説明

HIVの治療

プロオピオメラノコルチン(POMC)及びコルチコトロピン放出因子(CRF)ペプチド並びにそれらの産物を使用するHIVの治療方法、並びに医薬の製造におけるそれらのペプチドの使用を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HIVの治療方法、並びにHIVの治療のための医薬の調製におけるPOMC及び/又はCRFペプチドの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト免疫不全ウイルス/後天性免疫不全症候群(HIV/AIDS)の流行は、世界中で2千万を超える人を死に至らしめており、現在では約4千万人が感染している。これは、発展途上国に対して特に深刻な社会経済的影響を有する。現在まで、HIV及びAIDSに対して効果的な唯一の武器は、治療であって、特に非常に活性の高い抗レトロウイルス治療(HAART)である。しかしながら、これは世界中で利用可能なわけではなく、毒性の副作用がある可能性があり、多くの場合に多数の困っている人から治療が奪われる。したがって、効果的な治療HIVワクチン又は予防が、次第に非常に緊急に必要になっている。
【0003】
国際特許出願PCT/GB2005/050108は、患者の各種疾患の治療における、コルチコトロピン放出因子(CRF)及び/又はプロオピオメラノコルチン(POMC)ペプチドの使用を開示している。治療され得る疾患の一覧は、PCT/GB2005/050108を参照のこと。ヤギ血清製品の調製は、国際特許出願WO 03/004049及びWO03/064472に開示されており、本出願人は、この血清製品が、本発明において使用してよいCRF及びPOMCペプチドの有用な供給源であってよいと解している。
【特許文献1】PCT/GB2005/050108
【特許文献2】WO 03/004049
【特許文献3】WO03/064472
【非特許文献1】http://www.ncbi.nlm.nih.gov/
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本出願人は、ここで、CRF及び/又はPOMCペプチドがHIVの治療において有用であり、特に患者におけるウイルス量の減少及び/又はCD4+およびCD8細胞数の増加において有用であることを発見した。
【0005】
CRFは、視床下部において生産されるペプチドであり、ストレス応答に関与すると解されている。ヒトCRFは、OMIM(online mendelian inheritance in man、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/からアクセス可能である)の登録122560に詳細に開示されている。ヒトCRFのヌクレオチド配列及びアミノ酸配列も既知であり、GENBANK受入番号BC011031を有する。ヒトCRFの配列及びサイズのデータに関する知識が、ヤギCRFを含む非ヒトCRFについての同等の情報を当業者が見出すことを可能にするであろう。CRFは、コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)としても知られている。
【0006】
「CRFペプチド」は、対応する配列、構造、又は機能を有する任意のペプチドを意味する。上述のGENBANKの登録においてヒトCRFについて与えられた標準的なヌクレオチド配列及び/又はアミノ酸配列が、ペプチドの構造又は機能に影響を与えること無く、ある程度まで変化してよいことが、当業者には明らかである。特に対立遺伝子多型及び機能変異体が、この定義に含まれる。変異体は、保存的アミノ酸置換、並びにCRFの断片及び誘導体を含んでよい。
【0007】
患者に対するCRFの投与は、内因性のCRFの生産を刺激し、次いで、プロオピオメラノコルチン(POMC)及びその関連する構成ペプチドの生産を刺激すると解されている。
【0008】
