説明

HIV逆転写酵素により取り込まれ、そして不正確な塩基対合を引き起こすヌクレオシドアナログについてスクリーニングする方法

【課題】ヌクレオシドアナログを、HIV RTによって取り込まれそして不正確な塩基対合を引き起こす能力についてスクリーニングすることに関連した種々の方法、およびそのようなアナログの使用を提供すること
【解決手段】HIVに関係する方法および組成物を開示する。本発明の方法を使用して、ヌクレオシドアナログを、ヒト免疫不全ウイルスの逆転写酵素(「HIVRT」)によって取り込まれる能力および不正確な塩基対合を引き起こす能力についてスクリーニングし得る。このようなヌクレオシドアナログによるこのウイルスの進行性変異は、ウイルスを生存不能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、一般的には、HIV感染個体の治療のためのヌクレオシドアナログを同定するためのアッセイに関する。本発明は、より具体的には、候補のヌクレオシドアナログを、HIV逆転写酵素によって取り込まれそして伸長され、そして不正確な塩基対合を引き起こす能力についてスクリーニングすることに関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
致死的なヒト疾患である後天性免疫不全症候群(「AIDS」)は、一般的に、人類を冒すより深刻な疾患の一つであると考えられ、そして世界中で多くの個体を冒している。この疾患は、アフリカに起源を発し、次いで他の場所(例えば、ヨーロッパ、ハイチおよび米国)に広がったようである。AIDSは、1970年代中頃に別個の新たな疾患として認識され始めた。米国だけで、報告された症例の数は、100,000を超える。感染している人の数は、米国だけで100万人を超えると推定されている。
【0003】
患者に対するAIDSの壊滅的な影響、およびこの疾患が広がっている徴候のために、この疾患の原因を解明および同定する多くの努力がなされてきた。疫学的データは、AIDSが、血液または血液製剤への暴露により伝染する病原体によって引き起こされることを示唆した。最も高い危険性でAIDSに接触すると報告されているグループには、同性愛または両性愛の男性および静脈内薬物常用者が含まれる。何回も輸血をしたドナーおよびレシピエントからプールされた血液製剤を投与される血友病患者もまた、危険である。
【0004】
AIDSは、身体の免疫系を損ない、犠牲者を日和見性感染、悪性腫瘍または(正常な免疫系であれば保護できる)他の病的状態に罹患し易い状態にする疾患である。患者がAIDSの症状を発現した後、一般には、診断の2〜3年以内に死が訪れる。この疾患の最終段階の臨床的徴候には、カポジ肉腫の出現および/または種々の日和見性感染を伴う、患者の免疫防御の崩壊(これには、一般的には、ヘルパーT細胞の涸渇が含まれる)が含まれる。AIDS患者に生じる細胞性免疫の顕著な抑制およびTリンパ球のサブ集団(subpopulation)の量的な改変は、T細胞またはT細胞のサブセットがこの病原体の中心標的であることを示唆する。
【0005】
AIDSおよび関連疾患の病因は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV;以前にはHTLVまたはLAVとして知られていた)と名付けられた新たなクラスのリンパ栄養性レトロウイルスによる感染に関連すると同定された。このウイルスは、感染個体由来の体液(例えば、精液、膣液または血液)が非感染者に受け取られた場合に、広がるようである。上記のように、AIDSは、損傷した細胞性免疫およびリンパ球減少症、特に、T4(CD4)糖タンパク質を発現するT細胞の涸渇に関連した疾患によって特徴づけられる。このことは、HIVがCD4リンパ球集団(CD4細胞)に優先的に感染するという事実による。感染し易い標的細胞へのウイルスの結合と、HIV誘導細胞病理の特徴的徴候である細胞融合とは、両方とも、ウイルスのエンベロープ中の糖タンパク質とCD4細胞の細胞表面との間の特異的な相互作用を含む。
【0006】
HIVは、2つの高度にグリコシル化された外部エンベロープタンパク質であるgp120およびgp41を含む。これらは、ビリオンのグリコシル化された細胞表面レセプター分子への付着を仲介する。これらの糖タンパク質は、env遺伝子によってコードされ、そして前駆体gp160として翻訳される。このgp160が、続いてgp120とgp41とに切断される。gp120は、ヘルパーTリンパ球、マクロファージ、および他の細胞の表面に存在するCD4タンパク質と結合し、従ってウイルス感染の組織特異性を決定する。
【0007】
CD4タンパク質は、約60,000の分子量の糖タンパク質であり、そして成熟胸腺由来(T)リンパ球の細胞膜上で、およびより低い程度ではあるが単球/マクロファージ系統の細胞上で発現される。CD4細胞は、通常、活性化シグナルをB細胞に提供すること、相互(reciprocal)CD8マーカーを有するTリンパ球を細胞傷害性/サプレッサー細胞になるよう誘導すること、および/または主要組織適合性複合体(MHC)クラスII分子を有する標的と相互作用することによって機能するようである。CD4糖タンパク質は、細胞性免疫を仲介することにおいて重要な役割を演じることに加えて、HIVのレセプターとしても働く。種々の提案された治療アプローチは、HIV gp120のT細胞CD4との相互作用を混乱させる試みに基づいている。
【0008】
一旦、HIVが細胞に感染すると、HIVは複製してウイルスのコピー数を増加させる。HIVゲノムの複製は、一連の酵素反応によって進行する。この一連の酵素反応には、2つのウイルスにコードされる酵素である逆転写酵素(「HIV RT」)およびインテグラーゼ、ならびに宿主細胞にコードされるDNAポリメラーゼおよびRNAポリメラーゼが含まれる。HIV RTは、ウイルスRNAをテンプレートとして使用することによって、デオキシリボヌクレオチドを重合し、そしてまた、新たに合成されたマイナス鎖DNAをテンプレートとして使用して二本鎖DNAを作製することによって、DNAポリメラーゼとして作用する。より具体的には、HIV RTは、ウイルスRNAをコピーしてRNA−DNAハイブリッドを生成する。ハイブリッドのRNA鎖は分解し、次いでウイルスのポリメラーゼは、得られた一本鎖DNAをコピーして二本鎖DNAを生成する。二本鎖DNAは宿主細胞のゲノム中に組み込まれる。
【0009】
ウイルスによる宿主生物の侵襲におけるHIV RTの基本的な役割のために、治療アプローチは、HIV RTを阻害する試み、またはウイルスDNAの合成を終結させるヌクレオシドアナログを取り込む試みに基づいている。最も一般的に使用されるHIV RTに対する薬物は、鎖終結剤である。これらの分子は、おそらく、HIV RTによってポリヌクレオチド鎖中に取り込まれるが、続くヌクレオチドの付加工程で伸長され得ない。例えば、アジドチミジン(「AZT」)は、AIDSの処置のために最も一般的に使用される薬物の一つであり、HIV RTに対して指向する。しかし、HIV RTのこれらインヒビターでさえ、HIVの広い遺伝子変化および高い変異速度のために、成功が制限されている。従って、HIVの迅速な進化によって、HIV RTの変異が感染個体において頻繁に生じ、そしてこのウイルスをHIV RTインヒビターに対して抵抗性とする。このことは、従来の処置の重大な欠点である。
【0010】
AZTのような2〜3の薬物が、いくつかのAIDS感染個体の生命を延長するが、現在、AIDSのための治療法は存在しない。治療剤は、AIDS感染のすべての段階について、一旦感染が起こると、このウイルスの作用をブロックするため、および免疫系が損傷された患者において完全な機能を回復させるために必要とされている。AIDSの治療に関して以前に示唆された組成物についての成功が制限されているために、当該分野において、新たな治療法、および新たな治療法において有用であり得る薬物をスクリーニングするための方法に関しての必要性が存在する。本発明はこの必要性を満たし、さらに他の関連の利点を提供する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明は、例えば、以下の手段を提供する。
(項目1)ヒト免疫不全ウイルスの逆転写酵素(HIV RT)によって高い効率で取り込まれそして伸長され、そして不正確な塩基対合を引き起こすヌクレオシドアナログについてスクリーニングする方法であって:
(a)HIV RTによるヌクレオシドアナログの取り込みおよび伸長を測定する工程;および
(b)該アナログの変異原性能力を試験する工程、
を包含する、方法。
(項目2)ヒト免疫不全ウイルスの逆転写酵素(HIV RT)によって高い効率で取り込まれそして伸長され、そして不正確な塩基対合を引き起こすヌクレオシドアナログについてスクリーニングする方法であって:
(a)複数のヌクレオシドアナログをHIV RTによる取り込みについて試験する工程;
(b)該アナログを精製して複数の精製アナログを生成する工程;
(c)HIV RTによる精製アナログの取り込みおよび伸長を測定する工程;および
(d)該精製アナログの変異原性能力を試験する工程、
を包含する、方法。
(項目3)ヒト免疫不全ウイルスの逆転写酵素(HIV RT)によって高い効率で取り込まれそして伸長され、そして不正確な塩基対合を引き起こすヌクレオシドアナログについてスクリーニングする方法であって、該アナログは、哺乳動物DNAポリメラーゼによる取り込みと比較して、HIV RTによって優先的に取り込まれ、該方法は:
(a)HIV RTによるヌクレオシドアナログの取り込みおよび伸長を測定する工程;
(b)該アナログの変異原性能力を試験する工程;
(c)哺乳動物DNAポリメラーゼによる該アナログの取り込みを測定する工程;および
(d)工程(a)および(c)の取り込みを比較して、該アナログがHIV RTによって優先的に取り込まれるかどうかを決定する工程、
を包含する、方法。
(項目4)ヒト免疫不全ウイルスの逆転写酵素(HIV RT)によって高い効率で取り込まれそして伸長され、そして不正確な塩基対合を引き起こすヌクレオシドアナログについてスクリーニングする方法であって、該アナログは、哺乳動物DNAポリメラーゼによる取り込みと比較して、HIV RTによって優先的に取り込まれ、該方法は:
(a)ヌクレオシドアナログの変異原性能力を試験する工程;
(b)HIV RTによる該アナログの伸長を測定する工程;および
