説明

HSP60ファミリーに属するタンパク質のアロイン誘導体含有合成抑制剤

【課題】 分子量57キロダルトンから68キロダルトンまでの間の熱ショックタンパク質(HSP60ファミリー)がその発症に関与する自己免疫疾患(例えば、I型糖尿病や慢性関節リウマチなど)の患者の生理学的状態を有効に改善させ、前記病気を効果的に治療することができる、HSP60ファミリーに属するタンパク質の合成抑制剤を提供する。
【解決手段】 下記一般式(I)で表されるアロイン誘導体を有効成分として含有する。
【化1】


(式中、R1 は、ヘキソースの1位の水酸基を除いたヘキソース残基、R2 は、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基)

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、アロイン誘導体を有効成分として含有する、分子量が57キロダルトン(kD)から68kDまでの間の熱ショックタンパク質群(以下、HSP60ファミリーと称する)に属するタンパク質の合成抑制剤に関する。本発明によるHSP60ファミリーに属するタンパク質の合成抑制剤は、特に、HSP60ファミリーに属するタンパク質の組織内合成を抑制することにより、HSP60ファミリーに属するタンパク質が発症に関与するものと考えられている自己免疫疾患、例えば、I型糖尿病や慢性関節リウマチなどの病気の患者の生理学的状態を有効に改善させ、I型糖尿病や慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患を効果的に治療することができる。
【0002】
【従来の技術】近年、自己免疫疾患が大きな問題となっている。自己免疫疾患とは、本来ならば自己の身体を構成する成分に対しては攻撃しないはずの免疫系が、自己の組織と反応して破壊してしまう病気であり、例えば、I型糖尿病や慢性関節リウマチなどが含まれる。例えば、近年わが国では、経済・社会・文化の発達と、生活水準の向上や生活様式の変化に伴って、糖尿病患者は著しく増加し、病態も重症化、複雑化してきた。糖尿病学の進歩によって、患者の予後は改善したとはいえ、特有な網膜症、腎症及び神経障害が多発し、加えて動脈硬化も促進され、健康と社会活動に多大な支障をきたしている。糖尿病のうち、I型糖尿病(インスリン依存性糖尿病;insulin-dependent diabetes mellitus ;IDDM)の発生率は、多くの国でこの数十年間に数倍に増加し、現在生きているヒトの1%は70才になるまでにI型糖尿病に罹病するものと予想されている。
【0003】I型糖尿病は、インスリン産生細胞である膵臓ランゲルハンス島のβ細胞だけが自己免疫的に破壊されるためにインスリン欠乏状態となる疾患で、臓器特異的な自己免疫疾患である(Atkinson, M. A. et al.: "Sci. Am.", 263 : 42-49, 1990; Todd JA.: "Immunol. Today", 11: 122-129, 1990)。I型糖尿病をおこす自己免疫過程は、非常に厳密に膵臓だけに限られており、しばしば大人になる前に発症してくることが多い。I型糖尿病が臨床的に発症するときには、膵島の炎症(膵島炎)があり、インスリンを産生しているβ細胞の大半が特異的に失われる(Atkinson, M. A., et al.: "Sci. Am.", 263 : 62-67, 1990)。糖尿病の臨床症状は、β細胞の大部分(おそらく90%以上)が再生できない程度にまで破壊された後に初めて現れ、患者の生存はインスリンの外的供給に依存することになる。即ち、臨床診断によって発見することができる時期には、この自己免疫反応が既に不可逆的な損傷を与えており、しかもその多くは顕著な自覚症状を示さない等、I型糖尿病は多くの問題を含んでいる。
【0004】また、慢性関節リウマチは、関節滑膜を病変の主座とする慢性炎症性疾患である。病変部位はときとして関節滑膜のみにとどまらず、全身に及ぶこともまれではない。関節滑膜に初発した炎症は、やがて滑膜増殖、更に軟骨及び骨の破壊を起こし、関節組織の破壊が引き起こされる。その結果、患者は社会的にも家庭的にも著しく制限を受けるのみならず、経済的負担も無視できないものとなる。慢性関節リウマチの患者数は人口の0.1〜0.3%とされる。これは慢性関節リウマチの確診例であって、疑診例などや慢性関節リウマチの周辺疾患を含めると患者数はその10倍前後にも増えるものと思われる。
