説明

HMG−CoAレダクターゼ阻害剤含有経口固形製剤

【課題】経時安定性にすぐれたHMG−CoAレダクターゼ阻害薬を含有する経口固形製剤としての造粒物の提供。
【解決手段】HMG−CoAレダクターゼ阻害薬又は当該薬物と塩基性アミノ酸との混合物を胃溶性ポリマーで造粒してなる造粒物。該HMG−CoAレダクターゼ阻害薬としては、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン及びそれらの塩からなる群から選択されることが好ましい。該塩基性アミノ酸としては、アルギニン、リジン又はヒスチジンであることが好ましい。該胃溶性ポリマーとしては、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートまたはアミノアルキルメタクリレートコポリマーであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はHMG−CoAレダクターゼ阻害薬を含有する安定化された経口固形製剤に関する。HMG−CoAレダクターゼ阻害薬は高コレステロール血症の治療に対して有効な薬物であり、プラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン及びそれらの塩からなる群から選択される。ここでいうHMG−CoAレダクターゼ阻害薬はその薬学上許容される塩、水和物も含み、特定の塩を意味する場合を除き、フリー体で総称する場合もある。
【背景技術】
【0002】
HMG−CoAレダクターゼ阻害薬は一般的に熱、水分及び酸に対し不安定である。これらは共通してヒドロキシ酸を有し、酸性環境下では類縁物質であるラクトン体を生じ易いため、種々の安定化特許が出願されている。
【0003】
特許文献1はアトルバスタチンに対する安定化金属塩添加剤として、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウムのようなアルカリ土類金属塩を用いることが挙げられている。
特許文献2ではアルカリ土類金属塩がアトルバスタチンバイオアベイラビリティーに影響を及ぼすため使用量は極力少量に留めるべきであることが示されている。これらのアルカリ土類金属塩は水分の吸湿を招くため、錠剤のような経口固形剤の場合、高湿度条件下での硬度低下が懸念される。
特許文献3は開環されたヒドロキシ酸構造を有するHMG−CoAレダクターゼ阻害薬を有効成分として含み、その水性分散液もしくは水溶液のpHが9未満であることを特徴とする医薬組成物が記載され、安定化剤として塩基性アミノ酸が挙げられている。また構造中に金属を含む化合物と接触することにより安定性が損なわれるという知見に基づき、一切の金属化合物を排除した製剤例が開示されている。しかし、各HMG−CoAレダクターゼ阻害薬の構造を比較してみても、例えば複素環を有するものとそうでないものがあり、この違いは脂溶性に影響を及ぼし当然、性状にも違いを生じるものと考えられる。然るに、本件実施例ではプラバスタチンナトリウムしか検討されておらず、特許文献1の報告を鑑みると、当該発明がHMG−CoAレダクターゼ阻害薬全般に当てはまるのかは不明である。
特許文献4ではプラバスタチンを含有する錠剤にヒドロキシプロピルメチルセルロースを溶解したコーティング液で下掛けし、更にヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートマレエートまたはヒドロキシプロピルメチルセルローストリメリテートで外層コーティングした製剤がある。
特許文献5では同様にヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートで外層コーティングした製剤が開示されている。これらの外層コーティング剤はカルボキシル基を有するため、酸に不安定なHMG−CoAレダクターゼ阻害薬に直接コーティングできないので下掛けを要し、その工程は煩雑である。
特許文献6ではプラバスタチンナトリウムとD−マンニトールの混合物にアミノアルキルメタクリレートコポリマーまたはエチルセルロースをエタノールに溶かした液を噴霧コーティングし、顆粒を調整することが開示されている。
特許文献7は非晶質アトルバスタチンを含む固体分散物を得るために、溶融加工可能なポリマーを軟化又は溶融させてアトルバスタチンをポリマーの担体中に分散させる。そのため、混合温度は130〜180℃と高く、製造条件の制御が難しいと考えられる。