(c)HIV RTによる該アナログの取り込みを哺乳動物DNAポリメラーゼによる取り込みと比較して、該アナログがHIV RTによって優先的に取り込まれるかどうかを決定する工程、
を包含する、方法。
(項目5)ヒト免疫不全ウイルスの逆転写酵素(HIV RT)によって高い効率で取り込まれそして伸長され、そして不正確な塩基対合を引き起こすヌクレオシドアナログについてスクリーニングする方法であって、該アナログは、哺乳動物DNAポリメラーゼによる取り込みと比較して、HIV RTによって優先的に取り込まれ、該方法は:
(a)複数のヌクレオシドアナログをHIV RTによる取り込みについて試験する工程;
(b)該アナログを精製して複数の精製アナログを生成する工程;
(c)HIV RTによる精製アナログの取り込みおよび伸長を測定する工程;
(d)該精製アナログの変異原性能力を試験する工程;
(e)哺乳動物DNAポリメラーゼによる該精製アナログの取り込みを測定する工程;および
(f)工程(c)および(e)の取り込みを比較して、該精製アナログがHIV RTによって優先的に取り込まれるかどうかを決定する工程、
を包含する、方法。
(項目6)ヒト免疫不全ウイルスの逆転写酵素(HIV RT)によって高い効率で取り込まれそして伸長され、そして不正確な塩基対合を引き起こすヌクレオシドアナログについてスクリーニングする方法であって、該アナログは、哺乳動物DNAポリメラーゼによる取り込みと比較して、HIV RTによって優先的に取り込まれ、該方法は:
(a)複数のヌクレオシドアナログをHIV RTによる取り込みについて試験する工程;
(b)該アナログを精製して複数の精製アナログを生成する工程;
(c)精製アナログの変異原性能力を試験する工程;
(d)HIV RTによる該アナログの伸長を測定する工程;および
(e)HIV RTによる該精製アナログの取り込みを、哺乳動物DNAポリメラーゼによる取り込みと比較して、該精製アナログがHIV RTによって優先的に取り込まれるかどうかを決定する工程、
を包含する、方法。
(項目7)前記ヌクレオシドアナログの構造を同定する工程をさらに包含する、項目1から6のいずれかに記載の方法。
(項目8)化合物O−イソブチルチミジン。
(項目9)項目8に記載の化合物を、薬学的に受容可能なキャリアまたは希釈剤と組み合わせて含有する組成物。
(項目10)化合物5,6−ジヒドロ−5,6−ジヒドロキシデオキシシチジン。
(項目11)項目10に記載の化合物を、薬学的に受容可能なキャリアまたは希釈剤と組み合わせて含有する組成物。
(項目12)ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の処置のための医薬の製造のためのヌクレオシドアナログの使用であって、該アナログが、HIV逆転写酵素によって高い効率で取り込まれそして伸長され、そして不正確な塩基対合を引き起こす、使用。
(項目13)ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の処置のための医薬の製造のためのヌクレオシドアナログの使用であって、該アナログが、哺乳動物DNAポリメラーゼと比べてHIV逆転写酵素によって高い効率で伸長しそして優先的に取り込まれ、そして不正確な塩基対合を引き起こす、使用。
(項目14)前記ヌクレオシドアナログが、8−ヒドロキシデオキシグアノシン;O−メチルデオキシグアノシン;O−エチルデオキシグアノシン;O−イソプロピルデオキシグアノシン;O−イソブチルデオキシグアノシン;5−ヒドロキシメチルデオキシシチジン;O−メチルチミジン;O−エチルチミジン;O−イソプロピルチミジン;O−イソブチルチミジン;3,N−エテノデオキシシチジン;3,N−エテノデオキシグアノシン;1,N−エテノデオキシアデノシン;8−アミノデオキシグアノシン;5−ヒドロキシデオキシシチジン;または5,6−ジヒドロ−5,6−ジヒドロキシデオキシシチジンである、項目12または13に記載の使用。
【0012】
発明の要旨
AIDSの治療における有効性について化合物をスクリーニングするための当該分野における現在の方法は、主に、HIV RTを阻害する能力またはHIV RTによる取り込みの後のDNA合成を終結させる能力に関する。このような方法の欠点には、上記でまとめたものが含まれる。本発明の方法は、従来型でないアプローチに基づき、このアプローチは、高い効率で改変ヌクレオチドを取り込みそして伸長させるHIV RTの能力を、阻害するというよりむしろ利用する。
【0013】
簡単に述べると、本発明は、ヌクレオシドアナログを、HIV RTによって取り込まれそして不正確な塩基対合を引き起こす能力についてスクリーニングすることに関連した種々の方法、およびそのようなアナログの使用を提供する。1つの局面において、本発明は、HIV RTによって高い効率で取り込まれそして伸長され、そして不正確な塩基対合を引き起こすヌクレオシドアナログについてスクリーニングする方法を提供する。1つの実施態様において、この方法は、(a)HIV RTによるヌクレオシドアナログの取り込みおよび伸長を測定する工程、および(b)このアナログの変異原性能力を試験する工程を包含する。
【0014】
別の実施態様において、この方法は、(a)複数のヌクレオシドアナログをHIV RTによる取り込みについて試験する工程、(b)このアナログを精製して複数の精製アナログを生成する工程、(c)HIV RTによる精製アナログの取り込みおよび伸長を測定する工程、および(d)この精製アナログの変異原性能力を試験する工程を包含する。
【0015】
別の局面において、本発明は、HIV RTによって高い効率で取り込まれそして伸長され、そして不正確な塩基対合を引き起こすヌクレオシドアナログについてスクリーニングする方法を提供する。ここで、このアナログは、哺乳動物DNAポリメラーゼによる取り込みと比較して、HIV RTによって優先的に取り込まれる。1つの実施態様において、この方法は、(a)HIV RTによるヌクレオシドアナログの取り込みおよび伸長を測定する工程、(b)このアナログの変異原性能力を試験する工程、(c)哺乳動物DNAポリメラーゼによるこのアナログの取り込みを測定する工程、および(d)工程(a)および(c)の取り込みを比較してこのアナログがHIV RTによって優先的に取り込まれるかどうかを決定する工程を包含する。
【0016】
別の実施態様において、この方法は、(a)ヌクレオシドアナログの変異原性能力を試験する工程、(b)HIV RTによるこのアナログの伸長を測定する工程、および(c)HIV RTによるこのアナログの取り込みを哺乳動物DNAポリメラーゼによる取り込みと比較して、このアナログがHIV RTによって優先的に取り込まれるかどうかを決定する工程を包含する。
【0017】
別の実施態様において、この方法は、(a)複数のヌクレオシドアナログをHIV RTによる取り込みについて試験する工程、(b)このアナログを精製して複数の精製アナログを生成する工程、(c)HIV RTによる精製アナログの取り込みおよび伸長を測定する工程、(d)この精製アナログの変異原性能力を試験する工程、(e)哺乳動物DNAポリメラーゼによる精製アナログの取り込みを測定する工程、および(f)工程(c)および(e)の取り込みを比較して、この精製アナログがHIV RTによって優先的に取り込まれるかどうかを決定する工程を包含する。
【0018】
別の実施態様において、この方法は、(a)複数のヌクレオシドアナログをHIV RTによる取り込みについて試験する工程、(b)このアナログを精製して複数の精製アナログを生成する工程、(c)精製アナログの変異原性能力を試験する工程、(d)HIV
RTによるこのアナログの伸長を測定する工程、および(e)HIV RTによるこの精製アナログの取り込みを、哺乳動物DNAポリメラーゼによる取り込みと比較して、この精製アナログがHIV RTによって優先的に取り込まれるかどうかを決定する工程を包含する。
【0019】
別の局面において、本発明は、ヌクレオシドアナログであるO−イソブチルチミジンを提供する。組成物は、この化合物を、薬学的に受容可能なキャリアまたは希釈剤と組み合わせて含有する。
【0020】
別の局面において、本発明は、単離されたヌクレオシドアナログである5,6−ジヒドロ−5,6−ジヒドロキシデオキシシチジンを提供する。組成物は、この化合物を、薬学的に受容可能なキャリアまたは希釈剤と組み合わせて含有する。
【0021】
なお別の局面において、本発明は、HIVに感染した個体を処置するための医薬の製造のための特定の性質を有するヌクレオシドアナログの使用を提供する。1つの実施態様において、使用されるヌクレオシドアナログは、HIV逆転写酵素によって高い効率で取り込まれそして伸長され、そして不正確な塩基対合を引き起こすアナログを含有する。別の実施態様において、使用されるヌクレオシドアナログは、哺乳動物DNAポリメラーゼと比べてHIV逆転写酵素によって、高い効率で伸長し、そして優先的に取り込まれ、そして不正確な塩基対合を引き起こすアナログを含有する。
本発明のこれらおよび他の局面は、以下の詳細な説明および添付の図面を参照して明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1は、変異原性ヌクレオシドアナログを含有する混合物を試験するためのプロトコールを図示する。テンプレートは、lacZ遺伝子の361nt gapに及ぶ部分を作出するように、ウラシルを欠く線状不完全相補鎖とアニールした、ウラシル残基を含有する環状M13mp2 DNAである。酸化dCTP誘導体の取り込みをHIV−RTを用いて行った。部分的に二本鎖のDNA産物を精製し、E.coli DNAポリメラーゼ(Pol I)のラージフラグメントを用いて合成を完全にし、そして伸長産物をE.coli(CSH50)中に移した。lacZにおける変異を同定しそして配列決定した。同定は、X−gal,5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルβ−D−ガラクトシドを用いて行う。
【発明を実施するための形態】
【0023】
発明の詳細な説明
