説明

HVAC−送風機用の空芯コイル巻線

自動車の車室−換気システム用のファンであって、ファンモータが設けられており、ファンモータは、半径方向に向けられた複数のコイルを有する第1の部分を備え、半径方向に向けられた複数の永久磁石を有する、第1の部分に対して回動可能に支承された第2の部分を備えており、第1の部分のコイルと第2の部分の永久磁石との間に同心的なリングギャップが形成されており、コイルが、空芯コイルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
HVAC(暖房、換気及び空調"Heating,Ventilating and Air Conditioning"、独語"Heizung,Lueftung,Klimatechnik")システム(以下換気システムという)のファンホイールを電気式に駆動するために、通常、所望の送風出力に応じて機械式又は電気式に整流された電動モータが使用される。その際、電動モータの一部分、例えばステータは、幾つかのコイルを備えており、別の一部分、例えばロータは、幾つかの永久磁石を備えている。両方の部分は、相対回動可能に支承されており、コイル及び永久磁石は、同心的なリングギャップの異なる側に配置されている。コイルは、コアの周りに巻き付けられており、コアは、リング状の磁束素子と一体的に構成されており、磁束素子は、コイルの間の磁束をガイドする。このために実際に、中空円筒形の磁束素子は、例えば打ち抜き成形された金属薄板部分を重ねたのとして用いられる。磁束素子は、半径方向の溝を備えており、巻線は、コイルに隣接する溝を通走するので、巻線により包囲された空間は、磁束素子の、強磁性のコイルコアとして働く区分により占められる。コイルは、非強磁性材料、例えば銅線から製造されている。
【0002】
ステータに対してロータが回動する際に、ロータの永久磁石に、ステータの強磁性の区分(コイルコア)と非強磁性の区分(コイル)とが交互に対向する。これにより回動中に永続的にロータとステータとの間の交番力が作用し、これによりステータに対するロータの加速若しくは制動が生じ、これは、ロータの等速回転を損なう。これにより生じる等速回転の変動の周波数は、ロータの回転数並びにステータの周に沿ったステータのコイルの数に関係している。その結果、記載のファンモータでは、運転中、低い帯域の雑音が発生し、雑音は、うなり音又は吹出し音として認識されることがある。この雑音は、自動車の換気システムを介して伝播し、乗員により不快なものとして感じられる。更に雑音は、別の振動と合わされ、その結果、例えば高調波、重畳された雑音及びうなり周波数も誘発されることがあり、これらは自動車の車室で聞こえ、雑音による高い負担を掛けることになる。
【0003】
過去において励起の減衰又は電磁力の低減によりそのような雑音発生に対抗する試みが成された。しかしながらこれにより、ファンモータは、出力等級に比べて極めて大きな質量を有するものとなった。このことは製造時において取扱い、生産及び資源消費の見解から不都合である。
【0004】
発明の開示
従って本発明の課題は、僅かな質量で良好な等速回転を実現して、僅かな騒音しか発生させないファンモータを提供することである。
【0005】
この課題は、請求項1に記載のファンモータを備えたファン並びに請求項12に記載の自動車により解決される。従属請求項において、考えられる若しくは好適な態様が明らかである。
【0006】
本発明の第1の思想によれば、自動車の車室−換気システム用のファンであって、ファンモータが設けられており、ファンモータは、半径方向に向けられた複数のコイルを有する第1の部分を備え、半径方向に向けられた複数の永久磁石を有する、第1の部分に対して回動可能に支承された第2の部分を備えており、第1の部分のコイルと第2の部分の永久磁石との間に同心的なリングギャップが形成されているものにおいて、コイルが、空芯コイルである。
【0007】
空芯コイルの使用により、ファンモータの一部分の強磁性素子が、運転中に、ファンモータの別の一部分の磁界に対して周期的に進入し、再び退出することが回避される。従来慣用のファンモータの、このような相互作用により生じる等速運動の変動が生じず、そのような等速運動の変動に起因する雑音は全く生じない。更にコアレスの空芯コイルは、強磁性のコアの周りに巻かれるコイルよりも極めて僅かなヒステリシスを有している。
【0008】
ファンのファンモータは、コイルの、リングギャップとは反対側で、コイルを磁気結合するための第1の磁束素子を備えている。第1の磁束素子は、隣接する、操作されるコイルの磁力線を形成し、そうして有効磁力を高め、ひいてはファンモータの作用効率を高める。
【0009】