【0005】一方、熱ショックタンパク質(heat shock protein;HSP、ストレスタンパク質ともいう)は、細胞を何らかのストレス、例えば、熱、重金属、薬剤、アミノ酸類似体、又は低酸素(低濃度酸素)などで刺激することにより、細胞に発現される一群のタンパク質である。熱ショックタンパク質は、自然界に普遍的に存在しており、細菌、酵母、植物、昆虫、及びヒトを含む高等動物により産生される。
【0006】HSPは、その種類は多種多様であるが、分子量の大きさからHSP90ファミリー(例えば、90kD又は110kDのHSPなど)、HSP70ファミリー(例えば、70〜73kDのHSPなど)、HSP60ファミリー(例えば、57〜68kDのHSPなど)、低分子HSPファミリー(例えば、20kD、25〜28kD、又は47kDのHSPなど)の4ファミリーに大別することができる。なお、本明細書においては、特定分子量を有するHSPを、HSPとその直後に記載する数字とによって示すものとし、例えば、分子量60kDのHSPを『HSP60』と称するものとする。以上のように、HSPには多くの種類が存在するが、これらは分子量だけでなく、構造、機能、又は性質などもそれぞれ異なるものである。ストレスへの応答に加えて、これらのタンパク質の中には構成的に合成されるものがあり、正常な環境の下で、タンパク質のフォールディング、アンフォールディング、タンパク質サブユニットの会合、タンパク質の膜輸送のような、必須の生理的な役割を演じていることが示されている。熱ショックタンパク質としてのこれらの機能は、分子シャペロンと称される。
【0007】自己免疫疾患の病因に関して注目されていることのひとつに、分子相同性(molecular mimicry)がある。すなわち、自己抗原が微生物などの外来抗原と共通抗原性をもっている場合、微生物感染によって生成される抗体や感作リンパ球が交叉反応によって自己の組織を攻撃してしまう結果、自己免疫疾患が発症するものと考えられている(Atkinson, M. A. et al.: "Sci. Am.", 263 : 42-49, 1990;Shinha, A. A. et al.: "Science", 248 : 1380-1388, 1990)。例えば、細菌のHSP60ファミリーに属するタンパク質は、結核、らい病、梅毒、在郷軍人病、又はライム病などの主たる抗原であり(Young, R. A. et al.: "Cell", 59:5-8, 1989)、かつ、細菌のHSP60ファミリーに属するタンパク質は強い免疫原性を有し、及び自己の(宿主であるヒトの)タンパク質との分子相同性を有するために、感染症がトリガーとなった分子相同性による自己免疫疾患が発症するものと考えられている。
【0008】例えば、糖尿病の患者やその家族の血中に検出される64kDタンパク質と反応する抗体(64kD自己抗体)はβ細胞特異的であるし、また糖尿病と診断される直前によく出現しやすい。すなわち、I型糖尿病において発症の原因と考えられている膵島細胞抗原は、分子量64kDの糖タンパク質(Baekkeskov, S. et al.: "Nature", 298 : 167-169, 1982)である。64kDタンパク質に対する抗体はヒトの糖尿病のみならず(Atkinson, M. A. et al.: "Lancet", 335 : 1357-1360, 1990)、BBラット(Baekkeskov, S. et al.: "Science", 224 : 1348-1350, 1984)やNODマウス(Atkinson, M. A. et al.: "Diabetes", 37: 1587-1590, 1988)などのように、自然にI型糖尿病を発症し、ヒトのI型糖尿病の多くの特徴を示す、I型糖尿病のモデル動物においても検出される。I型糖尿病における膵臓β細胞の64kDタンパク質は、サイトカインや熱刺激で誘導されるので、熱ショックタンパク質である可能性がある。