POMCは、下垂体(並びに多数の他の器官、ある種の腫瘍、例えば黒色腫、並びに正常な皮膚細胞)において生産されるペプチド(プロホルモン)であり、宿主に対して多数の効果を奏する一連の副腎皮質刺激ホルモンの前駆体である。POMCは、α、β、及びγメラニン細胞刺激ホルモン(MSH);副腎皮質刺激ホルモン(ACTH);β及びγリポトロピン(LPH);並びにβエンドルフィンの前駆体である。これらのホルモンの全てが、単独の大きな前駆体であるPOMCから切断されており、本明細書では「POMC産物」と称する。
【0009】
ヒトPOMCは、OMIM(online mendelian inheritance in man、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/からアクセス可能である)の登録176830に詳細に開示されている。ヒトPOMCのヌクレオチド配列及びアミノ酸配列も知られており、GENBANK受入番号BC065832を有する。ヒトPOMCは、31kDaの分子量を有する糖鎖付加したタンパク質前駆体を生じさせる。
【0010】
「POMCペプチド」は、対応する配列、構造、又は機能を有する任意のペプチドを意味する。上述のGENBANK登録においてヒトPOMCについて与えられる標準的なヌクレオチド配列及び/又はアミノ酸配列が、ペプチドの構造又は機能に影響を与えずに、ある程度まで変化してよいことが、当業者には明らかであろう。特に、対立遺伝子多型及び機能変異体が、この定義に含まれる。変異体は、保存的アミノ酸置換を含んでよい。本明細書で使用する「POMCペプチド」は、MSH、ACTH、LPHの少なくとも1つの形態、βエンドルフィン、メチオニン−エンケファリン、及びロイシン−エンケファリンであり;好ましくは、α、β、及びγMSHのすべて;ACTH;β及びγLPH;並びにβエンドルフィン、メチオニン−エンケファリン、及びロイシン−エンケファリンである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第一の態様によれば、コルチコトロピン放出因子(CRF)ペプチドを患者に投与する工程を含む、HIVの治療方法を提供する。
【0012】
前記治療は、以下の効果:ウイルス量の減少;CD4細胞の増加;又はCD8細胞の増加の1つ又は複数を得るために使用してよい。
【0013】
本出願人は、前記方法は、ヒトの患者におけるHIV及びAIDSに対して成功裡に使用し得ると解している。理論に繋げることを望まないが、本出願人は、前記治療が、ウイルス複製及び拡散に必要な高活性免疫反応のレベルを低減することによって、体内におけるウイルスの拡散を制限及び調節すると解している。加えて、ウイルス複製及び拡散を支え及び刺激する、日和見感染及び結果として生じる炎症性サイトカインの生産によって生じる炎症も調節する可能性がある。その様に、前記治療は、HIV患者のウイルス量を減少し、血中のCD4及びCD8数を増加し、性欲を改善し、食欲を刺激し、並びにHIV/AIDS患者の生活の質を改善する。
【0014】
CRFは、非ヒトCRFであって良く、好都合には有蹄動物のCRFであり、最も好ましくはヤギCRFである。驚くべきことに、ヤギが出血または免疫などの生理的ストレスによって刺激を受ける際に、ヤギ血清がCRFを含有していることを同定した。これによって、本発明の医薬組成物のためのCRFの簡便な供給源が提供される。CRFは患者において自律的な効果を有してよく、CRFの初期量の投与が患者においてCRFの体内生産を生じさせ、かくして、低レベルのCRFの初期投与が、患者に対して顕著な効果を有してよく、POMCペプチドのレベルにおける増加を含むと解されている。言うまでも無く、ヤギ以外の動物から得られるペプチドを使用してよく、組換え又は他の供給源のペプチドであってよい。
【0015】
本発明で使用するペプチドの投与は、経口又は非経口で実施してよい。非経口送達方法は、局所、動脈内、筋肉内、皮下、髄内、鞘内、心室内、静脈内、腹腔内、又は鼻内投与を含む。活性成分に加えて、投与する組成物は、賦形剤及び医薬投与に適切な製剤に活性化合物を処理することを容易にする他の成分を含む、適切な製薬学的に許容される担体を含んでよい。
【0016】
