説明

HIV−2型ヒトレトロウイルスのトランスメンブランエンベロープ糖タンパク質の抗原、及び、該抗原に免疫類似性を有する抗原

【課題】生体内におけるヒトレトロウイルスHIV−2の感染のある時期に限って存在する抗原の形成または解離を遮断することによってHIV−2の感染を抑制できるワクチンの製造のための、また該抗原を認識する抗体を使用したHIV−2型感染診断薬を製造するための該抗原を有する該抗原−抗体複合体の提供。
【解決手段】HIV−2型ヒトレトロウイルスのトランスメンブランエンベロープ糖タンパク質の抗原及び該抗原に免疫類似性を有する抗原、特にヒトレトロウイルスHIV−2gp36を二重体化させてなる、gp80抗原、及び該抗原を認識する抗体、該抗原及び該抗体を含有する抗原−抗体複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HIV−2型ヒトレトロウイルスのトランスメンブランエンベロープ糖タンパク質の抗原、及び、該抗原に免疫類似性(parente immunologique)を有する抗原、特にヒトレトロウイルスHIV−2の感染のin vivo経過のいくつかの時期に限って存在する抗原に係る。これらの抗原は、該レトロウイルスのトランスメンブランエンベロープ糖タンパク質の形成及び成熟プロセスに特徴的であり、従ってレトロウイルスHIV−2の発生及び増殖に関与し、感染の伝播に関与する。
【0002】
本発明はまた、これらの抗原を認識する抗体、及び、該抗体を含有する免疫原性組成物に係る。
【0003】
本発明は更に、上記抗原の製造、及び、ヒトレトロウイルスHIV−2の感染を診断するための該抗原の使用に係る。
【背景技術】
【0004】
リンパ節障害症候群(SLA)を発症させる主因もしくは一因となる病因物質または後天性免疫不全症候群(AIDS)を発症させる主因となる病因物質は単離され、同定され、特性決定も行なわれた。
【0005】
ある種の条件下でヒトSLAを発症させ場合によってはAIDSを併発させ得るいくつかのヒトレトロウイルスはHIV(Human Immunodeficiency Virus)と命名されている。
【0006】
最初に単離されたウイルスはLAV−1またはHIV−1と命名され、英国特許出願83/24,800及び欧州特許出願84/401,834(14/09/84)などに記載されている。このウイルスはまたF.Barre Sinoussi他によって記載されている(1)。
【0007】
LAV ELI及びLAV MALと命名されたウイルスHIV−1の変種も単離されて特性決定された。これは欧州特許出願84/401,834に記載されている。
【0008】
上記ウイルスとの免疫類似性が小さい別のクラスに所属するレトロウイルスの単離及び特性決定は、欧州特許出願87/400,151.4(欧州特許第239,425号)に記載されている。HIV−2という名称で分類された該レトロウイルスは、リンパ節障害またはAIDSの症状を示すアフリカ人患者から単離された。
【0009】
このようなHIVレトロウイルスの研究、その単離及びそれらのヌクレオチド配列の分析、それらの抗原性タンパク質の特性決定などに基づいて、得られた種々の菌株間の構造的及び機能的な類似性または逆に特異性の比較研究が可能である。
【0010】
また、レトロウイルスHIV−1及びHIV−2を、サル由来のレトロウイルス(SIVまたはSTLV−III)と比較研究することもできる。この研究の結果、レトロウイルスHIV−2及びその変種とレトロウイルスSIVとの間にタンパク質及び糖タンパク質のある程度の類似性があることが判明した。
【0011】
各ウイルスのエンベロープタンパク質の処で類似性が特に顕著である。実際、レトロウイルスSIVのエンベロープ糖タンパク質とレトロウイルスHIV−2のエンベロープ糖タンパク質に対する抗体との間では交差免疫反応が観察されるが、レトロウイルスSIVとレトロウイルスHIV−1との間、及びレトロウイルスHIV−1とHIV−2との間ではこのような交差免疫反応が生じない。
【0012】
前出の欧州特許出願87/400,151.4は、レトロウイルスのゲノムのenv遺伝子によってコードされるレトロウイルスHIV−2のエンベロープ糖タンパク質に関して得られた結果を示している。該欧州特許出願は、分子量約140,000dを有することに基づいてこの糖タンパク質をgp140と命名した。分子量の計算には±10%の誤差が見込まれていることは理解されよう。また、前出のフランス特許出願(出願第86/03881号、公告第2,596,063号)は、gp160(分子量160Kd±10%)と命名したgp140の前駆物質を記載している。
【0013】
発明者等は、レトロウイルスHIV−2のエンベロープ糖タンパク質に関する研究を更に進展させ、上記の分子量の範囲に基づいて、これまで与えられていた分子量とは別の測定値を得ることに成功し、より精密な結果を得ることに成功した。本発明の処理条件下では、HIV−2のウイルス粒子の外層エンベロープ糖タンパク質は分子量約125,000dを有していた(この糖タンパク質をgp125と命名した)。同じ処理条件を用いた最新の結果によれば、フランス特許出願86/03881で既に証明されgp160と命名されていた前駆物質は分子量約140,000dであった。従って本発明ではこれを「gp140」と命名する。
【0014】
外層エンベロープ糖タンパク質gp125とトランスメンブランエンベロープ糖タンパク質gp36とを含む成熟形エンベロープ糖タンパク質が得られるまでに複数の増殖段階が存在することはこれまでに既に判明していた。即ち、ヒトレトロウイルスHIV−2に感染した後で病原体性疾患が進行する際にウイルス複製サイクルが出現しこのサイクルの経過中に複数の段階が存在することが確認されていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
HIV−2の外層エンベロープ糖タンパク質の前駆物質gp300の存在及び特性決定に関する最初の結果が得られた。この糖タンパク質は参考文献(29)に記載されている。説明の便宜上、以後の記載ではこの糖タンパク質をgp300と呼ぶ。発明者等は、HIV−2のウイルスサイクルに関与する新しい糖タンパク質を発見しその特性を決定した。
【0016】
発明者等は同時に、レトロウイルスHIV−1及びSIVのウイルスサイクルに対しても同様の研究を行なった。これらの研究で、レトロウイルスHIV−2及びSIVに共通で逆にHIV−1のウイルス複製サイクルには明らかに存在しない極めて特異的な新しい特性が判明した。
【0017】
従って本発明は、ヒトレトロウイルスHIV−2または近縁ウイルスの感染を検出しヒトレトロウイルスHIV−2型のレトロウイルスの属性を決定するための新しい手段に係る。
【0018】
得られた結果から判断すると、レトロウイルスHIV−2及びSIVに特有のウイルスサイクルは、複合連鎖反応プロセスとして出現し、これらのプロセス全体によって最終形態のレトロウイルスHIV−2のエンベロープ糖タンパク質が形成される。このプロセスにおいて新しい抗原性タンパク質または糖タンパク質を認識し単離し同定した。
【0019】
従って本発明は、ヒトレトロウイルスHIV−2に感染した後に産生され、トランスメンブラン糖タンパク質GP36と共通のペプチド骨格を有しウイルスサイクルの進展中に2つのトランスメンブラン糖タンパク質gp36に解離し得る抗原性糖タンパク質に係る。
【0020】
二量体の形態のかかる糖タンパク質は、最適の形態及びコンホーメーションに対応し、細胞膜とウイルス膜とを融合させ得る。
【0021】
従って本発明は、以下の特性を有すること、即ち、
−分子量約80kDaを有する、
−糖タンパク質gp300に対するポリクローナル抗体によって認識される、
−ヒトのSLAまたはAIDSを発症させ得るHIV−2型ヒトレトロウイルスのゲノムによってコードされたトランスメンブランエンベロープ糖タンパク質gp36の2つの完全体を二量体の形態に会合させて含む、または、
−gp80に対する抗体と共に抗原−抗体型の免疫複合体を形成し得る同程度の分子量のすべての糖タンパク質を含む、ことを特徴とする抗原性糖タンパク質gp80に係る。
【0022】
前述の糖タンパク質gp300は参考文献(13)に記載された糖タンパク質であり、分子量約300kDaを有し、特にSLAまたはAIDSを発症させ得るヒトレトロウイルスHIV−2のゲノムのenv遺伝子によってコードされたエンベロープ糖タンパク質gp125の前駆物質gp140が2つ会合して形成されたものである。
【0023】
