説明

HIV結合阻害剤の最適な送達のための安定な医薬組成物

医薬組成物は、化合物1-ベンゾイル-4-[2-[4-メトキシ-7-(3-メチル-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)-1-[(ホスホノオキシ)メチル]-1H-ピロロ[2,3-c]ピリジン-3-イル]-1,2-ジオキソエチル]-ピペラジン、および少なくとも約100cPの粘度を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含むものであって、前記組成物は酵素阻害剤を含まないものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HIV感染の治療のために好適な薬物動態(PK)プロファイルを提供する新規な製剤、より詳細には、HIVに対して有効である酵素阻害剤を含まないHIV結合阻害剤およびヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む高度に安定な持続放出製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
HIV−1(ヒト免疫不全ウイルス−1)感染は、2007年末において世界中で4500万人近くの人々が感染した主な医学上の問題である。HIVおよびAIDS(後天性免疫不全症候群)の症例数は急激に上昇している。2005年には、例えば、およそ500万人の新たな感染が報告され、310万人の人々がAIDSにかかり死亡した。HIVの治療に現在利用可能な薬物は、ヌクレオシド逆転写酵素(RT)阻害剤または認可された単一錠剤の組み合わせ:ジドブジン(またはAZTもしくはレトロビル(登録商標))、ディダノシン(またはヴァイデックス(登録商標))、スタブジン(またはゼリット(登録商標))、ラミブジン(または3TCもしくはエピビル(登録商標))、ザルシタビン(またはDDCもしくはハイビッド(登録商標))、コハク酸アバカビル(またはザイアジェン(登録商標))、テノホビルジソプロキシルフマル酸塩(またはビリアード(登録商標))、エムトリシタビン(またはFTCもしくはエムトリバ(登録商標))、コンビビル(登録商標)(-3TCとAZTを含む)、トリジビル(登録商標)(アバカビル、ラミブジン、およびジドブジンを含む)、エプジコム(登録商標)(アバカビルおよびラミブジンを含む)、ツルバダ(登録商標)(ビリアード(登録商標)およびエムトリバ(登録商標)を含む);非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤:ネビラピン(またはビラミューン(登録商標))、デラビルジン(またはレスクリプター(登録商標))およびエファビレンツ(またはサスティバ)(登録商標))、アトリプラ(登録商標)(ツルバダ(登録商標)+サスティバ(登録商標))、およびエトラビリン、ならびにペプチド模倣プロテアーゼ阻害剤または認可された製剤: サキナビル、インジナビル、リトナビル、ネルフィナビル、アンプレナビル、ロピナビル、カレトラ(登録商標)(ロピナビルおよびリトナビル)、ダルナビル、アタザナビル(レイアタッツ(登録商標))、およびチプラナビル(アプティバス(登録商標))、およびラルテグラビル(アイセントレス(登録商標))などのインテグラーゼ阻害剤、およびエンフビルチド(T-20)(フゼオン(登録商標))およびマラビロク(シーエルセントリ(登録商標))などの侵入阻害剤を含む。
【0003】
さらに、HIV結合阻害剤は、HIV表面糖タンパク質gp120に結合し、表面タンパク質gp120と宿主細胞受容体CD4の相互作用を妨げる抗ウイルス化合物の新規なサブクラスである。それゆえ、それらは、HIVがヒトCD4 T細胞に結合することを妨げ、HIVのライフサイクルの最初の段階でHIV複製を阻害する。HIV結合阻害剤の特性は、抗ウイルス薬としての有用性および有効性を最大にする化合物を得るために改善がなされている。
【0004】
1つのHIV結合阻害剤の化合物は現在、特に、HIVに対して極めて優れた能力を示している。この化合物は、1-ベンゾイル-4-[2-[4-メトキシ-7-(3-メチル-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)-1-[(ホスホノオキシ)メチル]-1H-ピロロ[2,3-c]ピリジン-3-イル]-1,2-ジオキソエチル]-ピペラジンとして知られている。それは、米国特許第20050209246号にて説明され、記載されており、出典明示により全体が本明細書に取り込まれる。この化合物は、以下の式:
【化1】

