の一部は、CD4またはコレセプターのgp120結合部位の中または近傍に局在化している。一次HIV−1系統の中和耐性は、高感染効率表現型を付与するエンベロープタンパク質複合体全体に影響を伝達する複数の変異の結果である。
【0015】
それゆえ本発明は、HIVエンベロープタンパク質に基づくワクチンおよび免疫原性組成物の合理的設計および調製の方法を提供する。本発明は、gp120内のあるアミノ酸残基がgp41、CD4およびコファクターレセプター(例えばCCR5およびCXCR4)との機能的相互作用を仲介するという発見を含む。gp120内のCD4、コレセプターおよびgp41結合領域のアミノ酸配列は可変性であるが、あるアミノ酸残基の置換がエンベロープタンパク質の交差反応性免疫反応を幅広く誘発する能力に影響しうることが今や決定されている。このことは、各種の表現型およびクレードにわたってHIV系統を中和する抗体を誘発することができるHIVサブユニットワクチンまたは免疫原性組成物の設計を促進する。
【0016】
HIV−1エンベロープタンパク質を同定する方法
本発明は、哺乳動物(例えばヒト)への投与後に交差反応性免疫反応を生成するヒト免疫不全ウィルスタイプ−1(HIV−1)エンベロープタンパク質を同定する方法を含む。本発明の方法は、gp120内のCD4、gp41およびコファクターレセプター結合領域の中またはその近傍に、抗体中和に対する感受性に関して重要な、アミノ酸残基があるという発見に一部は基づいている。これらの残基は、C2、C3、C4またはV5を含むgp120内の複数の領域にわたって位置する。これらの残基は、gp120のC1、C5、V1/V2、V3またはV4領域あるいはgp41の任意の領域(例えばロイシンジッパー領域)に位置することもできる。
【0017】
これらの領域のいずれかにおけるHIV−1エンベロープタンパク質において適切なアミノ酸を同定または置換するステップは、異なるクレードにわたってすらHIV−1の各種系統に対して幅広い交差反応性免疫反応が生じるように設計されたワクチンまたは免疫原性組成物を提供する。これらのアミノ酸を含有するこれらの領域のアミノ酸配列は可変性であるが、gp41、CD4およびコレセプター結合領域におけるこれらの残基の位置は保存され、異なるクレードにわたって複数の最も一般的なHIV系統を中和できるワクチンまたは免疫原性組成物の設計を促進する(例えばA、Al、A2、B、C、D、F、Fl、F2、G、H、J、K、N、O、V)。
幅広い交差反応性免疫反応を生成することができるエンベロープタンパク質を同定する第一のステップは、gp41、CD4およびコレセプターまたはgp120タンパク質の表面に露出されたアミノ酸を含む外部領域と相互作用する、gp120領域内のアミノ酸の位置およびタイプを決定することである。これらの位置は、これらのアミノ酸を含有するgp120の領域を配列決定することにより決定できる。あるいは、これらの結合領域のいずれかに特異的である抗体、好ましくはモノクローナル抗体が利用できる場合、異なる位置でのこれらのアミノ酸の置換の効果は、以下に述べる血清学的方法によって決定できる。
【0018】
一実施形態において、これらのアミノ酸は、C2、C3、C4またはV5領域の1個以上にあるが、他の実施形態ではこれらのアミノ酸はC1、C5、V1/V2、V3またはV4領域の1個以上に位置する。gp120タンパク質におけるこれらのアミノ酸残基の位置は、配列番号2または4の位置64、84、91、219、243、245、249、287、290、300、211、312、314、316、345、371、372、398、426、418、435、466および472に対応するアミノ酸を含むが、これに限定されるわけではない。これらの置換の例は、V64A、Q84E、N243K、T245S、P249S、D287N、D290N、N311Y、Y312N、K314R、K316T、N371K、P372Q、V426I、K435N、E466NおよびD472Nを含むが、これらに限定されるわけではない。これらの位置のアミノ酸それぞれの役割は、適切な置換とともに、実施例で詳細に述べる。
【0019】
HIVの各種アイソレートおよび系統のアミノ酸配列について述べる際には、最も一般的な番号方式は、イニシエータメチオニン残基を位置1として用いて、gp120タンパク質内のアミノ酸の位置を指す。アミノ酸の番号付けは、例えば図1の配列比較で示すように、成熟したHIV−1 gp120アミノ酸配列を反映している。他のHIVアイソレート由来のgp120配列の場合、その本来のN末端シグナル配列を含み、番号付けは異なることがある。ヌクレオチドおよびアミノ酸残基の番号は、上流の欠失または挿入がウィルスゲノムおよびgp120の長さを変更する他の系統では一致しないかもしれないが、領域対応領域または個々のアミノ酸残基は本明細書の教示の参照によりただちに同定される。gp120の可変(V)領域および保存(C)領域は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられているModrow et al.(1987)J.Virol.61,570−578の命名法に従って規定される。
【0020】
HIV−1エンベロープタンパク質中の任意のアミノ酸置換がその中和表現型に与える影響を同定するために、修飾gp120によって動物を免疫して抗gp120抗体を誘導する。抗体はポリクローナルでもモノクローナルでもよい。タンパク質の免疫原性組成物を調製するための方法は、宿主動物およびタンパク質によって変わることがあり、また周知である。例えばgp120またはその抗原部分は、KLHまたはBSAなどの免疫原性物質にコンジュゲートさせるか、またはアジュバントなどの中へ供給することができる。誘導された抗体は、それらがgp120に対して特異的であるか否かを判定するために試験することができる。ポリクローナル抗体組成物が所望の特異性を提供しない場合、抗体は、無傷gp120またはgp120の各種断片を使用してイオン交換クロマトグラフィーおよびイムノアフィニティー法によって分画して、多様な従来の方法によって特異性を向上させることができる。例えば抗体組成物を分画し、組成物を固体基質に固定されたgp120と接触させることによって、他の物質への結合を低下させることができる。基質に結合するこれらの抗体は保持される。各種の固体基質に固定された抗原を使用する分画技法、例えばSephadex、Sepharoseなどを含むアフィニティークロマトグラフィーは周知である。
【0021】
モノクローナル抗gp120抗体は、多くの従来の方法によって生成することができる。マウスにgp120を含有する免疫原性組成物を注射し、脾臓細胞を得ることができる。これらの脾臓細胞は、融合パートナーと融合させてハイブリドーマを調製することができる。ハイブリドーマによって分泌された抗体をスクリーニングして、本明細書で述べるように抗体がHIV感染を中和するハイブリドーマを選択できる。所望の特異性の抗体を生成するハイブリドーマは標準技法によって培養する。
【0022】
感染ヒトリンパ球を使用して、多数の技法、例えばマウス融合パートナーとの融合またはEBVとの形質転換によってヒトハイブリドーマを調製することができる。加えて、ヒトまたはマウス脾臓のコンビナトリアルライブラリーをE.coli中に発現させて、抗体を生成することができる。コンビナトリアルライブラリーを調製するためのキットは市販されている。ハイブリドーマ調製技法および培養方法は周知であり、本発明のどの部分も構成しない。
【0023】
抗gp120モノクローナル抗体の調製後、抗体をスクリーニングして、中和抗体であるこれらの抗体を決定する。モノクローナル抗体がHIV感染を中和するか否かを判定するアッセイは周知であり、文献で述べられている。簡潔には、抗体およびHIVストックの希釈物を合わせて、抗体がウィルスに結合するのに十分な時間にわたってインキュベートする。その後、HIV感染に対して感受性である細胞をウィルス/抗体混合物と合わせて培養する。MT−2細胞またはH9細胞は、実験室での増殖に適した大半のHIV系統による感染に感受性である。活性化末梢血単核細胞(PBMC)またはマクロファージは、一次アイソレート(T細胞系または形質転換細胞系において培養されていない患者試料からのアイソレート)によって感染させることができる。Daar et al.(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87,6574−6578は、一次アイソレートによって細胞を感染させる方法について述べている。
【0024】
細胞を約5日間培養した後、ホルマザンMTT色素の代謝転換を測定することによって生細胞の数を決定する。感染性の抑制のパーセンテージは、HIVを中和するそれらの抗体を決定するために計算される。HIV中和を決定するための好ましい手順の例は、実施例に述べられている。
【0025】
HIVを中和するこれらのモノクローナル抗体は、抗体が結合するアミノ酸置換を含有するエピトープをマッピングするのに使用される。gp120中和エピトープの位置を決定するために、中和抗体をgp120の断片と組み合せて、抗体が結合する断片を決定することができる。中和エピトープを局在化するために使用されるgp120断片は、本明細書で述べられ、実施例で例示されている、組換えDNA法によって好ましくは作成される。gp120の異なる重複部分をそれぞれ含む複数の断片を使用することによって、中和抗体が結合する中和エピトープを含むアミノ酸配列が決定できる。
【0026】
重複断片のこのような使用は、エピトープの位置を約20〜40個のアミノ酸残基の領域に狭めることができる。エピトープの位置を確認して、位置を領域約5〜10個の残基の領域に狭めるために、部位特異的変異誘発性研究を実施する。そのような研究は、中和抗体の結合のために重要な残基を決定することもできる。
【0027】
抗体に加えて、可溶性CD4レセプターは、中和に対する感受性を評価するために使用できる。本明細書で使用される可溶性CD4レセプターはヒトCD4レセプタータンパク質全体およびその断片を含む。一部の実施形態において、当業界で周知であり、本明細書の実施例で与えられているように、可溶性CD4レセプター断片は膜貫通領域を欠いている。
【0028】
部位特異的変異誘発性研究を実施するために、組換えPCR技法を利用して、中和エピトープを含有するgp120断片内の選択部位に単一のアミノ酸置換を導入することができる。簡潔には、エピトープを含有する領域の重複部分は、所望のヌクレオチド変化を包含するプライマーを用いて増幅される。生じたPCR生成物はアニーリングおよび増幅されて、最終生成物が生成される。次に最終生成物が発現され、変異gp120断片を生成する。gp120またはその一部分をコードするDNAの発現は本明細書で述べ、実施例に例示する。
【0029】
修飾および/またはキメラgp120タンパク質は次に、gp120を対照として用いたイムノアッセイで使用され、変異が中和抗体の結合を損傷または除去するときを決定する。これらの重要なアミノ酸残基は、エピトープを除去することなく制限された方法においてのみ変更できる中和エピトープの一部を形成する。エピトープを保存する各変更を決定できる。そのような変異原性研究は、中和抗体による同等の、低下したまたは向上した結合を提供するか、あるいは抗体結合を除去する中和エピトープのアミノ酸配列の変化を示す。ワクチンまたは免疫原性組成物で使用するために適した中和エピトープのアミノ酸配列の変化は、そのような分析によって決定することができる。
【0030】
あるいは、gp120またはgp120関連部分をコードするDNAのヌクレオチド配列は決定可能であり、gp120のアミノ酸配列を推定することができる。配列決定に十分なDNAを提供するためにHIVアイソレートからgp120コード化DNAを増幅するための方法は、周知である。特にOu et al.(1992)Science 256,1165−1171;Zhang et al.(1991)AIDS 5,675−681およびWolinsky(1992)Science 255,1134−1137は、gp120のDNAを増幅するための方法について述べている。増幅DNAの配列決定は周知であり、Sambrook et al.(2001)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Pressに述べられている。
【0031】