上記のように、本発明は、高い効率で改変ヌクレオチドを取り込みそして伸長させるHIV RTの能力を利用する、従来型でなくそしてこれまで利用されていないアプローチに基づく。特に、本発明は、1つの局面において、ヒト免疫不全ウイルスの逆転写酵素(以下、「HIV RT」と呼ぶ)によって高い効率で取り込まれそして伸長され、そして不正確な塩基対合を引き起こすヌクレオシドアナログについてスクリーニングする。このようなアナログは、高頻度で不正確に塩基対合し、これによってHIVの変異速度を増加させる。変異は、ウイルスゲノム全体を通じて誘導され、生存能に必須である部位を含む。一旦生存能の変異閾を越えると、生存ウイルス子孫を生じる可能性は、ウイルス複製の回を経るごとに徐々に小さくなる。その最終結果は、生存不能な変異ウイルスゲノムである。従って、ヌクレオシドアナログは、HIV RTを阻害するかまたはDNA合成に1度だけ取り込まれてそしてDNA合成を終結させるというよりはむしろ、HIV RTによって伸長されるがHIVに対して致死的な変異原性である。
【0024】
本発明に適切なヌクレオシドアナログは、HIV RTによって高い効率で取り込まれそして伸長され、そして不正確な塩基対合を引き起こすヌクレオシドアナログである。本明細書中で使用されるように、用語「ヌクレオシドアナログ」には、ヌクレオシドのアナログおよびその三リン酸エステル(triphosphate)が含まれる。このような化合物の例には、8−ヒドロキシデオキシグアノシン;O−メチルデオキシグアノン;O−エチルデオキシグアノシン;O−イソプロピルデオキシグアノシン;O−イソブチルデオキシグアノシン;5−ヒドロキシメチルデオキシシチジン;O−メチルチミジン;O−エチルチミジン;O−イソプロピルチミジン;3,N−エテノデオキシシチジン;3,N−エテノデオキシグアノシン;1,N−エテノデオキシアデノシン;8−アミノデオキシグアノシン;5−ヒドロキシデオキシシチジン;および5,6−ジヒドロ−5,6−ジヒドロキシデオキシシチジンが含まれる。
【0025】
簡単に述べれば、8−ヒドロキシデオキシグアノシンは、Bodepudiら(Chem.Res.Tox.5:608−617,1992)およびLinら(J.Med.Chem.28:1194−1198,1985)の手順の組み合わせに従って、出発物質として市販の2’−デオキシグアノシンを使用して調製される。O−メチルデオキシグアノシン、O−エチルデオキシグアノシンおよびO−イソプロピルデオキシグアノシンは、Fathiら(Tetrahedron Lett.3:319−322,1990)の手順に従って、出発物質として市販の2’−デオキシグアノシンを使用して調製される。5−ヒドロキシメチルデオキシシチジンはItaharaら(Chem.Lett.1591−1594,1991)の手順に基づいて、出発物質として市販の5−メチル−2’−デオキシシチジンを用いて調製される。O−メチルチミジン、O−エチルチミジンおよびO−イソプロピルチミジンは、Xuら(Nucleic Acids Res.18:4061−4065,1990)の手順に従って、出発物質として市販のチミジンを使用して調製する。3,N−エテノデオキシシチジンは、Eberleら(Carcinogenesis 10:2751−2756,1989)の手順に従って、出発物質として市販の2’−デオキシシチジンを使用して調製する。3,N−エテノデオキシグアノシンは、Kusmierekら(Chem.Res.Toxicol.5:634−638,1992)の手順に従って、出発物質として市販の2’−デオキシグアノシンを使用して調製する。1,N−エテノデオキシアデノシンは、市販されている。8−アミノデオキシグアノシンは、Longら(J.Org.Chem.32:2751−2756,1967)の手順に従って、出発物質として市販の2’−デオキシグアノシンを使用して調製される。5−ヒドロキシデオキシシチジンは、Eatonら(Biochim.Biophys.Acta 319:281−287,1973)の手順に基づいて、出発物質として市販の2’−デオキシシチジンを使用して調製される。5,6−ジヒドロ−5,6−ジヒドロキシデオキシシチジンは、Basuら(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:7677−7681,1989)の手順に基づいて、出発物質として市販のチミジンを用いて調製される。
【0026】
さらに、適切な性質(すなわち、高い効率でHIV RTによって取り込まれそして伸長され、そして不正確な塩基対合を引き起こす能力)を有する誘導体もまた、本発明内で適切である。誘導体の例には、メチル基またはエチル基のブチル基との置換が含まれる。O−イソブチルチミジンは、そのような誘導体の例である。この化合物は、メタノールをイソブチルアルコールと取り替えることを除いて、O−メチルチミジンに関するXuら(Nucleic Acids Res.18:4061−4065,1990)の手順に基づいて調製される。
【0027】
デオキシヌクレオシドアナログの三リン酸(triphosphate)レベルへのリン酸化は、ホスホリルトランスフェラーゼ反応を使用する一リン酸レベルへの酵素的リン酸化と、次いで5’−三リン酸を形成するための一リン酸の化学的変換との組み合わせによって実施される。酵素的リン酸化は、粗小麦シュート抽出物をホスホトランスフェラーゼ活性として使用して実施される(GiziewiczおよびShugar,Acta Biochim.Pol.22:87−98,1975;Sugar,Molecular Aspects of Chemotherapy,Springler−Verlag,1991,pp.240−270)。例えば、このアプローチは、Singer(Biochemistry 28:1478−1483)によるO−アルキルチミジンのリン酸化のために使用されてきた。ヒト末梢赤血球溶解物は、ホスホトランスフェラーゼ活性のための別の供給源として使用され得る。あるいは、リン酸化は、BlackおよびLoeb(Biochmistry 32:11618−11626,1993)により記載されるように、ヘルペスウイルスチミジンキナーゼまたはこれに由来する変異体によって実施され得る。ヘルペスチミジンキナーゼは広い基質特異性を有し、そして種々のヌクレオシドアナログをリン酸化する。得られるデオキシヌクレオシド一リン酸は、高速液体クロマトグラフィーによって精製される。
【0028】
5’−デオキシヌクレオシド一リン酸アナログの、この三リン酸への変換は、HoardおよびOtt(J.Am.Chem.Soc.87:1785−1788,1965)の手順による。2mlのジメチルホルムアミド中の、無水トリブチルアンモニウム塩としての0.1mmolのデオキシヌクレオシド5’−一リン酸の溶液に、0.5mmolの1,1’−カルボニルジイミダゾールを加える。この混合物を、4時間24℃にてインキュベートし、そして0.8mmolのメタノールで処理する。5mlのDMF中のピロリン酸トリブチルアンモニウム(0.5mmol)を加え、そして沈澱したピロリン酸イミダゾリウムを遠心分離によって除去する。上清を等量のメタノールで処理し、エバポレートして乾燥させ、DEAE−セルロースでクロマトグラフし、そしてpH7.5の重炭酸トリエチルアンモニウムの勾配によって溶出する。重炭酸トリエチルアンモニウムを、エタノールでのエバポレーションによる反応の生成物から除去する。
【0029】
本発明は、HIV RTによって高い効率で取り込まれそして伸長され、そして不正確な塩基対合を引き起こすヌクレオシドアナログについてスクリーニングする方法を提供する。簡単に述べると、HIV RTによる三リン酸形態のヌクレオシドアナログの取り込みは、4種全ての塩基を含む天然のRNAテンプレートを使用して測定し得る。反応混合物は、3つの相補的デオキシヌクレオシド三リン酸を含有する。その1つは、トリチウムまたはα−32Pのようなアイソトープで標識される。省かれる(ommited)デオキシヌクレオチド基質は、アナログ中で改変された塩基に対応する。標識されたヌクレオチドの任意の広範な取り込みは、HIV RTによるこのアナログの取り込みおよび伸長に依存する。新たに合成されたDNA中に取り込まれるこのアナログの能力は、基質濃度の関数として、対応する天然のデオキシヌクレオシド三リン酸のこの能力と直接比較される。このアナログの取り込みは、相補的デオキシヌクレオチドの取り込みパーセントとして表現される。本明細書中で使用されるように、高い効率でのHIV RTによる取り込みおよび伸長は、天然の相補的デオキシヌクレオチド三リン酸で達成される取り込みおよび伸長の1%に等しいかまたはそれ以上を意味する。
【0030】
不正確な塩基対合を引き起こすアナログの能力は、このアナログの変異原性能力を試験することによって測定され得る。例えば、アナログの変異原性能力は、アナログのギャップ化DNA(gapped DNA)への取り込みによって作製される変異の頻度およびスペクトルを検査することによって試験され得る。簡単に述べると、ギャップ化DNAが、M13mp2 DNA中のlacZ遺伝子の部分にわたるギャップからなる場合、変異は、β−ガラクトシダーゼ活性のα−相補性(α−complementation)の減少によって同定され得る。ギャップ化DNAは、Kunkel(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:1494−1498,1984)の方法によって、FeigおよびLoeb(Biochem.32:4466−4473,1993)によって改変されたように、調製される。テンプレートはウラシルを含有するM13mp2であり、そしてギャップはlacZ調節領域とコード配列の5’側の145塩基とにわたる361ヌクレオチドの標的配列の反対側にある。取り込みは、3つの相補的デオキシヌクレオシド三リン酸および指定されたデオキシヌクレオシド三リン酸アナログを用いてHIV
RTを使用して実施される。必要であれば、さらなる伸長は、E.coli DNAポリメラーゼIを用いて、そして欠失する相補的デオキシヌクレオシド三リン酸の付加を用いて実施される。二本鎖DNA産物は、MC1061細胞中にトランスフェクトされる。ウラシル含有鎖は、ウラシルグリコシラーゼおよびアプリン酸エンドヌクレアーゼによって迅速に加水分解され、そして得られるファージは、このアナログを含有するテンプレート鎖からインビボで作製される。変異体ファージプラークは、IPTGとのインキュベーションの後、淡青色であるかまたは無色である。作製されたこのタイプの変異は、ファージDNAの単離、そしてSanger(J.Mol.Biol.125:225−246,1978)の方法によって、lacZαコード配列の+179〜+194セグメントに相補的な15マーオリゴヌクレオチドプライマーを使用して、ギャップに対応するヌクレオチドセグメントを配列決定することによって決定され得る。ヌクレオシドアナログがAIDSの処置において効果的であるためには、それが、インビトロアッセイにおいて変異原性であることが必要である。インビトロアッセイにおいて取り込まれるヌクレオチド残基あたり誤って取り込まれる頻度は、等量の対応する相補的デオキシヌクレオシド三リン酸を使用して観察される頻度より3倍またはそれ以上であるはずである。