により表される。
上記化合物は、以下の親化合物、1-(4-ベンゾイル-ピペラジン-1-イル)-2-[4-メトキシ-7-(3-メチル-[1,2,4]トリアゾール-1-イル)-1H-ピラロ[2,3-c]ピリジン-3-イル]-エタン-1,2-ジオンのリン酸エステルプロドラッグであり、米国特許第7,354,924号にて説明され、記載されており、その全体が本明細書に取り込まれる:
【化2】

【0005】
上記リン酸エステルプロドラッグは、吸収直前に内在性アルカリホスファターゼにより親化合物に加水分解されるように設計されている。アルカリホスファターゼは、小腸および大腸において結合および非結合の両方の状態で存在する。腸または大腸の環境において結合していない酵素がマトリックス錠などの持続放出製剤に取り込まれると、この酵素は、理論上、プロドラッグの早期の加水分解をインシトゥーで引き起こすこともある。プロドラッグが錠剤中で加水分解されると、体内での親化合物の続く適正な吸収を妨げることもある。このことは、その結果、さらなる投薬またはより悪い失敗した治療を意味することとなり得る。
【0006】
それゆえ、HIV結合阻害剤プロドラッグ化合物1-ベンゾイル-4-[2-[4-メトキシ-7-(3-メチル-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)-1-[(ホスホノオキシ)メチル]-1H-ピロロ[2,3-c]ピリジン-3-イル]-1,2-ジオキソエチル]-ピペラジンを含む製剤は、当該技術分野で必要とされている。この製剤は、安定であり、持続放出に適しており、望ましくは、酵素阻害剤を含まず、さらにプロドラッグ化合物を経口投与後の製剤内での加水分解から保護すべきである。上記で同定されたプロドラッグ化合物の安定な錠剤の形態を用いるHIV感染に対する新規な治療方法もまた、必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、化合物1-ベンゾイル-4-[2-[4-メトキシ-7-(3-メチル-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)-1-[(ホスホノオキシ)メチル]-1H-ピロロ[2,3-c]ピリジン-3-イル]-1,2-ジオキソエチル]-ピペラジン、および少なくとも約100cPの粘度を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含む医薬組成物であって、前記組成物が酵素阻害剤を全く含まないものである医薬組成物を提供する。
【0008】
本発明はまた、化合物1-ベンゾイル-4-[2-[4-メトキシ-7-(3-メチル-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)-1-[(ホスホノオキシ)メチル]-1H-ピロロ[2,3-c]ピリジン-3-イル]-1,2-ジオキソエチル]-ピペラジン、および少なくとも約100cPの粘度を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含む医薬組成物であって、前記組成物が酵素阻害剤を全く含まず、該プロドラッグを投与前後の親化合物への早期の変換から保護するものである医薬組成物を提供する。
【0009】
さらなる具体例において、化合物1-ベンゾイル-4-[2-[4-メトキシ-7-(3-メチル-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)-1-[(ホスホノオキシ)メチル]-1H-ピロロ[2,3-c]ピリジン-3-イル]-1,2-ジオキソエチル]-ピペラジン、少なくとも約2000cPの粘度を有するHPMC、微結晶性セルロース、二酸化ケイ素およびステアリン酸マグネシウムから本質的になる医薬組成物であって、前記組成物が酵素阻害剤を全く含まないものである医薬組成物が提供される。
【0010】
化合物1-ベンゾイル-4-[2-[4-メトキシ-7-(3-メチル-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)-1-[(ホスホノオキシ)メチル]-1H-ピロロ[2,3-c]ピリジン-3-イル]-1,2-ジオキソエチル]-ピペラジン、少なくとも約3000cPの粘度を有するHPMC、微結晶性セルロース、二酸化ケイ素およびステアリン酸マグネシウムから本質的になる医薬組成物であって、前記組成物が酵素阻害剤を全く含まないものであって、さらに、前記組成物中の前記化合物が、酵素アルカリホスファターゼによる加水分解に実質的に抵抗性を示すものである医薬組成物もまた、本明細書で提供される。
【0011】
HIVウイルスに感染した哺乳動物を治療する方法であって、前記哺乳動物に、抗ウイルス有効量の1種類またはそれ以上の上記で示される組成物を投与することを特徴とする方法がさらに提供される。
【0012】
さらに、酵素阻害剤の非存在下において、化合物1-ベンゾイル-4-[2-[4-メトキシ-7-(3-メチル-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)-1-[(ホスホノオキシ)メチル]-1H-ピロロ[2,3-c]ピリジン-3-イル]-1,2-ジオキソエチル]-ピペラジンを、少なくとも約2000cPの粘度を有するHPMCと共に混合することを含む医薬組成物を製造する方法が示される。
【0013】
本発明は、後述するこれらのならびにその他の重要な目的を対象とする。
【0014】
その様々な具体例による本発明の組成物は、インビトロおよびインビボの両方にてHIV結合阻害剤プロドラッグの持続放出を可能にする。さらに、本発明の組成物は、製剤中のHIV結合阻害剤プロドラッグを酵素加水分解から保護する。結果として得られたインビボ放出プロファイルは、最適な血漿時間(plasma-time)プロファイルを生じる。保護のメカニズムは複雑であり、全体として製剤に関連しており、1種類の賦形剤にのみ関連しているわけではないようである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1-ベンゾイル-4-[2-[4-メトキシ-7-(3-メチル-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)-1-[(ホスホノオキシ)メチル]-1H-ピロロ[2,3-c]ピリジン-3-イル]-1,2-ジオキソエチル]-ピペラジンとして知られるHIV結合阻害剤化合物は、以下:
【化3】