発明者等はこのタンパク質を単離し特性決定した後で、HIV−2の抗原に対して陽性の患者の血清が細胞抽出物またはウイルス抽出物中の糖タンパク質gp80を認識することを知見した。gp80は、感染性でありまた病原性にもなるウイルス粒子の形成段階の1つで必要なトランスメンブラン糖タンパク質の成熟産物である。従って発明者等は、HIV−2型粒子が形成される正常ウイルスサイクルを、特にgp80の形成または解離の処で遮断することによって感染の伝播を妨害し得ると判断した。かかる感染遮断は、糖タンパク質gp80の成熟を阻害し得るキャスタノスペルミン(castano−spermine)の使用によって強化された。
【0024】
本発明の糖タンパク質gp80の特徴は、更に以下の特性を有すること、即ち、
−HIV−2型ヒトレトロウイルスに感染した細胞及び/またはHIV−2型のビリオン及び/またはウイルスに会合し得る、
−1%のTriton X−100のような非イオン性界面活性剤の存在下ではin vitroで解離せず、弱酸性pHの1%のSDSのようなイオン性界面活性剤の存在下ではHIV−2型レトロウイルスのトランスメンブラン糖タンパク質を形成すべくin vitroで解離する、
−HIV−2血清−Sepharoseイムノアフィニティカラムで精製でき、(ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析すると)感染細胞の標識開始の3〜4時間後に出現する、
ことである。
【0025】
また、上記に定義した糖タンパク質gp80に由来し、該糖タンパク質gp80の非グリコシル化ペプチド骨格に対応するタンパク質も本発明の範囲に包含される。
【0026】
gp80のグリコシル化基が除去された上記タンパク質はgp80と共通の特性をいくつか有しており、これらの特性によって本発明において重要であると考えられている。
【0027】
サルレトロウイルスSIVとレトロウイルスHIV−1とのウイルスサイクルを同時に研究することによって、SIVのサイクルが分子量約65kDaの糖タンパク質gp65の形態の二量体化段階を含み、この二量体化の後で2つのトランスメンブランエンベロープ糖タンパク質gp32が形成されることが判明した。
【0028】
逆にHIV−1感染した生物サンプル中では、トランスメンブランエンベロープ糖タンパク質のこのような二量体化プロセスが観察されなかった。
【0029】
従って、二量体の形態のトランスメンブランエンベロープ糖タンパク質が得られることは、HIV−2型レトロウイルスによる感染または該レトロウイルスと免疫学的に近縁のレトロウイルスによる感染に特異的に関連すると考えられる。従って、この糖タンパク質は、HIV−2レトロウイルスまたは近縁レトロウイルスによる特異感染の検出に特に適した手段を構成する。
【0030】
本発明はまた、一方でHIV−2型レトロウイルスに感染した細胞中に存在するgp300、gp140、gp125及びgp80を特異的に認識し、他方でHIV−2型レトロウイルスの抽出物中に存在するgp125、gp80及びgp36を特異的に認識し、健常細胞またはHIV−1型レトロウイルス感染細胞中に存在するタンパク質または糖タンパク質を認識しないポリクローナルまたはモノクローナル抗体に係る。
【0031】
また、糖タンパク質gp80と特異的に反応しHIV−1型レトロウイルス感染細胞のタンパク質またはHIV−1のウイルス集塊とは反応しないことを特徴とするモノクローナル抗体も本発明の範囲に包含される。
【0032】
本発明の別のモノクローナル抗体の特徴は、更にHIV−2の糖タンパク質gp300gp、gp140及びgp36を認識することである。
【0033】
上記の定義に適う特に有利な第3のモノクローナル抗体の特徴は、糖タンパク質gp80とペプチドp39′のアミノ酸配列
VTAIEKYLQDQARLNSWGCAFRQVCH
とに共通のエピトープを認識することである。
【0034】
本発明の目的はまた、gp80に由来しグリコシル基が除去されたタンパク質に対する抗体を提供することである。
【0035】
上記モノクローナル抗体は、免疫原性及び中和性を有し、gp80の形成プロセスに作用してレトロウイルスHIV−2の増殖を妨害し得る。
【0036】
上記抗体を産生する種々の方法も本発明の範囲に包含される。例えば、動物、特にマウスのごとき齧歯類の腹水培養を利用してもよい。また、固定または被包または懸濁させた細胞培養物から抗体を産生させてもよい。特に、レトロウイルスHIV−2を予め接種した動物のリンパ球の融合によってハイブリドーマを得る方法の使用が適当であろう。感染動物のリンパ球を採取し選択されたミエローマ細胞と融合させてハイブリッドを形成し、次に前記の抗原性タンパク質または糖タンパク質に対する特異的抗体を産生し得る能力に基づいて選択する。
【0037】
本発明のモノクローナル抗体の好ましい製造方法は以下の段階を含む。
−精製した糖タンパク質gp80を必要に応じて複数回腹腔内注射することによってBALB−C型マウスを免疫する、
−免疫マウスの細胞特に脾臓細胞をミエローマ細胞例えばNS1型細胞とKohler & Milstein(10)の方法で融合させる、−所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選択し回収する。
【0038】
所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを選択するためのハイブリドーマのスクリーニングはRIPAテストまたはウェスターン法(analyse Western Blot)で行なう。
【0039】
本発明の実施に特に適したモノクローナル抗体は、上記の方法のいずれかによって得られる。またgp80または上記の定義に対応する類似のタンパク質に対するモノクローナル抗体の特性を、モノクローナル抗体1H8(Mab 1H8)に関して記載された結果との比較によって試験できる。
【0040】
本発明の目的はまた、上記のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを提供することである。
【0041】
産生されるこれらのモノクローナル抗体は例えば、タンパク質及び/または糖タンパク質と共に免疫複合体を形成してこれらのタンパク質及び/または糖タンパク質を失活させるために使用される。あるいは、HIV−2の最終エンベロープ糖タンパク質が形成されるまでのプロセスの正常な進行を阻止するモノクローナル抗体の能力が利用される。
【0042】
これらの抗体はまた、例えば生物製剤中のウイルス抗原の検出に使用されてもよく、または例えばアフィニティカラムでのタンパク質及び/または糖タンパク質の精製に使用されてもよい。
【0043】
発明者等は、gp80の存在を知見しこれを単離し特性決定することによって、HIV−2型ヒトレトロウイルス感染の診断手段の開発に成功した。
【0044】
従って本発明は、HIV−2型ヒトレトロウイルスの感染を、該レトロウイルス感染後に形成される抗体を含む疑いのある生物サンプルからin vitroで特異的に診断し得る抗原性組成物を提供する。本発明組成物の特徴は、前記に定義した糖タンパク質gp80を少なくとも含むことである。
【0045】
生物サンプルは、生物体液、特に血液もしくは血清でもよくまたは生物組織抽出物でもよい。本発明組成物は、このような生物サンプル中の抗体を検出するために有効である。
【0046】
従って本発明の目的はまた、HIV−2型レトロウイルスによる特異感染のin vitro診断方法を提供することである。本発明方法の特徴は、以下の段階、即ち、
−HIV−2型レトロウイルス感染後に産生する抗体を含むと予想される生物サンプルと前記に定義した糖タンパク質gp80または前記の抗原性組成物とを抗原−抗体型の免疫複合体が形成され得る適当な条件下に接触させ、
−場合によっては形成される抗原−抗体複合体を検出する段階を含むことである。
【0047】
本発明は更に、少なくとも糖タンパク質gp80を、ワクチン成分として許容される医薬ベヒクルと共に含有する免疫原性組成物に係る。
【0048】
これらの組成物はHIV−2型レトロウイルスに対するワクチンを製造するために使用され得る。
【0049】
このように調製された免疫原性組成物は、体重1kgあたり10〜100μgの薬用量で投与されるように定量されたタンパク質及び/または糖タンパク質を含有する。
【0050】
本発明はまた、gp80の製造方法を提供する。この方法は以下の段階、即ち、
−HIV−2ヒトレトロウイルスに感染した細胞を溶解し上清と感染細胞とを分離するか、または調製されたウイルス集塊を遠心によって溶解し、
−細胞抽出物及び/またはウイルス抽出物を、例えばヒトレトロウイルスHIV−2感染患者の血清即ちHIV−2のエンベロープ糖タンパク質と強力に反応する能力を有する血清から得られた精製抗体を好ましくは適当な担体に固定させて含む免疫吸着剤を収容したイムノアファニティカラムで、バッファの存在下に抗原−抗体免疫複合体が形成される十分な時間インキュベートし、