【0009】I型糖尿病のモデル動物であるNODマウスにおける膵臓ランゲルハンス島β細胞の64kDタンパク質は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)のHSP60ファミリーに属するタンパク質に対する抗体と免疫学的に交叉反応性を示す自己抗原であることが示されている。このように、HSP60ファミリーに属するタンパク質と64kDタンパク質自己抗原との間に免疫学的交叉が観察されることにより、膵臓β細胞の64kDタンパク質がHSP60ファミリーの一員である可能性があり、HSP60ファミリーに属するタンパク質のエピトープと交叉する自己免疫の機序が、I型糖尿病の発症に関与することが示唆されている。また、結核菌のHSP60ファミリーに属するタンパク質に特異性を有するTリンパ球のクローンを移入すると、幼若NODマウスにランゲルハンス島炎と高血糖を引き起こす。また、結核菌のHSP60ファミリーに属するタンパク質を免疫原性のある投与方法、すなわちアジュバントとともにNODマウスに注射すると、糖尿病を早期に発症させ得る(Elias, D. et al.: "Proc. Natl. Acad. Sci. USA", 87: 1576-1580, 1990)。マイコバクテリアのHSP60ファミリーに属するタンパク質に対する動物の免疫反応がI型糖尿病を引き起こすというこれらの事実は、マイコバクテリアのHSP60ファミリーに属するタンパク質に対する抗体と交叉反応する抗原に対する免疫系による攻撃が、β細胞に障害を与えることを示している。
【0010】また、HSP60ファミリーに属するタンパク質は、慢性関節リウマチの動物モデルであるラットのアジュバント関節炎や、ヒトのリウマチ関節炎に関連していることが知られている。例えば、慢性関節リウマチの場合、細菌の菌体タンパク質である熱ショックタンパク質のなかでもHSP60ファミリーに属するタンパク質は、関節軟骨に存在するプロテオグリカンと分子相同性をもっていることが明らかとなっている。ラットのアジュバント関節炎ではHSP60ファミリーに属するタンパク質反応性Tリンパ球の関与が示されている("Curr. Top. Microbiol. Immunol.", 145 : 27-83, 1989)。この疾患は、放射線照射を受けた免疫学的に無防備の(native)ラットに、結核菌のHSP60ファミリーに属するタンパク質に対して反応性のTリンパ球のクローンを移入することにより、前記ラットに移すことができることが見出された("Science", 219 : 56-58, 1983; "Nature", 331: 171-173, 1988)。このTリンパ球は同時に関節のプロテオグリカンとも交叉反応性を示す("Proc. Natl. Acad. Sci. USA", 82: 5117-5120, 1985)。このHSP60ファミリーに属するタンパク質で誘導される調節性Tリンパ球は、溶連菌やプリステインによる関節炎でも認められている。従って、アジュバント関節炎は、抗HSP60ファミリーに属するタンパク質Tリンパ球により引き起こされる自己免疫疾患のようである。また、ヒトの若年性関節リウマチでもHSP60ファミリーに属するタンパク質反応性Tリンパ球の関与が考えられている。
【0011】また、慢性関節リウマチの患者の滑液中からマイコバクテリア由来のHSP60ファミリーに属するタンパク質に対して、特異的に反応するTリンパ球が取り出されている("Lancet", II: 478-480, 1988; "Nature", 339 : 226, 1989; "Annu. Rev. Immunol.", 11: 637, 1993)。このように、マイコバクテリアのHSP60ファミリーに属するタンパク質と交叉反応性を示すタンパク質が高濃度に慢性関節リウマチの軟骨/パンヌス接合部に認められるのに対し、正常な組織や他の疾患による慢性の炎症を呈する組織においては認められない("Scand. J. Immunol.", 31: 283-288, 1990)。更に、HSP60ファミリーに属するタンパク質に対する抗体がヒト及びラットの慢性関節リウマチで検出される(Kaufmann,S. H. E., et al.: "Immunol. Today", 11: 129-136, 1990)ことからも、慢性関節リウマチの病因がマイコバクテリアのHSP60ファミリーに属するタンパク質と構造の類似した自己抗原に対する自己免疫であるという可能性がある。従ってHSP60ファミリーに属するタンパク質に対する免疫応答の存在はラット及びヒトの両方の関節炎に関連している。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、上記事情に鑑み、I型糖尿病や慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患の患者の生理学的状態を有効に改善することができ、それらの自己免疫疾患を効果的に治療することのできる方法を開発するために、HSP60ファミリーに属するタンパク質に対して合成抑制作用を示す化合物に関して種々検討を重ねてきた。