説明

HPVE6、E7mRNAアッセイ、及びその使用方法

【課題】悪性形質転換を起こす正常な子宮頸部細胞、並びに前悪性又は悪性病変を有する異常な子宮頸部細胞を高感度且つ特異的に検出すること可能にするHPV E6, E7 mRNAアッセイ(ここでは、「細胞内HPVアッセイ(In Cell HPV Assay)」と称する)を提供する。
【解決手段】前記細胞内HPVアッセイは、HPV E6, E7 mRNAに特異的なオリゴヌクレオチドを使用するin situハイブリダイゼーションによってHPV E6, E7 mRNAを同定し、フローサイトメトリーによってHPV E6, E7 mRNAを定量する。前記細胞内HPVアッセイは、液状子宮頸部細胞診(LBC)検体から直接的に3時間未満で実施し得る。前記細胞内HPVアッセイは、異常な子宮頸部細胞の診断のためのPap塗抹試験に代わる、効率的且つ高感度な方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、子宮頸癌及び子宮頸部病変のようなHPV関連疾患の検出のためのHPV mRNAアッセイに関する。より具体的には、本発明は、子宮頸部細胞におけるHPV E6, E7 mRNAの同定及び定量をするアッセイに関する。HPV E6, E7 mRNAアッセイ(ここでは、「細胞内HPVアッセイ(In Cell HPV Assay)」と称する)は、癌性及び前癌性の異常な細胞、並びに悪性形質転換を起こす正常な細胞の高感度且つ特異的な検出を可能にする。
【背景技術】
【0002】
子宮頸癌は、米国において一年に約13,000人、世界中で400,000人の女性が罹患している。90%の子宮頸癌は、高リスクのHPV DNA株16及び18(各々「HPV-16」及び「HPV-18」)を含有する。対照的に、低リスクのHPV、例えばHPV-6及びHPV-11は、滅多に癌を発症させない。低リスクのHPV及び高リスクのHPVの存在が、ポリメラーゼ連鎖反応(「PCR」)又はHybrid Capture(登録商標) II HPV Test (「HC II HPV Test」;Digene Corp., Gaithersburg, MD.)を使用して同定されている。
【0003】
パパニコラウ(「Pap」)塗抹試験は、子宮頚部上の扁平上皮病変(「SIL」)の存在を試験することによって、子宮頸癌の患者のリスクを評価する。Pap塗抹試験は、50年以上に亘って米国におけるケアの標準であり、子宮頸癌による死亡における74%の低減をもたらした。しかしながら、前記Pap塗抹試験は欠点が無いわけではなく、特に子宮頸部の検体採取及び解釈における誤りが58%にすぎないPap塗抹試験の感度の一因となっているHakama, Screening for Cervical Cancer, CANCER TREND RES. 86:41-49 (1996); Nanda et al., Accuracy of the Papanicolaou Test in Screening for and Follow-up of Cervical Cytologic Abnormalities, ANN. INTERN. MED. 132:810-819 (2000)。1996年に、食品医薬品局は、SILのスクリーニングのための従来のPap塗抹試験の代替方法として、ThinPrep(登録商標) Pap Test (Cytec Corp., Marlborough, MA)を認可した。ThinPrep testは、自動単層スライド生産(automated monolayer slide production)と共に液状細胞診(「LBC」)を使用してSILをスクリーニングする。LBCの使用は、適当な検体及びSILの検出における増大をもたらした。しかしながら、LBCサンプルは、80%にすぎない感度を有する(Corkill et al., Specimen Adequacy of the ThinPrep Sample Preparations in a Direct-to-Vial Study, ACTA CYTOL. 41 :39-44 (1997); Wilbur et al., Clinical Trials of the CYTORICH Specimen-Preparation Device for Cervical Cytology, ACTA CYTOL. 41 :24-29 (1997))。
【0004】
HPVのライフサイクルは、高リスクのHPVを有する女性が低悪性度のSIL(「LGSIL」、すなわち、早期の前悪性病変に由来するSIL)又は高悪性度のSIL(「HGSIL」、すなわち、進行した前悪性病変に由来するSIL)のいずれかを発症して癌に進行し、一方で低リスクのHPVを有する女性はその様にならないことを示すであろうが、実際には、高リスクのHPVに感染してLGSIL又はHGSILを示す少数の女性のみが、癌に進行するであろう。下表は、ASCUS(意義不明な異常扁平上皮細胞)、LGSIL、及びHGSILを使用するPap塗抹試験又はLBCによって診断された女性の退行及び進行の割合を示す(Melnikow et al., Natural History of Cervical Squamous Intraepithelial Lesions: A Meta-Analysis, J. OBSTET. GYNECOL. 92:727-735 (1998); Woodman et al., Natural History of Cervical Human Papillomavirus Infection in Young Women: A Longitudinal Cohort Study, LANCET 357: 1831 -1836 (2001))。
【0005】
【表1】

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Hakama, Screening for Cervical Cancer, CANCER TREND RES. 86:41-49 (1996)
【非特許文献2】Nanda et al., Accuracy of the Papanicolaou Test in Screening for and Follow-up of Cervical Cytologic Abnormalities, ANN. INTERN. MED. 132:810-819 (2000)
【非特許文献3】Corkill et al., Specimen Adequacy of the ThinPrep Sample Preparations in a Direct-to-Vial Study, ACTA CYTOL. 41 :39-44 (1997)
【非特許文献4】Wilbur et al., Clinical Trials of the CYTORICH Specimen-Preparation Device for Cervical Cytology, ACTA CYTOL. 41 :24-29 (1997)