経口投与のための医薬組成物は、経口投与に適切な用量において、当該技術分野において既知の製薬学的に許容される担体を使用して製剤化してよい。その様な担体は、対象による摂取に適切な錠剤、丸剤、糖衣錠剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、及び懸濁剤などに組成物を製剤化することを可能にする。
【0017】
経口用途のための製剤は、活性化合物を固体の賦形剤と混合し、結果として得られる混合物を任意にすりつぶし、錠剤又は糖衣錠剤の核を得るために望ましい場合には適切な追加の化合物を添加した後に、顆粒の混合物を処理することによって得られてよい。適切な賦形剤は、炭水化物又はタンパク質充填剤、例えば、ラクトース、スクロース、マンニトール、ソルビトールなどの糖;トウモロコシ、小麦、コメ、ジャガイモ、又は他の植物由来のデンプン;メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、又はナトリウムカルボキシメチルセルロースなどのセルロース;アラビアゴム及びトラガカントゴムなどのゴム;並びにゼラチン及びコラーゲンなどのタンパク質を含む。望ましい場合には、崩壊剤又は可溶化剤を添加してよく、例えば、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸、又はそれらの塩を添加してよい。
【0018】
糖衣錠剤は、アラビアゴム、タルク、ポリビニルピロリドン、カルボポールゲル、ポリエチレングリコール、二酸化チタン、ラッカー溶液、及び適切な有機溶媒又は溶媒混合物を含有してもよい濃縮した糖溶液などの適切なコーティングを用いて提供してよい。染料及び顔料は、製品認識又は活性化合物の量を特徴付けるための錠剤又は糖衣錠剤コーティングを添加してもよい。
【0019】
経口で使用してよい製剤は、押し込み型のゼラチン製カプセル剤、並びに密閉型のゼラチン製軟カプセル剤及びグリセロール又はソルビトールなどのコーティングを含む。押し込み型のカプセル剤は、ラクトース又はデンプンなどの充填剤又は結合剤、タルク又はステアリン酸マグネシウムなどの潤滑剤、及び任意に安定剤と混合して活性成分を含有してよい。軟カプセル剤では、活性化合物は、適切な液体、例えば、脂肪油、液体パラフィン、又は液体ポリエチレングリコールに、安定剤と共に又は安定剤無しで、溶解又は懸濁してよい。
【0020】
非経口投与のための製剤は、活性化合物の水溶液を含む。注射については、本発明の医薬組成物は、水溶液、好ましくは生理的に適合性の緩衝液、例えば、ハンクス液、リンガー液、又は生理緩衝食塩水中で製剤化してよい。水性懸濁注射剤は、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、ソルビトール、又はデキストランなどの懸濁剤の粘度を増大する物質を含有してよい。加えて、活性化合物の懸濁物が、適当な油性注射用懸濁剤として調製されてよい。適切な脂溶性溶媒又は媒体は、ゴマ油などの脂肪油、又は合成脂肪酸エステル、例えば、オレイン酸エチル又はトリグリセリド、あるいはリポソームを含む。任意に、前記懸濁剤は、化合物の可溶性を増大させて高度に濃縮した溶液の調製を可能にする適切な安定剤又は薬剤も含有してよい。
【0021】
局所又は鼻内投与については、浸透すべき特定の障壁に適当な浸透剤を、製剤において使用してよい。
【0022】
本発明で使用するための医薬組成物は、当該技術分野において既知の標準的な製造手法に実質的にしたがって製造してよい。
【0023】
本発明に使用するためのペプチド又は組成物は親油性化してよい。これによって、製品の保存寿命及び安定性を改善し、輸送可能性を改善する。これは、温暖な気候であって、冷凍設備が容易に利用可能でない場合において使用するために特に有益である。親油性化した製品を投与前に再構成してよい。
【0024】
前記方法は、患者における各種の細胞による更なるペプチドの放出のカスケードを誘導する可能性がある1つ又は複数のペプチド調節因子又は放出因子を投与する工程を更に含んでよい。その様な追加の因子は、好ましくはCRFと同じ供給源、特にヤギ血清由来である。適切な因子は、とりわけα−HLA、TGF−β、及びIL−10を含む。
【0025】