その結果、本発明者らは、意外にも、アロエの成分であるアロイン、又はその誘導体が、病態を示す組織の細胞におけるHSP60ファミリーに属するタンパク質の合成を特異的に抑制することを見出した。すなわち、アロイン誘導体を投与することにより、細胞内でのHSP60ファミリーに属するタンパク質の合成が抑制され、従って、I型糖尿病や慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患の治療が可能であることを見出したのである。本発明はこうした知見に基づくものであり、I型糖尿病や慢性関節リウマチなどの自己免疫疾患を効果的に治療することのできる、HSP60ファミリーに属するタンパク質の合成抑制剤を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】従って、本発明は、式(I):
【化3】


(式中、R1 は、ヘキソースの1位の水酸基を除いたヘキソース残基であり、R2 は、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基である)で表されるアロイン誘導体を有効成分として含有することを特徴とする、分子量57キロダルトンから68キロダルトンまでの間の熱ショックタンパク質(すなわち、HSP60ファミリーに属するタンパク質)の合成抑制剤に関する。
【0014】本明細書において、「HSP60ファミリー」とは、前記のとおり、分子量が57kD〜68kDの熱ショックタンパク質群を意味する。また、HSP60ファミリーに属するタンパク質としては、例えば、HSP60(すなわち、分子量60kDの熱ショックタンパク質)、HSP58(すなわち、分子量58kDの熱ショックタンパク質)、HSP65(すなわち、分子量65kDの熱ショックタンパク質)、又はGroEL(すなわち、原核生物、例えば、大腸菌などの分子量約64kDの熱ショックタンパク質)などを挙げることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳細に説明する。本発明の合成抑制剤は、有効成分として前記式(I)で表されるアロイン誘導体を含有する。本明細書においてヘキソース残基とは、ヘキソースの1位の水酸基を除いた残基である。前記ヘキソースとしては、例えば、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、プシコース、フルクトース、ソルボース、又はタガトースなどを挙げることができる。ヘキソースは、D−体又はL−体のいずれでもあってもよく、また、ピラノース型又はフラノース型のいずれであってもよい。好ましいヘキソースは、グルコースである。前記ヘキソース残基とアントラセノン部分との結合は、グリコシド結合である。グリコシド1位の立体配置は、α−アノマー又はβ−アノマーのいずれであってもよい。
【0016】本明細書において炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基とは、1又はそれ以上の水酸基で置換されている炭素数1〜3のアルキル基、例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、1−ヒドロキシプロピル基、又は2−ヒドロキシ−1−メチルエチル基などであり、ヒドロキシメチル基が好ましい。
【0017】前記式(I)で表されるアロイン誘導体には、立体異性体が存在し、それらの任意の純粋の立体異性体又はそれらの混合物を、本発明の合成抑制剤の有効成分として用いることができる。
【0018】本発明の合成抑制剤において有効成分として使用することのできるアロイン誘導体としては、式(II):
【化4】


で表されるアロイン〔aloin;10−グルコピラノシル−1,8−ジヒドロキシ−3−(ヒドロキシメチル)−9(10H)−アントラセノン〕が好ましい。アロインは、例えば、アロエ等の生薬に含まれている。アロインには、立体異性体が存在し、アロインの任意の純粋の立体異性体又はそれらの混合物を、本発明の合成抑制剤の有効成分として用いることができる。
