説明

HIVウイルス侵入阻害剤

本発明は、HIVウイルス侵入阻害剤としての低分子、これらの製造方法ばかりでなく薬剤組成物、これらを薬剤として用いること、そしてこれらを含有させた診断用キットに関する。本発明は、また、本侵入阻害剤と他の抗レトロウイルス剤の組み合わせにも関する。本発明は、更に、それらを検定で基準化合物または試薬として用いることにも関する。本発明の化合物は、HIV感染の予防または治療およびエイズの治療で用いるに有用である。式(I)で表される化合物は下記の構造:(I)
【化1】


で表される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HIVウイルス侵入阻害剤としての低分子、これらの製造方法ばかりでなく薬剤組成物、これらを薬剤として用いること、そしてこれらを含有させた診断用キットに関する。本発明は、また、本侵入阻害剤と他の抗レトロウイルス剤の組み合わせにも関する。本発明は、更に、それらを検定で基準化合物または試薬として用いることにも関する。本発明の化合物は、HIV感染の予防または治療およびエイズの治療で用いるに有用である。
【背景技術】
【0002】
HIV/エイズ感染者の総数は2001年12月の時点で約四千万であり、その中の三千七百万人以上が成人でありそして約二百七十万人が15歳以下の子供である。2001年単独でHIVに新しく感染した人は五百万人に上る一方、2001年にエイズで死亡した人は三百万人であった。HIV/エイズ感染者に対して行われている現在の化学療法では、ウイルス融合阻害剤ばかりでなく逆転写酵素(RT)およびプロテアーゼ酵素が用いられている。現世代のRTおよびプロテアーゼ阻害剤に耐性のあるHIV株が出現していることを鑑み、新しい作用機構を有する新規な抗ウイルス剤を開発する必要性が増している。
【0003】
新しい抗レトロウイルス剤の新規な分野の1つは、低分子量の侵入阻害剤の分野である。そのような薬剤は、HIVと細胞の間の結合および融合のいろいろな段階を妨害することでHIVがヒト細胞の中に入り込むのを邪魔するように考案された薬剤である。その侵入過程は下記の逐次的に起こる個別の3段階に分類分け可能である:(1)ウイルスエンベロープ蛋白質gp120と宿主細胞上のCD4受容体の結合、(2)ウイルスエンベロープ蛋白質gp120と宿主細胞上の共受容体(CXCR4/CCR5)の結合、および(3)ウイルスエンベロープ蛋白質gp41が介在するウイルスと宿主細胞膜の融合。
【0004】
数種の(共)受容体阻害剤および2種類の融合阻害剤であるT20およびT1249(Trimeris、Durham、NC、米国)、即ちgp41の要素が基になったペプチドが現在市場に出ているか或は臨床開発の最終段階にある。T20を用いて実施された原理立証研究が成功であったことから、HIV融合が臨床的に関連した標的として有効であることが分かった。
【発明の開示】
【0005】
しかしながら、そのようなペプチドを薬学的に受け入れられる薬剤として開発しようとする時、それらの使用は数多くの欠点を有する。従って、HIVと細胞の間の結合および融合のいろいろな段階を妨害することでHIVがヒト細胞の中に入り込まないようにし得る低分子を開発する必要性が存在する。
【0006】
式(I)
【0007】
【化1】