コイルの巻線は、軸方向で第1の磁束素子に接触してよい。全ての巻線の区分は相並んで位置する必要があり、磁束素子の制限された外周しか巻線との接触のために提供されないので、各コイルの最大巻線数が制限されるが、同時に各巻線は、巻線をファンモータの別の一部分の永久磁石から離すリングギャップに対して最小間隔で位置している。従ってこのような構成は、ファンモータの作用効率を更に高める。
【0010】
ファンのファンモータは、更に、リングギャップとは反対側で、永久磁石を磁気結合するための第2の磁束素子を備えている。第2の磁束素子は、第1の磁束素子と同様に、磁力線をガイドして、最終的にファンモータの作用効率を高める働きをする。
【0011】
ファンのファンモータの第1の部分は、ステータであり、第2の部分は、ステータを包囲するロータであってよい。そのようなファンモータは、アウタロータとして知られている。アウタロータの回転質量を最大にするために、ロータにおいて、永久磁石が半径方向外側に取り付けられている。ステータに取り付けられたコイルは、ファンモータの取付け要素に対して不動であり、取付け要素は、ファンモータの電気接続部を備えているので、機械式の整流子は省略することができる。
【0012】
ファンは、ファンモータの他に、ロータと結合されたファンホイールを備えてよい。ファンホイールは、半径流又は軸流のファンホイールであってよい。1態様では、ファンホイールは、半軸流タイプであり、空気を軸方向に吸入するための吸入ブレードと、吸入された空気を半径方向に流出させるための流出ブレードとを備えている。変向要素が、吸入された空気を流出ブレードにガイドし、同時に軸方向で空気の流れ範囲を制限する。変向要素は、放射対称に凹んで形成してよい。アウタロータを有するファンモータは、変向要素の、ファンのブレードとは反対の凹んだ側に配置してよく、これにより、提供される構成スペースの特に良好な利用が実現される。このようにして特に軸方向に短く構成されるコンパクトなファンが実現される。
【0013】
ファンのファンモータは、更に、第1の磁束素子を固定するための巻線ボディを備えている。巻線ボディは、更に、ファンモータのコイルの巻線を支持することができるので、個別に取扱い可能なステータ構成群が得られ、これは安価に製造可能である。
【0014】
巻線ボディは、軸方向に配置された2つの部分を備えてよい。両部分は、例えば軸方向に接合したあとで、第1の磁束素子を軸方向及び半径方向に支持するように形成されている。接合したあとで、コイルの巻線は、巻線ボディに取り付けることができる。巻線ボディの両部分は、同一であってよいので、大量生産において更に生産コストを削減することができる。
【0015】
巻線ボディの各部分は、複数のコイルのうちの1つのコイルの巻線を固定するための突出部を備えてよい。軸方向に互いに反対側に位置する突出部は、1つのコイルの複数の巻線を支持するために用いられる。巻線により、巻線ボディの両部分は相互に結合され、第1の磁束素子は、移動不能に所定の位置で保持される。
【0016】
更に、ファンのファンモータは、非通電状態のコイルの励起に基づいてセンサを用いずに回転数制御を行うための、コイルと結合された制御回路を備えている。
【0017】
第2の思想によれば、自動車が、上述の構成を有するファンを備えた車室−換気システムを有している。
【0018】
以下に、本発明を実施するための形態を、図面に基づいて詳説する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】自動車の換気システムの概略図である。
【図2】図1のファンモータの軸方向投影図である。
【図3】図2の半径方向投影図である。
【図4】図1のファンモータの側方断面図である。
【0020】
特記していない限り、軸方向及び半径方向と云う記載は、ファンモータの回転軸に関するものである。全図において、同一若しくは同等の構成要素には、同一の符号を付している。
【0021】
図1は、車室−換気システム100を概略的に示す図である。自動車110は、吸入経路120とファン130と分配経路140とを備えている。ファン130は、ファンホイール150とファンモータ160とを備えている。図1には、車室−換気システム100の選択的に設けられる構成要素、例えばフィルタ、フラップ、弁、熱交換器、コンデンサ等の本発明との関連性において重要ではない構成要素は、図示していない。ファンモータ160は、ファンホイール150を回動させるので、空気は、自動車110の外側から吸入経路120を通ってファンホイール150に吸い込まれ、次いで、分配経路140を通って自動車110の車室に搬送される。多くの場合、吸入経路120と分配経路140は、一体化された1つの経路内に形成されている。
【0022】