好ましい実施態様では、前記方法は、バソプレッシン、βエンドルフィン、及びエンケファリンの1つ又は複数を投与する工程を含んでよい。ある実施態様では、前記方法は、CRF結合タンパク質であるCRF−BPを含んでよい。これはCRFに結合し、患者に対するCRFの後続の放出のためのリザーバーとして働いてよい。
【0026】
前記方法は、POMCペプチド又はPOMC産物を投与する工程を更に含んでよく、あるPOMC産物は、患者に投与して、更なる生産を刺激するか又は内因性のPOMCが生産され得る前に所望の応答を得るために有用であってよい。
【0027】
本発明の更なる態様は、患者にPOMCペプチド及び/又はPOMC産物を投与する工程を含む、HIVの治療方法を提供する。
【0028】
好ましくは、POMCは非ヒトPOMCであり、好都合には有蹄動物POMCであり、最も好ましくはヤギPOMCである。POMCは下垂体において生産され、そのため、血清に少なくとも有意なレベルで存在することは予期されなかったが、驚くべきことに、ヤギが出血又は免疫などの生理ストレスによって刺激を受ける際に特に、ヤギ血清がPOMC、POMC関連ペプチド、及びPOMCカスケード関連分子を含有することを同定した。これによって、本発明の医薬組成物のためのPOMCの簡便な供給源が提供される。POMCは患者において自律的な効果を有する可能性があると解されており、POMCの初期量の投与が患者においてPOMCの体内生産を生じさせ、かくして、低レベルのPOMCの初期投与が患者に対して顕著な効果を有する可能性があると解されている。CRFペプチドのように、言うまでも無く、組換えPOMCを含むヤギ以外のPOMCペプチドの供給源が使用されてよい。
【0029】
POMC及びその関連分子の対象に対する投与において、ペプチドをタンパク質分解して、対象が容易に利用可能な形態においてPOMC産物の1つ又は複数を提供し、視床下部−下垂体−副腎皮質系(HPA)を刺激する分子カスケードの誘導も存在すると解される。
【0030】
本発明の更なる態様によれば、α、β、及びγメラニン細胞刺激ホルモン(MSH);副腎皮質刺激ホルモン(ACTH);β及びγリポトロピン(LPH);並びにβエンドルフィンの2つ以上を投与する工程を含むHIVの治療方法を提供する。おそらく投与によるPOMCのタンパク質分解が与えられて、POMC由来の個々のホルモンの2つ以上の投与によって類似の効果を達成することができる可能性がある。記載したホルモンは、個々のペプチド又は1つ又は複数の前駆体分子(例えば、POMCの部分分解物)として提供されてよい。好ましくは、3、4、5、6、又は7のホルモンが、その様な分子の持続的な生産のためのカスケードを(任意にCRFと共に)誘導する医薬組成物中に含まれる。各種の成分が、該成分の1つ又は複数に結合する1つ又は複数の担体分子と組み合わせて提供されてよく、該成分放出のためのリザーバー又はデポーとして働いてよい。担体分子は、POMC及びその関連ペプチドと組み合わせて使用してもよい。
【0031】
POMC又はCRFペプチドの最適な用量は未だ決定していないが、0.01から10mg/kgの間、より好ましくは0.01から5mg/kgの間、0.025から2mg/kgの間、最も好ましくは0.05から1mg/kgの間の用量のペプチドを対象に投与することが適当であってよい。
【0032】
正確な投与用量は、患者の年齢、性別、及び体重、投与方法及び製剤、並びに治療しようとする疾患の性質及び重度などの因子によって変化してよい。食事、投与時間、患者の状態、併用薬、及び反応感度などの他の因子が考慮に入れられてよい。効果的な治療計画は、治療する医療従事者によって決定されてよい。一回又は複数回の投与が与えられて、典型的には、少なくとも3、5、又はそれ以上の一連の投与の後に利益が認められる。組成物の有益な効果を維持するために、反復投与が望ましい可能性がある。
【0033】
治療は、任意の効果的な経路によって、好ましくは、皮下注射によって投与してよいが、使用してよい代替的な経路は、筋肉内又は病巣内注射、経口、エアロゾル、非経口、又は局所を含む。
【0034】
治療は、好ましくは、液体製剤として投与されるが、他の製剤が使用されてよい。液体製剤は、凍結乾燥製剤から再構成されてよい。例えば、治療は、適切な製薬学的に許容される担体と混合して良く、経口、局所、又は非経口投与用の適切な組成物における固体(錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤など)として製剤化されてよい。