特許文献8は打錠障害を解決するために薬物の粉末又は当該薬物と添加物との混合粉末を造粒し、その造粒物の表面を高分子膜剤で被覆している。実施例11において、アトルバスタチンカルシウム及び軽質無水ケイ酸の造粒物にポリビニルアルコールの水溶液を被覆している。当該発明ではアトルバスタチンカルシウムに対してポリビニルアルコールを組合せた実施例及びその製剤のスティッキング発生レベルスコアしか示されておらず、当該方法で安定な製剤が得られるかは明らかでない。
本発明者らはHMG−CoAレダクターゼ阻害薬、例えばアトルバスタチンが高温環境下や水分を多く含む賦形剤と接触するとラクトン体が増加するなど好ましくない事象が発生することを見出した。本発明者らは特許文献6記載の技術をアトルバスタチンに適用してみたが、医薬品に要求される安定性を満たすものではなかった。
【0004】
【特許文献1】特表平08−505640号公報
【特許文献2】特表2006−527260号公報
【特許文献3】特開2003−055217号公報
【特許文献4】特開2000−159692号公報
【特許文献5】特開2000−264846号公報
【特許文献6】特開2004−339072号公報
【特許文献7】特表2008−521878号公報
【特許文献8】特開2009−089982号公報
【発明の開示】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、HMG−CoAレダクターゼ阻害薬を含有する経口固形剤において、経時安定性に優れた製剤を提供することを目的とする。
【0006】
本発明者らは、これら諸問題を解決するために鋭意検討した結果、HMG−CoAレダクターゼ阻害薬単体又は当該薬物と塩基性アミノ酸との混合物を胃溶性ポリマーで造粒すると薬物の熱及び湿度に対する安定性が高まることを見出した。また、上記造粒物に胃溶性ポリマーの粉体を添加し、造粒するとさらに効果が増大することも見出した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
HMG−CoAレダクターゼ阻害薬はプラバスタチン、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン及びそれらの塩からなる群から選択される。構造中に複素環を有するものが特に好ましく、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン及びそれらの塩が該当する。
【0008】
塩基性アミノ酸はα位のアミノ基のほかに,塩基性を示す残基をもつアミノ酸をいう。その水溶液又は分散液は塩基性を示し、例えば5%水溶液でpH>7を示すものをいう。本発明でいう塩基性アミノ酸はD体,L体およびDL体を含む。例として、アルギニン、リジン、ヒスチジンが挙げられ、特にL−アルギニンが本製剤の加湿環境下に対する安定性を保持する上で好適である。これら塩基性アミノ酸を薬物に混合する手法は、塩基性アミノ酸の粉体又は造粒物を薬物に直接混合するなどして、薬物と均質に接触されれば制限はない。一例として混合粉砕が上記目的に適っており、粉砕機にはボールミル、サンプルミル、ジェットミル等が用いられる。混合粉砕により薬物と塩基性アミノ酸の粒径が揃えられ、その後の造粒工程が容易になる利点もある。
【0009】
HMG−CoAレダクターゼ阻害薬又は当該薬物と塩基性アミノ酸との混合物は胃溶性ポリマーによって造粒される。胃溶性ポリマーとしては、アミノアルキルメタクリレートコポリマーおよび、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートが好ましく、アミノアルキルメタクリレートコポリマー(商品名オイドラギットE,EPO)が特に好ましい。これらのポリマーは単独で用いてもよいし、目的に応じ適当な比率で混合して造粒に供される。
【0010】
造粒は、薬物の安定性に配慮し、有機溶媒系で行われるのが好ましく、環境および人体に対して無害なエタノールまたは含水エタノールをベースに行われるのが特に好ましい。造粒方法は任意であるが、撹拌造粒又は流動層造粒が好ましい。撹拌造粒の場合、塩基性アミノ酸と混合した薬物を撹拌し、流動する粉体層に前記ポリマーの溶液が滴下または噴霧され、撹拌羽根による造粒とチョッパーによる解砕造粒により、造粒される。流動層造粒の場合、塩基性アミノ酸と混合した薬物を粉体状で流動させ、それへ前記ポリマーの溶液を噴霧し、さらに乾燥して造粒物を得る。また、ポリマーの全量又は一部を粉体のまま、塩基性アミノ酸及び薬物の混合物に投入し流動させてから、有機溶媒又は有機溶媒と残りのポリマーからなる溶液を噴霧してもよい。これらのポリマーは単独で用いてもよいし、目的に応じ適当な比率で混合してもよい。薬物に対する胃溶性ポリマーの比は、重量で0.03:1ないし2:1の範囲内が適当である。