【非特許文献5】Melnikow et al., Natural History of Cervical Squamous Intraepithelial Lesions: A Meta-Analysis, J. OBSTET. GYNECOL. 92:727-735 (1998)
【非特許文献6】Woodman et al., Natural History of Cervical Human Papillomavirus Infection in Young Women: A Longitudinal Cohort Study, LANCET 357: 1831 -1836 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の表におけるデータが明示するように、ASCUS、LGSIL、及びHGSILを使用して診断された女性の大半は癌に進行しない。したがって、異常なSILの存在を同定するに過ぎない従来のPap塗抹試験及びLBC試験の双方は、悪性の可能性がある病変から良性の病変を区別する効果的な試験ではない。同様に、ASCUS、LGSIL、及びHGSILを使用して診断された女性の大半は多くの場合において高リスクのHPVに感染しているため、高リスクHPVの感染を同定することも、子宮頸癌検出のための生物学的に関連するインディケーターではないということになる。したがって、当該技術分野において、子宮頸癌をスクリーニングするより高感度の方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、子宮頸部細胞における細胞内HPV E6, E7 mRNAのスクリーニング、検出、及び定量によって、子宮頸癌をスクリーニングするためのアッセイ及び方法を提供することにより、当該技術分野における前述の必要性における要求を克服する。本発明者の知る限りでは、その様なHPV E6, E7 mRNAアッセイは、過去に公開又は開示されていない。
【0009】
本発明の第一の態様では、(a)個体から子宮頸部細胞を得る工程、(b)液状細胞診(LBC)検体として前記子宮頸部細胞を調製する工程、及び(c)HPV E6, E7 mRNAに特異的なオリゴヌクレオチドを使用して、前記LBC検体をハイブリダイズさせる工程を含む、子宮頸部細胞の悪性形質転換を判定するためのアッセイであって、HPV E6, E7 mRNAの発現が前記子宮頸部細胞の悪性形質転換を示すアッセイを提供する。本発明のこの態様では、HPV E6, E7 mRNAがフローサイトメトリーによって定量されて良い。
【0010】
本発明の第2の態様では、子宮頸部細胞におけるHPV E6, E7 mRNAの発現を同定する工程を含む、子宮頸部細胞の悪性形質転換について患者をスクリーニングする方法を提供する。好ましい実施態様では、HPV E6, E7 mRNAは、HPV E6, E7 mRNAに特異的なオリゴヌクレオチドを使用するin situハイブリダイゼーションを使用して同定され、フローサイトメトリーを使用して定量される。
【0011】
子宮頸部細胞の一般的な悪性形質転換は、1細胞当たり2から1000コピーのHPV E6, E7 mRNAの発現、好ましくは1細胞当たり5から750コピーのHPV E6, E7 mRNAの発現、より好ましくは1細胞当たり10から500コピーのHPV E6, E7 mRNAの発現、最も好ましくは1細胞当たり200コピー以上のHPV E6, E7 mRNAの発現によって示される。
【0012】
上記アッセイ及び方法の双方において使用されて良い子宮頸部細胞は、正常な細胞、意義不明な異常扁平上皮細胞(ASCUS)、低悪性度の扁平上皮内病変(LGSIL)を有する細胞、並びに高悪性度の上皮内病変(HGSIL)を有する細胞からなる群から選択されて良い。
【0013】
本発明の第3の態様では、子宮頸部細胞におけるHPV E6, E7 mRNAの発現を定量する工程を含む、前悪性子宮頸部細胞についての異常な子宮頸部細胞を有する患者のスクリーニング方法であって、1細胞当たり200コピー以上のHPV E6, E7 mRNAを発現する細胞が悪性の可能性がある細胞を示し、200コピー未満のHPV E6, E7 mRNAを発現する細胞が良性の細胞を示す方法を提供する。異常な子宮頸部細胞は、意義不明な異常扁平上皮細胞(ASCUS)、低悪性度の扁平上皮内病変(LGSIL)、並びに高悪性度の上皮内病変(HGSIL)を有する細胞を有する細胞からなる群から選択される。好ましい実施態様では、HPV E6, E7 mRNAは、HPV E6, E7 mRNAに特異的なオリゴヌクレオチドを使用するin situハイブリダイゼーションを使用して同定され、フローサイトメトリーを使用して定量される。
【0014】
本発明の第4の態様では、(a)個体から子宮頸部細胞を得る工程;(b)液状細胞診(LBC)検体として前記子宮頸部細胞を調製する工程;(c)CD16及びCAM 5.2の組み合わせを使用して前記子宮頸部細胞を染色する工程;並びに(d)HPV E6, E7 mRNAに特異的なオリゴヌクレオチドを使用して、前記LBC検体をハイブリダイズさせる工程を含む、悪性形質転換した子宮頸部細胞タイプを同定するアッセイであって、好中球がCD16+染色によって同定され、円柱子宮頚管内膜細胞がCD16-, CAM 5.2+染色によって同定され、扁平子宮膣部細胞がCD16-, CAM 5.2-染色によって同定され、HPV E6, E7 mRNAの発現が前記子宮頸部細胞の悪性形質転換を示すアッセイを提供する。本発明のこの態様では、1細胞当たりのHPV E6, E7 mRNAの発現がフローサイトメトリーを使用して定量されて良く、前記子宮頸部細胞の悪性形質転換が、1細胞当たり2から1000コピーのHPV E6, E7 mRNAの発現、好ましくは1細胞当たり5から750コピーのHPV E6, E7 mRNAの発現、より好ましくは1細胞当たり10から500コピーのHPV E6, E7 mRNAの発現、最も好ましくは1細胞当たり200コピー以上のHPV E6, E7 mRNAの発現によって示される。悪性形質転換した円柱子宮頚管内膜細胞が、前腺癌又は腺癌の子宮頸部の状態を示し、悪性形質転換した扁平子宮膣部細胞が、前扁平細胞癌又は扁平細胞癌の子宮頸部の状態を示す。
【0015】
本発明の更に別の態様、利点、及び特徴は、部分的には、以下に記載されており、部分的には、以下の試験から当業者には明らかになるか、又は本発明の実施によって知られても良い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】HPV-の正常な子宮膣部細胞並びにHPV+のSiHa及びHeLa細胞において、定量のためにフローサイトメトリーを使用する細胞内HPVアッセイによって定量されたHPV E6, E7 mRNAの平均蛍光強度(「MFI」)と、リアルタイム逆転写酵素PCR(「リアルタイムRT-PCR」)によって定量されたHPV E6 mRNAのコピー数との間の関係を示す図である。