【0031】
本発明のスクリーニング方法は、1つのアナログあるいは2つまたはそれ以上のアナログを含有する混合物を用いて使用され得る。混合物を、適切な取り込み/伸長および変異原性の性質を有するアナログの存在についてスクリーニングすることが望まれる場合、代表的には、混合物またはその一部が、HIV RTによる取り込みについて試験される。混合物におけるアナログの精製は、例えば、ギャップ化DNAへの取り込みを、上記のように、測定することによってモニターされ得る。精製技術は当業者に周知であり、そしてイオン交換樹脂または逆相カラムを使用するHPLCのようなクロマトグラフィーを含む。一旦、アナログを精製すると、化学構造を同定することが望まれ得る。化学構造を決定することへのアプローチは、HPLC、UV分光法、および質量分析の組み合わせ(例えば、Woodら、Biochem.29:7024−7032,1990)を使用することである。質量分析のためには、サンプルは、無機塩から分離され(例えば、逆相HPLCによって)、トリエチルアンモニウム塩に転換され、ギ酸中で加水分解され、トリメチルシリル誘導体に転換され、そして確立された方法(例えば、Dizdaroglu、J.Chromatogr.295:103−121,1984;Gajewskiら、Biochem.29:7876−7882,1990)を使用するガスクロマトグラフィー/質量分析によって分析され得る。
【0032】
本発明の方法は、HIV RTによって高い効率で取り込まれそして伸長され、そして不正確な塩基対合を引き起こす能力に加えて性質を有するアナログについてスクリーニングするために変化させ得る。例えば、哺乳動物DNAポリメラーゼによる取り込みと比べてHIV RTによってまた優先的に取り込まれ、そしてヒトDNA修復酵素によって修復されないアナログについてスクリーニングすることが望まれ得る。宿主ゲノムは、細胞区画化による(すなわち、HIV RT転写が、核およびミトコンドリア中の宿主DNAから物理的に単離される宿主細胞細胞質において生じる)および宿主のDNA修復系によるアナログからの保護を有するが、にもかかわらず、哺乳動物DNAポリメラーゼに対してHIV RTにより優先的に取り込まれるアナログについて選択することにより、さらに保護されることが望まれ得る。
【0033】
HIV RTによるアナログの取り込みと哺乳動物DNAポリメラーゼによるアナログの取り込みとは、直接または別々に比較され得、そして別個の試験結果は続いて比較され得る。簡単に述べると、HIV RTとDNAポリメラーゼとの間のアナログの取り込みの比較は、ヌクレオチド取り込みのための「マイナス(minus)」配列決定ゲルアッセイの改変型を使用して実施され得る。5’−32P標識プライマーは、4種のデオキシヌクレオシド三リン酸のうちの3種および三リン酸形態のアナログを含有する反応物中において伸長される。テンプレートはRNAまたはDNAのいずれかであり得る。反応物から省かれるヌクレオチドに相補的なテンプレートヌクレオチドを越えるプライマーの伸長は、アナログの取り込みに依存し、そしてこれに比例する。このアナログの取り込みの量は、ある位置から次の位置への配列決定ゲル上で伸長されるオリゴヌクレオチドの割合の関数として計算される。取り込みは、オートラジオグラフィー、続いて各バンドのデンシトメトリーまたは切り取りのいずれか、および液体シンチレーション分光法により放射能を計数することによって測定される。本明細書中で使用されるように、哺乳動物DNAポリメラーゼによる取り込みと比較して、HIV RTによるアナログの取り込みが優先的であるとは、RNAまたはDNAテンプレートのいずれかを使用して任意の哺乳動物DNAポリメラーゼで達成される取り込みに対して2倍以上であることを意味する。
【0034】
本明細書中で提供されるスクリーニング方法の工程が実施される順序が、容易に変化され得ることは、当業者に明らかである。例えば、アナログの変異原性能力は、HIV RTによる取り込みまたは伸長を測定する前またはこれに続いて試験され得る。
【0035】
本発明は、別の局面において、HIVに感染した個体を処置するための医薬の製造に適切なヌクレオシドアナログの使用を提供する。適切なヌクレオシドアナログは、HIV RTによって高い効率で取り込まれそして伸長され、そして不正確な塩基対合を引き起こすものである。アナログは、さらなる性質を有し得、これは、例えば、哺乳動物DNAポリメラーゼによる取り込みと比較して、HIV RTによる取り込みが優先的であることである。本発明のこの局面では、ヌクレオシドアナログは、好ましくは、三リン酸形態よりむしろ非リン酸化形態である。非リン酸化ヌクレオシドアナログは、対応する三リン酸形態より容易に細胞の膜を横切って細胞質中へ移動し得る。一旦、細胞の細胞質中に入ると、非リン酸化アナログは、内在性キナーゼによって三リン酸形態に転換される。次いで、三リン酸形態のヌクレオシドアナログは、HIV RTによる取り込みおよび伸長に利用され得る。
【0036】
アナログは、単独、あるいは他のアナログまたは他の治療剤(例えば、他のメカニズムによって作働する化学療法剤または免疫療法剤)と組み合わせて、使用され得るかまたは処方され得る。種々の送達経路が使用され得る。代表的には、送達は、注射によるか、経口的か、または経皮的である。別のアナログおよび/または治療剤が使用される場合、送達は同時であるかまたは連続的であり得る。特定のアナログの正確な最適な量は、アナログおよび個体に依存して変化し得る。しかし、一般的には、アナログの治療有効量は、約0.1mg/kg体重から約1mg/kg体重までである。特定のアナログの最適有効量を決定する方法、および送達の数および頻度は個体の応答に依存することは、当業者に明らかである。アナログは、一般的には、送達のために薬学的に受容可能な形態に処方され、そしてこの形態がアナログの物理化学的性質および血流への吸着または吸収の経路に依存し得ることは、当業者に明らかである。適切なキャリアまたは希釈剤には、注射のための生理食塩水が含まれる。
【0037】
以下の実施例は例示のために提供され、そして限定のために提供されるのではない。
【実施例】
【0038】
実施例I)
(ヌクレオシドアナログの調製)
A.8−ヒドロキシデオキシグアノシン
8−ヒドロキシデオキシグアノシン(7,8−ジヒドロ−8−オキソデオキシグアノシンまたは8−オキソデオキシグアノシンとしても知られる)を、Bodepudiら(Chem.Res.Tox.5:608−617,1992)の公開された手順とLinら(J.Med.Chem.28:1194−1198,1985)の公開された手順との組み合わせに従って合成する。Bodepudiらによって記載されるように、30mLの水中の2’−デオキシグアノシン(5.0g、19.0mmol、Sigma Chemical Company(St.Louis,MO)から入手可能)の冷却(0℃)溶液に、臭素−水の飽和溶液(120mL)を、この懸濁液が不透明になり、そして黄色が維持されるまで、滴下して加える。沈澱した8−ブロモデオキシグアノシンを、濾過によって除去し、冷水、続いてアセトンで洗浄する。次いで、この固体を、重炭酸ナトリウムを含有するメタノール−水から再結晶化させ、8−ヒドロキシデオキシグアノシンを生成する。
【0039】
200mLのジメチルスルホキシド(DMSO)を、ナトリウムベンゾイレート(ベンジルアルコール(75mL)およびナトリウム(2.14g)から作製)の調製したばかりの溶液に、アルゴン雰囲気下で加える。DMSO(80mL)中の8−ブロモデオキシグアノシン(10g、29mmol)を、得られる混合物に加えて、そして反応物を65℃に24時間加熱する。室温まで冷却した後、反応混合物を氷酢酸で中和し、そしてDMSOを65℃での減圧蒸留によって除去する。残りの溶液を、撹拌しながらエーテル中に注ぐ。エーテルをデカントした後に残る油状残渣をアセトンに加え、そして得られる白色沈澱を濾過によって除去する。水で撹拌後、スラリーを濾過し、そして回収した白色固体をメタノールから再結晶化して、8−(ベンジルオキシ)−2’−デオキシグアノシンを得る。
【0040】
この合成の最終段階は、Linら(J.Med.Chem.28:1194−1198,1985)の公開された手順に従って行う。メタノール(8mL)と水(8mL)との混合物中の8−(ベンジルオキシ)−2’−デオキシグアノシン(0.20g、0.54mmol)の溶液を、50psiおよび室温にて18時間、10%パラジウムカーボン(0.3g)上で水素化する。触媒を濾過によって除去し、そして溶媒をエバポレートして乾燥し、8−ヒドロキシデオキシグアノシンを生成する。
【0041】
B.−メチルデオキシグアノシン、O−エチルデオキシグアノシンおよびO−イソプロピルデオキシグアノシン
−メチルデオキシグアノシン、O−エチルデオキシグアノシンおよびO−イソプロピルデオキシグアノシンを、Fathiら(Tetrahedron Lett.31:319−322,1990)の公開された手順に従って合成する。トリフルオロ酢酸無水物(2.3mL、16mmol)を、ピリジン(10mL)中の2’−デオキシグアノシン(2mmol、Sigma Chemical Companyから入手可能)の冷却した(0℃)溶液に加える。10分後、300mLの適切なアルコール中の適切なアルコシキド(4.3g)(O−メチルデオキシグアノシンについては、メタノール中のナトリウムメトキシド、O−エチルデオキシグアノシンについては、エタノール中のナトリウムエトキシド、O−イソプロピルデオキシグアノシンについては、イソプロピルアルコール中のナトリウムイソプロポキシド)を滴下して加え、そして反応混合物を24時間(またはエチル誘導体に関しては60時間、およびイソプロピル誘導体に関しては2日間)撹拌する。反応物を、ピリジニウムヒドロクロライドの溶液(12mLのピリジンおよび4mLの塩酸から作製)でクエンチし、そして過剰な酸を重炭酸ナトリウム(2g)で破壊する。次いで、この混合物をエバポレートして乾燥させ、水中に再懸濁し、そして水中2%〜5%のアセトニトリルの勾配を使用するDynamax(Rainin Instrument Co.)逆相HPLCカラムで45分間にわたって精製して、上記で使用する特定のアルコキシドに依存して、O−メチルデオキシグアノシン、O−エチルデオキシグアノシンまたはO−イソプロピルデオキシグアノシンを生成する。