−カラムをバッファで洗浄して担体に保持されなかった分子を除去し、
−所望の抗原性タンパク質を回収する段階を含む。
【0051】
第1の実施態様によれば、糖タンパク質を回収するために、タンパク質を電気泳動及び電気溶出によって処理する。
【0052】
感染細胞は、HIV−2感染細胞培養物から、特にHIV−2に感染したT4リンパ球の培養物からin vitroで得られた。このような細胞培養にはCEM細胞系を用いる。
【0053】
別の実施態様によれば、糖タンパク質は以下の手順、即ち、
−イムノアフィニティカラムに固定されたタンパク質を溶出させ、
−分離担体に固定されたgp80認識モノクローナル抗体を含むカラムクロマトグラフィーで溶出産物を精製する手順によって回収する。
【0054】
本発明方法の1つの実施態様によれば、感染細胞を界面活性剤溶液中で溶解させ、免疫吸着剤に含まれた抗体をアガロースビーズに固定し、バッファ(tampon d′accrochage)の存在下に処理する。
【0055】
本発明はまた、ヒトレトロウイルスHIV−2に感染した疑いのある患者の血清またはその他の生物サンプル中で抗体を検出するためのキットを提供する。本発明のキットの特徴は、
−少なくとも1つの抗原性糖タンパク質gp80またはタンパク質組成物、または、上記の種々の成分の混合物と、
−被検生物サンプル中に場合によっては存在する抗体と抗原との間の免疫複合体の形成反応を生じさせる手段、特に必要に応じて1種または複数のインキュベーションバッファと、
−陰性対照サンプルと、
−形成された抗原−抗体複合体の顕示(revelation)手段とを含む。
【0056】
本発明はまた、好ましくは、放射性標識、酵素標識、蛍光標識、化学発光標識または発色団によって標識された糖タンパク質gp80及びgp65に係る。
【0057】
本発明はまた、HIV−2ウイルス感染細胞の検出方法を提供する。この方法は、HIV−2感染の疑いがある細胞を含む生物サンプルを細胞内タンパク質が露出するように処理し、露出したタンパク質中のHIV−2の糖タンパクgp80の存在を検出する。露出した細胞内タンパクの試験には、例えば電気泳動を用いるか、または、HIV−2のgp80と免疫的に反応性の抗体を用いて免疫検定する。かかる抗体の例は前述した。
【0058】
1つの実施態様では、抗原gp80の存在を診断するための生物サンプルとして細胞破片を除去したサンプルを用いる。
【0059】
本発明はまた、HIV−2抗原を含むと予想される細胞からHIV−2の特異感染を検出しHIV−1の感染と識別する手段を提供する。この方法では、試験すべき生物サンプルの処理細胞から得られた細胞内タンパク質を含む生物サンプルとgp80に対する抗体とを接触させる。次いで、HIV−2感染の存在を検出するために抗原−抗体型反応の有無を試験する。
【0060】
本発明の別の特徴及び利点を実施例及び図面に基づいて説明する。
【0061】
図面の簡単な説明
図1:HIV−1に陽性の1つの血清とHIV−2に陽性の3つの血清(A,B,C)とを使用しウェスターン法で分析したHIV−2感染細胞中の80kDaの特異タンパク質の同定。非感染CEM細胞(2列目)、HIV−1感染CEM細胞(1列目)及びHIV−2感染CEM細胞(3列目)の(10細胞の産物に対応する)細胞抽出物をウェスターン法テストの前に7.5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析した。オートラジオグラムを示す。左側の矢印は、HIV−1の細胞外糖タンパク質(gp120)及びgag前駆物質p55及びp40の位置を示す。図の右側にHIV−2の特異タンパク質gp300、gp140及びgp80の位置を示す。
【0062】
図2:HIV−2に関連した糖タンパク質の合成。HIV−2感染細胞を[H]グルコサミン(200μCi/ml;4×10細胞/ml)で2、3、4、6及び8時間標識した。種々の時点で抽出物(10細胞の産物)を感染細胞及び(100,000gで培地を遠心して調製した)ウイルス集塊から調製した。(2×10細胞に対応する)これらの抽出物のアリコートをHIV−2血清−Sepharoseで精製し、標識タンパク質を、(12.5%)のポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析した。フルオログラムを示す。左側に種々の分子量のタンパク質マーカー、即ち、ミオシン:200,000、ホスフォリラーゼB:97,000、ウシ血清アルブミン:68,000、オボアルブミン:43,000及び炭酸脱水酵素:30,000の位置を示す。
【0063】
図3:ポリクローナル抗体によるgp300のウェスターン法分析。左側に非感染CEM細胞(−)及びHIV−1またはHIV−2感染CEM細胞の抽出物を示す。右側にHIV−2感染CEM細胞の抽出物、即ち細胞抽出物(C列)及びウイルス集塊(V列)を示す。マウスのポリクローナル抗体(抗gp300)を用いて精製タンパク質gp300をウェスターン法で分析する前に、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(左側では7.5%のゲル、右側では12.5%のゲル)でサンプルを分析した。オートラジオグラムを示す。各サンプルは10細胞の産物に対応する。
【0064】
図4:モノクローナル抗体mAb 1H8を用いたウェスターン法分析。抗体mAb 1H8を用いてウェスターン法でテストする前に、HIV−1またはHIV−2感染細胞の抽出物(C列)及びウイルス集塊の抽出物(V列)を12.5%ポリクローナル電気泳動で分析した。オートラジオグラムを示す。モノクローナル抗体はHIV−2 RODのトランスメンブランエンベロープ糖タンパク質に対する抗体である。
【0065】
図5:抗体mAb 1H8とgp80との間の結合を遮断するペプチドp39′。抗体1H8(セクションmAb)または抗gp300ポリクローナル抗体(セクションS)を用いたウェスターン法によってHIV−2のウイルス集塊の抽出物を分析した。1μg/mlのペプチドp39′の非存在(−列)または存在(+列)下に各抗体と共にインキュベートした。オートラジオグラフィーの結果を示す。
【0066】
図6:HIV−2感染細胞中のgp80の産生を示すパルスチェイス実験(ラベルによる標識、ラベルの追跡)。HIV−2感染CEM細胞を[35S]メチオニン(200μCi/ml;4×10細胞/ml)で30分間標識した(0列)。5mMの低温メチオニンを含む培地で放射性標識を2〜4時間追跡した(2列及び4列)。4時間後に培地を100,000gで遠心し、集塊を抽出した。抗gp300抗体または抗体mAb 1H8を使用して全部のサンプルを免疫沈降させた。免疫複合体の調製物から標識タンパク質を電気泳動バッファに溶出させ7.5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分析した。フルオログラムを示す。フルオログラムのC及びVは夫々、細胞抽出物及びウイルス抽出物に対応する。各サンプルは10細胞の産物を示す。
【0067】
図7:(a)gp80による標識グルコサミン及びフコースの取込み。[H]グルコサミン(200μCi/ml)または[H]フコース(200μCi/ml)で標識したHIV−2感染CEM細胞を、抗gp300ポリクローナル抗体(S列)またはモノクローナル抗体mAb 1H8(M列)を用いた免疫沈降によって試験した。全部のサンプルを12.5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分析した。フルオログラムを示す。
(b)gp125及びgp80の産生に対するキャスタノスペルミンの効果。キャスタノスペルミン(1mM)の非存在下(−列)または存在下(+列)にHIV−2感染細胞を[35S]メチオニン(200μCi/ml;4×10細胞/ml)で(16時間)標識した。HIV−2血清−Sepharoseを用いたイムノアフィニティカラムでウイルス粒子を含む培地の抽出物を精製し、精製したタンパク質を12.5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって試験した。対応するフルオログラムを示す。
【0068】