【0019】本発明の合成抑制剤に含有されるアロイン誘導体は、化学合成によって、又は天然物から抽出して精製することによって、調製することができる。あるいは、市販品を用いてもよい。本発明の合成抑制剤において有効成分として用いるアロイン誘導体を、天然物から抽出する場合には、例えば、アロイン誘導体を含有する植物の全体又は一部分(例えば、全草、葉、根、根茎、茎、根皮、若しくは花)をそのまま用いて、又は簡単に加工処理(例えば、乾燥、切断、湯通し、蒸気加熱、若しくは粉末化)したもの(例えば、生薬)を用いて抽出する。抽出条件は一般的に植物抽出に用いられる条件ならば特に制限はない。アロインを含有する植物としては、これに限定するものではないが、例えば、アロエ・フェロックス・ミラー(Aloeferox Miller)、アロエ・フェロックス・ミラーとアロエ・アフリカナ・ミラー(Aloe africana Miller)との雑種、又はアロエ・フェロックス・ミラーとアロエ・スピカタ・ベイカー(Aloe spicata Baker)との雑種などを使用することができる。
【0020】本発明におけるアロインを生薬から抽出する場合、これに限定するものではないが、例えば、アロエから抽出することが好ましい。アロエ(ロカイ;Aloe)とは、アロエ・フェロックス・ミラー、アロエ・フェロックス・ミラーとアロエ・アフリカナ・ミラーとの雑種、又はアロエ・フェロックス・ミラーとアロエ・スピカタ・ベイカーとの雑種などの葉から得た液汁を乾燥したものを意味し、それらの部分を単独であるいは任意に組み合わせて使用することができる。
【0021】本発明による合成抑制剤において有効成分として用いることのできるアロエ抽出物は、前記のアロインを含有していればよく、従って、アロエの粗抽出物を用いることができる。本発明で用いることのできるアロエ抽出物の製造方法としては、アロエを、水(例えば、冷水、温水、又は熱湯)によって抽出するか、又は有機溶媒を用いて抽出することによって、得ることができる。有機溶媒としては、例えば、アルコール(例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、若しくはブチルアルコール)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、若しくは酢酸ブチル)、ケトン(例えば、アセトン若しくはメチルイソブチルケトン)、エーテル、石油エーテル、n−ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、ベンゼン、炭化水素のハロゲン誘導体(例えば、四塩化炭素、ジクロロメタン、若しくはクロロホルム)、ピリジン、グリコール(例えば、プロピレングリコール、若しくはブチレングリコール)、ポリエチレングリコール、又はアセトニトリルなどを用いることができ、これらの有機溶媒を単独、又は適宜組み合わせ、一定の比率で混合し、更には無水又は含水状態で用いることができる。水抽出又は有機溶媒抽出の方法としては、通常の生薬抽出に用いられる方法を用いることができ、例えば、(乾燥)アロエ1重量部に対し、水又は有機溶媒3〜300重量部を用いて、攪拌しながら、その沸点以下の温度で加熱還流、常温で超音波抽出、あるいは冷浸することが望ましい。抽出工程は、通常は5分〜7日間、好ましくは10分〜60時間実施し、必要に応じて、攪拌等の補助的手段を加えることにより、抽出時間を短縮することができる。
【0022】抽出工程終了後、濾過又は遠心分離等の適当な方法により、水又は有機溶媒抽出液から、不溶物を分離して粗抽出物を得ることができる。なお、本発明の合成抑制剤において、天然物より抽出、分画したアロインを用いる場合には、前記の粗抽出物を特に精製することなく、そのまま使用してもよい。常法による水抽出物又は有機溶媒抽出物の他に、前記の粗抽出物を各種有機溶媒又は吸着剤等により、更に処理した精製抽出物も、本発明の合成抑制剤の有効成分として用いることができる。これらの粗抽出物及び各種の精製処理を終えた精製抽出物を含むアロエ抽出物は、抽出したままの溶液を用いても、溶媒を濃縮したエキスを用いても良いし、溶媒を留去し乾燥した粉末、更には結晶化して精製したもの、あるいは粘性のある物質を用いても良く、またそれらの希釈液を用いることもできる。こうして得られたアロエ抽出物は、アロエに含まれるアロインを含み、同時に原料のアロエに由来する不純物を含んでいる。