図2は、空芯コイルを備えた図1のファンモータ160の細部200を軸方向にみて示す図である。コイル210は、突出部220の周りに巻き付けられていて、3本の巻線を備えており、巻線の軸方向区分は、相互に平行にファンモータ160の回転軸を中心とする周に沿って位置している。看取される各巻線の端部は、巻線が任意の構成で相互に又は別の巻線と又は制御回路410の電気接続部と接続可能であることを示すために、接続していない状態で図示している。コイル210の、ファンモータ160の回転軸寄りの側で、同心的な第1の磁束素子230が延在しており、第1の磁束素子230の一区分を図示している。第1の磁束素子230は、全体として中空円筒形の形状を有している。第1の磁束素子230は、例えば任意の形状をしたステータボディ(巻き芯)であってよい。ステータボディは、例えば中空円筒形で中実の構成要素、金属薄板から成る積層体又は螺旋形に巻かれたフラットワイヤを含んでよい。第1の磁束素子の構成要素又は区分は、更なる雑音の発生を回避するために、例えば接着、溶接、リベット止め、クランプ又はねじ止めにより相互に結合してよい。コイル210の中央で、突出部220は、第1の磁束素子230を覆っている。第1の磁束素子230の外周に沿って、コイル210の巻線の間に、コアが存在せず、コイル210の内側空間は、空気で満たされている(「空芯コイル」)。
【0023】
リングギャップ240により、コイル210から離れて、永久磁石250が半径方向に延在している。コイル210に対する永久磁石250のサイズ比は、正しい縮尺で図示していない。ファンモータ160のコイル210の数は、永久磁石250の数と異なってよく、例えばコイル210は12個で、永久磁石250は11個又は13個であってよい。永久磁石250は、磁気的に半径方向に向けられており、その際、N極は、図示のように内向き又は外向きに位置してよい。リングギャップ240とは反対側で、永久磁石250は、第2の磁束素子260に接触しており、磁束素子260の一区分が図示されている。第2の磁束素子260は、全体的に中空円筒形の形状を有している。第2の磁束素子260は、第1の磁束素子230のように、複数の構成要素又は中実の材料から成っていて、例えば転造若しくは深絞り加工するか、又は管から切削加工する(削り取る)ことができる。
【0024】
図示のコイル210の両側に設けられた別のコイル210並びに図示の永久磁石250の両側に設けられた別の永久磁石250は、図示していない。隣接する構成要素は、相互に接触してよく、隣接する永久磁石は、相互に反対の磁力の向きを有してよい。
【0025】
図3は、図1に示すファンモータ160の図2に示す2つのコイル210の別の細部300を半径方向にみて示す図である。図2に示す永久磁石250及び第2の磁束素子260は、図3には示していない。コイル210は、それぞれ反対側に位置する突出部220の周りに巻かれている。各コイル210は、3本の巻線を備えており、その際、隣接するコイル210は、直接に相互に接している。コイル210の巻線の軸方向の区分は、第1の磁束素子230の外側表面に沿って相互に平行に配置されている。各コイル210の内側の空間は、それぞれ最も内側の巻線により包囲され、この空間は、空気で満たされており、別の態様では、別の磁気的に中性の材料、例えばポリエステル又はエポキシドのような合成樹脂を用いてもよい。
【0026】
図4は、図1に示すファン130の側方断面図である。ファン130は、ファンホイール150と、ファンモータ160と、制御回路410を収容する固定フランジ470とを備えている。制御回路410は、ファンモータ160の所定の回転数を実現する目的で、運転中にコイル210を規定の順序で励起化(通電)若しくは非励起化(非通電)するために設計されている。ファンモータ160の実際−回転数は、非励起化されたコイル210の傍を通過する永久磁石によりコイル210内に誘導される誘導電圧を検出することにより測定することができる。ファンモータ160の停止状態ではそのような電圧が誘導されないので、ファンモータ160の始動段階では、先ず実際−回転数の検出が省かれ、ファンモータ160が十分に高い回転速度に達して、回転数調整を行うまでは、コイル210の励起化が所定の順序で行われる。
【0027】
ファンホイール150は、空気を軸方向に吸入するための吸入ブレード420と、吸入された空気を半径方向に流出するための流出ブレード430と、吸入された空気を流出ブレード430に向けて変向するための変向要素440とを備えている。
【0028】
