説明

HLA−Gポリペプチドおよびその医薬的使用

本発明は、新規タンパク質およびその医薬的使用に関する。より具体的には、本発明は、b2ミクログロブリンの配列に融合されたHLA−5抗原の配列を含む新規タンパク質に関する。本発明はまた、そのようなポリペプチドを生産する方法、それを含む医薬組成物、および臓器/組織拒絶反応を含む様々な疾患を処置するためのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規タンパク質およびその医薬的使用に関する。より具体的には、本発明は、B2ミクログロブリンに融合されたHLA−G5抗原のドメインを含む新規融合タンパク質に関する。本発明はまた、そのようなタンパク質を生産する方法、それを含む医薬組成物、および臓器/組織拒絶反応を含む様々な疾患を処置するためのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
主要組織適合性複合体(MHC)抗原は、3つの主要なクラス、すなわちクラスI抗原、クラスII抗原(HLA−DP、HLA−DQ、およびHLA−DR)、およびクラスIII抗原に分けられる。
【0003】
クラスI抗原は、3つの球状ドメイン([アルファ]1、[アルファ]2および[アルファ]3)を示す従来型抗原HLA−A、HLA−B、およびHLA−Cを含み、ならびに非従来型抗原HLA−E、HLA−F、HLA−Gを含む。
【0004】
HLA−Gは、正常ヒト胎盤の絨毛外トロホブラストおよび胸線上皮細胞によって発現されている非古典的HLAクラスI分子である。HLA−G抗原は、本質的に、胎盤のサイトトロホブラスト細胞によって発現されており、母性免疫系から胎児を防御する免疫調節剤として機能する(母親による拒絶反応の欠如)。HLA−G遺伝子の配列は、すでに記載されており(例えば、Geraghty et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1987, 84, 9145-9149 ; Ellis; et al., J. Immunol., 1990, 144, 731-735)そして4396塩基対を含む。この遺伝子は、8つのエクソン、7つのイントロンおよび3’非翻訳末端から成り、各々が以下のドメインに対応している:エクソン1:シグナル配列、エクソン2:アルファ1細胞外ドメイン、エクソン3:アルファ2細胞外ドメイン、エクソン4:アルファ3細胞外ドメイン、エクソン5:膜貫通領域、エクソン6:細胞質ドメインI、エクソン7:細胞質ドメインII(非翻訳)、エクソン8:細胞質ドメインIII(非翻訳)および3’非翻訳領域。
【0005】
7つのHLA−Gのアイソフォームが、同定されており、そのなかで4つは、膜結合性であり(HLA−G1、HLA−G2、HLA−G3およびHLA−G4)そして3つは、可溶性である(HLA−G5、HLA−G6およびHLA−G7)(例えば、Carosella et al., Blood 2008, vol. 111, p 4862を参照)。
【0006】
成熟G1タンパク質アイソフォームは、3つの外部ドメイン(α1−α3)、膜貫通領域および細胞質ドメインを含む。
G2タンパク質アイソフォームは、α2を含まず、すなわち、α1およびα3ドメインが、直接連結され、その後に膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインが続く。
G3タンパク質アイソフォームは、α3およびα3ドメインの両方を欠いており、すなわち、膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインに直接連結されているα1ドメインを含む。
G4タンパク質アイソフォームは、α3ドメインを欠いており、すなわち、α1ドメイン、α2ドメイン、膜貫通ドメインおよび細胞質ドメインを含む。
【0007】
可溶性HLA−Gアイソフォームは、全て膜貫通および細胞質ドメインを欠いている。より具体的には:
G5タンパク質アイソフォームはα1、α2およびα3ドメイン、ならびにイントロン4によりコードされている21アミノ酸残基の外C末端ペプチド配列(転写スプライシングおよびRNA成熟後のイントロン4の保持の結果である)を含有する。
G6タンパク質アイソフォームは、α2を含有しないG5に対応し、すなわち、HLA−G6はα1およびα3ドメイン、ならびにイントロン4によりコードされている21アミノ酸残基の外C末端ペプチド配列(転写スプライシングおよびRNA成熟後のイントロン4の保持の結果である)を含有する。
G7タンパク質アイソフォームは、α1ドメインのみ、およびイントロン2にコードされている2つの付加的なC末端アミノ酸残基(転写スプライシングおよびRNA成熟後のイントロン2の保持の結果である)を含有する。
【0008】