【図2】HPV-の正常な子宮膣部細胞中におけるHPV+のHeLa細胞の混合集団の連続的な希釈と、フローサイトメトリーを使用する細胞内HPVアッセイによって定量されたHPV E6, E7 mRNAを発現している細胞の混合集団における割合との間の直線的な関係を示す図である。
【図3AB】図3Aから3Eは、スライド上で染色された異常細胞及び正常細胞の検出及び形態を正確に示す(スケールバー:20μm)。図3Aは、HPV E6, E7 mRNAを発現する異常細胞の形態を示し、図3Bは、正常な扁平上皮細胞の形態を示す。
【図3CD】図3Aから3Eは、スライド上で染色された異常細胞及び正常細胞の検出及び形態を正確に示す(スケールバー:20μm)。図3Cから3Eは、異常細胞が特徴的な細胞質に対する核の高い割合を有するが(矢印)、正常細胞は細胞質に対する核の低い割合を示す(矢頭)。
【図3E】図3Aから3Eは、スライド上で染色された異常細胞及び正常細胞の検出及び形態を正確に示す(スケールバー:20μm)。図3Cから3Eは、異常細胞が特徴的な細胞質に対する核の高い割合を有するが(矢印)、正常細胞は細胞質に対する核の低い割合を示す(矢頭)。
【図4A】光散乱によってゲーティングされ、子宮膣部細胞を同定するためにCD16-及びCAM 5.2-の組み合わせを使用して染色され、本発明の細胞内HPVアッセイを使用してHPV E6, E7 mRNA発現について分析された、正常細胞及び異常細胞のフローサイトメトリーヒストグラムを示す。図4Aは、子宮膣部細胞の染色について選択(第2のボックス)されたサンプル(第一の内部のボックス)、並びにHPV E6, E7 mRNAを発現する細胞のサンプルにおける割合を測定するためのカットオフポイントとして使用した1細胞当たり100コピーで、細胞内HPVアッセイを使用してHPV E6, E7 mRNAについて分析した子宮膣部細胞の選択されたサンプル(第2の内部のボックス)を使用した前方及び側方分散(第1のボックス)による子宮頸部細胞の分析を示す。
【図4B−I】図4Bから4Iは、光散乱によってゲーティングされ、子宮膣部細胞を同定するためにCD16-及びCAM 5.2-の組み合わせを使用して染色され、本発明の細胞内HPVアッセイを使用してHPV E6, E7 mRNA発現について分析された正常細胞及び異常細胞のフローサイトメトリーヒストグラムを示す。図4Bから4Eは、異常な細胞診(HGSIL)を有する4人の女性に適用したアッセイを示し、図4Fから4Iは、正常な細胞診(WNL)を有する4人の女性に適用したアッセイを示す。各々のサンプルにおいて1細胞当たり100コピーを超えるHPV E6, E7 mRNAを発現する細胞の割合をボックスの右上部に示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
定義及び用語
本発明の詳細な実施態様を記載する前に、本発明の記載において使用される定義を説明することが有用であろう。以下の定義が、本発明の記載において使用される。定義において使用される専門用語は、本発明の特定の実施態様を記載するためのものであり、これに限定することを意図しない。
【0018】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用される、単数形の「a」、「an」、及び「the」は、文脈が明らかに他を示していない限り、複数形の対象を含む。
【0019】
用語「細胞内HPVアッセイ(In Cell HPV Assay)」は、実施例1及び2に記載した同時の免疫蛍光及び超高感度の蛍光in situハイブリダイゼーションアッセイを示す。前記細胞内HPVアッセイは、SILにおいて非常に低コピーのHPV E6, E7 mRNAの存在を検出することによって、癌性及び前癌性のSILを同定することができる。適当な場合には、細胞内HPVアッセイによって検出されたHPV E6, E7 mRNAは、フローサイトメトリーを使用して定量されて良い。かくして、ここで記載したように、用語「細胞内HPVアッセイ」は、HPV E6, E7 mRNAの同定及び適当な場合には定量を示すために通常は使用される。
【0020】
用語「ベセズダ分類」は、Pap塗抹試験及びThinPrep Pap試験の分析のための現在使用されている分類系を示す。ベセズダ分類は、www.cytopathology.org/NIHに記載されており、本明細書で既に記載したWNL、ASCUS、LGSIL、及びHGSIL、並びに悪性形質転換した子宮頸部細胞のための用語「扁平細胞癌」といった分類を含む。ベセズダ分類は、「細胞診」としても本明細書で記載している。
【0021】
本明細書で使用する用語「子宮頸部細胞」は、子宮頸部の表面を覆う扁平上皮細胞を通常は意味する。前記用語は、正常子宮頸部細胞、並びに異常な子宮頸部細胞、つまり、ASCUS、LGSIL、HGSIL、及び扁平細胞癌を含んで使用される。
【0022】
用語「扁平上皮内病変」又は「SIL」は、子宮頸部扁平細胞上に形成する病変を示し、低悪性度(LGSIL)及び高悪性度(HGSIL)の病変の双方を含む。
【0023】
用語「腺癌」及び「扁平細胞癌」は、腺の悪性の上皮細胞腫瘍(腺癌)及び扁平上皮の悪性腫瘍(扁平細胞癌)を示すために従来から使用されている。用語「前腺癌」及び「前扁平細胞癌」は、まだ悪性形質転換していない病変を示す。本明細書で使用する用語「腺癌」及び「前腺癌」は、子宮頚部の腺上皮の腫瘍及び病変を示し、用語「扁平細胞癌」及び「前扁平細胞癌」は子宮頸部の扁平上皮細胞の腫瘍及び病変を示す。
【0024】
用語「核酸アナライト」は、全ての核酸、例えば全てのDNA及びRNA、並びにそれらの断片を通常は意味する。本発明において、前記用語は、DNA、RNA、及びmRNAを含む。
【0025】
本明細書で使用する用語「標的の増幅」は、数十億コピーの核酸標的を生産することが可能な、酵素を介した手法を示す。当該技術分野において既知の酵素を介した標的の増幅手法の例は、PCR、核酸配列に基づく増幅(「NASBA」)、転写介在増幅(「TMA」)、鎖置換増幅(「SDA」)、及びリガーゼ連鎖反応(「LCR」)を含む。
【0026】
最も広範に使用されている標的の増幅法は、米国特許第4,683,195号においてMullins et al.及び米国特許第4,683,202号においてMullisによってDNAの増幅について最初に発見されたPCRである。PCR法は、当業者によく知られている。PCR反応の出発物質がRNAである場合は、逆転写酵素を介してRNAから相補鎖DNA(「cDNA」)を作製する。RNA生産物を増幅するために使用するPCRは、逆転写PCR又は「RT-PCR」と称される。
【0027】