【0035】
本発明は、HIVの治療用の医薬の製造におけるCRFの使用も提供する。HIVの治療用の医薬の調製におけるPOMCの使用も提供する。CRF又はPOMCは、単離された精製CRF又はPOMCであってよいが、上述の各種の他の成分と組み合わせて投与することが好ましい。特に、生物活性担体タンパク質及びバソプレッシンを使用してよい。
【実施例】
【0036】
国際特許出願公開WO 03/004049及びWO 03/064472は、ヤギ血清組成物の製造を開示している。その製造方法の概要を以下に示す。
【0037】
血清組成物の製造
ヤギは、1mlあたり10のウイルス粒子の濃度でHIV−3bの筋肉内注射を用いて、標準的な市販の上清に懸濁した可溶化HIV−3bウイルスを筋肉内注射して接種する。前記ウイルスは、30分間60℃で事前に熱で殺滅させる。最適な手法では、ヤギは、4週間に亘って毎週注射し、次いで、6週目にヤギを出血させて試薬を得る。
【0038】
約400ccの血液を滅菌技術のもとでヤギから得る。前記動物は、典型的には10から14日で再出血させてよく、血液の量を補充する。出血前の養生は、血清の活性成分生産を刺激するために有用である可能性がある。全ての後続の処理工程は、他に特定していない限り、好ましくは4℃で実施する。次いで、血液を遠心分離して、血清を分離し、血清を濾過して大きな凝塊及び粒子状物質を除く。次いで、過飽和硫酸アンモニウム(4℃で47%溶液)で血清を処理して、抗体及び他の物質を沈殿させる。結果として得られた溶液を、Beckman J6M/E遠心分離機で45分間に亘って3500rpmで遠心分離する。その後、上清の流動体を除去する。沈殿したイムノグロブリン及び他の固体物質は、沈殿物を再溶解するのに十分なPBS緩衝液(リン酸緩衝生理食塩水)に再懸濁する。
【0039】
次いで、溶液は、4℃で10,000ダルトンの分子量カットオフでPBSに対して透析濾過に供する。透析濾過後に、製品を0.2ミクロンフィルターで滅菌容器に濾過して、タンパク質濃度を4から5mg/mlに調節する。溶液は、1mlの単回投与を与える容器に入れて、使用するまで−22℃で保存した。
【0040】
血清組成物の分析
PCT/GB2005/050108は、この方法で調製した血清組成物が、POMC及びCRFペプチドを含有することを報告しており、血清の効果におけるこれらのペプチドの積極的役割を示唆している。血清の分析の概要を以下に示す。
【0041】
前記組成物のサンプルはゲルでサイズ分画し、βエンドルフィンに対する抗体を用いてウエスタンブロットを実施した。強力なシグナルが検出され、βエンドルフィンの存在が示されたが、見掛けの分子量は約31kDaであり、βエンドルフィンの推定サイズよりもはるかに大きかった。このことは、βエンドルフィンが大きなペプチドの一部としてサンプル中に存在することを示しており、前記サイズはPOMCのものと一致した。
【0042】
本出願人は、その組成物に対してマススペクトロメトリーも実施して、少なくとも2つのPOMC由来ペプチド、つまりβエンドルフィン及びコルチコトロピン関連分子を検出した。CRH−BP(コルチコトロピン放出ホルモン結合タンパク質)も同定した。
【0043】
図1から4
POMCペプチド及びCRF−BPは、Thermofinnegan LCQマススペクトロメトリーによって、前記製品中において同定した。CRFは、下垂体前葉におけるACTHの合成及び分泌を主に調節している。CRF及びCRF−BPに加えて、POMC及び/又はその構成ペプチドの投与は、POMCペプチドの合成及び持続的な濃度の上昇の発生の促進に作用するカスケードを開始すると解される。CEF−BPは、CRFのリザーバーとして働く機能を有する。
【0044】