図8:gp80の解離。セクションC:[35S]メチオニンで標識したHIV−2感染CEM細胞抽出物をモノクローナル抗体mAb 1H8を用いた免疫沈降によって試験した(列1)。この調製細胞抽出物の別のアリコートをまず1%SDSの存在下に(95℃で5分間)加熱した。次いで、免疫沈降試験の前にRIPAバッファで10倍に希釈した(列2)。免疫複合体の調製物を電気泳動によって分析した。各サンプルは、10細胞の抽出物に対応する。セクションV:[35S]メチオニンで標識した細胞から得られたHIVウイルスの集塊(各々が10細胞の産物に対応する)を種々のバッファ、即ち、(1)Triton(10mMのTris−HCl,pH7.6、150mMのNaCl、1mMのEDTA、1%(v/v)のTriton X−100及び100単位/mlのアプロチニン)を含む溶解バッファ;(2)(バッファ(1)のTriton X−100の代わりに1%(v/v)のSDSを含み次いでバッファ(1)同様に加熱した)SDSを含む溶解バッファ;(3)SDSを含み次いで95℃で5分間加熱した溶解バッファ;(4)バッファ(1)に01%(v/v)のSDSと0.2%(v/v)のデオキシコレートとを加えて改質した)RIPAバッファに懸濁させた。次いで抗体mAb 1H8を用いてこれらのサンプル全部を免疫沈降させ、12.5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって標識タンパク質を分析した。フルオログラムを示す。
【0069】
図9:精製gp80のgp36への解離。HIV−2感染CEM細胞を[35S]メチオニンで(17時間)標識し、Tritonを含む溶解バッファにウイルス集塊を懸濁させた。これらのウイルス抽出物(2×10細胞に対応する産物)を抗体mAB 1H8を用いて免疫沈降させ、分離用ゲル電気泳動によってgp80を精製した。精製したgp80調製物の等量ずつのアリコートを凍結乾燥し、1%(v/v)のSDSと100単位/mlのアプロチニンと5mMのEGTA(カルシウム依存性タンパク質分解を阻止する成分)とを含むpH6.8、5.8及び4.8の100mMの酢酸塩に再懸濁させた。濃縮した電気泳動バッファで2倍に希釈する前に全部のサンプルを30℃で60分間インキユベートした。(12.5%)ポリアクリルアミドゲル電気泳動によってサンプルを分析した。フルオログラムを示す。
【0070】
図10:二量体の形態で存在するSIVのトランスメンブラン糖タンパク質。セクションCell(細胞):SIV−macに感染したHUT−78細胞及びHIV−2に感染したCEM細胞を[H]グルコサミン(200μCi/ml:4×10細胞/ml)で15時間標識した。(Tritonを含む溶解バッファ中で調製した)感染細胞の抽出物(列C)及びウイルス集塊の抽出物(列V)をmAb 1H8を用いた免疫沈降によって精製し、標識タンパク質を12.5%ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分析した。フルオログラムを示す。
【実施例】
【0071】
材料及び方法
材料
L−[35S]メチオニン(比活性>1000μCi/mmol)、L−[6−H]フコース(比活性:45〜70μCi/mmol)、D−[6−H]グルコサミン(比活性:20〜40μCi/mmol)はAmersham(Amersham、英国)の製品である。キャスタノスペルミン及びツニカマイシンはBoehringer−Mannheim(Mannheim、西独)の製品である。ポリ(A).ポリ(U)はパリのInstitut Curieから入手し、Hovanessian他の方法(1982,Journal Interferon Researchvol.2−p.209〜216)に従って調製した。
【0072】
ウイルス及び細胞
これらの実施例では、1型のヒト免疫不全ウイルスの単離物HIV−1 BRU(12)及び2型のヒト免疫不全ウイルスの単離物HIV−2 ROD(4,5)、及び、サルの免疫不全ウイルスSIV mac142(6)を使用した。
【0073】
10%(v/v)のウシ胎児血清を含むRPMI−1640懸濁培地(GIBCO−BRL、Cergy−Pontoise、フランス)で種々の細胞系及びヒトリンパ球を培養し、HIV感染細胞を培養するために2μg/mlのポリブレン(Sigma)を添加した。クローンCEM細胞13はヒトリンパ球CEM細胞系(ATCC−CCL119)に由来し、T4抗原を高レベルで発現する。HIV−1 BRUまたはHIV−2 RODの単離物で感染させた5日後に約80〜90%の細胞がウイルス粒子を産生する。これは細胞の液胞形成に対応する細胞障害作用及びシンシチウムによって確認された。HUT−78細胞系は、SIV mac142の複製(Daniel他,1985)を十分に許容するT4レセプター(Gazdal他,1980)に対して陽性の別のヒトリンパ球細胞系である。健康な供血者の末梢血液のリンパ球を、10%のウシ胎児血清を補充したRPMI−1640培地中で0.2%(w/v)のフィトヘマグルチニン分画P(Difco,Detroit,米国)と共に3日間刺激した。10%(v/v)のT細胞増殖因子(TCGF,Biotest)を含むRPMI−1640培地中で細胞を培養した。HIV−2に感染させたリンパ球を、10%(v/v)のTCGF及び2μg/mlのポリブレンの存在下に培養した。
【0074】
細胞の代謝標識
タンパク質の代謝標識のためには、L−メチオニン及び血清を除去し200μCi/mlの[35S]メチオニンを補充したMEM培地(Minimal Essential Medium;最小必須培地)中で、感染細胞を37℃で16時間インキュベートした。糖タンパク質の代謝標識のためには、血清及びグルコースを除去し200μCi/mlのH−フコースまたは200μCi/mlのH−グルコサミンを補充したMEM培地で感染細胞を37℃で16時間インキュベートした。
【0075】
細胞及びウイルスの抽出物
10mMのTris−HCl,pH7.6と150mMのNaClと1mMのEDTAと0.2mMのPMSFと100単位/mlのアプロチニン(Iniprol,Choay)とを含む100μlのバッファに10細胞に対応する細胞集塊を再懸濁させ、次いで2%(v/v)のTriton X−100を含む100μlの同じバッファを添加した。
【0076】
細胞抽出物を12,000gで10分間遠心し、使用するまで上清を−80℃で保管した。ウイルス抽出物を調製するためには、上記同様に処理した感染CEM細胞の透明上清1mlあたり100μlの割合で10倍の溶解バッファ(100mMのTris−HCl,pH7.6、1.5MのNaCl、10mMのEDTA、10%(v/v)のTriton X−100、100単位/mlのアプロチニン)を添加した。ウイルス集塊から抽出物を調製するためには、感染細胞の培地をまず12,000gで10分間遠心し、次いで100,000gで15分間高速遠心した(BeckmanのTL100遠心機)。次にウイルス集塊(10細胞から得られた産物)を200μlの溶解バッファ中で可溶化した。
【0077】
HIV−2に血清陽性の患者から得られた抗体を用いた免疫吸着剤の調製
HIV−2に血清陽性の患者の血清の免疫グロブリンを、20mMのリン酸ナトリウム(pH8.0)に溶解した50%の(NHSOで沈降させ、次いで、DEAEセルロースカラム(DE52、Whatman)で20mMのリン酸ナトリウム(pH8.0)で溶出させることによって精製した。このようにして精製された免疫グロブリンは純度90%であると考えてよい。次いでBergによって記載された方法(2)に従ってCNBrで活性化したSepharose CL 4Bカラムに抗体を結合させた。Sepharose CL 4B 1mlあたり2mgのIgGが結合した。以後の記載ではこの免疫吸着剤を「HIV−2血清−Sepharose」と呼ぶ。
【0078】
イムノアフィニティカラムにおけるHIV−2のタンパク質の調製
まず、HIV−2を産生するCEM細胞の細胞抽出物を2倍容の結合バッファ(20mMのTris−HCl,pH7.6、50mMのKCl、150mMのNaCl、1mMのEDTA、20%(v/v)のグリセロール、7mMのβメルカプトエタノール、0.2mMのPMSF、100単位/mlのアプロチニン)に希釈し、等容のHIV−2血清−Sepharoseとインキュベートした。細胞外ウイルスを10倍に濃縮した1/10容の結合バッファでHIV−2産生細胞の上清と同様に処理した。結合処理を1晩継続し、カラムを結合バッファで十分に洗浄した。電気泳動バッファ(125mMのTris−HCl,pH6.8、1%(w/v)のSDS、2Mの尿素、20%のグリセロール、0.5%のβメルカプトエタノール)中で沸騰処理することによってカラムに結合したタンパク質を溶出させた。溶出したタンパク質を、6Mの尿素と0.2%(w/v)でなく0.1%(w/v)のビスアクリルアミドとを含む7.5%SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動によって回収した。
【0079】
分離用電気泳動
アフィニティカラムから溶出したHIV−2の糖タンパク質(gp300及びgp80)を前記同様にポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけて回収し、ウイルス糖タンパク質を含むゲルの領域を所定分子量のタンパク質マーカー(BRL)の位置に基づいて切断した。