に示されるごときリン酸エステルプロドラッグである。
それは、吸収直前に内在性アルカリホスファターゼにより以下の親化合物:
【化4】

に加水分解されるように設計されている。
リン酸エステルプロドラッグは現在、アルカリホスファターゼが溶液中に存在する場合、親化合物に急速に加水分解することが示されている。投薬の頻度を減らすために、1-ベンゾイル-4-[2-[4-メトキシ-7-(3-メチル-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)-1-[(ホスホノオキシ)メチル]-1H-ピロロ[2,3-c]ピリジン-3-イル]-1,2-ジオキソエチル]-ピペラジンは現在、安定な親水性マトリックスの持続放出錠剤内に処方されている。錠剤製剤は、水媒体に曝露されると、膨潤し、ゲルを形成することが示されている。そして、リン酸エステルプロドラッグ化合物1-ベンゾイル-4-[2-[4-メトキシ-7-(3-メチル-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)-1-[(ホスホノオキシ)メチル]-1H-ピロロ[2,3-c]ピリジン-3-イル]-1,2-ジオキソエチル]-ピペラジンは、水和した錠剤から長期間にわたる拡散および/または浸食工程を経て溶液に放出される。
【0016】
現在、錠剤の親水性マトリックスは、リン酸エステルプロドラッグを、水和した錠剤中の親化合物に対するインシトゥー加水分解から保護することも示されている。このことは、プロドラッグの放出を長時間にわたり生じ、酵素阻害剤を製剤に含ませることなく所望の薬物動態プロファイルを生じさせる。仮にプロドラッグが錠剤中で加水分解された場合、生じる親化合物は吸収に利用されず、所望の薬物動態プロファイルは得られないであろう。
【0017】
それゆえ、本発明の組成物は、1-ベンゾイル-4-[2-[4-メトキシ-7-(3-メチル-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)-1-[(ホスホノオキシ)メチル]-1H-ピロロ[2,3-c]ピリジン-3-イル]-1,2-ジオキソエチル]-ピペラジンを含む持続放出製剤を提供する。製剤は、前記化合物の約20〜90重量%を含む。さらに好ましい具体例において、前記化合物の約50〜85重量%で提供される。なおより好ましくは、製剤は、プロドラッグエステル化合物の約60〜75重量%を含む。
【0018】
リン酸エステルプロドラッグのさまざまな別の水溶性塩が用いられてもよいが、1-ベンゾイル-4-[2-[4-メトキシ-7-(3-メチル-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)-1-[(ホスホノオキシ)メチル]-1H-ピロロ[2,3-c]ピリジン-3-イル]-1,2-ジオキソエチル]-ピペラジンのトリス塩形態が、特に、本明細書における使用に好ましい。
【0019】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)もまた、製剤中に含まれる。HPMCは、持続放出製剤を生成するときに利用される医薬グレード(grade)ポリマーである。HPMCは、組成物の約10〜50重量%の量で組成物中に存在する。より好ましくは、HPMCの量は、約15〜40重量%である。なおより望ましくは、前記組成物は、HPMCの約20〜30重量%を含む。
【0020】
本発明の組成物の一部として利用するHPMCは、比較的高い水和粘度を有することが好ましい。好ましくは、水中におけるHPMCの2%溶液の粘度は、少なくとも約100センチポイズ(cP)であるべきである。なおより好ましくは、粘度は、少なくとも約2000cPであるべきである。より望ましくは、製剤中に含まれるHPMCの粘度は、少なくとも約3000cPであるべきである。いくつかの具体例において、HPMCが少なくとも約4000cPの粘度を有することがなおより好ましい。HPMCの粘度が約10000cPを超えないこともまた好ましいが、ある適用において、約50000cP、または約120000cPの上限粘度でさえ好適となり得る。
【0021】
本発明の一部として用いるHPMCが分子上にヒドロキシプロポキシ置換度より実質的に高いメトキシ置換を有することもまた好ましい。例えば、約22%のメトキシ置換および約8%のヒドロキシプロポキシ置換を有するHPMCが、本明細書における使用に非常に好ましい。
【0022】