本明細書で使用する用語「タイプ特異的PCR」は、高リスクのHPV DNA及び低リスクのHPV DNAを同定するPCRの使用を意味する。
【0028】
リアルタイムPCR及びリアルタイムRT-PCRは、同一又は異なるオリゴヌクレオチド基質に蛍光源色素分子及び消光剤部分を連結させることによって生じる蛍光シグナルを介するPCR産物の検出を意味する。リアルタイムPCR及びリアルタイムRT-PCRにおいて一般的に使用されるプローブの例は、以下のプローブ:Taqman(登録商標) probe、Molecular Beacons probe、Scorpions(登録商標) probe、及びSYBR(登録商標) Green probeを含む。簡単には、Taqman probe、Molecular Beacons、及びScorpion probeの各々は、プローブの5'末端に結合した蛍光レポーター色素(「蛍光体(fluor)」とも称される)及びプローブの3'末端に結合した消光剤部分を有する。ハイブリダイズしていない状態では、蛍光体と消光剤分子との近接性がプローブからの蛍光シグナルの検出を妨げており;PCRの間に、ポリメラーゼが、プローブの結合した鋳型を増幅する際に、ポリメラーゼの5'ヌクレアーゼ活性がプローブを切断し、かくして各複製サイクルと共に蛍光を増大させる。SYBR Greenプローブは二本鎖DNAに結合し、励起されて発光し;かくしてPCR産物として蓄積して、蛍光が増大する。
【0029】
本発明では、リアルタイムRT-PCRが、異常な子宮頸部サンプル中の腫瘍形成性mRNA、例えばHPV-16及びHPV-18において認められるE6 mRNAを同定するために使用される。リアルタイムRT-PCRは、Taqman probeと共に、実施例6及び7において使用されている。Taqman probeは、PCR産物の内部領域にハイブリダイズするように設計される。ハイブリダイズしていない状態では、蛍光体と消光剤分子との近接性がプローブからの蛍光シグナルの検出を妨げる;PCRの間に、ポリメラーゼが、Taqmanプローブの結合した鋳型を増幅する際に、ポリメラーゼの5'-ヌクレアーゼ活性がプローブを切断し、かくして各複製サイクルと共に蛍光を増大させる。
【0030】
用語「シグナル増幅」は、標的の量に正比例して標的のシグナルを増幅することによって、サンプル中の核酸アナライトの量を検出及び定量することが可能な技術を意味する。標的の量は変化しないため、シグナル増幅法は、サンプル中の核酸アナライトの量を定量するのに有用である。シグナル増幅法の当該技術分野において既知の例は、分枝DNA(bDNA)シグナル増幅(Bayer Healthcare LLC, Tarrytown, N.Y.)、Hybrid Capture(「HC」;Digene Corp., Gaithersburg, MD.)、及びTyramideシグナル増幅(「TSA」Perkin Elmer, Inc., Wellesley, MA)。
【0031】
本発明では、HC II HPV試験が、臨床サンプルにおいてHPV DNAの存在を検出するために使用するシグナル増幅アッセイである。HC II HPV試験は、以下の工程:ウイルスを破壊する基礎溶液と臨床検体を混合して標的DNAを放出させる;RNA:DNA混成物を生じる特異的なRNAプローブと標的DNAを結合させる;多数のRNA混成物をRNA:DNA混成物に特異的な普遍的な捕捉抗体でコーティングした固相に捕捉する;補足したRNA:DNA混成物をアルカリホスファターゼ(「AP」;増幅は3000倍に達し得る)に結合した多数の抗体で検出する;並びに、化学発光ジオキセタン基質を使用して、結合アルカリホスファターゼを検出する、を含む。APにより切断されると、前記基質は、相対発光量(「RLU」)においてルミノメーターで測定され得る光を生じる。HC II HPC試験は、13の高リスクのHPVタイプ:HPV-16、HPV-18、HPV-31、HPV-33、HPV-35、HPV-39、HPV-45、HPV-51、HPV-52、HPV-56、HPV-58、HPV-59、及びHPV-68を検出することが可能である。
【0032】
HPV E6, E7 mRNAの同定及び定量
本発明は、細胞内におけるHPV E6, E7 mRNAの存在を検出することによって、前癌性及び癌性の子宮頸部細胞を同定するHPV E6, E7 mRNAアッセイ(細胞内HPVアッセイ)を提供する。HPV E6, E7 mRNAは、子宮頸部の細胞の悪性形質転換を検出するための高感度なバイオマーカーであるため、本明細書に記載した細胞内HPVアッセイは、異常な細胞診を示す細胞、例えばASCUS、LGSIL、及びHGSIL(実施例6及び7)に加えて、正常な細胞診を示す子宮頸部細胞の悪性形質転換を検出することが可能である。
【0033】
細胞内HPVアッセイは、HPV E6, E7 mRNAオリゴヌクレオチドプローブを使用するin situハイブリダイゼーションアッセイ、及び適当な場合にHPV E6, E7 mRNAを定量するためのフローサイトメトリーからなる。実施例1及び2は、細胞内HPVアッセイを実施するための2つの異なるin situハイブリダイゼーションの方法論を記載しており、実施例3は、HPV E6, E7 mRNAを定量するためのフローサイトメトリーの使用を記載している。
【0034】
前述の原理に基づいて、本発明の第1の実施態様では、(a)個体から子宮頸部細胞を得る工程;(b)LBC検体として前記子宮頸部細胞を調製する工程;及び(c)HPV E6, E7 mRNAに特異的なオリゴヌクレオチドを使用して、前記LBC検体をハイブリダイズさせる工程を含む、子宮頸部細胞の細胞診をするためのアッセイであって、HPV E6, E7 mRNAの発現が前記子宮頸部細胞の悪性形質転換を示すアッセイを提供する。本発明のこの第一の実施態様では、前記HPV E6, E7 mRNAがフローサイトメトリーを介して定量されて良い。
【0035】
本発明の第2の実施態様では、子宮頸部細胞におけるHPV E6, E7 mRNAの発現を同定する工程を含む、子宮頸部細胞の悪性形質転換について患者をスクリーニングする方法を提供する。この第2の実施態様では、前記HPV E6, E7 mRNAは、in situハイブリダイゼーションを使用して同定され、フローサイトメトリーを使用して定量される。
【0036】
本発明の第1及び第2の実施態様のアッセイ及び方法の双方において、子宮頸部細胞は、正常細胞、意義不明な異常扁平上皮細胞(ASCUS)、低悪性度の扁平上皮内病変(LGSIL)を有する細胞、及び高悪性度の上皮内病変(HGSIL)を有する細胞からなる群から選択される。上述のように、子宮頸部細胞診の他の利用可能な方法を超える、細胞内HPVアッセイの非常に有利な点は、HPV E6, E7 mRNA発現の検出を介する細胞内HPVアッセイは、外見上正常な細胞における早期の悪性形質転換を同定し得る点である。子宮頸部細胞のスクリーニングの現在利用可能な方法には、その様な感度及び特異性が可能なものは存在しない。正常な細胞診の細胞におけるHPV E6, E7 mRNAを検出する細胞内HPVアッセイの能力は、実施例6及び7に記載している。実施例6では、正常な子宮頸部細胞診を有する高リスクの女性41人のうち3人が、細胞内HPVアッセイを使用するとHPV E6, E7 mRNAに関して陽性反応を示し、実施例7では、低リスクの女性109人のうち10人がHPV E6, E7 mRNAに関して陽性反応を示した。かくして、これらの女性の「正常」細胞における悪性形質転換を示した。