【0008】
[式中、
Aは、キノリニル、イソキノリニル、Rで置換されているフェニル、または−Y−X−Rで置換されている1,2,3,4−テトラヒドロキノリニルを表し、
Xは、直接結合、−(CH−、−(CH−NH−、−(CH−NH−(CH−、−(CH−O−または−(CH−O−(CH−を表し、そしてXが直接結合以外の時にはXはCH基を通してYと連結しており、そしてXの定義の範囲内の各CH基は場合により−C(=O)−OHまたは−C(=O)−O−C1−4アルキルで置換されていてもよく、そして
Yは、−S(=O)−または−C(=O)−を表し、
各tは、独立して、1、2または3から選択される整数であり、
各pは、独立して、1、2または3から選択される整数であり、
nは、独立して、0、1または2から選択される整数であり、
は、−NR−Y−X−R、−C1−4アルカンジイル−NR−Y−X−R、−NR−Y−X−C(=O)−C1−6アルキル、または−C1−4アルカンジイル−NR−Y−X−C(=O)−C1−6アルキルを表し、
は、C1−4アルキル、場合によりC1−4アルキルで置換されていてもよいピロリジニル、場合によりC1−4アルキルで置換されていてもよいフラニル、場合によりC1−4アルキルで置換されていてもよいピペラジニル、場合によりC1−4アルキルで置換されていてもよいピペリジニル、場合によりC1−4アルキルで置換されていてもよいチエニル、ベンゾ−1,3−ジオキソラニル、または場合によりC1−6アルキル、C1−6アルキルオキシ、ヒドロキシ、カルボキシル、C1−6アルキルオキシカルボニル、シアノ、ニトロ、ハロゲン、トリフルオロメチル、アミノ、モノ−もしくはジ(C1−6アルキル)アミノ、C1−6アルキルカルボニルアミノ、C1−6アルキルカルボニル、モノ−もしくはジ(C1−6アルキル)アミノカルボニルおよびアミノカルボニルから成る群から選択される1個以上の置換基で置換されていてもよいフェニルを表し、
は、水素、C1−6アルキルまたはC3−7シクロアルキルを表す]
で表される本発明の化合物、これらのN−オキサイド形態、立体化学異性体、ラセミ混合物、塩、プロドラッグ、エステルおよび代謝産物は、HIVに感染した人の治療およびそのような人の予防で用いるに有用である。
【0009】
前記式(I)で表される化合物は、一般に、ウイルスに感染した温血動物の治療で用いるに有用であり得る[ウイルスの存在にはHIVとヒト細胞の融合が介在しているか或はそれの存在はHIVとヒト細胞の融合に依存している]。本発明の化合物を用いて予防または治療可能なHIV関連病には、エイズ、エイズ関連症候群(ARC)、進行性全身性リンパ節腫脹(PGL)ばかりでなくレトロウイルスによって引き起こされる慢性的CNS病、例えばHIV介在認知症および多発性硬化症などが含まれる。
【0010】
従って、本発明の化合物またはこれのサブグループのいずれも、上述した病気に対抗する薬剤として使用可能である。前記薬剤としての使用または治療方法は、HIV感染被験体にそれをHIV、特にHIV−1関連病の防除に有効な量で全身投与することを含んで成る。従って、本発明の化合物はHIV関連病の治療に有用な薬剤を製造する時に使用可能である。
【0011】
本発明は、好適な態様において、本発明の化合物またはこれのサブグループのいずれかを哺乳動物におけるHIV感染に関連した感染または病気を治療または抑えるに適した薬剤を製造する時に用いることに関する。従って、本発明は、また、HIV感染またはHIV感染に関連した病気を治療する方法にも関し、この方法は、それを必要としている哺乳動物に式(I)で表される化合物またはこれのサブグループを有効量で投与することを含んで成る。
【0012】
本発明は、別の好適な態様において、HIV、特にHIV−1レトロウイルスに感染する哺乳動物に前記HIVが侵入するのを阻止する薬剤を製造する時に本化合物またはこれのサブグループのいずれかを用いることに関する。
【0013】
本発明は、別の好適な態様において、HIVの侵入を阻止、特にHIVとヒト細胞の間の結合および融合のいろいろな段階を妨害することでHIVが前記細胞の中に入り込むのを阻止する薬剤を製造する時に本化合物またはこれのサブグループのいずれかを用いることに関する。
【0014】
本発明は、また、前記式(I)で表される化合物をヒトにおけるHIV伝染または感染、特にパートナー間の性交または関係した密な接触による伝染を防止するに有用な薬剤を製造する目的で用いることにも関する。
【0015】
従って、本発明は、HIV感染関連病、例えばエイズ、エイズ関連症候群、進行性全身性リンパ節腫脹(PGL)ばかりでなくHIVによって引き起こされる慢性的CNS病、例えばHIV介在認知症および多発性硬化症などの治療を必要としている被験体、特にヒトを治療する方法に関し、この方法は、前記被験体に式(I)で表される化合物を有効量で投与することを含んで成る。
【0016】
本発明は、また、HIVと哺乳類細胞の間の結合および融合のいろいろな段階を妨害してHIVが前記細胞に入り込むのを阻止することを必要としている被験体、特に人のヒト細胞におけるそれを阻止する方法にも関し、この方法は、前記被験体に式(I)で表される化合物を有効量で投与することを含んで成る。
【0017】
本発明は、また、HIV伝染もしくは感染の防止を必要としている被験体、特に人におけるそれを防止する方法にも関し、この方法は、前記被験体に式(I)で表される化合物を有効量で投与することを含んで成る。
【0018】
前記式(I)で表される化合物の数種のサブグループは新規であると考えており、従って、本発明はまた新規な化合物にも関する。例えば、実験部分に例示する化合物は新規であると考えている。
【0019】
本発明は、また、本化合物が有する窒素原子の第四級化にも関する。塩基性窒素に第四級化を本分野の通常の技術者に公知の如何なる作用剤を用いて受けさせてもよく、そのような作用剤には、例えば低級アルキルハロゲン化物、硫酸ジアルキル、長鎖ハロゲン化物およびアリールアルキルハロゲン化物などが含まれる。
【0020】
本明細書で用いる如き用語「ハロ」または「ハロゲン」は、基または基の一部として、フルオロ、クロロ、ブロモまたはヨードの総称である。
【0021】
用語「C1−4アルキル」は、単独または組み合わせにおいて、炭素原子を1から4個含有する直鎖および分枝鎖飽和炭化水素基を意味する。そのようなC1−4アルキル基の例には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチルなどが含まれる。
【0022】
用語「C1−6アルキル」は、単独または組み合わせにおいて、炭素原子を1から6個含有する直鎖および分枝鎖飽和炭化水素基を意味する。そのようなC1−6アルキル基の例には、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、s−ブチル、t−ブチル、2−メチルブチル、ペンチル、イソ−アミル、ヘキシル、3−メチルペンチルなどが含まれる。
【0023】
用語「C1−6アルカンジイル」は、単独または組み合わせにおいて、炭素原子を1から6個含有する二価の直鎖および分枝鎖飽和炭化水素基、例えばメチレン、エタン−1,2−ジイル、プロパン−1,3−ジイル、プロパン−1,2−ジイル、ブタン−1,4−ジイル、ペンタン−1,5−ジイル、ヘキサン−1,6−ジイル、2−メチルブタン−1,4−ジイル、3−メチルペンタン−1,5−ジイルなどを定義するものである。
【0024】
用語「C3−7シクロアルキル」は、基または基の一部として、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびシクロヘプチルの総称である。
【0025】
本明細書で用いる如き用語「C(=O)」は、カルボニル部分の定義を意味し、用語「C(=S)」は、チオカルボニル部分の定義を意味し、用語「S(=O)」は、スルホキシルまたはスルフィニル部分の定義を意味し、用語「S(=O)」は、スルホニル部分の定義を意味し、用語「C(=NH)」は、イミノ部分の定義を意味し、そして用語「C(=NCN)」は、シアノイミノ部分の定義を意味する。
【0026】
本明細書で用いる如き用語「ヒドロキシ」は−OHを意味し、用語「ニトロ」は−NOを意味し、用語「シアノ」は−CNを意味し、用語「チオ」は−Sを意味し、用語「オキソ」は=Oを意味する。
【0027】
用語「1個以上の置換基」または「置換されている」を式(I)で表される化合物の定義で用いる時にはいつでも、「1個以上の置換基」または「置換されている」を用いた表現の中に示す原子上の1個以上の水素が示した基から選択した基に置き換わっていることを示すことを意味するが、但しその示した原子の通常の原子価を超えないこととそのような置換の結果として化学的に安定な化合物、即ち反応混合物から有用な度合の純度の単離および治療薬への配合に耐えるに充分な堅牢度を有する化合物がもたらされることを条件とする。
【0028】
本文全体に渡って用いる如き用語「プロドラッグ」は、薬理学的に受け入れられる誘導体、例えばエステル、アミドおよび燐酸塩などがインビボで生体内変換を受ける結果としてもたらされる生成物が本発明の化合物で定義する如き活性のある薬剤であるような誘導体を意味する。プロドラッグを記述しているGoodmanおよびGilmanによる文献(The Pharmacological Basis of Therapeutics、第8版、McGraw−Hill,Int.編集、1992、「Biotransformation of Drugs」、13−15頁)を一般に引用することによって本明細書に組み込む。本発明の化合物に存在する官能基に修飾をそのような修飾部が常規操作またはインビボのいずれかで開裂を起こして親化合物が生じるような様式で受けさせることで本化合物のプロドラッグを生じさせる。プロドラッグには、当該プロドラッグを患者に投与した時に開裂を起こす基のいずれかとヒドロキシ基またはアミノ基が結合している(開裂によってそれぞれ遊離のヒドロキシルまたはアミノ基が生じる)本発明の化合物が含まれる。プロドラッグは、水溶性が優れていること、生体利用効率が向上していることで特徴づけられかつインビボで容易に代謝を受けて活性のある阻害剤になる。
【0029】
治療用途用の本発明の化合物の塩は、対イオンが薬学的または生理学的に受け入れられる塩である。しかしながら、また、薬学的に受け入れられない対イオンを有する塩も例えば本発明の薬学的に受け入れられる化合物を製造または精製する時に用いるに有用であり得る。薬学的に受け入れられるか否かに拘わらず、あらゆる塩が本発明の範囲内に含まれる。
【0030】
本発明の化合物が形成し得る薬学的に受け入れられるか或は生理学的に許容される付加
塩形態の調製は便利に適切な酸、例えば無機酸、例えばハロゲン化水素酸、例えば塩酸または臭化水素酸など、硫酸、硝酸、燐酸など、または有機酸、例えば酢酸、プロピオン酸、ヒドロキシ酢酸、乳酸、ピルビン酸、しゅう酸、マロン酸、こはく酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、シクラミン酸、サリチル酸、p−アミノサリチル酸、パモ酸などを用いて実施可能である。
【0031】
逆に、前記酸付加塩形態を適切な塩基で処理することで遊離塩基形態に変化させることも可能である。
【0032】
また、酸プロトンを含有する本発明の化合物を適切な有機および無機塩基で処理することで無毒の金属もしくはアミン付加塩形態に変化させることも可能である。適切な塩基塩形態には、例えばアンモニウム塩、第四級アンモニウム塩、アルカリおよびアルカリ土類金属塩、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム塩など、有機塩基との塩、例えばベンザチン、N−メチル,−D−グルカミン、ヒドラバミン塩など、およびアミノ酸との塩、例えばアルギニン、リシンなどとの塩が含まれる。
【0033】
逆に、前記塩基付加塩形態を適切な酸で処理することで遊離酸形態に変化させることも可能である。
【0034】
用語「塩」は、また、本発明の化合物が形成し得る水化物および溶媒付加形態も包含する。そのような形態の例は例えば水化物、アルコラートなどである。
【0035】
本化合物のN−オキサイド形態は、これに1個または数個の窒素原子が酸化されていわゆるN−オキサイドになっている化合物を包含させることを意味する。
【0036】
本化合物はまた互変異性形態でも存在し得る。そのような形態を前記式の中に明確には示していないが、それらも本発明の範囲内に包含させることを意図する。
【0037】
本明細書の上で用いた如き用語「本発明の化合物の立体化学的異性体形態」は、同じ結合配列で結合している同じ原子で構成されているが交換不能な異なる三次元構造(本発明の化合物が取り得る)を有する可能なあらゆる化合物を定義するものである。特に明記しない限り、ある化合物の化学的表示は、前記化合物が取り得る可能なあらゆる立体化学的異性体形態の混合物を包含する。前記混合物は前記化合物の基本的分子構造を有するあらゆるジアステレオマーおよび鏡像異性体を含有し得る。本発明の化合物の立体化学的異性体形態(高純度形態または互いの混合物の両方)の全部を本発明の範囲内に包含させることを意図する。
【0038】
本明細書に挙げる如き本化合物および中間体の高純度立体異性体形態は、前記化合物または中間体が有する基本的分子構造と同じ分子構造を有する他の鏡像異性体またはジアステレオマー形態を実質的に含有しない異性体であるとして定義する。特に、用語「立体異性体的に高純度」は、立体異性体過剰度が少なくとも80%(即ち、ある異性体が最低限で80%で他の可能な異性体が最高で20%)から立体異性体過剰度が100%(即ち、ある異性体が100%で他の異性体がゼロ)の化合物もしくは中間体、より特別には、立体異性体過剰度が90%から100%、更により特別には立体異性体過剰度が94%から100%、最も特別には立体異性体過剰度が97%から100%の化合物または中間体に関する。用語「鏡像異性体的に高純度」および「ジアステレオマー的に高純度」も同様な様式で理解されるべきであるが、それらはそれぞれ当該混合物の鏡像異性体過剰度およびジアステレオマー過剰度に関する。
【0039】
本発明の化合物および中間体の高純度立体異性体形態は本技術分野で公知の手順を適用することで入手可能である。例えば、光学的に活性な酸とジアステレオマーの塩を選択的に結晶化させることなどで鏡像異性体を互いに分離することができる。別法として、キラル固定相を用いたクロマトグラフィー技術を利用して鏡像異性体を分離することも可能である。また、適切な出発材料の相当する高純度立体化学的異性体形態を用いて前記高純度立体化学的異性体形態を生じさせることも可能であるが、但し反応が立体特異的に起こることを条件とする。特定の立体異性体が望まれる場合、好適には、立体特定的製造方法を用いて前記化合物の合成を行う。そのような方法では有利に鏡像異性体的に高純度の出発材料を用いる。
【0040】
本発明の化合物のジアステレオマーラセミ混合物を通常方法で個別に得ることも可能である。有利に使用可能な適切な物理的分離方法は、例えば選択的結晶化およびクロマトグラフィー、例えばカラムクロマトグラフィーなどである。
【0041】
本化合物は不斉中心を1個以上含有する可能性があり、従っていろいろな立体異性体形態として存在する可能性がある。本化合物に存在し得る各不斉中心の絶対的配置は立体化学的記述子RおよびSで表示可能であり、そのRおよびS表示はPure Appl.Chem.1976、45、11−30に記述されている法則に相当する。
【0042】
また、本発明に本化合物に存在する原子のあらゆる同位体を包含させることを意図する。同位元素には、原子番号は同じであるが質量数が異なる原子が含まれる。制限するものでないが、一般的例として、水素の同位元素にはトリチウムおよびジュウテリウムが含まれる。炭素の同位元素にはC−13およびC−14が含まれる。
【0043】
本化合物がHIVとヒト細胞の間の融合過程を阻止する能力に関して示す好ましい特性は、(i)HIV−tatの特異的相互作用によってLTR配列とGFPが結合しているMT4細胞(MT4−LTR−EGFP細胞)の中で進行するウイルス複製を直接測定する抗ウイルス複製検定、または(ii)HIVを持続的に発現する細胞株(エフェクター細胞株)とCD4およびCXCR4を発現する細胞株(標的細胞株)(LTR−EGFPが備わっている)の間の細胞−細胞融合の阻害をFACS読み出しで測定する侵入レポーター検定(ERA)を用いて立証可能である。
【0044】
GFPレポーター蛋白質(Mt4−CMV−EGFP細胞)の発現減少が試験化合物が示す細胞毒性の指標として役立つ毒性検定を用いて本発明の化合物が示す毒性を測定することができる。
【0045】
Aがフェニル環でありそしてRが窒素原子を通してフェニル環と連結していて前記Rが−NR−R1aで表される式(I)で表される化合物[この式(I)で表される化合物を式(I−1)で表す]の調製はスキーム1に従って実施可能である。
【0046】
【化2】