HPMCを含む前記成分に加えて、本発明の組成物は、1種類またはそれ以上のさらなる賦形剤を含む。これらの賦形剤は、望ましくは、最終的な製剤マトリックスの開発において役立つよう選択される。賦形剤は、充填剤、流動補助剤(flow aid)、流動促進剤、滑沢剤、結合剤、希釈剤、崩壊剤、防腐剤などを含む。これらは、微結晶性セルロース、二酸化ケイ素およびステアリン酸マグネシウムからなる群から選択されてもよい。医薬グレードのフィルムコーティング材料(film-coating material)が利用されてもよい。当業者にとって入手可能なその他の賦形剤もまた本明細書で利用されてもよい。これらのさらなる賦形剤は、製剤の約0.01から15重量%の量で製剤中に存在する。より好ましくは、さらなる賦形剤の量は、最終製剤の約0.5から10重量%の範囲内である。
【0023】
約600mgより低い錠剤の効能が必要とされるさらなる具体例において、ラクトースまたはその他の水溶性賦形剤の量がプロドラッグの代わりに製剤中に含まれてもよい。
【0024】
上記に示されるように、製剤は酵素阻害剤を全く含まない。驚くべきことに、酵素アルカリホスファターゼによる加水分解に対して通常では高度な感受性を示すプロドラッグ化合物が、最終製剤中で安定であり、錠剤マトリックス中にてインシトゥーで加水分解されないことが示されている。あるいは、本化合物は、親化合物への適正な変換、およびその後の体内への吸収のために、錠剤から長時間にわたり適切に放出され得る。この親化合物への変換は、吸収直前にのみ生じ、製剤自体の中では生じない。
【0025】
本明細書に記載され、示されている組成物は、プロドラッグ化合物1-ベンゾイル-4-[2-[4-メトキシ-7-(3-メチル-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)-1-[(ホスホノオキシ)メチル]-1H-ピロロ[2,3-c]ピリジン-3-イル]-1,2-ジオキソエチル]-ピペラジンを、当該技術分野で利用可能な方法に従って、さらなる賦形剤と共に混合することによって製造されてもよい。その後、HPLCは、その他の成分と一緒にされてもよく、最終製剤は、打錠機を用いて錠剤中に圧縮されてもよい。別の具体例において、HPMCは、プロドラッグおよびさらなる賦形剤と共に同時に混合される。フィルムコーティング材料はまた、所望であれば、生成した錠剤の表面上に適用されてもよい。
【0026】
錠剤製剤は、極めて保存に安定であり、また、プロドラッグエステルを、腸において長期間にわたり、好ましくは、約4から24時間にわたり、より好ましくは、約8から24時間、なおより好ましくは、約12から24時間にわたり錠剤マトリックスから確実に放出させることができる。
【0027】
上記で示されるように、本明細書で示される組成物中のプロドラッグ化合物は、酵素アルカリホスファターゼによる加水分解に対して実質的に耐性を示す。このことは、約1mg/mLの濃度の(ブタの腸に由来する)アルカリホスファターゼ量に対する約5時間の曝露後の錠剤マトリックス中でのプロドラッグ化合物の約1%より低い変換を意味する。
【0028】
本発明の組成物は、通常、数日、数週、数か月またはさらに数年の長期間にわたり、分割投与で約1から100mg/kg体重の用量範囲にてヒトに経口で投与されてもよい。1つの好ましい用量範囲は、1日1回または数回に分けて経口で約1から20mg/kg体重である。別の好ましい用量範囲は、1日1回または数回に分けて約1から40mg/kg体重である。なお別の好ましい用量範囲は、合計1日2回で約600〜1200mgである。しかしながら、ある一定の患者に対する具体的な用量レベルおよび投薬頻度は、変化されてもよく、化合物の活性、その化合物の代謝安定性および作用時間、年齢、体重、全体的な健康、性別、食事、投与様式および時間、排出速度、薬物の組み合わせ、その具体的な症状の重症度、および患者が受けている療法を含む様々な因子に依存すると理解される。
【0029】
AIDSの治療に有用な1種類またはそれ以上のその他の薬物と共に、その様々な具体例に従って、本明細書で示される製剤の併用もまた、本明細書において意図されている。例えば、本開示の組成物は、本明細書の背景技術にて説明されるものを含む、有効量の当該技術分野で利用可能なAIDS抗ウイルス薬、免疫賦活剤、抗感染薬、またはワクチンと組み合わせて、曝露前および/または曝露後のいずれかの時期に効果的に投与されてもよい。
【0030】
以下の実施例は、本発明の1つのまたは好ましい態様を例示するが、その範囲を限定するものとして解釈されるべきではない:
【実施例1】
【0031】
実施例1:600mgの持続放出錠剤製剤
【表1】