図1から4は、SDS−PAGEによってタンパク質の汚染から分離した前記製品に由来するトリプシン消化物のマススペクトロメトリー分析から得られたヒットを示す。上述のように、これらの分子の幾つかは、POMCカスケードの誘導因子及び調節因子である。より詳細な分析(例えば、ペプチド分画、免疫沈降、及び濃縮)を用いた更なる調査は、より多くのペプチドが存在することを明らかにするであろう。図1は、POMC由来コルチコトロピンの存在を示す。図2は、CRF−BPの存在を示す。図3は、プロエンケファリンAの存在を示す。図4は、プロエンケファリンBの存在を示す。CRF−BPの存在は、製品が幾つかのCRFを含有するが、POMC及び関連ペプチドも明らかに存在することを示唆する。
【0045】
本出願人は、また、患者自身の血清の血清組成物を用いて治療効果を調査した。これらの効果を以下に記載する。
【0046】
治療した患者における、炎症性TH−1プロフィールから抗炎症性TH−2サイトカインプロフィールへの転換の証拠
図5は、上述のように調製したヤギ血清製品で処理する前及び後に、2つの群の患者(健康なボランティア)の血清におけるTGF−βのレベルを示す。2つの群の患者(各群n=3)が、生産されるTGF−βの濃度に対して異なる反応を示すが、全ての患者が、処理に対して血清レベルの増加を示した(pre sera=処理前の患者の血清レベル;post 2nd及びpost 5th=2回目及び5回目の投与後)。データは、治療によって、抗炎症性サイトカインTGF−βの濃度の増大が誘導されていることを示す。
【0047】
図6は、治療前(pre−sera)及び後における、1つの群の患者のIL−4の血清レベルを示す。治療後(post 2nd)において、IL−4のレベルは患者の血清において有意に増加することが認められる(n=5)。しかしながら、5回目の投与の後に、IL−4のレベルは全ての患者において低下しているが、治療前よりも高いままであった。IL−4は、TH−1細胞からの炎症性サイトカインIL−4の生産を下方調節することが知られている。全ての患者において認められる濃度の一貫性のある変化は、TH−1からTH−2への転換におけるIL−4の役割と一致している。
【0048】
図7は、治療前及び後における、1つの群の患者のIL−6の血清レベルを示す。治療後(post 2nd及びpost 5th)に、IL−6のレベルが患者の血清において減少していることが認められる(n=4)。
【0049】
図8は、治療前及び後における、1つの群の患者のIFN−γの血清レベルを示す。処理後(post 2nd及びpost 5th)に、IFN−γのレベルが患者の血清において減少していることが認められる。
【0050】
図9は、ヒト末梢血細胞(PBMC)が、単球亜集団における抗炎症性サイトカインIL−10の生産を誘導することを示す。Tリンパ球及びBリンパ球並びに単球は、ヒトボランティアから得られたPBMCから分離した。全ての細胞種は、等量の製品で16時間に亘って処理し、それらの上清を、IL−10含有量についてELISAでアッセイした。T細胞集団によって生産されたIL−10レベルは処理によって影響を受けず、IL−10の小さな増加のみがB細胞において誘導されたことが認められる。しかしながら、IL−10濃度の顕著な増加が、処理によって単球集団において誘導された。全ての測定は、三回重複+/−標準偏差で実施した。これらのデータは、少なくとも3回の別々の試験の典型である。
【0051】
要点及び結論
本出願人は、上述のヤギ血清製品がPOMCペプチド及びその産物並びにCRFペプチドを含有することを、本明細書及びPCT/GB2005/050108において示している。本出願人は、患者の炎症プロフィールにおける転換を誘導する血清製品の投与も示す。
【0052】
WO 03/004049は、HIV患者の治療のための上述のように調製したヤギ血清製品の使用を開示する。該文献では、HIVに対する前記血清の有益な効果が、抗−FAS及び抗−HLA分子の存在によるものであると示唆されており、POMC又はCRFペプチドが存在することは示唆されていない。該文献は、血清を与えられた患者が、CD4及びCD8細胞数の増加、ウイルス量の減少、及びP24値の減少を示すことを観察している。
【0053】