これらのアイソフォームは全て、例えば、Kirszenbaum M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1994, 91, 4209-4213;欧州出願EP 0 677 582; Kirszenbaum M. et al., Human Immunol., 1995, 43, 237-241; Moreau P. et al., Human Immunol., 1995, 43, 231-236)に記載されている。
【0009】
以前の研究により、HLA−Gタンパク質は、同種異系免疫反応、例えば増殖性Tリンパ球細胞反応、細胞障害性Tリンパ球を介した細胞溶解、およびNK細胞を介した細胞溶解を抑制することができることが示されている(Rouas-Freiss N. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 1997, 94, 5249-5254 ; Semin Cancer Biol 1999, vol 9, p. 3)。その結果、HLA−Gタンパク質は、同種異系間または異種間の臓器/組織移植における移植片拒絶反応を処置するために提案されている。HLA−Gタンパク質はまた、がん(EP1 054 688)、炎症性疾患(EP1 189 627)および、より一般的には、免疫と関連する疾患の処置のために提案されている。HLA−Gが特定の細胞または組織を標的とするようにHLA−Gタンパク質を特異的なリガンドに融合することもまた、提案されている(WO2007091078)。しかしながら、そのような標的化融合が活性であるということを示す結果や実験データは、いまだ提供されていないということに、留意しなければならない。
【0010】
現在、医薬的目的のためにどのようなコンフォメーションが最も活性であるのか、どのようにHLA−Gの可溶型を用いることができるのか、そしてHLA−Gのどのドメインが最も効果的な療法に必要であるのかは、明らかになっていない。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、新規タンパク質またはポリペプチド、それを含む医薬組成物、およびその使用に関する。より具体的には、本発明は、B2ミクログロブリンの配列に融合したHLA−G5抗原の配列を含む、新規ポリペプチドに関する。実施例の節において示すように、このポリペプチドは、in vivoにおいて生物学的に活性であり、二量体を形成することができ、そして移植片拒絶反応モデルにおいて強力な免疫応答を引き起こすことができる。このポリペプチドは従って、そのような障害、および他の免疫に関する疾患を処置するための薬剤候補を示す。
【0012】
本発明の目的は従って、HLA−G5抗原配列に融合したβ2ミクログロブリン配列を含む融合ポリペプチドに属する。より好ましい実施態様においては、HLA−G5抗原は、ヒトHLA−G5抗原である。さらに、より好ましい実施態様においては、β2ミクログロブリン配列は、スペーサーグループを通じてHLA−G5抗原配列に融合し、そして/または該ポリペプチドのN末端部分に位置する。
【0013】
本発明の好ましい目的は、以下の構造を含むポリペプチドである:
B2M − SPACER − HLA−G5
ここで、B2Mは、β2ミクログロブリンの配列であり;SPACERは、好ましくは5〜20アミノ酸残基を含むスペーサーグループの配列であり;そしてHLA−G5は、HLA−G5抗原の配列である。
【0014】
本発明のさらなる目的は、本発明のポリペプチドをコードする核酸分子に属する。
【0015】
本発明はまた、上記で定義した核酸分子を含むベクターに関する。
【0016】
本発明の別の目的は、上記で定義した核酸分子またはベクターを含むリコンビナント宿主細胞である。
【0017】
本発明のさらなる目的は、上記で定義したポリペプチドを生産する方法であって、ここで、該方法は、該核酸分子の発現を可能にする条件下で本発明のリコンビナント宿主細胞を培養すること、そして生産された該ポリペプチドを回収すること、を含む。
【0018】
本発明はさらに、本発明のポリペプチドの二量体(例えば、ホモ二量体またはヘテロ二量体)に関する。
【0019】
本発明はまた、本発明の融合ポリペプチドまたはその二量体に特異的に結合する抗体に関する。
【0020】
本発明はまた、上記で定義したポリペプチドを、単量体としてまたは多量体として含む医薬組成物に関する。
【0021】
本発明はまた、上記で定義したポリペプチドをコードする核酸を含む医薬組成物、またはそのようなポリペプチドを発現するリコンビナント細胞に関する。
【0022】
本発明はさらに、臓器または組織拒絶反応、炎症性疾患もしくは自己免疫疾患を処置するためのそのようなポリペプチドまたは医薬組成物に関する。
【0023】
本発明のさらなる目的はまた、臓器/組織拒絶反応を処置する方法であって、有効量の本発明のポリペプチドまたは組成物をそれらを必要とする対象に投与することを含む方法に関する。より具体的には、該方法は、組織/臓器移植の前に、最中におよび/またはその後に、該ポリペプチドまたは組成物を該対象に投与することを含む。