600mgの遊離酸に相当するトリス塩
【0032】
実施例2:別の600mgの持続放出錠剤製剤
【表2】

600mgの遊離酸に相当するトリス塩
【0033】
実施例3:別の600mgの持続放出錠剤製剤
【表3】

600mgの遊離酸に相当するトリス塩
【0034】
実施例4:別の600mgの持続放出錠剤製剤
【表4】

600mgの遊離酸に相当するトリス塩
【0035】
実施例5:200mgの持続放出錠剤製剤
【表5】

200mgの遊離酸に相当するトリス塩
【0036】
実施例6:600mgの持続放出錠剤製剤
【表6】

600mgの遊離酸に相当するトリス塩
【0037】
実施例7:USPタイプ1装置(100rpm、回転バスケット、pH6.8のリン酸緩衝液)を用いた、実施例の持続放出錠剤製剤に関するインビトロ薬物放出プロファイル
実施例1から6に由来する錠剤は、10から24時間にわたり薬物を放出させる。このゆっくりした放出は、親化合物の血漿濃度が治療レベルで長時間維持できるように設計されている。即時放出カプセルの放出プロファイルを例示のために含めた。
【表7】

【0038】
実施例8:ヒトボランティアに対して単回用量として投与した実施例1に由来する錠剤は所望の血漿濃度−時間プロファイルを生じた。
【表8】

持続放出錠剤は、12時間の投与期間にわたって治療レベルで親化合物の血漿濃度を維持する。これは、即時放出カプセルの投与を介しては達成されない(例示のために上記に示すプロファイル)。さらに、持続放出錠剤は、即時放出カプセルと比較してより低いピーク濃度(Cmax)を送達する。これは、有害事象に関するCmaxを最小にすることが望まれるものである。
【0039】
実施例9:アルカリホスファターゼはpH7.0のトリス−HCl緩衝液中でプロドラッグを親化合物に急速に変換することが示される。
リン酸エステルプロドラッグをpH7.0のトリス−HCl緩衝液で0.72mg/mLの濃度まで溶解させた。ブタアルカリホスファターゼ(1mg/mL)を一定分量(aliquot)の溶液に添加した。酵素添加の2.5時間後にサンプルを解析した。以下の表における結果は、アルカリホスファターゼがpH7.0のトリス−HCl緩衝液中で活性であり、リン酸エステルプロドラッグを親化合物に急速に加水分解することを確認する。
【表9】