WO 02/07760も、HIV患者を治療するための同一のヤギ血清製品の調製及び使用を開示している。該文献は、in vitroでSIVの中和を示すという実験データを報告している。該文献の実施例3は、上述と同様のヤギ血清製品の調製を開示している。前記血清の投与は、HIVウイルス量(血清1mlあたりのHIV−1 RNAのコピー数として定義される)の減少を生じさせ、CD4及びCD8細胞数の増加を生じさせる。ここでも、これらの特性が、POMC又はCRFペプチドの存在によるものである可能性があるという示唆はされていない。
【0054】
PCT/GB2005/050108における発見及び本明細書において提示したデータを考慮すると、ヤギ血清製品がPOMCペプチド及びその産物並びにCRFペプチドを含有し、これらのペプチド及び産物が活性を有する生物学的作用物質であり、これらのペプチド及び産物が、ヒトの患者におけるHIV及び/又はAIDSの治療において、とりわけウイルス量の減少、CD4細胞数の増加、及びCD8細胞数の増加の1つ又は複数を得るために有用であり得ると解される。
【0055】
HIVは、神経変性及び広範な神経病を生じさせる中枢神経系(CNS)の各種の病変を誘導することも知られている。これらは、HIV脳炎、HIV白質脳症、軸索損傷、各種の重度の神経細胞脱落と関連する散在するポリオジストロフィーを含む。後者は、アポトーシスの過程によるものであると解される。これらの疾患は、認知機能の損失及び認知症を生じさせる。神経変性疾患に対するPOMC/CRFペプチドの開示されている効果を考慮すると(PCT/GB2005/050108参照)、その様なペプチドは、HIV/AIDSのこれらの症状並びにHIV/AIDS自体を緩和するために使用してもよいようである。
【0056】
HIVウイルスに感染した人々における視床下部−下垂体−副腎系(HPA)が機能不全を起こすことも報告されている。サイトカインネットワークの操作が、HIV感染の調節における有益な効果をもたらすであろう。炎症細胞におけるメラノコルチン受容体の刺激が、HIV感染の経過を変化させる効果的な治療法である可能性がある。本明細書に記載した血清製品に存在するプロオピオメラノコルチン由来ペプチドは、副腎皮質刺激ホルモン[ACTH(1−39)]、α−メラニン細胞刺激ホルモン[α−MSH(1−13)]、及び関連するアミノ酸配列を含む。メラノコルチンペプチドは、強力な抗炎症/抗サイトカイン活性を有する。
【0057】
インターロイキン1(IL−1)及び腫瘍壊死因子(TNF)などのサイトカインは、HIV感染患者において有害なものである可能性がある。HIV患者の血中におけるIL−1及びTNF−αの生産に対するメラノコルチンの効果が調べられている。α−MSH(1−13)、α−MSH(11−13)、ACTH(1−24)、又はACTH(1−39)の存在下又は非存在下においてLPSで刺激した全血サンプルにおいて、サイトカイン生産を測定した際に、メラノコルチンが濃度依存的な様式で双方のサイトカインの生産を低減させることが認められた。正常な末梢血単核細胞(PBMC)における別の実験では、α−MSH(1−13)が、HIVエンベロープ糖タンパク質gp120によって誘導されるIL−1β及びTNF−αの生産を阻害することが認められた。これらの結果は、炎症細胞におけるメラノコルチン受容体の刺激が、HIV複製を促進するサイトカインの生産を低減させる新規な方法である可能性を示唆する。
【0058】
POMC及びCRFペプチド及びその産物は、各々又は組み合わせのいずれかにおいて、HPAを調節する能力を有する新規製剤を提供し、メラノコルチンの供給源及びメラノコルチン生産の調節因子として役立つ。特に、高活性炎症性TH−1サイトカインから抗炎症性TH2プロフィールへと転換させるようである。かくして、炎症性サイトカインの生産及び放出が調節される。
【0059】
HIV感染が、多数の経路によって単球−マクロファージの感染により促進するという考えを支持する証拠が存在する。AIDSにおける日和見感染によるNF−κBの活性化は、CCR5受容体の発現及びTNF−αの発現を増加し、それらの双方がHIV感染を支持するための許容状態である。加えて、ウイルス負荷の低減は、感染した組織及び/又は炎症を起こした組織の治療に付随し、これが、免疫活性化とウイルス複製との間の関係を更に後押しする。かくして、POMC/CRFペプチド及び/又はその産物を用いる患者の治療は、炎症性サイトカイン及びマクロファージ活性化のレベル並びに組織の炎症を低減し、患者における細胞感染を低減し、おそらく脳などの体内器官に対する感染の拡散を低減するであろう。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、血清成分のトリプシン消化のマススペクトル分析を示す。