【0037】
上述のように、細胞内HPVアッセイの診断結果は、リアルタイムRT-PCRを使用して実施例6及び7において、及びリアルタイムRT-PCRとHC II HPV試験の双方を使用して実施例7において確認された。上述のように、及び実施例7に再び記載されているように、本発明の細胞内HPVアッセイは、子宮頸癌の検出に関して、HC II HPV試験よりも優れている。なぜならば、細胞内HPVアッセイは、非常に早期の悪性形質転換した細胞を検出しうるが、HC II HPV試験は、高リスクのHPV DNA、つまり細胞の悪性形質転換の指標(インジケーター)ではないHPV-16及びHPV-18を検出するに過ぎないからである。細胞内HPVアッセイは、子宮頸癌の検出に関して、リアルタイムRT-PCRの使用よりも優れている。なぜならば、細胞集団の増幅を同定するに過ぎない標的増幅法であるリアルタイムPCRと異なり、細胞内HPVアッセイは、個々の細胞の増幅を同定し得る非常に特異的な方法だからである。換言すると、本発明の細胞内HPVアッセイに由来する100万コピーのHPV E6, E7 mRNAに対して、リアルタイムRT-PCRに由来する100万コピーのHPV E6, E7 mRNAの増幅を比較すると、リアルタイムRT-PCRは、100万コピーの遺伝子が生産されたことを識別し得るに過ぎず、対照的に、細胞内HPVアッセイは、幾つの細胞が100万コピーを生産したか正確に識別し得る。かくして、リアルタイムRT-PCRでは、当業者は、100万の個別細胞が、正常細胞として100万のコピーを生産したのかどうか、又は1千の細胞が、癌において生じるように、各々1千の細胞を生産したのかどうか同定し得ないであろう。本発明の細胞内HPVアッセイは、フローサイトメトリーによる定量を介して、細胞ごとに生産されるHPV E6, E7 mRNAの正確なコピー数を同定することによって、リアルタイムRT-PCRにおける当該問題点を克服するものである。この方法において、実施例6及び7では、リアルタイムRT-PCRをHPV E6, E7 mRNAの存在を確認するためにのみ使用した。
【0038】
本発明の第1及び第2の実施態様の双方において、子宮頸部細胞の悪質形質転換が、1細胞当たり2から1000コピーのHPV E6, E7 mRNAの発現、好ましくは1細胞当たり5から750コピーのHPV E6, E7 mRNAの発現、より好ましくは1細胞当たり10から500コピーのHPV E6, E7 mRNAの発現、最も好ましくは1細胞当たり200コピー以上のHPV E6, E7 mRNAの発現によって示される。実施例3において、フローサイトメトリー分析の理論的な感度は10から20コピーのHPV E6, E7 mRNAであることが認められたが、フローサイトメトリーアッセイの更なる調整によって、フローサイトメトリー分析の感度が1から2コピーまで低いHPV E6, E7 mRNA、及び1000コピーまで高いHPV E6, E7 mRNAまで理論的に低減するはずである。
【0039】
本発明の第3の実施態様では、子宮頸部細胞におけるHPV E6, E7 mRNAの発現を定量する工程を含む、前悪性子宮頸部細胞について異常な子宮頸部細胞を有する患者をスクリーニングする方法であって、1細胞当たり200コピー以上のHPV E6, E7 mRNAを発現する細胞が悪性の細胞を示し、200コピー未満のHPV E6, E7 mRNAを発現する細胞が良性の細胞を示す方法を提供する。この第3の実施態様において試験され得る異常な細胞は、意義不明な異常扁平上皮細胞(ASCUS)、低悪性度の扁平上皮内病変(LGSIL)を有する細胞、及び高悪性度の上皮内病変(HGSIL)を有する細胞からなる群から選択されて良い。上述の実施態様と同様に、HPV E6, E7 mRNAは、in situハイブリダイゼーションによって同定され、フローサイトメトリーによって定量される。
【0040】
望ましい場合には、子宮頸部細胞の特定の形態が、実施例5に記載し、且つ、図3に示した方法によって測定されて良い。具体的には、CD16(好中球マーカー)及びCAM 5.2(子宮頚管内膜細胞で発現するが、子宮膣部細胞では発現しない抗体)の組み合わせを使用して子宮頸部細胞を染色することによって、HPV E6, E7 mRNAを発現する細胞の細胞診をすることが可能である。同様に、実施例5の抗体染色方法が、特定の種類の細胞、例えば特定の高リスク又は低リスクのコホートに由来する扁平子宮膣部細胞におけるHPV E6, E7 mRNAの発現レベルを試験するために使用されても良い(実施例6)。
【0041】
実施例5及び6で例示した原理に基づいて、本発明の第4の実施態様は、同時にフェノタイプが悪性形質転換した細胞のアッセイを提供する。悪性形質転換した子宮頸部細胞タイプを同定するために、このアッセイは、以下の工程:(a)個体から子宮頸部細胞を得る工程;(b)液状細胞診(LBC)検体として前記子宮頸部細胞を調製する工程;(c)CD16及びCAM 5.2の組み合わせを使用する子宮頸部細胞を染色する工程;及び(d)HPV E6, E7 mRNAに特異的なオリゴヌクレオチドを使用して、前記LBC検体をハイブリダイズさせる工程を含み、好中球がCD16+染色によって同定され、円柱子宮頚管内膜細胞がCD16-, CAM 5.2+染色によって同定され、且つ、扁平子宮膣部細胞がCD16-, CAM 5.2-染色によって同定され、HPV E6, E7 mRNAの発現が前記子宮頸部細胞の悪性形質転換を示す。悪性形質転換した円柱子宮頚管内膜細胞は、前腺癌又は腺癌の子宮頸部の状態を示し、悪性形質転換した扁平子宮膣部細胞は、前扁平細胞癌又は扁平細胞癌の子宮頸部の状態を示す。上述の第1及び第2の実施態様のように、1細胞当たりのHPV E6, E7 mRNAの発現がフローサイトメトリーによって定量されて良く、1細胞当たり2から1000コピーのHPV E6, E7 mRNAの発現、好ましくは1細胞当たり5から750コピーのHPV E6, E7 mRNAの発現、より好ましくは1細胞当たり10から500コピーのHPV E6, E7 mRNAの発現、最も好ましくは1細胞当たり200コピー以上のHPV E6, E7 mRNAの発現によって、前記子宮頸部細胞の悪性形質転換が示される。
【0042】
有用性
