説明

HLA−A2新規アリル

【課題】HLA−A抗原のサブタイプのひとつであるA2に含まれる新規アリルの提供。
【解決手段】オリゴヌクレオチドプローブを固相に、複数のビーズを用いてHLA−A遺伝子の遺伝子型を解析したところ、既知のアリルと全く異なる陽性反応を示す特定のアミノ酸配列をコードするHLA−A2新規アリル及び特定の塩基配列又はその相補配列を有するHLA−A2新規アリルを確認した。特定のアミノ酸配列をコードするHLA-A2新規アリル、または、特定の塩基配列もしくはその相補配列を有するHLA-A2新規アリルについて、オリゴヌクレオチドプローブを固相した複数のビーズを用いてHLA−A遺伝子の遺伝子型を解析したところ、既知のアリルと全く異なる陽性反応を示した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen;以下HLAと略す)の新規アリルに関する。
【背景技術】
【0002】
HLAのタイピングは移植時の適合性を判定するのみならず、疾患に対する個人の感受性の判定などにおいて重要性が注目されている。
【0003】
臓器移植を行う場合、臓器の提供者と患者の間でHLAの型がどれだけ一致しているかが移植成功率に大きく影響する。HLA型が一致しない場合、拒絶反応のため臓器が患者に生着せず、逆に提供者由来の免疫細胞のためにGVHD(移植片対宿主病(Graft-Versus-Host Disease))が発生し、患者の生命が危険にさらされることになる。また糖尿病など特定の疾患とHLA型との関連も指摘されている。HLAのタイピングはこのような医療技術の高度化に従い重要性を増したといえる。
【0004】
従来のHLAタイピングは抗体を用いて行われる血清学的手法であったが、近年の技術革新によりHLA分子をコードする遺伝子の配列より型分けを行う、いわゆる遺伝子タイピング法が主流となってきた。骨髄移植において遺伝子型でのマッチングが移植成績と相関することが明らかとなり、HLAの遺伝子タイピングは医療現場においても重要度を増してきている。
【0005】
塩基配列を確認する方法としては、シークエンシング反応により配列を決定するサンガー法(例えば、非特許文献1参照)などがあるが、コスト面からHLAの遺伝子タイピングは部分的な配列をプローブやプライマーとして利用し、その反応性から遺伝子配列を推定し、HLA型を決める方法が利用されている(例えば、非特許文献2、3参照)。
【0006】
HLA−A抗原のサブタイプのひとつであるA2に含まれる遺伝子型は2007年6月の時点で、141種類が報告されているが、アリルの存在については充分検討されていないのが現状である(例えば、非特許文献4参照)。