特定のエンベロープタンパク質にて置換されるアミノ酸の位置を同定するためのエンベロープアミノ酸およびヌクレオチド配列の配列比較は、プログラムblastp、blastn、blastx、tblastnおよびtblastxによって利用されるアルゴリズムを用いたBLAST(Basic Local Alignment Search Tool)解析によって実施できる(Karlin et al.(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87,2264−2268およびAltschul,(1993)J.Mol.Evol.36,290−300、参照により十分に組み入れられている)。BLASTプログラムによって使用される手法は、クエリー配列とデータベース配列との間で最初に同様の断片を検討し、次に同定されるすべての一致の統計的有意性を評価し、最後に有意性の予備選択閾値を満足する一致のみを要約することである。配列データベースの類似性検索における基本的問題の議論については、参照により十分組み入れられている、Altschul et al.(1994)Nature Genet.6,119−129を参照。 histogram、descriptions、alignments、expect(すなわちデータベース配列に対する一致を報告するための統計的有意性閾値)、cutoff、matrixおよびfilterの検索パラメータはデフォルト設定である。blastp、blastx、tblastn、およびtblastxによって使用されるデフォルトのスコアリングマトリクスは、 BLOSUM62マトリクスである(Henikoff et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89,10915−10919、参照により十分組み入れられている)。4個のblastnパラメータは、次のように調整した:Q=10(ギャップ作成ペナルティ);R=10(ギャップ拡張ペナルティ);wink=1(クエリーに沿ってwink番目の位置でワードヒットを生成);およびgapw=16(ギャップ付き配列比較が生成されるウィンドウ幅を設定)。同等のBlastpパラメータ設定は、Q=9;R=2;wink=1;およびgapw=32であった。GCGパッケージバージョン10.0で利用できる配列間のBestfit比較は、DNAパラメータGAP=50(ギャップ作成ペナルティ)およびLEN=3(ギャップ拡張ペナルティ)を使用し、タンパク質比較での同等の設定は、GAP=8およびLEN=2である。
【0032】
HIV−1エンベロープタンパク質およびペプチド
本発明のHIV−1エンベロープタンパク質およびペプチドは、図3に示したアミノ酸置換のいずれか1個以上を有するエンベロープタンパク質を含む。これらの置換は、V1/V2、V3、V4、V5、C1、C2、C3、C4およびC5を含むエンベロープタンパク質の1個または複数の領域にありうる。これらはアミノ酸64、84、91、219、243、245、249、287、290、300、211、312、314、316、345、371、372、398、426、418、435、466および472からなる群から選択されるgp120中のアミノ酸に対応する位置に1個以上のアミノ酸置換を含む。これらの位置での置換は、gp120とgp41、CD4およびコレセプターとの相互作用および続く抗体による中和に対する感受性に影響することが決定されている。
【0033】
本発明のHIV−1エンベロープタンパク質は、キメラエンベロープタンパク質でもよい。本明細書で使用される「キメラエンベロープタンパク質」は、第二のエンベロープタンパク質中の対応する配列または断片に置換されたアミノ酸配列の少なくとも1個の第一領域または断片を含有するエンベロープタンパク質を指す。一般に、これらのキメラエンベロープタンパク質は、当業界で周知の組換え法によって生成され、したがって自然には発生しない。第一の領域からの領域またはアミノ酸断片のサイズは、約5〜約800個のアミノ酸の範囲が可能である。一実施形態において、本発明は、抗体中和耐性エンベロープタンパク質の少なくとも1個の第一の断片、および抗体中和感受性エンベロープタンパク質由来の少なくとも1個の第二の断片を含む分離されたHIV−1エンベロープタンパク質を含む。一部の実施形態において、第一の断片はMN−P(配列番号2)などの抗体中和耐性エンベロープタンパク質に由来するが、抗体中和感受性エンベロープタンパク質の第二の断片は、MN−TCLA(配列番号4)に由来する。第二のエンベロープタンパク質中に置換できるエンベロープタンパク質からの領域またはアミノ酸断片の例は、アミノ酸約1〜約123、約123〜約212、約212〜約274、約274〜約367、約367〜約468、約468〜約517、約517〜約611、約611〜約759、および約759〜約858を含むが、これらに限定されるわけではない。
【0034】
一部の実施形態において、キメラHIV−1エンベロープは1個以上のアミノ酸置換を更に含む。これらの置換は、V1/V2、V3、V4、V5、C1、C2、C3、C4およびC5を含む、エンベロープタンパク質の1個または複数の領域にありうる。これらは、アミノ酸64、84、91、219、243、245、249、287、290、300、211、312、314、316、345、371、372、398、426、418、435、466および472から選択されるgp120におけるアミノ酸に対応する位置における1個以上のアミノ酸置換を含む。これらの置換の例は、V64A、Q84E、N243K、T245S、P249S、D287N、D290N、N311Y、Y312N、K314R、K316T、N371K、P372Q、V426I、K435N、E466NおよびD472Nを含むが、これらに限定されるわけではない。
【0035】
本発明のエンベロープタンパク質は、本明細書で述べる組換え法を含む既知の技法によって調製できる。加えてペプチドは、当業界で周知の固相合成技法を用いて調製できる。ペプチド合成技法の例は、例えばBodanszky et al.(1976)Peptide Synthesis,Wileyに見出せる。
【0036】
本明細書で使用されるエンベロープタンパク質は、異なるHIVからのエンベロープタンパク質を含む他の夾雑物からタンパク質が実質的に分離されたときに、「分離された」と言われる。
【0037】
核酸および組換えタンパク質発現
本発明のHIV−1エンベロープタンパク質は、真核または原核宿主細胞中の所望のタンパク質またはペプチドの組換え発現を含む、任意の利用可能な手段によって調製できる(米国特許第5,696,238号を参照)。精製用の本発明のタンパク質を生成する方法は、当業界の通常技量レベル内の従来の分子生物学、微生物学および組換えDNA技法を利用できる。そのような技法は、文献で十分に説明されている(例えばSambrook et al.(2001)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press;Glover(1985)DNA Cloning:A Practical Approach,IRL Pressを参照)。
【0038】
本発明は更に、本発明のHIV−1エンベロープタンパク質をコードする核酸分子を提供する。そのような核酸分子は、分離形であるか、または発現調節領域またはベクター配列に作動的に結合できる。本発明は更に、形質転換、形質移入、電気穿孔法または核酸を細胞内に導入する当業界で認識された他の任意の手段を介してベクターを含有する宿主細胞を提供する。
【0039】
本明細書で使用される「レプリコン」は、生体内でのDNA複製の自律単位として機能する(すなわちそれ自体の制御下の複製が可能である)任意の遺伝要素(例えばプラスミド、染色体、ウィルス)である。
【0040】
本明細書で使用される「ベクター」は、結合断片の複製を引き起こすために別の核酸(例えばDNA)断片が結合する、プラスミド、ファージまたはコスミドなどのレプリコンである。本発明のベクターはウィルスベクターを含む。
【0041】
本明細書で使用される「核酸」は、その一本鎖形または二重らせんのいずれかの、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチド(アデニン、グアニン、チミンおよび/またはシトシン)のポリマー形を指す。この用語は、分子の一次または二次構造のみを指し、特定の三次形に限定されない。それゆえ、この語は、線形DNA分子(例えば制限断片)、ウィルス、プラスミド、および染色体に見られる一本鎖RNAまたはDNA、二重鎖DNAを含む。特定の二重鎖DNA分子の構造を述べる場合、配列は本明細書では、DNAの非転写鎖(例えばmRNAと相同的である配列を有する鎖)に沿って5’〜3’方向の配列のみを与える通常の慣習に従って述べる。
【0042】
核酸「コード配列」は、適当な制御配列の制御下に置かれた場合、生体内で転写されポリペプチドに翻訳される二重鎖DNA配列である。コード配列の境界は、5’(アミノ)末端の開始コドンおよび3’(カルボキシ)末端の翻訳停止コドンによって決定される。ポリアデニル化シグナルおよび転写終止配列は通例、コード配列に対して3’に位置するであろう。
【0043】
転写および翻訳制御配列は、宿主細胞のコード配列の発現を供給するDNA制御配列、例えばプロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、ターミネーターなどである。
【0044】
本明細書で使用される「プロモーター配列」は、細胞中のRNAポリメラーゼと結合して、下流(3’方向)コード配列の転写を開始することができるDNA調節領域である。本発明を定義する目的で、プロモータ配列は転写開始部位によってその3’末端に(包括的に)結合され、上流(5’方向)に延伸して、バックグラウンドより上の検知可能なレベルで転写を開始するために必要な塩基または要素の最低数を含む。プロモーター配列内に、RNAポリメラーゼの結合に関与するタンパク質結合領域と同様に、転写開始部位が見出されるであろう。真核プロモーターは常にではないが、しばしば「TATA」ボックスおよび「CAT」ボックスを含有するであろう。
【0045】
コード配列は、RNAポリメラーゼがコード配列をmRNAに転写し、それがコード配列によってコードされるタンパク質に翻訳されるときに、転写および翻訳制御配列の「制御下に」ある。
【0046】
「シグナル配列」は、コード配列の前に含まれることができるか、またはエンベロープタンパク質由来の本来の29アミノ酸シグナルペプチド配列を使用できる。この配列は、宿主細胞に対して、ポリペプチドを細胞表面に導くように、またはポリペプチドを培地に分泌させるように伝えるシグナルペプチド、ポリペプチドのN末端、をコードする。このシグナルペプチドは、タンパク質が細胞から離れる前に宿主細胞によって切り取られる。シグナル配列は、原核細胞および真核細胞に固有の各種のタンパク質に結合されていることが見出される。例えば、未変性酵母タンパク質であるα因子は酵母から分泌され、そのシグナル配列は、培地に分泌される非相同性タンパク質に結合されることができる(米国特許第4,546,082号を参照)。更にα因子およびその類似物質は、サッカロマイセスおよびクリベロマイセスなどの各種の酵母から非相同性タンパク質を分泌することが見出されている(欧州特許第88312306.9号;欧州特許第0324274号 公報、および欧州特許第0301669号)。哺乳動物細胞での使用例は、第VIIIc因子軽鎖を発現させるために使用されるtPAシグナルである。
【0047】
細胞は、外因性または非相同性核酸が細胞内に導入されるときに、そのような核酸によって「形質転換」されている。形質転換核酸は、細胞のゲノムを構成する染色体DNAに組み込まれる(共有結合される)ことも、組み込まれないこともある。原核生物において、例えば、形質転換核酸は、プラスミドまたはウィルスベクターなどのエピソーム要素上に維持される。真核細胞に関して、安定して形質転換された細胞は、染色体複製を通じて娘細胞によって受け継がれるために、形質転換DNAが染色体に組み込まれるようになった細胞である。この安定性は、真核細胞が形質転換核酸を含有する娘細胞の個体群より成る細胞系またはクローンを確立する能力によって証明される。
【0048】
本明細書で使用される「細胞系」は、多くの世代にわたって生体外での安定成長が可能である一次細胞のクローンである。本明細書において、核酸配列は、ヌクレオチドの少なくとも85%(好ましくは少なくとも約90%および最も好ましくは少なくとも約95%)がDNA配列の定義長にわたって一致する場合に、「実質的に相同的」である。実質的に相同的である配列は、例えばその特定の系に対して定義された厳密な条件下でサザンハイブリダイゼーション実験において同定することができる。適当なハイブリダイゼーション条件を定義することは、当業界の技量の範囲内である。
【0049】
核酸構築物の「非相同性」領域は、自然界でより大きい分子と関連して見出されない、より大きな核酸分子内の核酸の同定可能な断片である。それゆえ非相同性領域が哺乳動物遺伝子をコードするとき、遺伝子は通例、ソース生物のゲノムにおいて哺乳動物ゲノムDNAに隣接しないDNAによって隣接されるであろう。非相同性コード配列の別の例は、コード配列自体が自然界に見出されない構築物である(例えばゲノムコード配列が、イントロン、または未変性遺伝子とは異なるコドンを有する合成配列を含有するcDNA)。
【0050】
ベクターは、更なる処理のための大量の核酸の調製のために(クローニングベクター)、あるいはペプチドのHIVエンベロープタンパク質の発現のために(発現ベクター)、HIVエンベロープタンパク質またはペプチドをコードする核酸の操作を簡単にするために使用される。ベクターは、プラスミド、ウィルス(ファージを含む)、および組込みDNA断片(すなわち組換えによって宿主ゲノムに組み込まれる断片)を含む。クローニングベクターは、発現制御配列を含有する必要はない。しかしながら、発現ベクター内の制御配列は、転写プロモーター、適切なリボソーム結合部位をコードする配列、ならびに転写および翻訳の終結を制御する配列などの、転写および翻訳制御配列を含む。発現ベクターは好ましくは、HIVエンベロープ遺伝子の安定発現を促進し、および/または形質転換細胞を同定するための選択遺伝子を含むべきである。しかしながら、発現を維持するための選択遺伝子は、真核宿主細胞を用いた同時形質転換系における独立ベクターによって供給することができる。
【0051】