【0080】
糖タンパク質gp300を、溶出バッファ(0.1MのNaHCO、0.5mMのEDTA、0.05%(w/v)のSDS、0.2mMのPMSF)中に4℃で16時間インキュベーションすることによって溶出させた。このようにして得られた糖タンパク質の分画を凍結乾燥し、使用するまで冷蔵庫に保存した。gp80は4mMのTris−HCl,pH7.6、2mMの酢酸ナトリウム及び2mMのEDTAを含むバッファ中で電気溶出(electroelution)した。
【0081】
gp300に対するマウスのポリクローナル抗体の調製
HIV−2血清−Sepharoseを用いたイムノアフィニティクロマトグラフィー及び分離用電気泳動(13)を順次行なうことによって感染CEM細胞(3×108細胞)の抽出物からHIV−2のエンベロープ糖タンパク質gp300を精製した。gp300の精製調製物を0.5Mの尿素と1mg/mlのマウス血清タンパク質とを含む10mlの150mMのNaClに溶解し、150mMのNaClと0.5Mの尿素とを含む溶液と接触させて24時間透析した。次いで透析産物を遠心し、2mlのアリコートを−80℃で保存した。(8週齢)の5匹のマウスに350μlのgp300調製物(約1μgのgp300含有)を腹腔内注射によって12日おきに5回投与した。各免疫中にポリ(A).ポリ(U)アジュバント(200μg;150mMのNaCl中に1mg/ml)を静注によって投与した(17)。最終注射の5日後にマウスに106サルコーマ180/TG細胞の懸濁液を腹腔内に注射して超免疫腹水を調製した(8)。注射の8日後にマウスを殺し、腹水を収集した。腹水の細胞を遠心(200g、5分間)によって除去し、腹腔液を収集した。
【0082】
モノクローナル抗体mAb 1H8の調製
HIV−2ビリオンをCEM細胞中で培養し、ショ糖濃度勾配でバンドを形成させることよって濃縮培養上清から精製した。精製ウイルスを、0.5%のTriton−100、150mMのNaCl、50mMのTris,pH8.0、0.1%のアプロチニン(Sigma)で可溶化し、超遠心によって清澄化した。次いでウイルス抽出物をLen−til−Lectin Sepharose 4B(Pharmacia)アフィニティカラムに通し、カラムを洗浄し、付着した糖タンパク質を0.5Mのメチル−α−D−マンノピラノシド(Sigma)によって溶出させ、リン酸緩衝生理的塩類溶液(PBS)と接触させて1晩透析した。
【0083】
Lentil−Lectin Sepharose 4B(50〜100μl)に再付着した2〜5μgの精製糖タンパク質を含む0.3mlの腹腔内注射によってBALB/cマウスを免疫した。4〜6週毎に同じ免疫原をマウスに24時間ブースター投与した。これらのマウスを追跡し、その抗体産生を、[35S]メチオニンで標識したHIV−2ビリオンの抽出物のRIPAテストによって定性的に検出し、可溶化ビリオンのEIAテストによって定量的に検出した(Genetic System)。
【0084】
最終注射の3日後にKohler & Milsteinの方法(10)で脾臓細胞をミエローマNS1細胞と融合させた。Genetic Systemの可溶化ビリオンのEIAテストを使用して抗HIV−2抗体を分泌するハイブリドーマの存在を検出するために、96ウェルの融合プレートをスクリーニングした。クローンハイブリドーマを増殖及び安定させる方法と腹水の産生方法は既に記載されている(7)。次いで、ハイブリドーマの培養上清をRIPA分析及びウェスターン法によってスクリーニングした。糖タンパク質と反応するモノクローナル抗体(mAb)1H8の特性は、合成ペプチドに基づくEIAテスト(16)において、対応するHIV−2のトランスメンブラン糖タンパク質のアミノ酸配列579〜604によって決定される。アミノ酸配列579〜604は、配列決定済みのすべてのHIV−2及びSIVの単離物中に十分に維持されており、モノクローナル抗体1H8は、試験されたこのようなHIV−2及びSIV単離物のすべてと交差反応を生じた。使用した合成ペプチドp39′は、HIV−2 RODのエンベロープのヌクレオチド配列の推定アミノ酸配列579〜604に従って合成されたものである。合成ペプチドp39′のアミノ酸配列は以下の通りである。
VTAIEKYLQDQARLNSWGCAFRQVCH
【0085】
放射性免疫沈降検定(RIPA)
(20μlの)細胞またはウイルスの抽出物(10の感染細胞に対応する産物)をまず倍容のRIPAバッファ(10mMのTris−HCl,pH7.6、150mMのNaCl、1mMのEDTA、1%のTriton X−100(v/v)、0.2%(wt/v)のナトリウムデオキシコレート、0.1%(wt/v)のSDS、7mMの2β−メルカプトエタノール、0.2mMのPMSF、100μ/mlのアプロチニン(Iniprol,Choay)及び20%(v/v)のグリセロール)に希釈した。次に希釈抽出物を、(25μlの)ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体と共に(4℃で45分間)インキュベートした。次いでプロテインA−Sepharoseを添加し、サンプルを4℃で3時間インキュベートした。次にこれらのサンプルをRIPAバッファで洗浄した。免疫沈降によって回収したタンパク質を、電気泳動バッファ(125mMのTris−HCl,pH6.8、1%(wt/v)のSDS、20%(v/v)のグリセロール、0.5%のβ−メルカプトエタノール)中で(95℃で5分間)加熱して溶出させた。溶出したタンパク質を0.2%(wt/v)でなく0.1%(wt/v)のビス−アクリルアミドを含む7.5%または12.5%のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動で回収した。
【0086】
電気泳動後のイムノブロット分析:ウェスターン法
タンパク質をポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分析し、次いで(3)に記載のごとき電極バッファ(20mMのTris塩基、150mMのグリシン、20%(v/v)のメタノール)中で0.45μmのニトロセルロースシート(Schleicher & Schull,Dassel,西独)に電気泳動転移させた。電気泳動斑を、PBSに乳濁させた5%(w/v)の粉末ミルクで飽和した。次いで10%のFCSを含むPBS中のHIV−1陽性血清もしくはHIV−2陽性血清(希釈度1:100)またはマウスのポリクローナル抗体もしくはモノクローナル抗体(希釈度1:200)と共に密封バッグ中で(4℃で1晩)インキュベートした。次いで、シートをPBS、5%のNonidet P−40を含むPBSで洗浄し、(5%の)乳濁ミルクを含むPBSで再度飽和させた。洗浄したシートを、HIV−1血清またはHIV−2血清中のヒトポリクローナル抗体を顕示させるI125で標識したプロテインA製剤(Amersham,>30mCi/mg)、または、I125で標識した抗マウスヤギ免疫グロブリン製剤(Amercham;2〜10μCi/μg)と共に密封バッグにいれて(室温で2時間)インキュベートした。シートをバッグから取り出して再度洗浄し、乾燥して24〜48時間オートラジオグラフ(Kodak RP Royal,X−Ray Films)にかけた。
【0087】
結果
HIV−2感染細胞及びビリオンにおける80kDaの糖タンパク質の検出
HIV−2の糖タンパク質の前駆物質は140kDaのタンパク質(gp140)であり、これは、成熟産物、即ち細胞外糖タンパク質(gp125)及びトランスメンブラン糖タンパク質(gp36)に変態するときに相同な二量体を形成する必要があることは既に判明していた(13)。本発明では更に、トランスメンブラン糖タンパク質がポリアクリルアミドゲル上の80kDaのタンパク質に対応する位置に電気泳動移動度を有するホモ二量体(homodimere)の形態で存在することを証明した(図1から図6)。このタンパク質はグリコシル化されており、便宜上これをgp80と呼ぶ。
【0088】
HIV−1 BRUまたはHIV−2 RODに感染したCEM細胞または非感染のCEM細胞の粗抽出物を、AIDS罹患患者から採取した1つのHIV−1陽性血清サンプル及び3つのHIV−2陽性血清サンプルを用い、電気泳動転移後にイムノブロットテスト(ウェスターン法)で分析した(図1)。HIV−2特異血清はエンベロープ前駆物質(gp140及びgp300)を認識し、更に、80kDaの糖タンパク質(gp80)を強力に認識した。これらの血清は、HIV−1特異血清によって検出可能なHIV−1タンパク質、即ちHIV−1のエンベロープ糖タンパク質の前駆物質gp120及びgagタンパク質の前駆物質(HIV−1ではp55及びp40)を認識しないので、HIV−2のタンパク質特異的であった。HIV−2の感染とgp80との関連性は、HIV−1血清によってgp80が認識されないという結果、HIV−1感染細胞中でも認識されないという結果がいくつも得られたことによって証明される。