【0047】
スキーム1の1番目の段階で、アミノフェノールとパラ−フルオロニトロベンゼンを塩基、例えば炭酸カリウムなどの存在下で反応に不活性な溶媒、例えばN,N−ジメチルホルムアミドなど中で反応させることで、式(1−A)で表される中間体を生じさせることができる。次に、中間体(1−A)と式R1a−L[式中、Lは適切な脱離基、例えばハロゲンなどである]で表される中間体を塩基、例えば炭酸カリウムなどの存在下で溶媒、例えばテトラヒドロフランおよび水など中で反応させることで、式(1−B)で表される中間体を生じさせることができる。前記中間体(1−B)が有するニトロ基に還元を炭素に担持されているパラジウムを触媒量で用いる如き本技術分野で公知の還元技術を用い、場合によりチオフェンを用いて触媒力を低くして、メタノールの如き溶媒中で受けさせてそれをアミノ基にすることで、式(1−C)で表される中間体を生じさせることができる。次に、この式(1−C)で表される中間体と式R−X−Y−L[式中、Lは適切な脱離基、例えばハロゲンなどである]で表される中間体を塩基、例えば炭酸カリウムなどの存在下で溶媒、例えばテトラヒドロフランおよび水など中で反応させることによるさらなる反応で式(I−1)で表される化合物を生じさせることができる。
【0048】
が水素以外である式(I−1)で表される化合物は本技術分野で公知の変換技術を用いてRが水素である式(I−1)で表される化合物から誘導可能であることを注目すべきである。また、中間体(1−B)が有するニトロ基に還元を受けさせる段階でRの定義内のある種の反応性基を便利に適切な保護基で保護しておくことも可能である。
【0049】
【化3】