【非特許文献1】Santamaria P. et al. HLA class I sequence-based typing. Hum Immunol. 37(1):39-50, 1993.
【非特許文献2】Bunce M. et al. Phototyping: comprehensive DNA typing for HLA-A, B, C, DRB1, DRB3, DRB4, DRB5 & DQB1 by PCR with 144 primer mixes utilizing sequence-specific primers (PCR-SSP). Tissue Antigens. 46(5):355-67, 1995.
【非特許文献3】Kawai S. et al. Routine low and high resolution typing of the HLA-DRB gene using the PCR-MPH (microtitre plate hybridization) method. Eur J Immunogenet. 23(6):471-86, 1996.
【非特許文献4】Allele Frequencies [online]、[平成19年6月29日検索]、インターネット<URL:http://www.ebi.ac.uk/imgt/hla/>
【発明の概要】
【0007】
従って、本発明の目的は、HLA−A抗原のサブタイプのひとつであるA2に含まれる新規アリルを提供することにある。
【0008】
本発明者らは今般、オリゴヌクレオチドプローブを固相した複数のビーズを用いてHLA−A遺伝子の遺伝子型を決める方法によって、既知のアリルとは異なる陽性反応を示す遺伝子を見出した。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0009】
即ち、本発明は、配列番号1記載のアミノ酸配列をコードするHLA-A2新規アリルを提供するものである。
【0010】
また本発明は、配列番号2記載の塩基配列又はその相補配列を有するHLA-A2新規アリルを提供するものである。
【0011】
本発明により、HLA−A抗原の詳細なタイピングが可能となるため、移植時の適合性を判定するのみならず、疾患に対する個人の感受性の判定などにおいて、極めて有用となる。
【発明の具体的説明】
【0012】
DNAタイピング法の1つであるPCR−SSOP(Sequence Specific Oligonucleotide probe)法に基づき、Luminex社の xMAP測定技術(http://www.luminexcorp.com/01_xMAPTechnology/index.html)を用いてHLA遺伝子のタイピングが可能なWAKFlow HLAタイピング試薬(湧永製薬製)を用いてHLA−A抗原の遺伝子型をタイピングしたところ、血液より抽出したDNA検体で既知の遺伝子型の反応性が示されなかった。
【0013】
ダイレクトシークエンシング法(Wong C. et al. Characterization of beta-thalassaemia mutations using directgenomic sequencing of amplified single copy DNA. Nature. 330:384-6, 1987.)によりエクソン2およびエクソン3の配列を確認した。エクソン2およびエクソン3のそれぞれ上流と下流に設定したプライマーを用いて、センス鎖アンチセンス鎖の両側から配列を確認したところ、エクソン2はA*0207とA*2420の配列であるが、エクソン3はA*2420の配列とこれまでに報告されていない配列とが検出された。よって、この検体がA*2420と未知のアリルのヘテロ接合である可能性が考えられた。
【0014】
配列を詳細に調べるため、HLA−A抗原遺伝子のエクソン2からエクソン3にかけて約1Kbの領域をサブクローニングにより単離した。HLA−A抗原のエクソン2上流とエクソン3下流に設定したプライマーを用いて、PCR反応によりこの領域を増幅し、電気泳動で目的とする長さの断片を取り出してTAクローニングによりプラスミドベクターに取り込ませた。このプラスミドを用いて形質転換させた大腸菌を少量の培地で培養し、培地から回収した大腸菌よりプラスミドを抽出した。得られたプラスミドの中から約1Kbのインサートの入ったものを制限酵素処理により選び出し、得られた9クローンのプラスミドについて配列を確認した。
【0015】
その結果、HLA−A*2420が1クローン、HLA−A以外の遺伝子が4クローン見つかった他、ダイレクトシークエンシング法で確認された新規配列を有する変異型が4クローン得られた。
【0016】
新規配列を有する変異型4クローンについて、遺伝子の塩基配列の確認を行った結果、図1のようにA*0207の配列のエクソン3内に1箇所の変異を確認した。この変異は図2に示す151番目のアミノ酸がヒスチジンからアルギニンへと置き換わる非同義置換であった。また、151番目のアミノ酸はHLA−A分子において抗原ペプチドをはさみこむ領域の内側に位置している。
【0017】
このことから、これらのアミノ酸はHLA−A分子に結合するペプチドモチーフにも重要な部位であり、免疫系において重要な役割を果たしている可能性が高い。したがって、A*0207と本発明の変異をもつ遺伝子型(A*0207V)とは、移植医療においては区別する必要があり、移植時の適合性判定などにおいて、HLA−A抗原のタイピング精度を高める上で、極めて有用かつ重要なものである。
なお、本発明において見出された新規アリルは、WHO命名によれば「A*9230」とされている。このため本明細書においては、新規アリルを「A*0207V」または「A*9230」のいずれかで表示する。
【0018】
よって、本発明による新規アリルは、前記したように、配列番号1記載のアミノ酸配列をコードしてなるものであり、また、配列番号2記載の塩基配列又はその相補配列を有するものである。
【0019】
また本発明の新規アリルでコードされるペプチドを有するタンパクもアリルと同様に移植時の適合性判定などにおいて、極めて有用かつ重要なものである。
【0020】
本発明の別の態様によれば、HLA−A2抗原のタイピング方法であって、遺伝子型の判定の際に、配列番号1のアミノ酸配列、配列番号2の塩基配列もしくはその相補配列、またはそれらから得られる配列変異情報を用いることを特徴とする方法が提供される。ここで、それらから得られる配列変異情報とは、図1および図2にも示されているように既知のアリル(A*0207)と本件新規アリル(A*0207V)とを塩基配列またはアミノ酸配列を比較することにより得られる配列上の変異情報である。例えば、アミノ酸配列の場合であれば、前記したような、A*0207のアミノ酸配列上、151番目のアミノ酸がヒスチジンからアルギニンへと置き換わっている場合が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】既知のアリル(A*0207)とHLA−A2新規アリル(A*0207V)との塩基配列の比較。
【図2】既知のアリル(A*0207)とHLA−A2新規アリル(A*0207V)とのアミノ酸配列の比較。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列をコードする、HLA-A2新規アリル。
【請求項2】
配列番号2の塩基配列又はその相補配列を有する、HLA-A2新規アリル。
【請求項3】
請求項1または2に記載のHLA-A2新規アリルでコードされるペプチドを有する、タンパク質。
【請求項4】
遺伝子型の判定の際に、配列番号1のアミノ酸配列、配列番号2の塩基配列もしくはその相補配列、またはそれらから得られる配列変異情報を用いることを特徴とするHLA−A2抗原のタイピング方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−50258(P2009−50258A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195641(P2008−195641)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000250100)湧永製薬株式会社 (51)
【Fターム(参考)】