適切なベクターは一般に、レプリコン(非組込みベクターでの使用のための複製開始点)および意図する発現宿主に適合性のある種に由来する制御配列を含有するであろう。本明細書において、「複製可能な」ベクターという語によって、宿主ゲノムへの組込みによって複製されるベクターと同様に、そのようなレプリコンを含有するベクターを含むことが意図される。形質転換宿主細胞は、HIVエンベロープペプチドまたはタンパク質をコードする核酸を含有するベクターによって形質転換または形質移入された細胞である。発現されたHIVエンベロープタンパク質またはペプチドは、発現ペプチド(例えば、相同性または非相同性シグナル配列)における適切な処理シグナルの制御下で、培養上澄中に分泌される。
【0052】
宿主細胞の発現ベクターは通常、複製開始点、HIVエンベロープタンパク質またはペプチドコード配列から上流に位置するプロモーターを、リボソーム結合部位、ポリアデニル化部位、および転写終結配列と共に含む。当業者は、これらの配列の一定のものは一定の宿主での発現にとって必要ないことを認識するであろう。微生物との使用のための発現ベクターは、宿主によって認識される複製開始点、宿主内で機能するプロモーター、および選択遺伝子のみを含有する必要がある。
【0053】
通常使用されるプロモーターは、ポリオーマ、ウシパピローマウィルス、CMV(サイトメガロウィルス、ネズミまたはヒト)、ラウス肉腫ウィルス、アデノウィルス、およびシミアンウィルス40(SV40)に由来する。他の制御配列(例えばターミネーター、ポリA、エンハンサー、または増幅配列)も使用できる。
【0054】
発現ベクターは、HIV−1エンベロープタンパク質またはペプチドコード配列が適当な制御配列を有するベクター内に位置するように作成され、制御配列に対するコード配列の位置決めおよび向きは、コード配列が制御配列の「制御」下で転写および翻訳されるようになっている(すなわち制御配列においてDNA分子に結合するRNAポリメラーゼは、コード配列を転写する)。制御配列は、上述したクローニングベクターのようなベクターへの挿入前にコード配列に連結できる。あるいはコード配列は、制御配列および適当な制限部位をすでに含有する発現ベクター内に直接クローニングできる。選択した宿主細胞が哺乳動物細胞である場合、制御配列はHIV−1エンベロープタンパク質コード配列に対して非相同性または相同性でもよく、コード配列はイントロンを含有するゲノムDNAまたはcDNAのどちらでもよい。
【0055】
高等真核細胞の培養物を用いて、昆虫を含む、脊椎動物または無脊椎動物の細胞のどちらからも本発明のタンパク質を発現させることができ、その増殖方法は既知である。
【0056】
哺乳動物組織で発現される場合、組換えHIV遺伝子生成物は、グリコシル化によって予想されるよりも高い分子量を持つことが認識されるであろう。したがって、160、120または41キロダルトンとは多少異なる分子量を有するHIVエンベローププレタンパク質またはペプチドの部分的または完全グリコシル化形が本発明の範囲内であることが意図される。
【0057】
他の発現ベクターは、真核系での使用のための発現ベクターである。例示的な真核発現系は、当業界で周知のワクシニアウィルスを使用する系である(例えば国際公開公報第86/07593号を参照)。酵母発現ベクターは当業界で既知である(例えば米国特許第4,446,235号および第4,430,428号を参照)。別の発現系は、チャイニーズハムスター卵巣細胞を形質転換するベクターpHSIである(国際公開公報第87/02062号を参照)。哺乳動物組織は、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)またはチミジンキナーゼなどの選択マーカーをコードするDNA、およびHIVエンベロープタンパク質またはペプチドをコードするDNAを用いて同時形質転換できる。野生型DHFR遺伝子が利用される場合、DHFRが欠乏している宿主細胞を選択することが好ましく、それゆえヒポキサンチン、グリシンおよびチミジンが欠乏したhgt培地でのDHFRコード配列の使用が成功する形質移入のマーカーとして許容される。
【0058】
選択した発現系および宿主に応じて、HIVエンベロープタンパク質またはペプチドは、上述の発現ベクターなどの外因性または非相同性DNA構築物によって形質転換された宿主細胞を、HIVエンベロープタンパク質が発現される条件下で増殖させることによって生成される。HIVタンパク質またはペプチドは次に、宿主細胞から分離され、精製される。発現系がタンパク質またはペプチドを増殖培地に分泌したら、タンパク質は無細胞培地から直接精製することができる。適当な増殖条件および初期粗製物回収方法の選択は当業界の技能の範囲内である。
【0059】
本発明のHIVエンベロープタンパク質またはペプチドのコード配列がいったん調製または分離されると、適切なベクター内にクローニングして、それによってどのHIVエンベロープタンパク質コード配列も含有しない細胞を実質的に含まない、細胞の組成物中に保持することができる。上述したように、各種のクローニングベクターが当業者に既知である。
【0060】
ワクチン組成物
ワクチンまたは免疫原性組成物中で使用する場合、本発明のHIVエンベロープタンパク質は、「サブユニット」または他のワクチンまたは免疫原として使用できる。そのようなワクチンまたは免疫原は、安全性および製造コストの点で従来のワクチンに勝る著しい利点を提供する;しかしながらサブユニットワクチンは、ホールウィルスワクチンよりもしばしば免疫原性が低く、その全潜在能力を及ぼすために、著しい免疫活性化能力を備えたアジュバントを添加することが期待される。
【0061】
「サブユニットワクチン」という用語は本明細書で、当業界においてと同様に、ウィルスを含有するのではなく、むしろ1個以上のウィルスタンパク質またはウィルスタンパク質断片を含有するウィルスワクチンを指す。本明細書で使用される「多価」という用語は、ワクチンが少なくとも2個の異なるHIV−1アイソレート由来の修飾gp120を含有することを意味する。
【0062】
現在、米国でヒトへの使用が承認されたアジュバントは、アルミニウム塩(alum)を含む。これらのアジュバントは、B型肝炎、ジフテリア、ポリオ、狂犬病、およびインフルエンザを含む一部のワクチンに有用である。他の有用なアジュバントは、フロイント完全アジュバント(CFA)、フロイント不完全アジュバント(IFA)、ムラミルジペプチド(MDP)、MDPの合成類似物質、N−アセチルムラミル−L−アラニル−D−イソグルタミル−L−アラニン−2−[1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−(ヒドロキシ−ホスホリルオキシ)]エチルアミド(MTP−PE)、ならびに代謝可能な油および乳化剤であって、実質的にすべてが直径1ミクロン未満の油滴を有する水中油型エマルジョンの形で存在する油および乳化剤を含有する、組成物を含む(例えば欧州特許第0399843号を参照)。
【0063】
本発明のワクチンまたは免疫原性組成物の製剤は、タンパク質またはペプチド抗原の有効量を利用する。すなわち、任意の種類のHIVへの続いての暴露からの保護を対象者に与えるために、アジュバントと併用して、対象者に特異的かつ十分な免疫反応を生じさせる抗原の量が含まれるであろう。免疫原性組成物として使用される場合、製剤はアジュバントと併用して、対象者に診断または治療目的で使用される特異性抗体を生じさせる抗原の量を含有するであろう。
【0064】
本発明のワクチン組成物は、HIV−1感染の予防または治療に有用である。HIV−1に罹患しうるすべての動物をこの方法で治療できるが、本発明はもちろん、本発明のワクチンのヒトでの予防および治療使用に特に向けられている。所望の予防または治療効果を引き起こすためには、しばしば1回を超える投与が必要とされる;正確なプロトコル(投薬量および頻度)は、標準臨床手順によって確立することができる。
【0065】
ワクチン組成物は、ワクチンを動物に導入する従来の任意の方法で投与され、通例は注射によって投与される。経口投与では、ワクチン組成物はインスリンなどの他のタンパク性物質の経口投与に使用される形と同様の形で投与できる。上述したように、予防または治療の使用のための正確な量および製剤は、抗原の固有の純度および活性の状況、追加の成分または担体、投与方法などによって変わる可能性がある。
【0066】
非限定的な例示のために、投与されるワクチン投薬量は通例、gp120抗原に関しては最低約0.1mg/用量、更に通例は最低約1mg/用量、およびしばしば最低約10mg/用量となるであろう。最大投薬量は通例、それほど重要ではない。しかしながら通例、投薬量は約1mg/用量以下、通例500mg/用量以下、しばしば250mg/用量以下であろう。これらの投薬量は、投薬量を保持するのに十分な体積の適当な薬学的ビークルまたは担体中に懸濁できる。一般に担体、アジュバントなどを含む最終体積は通例、少なくとも0.1ml、更に通例、少なくとも約0.2mlとなる。上限は、投与される量の実用性に支配され、一般に約0.5ml〜約1.0ml以下である。
【0067】
gp120のCD4、gp41またはコファクター結合領域のいずれかなどの、エンベロープタンパク質の領域に対応する本発明のペプチドは、同じ領域の多量体または異なる領域の多量体を含む化合物または組成物に構築または製剤化することができる。例えばV5領域に対応するペプチドは、システイン残基の酸化によって環状化して、1、2、3、4個またはそれ以上の個別のペプチドエピトープを含有する多量体を形成することができる。環状形は、空気酸化などの標準酸化手順によってジスルフィド結合を形成するためにシステイン残基を酸化することによって得られる。
【0068】
本発明の合成ペプチドは、エンベロープタンパク質にてそれらが発生するときの部分の形態を模倣するために環状化できる。環状化は、既存のシステイン残基間のジスルフィドブリッジによって促進される。システイン残基は、エンベロープタンパク質に由来するペプチドの部分に隣接するペプチド上の位置にも含まれる。あるいは、エンベロープタンパク質に由来するペプチドの部分内のシステイン残基は、そのような残基を包含するジスルフィドブリッジの形成を除去するために、削除および/または保存的に置換できる。ペプチドを環状化する他の手段も周知である。ペプチドは、アミノおよびカルボキシ末端における、またはその近傍などの、ペプチドのアミノ酸残基間の、アミド結合などの共有結合によって環状化できる(例えば米国特許第4,683,136号を参照)。
【0069】
別の形式では、ワクチンまたは免疫原性組成物は、宿主動物において本発明のHIVエンベロープタンパク質またはペプチドを発現するワクチンベクターとして調製できる。ワクシニアウィルス、ベネズエラウマ脳炎ウィルスレプリコンを含む、入手可能ないずれのワクチンベクターも使用できる(例えば米国特許第5,643,576号を参照)。あるいは、抗原の発現を行うために、本発明のタンパク質またはペプチドをコードする裸の核酸を直接投与できる(例えば米国特許第5,739,118号を参照)。
【0070】
ワクチンでの使用のためのgp120の調製は周知であり、以下に述べる。修飾エンベロープタンパク質の使用を除いて、本方法で調製したワクチンは、従来技術のgp120サブユニットワクチンと異なる必要はない。
【0071】
従来技術のgp120サブユニットワクチンと同様に、所望の純度で抗体形成を誘発するために十分な濃度のgp120を生理的に許容される担体と混合する。生理的に許容される担体は、ワクチンに利用される投薬量および濃度ではレシピエントに対して非毒性である。一般にワクチンは注射用に、通例、筋肉内注射用または皮下注射用に製剤化される。注射に適切な担体は滅菌水を含むが、好ましくは普通の生理食塩水などの生理的塩溶液、あるいはリン酸緩衝生理食塩水または乳酸リンゲルなどの緩衝塩溶液である。ワクチンは一般に、アジュバントを含有する。有用なアジュバントは、細胞傷害性T細胞およびalum(水酸化アルミニウムアジュバント)を刺激するQS21を含む。細胞または局所免疫を向上させる各種のアジュバントを用いた製剤も使用できる。
【0072】
ワクチンに存在しうる追加の賦形剤は、低分子量ポリペプチド(約10個未満の残基)、タンパク質、アミノ酸、グルコースまたはデキストランを含む炭水化物、EDTAなどのキレート剤、および他の賦形剤を含む。
【0073】
ワクチンは、他のHIVタンパク質も含有することができる。特にgp41またはgp41の細胞外部分は、ワクチン中に存在することができる。gp41は保存されたアミノ酸配列を有するため、ワクチン中に存在するgp41は、どのHIVアイソレート由来でもよい。ワクチンで使用されるアイソレート由来のgp160は、ワクチン中のgp120を置換できるか、またはアイソレート由来のgp120とともに使用できる。あるいは、ワクチンアイソレートとは異なる中和エピトープを有するアイソレート由来のgp160は更にワクチン中に存在できる。
【0074】
ワクチン製剤は一般に、好都合に、担体約1.0ml中に総量約300〜600μgのgp120を含む。ワクチン中に存在する任意のアイソレートのgp120の量は、gp120の免疫原性によって変化するであろう。多価ワクチン中の免疫原性タンパク質の相対量を決定する方法は周知であり、例えば多価ポリオワクチン中の各種のアイソレートの相対比率を決定するために使用されている。
【0075】
本発明のワクチンは、従来技術のHIV gp120サブユニットワクチンと同様の方法で投与できる。特に、ワクチンはプロトコルに応じて、一般に0、1、6、8または12ヶ月に投与される。免疫化手順の後、年1回または年2回の追加免疫を投与することができる。しかしながら免疫化プロセスの間およびその後、中和抗体レベルをアッセイして、それに従ってプロトコルを調整することができる。