【0042】
C.5−ヒドロキシメチルデオキシシチジン
5−ヒドロキシメチルデオキシシチジンを、Itaharaら(Chem.Lett.1591−1594,1991)の公開された手順に従って合成する。100mLのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)中の5−メチル−2’−デオキシシチジン(0.5mmol、Sigma Chemical Companyから入手可能)にNa(0.5mmol)を加え、そして反応混合物をアルゴン下で75℃にて4時間撹拌する。次いで、反応混合物を濃縮し、そして粗5−ヒドロキシメチルデオキシシチジンを、0.05Mリン酸ナトリウム(pH7.0)での溶出および適切な画分のエバポレーションによって、LiChroprep逆相HPLCカラムで精製する。
【0043】
D.−メチルチミジン、O−エチルチミジンおよびO−イソプロピルチミジン
−メチルチミジン、O−エチルチミジンおよびO−イソプロピルチミジンを、Xuら(Nucleic Acids Res.18:4061−4065,1990)の公開された手順に従って合成する。t−ブチルジメチルシリルクロライドを、チミジン(12.1g、50mmol、Sigma Chemical Companyから購入)、イミダゾール(10.2g、150mmol)、およびジメチルホルムアミド(100mL)の溶液に室温で加える。3時間後、この溶液を濃縮し、そして残渣をエーテル中に溶解し、そして飽和塩化ナトリウム水溶液で2回洗浄する。有機層を分離し、乾燥させ(NaSO)、そしてエバポレートして、3’,5’−O−ジ−t−ブチルジメチルシリルチミジンを生成する。
【0044】
無水アセトニトリル(300mL、CHCN)中の1,2,4−トリアゾール(25.6g、370mmol)の冷却した(0℃)懸濁液に、ホスホリルクロライド(3mL)を加え、続いてトリエチルアミン(60mL)を加える。1時間後、100mLのCHCN中の3’,5’−O−ジ−t−ブチルジメチルシリルチミジン(11.75g、25mmol)を30分かけて加え、そしてこの溶液を16時間撹拌する。次いで、この反応混合物を濾過し、酢酸エチルで希釈し、そして重炭酸ナトリウムで洗浄する。有機層を乾燥させ(NaSO)、濾過し、そして溶媒をエバポレートして、3’,5’−O−t−ブチルジメチルシリル−4−(1,2,4−トリアゾロ)チミジンを生成する。
【0045】
40mLのジメチルホルムアミド中の3’,5’−O−t−ブチルジメチルシリル−4−(1,2,4−トリアゾロ)チミジン(5.11g、10mmol)の冷却した(0℃)溶液に、3mLの適切なアルコール(メタノール、エタノールまたはイソプロパノール)および1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク(undec)−7−エン(2.5mL)を加える。この溶液を室温まで加温し、次いでメタノールに関してはさらに3時間、あるいはエタノールまたはイソプロパノールに関しては一晩撹拌する。KHPOでのこの溶液の中和後、生成物をクロロホルム中に抽出し、飽和NaClで洗浄し、NaSO上で乾燥させ、そして濾過する。濾液を濃縮し、残渣を、テトラヒドロフラン中のテトラブチルアンモニウムフルオライドで処理する。反応を1時間で終了し、そして反応混合物を、クロロホルム中の2%メタノールで溶出するシリカゲル上でのカラムクロマトグラフィーによって精製する。適切な画分のエバポレーション後、次いで、所望の生成物(上記で反応させる特定のアルコールに依存して、O−メチルチミジン、O−エチルチミジンまたはO−イソプロピルチミジン)を、酢酸エチル中の5%メタノールから再結晶化する。
【0046】
E.−イソブチルチミジン
−イソブチルチミジンを、Xuら(Nucleic Acids Res.18:4061−4065,1990)の公開された手順と同様の様式で、上記のD節で記載したように、3’,5’−O−t−ブチルジメチルシリル−4−(1,2,4−トリアゾロ)チミジンから出発して合成する。ジメチルホルムアミド(40mL)中の3’,5’−O−t−ブチルジメチルシリル−4−(1,2,4−トリアゾロ)チミジン(5.11g、10mmol)の冷却した(0℃)溶液に、イソブチルアルコール(3mL)および1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデク−7−エン(2.5mL)を加える。この溶液を室温まで加温し、次いで、反応が終了するまで撹拌する。KHSOでの溶液の中和後、生成物をクロロホルム中に抽出し、飽和NaClで洗浄し、NaSO上で乾燥させ、そして濾過する。濾液を濃縮し、そして残渣を、テトラヒドロフラン中のテトラブチルアンモニウムフルオライドで処理する。反応を約1時間で終了し、そしてシリカゲル上でのカラムクロマトグラフィーによる精製後、所望の0−イソブチルチミジンを生成する。
【0047】
F.3,N−エテノデオキシシチジン
3,N−エテノデオキシシチジンを、Eberleら(Carcinogenesis 10:2751−2756,1989)の公開された手順に従って合成する。0.4mLのDMSO中の2’−デオキシシチジン(8mg、Sigma Chemical Companyから入手可能)に、0.04mLの45%クロロアセトアルデヒド水溶液を加え、そして反応混合物を1時間70℃にて撹拌する。次いで、反応混合物をエバポレートして乾燥させ、そして得られる残渣を、Nucleosil C18カラム(Altech)での逆相HPLCによって精製して、3,N−エテノデオキシシチジンを生成する。
【0048】
G.3,N−エテノデオキシグアノシン
3,N−エテノデオキシグアノシンを、Kusmierekら(Chem.Res.Tox.5:634−638,1992)の公開された手順に従って合成する。5mLのDMF中の2’−デオキシグアノシン(0.3g、1.5mmol、Sigma Chemical Companyから入手可能)および炭酸カリウム(0.21g、1.5mmol)の懸濁液に、0.25mLの45%クロロアセトアルデヒド水溶液を加える。12時間後、反応混合物を水で希釈し、そしてDowex 1×2(200/400、HCO型)イオン交換カラムで、50%メタノール水溶液中の0〜0.5M NHHCOの2リットルの線形勾配で溶出して精製する。適切な画分のエバポレーションにより3,N−エテノデオキシグアノシンを得る。
【0049】
H.1,N−エテノデオキシアデノシン
1,N−エテノデオキシアデノシンは、Sigma Chemical Companyから入手可能である。
【0050】
I.8−アミノデオキシグアノシン
8−アミノデオキシグアノシンを、Longら(J.Org.Chem.32:2751−2756,1967)の公開された手順に従って合成する。25mLの水中の2’−デオキシグアノシン(5.0g、Sigma Chemical Companyから入手可能)の冷却した(0℃)溶液に、臭素−水の飽和溶液を、この懸濁液が不透明になり、そして黄色が維持されるまで、滴下して加える。沈澱した8−ブロモデオキシグアノシンを濾過によって除去し、そして冷水、続いてアセトンで洗浄する。次いで、固体を、重炭酸ナトリウムを含有するメタノール−水から再結晶化させて、8−ブロモデオキシグアノシンを生成する。
【0051】
ヒドラジンを、水:メタノール(150mL,1:2)中の8−ブロモデオキシグアノシンの懸濁液に加え、そして得られる溶液を、還流で24時間加熱する。得られる沈澱物を濾過によって除去し、そして濾液をエバポレートして固体を得る。エタノールからのエバポレーションを繰り返した後、生成物をメタノールから再結晶化させる。精製8−アジド−2’−デオキシグアノシン(1.3g)を、メタノール:水(160mL,5:3)の混合物中に溶解し、ラニーニッケル(10.0g)を加え、そしてこの混合物を還流で18時間加熱する。触媒を、セライトを経る濾過によって除去し、そして水およびメタノールでの洗浄後、濾液をエバポレートして乾燥させる。得られる固体をメタノールから再結晶化して、8−アミノデオキシグアノシンを生成する。
【0052】
J.5−ヒドロキシデオキシシチジン
5−ヒドロキシデオキシシチジンを、5−ヒドロキシデオキシシチジン−3’,5’−二リン酸のためのEatonら(Biochim.Biophys.Acta 319:281−287,1973)の公開された手順と同様の方式に従って合成する。臭素を、水中の2’−デオキシシチジン(Sigma Chemical Companyから入手可能)の冷却した(0℃)溶液に、黄色が維持されるまで加える。過剰の臭素をシクロヘキセンでクエンチし、そして2,4,6−コリジンを加える。2時間後、反応混合物をエーテルで洗浄し、そして減圧下でエバポレートして乾燥させる。次いで、粗5−ヒドロキシデオキシシチジンを、Ultrasphere C18カラム(Phenomenex)での逆相HPLCによって、A中の0%〜20%B(溶媒A:0.1M NHOAc、溶媒B:0.1M NHOAc中の50%CHCN)の線形勾配を使用して精製する。
【0053】
K.5,6−ジヒドロ−5,6−ジヒドロキシデオキシシチジン(シチジングリコール)
デオキシヌクレオシドであるシチジングリコールを、チミジングリコールの合成のためのBasuら(Proc.Natl.Acad.Sci.86:7677−7681,1989)の公開された手順に基づいて合成する。チミジン(Sigma Chemical Companyから入手可能)に、37℃にて、pH8.6のオスミウムテトロキシドを加える。この溶液を10分間インキュベートする。過剰のオスミウムテトロキシドをエーテルで抽出し、そして粗反応混合物を、Ultrasphere C18カラムでの逆相HPLCによって、A中の0%〜20%B(溶媒A:0.1M NHOAc、溶媒B:0.1M NHOAc中の50%CHCN)の線形勾配を使用して精製する。
【0054】
(実施例II)
(HIV RTによって取り込まれそして伸長され、そして不正確な塩基対合を生じるヌクレオシドアナログのスクリーニング)
A.アナログの混合物のHIV RTによる取り込みについての試験
