説明

HIVのNC蛋白質発現用ベクター及びこれを利用したNC蛋白質の生産方法

本発明はHIVのNC蛋白質発現用ベクター及びこれを利用したNC蛋白質の生産方法に関する。より詳細には、本発明はイントロン配列、NC遺伝子、その下流にmRNA安定化因子を順次連結させたことを特徴とするHIVのNC蛋白質発現用ベクター及びこれを利用したNC蛋白質の生産方法に関する。本発明のイントロン配列、NC遺伝子、その下流にmRNA安定化因子を順次連結させたことを特徴とするHIVのNC蛋白質発現用ベクターは、動物細胞において天然型のNC蛋白質を発現させることができ、その発現効率が従来技術に比べて向上されるという効果を有する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はHIVのNC蛋白質発現用ベクター及びこれを利用したNC蛋白質の生産方法に関する。より詳細には、本発明はNC遺伝子の上流にイントロン配列を、NC遺伝子の下流にmRNA安定化因子(mRNA stability element)を順次連結させたことを特徴とするHIVのNC蛋白質発現用ベクター及びこれを利用したNC蛋白質の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
HIV(human immunodeficiency virus)のヌクレオキャプシド蛋白質(nucleocapsid,以下、“NC”と命名する)は、ウィルス集合(virus assembly)の構造的役割、およびウィルスの生活周期(viral life cycle)において機能的に重要な役割をする。これについて以下に述べる。第1に、NC蛋白質はウィルスのゲノムのカプシド形成(genomic encapsidation)に関与する。このような機能は独特なCys−X2−Cys−X4−His−X4−Cysモチーフ(CCHCモチーフ)からなる2個のジンクフィンガードメインに起因する。前記ドメインは全てのレトロウィルス(retrovirus)において高い保存性を示し、HIV RNAパッケージング(packaging)と感染性ウィルス生産に必須的なものとして知られている。第2に、NC蛋白質はウィルスの逆転写反応(reversetranscription,RT)の間、tRNAプライマーアニリング(annealing)と鎖転移(strand transfer)を促進することが知られている。これよりNC蛋白質がウィルス複製(viral replication)に重要な機能をすると言うことが分かる。第3に、NC蛋白質はウィルスの生活周期に必要な核酸シャペロン(chaperone)活性を有する。最近ではウィルスDNAが宿主細胞染色体に挿入される時にも、NC蛋白質が所定の役割を担当するとして報告されている。従って、このようなNC蛋白質に対する研究は、HIV生活周期においてNC蛋白質が有する生物学的機能の解明ばかりでなく、核心的なHIV蛋白質に対する効果的な抗ウィルス剤を開発する面においても極めて重要であると言える。
【0003】
生体内でのNC蛋白質の生物学的機能を理解する為に欠くことのできないことは、動物細胞中にNC蛋白質を効果的に発現させる方法を開発することである。しかしながら、ウィルスのコドン活用(codon usage)が動物細胞のコドン活用と異なるか、またはウィルス遺伝子内に阻害配列(inhibitory sequence,INS)を含むとの理由から、動物細胞内におけるHIVの他の構造蛋白質の発現が制限される場合がある。NC蛋白質の場合には、HIVの他の構造蛋白質とは異なり、INSを含まないにも拘らず、動物細胞における発現が著しく低いと言う問題点があった。従って、大部分のNC蛋白質に対する研究等が大腸菌より発現させた組替えNC蛋白質を利用するか、又は遺伝子分析を利用して行なわれてきた。
【0004】
一方、宿主において、まれなコドンを宿主が選好するコドンに変化(コドン−最適化(codon optimisation)させ、異種発現の水準が増進された例が多くある。例えば、BPV(牛パビロマウィルス)の後期遺伝子であるL1及びL2は、哺乳動物コドン利用度パターンに対して、コドン最適化がなされ、これにより哺乳動物(Cos−1)細胞培養液で野生型HPV配列より増加した水準で発現されたことが報告されている(Zhou et al.J.Virol 73, 4972−4982, 1999)。前記技術では哺乳動物におけるより、BPVで出現頻度が2倍を越える全てのBPVコドン(利用率>2)、及び利用率が1.5を超過する大部分のコドンを、哺乳動物において優勢して使用されるコドンに保存的に置換した。さらに、WO97/31115号、WO97/48370号及びWO98/34640号(Merck&Co.,Inc)において、HIV遺伝子又はその断片のコドン最適化は蛋白質発現の増加を招き、最適化操作の対象である宿主哺乳動物において、DNAワクチンとしてコドン最適化配列を使用した場合に、免疫原性が向上されたことが開示されている。