【0076】
ワクチンは未感染の個人に投与できる。加えてワクチンは、従来技術のHIVワクチンと同様に、ウィルスへの免疫反応を向上させるために血清反応陽性の個人に投与することができる。宿主での発現のために、ワクチン用のgp120の系統をコードするDNAを適切なビークルに投与できることも検討される。この方法では、gp120が感染宿主にて生成可能であり、反復免疫化の必要性を除去する。
【0077】
当業者は、更なる説明なしに、以上の説明および以下の実例となる実施例を使用して、本発明の化合物を作成および利用して、特許請求された方法を実施できると考えられる。以下の実施例は、本発明の実施形態を説明し、開示の残りを決して限定するものと解釈すべきではない。
【実施例】
【0078】
(実施例1)
シュードタイプウィルス構築、感染価測定および中和アッセイ
各種のenvプラスミドに由来するエンベロープ糖タンパク質によってシュードタイプ化されたウィルスを、前に述べられているように、pSV7d−envおよびpNL−Luc−E−R−を用いて構築した(Park et al.(1998)J.Virol.72,7099−7107;Conner et al.(1996)J.Virol.70,5306−5311)。envプラスミドDNAおよびpNL−Luc−E−R−を、リン酸カルシウム形質移入によって50%コンフルエント293T細胞(Promega社)に導入した。培養培地は、形質移入の18時間後に1μM酪酸ナトリウムを含有する新しい培地と交換した。形質移入の48時間後、シュードタイプウィルスを含有する上澄を回収し、45μm孔径フィルターによって濾過し、ただちに感染性および中和アッセイに使用した。あるいは、濾過したシュードタイプウィルスは、更にウシ胎仔血清を最終濃度20%まで添加し、−80℃にて保管した。シュードタイプウィルスの感染性を測定するために、HOS−CD4−CXCR4細胞を用いた発光アッセイを使用した。細胞(1.5×10/ml)を、U底ウェルの96ウェルプレート中で連続希釈したシュードタイプウィルスを用いて接種した。培養物は37℃にて3日間インキュベートして、その後、細胞を冷リン酸緩衝生理食塩水で洗浄し、溶解緩衝液(Promega社)15μlを用いて溶解させた。ルシフェラーゼ活性は、Luminoscan luminometer(Labsystem社)で読み取った。
【0079】
感染から生じた発光は、MN−TCLAに比較した比として表現した。相対感染性は、所与のyについてX/XMN−TCLAとして決定し、接種希釈物の関数として対数変換ルシフェラーゼ活性決定(光単位)の回帰分析によって決定した最良適合ラインを用いて計算した。各シュードタイプウィルスの中和表現型は、連続希釈血清の25μl分割量を適切なシュードタイプウィルスの等量と混合し、4℃にて1時間インキュベートして、その後、HOS−CD4−CXCR4細胞を添加したことを除いて、感染性アッセイと同様の方法で試験した。シュードタイプウィルス希釈物を選択して、バックグラウンドの約100倍の非免疫性血清の存在下で発光を生成した。中和終点は、非中和対照と比較して90%の発光低下を引き起こすと計算された最高の血清希釈度と見なした。ヒト中和血清2(HNS2)および陰性参照血清を基準中和および非中和血清としてそれぞれ使用した(National Institutes of Health AIDS Research and Reference Reagent Program(ARRRP 1983 and 2411),Vujcic et al.(1995)AIDS Res.Hum.Retroviruses 11,783−787)。
【0080】
(実施例2)
キメラエンベロープ糖タンパク質遺伝子の構築
複数のキメラenvクローンは、以前に述べられたように、中和感受性のMN−TCLA、および中和耐性のMN−P親envクローンの断片を交換することによって構築した(Park et al.(1998)J.Virol.72,7099−7107)。pSV7dベクターにすべてのキメラenv遺伝子をクローニングし、ABI PRISMビッグダイ−ターミネーター法によって配列決定した(Applied Biosystems3100 Genetic Analyzer)。解析は、EditSeqおよびMegAlignプログラム(DNAStar社)を用いて実施した。特異的制限酵素およびその認識配列の位置を図2に示す。ヌクレオチド位置は、MNCG配列(Gurgo et al.(1988)Virology 164,531−536)に基づいて番号付けされる。キメラAおよびBは、プラスミドをEcoRI(pSV7d中のenv開始コドンの上流)およびSacI(ヌクレオチド1550)で消化することによって構築した。SacI部位がgp120とgp41との間の開裂部位からアミノ酸4個下流に位置するため、キメラAは、MN−TCLAからのgp120の配列全体を、MN−Pからの領域(gp41)の残りと共に含有する。
【0081】
キメラC、D、EおよびFは、MN−TCLAおよびMN−Pの両方のヌクレオチド1550および2275におけるSacI−SalI断片(725ヌクレオチド)をpUC19に最初にサブクローニングして構築した。生成物をそれぞれpUC19/MN−TCLAenvまたはpUC19/P37envと呼んだ。キメラCを構築するには、pUC19/P37envのSacI−BsmI断片(267ヌクレオチド)をpUC19/MN−TCLAenvのBsmI−SacI断片と連結した。生成物をpUC19/envCと呼んだ。次にpUC19/envCのSacI−SalI断片(725ヌクレオチド)をMN−TCLAの大型SacI−SalI断片(4493ヌクレオチド)と連結した。キメラDを作成するために、pUC19/MN−TCLAenvのSacI−BsmI断片(267ヌクレオチド)をpUC19/P37envのBsmI−SacI断片と連結した。生成物をpUC19/envDと呼んだ。次にpUC19/envDのSacI−SalI断片(725ヌクレオチド)をMN−TCLAの大型SacI−SalI断片(4493ヌクレオチド)に連結した。キメラEを作成するために、pUC19/envDのSacI−SalI断片(725ヌクレオチド)をMN−Pの大型SacI−SalI断片(4514ヌクレオチド)に連結した。キメラFを作成するために、pUC19/envDのSacI−SalI断片(725ヌクレオチド)をMN−Pの大型SacI−SalI断片(4514ヌクレオチド)に連結した。キメラGおよびHは、大型および小型のBglII−BglII断片571および4668ヌクレオチドをそれぞれ、MN−PとMN−TCLAとの間で交換することによって構築した。キメラGCを構築するために、キメラCのSacI−SalI断片(725bp)をキメラG(4493ヌクレオチド)の大型SacI−SalI断片と連結した。
【0082】
キメラGDを作成するために、キメラDのSacI−SalI断片(725ヌクレオチド)をキメラHの大型SacI−SalI断片(4493ヌクレオチド)に連結した。キメラHCを作成するために、キメラCのSacI−SalI断片(725ヌクレオチド)をキメラHの大型SacI−SalI断片(4514ヌクレオチド)に連結した。キメラHDは、キメラDのSacI−SalI断片(725ヌクレオチド)をキメラHの大型SacI−SalI断片(4514ヌクレオチド)に連結して作成した。キメラIは、キメラGDのBamHI−Bsu36I断片(1324ヌクレオチド)をMN−TCLAの大型Bsu36I−BamHI断片(3894ヌクレオチド)と連結することによって構築した。キメラJを作成するために、キメラBのBsu36I−SalI断片(1175ヌクレオチド)をMN−TCLAの大型SalI−Bsu36I断片(4043ヌクレオチド)と連結した。キメラKを作成するために、キメラCのSacI−SalI断片(725ヌクレオチド)をキメラIの大型SalI−SacI断片(4493ヌクレオチド)と連結した。キメラLを作成するために、キメラCのSacI−SalI断片(725ヌクレオチド)をキメラJの大型SalI−SacI断片(4493ヌクレオチド)と連結した。キメラMは、キメラDのSacI−SalI断片(725ヌクレオチド)をキメラIの大型SalI−SacI断片(4493ヌクレオチド)と連結することによって構築した。キメラNを作成するために、キメラDのSacI−SalI断片(725ヌクレオチド)をキメラJの大型SalI−SacI断片(4493ヌクレオチド)と連結した。
【0083】
以下の8個のキメラは、考えられるgp120−gp41相互作用を考察するために構築した。キメラOを構築するために、MN−PのBamHI−DraIII断片(592ヌクレオチド)をキメラCの大型DraIII−BamHI断片(4626ヌクレオチド)と連結した。キメラPを作成するために、キメラHを最初に変異させてEcoRV部位をヌクレオチド636に導入し、キメラH(+EcoRV)を形成した。キメラH(+EcoRV)のDraIII−EcoRV断片(268ヌクレオチド)を次に、キメラCの大型EcoRV−DraIII断片(4950)と連結した。キメラQを作成するために、キメラH(+EcoRV)のEcoRV−SacI断片(914ヌクレオチド)をキメラCの大型SacI−EcoRV断片(4304ヌクレオチド)に連結した。このクローンをQaと呼んだ。QaのEcoRV部位を次に除去してキメラQの構築を完了させた。キメラRを作成するために、キメラQを最初に変異させてEcoRV部位をヌクレオチド636に導入した。キメラO(+EcoRV)のBamHI−EcoRV断片(636ヌクレオチド)をキメラQの大型BamHI−EcoRV断片(4577ヌクレオチド)と連結した。
【0084】
最後にEcoRV部位をキメラQ配列のヌクレオチド636に戻し変異させて、キメラRの構築を完了した。キメラSは、キメラCを最初に変異させて4個の変異、300K/N、345R/S、398P/Sおよび418N/Sを導入することによって構築した。次に4個の変異を含有するキメラCのBglII−BglII断片(571ヌクレオチド)をキメラRの大型BglII−BglII断片(4642ヌクレオチド)と連結した。4個の変異を含有するキメラCの同じBglII−BglII断片(571ヌクレオチド)は、キメラTを作成するためにMN−TCLAの大型BglII−BglII断片(4642ヌクレオチド)にも連結した。キメラUを作成するために、MN−PのBamHI−DraIII断片(368ヌクレオチド)をMN−TCLAの大型BamHI−DraIII断片(4845ヌクレオチド)と連結した。キメラVを作成するために、キメラRのBamHI−SacI断片(1550ヌクレオチド)をMN−TCLAの大型BamHI−SacI断片(3663ヌクレオチド)と連結した。
【0085】
部位特異的変異誘発手順は、pfuポリメラーゼ(Quick Change Mutagenesis Kit,Stratagene社)を製造者の指示に従って使用して実施した。反応は自動サーマルサイクラー(Perkin−Elmer model 2400)で実施した。ヌクレオチド配列は、ABI PRISMビッグダイ−ターミネーター法(Applied Biosystems3100 Genetic Analyzer)を用いて配列決定により確認した。
【0086】
追加のミュータントエンベロープ遺伝子は、親遺伝子のそれぞれの特異的断片または配列を含有するように構築した。キメラCの構築は、既に述べられている。キメラPは、キメラCのVl/V2領域配列をMN−Pからの対応する配列に置換することによって構築した。キメラPの構築を準備するために、変異によってEcoRV部位をMN−P配列にヌクレオチド636にて導入した。修飾MN−P配列からのDraIII−EcoRV配列を、キメラCの対応する部位に移した。キメラP/7CD4b(以下で定義)は、キメラC/7CD4b(以下で定義)からのEcoRV−SacI断片をキメラPの対応する部位に移すことにより構築した。
【0087】
変異誘発手順は、前に述べたように製造者の指示に従って、単一または二重ヌクレオチド変化およびPfuポリメラーゼによって設計されたプライマー(Stratagene社のQuick Change Mutagenesis Kit)を用いて実施した(Dong et al.(2003)J.Virol.77,3119−3130)。反応は、自動サーマルサイクラー(Perkin−Elmer model 2400)で実施した。導入された各変異のヌクレオチド配列は、ABI PRISMダイ−ターミネーター法(Perkin−Elmer)を使用した配列決定によって確認した。
【0088】
(実施例3)
シュードウィルス構築および感染性および中和についてのアッセイ