【0023】本発明の合成抑制剤は、アロイン誘導体、又はアロイン誘導体を含有する植物の抽出物、例えば、アロイン誘導体を含有する生薬の抽出物(特には、アロエ抽出物)を、それ単独で、又は好ましくは製剤学的若しくは獣医学的に許容することのできる通常の担体と共に、動物、好ましくは哺乳動物(特にはヒト)に投与することができる。投与剤型としては、特に限定がなく、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液、エマルジョン剤、シロップ剤、エキス剤、若しくは丸剤等の経口剤、又は注射剤、外用液剤、軟膏剤、坐剤、局所投与のクリーム、若しくは点眼薬などの非経口剤を挙げることができる。これらの経口剤は、例えば、ゼラチン、アルギン酸ナトリウム、澱粉、コーンスターチ、白糖、乳糖、ぶどう糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、デキストリン、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、大豆レシチン、ショ糖、脂肪酸エステル、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ポリエチレングリコール、ケイ酸マグネシウム、無水ケイ酸、又は合成ケイ酸アルミニウムなどの賦形剤、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、希釈剤、保存剤、着色剤、香料、矯味剤、安定化剤、保湿剤、防腐剤、又は酸化防止剤等を用いて、常法に従って製造することができる。例えば、アロイン1重量部と乳糖99重量部とを混合して充填したカプセル剤などである。
【0024】非経口投与方法としては、注射(皮下、静脈内等)、又は直腸投与等が例示される。これらのなかで、注射剤が最も好適に用いられる。例えば、注射剤の調製においては、有効成分としてのアロイン誘導体、又はアロイン誘導体を含有する植物の抽出物、例えば、アロイン誘導体を含有する生薬の抽出物(特には、アロエ抽出物)の他に、例えば、生理食塩水若しくはリンゲル液等の水溶性溶剤、植物油若しくは脂肪酸エステル等の非水溶性溶剤、ブドウ糖若しくは塩化ナトリウム等の等張化剤、溶解補助剤、安定化剤、防腐剤、懸濁化剤、又は乳化剤などを任意に用いることができる。また、本発明の合成抑制剤は、徐放性ポリマーなどを用いた徐放性製剤の手法を用いて投与してもよい。例えば、本発明の合成抑制剤をエチレンビニル酢酸ポリマーのペレットに取り込ませて、このペレットを治療すべき組織中に外科的に移植することができる。
【0025】本発明の合成抑制剤は、これに限定されるものではないが、アロイン誘導体を、0.01〜99重量%、好ましくは0.1〜80重量%の量で含有することができる。また、アロイン誘導体を含有する植物の抽出物、例えば、アロイン誘導体を含有する生薬の抽出物(特には、アロエ抽出物)を有効成分として含有する本発明の合成抑制剤は、その中に含まれるアロイン誘導体が前記の量範囲になるように適宜調整して、調製することができる。なお、アロイン誘導体を含有する植物の抽出物、例えば、アロイン誘導体を含有する生薬の抽出物(特には、アロエ抽出物)を有効成分として含有する合成抑制剤を、経口投与用製剤とする場合には、製剤学的に許容することのできる担体を用いて、製剤化することが好ましい。本発明の合成抑制剤を用いる場合の投与量は、病気の種類、患者の年齢、性別、体重、症状の程度、又は投与方法などにより異なり、特に制限はないが、アロイン誘導体量として通常成人1人当り1mg〜10g程度を、1日1〜4回程度にわけて、経口的に又は非経口的に投与する。更に、用途も医薬品に限定されるものではなく、種々の用途、例えば、機能性食品や健康食品として飲食物の形で与えることも可能である。
【0026】
【作用】上記したように、本発明の合成抑制剤に含有されるアロイン誘導体は、細胞内のHSP60ファミリーに属するタンパク質の合成を特異的に抑制する作用があるので、前記アロイン誘導体を投与すると細胞でのHSP60ファミリーに属するタンパク質の生合成が特異的に減少する。従って、前記アロイン誘導体は、HSP60ファミリーに属するタンパク質がその発症に関連する自己免疫疾患、例えば、I型糖尿病や慢性関節リウマチなどの予防及び治療に使用することができる。すなわち、本発明は、前記式(I)で表されるアロイン誘導体を有効成分として含有することを特徴とする、自己免疫疾患治療剤、例えば、I型糖尿病治療剤又は慢性関節リウマチ治療剤にも関する。また、本発明は、前記式(I)で表されるアロイン誘導体を含有する植物の抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、自己免疫疾患治療剤、例えば、I型糖尿病治療剤又は慢性関節リウマチ治療剤にも関する。更に、本発明は、アロエの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、自己免疫疾患治療剤、例えば、I型糖尿病治療剤又は慢性関節リウマチ治療剤にも関する。