【0005】
本発明者等はこのような点に着目して、前記提示された問題点を克服できるHIV NC蛋白質の生産方法を研究し、コドン最適化のみによっては天然型のNC蛋白質を発現させることはできず、NC遺伝子の上流にイントロン配列を、NC遺伝子の下流にmRNA安定化因子(mRNA stability element)をそれぞれ追加的に連結させることにより、天然型(wild type)のNC蛋白質を発現させることができ、その発現効率が顕著に向上することを見出し、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】WO97/31115号
【特許文献2】WO97/48370号
【特許文献3】WO98/34640号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Zhou et al.J.Virol 73, 4972−4982, 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的はNC遺伝子の上流にイントロン配列を、NC遺伝子の下流にmRNA安定化因子をそれぞれ追加的に連結させたことを特徴とする、HIVのNC蛋白質発現用ベクター及びこれを利用したNC蛋白質の生産方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記のような目的を達成する為に、本発明はNC遺伝子の上流にイントロン配列を、NC遺伝子の下流にmRNA安定化因子をそれぞれ追加的に連結させたことを特徴とするHIVのNC蛋白質発現用ベクターを提供する。
さらに、本発明は前記ベクターで形質転換された形質転換体を提供する。
さらに、本発明は前記ベクターを利用するHIVのNC蛋白質の生産方法を提供する。
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
HIVヌクレオキャプシド(Nucleocapsid,NC)蛋白質の生産は、効果的な抗ウィルス剤の開発に極めて重要とは言えるものの、今まで動物細胞において、HIV NC蛋白質を発現させることは極めて困難であった。本発明者等はこれを改善する為に、研究を重ねていく中で、本イントロン配列、NC遺伝子、およびその下流にmRNA安定化因子を追加的に連結させたHIVのNC蛋白質発現用ベクターを利用すると、HIV NC蛋白質の発現が著しく改善される効果があることを見出した。
【0011】
従って、本発明はイントロン配列、HIV NC遺伝子及びmRNA安定化因子が順次連結されたことを特徴とするHIV NC蛋白質発現用ベクターを提供する。
【0012】
より具体的には、a)SV40 19s mRNAイントロン配列、変性された(modified)SV40 16S mRNAイントロン配列及びβ−グロビンイントロン配列からなる群より選ばれたいずれか一つの配列、)HIV NC遺伝子;及びc)mRNA安定化因子が、順次連結されたことを特徴とするHIV NC蛋白質発現用ベクターを提供する。
【0013】
用語“HIVのNC蛋白質”とはAIDS(acquired Immunodeficiency Syndrome,後天性免疫不全症候群)を引起こす病原体であるHIVのヌクレオキャプシド蛋白質を意味し、前記蛋白質はウィルスゲノムRNAに強く結合して、リボ核酸蛋白質コア複合体(ribonucleoprotein core complex)を形成する。本発明の一実施例で発現されるHIV NC蛋白質配列はARV2/SF系統由来であり、Gene Bank Accession No.P03349の380番目−434番目アミノ酸配列として開示されている。一方、本発明の一実施例で使用したNC遺伝子配列は、pJC1ベクターから由来する(HIV Nucleocapsid Protein;Expression in E.coli,Purification and Characterization.J.Biol.Chem.268,16519−16527.1993)。
【0014】
本発明で用語“発現(expression)”とは、細胞中での蛋白質又は核酸の生成を意味する。
【0015】
本発明で用語“発現用ベクター”とは、適当な宿主細胞において目的蛋白質又は目的RNAを発現できるベクターにして、遺伝子挿入物が発現されるように作動可能に連結された本質的な調節要素を含む遺伝子構造物を言う。
【0016】