dCTPの酸化誘導体の精製を、ギャップ化DNAへの取り込みを測定することによってモニターする。ギャップ化DNAは、ウラシルを含有しない直鎖状不完全相補鎖にアニールした、ウラシル残基を含有する一本鎖環状M13mp2 DNAからなり、その結果lacZ遺伝子の部分にわたる361−ntのギャップを生じる(FeigおよびLoeb,Biochemistry 32:4466−73,1993に記載のように調製した)。反応混合物(0.02 ml)は以下を含有する:200 ngのギャップ化DNA、60 mM Tris−HCl (pH8.0)、10 mM KCl、7mM MgCl、1mMジチオスレイトール、0.5 mM EDTA、200μM(各々)dATP、dGTP、およびTTP、1μM [α−32P]dCTP、または改変dCTP(692 cpm/pmol)、ならびに1.25単位の組換えHIV−RT(Prestonら、Science 242:1168−1171,1988)(1単位は、1時間37℃で、1nmolのdNTPのDNAへの取り込みを触媒するために必要な酵素の量である)。この反応物におけるヌクレオチドの偏りは、lacZα遺伝子中のグアノシンの反対の部位での、改変シトシンのみの取り込みを強制する。サンプルをフェノールおよびクロロホルム/イソアミルアルコール(24:1)でそれぞれ1回抽出し、その後400 mM NaClおよび10μgのグリコーゲン(共沈剤として)の存在下でエタノール沈殿を行う。サンプルをHO中に再懸濁し、そしてギャップフィリング(gap−filling)合成を、E.coli DNAポリメラーゼI、ラージフラグメント(pol−1lf)を用いて、HIV−RTを用いる反応由来のDNA、50 mM Tris pH 7.8、10 mM MgCl、200μM(各々)dATP、dCTP、dGTPおよびTTP、ならびに5単位のpol−1lfを含有する20μlの反応物中で、完成させた。反応物を37℃で45分間インキュベートし、そして80μlの25 mM EDTAの添加により停止し、そして酸不溶性沈殿への取り込みを測定する(FeigおよびLoeb,Biochemistry 32,4466−73,1993)。
【0055】
B.dCTPアナログの混合物の作製および精製
dCTPの酸化を、以下を含有する200μlの反応物中で実施する:5.4 mM [α−32P]dCTP(692cpm/pmol dCTP)、10 mM Tris−HCl(pH7.5)、750μM FeSO、15 mM H、および1.5 mMアスコルビン酸。サンプルを1.7 mlチューブ中で37℃で40分間インキュベートする。反応を5μlの100 mMデフェロキサミン(キレート剤)の添加により停止し、そしてこの混合物を直ちに50 mM酢酸トリエチルアンモニウム、pH 7.0で平衡化したBeckman ODS、逆相HPLCカラム(4.6×250 mm)にロードする。ヌクレオチドを15 mlの酢酸トリエチルアンモニウムで溶出し、その後1ml/分の一定流速で45 mlの0%〜25%アセトニトリルの直線45 ml勾配を行う。60の1ml画分を採集し、そして254 nmでのUV吸光度について(HPLC UV吸光度検出器により測定する)、放射能について、およびHIV逆転写酵素によるギャップ化DNAへの取り込みについてスクリーニングする。最も効率的にDNAに取り込まれ、そして非損傷dCTPから十分に分離した画分をプールし、そして凍結乾燥する。C18カラム由来の凍結乾燥画分を、125 mM KHPO/125 mM KCl pH4.4中に再懸濁し、そして125 mM KHPO/125 mM KCl pH4.4中で平衡化したWhatman Partisil 10 SAX HPLCカラム(4.6×250 mm)にロードする。125 mM KHPO/125 mM KCl pH4.4の無勾配移動相を、2ml/分の流速で流す。150の1ml画分を採集し、そして放射能およびギャップ化DNAへの取り込みについてスクリーニングする。
【0056】
カラム画分をdCTPの代わりにDNA合成反応のために使用する。DNAテンプレートは、細菌βガラクトシダーゼのlacZ遺伝子の部分にわたる361−nt一本鎖ギャップを有する二本鎖M13mp2分子である。ウラシル含有鎖は、E.coli中のトランスフェクションの際に迅速に加水分解され、その結果ウラシルを含有しない鎖の10倍の優先的な発現を生じ、そしてウラシルを含有しない鎖に取り込まれた改変シチジンの修復を防止する。DNA合成を、HIV RTにより、200μM dATP、dGTPおよびTTPならびに1μMの逆相カラム由来の各画分の存在下で触媒する。部分的二本鎖DNA産物を精製し、そしてギャップフィリング合成をE.coli DNAポリメラーゼIのクレノウフラグメントを使用して完成する。酸化シトシン誘導体の取り込みをシンチレーションカウンターで定量し、そして画分の毒性を、改変ヌクレオチドを含有する画分を用いることにより合成されるDNAのトランスフェクション効率を、同じカラムに通したdCTPを用いて合成したDNAのトランスフェクション効率と比較することにより評価する。各画分の変異原性を、βガラクトシダーゼのlacZ遺伝子中の正方向の変異を記録することにより測定する(Kunkel,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:1494−1498,1984)。
【0057】
逆相カラムを用いると、全ての32P含有種がDNAに取り込まれるわけではない。これはおそらく、これらがもうHIV−RTの基質ではないからである。dCTPおよびdUTPは、逆相カラムからそれぞれ画分29〜31および34〜35に溶出する。画分12〜14は高度に変異原性であり、そして非損傷ヌクレオチドを含有しない。画分12〜14を合わせ、強アニオン交換(SAX)カラムにロードし、そして6つの種α、β、γ、δ、ε、ζを分離する。化合物γおよびεは、HIV−RTによりdCTPについての効率の約56%および27%の効率でDNAに取り込まれる。いずれの種も哺乳動物DNAポリメラーゼαによっては認められるほどに取り込まれず、そしてγのみが哺乳動物DNAポリメラーゼβの基質である(dCTPに比較して18%)。
【0058】
γの精製における連続的な工程由来の画分を、TLCにより分析した。シチジンに対する酸化的損傷は、40を超える改変ヌクレオチド種を生じ得る。逆相工程は、γ種を大部分のその他の産物から分離し、そして強アニオン交換カラムがこれをさらに精製する。
【0059】
C.変異原性能力試験
dCTPの酸化誘導体のギャップ化DNAへの取り込みにより生成された変異を、βガラクトシダーゼ活性の減少したα相補性により同定する。対数期のMC1061 [hsdR、mcrR、araD、(139Δ−araABC−leu)7679ΔlacX74、galU、galK、rspL、thi]を、細胞を滅菌H0で4回洗浄することによりエレクトロポレーションのために調製する。次いで、細胞をペレット化し、そして充填した細胞の体積と等容量のHO中に再懸濁する。50ナノグラムのフィリングしたギャップDNA産物を300μlの細胞と混合し、そしてBio−Rad Gene Pulserを用いるエレクトロポレーションに供する(25 mF、400 W、2.0 KV、および時間定数6.0と7.5との間)。サンプルを氷上に置き、そして1mlのLB培地と混合する。トランスフェクション混合物のアリコート(10〜40μl)を3mlの溶解したトップアガー(42℃)(0.9%NaCl、0.8%Bacto Agar、ジメチルホルムアミドに溶解した0.08%5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリルβ−D−ガラクトシド、および0.2 mlのCSH50 [Δ(proBlac)/F’+raD36,thi,ara,proAB,lacIαΔm15]対数期細胞からなる)に添加し、そして1.5%Bacto Agarおよび15 mMイソプロピル−β−D−チオガラクトシド(IPTG)を補足した30 mlの固形化M9培地を含有するプレートに重層した。表現型を、変異体ファージを等量の野生型M13mp2ファージと混合し、そして再プレーティングすることにより確認する。ファージDNAを単離し(Kunkel,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:1494−1498,1984)、そしてSangerら(J.Mol.Biol.125:225−246,1978)の方法により、lacZαコード配列の+179〜+194セグメントに相補的な15マーのオリゴデオキシヌクレオチドプライマーを使用して配列決定する。
【0060】
γの変異原性能力を、正方向変異アッセイを使用して評価する。HIV−RTによる非相補性ヌクレオチドの取り込みから生じる変異の頻度を減少させるために、このインキュベーションを2分間のみ実施する。これらの条件下において、HIV−RTはテンプレートの分子当たり約5分子のγまたは9分子の非損傷dCTPを取り込む。次いで、ギャップ化DNAを、pol−Ilf(E.coli DNAポリメラーゼIのラージフラグメント)により4つの非損傷ヌクレオチドを基質として使用して完全にフィリングする。トランスフェクション効率および変異頻度を表Iに示す。HIV−RTを用いない反応において、1ngのDNA当たり1040のトランスフェクタントを得、一方HIV−RTおよび非損傷dCTP(逆相および強アニオン交換クロマトグラフィーにより「精製した」)を用いると、収率は1ngのDNA当たり165のトランスフェクタントである。γのdCTPへの置換は、さらにトランスフェクション効率を減少させる(1ngのDNA当たり73のトランスフェクタント)。HIV−RTの非存在下において、変異頻度は4.6×10−4である(表I、第1行目)。HIV−RTおよびdCTPを用いる反応は、変異頻度を2.4倍増加させる。これはおそらく、HIV−RTによる高頻度の取り込み違いおよび反応混合物中のヌクレオチドプールの偏りに由来する。最も重要なことに、テンプレートDNA当たり平均5分子のγの取り込みに派生する変異頻度は1200×10−4であり、これは109倍の増加である。3ntのみを用いるコントロール反応における相対的に低い変異頻度(表I、第4行目)は、γにより誘発される変異誘発が混合物中にdCTPを含有しないことから生じるのではないことを示す。
【0061】
【表1】

HIV−RTを使用してdATP、dGTP、およびdTTPのみを、dCTPと共に、またはγと共に、第2欄に示すように取り込ませた。トランスフェクション効率および変異頻度を第3欄および第4欄に示す。各々のクラスの反応について単離された変異体の数を括弧内に示す。データは数回の実験の累積である。
【0062】