変向要素440は、吸入ブレード420及び流出ブレード430と相対回動不能に結合されている。更に変向要素440は、永久磁石250及び第2の磁束素子260として構成された、ファンモータ160のロータ490を支持している。ファンモータ160のステータ480は、第1の部分450と第2の部分460とから構成された巻線ボディを備えており、巻線ボディは、第1の磁束素子230とコイル210とを支持している。巻線ボディの各部分450,460は、コイル210を固定するための突出部220を備えている。コイル210と永久磁石250との間に、リングギャップ240が延在している。固定フランジ470は、ファンモータ160のステータ480を収容している。
【0029】
上側部分で、固定フランジ470は、ファン130を例えば換気流れ経路の壁の適切な凹所(開口)に支承するように構成されている。ファン130は、凹所から、完全なユニットとして軸方向に取出し可能である。
【0030】
上述のファンモータ160は、比較的小さな回転トルクから中程度の回転トルクにおいて広い回転数範囲をカバーすることができるので、従って特にファン130に使用するのに好適である。質量及び雑音発生傾向が僅かであることにより、ファンモータ160は、とりわけ自動車110の車室−換気システム100に使用可能である。
【0031】
更に同等の駆動出力の慣用のファンモータと比べて、等速回転を安定させるためにファンモータ160の回転質量を増加するか、又は騒音を抑えるために、継続して構造に応じた出力性能以下でファンモータ160を運転する必要がないので、大幅な軽量化が得られる。記載のファンモータ160の検査サンプルでは、400gの重量が実現され、これに対して同等の能力の従来慣用のファンモータは880gの重量を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車(110)の車室−換気システム(100)用のファン(130)であって、
ファンモータ(160)が設けられており、
該ファンモータ(160)は、半径方向に向けられた複数のコイルを有する第1の部分(480,490)を備え、半径方向に向けられた複数の永久磁石(250)を有する、第1の部分に対して回動可能に支承された第2の部分(490,480)を備えており、
第1の部分のコイル(210)と第2の部分の永久磁石(250)との間に同心的なリングギャップ(240)が形成されているものにおいて、
コイル(210)が、空芯コイルであることを特徴とする、自動車の車室−換気システム(100)用のファン。
【請求項2】
コイル(210)の、リングギャップ(240)とは反対側で、コイル(210)を磁気結合するための第1の磁束素子(230)が設けられている、請求項1記載のファン。
【請求項3】
コイル(210)の巻線が、半径方向で第1の磁束素子(230)に隣接している、請求項1又は2記載のファン。
【請求項4】
リングギャップ(240)とは反対側で、永久磁石(250)を磁気結合するための第2の磁束素子(260)が設けられている、請求項1から3までのいずれか1項記載のファン。
【請求項5】
第1の部分は、ステータ(480)であり、第2の部分は、ステータ(480)を包囲するロータ(490)である、請求項1から4までのいずれか1項記載のファン。
【請求項6】
ロータ(490)と結合されたファンホイール(150)が設けられている、請求項5記載のファン。
【請求項7】
ファンホイール(150)は、半軸流構造を有している、請求項6記載のファン。
【請求項8】
第1の磁束素子(230)を固定するための巻線ボディ(450,460)が設けられている、請求項2から7までのいずれか1項記載のファン。
【請求項9】
巻線ボディ(450,460)は、軸方向に配置された2つの部分(450,460)を備えている、請求項8記載のファン。
【請求項10】
巻線ボディの各部分(450,460)は、複数のコイル(210)のうちの1つのコイル(210)の巻線を固定するための突出部(220)を備えている、請求項9記載のファン。
【請求項11】
非通電状態のコイル(210)の励起に基づいてセンサを用いずに回転数制御を行うための、コイル(210)と結合された制御回路(470)が設けられている、請求項1から10までのいずれか1項記載のファン。
【請求項12】
請求項11記載のファン(130)を備えた車室−換気システム(100)を有する自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−501492(P2013−501492A)
【公表日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−523250(P2012−523250)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【国際出願番号】PCT/EP2010/057809
【国際公開番号】WO2011/015387
【国際公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】