【0027】
【実施例】以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
実施例1:ヒト培養癌細胞のHSP発現量の測定(1)ヒト培養癌細胞の培養以下の各種ヒト培養癌細胞を、5%二酸化炭素条件下で、熱ショック処理時以外は、37℃で培養した。胃癌細胞株KATO III (ATCC HTB 103)は、10%非働化ウシ胎児血清(以下、FBSと略称する)を含むRPMI1640培地中で培養した。乳癌細胞株MCF7(ATCC HTB 22)は、10%非働化FBS及び10-8Mβ−エストラジオールを含むRPMI1640培地中で培養した。
【0028】(2)アロイン処理及び熱ショック処理播種2日後の前記各種培養ヒト癌細胞の培地中に、最終濃度100μMになるように前記式(II)で表されるアロイン(一丸ファルコス)を添加し、24時間培養した。その後、45℃にて15分間熱ショック処理をしてから、37℃にて終夜培養した。対照試験は、アロインを添加しないこと以外は前記と同様に実施した。
【0029】(3)ヒト培養癌細胞でのHSP発現量の測定前項(2)で処理した各細胞を、以下に示す方法によりホモジナイズし、HSP発現量をウェスタンブロット法にて測定した。すなわち、前項(2)で処理した細胞を、リン酸緩衝生理食塩水〔組成:KCl=0.2g/l,KH2 PO4 =0.2g/l,NaCl=8g/l,Na2HPO4 (無水)=1.15g/l;以下、PBS(−)と称する〕で洗浄した後、ライシスバッファー(lysis buffer)〔1.0%NP−40、0.15M塩化ナトリウム、50mMトリス−HCl(pH8.0)、5mM−EDTA、2mM−N−エチルマレイミド、2mMフェニルメチルスルホニルフルオリド、2μg/mlロイペプチン及び2μg/mlペプスタチン〕1mlを加え、氷上で20分間静置した。その後、4℃で12000rpmにて、20分間、遠心を行った。遠心後の上清10μlをPBS(−)790μlに加え、更にプロテインアッセイ染色液(Dye Reagent Concentrate : バイオラッド,カタログ番号500-0006)200μlを加えた。5分間、室温にて静置した後、595nmで吸光度を測定してタンパク質定量を行った。
【0030】タンパク質定量を行った試料を用いて、Laemmliのバッファー系(Laemmli, N. K., "Nature", 283 : pp. 249-256, 1970)にて、等量のタンパク質を含むライセートのSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を行った。電気泳動後、ブロッティング及びそれに続くブロッキングを行った。すなわち、タンパク質転写装置(Trans-Blot Electrophoretic Transfer Cell:バイオ・ラッド,カタログ番号170-3946)を用いて、室温にて100Vにて、0.45μmニトロセルロース膜(Schleicher & Schuell,カタログ番号401196)にゲルを密着させ、3時間ブロッティングを行った。ブロッティングバッファーとしては、0.025Mトリス及び0.192MグリシンよりなりpH8.5に調整されたトリスグリシンバッファー(Tris Gly Running and Blotting Buffer;Enprotech, 米国マサチューセッツ州,カタログ番号 SA100034)にメチルアルコールを20%になるように加えて調製したバッファーを用いた。ブロッティング後、ニトロセルロース膜を10%スキムミルク(雪印乳業)−PBS(−)溶液に室温にて30分間、インキュベートし非特異的結合をブロックした。