【0011】
また、造粒は得られる造粒物が一定の粒度分布に収束するよう行われるべきである。例えば「体積平均粒子径(D50)」を指標にすると、得られる造粒物が
D50=0.5〜20(μm)になるのが好ましく、D50=1〜10(μm)がより好ましい。この範囲を逸脱すると打錠時の障害や溶出に影響を及ぼす。「体積平均粒子径(D50)」は例えば、スプレー粒度分布測定装置であるエアロトラックSPR(日機装株式会社製)を用いて求めることができる。
【0012】
錠剤を得る場合は、前記で得られた造粒物と、所望の賦形剤及び滑沢剤を適当な割合で混合し、打錠することによって製造される。別の態様として、この造粒物に粉体状態のポリマー、賦形剤及び崩壊剤を混合してから常法により2次造粒物を得て、これに適当な賦形剤、崩壊剤及び滑沢剤を混合して、打錠することもできる。この工程によって錠剤の熱及び湿度に対する安定性を更に高めることができる。これらのポリマーは単独で用いてもよいし、数種類を目的に応じ適当な比率で混合してもよい。
【0013】
錠剤には賦形剤及び滑沢剤のほかに、光安定化剤(酸化チタン、三二酸化鉄等)、甘味剤、着色剤を含ませることができる。
【実施例】
【0014】
HMG−CoAレダクターゼ阻害薬としてアトルバスタチンカルシウムを用いて、限定を意図しない以下の実施例によって本発明を説明する。
【0015】
実施例1
アトルバスタチンカルシウム水和物131.4gを高速攪拌造粒機(ハイスピードミキサー LFS−GS−2J)に投入し、ポリソルベート80 5.5g及びオイドラギットE4.6gを無水エタノール(99.5v/v%)38mLに溶解した液を噴霧し、さらに乾燥して造粒物を得た。この造粒物のD50は13μmであった。
【0016】
この造粒物11.8gに乳糖62.8g、結晶セルロース46g、クロスカルメロースナトリウム14g、ヒドロキシプロピルセルロースSL4gを混合し、さらにステアリン酸マグネシウム1.4gを加えて混合し、ロータリー式打錠機を用いて打錠し、錠剤を得た。
【0017】
フィルムコーティング工程
この錠剤に1錠あたりのコーティング量が下記に示す量になるよう、コーティング液を調整し、逐次常法により錠剤をフィルムコーティングした。
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(TC−5R):2.9mg
酸化チタン:0.2mg
タルク:0.4mg
ポリエチレングリコール6000:0.5mg
【0018】
実施例2
アトルバスタチンカルシウム水和物130.2gを高速攪拌造粒機(ハイスピードミキサー LFS−GS−2J)に投入した後、ポリソルベート80 5.5g及びオイドラギットE4.6gを無水エタノール(99.5v/v%)16mLに溶解した液を噴霧し、さらに乾燥して造粒物を得た。この造粒物のD50は2.6μmであった。
【0019】
2次造粒工程
この造粒物35.1gに乳糖188.7g、結晶セルロース138.0g、クロスカルメロースナトリウム21.0g、ヒドロキシプロピルセルロースSL9.9gを高速攪拌造粒機(ハイスピードミキサー LFS−GS−2J)に投入した後混合し、ヒドロキシプロピルセルロースSL2.1gを無水エタノール(99.5v/v%)32mLに溶解した液を噴霧し、さらに乾燥して2次造粒物を得た。この2次造粒物363.2gにクロスカルメロースナトリウム19.3g,さらにステアリン酸マグネシウム3.9gを加えて混合し、ロータリー式打錠機を用いて打錠し、錠剤を得た。
【0020】
実施例3
実施例2で得られた錠剤を用い、実施例1と同様にフィルムコーティング錠を得た。
【0021】
実施例4
アトルバスタチンカルシウム水和物1300.8gとL−アルギニン120.0gをハンマー式微粉砕機(Sample Mill KIIW−2)に仕込み60分間粉砕した。この混合粉砕末142.2gを高速攪拌造粒機(ハイスピードミキサー LFS−GS−2J)に投入した後、ポリソルベート80 5.5g及びオイドラギットE4.6gを無水エタノール(99.5v/v%)16mLに溶解した液を噴霧し、さらに乾燥して造粒物を得た。この造粒物のD50は2.5μmであった。以下、実施例1,2に準じて2次造粒工程及びフィルムコーティング工程に従い、フィルムコーティング錠を得た。