【図2】図2は、血清成分のトリプシン消化のマススペクトル分析を示す。
【図3】図3は、血清成分のトリプシン消化のマススペクトル分析を示す。
【図4】図4は、血清成分のトリプシン消化のマススペクトル分析を示す。
【図5】図5は、組成物を用いた治療による患者の炎症プロフィールにおける転換についての証拠を示す。
【図6】図6は、組成物を用いた治療による患者の炎症プロフィールにおける転換についての証拠を示す。
【図7】図7は、組成物を用いた治療による患者の炎症プロフィールにおける転換についての証拠を示す。
【図8】図8は、組成物を用いた治療による患者の炎症プロフィールにおける転換についての証拠を示す。
【図9】図9は、組成物を用いた治療による患者の炎症プロフィールにおける転換についての証拠を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コルチコトロピン放出因子(CRF)ペプチドを患者に投与する工程を含む、HIVの治療方法。
【請求項2】
以下の効果:ウイルス量の減少;CD4細胞の増加;又はCD8細胞の増加の1つ又は複数を達成する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
CRFが非ヒトCRFである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
CRFがヤギCRFである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
1つ又は複数のペプチド調節因子又は放出因子を投与する工程を更に含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記因子が、α−HLA、TGF−β、及びIL−10を含む群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
バソプレッシン、βエンドルフィン、及びエンケファリンの1つ又は複数を投与する工程を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
CRF結合タンパク質であるCRF−BPを投与する工程を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
POMCペプチド又はPOMC産物を投与する工程を含む、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
POMCペプチド及び/又はPOMC産物を患者に投与する工程を含む、HIVの治療方法。
【請求項11】
α、β、及びγメラニン細胞刺激ホルモン(MSH);副腎皮質刺激ホルモン(ACTH);β及びγリポトロピン(LPH);並びにβエンドルフィンの2つ以上を投与する工程を含む、HIVの治療方法。
【請求項12】
HIVの治療のための医薬の調製における、CRFペプチドの使用。
【請求項13】
HIVの治療のための医薬の調製における、POMCペプチド及び/又はPOMC産物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2009−522345(P2009−522345A)
【公表日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−549065(P2008−549065)
【出願日】平成19年1月5日(2007.1.5)
【国際出願番号】PCT/GB2007/050006
【国際公開番号】WO2007/077465
【国際公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【出願人】(504000937)エイムスコ・リミテッド (5)
【Fターム(参考)】