各種のenvプラスミドに由来する、エンベロープ糖タンパク質を発現するシュードウィルスは、以前述べられているように、pSV7d−envおよびpNL4−3.Luc.E−R−プラスミドを用いて構築した(Leavitt et al.(2003)J. Virol.77,560−570;Park & Quinnan(1999)J.Virol.73,5707−5713;Park et al.(1998)J.Virol.72,7099−7107;Park et al.(2000)J.Virol.74,4183−4191)。簡潔に説明すると、envプラスミドおよびpNL4−3.Luc.E−R−DNAは、リン酸カルシウム法(Promega社)によって、30%コフルエント293T細胞培養物中に同時形質移入した。培地は、形質移入の18〜24時間後に1μM酪酸ナトリウムを含有する新鮮な培地と交換した。形質移入の44〜48時間後に、シュードウィルスを含有する上澄を回収し、45pm孔径滅菌フィルタ(Millipore社)で濾過し、最終濃度20%までウシ胎仔血清を添加して、ただちに使用しない場合には−80℃にて保管した。シュードウィルスの感染性を測定するために、HOS−CD4−CXCR4細胞を用いた発光アッセイを以前述べられているように使用した。HOS−CD4−CXCR4細胞(1×10細胞/ml)を、平底ウェルの96ウェルプレート内にて連続希釈シュードウィルスで接種した。培養物を、5%二酸化炭素、37℃にて3日間インキュベートし、その後、細胞を150μlのリン酸緩衝生理食塩水(pH7.4)で洗浄し、15μlの細胞溶解緩衝液(Promega社)によって30分間溶解させた。各ウェルにおけるルシフェラーゼ活性の量は、基質(Promega社)50μlを用いて、EG&G Berthold MicroLumat Plus照度計(Wallac社)で決定した。
【0089】
各シュードウィルスの中和表現型は、連続希釈血清または抗体の分割量を適当に希釈したシュードウィルスと混合して、4℃にて1時間インキュベートし、その後、HOS−CD4−CXCR4細胞懸濁物を添加して、5%二酸化炭素、37℃にて3日間インキュベートすることを除いて、感染性アッセイと同様の方法で試験した。
【0090】
(実施例4)
gp120解離アッセイおよびELISA
自発的およびリガンド誘導gp120解離は、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)によって評価した。簡潔に説明すると、形質移入細胞培養物の上澄中のシュードタイプウィルスを濾過し、21,130×g、4℃で2時間の遠心分離によって沈降させ(米国Tomy Tech社)、予め冷却したPBSを用いて遠心分離により1回洗浄し、最初の体積の40分の1の10%FBSによってPBS中で再懸濁させた。シュードタイプウィルスをペレットとして、またはスクロースクッション上に、次にペレットに沈降させたときに、同様の結果を得る(Park et al.(2000)J.Virol.74,4183−4191;Park et al.(1999)J.Virol.73,5707−5713)。
【0091】
濃縮シュードタイプウィルスの各分割量を5μg/mlのsCD4またはPBSによって37℃にて1時間インキュベートした。次にシュードタイプ粒子を解離gp120から21,130×gでの2時間の遠心分離によって分離した。gp120解離のレベルは、ELISAによって測定した上澄およびペレットの試料中のgp120抗原を比較して決定した。上澄およびペレットの両方のp24抗原の量も測定した。ELISAアッセイは、前に述べられているように抗原捕捉によって実施した(Park et al.(2000)J.Virol.74,4183− 4191;Park et al.(1999)J.Virol.73,5707−5713)。簡潔に説明すると、Immulon−2マイクロタイタープレートの各ウェル(Dinex Technology社)をヒト抗HIV−1 IgGでコーティングした。溶解緩衝液中で調製し、ブロッキング試薬中で希釈した抗原を利用して、結合した抗原をヒツジ抗gp120またはウサギ抗p24抗体のどちらかを使用して検出した。結合検出抗体は、ビオチン化抗ヒツジ(Vector Laboratories社)または抗ウサギ抗体を、続いてアビジン抱合ホースラディッシュペルオキシダーゼ(Vector Laboratories社)および次にオルトフェニレンジアミン(Abbot Diagnostics Laboratories社)またはTMB(Kirkegaard and Perry Laboratories社)基質現像をそれぞれ用いてアッセイした。アッセイで使用した標準抗原対照は、それぞれNIH−ARRRPより得たp24およびMN系統gp120(それぞれARRRP382および3927)の連続希釈物より構成された。
【0092】
(実施例5)
gp120原子構造におけるgp120コア変異の位置
使用したPDFファイルは、Protein Data Bank 1GC1(Kwong et al.(1998)Nature 393,630− 631、参照によりその全体が本明細書に組み入れられている)からのものである。変異の位置を表す図は、PCMolecule2(バージョン2.0.0 Molecular Ventures,Inc.)およびCorelDraw(バージョン8.369)を用いて描画した。
【0093】
(実施例6)
一次MNクローンのヌクレオチドおよびアミノ酸配列
一次MNウィルスプールに由来する2個のクローンを、ウィルス粒子に対してシュードタイプ化したときに感染性アッセイにおいて機能性であることにもとづいて選択した。これらのクローンは、MN−PおよびMN−P14と命名した。これらのenv遺伝子のヌクレオチド配列を決定し、予測したアミノ酸配列を前に述べられているように、図1に示すように、MN−TCLAおよびMN−E6クローンのアミノ酸配列と比較した(Park et al.(2000)J.Virol.74,4183−4191;Park et al.(1999)J.Virol.73,5707−5713)。MN−TCLAおよびMN−E6クローンは、相互に98%類似であったが、MN−PおよびMN−P14クローンに対してはわずか91.5〜92.5%類似であった。MN−PおよびMN−P14クローンは相互に95.6%類似であった。MN−PまたはMN−P14クローンがMN−TCLAクローンと異なった88個のアミノ酸残基のうち、MN−PおよびMN−P14クローンはどちらも64残基において変化した。加えて、MN−PおよびMN−P14クローンの両方が、余分なジスルフィド結合が考えられる余分なシステイン残基を生じた可変領域1(V1)における異常な挿入性変異を有していた。どちらの場合においても、この挿入変異が重複変異から生じたと思われた。それゆえMN−Pクローンは、MN−P14クローンと同様であり、それらが由来したウィルス擬似種混合物中に存在する他のクローンと同じ意味で合理的に典型であると思われる。
【0094】
gp120における高度中和耐性MN−Pおよび中和感受性MN−TCLAクローンを比較して見出された多型性は、gp120のC1領域の3個、Vl/2領域の7個、C2領域の7個、V3領域の4個、C3領域の3個、V4領域の2個、C4領域の2個、およびV5領域の2個を含む。gp41の多型性は、ジスルフィド結合ループに対して近位のgp41のアミノ末端断片における7個を含み、この領域の大半は、融合活性状態において構造がαヘリックスであり、該領域は本明細書において以後、ロイシンジッパー領域(LZ)と呼ばれ、膜近傍αヘリックス領域(AH)に7個、膜貫通(TM)に1個、および細胞質尾部(CT)に9個である。
【0095】
MN−Pクローンは、変異がMN−E6およびMN−TCLAの中和耐性表現型の相違を引き起こすとして報告された6個の残基のうち5個でMN−TCLAと異なった(Park et al.(2000)J.Virol.74,4183−4191)。これらの残基のうち3個において、MN−PおよびMN−E6をMN−TCLAから区別する変異は同じであり、V420I、N564H、およびQ582Lであった。2個の残基において、MN−PおよびMN−E6をMN−TCLAから区別する変異は異なり、I460E/NおよびL544P/Qであった。それゆえMN−E6は、MN−Pクローンの共通の祖先であり、MN−TCLAウィルスプールに残留していた、擬似種混合物中のクローンに由来したかもしれない。
【0096】
(実施例7)
MN−Pの中和耐性および高感染性表現型
MN−PおよびMN−TCLAクローンならびにそれらに由来する各種のキメラ遺伝子の中和感受性および感染性を図2に示す。示された感染性および中和の結果は、MN−TCLAおよびMN−Pクローンの8回の比較試験の平均結果である。示された他のクローンそれぞれについて示した結果は、クローン当たり3〜5回の試験の平均結果である;これらの試験のそれぞれ1回は、MN−TCLAおよびMN−Pクローンを比較して示した実験の1つに含まれていた。加えて、本節で直接比較を行うクローンはそれぞれ、クローンが直接比較される反復実験に含まれていた。MN−Pクローンは、HOS−CD4−CCR5細胞中でMN−TCLAクローンよりも1250倍感染性が高く、標準血清HNS2による中和に対して256倍の耐性であった。MN−Pの中和耐性および感染性は、試験を行った他の一次HIV−1エンベロープのそれらの特性と同様である(Zhang et al.(2002)J.Virol.76,644−655;Zhang et al.(1999)J.Virol.73,5225−5230)。
【0097】
キメラクローンは、MN−Pの高い感染性および中和耐性表現型の原因であるMN−P遺伝子の領域の評価を可能にするために構築された。キメラAは、MN−TCLAからgp120−gp41開裂部位のコード配列の4コドン下流に位置するSacI部位までその5’配列を、そしてMN−Pからその3’配列を抽出した。MN−PおよびMN−TCLAと比較して、それは感染性および中和耐性が一貫して中間であった。キメラBは、MN−PからSacI部位までその5’配列を、MN−TCLAからその3’配列を抽出した。それはキメラAよりも感染性および中和耐性が低かったが、MN−TCLAよりもわずかに感染性および中和耐性が高かった。これらの結果は、gp120およびgp41の両方における配列が、MN−Pの高感染性、中和耐性表現型に寄与することを示す。
【0098】
以前の研究は、MN−E6クローンの高感染性、中和耐性表現型がgp120のカルボキシ末端領域およびgp41のLZ領域の機能的相互作用に帰することを証明した。キメラCおよびFは、MN−PのLZ領域の重要性の試験を許容するために構築した。MN−TCLAへのMN−PのLZ領域の導入によって作成されたキメラCは、MN−TCLAと比べて中和耐性および感染性をわずかに上昇させた。反対に、MN−TCLAに由来するLZ領域を備えたMN−P配列でほぼ構成されるキメラFも、MN−TCLAよりもわずかだけ感染性および中和耐性であった。これらの結果は、MN−Pの高感染性、中和耐性表現型がLZ配列に依存するが、この配列が表現型を与えるのに十分でないことを証明した。
【0099】
LZ配列とのgp120のアミノ末端の機能的相互作用は、キメラC、F、HCおよびHDの比較により評価した。キメラHCは、MN−P gp120のアミノ末端ならびにMN−P gp41のアミノ末端および細胞質尾部からの配列をMN−TCLAバックグラウンドに組み込んだ。キメラHCはキメラCまたはFよりも、実質的に高感染性および中和耐性であった。キメラHCのこれらの表現型特性がgp120のアミノ末端およびgp41のLZ領域の機能的相互作用を反映すると考えられる。gp41の細胞質領域が表現型効果の一部に寄与しうる可能性は、まだ判定されていない。
【0100】
gp120のカルボキシ末端およびLZ領域の機能的相互作用の可能性は、キメラC、G、H、およびGCの比較によって示す。キメラGおよびMN−TCLAの間に比較的小さな相違があったが、キメラGCは実質的に、より感染性および中和耐性であった。これらの比較は、キメラGCの比較的高い感染性、中和耐性表現型が、gp120のカルボキシ末端およびLZの間の機能的相互作用によることを示す。キメラI、J、K、L、M、およびNの試験結果は、中和耐性、高感染性表現型に寄与する機能的相互作用がMN−P gp120のカルボキシ末端およびLZの異なる領域間で発生するという解釈を更に裏付けている。
【0101】
キメラA、C、D、GD、E、およびHDの比較は、gp41のAH領域とLZ領域との機能的相互作用を示した。キメラAは、MN−P gp41全体の配列を含有し、キメラCまたはDのどちらよりも実質的により感染性および中和耐性であった。キメラDは、gp41外部領域のAHをコードするMN−P配列を含有した。反対にキメラEは、AH領域を除いて全体にMN−P配列を有し、MN−Pよりも著しく低い感染性であった。キメラGDおよびHDはMN−P AH配列をLZ領域を除くMN−Pの他の領域からの配列と組み合せ、相補性は観察されなかった。これらの結果は、MN−Pの中和耐性、高感染性表現型に寄与する、LZおよびgp41のカルボキシ末端領域の間の特異的な機能的相互作用を示す。
【0102】
ここで示す解析に基づいて、ここで示す結果は、MN−P LZ領域の、gp120のアミノおよびカルボキシ末端ならびにgp41のカルボキシ末端領域との機能的相互作用を証明する。これらの結果は、LZ領域がHIV−1エンベロープタンパク質複合体の機能の統合に重要な役割を果たすことを示す。その上、評価される表現型の2個の特性に対する特異的変異の効果の間に全般的な一致があった。エンベロープタンパク質のLZと他の領域との間のこれらの複数の機能的相互作用が共通の機構によって両方の特性を同時に調節する可能性を試験するために、本発明者らは図6に示すように、特性間に統計的相関があるか否かを試験した。強度の統計的に有意な相関が得られた。
【0103】
(実施例8)
gp120の原子構造のコアへのMN−P変異の局在