は、プロドラッグおよび親について、全ピーク領域と比較したパーセントとして表す
【0040】
実施例10:アルカリホスファターゼは水和したHPMCゲルマトリックス中に浸透し、生物学的活性を保持することが示される。
水和したHPMCポリマーが酵素のゲル層への侵入に対して障壁(barrier)として作用するかどうか調べるために、酵素基質を含むHPMCディスク(Disc)を調製した。5-ブロモ-4-クロロ-3-インドイル二ナトリウム、BCIP(酵素基質)および4-ニトロブルーテトラゾリウムクロライド、NBT(発色試薬)を含むHPMC(粘度4000cP)のコンパクト(compact)を、1mg/mLのアルカリホスファターゼを含むpH7.0のトリス−HCl緩衝液で水和させた。3時間後のゲル内に紫色の沈殿物が見られ、コンパクト中でBCIP基質に対する酵素活性を確認した。このことは、アルカリホスファターゼが溶液からHPMCゲルに侵入することができ、そこで生物学的活性を示すことを立証する。それゆえ、HPMCは薬物に対して拡散障壁として作用することはない。
【0041】
実施例11:リン酸エステルプロドラッグの安定性は、アルカリホスファターゼの存在下において実施例3の水和錠剤中にて示される。
実施例3の錠剤を、ブタアルカリホスファターゼ(1mg/mL)を含むpH7.0のトリス−HCl緩衝液を用いる溶出試験にて用いた。USPタイプ1装置を、100rpmで回転バスケットと共に用いた。実験開始2.5時間および4.5時間後に、錠剤を緩衝液から取り出し、破砕および溶媒抽出にかけてプロドラッグおよび親化合物を解析した。溶出溶媒サンプルもまた解析した。
【0042】
以下の表は、錠剤および緩衝溶液サンプルに由来するプロドラッグおよび親化合物に関するHPLCピーク領域を示す。緩衝溶液サンプル中での親ピーク領域のプロドラッグピーク領域に対する高い比率は、酵素を含む溶液中でのプロドラッグの親化合物への急速な変換を立証する。錠剤からの抽出後における親ピーク領域のプロドラッグピーク領域への極めて低い比率は、プロドラッグの親化合物への実質的な変換が実験期間にわたり水和錠剤中でほとんど生じなかったことを示す。このことは、水和した錠剤中でアルカリホスファターゼが介在する変換からのプロドラッグの保護を裏付ける。
【表10】

は、プロドラッグおよび親について、全ピーク領域と比較したパーセントとして表す。
【0043】
実施例12:リン酸エステルプロドラッグの安定性は、アルカリホスファターゼの存在下において実施例4の水和錠剤中で示される。
実施例4の錠剤を、実施例11に記載されるように、ブタアルカリホスファターゼ(1mg/mL)を含むpH7.0のトリス−HCl緩衝液を用いる溶出試験で用いた。錠剤および溶出溶媒サンプルを実験開始3時間後および7時間後に取り出した。
【0044】
以下の表は、錠剤および緩衝溶液サンプルに由来するプロドラッグおよび親化合物に関するHPLCピーク領域を示す。実施例11と同様に、プロドラッグの親への急速な変換が溶出溶媒中で見られ、プロドラッグの親への実質的な変換が水和錠剤中で見られなかった。このことは、異なる粘度グレードのHPMCを含む製剤およびそれによる異なる粘度の水和ゲル層中でのアルカリホスファターゼからのプロドラッグの保護を立証する。
【表11】

は、プロドラッグおよび親について、全ピーク領域と比較したパーセントとして表す
【0045】
実施例13:実施例4のリン酸エステルプロドラッグの安定性は、局所pH効果に依存しないことが示される。
0.5%の万能指示薬を含むpH7.0のトリス−HCl緩衝液中で行ったインビトロ薬物放出実験は、実施例4の錠剤の水和ゲル層が酸性(およそpH3)であることを示す。酸性pHが酵素を阻害するかどうか確認するために、以下に示すように、錠剤製剤内にて酸性プロドラッグを塩基性トリスで置き換えることによって塩基性の実施例4の錠剤を調製した。pH7.0のトリス−HCl緩衝液で水和させた場合、これらの錠剤は弱い塩基性ゲル層(およそpH8)を有することが示された。このpHは、酵素活性についての許容範囲内であると考えられる。
【表12】

489mgの遊離酸に相当するトリス塩
**600mgの遊離酸に相当するトリス塩
【0046】
塩基性の実施例4の錠剤を、実施例12に記載されるように、ブタアルカリホスファターゼ(1mg/mL)を含むpH7.0のトリス−HCl緩衝液を用いる溶出試験で用いた。錠剤および溶出溶媒サンプルを実験開始3時間後および7時間後に取り出し、解析した。
【0047】
以下の結果は、プロドラッグの親への実質的な変換が塩基性錠剤中で生じていないことを示す。このことは、予想されていたように、ゲル層内でのプロドラッグの安定性がpHによって変化されなかったことを立証する。
【表13】

