説明

HLA新規アリル

【課題】HLA−A抗原のサブタイプのひとつであるA24に含まれる新規アリルを提供する。
【解決手段】特定のアミノ酸配列をコードするHLA新規アリル、または、特定の塩基配列もしくはその相補配列を有するHLA新規アリルに関する。
【効果】新規アリルについて、オリゴヌクレオチドプローブを固相した複数のビーズを用いてHLA−A遺伝子の遺伝子型を解析したところ、A*2402が陽性となるプローブすべてに反応し、別のプローブにも陽性反応を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト白血球抗原(Human Leukocyte Antigen;以下、HLAと略す)の新規アリルに関する。
【背景技術】
【0002】
HLAのタイピングは移植時の適合性を判定するのみならず、疾患に対する個人の感受性の判定などにおいて重要性が注目されている。
【0003】
臓器移植を行う場合、臓器の提供者と患者の間でHLAの型がどれだけ一致しているかが移植成功率に大きく影響する。HLA型が一致しない場合、拒絶反応のため臓器が患者に生着せず、逆に提供者由来の免疫細胞のためにGVHD(移植片対宿主病(Graft-Versus-Host Disease))が発生し、患者の生命が危険にさらされることになる。また糖尿病など特定の病気の発症率とHLAの型の関連も指摘されている。HLAのタイピングはこのような医療技術の高度化に従い重要性を増したといえる。
【0004】
従来のHLAタイピングは、抗体を用いて行われる血清学的手法であった。近年の技術革新によりHLA分子をコードする遺伝子の配列より型分けを行う、いわゆる遺伝子タイピング法が主流となってきた。骨髄移植において遺伝子型でのマッチングが移植成績と相関することが明らかとなり、HLAの遺伝子タイピングは医療現場においても重要度を増してきている。
【0005】
塩基配列を確認する方法としては、シークエンシング反応により配列を決定するサンガー法(例えば、非特許文献1参照)などがある。コスト面からHLAの遺伝子タイピングは部分的な配列をプローブやプライマーとして利用し、その反応性から遺伝子配列を推定し、HLA型を決める方法が利用されている(例えば、非特許文献2、3参照)。
【0006】
HLA−A抗原のサブタイプのひとつであるA24に含まれる遺伝子型は2006年1月の時点で、66種類が報告されており、一部の地域を除き、最も頻度が高い遺伝子型はA*2402であるとされている(例えば、非特許文献4参照)。しかしながら、アリルの存在については充分検討されていないのが現状である。
【非特許文献1】Santamaria P. et al. HLA class I sequence-based typing. Hum Immunol. 37(1):39-50, 1993.
【非特許文献2】Bunce M. et al. Phototyping: comprehensive DNA typing for HLA-A, B, C, DRB1, DRB3, DRB4, DRB5 & DQB1 by PCR with 144 primer mixes utilizing sequence-specific primers (PCR-SSP). Tissue Antigens. 46(5):355-67, 1995.
【非特許文献3】Kawai S. et al. Routine low and high resolution typing of the HLA-DRB gene using the PCR-MPH (microtitre plate hybridization) method. Eur J Immunogenet. 23(6):471-86, 1996.
【非特許文献4】Allele Frequencies [online]、[平成18年2月1日検索]、インターネット<URL:http://www.allelefrequencies.net>
【発明の概要】
【0007】
従って、本発明の目的は、HLA−A抗原のサブタイプのひとつであるA24に含まれる新規アリルを提供することにある。
【0008】
本発明者らは今般、オリゴヌクレオチドプローブを固相した複数のビーズを用いてHLA−A遺伝子の遺伝子型を決める方法によって、A*2402が陽性となるプローブすべてに反応し、別のプローブにも陽性反応を示す遺伝子を見出した。本発明はかかる知見に基づくものである。
【0009】
即ち、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列をコードするHLA新規アリルを提供するものである。
【0010】
また本発明は、配列番号2の塩基配列又はその相補配列を有するHLA新規アリルを提供するものである。
【0011】
本発明により、HLA−A抗原の詳細なタイピングが可能となるため、移植時の適合性を判定するのみならず、疾患に対する個人の感受性の判定などにおいて、極めて有用となる。
【発明の具体的説明】
【0012】
本発明による新規アリルは下記のようにして得られたものである。
DNAタイピング法の1つであるPCR−SSOP(Sequence Specific Oligonucleotide probe)法に基づき、Luminex社のxMAP測定技術(http://www.luminexcorp.com/01_xMAPTechnology/index.html)を用いてHLA遺伝子のタイピングが可能なWAKFlow HLAタイピング試薬(湧永製薬製)を用いてHLA−A抗原の遺伝子型をタイピングしたところ、血液と口腔内粘膜スワブより抽出した2種類のDNA検体で既知の遺伝子型の反応が示されなかった。これらの検体では、遺伝子型がA*2402ホモ接合の場合に陽性となるプローブセットに加えて、3プローブにおいて陽性反応が見られた。
【0013】