本明細書に記載した細胞内HPVアッセイは、3時間未満で実施され得る、前癌製及び癌性の子宮頸部細胞の検出のための高感度且つ特異的なスクリーニング方法として有用である。細胞内HPVアッセイは、HPV E6, E7 mRNAの同定及び定量を条件とし、子宮頸部細胞におけるHPV E6, E7 mRNAレベルの上昇の存在が、細胞の悪質形質転換を示す。
【0043】
細胞内HPVアッセイは、正常な細胞診を示す細胞における悪性形質転換を検出し得る、子宮頸部細胞のスクリーニングのために現在利用可能な方法よりも優れている。その顕著な感度及び特異性のために、細胞内HPVアッセイは、単に異常な子宮頸部細胞(すなわち、ASCUS、LGSIL、及びHGSIL)を同定するに過ぎない従来のPap塗抹試験又はThinPrep Pap試験、並びに単に低リスクのHPVから高リスクのものを同定するに過ぎないPCR及びHC II HPV試験よりも優れ、且つ、それに代わる一次子宮頸部細胞スクリーニング方法として有用である。上述のように、子宮頸部細胞診も低リスク又は高リスクのHPVの同定も、子宮頸部細胞の悪性度を測定するための信頼できるマーカーではない。PCR又はHC II HPV試験が使用されているその様な状況のために、細胞内HPVアッセイはHPV DNA陽性の患者のための二次マーカーとしての有用性がある。換言すると、PCR又はHC II HPVを介するHPV DNAの一次スクリーニングをしたところで、細胞内HPVアッセイが、高リスクのHPV DNAを示すSILが悪性形質転換しているかどうかを決定するために使用して良い。
【0044】
前述に加えて、細胞内HPVアッセイは、確立された実験プロトコルを使用して3時間未満で実施し得る、非常に望ましい代替的な子宮頸部細胞スクリーニング方法として有用でもある。これは、細胞内HPVアッセイが、子宮頸部細胞の悪性形質転換を検出する任意の現在使用されている方法よりも正確なだけでなく、より時間及び費用効率が良いことを表わす。
【0045】
好ましい特定の実施態様と共に本発明が記載されているが、上述の記載並びに以下の実施例は本発明を説明することを意図するものであり、本発明の範囲を限定するものではないことが理解されるべきである。本発明の範囲内の他の実施態様、利点、及び変形例は、本発明に関連する当業者には明らかであろう。
【0046】
本明細書全体に亘って記載又は参照した全ての特許、文献、及び他の刊行物は、その全体における参照によって組み込まれる。
【0047】
以下の実施例は、本発明の組成物の使用方法及び作製方法の完全な開示及び記載を当業者に提供するために記載する。数字(例えば、量、温度など)に関して正確性を確実にする努力はしているが、言うまでも無く、幾つかの実験誤差および偏差を考慮に入れるべきである。他に示さない限り、部は重量部であり、温度は℃であり、及び圧力はat又はほぼ大気圧である。他に示されていない限り、全ての構成成分は市販のものである。
【実施例】
【0048】
他に示されない限り、ここで記載する全ての製剤は、市販の製品を使用して実施した。以下のプロトコルを実施例において使用した。
【0049】
対象:多数の部位で慣例の子宮頸部細胞診を実施している女性を、インフォームド・コンセントに従って試験に登録した。細胞採用はけを使用して子宮頸部細胞診検体を回収し、SurePath(商標)(Tripath Imaging, Burlington, N.C.)液状細胞診固定剤を使用して保存した。ベセズダ分類を使用して塗抹を分類した。
【0050】
細胞株:HeLa細胞をAmerican Type Culture Collection(Manassas, Virginia)から得て、説明書に従って増殖させた。正常なヒト子宮膣部細胞(Clonetics, Inc., now Cambrex, Inc., East Rutherford, N.J.)を販売会社から供給されている培地で増殖させた。
【0051】
リアルタイムRT-PCR及びHC II HPV試験:腫瘍形成性mRNAの標的増幅のために、リアルタイムRT-PCRをTaqman(登録商標)プローブ(Applied Biosystems, Foster City, CA)を使用して実施した。シグナル増幅のために、HC II HPV試験を、製造業者の説明書に従って高リスクのパネルのプローブを使用して実施した。
【0052】
サイトメトリー:FACScan (BDIS, San Jose, CA)サイトメーターで3色の分析を使用して、フローサイトメトリーを実施した。分析は、光散乱特性及び低分子量サイトケラチンCAM 5.2の発現の欠失によって定義される子宮膣部細胞に限定されるものである。多核好中球(「PMN」)は、PMNマーカーCD16に陽性の細胞に対してゲーティングすることによって分析から除外した。
【0053】
画像解析:画像解析は、Olympus(登録商標)レーザー共焦点顕微鏡を使用して実施した。緑色蛍光(フルオロセイン、HPV E6, E7 mRNA)及び青色蛍光(DAPI、全ての細胞)を示すが、赤色蛍光(PMN、子宮頚管内膜細胞)を欠いている場合に、細胞を分析に含めた。
【0054】
統計分析:統計分析は、t-試験又はマンホイットニー順位和検定のいずれかを使用して実施した。0.05未満のP値が、統計的に有意であると解した。
【0055】
(実施例1)
HPV E6, E7を検出するための同時免疫蛍光及び超高感度蛍光in situハイブリダイゼーション(「細胞内HPVアッセイ」)
対象から単離した液状子宮頸部細胞診検体から1mLのアリコートを取り出した。400×gで遠心分離して前記細胞を沈殿させ、リン酸緩衝生理食塩水(「PBS」) ,pH7.4で一度洗浄した。細胞を100μLのPBS,pH7.4に再懸濁し、フィコエリトリン(「PE」)結合抗CAM 5.2とPE/cy5結合抗CD16(BDPはr民減、San Diego, CA)との1:10の希釈物で染色した。次いで、前記細胞を暗所で20分間、4℃でインキュベートした。インキュベート後に、細胞を固定化し、透過化処理して、PBS,pH7.4で一度洗浄し、400×gで遠心分離して沈殿させ、2×SSCで再び洗浄し、遠心分離によって沈殿させた。次いで、前記細胞を5×SSC、30%ホルムアミド、及び100μg/mL剪断サケ精子DNA(「ssDNA」)、並びに「HPV OncoTect」とう名称でInvirion, Inc., Frankfort, MI,から入手し得るか、又は当該技術分野において既知のオリゴヌクレオチドの調製技術によって調製して良い5'-及び3'-フルオロセイン標識HPV E6, E7 mRNAオリゴヌクレオチドプローブのカクテルからなるハイブリダイゼーション混合物に再懸濁した(例えば、Caruthers et al., Chemical Synthesis of Deoxyoligonucleotides by the Phosphoramidite Method, METHODS ENZYMOL 154:287-313 (1987)を参照すべきである)。ハイブリダイゼーションは30分間、37度で実施し、続いて2×SSC、0.1% Triton X-100で5分間洗浄し、0.1% SSC、0.1% Triton X-100で15分間洗浄した。