γのlacZ標的遺伝子への取り込みから生じる変異スペクトルを、単離した196の変異体のうち92の各々におけるギャップ内の約200 ntの配列決定に基づいて調製する。観察された181の置換のうち、178(98.3%)がシトシンで生じる(ギャップ化DNAのテンプレート鎖における反対のグアニン)。この結果は、dCTPに対するプール偏り(pool bias)にかかわらず、HIV−RTによるDNA合成の間に、γがほとんど変わらずグアニンと塩基対合することを示す。変異のうち、173(95.6%)がC→Tへのトランジションであった。このことは、γにより生じる変異の強い特異性を示す。
【0063】
D.構造的同定
γの化学的構造は、HPLC、UV分光、および質量分析の組み合わせにより、5−ヒドロキシ−2’−デオキシシチジン5’−三リン酸であると決定される。γをデオキシヌクレオシドに酵素的に脱リン酸化し、そしてHPLCにより分析する。γに由来するデオキシヌクレオシドのUVスペクトル(292 nmの最大吸光度)およびクロマトグラフィーの保持時間の両方は、5−ヒドロキシ−2’−デオキシシチジンのオーセンティック(authentic)なサンプルと同一である。次いで、γの画分を無機塩から逆相HPLCにより分離し、トリエチルアンモニウム塩に転換し、ギ酸中で加水分解し、トリメチルシリル(TMS誘導体)に転換し、そして確立された方法(Dizdaroglu,J.Chromatogr.295:103−121,1984;Gajewskiら、Biochemistry 29:7876−7882,1990)を使用してガスクロマトグラフィー/MSにより分析する。γ誘導体のクロマトグラフィーの保持時間および質量スペクトルの両方は、5−ヒドロキシシトシンのTMS誘導体と一致する。γから誘導される5−ヒドロキシシトシンのTMS誘導体の質量スペクトルにおける優勢イオンは、m/z 343(親イオン)、m/z 342 [M−H]およびm/z 328 [M−CHであり、これは公開されたデータと一致する。しかし、γのUVスペクトルは、塩基部分が5−ヒドロキシシトシンであり、酸加水分解の前のシトシングリコールではなかったことを明らかに示す。
【0064】
E.HIV RT対哺乳動物DNAポリメラーゼによるデオキシヌクレオシド三リン酸アナログの取り込みの比較
1.HIV RTによる取り込みの決定
HIV RT.または任意の逆転写酵素によるヌクレオシド三リン酸の取り込みは、通常、標識されたデオキシリボヌクレオシド三リン酸のポリリボヌクレオチドテンプレートを有する酸不溶性産物への取り込みの初速度を測定することにより決定される(Hahnら、Science 232L:1548,1986)。このようなアッセイの例は、テンプレートとしてのポリrCオリゴdGおよび放射標識基質としての[α−32P]dGTPの使用である。これは、HIV RTの活性を定量するための最も容易な方法であり、そして培養物中の感染細胞の系列継代の間のウイルスの産生を評価するために本明細書中に記載されるが、それらの三リン酸形態のヌクレオシドアナログの取り込みを評価することについては不適切である。
【0065】
ヌクレオシドアナログの取り込みの測定のために、4つの塩基全てを含有する天然のRNAテンプレートが用いられる。最初に、これらのテンプレートは、第1鎖cDNA合成のためにインビボでHIV RTにより用いられるテンプレートを模倣する。第2に、1つのみまたは2つのヌクレオチド種を含有するポリリボヌクレオチドは、鎖伸長アッセイについて不適切である。なぜなら、HIV RTは、伸長的に触媒する間に反復配列でスリップするからである(Robertsら、Molec.Cell Biol.9:469,1989)。最後に、ホモポリマーについて、ヌクレオチドアナログのそれぞれの種を試験するために異なるホモポリマーを必要とする。天然のRNAテンプレートを用いる実験では、反応混合物は、3つの相補的なデオキシヌクレオシド三リン酸を含有する。これらの内の1つは、トリチウムまたはα−32Pのようなアイソトープで標識される。省かれるデオキシヌクレオチド基質は、アナログにおいて改変される塩基に相当する。任意の大規模な標識ヌクレオチドの取り込みは、HIV RTによる三リン酸形態のヌクレオシドアナログの取り込みおよび伸長に依存する。例えば、基質として8−ヒドロキシグアニン(8−オキソ−dGTP)のデオキシヌクレオシド三リン酸誘導体を用いると、反応はdGTPを欠失し;5−OH−dCTPを用いると、省かれるヌクレオチドは、dCTPである。代表的な反応混合物は、50mLの総容量中に、以下を含有する:60mM Tris−HCl(pH 8.2)、1.0mMジチオトレイトール、7mM MgCl、0.5mM EDTA、10mM KCl、50μMのdCTP、dATP、5.0μM [α−32P]dTTP(比放射能、1000〜10,000cpm/pmol)、dGTPのアナログ、20ユニットのHIV RT、および5μgのプライム(primed)RNAテンプレート。インキュベーションは、30分間37℃であり、そして取り込みは、酸不溶産物を大規模に洗浄し、そして液体シンチレーションにより計数した後に決定される(BattulaおよびLoeb,J.Biol.Chem.249:4086,1974)。三リン酸形態のヌクレオシドアナログが新規に合成されたDNAに取り込まれる能力は、基質濃度の関数として、相当する天然のデオキシヌクレオシド三リン酸の能力と直接比較される。このアナログの取り込みは、相補的なデオキシヌクレオチドの取り込みのパーセントとして表される。
【0066】
a.取り込みおよびゲル伸長のためのRNAテンプレートの調製
2つの異なるプライムRNAテンプレートは、取り込み研究およびポリアクリルアミドゲルにおける電気泳動による産物の分析の両方で用いられる。前者は、lacZα遺伝子の一部に相補的であるRNAを含有する。lacZ遺伝子の一部を用いることにより、HIV RTによるコピーの結果として産生されるヌクレオチド置換(変異)のタイプおよび頻度は、α相補性の原理を用いて測定される(Kunkel,J.Biol.Chem.260:5787,1985)。RNAは、以前に記載された(JiおよびLoeb,Biochem.31:954,1992)ようなpBluescript SK+プラスミド(Stratagene)を用いて、T3 RNAポリメラーゼによりインビトロで転写される。50μLの容量における転写反応は:40mM Tris−HCl (pH 7.5)、6mM MgCl、2mMスペルミジン、10mM NaCl、10mMジチオトレイトール、500μM 4つのrNTPのそれぞれ、3μgの直鎖状pBluescriptプラスミドDNA、30ユニットのT3 RNAポリメラーゼおよび2ユニットのRNasinを含有する。60分間37℃でのインキュベーションの後、反応産物は、RNase非含有DNアーゼで消化され、そして60分間インキュベートされる。RNAは、フェノール/クロロホルムでの抽出により精製され、そしてエタノールで沈澱される。プライムRNAテンプレートは、記載された(Williamsら、J.Biol.Chem.265:18682,1990)ような配列(TTC GCT ATT
ACG CCA GCT)からなる標識プライマーをアニーリングすることによりアセンブリされる。
【0067】
取り込みを測定するための代わりのテンプレートは、HIV−1(env−V−1)のエンベロープタンパク質の一部である。RNAテンプレートは、エンベロープ転写開始部位から数えて317〜533の領域に相補的なヌクレオチド配列を含有する。テンプレートは、エンベロープ配列317〜339および513〜533(これらの各々は、T7 RNAポリメラーゼ結合配列および5’末端に好ましい転写開始部位を含有する)に相補的であるオリゴデオキシヌクレオチドを用いて、pBluescript KS由来プラスミドpME235(JiおよびLoeb,Virology 199:323,1994)のPCR増幅より構築される。オリゴヌクレオチドの配列は、以下のようである:
オリゴI(ATT TTA ATA CGA CTC ACT ATA GGG ATA
TAA TCA GTT TAT GGG ATC)およびオリゴII(AAT TTA ATA CGA CTC ACT ATA GGG ATA TTC TTT CTG CAC CTT ACC)。PCR増幅に関する手順は、当業者に周知である(例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)。デオキシヌクレオシド三リン酸アナログの取り込みにおける研究のためのRNAエンベロープ遺伝子フラグメントは、Bio−Rad(Richmond,CA)により詳細に説明されるようにT7 RNAポリメラーゼを用いて合成される。
【0068】
b.哺乳動物DNAポリメラーゼによる取り込みの測定
5つの異なる哺乳動物DNAポリメラーゼが、同定され、精製され、そして特徴付けられている。これらは、アミノ酸配列、細胞内の位置、および細胞内DNA代謝における推定される役割に基づいて、DNAポリメラーゼα、β、γ、δ、ε、と称される(FryおよびLoeb,CRC Press,1986)。デオキシヌクレオシド三リン酸アナログを取り込むヒトDNAポリメラーゼの能力は、HIV RTによる取り込みを分析するために用いられるRNAテンプレートの配列に相当するDNAテンプレートを用いて決定される。直接的な比較は、ヒトDNAポリメラーゼを用いる三リン酸形態のヌクレオシドアナログの取り込みとHIV RTの取り込みとにおいて行う。
【0069】
c.DNA修復の評価