本発明の発現用ベクターにおいてHIV NC蛋白質の発現の為に、本発明のイントロン配列、HIV NC遺伝子及びmRNA安定化因子が順次連結された構造遺伝子にプロモーターが作動可能に連結される。前記“プロモーター”とは、特定した宿主細胞で作動可能に連結された核酸配列の発現を調節するDNA配列を意味し、全ての時間帯に常時的に目的遺伝子の発現を誘導するプロモーター(constitutive promoter)又は特定した位置、時期に目的遺伝子の発現を誘導するプロモーター(inducible promoter)を使用できる。
【0017】
本発明で用語“作動可能に連結された(operably linked)”とは、一般的機能を遂行するように核酸発現調節配列と、目的とする蛋白質又はRNAをコーディングする核酸配列が機能的に連結(functional linkage)されていることを言う。例えば、プロモーターと、蛋白質又はRNAをコーディングする核酸配列とが作動可能に連結され、コーディングする核酸配列の発現に影響を及ぼす。組替えベクターとの作動可能な連結は当該技術分野で公知の遺伝子組替え技術を利用して組み替えることができ、部位−特異的DNA切断及び連結は、当該技術分野で一般的に公知の制限酵素等を使用する。
【0018】
本発明のベクターの例としてはプラスミドベクター、コズミドベクター、バクテリオファージベクター及びウィルスベクター等があげられるが、これらには制限されない。好ましい発現ベクターとしてはプロモーター、オペレーター、開始コドン、終止コドン、ポリアデニル化シグナル及びインハンサのような発現調節エレメント等があげられる、目的に応じて多様なベクターが製造できる。好ましくは、本発明のベクターは図2又は図4に記載されたpCMV(−HA)NC/RREベクター、又はpCMV(−HA)OptiNC/RREベクターであることができる。
【0019】
本発明において前記イントロン配列としては、当業界に公知のものを使用することができ、例えば、SV40 19s mRNAイントロン配列、変性されたSV40 16S mRNAイントロン配列及びβ−グロビンイントロン配列等がある。好ましくは、配列番号8で表示されるSV40 19s mRNAイントロン配列、配列番号9で表示される変性されたSV40 16S mRNAイントロン配列及び配列番号10で表示されるβ−グロビンイントロン(β− globin intron)配列を使用できる。
【0020】
本発明の一実施例で使用したイントロン配列は、pCMV−HA(Clontech Laboratories,Inc)ベクターのイントロン配列(SV40 スプライスドナー/スプライスアクセプター(splice donor/splice acceptor);以下、“SV40 SD/SA”と表示する)から由来したものである。前記ベクターの672−702番目はSV40 19S mRNAイントロン配列であり、672−768番目は変性されたSV40 16S mRNAイントロン配列である。
【0021】
一方、本発明においては、配列番号4のアミノ酸配列を有するHIVのNC蛋白質を発現することができる限り、HIVのNC蛋白質をコーディングするすべてのHIV NC遺伝子を使用することができ、配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号7からなる群から選択される任意のヌクレオチド配列を有するか、又は野生型のHIV NC遺伝子でもあり得る。好ましくは本発明のHIV NC遺伝子は、哺乳動物細胞において高発現されるようにコドン−最適化させたものである。より具体的には、遺伝子は配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号7からなる群より選ばれた、いずれか一つのヌクレオチド配列を有する。
【0022】
本発明で用語“コドン−最適化”とは、各種宿主の形質転換の為の核酸分子のコーディング領域又は遺伝子に関し、DNAによりエンコードされたポリペプチドを変化させずに、宿主生命体の典型的なコドン活用を反映するように前記核酸分子のコーディング領域、又は遺伝子内のコドンを変化させることをいう。本発明の文脈から遺伝子及びDNAコーディング領域を、表1及び表2を利用して哺乳動物細胞における最適の発現の為、コドン−最適化させる。
【0023】
コドン−最適化はDNA全部(又は一部分)を合成して、転写されたmRNAに存在することもあり得る、2次構造の全ての脱安全化配列又は領域を除去することもでき、DNA全部(又は一部分)を合成して、宿主細胞において塩基組成をより好ましい物に変化させることもできる。
【0024】
本発明では、Upgene:A Web−Based DNA Codon Optimization Algorithm (Wentao Gao,Alexis Rzewski,Huijie Sun,Paul D.Robbins and Andrea Gambotto)と、GenSeript Corporation(www.genscript.com)のコドン頻度表を利用してNCコドンを最適化し、これを介して配列番号3、配列番号5、配列番号6、配列番号7で表示される哺乳動物細胞において、高発現するようにコドン−最適化させたHIV NCポリヌクレオチド配列を得ることができた(実施例1参照)。