【0056】
そのように調製した細胞を、フローサイトメトリー分析のために、2%ウシ胎仔血清を含むPBS,pH7.4に再懸濁した。
【0057】
(実施例2)
スライドに基づく細胞内HPVアッセイ
対象から単離した液状子宮頸部細胞診検体から100μLの細胞(1×106細胞/mL)を移し、集細胞遠心(cytocentrifuge)又は液状スライドシステム(liquid based slide system)を実施する。前記スライドを、室温で2分間、800×gで遠心分離した。1×PBS,pH7.4で洗浄した後に、1時間、室温でコプリンジャーにおいて、1×PermiFlow(Invirion, Inc, Frankfort, MI)固定化/透過化試薬を使用して前記スライドをインキュベートした。次いで、前記スライドをPBSで一度、2×SSCで一度洗浄した。30から120分間、37度でハイブリダイゼーションオーブンにおいて、前記細胞をHPV OncoTectプローブのカクテルにハイブリダイズさせた。次いで、50mLの加熱した2×SSC、0.1% Triton X-100を含有するコプリンジャーで5分間、前記スライドを洗浄し、50mLの加熱した0.1×SSC、0.1% Triton X-100を含有するコプリンジャーで15分間インキュベートした。PBS,pH7.4で簡単に洗浄した後に、Fluorsave mounting medium(CalBioChem, San Diego, CA)を使用して、前記スライドにカバーガラスをのせた。
【0058】
(実施例3)
細胞内HPVアッセイの評価
細胞内HPVアッセイの効果を評価するために、市販の正常な子宮膣部の細胞、すなわち、HPV-子宮膣部細胞、及びHPV+ SiHa及びHeLa細胞を培養して増殖させ、20サンプルにわけて、フローサイトメトリーを使用する細胞内HPVアッセイによってHPV E6, E7 mRNAについて分析し、1細胞当たり10コピーの検出限界を有するリアルタイムRT-PCRによってHPV E6 mRNAについて分析した。図1は、各々の細胞集団のHPV E6, E7 mRNAのMFIとHPV E6 mRNAのコピー数との間の関係を示す。図1の線形回帰分析は、0.001のp値と共に、0.88の相関関係をもたらした。この実験結果に基づいて、細胞内HPVアッセイの理論的な感度が、1細胞当たり10から20コピーのHPV E6, E7 mRNAであることを算出した。全ての後の患者のサンプルの分析では、細胞が1細胞当たり200コピーを超えるMFIを示した場合に(200は平均的な患者から容易に除去され得ないHPVのコピー数を表わす)、細胞はHPV E6, E7 mRNAに関して陽性であると解した。
【0059】
単独の細胞のレベルにおける細胞内HPVアッセイの感度及び特異性を評価するために、フローサイトメトリーと共に細胞内HPVアッセイを使用して、正常な子宮膣部細胞(HPV-)中のHeLa細胞(HPV+)の混合細胞集団におけるHPV E6, E7 mRNAを定量した。図2に示すように、混合細胞の連続希釈物(%HPV+細胞)を、細胞内HPVアッセイによって測定される混合細胞集団におけるHPV E6, E7 mRNA発現細胞の割合に対してプロットした;結果は、HPV E6, E7 mRNA陽性細胞に関して0.3%と100%との間のリニアレンジであった。この実験におけるシグナル:ノイズの比は、1.5から2.0 logで算出された。
【0060】
(実施例4)
異常な細胞におけるHPV E6, E7 mRNAメッセージの形態学的評価
異常な細胞を検出する細胞内HPVアッセイの特異性を確認するために、HPV+ HeLa細胞及びHPV-正常子宮膣部細胞を、HPV E6, E7 mRNA OncoTextプローブとハイブリダイズさせて、検出可能なレベルのHPV E6, E7 mRNAメッセージを発現した細胞の形態を試験した(図3)。細胞内HPVアッセイは、HeLa細胞に特徴的な細胞質染色パターンを生じさせた。対照的に、HPV-細胞株は染色されなかった(C33A株を使用した) (各々Box A及びB)。フローサイトメトリーで使用したものと同一のプローブカクテルを使用して、非定型的な細胞が、多数の正常な扁平細胞の視野において、特徴的な細胞質に対する核の高い割合によって検出された(Box CからE)。488nM蛍光共焦点画像とノマルスキー位相差画像の重ね合わせた画像によって、異常細胞を超えるハイブリダイゼーションシグナルの局在が確認された。
【0061】
(実施例5)
不均一の子宮頸部細胞診サンプルにおけるHPV E6, E7 mRNA発現細胞のサイトメトリー濃縮(cytometric enrichment)
子宮頸部細胞診検体は、扁平子宮膣部細胞、円柱子宮頚管内膜細胞、PMN(多核白血球)、及びリンパ球を含むが、それらに限らない多数の細胞タイプを含有するため、LBC検体における興味のある細胞タイプを区別するために、抗体カクテルが開発して、細胞内HPVアッセイと共に使用した。試験対象のLBCプレパラートにおいて子宮膣部細胞、子宮頚管内膜細胞、及びPMNの間で区別するために、CD16、好中球マーカー、及び子宮頚管内膜細胞では発現しているが、子宮膣部細胞では発現していない70kDaの分子量のサイトケラチンを検出する抗体であるCAM 5.2を組み合わせて子宮頸部細胞検体を染色した。特定のマーカーについての細胞染色は、子宮膣部細胞、子宮頚管内膜細胞、及びPMNの間で区別するための前方及び直角(90°側方散乱)の光散乱ゲート内でそれらの存在を同定するためにバックゲート(backgate)される。Grundhoefer and Patterson, Determination of Liquid-Based Cervical Cytology Specimen Adequacy Using Cellular Light Scatter and Flow Cytometry, CYTOMETRY 46:340-344 (2001)を参照すべきである。図4Aから4Iに示すように、子宮膣部細胞は、CD16及びCAM 5.2の発現を欠いているもの(CD16-、CAM 5.2-)についてゲーティングすることによって、正常(WNL)及び異常(HGSIL)な子宮頸部細胞検体において同定された(図4の最初の2つのボックス)。HPV E6, E7 mRNAを発現する細胞のサンプル中の割合を測定するためのカットオフポイントとして1細胞当たり100コピーのHPV E6, E7 mRNAを使用して、本発明の細胞内HPVアッセイを用いて、HPV E6, E7 mRNAについて子宮膣部細胞を分析した(図4A、3つ目のボックス)。図4Bから4Iの各々の右上部の角に記載した割合は、HGSIL(図4Bから4E)及びWNL(図4Fから4I)サンプルにおける、1細胞当たり100コピーを超えるHPV mRNAを発現する細胞の割合を示す。同様に、子宮頚管内膜細胞におけるHPV E6, E7 mRNAの発現は、CD16-、CAM 5.2+発現を同定するゲーティングストラテジーを使用することによって分析され得る。