MN−P gp120のコア構造における変異の局在を、図9に示すように検討した。変異残基は、Kwong et al.(1998)Nature 393,630−631の番号付けシステムに従って同定される。gp120コア構造で描出された残基に影響する変異のみが示されている。極部アミノ末端の最初の90個のアミノ酸、ならびにgp120のV1/V2およびV3領域の変異は図に示していない。変異のうち7個は、CD4結合ポケットの縁に、または縁の周囲に局在するものとして同定される。これらの7個の変異は、Asp287、Asp290、Asn371、Pro372、Lys435、Glu466およびAsp472として示す。変異のうち2個は、コレセプター結合領域と考えられるgp120の領域に局在し、Ile219およびVal426として同定される。変異のうち4個は、内部領域として示されるgp120の極に局在し、Asn91、Lys243、Ser245およびSer249を含む。4個の変異は、gp120の外部領域に局在したが、CD4またはコレセプター結合部位から離れていた。これらの4個の変異は、Lys300、Arg345、Pro398、およびAsn418であった。これらの変異の分布は、それらの一部または全部が、CD4、コレセプターおよびgp41を含む、gp120とそのリガンドとの相互作用を調節することによって、MN−Pの感染性および中和耐性を向上させるために総体で機能したことを示す。
【0104】
(実施例9)
MN−Pの高感染性表現型に寄与する結合部位から離れた特異性変異
キメラエンベロープは、V1/V2配列を含む、gp120アミノ末端配列の中和耐性、高感染性表現型に対する特異性寄与を評価するために構築した。V1/V2配列は、図10に示すDraIII368−EcoRV636断片に含まれている。V1/V2領域変異の表現型への潜在的寄与は、キメラC、HC、O、P、およびQの比較によって評価した(図2および6)。クローンO、P、およびQの感染性はキメラCと同様であり、キメラHCの表現型を決定するにはBamHI−BglII(832ヌクレオチド)断片の1個以上のサブ断片における配列が必要であることを示している。
【0105】
キメラRは、感染性表現型の決定におけるアミノ末端のgp120コア構造変異の役割を更に検討するために構築した。キメラRは、V1/V2領域における変異を除いて、MN−PのBamHI−BglII断片の変異すべてを含む。キメラRはキメラHCよりも多少低い感染性であったが(図2)、キメラC、O、またはQよりも著しく感染性であり、MN−PLZ配列の状況では、gp120のアミノ末端領域の2個の断片が向上した感染性を決定するために共に機能することを示した。キメラSは、CD4またはコレセプター結合部位と空間的に関連していない外部領域コア構造変異をキメラRに導入することによって構築した。キメラSはキメラRよりも低い感染性であり、MN−P gp120のアミノ末端の非V1/V2断片における変異の、感染性に対する効果がこれらの外部領域変異によって更に向上しないことを示した。キメラT、U、およびVの試験から示された結果は、本明細書に示す解釈を更に裏付ける。
【0106】
(実施例10)
gp120−gp41解離
gp120およびgp41の残基間の非共有結合は、機能性エンベロープタンパク質複合体での2個の分子間の会合を維持する。gp120での変異がgp120およびgp41の間の相互作用を高感染性表現型に寄与する方法で調節したという可能性のために、gp120−gp41会合の安定性に対するMN−P変異の効果を試験した。更に、gp120のCD4への結合はある場合においてgp41とのその会合に影響し、gp120およびそのリガンドの間の協調した相互作用がその感染性表現型を決定するため、gp120−gp41解離に対するsCD4結合の効果を試験した。gp41からのgp120の解離を測定するために、ELISAを用いてシュードタイプウィルス粒子の遠心分離から生じた、粒子無しおよび粒子会合gp120の分離を判定した。粒子のペレットへの遠心分離によりウィルス粒子を培地上澄から分離するこの技法が、粒子をスクロースクッション上に回収したときに得られる結果と匹敵する結果を生じることが以前に見出されている。
【0107】
MN−TCLA、MN−P、ならびにキメラRおよびVについて、gp41からのgp120の自発的解離およびsCD4誘導解離を比較する実験を実施した。キメラRは、MN−Pのアミノ末端の2個の変異、A64VおよびE84Qはもちろん、分子の原子構造上のgp120の内部領域に局在するMN−P変異すべてを含有する。それはMN−P LZ配列も含有する。キメラVは、同じgp120 MN−P配列を含有するが、MN−TCLA LZ配列を含有する。これらのシュードタイプウィルスからのgp120の解離を試験する実験の結果を表1および図11にまとめる。培地成分からの粒子の分離の有効性は、ペレットおよび上澄中のp24の相対量を測定することによって評価した。上澄中のp24のパーセンテージは、平均して14.9%(MN−PプラスsCD4)および28.8%(キメラVプラスsCD4)であった。それぞれの場合で、これらの割合はsCD4の存在および非存在下で同様であった。
【0108】
【表1】

【0109】
ウィルス粒子と関連して測定したgp120の量は一貫して、MN−TCLAよりもMN−Pで大きかった(表1および図6)。この相違は平均して約4倍であった。ペレット中のgp120の量がp24の量に比例して表現されたときに、相違はより大きく、6.7倍であった。キメラRペレットと会合したgp120の量も、MN−TCLAペレットと会合したgp120の量よりも3.9倍多く、この相違は、p24と比例して表現されたときに3倍にとどまった。MN−TCLA粒子よりも、キメラVと会合したgp120はやや多く、1.75倍であったが、この相違はp24と比例して表現されたときにわずか1.3倍であった。したがって、キメラRは、gp120とウィルス粒子とのより大量の会合において、MN−Pに類似していたが、キメラSは、MN−TCLAに酷似していた。
【0110】
MN−TCLAからのgp120の自発的解離は、sCD4の非存在時に31.2%であり、10.3%であるMN−Pからの解離よりも有意に高かった。キメラRからのgp120の自発的gp120解離は、MN−TCLAからの解離より低く19.8%であったが、キメラVからの解離はMN−TCLAとほぼ同じで31.8%であった。sCD4によって結合された場合、MN−TCLAからのgp120の放出に変化はなかったが、MN−Pからのgp120放出は3倍を超えて上昇し、35.3%となった。sCD4による結合は、キメラRからのgp120放出を42.7%まで著しく上昇させたが、キメラVからの放出に対して著しい効果を持たなかった。したがって、キメラRも、ビリオンからのgp120の自発的およびsCD4誘導放出に関してMN−Pに類似していたが、キメラVは、これらの点でMN−TCLAに酷似していた。
【0111】
(実施例11)
sCD4による中和への耐性に寄与するMN−P遺伝子の領域
MN−Pクローンの中和耐性、高感染性表現型は、gp41 HR1をコードするMN−P遺伝子の領域からの配列と、gp120およびgp41の他の領域における配列との機能的相互作用に依存する。図3は、HIV−1免疫ヒト血清およびそれぞれのエンベロープによってシュードタイプ化されたウィルスを使用してそこで報告された中和力価と同様に、キメラ遺伝子C、F、A、GC、およびHCの構造を示す。図3は、sCD4による中和への耐性を決定する分子内相互作用を解析するために、本試験で使用した追加のキメラ遺伝子の構造も示す。キメラCは、MN−TCLA主鎖にMN−P HR1領域配列を有する。キメラFは、MN−P主鎖にMN−TCLAHR1領域を備えた相反構築物である。MN−Pからのgp120のアミノ末端、gp120のカルボキシ末端、またはgp41のカルボキシ末端をそれぞれキメラCに導入して、キメラHC、GC、およびAをそれぞれ形成した。これらの3個のキメラは、gp120またはgp41の異なる領域およびHR1領域の間の機能的相互作用がsCD4による中和に対する耐性に寄与するか否かを評価するために使用した。キメラPおよびRの構築の理由を図10の下部に示し、以下で考察する。図4に示すように、キメラGCは、sCD4による中和に対してキメラCよりも著しく耐性であったが、MN−Pよりも耐性が低かった。キメラAおよびHCは、キメラCと同様であった。これらの結果は、gp120のカルボキシ末端半分とHR1との機能的相互作用がsCD4による中和に対する耐性に寄与したが、これらの比較に含まれるキメラ遺伝子において反映されなかった相互作用も耐性に寄与したことを示す。
【0112】
gp120の断片におけるアミノ酸置換は、MN−PによってキメラGCに寄与した。遺伝子の線形配列全体およびgp120のコア構造上の、MN−PをMN−TCLAから区別する変異の分布を図9および12に示す。V3には4個の特徴的なアミノ酸置換および、キメラGC中に含まれるMN−P gp120の断片(MN−Pのアミノ酸284〜474)には12個の追加の置換があった。12個の非V3置換のうち7個は、gp120のCD4結合ポケットの中または近傍にある原子構造のモデルに見られた(図9)。これらのうち2個、N/D290およびE/K435は、Kwong et al.(1998)Nature 393,648−659によって証明された、残基と一列に並んだアミノ酸を含み、CD4との直接接触を形成した。他の2個の変異、KQ/NP371−2およびN/E466は、CD4と直接接触を形成する残基にすぐ隣接する残基に影響を及ぼした。加えて、7個の置換のうち6個は、電荷の変化を含み(D/N287、N/D290、K/N371、E/K435、N/E466、およびN/D472)、3個は潜在的なN結合グリコシル化部位の獲得または損失を含んでいた(D/N288、K/N371、およびN/E466)。アミノ酸284−474からの断片中の、しかしCD4結合領域の中やその近接位にない、残りの5個のgp120コア置換のうち、1個はコレセプター結合部位の中央に位置すると考えられる(I/V426)。この変異は、以前、MN−E6クローンにおいて見られ、その状況ではsCD4による中和に対する耐性を独力で付与しなかった。この断片における残りの4個の変異は、CD4およびコレセプター結合部位から離れたgp120外部領域の表面に位置する。これらの考慮事項に基づいてCD4結合ポケットの中または近傍の変異は、電荷の変化などにより、CD4に直接結合する残基における、またはCD4との相互作用を修飾する隣接残基における置換を通じて、あるいはCD4結合に立体効果を有するグリコシル化部位の変更によって、CD4による中和に対する感受性を変化させた。
【0113】
(実施例12)
sCD4による中和に対する耐性への、CD4結合部位の中または近傍の変異の効果
CD4結合領域の中または近傍の変異の重要性を試験するために、sCD4による中和に対する耐性への他の変異の効果を試験するためのプラットフォームとしてキメラCを使用した戦略を実施した。MN−TCLA、MN−P、およびキメラCのsCD4による中和に対する比較感受性を、図5の上部近傍に示す。MN−Pクローンは、MN−TCLAクローンよりもsCD4中和に対して50倍を上回る耐性である。図5に示すアッセイの大半において、使用したsCD4の最大濃度は1.0μg/mlであったため、MN−Pの中和は達成されなかった。ここで報告したアッセイに基づいて、本発明者らは、MN−PクローンがMN−TCLAよりも少なくとも20倍の耐性であることを計算した。キメラCは、sCD4による中和に対して、MN−TCLAよりも著しく耐性ではなかった。MN−TCLAからMN−Pを区別したCD4結合部位の中または近傍に位置する7個の変異を、図5に示すように、キメラCの中に単独で、および各種の組合せで導入した。キメラCおよび、7個の変異すべてを含有するキメラCのクローン(このクローンは次に、キメラC/7CD4bsと呼ぶ)を含めた、これらのミュータントのいずれかの間にはごくわずかな相違のみが見られた。これらの結果は、sCD4による中和に対するMN−Pの耐性が、主にCD4結合部位における変化によるものでないことを示した。
【0114】
sCD4による中和に対する耐性に関して、キメラRにて示される変異の考えられる重要性を次に検討した。キメラRは、gp120のアミノ末端における変異が、sCD4反応表現型を付与するHR1配列との機能的相互作用を決定することを証明した以前の試験のために、興味深かった。MN−TCLAは、高自発性gp120−gp41解離表現型を有しているが、sCD4結合の結果として、向上した解離を示さない。対照的に、MN−Pは低率の自発性gp120−gp41解離を有し、これは実質的にsCD結合によって向上される。キメラRは、MN−Pのようなgp120−gp41解離表現型を有する。キメラRをキメラCから区別する変異は、図3の内部領域において密集するのが見られる4個の変異(D/N91、N/K243、T/S245、およびP/S249)はもちろんのこと、gp120の極部アミノ末端にあり、結晶学的に決定されたgp120コア構造では描出されない2個(V/A64およびQ/E84)も含む。本発明者らは以前に、gp41からのgp120のCD4誘導解離に対するその効果に基づいて、これらの6個の残基がgp120での潜在的なgp41結合部位に寄与することを示唆した。顕著には、これらの変異がsCD4反応表現型を決定しても、それらはsCD4による中和に対する感受性に著しく影響を及ぼさなかった(図3および5)。
【0115】