【0025】
前記「mRNA安定化因子」とは、mRNAの3′末端に結合して安定性を増加させる安定化因子(stability element)を言い、好ましくは、RRE(Rev response element)、WPRE(woodchuck post−transcriptional regulatory element)、ベータ−アクチン3′−UTR(未翻訳領域)(β−actin 3′−untranslated regions)及びRSV安定化因子(Rous Sarcoma Virus stability element)群から選ばれたいずれか一つであることができる。
【0026】
前記mRNA安定化因子の内、RREはRev反応因子をいう。RREはHIV−1 RNAのenv遺伝子内に存在するシス−アクティングエレメント(cis−acting element)であり、Rev蛋白質と直接結合する。WPREはウッドチャック感染ウィルス由来の“ポスト−転写調節要素(PRE)”をいい、ポスト−転写水準(post−transcriptional level)でシス(cis)として作用し、細胞核から細胞質への輸送を調節して細胞質内に遺伝子転写物の蓄積を増加させるウィルス配列をいう。最後にベータアクチン3′−UTR及びRSV安定化因子は両方とも、細胞核で細胞質への輸送を調節するか又は分解(degradation)を防いで細胞質内に遺伝子転写物の蓄積を増加させる配列である。
【0027】
本発明の一実施例では、mRNA安定化因子としてRRE塩基配列を使用した。前記RREはHIV HXB2系統(strain)から由来し、GenBank accession No.K03455として知られる。前記配列の内、RREに該当する7769番−8002番配列を配列番号11で示した。一方、アッドチャック感染ウィルスWHV8系統から由来した配列(Jounal of Virology Apr.1999,p.2886−2892)をWPREとして使用した。前記の配列の内、WPREに該当する1093−1684部分を配列番号12で示した。さらに、ベータ−アクチン3′−UTR及びRSV安定化因子としては、下記文献に記載されている配列を使用できる。(The 3′−end of the human beta−actin gene enhances activity of the beta−actin expression vector system:construction of improved vector.,Journal of Biochemical&Biophysical Methods.36(1):63−72,1997;A 3′−UTR sequence stabilizes termination codons in the unspliced RNA of Rous sarcoma virus.,RNA−A Publication of the RNA Society.,12(1):102−10,2006.)。
【0028】
さらに、本発明の一実施例では、SV40 SD/SAイントロン配列、HIV NC遺伝子及びRREが順次連結されたHIV NC蛋白質を発現するためのベクターが構築され、前記ベクターで形質転換された形質転換体において、NC蛋白質が高度に発現されることを確認した(実施例<3−2>参照)。
【0029】
本発明で使用される標準組替えDNA及び分子クローニング技術は、当該分野で広く公知されており、下記文献に記載されている(Sambrook,J.,Fritsch,E.F.and Maniatis,T.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1989);by Silhavy,T.J.,Bennan,M.L.and Enquist,L.W.,Experiments with Gene Fusions,Cold Spring Harbor Laboratory:Cold Spring Harbor,NY(1984);and by Ausubel,F.M.et al.,Current Protocols in Molecular Biology,published by Greene Publishing Assoc.and Wiley−Interscience(1987))。
【0030】
本発明はさらに、前記HIVのNC蛋白質発現用ベクターで形質転換された細胞を提供する。
【0031】