【0050】
スキーム2に、Aがキノリニル基である式(I)で表される化合物[この式(I)で表される化合物を式(I−2)で表す]の一般的製造手順を示す。1番目の段階は、スキーム1のそれと同様であり、反応を塩基、例えば炭酸カリウムなどの存在下で反応に不活性な溶媒、例えばN,N−ジメチルホルムアミドなど中で起こさせることで式(2−A)で表される中間体を生じさせることを伴う。そのニトロ部分に還元を本技術分野で公知の技術を用いて受けさせてそれをアミノ基にすることで中間体(2−B)を生じさせることができ、それを次にスキーム1に示した様式と同様な様式で更に式R−X−Y−L[式中、Lは適切な脱離基、例えばハロゲンなどである]で表される中間体と塩基、例えば炭酸カリウムなどの存在下で溶媒、例えばテトラヒドロフランおよび水など中で反応させてもよい。
【0051】
Aがイソキノリニルである式(I)で表される化合物[この化合物を式(I−3)で表す]の調製は、スキーム2に示した式(I−2)で表される化合物の調製と同様に実施可能である。
【0052】
AがY−X−Rで置換されている1,2,3,4−テトラヒドロキノリニルである式(I)で表される化合物[この化合物を式(I−4)で表す]の調製はスキーム4に従って実施可能である。
【0053】
【化4】

【0054】
中間体(4−A)の調製はスキーム2に示した中間体(2−A)の調製と同様である。中間体(4−B)の調製は、中間体(4−A)に還元を炭素に担持されているパラジウムを触媒量で用いる如き本技術分野で公知の還元技術を用い、場合によりチオフェンを用いて触媒力を低くして、メタノールの如き溶媒中で受けさせることで実施可能である。2個の−Y−X−R部分が同じである式(I−4)で表される化合物の調製は、中間体(4−B)から出発して、これと式R−X−Y−COClまたはR−X−Y−SO−Clで表される反応体を塩基、例えば炭酸カリウムなどの存在下で溶媒、例えばテトラヒドロフランおよび水など中で反応させることで実施可能である。
【0055】
2個のY−X−R基が異なる式(I−4)で表される化合物の調製は、同じ基本的手順を用いるが、式(4−B)で表される中間体を生じさせる反応段階をニトロ官能もしくは環窒素が1個のみ還元を受けるように選択的に行うことで実施可能である。この目的で、本技術分野で公知の技術、例えば触媒(炭素に担持されているパラジウム)の触媒力をチオフェンで低くすることなどを利用する。1番目のY−X−R基を導入した後に2番目の官能窒素に還元を受けさせそしてそれを更にY−X−Rと反応させてもよい。
【0056】
Aがフェニル環でありそしてRが炭素原子を通してフェニル環と連結していて前記Rが−C−R1bで表される式(I)で表される化合物[この式(I)で表される化合物を式(I−5)で表す]の調製はスキーム5に従って実施可能である。
【0057】
【化5】