【0062】
(実施例6)
高リスクのコホートにおける異常なSILを検出するためのPap塗抹試験に対する細胞内HPVアッセイの比較分析
LBCにおける前悪性状態についてスクリーニングするために、正常な子宮頸部細胞診を有する41人の女性及び異常な子宮頸部細胞診を有する41人の女性からなる高リスクのコホートから、LBC検体を得た。実施例4に記載したように、異常な細胞は、特徴的な細胞質に対する核の高い割合によって同定されるが、正常な扁平上皮細胞は、細胞質に対する核の低い割合を示す。異常な細胞を有する女性は、以下のカテゴリー:9 ASCUS、22 LGSIL、及び 10HGSILからなった。この実験のために、陽性のHPV E6, E7 mRNA結果についての量的なカットオフは、真の陰性の平均から2標準偏差に設定した。子宮頸部細胞はCD16及びCAM 5.2で染色され(実施例5に記載したように)、ハイブリダイズされる(実施例1に記載したように)。子宮膣部細胞は、前方及び直角の光散乱の双方によって、及び子宮膣部細胞にはない子宮頚管内膜細胞におけるCAM 5.2の発現によって、子宮頚管内膜細胞から区別された(実施例5、図4A)。好中球で覆われた子宮膣部細胞は、CD16+染色の存在によって分析から除外された。細胞内HPVアッセイは、9のうち5のASCUSサンプル、22のうち13のLGSILサンプル、10のうち10のHGSILサンプル、及び41のうち3の正常な(WNL)子宮頸部細胞診検体におけるHPV E6, E7 mRNAを検出した。3のうち2の正常なサンプルは、Taqmanプローブを使用し、定量リアルタイムRT-PCRによって確認した。実施例3で使用した方法と同様に、1細胞当たり200コピーよりも多いMFIを示した場合に、細胞はHPV E6, E7 mRNAに関して陽性であると解した。対照のために、HPV+ HeLa細胞およびHPV- C33A細胞が、全ての試験に含められた。HPV E6, E7 mRNA発現細胞の割合は、表1に示すように、細胞診の診断と正の相関関係があった。
【0063】
【表2】

【0064】
HGSILにおけるHPV E6, E7 mRNA発現細胞の割合は、WNL(p<0.001)、ASCUS(p<0.001)、及びLGSIL(p<0.001)における発現細胞の割合よりも有意に大きかった。同様に、LGSILにおけるHPV E6, E7 mRNA発現細胞の割合は、WNL(p<0.01)における発現細胞の割合よりも有意に大きかったが、ASCUSにおけるHPV E6, E7 mRNA発現細胞の割合より有意に大きいものではなく、ASCUSにおける分子改変が、HGSILよりもLGSILにより近似していることを示唆した。高悪性度の病変についての細胞内HPVアッセイの全体的な感度及び特異性は、各々100%及び93%であった。
【0065】
(実施例7)
低リスクのコホートにおける異常なSILを検出するための、HC II HPV試験と細胞内HPVアッセイとの比較分析
高悪性度の子宮頸部病変を検出するためのHC II HPV試験と細胞内HPVアッセイとの能力を比較するために、149のLBC検体を、以下のカテゴリー:109 WNL、21 ASCUS、5 LGSIL、12 HGSIL、及び2の細胞診試験で同定された侵襲性子宮頸癌を有するものを含む低リスクのコホートから得た。表2は、前記比較試験の結果を示す。上述したように、細胞内HPVアッセイはHPV E6, E7 mRNAの存在について試験するが、HC II HPV試験は高リスクのHPV DNA、例えばHPV-16及びHPV-18の存在についてスクリーニングする。
【0066】
【表3】

【0067】
高リスクのコホートの結果(実施例6)と同様に、細胞内HPVアッセイによって検出されたHPV E6, E7 mRNA発現細胞の割合は、細胞診の診断と正の相関関係があった。HGSIL及び侵襲性子宮頸部癌を終点(end-point)として使用すると、子宮頸部の異常を検出する細胞内HPVアッセイの感度及び特異性は、各々71.4%及び91%であり、子宮頸部の異常を検出するHC II HPV試験の感度及び特異性は、各々64.2%及び88%であった。細胞内HPVアッセイとHC II HPV試験の双方が、12のうち8のHGSILを検出したが、細胞内HPVアッセイは、リアルタイムRT-PCR(データは示さず)及びHC II HPV試験の双方によって見落とされた侵襲性子宮頸癌も同定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)個体から子宮頸部細胞を得る工程;
(b)液状細胞診(LBC)検体として、前記子宮頸部細胞を調製する工程;及び
(c) HPV E6, E7 mRNAに特異的なオリゴヌクレオチドを使用して、前記LBC検体をハイブリダイズさせる工程、
を含む、子宮頸部細胞の悪性形質転換を判定するためのアッセイであって、
HPV E6, E7 mRNAの発現が、子宮頸部細胞の悪性形質転換を示すアッセイ。

【図1】
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【図2】
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【図3AB】
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【図3CD】
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【図3E】
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【図4A】
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【図4B−I】
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【公開番号】特開2012−196229(P2012−196229A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−152321(P2012−152321)
【出願日】平成24年7月6日(2012.7.6)
【分割の表示】特願2007−554251(P2007−554251)の分割
【原出願日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(512177230)インセルディーエックス・インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】