【0089】
感染培地の遠心(100,000gで30分間)によって調製されたウイルス集塊をウェスターン法で分析すると、gp80がまた、HIV−2粒子中で細胞外糖タンパク質gp125と同時に検出され得ることが判明した。
【0090】
HIV−2感染細胞中のgp80の合成
予備実験は、すべてのHIV−2陽性血清が、gp80並びにエンベロープのgag前駆物質gp140及びgp300、並びに細胞外糖タンパク質gp125を免疫沈降させ得ることを証明した。特性決定によってgp80の合成を確認するために、エンベロープタンパク質と強力に反応するHIV−2陽性血清を使用した。この血清から精製した抗体を、エンベロープ糖タンパク質精製用のイムノアフィニティカラムとして使用されるCNBrによって活性化したSepharoseカラム(HIV−2血清−Se−pharose)に結合させた。HIV−2感染細胞を[H]グルコサミンで標識し、種々の時点(2、3、4、6及び8時間後)に感染細胞抽出物及びウイルス集塊抽出物を調製した。全部のサンプルをHIV−2血清−Sepharoseで精製し、標識タンパク質をポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分析した(図2)。2時間後に、感染細胞中の検出可能な標識タンパク質はgp140及びgp300だけであった。gp125及びgp80は標識開始の3または4時間後に検出可能になり、また、培地から調製されたウイルス集塊中でも検出可能になった。標識開始の6から8時間後にはgp125及びgp80がはっきりと検出された。これらの結果は、gp80がウイルス粒子と関連性を有すること、及びgp80が未成熟な前駆物質の成熟産物であることを示唆する。
【0091】
これらの実験においては[H]グルコサミンで標識されたgp36も検出されたが、細胞内タンパク質として検出されたものではない。図2では200kDaのタンパク質も出現しているが、これは、別のHIV−2陽性血清によって免疫沈降しなかったので、細胞性タンパク質であろうと考えられる。
【0092】
HIV−2のエンベロープ糖タンパク質の合成に関する反応理論の結果は、既存の結果と一致する。HIV−2感染細胞中で、gp140は標識(パルスラベリング)の15分後に検出可能な最初のエンベロープ産物である。トレーサー追跡(チェース)期間中、二量体形のエンベロープ前駆物質(gp300)は30分後に検出されたが、成熟細胞外糖タンパク質(gp125)は1.5〜3時間後にようやく検出可能になった(13)。
【0093】
HIV−2のエンベロープ前駆物質に対するポリクローナル抗体によるgp80の認識
HIV−2のエンベロープ糖タンパク質の特性決定のために、精製した二量体前駆物質gp300に対するポリクローナル抗体を調製した。このためにgp300をまず、HIV−2血清陽性患者の抗体と共に免疫吸着剤によって部分的に精製し、次いで分離用電気泳動によって精製した。5μgのこの精製gp300調製物を5匹のマウスに10日おきに5回腹腔内投与することによってマウスを免疫した。(200μgの)ポリ(A).ポリ(U)をアジュバントとして使用し、抗原と混合して投与した(材料及び方法の項参照)。全部のマウスでgp300に対する抗体が発生した。これらの抗体はgp300に対するポリクローナル抗体(抗gp300抗体)である。図3は、1匹の免疫マウスの抗体を使用したウェスターン法による分析結果を示す。抗gp300抗体はgp300と特異反応したが、HIV−2感染細胞中に存在するgp140、gp125及びgp80とも反応した。HIV−1に感染したCEM細胞または非感染のCEM細胞中で特異信号は全く観察されなかった。60kDaのタンパク質が抗gp300抗体によって標識されることもしばしば観察されたが、これは、ウイルス感染に無関係な細胞抽出物(図3;細胞セクション「CELL」)中でも観察されいくつかの実験では全く観察されなかったので恐らく非特異的である。これらのポリクローナル抗体はまた、HIV−2感染細胞の抽出物及びウイルス集塊を使用する同様のウェスターン法テストでも使用された。抗体は細胞抽出物中のgp300、gp140及びgp80(図3、セクションHIV−2、列3)を認識した。抗体はまた、ウイルス抽出物中のgp125、gp80及びトランスメンブラン糖タンパク質であろうと推定される36kDaのタンパク質を認識した(図3、セクションHIV−2、列V)。長時間の接触(exposition)によって、細胞抽出物中のgp36の位置に対応する信号を検出することが可能であった。また、ウイルス集塊中のgp80及びgp36のレベルが細胞抽出物中でのレベルに比較してはるかに高かったことにも注目する必要がある。
【0094】
これらの結果は、エンベロープ糖タンパク質の前駆物質に対するポリクローナル抗体が、gp80を認識し、また同時にHIV−2のエンベロープのすべての成分を認識することを示しており、従ってgp80はHIV−2のエンベロープ糖タンパク質と関係があると考えられる。糖タンパク質gp80はウイルスと関連があり、成熟産物であろうと推定される。
【0095】
モノクローナル抗体1H8によるHIV−2のトランスメンブラン糖タンパク質gp80の特異的認識
どのウイルス糖タンパク質を認識できるかを決定するために、モノクローナル抗体mAb 1H8を使用したウェスターン法テストを行なった。HIV−2感染細胞中で、mAb 1H8はgp300、gp140及びgp80を認識したが、HIV−2粒子中では主としてgp80を認識し、gp36及びgp300もわずかに認識した(図4)。ウイルス集塊中に少量のgp300が存在する理由は恐らく、gp300が細胞性タンパク質なので溶解した細胞から混入するためであろう(13)。gp36に関する信号が弱い理由は恐らく、このタンパク質のレベルが低いためであろう。mAb 1H8は細胞外糖タンパク質gp125を認識しなかった(図4)。また、HIV−1感染細胞の抽出物またはウイルス集塊のいかなるタンパク質も認識しなかった。これらの結果は、HIV−2のエンベロープ前駆物質(gp140及びgp300)及びトランスメンブラン糖タンパク質(gp36)に対して抗体mAb 1H8が特異性を有することを示す。mAb 1H8の反応性がHIV−2のトランスメンブラン糖タンパク質のアミノ酸配列579〜604に存在することを合成ペプチドp39′を用いて試験した。
【0096】
mAb 1H8とgp80との反応特異性を証明するために、HIV−2のウイルス集塊抽出物を使用してウェスターン法テストを行なった。タンパク質の転移後、ニトロセルロースシートをmAb 1H8抗体またはgp300に対するポリクローナル抗体と共に、ペプチド39′の存在または非存在下にインキュベートした(図5)。mAb 1H8はgp80と共に強い信号を与えた。更に、gp36に対する信号が観察されたが、この信号は長時間露光後のオートラジオグラムにのみ観察された。抗gp300抗体はgp125、gp0及びgp36と反応した。60kDaのタンパク質によって得られた信号は(図3に示すごとく)特異的でない。ペプチドp39′を添加するとmAb 1H8で得られる信号は完全に消滅したが、抗gp300抗体で得られる信号は消滅しなかった(図5)。これらの観察から、mAb 1H8の反応性がHIV−2のトランスメンブラン糖タンパク質の配列579〜604に対応する26個のアミノ酸残基に特異的であることが確認された。即ち、ペプチドp39′の配列に対応する配列がgp80に存在すると推定される。抗gp300抗体の反応性はペプチドp39′によって変性しなかった。その理由は、これらのポリクローナル抗体がペプチドp39′に対応するエピトープ以外のエピトープと相互作用するからであろう。
【0097】
抗gp300ポリクローナル抗体及びmAb 1H8によるgp80の免疫沈降
ポリクローナル抗体はgp300、gp140、gp125及びgp80を免疫沈降させ、mAb 1H8はgp300、gp140及びgp80を免疫沈降させた(図6)。2つの細胞性タンパク質(60及び45kDa)も、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体の双方を含む免疫複合体調製物と会合していた(図6、0時間及び2時間の列)。タンパク質60及び45kDaは、プロテインA−Sepharoseに付着することによって免疫複合体調製物中に存在していた。プロテインA−Sepharoseは、種々の抗体と共に形成される免疫複合体を回収するために使用されたものである。