【0024】
本発明のさらなる目的は、対象における移植片に対する寛容を促進する方法であって、それらを必要とする対象に有効量の上記で定義したようなポリペプチドまたは組成物を投与することを含む方法である。
【0025】
本発明を、任意の哺乳類の対象に、好ましくはヒト対象に使用してもよい。以下にさらに開示されるように、本発明のポリペプチドは、in vivoでの同種異系または異種移植の後の組織拒絶反応を実質的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1:HLA−G5−B2Mは、二量体を形成することができる。
【図2】図2:HLA−G5−B2Mは、in vivoでの移植片生存を促進する。
【0027】
発明の詳細な説明
本発明は、B2Mに融合したHLA−G5抗原を含む融合ポリペプチドに関する。本発明の融合ポリペプチドは、生物学的に活性であり、in vivoでの移植片拒絶反応を効果的に抑制することが示されてきた。より具体的には、発明者らは、HLA−G5抗原をB2Mに融合することにより、高い免疫効果を示す生物学的に活性であるタンパク質が得られることを明らかにした。本願で提示される結果は、そのようなポリペプチドが、in vivoで非常に効果的に移植片寛容を促進することができ、そしてそれゆえに免疫に関する障害を処置するための、特に対象における望まれないまたは有害な免疫応答を低下させるための新規薬剤を代表することを示す。
【0028】
従って、本発明の第一の目的は、HLA−G5抗原のアミノ酸配列と融合されたB2Mのアミノ酸配列を含むポリペプチドに属する。
【0029】
本発明に関連して、用語「ポリペプチド」および「タンパク質」は、互換的に使用され、アミノ酸残基のポリマー(それらはアミノ結合を介してまたは改変された、ペプチド模倣の結合を通じて一緒に結合されていてもよい)を含む分子を指す。前記タンパク質またはポリペプチド中の該アミノ酸残基は、天然アミノ酸残基、もしくは非天然または改変されたアミノ酸残基のいずれであってもよい。それらはLおよび/またはD型であってもよい。また、該ポリペプチドまたはタンパク質は、例えば、末端に保護されておよび/または改変されて(例えば、ラテラルファンクション(lateral functions)の化学的または物理的変化によって)いてもよい。
【0030】
本発明のポリペプチドにおいて、種々のポリペプチドドメインは、共有結合により一緒に結合されており、その結果それらを、最も好ましくは、リコンビナント技術によって単一分子として生産できる。つまり、それらは、アミン結合により融合されている。
【0031】
本発明のタンパク質において、B2M配列は、HLA−G5配列のN末に位置しており、そしてそれらは、スペーサーグループを介して一緒に結合されており、それは以下の構造で表わされる:
B2M − SPACER − HLA−G5
ここで、B2Mは、β2ミクログロブリンの配列であり;SPACERは、スペーサーグループの配列であり、;そしてHLA−G5は、HLA−G5抗原の配列である。
【0032】
B2ミクログロブリン(“B2M”)は、11.8KDaの血清タンパク質であり、ほぼ全ての有核細胞の表面上で主要組織適合性複合体(MHC)クラスI重鎖との会合がみられる。ベータ2ミクログロブリンは、HLA分子の細胞表面発現に必須である。
【0033】
B2Mの配列の具体的な例を、配列番号2中に開示する(アミノ酸残基21−119を参照)。別のB2M配列を、genebankよりまたは他の刊行物より得てもよいことを理解されたい(例えば、Genebank番号NC_000015、GeneID:567、該配列の最初の刊行物:Gussow et al., 1987 [PubMed 3312414]を参照)。更に、B2Mの天然変異(例えば、ポリモルフィズムの結果として)が、存在し、それは、本願に含まれる。また、上記配列の変異体で、ある程度(例えば、1〜10、好ましくは1〜5、最も好ましくは1、2、3、4または5)のアミノ酸残基を欠き、そして/またはある程度(例えば、1〜10、好ましくは1〜5、最も好ましくは1、2、3、4または5)のアミノ酸置換または挿入を含有する変異体も、本発明に含まれる。
【0034】
スペーサーグループは、ポリペプチドの適切なリフォールディングを可能にする任意のグループ(例えば、ペプチド)を指す。該スペーサーは、可変の長さを有することができ、そして好ましくは生物学的に不活性であるべきである。典型的には該スペーサーは、8〜20、より好ましくは8〜15、さらにより好ましくは12〜15の長さのアミノ酸残基のペプチドである。特定の実施態様において、該スペーサーグループは、(G4S)n配列(ここでnは、2または3である)を有する。
【0035】