は、プロドラッグおよび親について、全ピーク領域と比較したパーセントとして表す
【0048】
実施例14:アルカリホスファターゼは、プロドラッグが親化合物に置き換わっている製剤中で活性であることが示される。
酵素活性の阻害がプロドラッグ以外の原薬を含む錠剤中で見られるかどうか調べるために、持続放出製剤中に親薬物および酵素基質であるBCIP/NBTを含む、200mgの重量であるコンパクトを調製した。BCIP/NBTを含ませて製剤中のアルカリホスファターゼ活性を検出した。プロドラッグを含むコンパクトもまた、比較のために調製した。プロドラッグ製剤において、トリスを前記製剤に含ませて酵素活性の許容範囲内までpH(およそpH8)を調整する。これは、pHがすでに許容範囲内であると考えられるときには、親薬物製剤において必要ではない。トリス−HCl緩衝液中で示した酵素活性(実施例9参照)は、トリス自体が酵素阻害剤でないことを強く示唆し、酵素活性に対する直接の影響を与えることが考えられないであろう。
【表14】

【0049】
コンパクトを、1mg/mLのブタアルカリホスファターゼを含むpH7.0のトリス−HCl緩衝液で水和させた。3時間の水和後、親分子を含むコンパクトにてゲル全体に強い青/紫色の発色が観察され、そこでの高いレベルの酵素活性が示された。対照的に、プロドラッグを含むコンパクトにおいて、ごくわずかな発色が観察され、非常に低いレベルの酵素活性が示された。これらの結果は、アルカリホスファターゼが親薬物を含む製剤中で活性であり、プロドラッグを含む製剤中で活性ではないことを確認する。
【0050】
以上を考慮すると、実施例9から14の結果は、HIV結合プロドラッグ分子を含む持続放出製剤内でアルカリホスファターゼ活性の予想外の阻害が生じる複雑なシステムを示唆している。
【0051】
前記明細書は、単に例示であって、本発明の範囲または基本的な原理を決して限定して理解されるべきではない。実際、本発明の様々な改変は、本明細書で示され、記載されるものに加えて、前記明細書および実施例から当業者にとって明らかとなっている。かかる改変はまた、添付の特許請求の範囲に含まれるものとされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HIV結合阻害剤のリン酸エステルプロドラッグ、1-ベンゾイル-4-[2-[4-メトキシ-7-(3-メチル-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)-1-[(ホスホノオキシ)メチル]-1H-ピロロ[2,3-c]ピリジン-3-イル]-1,2-ジオキソエチル]-ピペラジン、および少なくとも約100cPの水和した(hydrated)粘度を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含む医薬組成物であって、ヒトに投与する場合に親化合物の所望の持続吸収を供し、投与後の条件下で製剤内に残存するアルカリホスファターゼに対するプロドラッグの安定性を供するものであって、前記組成物が酵素阻害剤を全く含まないものである医薬組成物
【請求項2】
前記化合物が、約20〜90重量%の量で前記組成物中に存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記化合物が、約50〜85重量%の量で存在する、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
前記化合物が、約60〜75重量%の量で存在する、請求項3記載の組成物。
【請求項5】
前記HPMCが、約10〜50重量%の量で前記組成物中に存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
前記HPMCが、約15〜40重量%の量で存在する、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
前記HPMCが、約20〜30重量%の量で存在する、請求項6記載の組成物。
【請求項8】
前記HPMCが、少なくとも約2000cPの粘度を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
前記HPMCが、少なくとも約3000cPの粘度を有する、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
前記HPMCが、少なくとも約4000cPの粘度を有する、請求項8記載の組成物。
【請求項11】
1種類またはそれ以上のさらなる賦形剤をさらに含む、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
前記さらなる賦形剤が、微結晶性セルロース、二酸化ケイ素およびステアリン酸マグネシウムからなる群から選択される、請求項11記載の組成物。
【請求項13】
前記さらなる賦形剤が、前記組成物の約5〜15重量%の量で存在する、請求項12記載の組成物。
【請求項14】