HIV NC蛋白質発現用ベクターのトランスフェクションは、通常のトランスフェクション方法、例えば、DEAE−デキストラン法、カルシウムホスフェート法、マイクロインジェクション法、DNA−含有リポソーム法、リポペクタミン−DNA複合体法等の当該技術分野で公知のトランスフェクション方法により行うことができる(Molecular Cloning,Cold Spring Harbor,New York,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)。
【0032】
本発明のベクターで形質転換された細胞は、特に限定はされないものの、好ましくはCOS−7細胞、293T細胞、HEK293T,CHO及びHeLa等であり、より好ましくはCOS−7細胞、293T細胞である。
【0033】
本発明はさらに、前記ベクターで形質転換された細胞を培養する段階を含むHIV NC蛋白質の生産方法を提供する。
【0034】
本発明の一実施例では、本発明のHIVのNC蛋白質発現用ベクターで形質転換された293T細胞を、当該技術分野において公知の方法で培養する。その結果、天然型のHIV NC蛋白質が発現されることを確認した(実施例<3−2>参照)。
【0035】
形質転換体において発現された蛋白質は種々の一般的な方法で精製することができ、例えば、塩析(例えば、硫酸アンモニウム沈澱、リン酸ナトリウム沈澱)、溶媒沈澱(アセトン、エタノール等を利用した蛋白質分画沈澱)、透析、ゲル濾過、イオン交換、逆相クロマトグラフィーのようなクロマトグラフィー及び限外濾過等の技法を単独又は組合わせで適用して、本発明のHIV NC蛋白質を精製することができる(Maniatis et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.(1982);Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989);Deutscher,M.,Guide to Protein Purification Methods Enzymology,vol.182.AcademicPress.Inc.,San Diego,CA(1990)。
【0036】
本発明は哺乳動物細胞において、高度に発現されるようにコドン−最適化させた、HIV NC蛋白質をコーディングするポリヌクレオチドを提供する。より具体的には、本発明のポリヌクレオチドは、配列番号3,配列番号5,配列番号6及び配列番号7からなる群より選ばれたいずれか一つの塩基配列からなる。
【発明の効果】
【0037】
本発明のイントロン配列、NC遺伝子、その下流にmRNA安定化因子を順次連結させたことを特徴とするHIVのNC蛋白質発現用ベクターは、動物細胞において天然型のNC蛋白質を発現させることができ、その発現効率が従来技術に比べて向上されるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1はHIV NCポリヌクレオチドをコドン最適化させる以前と以後の各コドン頻度をグラフで示したものである。
【図2】図2は本発明に伴うHIV NC蛋白質発現用ベクターpCMV(−HA)NC/RREの製造プロセスを示した図である。
【図3】図3は本発明に伴うHIV NC蛋白質発現用ベクターpCMV(−HA)/OptiNCの製造プロセスを示した図である。
【図4】図4は本発明に伴うHIV NC蛋白質発現用ベクターpCMV(−HA)/OptiNC/RREの製造プロセスを示した図である。
【図5】図5のA及びCは本発明に伴うHIV NC蛋白質発現用ベクターで形質転換された細胞において、NC蛋白質発現量を比較する為のウェスタンブロットした結果であり、図5のB及びDはこれら発現量を数値で定量化した図表である。
【図6】図6は本発明に伴うHIV NC蛋白質発現用ベクターの内、βグロビンイントロン(β−globin intron)を有するベクターによるNC蛋白質発現量をウェスタンブロットで測定した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
ただし、下記の実施例は本発明の例示するのみであり、本発明の内容が下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0040】
<実施例1>
OptiNCポリヌクレオチドの合成
哺乳動物細胞において、HIV NC蛋白質の発現を増加させる為に、RNA2次構造、GC含量及び反復コドン(repetitive codon)が最適化された。本実施例ではUpgene:A Web−Based DNA Codon Optimization Algorithm(Wentao Gao,Alexis Rzewski,Huijie Sun,Paul D.Robbins and Andrea Gambotto)と、GenScript Corporation(www.genscript.com)のコドン頻度表を利用してNCコドンを最適化した。