該ポリペプチドに含まれるHLA−G5ドメインは、HLA−G5抗原の、好ましくはヒトHLA−G5抗原のアミノ酸配列、またはその変異体を含む。前に示したように、HLA−G5タンパク質アイソフォームは、α1、α2およびα3ドメイン、ならびに(リーディングフレームの改変の結果として)イントロン4にコードされる21アミノ酸残基の外C末端ペプチド配列を含有する可溶性タンパク質である。HLA−G5は、膜貫通ドメインまたは細胞質ドメインは含有しない。
【0036】
本発明に関連して、用語「HLA−G5抗原」は従って、HLA−G抗原のα1、α2およびα3ドメインの配列を含有し、そして膜貫通および細胞質ドメインを欠く、ポリペプチドを指す。より好ましい実施態様において、HLA−G5はさらに、HLA−Gのイントロン4にコードされる21アミノ酸残基の付加的なC末端ペプチド配列を含む。
【0037】
HLA−G5配列の具体的な例は、α1、α2およびα3ドメイン、ならびにイントロン4にコードされる21アミノ酸残基のC末端ペプチド配列からなる配列である。
【0038】
ヒトHLA−G5抗原のアミノ酸配列の例を、配列番号2中に提供する(アミノ酸残基135〜末端を参照)。他のHLA−G5配列は、オンライン(例えば、Fujii, T et al, Journal of Immunology, 1994. PMID: 7989753を参照)または例えば、米国特許番号US5,856,442およびUS6,291,659中で入手可能である。
【0039】
当然のことながら、HLA−G5の天然変異体(例えば、ポリモルフィズムの結果として)が、存在し、それは、本願に含まれる。また、上記配列の変異体で、ある程度(例えば、1〜10、好ましくは1〜5、最も好ましくは1、2、3または4)のアミノ酸残基を欠き、そして/またはある程度(例えば、1〜10、好ましくは1〜5、最も好ましくは1、2、3または4)のアミノ酸置換または挿入を含有する変異体も、本発明に含まれる。
【0040】
本発明の融合ポリペプチドの具体的な例は、配列番号2のHLA−G5−B2Mである。HLA−G5−B2Mにおいて、ヒトB2Mアミノ酸配列は、該ポリペプチドのN末側に位置しており、そして(G4S)3スペーサーグループを介してヒトHLA−G5抗原の配列と結合している。HLA−G5−B2Mはさらに、該ポリペプチドの分泌を可能にするB2Mのリーダーペプチド配列(アミノ酸残基1〜20)を含む。
【0041】
本発明のさらなる具体的なポリペプチドは、配列番号2のアミノ酸残基21〜末端(すなわち、リーダーペプチド配列を欠く)を含むポリペプチドである。
【0042】
実施例において言及するように、そのようなB2M−HLA−G5ポリペプチドは、in vivoで移植片寛容を促進することができる。
【0043】
この点において、本発明は、はじめて、HLA−G抗原を、特異的な分子配列を介してB2M配列と融合し、十分に活性である生体分子を生産できることを実証する。従って本発明はまた、以下の構造を有するポリペプチドに属する:
B2M − SPACER − HLA−G抗原
N末 C末
ここで、B2Mは、上記で定義したβ2ミクログロブリン配列であり;SPACERは、上記で定義したスペーサーグループであり;そしてHLA−Gは、HLA−G抗原の配列である。HLA−G抗原の配列は典型的には、HLA−G抗原の、好ましくはヒトHLA−G抗原の少なくともα1ドメインの配列を含む。
【0044】
本発明のさらなる目的は、上記で定義したポリペプチドの二量体である。該二量体は、ホモ二量体、例えば、同一のポリペプチド間であってもよく、またはヘテロ二量体、例えば、少なくとも1つの本発明のポリペプチドを含む二量体であってもよい。
【0045】
本発明のポリペプチドを、当該技術分野でそれ自体公知の技術、例えば人工合成、リコンビナント技術、および/またはそれらの組み合わせを用いて得ることができる。典型的な実施態様において、実施例中に例証するように、該ポリペプチドを、キメラコードポリヌクレオチドから開始して、リコンビナント技術によって生産する。
【0046】
この点において、本発明のさらなる目的は、上記で定義したポリペプチドをコードする核酸分子である。該核酸は、例えば、RNAまたはDNA、一本鎖または二本鎖であってもよい。それを、当該技術分野でそれ自体公知の技術、例えば遺伝子工学、化学合成または酵素的合成などを用いて生産してもよい。特定の実施態様において、該核酸はさらに、該ポリペプチドをコードする配列に作動可能に連結された、分泌のためのリーダーペプチドをコードする配列を含む。その結果、そのような核酸の発現は、選択された宿主細胞によるポリペプチドの分泌を導く。該リーダーペプチドは、ヒトまたは哺乳類の遺伝子から、例えば、B2M、インターロイキン、HLA−Gなどの種々の起原のリーダーペプチドであってもよい。本発明の核酸の具体的な例は、配列番号1(またはそれのヌクレオチド残基61〜末端、すなわちリーダー配列なし)を含む。
【0047】