前記化合物が、錠剤の形態である、請求項1記載の組成物。
【請求項15】
前記HPMCの粘度が、約120000cPを超えるものではない、請求項1記載の組成物。
【請求項16】
前記化合物が、トリス塩の形態である、請求項1記載の組成物。
【請求項17】
化合物1-ベンゾイル-4-[2-[4-メトキシ-7-(3-メチル-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)-1-[(ホスホノオキシ)メチル]-1H-ピロロ[2,3-c]ピリジン-3-イル]-1,2-ジオキソエチル]-ピペラジン、少なくとも約2000cPの粘度を有するHPMC、微結晶性セルロース、二酸化ケイ素およびステアリン酸マグネシウムから本質的になる医薬組成物であって、前記組成物が酵素阻害剤を全く含まないものである医薬組成物。
【請求項18】
前記HPMCが、約4000cPの粘度を有する、請求項17記載の組成物。
【請求項19】
前記化合物が、約60〜70重量%の量で存在する、請求項18記載の組成物。
【請求項20】
HIVによる感染を治療するに有用である請求項1記載の組成物であって、
(a)AIDS抗ウイルス薬;
(b)抗感染薬;
(c)免疫賦活剤;および
(d)その他のHIV侵入阻害剤
からなる群から選択される抗ウイルス有効量のAIDS治療薬をさらに含む、組成物。
【請求項21】
化合物1-ベンゾイル-4-[2-[4-メトキシ-7-(3-メチル-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)-1-[(ホスホノオキシ)メチル]-1H-ピロロ[2,3-c]ピリジン-3-イル]-1,2-ジオキソエチル]-ピペラジン、少なくとも約3000cPの粘度を有するHPMC、微結晶性セルロース、二酸化ケイ素およびステアリン酸マグネシウムから本質的になる医薬組成物であって、前記組成物が酵素阻害剤を全く含まないものであって、さらに、前記組成物中の前記化合物が、酵素アルカリホスファターゼによる加水分解に実質的に抵抗性を示すものである、医薬組成物。
【請求項22】
酵素阻害剤の非存在下において、化合物1-ベンゾイル-4-[2-[4-メトキシ-7-(3-メチル-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)-1-[(ホスホノオキシ)メチル]-1H-ピロロ[2,3-c]ピリジン-3-イル]-1,2-ジオキソエチル]-ピペラジンを、少なくとも約2000cPの粘度を有するHPMCと共に混合することを含む、医薬組成物を製造する方法。
【請求項23】
前記組成物を錠剤中に圧縮する工程をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項24】
HIVウイルスに感染した哺乳動物を治療する方法であって、前記哺乳動物に、抗ウイルス有効量の請求項1記載の組成物を投与することを特徴とする方法。
【請求項25】
前記哺乳動物に、AIDS抗ウイルス薬;抗感染薬;免疫賦活剤;およびその他のHIV侵入阻害剤からなる群から選択される抗ウイルス有効量のAIDS治療薬と組み合わせて、抗ウイルス有効量の前記組成物を投与することを特徴とする、請求項23記載の方法。
【請求項26】
リン酸エステルプロドラッグをアルカリホスファターゼによるインシトゥー加水分解から保護し、プロドラッグの最適なインビボ放出を提供して所望のインビボ薬物動態プロファイルを生じる、新規な持続放出製剤。
【請求項27】
HIV結合阻害剤のリン酸エステルプロドラッグ、1-ベンゾイル-4-[2-[4-メトキシ-7-(3-メチル-1H-1,2,4-トリアゾール-1-イル)-1-[(ホスホノオキシ)メチル]-1H-ピロロ[2,3-c]ピリジン-3-イル]-1,2-ジオキソエチル]-ピペラジン、および少なくとも約100cPの粘度を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)を含む医薬組成物であって、前記組成物が酵素阻害剤を全く含まないものであって、さらに、前記組成物が前記リン酸エステルプロドラッグの親化合物を全く含まないものである、医薬組成物。

【公表番号】特表2012−502042(P2012−502042A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526181(P2011−526181)
【出願日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際出願番号】PCT/US2009/055820
【国際公開番号】WO2010/028108
【国際公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(391015708)ブリストル−マイヤーズ スクイブ カンパニー (494)
【氏名又は名称原語表記】BRISTOL−MYERS SQUIBB COMPANY
【Fターム(参考)】