【0058】
式(5−A)で表される中間体の調製はスキーム1に示した式(1−A)で表される中間体の調製と同様に実施可能である。式(I−5)で表される化合物中のNR−Y−X−Rとフェニル環の間のリンカーの長さを炭素1個分より長くする必要がある場合には、適切に適合させたシアノフェノール、例えばヒドロキシベンゼンアセトニトリルまたはヒドロキシベンゼンプロパンニトリルなどを出発材料として用いてもよい。中間体(5−A)に還元を本技術分野で公知の還元技術、例えば炭素に担持されているパラジウムなどを溶媒、例えばメタノールなど中で用いることなどで受けさせることで式(5−B)で表される中間体を生じさせることができる。次に、前記式(5−B)で表される中間体を更に式R−X−Y−COClまたはR−X−Y−SO−Clで表される反応体と塩基、例えば炭酸カリウムなどの存在下で溶媒、例えばテトラヒドロフランおよび水など中で反応させてもよい。
【0059】
2個のY−X−R基が異なる式(I−5)で表される化合物の調製は、スキーム4と同様にして、同じ基本的手順を用いるが、シアノ基およびニトロ基に選択的還元を受けさ
せることで実施可能である。
【0060】
本分野の技術者は、この上に記述した方法では中間体化合物の官能基を保護基でブロックしておく必要があり得ることを理解するであろう。
【0061】
保護するのが望ましい官能基には、ヒドロキシ、アミノおよびカルボン酸が含まれる。ヒドロキシ用の適切な保護基には、トリアルキルシリル基(例えばt−ブチルジメチルシリル、t−ブチルジフェニルシリルまたはトリメチルシリル)、ベンジルおよびテトラヒドロピラニルが含まれる。アミノ用の適切な保護基には、t−ブチルオキシカルボニルまたはベンジルオキシカルボニルが含まれる。カルボン酸用の適切な保護基には、C1−6アルキルまたはベンジルエステルが含まれる。
【0062】
そのような官能基の保護そして脱保護は反応段階前または後に実施可能である。
【0063】
そのような保護基の使用はJ W F McOmie編集の「Protective Groups in Organic Chemistry」、Plenum Press(1973)、そしてJ W GreeneおよびP G M Wutzの「Protective Groups in Organic Synthesis」、第2版、Wiley Interscience(1991)に詳述されている。
【0064】
この上に示した調製では、反応生成物を反応媒体から単離してもよく、そして必要ならば、本技術分野で一般に公知の方法論、例えば抽出、結晶化、蒸留、磨り潰しおよびクロマトグラフィーなどに従って更に精製してもよい。
【0065】
本明細書の上に記述した方法で生じさせる如き式(I)で表される化合物は立体異性体形態の混合物、特に鏡像異性体のラセミ混合物の形態で合成可能であり、それらを本技術分野で公知の分離手順に従って互いに分離することも可能である。式(I)で表されるラセミ化合物を適切なキラリティーを持つ酸と反応させることで相当するジアステレオマー塩形態に変化させてもよい。その後、例えば選択的もしくは分別結晶化などで前記ジアステレオマー塩形態を分離した後、アルカリを用いてそれから鏡像異性体を遊離させる。鏡像異性体形態の式(I)で表される化合物を分離する代替様式は、キラル固定相を用いた液クロの使用を伴う。また、立体化学的異性体形態の適切な出発材料を相当する純度で用いてそのような高純度の立体化学的異性体形態を生じさせることも可能であるが、但し反応が立体特異的に起こることを条件とする。特定の立体異性体が望まれる場合、好適には、立体特異的製造方法を用いて前記化合物の合成を行うことになるであろう。そのような方法では有利に鏡像異性体的に高純度の出発材料を用いることになるであろう。
【0066】
従って、本発明の化合物は本質的に薬剤として互いの混合物の状態でか或は製剤の形態で動物、好適には哺乳動物、特に人に使用可能である。
【0067】
その上、本発明は、薬学的に無害な通常の賦形剤および助剤に加えて前記式(I)で表される化合物の中の少なくとも1種を活性成分として有効量で含有する製剤にも関する。そのような製剤の本化合物含有量を通常は0.1から90重量%にする。そのような製剤は本分野の技術者に本質的に公知の様式で調製可能である。この目的で、本発明の化合物の中の少なくとも1種を1種以上の固体状もしくは液状の薬学的賦形剤および/または助剤と一緒に望まれるならば他の薬学的に活性のある化合物と組み合わせて一緒にすることで適切な投薬形態物もしくは投与形態物にした後、それを人用薬剤または獣医学的薬剤に入れる薬として用いてもよい。
【0068】
本発明に従う化合物を含有させた薬剤の投与は経口、非経口、例えば静脈内、直腸、吸
入または局所などで実施可能であり、好適な投与は個々の症例、例えば治療すべき疾患の個々の過程などに依存する。経口投与が好適である。
【0069】
所望の製剤に適した助剤は本分野の技術者に専門的知識を基にして良く知られている。溶媒に加えて、また、ゲル形成剤、座薬基材、錠剤助剤および他の活性化合物担体、抗酸化剤、分散剤、乳化剤、消泡剤、風味矯正剤、防腐剤、可溶化剤、持続効果を達成する作用剤、緩衝用物質または着色剤も有用である。
【0070】
本発明の化合物は、また、HIVが入っているか或はHIVに接触したと思われるサンプルを生体外で抑制する時にも使用可能である。従って、本化合物は、HIVが入っているか或は入っていると予想されるか或はHIVに接触したと思われる体液サンプルに存在するHIVを阻害する目的で使用可能である。
【0071】
また、抗レトロウイルス化合物と本発明の化合物の組み合わせを薬剤として用いることも可能である。従って、本発明は、また、(a)本発明の化合物と(b)別の抗レトロウイルス化合物を含有する製品にも関し、これらを組み合わせ製剤としてレトロウイルス感染の治療で同時、個別または逐次的に用いる。従って、HIV感染またはHIV感染に関連した感染および病気、例えば後天性免疫不全症候群(エイズ)またはエイズ関連症候群(ARC)などを阻止または治療する目的で、本発明の化合物を例えば結合阻害剤、例えば硫酸デキストラン、スラミン、ポリアニオン、可溶CD4など、融合阻害剤、例えばT20、T1249、SHC−Cなど、共受容体結合阻害剤、例えばAMD 3100(Bicyclams)、TAK 779など、RT阻害剤、例えばホスカルネットおよびプロドラッグなど、ヌクレオシドRTI、例えばAZT、3TC、DDC、DDI、D4T、アバカビル、FTC、エントリシタビン、DAPD、dOTCなど、ヌクレオチドRTI、例えばPMEA、PMPA、テノホビルなど、NNRTI、例えばネヴィラピン、デラビルジン、エファビレンズ、8および9−Cl TIBO(チビラピン)、ロビリド、TMC−125、TMC−120、MKC−442、UC 781、カプラビリン、DPC 961、DPC963、DPC082、DPC083、カラノリドA、SJ−3366、TSAO、4”−脱アミン化TSAOなど、RNA分解酵素H阻害剤、例えばSP1093V、PD126388など、TAT阻害剤、例えばRO−5−3335、K12、K37など、インテグラーゼ阻害剤、例えばL 708906、L 731988など、プロテアーゼ阻害剤、例えばアンプレナビル、リトナビル、ネルフィナビル、サキナビル、インジナビル、ロピナビル、ラシナビル、BMS 232632、BMS 186316、DPC 681、DPC 684、チプラナビル、AG 1776、DMP 450、L 756425、PD178390、PNU 140135など、グリコシル化阻害剤、例えばカスタノスペルミン、デオキシノジリマイシンなどと組み合わせて一緒に投与してもよい。
【0072】
そのような組み合わせによって、ウイルス感染とそれに関連した症状が防止されるか、実質的に低下するか或は完全になくなり得ると言った相乗効果が得られる可能性がある。
【0073】
また、本発明の化合物を免疫賦活剤(例えばブロピリミン、抗ヒトアルファインターフェロン抗体、IL−2、メチオニンエンケファリン、インターフェロンアルファおよびナルトレキソン)または抗生物質(例えばペンタミジンイソチオレート)と組み合わせて投与することでHIV感染およびそれの症状を軽減、阻止またはなくすことも可能である。
【0074】
経口投与形態の場合、本発明の化合物を適切な添加剤、例えば賦形剤、安定剤または不活性な希釈剤などと一緒に混合しそして通常方法で適切な投薬形態物、例えば錠剤、被覆錠剤、硬質カプセル、水溶液、アルコール溶液または油溶液にする。適切な不活性担体の例はアラビアゴム、マグネシア、炭酸マグネシウム、燐酸カリウム、ラクトース、グルコ
ースまたは澱粉、特にコーンスターチなどである。その場合の調製は乾燥した顆粒または湿った顆粒の両方として実施可能である。適切な油状賦形剤または溶媒は植物油または動物油、例えばヒマワリ油または肝油などである。水溶液またはアルコール溶液用の適切な溶媒は水、エタノール、糖溶液またはこれらの混合物である。また、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールも他の投与形態用のさらなる助剤として用いるに有用である。
【0075】
皮下または静脈内投与の場合、本活性化合物を望まれるならばそれ用の通常の物質、例えば可溶化剤、乳化剤またはさらなる助剤などと一緒にして溶液、懸濁液または乳液にする。また、本化合物に凍結乾燥を受けさせて、その得た凍結乾燥品を例えば注射もしくは輸液用製剤を生じさせる目的で用いてもよい。適切な溶媒は、例えば水、生理学的食塩溶液またはアルコール、例えばエタノール、プロパノール、グリセロールなどに加えてまた糖溶液、例えばグルコースまたはマンニトール溶液など、または別法として、挙げたいろいろな溶媒の混合物である。
【0076】
エーロゾルまたはスプレーの形態で投与するに適した製剤は、例えば本化合物またはこれの生理学的に許容される塩を薬学的に受け入れられる溶媒、例えばエタノールまたは水または前記溶媒の混合物などに入れることで生じさせた溶液、懸濁液または乳液などである。必要ならば、前記製剤に追加的にまた他の薬学的助剤、例えば界面活性剤、乳化剤および安定剤などばかりでなく噴射剤などを含有させることも可能である。そのような製剤に含有させる本活性化合物の濃度を通常は約0.1から50重量%、特に約0.3から3重量%にする。
【0077】
本化合物が薬剤組成物中で示す溶解性および/または安定性を向上させる目的で、α−、β−もしくはγ−シクロデキストリンまたはこれらの誘導体を用いるのが有利であり得る。また、共溶媒、例えばアルコールなどを用いることで本化合物が薬剤組成物中で示す溶解性および/または安定性を向上させることも可能である。水性組成物を調製する時には、本主題化合物の付加塩の方が水溶性が高いことが理由で明らかにより適切である。
【0078】
適切なシクロデキストリンはα−、β−もしくはγ−シクロデキストリン(CD)またはこれらのエーテルおよび混合エーテルであり、この場合、シクロデキストリンのアンヒドログルコース単位が有するヒドロキシ基の1個以上がアルキル、特にメチル、エチルまたはイソプロピルで置換されている(例えばランダムにメチル化されたβ−CD)か、ヒドロキシアルキル、特にヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピルまたはヒドロキシブチル、カルボキシアルキル、特にカルボキシメチルまたはカルボキシエチル、アルキルカルボニル、特にアセチル、アルキルオキシカルボニルアルキルまたはカルボキシアルキルオキシアルキル、特にカルボキシメトキシプロピルまたはカルボキシエトキシプロピル、アルキルカルボニルオキシアルキル、特に2−アセチルオキシプロピルで置換されている。特にβ−CD、ランダムにメチル化されたβ−CD、2,6−ジメチル−β−CD、2−ヒドロキシエチル−β−CD、2−ヒドロキシエチル−γ−CD、2−ヒドロキシプロピル−γ−CDおよび(2−カルボキシメトキシ)プロピル−β−CD、特に2−ヒドロキシプロピル−β−CD(2−HP−β−CD)が錯化剤および/または可溶化剤として価値がある。
【0079】
用語「混合エーテル」は、シクロデキストリンの少なくとも2個のヒドロキシ基がいろいろな基、例えばヒドロキシ−プロピルとヒドロキシエチルなどでエーテル化されているシクロデキストリン誘導体を表す。
【0080】
本化合物をシクロデキストリンまたはこれの誘導体と組み合わせて調合する興味の持たれる方法がヨーロッパ特許出願公開第721,331号に記述されている。そこに記述さ
れている調合は抗菌・カビ活性材料を用いた調合であるが、それらも同様に本発明の化合物を調合する時に興味が持たれる。そこに記述されている調合物は特に経口投与に適し、抗菌・カビ剤を活性材料として含有し、シクロデキストリンまたはこれの誘導体を可溶化剤として充分な量で含有し、酸水溶液媒体を多量の液状担体として含有しかつ当該組成物の調製を非常に簡潔にするアルコール系共溶媒を含有する。また、前記調合物に薬学的に受け入れられる甘味剤および/または風味剤を添加することで味をより良くすることも可能である。
【0081】
本発明の化合物が薬剤組成物中で示す溶解性を向上させる他の便利な方法がWO−94/05263、PCT出願番号PCT/EP98/01773、ヨーロッパ特許出願公開第499299号およびWO 97/44014(これらは全部引用することによって本明細書に組み入れられる)に記述されている。
【0082】
本化合物を調合する時、より詳細には、(a)本発明の化合物と(b)1種以上の薬学的に受け入れられる水溶性重合体を含んで成る固体分散体で構成させた粒子を治療的に有効な量で含んで成る薬剤組成物の状態で調合を行ってもよい。
【0083】
用語「固体分散体」は少なくとも2種類の成分を含んで成っていて一方の成分がもう一方の成分1種または2種以上全体に渡って多少ともむらなく分散している固体状態(液状または気体状とは対照的に)の系を定義するものである。前記成分の分散体が当該系が全体に渡って化学的および物理的に均一もしくは均質であるか或は熱力学的に定義されるように1相で構成されているような場合、そのような固体分散体は「固溶体」と呼ばれる。固溶体が好適な物理的系である、と言うのは、それに入っている成分は一般にそれを投与した有機体によって容易に生体利用されるからである。
【0084】
用語「固体分散体」はまた全体に渡る均質度合が固溶体に比べて低い分散体も包含する。そのような分散体は化学的および物理的に全体に渡って均一ではないか或は相を2相以上含んで成る。
【0085】
前記粒子に含める水溶性重合体は、便利に、それを2%の水溶液として溶解させた時に20℃の溶液が示す見かけ粘度が1から100mPa.sの重合体である。
【0086】
好適な水溶性重合体はヒドロキシプロピルメチルセルロース、即ちHPMCである。メトキシ置換度が約0.8から約2.5でヒドロキシプロピルモル置換度が約0.05から約3.0のHPMCは一般に水溶性である。メトキシ置換度はセルロース分子が有するアンヒドログルコース単位1単位当たりに存在するメチルエーテル基の平均数を指す。ヒドロキシ−プロピルモル置換度はセルロース分子が有する各アンヒドログルコース単位と反応したプロピレンオキサイドの平均モル数を指す。
【0087】
本明細書の上で定義した如き粒子の調製は、最初に当該成分の固体分散体を生じさせそして次に場合により前記分散体を粉砕または製粉することで実施可能である。そのような分散体を生じさせる技術はいろいろ存在し、それには溶融押出し加工、噴霧乾燥および溶液蒸発が含まれる。
【0088】
更に、本化合物をナノ粒子の形態に成形するのも便利であり得、その表面に表面修飾剤を有効平均粒径が1000nm未満に維持されるに充分な量で吸着させる。有用な表面修飾剤には抗レトロウイルス剤の表面に物理的に吸着するが化学的には抗レトロウイルス剤と結合しない表面修飾剤が含まれると考えている。
【0089】
適切な表面修飾剤は好適に公知の薬学的有機および無機賦形剤から選択可能である。適
切な賦形剤にはいろいろな重合体、低分子量のオリゴマー、天然産物および界面活性剤が含まれる。好適な表面修飾剤には非イオン性およびアニオン性界面活性剤が含まれる。
【0090】
本化合物を調合する更に別の興味の持たれる方法は、本発明の化合物を親水性重合体の中に取り込ませそしてその混合物を数多くの小さいビードを覆う塗膜として加えた薬剤組成物を生じさせることを伴い、そのようにすると、便利に製造可能で経口投与用の薬剤投薬形態を生じさせるに適していて良好な生体利用度を示す組成物がもたらされる。
【0091】
前記ビードは(a)中心の円形もしくは球形のコア、(b)親水性重合体と抗ウイルス薬の塗膜および(c)シールコート用重合体層を含んで成る。
【0092】
前記ビードに含めるコアとして用いるに適した材料は多種多様であるが、但し前記材料が薬学的に受け入れられかつ適切な寸法および堅さを有することを条件とする。そのような材料の例は重合体、無機物質、有機物質および糖類およびこれらの誘導体である。
【0093】
本発明の別の面は、本発明の化合物を潜在的薬剤がHIV侵入、HIV増殖または両方を阻害する能力を有するか否かを測定する試験または検定で基準または試薬として用いるに有効な量で含んで成るキットまたは容器に関する。本発明のこの面は薬剤研究プログラムで使用可能である。
【0094】
本発明の化合物は表現型耐性監視検定、例えば公知の組換え検定、耐性を発現する病気、例えばHIVなどの臨床管理などで使用可能である。特に有用な耐性監視システムはAntivirogram(商標)として知られる組換え検定である。Antivirogram(商標)は、本発明の化合物が示す感受性、特にウイルス感受性の測定を可能にする第2世代の高度に自動化された高処理量の組換え検定である[Hertogs K、de Bethune MP、Miller V他、Antimicrob Agents Chemother、1998;42(2):269−297(引用することによって組み入れられる)]。
【0095】
投与すべき本化合物またはこれの生理学的に許容される塩1種または2種以上の量は個々の症例に依存し、慣例により、最適な効果が得られるように個々の症例の条件に適合させるべきである。従って、それは勿論治療または予防の目的で各場合に用いる化合物を投与する頻度および効力および作用期間ばかりでなくまた感染および症状の性質およびひどさおよび治療すべき人または動物の性、年齢、体重および個々の反応そして治療が急を要するか或は予防であるかに依存する。本発明の化合物を体重が約75kgの患者に投与する場合の1日当たりの用量は通常1mgから1g、好適には3mgから0.5gである。この用量を1回の投与でか或は数回、例えば2回、3回または4回などの個々の投与に分割した形態で投与してもよい。
【実施例】
【0096】
実験部分
スキームAに従う化合物1の製造[酢酸{4−[4−(4−メトキシ−ベンゼンスルホニルアミノ)−フェノキシ]−フェニルカルバモイル}−メチルエステル]
【0097】
【化6】