【0098】
HIV−2感染細胞を「パルス法」で30分間標識しマーカーを2及び4時間追跡(チェイス)した。標識細胞の抽出物(0、2及び4時間)及びウイルス集塊を4時間追跡(チェイス)後に回収し、gp300に対するポリクローナル抗体及び抗体mAb 1H8を用いた免疫沈降アッセイで分析した(図6)。標識(パルス)中はgp80はポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体によって検出されなかった。2時間追跡(チェイス)後に感染細胞中でgp80がはっきりと検出された。4時間追跡(チェイス)後に感染性細胞中で[35S]メチオニン標識したgp80が検出できなくなる。4時間後の産生ウイルス集塊を分析すると、細胞外糖タンパク質gp125と同様にgp80がウイルス粒子に会合していることが判明した(図6)。gp80はHIV−2のエンベロープの成熟産物であると考えることができる。gp80がHIV−2のトランスメンブラン糖タンパク質の特異モノクローナル抗体によって認識されたことは、このタンパク質がgp36の二量体形に対応することを示唆する(図8及び図9に示した結果で確認された)。gp80は感染CEM細胞だけから検出されたのでなく、HIV−2に感染したT4リンパ球からも検出された。
【0099】
ウェスターン法による分析及び免疫沈降アッセイによって得られた結果を比較すると、HIV−2に陽性のヒト血清、マウスポリクローナル抗体及び抗体mAb 1H8が、gp80及びgp125の天然形よりも変性形を認識し易いことが判明する(図1、図2、図3、図4及び図6)。これらの成熟糖タンパク質の天然形は、種々の抗体によって認識されるエピトープを隠蔽するようなコンホーメーションを有しているのであろうと推定される。
【0100】
gp80によるグルコサミン及びフコースの取込み
H]グルコサミン及び[H]フコースで代謝的に標識したHIV−2ウイルス感染細胞の抽出物を、抗体mAb 1H8及び抗gp300ポリクローナル抗体を用いて免疫沈降させた。先の結果(図3〜6)と同様に、抗gp300抗体は、糖で標識された糖タンパク質、即ちgp300、gp140、gp125及びgp80を免疫沈降させ、mAb 1H8は、gp300、gp140及びgp80を免疫沈降させた。[H]グルコサミンはこれらの全部のタンパク質によって取り込まれていたが、[H]フコースは概してgp125及びgp80によって取り込まれていることが判明した(図7A)。これらの実験で、[H]フコースで標識されたgp36は長時間露光後のオートラジオグラムにも微弱にしか観察されなかった。gp80はまた、gp300、gp140及びgp125と同様に[H]マンノースを取り込むことができる。gp80及びその他の糖タンパク質によるこのような標識糖の取込みは、抗生物質であるツニカマイシン(15)によって阻害される。ツニカマイシンは窒素に結合したタンパク質のグリコシル化を阻止する。
【0101】
(N−アセチルグルコサミン、マンノース及びグルコースを含む)アスパラギンに結合した糖タンパク質のオリゴ糖は、天然タンパク質に結合した後により顕著に成熟する(11)。オリゴ糖鎖の末端が、フコース残基及びシアル酸の転移前に小胞体及びゴルジ体に結合する。その理由は、フコース残基の取込みがグリコシル化段階よりはるかに後で生じるからである。HIV−2感染細胞中では[H]フコースの大部分が、HIV−2のエンベロープの前駆物質の成熟産物に対応する(図6)2つのタンパク質gp125及びgp80に取り込まれる(図7)。エンベロープの前駆物質の成熟中にgp120が産生されたことを確認するために、HIV−2感染細胞をグルコシダーゼインヒビターであるキャスタノスペルミン(14)の存在下または非存在下に[35S]メチオニンで標識した。次に、複数のウイルスタンパク質を認識したHIV−2陽性患者の血清を用い、培養上清を免疫沈降によって試験した。キャスタノスペルミンの存在下では、gp80及びgp125の産生はかなり減少したが、ヌクレオキャプシドの主要(コア)タンパク質(p26)は有意な影響を受けなかった(図7b)。
【0102】
gp80からgp36への解離
gp80の解離に最適な条件を知るための実験を行なった。これらの条件は、極めて生理的塩類溶液に近い培地、酸性pH、イオン性界面活性剤EDTAまたはEGTA、などに対応した。文献(13)に記載された方法を用い、弱酸性バッファ中でのインキュベーションによってgp300の解離試験を行なった。この方法は、6より小さいpH値を有するバッファによるgp80の解離には適しているが、糖タンパク質gp80の大部分が分解(degradation)した。どの実験においても、非イオン性界面活性剤Triton X−100を含む溶菌バッファを使用して感染細胞抽出物またはウイルス集塊を調製した。これらの条件ではgp300及びgp80は解離せず、イオン性界面活性剤SDSを添加した後でも解離しなかった。SDSの効果、即ちTritonの代わりにSDSを使用して抽出物を調製した場合についても試験した。HIV感染細胞を[35S]メチオニンで標識し、1%のTriton X−100または1%のSDSを含む溶菌バッファで可溶化することによって抽出物を調製した。次に、これらの抽出物を、界面活性剤を含まない溶菌バッファで10倍に希釈し、mAb 1H8を用いて免疫沈降させた。Tritonによる抽出物から得られた免疫複合体調製物は、[35S]メチオニンで標識されたバンド、即ちgp300、gp140及びgp80に対応するバンドと、gp36に対応する弱いバンド(図8、セクションCの列1)との存在を示した。更に、抽出物をSDSで調製したとき、gp300及びgp80は実質的に検出不能であったが、gp140及びgp36のレベルは増加していた(図8、セクションC、列2)。従って、イオン性界面活性剤の存在下では二量体形のgp300及びgp80は解離して夫々gp140及びgp36になる。[35S]メチオニンで標識した精製gp300は解離によってgp140だけを産生した(13)。従ってgp36はgp80の解離後にのみ存在する。標識されたタンパク質gp300及びgp80が解離タンパク質から全く回収されなくなると、SDSの存在下ではタンパク質の分解(degradation)が生じることが観察された(図8、セクションC)。200単位/mlのアプロチニン及び0.2mMのPMSFの存在は、SDSとのインキュベーション中のかかる分解(degradation)を妨害しなかった。二量体形のタンパク質がタンパク質分解に抵抗するコンホーメーションを有するとも考えられる。gp300及びgp80の解離はタンパク分解部位をアクセス可能にするコンホーメーション的修飾を生じる。
【0103】
HIV−2のウイルス集塊に対して同様の解離実験を行なった。[35S]メチオニンで標識したウイルスタンパク質を1%のTritonまたは1%のSDSを含む溶菌バッファまたは0.1%のSDSと1%のデオキシコレートとを含むRIPAバッファで可溶化した。1%のSDSを含む溶菌バッファ中の抽出物を更に95℃に加熱した。次に、全部の抽出物をmAb 1Hbによって免疫沈降させ、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって分析した(図8、セクションV)。
【0104】
Tritonによる抽出物から調製した免疫複合体中では、抗体1H8によって免疫沈降する主要タンパク質はgp80及びgp36であった。また、SDSによる抽出物中では、gp80は検出不能になったが、gp36のレベルは顕著に増加した。SDS抽出物中では標識成分の大部分が消滅したので、極めて高度な分解が生じたものと推定される。RIPAバッファを用いた結果は更に良好であり、gp80の大部分が解離しラベルの約30%がgp36に検出された(図8、セクションV)。gp80がgp36のみから成ることを証明するために、抗体mAb 1H8による免疫沈降と分離用ゲル電気泳動とによって精製した[35S]メチオニン標識gp80の解離実験を行なった。凍結乾燥したgp80の調製物をpH6.8、5.8及び4.8のSDSを含む酢酸塩バッファ中に直接懸濁させた。pH4.8においては全部のgp80がgp36に転化した(図9)。
【0105】
SIV−mac中の二量体形トランスメンブラン糖タンパク質の特性決定
トランスメンブラン糖タンパク質がSIVサンプル中で二量体形で検出されるか否かを試験した。
【0106】
SIV及びHIV−2に感染した細胞を[H]グルコサミンで標識し、Tritonを含む溶菌バッファで抽出物を調製し、次いで抗体mAb 1H8で免疫沈降させた。図7に示すように、モノクローナル抗体はHIV−2感染細胞のgp300、gp140及びgp80を沈降させ、ウイルス粒子中ではgp80だけが検出された(図10)。SIV感染細胞中ではモノクローナル抗体は3つのグリコシル化タンパク質、即ちエンベロープ前駆物質gp140、二量体形前駆物質gp300及びHIV−2のgp80に恐らく対応する65kDaのタンパク質(gp65)を沈降させた。gp80と同様に、