本発明のさらなる目的はまた、上記で定義した核酸を含むベクターに属する。該ベクターは、クローニングおよび/または発現ベクター、例えばプラスミド、コスミド、ファージ、ウイルスベクター、人工染色体などであってもよい。そのようなベクターの具体的な例は、pFUSEプラスミド、pUCプラスミド、pcDNAプラスミド、pBRプラスミド、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、ラムダファージベクターなどを含む。該ベクターは制御配列、例えばプロモーター、ターミネーター、複製開始点などを含んでいてもよい。該ベクターを、in vitroでリコンビナント技術により、またはin vivoで直接的に、遺伝子治療法において本発明のポリペプチドを生産するために用いてもよい。
【0048】
本発明のさらなる目的は、上記で定義した核酸またはベクターを含むリコンビナント宿主細胞である。該宿主細胞は、原核生物または真核生物であってもよい。原核生物宿主の例は、E.coliといった任意のバクテリアを含む。真核生物の例は、酵母、真菌、哺乳動物細胞、植物細胞、または昆虫細胞を含む。本発明のリコンビナント細胞を、当該技術分野においてそれ自体公知の形質転換技術、例えばトランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーション、プロトプラスト形質転換などによって調製してもよい。これらの細胞を、任意の適切な培養培地によって維持および培養してもよい。
【0049】
本発明のリコンビナント細胞を使用して、例えばin vitroでまたはex vivoで本発明のポリペプチドを生産してもよく、または細胞治療製品として、in vivoで該ポリペプチドを生産してもよい。
【0050】
この点において、本発明の目的はまた、上記で開示したポリペプチドを生産する方法であって、核酸分子の発現を可能にする条件下で本発明のリコンビナント宿主細胞を培養すること、および生産された該ポリペプチドを回収することを含む方法に属する。該ポリペプチドを、当該技術分野でそれ自体公知の技術、例えば遠心、濾過、クロマトグラフ法などを用いて回収および/または精製してもよい。
【0051】
生産において、本発明のポリペプチドを、改変して、それらの特性を改善してもよく、例えばそれらの薬物動態特性を改善してもよい。この点において、それらを、末端保護基(例えば、アミド、エステル)を付加することにより改変して、それらのプロテアーゼに対する安定性または抵抗性を向上させてもよい。それらをまた、キャリアサポート(carrier support)上にコートして、ポリペプチド密度を増加させてもよい。
【0052】
本発明のさらなる目的は、上記で定義したポリペプチドおよび、好ましくは医薬的に許容できる賦形剤または担体を含む医薬組成物である。
【0053】
本発明のさらなる目的は、上記で定義した核酸および、好ましくは医薬的に許容できる賦形剤または担体を含む医薬組成物である。
【0054】
本発明のさらなる目的は、上記に定義したリコンビナント細胞および、好ましくは医薬的に許容できる賦形剤または担体を含む医薬組成物である。
【0055】
適切な賦形剤または担体は、任意の医薬的に許容できるビヒクル、たとえば緩衝剤、安定化剤、希釈剤、塩、保存剤、乳化剤、甘味料などを含む。賦形剤は典型的には、等張の水溶液または非水溶液を含み、それらは公知の技術によって調製することができる。適切な溶液は、緩衝化溶質、例えばリン酸緩衝液、塩化物溶液、リンガー溶液などを含む。薬剤は典型的には、注射可能な組成物、好ましくは液体の注射可能な組成物の形態であるが、他の形態、例えば錠剤、カプセルゲル(gelules)、カプセル、シロップもまた、考慮してもよい。本発明の組成物を、複数の異なる経路によって、例えば全身性、非経口性、経口性、直腸性、経鼻性または膣性経路によって投与してもよい。それらを好ましくは、注射、例えば静脈内、動脈内、筋肉内、腹膜内、または皮下注射によって投与する。経皮性投与もまた、考慮する。具体的な投与量を、当業者によって調整してもよく(それは病態、対象、処置期間、他の活性成分の存在などに依存する)、典型的には、該組成物は、10ng〜1mg、より好ましくは10ng〜100mg、さらにより好ましくは10μg〜100mgの単位用量の融合ポリペプチドを含む。
【0056】
本発明の組成物を、好ましくは有効量、すなわち、経時的に、疾患の進行を少なくとも遅らせ、または妨げるのに十分な量を投与する。これに関して、本発明の組成物を、好ましくは、対象における有害なまたは望まれない免疫応答の低下を可能にする量で使用する。
【0057】
上記で言及したように、本発明のポリペプチドは、強力な免疫制御活性を有し、よって異常なまたは望まれない免疫応答に関連する種々の疾患の状態を処置するのに使用してもよい。より具体的には、本発明のポリペプチドは、免疫に関連する障害、例えば特に、臓器または組織拒絶反応、炎症性疾患もしくは自己免疫疾患を処置することに適している。
【0058】
実施例の節で開示されるように、本発明のポリペプチドは、in vivoでの同種異系または異種移植片拒絶反応を実質的に抑制することができる。
【0059】