【0041】
先ず、HIV−1 NCオリジナル塩基配列を下記表1に開示したUpgeneと、GenSeriptのコドン使用頻度アルゴリズムを利用してコドン−最適化し、それぞれの確率スコア(probability score)をUpgeneのスコアに換算してこれを下記表2に示した。表1と表2を参照して4個のコドン−最適化された、NCポリヌクレオチド(Genscript01,Genscript02,Genscript03,Upgene)を導出し、この内、GenScript01の最適化されたNCポリヌクレオチド配列を選択してGenScriptで合成した。合成されたコドン−最適化させたNCポリヌクレオチドの5′末端と、3′末端には、クローニングの為のHindIIIとEcoRI制限部位を追加的に挿入した(配列番号13)。GenScriptのコドン使用頻度アルゴリズムを利用して、コドン−最適化されたNCポリヌクレオチドであるGenScript01を配列番号3で、GenScript02を配列番号6で、GenScript03を配列番号7で示し、Upgeneのコドン使用頻度アルゴリズムを利用してコドン−最適化されたNCポリヌクレオチドを配列番号5で示した。
【0042】
【表1】

【0043】
【表2】

【0044】
前記にて合成したHIV NCポリヌクレオチド(GenScript01)のコドン最適化させる以前(図1のA)と以後(図1のB)各コドン使用頻度を図1に示した。前記図1は自然型NC及び哺乳動物細胞で使用されるコドン使用頻度によって、コドン最適化されたNC配列において実際に使用されたコドンを百分率で示したものである。
【0045】
<実施例2>
HIV NC発現用ベクターの製作
<2−1>pCMV(−HA)NC/RREベクターの構築
SV40 SD/SAイントロン配列、HIV NC遺伝子及びRREが順次連結されたHIV NC蛋白質発現用ベクターを構築した。
【0046】
ベクターの構築過程は図2に示した。先ず、RREを増幅させる為に、pLP1ベクター(Invitrogen社)を鋳型にして正方向プライマー(5′−GCGCTCGAGAGGAGCTTTGTTCCTTGGG−3′;配列番号1)と逆方向プライマー(5′−TAAGGTACCAGGAGCTGTTGATCCTTTA−3′;配列番号2)を使用してPCRした。前記正方向プライマーおよび逆方向プライマー配列内にはXhoIとKpnIの制限酵素の部位が存在するように製作した。RREを増幅した後、XhoIとKpnIで処理した。前記制限酵素処理された断片を、先に用意しておいたXhoIとKpnIで処理されたpCMV(−HA)NCベクター(韓国登録特許第0553154号)にクローニングし、これをpCMV(−HA)NC/RREと命名した。
【0047】
<2−2>pCMV(−HA)/OptiNCベクターの構築
SV40 SD/SAイントロン配列及びコドン最適化されたHIV NC遺伝子が順次連結されたHIV NC蛋白質発現用ベクターを構築した。
【0048】
ベクターの構築過程は図3に図示した。前記実施例1で合成されたOptiNC遺伝子(配列番号5)をEcoRI/HindIIIで制限酵素処理した後、前記制限酵素で処理された断片を、先に用意しておいたEcoRI/HindIIIで処理されたpUC57ベクター(Genescript社)にクローニングし、これをpUC57/OptiNCと命名した。前記pUC57/OptiNCとpcDNA4/TO(Invitrogen社)をHindIIIとEcoRIで切断して、ライゲーションし、pcDNA4/TO/OptiNCを製作した。前記pcDNA4/TO/OptiNCをHindIIIとNotIで処理した後、切断されたDNAをクリナウ(Klenow)断片で処理した。pCMV(−HA)ベクター(Clontech Laboratories,Inc.)もEcoRI及びNotIで処理した後、切断されたDNAをクリナウ断片で処理した。前記クリナウ断片で、処理された二つの断片をライゲーションし、これをpCMV(−HA)/OptiNCと命名した。
【0049】
<2−3>pCMV(−HA)OptiNC/RREベクターの構築
SV40 SD/SAイントロン配列、コドン最適化されたHIV NC遺伝子及びRREが順次連結されたHIV NC蛋白質発現用ベクターを構築した。ベクターの構築過程は図4に図示した。
先ず、pLP/OptiNCベクターは下記の通り製造した。pLP1ベクター(Invitrogen社)に、PmlI/AvrII/BspEIを処理してGAG−POL遺伝子を切断した。OptiNC遺伝子は、前記実施例2−2で製造したpCMV(−HA)/OptiNCベクターにおいてXmaI/EcoRI処理して収得した。前記pLP1ベクターと収得したOptiNC遺伝子をクリナウ断片で処理して平滑末端ライゲーション(Blunt end ligation)し、これをpLPOptiNC/RREベクターと命名した。