【0098】
中間体(A)の製造
20gのアミノフェノールを400mlのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に入れることで生じさせた室温の混合物に炭酸カリウムを30g(1.2当量)加えた。この混合物を撹拌しながらこれにパラ−フルオロニトロベンゼンを25.8g加えた。この反応混合物を室温で12時間撹拌した。その後、出発材料が消費された時点で、その混合物を水(250ml)の中に注ぎ込んだ。その溶液に塩酸溶液をpH=7になるまで添加することで酸性にした。DMFを蒸発させた後、酢酸エチルを用いて生成物を抽出した。その有機層を分離し、MgSOで乾燥させた後、蒸発させることで中間体Aを30g(71%)得た。
式Bで表される化合物の製造
1gの中間体Aを25mlのテトラヒドロフラン(THF)に入れることで生じさせた室温の混合物に水を15mlおよび炭酸カリウムを1.18g(2当量)加えた。この混合物を撹拌しながらこれにパラ−メトキシスルホニルクロライドを988mg(1.1当量)加えた。この反応混合物を室温で4時間撹拌した。水(25ml)を加えた後、酢酸エチルを用いて生成物を抽出した。その有機層を分離し、MgSOで乾燥させた後、蒸発させることで中間体Bを1.44g(83%)得た。
中間体Cの製造
中間体Bが1.24gの混合物をメタノールに溶解させた後、炭素に担持されているパラジウムを触媒量で加えた。この混合物を水素下室温で撹拌した。4時間後に混合物を濾過した後、溶媒を除去した。中間体Cを700mg(61%)単離した。
化合物1の製造
500mgの中間体Cを10mlのTHFに入れることで生じさせた室温の混合物に水を10mlおよび炭酸カリウムを429mg加えた。この混合物を撹拌しながらこれにアセトキシアセチルクロライドを203mg(1.1当量)加えた。この反応混合物を室温で4時間撹拌した。水(50ml)を加えた後、酢酸エチル(3x20ml)を用いて生成物を抽出した。その有機層を分離し、MgSOで乾燥させた後、蒸発させることで化
合物1を377mg(80%)得た。
スキームBに従う化合物23の製造[フラン−2−カルボン酸{4−[1−(フラン−2−カルボニル)−1,2,3,4−テトラヒドロ−キノリン−8−イルオキシ]−フェニル}−アミド]
【0099】
【化7】