gp65はSIVのウイルス粒子と会合していた(図10)。
【0107】
これらの実験において、HIV−2 ROD及びSIV−macのトランスメンブラン糖タンパク質の単量体形は検出できなかった。HIV−2 RODのアミノ酸配列579〜604はSIV−macのアミノ酸配列595〜620に対応する(19,7)。これらの2つの配列は高度な相同性を有し、抗体mAb 1H8はHIV−2 ROD及びSIV−macの双方のエンベロープ糖タンパク質に交差反応する。
【0108】
従って発明者は分子量約65kDaのタンパク質がSIV−macウイルスのgp32の二量体形に対応することを証明した。
【0109】
理論
二量体形タンパク質(gp300及びgp80)の解離は弱酸性pHで生じ得る。従って、gp140の二量体化はpH依存性であり、前駆物質gp140の2分子の融合に有利な小胞体のコンパートメントで生じると推定される。
【0110】
HIV−2の二量体形エンベロープ前駆物質gp300の分子量を非変性条件下にポリアクリルアミドゲル電気泳動で算出した(13)。0.2%(wt/v)の代わりに0.1%(wt/v)のビスアクリルアミドを含む5%のポリアクリルアミドゲル中でこの二量体形前駆物質は280kDaのタンパク質に対応する位置に泳動した。天然条件下の二量体の分子量を確認するために、Sephacryl S−300カラムを用い且つTritonを含む溶菌バッファで調製した[35S]メチオニン標識HIV−2感染細胞抽出物を用いてゲル濾過実験を実施した。これらの実験条件でgp300は集塊タンパク質のピークの後の第2のピークの形態で溶出した。トランスメンブラン糖タンパク質の二量体はgp125のピークの後及びマーカーとして使用したウシ血清アルブミン(68kDa)のピークの前の分子量75〜80kDaを有する溶出タンパク質に対応した。これらの観察は、二量体gp300及びgp80の分子量が天然形及び変性形で同等であることを示す。これらの二量体形のin vitro解離は、酸性pHで生じ、またイオン性界面活性剤SDSの存在下でも生じた。Tritonを含有する溶菌バッファによって抽出物を調製すると、二量体形gp300及びgp80はSDSによって解離しなかった。従って非イオン性界面活性剤Tritonはエンベロープgp300及びgp80の天然形二量体を維持する。
【0111】
二量体形のエンベロープ前駆物質gp300及びトランスメンブラン糖タンパク質はまた、SIV感染細胞でも観察されたがHIV−1感染細胞では観察されなかった。特に、HIV−2の二量体形トランスメンブラン糖タンパク質(gp80)及びSIVの二量体形トランスメンブラン糖タンパク質(gp65)は還元剤の存在下に解離しない。従って、トランスメンブランエンベロープ糖タンパク質の二量体化はHIV−2及びSIVのエンベロープ遺伝子に特異的な特性であると考えられる。この特性は、新しいHIV単離物を特性決定するときに、検出された単離物とHIV−1型またはHIV−2型との関係を説明するための適当なマーカーとして利用され得る。成熟エンベロープ糖タンパク質を産生するべく前駆物質が成熟するためには、エンベロープ前駆物質の二量体化が必須である。二量体形のトランスメンブラン糖タンパク質は、最適なビリオン構造の形成に必須であり、また細胞膜と融合する能力及び感染させる能力にも必須であるが、トランスメンブラン二量体のin vitro解離は極度の分解を生じさせる。その理由は、この糖タンパク質の二量体形がタンパク質分解に抵抗し得るコンホーメーションを有するためであろう。
【0112】
実施例で説明した本発明のいくつかの特徴を、HIV−2の糖タンパク質gp125及びgp80を示す表及びそれらの産生段階を示す図にまとめる。
【0113】
【表1】

【0114】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】HIV−1に陽性の1つの血清とHIV−2に陽性の3つの血清(A,B,C)とを使用しウェスターン法で分析したHIV−2感染細胞中の80kDaの特異タンパク質の同定。
【図2】HIV−2に関連した糖タンパク質の合成。
【図3】ポリクローナル抗体によるgp300のウェスターン法分析。
【図4】モノクローナル抗体mAb 1H8を用いたウェスターン法分析。
【図5】抗体mAb 1H8とgp80との間の結合を遮断するペプチドp39′。
【図6】HIV−2感染細胞中のgp80の産生を示すパルスチェイス実験(ラベルによる標識、ラベルの追跡)。
【図7】(a)gp80による標識グルコサミン及びフコースの取込み。及び(b)gp125及びgp80の産生に対するキャスタノスペルミンの効果。
【図8】gp80の解離。
【図9】精製gp80のgp36への解離。
【図10】二量体の形態で存在するSIVのトランスメンブラン糖タンパク質。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された抗原−抗体型免疫複合体であって、該抗原が、
−分子量約80kDaを有する、
−HIV−2型ヒトレトロウイルスの糖たんぱく質gp300に対するポリクローナル抗体によって認識される、
−ヒトのSLAまたはAIDSを発症させ得るHIV−2型ヒトレトロウイルスのゲノムによってコードされたトランスメンブレンエンベロープ糖タンパク質gp36を二量体化させてなる、
gp80糖タンパク質であることを特徴とする、前記免疫複合体。
【請求項2】
単離された抗原−抗体型免疫複合体であって、該抗原が、
−HIVまたはSIVレトロウイルスのトランスメンブレンエンベロープ糖タンパク質の二量体からなり、
−請求項1に記載の抗原性糖タンパク質gp80に対する抗体と抗原−抗体型免疫複合体を形成することができる、
−約65kDaから約80kDaの分子量を有する、
糖タンパク質であることを特徴とする、前記免疫複合体。
【請求項3】
該抗原が、VTAIEKYLQDQARLNSWGCAFRQVCHの配列で表されるペプチドp39’である、請求項2に記載の単離された抗原−抗体型免疫複合体。
【請求項4】
HIV−2型レトロウイルスに感染した細胞中に存在するgp300、gp140、gp125およびgp80を特異的に認識し、且つHIV−2型レトロウイルスの抽出物中に存在するgp125、gp80およびgp36を特異的に認識するが、健常細胞またはHIV−1型レトロウイルスに感染した細胞中に存在するタンパク質または糖タンパク質を認識しないことを特徴とするモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の単離された免疫複合体。
【請求項5】
請求項1または2に記載の糖タンパク質と反応するモノクローナル抗体を含むことを特徴とする、単離された免疫複合体。
【請求項6】
VTAIEKYLQDQARLNSWGCAFRQVCHの配列で表されるペプチドp39’に含まれるエピトープに対するモノクローナル抗体を含むことを特徴とする、請求項5に記載の単離された免疫複合体。
【請求項7】
モノクローナル抗体1H8を含むことを特徴とする、請求項5に記載の単離された免疫複合体。
【請求項8】
複合体を形成する抗体が、HIV−2型レトロウイルスに感染することによって産生された抗体を含む生物学的試料に由来するものであることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の単離された免疫複合体。
【請求項9】
複合体を形成する抗原が、HIV−2型ヒトレトロウイルスに感染した細胞の溶解物から派生したことを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の単離された免疫複合体。
【請求項10】
免疫後において、請求項1に記載の糖タンパク質gp80に反応する抗体の産生を誘導し得る、VTAIEKYLQDQARLNSWGCAFRQVCHの配列で表されるペプチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−213702(P2006−213702A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375317(P2005−375317)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【分割の表示】特願2004−371350(P2004−371350)の分割
【原出願日】平成2年5月11日(1990.5.11)
【出願人】(591222762)アンステイテユ・パストウール (7)
【Fターム(参考)】