【0031】ブロッキング後、ニトロセルロース膜の上で、抗ヒトHSP60マウスモノクローナル抗体(StressGen, Victoria, B.C., Canada, カタログ番号 SPA-806)により、1次抗体反応を行った。この抗ヒトHSP60マウスモノクローナル抗体は、大腸菌を用いるリコンビナントDNA法により作製したヒトHSP60を免疫原として作製した抗体であり("J. Exp. Med." 175 , 1805-1810, 1992)、哺乳類HSP60(霊長類HSP60、マウスHSP60、ラットHSP60、及びハムスターHSP60)と特異的に反応する("J. Exp. Med." 175 , 1805-1810, 1992)。この抗ヒトHSP60マウスモノクローナル抗体が認識するエピトープは、ヒトHSP60アミノ酸配列の第383番目〜第447番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列中に局在する("J. Exp. Med." 175 , 1805-1810,1992)。1次抗体反応後、PBS(−)で5分間ずつ、溶液を取り替えて2回の洗浄をスロー・ロッキング・シェイカーによって行い、更にPBS(−)−0.1%Tween20(バイオ・ラッド,カタログ番号170-6531)溶液で15分間ずつ、溶液を取り替えて4回の洗浄を行った。最終的に、PBS(−)で5分間ずつ、2回の洗浄を行った。
【0032】洗浄終了後、ペルオキシダーゼ標識ヤギ抗マウスIgG抗体(CAPPEL,カタログ番号55550)を、2%スキムミルクを含むPBS(−)溶液で5000倍に希釈して調製した抗体溶液5mlを用いて、2時間、2次抗体反応を行った。反応終了後、ニトロセルロース膜に関して、PBS(−)溶液で5分間ずつ溶液を変えて2回、更にPBS(−)−0.1%Tween20溶液で15分間ずつ溶液を変えて5回の洗浄をスロー・ロッキング・シェイカーにより行った。最後にPBS(−)溶液で5分間ずつ2回の洗浄を行った。余分なPBS(−)溶液を除去した後、ウェスタンブロッティング検出試薬(ECL Western blotting detectionreagent;Amersham,カタログ番号RPN2106)をニトロセルロース膜上に振りかけ、1分間インキュベートした後、余分な検出試薬を除去し、ニトロセルロース膜をラップに包み、反応面をX線フィルム(コダック X-OMAT, AR, カタログ番号165 1454)に密着させて露光し、現像してHSP60の有無の検討を行った。結果を表1に示す。表中、「↓」は、対照に比べて、アロイン処理によりHSP60発現量が減少したことを意味する。
【0033】
【表1】
癌種 癌細胞 HSP60発現量変化 胃 KATO III ↓ 乳 MCF7 ↓
【0034】対照試験、すなわち、アロインを添加しなかった細胞では、分子量約60kDのバンドが一本検出された。なお、分子量は、前記抗ヒトHSP60マウスモノクローナル抗体との結合、及び分子量マーカー(卵白オバルブミン及びウシ血清アルブミン)により決定した。表1に示すとおり、アロインを添加した胃癌細胞株KATO III 及び乳癌細胞株MCF7において、分子量約60kDのバンドの濃度が対照試験に比べて有意に薄くなった。すなわち、アロインは、HSP60の発現を抑制する合成抑制剤の活性を有するものと結論することができる。
【0035】
【発明の効果】以上詳述したように、アロイン誘導体は、細胞内のHSP60ファミリーに属するタンパク質の発現を抑制する合成抑制剤の活性を有する。従って、アロイン誘導体を投与することにより、例えば、HSP60ファミリーに属するタンパク質が発症に関与する自己免疫疾患(例えば、I型糖尿病や慢性関節リウマチなど)の患者の生理学的状態を有効に改善させ、前記病気を効果的に治療することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 式(I):
【化1】


(式中、R1 は、ヘキソースの1位の水酸基を除いたヘキソース残基であり、R2 は、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基である)で表されるアロイン誘導体を有効成分として含有することを特徴とする、分子量57キロダルトンから68キロダルトンまでの間の熱ショックタンパク質の合成抑制剤。
【請求項2】 式(I):
【化2】


(式中、R1 は、ヘキソースの1位の水酸基を除いたヘキソース残基であり、R2 は、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基である)で表されるアロイン誘導体を含有する植物の抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、分子量57キロダルトンから68キロダルトンまでの間の熱ショックタンパク質の合成抑制剤。
【請求項3】 アロエの抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、分子量57キロダルトンから68キロダルトンまでの間の熱ショックタンパク質の合成抑制剤。