【0100】
中間体Aの製造
1gの8−ヒドロキシ−キノレインを20mlのDMFに入れることで生じさせた室温の混合物に炭酸カリウムを2.85g(1.1当量)加えた。この混合物を撹拌しながらこれにパラ−フルオロニトロベンゼンを1g加えた。この反応混合物を140℃で3時間撹拌した。その後、出発材料が消費された時点で、その混合物を水(25ml)の中に注ぎ込んだ。その溶液に塩酸溶液をpH=7になるまで添加することで酸性にした。DMFを除去した後、酢酸エチルを用いて生成物を抽出した。その有機層を分離し、MgSOで乾燥させた後、蒸発させることで中間体Aを1.5g(81%)得た。
化合物Bの製造
中間体Aが1.5gの混合物をメタノールに溶解させた後、炭素に担持されているパラジウムを触媒量で加えた。この混合物を水素下室温で撹拌した。4時間後に混合物を濾過した後、溶媒を除去した。中間体Bを1.4g(86%)単離した。
化合物23の製造
200mgの中間体Bを10mlのTHFに入れることで生じさせた室温の混合物に水を10mlおよび炭酸カリウムを260mg加えた。この混合物を撹拌しながらこれに2−フランカルボニルクロライドを2.2当量加えた。この反応混合物を室温で12時間撹拌した。水(20ml)を加えた後、酢酸エチル(3x20ml)を用いて生成物を抽出した。その有機層を分離し、MgSOで乾燥させた後、蒸発させることで化合物23を得た。
スキームCに従う化合物9の製造[N,N’−(オキシジ−4,1−フェニレン)−ビス(2−フランカルボキサミド)]
【0101】
【化8】