本発明の目的は従って、移植片拒絶反応を処置するための上記で開示されたポリペプチドまたは組成物に属する。
【0060】
本発明のさらなる目的は、対象における移植片拒絶反応を処置する方法であって、有効量の上記で開示された組成物をそれを必要とする対象に投与することを含む方法に属する。
【0061】
処置するという用語は、例えば(移植を)受けた対象での移植片寛容の促進を指す。該処置を、移植の前に、最中におよび/またはその後に、行うことができ、そして現存する免疫抑制剤の代替療法として、または実際の免疫抑制剤との併用療法として使用してもよい。本発明は、同種異系の、半同種異系の、または異種の移植にでさえ適用可能であり、そして移植された臓器または組織、それらは、限定せずに、固形組織、液体組織または細胞を含み、それらは心臓、皮膚、腎臓、肝臓、肺、肝腎などを含むが、その任意の型のために使用してもよい。
【0062】
本発明のさらなる目的は、対象における臓器または組織を移植するための改善された方法であり、該改善は、有効量の上記で開示された組成物を、移植の前に、最中におよび/またはその後に、対象に投与することを含む。
【0063】
本発明のさらなる目的は、対象における移植片寛容を促進するための方法であって、有効量の上記で開示された組成物を移植の前に、最中におよび/またはその後に、対象に投与することを含む方法である。
【0064】
本発明のさらなる目的は、対象における移植片拒絶反応を低下させるための方法であって、有効量の上記で開示された組成物を移植の前に、最中におよび/またはその後に、対象に投与することを含む方法である。
【0065】
本発明のさらなる目的は、自己免疫疾患を処置するための上記で開示されたポリペプチドまたは組成物に属する。本発明はまた、対象における自己免疫疾患を処置する方法であって、有効量の上記で開示された組成物をそれを必要とする対象に投与することを含む方法に属する。自己免疫疾患は、関節リウマチ、クローン病または多発性硬化症であってもよい。そのような疾患の状態において、本発明は、病態の原因である有害な免疫応答を低下させることを可能にする。
【0066】
本発明の他の目的は、炎症性疾患を処置するための上記で開示されたポリペプチドまたは組成物に属する。
【0067】
本発明のさらなる目的は、対象における炎症性疾患を処置する方法であって、有効量の上記で開示された組成物をそれを必要とする対象に投与することを含む方法に属する。
【0068】
当然のことながら、実際に投与される該組成物の量を、関連する状況、処置される状態または状態群、投与された正確な組成物、年齢、体重、ならびに個々の患者の応答、患者の症状の重症度、および選択された投与経路を含む状況などを考慮して、医師によって決定しそして適応するべきである。従って、上記の用量の範囲は、本明細書における教示のための一般的なガイダンスおよびサポートを提供することを目的としており、本発明の範囲を限定することを目的としていない。
【0069】
本発明のさらなる局面および利点は、本願の範囲を限定せず例示としてみなされるべき、以下の実施例で開示されるであろう。
【実施例】
【0070】
材料および方法
PCRによる増幅
PCRを、DNA20ng、各プライマー200nM、dNTP200μM(Invitrogen)、PCR緩衝液10X(Perkin Elmer)2.5μl、Taqポリメラーゼ(Perkin Elmer)2.5ユニットおよび水27μlを含有する最終容量50μlでGeneAmp PCR System 9600(Perkin Elmer)により行った。
【0071】
使用されたプログラムは、以下:
94℃で5分間のDNA変性の後に30サイクルの:
94℃で30秒
58℃で30秒
72℃で1分
最後のサイクルの最後に72℃で5分間ステップを行った。
【0072】
ベクター
pFUSE−hFc1およびpFUSE−mFc2ベクターを、いずれもInvivoGen社より購入した。
【0073】
酵素消化
酵素の制限消化を、製造業者(invitrogen)が推奨する通りに行った。典型的には、消化を、DNA1μgおよび制限酵素5ユニットで適切な緩衝液中で37℃で1時間行った。
【0074】
ライゲーション
PCR断片の発現ベクターへのライゲーションを、PromegaのT4DNAリガーゼを用いて製造業者が推奨する通りに行った。HLA−G5−ベータ2ミクログロブリンのコンストラクションについては、PCR断片のpcDNA3.1D/V.5−His−Topo(Invitrogen)へのライゲーションを、3.1 Directional TOPO(登録商標)Expression Kit(Invitrogen)を用いて直接的に行った。
【0075】
プラスミド精製
プラスミド精製を、GenElute(商標)Plasmid Midiprep(Sigma)を用いて製造業者が推奨する通りに行った。
【0076】
タンパク質生産