RNA−DNAハイブリッドのDNA鎖へのヌクレオシドアナログの挿入後、ヌクレオシドアナログのDNA修復を分析することが望ましくあり得る。この産物は、HIV RTによる第1鎖合成から生じる。このハイブリッドは、感染細胞の細胞質中に存在し、従って、細胞のグリコシラーゼおよびヌクレアーゼによる修復には利用可能でないはずである。細胞内酵素による削除に対するヌクレオチドアナログの感受性を定量するために、特定の位置に放射標識アナログを含有するオリゴヌクレオチドが、本明細書に記載のプロトコルに基づいて合成される。30ヌクレオチドの長さのオリゴリボヌクレオチドは、3’テンプレートの末端の最初の15ヌクレオチドに相補的である15ヌクレオチドの長さのオリゴデオキシリボヌクレオチドプライマーにハイブリダイズさせる。これは、DNAポリメラーゼまたはウイルスの逆転写酵素によりコピーされ得る15の不対ヌクレオチドのストレッチを残す。プライマーは、3’プライマー末端からの下流の最初のヌクレオチドに相補的である標識デオキシリボヌクレオシド三リン酸アナログを取り込むことによる単一の付加工程により伸長される(Zakourら、Nucleic Acid Res.12:6615,1984)。伸長されたプライマーは、RNaseとともにインキュベートされ、次いでポリアクリルアミドゲル電気泳動により精製され、そして塩抽出により分離される。その後、1つのヌクレオチド伸長プライマーは、本来のオリゴリボヌクレオチドテンプレートの新鮮なアリコートに再ハイブリダイズされ、そして全ての相補的なヌクレオシド三リン酸の存在下でHIV RTを用いる合成により伸長される。この反応の産物は、フェノール/クロロホルムでの抽出により精製され、そしてエタノールで沈澱される。取り込まれたアナログの修復を定量するために、ヌクレオチドアナログを含有するRNA−DNAハイブリッドは、植物性血球凝集素の存在下で3日間培養されたヒト末梢血リンパ球から得られたサイトゾル抽出物とともにインキュベートされる。このアナログの除去の比率は、インキュベーションの時間の関数として酸可溶性を与えられた放射能の量により定量される。コントロールテンプレートは、同じ位置の標識非付加ヌクレオチドからなる。同一のアッセイが、HIVが潜伏する細胞の異なるタイプにおける付加物の除去の分析について用いられ得る。
【0070】
d.取り込みの比較
精製DNAポリメラーゼと逆転写酵素との間のヌクレオチドアナログの取り込みの詳細な比較は、ヌクレオチド取り込みのための「マイナス」配列決定ゲルアッセイの改変を用いて実施される。3’末端を32Pで標識した2倍モル過剰量のオリゴデオキシリボヌクレオチド(20マー)は、HIVエンベロープ遺伝子(env−1)の領域のヌクレオチド配列を含有するRNAまたはDNAオリゴヌクレオチドのいずれかにハイブリダイズされる。これらのオリゴヌクレオチドテンプレートの合成は、上記に詳細に説明されている。得られる5’−32P標識プライマーは、4つのデオキシヌクレオシド三リン酸の内の3つおよび研究されるべきヌクレオシド三リン酸アナログを含有する反応において伸長される。伸長のために用いられる酵素は、公知の真核生物のDNAポリメラーゼ、異なるRNA腫瘍ウイルスおよびHIV RT由来の逆転写酵素のそれぞれを含む。HIV RTは、以前に記載のように精製される(Prestonら、Science 242:1168,1988;JiおよびLoeb,Biochem.31:954,1992)。このアッセイにおいて、反応から省かれるヌクレオチドに相補的であるテンプレートヌクレオチドを通過したプライマーの伸長は、ヌクレオシド三リン酸アナログの取り込みに依存し、そして比例する。
【0071】
一例として、オリゴヌクレオチドテンプレートプライマー複合体を、HIV RTとともに30℃にて30分間、20mM Tris−HCl(pH,8),25mM KCl,6mM MgCl,2mMジチオトレイトール、0.1mg/ml BSA,50μM dATP,dGTP,dATP、ならびに5−OH−dCTPおよび1.0ユニットのHIV RTを含有する10μLの総容量とともにインキュベートする。この反応の産物を、Sephadex G−100(Pharmacia)のクロマトグラフィーにより単離し、そして15%ポリアクリルアミド配列決定用ゲルを通す電気泳動により分析する(Prestonら、J.Biol.Chem.262:13821,1987)。ヌクレオチドアナログの取り込みの量は、ある位置から次の位置へと配列決定用ゲル電気泳動上で伸長されるオリゴヌクレオチドのパーセントの関数として計算される。取り込みは、オートラジオグラフィー、およびそれに続くデンシトメトリー、または各バンドを切り取り、そして液体シンチレーション分光法による放射能計数のいずれかにより測定される。この方法は、異なるDNAポリメラーゼおよび逆転写酵素による取り込みおよび伸長の両方の直接的な比較を提供する。
【0072】
(実施例III)
(HIVに対して致命的な変異原性であるヌクレオシドアナログについての試験)
本発明は、一つの局面では、伝搬するウイルスの増殖能を超過するレベルまでHIVに変異を導入するための組成物および方法を提供する。HIV RTを阻害するヌクレオチドアナログの試験に関する刊行されたプロトコルにおいて、HIV感染の細胞変性効果を逆転する能力により、抗ウイルス活性を示すヌクレオシドアナログを試験する(Pauweisら、J.Virol.Methods 20:309,1988;Babaら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:2356,1991;Bussoら、AIDS Res.Human Retroviruses,4:449,1988)。本発明は、ウイルスのゲノムにおいて進行性のエラーの蓄積を引き起こすヌクレオシドアナログで、感染個体を処置する。このエラーの蓄積をモニターするために、感染性ウイルス粒子の産生の比率が、ヌクレオシドアナログの存在下で感染細胞における系列継代の関数として分析される。分析されるアナログは、取り込み、鎖延長、DNA修復、および変異原性の分析において試験されたヌクレオシド三リン酸と一致する。
【0073】
A.培養細胞の感染後のHIVの産生
生存可能なHIVの複製の比率は、ヒト末梢血リンパ球の培養において決定される。ヒト末梢血リンパ球は、正常なドナーから得られ、そしてFicollグラジエント分画により分離される。精製細胞は、20%胎児ウシ血清、抗生物質(Loebら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 61:827,1968)、およびインターロイキン2(Baba,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:2356,1991)を含有するRPMI 1640培地において懸濁され、次いで植物性血球凝集素での刺激により複製が誘導される。インキュベーションの3日後、1ngのp24に相当するHIVの種菌は、1.0mlの培養物中の10 HPBLに添加される(Romeroら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:8806,1991)。HIV複製のレベルは、キャプシド抗原、p24(McQuadeら、Science 247:454,1990)の定量的ELISAアッセイ(抗体は、National Institutes of Health,Rockville,MDから入手可能である)を用いて上清を分析することによるか、または逆転写酵素活性を測定すること(Battulaら、J.Biol.Chem.250:8404,1975;Resnickら、J.Infect.Dis.154:1027,1986)により培養物中で4日後に測定される。上清は、4〜10日毎に新鮮な培地に系列的に移され、そしてウイルスの量は、培養物中のヌクレオシドアナログの濃度および継代の数の結果として測定される。ウイルスの収率および感染力は、ヌクレオシドアナログの添加により得られるウイルスの収率および感染力に対するコントロールのパーセントとして表される。
【0074】
代替の系は、MT−4細胞(Haradaら、Science 229:563,1985)においてHIVを増殖させることである。この系では、ウイルス産生は、ポリエチレングリコール(10%)およびNaCl(0.1M)でのウイルスの沈澱により上清において測定される(Lardnerら、Science 243:1731,1989)。ウイルスのペレットは、0.5% Triton X−100,0.5mM KCl,50mM Tris−HCl(pH 7.5),1mMフェニルメチルスルホニルフルオリド、および5mM β−メルカプトエタノールを含有する緩衝液中に可溶化される。ウイルスの量は、テンプレートプライマーとしてポリrCオリゴdGを用いて、HIV RT活性の量により定量される。上清中の感染性ビリオンの産生は、1時間37℃で、96−ウェルマイクロタイタープレートにおける上清とDEAE−デキストラン−処理標的MT−2とのインキュベーションおよび巨大なシンシチウム(syncytia)の形成について各ウェルをモニターすることによりモニターされる(Bussoら、AIDS Res.&Human Retroviruses 4:449,1988)。
【0075】
B.HIV RNAにおける変異の蓄積
本発明において、ヌクレオシドアナログは、ウイルスゲノム全体にわたってランダム変異を誘導する能力に基づいて、HIV感染の処置のために選択される。導入される変異の比率およびタイプは、HIVゲノムの一部を配列決定することにより決定される。変異はランダムに導入されるので、配列決定の前に、個々のHIV RNA分子を増幅およびクローン化することがまず必要である。HIV RNAは、ヌクレオシドアナログの存在の関数としてのウイルスの産生を減少する系列継代の後に感染細胞から単離される。次いで、単離されたHIV RNAは、ポリメラーゼ連鎖反応を用いて増幅される。PCRによるエラーの蓄積を最小化するために、ウイルスのRNAの一部は、マウスの白血病ウイルス逆転写酵素によりコピーされ、次いでcDNAコピーは、T7 DNAポリメラーゼにより増幅される。新鮮なT7 DNAポリメラーゼが、各増幅工程の後に添加される。なぜなら、この酵素は、熱に安定ではなく、そしてPCR反応における95℃までの加熱により変性されるからである。各サンプルについて、エンベロープ遺伝子または逆転写酵素遺伝子の領域のいずれかをそれぞれ含有する最少の10のクローンが配列決定される。それぞれの遺伝子セグメント内のヌクレオチド置換の頻度は、配列決定されるヌクレオチドの数の関数として決定される。蓄積された変異の数とHIV感染力の損失との比較は、それぞれのヌクレオシドアナログの効力を評価するために用いられる。
【0076】
本発明の特定の実施態様が説明の目的のために本明細書中に記載されてきたが、種々の改変が、本発明の精神および範囲を逸脱することなく行われ得ることは、上述から明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【公開番号】特開2010−68809(P2010−68809A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282260(P2009−282260)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【分割の表示】特願2006−23493(P2006−23493)の分割
【原出願日】平成7年6月22日(1995.6.22)
【出願人】(502457803)ユニヴァーシティ オブ ワシントン (93)
【Fターム(参考)】