【0102】
中間体Aの製造
1gの3−シアノフェノールを20mlのDMFに入れることで生じさせた室温の混合物に炭酸カリウムを1.27g(1.1当量)加えた。この混合物を撹拌しながらこれにパラ−フルオロニトロベンゼンを1g加えた。この反応混合物を140℃で3時間撹拌した。その後、出発材料が消費された時点で、その混合物を水(25ml)の中に注ぎ込んだ。その溶液に塩酸溶液をpH=7になるまで添加することで酸性にした。DMFを除去した後、酢酸エチルを用いて生成物を抽出した。その有機層を分離し、MgSOで乾燥させた後、蒸発させることで中間体Aを1.6g(80%)得た。
中間体Bの製造
中間体Aが1.6gの混合物をメタノールに溶解させた後、炭素に担持されているパラジウムを触媒量で加えた。この混合物を水素下室温で撹拌した。4時間後に混合物を濾過した後、溶媒を除去した。中間体Bを1.2g(85%)単離した。
化合物9の製造
300mgの中間体Bを10mlのTHFに入れることで生じさせた室温の混合物に水を10mlおよび炭酸カリウムを2.2当量加えた。この混合物を撹拌しながらこれに2−フランカルボニルクロライドを2.2当量加えた。この反応混合物を室温で12時間撹拌した。水(20ml)を加えた後、酢酸エチル(3x20ml)を用いて生成物を抽出した。その有機層を分離し、MgSOで乾燥させた後、蒸発させることで化合物9を得た。
【0103】
記述した反応スキームのいずれか1つに類似した様式で表1に挙げる化合物を製造することができる。
【0104】
【表1】

【0105】
【表2】

【0106】
【表3】

【0107】
【表4】

【0108】
【表5】

【0109】
【表6】

【0110】
【表7】

【0111】
実施例:本発明の化合物が示すウイルス学的特性
本化合物に試験をMT4−LTR−EGFP細胞を用いた抗ウイルス複製検定およびERA検定で受けさせた。MT4−CMV−EGFP細胞を用いて毒性を測定した。
【0112】
【表8】

【0113】
【表9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤として用いるための(I)
【化1】

[式中、
Aは、キノリニル、イソキノリニル、Rで置換されているフェニル、または−Y−X−Rで置換されている1,2,3,4−テトラヒドロキノリニルを表し、
Xは、直接結合、−(CH−、−(CH−NH−、−(CH−NH−(CH−、−(CH−O−または−(CH−O−(CH−を表し、そしてXが直接結合以外の時にはXはCH基を通してYと連結しており、そしてXの定義の範囲内の各CH基は場合により−C(=O)−OHまたは−C(=O)−O−C1−4アルキルで置換されていてもよく、そして
Yは、−S(=O)−または−C(=O)−を表し、
各tは、独立して、1、2または3から選択される整数であり、
各pは、独立して、1、2または3から選択される整数であり、
nは、独立して、0、1または2から選択される整数であり、
は、−NR−Y−X−R、−C1−4アルカンジイル−NR−Y−X−R、−NR−Y−X−C(=O)−C1−6アルキル、または−C1−4アルカンジイル−NR−Y−X−C(=O)−C1−6アルキルを表し、
は、C1−4アルキル、場合によりC1−4アルキルで置換されていてもよいピロリジニル、場合によりC1−4アルキルで置換されていてもよいフラニル、場合によりC1−4アルキルで置換されていてもよいピペラジニル、場合によりC1−4アルキルで置換されていてもよいピペリジニル、場合によりC1−4アルキルで置換されていてもよいチエニル、ベンゾ−1,3−ジオキソラニル、または場合によりC1−6アルキル、C1−6アルキルオキシ、ヒドロキシ、カルボキシル、C1−6アルキルオキシカルボニル、シアノ、ニトロ、ハロゲン、トリフルオロメチル、アミノ、モノ−もしくはジ(C1−6アルキル)アミノ、C1−6アルキルカルボニルアミノ、C1−6アルキルカルボニル、モノ−もしくはジ(C1−6アルキル)アミノカルボニルおよびアミノカルボニルから成る群から選択される1個以上の置換基で置換されていてもよいフェニルを表し、
は、水素、C1−6アルキルまたはC3−7シクロアルキルを表す]
で表される化合物、これのN−オキサイド形態、立体化学異性体、ラセミ混合物、塩、プロドラッグ、エステルまたは代謝産物。
【請求項2】
HIVに感染した温血動物の治療およびそのような温血動物の予防に有用な薬剤の製造における式(I)で表される化合物の使用。
【請求項3】
前記温血動物がエイズ、エイズ関連症候群(ARC)、進行性全身性リンパ節腫脹(PGL)、HIV介在認知症およびHIV介在多発性硬化症に苦しんでいる請求項1または2記載の使用。
【請求項4】
前記治療がHIVと哺乳類細胞の間の結合および融合のいろいろな段階を妨害することでHIVが哺乳類細胞の中に入り込むのを阻止することを伴う請求項1から3のいずれか1項記載の使用。
【請求項5】
表1に挙げた化合物
【請求項6】
薬学的に無害な通常の賦形剤および助剤に加えて式(I)で表される化合物の中の少なくとも1種を有効成分として有効量で含有する製剤。

【公表番号】特表2007−505086(P2007−505086A)
【公表日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−525834(P2006−525834)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【国際出願番号】PCT/EP2004/052139
【国際公開番号】WO2005/023242
【国際公開日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(504347371)テイボテク・フアーマシユーチカルズ・リミテツド (94)
【Fターム(参考)】