融合タンパク質の生産のために、HEK293細胞またはHELA細胞を、リポフェクトアミン法(invitrogen)を用いて様々なコンストラクトでトランスフェクションし、10%ウシ胎仔血清および0.3Mグルタミンを添加したDMEM(Dulbcoの改変EagleMedium)中で37℃、5%COで維持した。48時間後に、上清を、回収し、0.2μMフィルターを通して濾過し、そして実験のためにまたはストックを調製するために使用した。
【0077】
実施例1:HLA−G5-B2Mのクローニングおよび合成
α1、α2およびα3ドメインと融合したベータ2ミクログロブリンを、プラスミドpFUSE−hFc1−HLAG1−B2Mを鋳型として(未発表)、プライマー<<B2MsigTOPO センス>>5’CACCATGTCTCGCTCCGTGGCC(配列番号3)およびHLA−G5からのイントロン4配列を含有するプライマー<<アルファ3−i4−Xho−終止 アンチセンス>>:5’ATC TTA ACT CGA GAG GTC TTC AGA GAG GCT CCT GCT TTC CCT AAC AGA CAT GAT GCC TCC ATC TCC CTC CTT ACT CCA TCT CAG CAT GAG 3’(配列番号4)を用いてPCRにより増幅した。該PCR断片を次に、3.1 Directional TOPO(登録商標)Expression Kit(Invitrogen)を用いてpcDNA3.1D/V.5−His−Topoベクター(Invitrogen)にライゲーションした。
結果として得られたcDNA配列を、配列番号1に記載する。該タンパク質のアミノ酸配列を、配列番号2に記載する。
【0078】
該タンパク質を、材料および方法で開示した通りに生産した。
【0079】
実施例2:HLA−G5-B2Mは、二量体を形成する
図1は、ポリアクリルアミド電気泳動による、HLA−G5−ベータ2ミクログロブリン二量体(上側バンド)および単量体(下側バンド)のタンパク質移動を表わす。上清に存在するHLA−G5ベータ2ミクログロブリンタンパク質を、抗HLA−G5抗体(MEMG/09)によって前もってコートしたProtein G sepharose beads(GE Healthcare)を用いて免疫沈降した。免疫沈降物を、1×PBSで三回洗浄した。タンパク質を次に非還元条件で試料緩衝液でインキュベーションすることにより溶出し、煮沸し、ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動し、そしてHybond ECLニトロセルロースメンブレン(Amersham Pharmacia Biosciences)に転写した。1×PBS中の5%脱脂乳でインキュベーションした後、該メンブレンを、抗HLA−G(4H84)抗体で一晩インキュベーションし、そして西洋ワサビペルオキシダーゼをコンジュゲーションしたヤギ抗マウス二次抗体を用いて処理した。該メンブレンをECL detection system(Amersham Pharmacia Biosciences)を用いて処理した。
【0080】
示された結果から、本発明の融合タンパク質が、二量体を形成する能力を有することを実証する。
【0081】
実施例3:HLA−G5-B2Mは、in vivoでの同種異系皮膚移植片の生存を促進する
材料
硫酸ラテックスビーズ 4%w/v 5μm(Invitrogen)
AffiniPureコート抗マウスIgG Fc断片1.8mg/ml(Jackson ImmunoResearch)
AffiniPureコート抗ヒトIgG Fc断片1.3mg/ml(Jackson ImmunoResearch)
HeLaネガティブコントロール
HLAG5−B2M 1.5μg/ml
【0082】
方法
全てのHLA−G/Fc融合タンパク質について、10硫酸ラテックスビーズを、20μg/mlAffiniPureコート抗マウス(または抗ヒト)IgG Fc断片を用いて37℃で2時間コートし、その後BSA(2mg/ml)をもちいて2時間インキュベーションした。洗浄後、該ビーズを0.5μg/mlのHLA−G/Fc融合タンパク質を用いて4℃で16時間インキュベーションした。その後、該ビーズを、1×PBSで2回洗浄した。5mlのHLA−G/Fc融合タンパク質(1μg/ml)を、5×10硫酸ラテックスビーズに対して使用した。ネガティブコントロールとして、硫酸ラテックスビーズを、HLA−G/Fc融合タンパク質ではなく1×PBSまたはHeLaネガティブコントロールを使用した以外は同様の方法で調製した。硫酸ラテックスビーズ(5×10)を、皮膚移植の前日に腹腔内(i.p.)に注射した。
【0083】