V1/V2またはV3領域内の配列のsCD4耐性への寄与を次に検討した。以前の報告は、可変領域1および2がCD4結合部位への接近を一部マスキングすることを証明した(Rizzuto et al.(1998)Science 280,1949−1953,44)。MN−PクローンはV1における異常重複はもちろんのこと、MN−TCLAのV1/V2領域からそれを区別する多数の他の変異を有する。sCD4耐性におけるV1/V2領域の役割の試験を可能にするために、本発明者らは、図3に示すように、MN−Pに由来するV1/V2およびHR1領域を除いて、遺伝子の大部分に渡ってMN−TCLA配列より成るキメラPを構築した。追加の遺伝子は、CD4結合部位の中または近傍の7個の変異(キメラP/7CD4bs)、MN−P V3領域の近位縁をMN−TCLAの近位縁と区別する4個の変異(YN/NY311−12、R/K313、およびT/K315)(キメラP/V3)、または変異のこれらのセットの両方(キメラP/7CD4bs/V3)を含有する断片の導入によって、キメラP主鎖を用いて構築した。キメラPはsCD4による中和に対して、キメラCよりもわずか1.9倍の耐性であったが(図5)、これに対してキメラP/7CD4bsは11.3倍の耐性であった。キメラC、キメラP、およびキメラP/7CD4bsに対するsCD4の平均50%中和濃度は、それぞれ16、31、および176ng/mlであった。予想外に、キメラP/7CD4bs/V3を形成する、キメラP/7CD4bsへのV3領域変異の添加は、中和耐性を排除した。これらの結果はMN−PのsCD4耐性に寄与するCD4結合領域およびV1/V2領域近傍の残基間の機能的関係はもちろんのこと、これらの領域およびV3の間の更なる機能的関係も示している。
【0116】
本発明者らは次に、sCD4による中和に対して比較的耐性である、キメラGCの構造を検討した。キメラGCは、MN−P gp120由来のカルボキシ末端配列をキメラC内に包含する。キメラGC中のMN−P由来のgp120配列は、上述の7個のCD4結合領域変異、V3領域変異、コレセプター−結合部位の中心に位置すると考えられる1個の変異(I/V426)、およびgp120の外部領域の弱いクラスターに局在する4個の変異(N/K300、S/R345、S/P398、およびS/N418)を含む。図5の下部に示すように、キメラC、C/V3、C/7CD4bs/V3、P、P/V3、およびP/7CD4bs/V3の間でsCD4耐性に認められたごくわずかな相違があった。したがって、V3の残基およびキメラGCにおいて変異される他の残基の間の相互作用は、中和耐性に寄与した。S/P398、S/R345、S/N418、およびN/K300外部領域変異は、図7に示すように連続して導入し、効果について考察した。これらのうちで、S/P398およびN/K300変異の両方が、小さいが統計的に有意な効果に寄与すると思われた。コレセプター結合部位変異I/V426はキメラCに導入したときにsCD4中和に対する効果を持たなかったが、キメラC/7CD4bs/V3に導入したときに著しい効果を有した。このミュータント、キメラC/7CD4bs/V3/426は、キメラGCよりも著しく低い耐性であり、4個の外部領域変異のうち1個以上がキメラGCの完全表現型の発現に必要とされることを示していた。最後に、キメラGC V3配列は、MN−TCLA V3配列に戻し変異させて、キメラGC−V3を形成した。このクローンも、キメラGCよりも中和に対する耐性が低く、V3配列が完全中和耐性表現型に必要であることを示した。したがって、これらの結果は、コレセプター結合部位の残基426の場合と同様に、V3領域および外部領域における変異残基の間の機能的相互作用の発生を証明している。
【0117】
(実施例13)
中和に対するクローンの感受性
各種のCD4結合領域リガンドによる中和に対するクローンの相対感受性が一貫しているかどうかを判定することに関心があった。CD4IgG2は、一次エンベロープの中和においてsCD4よりも交差反応性の傾向があるが、CD4結合領域へのその接近を制限する、より大きな容積も有する。各種の抗CD4結合領域モノクローナル抗体の中で、b12は、一次エンベロープ内でより交差反応性の傾向がある。各種リガンドによる、MN−P、キメラP/7CD4bs、およびキメラP/7CD4bs/V3クローンによってシュードタイプ化されたウィルスの中和を図8に示す。sCD4によるクローンの比較中和は一般に、b12を含む、CD4結合領域エピトープに対するモノクローナル抗体に見られた中和と同様であった。MN−Pはリガンドそれぞれによる中和に対して、他の2個のクローンのどちらよりも耐性であった。他のリガンドのそれぞれに観察されたキメラP/7CD4bよりも大きい、キメラP/7CD4bs/V3の中和に対する感受性は、CD4IgG2には観察されなかった。これらの結果は、sCD4による中和に対する耐性を判定する現象が通例、各種のCD4結合領域リガンドによる中和に対する耐性を判定するのと同様に作用することを示すとともに、中和に対する耐性の機構がリガンド結合の立体阻害でなかった可能性を示した。
【0118】
コレセプター結合部位(17bおよび4.8d)およびV3(19b)に対するモノクローナル抗体による中和を図8に示す。MN−Pシュードタイプウィルスの50パーセントの中和は、これらの抗体の試験での最高濃度(2.5μg/ml)にて達成されなかった。キメラP/7CD4bs/V3はキメラP/7CD4bsよりも、17b(210対480ng/ml)、4.8d(20対60ng/ml)、および19b(16対60ng/ml)によって、中和に対してより感受性であった。これらの結果は、非CD4結合領域エピトープに対するsCD4およびモノクローナル抗体による中和に対するこれらのクローンの相対感受性が同様であることを示した。その上、キメラP/7CD4bsおよびキメラP/7CD4bs/V3の比較感受性を説明する、V3とgp120の他の領域との間の機能的相互作用も、包括的中和感受性を調節した。
【0119】
ここに示す試験の結果は、sCD4中和に対するMN−P耐性の機構が、おそらく包括的中和耐性についてと同様に、gp120コア構造の表面にわたるV1/V2およびV3領域の複数の機能的相互作用を包含することを証明した。これらの相互作用の程度を図12に例示する。2個のループ構造のそれぞれの適切な遺伝子フットプリントを示す楕円が、gp120コアに重ねて示されている。V1/V2領域のフットプリントは、二重ループの軸からCD4結合領域近傍の区域にまで延伸し、V3との相互作用を含む。V3のフットプリントはループの軸から延伸し、V1/V2と、結合部位から離れた外部領域変異と、コレセプター−結合部位中の残基426との相互作用を含む。これらの知見は、V1/V2およびV3ループ構造がCD4、コレセプターおよびgp41結合部位の間で離れて機能的相互作用を仲介することを示す。CD4のCD4結合領域への結合は、コレセプター相互作用に必要なV3の連続変化を引き起こすV1/V2およびgp41の立体配座変化を誘起する。この方法でのシグナルの伝達は、CD4相互作用に関連する結合エネルギー変化から生じるgp120コア構造の立体配座の変化をうまく補完することができよう。そのような効果は、複合体の反対端にて、例えばgp41 HR1において、およびコレセプター結合部位の残基426などにおいて明らかである変異が、非常に強い機能的相互作用をどのように示すかをうまく説明しよう。gp120のそのリガンドそれぞれへの結合は、gp120コア全体に伝達される立体配座変化を生じる。リガンドとの相互作用も、機能性シグナルが複合体の表面を渡って伝達されるように、立体配座変化を生じる。要約すれば、本試験で評価した一次ウィルス中和耐性表現型は、HIV−1エンベロープ複合体が、高い効率の感染性を生じる各種の立体配座変化を受ける能力である。このモデルは、一次ウィルス中和のために、またエンベロープ複合体の特定の立体配座を安定させる方法を設計するために重要であるエピトープの性質を理解するための基盤を与える。
【0120】
本発明はその特定の実施形態を参照して述べてきたが、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、各種の変更が実施可能であり、同等物は置換できることは、当業者によって理解されるべきである。加えて、特定の状況、材料、組成物、プロセス、プロセスステップまたはステップを、本発明の目的、精神および範囲に適合させるために多くの改変を行うことができる。そのような改変はすべて、添付した特許請求の範囲の範囲内であるものとする。本出願で言及したすべての参考文献、特許および特許出願は、参照によりその全体が本明細書に組み入れられている。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】HIV−1MN系統の中和感受性(MN−TCLA)、高中和耐性(MN−PおよびMN−P14)および部分中和耐性(MN−E6)クローンのエンベロープのアミノ酸の配列比較。アミノ酸配列の上のバーは、糖タンパク質の領域のおおよその位置を次のように示す、C1、C2、C3、C4=gp120の定常領域;V1/V2、V3、V4、V5=gp120の可変領域;gp41領域=FP(融合ペプチド)、LZ(ロイシンジッパー)、AH(膜近傍αヘリックス)、TM(膜貫通部位)、およびCT(細胞質尾部)。アミノ酸の位置は、MN−Pにおいてと同様に番号付けされ、コンセンサスと異なるアミノ酸は、ボックスで囲み陰影付である。残基番号は、図2に示す制限酵素開裂部位に対応する位置のボックスに示されている。
【図2】gp41ロイシンジッパーは、gp120およびgp41の複数の領域と機能的に相互作用して、中和耐性、高感染性表現型を決定する。(A)特異的酵素の開裂部位のヌクレオチド位置を示す、MN−TCLAクローンの制限エンドヌクレアーゼ開裂マップ。マップの下に以下のように、糖タンパク質の領域のおおよその位置の表示があり、C1、C2、C3、C4=gp120の定常領域;V1/V2、V3、V4、V5=gp120の可変領域;gp41領域=FP(融合ペプチド)、LZ(ロイシンジッパー)、AH(膜近傍αヘリックス)、TM(膜貫通部位)、およびCT(細胞質尾部)。(B)材料および方法で述べたように、MN−TCLAおよびMN−Pクローンの断片を交換することによって構築された一連のキメラ遺伝子(Chim)の模式図。(C)クローンについて得られた相対感染性および中和価。相対感染性は、X/XMN−TCLAとして決定され、ここでXは所与の活性を生じるウィルス希釈度である。Xは考察した特定の変異について得た値であり、XMN−TCLAは、MN−TCLAについて得た値である。最良適合ラインは、接種希釈度の関数としての対数変換ルシフェラーゼ活性定量(光単位)の回帰分析によって決定した。MN−TCLAおよび他のクローンの比較に使用したy値は、比較される曲線のほぼ直線の部分を交差するように選択した。キメラの中和表現型は、HIV中和血清2(HNS2)を用いて決定した。力価は90%以上の感染阻害を生じる逆数血清希釈度である。各キメラクローンは、MN−PおよびMN−TCLAとの比較で3〜5回試験して、幾何平均結果を示す。
【図3】sCD4中和への耐性に対する遺伝的基盤の解析に使用される組換えenv遺伝子の概略図。(A)遺伝子組成。(B)追加のキメラ遺伝子の構造。MN−TCLA由来の各クローンの断片を陰影付バーで示し、MN−P由来の断片を白色バーで示す。部位特異的変異誘発によって導入された変異の性質を、垂直線で示した位置と共に示す。
【図4】MN−P(白四角)、あるいはキメラA(白丸)、GC(黒四角)、HC(黒菱形)またはC(黒丸)の各エンベロープによってシュードタイプ化されたウィルスのsCD4による中和。MN−TCLA(図示せず)およびキメラCの中和感受性は同様であった。アッセイは3回行い、示した結果は各sCD4濃度で得られた平均である。対照ルミネセンスは、sCD4の非存在下で実施した感染に基づいて決定した。2つの同様の実験において、実質的に同一の結果が得られた。
【図5】CD4結合部位における変異、およびCD4結合部位周囲の変異は、MN−P V1/V2配列の状況においてsCD4耐性に寄与する。相対中和[sCD4]は、各クローンについて以下のように決定した。sCD4の50パーセント抑制濃度(IC50)は、直線回帰分析によって決定した。相対中和[sCD4]は次に、試験クローンIC50/キメラC IC50として計算した。MN−PおよびキメラCのIC50は、各実験で決定した。各クローンのアッセイの回数は、クローン名称後にカッコ内に示す。キメラC、P、GC、およびHCの構造を図2および3に示す。7個のCD4結合領域変異の1個または組合せを含有する個々のクローンを構築した。キメラC/7CD4bs/V3、P/7CD4bs、およびP/7CD4bs/V3はそれぞれ、それぞれのキメラにおけるMN−P由来の7個のCD4結合領域変異を含有する。キメラC/V3、C/7CD4bs/V3/P/V3、およびP/7CD4bs/V3はそれぞれ、図3に示す4個のMN−P V3領域変異を含有する。
【図6】ミュータントおよびキメラMN系統エンベロープクローンによってシュードタイプ化されたウィルスの中和耐性と感染性との相関。相関無しの帰無仮説は、p<0.0001で棄却された。
【図7】sCD4によるキメラGCの中和に対する耐性は、V3の配列、コレセプター結合部位の残基426における変異、ならびにCD4およびコレセプター結合部位から離れた外部領域における変異に依存する。CD4およびコレセプター結合部位から離れた外部領域における、残基298、345、418、および300での変異は、キメラC/7CD4bs/V3内に連続して導入された。残基426におけるV/I変異は、キメラCおよびキメラC/7CD4bs/V3の両方に導入された。MN−TCLA V3領域配列に対応する4個の変異は、キメラGCに導入されて、キメラGC−V3を形成した。示した結果は、各3回行った3つのアッセイの平均である。統計的比較は、ANOVA(C対C/V3対C/7CD4bs/V3対C/7CD4bs/V3/398対C/7CD4bs/V3/345/398)、またはスチューデントのt検定(C/7CD4bs/V3/345/398/418対C/7CD4bs/V3/300/345/398/418;C/7CD4bs/V3/426対GC;およびBC−V3対GC)を用いて実施した。結果は、各3回行った3つの実験の平均および標準偏差である。