これらの検体について、同じ試薬を用いて再タイピングを行ったところ、A*2402以外の反応を示した3種類のプローブは、全て114番目のアミノ酸付近(エクソン3の5’末端寄り)にある20塩基程度の領域に設定されており、A*31などのアリルで陽性となるプローブの一部であるが、この領域以外に設定されたプローブは陽性反応を示さなかった。
【0014】
ダイレクトシークエンシング法(Wong C. et al. Characterization of beta-thalassaemia mutations using directgenomic sequencing of amplified single copy DNA. Nature. 330:384-6, 1987.)によりこの領域の配列を確認した。エクソン3の上流と下流に設定したプライマーを用いて、センス鎖アンチセンス鎖の両側から配列を確認したところ、この領域内の2箇所の塩基について、それぞれ異なる2種類の塩基の存在を示す両峰性のピークが検出され、この検体がA*2402とA*2402のエクソン3に未知の変異を持つアリルのヘテロ接合である可能性が考えられた。
【0015】
配列を詳細に調べるため、HLA−A抗原遺伝子のエクソン2からエクソン3にかけて約1kbの領域をサブクローニングにより単離した。HLA−A抗原のエクソン2上流とエクソン3下流に設定したプライマーを用いて、PCR反応によりこの領域を増幅し、電気泳動で目的とする長さの断片を取り出してTAクローニングによりプラスミドベクターに取り込ませた。このプラスミドを用いて形質転換させた大腸菌を少量の培地で培養し、培地から回収した大腸菌よりプラスミドを抽出した。得られたプラスミドの中から約1kbのインサートの入ったものを制限酵素処理により選び出し、血液由来の検体より得られた13クローン、スワブ由来の検体より得られた10クローンのプラスミドについて配列を確認した。
【0016】
その結果、HLA−A*2402が10クローン、HLA−A以外の遺伝子が8クローン見つかった他、ダイレクトシークエンシング法で変異が示唆された2塩基に変異が存在するA*2402の変異型が5クローン見つかった。
【0017】
この遺伝子の塩基配列の確認を行った結果、図1のようにA*2402の配列のエクソン3内に2箇所の変異を確認した。これらの変異は、図2に示す114番目のアミノ酸がヒスチジンからグルタミンへ、116番目のアミノ酸がチロシンからアスパラギン酸へとアミノ酸が置き換わる非同義置換であった。A24に含まれる遺伝子型の中ではこれら二箇所のアミノ酸は共有されている。また、114番目、116番目のアミノ酸はHLA−A分子において抗原ペプチドをはさみこむ領域の内側に位置している。
【0018】
このことから、これらのアミノ酸はHLA−A分子に結合するペプチドモチーフにも重要な部位であり、免疫系において重要な役割を果たしている可能性が高い。したがって、A*2402と本発明の変異をもつ遺伝子型(A*2402V)とは、移植医療においては区別する必要があるので、臓器移植時の適合性判定などにおいて、HLA−A抗原のタイピング精度を高める上で、極めて有用かつ重要なものである。
なお、本発明において見出された新規アリルは、WHO命名によれば「A*2462」とされている。このため本明細書においては、新規アリルを、「A*2402V」または「A*2462」のいずれかで表示する。
【0019】
よって、本発明による新規アリルは、前記したように、配列番号1記載のアミノ酸配列をコードしてなるものであり、また、配列番号2記載の塩基配列又はその相補配列を有するものである。
【0020】
本発明の別の態様によれば、本発明によるHLA新規アリルでコードされるペプチドを有するタンパク質が提供される。本発明によるHLA新規アリルでコードされるペプチドを有するタンパク質も、アリルと同様に移植時の適合性判定などにおいて、極めて有用かつ重要なものである。
【0021】
本発明の別の態様によれば、HLA−A抗原のタイピング方法であって、遺伝子型の判定の際に、配列番号1のアミノ酸配列、配列番号2の塩基配列もしくはその相補配列、またはそれらから得られる配列変異情報を用いることを特徴とする方法が提供される。ここで、それらから得られる配列変異情報とは、図1および図2にも示されているように既知のアリル(A*2402)と本件新規アリル(A*2402V)との塩基配列またはアミノ酸配列を比較することにより得られる配列上の変異情報である。例えば、アミノ酸配列の場合であれば、前記したような、A*2402のアミノ酸配列上の、114番目のアミノ酸がヒスチジンからグルタミンへ、116番目のアミノ酸がチロシンからアスパラギン酸へと置き換わっている場合が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】既知のアリル(A*2402)とHLA新規アリル(A*2402V)との塩基配列の比較。
【図2】既知のアリル(A*2402)とHLA新規アリル(A*2402V)とのアミノ酸配列の比較。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1のアミノ酸配列をコードする、HLA新規アリル。
【請求項2】
配列番号2の塩基配列又はその相補配列を有する、HLA新規アリル。
【請求項3】
請求項1または2に記載のHLA新規アリルでコードされるペプチドを有する、タンパク質。
【請求項4】
遺伝子型の判定の際に、配列番号1のアミノ酸配列、配列番号2の塩基配列もしくはその相補配列、またはそれらから得られる配列変異情報を用いることを特徴とするHLA−A抗原のタイピング方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−228965(P2007−228965A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−25293(P2007−25293)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(000250100)湧永製薬株式会社 (51)
【Fターム(参考)】