特定病原体除去のC57BL/6(H−2b)マウスおよびILT4−トランスジェニックマウス(H−2b)(8〜10週齢)を、研究を通して皮膚移植レシピエントとして使用した。レシピエントマウスは、HLA−Gを結合したマイクロスフェアを投与され、ドナー皮膚は、MHCクラスIIの異なるB6.CH−2bm12(bm12、H−2b)マウスからである。同種異系皮膚移植を、標準方法により行った。簡単に述べると、ドナーマウス(12〜14週齢)の尾からの皮膚(1.0cm)を、レシピエントである麻酔されたマウスの側腹部に移植した。移植片を、ガーゼおよび絆創膏で覆い、10日目に取り除いた。移植片を、拒絶反応(移植組織の80%が壊死し、サイズが小さくなると定義される)まで毎日記録した。全ての皮膚移植生存データを、Kaplan-Meier生存分析により試験した。
【0084】
結果
結果を、図2に示す。結果は、HLA−G5-B2Mが、in vivoでの移植片寛容を実質的に改善することが出来たことを示している。該モデルにおける移植生存の各日は、ヒト対象における移植生存の少なくともほぼ一カ月に相当することに留意しなければならない。
【0085】
配列表
配列番号:1:cDNA
【表1】

【0086】
配列番号2:HLA−G5/β2mのアミノ酸配列
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
N端からC端の向きに、β2ミクログロブリンのアミノ酸配列、スペーサーグループおよびHLA−G5抗原のアミノ酸配列を含むポリペプチド。
【請求項2】
β2ミクログロブリンが、ヒトb2ミクログロブリンである、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
β2ミクログロブリンが、配列番号2のアミノ酸残基21−119を含む、請求項1または2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
HLA−G5抗原が、ヒトHLA−G5抗原である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリペプチドであって、ここでHLA−G5抗原が、下記より選択される:
a)HLA−G抗原のα1、α2およびα3ドメインのアミノ酸配列;
b)HLA−G抗原のイントロン4によってコードされる21アミノ酸残基のアミノ酸配列ならびにα1、α2およびα3ドメインのアミノ酸配列;
c)配列番号2のアミノ酸残基135−末端;および
d)a)からc)のいずれか一つによって定義されるアミノ酸配列であって、1〜5個のアミノ酸欠失、置換または挿入を有するアミノ酸配列
【請求項6】
スペーサーグループが、8から20アミノ酸残基、好ましくは(G4S)n配列のペプチドであって、ここでnは2または3である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリペプチド。
【請求項7】
配列番号2またはそのアミノ酸残基21−末端を含む、ポリペプチドHLA−G5-B2M。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードする核酸分子。
【請求項9】
請求項8に記載の核酸分子を含む、ベクター。
【請求項10】
請求項8に記載の核酸分子または請求項9に記載のベクターを含む、リコンビナント宿主細胞。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリペプチドを生産する方法であって、ここで前記核酸分子の発現を可能にする条件下で請求項10に記載のリコンビナント宿主細胞を培養すること、そして生産された前記ポリペプチドを回収すること、を含む、前記ポリペプチドを生産する方法。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリペプチドの二量体。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリペプチドを含む医薬組成物。
【請求項14】
臓器または組織拒絶反応を処置するための、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
炎症性疾患または自己免疫疾患を処置するための、請求項14に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−507995(P2012−507995A)
【公表日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−535102(P2011−535102)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【国際出願番号】PCT/EP2009/064577
【国際公開番号】WO2010/052229
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(511110577)エイチエルエイ−ジー・テクノロジーズ (3)
【氏名又は名称原語表記】HLA−G TECHNOLOGIES
【出願人】(502124444)コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ (383)
【Fターム(参考)】