【図8】V1/V2およびCD4結合領域の残基およびV3の機能的相互作用が、包括的中和耐性に影響を与える。クローンMN−P(黒色バー)、キメラP/7CD4bs(斜線付きバー)、およびキメラP/7CD4bs/V3(白色バー)を中和について試験した。結果は、各3回実施した2つのアッセイの平均である。(A)抗CD4結合領域リガンドsCD4、CD4−IgG2、F105、F91、およびb12による中和。(B)コレセプター結合部位17bおよび4.8d、ならびにV3領域19bに向けられた抗体による中和。このパネルにおいて、使用した各抗体の最大濃度は、2.5μg/mlであった。どの濃度においてもMN−Pの中和はなかったため、抑制濃度は5μg/ml以上と考えられた。
【図9】CD4および中和抗体17bによって複合体化されたHIV−1 gp120コアの原子構造におけるMN−P/MN−TCLA変異の局在性。PDFファイルは、Protein Data Bank,1GC1(Kwong et al. (1998) Nature 393,648−659)による。PCMolecule2(バージョン2.0.0)(Molecular Ventures社)により描画。分子複合体の前面(A)および背面(B)を示す。gp120は青色、CD4は緑色、17b抗体は黄色(軽鎖)および薄青色(重鎖)で示す。gp120のアミノ酸配列は、PDFファイルから抽出して、ClustalW(バージョン1.7)によってMN−TCLAの配列と比較した。変異部位は、赤色で着色し、MN−P a.a.および変異の位置番号としてマーキングする。位置番号は、MN−TCLA配列内のa.a.位置に関して示す。V1/V2、V3、V4、およびV5ループの位置も示す。
【図10】内部領域および選択した外部領域変異の感染性に対する効果。上側に示すMN−TCLAの制限酵素開裂マップは、図2で説明されている。MN−TCLAおよびMN−P遺伝子の断片を用いて構築したキメラenv遺伝子の概略図は、左側に示す。キメラ(Chim)の図の上側の星は、生体外で導入された変異のおおよその位置を示す(説明は本文を参照)。キメラ遺伝子によってコードされたエンベロープを用いてシュードタイプ化されたウィルスの相対感染性を右側に示す。
【図11】gp120の粒子会合。(A)表1に示す結果。gp120の粒子会合率(PAF gp120)は各クローンについてP/(P+S)として概算され、ここでPはペレット中のgp120の量であり、Sは上澄中の量である。結果は、PAF(gp120)/PFA(gp120)TCLAと表し、Mは試験されるミュータントクローンを指す。(B)PAF(gp120)の結果をp24分布について正規化する。PAF(p24)は、各クローンについて計算した。PAF(gp120/p24)は、PAF(gp120)/PAF(p24)の比として計算した。これらの結果は、PAF(gp120/p24)/PAF(gp120/p24)TCLAの比として示す。
【図12】V1/V2およびV3領域ならびにgp120の表面上のgp41の機能的相互作用の概略図。V1/V2およびV3ループの軸におけるシステイン残基はマゼンタで示し、赤色矢印はその位置を強調する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物への投与後に交差反応性免疫反応を生じるヒト免疫不全ウィルスタイプ−1(HIV−1)エンベロープタンパク質を同定する方法であって、
(a)gp120のgp41結合領域において、またはその近傍で1個以上のアミノ酸を置換するステップと、
(b)哺乳動物への投与後に交差反応性免疫反応を生じる、結合領域における1個以上のアミノ酸置換を同定するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
gp41結合領域におけるアミノ酸置換がgp120のC1またはC2領域にある、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
アミノ酸置換が、アミノ酸91、243、245および249からなる群より選択されるgp120のアミノ酸位置に対応する位置にある、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
アミノ酸置換が、D91N、N243K、T245SおよびP249Sからなる群より選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
哺乳動物への投与後に交差反応性免疫反応を生じるヒト免疫不全ウィルスタイプ−1(HIV−1)エンベロープタンパク質を同定する方法であって、
(a)gp120のCD4結合領域において、またはその近傍で1個以上のアミノ酸を置換するステップと、
(b)哺乳動物への投与後に交差反応性免疫反応を生じる、結合領域における1個以上のアミノ酸置換を同定するステップと、
を含む方法。
【請求項6】
CD4結合領域におけるアミノ酸置換がgp120のC2、C3、C4またはV5領域にある、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
アミノ酸置換が、アミノ酸287、290、371、372、435、466および472からなる群より選択されるgp120のアミノ酸位置に対応する位置にある、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
アミノ酸置換が、D287N、D290N、N371K、P372Q、K435N、E466NおよびD472Nからなる群より選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
哺乳動物への投与後に交差反応性免疫反応を生じるヒト免疫不全ウィルスタイプ−1(HIV−1)エンベロープタンパク質を同定する方法であって、
(a)gp120のコレセプター結合領域において、またはその近傍で1個以上のアミノ酸を置換するステップと、
(b)哺乳動物への投与後に交差反応性免疫反応を生じる、結合領域における1個以上のアミノ酸置換を同定するステップと、
を含む方法。
【請求項10】
コレセプター結合領域における、またはその近傍でのアミノ酸置換がgp120のC2またはC4領域にある、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
アミノ酸置換が、アミノ酸219および426からなる群より選択されるgp120のアミノ酸位置に対応する位置にある、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
アミノ酸置換がV219IおよびV426Iからなる群より選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
哺乳動物への投与後に交差反応性免疫反応を生じるヒト免疫不全ウィルスタイプ−1(HIV−1)エンベロープタンパク質を同定する方法であって、
(a)gp120の外部領域において、またはその近傍で1個以上のアミノ酸を置換するステップと、
(b)哺乳動物への投与後に交差反応性免疫反応を生じる、結合領域における1個以上のアミノ酸置換を同定するステップと、
を含む方法。
【請求項14】
アミノ酸置換が、アミノ酸300、345、398および418からなる群より選択されるgp120のアミノ酸位置に対応する位置にある、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
アミノ酸置換が、gp120のV1/V2、V3、V4、V5、Cl、C2、C3、C4またはC5領域にある、請求項1、5、9または13のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
HIV−1エンベロープタンパク質をコードする核酸中の少なくとも1個のヌクレオチドが置換される、請求項1、5、9または13のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
請求項1、5、9または13のいずれかに記載の方法によって同定されたHIV−1エンベロープタンパク質。
【請求項18】
アミノ酸64、84、91、219、243、245、249、287、290、300、311、312、314、316、345、371、372、398、418、426、435、466および472からなる群より選択されるgp120のアミノ酸に対応する位置に1個以上のアミノ酸置換を含む、分離されたHIV−1エンベロープタンパク質。
【請求項19】
抗体中和耐性エンベロープタンパク質の少なくとも1個の第一の断片、および抗体中和感受性エンベロープタンパク質からの少なくとも1個の第二の断片を含む、分離されたHIV−1エンベロープタンパク質。
【請求項20】
第一または第二の断片が約50〜約800個のアミノ酸である、請求項19に記載の分離されたHIV−1エンベロープタンパク質。
【請求項21】
抗体中和耐性エンベロープタンパク質の第一の断片が配列番号2(MN−P)からの断片を含む、請求項19に記載の分離されたHIV−1エンベロープタンパク質。
【請求項22】
第一の断片が、配列番号2のアミノ酸1〜123、配列番号2の123〜212、配列番号2の212〜274、配列番号2の274〜367、配列番号2の367〜468、配列番号2の468〜517、配列番号2の517〜611、配列番号2の611〜759、および配列番号2の759〜858のアミノ酸からなる群より選択される、請求項21に記載の分離されたHIV−1エンベロープタンパク質。
【請求項23】
抗体中和感受性エンベロープタンパク質の第二の断片が配列番号4(MN−TCLA)からの断片を含む、請求項19に記載の分離されたHIV−1エンベロープタンパク質。
【請求項24】
第二の断片が配列番号4のアミノ酸1〜123、配列番号4の123〜212、配列番号4の212〜274、配列番号4の274〜367、配列番号4の367〜468、配列番号4の468〜517、配列番号4の517〜611、配列番号4の611〜759、および配列番号4の759〜858からなる群より選択される、請求項23に記載の分離されたHIV−1エンベロープタンパク質。
【請求項25】
1個以上のアミノ酸置換を更に含む、請求項19に記載の分離されたHIV−1エンベロープタンパク質。
【請求項26】
1個以上のアミノ酸置換が、アミノ酸64、84、91、219、243、245、249、287、290、300、311、312、314、316、345、371、372、398、418、426、435、466および472からなる群より選択されるアミノ酸位置にある、請求項25に記載の分離されたHIV−1エンベロープタンパク質。
【請求項27】
1個以上のアミノ酸置換が、V64A、Q84E、N243K、T245S、P249S、D287N、D290N、N311Y、Y312N、K314R、K316T、N371K、P372Q、V426I、K435N、E466NおよびD472Nからなる群より選択される、請求項26に記載の分離されたHIV−1エンベロープタンパク質。
【請求項28】
請求項18または19に記載の分離されたHIV−1エンベロープタンパク質を含む融合タンパク質。
【請求項29】
請求項18から27のいずれか一項に記載のHIV−1エンベロープタンパク質をコードする核酸分子。
【請求項30】
1個以上の発現調節領域に作動的に結合される、請求項29に記載の核酸分子。
【請求項31】
請求項29に記載の分離された核酸分子を含むベクター。
【請求項32】
請求項31に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項33】
請求項29に記載の核酸分子を含有するように形質転換された宿主細胞。
【請求項34】
前記宿主が原核宿主細胞および真核宿主細胞からなる群より選択される、請求項33に記載の宿主細胞。
【請求項35】
請求項29に記載の核酸分子によって形質転換された宿主細胞を、前記核酸分子によってコードされたポリペプチドが発現される条件下で培養するステップを含む、ポリペプチドを生成する方法。
【請求項36】
請求項35に記載の方法によって生成された分離されたポリペプチド。
【請求項37】
請求項18から27のいずれか一項に記載のHIV−1エンベロープタンパク質、および薬学的に許容される担体を含む組成物。
【請求項38】
請求項29に記載の核酸分子を含む弱毒化HIV−1。
【請求項39】
請求項29に記載の核酸分子を含むウィルスベクター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公表番号】特表2006−504435(P2006−504435A)
【公表日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−553402(P2004−553402)
【出願日】平成15年5月12日(2003.5.12)
【国際出願番号】PCT/US2003/014721
【国際公開番号】WO2004/045495
【国際公開日】平成16年6月3日(2004.6.3)
【出願人】(501051125)ザ ヘンリー エム. ジャクソン ファウンデイション (9)
【Fターム(参考)】