【0050】
前記収得されたpLPOptiNC/RREベクターを、XmaI/SacIIで処理し、OptiNCとRREが連結された遺伝子断片を収得した後、前記収得された断片を先に用意しておいた、XmaI/SacIIで処理されたpCMV(−HA)/OptiNCベクターにクローニングし、これをpCMV(−HA)OptiNC/RREと命名した。
【0051】
<2−4>pCMV(−HA)FLAG NCベクターの構築
pCMV(−HA)FLAG NCベクターは下記の通り製造された。pJC1(HIV Nucleocapsid Protein;Expression in E.coli,Purification and Characterization.J.Biol.Chem.268,16519−16527,1993)に制限酵素BgllとPstlで処理して収得したNC遺伝子断片を、BamHlとPstlで処理したpCMV Tag 2Bベクター(Stratagene,USA)に挿入し、pCMV FLAG NCベクターを製造した。その後、pCMV(−HA)ベクターと、pCMV FLAG NCベクターに制限酵素SalI,クリナウ断片、Xholで順に処理して得たFLAG NC遺伝子断片を接合させてpCMV(−HA)FLAG NCベクターを製造した。
【0052】
<実施例3>
HIV NC蛋白質の発現
<3−1>細胞の形質転換
239T細胞を1%ストレプトマイシン/ペニシリンと、10%(v/v)牛胚芽血清(fetal bovine serum,FBS)を含むDMEM(Dulbecco Modified Eagle′s Medium)培養液で培養した。形質転換1日前に、培養した細胞を12ウェルプレートにウェル当り1×10個の密度でインキュベートし、60〜80%程度の稠密度(confluency)を呈するように培養した。一方、前記実施例2で製造したpCMV(−HA)NC/RRE,pCMV(−HA)/OptiNC及びpCMV(−HA)OptiNC/RRE を1μgずつ採り、それぞれ2μlのJetPEI製剤(Polyplus−transfection Inc)と混合した後、200μlの無血清培養液と共に、室温で20分間反応させた。引続き形質転換させる細胞が入っているウェルを3つの群に分け、細胞培養培地を1mlの無血清培地で交換した。前記無血清培地中の培養細胞に、前記のベクターとJetPEI製剤の混合液をそれぞれ添加して、二酸化炭素インキュベータ中で4時間さらに培養した。培養後に細胞培地を10%(v/v)FBSを含むDMEM培地に交換後、さらに2日間培養して細胞を収得した。
【0053】
<3−2>NC蛋白質発現確認の為のウェスタンブロット
前記形質転換された細胞からNC蛋白質が発現されるか否かを確認する為に、ウェスタンブロットを行った。先ず、収得された細胞から蛋白質を抽出する為に、各細胞をlysis溶液(50mM Tris−HCl(pH7.4),150mM NaCl,1mM EDTA,1%TritonX−100,1% ソジウム デオキシクロレート(sodium deoxycholate),1%SDS,プロテーゼインヒビターカクテル(protease inhibitor cocktail)で溶解し、15,000rpmで20分間遠心分離した。上澄液を収得した後、15%SDS−PAGEを行った。以降、Anti−NCモノクロナール抗体を利用してウェスタンブロットを行い、その発現量を数値で示した(図5)。
【0054】
その結果、図5に示した通り、mRNA安定化因子を含むpCMV(−HA)NC/RREベクターで形質転換された細胞では、116.28 IOD、最適化NC蛋白質をコーディングする配列を含むpCMV(−HA)/OptiNCベクターに形質転換された細胞では、267.88 IOD、mRNA安定化因子及び最適化NC蛋白質をコーディングする配列を同時に含むpCMV(−HA)OptiNC/RREベクターに形質転換された細胞では、557.66 IODの蛋白質発現量を示した。これは天然型のNC遺伝子が挿入されたpCMV(−HA)NCに比べて、コドン最適化されたNC遺伝子が挿入されたpCMV(−HA)OptiNCにおいて、その発現量がはるかに向上したことを示したものにして(#393図5Cのレーン2及びレーン3),天然型のNC遺伝子をコドン最適化されたNCポリヌクレオチドに置換した場合、NC蛋白質が高い歩溜りで発現できることが確認できた。一方、イントロン下流にRRE配列が挿入されていないpCMV(−HA)NCに比べて、mRNA安定化因子を含むpCMV(−HA)OptiNC/RREが遥かに向上されることが確認された(#393図5Cのレーン2及4)。さらにRRE配列がNC蛋白質発現に影響を及ぼし、これはイントロン配列下流にOptiNCとRRE配列を共に組合わせて連結する場合、NC蛋白質の発現量が向上されることを示した。