【0022】
実施例5
アトルバスタチンカルシウム水和物1300.8gとL−アルギニン240.0gをハンマー式微粉砕機(Sample Mill KIIW−2)に仕込み60分間粉砕した。この混合粉砕末154.0gを高速攪拌造粒機(ハイスピードミキサー LFS−GS−2J)に投入した後、ポリソルベート80 5.5g及びオイドラギットE4.6gを無水エタノール(99.5v/v%)16mLに溶解した液を噴霧し、さらに乾燥して造粒物を得た。この造粒物のD50は2.6μmであった。以下、実施例1,2に準じて2次造粒工程及びフィルムコーティング工程に従い、フィルムコーティング錠を得た。
【0023】
実施例6
アトルバスタチンカルシウム1300.8gとL−アルギニン120.0gをハンマー式微粉砕機(Sample Mill KIIW−2)に仕込み60分間粉砕した。この混合粉砕末130.2gとオイドラギットEPO6gを、高速攪拌造粒機(ハイスピードミキサー LFS−GS−2J)に投入した後、ポリソルベート80 5.5g及びオイドラギットE 4.6gを無水エタノール(99.5v/v%)16mLに溶解した液を噴霧し、さらに乾燥して造粒物を得た。この造粒物のD50は2.5μmであった。以下、実施例1,2に準じて2次造粒工程及びフィルムコーティング工程に従い、フィルムコーティング錠を得た。
【0024】
比較例1
アトルバスタチンカルシウム水和物130.2gを高速攪拌造粒機(ハイスピードミキサー LFS−GS−2J)に投入し、ポリソルベート80 5.6gを無水エタノール(99.5v/v%)16mLに溶解した液を噴霧し、さらに乾燥して造粒物を得た。この造粒物のD50は4.9μmであった。以下、2次造粒工程及びフィルムコーティング工程に従い、フィルムコーティング錠を得た。
【0025】
安定性試験1
実施例1〜6及び比較例1の錠剤を開放条件下(40℃75%RH)に保存し、1週間後及び2週間後に生成したラクトン体量を以下の条件で液体クロマトグラフ法により測定した。結果を表1に示す。
【0026】
安定性試験2
実施例5及び比較例1の錠剤を密閉条件下(70℃)に保存し、1週間後及び2週間後に生成したラクトン体量を以下の条件で液体クロマトグラフ法により測定した。結果を表2に示す。
【0027】
ラクトン体測定条件
検出器:紫外線吸光光度計(測定波長:245nm)
カラム:ODS
流量:0.4mL/min
移動相A:酢酸アンモニウム水溶液+メタノール+ギ酸
移動相B:アセトニトリル

【0028】
【表1】

【0029】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
HMG−CoAレダクターゼ阻害薬又は当該薬物と塩基性アミノ酸との混合物を胃溶性ポリマーで造粒してなる造粒物。
【請求項2】
HMG−CoAレダクターゼ阻害薬がフルバスタチン、アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン及びそれらの塩からなる群から選択される請求項1の造粒物。
【請求項3】
塩基性アミノ酸がアルギニン、リジン又はヒスチジンから選ばれる請求項1の造粒物。
【請求項4】
胃溶性ポリマーが、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートまたはアミノアルキルメタクリレートコポリマーから選ばれる請求項1の造粒物。
【請求項5】
HMG−CoAレダクターゼ阻害薬又は当該薬物と塩基性アミノ酸との混合物を胃溶性ポリマーで造粒し、これに任意の賦形剤及び崩壊剤を加えて造粒して得られた2次造粒物に任意の賦形剤、崩壊剤及び滑沢剤を混合し、打錠して得られる錠剤。
【請求項6】
2次造粒物が粉体の胃溶性ポリマーを含む請求項5の錠剤。

【公開番号】特開2011−144120(P2011−144120A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−4802(P2010−4802)
【出願日】平成22年1月13日(2010.1.13)
【出願人】(591040753)東和薬品株式会社 (23)
【Fターム(参考)】