【0055】
さらに、本発明のベクターを使用するにことにより、NCポリヌクレオチド上流にFLAG遺伝子を追加して連結された(pCMV(−HA)FlagNC)と類似する天然型のNC蛋白質を発現させ得ることが確認できた。
【0056】
<実施例4>
pLPOptiNC/RREベクターを利用したNC蛋白質の生産
イントロン配列としてSV40 19s mRNAイントロン配列及び変性されたSV40 16S mRNAイントロン配列の他にも、β−グロビンイントロンを使用した場合にも、NC蛋白質の発現効率が向上される効果があるか否かを確認する為に、前記実施例<2−3>で製造したpLPOptiNC/RREベクターで、前記実施例<3−1>と同一な方法で293T細胞に形質転換させ培養した。ついでNC蛋白質発現可否を確認する為に、前記実施例<3−2>と同一な方法によりウェスタンブロットを行った。
【0057】
実験結果は、図6に示した通り、β−グロビンイントロン配列を使用した場合にも天然型のNC蛋白質を発現させ得ることが確認でき、NC蛋白質発現量は、NCポリヌクレオチド上流にFLAG遺伝子を追加して連結されたもの(pCMV(−HA)FlagNC)と同等であった(図6レーン3及びレーン5)。
【産業上の利用可能性】
【0058】
前記の通り、イントロン配列、NC遺伝子、その下流にmRNA安定化因子を順次連結させたことを特徴とするHIVのNC蛋白質発現用ベクターは、動物細胞において天然型のNC蛋白質を発現させることができ、その発現効率が従来技術に比べて向上されるという効果を奏する。




【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)SV40 19s イントロン配列、変性されたSV40 16S mRNAイントロン配列及びβ−グロビンイントロン配列からなる群より選ばれた、いずれか一つの配列、b)配列番号4のHIV NC蛋白質をコーディングする遺伝子;及びc)mRNA安定化因子が順次連結されたことを特徴とするHIV NC蛋白質発現用ベクター。
【請求項2】
前記SV40 19s mRNAイントロン配列は、配列番号8からなるヌクレオチド配列を有し、変性されたSV40 16S mRNAイントロン配列は配列番号9からなさるヌクレオチド配列を有し、β−グロビンイントロン配列は配列番号10からなるヌクレオチド配列を有することを特徴とする請求項1記載のHIV NC蛋白質発現用ベクター。
【請求項3】
前記遺伝子は配列番号3,配列番号5,配列番号6及び配列番号7からなる群より選ばれた一つのヌクレオチド配列配列を有することを特徴とする請求項1記載のHIV NC蛋白質発現用ベクター。
【請求項4】
前記mRNA安定化因子はRRE,WPRE,ベータアクチン3′−UTR、及びRSV安定化因子からなる群より選ばれたいずれか一つであることを特徴とする請求項1記載のHIV NC蛋白質発現用ベクター。
【請求項5】
前記HIV NC蛋白質発現用ベクターは図2又は図4に開示された切断地図を有することを特徴とする請求項1記載のベクター。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項記載のベクターで形質転換された細胞。
【請求項7】
前記細胞がCOS−7又は239T細胞であることを特徴とする請求項6記載の形質転換された細胞。
【請求項8】
請求項6に記載の形質転換された細胞を培養する段階を含むHIV NC蛋白質の生産方法。
【請求項9】
配列番号3,配列番号5,配列番号6及び配列番号7からなる群より選ばれた、いずれか一つで表示されるヌクレオチド配列を含む哺乳動物細胞において、高発現されるようにコドン最適化させたHIV NCポリヌクレオチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−512782(P2010−512782A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542650(P2009−542650)
【出願日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際出願番号】PCT/KR2007/006694
【国際公開番号】WO2008/075911
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(509176215)
【出願人】(509176226)エビクスジェン インク. (2)
【Fターム(参考)】